社労士のAIツールの選び方。労務相談の根拠調べは労務特化ツール、案内文や説明資料は汎用の生成AI、電子申請と結論はAIに任せない

社労士事務所のAIツールの選び方とは、労務特化ツールと汎用の生成AIのどちらか1つに決めることではなく、業務ごとに受け持ちを分けて組み合わせることです。労務相談の根拠調べと就業規則の新旧管理は根拠の資料を持つ特化ツールに、案内文や顧問先向けの説明資料の文面づくりは汎用の生成AIに任せ、電子申請の手続きと顧問先への結論はAIに渡さない分け方が無理のない形になります。どちらのツールも職員の私物アカウントではなく事務所の契約で配り、退職時に止める手順まで決めておきましょう。守秘義務と情報の線引きの全体像は社労士のAI活用の全体像をまとめた記事で、業務別の指示文11本は社労士の生成AIの使い方で読むことが出来ます。

労務特化ツールと汎用の生成AIの違い|得意と不得意

2つの違いは、答えの裏付けに使う資料を製品の側で持っているかどうかにあります。労務特化ツールは、労務のひな形や通達、判例などの資料を製品の中に集め、その資料をもとに答えを返す作りになっています。汎用の生成AIは、ChatGPT・Claude・Geminiのように分野を問わず使えるAIで、文章を整える、長い資料を要約する、表にまとめるなど作業の幅が広いのが持ち味です。

労務特化ツールの例|HRbase PROとKiteRa Pro

社労士事務所向けの特化ツールの例として、HRbase PROとKiteRa Proの公式サイトの記載を見てみます。HRbase PROは公式サイトで、ひな形・判例・通達・解説動画など18,000点以上の労務資料を掲載していると案内しています。顧問先ごとに規程を整理し、過去の規程や変更履歴までまとめて管理する機能もあり、登録社数は無制限という記載もあります。

KiteRa Proは製品ページで、AIによる規程レビューで法改正や欠落条文を検知する機能、版管理・編集履歴・新旧対照表の自動記録、就業規則・36協定届の電子申請(e-Gov連携)を挙げています。同じページには「AIが作業を支援し、最後の判断は社労士が担う」という一文があり、下書きと検知はAI、判断は社労士という線引きを製品の設計として示した形になります。どちらも料金の金額は公式ページに出ておらず、HRbase PROは事務所の規模や利用範囲に応じた月額制の複数プラン、KiteRa Proは打ち合わせでの案内とされています。

※各社の記載は2026年10月16日に公式サイトで確認したものです。特化ツールの例として2つを挙げており、特定の製品をすすめる趣旨ではありません。

汎用の生成AI(ChatGPT・Claude・Gemini)

汎用の生成AIは、案内文の言い回しを整える、長い通知を要約する、顧問先向けの資料の構成を考えるといった文章の作業で力を出します。一方で、答えの根拠をどこから持ってきたかが画面で分かりにくいことがあり、労務の調べ物では出典を自分で確かめる手間が残ってしまいます。後で紹介する社会保険労務士法人WISEも、導入前の課題として、汎用AIが知らないサイトから情報を持ってくることがあり「本当に正確なの?」という不安が残っていたと語っています。

特化ツールと汎用AIは、どちらか一方を選ぶ関係でもなくなりつつあります。HRbase PROの公式サイトは、ClaudeやChatGPTが質問内容に応じて同社の労務の専門知識を使う連携を案内しています。根拠は特化ツール、文章は汎用AIという組み合わせを、製品の側も前提にし始めたと読むことが出来ます。

法改正への追従は根拠データの更新で見る

法改正への追いつき方は、AIの賢さよりも、根拠に使う資料がいつ更新されたかで決まる部分が大きくなります。厚生労働省のモデル就業規則にも、令和7年12月に議員に立候補するための休暇の規程例を追加するなどの改訂が入りました。特化ツールを比べるときは、法改正や通達の改訂が製品の資料に反映されるまでの流れと、どの時点の資料にもとづく答えかが画面で分かるかを、試用期間のうちに確かめてみてください。汎用AIで法改正を調べる場合は、e-Govの条文や厚生労働省のページを開いて日付を見るところまでを、職員の手順に入れておくのが安全でしょう。

業務別の割り当て|特化ツール向き・汎用AI向き・AIに任せない

割り当ての決め手は、その業務で欲しいものが根拠なのか、文面なのか、それとも判断なのかという点になります。根拠が欲しい業務は特化ツール、文面が欲しい業務は汎用AI、判断と提出はAIに任せないという線で、社労士の業務名ごとに見ていきます。

労務相談の根拠調べ|特化ツール向き

顧問先からの相談に答える前の下調べは、根拠の資料を示せる特化ツールに向いています。汎用AIでも答えらしい文は出てきますが、条文や通達の出どころを一つずつ確かめる手間が残り、急ぎの相談ほどその確認が抜けやすくなってしまいます。相談文は会社名や氏名、日付を外した形で入れ、ツールが示した資料名や条番号は原文を開いて照らし合わせましょう。

就業規則の改定と新旧対照|特化ツール向き(言い回しは汎用AIでも)

就業規則の改定は、顧問先ごとの現行規程と過去の版をそろえて比べる業務なので、規程の版管理や新旧対照表の作成を受け持つ特化ツールに分があります。社長の手書きのメモを条文の形に直す、条文の言い回しを整えるといった部分は、汎用AIでも十分にこなせるでしょう。労働基準法第89条の各号の事項がそろっているか、第90条の意見聴取を済ませたかは、どちらのツールを使っても社労士が見る部分になります。

36協定・就業規則の電子申請(e-Gov)は手続きソフト側の役割

36協定届や就業規則の電子申請は、普段使っている手続きソフトやe-Govでの申請をそのまま続け、AIには申請前の確認表と顧問先への依頼文までを任せる分け方が現実的です。社会保険労務士法第2条第1項は、申請書等の作成(一号)と提出の手続の代行(一の二)を社労士の業務として定めているので、提出する内容は社労士が確かめてから送る流れを崩さないようにしてください。規程管理ツールの中にもe-Gov連携を備えたものがあり、KiteRa Proは就業規則・36協定届の電子申請を機能の一つに挙げています。ソフトとAIの受け持ちは、次のように分けると迷いにくいでしょう。

  • 手続きソフトに任せること:申請書の作成と電子申請、従業員データの管理、算定や月変の対象者の抽出
  • AIに任せること:申請前の確認表、顧問先への書類の依頼文、変更内容を伝える説明文の下書き

算定基礎届・年度更新の案内文|汎用AI向き

算定基礎届や労働保険の年度更新の時期に顧問先へ送る、書類の依頼文や提出物の不足を知らせる文は、汎用AIの得意な仕事です。算定基礎届や月額変更届の対象者を抜き出す作業は手続きソフトに任せ、標準報酬月額が変わる従業員について顧問先へ送る説明文の下書きをAIに頼む、という分け方が一例になります。提出期限や対象の月は年度ごとの通知で確かめた値を人が入れ、AIには文の組み立てと言い回しだけを任せるのが安全でしょう。案内文の指示文は社労士の生成AIの使い方の手続き業務の節に載せてあり、そのまま使うことが出来ます。

助成金のヒアリング|汎用AI向き(要件の判断は任せない)

助成金のヒアリング項目や必要書類の確認表は、支給要領やQ&Aの本文を材料として汎用AIに渡すと下書きを作れます。例えば、支給要領のPDFを渡して要件をページ番号つきのチェック表にさせ、表の数字は支給要領の原文で照合する使い方があります。厚生労働省のキャリアアップ助成金のページでも、令和8年度版のパンフレットに続いて令和8年7月にQ&Aが改訂されており、AIが覚えている内容が最新とは限りません。同じページには「不正受給について」の項目があり、申請書類の作成に関わった者の不正も事業主の不正とみなすと書かれているので、対象になるかどうかの判断と申請内容の確認はAIに任せないでください。金額の照合も、支給要領の原文で社労士が確かめる部分として残しておきましょう。

顧問先への説明資料|汎用AI向き

法改正を顧問先に伝える説明資料や社内向けの研修資料は、構成案と文面のたたき台を汎用AIで作ると時間を縮めやすくなります。中身の正しさは、特化ツールで調べた根拠や厚生労働省の資料と突き合わせてから仕上げましょう。

AIの出力は社労士が確認して最終判断する

労務相談の結論、顧問先への回答、申請書に書く内容は、どのツールを使ってもAIに決めさせない部分です。社会保険労務士法人はなみずきの生成AI利用ポリシーも、法令の解釈や労務相談への回答といった専門的な判断は、必ず同法人の社会保険労務士がするものと定めています。AIに任せてよいのは下書きまでで、結論と提出の内容は社労士が決めるという線を、事務所の全員で共有しておきましょう。

  • 特化ツール向き労務相談の根拠調べ、就業規則の改定と新旧対照、顧問先ごとの規程の管理
  • 汎用AI向き算定基礎届・年度更新の案内文、助成金のヒアリング項目の下書き、顧問先への説明資料、条文の言い回しの整え
  • AIに任せない36協定届・就業規則の電子申請の提出、助成金の要件の判断、労務相談の結論と顧問先への回答

実名の事例に見る使い分け|HRbase PROの導入事例・TACNEWS・はなみずきのポリシー

ツール提供元のサイト、資格予備校の情報誌、事務所自身のポリシーと出どころの違う事例を並べると、根拠を調べるAIと文章を整えるAIを役割で分ける形が目立ちます。

社会保険労務士法人WISE|8〜10種類を用途で使い分け、入口は一本化

社会保険労務士法人WISEの中尾健太郎氏は、HRbase PROの公式サイトに掲載されたインタビューで、業務では8〜10種類のAIツールを用途ごとに使い分けていると話しています。何でもAIに任せるのではなく得意な部分だけを任せ、ずれた回答が来たらすぐ別のAIに切り替えるのがコツだとし、HRbase PROには「労働・社会保険の調べ物はここ」という役割を決めて使っているそうです。職員への広げ方では、代表を含む全6名が使っており、教えるときに「入口を一本化する」ことを意識したと語られています。業務時間が体感で半分ほど減ったという発言もありますが、事務所の談話で、第三者が測った値ではありません。

社会保険労務士法人石川小林|引用元への不安から根拠を示すツールへ

社会保険労務士法人石川小林は、インタビューの中で「従業員4名と私を含めた5名」と紹介されている事務所です。HRbase PROの公式サイトの導入事例(ページ内に2024年11月の記載)では、ChatGPTの回答は文章が整っていても深さや正確さに欠けることが多く、どこから引用された情報なのか不安に感じることもあったと振り返っています。初期版を使っていた頃は求める回答が得られない場面もあり、「これならChatGPTの方が良いのでは」と思ったという率直な声も載っていました。見出しの「2時間かかる作業が15分に」という効果も事務所側の談話で、本文では長時間かかっていた調査が15分ほどで済むこともあるという表現にとどまります。

社会保険労務士法人Next Partners|根拠のURLを示すAIと要約の使い分け(TACNEWS)

ツール提供元以外の出どころでは、資格予備校TACの情報誌のインタビュー(TACNEWS 2024年4月)に、東京都立川市の社会保険労務士法人Next Partnersの代表社員、鈴木健市氏の使い方が載っています。労働相談では、個人情報を外した相談文から回答の下書きをつくり、根拠のURLを示すAIで裏付けを探し、長い回答はチャットツールに合う長さへ要約させているそうです。根拠のURLを示すAIは参考ページ探しに使い、長い回答は要約させてから送るという、作業ごとの使い方になります。

社会保険労務士法人はなみずき|何を入れないかを先に公開

ツールの選び方とは別に、何をAIに入れないかを先に公開している事務所もあります。社会保険労務士法人はなみずきは、2026年7月1日制定の生成AI利用ポリシーで、守秘義務の対象となる情報は原則として生成AIへ入力せず、必要な場合は個人や企業を特定できないよう加工・匿名化すると定めました。比べる前に、こうした入れない情報の決まりを事務所で書き出すと、2つのツールに投げる材料の条件もそろえやすくなるでしょう。

※WISEと石川小林の例は、ツール提供元であるHRbase PROの公式サイトに掲載されたインタビューで、効果の数字は各事務所の談話です。Next PartnersはTACNEWSのインタビュー記事によります。掲載内容は2026年10月16日に確認しました。

費用の目安|職員3人・6人・10人で、汎用AIの法人プランにかかる年額

汎用の生成AIを事務所の契約で配る費用は、席の数と支払い方で決まり、職員10人ならChatGPTかClaudeの片方だけで年36万円から45万円ほどになります。Claude Teamは公式の料金ページで2人から150人までのチーム向けとされ、標準の席は年払いで1席あたり月20ドル、月払いで月25ドルです。ChatGPT Businessも、2026年9月時点の公式ヘルプでは標準シートが年払いで1ユーザーあたり月20ドル、月払いで月25ドルとされ、ワークスペースごとに2シート以上が必要になります。

職員の人数ChatGPTかClaudeの片方だけ(年払いの年額)片方だけ(月払いの月額と年額)ChatGPTとClaudeの両方を年払いで契約した場合
3人108,000円(月9,000円相当)月11,250円(年135,000円)年216,000円
6人216,000円(月18,000円相当)月22,500円(年270,000円)年432,000円
10人360,000円(月30,000円相当)月37,500円(年450,000円)年720,000円

※1ドル=150円で計算した場合の金額で、税は含めていません。Claude Teamは2026年10月16日、ChatGPT Businessは2026年9月時点の公式の表示による標準の席の単価です。OpenAIは「料金は国や通貨の種類によって異なる場合があります」としています。利用枠の大きい上位の席(Premium)は含めていません。

ChatGPT BusinessとClaude Teamの標準の席は年払い・月払いとも同じ単価なので、片方だけの金額はどちらを選んでも変わりません。ChatGPTとClaudeの両方を契約して職員に使い分けさせると金額はそのまま2倍になり、職員10人の年払いでも年72万円となってしまいます。そこへ労務特化ツールの利用料が別に乗り、費用は人数とツールの数の掛け算で重なっていきます。

1人で開業している事務所の場合

Claude Teamは2人から、ChatGPT Businessも2シート以上が条件のため、1人の事務所が法人プランを使うと2席分の料金がかかります。個人向けのプランで済ませる場合の学習の扱いは、後の守秘義務の節の表で確かめることが出来ます。

労務特化ツールは見積りで確かめる項目を決めておく

例に挙げた2つの特化ツールはどちらも金額を公開していないので、比べるには見積りで同じ項目をそろえて聞くことになります。HRbase PROの公式サイトの料金の説明には、初期導入費があること、最低利用期間は1年であること、年間一括払いなら1か月分の月額利用料が無料になることが書かれています。見積りを取るときは、次の項目を聞いてみてください。

  • 初期導入費の有無と金額月額とは別に、初回の請求でまとめてかかるかを確かめます。
  • 最低利用期間と途中解約の扱い1年などの縛りがあると、試した結果が合わなくても費用が残ります。
  • 年払いと月払いの違い年払いの割引の有無と、銀行振込・口座振替などの支払い方法を聞きます。
  • 使えるIDの数と追加の料金職員全員に配れるか、人数が増えたときに料金がどう変わるかを見ます。
  • 無料の試用期間と自動更新の有無HRbase PROは、2週間の無料試用で自動更新はないと案内しています。

見積りの金額が出たら、上の表の汎用AIの費用と足し合わせて、事務所の年間の出費として並べてみましょう。職員が1人増えるたびに、汎用AIの席と特化ツールのIDの両方が増える点も見落とせません。

契約ごとに重なる汎用AIを、1つの契約と1つの入口に

ずれた答えを別のAIで聞き直す使い方も、契約と入口が1つにまとまっていれば事務所の管理下で続けられます。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

職員への配り方と管理|私物のアカウントを使わせない

職員に使わせるAIは事務所の契約で発行したアカウントに限り、私物のスマートフォンや個人のアカウントでの業務利用は認めない形にするのが出発点になります。社会保険労務士法第27条の2は使用人その他の従業者にも秘密を守る義務を課しているので、職員が自分の判断で個人のAIに相談文を貼る状態は、事務所として説明がつきにくくなってしまいます。会社が把握していないAIの利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、禁止するだけでなく、使ってよい環境を事務所が先に渡すほうが見えない利用を減らしやすいでしょう。

入口を一本化する

使うツールが増えるほど、職員はどの質問をどこに入れるかで迷うようになります。WISEが職員に教えるときに意識したという「入口を一本化する」考え方は、事務所の規模を問わず取り入れやすいものです。調べ物は特化ツール、文章は汎用AIというように、業務ごとの入口を1枚の表にして職員に渡してみてください。

退職・異動のときに止める

アカウントを配る手順と止める手順は、職員の入所・退所の書類に組み込むのが確実です。ChatGPTのワークスペースからメンバーを外すと、そのワークスペースへのアクセスはすぐに取り消されるとOpenAIのヘルプは説明しています。Claude Teamでも、Anthropicのヘルプによれば、メンバーを外した時点でアクセスがなくなり、空いた席を別の職員に回すことが出来ます。特化ツールのIDも同じ日に止められるよう、ツールごとの管理者と止め方を一覧にしておきましょう。

管理画面で何が見られるかは契約前に確かめる

管理者が職員の会話の中身をどこまで見られるかは、製品とプランごとに違います。公式の説明が複数の記事に分かれていることもあるため、会話の中身や利用の記録が見えるかどうかは、契約前に各社の公式ヘルプで確かめてください。一方で席の扱いは公式ヘルプに書かれており、ChatGPT BusinessでもClaude Teamでも、メンバーを外しただけでは課金される席の数は自動では減りません。ChatGPT Businessでは、オーナーが「ワークスペース設定」>「メンバー」で「ユーザー」を開き、「シートを管理」からそのシートを削除すると、次回の請求サイクルから課金が止まる仕組みになっています(OpenAIのヘルプ)。退職者を外したら席の数も見直す、という一行を退所の手順に足しておきましょう。

守秘義務と学習の扱い|社労士法第21条と契約ごとの違い

どのツールを選ぶ場合でも、顧問先と従業員を特定できる情報を外して入れることと、入力が学習に使われない契約を選ぶことの2つが前提になります。社会保険労務士法第21条は、開業社会保険労務士と社会保険労務士法人の社員に、正当な理由なく業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用することを禁じています。第27条の2は同じ義務を使用人その他の従業者にも課しており、第32条の2の罰則は一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金で、公訴の提起には告訴が必要です。

条文はe-Gov法令検索の社会保険労務士法で読むことが出来ます。条文が禁じているのは秘密を漏らすことで、外部のサービスを使うこと自体を一律に禁じているわけではありません。とはいえ、学習や保持の条件が分からないサービスに顧問先の情報を入れれば、第三者に渡したと見られるおそれがあります。選ぶときは、普段使っているクラウドの手続きソフトと同じように、入力を学習や他の目的に使わない契約か、事務所が管理できるかで判断し、そのうえで顧問先や従業員を特定できる情報を外して入れる形が無理のない線になります。顧問先の情報をどこまで入れるかは、顧問契約での説明や同意の取り方とあわせて決めておきましょう。

契約の種類ごとの学習の扱い

入力が学習に使われるかどうかは、同じ会社のAIでも契約の種類で変わります。公式の説明で確かめられる範囲を、契約の種類ごとに並べると次のとおりです。

契約の種類学習の扱い(公式の説明)確かめる場所
ChatGPT(無料・個人向けの有料)設定のデータコントロールで学習への利用をオフにすると、新しい会話は学習に使われない。オフでもフィードバックを送ると、その会話全体が使われる場合があるOpenAIヘルプ(Data controls)
ChatGPT Business既定でワークスペースの内容は学習に使われない同上
Claude Team などの法人向け製品既定で入力と出力をモデルの学習に使わないAnthropic Privacy Center
Gemini Notebook(個人のGoogleアカウント)フィードバックを送らない限り学習に使われない。送った場合は、やり取りの全容をGoogleが確認する場合があるGoogleのヘルプ
Gemini Notebook(Google Workspace)アップロード・質問・回答は、人間のレビュアーが確認することも、学習に使われることもない同上
Gemini(Google Workspace)顧客の事前の許可や指示なしに、顧客データをモデルの学習に使わないGoogle Workspace Privacy Hub
労務特化ツール(例:HRbase PRO)AIモデルの学習データとして二次利用されない、ZDR(入力をAI提供事業者側に保存しない扱い)に対応と同社サイトに記載各社の公式サイトと契約書

※2026年10月16日時点で各社の公式ヘルプ・公式サイトに書かれている内容です(ChatGPTの個人向けの設定も2026年10月16日に確認)。Gemini Notebookは旧NotebookLMです。

表の中で、学習の扱いを職員一人ずつの設定に頼る形になるのは、個人向けの契約だけとなります。事務所の契約にそろえると、設定の確認を職員ごとに追いかける手間が減っていきます。

個人情報保護委員会の注意喚起とAI事業者ガイドライン

個人情報保護委員会は、2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入れる場合は、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめるよう求めています。本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入れ、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があるとも指摘しました。提供者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確かめるよう促している点は、ツールの選び方に直接かかわる部分になります。

総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は、事業活動でAIを使う事業者をAI利用者と呼び、取り組む事項の一つに個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策を挙げています。ガイドラインは法的な拘束力のないソフトローとして作られていますが、顧問先から体制を尋ねられたときに、どの項目に沿って決めたかを示す物差しとして使うことが出来ます。

連合会の案内と事務所で決める範囲

全国社会保険労務士会連合会は、会員向けの「社会保険労務士向け生成AI活用ガイドブック」を2024年9月に公式Xで告知しました。2026年10月1日には特設サイト「AI時代にこそ輝く、社労士の魅力」を公開していますが、職業としての社労士を紹介するもので、生成AIの利用指針ではありません。一般に公開された利用指針は、2026年10月16日に確認した時点では連合会のサイトに見当たりませんでした。会員向けのガイドブックは所属する会の案内で内容を確かめ、事務所のルールを書き出しておきましょう。

ツールを選ぶ前の試し方|同じ匿名の相談を2種類のAIで比べる

ツールを選ぶ前に、同じ相談を特化ツールの試用版と汎用AIの両方に投げ、根拠の示し方と答えの違いを見比べると、事務所の業務に合うほうが分かります。試すときは、過去に受けた相談を会社名・氏名・日付・部署名を外した形に書き直し、同じ文を両方に貼るのが条件になります。下の3本の指示文は、差し込み枠【 】を埋めればそのまま貼れる形にしてあります。

手順1|根拠つきの回答を両方に出させる

材料は、匿名にした相談文と、顧問先の業種・規模だけです。例として、就業規則の変更で意見を聴く従業員代表を会社が指名してよいかという、架空の相談を使います。

【指示文1:根拠つきで相談に答える(2種類のAIに同じ文で貼る)】
あなたは社会保険労務士事務所で、労務相談の下調べを補助する担当です。
# 顧問先
【業種と従業員数】(例:製造業・従業員40名)
# 相談(会社名・氏名・日付は外してあります)
【匿名にした相談文】
(例:就業規則を変更するので、意見を聴く従業員代表を、会社のほうで係長の誰かに頼んでよいかと総務の担当者から聞かれました)
# してほしいこと
1. 結論の候補を2行以内で書く
2. 根拠となる法令の条・項・号を挙げ、それぞれの要点を1行で書く
3. 根拠に使った資料の名前と、確かめられる場所(URLや資料名)を書く
4. 結論が分かれる事実があれば「確認が必要な点」として並べる
# 守ること
・自信がない条番号には【要確認】と付ける
・材料にない事実を補わない
・資料の名前や場所が分からないときは「出典不明」と書く
出力の例(架空)
結論の候補:会社が係長を指名する形は避け、代表を選ぶ目的を示したうえで、投票や挙手などで従業員に選んでもらう方向が無難です。
根拠:
・労働基準法第90条第1項:就業規則の作成・変更では、過半数で組織する労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者の意見を聴く
・労働基準法施行規則第6条の2第1項第2号:協定等をする者を選ぶことを明らかにした投票・挙手等の方法で選ばれ、使用者の意向にもとづいて選ばれた者でないこと
・同項第1号:法第41条第2号の監督又は管理の地位にある者でないこと
確認が必要な点:
・係長が監督又は管理の地位にあたるか
・事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるか

人が確かめる点は、挙がった条・項・号をe-Govの労働基準法施行規則などで開いて中身が合っているか、資料の名前と場所が実在するか、出典不明がどちらのツールに多いかの3つです。

手順2|2つの回答を突き合わせる

2つの回答がそろったら、食い違いを汎用AIに洗い出させると、人が原文で確かめる箇所を絞り込めます。

【指示文2:2つの回答の食い違いを洗い出す】
あなたは社会保険労務士事務所で、回答の確認を補助する担当です。
次の回答Aと回答Bは、同じ相談に別々のAIが答えたものです。
# 回答A
【労務特化ツールの回答を貼る】
# 回答B
【汎用の生成AIの回答を貼る】
# してほしいこと
1. 結論が同じか違うかを1行で書く
2. 挙げている条・項・号の違いを表にする(列:項目/回答A/回答B)
3. 片方にしかない根拠や確認点を並べる
4. 人が原文で確かめるべき箇所を、優先する順に3つまで挙げる
# 守ること
・どちらが正しいかは判断せず、違いだけを書く
・回答にない条文を足さない
出力の例(架空)
結論:同じ(会社が指名する形は避ける)
項目|回答A|回答B
意見聴取の根拠|労基法第90条第1項|労基法第90条第1項
選び方の根拠|施行規則第6条の2第1項第2号|記載なし
資料の場所|資料名あり|出典不明
片方にしかない確認点:過半数で組織する労働組合の有無(回答Aのみ)
原文で確かめる順:1. 施行規則第6条の2 2. 労基法第90条第1項 3. 係長の職務の実態

人が確かめる点は、AIが作った表の条番号を回答A・Bの原文と見比べ、写し間違いがないかを見るところから始まります。食い違いの少ないほうが正しいとは限らないので、原文で確かめた結果を記録し、何件か試したうえで判断しましょう。

手順3|特化ツールの根拠を、汎用AIで顧問先向けの文に直す

組み合わせて使うときの流れも、試用のうちに確かめておく価値があります。特化ツールで確かめた根拠を材料として汎用AIに渡し、顧問先の担当者に送る説明文に直させる使い方になります。

【指示文3:確かめた根拠から、顧問先への説明文をつくる】
あなたは社労士事務所の職員として、顧問先に送る説明文の下書きを受け持ちます。
# 読む人
【顧問先の担当者の立場】(例:総務の担当者。労務の専門家ではない)
# 社労士が確かめた結論と根拠
【結論】
【根拠の条文と要点(社労士が原文で確認済みのもの)】
# してほしいこと
・300字以内の説明文にする
・最初の1文で結論を書き、次に理由、最後に会社にしてほしいことを書く
・条番号は本文の最後にまとめて書く
# 守ること
・材料にない法令や数字を足さない
・「必ず」「絶対」など言い切りの強い言葉を使わない
・会社名と個人名は【会社名】【担当者名】のまま残す
出力の例(架空)
【担当者名】様
就業規則の変更で意見を聴く従業員代表は、会社のほうで指名するのではなく、代表を選ぶ目的を社内に示したうえで、投票や挙手などで従業員に選んでもらう形でお願いいたします。会社の意向で選ばれた方は、法令が定める代表の選び方に合わないおそれがあるためです。選び方が決まりましたら、日程と方法を【会社名】の社内でご共有ください。
根拠:労働基準法第90条第1項、労働基準法施行規則第6条の2第1項

人が確かめる点は、材料にない約束や数字が足されていないか、結論の言い回しが社労士の判断より強くなっていないかの2つです。確認を終えた文だけを顧問先に送る順番を、職員の手順書に書いておきましょう。

併用するときの情報の渡し分け

2種類のツールを併用するときは、どの情報をどちらに入れてよいかを、ツールごとに決めておく必要があります。顧問先ごとの規程や変更履歴は顧問先管理の機能を持つ特化ツールの側にまとめ、汎用AIには会社名を外した要点と、社労士が確かめた根拠だけを渡す分け方が分かりやすいでしょう。健康にかかわる相談は、病名・診断書の中身・通院歴をAIに入れず、休職の手続きや就労制限への対応といった論点だけを、一般的な言葉で質問する形にとどめましょう。たとえば「うつ病で休職中」とは書かず、「私傷病で休職中の従業員の復職手続き」のように論点だけを書く形になります。ハラスメントの相談も同じで、「〇〇課長からの暴言」ではなく「上司からの言動」と置き換え、人を特定できる言葉を外してから入れてください。

マイナンバーも、どちらのツールにも入れない決まりで構いません。情報の線引きの詳しい表は社労士のAI活用の情報の線引きの節にあるので、渡し分けの決まりを作るときの下敷きにしてみてください。

導入の進め方|小さく試し、乗り換えの条件まで確かめる

導入は1つの業務と2〜3人の職員から始め、試用期間のうちに比べて決めると、合わなかったときの損を小さく出来ます。進める順番の目安は次のとおりです。

  1. 入れない情報と匿名化の決まりを先に書き出す
  2. 労務相談の下調べなど1つの業務を選び、試用期間のうちに指示文1〜3で比べる
  3. 合ったツールを事務所の契約にし、業務ごとの入口を1枚にまとめて職員に配る
  4. 管理者を決め、退職・異動のときの止め方を入所・退所の書類に入れる
  5. 数か月ごとに、使われ方と費用、出典の確かさを見直す

社内ルール全体のひな形は生成AIの社内ガイドラインの作り方にまとめてあります。

乗り換え・解約のときに確かめる項目

ツールは後から入れ替えることもあるため、やめるときの条件も契約前に聞いておきましょう。

  • 最低利用期間と、途中でやめたときの残りの料金HRbase PROは、最低利用期間を1年と記載しています。
  • 顧問先ごとの規程や履歴を書き出せるか特化ツールに顧問先の規程を集めた場合、移るときに持ち出せる形式かを聞きます。
  • 会話の履歴を誰が書き出せるかChatGPT Businessでは本人がエクスポートできず、ワークスペースのオーナーに依頼する形です(OpenAIのヘルプ)。Claude Team・Enterpriseでは、組織のデータの書き出しはPrimary Ownerだけが出来ます(Anthropicのヘルプ)。
  • 解約したあとのデータの扱い解約後にデータがいつ消えるか、消えたことを確かめる方法を聞きます。

費用の比べ方は生成AIのコスト管理の記事も参考になるでしょう。

汎用AIの側を、事務所で1つの契約に

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で、事務所の管理下で使い分けられる法人向けAI基盤です。入力データを学習に使わない設定を全モデルに標準で適用し、利用ログ・権限・モデルのON/OFFは管理者ダッシュボードから管理出来ます。労務の根拠調べは特化ツール、文面づくりや資料の要約はUPGEAR AIというように、役割で組み合わせて使えます。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

社労士事務所は労務特化ツールと汎用の生成AIのどちらから入れればよいですか?
労務相談の下調べに時間がかかっている事務所は特化ツールから、案内文や説明資料の作成に時間がかかっている事務所は汎用の生成AIから試すと、効果を確かめやすくなります。どちらの場合も、同じ匿名の相談を両方に投げて根拠の示し方を比べてから決めるのがおすすめです。電子申請と顧問先への結論は、どちらを選んでもAIに任せない部分として残します。
無料の生成AIで労務相談の下調べをしてもよいですか?
無料や個人向けの契約では、入力を学習に使わせない設定を職員一人ずつが切り替える形になり、事務所から設定の状態が見えません。社会保険労務士法第27条の2は職員にも秘密を守る義務を課しているため、業務で使うなら事務所の契約で配り、会社名・氏名・日付などを外した相談文だけを入れる形にしてください。答えに出てきた条番号は、e-Govの原文で確かめる必要があります。
特化ツールと汎用AIを両方契約すると、費用はいくらかかりますか?
汎用AIはClaude TeamもChatGPT Businessも標準の席が年払いで1席あたり月20ドルなので、1ドル=150円で計算すると職員10人でChatGPTかClaudeの片方だけなら年36万円(税は含めない)になります。ChatGPTとClaudeの両方を契約すれば年72万円です。例に挙げた労務特化ツールは金額を公開しておらず、初期導入費・最低利用期間・年払いの扱い・ID数を見積りで確かめて足し合わせます。
36協定届や就業規則の電子申請はAIに任せられますか?
申請そのものはAIに任せず、普段使っている手続きソフトやe-Govでの申請をそのまま続け、提出する内容は社労士が確かめてから送ります。AIに任せられるのは、届出の前に見る項目の確認表や、顧問先への書類の依頼文などの下書きまでです。
職員が個人のChatGPTを業務に使っていたらどうすればよいですか?
禁止を伝えるだけでなく、同じ使い方ができるAIを事務所の契約で配り、移ってもらうのが現実的です。個人のアカウントに残った相談文は事務所の側から管理できないため、どんな情報を入れたかを本人に確かめ、今後は事務所のアカウントだけを使う決まりを、入所・退所の手続きとあわせて書き出してください。
1人で開業している社労士でも法人プランを使えますか?
Claude Teamは2人から、ChatGPT Businessはワークスペースごとに2シート以上が条件のため、1人で使う場合も2席分の料金がかかります。個人向けのプランで済ませるなら、入力を学習に使わせない設定を自分で切り替え、フィードバックを送るとその会話が学習に使われる場合がある点にも気をつけてください。

まとめ

社労士事務所のAIツールは、労務特化ツールと汎用の生成AIのどちらかを選ぶより、根拠が欲しい業務と文面が欲しい業務で受け持ちを分けると選びやすくなります。労務相談の根拠調べや就業規則の新旧管理は特化ツール、算定基礎届・年度更新の案内文や助成金のヒアリング項目、顧問先への説明資料は汎用AIに向いており、電子申請と結論の判断はAIに任せない部分として残ります。費用は1ドル=150円で計算すると、汎用AIの法人プランだけで職員10人ならChatGPTかClaudeの片方で年36万円から45万円ほどかかり、両方や特化ツールを重ねると人数とツールの数の掛け算で増えてしまいます。

ツールを決める前に、同じ匿名の相談を両方に投げて根拠の示し方を比べ、選んだツールは事務所の契約で配って、入口の一本化と退職時の停止まで決めておきましょう。業務別の指示文11本は社労士の生成AIの使い方に、守秘義務と情報の線引きの全体像は社労士のAI活用にまとめてあります。