AI音声詐欺、法人被害45億円に
――守りと現場実装が同時に動く
本日とくに目を引いたのは、生成AIによる音声クローンを使ったボイスフィッシングで、法人の被害が年間45億円規模に達したという報道です。攻撃側のAI活用が実害の数字として表面化する一方で、不動産査定や自治体の相談窓口、大学入試といった現場では、AIを前提に制度やサービスを組み替える動きが同時に進んでいます。守りと攻めを別々の話として扱えない段階に入りました。
①AI音声によるボイスフィッシング、法人被害は年45億円規模
元警視庁の専門家が、AI音声を使った詐欺の手口と対策を解説した記事が公開されました。記事によると、2025年の法人を狙ったボイスフィッシングの被害は143件・約45億円にのぼり、被害額全体のなかでも大きな割合を占めています。近年の音声合成は、30秒程度のサンプル音声があれば本人に近い声を再現できる水準に達しており、電話越しの声を本人確認の根拠にすること自体が成り立たなくなりつつあります。対策としては、技術・認証・人による確認を組み合わせた多層的な運用と、従業員向けの模擬訓練が挙げられています。
声だけで送金や情報開示を判断する運用が残っていないか、まず棚卸しをおすすめします。とくに経理・総務は、社長や取引先を名乗る電話に応じる場面が構造的に多い部署です。金額の閾値を決めて、一定額以上は必ず別経路(社内チャットや折り返し電話)で二重確認する。この一本のルールを明文化するだけでも、被害の入口はかなり塞げます。
②米大手35社、オープンウェイト規制に反対する共同書簡
MicrosoftやNVIDIA、Meta、IBM、OpenAIなど米国の35社が、オープンウェイトAIモデルへの厳しい規制に反対する共同書簡を公開しました。重みを公開するモデルがスタートアップの参入や学術研究を支え、米国のAI競争力の基盤になっているという主張です。各社のCEOもSNSで賛同を表明しています。一方でAnthropicはこの書簡に署名していないと報じられており、安全性を重視する立場との温度差がうかがえます。
オープンウェイトの是非は、企業にとっては選択肢が残るかどうかの話です。重みが公開されたモデルは、自社サーバーや国内環境に置いて動かせるため、外部送信を避けたい業務では現実的な受け皿になります。規制の行方によっては、その選択肢が細る可能性がある。海外の政策論争に見えて、社内データの置き場所を左右するテーマとして押さえておきたいところです。
③近畿大、情報学部の総合型選抜でAI利用を認める
近畿大学が、2027年度入試の情報学部・総合型選抜において、出願書類やプレゼンテーション資料の作成に生成AIを使うことを認めると発表しました。自己PR動画やスライドの制作が対象で、虚偽の内容は認めないこと、AIの利用有無にかかわらず受験生本人の能力と発想を評価することが条件として示されています。プログラミングやシステム開発の現場で生成AIが当たり前に使われている以上、情報分野を学ぶ学生には適切に使いこなす力が必要だという判断です。受験生からの問い合わせが検討のきっかけになったといいます。なお、この方針は情報学部に限られます。
禁止ではなく条件付き解禁という設計が参考になります。企業の社内ルールも、使用禁止で通そうとすると隠れて使われるだけで、実態が見えなくなります。どこまで使ってよいか、何を申告するか、最終的に何を評価するかを先に決める。近畿大の三点セットは、そのまま社内ガイドラインの骨組みとして流用できる考え方です。
④MFS、無料のマンションAI査定「CAPS」を提供開始
住宅ローン比較サービスを手がけるMFSが、マンションの資産価値をAIで推定する無料サービス「CAPS」の提供を始めました。賃貸と売買を合わせた約450万レコードの取引データを機械学習にかけ、物件名・面積・階数・間取りを入力すると1分ほどで想定価格と想定利回りを表示します。同社の発表では、新耐震基準の物件について実際の売出価格と比較した誤差率の中央値が、東京23区で6.1%、全国で7.4%とされています。対応範囲は全国47都道府県で、最大20件まで登録して価格推移を追跡できます。
誤差率を数字で開示している点に注目したいところです。AI査定は当たるか外れるかの議論になりがちですが、どの程度ずれるのかを明示すれば、使う側は判断の材料として扱えます。自社サービスにAIを組み込むときも、精度をぼかさず条件付きで示すほうが、結果的に信頼を得やすい。なお公表値は同社発表であり、第三者による検証結果ではない点は前提として押さえておきます。
⑤横浜市の中高生向けにAI相談「友達AI」実証実験
つながりAIが、横浜市の一部公立中学・高校の生徒を対象に、24時間対応のAI相談サービス「友達AI」の実証実験を開始しました。期間は2026年7月17日から2027年1月15日までで、夏休み中の子どもの孤立やSOSを早期に把握することが狙いです。AIとのチャットで相談を受け付け、自殺念慮や虐待といった深刻なリスクの兆候を検知した場合は専門の相談員や関係機関につなぐという、AIと人を組み合わせた運用になっています。姫路市などでの先行実験では、7か月で1,535人が登録し、リスクの兆候がある生徒を検知したと報告されています。
AIに全部任せるのではなく、拾い上げまでをAI、判断と対応を人に渡す設計が肝です。企業の問い合わせ対応や社内相談窓口も同じ構造で組めます。件数の多い一次受けをAIが引き受け、深刻度の高いものだけを人に回す。人手が足りないから諦めていた窓口ほど、この分担が効いてきます。
明日への展望
本日の5本を並べると、AIの話題が技術の紹介から運用ルールの設計へ移っていることがはっきりします。音声詐欺への対策も、入試での条件付き解禁も、相談窓口における人とAIの役割分担も、問われているのは同じ線引きです。どこまでをAIに任せ、どこから人が確認するのか。オープンウェイト規制をめぐる議論も、突き詰めればモデルをどこに置いて誰が責任を持つかという話に行き着きます。国内では総務省が自治体向けのAI活用でガイドライン整備を進めており、公共部門の指針が民間の運用基準に波及する流れも要注目です。
攻撃側のAI活用が45億円という実害の数字になって表れた一日でした。同時に、不動産・自治体・教育の現場では、AIを使う前提でサービスや制度を組み替える動きが具体化しています。守りを固める作業と、現場に組み込む作業は、どちらか片方では成立しません。まずは自社の業務のなかで、声や文面だけで判断している箇所を洗い出すところから始めてみてください。
コプラスは、生成AIの社内導入から情報漏洩対策、業務プロセスへの落とし込みまで一貫してご支援しています。何から手をつけるべきか整理したい段階でも、お気軽にご相談ください。


