土地家屋調査士のAI活用。立会依頼文などの指示文と秘密保持の線引き

土地家屋調査士のAI活用とは、立会依頼文や依頼者への報告、図面の読み取りなど事務所の文書仕事を、ChatGPT・Claude・Geminiなどの生成AIに手伝わせることです。AIに任せてよいのは文の下書きと読み取りの一次作業までで、筆界の判断と現地の作業は調査士が持ち、依頼者の名前や地番は入れる前に仮の札へ置き換えるのが基本の形になります。調査士法第24条の2の秘密保持と、令和7年8月22日に施行された職務倫理規程が補助者について定めることも、条文の言葉のまま確かめていきましょう。立会依頼文から現場メモの書き起こしまで、そのまま貼って使える指示文を10本、出力例と確かめる点をつけて載せました。

AIに任せる作業と、調査士が持つ作業の線引き

線引きの答えは、文を書く・読み取る・並べ直す作業をAIに下書きさせ、現地で見ること・測ること・筆界を判断することは調査士が持つ、という分け方になります。士業に共通する守秘義務の全体像や、AIを使う環境の選び方の一般論は、親記事の士業のAI活用|守秘義務の条文と、事務所で決める環境・ルールにまとめてあります。ここから先は、調査士法と日調連の規程、そして調査士の業務ごとの使い方に絞ってお話しします。

実際に1件の依頼の流れを追ってみると、AIに渡せる場面は文書の仕事に集まっていることが分かります。

AIに下書きさせてよい作業

  • 境界立会の依頼文と、立会の当日に聞かれそうな質問の整理
  • 依頼者への見積り・業務内容・必要書類の説明文
  • 現地調査・測量のあとの経過報告
  • 地積測量図・座標求積表の書き起こしと、取得した地積測量図の写しとの突合の下準備
  • 表題登記の上申書の文案、調査報告書の調査の経緯の下書き、申請書と図面の食い違いの一次チェック
  • 筆界特定や境界の相談を受ける前の、事実と時系列の整理
  • 現場メモの書き起こしと写真の説明文

調査士が持つ作業

  • 現地での調査・測量、境界標の確認と設置
  • 隣接地所有者との立会と、筆界についての説明
  • 筆界の位置の判断と、どの資料を採るかの判断
  • 申請書・図面の最終確認と、法務局への提出

下の段の線は、職務倫理規程第22条第3項が、補助者等に調査士の資格及び職能に基づく判断を行わせてはならないと定めていることとも重なってきます。AIも判断を預けない相手として補助者と同じ側に置くと、事務所の中で線を説明しやすくなるでしょう。AIに下書きさせた文も、外に出す前に調査士が目を通すところまでを1つの手順にしておきましょう。

土地家屋調査士の仕事はAIでなくなるのか

現地で境界標を探し、測り、隣接地所有者と立ち会って筆界を確かめる仕事は、文書を書くAIが代わりに担える種類の仕事ではありません。日調連の70周年記念サイトには、調査士は筆界の判定でAIの教師となるべきだとする弁護士の寳金敏明氏の寄稿がありますが、生成AIが広まる前の個人の寄稿で、日調連の公式の見解とは別のものです。減っていくのは、立会依頼文や報告を一から打つ時間のほうになるでしょう。

出典:寳金敏明「土地家屋調査士法改正と土地家屋調査士の未来(AI新時代に向けて)」日本土地家屋調査士会連合会 70周年記念サイト https://www.chosashi.or.jp/activity/70th/articles/hokin-toshiaki/

調査士法第24条の2と職務倫理規程が求めること

依頼者や隣接地所有者の情報をAIに入れてよいかを考える土台は、土地家屋調査士法第24条の2の秘密保持の義務です。

土地家屋調査士法 第24条の2(秘密保持の義務)
「調査士又は調査士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。」

第71条の2
「第二十四条の二の規定に違反した者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」

出典:e-Gov法令検索 土地家屋調査士法(昭和25年法律第228号)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000228 ※2026年10月16日に現行の条文を確認

違反したときの罰則は第71条の2に置かれ、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金で、告訴がなければ公訴を提起できない形になっています。条文が禁じているのは秘密を他に漏らすことで、生成AIへの入力がそのまま違反になるとまでは書かれていません。それでも、外部の事業者が運営するAIに依頼者の情報を入れれば、その事業者に情報を渡すことになってしまいます。どこまでが正当な事由にあたるかは条文からは読み取りにくいため、入れなくても仕事が進む情報は入れない側に倒すのが無理のない線でしょう。

職務倫理規程(令和7年8月22日施行)で押さえる4つの条文

日本土地家屋調査士会連合会の土地家屋調査士職務倫理規程は令和7年8月22日に施行され、それまでの倫理規程と職務規程はこの規程の施行で廃止されました。

第12条(秘密保持等の義務)
「調査士又は調査士であった者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。2 調査士は、補助者その他その業務に関与させた者(以下「補助者等」という。)があるときは、その者が業務上知り得た秘密を保持させなければならない。」

第22条(従事者に対する指導監督)
「調査士は、常に、補助者等の指導及び監督を行わなければならない。2 調査士は、補助者等に、その業務を包括的に行わせてはならない。3 調査士は、補助者等に、調査士の資格及び職能に基づく判断を行わせてはならない。」

第45条第2項
「調査士は、事件の記録及び関係書類を保管又は廃棄するに際しては、関係法令及び個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)を遵守し、依頼者及び関係者の秘密及び個人情報が保護されるように注意しなければならない。」

第48条
「調査士はその業務の遂行上収集した資料を成果物として依頼者に交付するものを除き、第45条の規定に従って、関係法令及び個人情報の保護に関する法律を遵守し、個人情報の保護に留意して、管理しなければならない。」

出典:日本土地家屋調査士会連合会「土地家屋調査士職務倫理規程」https://www.chosashi.or.jp/media/syokumu-rinri_20250822.pdf(掲載ページ https://www.chosashi.or.jp/association/disclosure/law/) ※2026年10月16日に本文を確認

第12条第1項は調査士法第24条の2と同じ趣旨の文で、AIの話で効いてくるのは、補助者等に秘密を保持させる義務を調査士の側に置いた第2項のほうになります。補助者がどのAIに何を入れてよいかを決めて伝えることも、この義務の内側に入ってくると考えるのが自然でしょう。第45条第2項と第48条は、事件の記録や業務で集めた資料を、個人情報保護法を守って管理するよう求めています。AIの画面に貼った測量図や登記事項の写しも、事務所の外に資料の置き場が1つ増えたものと見ると、規程との関係を整理しやすくなります。

この規程の本文には、AIや生成AIの語は出てきません。確認日(2026年10月16日)時点で、日調連が生成AIの利用に絞った指針を出しているのは確認できませんでした。規程の秘密保持と個人情報の条文を、そのままAIの場面に当てはめて考えていくことになります。

個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)

個人情報取扱事業者にあたる調査士事務所であれば、個人情報保護委員会が令和5年6月2日に公表した生成AIサービスの利用に関する注意喚起も当てはまります。要点は、個人情報を入れるなら利用目的の範囲内かを十分に確かめること(①)と、本人の同意なく個人データを入れる場合は、提供する事業者がそれを機械学習に使わないこと等を十分に確かめること(②)の2つです。使う生成AIが入力を機械学習に使わない設定になっているかを、入れる前に確かめておいてください。

依頼者の情報がAIに入ってしまう経路

依頼者の情報がAIに入ってしまうのは、事務所で決めたアカウントの外側、所長や補助者が自分で登録した個人のアカウントを通るときです。私物のスマートフォンの無料アプリや、1つのIDを全員で使い回す形もここに入り、事務所が把握していないこうしたAIの使い方は野良AI(シャドーAI)とも呼ばれています。調査士の事務所で気をつけたいのは、現場と図面の仕事に結びついた次の3つの経路になります。

境界標の写真を、私物のスマートフォンのAIアプリに送る

補助者が現場で見つけた境界標の写真を、私物のスマートフォンのAIアプリに送って、杭の種類を尋ねる場面が考えられます。その写真の端に、隣の家の表札や、止めてある車のナンバーが写り込んでいることもあるでしょう。

登記事項証明書や地積測量図のPDFを、所有者欄を残したまま読み込ませる

所有者の一覧を作らせようとして、登記事項証明書や地積測量図のPDFを、所有者の欄を残したまま読み込ませる形も同じ経路の1つです。取得した図面の写しであっても、依頼を受けた筆の組み合わせと所有者の氏名がそろうと、事件の中身が見えてきます。

CADの画面のスクリーンショットをそのまま貼る

CADの画面をスクリーンショットでそのまま貼ると、画面の端に出ている案件のファイル名や、表示したままの地番・所有者名の注記まで一緒に渡ってしまいます。貼る前に必要な範囲だけを切り抜くか、案件名と人の名前が写らない表示に切り替えておきましょう。

個人で登録したアカウントでは、入力を学習に使うかどうかの設定が本人任せになり、事務所からは誰が何を入れたのかが見えません。禁止の貼り紙を出すより、補助者が迷わずに使える事務所のアカウントを先に用意するほうが、こうした経路は閉じやすくなります。

入れる前に仮の札へ置き換える|公開の地図データとの違い

置き換えの基本は、人の名前・地番・住所・登記識別情報を、AIに渡す前に依頼者A、隣接地所有者B、対象地(地番は伏せる)のような仮の札に替えておくことです。札と実名の対応表は事務所のパソコンの中だけに置き、AIから戻ってきた文に人の手で戻しましょう。

【置き換えの例】
置き換える前(AIには入れない形)
・依頼者:[氏名]様 [住所]
・対象地:[市町村・字][地番]
・東側の隣接地:[地番] 所有者[氏名]様
・南側の隣接地:[地番] 所有者[氏名]様(相続により共有[人数]名)
・登記識別情報:[12桁の符号]

置き換えたあと(AIに渡す形)
・依頼者:依頼者A
・対象地:対象地(地番は伏せる)
・東側の隣接地:隣接地所有者B
・南側の隣接地:隣接地所有者C(共有者が複数いる、とだけ書く)
・登記識別情報:入れない

札の対応表(事務所のパソコンの中だけに置く)
依頼者A=[氏名]/隣接地所有者B=[氏名]/隣接地所有者C=[氏名]ほか

札に替えても、立会の日時、境界でもめてきた経緯、相続で持ち主が何人もいる事情が並ぶと、近所の方なら誰の話か見当がついてしまうこともあります。文の下書きに要らない事情は、札に替える前に削ってしまうのが確かな方法になります。

登記所備付地図のデータは公開されている

法務省は令和5年1月23日から、全国の登記所備付地図の電子データを、加工できる地図XMLの形式でG空間情報センターに公開しています。利用規約に従えば無償で使え、公開データは地図証明書の代わりにはならない、というのが法務省のページの案内です。

地図そのものは公開されていても、その地図のどの筆について、誰から、どんな事情で依頼を受けたかは、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密の側に入ると考えておくのが安全でしょう。AIに図面を見せるときは、線と数字は入れても、依頼の経緯と人の情報は札に替える、という分け方を事務所の決まりにすると迷いが減ります。

出典:法務省「登記所備付地図データの公開」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00494.html ※2026年10月16日に確認。同ページでは令和8年4月15日に更新データの公開が案内されています。

境界立会の依頼文(隣接地所有者あて)

隣接地所有者あての立会依頼文は、材料を決まった形で渡すと、AIが読みやすい下書きを返しやすい文書の1つです。渡す材料は、対象地と隣接地の位置関係、立会の目的、候補日時を2〜3案、所要時間の目安、費用負担の有無、事務所の連絡先の6つになります。依頼者の名前や、売却・相続などの依頼の理由は、材料に入れないでおきましょう。

【指示文1:立会依頼文(そのまま貼れる全文)】
あなたは土地家屋調査士事務所の事務担当です。下の【材料】だけを使って、隣接地所有者あての「境界立会いのお願い」の文書を作ってください。

条件
・宛名は「隣接地所有者B様」とし、実在の名前は入れない
・用件、立会の目的、候補日時、所要時間、当日の流れ、費用負担、連絡先の順に書く
・「境界標」「筆界」などの言葉には、かっこで短い言い換えを添える
・依頼者がなぜ測量を頼んだか(売却・相続など)は書かない
・材料にない約束は書かない(署名押印の扱いは材料のとおりに書く)
・です・ます調で、A4用紙1枚に収まる長さにする
・材料から分からないことは【要確認】と書き、推測で埋めない

【材料】
・対象地:(地番は伏せる)依頼者Aの所有地。B様の土地の西側に接している
・目的:対象地の境界を確認する測量のため、境界標の位置を現地で一緒に見ていただきたい
・候補日時:11月17日(火)10時/11月19日(木)14時/11月21日(土)10時
・所要時間:30分程度
・費用負担:隣接地所有者の負担はなし
・境界標が見つかっていない点:[有無・点数]
・立会後の書類:筆界確認書への署名押印をお願いする予定(印鑑証明書の要否:[事務所で決める])
・同封物:案内図・公図の写し・返信用はがき(返信期限[○月○日])
・連絡先:[事務所名][担当者名][電話番号]
【出てくる文の例】
隣接地所有者B様

境界立会いのお願い

拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
このたび、B様のお土地の西側に接する土地について、所有者の方から、境界を確認するための測量のご依頼をいただきました。
つきましては、境界標(土地の境目を示す杭や金属のしるし)の位置を、現地でご一緒にご確認いただきたく、お願い申し上げます。

■候補日時(ご都合のよい日をお知らせください)
・11月17日(火)10時から
・11月19日(木)14時から
・11月21日(土)10時から

■所要時間 30分程度
■当日の流れ 境界標のある場所と、境界標が見つかっていない場所(仮の目印を置いた位置)を順にご案内し、位置をご覧いただきます。
■ご費用 B様にご負担いただく費用はございません。
■立会いのあと 境界の位置をご確認いただけましたら、筆界確認書(境界を確認したことを記す書面)へのご署名とご押印をお願いする予定です。印鑑証明書の要否は【要確認】。
■同封物 案内図、公図の写し、返信用はがき

お手数ですが、ご都合のよい日を返信用はがきにて[○月○日]までにお知らせください。上記の日程でご都合がつかない場合は、別の日をご相談させてください。
ご不明な点は、下記までお気軽にお問い合わせください。
敬具

[事務所名] 土地家屋調査士 [担当者名]
電話 [電話番号]

AIは東西南北を取り違えたり、材料にない約束を丁寧な言葉で書き足したりすることがあります。依頼者の名前を書き添える場合も、AIには依頼者Aの札のまま作らせ、送る前に事務所の側で札から実名へ戻しましょう。そのうえで、次の4つを人の目で確かめてください。

  • 依頼の理由が紛れ込んでいないか売却、相続、建て替えなど、依頼者の事情を示す言葉が入っていたら消します。
  • 位置関係が材料どおりか西側に接する、が東側になっていないかを、公図を見ながら確かめます。
  • 材料にない約束が足されていないか筆界確認書への署名押印や印鑑証明書の扱いが材料のとおりか、事務所で決めていない話が増えていないかを見ます。
  • 日付と曜日が合っているか候補日の曜日はカレンダーで1つずつ確かめます。

立会の当日に聞かれそうな質問の整理

立会の前日には、隣接地所有者から当日聞かれそうな質問をAIに並べさせると、準備がはかどります。答えの下書きまで作らせてもかまいませんが、筆界の位置にかかわる答えは、調査士が自分の言葉で話す欄として空けさせましょう。

【指示文2:立会の想定問答(そのまま貼れる全文)】
あなたは土地家屋調査士の立会の準備を手伝う担当です。下の【現地の状況】から、立会の当日に隣接地所有者B様から聞かれそうな質問を10個挙げ、それぞれに答えの下書きを付けてください。

条件
・筆界の位置、越境の有無、境界標を動かせるかなど、調査士の判断が要る質問は、答えの欄に【調査士が回答】とだけ書く
・費用、所要時間、日程の変更など、決まった答えがある質問だけ、下書きを書く
・署名押印や印鑑証明書など、事務所ごとに扱いが違う質問は、答えの欄に【事務所の決まりで回答】とだけ書く
・相手を言い負かす言い方や、法律の条文の引用はしない
・人の名前は札のまま使い、新しい名前を作らない

【現地の状況】
・B様の土地との間にブロック塀がある。塀の所有者は【要確認】
・境界標は北側の1点が見つかっていない
・前回の測量は昭和の終わりごろと依頼者Aから聞いている(図面は取得済み)
・立会のあと、測量図の写しをB様にお渡しする予定
【出てくる文の例】(抜粋)
1. 境界はどこになるのですか。
 →【調査士が回答】
2. このブロック塀はどちらのものになりますか。
 →【調査士が回答】
3. 当日都合が悪くなったときは、どうすればよいですか。
 →お電話でご連絡いただければ、別の日をご相談させていただきます。
4. ハンコや印鑑証明書は要りますか。
 →【事務所の決まりで回答】
5. 家族が代わりに立ち会ってもよいですか。
 →【調査士が回答】
6. 費用はかかりますか。
 →B様にご負担いただく費用はございません。

出てきた質問を読むと、当日の段取りを前もって組み立てやすくなります。筆界の位置や越境にふれる質問は、AIの下書きを読み上げず、現地で資料を見せながら調査士が答えてください。

依頼者への見積り・業務内容・必要書類の説明文

見積りと必要書類の説明は、事務所で決めた中身をAIに渡し、言い回しだけを依頼者向けに整えさせる使い方が合っています。必要書類の中身そのものをAIに尋ねるのは避けてください。あとで紹介する2023年の試用の記録でも、建物表題登記の添付書類をAIに質問したところ、正しい答えと誤りが混ざって返ってきたと書かれています。

渡す材料は、業務の種類、作業の流れ、見積額の内訳、依頼者に用意してもらう書類、おおよその期間で、どれも事務所で確かめた内容のまま入れます。

【指示文3:見積り・業務内容・必要書類の説明(そのまま貼れる全文)】
あなたは土地家屋調査士事務所の事務担当です。下の【事務所で決めた内容】を、依頼者A様に送るメールの文に整えてください。

条件
・中身は【事務所で決めた内容】に書いてあることだけにし、書類や手続を足したり省いたりしない
・専門用語は、初めて出たところでかっこの言い換えを添える
・見積額は内訳ごとに、税込・税抜の区別を材料のとおりに書く
・期間は「目安」と書き、言い切らない
・最後に、用意していただく書類を箇条書きでまとめ直す
・材料から分からないことは【要確認】と書く

【事務所で決めた内容】
・業務:土地分筆登記(1筆の土地を2筆に分ける登記)と、そのための境界確認・測量
・流れ:資料調査 → 現地調査・測量 → 隣接地所有者との立会 → 図面作成 → 申請 → 登記完了後に書類をお渡し
・見積額:[項目ごとの金額。税込・税抜の別]
・期間の目安:[○か月程度]。立会の日程により前後する
・用意していただく書類:[事務所で確認した書類名を並べる]
・連絡先:[事務所名][担当者名]
【出てくる文の例】(冒頭の抜粋)
A様
このたびは、土地分筆登記(1筆の土地を2筆に分ける登記)のご相談をいただき、ありがとうございます。お見積りと、今後の流れをご案内いたします。

■今後の流れ
1. 資料調査(法務局などで、土地の図面や記録を確認します)
2. 現地調査・測量
3. 隣接地所有者の方との立会い(境界を一緒に確認していただきます)
4. 図面の作成
5. 登記の申請
6. 登記完了後、書類をお渡しします

■期間の目安
[○か月程度]を目安としています。隣接地所有者の方との立会いの日程により、前後することがあります。
  • 書類が足されたり減ったりしていないか材料に書いた書類名と、メールの最後の箇条書きを1つずつ見比べます。
  • 金額と税込・税抜の別が材料どおりか合計を自分で足し直し、内訳の書き間違いがないかを確かめます。
  • 期間や完了の時期を言い切っていないか「必ず」「までに完了します」などの言い方は、目安の書き方に直します。

依頼者が読み返したときに、次に自分が何をすればよいかが分かる文になっていれば合格です。

現地調査・測量後の依頼者への経過報告

経過報告は、現場メモを札に置き換えて渡し、依頼者に伝わる順番へ並べ直させると、所長の書く手間が大きく減ります。報告で依頼者が知りたいのは、いま何が終わっていて、次に何が起きて、自分は何をすればよいかの3つでしょう。渡す材料は、現地調査と測量の実施日、確認できた境界標と見つからなかった境界標、隣接地所有者との立会の予定、依頼者にお願いしたいことの4つです。

【指示文4:経過報告(そのまま貼れる全文)】
あなたは土地家屋調査士事務所の事務担当です。下の【現場メモ】をもとに、依頼者A様への経過報告のメールを作ってください。

条件
・「終わったこと」「これからのこと」「A様にお願いしたいこと」の3つの見出しで書く
・隣接地所有者は「隣接地所有者B様」「隣接地所有者C様」と書き、それ以外の人の情報は書かない
・立会の結果や完了の時期は、言い切らず見込みとして書く
・メモにない出来事は書かない
・400字前後、です・ます調

【現場メモ】
・10月14日 現地調査と測量を実施
・境界標:南東と南西の2点を確認。北東の1点は見つからず
・隣接地所有者B様:立会は11月19日(木)14時で日程が決まった
・隣接地所有者C様:郵便で立会のお願いを送付済み、返事待ち
・A様へのお願い:北東の杭について、以前の様子を知っていれば教えてほしい。昔の写真があれば見せてほしい
【出てくる文の例】
A様
いつもお世話になっております。対象地の測量の経過をご報告いたします。

■終わったこと
10月14日に現地調査と測量を行いました。境界標は、南東と南西の2点を確認できました。北東の1点は、今回の調査では見つかっていません。

■これからのこと
隣接地所有者B様とは、11月19日(木)14時に立会いを行う予定です。隣接地所有者C様には立会いのお願いをお送りしており、お返事をお待ちしています。

■A様にお願いしたいこと
北東の杭について、以前の様子をご存じでしたら教えてください。昔の写真がございましたら、拝見できますと助かります。

立会の見通しや完了の時期を、AIが言い切る形で書いてくることがあります。隣接地所有者の協力が得られるかどうかは事務所だけでは約束できないため、そうした一文は消すか、見込みの言い方に直してから送りましょう。

  • 日付と点の数がメモどおりか確認できた2点と見つからなかった1点が、入れ替わっていないかを見ます。
  • 隣接地所有者の様子を書き足していないか協力的、反対しているなど、メモにない人の様子が入っていたら消します。
  • 札が実名に戻っているか送る前に、隣接地所有者B様などの札を、対応表を見ながら事務所の側で直します。

補助者がAIに入力する場面の線引き

補助者がAIを使う場面は、札に置き換えた文書の下書きと書き起こしまでとし、外に出す文と判断がからむ答えは必ず所長を通す形にします。職務倫理規程は、第12条第2項で補助者等に秘密を保持させることを、第22条で補助者等の指導監督と、資格に基づく判断を補助者等に行わせないことを、調査士の務めとして定めています。第22条第2項は、業務をまるごと補助者等に任せることも禁じる形になります。

AIが間に入ると、補助者がAIの答えをそのまま依頼者に伝えてしまい、気づけば判断を補助者とAIに預けていた、という形になりかねません。線の引き方の例を、事務所でそのまま使える形で挙げておきます。

補助者に任せてよいこと

  • 札に置き換えた材料での、立会依頼文・説明文・経過報告の下書き
  • 座標求積表や現場メモの書き起こし
  • 申請書と図面の食い違いの一次チェック

所長の確認を通すこと

  • 依頼者や隣接地所有者に送る文書のすべて
  • 法務局に出す上申書の文案と、調査報告書の下書き
  • 書き起こした座標を図面や計算に使うとき

補助者にさせないこと

  • 筆界の位置や越境の有無をAIに尋ね、その答えを依頼者や隣接地所有者に伝えること
  • 私物のスマートフォンや個人のアカウントに、依頼者の情報を入れること
  • 事務所のアカウントのIDとパスワードを、ほかの補助者と共有すること

補助者を置いたときは調査士会に届け出ることが職務倫理規程第21条で定められていますが、AIのアカウントも同じように、誰に渡したかを事務所の台帳に残すと棚卸しがしやすくなります。補助者が入れてよい情報と使うアカウントを紙1枚にまとめ、入所のときに一緒に読み合わせてみてください。

補助者の私物アカウントに、依頼者の情報を残さないために

事務所で使うAIの入り口を1つにまとめると、誰が・いつ・どのAIを使ったかを所長が見られるようになります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

地積測量図・座標求積表の読み取りと、取得した図面の写しとの突合

地積測量図や座標求積表をAIに読ませるのは、取得した地積測量図の写しと突き合わせるための書き起こしまでにとどめ、数字は1点ずつ人が写しで照合します。点名と座標が並んだ印字の表であれば、手で打ち直すより早く形になります。画像を渡す前に、地番や所有者の欄は塗りつぶしておきましょう。

手書きの三斜求積や古い図面は、読めたふりをしやすい

手書きの三斜求積図や、かすれた古い図面では、AIが数字を読み違えたうえ、読めていない桁をそれらしい数字で埋めてくることがあります。見た目は整った表で返ってくるため、読み違いに気づきにくいところが厄介です。指示文の中で、読めない数字は推測せず【判読不可】と書くよう求めると、照合すべき箇所が目に見える形で残ります。

【指示文5:座標求積表の書き起こし(そのまま貼れる全文)】
添付した画像は、地積測量図の座標求積表です。表を書き起こしてください。

条件
・点名、X座標、Y座標、辺長を1行ずつ、画像の並び順のまま書く
・昭和の三斜求積の図面の場合は、三角形番号・底辺・高さを1行ずつ書き起こす
・読めない数字、自信のない数字は、推測で埋めずに【判読不可】と書き、その行の最後に理由(かすれ、重なりなど)を添える
・面積の計算、座標の補正、足りない点の補完はしない
・最後に、書き起こした点の数と、【判読不可】の数を書く
・表の外にある注記(座標系、測量年月日など)は、読めたものだけ別に書き出す
【出てくる文の例】(数字は説明のための例です)
点名 X座標     Y座標     辺長(次の点まで)
K1  -12345.678  -23456.789  17.070
K2  -12350.112  -23440.305  16.020
K3  -12366.0【判読不可】 -23441.920  16.717 (X座標の小数第2位から下がかすれ)
K4  -12361.540  -23458.017  15.909
書き起こした点の数:4
【判読不可】の数:1
表の外の注記:座標系の記載あり(番号は【判読不可】)

座標・面積・条文の引用はうのみにしない

AIに書き起こした座標から面積を計算させると、計算の途中を飛ばしたり、桁を取り違えたりした数字が、自信のある書き方で出てくることがあります。面積と座標の検算は、事務所でふだん使っている測量計算のソフトやCADで行ってください。条文の番号や中身も、AIの答えをそのまま申請書や説明に写さず、e-Govの法令検索で原文を開いて確かめましょう。

  • 点の数が図面と同じか取得した地積測量図の写しの点の数と、AIが最後に書いた点の数を比べます。
  • 符号と小数の桁が合っているかマイナスの付け忘れや、小数点の位置のずれを1点ずつ見ます。
  • 辺長を1辺ずつ比べたか書き起こした座標をCADに取り込んで辺長を出し、図面の辺長と1辺ずつ比べます。合わない辺の両端が、読み違いの疑われる点になります。
  • 判読不可の箇所を読み直したか取得した地積測量図の写しや閉鎖された図面の写しで読み直し、読めないまま使わないようにします。辺長が読めていれば、前後の点からCADで逆算した値とも比べます。
  • 面積を自分のソフトで計算し直したかAIに計算させた面積は、照合の材料にもしません。

表題登記の上申書と調査報告書の下書き、申請書と図面の一次チェック

申請書まわりでAIに任せられるのは、表題登記の上申書の文案、調査報告書の調査の経緯の下書き、申請書と図面の食い違いを拾う一次チェックの3つです。どの登記を申請するか、何を添付するか、登記原因と日付をどうするかは、調査士が決めて材料として渡す側に置きます。

表題登記の上申書の文案

建物の表題登記で所有者本人の言葉として事情を述べる上申書は、上申者の一人称で私は…と書き、末尾に上申者の記名押印欄を設ける形に整えさせます。上申書に添える書類の要否は、AIに決めさせず、管轄の法務局の扱いを調査士が確かめてから材料に書きましょう。

【指示文6:表題登記の上申書の文案(そのまま貼れる全文)】
あなたは土地家屋調査士の書類作成を手伝う担当です。下の【事実のメモ】から、建物表題登記の申請に添える上申書の文案を作ってください。

条件
・上申者(建物の所有者)本人の一人称で「私は」と書く
・メモに書いてある事実だけを使い、理由や経緯を推測で足さない
・日付、種類、構造、床面積はメモのとおりに書き、空欄は空欄のまま残す
・宛先は「[管轄の法務局]御中」、日付は「令和○年○月○日」のままにする
・末尾に、上申者の住所・氏名を書く欄と押印欄を、空欄のまま設ける
・添付する書類の名前は書かない(調査士が別に決める)
・メモの中で意味が二通りに読める箇所があれば、最後に【確認したい点】として挙げる

【事実のメモ】
・上申者Aが令和○年○月ごろに新築した居宅
・構造:[構成材料・屋根の種類・階数] 床面積:1階[ ]㎡、2階[ ]㎡
・建築を頼んだ工務店はすでに廃業しており、工事完了引渡証明書を出してもらえない
・建築確認済証と検査済証は上申者Aの手元にある
・建築代金の領収書は一部だけ残っている
【出てくる文の例】
上申書

[管轄の法務局]御中
令和○年○月○日

所在 [所在]
種類 居宅
構造 [構成材料・屋根の種類・階数]
床面積 1階[ ]㎡ 2階[ ]㎡

私は、上記の建物を令和○年○月ごろに新築し、所有しております。
建築を請け負った工務店はすでに廃業しており、工事完了引渡証明書の交付を受けることができません。
私の手元には建築確認済証と検査済証があり、建築代金の領収書も一部が残っております。
上記の建物が私の所有であることに相違ありませんので、ここに上申いたします。

上申者 住所[        ]
    氏名[        ]  印

【確認したい点】
・新築の時期が「令和○年○月ごろ」となっており、日付まで特定できるか
  • 上申者の一人称がくずれていないか途中から事務所や調査士の言葉に変わっていないかを読み通して確かめます。
  • メモにない事情が足されていないか建てた理由や、工務店とのやりとりなど、メモにない経緯が入っていたら消します。
  • 添える書類の要否を法務局の扱いで確かめたか印鑑証明書などを添えるかどうかは、AIの文に書かせず、管轄の法務局の扱いを調査士が確かめて決めます。
  • 記名押印欄が空欄のままか住所と氏名は、上申者本人に書いてもらう前提で空けておきます。

調査報告書の調査の経緯の下書き

不動産登記規則第93条ただし書は、調査士が代理人として申請するときに作成した不動産の調査に関する報告などにより、登記官が実地調査の必要がないと認めたときの扱いを定めています。実務で調査報告書と呼ばれるこの報告のうち、現場メモから時系列に起こせる調査の経緯の欄は、AIに下書きさせやすい部分になります。筆界の認定理由の欄は空けたまま【調査士が記入】と書かせ、AIに埋めさせないようにしましょう。欄の名前は、事務所で使っている調査報告書の様式に合わせて書き換えてください。

不動産登記規則 第93条(要旨):登記官は、表示に関する登記をする場合には実地調査を行わなければならない。ただし、申請に係る不動産の調査に関する報告(土地家屋調査士または土地家屋調査士法人が代理人として登記を申請する場合に、その土地家屋調査士(法人の場合はその代表者)が作成したものに限る)その他の申請情報と併せて提供された情報などにより、登記官が実地調査をする必要がないと認めたときは、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索 不動産登記規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018 ※2026年10月16日に現行の条文を確認

【指示文7:調査報告書の調査の経緯(そのまま貼れる全文)】
あなたは土地家屋調査士の書類作成を手伝う担当です。下の【現場メモ】から、不動産登記規則第93条ただし書の調査に関する報告(調査報告書)のうち、「調査の経緯」の欄の下書きを作ってください。

条件
・年月日の順に、現地調査の日、確認した境界標と見つからなかった境界標、立会の経過を書く
・メモにない調査や立会は書かない
・「筆界の認定理由」の欄は見出しだけ作り、中身は書かずに【調査士が記入】とだけ書く
・人は「隣接地所有者B」「隣接地所有者C」の札のまま書く
・点名と境界標の種類はメモのとおりに書く

【現場メモ】
・10月14日 現地調査。南東K1(コンクリート杭)、南西K2(金属標)を確認。北東は見つからず
・10月28日 北東を草刈りのうえ再調査。K3の位置に境界標なし
・11月19日 北東K3を復元測量し仮杭を設置。隣接地所有者B(東側)と立会し、K1・K3の位置を現地で確認
・11月21日 隣接地所有者C(南側)と立会。K1・K2の位置を現地で確認
【出てくる文の例】
■調査の経緯
令和○年10月14日 現地調査を実施し、南東のK1(コンクリート杭)、南西のK2(金属標)を確認した。北東の境界標は確認できなかった。
令和○年10月28日 北東部分を草刈りのうえ再調査したが、K3の位置に境界標は見当たらなかった。
令和○年11月19日 北東のK3を復元測量し、仮杭を設置した。同日、隣接地所有者B(東側)と現地で立ち会い、K1・K3の位置を確認した。
令和○年11月21日 隣接地所有者C(南側)と現地で立ち会い、K1・K2の位置を確認した。

■筆界の認定理由
【調査士が記入】

日付と点名がメモと合っているかを確かめたら、認定理由は資料と現地の状況をもとに調査士が自分で書き入れる形になります。

申請書と図面の一次チェック

申請書の案と地積測量図の書き起こしを並べて渡し、地番、地目、地積、日付、申請人の札が両方で合っているかを、食い違いの一覧として出させます。分筆後の土地は新しい札を作らず、図面の符号(①・②)のまま扱わせると、どの土地の話か取り違えにくくなります。地積の端数は不動産登記規則第100条で、1平方メートルの100分の1未満を切り捨て、宅地と鉱泉地以外で10平方メートルを超える土地は1平方メートル未満を切り捨てると定められているので、地目ごとの端数の扱いも比べる項目に入れておきます。AIが拾えるのは書かれた文字どうしの食い違いまでで、図面が現地と合っているかや、申請の中身が正しいかは見ていません。

【指示文8:申請書と図面の食い違いチェック(そのまま貼れる全文)】
下に、登記申請書の案と、地積測量図から書き起こした内容を貼ります。両方を見比べて、食い違っている箇所だけを一覧にしてください。

条件
・比べるのは、地番の札、地目、地積、日付、申請人の札、筆の数
・分筆後の土地は、図面の符号(①・②)のまま扱い、新しい呼び名を作らない
・地目ごとの地積の端数の扱いが、申請書と図面でそろっているかも見る(宅地・鉱泉地と、それ以外で10㎡以下の土地は1㎡の100分の1未満を切り捨て。宅地・鉱泉地以外で10㎡を超える土地は1㎡未満を切り捨て)
・食い違いは「申請書ではこう、図面ではこう」の形で書く
・どちらが正しいかの判断や、登記の中身についての助言はしない
・食い違いが見つからない項目は「一致」とだけ書く

【申請書の案】
(ここに貼る。地番は「対象地」の札に置き換え、分筆後の土地は図面の符号①・②で書く)

【地積測量図の書き起こし】
(ここに貼る)
【出てくる文の例】(地目が畑の土地を2筆に分筆する例。数字は説明のための例です)
・地積(②):申請書では 123.45㎡、図面では 123㎡
・地積の端数(②):地目は畑で10㎡を超えるため、1㎡未満の扱いが申請書と図面でそろっていない
・地目:一致(①・②とも畑)
・日付:一致
・筆の数:一致(2筆)

一覧に何も出てこなかったときも、合っている証明にはならない点に気をつけてください。提出前の最終確認は、申請ソフトの画面と出力した図面を調査士が突き合わせる工程として残しましょう。

筆界特定・境界問題の相談前の論点整理

境界でもめている方からの相談は、面談の前に、相談者のメモや手紙をAIで時系列と資料の一覧に並べ直しておくと、面談の時間を論点に使えます。調査士法第3条が業務として挙げるのは、筆界特定の手続の代理や、筆界が現地で明らかでないことを原因とする民間紛争解決手続の代理とその相談などです。このうち民間紛争解決手続の代理と相談は、法務大臣が指定する研修の課程を修了し、法務大臣の認定を受けた調査士会の会員に限られ、代理は弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限られます。塀の所有や占有をめぐる所有権の争いそのものに踏み込む助言は、調査士の業務の範囲を超えることがあります。筆界の話か所有権の話かを、メモから読める範囲でAIに仕分けさせると、面談でどこまでを扱うかの見通しが立てやすくなるでしょう。筆界がどこにあるかの見立てや、筆界特定を申請すべきかの助言は、AIに書かせず調査士が相談の場で話す部分になります。

【指示文9:相談前の論点整理(そのまま貼れる全文)】
あなたは土地家屋調査士の相談の準備を手伝う担当です。下の【相談者のメモ】を、面談の前に読む相談票の形に整えてください。

条件
・次の5つに分ける
 1「これまでの経緯(年月の順)」
 2「筆界の話か、所有権(塀の位置・占有)の話か(メモから読める範囲での仕分け)」
 3「手元の資料」
 4「これから取る資料の候補(地積測量図・旧公図・閉鎖登記簿など)」
 5「面談で聞くこと」
・2の仕分けは、メモから読める範囲にとどめ、どちらに当たるかを言い切らない
・筆界がどこにあるか、どちらの言い分が正しいか、筆界特定を申請すべきかは書かない
・人は「相談者D」「隣接地所有者E」と書く
・メモにない出来事は足さない

【相談者のメモ】(札に置き換えたもの)
・20年ほど前に家を建てたとき、隣の土地との間に塀を作った
・去年、隣の土地の持ち主が代わり、新しい持ち主(隣接地所有者E)が「塀がうちの土地に入っている」と言ってきた
・家を建てたときの測量図があったはずだが見つからない
・法務局で公図は取った
・話し合いは2回したが平行線
【出てくる文の例】
■これまでの経緯
・約20年前:相談者Dが自宅を建築。その際、隣の土地との間に塀を設置
・昨年:隣の土地の持ち主が代わる。隣接地所有者Eから、塀が隣接地に入っているとの申し出
・その後:話し合いを2回。合意には至っていない

■筆界の話か、所有権の話か(メモから読める範囲)
・塀が隣の土地に入っているかどうか:筆界の位置にかかわる話として読める
・塀を誰が作り、誰のものとして使ってきたか:所有権・占有にかかわる話として読める
・どちらが中心かは、メモだけでは決められない

■手元の資料
・公図(法務局で取得)

■これから取る資料の候補
・地積測量図(備え付けがあるか)
・旧公図
・閉鎖登記簿
・建築のときの測量図(相談者の手元をもう一度確かめる)

■面談で聞くこと
・建築を頼んだ工務店や、当時測量した事務所の名前
・塀を作ったころの写真が残っているか
・前の持ち主と、塀の位置について話したことがあるか

AIが整理の途中で、どちらの言い分が正しいかを書き始めたら、その部分は消してから相談票に使ってください。相談者の言葉には隣の家の方の名前や過去のやりとりが多く出てくるので、札への置き換えはここでも先にすませておきましょう。法務大臣の認証を受けた境界の紛争解決の窓口(ADR)を設けている調査士会もあります。

出典:法務省 かいけつサポート 認証紛争解決事業者の例 https://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/jigyousya/ninsyou0047.html

  • 見立てや助言が混ざっていないか筆界の位置、勝ち負けの見通し、手続の勧めが書かれていたら消します。
  • 筆界と所有権の仕分けを言い切っていないかメモから読める範囲の仕分けにとどまっているか、どちらに当たると断定していないかを見ます。
  • 年月の順番がメモどおりか代替わりの時期と話し合いの時期が入れ替わっていないかを見ます。

杭・現場写真の整理と現場メモの書き起こし

現場写真と現場メモは、AIに説明文の下書きと書き起こしを任せ、杭の種類や位置の判定は写真を撮った本人が確かめる分け方になります。写真からAIが境界標の種類を言い当てることもありますが、角度や影、草のかかり方で取り違えることもあるため、判定の根拠にはしないでください。写真をAIに渡す前に、表札、車のナンバー、近所の方の顔が写っていないかも見ておきましょう。

音声の現場メモを書き起こして整える

現場で吹き込んだ音声メモの文字起こしを渡すと、日時・確認した境界標・写真番号・未確認のことに分けた現場メモの形に整えてくれます。

【指示文10:現場メモの書き起こし(そのまま貼れる全文)】
下に、現場で吹き込んだ音声メモの文字起こしを貼ります。現場メモの形に整えてください。

条件
・「日時・天候」「確認した境界標」「見つからなかった境界標」「次回やること」「聞き取りが怪しい箇所」に分ける
・数字、点名、写真番号は文字起こしのとおりに書き、直さない
・聞き取りが不自然な箇所(位置関係の言い直し、点名の重なりなど)は【聞き取り要確認】と書いて残す
・人の名前が出てきたら、隣接地所有者B、のように札に置き換える

【文字起こし】
10月14日、晴れ。南東の角、コンクリ杭あり、写真12番。南西、金属標、写真13、14。北東は見当たらない、草が多い、次回草刈りしてから再度。北西はブロック塀の角にプレート、写真15。北西のプレート、塀の角から内側に5センチくらい、いや、外側だったか…
【出てくる文の例】
■日時・天候 10月14日 晴れ
■確認した境界標
・南東:コンクリート杭(写真12)
・南西:金属標(写真13・14)
・北西:ブロック塀の角にプレート(写真15)
■見つからなかった境界標
・北東:草が多く確認できず
■次回やること
・北東を草刈りのうえ再確認
■聞き取りが怪しい箇所
・北西のプレートの位置「塀の角から内側に5センチくらい」【聞き取り要確認】(外側と言い直しあり)

書き起こしでは、位置関係の言い直しや、点名の取り違えが混ざることがあります。言い直しの残った箇所は、写真と観測のデータで確かめてから記録に残してください。

実名で公表されている調査士のAI利用

調査士が実名で自分の事務所での使い方を書いた例として、確認日(2026年10月16日)時点で見つかったのは、神奈川の土地家屋調査士、関太郎氏のコラムになります。関氏は2026年4月11日の専門家コラムで、登記簿謄本から所有者の情報を拾い出す作業や、公図に情報を書き込む作業を、AIと組み合わせた専用のツールで処理していると書いています。同じコラムには、GeminiとClaudeの両方を全スタッフが個別のアカウントで使えるようにしていること、課題がツールを作ることからチームで使いこなすことへ移ってきたことも書かれており、1人1つのアカウントを渡している点はここまでの話と重なるところです。

2026年4月24日の続編では、昭和52年以前の地積測量図の公差の扱いという論点をClaudeとGeminiに議論させ、実務書の読み込みにはNotebookLMを使ったとしています。いずれも本人の記載で、効果や精度を第三者が確かめたものではありません。コラムの中に、依頼者の情報や守秘義務の扱いについての記載は見当たりませんでした。

新田哲登記測量事務所の2023年3月4日のnoteは、ChatGPTに建物表題登記の添付書類を尋ねた答えが「嘘と本当が入り混じった内容」だったと記した、試した記録になります。文章の下書きには使えるという評価もあり、AIは文を整える役には向き、手続の中身を尋ねる相手には向かないという線がここからも見えてきます。

講師を務めた岡田拓朗氏のnoteによると、あいち調査士勉強会(A.C.B.)は2025年2月14日に、土地家屋調査士向けのChatGPT研修を開いています。これは民間の勉強会の催しで、日調連や調査士会の公式の研修ではありません。

出典(いずれも本人・講師の記載。2026年10月16日に本文を確認)
関太郎「AIに翻弄される土地家屋調査士の日常~なぜか忙しくなってしまった~」2026年4月11日 https://mbp-japan.com/kanagawa/st-surv/column/5220396/
関太郎「AI同士に議論させたら、長年の疑問がスッキリした」2026年4月24日 https://mbp-japan.com/kanagawa/st-surv/column/5221678/
新田哲登記測量事務所 note 2023年3月4日 https://note.com/office_nitta/n/n359e2155a013
岡田拓朗(講師)によるあいち調査士勉強会(A.C.B.)の研修の報告 https://note.com/takorou21/n/n2147867bb35e

事務所のAI利用ルールのひな形

ルールはA4で1〜2枚に収まる量にし、入れてよい情報・使うアカウント・確認する人・記録の残し方を決めれば、補助者が迷う場面はかなり減ります。下のひな形は、ここまでの条文と業務の話をそのまま並べたものなので、事務所の実情に合わせて書き換えて使ってください。

[事務所名]生成AI利用ルール(令和○年○月○日 制定)

第1条(目的)
このルールは、土地家屋調査士法第24条の2の秘密保持の義務と、土地家屋調査士職務倫理規程第12条・第22条・第45条第2項・第48条を守りながら、生成AIを事務所の文書作業に使うための決まりを定める。

第2条(使ってよいアカウント)
1 業務で使う生成AIは、事務所が契約し、入力を学習に使わない設定を確かめたアカウントに限る。
2 アカウントは1人1つとし、IDとパスワードをほかの人と共有しない。
3 私物のスマートフォンや個人で登録したアカウントに、業務の情報を入力しない。

第3条(入れない情報)
次の情報は、生成AIに入力しない。
・依頼者、隣接地所有者、相談者など、人の氏名・住所・電話番号
・地番、家屋番号(必要なときは「対象地」などの札に置き換え、分筆後の土地は図面の符号①・②で書く)
・登記識別情報、本人確認書類や印鑑証明書の画像
・相続関係や紛争の相手方とのやりとりなど、依頼者の事情が分かる記述(文書に要らないものは削る)
・写真に写った表札、車のナンバー、人の顔

第4条(使ってよい作業)
・札に置き換えた材料による、立会依頼文、説明文、経過報告、上申書の文案、調査報告書の調査の経緯の下書き
・地積測量図・座標求積表・現場メモの書き起こしと、申請書との食い違いの一次チェック
・相談前の事実と時系列の整理

第5条(させないこと)
・筆界の位置、越境の有無、申請の要否など、調査士の資格に基づく判断をAIに求め、その答えを依頼者や隣接地所有者に伝えること
・AIの答えをもとに、必要書類や手続の中身を決めること

第6条(確認する人)
1 外に出す文書は、所長[氏名]が内容を確認してから送る。
2 座標・面積・地積・日付・条文の番号は、取得した地積測量図の写し・計算ソフト・e-Govの条文で照合する。
3 添付書類の要否は、AIに尋ねず、管轄の法務局の扱いを調査士が確かめて決める。

第7条(記録)
1 札と実名の対応表は、事務所のパソコンの[保存場所]だけに置く。
2 アカウントを渡した人と渡した日を台帳に残し、退職のときは同じ日に止める。
3 所長は月に1度、利用の記録を確かめる。

第8条(見直し)
このルールは年に1度、使っている生成AIの規約とプランの変更に合わせて見直す。

ひな形のうち、第3条の入れない情報の欄と、第6条の確認する人の欄は、事務所ごとに中身が変わるところです。決めたルールは年に1度、使っているAIの規約やプランの変更と合わせて見直しましょう。一般の会社向けに作られた社内ルールの作り方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方にもまとめてあります。

事務所で安全に使うには|学習させない設定・ログ・補助者への配布

事務所で安全に使う形は、入力を学習に使わない法人向けの契約を選び、1人1つのアカウントを配り、誰が・いつ・どのAIを使ったかを所長が見られるようにする、の3つがそろった状態になります。入力を学習に使わないことは、主要3社の法人向けプランに共通する案内です。OpenAIはChatGPTの法人向けプランで、AnthropicはClaudeの法人向け製品で、既定では入力を学習に使わないとしています。GoogleもWorkspaceの対象エディションでは、顧客のデータを許可なくドメインの外で生成AIの学習に使わないと説明しているので、契約前に事務所のエディションが対象かを確かめてください。

出典:OpenAI「ChatGPT の料金」ビジネス・エンタープライズ向け(デフォルトではビジネスデータを学習に使用しないと記載)https://chatgpt.com/ja-JP/pricing/?type=team/Anthropic Privacy Center https://privacy.claude.com/en/articles/7996868-is-my-data-used-for-model-training/Google Workspace「生成AIに関するプライバシーハブ」https://knowledge.workspace.google.com/admin/generative-ai/generative-ai-in-google-workspace-privacy-hub?hl=ja

補助者が辞める日の手順

補助者が辞める日には、事務所の側でアカウントを止め、その人が作った指示文や下書きのうち使い続けるものを引き継ぐところまでを、決まった手順にしておきましょう。

  1. 最終出勤日に、事務所の管理画面で本人のアカウントを止める
  2. 本人が作った指示文や下書きのうち、事務所で使い続けるものを所長か後任のアカウントへ移す
  3. 本人が私物の端末でAIのアプリを使っていた場合は、事務所の情報を入れた会話が残っていないかを本人と一緒に確かめ、残っていれば消してもらう
  4. アカウントの台帳に、止めた日と引き継いだ先を書き残す

辞める日に止められる形が整っていると、私物のアカウントを使う理由も減っていきます。利用の記録を所長が見られる環境であれば、補助者のAIの使い方を月に1度ふり返ることもできます。

もう1つの備えが、2つのAIに同じ書き起こしや要約をさせ、食い違った箇所を人が確かめる使い方です。2つのAIで答えが割れた箇所こそ、調査士が図面の写しと資料で確かめるべき箇所になります。関太郎氏がClaudeとGeminiに議論させたように、複数のAIを使える環境があれば、1つのAIの答えだけを信じずに済むようになるでしょう。複数のAIを1つの契約で使う形については、マルチAIの解説も参考にしてみてください。

事務所のAIを、1つの契約と1つの管理画面で

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の誰が・いつ・どのAIを使ったかが一覧でき、使わせるAIも選べます。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。よく使う指示文は、カスタムプラス(よく使う指示と手順をBOTにして、事務所の中だけで共有できる機能)で共有できます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

UPGEAR AIの詳細を見る

よくある質問

無料のChatGPTに、依頼者の名前や地番を入れてもよいですか?
入れないことをおすすめします。個人で登録した無料のアカウントでは、入力を学習に使うかどうかの設定が本人任せになり、事務所からは何が入ったかも見えません。調査士法第24条の2は業務上知ることのできた秘密を漏らすことを禁じており、個人情報保護委員会も、生成AIに個人データを入れる前に機械学習に利用されないこと等を十分に確認するよう注意を呼びかけています。名前や地番は、依頼者A、対象地(地番は伏せる)のような仮の札に置き換えてから使ってください。
地積測量図をAIに読ませても大丈夫ですか?
書き起こしの下準備としてなら使えます。ただし手書きの三斜求積図や古い図面では、数字を読み違えたり、読めない桁をそれらしい数字で埋めたりすることがあります。読めない数字は【判読不可】と書かせ、座標と面積は取得した地積測量図の写しと事務所の計算ソフトで1点ずつ照合してください。地番や所有者の欄は、渡す前に塗りつぶしておきましょう。
補助者にAIを使わせるとき、調査士は何に気をつければよいですか?
職務倫理規程は、第12条第2項で補助者等に秘密を保持させることを、第22条で補助者等の指導監督と、調査士の資格に基づく判断を補助者等に行わせないことを定めています。補助者には事務所のアカウントを1人1つ渡し、使ってよい作業と入れない情報を紙1枚にまとめて伝え、外に出す文書は所長が確認してから送る形にしてください。
日調連は生成AIの利用について指針を出していますか?
確認日(2026年10月16日)時点で、日本土地家屋調査士会連合会が生成AIの利用に絞った指針を出しているのは確認できませんでした。令和7年8月22日に施行された土地家屋調査士職務倫理規程の本文にも、AIの語はありません。そのため、秘密保持(第12条)、補助者等の指導監督(第22条)、記録や資料の管理(第45条第2項・第48条)の条文をAIの場面に当てはめて、事務所のルールを決めることになります。
AIで作った登記申請書の案を、そのまま提出してもよいですか?
そのまま提出するのは避けてください。AIに任せられるのは、上申書の文案や調査報告書の調査の経緯の下書きと、申請書と図面の食い違いを拾う一次チェックまでです。どの登記を申請し、何を添付するかは調査士が決め、提出前には申請ソフトの画面と出力した図面を調査士が突き合わせてください。添付書類をAIに尋ねると、正しい答えと誤りが混ざって返ってくることがあります。

まとめ

土地家屋調査士のAI活用は、立会依頼文・説明文・経過報告・上申書の文案・調査報告書の調査の経緯の下書きと、図面やメモの書き起こしをAIに任せ、現地と筆界の判断は調査士が持つ形が土台になります。依頼者や隣接地所有者の名前、地番、登記識別情報は、入れる前に仮の札へ置き換え、図面の数字は取得した地積測量図の写しと計算ソフトで照合してください。調査士法第24条の2は調査士自身の秘密保持を、職務倫理規程第12条第2項と第22条は補助者等に秘密を守らせることと判断を任せないことを、調査士の務めとして定めています。

まずは事務所のアカウントを1人1つ配り、ひな形をもとにルールを紙1枚にまとめるところから始めてみましょう。ほかの業務でのAIの使い方は、AI活用コラム一覧からご覧いただけます。