
総務のAI活用とは、就業規則への問い合わせ、社内への案内文、契約や備品の台帳づくりのような総務の文書仕事の下書きを、生成AIに任せることです。1〜3人で回している総務なら、最初は規程の問い合わせへの一次回答の下書きから始め、社員の氏名・住所・給与・健康診断の結果・マイナンバーは入れないと決めるのが近道になります。経理・人事も含めた全体像はバックオフィスのAI活用(経理・人事・総務の使い方と線引き)にまとめていますので、ここでは総務の業務に絞り、そのまま貼れる指示文と確かめる点を並べていきます。
総務がAIで最初に手をつける業務は、規程の問い合わせと案内文
総務の仕事の中でAIに向いているのは、元になる文書が社内にあり、出てきた文を人が読めば正しいかどうか判断できる業務です。就業規則や社内規程の問い合わせへの答え、規程を変えたときの周知文、入退社や備品の案内文は、どれもこの条件に当てはまります。反対に、社会保険の届出や稟議の承認のように、間違えると会社として責任を負う判断は、AIに任せる業務から外しておきましょう。
実際に、経理・総務の担当者に聞いた調査でも、使われ方は文章まわりに寄っています。PCA「経理・総務担当者の生成AI活用に関する実態調査」(同社発表、IDEATECHリサピーによるネット調査、2025年2月27〜28日、従業員50〜500名の企業の経理・総務担当者、有効回答104名)によると、生成AIを毎日使っている方は15.4%、たまに使っている方は29.8%でした。使っている業務は文章の要約が53.2%、社内文書の作成が42.6%と、どちらも総務の手元にある仕事と重なります。
※この調査は経理と総務の担当者を合わせた結果で、総務だけの数字ではありません。内容はWeb担当者Forumの報道で確認しています。
1〜3人の総務では、新しい仕組みを入れる時間そのものが取りにくいものです。最初の1か月は、次の節で紹介する規程の問い合わせ1本に絞って試してみてください。慣れてきたら、規程改定の周知文、入退社の案内、契約の更新台帳へと広げていくと、AIに渡す材料が少しずつ社内にたまっていきます。
就業規則・社内規程の問い合わせに、一次回答の下書きを作る
社員から届く「有給休暇は何日前までに申請すればよいですか」「慶弔休暇は何日もらえますか」のような質問は、就業規則を開けば答えが書いてあるものが少なくありません。AIに規程の本文を渡し、条番号付きで答えの下書きを作らせれば、総務は条文を探す手間を省いて、確かめる作業に時間を使えます。
規程Q&Aの元になる就業規則には、法律の上での位置づけがあります。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則を作成して行政官庁(労働基準監督署)に届け出ることを定めており、変更したときも同じ扱いとなります。第106条では、就業規則を作業場の見やすい場所に掲示する、備え付ける、書面で交付するなどの方法で、社員に周知することが定められています。AIで作るQ&Aは周知された規程を読みやすくする手引きで、規程そのものの代わりにはならない点を押さえておきましょう。
入れる材料
最新版の就業規則と、関連する規程(賃金規程・育児介護休業規程・旅費規程など)の本文を用意します。規程の表紙か末尾にある施行日・改定日も一緒に貼ってください。社員から実際に届いた質問は、名前や部署を消して、質問の文だけを10件ほど書き出しておくと役に立ちます。
指示文1:規程Q&Aの一次回答(そのまま貼れます)
あなたは中小企業の総務担当者の補佐です。 下の【規程本文】だけを根拠に、社員からの【質問】への回答の下書きを作ってください。 守ること ・回答の最後に、根拠にした規程名と条番号を(就業規則 第〇条)の形で必ず書く ・規程に書かれていないことは推測で答えず、「規程に記載がないため、総務で確認してご連絡します」と書く ・2つ以上の規程が関係するときは、どちらにも触れる ・社員の個別の事情(病気、家族の状況など)には触れず、制度の説明だけにする ・です・ます調で、社員がそのままチャットで読める長さ(200字前後)にまとめる 【規程の版】〇〇年〇月〇日 改定版 【規程本文】 (ここに就業規則などの本文を貼る) 【質問】 (ここに社員からの質問を1件貼る。氏名・部署は消しておく)
出てくる文の例
慶弔休暇は、本人が結婚するときに〇日、配偶者・子・父母が亡くなったときに〇日取得できます。事前に総務へ申請書を出してください。急な場合は、休暇のあとすみやかに提出すれば差し支えありません。(就業規則 第〇条、慶弔休暇規程 第〇条) なお、休暇中の賃金の扱いは規程に記載がないため、総務で確認してご連絡します。
使うときは、最初に規程を1回貼り、同じ会話の中で質問を続けて貼っていきます。規程ごとに会話を分けると、別の規程の条文と混ざるのを防げます。
人が必ず確かめる点
- 条番号が実在し、引用した中身と合っているか規程の原本(最新の改定版)を開き、AIが書いた条番号の条文と読み比べます。条番号がずれることもあるため、ここは毎回見てください。
- 「記載がない」と答えた質問を拾えているか規程にない質問は、総務や会社が判断する質問です。答えを決めたら、規程の見直し候補として記録しておきます。
- 古い版の規程を貼っていないか改定の前の版で答えを作ると、間違った案内がそのまま社員に届いてしまいます。【規程の版】の日付を毎回確かめます。
- 規程そのものが法改正に追いついているかAIは貼った規程のとおりに答えるため、古い規程なら古いまま答えます。改定日が古い規程は、社会保険労務士などに見直しの要否を確かめます。
- 個別の事情に踏み込んでいないか休職や病気、家族の事情が絡む相談は、AIの下書きを使わず、人事や上長と一緒に人が答えます。
規程Q&Aを作っておく手順
1件ずつ答えるのに慣れたら、よく来る質問をまとめたQ&A集にすると、社員が自分で調べられるようになります。
- 最新の規程本文と施行日を貼り、社員から聞かれそうな質問を規程の章ごとに10件出してもらいます。
- 実際に届いた質問の書き出しと見比べ、抜けている質問を足します。
- 指示文1を使って10件すべてに条番号付きの答えを作り、総務が原本と照らして直します。
- 完成したQ&Aの先頭に「〇〇年〇月〇日改定の就業規則に基づく」と版の日付を書き、規程を改定したら同じ手順で作り直します。
版の日付が書かれていないと、改定前の答えが社内で使われ続けてしまいます。Q&Aを置く場所は、社員が見に行く社内ポータルや共有フォルダの1か所に決めてください。
規程改定の新旧対照表と、社内への周知文を作る
規程を改定するときの新旧対照表と周知文は、改定前と改定後の本文さえあれば、AIが下書きまで作れる業務になります。労働基準法第106条の周知の決まりがあるため、改定のたびに全社員へ知らせる文が要りますし、管理職には運用の変わり目を別に伝える場面も出てきます。同じ材料から、全社員向けと管理職向けの2つの版を一度に作らせるのがおすすめです。
入れる材料
改定前の条文と改定後の条文、施行日、改定の理由を1〜2行でまとめたメモを用意してください。変わるのが一部の条だけなら、その条と前後の条だけを貼れば足ります。
指示文2:新旧対照表と、周知文の2つの版(そのまま貼れます)
あなたは総務担当者の補佐です。下の【改定前】と【改定後】を比べて、次の3つを作ってください。 1. 新旧対照表 ・「条番号|改定前|改定後|変更の要点」の4列で、変わった条だけを並べる ・言い回しだけの変更と、中身が変わる変更を分けて書く 2. 全社員向けの周知文(400字以内) ・何が変わるか、いつから変わるか、社員が何をすればよいかの順で書く ・規程の原文を確認できる場所として【規程の保管場所】と書く 3. 管理職向けの周知文(400字以内) ・部下から聞かれそうな質問を2つ挙げ、答え方の要点を添える ・運用が変わる日と、移行の扱い(申請中のものはどうなるか)を書く。材料に書かれていなければ「要確認」と書く 【施行日】〇〇年〇月〇日 【改定の理由(メモ)】 【改定前】 【改定後】
出てくる文の例(全社員向けの冒頭)
件名:旅費規程の改定について(〇〇年〇月〇日施行) 〇〇年〇月〇日から、旅費規程の宿泊費の上限額が変わります。施行日以降に泊まる出張は、新しい上限額で手配してください。改定後の規程は【規程の保管場所】で確認できます。分からない点は総務までお問い合わせください。
人が必ず確かめる点
- 対照表から変更が漏れていないか改定前後の本文を総務が並べて読み、AIが変更なしとした条も一度は目で見ます。
- 施行日と移行の扱いが決裁どおりか施行日は、取締役会の議事録や社長決裁の記録と照らします。
- 就業規則の変更なら、意見聴取と届出の段取りが済んでいるか労働基準法第90条で、労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、届出にはその意見を記した書面を添付します。第89条で、常時10人以上の労働者を使用する会社は、変更したときも行政官庁(労働基準監督署)への届出が要ります。
- 周知の方法と日付を残したか第106条の掲示・備え付け・書面の交付などのどれで知らせたかを決め、周知文を出した日を記録します。
管理職向けの版を分けると、部下から聞かれたときの答え方がそろい、総務へ同じ質問が重ねて届くのを防ぎやすくなります。
総務の資料で、AIに貼ってよい情報・貼らない情報
規程や社内ルールの本文は貼ってよく、社員一人ひとりが分かる情報は貼らない、というのが基本の線になります。総務の手元には社員名簿、給与、健康診断の結果、マイナンバー、家族の情報など、扱いに気をつける情報が集まっています。規程Q&Aや案内文は、こうした情報を入れなくても作れる業務を選んでいるので、まずはこの線を守れば足ります。
貼ってよい情報
- 就業規則・社内規程・マニュアルの本文。社外秘の文書・取引条件は、会社が契約して管理しているAIでだけ扱い、個人のアカウントや設定の分からないサービスには貼りません。
- 社員の名前や部署を消した質問の文。
- 備品・社用車・会議室の利用ルールと、過去の案内文のひな形。
- 契約書のうち、会社名・契約期間・更新の条件などの項目。相手が個人の契約は、名前と住所を伏せます。
- 会議の議題と決まったことのメモ。個人の評価や健康に触れる発言は消しておきます。
貼らない情報(伏せるか、仮の記号に置き換える)
- 社員の氏名・社員番号・住所・電話番号。【氏名】【社員番号】のような仮の記号に置き換えます。
- 給与や賞与の額、口座番号。
- 健康診断の結果、休職や病気の理由、家族の状況。
- マイナンバーや基礎年金番号などの番号。
- ハラスメントや懲戒の相談の中身。
- 社外秘の文書・取引条件。会社が契約して管理しているAIでだけ扱い、個人のアカウントや設定の分からないサービスには貼りません。
- 取引先の担当者の個人情報。
仮の記号に置き換えた文は、AIから戻ってきたあとに総務が手元で本当の名前を入れるだけなので、手間はほとんど増えません。送る前に【】が残っていないかを検索して確かめる習慣をつけておけば、入れ忘れも防げます。
個人情報保護法と、個人情報保護委員会の注意喚起
この線の根拠になるのは、個人情報保護法と、個人情報保護委員会が2023年6月2日に公表した生成AIサービスの利用についての注意喚起です。注意喚起のうち、生成AIサービスを使う事業者への注意点は2つあります。1つ目は、プロンプト(AIへの指示文)に個人情報を含めるときは、特定した利用目的を達成するのに必要な範囲かどうかを、十分に確かめることになります。2つ目は、本人の同意なく入力した個人データが、応答の出力以外の目的で扱われると、法律に違反するおそれがあるという指摘です。そのため、提供事業者がその個人データを機械学習に使わないことなどを、十分に確かめるよう求めています。
個人情報保護法の条文の見出しを、総務の仕事に引き寄せて読むと次のような並びになります。
- 第17条(利用目的の特定)と第18条(利用目的による制限)は、社員の情報を、決めた目的の範囲で使うという土台です。
- 第23条(安全管理措置)と第24条(従業者の監督)は、会社として情報を守る仕組みを持ち、扱う社員を監督する決まりです。
- 第25条(委託先の監督)と第27条(第三者提供の制限)は、社外の事業者に情報が渡る場面の決まりです。
AIへの入力がどの条文の場面に当たるかは、使うサービスの契約や設定で整理が変わるため、ここでは決めつけません。迷う使い方は、貼る前に顧問の弁護士や社会保険労務士に確かめてください。
※条文番号と見出しは、2026年10月16日にe-Gov法令検索で確認しています。注意喚起の本文PDFの要点は、モノリス法律事務所の解説でも確認できます。
社員が個人のスマートフォンや個人契約のAIに規程や契約書を貼っている状態では、学習の設定も履歴の残り方も、会社からは見えないままとなってしまいます。総務の資料を貼る先は、会社で用意した環境1つに決めておきましょう。
個人のアカウントに貼ると、学習の設定や履歴を会社で確かめられません。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
入退社手続きの案内文と、抜け漏れチェック
入社や退職のたびに送る案内文と、総務の手続きの抜け漏れチェックは、社員の個人情報を入れずに作れる業務です。名前や日付は【氏名】【入社日】のような仮の記号のまま作らせ、送る直前に総務が手元で埋めれば十分でしょう。
入れる材料
自社で使ってきた入社案内や退職時の案内の文面から、個人の情報を消したものを用意します。提出してもらう書類の一覧と、総務・情シス・上長のそれぞれが受け持つ作業の一覧があれば、チェックリストまで作れます。
指示文3:入社案内メールと、手続きのチェックリスト(そのまま貼れます)
あなたは中小企業の総務担当者の補佐です。下の材料から、次の2つを作ってください。 個人を特定する情報は入れず、【氏名】【入社日】【配属先】【提出期限】のような仮の記号のまま残してください。 1. 入社予定の方に送る案内メール(です・ます調、500字以内) ・入社日当日の集合時間と場所、持ち物、提出書類と期限の順で書く ・提出書類は【提出書類の一覧】にあるものだけを書き、足さない 2. 総務の手続きチェックリスト ・入社前/入社日/入社後1か月の3つの時期に分ける ・各項目に「担当(総務・情シス・上長)」を付ける ・材料に書かれていない手続きは「要確認」として末尾にまとめる 【過去の案内文(個人情報を消したもの)】 【提出書類の一覧】 【総務・情シス・上長の作業一覧】
出てくる文の例(チェックリストの一部)
入社前 □ 雇用契約書の取り交わし(担当:総務) □ パソコンとアカウントの準備(担当:情シス) □ 【氏名】さんの初日の予定を配属先と調整(担当:上長) 入社日 □ 提出書類の受け取りと、不足の確認(担当:総務) 要確認 □ 社会保険・雇用保険の資格取得の届出:材料に手順の記載がないため、総務の手順書で確認
まだ手順書がない会社では、覚えている手順を箇条書きで貼って手順書の骨組みをAIに作らせ、社会保険労務士に一度見てもらうところから始めましょう。その骨組みが、次から照らし合わせるときの原本になります。
人が必ず確かめる点
- 提出書類と期限が、社内の手順書と合っているかAIが一般的な書類を足していないか、手順書の一覧と1行ずつ照らします。
- 社会保険・雇用保険の届出が抜けていないか届出の中身と期限は、総務の手順書と提出先の公式の案内で確かめ、AIの一覧を根拠にしません。
- 仮の記号に本物の情報を入れ忘れていないか送る前に【】が残っていないかを検索します。
- 退職の案内が、本人の事情に触れていないか退職の理由や健康の状態に触れる文が混ざっていないかを読みます。
退職の案内も、同じ指示文の入社を退職に、時期の区切りを最終出社日まで・退職日・退職後に変えれば使えます。貸与品の返却とアカウントの停止は、担当を情シスと分けて書かせてみてください。
備品・社用車・会議室のルール案内と、発注のメモ
備品の持ち出し、社用車の予約、会議室の使い方のようなルールは、何度も同じ質問が来るわりに、案内文が古いまま残りやすい分野になります。今のルールを箇条書きで渡せば、社員向けの案内と、よく来る質問への答えをまとめて作れます。
入れる材料
社用車なら予約の方法、鍵の受け渡し、給油と洗車の決まり、事故のときの連絡先を、会議室なら予約の取り方と使ったあとの片付けを箇条書きにします。連絡先は個人の携帯番号ではなく、総務の代表番号や内線のように部署の窓口にしておいてください。
指示文4:社用車の利用ルール案内と、よくある質問(そのまま貼れます)
あなたは総務担当者の補佐です。下の【社用車のルール】をもとに、次の2つを作ってください。 1. 全社員向けの案内(です・ます調、A4で1枚に収まる長さ) ・予約、出発前、返却、事故・故障のときの4つの見出しに分ける ・ルールに書かれていないことは書き足さない 2. よくある質問と答え(5件) ・社員が迷いそうな場面(予約の取り消し、鍵を返し忘れた、給油が必要なとき など)を選ぶ ・答えの最後に、根拠にしたルールの項目番号を書く 【社用車のルール】 (箇条書きで貼る) 【問い合わせ窓口】総務部 内線〇〇〇
出てくる文の例(よくある質問の1件)
Q. 予約した日に使わなくなったときは、どうすればよいですか。 A. 前日までに予約表から取り消してください。当日の取り消しは、総務(内線〇〇〇)へ連絡をお願いします。(ルール 1-3)
備品の発注も同じ流れで扱えます。在庫の一覧(品名・数・置き場所)を貼り、決めておいた発注の目安を下回ったものを書き出させれば、発注のメモと購買の担当への依頼文までまとめて下書きできます。
人が必ず確かめる点
- ルールに無いことを書き足していないか一般的な注意が足されていないか、元のルールと1項目ずつ照らします。
- 事故・故障のときの連絡先と手順が、保険の取り決めと合っているか保険の手続きは契約の中身で決まるため、保険証券や代理店の案内を原本にします。
- 在庫の数を元の表で確かめたか発注の数はAIの書き出しではなく、在庫表と実物で確かめます。
案内を作り直したら、古い案内が掲示板や共有フォルダに残っていないかも見ておきましょう。
契約書の更新期限台帳と、更新の確認文を作る
契約書の管理で総務が困るのは、自動更新の契約で、解約の申し入れ期限を知らないうちに過ぎてしまうことでしょう。契約書の本文から、契約期間・自動更新の有無・解約の申し入れ期限を抜き出して台帳にする作業は、AIの下書きと人の確認の組み合わせに向いています。台帳ができれば、期限の前に担当部署へ送る確認文もAIで下書きできます。
入れる材料
契約書の本文を1通ずつ用意してください。個人事業主のように相手が個人の契約は、相手の名前と住所を【相手方】に置き換えてから貼るようにします。契約金額のような社外秘の文書・取引条件は、会社が契約して管理しているAIでだけ扱いましょう。個人のアカウントや設定の分からないサービスには貼らないでください。
指示文5:契約の更新期限台帳(そのまま貼れます)
あなたは総務の契約管理の補佐です。下の【契約書本文】から次の項目を抜き出し、1行にまとめてください。 項目:契約名|相手方|自動更新の有無|契約満了日|解約・更新の申し入れ期限(原文のまま)|何か月前か(数字だけ)|申し入れの方法(書面・メールなど)|申し入れ先|根拠の条番号 守ること ・日付は計算しない。申し入れ期限は原文のまま書き、何か月前かは数字だけを書く ・原文に書かれていない項目は空欄にせず「記載なし」と書く ・見出し行は最初の1通だけに付け、Excelに貼れるようタブ区切りで出す ・覚書や特約で変わっている可能性がある項目には「覚書を確認」と添える ・推測で埋めない 【契約書本文】 (1通分を貼る)
出てくる文の例
契約名 相手方 自動更新の有無 契約満了日 解約・更新の申し入れ期限(原文のまま) 何か月前か 申し入れの方法 申し入れ先 根拠の条番号 複合機の保守契約 株式会社〇〇 あり(1年ごと) 〇〇年3月31日 期間満了の3か月前までに書面で申し出ない限り 3 書面 記載なし 第〇条
期限の日付は、台帳のExcelで =EDATE(満了日,-3) のように式で出します。
台帳ができたら、申し入れ期限の2か月ほど前に担当部署へ送る確認文も、同じAIに作らせることができます。「継続する・条件を変えて継続する・解約する」の3つから選んで返してもらう形にすると、返事の取りまとめも楽になります。
人が必ず確かめる点
- 何か月前かの数字と、Excelで出した期限の日付が原文と合っているか何か月前までの数え方は原文で確かめ、迷うものは法務や顧問の専門家に聞きます。
- 覚書や変更契約を読み落としていないか更新の条件が、本文ではなく覚書や特約で変わっていることもあるため、関係する書類も原本で見ます。
- 契約の良し悪しの判断をAIに任せていないか抜き出しと台帳づくりまでがAIの役目で、条件の判断は人と専門家の仕事です。
台帳は、総務の誰が見ても同じ場所にあるように、共有のスプレッドシートなどに置いておきましょう。
株主総会・取締役会の招集通知と議事録の下書き
株主総会や取締役会の招集通知と議事録は、毎回ほぼ同じ形で作る文書なので、自社の過去の書式をひな形として渡すと、AIの下書きがそのまま使える形に近づきます。ただ、会社として残す正式な書類でもあるため、最終の形はこれまで専門家と確かめて使ってきた書式に合わせてください。
入れる材料
前回の招集通知と議事録の文面、今回の日時・場所・議案の一覧、当日のメモ(誰が何を説明し、何が決まったか)を用意します。出席者の名前は役職名(代表取締役、取締役Aなど)に置き換えて貼っても、下書きの形は十分に整います。
指示文6:取締役会の議事録の下書き(そのまま貼れます)
あなたは総務担当者の補佐です。【前回の議事録】の書式と言い回しをそのまま使い、【今回のメモ】から今回の取締役会議事録の下書きを作ってください。 守ること ・書式(見出しの順番、日時・場所・出席者の書き方、末尾の署名欄)は前回と同じにする ・メモに書かれていない発言や決議は作らない。足りない箇所は【要確認:〇〇】と書く ・決議の結果は、メモにある表現のとおりに書く ・出席者は役職名のまま残す 【前回の議事録】 【今回の日時・場所】 【議案の一覧】 【今回のメモ】
出てくる文の例(一部)
第1号議案 〇〇年度予算の承認の件 議長は、本議案について資料に基づき説明し、その承認を求めたところ、出席取締役の全員一致をもって原案どおり承認可決した。 第2号議案 本店移転の件 【要確認:移転日と移転先の住所がメモにありません】
人が必ず確かめる点
- 出席者と決議の結果が原本と合っているか出欠の記録と当日のメモを横に置き、1議案ずつ照らします。
- 【要確認】がすべて埋まっているか埋まっていない箇所は、議長や出席者に確かめてから書き入れます。
- 登記に使う議事録か本店移転のように登記に使う議事録は、仕上げる前に司法書士に確認します。
- 招集通知の日付と議案が、決めた日程と合っているか送る日と開催日の間隔は、定款や過去の運用と照らして確かめます。
招集通知も同じやり方で、前回の通知と今回の日時・議案を渡せば下書きができます。
防災訓練・社内イベントの案内文を作る
防災訓練や健康診断の日程、社内イベントの案内は、毎年作り直す文なのに、去年の文を探すところから始まりがちです。日時・場所・持ち物・申し込み方法を渡せば、全社員向けの案内と、前日に送る念押しの文まで一度に作れます。
指示文7:防災訓練の案内と念押し(そのまま貼れます)
あなたは総務担当者の補佐です。下の【訓練の内容】から、次の3つを作ってください。 1. 全社員向けの案内(です・ます調、300字以内) ・目的、日時、集合場所、当日の流れ、参加できない方の連絡先の順で書く 2. 前日に送る念押しの短い文(100字以内) 3. 訓練のあとに送るお礼と、振り返りアンケートの依頼文(200字以内) 材料にない情報(避難経路、消防署の立ち会いの有無など)は書き足さず、【要確認】と書いてください。 【訓練の内容】 日時: 集合場所: 当日の流れ: 担当の部署:
出てくる文の例(念押しの文)
明日〇月〇日(〇)〇時から防災訓練を実施します。〇時〇分に避難の合図が鳴りますので、1階正面玄関前(例)へ移動してください。参加できない方は、総務までお知らせください。
避難経路や集合場所は、ビルの管理会社が決めているものもあるため、案内を出す前に建物の防災計画と照らしておきましょう。社内イベントで参加の可否や食事の制限を集めるときは、健康やアレルギーの情報をAIに貼る一覧には入れないでください。
勤怠・経費精算・請求書の転記は、AIと作る自動化に任せる
勤怠の集計、経費精算、請求書の処理は、総務と経理・人事にまたがる業務で、重なる部分の進め方は冒頭で紹介した記事にまとめています。総務の立場で効いてくるのは、数字をチャットに貼って集計させることではなく、表から表への転記を自動で動く仕組みにすることになります。
SmartHRの総務ユニットの社員が書いたnote「総務にAIを取り入れてみたら、仕事がもっと面白くなった話」では、Gemini・Cursor・ChatGPTを使いながら、GAS(Googleのスプレッドシートなどを自動で動かす仕組み)でデータの転記を自動化し、30分かかっていた作業が1分弱になったと紹介されています。同じnoteには、Geminiで自社用に作ったAI(カスタムGem)で出張旅費を分析し、部署ごとの傾向や宿泊単価の推移をつかんだという例もあります。
勤怠や経費の数字そのものをAIのチャットに貼るのではなく、「この表のこの列を、あの表のこの列へ毎日写す仕組みを作りたい」とAIに相談し、出てきた手順を詳しい社員と確かめながら動かす、という順番をおすすめします。社内に詳しい方がいなければ、無理に自動化しなくても構いません。仕組みを作る相談の段階では、給与や個人別の勤怠のような数字を、架空の数字に置き換えて見せれば足ります。合計や転記の結果は、動かし始めの数か月は元の表と必ず突き合わせてください。
事例に見るメリット:問い合わせ対応と転記の時間
総務がAIを使うメリットは、同じ問い合わせに何度も答える時間と、転記のような手作業の時間が減り、担当者の頭の中にあった答えが文書として残ることにあります。公表されている事例を2つ、出典の性格と合わせて見ていきます。
江崎グリコの国内Glicoグループでは、社内問い合わせの対応にAIチャットボット「Alli」が導入されたと、提供元のAllganizeが2023年3月22日にPR TIMESで発表しています。発表によると、情報システム部門・人事・総務部などがFAQの作成と運用を担い、問い合わせの対応件数は毎月約30%以上減ったとのことです。情報システム部門のサービスデスクでは、年間1万3000件以上あった問い合わせが約31%減ったとも書かれています。
これはベンダーの発表で、Glico自身の発表ではありません。発表で紹介されているのは、登録したFAQから答えを返すAIチャットボットの使い方で、ChatGPTのような文章を作る生成AIとは別の種類の使い方になります。それでも総務にとって参考になるのは、FAQを作って育てる役目を人事・総務などの部門が持った点でしょう。AIに答えさせる中身を決め、直し続けるのは人の仕事で、この役割分担は生成AIで規程Q&Aを作る場合にもそのまま当てはまります。
前の節のSmartHRの例も、社員本人の発信で、時間の数字は本人の申告になります。同じnoteでは、会社が全社員にGeminiを提供していることと、最終判断と責任は人間にあるという姿勢も示されています。どちらの事例も自社の数字ではないので、効果は後の節で紹介する作業前後の時間のメモで、自社の分を確かめてみてください。
総務が人に残す判断と、確かめる原本
AIの下書きをどれだけ使っても、会社として責任を持つ判断は総務や決裁者が自分で下し、そのときに見る原本を決めておく必要があります。次の5つは、AIに下書きを手伝わせても、決めるのは人という線になります。
- 就業規則・社内規程の改定内容の確定は、社長や取締役会が決めます。確かめる原本は決裁の記録と改定後の規程本文です。労働基準法第90条に沿って過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数を代表する者)の意見を聴き、意見を記した書面を添えて第89条の届出をする段取りは総務が受け持ちます。
- 社会保険・雇用保険の届出は、総務担当者が確かめます。原本は本人から受け取った書類と、提出先の公式の手引きです。
- 稟議の承認は、決裁の権限を持つ上長や役員が決めます。AIの要約ではなく、稟議書の本文と添付の見積書を見ます。
- 契約の更新・解約の決定は、契約を持つ部署の責任者が決めます。原本は契約書と覚書で、迷う条文は顧問の専門家に確かめます。
- 社員からの個別の相談への答えは、人事・上長と相談して人が書きます。休職、ハラスメント、懲戒のように本人の事情が絡む相談には、AIの下書きを使いません。
総務が1人の会社では、AIの下書きを読むのも自分だけになりがちです。全社員に出す文と社外に出す文だけは、出す前に上長に一度見てもらうと決めておきましょう。
1〜3人の総務が週1時間で始める導入の手順
総務の人数が少ない会社では、まとまった準備の時間を取るより、週に1時間をAIの練習に充てるほうが続けやすいでしょう。次の4週で、規程Q&Aの一次回答が回るところまで進められます。
- 1週目は、会社が認めたAIの環境を確かめ、貼らない情報の一覧を総務の中で共有します。会社が認めた環境がまだない場合は、所要時間メモの書式と貼らない情報の一覧を持って、上長に相談するところから始めます。
- 2週目は、最新の就業規則を貼り、指示文1でよく来る質問10件の答えを作って、原本と照らして直します。
- 3週目は、作業前と作業後の所要時間をメモし、Q&Aを社内の1か所に置きます。
- 4週目は、効果のあった指示文を共有のファイルに残し、次の業務(規程改定の周知文や入退社の案内)を1つ選びます。
効果の測り方:作業前後の時間を1行ずつメモする
効果は、総務の担当者が自分で取れる数字で見るのが現実的です。同じ種類の作業について、AIを使う前と使ったあとの所要時間を、次のような形で1行ずつ残してみてください。
所要時間メモの書き方(数字は記入の例です)
日付|業務|件数|AIなしの所要時間|AIありの所要時間|直した箇所の数|メモ 〇月〇日|規程の問い合わせ回答|3件|45分|20分|1か所|条番号のずれを直した 〇月〇日|入社案内メール|1件|30分|10分|2か所|提出期限を手順書に合わせた
直した箇所の数も残すと、どの業務ならAIの下書きをそのまま使えて、どの業務は手直しが多いかが見えてきます。1か月分たまれば、上長に続けるかどうかを相談するときの材料にもなるでしょう。
異動・退職で止めないための指示文の残し方
1人の担当者の頭の中にだけ指示文があると、その方が異動や退職をした時点でAIの使い方も止まってしまいます。効果のあった指示文は、業務名・使う場面・貼る材料・確かめる点と一緒に、総務の共有フォルダに1つのファイルで置いておきましょう。社内向けのAIの環境に、よく使う指示文を部署の中で共有できる機能があれば、そこに登録するのも1つの方法になります。
総務で使うAIツールの種類と選び方
総務の業務で使われるAIは、大きく3つの種類に分けて考えると選びやすくなります。1つ目は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityのような、文章を作ったり読んだりするチャット型の生成AIで、この記事の指示文はすべてこの種類で使えます。2つ目は、Glicoグループの例のような社内FAQのAIチャットボットで、登録した答えを社員に返す使い方に向いています。3つ目は、GASやRPA(決まったパソコン操作を自動で繰り返す仕組み)のような自動化の仕組みと、紙の書類を読み取って文字にするAI-OCRで、転記や入力の手作業を減らす役目になります。
1〜3人の総務が最初に用意するなら、チャット型の生成AIを会社として1つ契約するところからが無理のない順番でしょう。規程Q&Aが社内に根づいてから、問い合わせの数が多ければFAQのチャットボット、転記が多ければ自動化の仕組みへと広げていく形になります。
選ぶときは、入力が学習に使われない設定か、利用の記録を会社で見られるか、全員に配れる料金か、社内文書を読み込ませて答えさせられるかの4点を確かめてください。点検の項目を細かく見たい場合は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストも使えます。
会社で安全に使うには:学習させない設定・ログ・配布・使い分け
会社で安全に使うための土台は、学習させない設定、利用の記録、全員への配布、複数のAIの使い分けの4つを、総務が会社の側でそろえることにあります。前に紹介したPCAの調査(経理・総務の担当者104名の合算)では、生成AI利用に関する社内規定が整備されていると答えた方は40.4%、整備されていないと答えた方は57.5%となっています。活用するために必要なこととして挙がったのは、利用ガイドラインの整備(43.3%)と教育・トレーニングの実施(32.7%)です。
学習させない設定は、社員一人ひとりの操作に任せると漏れが出やすいため、会社の契約や管理画面でまとめて決まる形を選ぶと安心できます。利用の記録は、問題が起きたときに、誰がいつどのAIに何を入れたかをたどれるかどうかを左右します。配布では、一部の社員にしか渡さないと、渡されなかった方が個人のアカウントで使い始め、会社から見えない利用(シャドーAI)が生まれやすくなってしまいます。総務が用意する環境は、社員全員に配れる形を選びましょう。使い分けは、調べ物に強いAIや長い文書を読み込むのが得意なAIを用途で選べる状態のことで、1つのAIの答えをもう1つで確かめる使い方もできます。AIごとの得意分野は主要4AIの違いと使い分けとマルチAIの解説にまとめています。
社内向けのAI利用メモ(A4 1枚のひな形)
ガイドラインを一から作る時間がない場合は、次のA4 1枚のメモから始めてみてください。
社内のAI利用メモ(〇〇年〇月〇日 総務部) 1. 使ってよいAI:会社が契約した【サービス名】だけ。個人のアカウントは業務に使わない 2. 貼ってよいもの:社内規程、社内向けの案内文、名前を消した質問 3. 貼らないもの:社員・お客様の氏名・住所・電話番号、給与、健康の情報、マイナンバー 4. 社外秘の文書・取引条件:会社が契約して管理しているAIでだけ扱う。個人のアカウントや設定の分からないサービスには貼らない 5. 出てきた文の扱い:社外に出す文・数字・条番号は、必ず原本で確かめてから使う 6. 困ったとき・間違えて貼ったとき:総務【内線〇〇〇】へすぐ連絡
本格的なガイドラインの作り方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方で紹介しています。国の資料では、総務省と経済産業省が2026年3月31日にAI事業者ガイドライン(第1.2版)を公表しました。社内のメモは、こうした資料の名前を添えつつ、自社の業務に合わせて総務が書くことになります。
総務が配るAIを、1つの契約と1つの管理画面で
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約・1つの画面で使える法人向けサービスです。自社の資料を読み込ませて回答させる社内文書RAG、よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有できるカスタムプラス、利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理できる管理者ダッシュボードを備え、基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
就業規則をそのままChatGPTなどのAIに貼っても大丈夫ですか?
社員からの休職やハラスメントの相談への返事も、AIで下書きしてよいですか?
AIが規程に書いていないことを答えてしまったら、どうすればよいですか?
総務が1人でも、AIの導入は進められますか?
総務部門向けのAI利用の指針やガイドラインはありますか?
社内FAQのチャットボットと、ChatGPTのような生成AIは何が違いますか?
まとめ
総務のAI活用は、就業規則・社内規程の問い合わせへの一次回答の下書きから始めるのが近道になります。慣れてきたら、規程改定の周知文、入退社の案内、備品や社用車の案内、契約の更新台帳、招集通知や議事録の下書きへと、材料が社内にある業務から広げていけます。
AIに貼るのは規程やルールの本文と名前を消した文だけにし、社員の氏名・給与・健康の情報・マイナンバーは入れません。規程改定の確定、社会保険の届出、稟議の承認、契約の更新の判断は人に残し、誰がどの原本で確かめるかを決めておきましょう。
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