
行政書士のAI活用とは、許認可申請や契約書の下書き、法令の下調べ、依頼者への連絡文といった事務所の仕事に、ChatGPTなどの生成AIを取り入れることです。書類のたたき台づくりや論点の整理では手間を減らせる一方、依頼者から預かった情報をそのまま入力すると、行政書士法の秘密を守る義務に触れるおそれが出てきます。始める前に、入力してよい情報と伏せる情報の線を引き、事務所として使う環境を1つに決めておきましょう。
行政書士がAIで効率化できる業務
AIが力を発揮するのは、書類の中身を決める前の下ごしらえの工程になります。要件を並べる、文章の骨組みを作る、長い資料を要約する、といった作業は生成AIの得意なところです。反対に、どの許可が必要か、要件を満たしているかといった判断は、行政書士が一次情報で確かめて決める必要があります。以下では、依頼者の名前や住所を入れなくても進められる使い方を中心に挙げていきます。
許認可申請:要件の整理とチェックリスト作り
建設業許可や産業廃棄物処理業の許可のように要件が多い申請では、手引きの文章からチェックリストを起こす作業にAIを使うことが出来ます。申請先の行政庁が公開している手引きの該当ページを貼り付け、「この手引きから、申請者が用意する書類と確認事項を一覧にしてください」と頼むと、抜けの少ない一覧のたたき台が返ってきます。手引きは行政庁ごとに書き方が違うため、元にするのは必ず申請先の最新版にしてください。出来上がった一覧を手引きと突き合わせ、落ちている項目を足してから事務所の標準様式にすれば、次の案件からも使い回せるでしょう。
入管業務:理由書や質問票のたたき台
在留資格の申請では、理由書の構成や、依頼者に事前に聞いておく項目の洗い出しにAIが役立ちます。たとえば「就労系の在留資格の変更で、勤務先の業務内容と本人の学歴の関連を説明する理由書の見出し案を5つ」と頼めば、文章の骨組みを短い時間で並べてくれます。ただし、本人の氏名・国籍・在留カードの番号・経歴をそのまま入れるのは避けなければなりません。何を伏せるかは後の節で具体的に整理しますので、構成づくりは架空の人物で試してみてください。
相続・遺言:書類の雛形と案内文
相続の手続きでは、遺産分割協議書の条項の並べ方や、相続人への案内文の下書きにAIを使う事務所もあります。家族関係や財産の内容は依頼者ごとに違うため、AIには雛形の構成だけを作らせ、実際の名前・続柄・財産の明細は事務所の手元で入れる形が安全です。戸籍を読み解く作業では、読み違いがそのまま協議書の誤りにつながってしまいます。相続関係の確定は、AIに任せず行政書士が原本で確かめることになります。
契約書・規程:たたき台とリスク条項の洗い出し
契約書や社内規程では、ひな形の作成と、既存の文案からリスクになりそうな条項を拾い出す使い方が中心です。依頼者の社名や取引金額を伏せたうえで条文を貼り付け、「発注者側から見て不利になりうる条項と、その理由を挙げてください」と頼むと、見直す箇所の候補が並びます。AIの指摘には、法律の根拠がはっきりしないものや、取引の実情に合わないものも混ざるでしょう。候補のどれを採るかは、依頼者の事情を知る行政書士が決めることです。契約書をAIで点検するときの考え方はリーガルチェックにAIを使うときの注意点でも整理しています。
補助金申請書類:事業計画の骨子づくり
補助金の申請書類では、公募要領の要約と、事業計画書の見出し立てにAIを使うことが出来ます。公募要領は分量が多く、審査の観点や対象外の経費があちこちに書かれているため、要約と一覧化だけでも読み落としを防ぎやすくなります。計画書の中身になる売上の見込みや設備の見積もりは、依頼者から受け取った数字を人が入れてください。AIが書いた数字や効果の見込みを、そのまま申請書に載せることはおすすめしません。AI関連の補助金の制度そのものはデジタル化・AI導入補助金の解説をご覧ください。
行政書士の独占業務とAIの線引き(非行政書士行為と第19条)
AIがどれだけ下書きを作っても、書類を作成する業務の責任を負うのは行政書士です。行政書士法第1条の3は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを、行政書士の業務として定めています。そのうえで第19条第1項は、行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業としてこの業務を行うことができないとする規定になります。
この「いかなる名目によるかを問わず」という文言は、2026年1月1日に施行された改正で加わりました。日本行政書士会連合会の会長年頭談話(2026年1月1日)も、業務の制限規定にこの文言が加わったことを改正点の1つに挙げています。条文の文言からは、コンサル料やサポート料といった別の名目で報酬を受け取っていても、書類の作成を業として行えば制限の対象になりうる、と読めるでしょう。
AIを使う事務所で気をつけたいのは、AIの出力を確かめずに依頼者へ渡してしまう流れです。職員がAIで作った下書きであっても、依頼を受けて書類を作成するのは行政書士であり、内容を確かめる工程を省くことは出来ません。AIの出力はあくまで下書きで、行政書士が確かめて初めて依頼者に渡せる書類になります。依頼者がAIで自作した書類について添削を頼まれたときも、どこからが書類の作成に当たるかは、所属の行政書士会の考え方を確かめながら判断してください。
依頼者の秘密を守る義務(行政書士法第12条・第19条の3・第22条)
生成AIに依頼者の情報を入れる前に、まず押さえておきたいのが行政書士法第12条の秘密を守る義務です。条文は次のとおりとなります。
行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。
依頼者から聞いた家族の事情、会社の取引先、在留の経緯などは、この業務上取り扱った事項について知り得た秘密に当たりうるものです。一般向けのAIサービスに入力した内容が、提供元のサービス改善に使われる設定のままであれば、事務所の外に秘密を渡した状態と見られるおそれもあります。
同じ義務は、行政書士本人だけでなく事務所の職員にもかかります。第19条の3は、行政書士又は行政書士法人の使用人その他の従業者について、正当な理由がなく業務上知り得た秘密を漏らしてはならないと定め、辞めた後も同様としています。補助者がAIで下書きを作る事務所では、この条文を職員と一緒に読んでおくことをおすすめします。
違反した場合の罰則は第22条に置かれています。第12条又は第19条の3に違反した者は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処するとされ、同条第2項で、告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪とされているのが特徴です。親告罪であっても、依頼者の信頼を失えば事務所が受ける損失は罰則より大きくなってしまいます。
※行政書士法の条文は、2026年9月28日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行の条文を確認したものです。
2026年の改正で入ったデジタル社会への対応の努力義務
2026年1月1日に施行された改正行政書士法では、第1条の2第2項に、デジタル社会への対応を求める努力義務が加わりました。条文は、行政書士は業務を行うに当たって、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び業務の改善進歩を図るよう努めなければならない、という内容です。日本行政書士会連合会の会長年頭談話は、この規定について、士業法で初めてデジタル社会への対応の努力義務が規定されたと述べています。
努力義務ですので、AIを使わないことがただちに法律違反になるわけではありません。一方で、情報通信技術を業務の改善に活かすことが法律に書き込まれた以上、AIを含むデジタルの道具とどう付き合うかは、事務所として考えを持っておきたいテーマになります。活用に努める義務と秘密を守る義務は、同じ法律の中で両立させるものです。日本行政書士会連合会や所属の行政書士会から、生成AIの扱いについて通知や研修の案内が出ていないかも、あわせて確認してみてください。
依頼者情報が事務所の外に出る3つの経路
生成AIを通じて依頼者の情報が外に出る経路は、大きく3つに分けて考えることが出来ます。
経路1:個人アカウントの設定のまま入力する
職員が自分で登録した無料版や個人向けの有料版に、依頼者の情報を入れる経路です。OpenAIのヘルプは、ChatGPTなどの個人向けサービスでは、利用者のコンテンツがモデルのトレーニングに使用されることがあると説明しています。設定で学習をオフにできますが、オフにしたかどうかは職員一人ひとりの画面の中にあり、所長からは見えにくくなってしまいます。
経路2:会話の履歴が個人の手元に残る
学習に使われない設定にしていても、会話の履歴は職員のアカウントに残ります。職員が退職したあとも、依頼者あての文面を下書きした会話が個人アカウントに残り続ける、という状態になりかねません。第19条の3が辞めた後も秘密を守る義務を定めているとはいえ、事務所が履歴を消したり確かめたりできない状態は避けたいところです。
経路3:誰が何を入れたかを事務所が把握できない
3つ目は、職員がどのAIに何を入力したかを、事務所としてあとから確かめられない経路になります。依頼者から情報の扱いを尋ねられたとき、使ったサービスと設定を説明できなければ、信頼を損ねる結果となってしまいます。個人アカウントの寄せ集めでは、情報がどこを通ったかを事務所として説明できません。3つの経路に共通するのは、使う環境が職員ごとにばらばらになっている点でしょう。
個人アカウントの乱立を止めるには、事務所として使うAIの環境を1つ用意することが近道になります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
入力してよい情報と伏せる情報の線引き
入力の線引きは、個人情報保護法の分類と行政書士法の秘密という2つの物差しで考えると整理しやすくなります。個人情報保護委員会は2023年6月2日(令和5年6月2日)に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表し、事業者に向けて次のように呼びかけました。
個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。
同じ注意喚起は、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答結果の出力以外の目的で扱われる場合には、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとして、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。命令ではなく注意喚起ですが、事務所の運用を決めるときの拠り所になるでしょう。
要配慮個人情報に当たるもの
個人情報保護法第2条第3項は、要配慮個人情報を、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報、と定めています。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、心身の機能の障害があることや、健康診断等の結果もこれに含まれるとの説明があります。犯罪の経歴は、前科(有罪の判決を受けこれが確定した事実)を指すとされます。
在留資格の業務で気になる国籍については、同じガイドラインが、単純な国籍や外国人という情報は法的地位であり、それだけでは人種には含まないと説明しています。一方で、在留カードの番号は、それ単体で特定の個人を識別できる個人識別符号の1つとして挙げられているものです。国籍は要配慮個人情報に当たらなくても、在留カードの番号は必ず伏せる情報になります。
業務別に見た、入れてよいもの・伏せるもの
実務では、依頼者を特定できる情報と要配慮個人情報を伏せ、制度や手続きの一般論だけをAIに渡すのが基本の形です。業務ごとの目安は、次のとおりとなります。
- 入管業務:在留資格の種類、手続きの流れ、理由書の構成は入力してかまいません。氏名・生年月日・国籍と組み合わさった経歴・在留カードの番号・旅券の番号は伏せ、前科や病歴に触れる事情は要約した形でも入れないようにします。
- 許認可業務:業種ごとの要件や必要書類の一般論は入力できます。申請者の会社名・役員の氏名・財務の数字・欠格事由に関わる事情は伏せ、A社や役員Bのように置き換えます。
- 相続・遺言:手続きの順序や書類の構成は入力できます。家族の氏名・続柄・財産の明細・相続人の病気や障害に関わる事情は入れず、雛形を作る段階だけでAIを使います。
- 契約書・規程:条項の書き方や一般的なリスクの観点は入力できます。取引先の社名・金額・独自の技術や営業上の条件は、置き換えてから貼り付けます。
- 補助金申請:公募要領や制度の説明は入力できます。依頼者の売上・原価・取引先の名前など、まだ公表していない経営の数字は伏せたまま構成だけを作ります。
名前を伏せても、ほかの情報と組み合わせて本人が分かる書き方になっていれば、依頼者の情報であることに変わりはないと考えておきましょう。珍しい国籍と勤務先と入国の時期が並べば、名前がなくても本人に行き着いてしまいます。迷ったときは入れない、と事務所のルールに書いておくのが現実的です。入力を避けたい情報の全体像はAIに入れてはいけない情報でも整理しています。
※個人情報保護法の条文は2026年9月28日時点でe-Gov法令検索の現行条文を、国籍・障害・健康診断等の結果・前科・在留カードの番号の扱いは同日時点で個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)を確認したものです。
ChatGPTの学習オフ設定と、個人アカウントでの限界
ChatGPTの無料版や個人向けの有料版を使う場合は、まず学習に使われない設定に切り替えることが最低限の準備になります。OpenAIのヘルプ(データコントロールに関するFAQ)に書かれているウェブ版の手順は、次の4つです。
- プロフィールアイコンをクリックする
- 設定を選択する
- データコントロールに移動する
- 「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにする
スマートフォンのアプリでは、サイドバーのメニューからプロフィールアイコン、データコントロールと進み、同じ項目をオフにします。ヘルプは、モデルのトレーニングをオフにすると、使っている端末に関係なく設定がアカウント全体に適用されると説明しています。ヘルプの中には「すべてのユーザー向けにモデルを改善する」「データ管理」という別の表記も混ざっているため、画面の文言が少し違っても慌てなくて大丈夫でしょう。
設定だけでは埋まらない穴
設定を切り替えても、残る点が3つあります。1つ目は対象の範囲で、ヘルプはオプトアウト後は新しい会話が学習に使われないと説明しており、切り替える前の会話がどう扱われるかまでは書かれていません。2つ目はフィードバックで、「良い回答」「良くない回答」を選ぶと、その会話全体がトレーニングに使われることがあるとされています。3つ目は事務所にとって重い点で、設定は職員一人ひとりのアカウントで行うため、全員が本当に切り替えたかを揃えて確かめるのに手間がかかることです。
一時チャットを使えば履歴に残らず学習にも使われませんが、ヘルプは安全上の理由からコピーを最長30日間保管する場合があるとしています。法人向けのChatGPT Businessについては、既定で入力と出力をモデルの学習に使わないとOpenAIが説明しており、ワークスペースの管理者がメンバーの追加・削除や、会話データの保持期間の設定を行えます。秘密を守る義務を果たすには、設定と履歴を職員個人ではなく事務所が預かる形が必要です。学習させない設定の詳細はChatGPTに学習させない方法で詳しく扱っています。
※設定の手順と既定の扱いは、2026年9月17日〜18日時点でOpenAIの日本語ヘルプ(データコントロールに関するFAQ、モデルのパフォーマンスを向上させるためのデータの使用方法、一時チャットFAQ、ChatGPT Business 一般FAQ)とエンタープライズプライバシーのページに書かれている内容です。画面の表記は変わることがあります。
ハルシネーション対策とe-Govなど一次情報での確認
生成AIは、もっともらしい誤りを書くことがあり、これはハルシネーションと呼ばれています。法令や手引きは改正や改訂が続くため、AIが古い条文や別の行政庁の基準をもとに答えてしまうことも考えられます。行政書士法そのものも2026年1月1日に改正が施行されており、AIによっては改正前の条文で答える場合もあるでしょう。
対策の基本は、AIの答えを出発点として扱い、根拠は必ず一次情報で確かめることです。法令はe-Gov法令検索で現行の条文を開き、許認可の要件は申請先の行政庁が出している手引きの最新版で確かめましょう。AIが示した条文番号や要件は、e-Govと手引きで確かめてから書類に使います。
確認の手間を減らすために、AIへの頼み方を工夫することも出来ます。「根拠にした法令名と条番号を必ず書いてください」「分からない場合は分からないと答えてください」と指示しておけば、確かめる箇所が見つけやすくなります。複数のAIに同じ質問をして、答えが食い違ったところを重点的に調べる方法も役に立ちます。
事務所で使うAIを1つに決める手順
依頼者情報を扱う前提に立つと、事務所としての答えは、使うAIの環境を1つに決め、職員全員がそこで作業する形になります。個人アカウントの乱立をなくせば、学習の設定・履歴・利用状況を事務所がまとめて把握できます。進め方は、次の5つの手順が目安になるでしょう。
- 今使われているAIを洗い出す所長を含む全員に、業務で使ったことのあるAIサービスと、無料版か有料版か、学習の設定をどうしているかを聞き取ります。責めずに聞くことで、実態が出てきやすくなります。
- 事務所の環境を1つ選ぶ選ぶ条件は、入力が学習に使われないことを契約や公式の説明で確かめられること、会話の履歴と利用状況を事務所が確認できること、職員の追加と停止を事務所が行えることの3点です。
- 入力のルールを1枚にまとめる前の節の線引きをもとに、入れてよい情報・伏せる情報・置き換えの書き方(A社、依頼者Bなど)を1枚の紙にして、全員の机に置きます。
- 個人アカウントでの業務利用をやめる事務所の環境が使えるようになった日から、個人アカウントに依頼者の情報を入れないことを決め、過去の会話の扱いも職員と話し合います。
- 半年に1回見直すAIサービスの規約や設定の画面は変わることがあるため、選んだ環境の設定と入力ルールを定期的に見直します。
環境を1つにすると、依頼者からAIの利用について聞かれたときにも、使っているサービスと設定を1つの答えで説明できます。事務所の方針を依頼者向けの説明文にしておけば、契約のときの安心材料にもなるでしょう。ルールの文書の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方が参考になります。
スモールスタートで始める導入ステップ
導入は、依頼者の情報をまったく使わない業務から始め、効果と手間を確かめながら広げていくのが無理のない順番です。いきなり申請書の作成に使うより、失敗しても依頼者に影響のない作業で職員が慣れる期間を取るほうが、定着しやすいでしょう。
1か月目:依頼者情報を使わない作業で試す
最初の1か月は、業務案内の文案、手引きや公募要領の要約、問い合わせへの返信の型づくりなど、依頼者の情報を含まない作業に限って使ってみてください。うまくいった頼み方は、事務所の共有フォルダにまとめておきます。
2〜3か月目:伏せた情報で下書きに使う
慣れてきたら、名前や番号を置き換えた状態で、チェックリストや契約書のたたき台づくりに広げます。この段階で、AIの下書きを一次情報で確かめる手順と、確かめた記録の残し方を決めておくことが大切です。
4か月目以降:業務の流れに組み込む
使いどころが見えてきたら、案件の受付から書類の完成までのどの工程でAIを使うかを、業務の手順書に書き込みます。範囲を広げるのは、入力ルールと確認の手順が職員全員に定着してからにしましょう。効果を測るときは、時間の短縮だけでなく、差し戻しや手戻りが減ったかどうかも見ると、事務所に合った使い方かを判断しやすくなります。
事務所の人数別に見た費用の目安
生成AIの法人向けプランは、1人あたりの月額で料金が決まるものが多く、事務所の人数がそのまま出費に響きます。各社の公式ページに表示されている主なプランは次のとおりです。
- ChatGPT Business(標準シート):年額課金の場合は1人あたり月3,050円、月額課金の場合は月3,850円(日本からの表示)。企業向けプランは2名から利用できます。
- Claude Team(標準シート):1人あたり月20米ドル(年払い)、月払いの場合は25米ドル。
- Google Workspace:Geminiが含まれるプランで、1ユーザーあたり月800円・1,600円・2,500円(年間契約・税別)。ドキュメントやドライブの中でGeminiを使うには1,600円のプラン以上が必要です。
※料金は2026年9月19日時点で各社の公式ページに表示されていた金額です。ChatGPTの円表示には税の記載がなく、Claudeの料金は米国向けの税抜表示です。プランの内容と価格は変わることがあるため、検討の際は各社の公式ページでご確認ください。
事務所の人数に直すと、ChatGPT Businessを年額課金で使う場合、所長と職員あわせて3人なら月9,150円、年間では109,800円になります。5人の事務所では月15,250円(年間183,000円)、10人では月30,500円(年間366,000円)となり、月額課金を選ぶと10人で月38,500円まで上がってしまいます。人数が増えるほど、1人あたりの料金の差が事務所全体の出費に効いてきます。
1人で開業している事務所であれば、個人向けの有料版に学習オフの設定をして使う形から始めることも出来ます。その場合でも、履歴の整理と入力のルールは自分で決めておく必要があるでしょう。費用の考え方はAI導入の費用や法人向け生成AI 38サービスの料金比較も参考にしてみてください。
行政書士の仕事はAIでなくなるのか
行政書士の仕事はAIに奪われる、という話は資格の学校のコラムや知恵袋でも取り上げられています。書類の下書きにかかる時間はたしかに減っていきますが、法律が行政書士の業務としている代理や相談まで、そのままAIに移るわけではありません。変わりやすいところと残りやすいところを、元になった調査と条文から分けて考えてみます。
よく引用される「代わられる確率」の元をたどる
AIで仕事がなくなるという話の元として、よく挙がるのが野村総合研究所の2015年12月2日の発表です。英オックスフォード大学のオズボーン准教授・フレイ博士との共同研究で、国内601種類の職業について、人工知能やロボット等に代わられる確率を試算したものになります。発表では、10〜20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業で、技術的には代替が可能になるという推計が示されています。
ただ、発表資料に付いている「代替可能性が高い100種の職業」と「低い100種の職業」のどちらの一覧にも、行政書士の名前は載っていません。ネットで見かける「行政書士は◯%」のような数字は、この発表資料からは確かめられないので、事務所の案内やセミナーで使うときは出どころを確かめてからにすると安心でしょう。発表が示した傾向は、データの分析や秩序的・体系的な操作が中心の職業ほど代わられやすく、他者との協調や理解、説得、交渉が求められる職業ほど代わられにくい、というものでした。なお、この試算は技術的な可能性を示したもので、労働需給などの社会環境要因は考慮していないと発表資料に明記されています(野村総合研究所 ニュースリリース)。
AIで速くなる作業と、行政書士に残る仕事
行政書士法を見ると、第1条の3の書類の作成のほかに、第1条の4で、書類を官公署に出す手続の代理、許認可にかかわる聴聞や弁明の機会での代理、契約書などを代理人として作ること、書類の作成について相談に応じることが業務として並んでいます。許認可に関する審査請求などの不服申立ての代理は、日本行政書士会連合会の研修を修了した特定行政書士に限られる仕事です。
このうちAIで速くなるのは、様式が決まった書類の下書きや、要件の洗い出し、添付書類の一覧づくりなどの作業になります。反対に、依頼者の事情を聞いてどの許可が合うかを見立てることや、窓口との調整、聴聞や不服申立てで行政庁と向き合うことは、代理人として責任を負う行政書士の手に残るでしょう。AIが縮めるのは主に書類にかかる時間で、依頼者に代わって行政と向き合う代理の役目は、法律上も行政書士が担う仕事です。
もう1つ知っておきたいのは、第19条第1項のただし書になります。定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続については、相当の経験や能力を持つ者として総務省令で定める人が電磁的記録を作る場合に限って、行政書士でなくても行えると書かれています。電子申請が広がるほど、定型の手続を中心にしている事務所は、AIと電子化の両方の影響を受けやすくなると考えられます。
浮いた時間を相談と継続の仕事に回す
第1条の4第4号の相談は、書類の作成についての相談として条文に書かれた行政書士の仕事です。AIで下書きを早く仕上げられる事務所ほど、面談で依頼者の事情を聞き取る時間や、許可を取ったあとの更新・変更の時期を知らせる時間を取りやすくなります。単発の申請で終わらず、入管や建設業許可、相続のように事情が一件ずつ違う相談を続けて受けられるかどうかが、これからの事務所の差になっていくと考えられます。
※行政書士法の条文は、2026年10月16日にe-Gov法令検索(法令API)で取得した現行の条文を確認したものです。
書類作成だけで終わらない、これからの行政書士事務所
AIが書類の下書きを速く作れるようになるほど、事務所の価値は、依頼者の事情を聞き取り、どの手続きが合っているかを判断し、行政庁とやり取りする部分に移っていくと考えられます。下書きにかかっていた時間を、依頼者との面談や、許可を取ったあとの更新・変更の提案に回せれば、単発の書類作成から継続的な相談の関係へ広げることも出来ます。浮いた時間をどの仕事に回すかは、導入の段階で所長が決めておきましょう。
生成AI以外の道具(CRM・ノーコード自動化・AIエージェント)との組み合わせ
顧客管理のCRMや、申請の期限を知らせる仕組み、定型の入力を自動でつなぐノーコードの自動化ツールも、生成AIと組み合わせると事務所の仕事を支える道具になります。複数の作業を自動でこなすAIエージェントも出てきていますが、依頼者の情報を外部のサービスにつなぐ範囲が広がるぶん、どのサービスにどの情報が渡るかの確認はいっそう欠かせません。
道具を増やす前に、まず生成AIの環境と入力ルールを1つに固めることを優先してみてください。土台が決まっていれば、あとから道具を足しても、情報の流れを追いかけやすくなるはずです。
依頼者情報を扱う事務所のAI環境を、1つに
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の誰が・いつ・どのAIを・どう使ったかを一覧でき、CSVでの書き出しにも対応します。依頼者とのやり取りを下書きした会話履歴も、利用ログやアカウントと一緒に国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理されます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
行政書士が生成AIを業務に使っても問題ありませんか?
依頼者の名前を伏せれば、ChatGPTに入力しても大丈夫ですか?
職員が個人のChatGPTを使っている場合、何から手を付ければよいですか?
AIが作った申請書類をそのまま提出してもよいですか?
1人で開業している事務所でも、法人向けのプランが必要ですか?
行政書士の仕事はAIでなくなりますか?
まとめ
行政書士のAI活用は、許認可申請のチェックリスト、入管業務の理由書の構成、契約書のたたき台、補助金の事業計画の骨子など、書類の下ごしらえで力を発揮します。一方で、行政書士法第12条と第19条の3は、所長にも職員にも依頼者の秘密を守る義務を課しており、違反には第22条の罰則も用意されています。
始めるときは、依頼者の情報を使わない作業から試し、入力してよい情報と伏せる情報の線を業務ごとに引いてください。要配慮個人情報や在留カードの番号は入れず、AIの答えはe-Govと手引きで確かめることが基本になります。そのうえで、個人アカウントの寄せ集めをやめ、学習に使われず履歴を事務所が確認できる環境を1つに決めることが、依頼者に説明できるAI活用の出発点になるでしょう。
