政府AI「源内」が全府省庁18万人へ展開――国産LLM7モデル採用で行政DXが新フェーズへ

📌 この記事のポイント
・デジタル庁が開発した政府AI基盤「源内(ゲンナイ)」が2026年5月から全府省庁39機関・約18万人の職員へ本格展開される
・NTTの「tsuzumi 2」やソフトバンクの「Sarashina2 mini」など国産LLM7モデルを選定し、情報安全保障への配慮が鮮明
・国会対応検索・法令調査支援など行政固有の業務に特化したAI活用が始まり、日本の行政DXが実装フェーズへ突入

1. 政府AI「源内」とは何か

デジタル庁が構築・運用する政府専用の生成AI活用基盤「ガバメントAI 源内(ゲンナイ)」は、2025年6月に閣議決定された政府AI活用戦略の中核プロジェクトです。名称は江戸時代の医師・発明家である平賀源内に由来し、日本発の技術革新への意志を込めた命名とされています。2026年1月から一部府省庁での先行利用が開始され、2026年5月からはいよいよ全府省庁39機関・約18万人規模の行政職員を対象とした大規模展開が本格化します。政府内の機密性の高い情報を扱う基盤として、外資系クラウドへの過度な依存を避け、国産LLMを中心とした構成を採用していることが大きな特徴です。デジタル庁はOpenAIとも戦略的連携を結んでいますが、機密性の低い業務には海外モデルを、より機密度の高い業務には国産モデルを使い分ける「ハイブリッド運用」を志向しており、日本の行政DX推進における重要な試金石となっています。単なる業務効率化にとどまらず、国産AI産業の育成と情報主権の確保を同時に目指す政策的な意図も込められています。

2. 国産LLM7モデルの選定背景

2026年3月6日、デジタル庁は源内での試用に向けて国産LLM7件を正式に選定したと発表しました。選定されたモデルにはNTTグループの「tsuzumi 2」やソフトバンク傘下の「Sarashina2 mini」などが含まれます。選定の主な基準として挙げられたのは、日本語処理性能の高さ、データの国内保管、セキュリティ基準への適合、そして将来的なカスタマイズ可能性です。政府が国産LLMを積極的に採用する背景には、情報安全保障上のリスク管理という明確な意図があります。行政が扱う個人情報や機密データを海外サーバーで処理することへの懸念から、国内データセンターで動作するモデルを優先する方針が固まっています。また、政府調達での採用実績は民間企業の信頼獲得にも直結するため、国産AI産業の育成という産業政策的な側面も持ちます。政府はこの取り組みを通じて、約1兆円規模の国産AI支援スキーム(2026〜2030年度)とも連動させ、日本発の基盤モデル産業の確立を目指しています。選定を受けた各社は実証期間中のフィードバックをもとにモデルを改善し、行政ユースケースに最適化していく取り組みが期待されています。

3. 行政業務への具体的な活用シーン

源内が提供する主要な機能の一つが「国会対応検索環境」です。国会審議では大臣や官僚が無数の質問主意書や過去の答弁資料を素早く参照する必要がありますが、従来は膨大な文書を人手で検索・整理する作業が発生していました。源内のRAG(検索拡張生成)機能を活用することで、関連する過去答弁や法令文書を瞬時に引き出し、答弁案の草稿作成を補助することが可能になります。もう一つの柱が「法令調査支援環境」で、複雑に絡み合う法令の解釈作業を生成AIが補助し、法務担当者の調査工数を大幅に削減することが期待されています。さらに、文書要約・議事録作成・翻訳といった一般的なオフィス業務でも活用が進んでおり、行政職員が反復的な業務から解放され、より創造的・判断的な業務にリソースを集中できる環境づくりが進んでいます。先行利用機関からの報告では、一部の文書処理業務で作業時間が最大50%削減されたという事例も出始めており、2026年度末(2027年3月)までの実証期間中に得られた知見をもとに、本格運用への移行と機能拡充が計画されています。

4. セキュリティ対策とガバナンスの課題

大規模な行政AIの展開には課題も伴います。最大の懸念はハルシネーション(AIの事実誤認)リスクです。行政文書や法令解釈においてAIが誤った情報を出力した場合、政策立案や市民サービスへの影響が深刻になりかねません。このためデジタル庁は、生成AIの出力を必ず人間が確認・検証する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の原則を徹底することを運用ルールとして定めています。情報セキュリティ面では、職員が扱う情報の機密区分に応じてアクセスできるモデルや機能を制限する「情報格付け連動アクセス制御」が導入される予定です。さらに、AI利用履歴を記録・監査可能な形で保存し、万が一の情報漏洩や不適切利用に対して追跡できる体制を整えています。内閣府が2026年1月に実施した生成AIに関する原則・規範の公開協議では、知的財産保護・システムの透明性・プロバイダによる自主的なAIガバナンスを重点事項とした非拘束的ガイダンスが近く発出される見通しです。政府自身がAIガバナンスの実践者となることで、民間企業や自治体へのモデルケースとしての役割も期待されています。

5. まとめ

政府AI「源内」の全府省庁18万人展開は、単なる行政効率化の取り組みにとどまらず、日本の国産AI産業の育成、情報安全保障の確立、そしてAIガバナンスモデルの構築という複合的な意義を持つプロジェクトです。2026年5月から始まる本格展開の成果いかんによっては、地方自治体への横展開や、民間企業向け国産LLM活用のロールモデルとしても機能する可能性があります。生成AIが「実験」の時代から「実装・評価」の時代へと移行する中、政府自らが率先してAI活用の範を示すことの意義は大きく、今後の動向に注目が集まります。日本が「イノベーション優先」のAI規制アプローチを採りながら、同時に情報主権の確保と国産AI産業の育成を進めるこの戦略は、世界的にも注目されるモデルケースになりつつあります。

📝 まとめ
デジタル庁の政府AI「源内」が2026年5月から全府省庁18万人へ展開開始。国産LLM7モデルを採用し、国会対応・法令調査など行政固有業務に特化。情報安全保障と行政DXの両立を目指す日本の取り組みは、AI活用の新たな標準モデルとして国内外から注目されている。