警視庁のシャドーAIへの注意喚起と、会社が満たすことの点検表

野良AI(シャドーAI)とは、会社が承認していない生成AIを、従業員が個人の判断で業務に使っている状態です。2026年5月12日に警視庁サイバーセキュリティ対策本部が公式Xで注意喚起を出しましたが、会社として何をすれば満たしたことになるのかまでは示されていません。企業向けに具体的な対策が箇条で並んでいるのは、警視庁の投稿ではなくIPAの解説書のほうになります。その箇条を原文のまま引いて、社内の誰がやることなのかを下に添えて並べ直してみます。

シャドーAIとは何かを短く確かめたい方はシャドーAIとは?会社にバレる範囲とバレない範囲、会社として何から始めるかはシャドーAI対策は何から?最初の30日でやることをご覧ください。

警視庁が出したのは公式Xでの注意喚起|3つのリスクは添付の図に書かれています

警視庁が2026年5月12日に出したのは、サイバーセキュリティ対策本部の公式X(@MPD_cybersec)の投稿です。投稿の本文にあるのは、個人の判断で生成AIを業務に使っていないかという問いかけと、組織が管理していない生成AIにはリスクが潜んでいるという指摘になります。情報漏えい・著作権侵害・ハルシネーションという3つのリスクは、投稿の本文ではなく添付の図のほうに書かれていました。出所の段をそろえてから社内に伝えれば、後から話がぶれません。

投稿の本文に書かれているのは2文だけ

投稿の原文は次のとおりになります。アカウントの表示名は警視庁サイバー(@MPD_cybersec)で、原文の表記は全角のAIです。

【サイバーセキュリティ対策本部】
個人の判断で生成AIを業務利用していませんか。
組織が管理していない生成AIを業務で使用するシャドーAIには様々なリスクが潜んでいます。
#シャドーAI #シャドーIT

出典:警視庁サイバー(@MPD_cybersec)の公式X投稿(2026年5月12日)
https://x.com/MPD_cybersec/status/2054054803605684633

この2文には、いつまでに何をするのかも、誰が決めるのかも書かれていません。読んだ社員が自分の行動を決められる材料は入っておらず、判断は各社に委ねられた形になります。

情報漏えい・著作権侵害・ハルシネーションの3つは図の内容として報じられたもの

3つのリスクを文字にして伝えたのは、ITmediaの2026年5月12日付の記事です。同記事は、警視庁サイバーセキュリティ対策本部が情報漏えいと著作権侵害、AIがもっともらしいうそを出力するハルシネーションを挙げたと報じました。あわせて、AIサービスに個人情報や企業秘密を安易に入力しないよう呼び掛け、画像を含む生成物の外部公開や出力情報の正誤に対する慎重な判断を求めたとしています。同記事は末尾で、ハルシネーションや著作権侵害は企業が契約したAIサービスでも発生しうると添えました。

出典:ITmedia AI+ 2026年5月12日公開の記事
https://www.itmedia.co.jp/aiplus/article/2605/12/1260512144/

社内の通知や研修で3つのリスクを使うときは、警視庁が公式Xの図で挙げ、それを報道が文字にしたという順序のまま引くほうが安全です。図の内容を投稿本文の言葉として引用してしまうと、原文と食い違ってしまいます。

シャドーAIとは、会社が承認していない生成AIを個人の判断で業務に使う状態

シャドーAIは、会社が正式に承認していない生成AIのツールやサービスを、従業員が自分の判断で業務に使っている状態を指す言葉です。無料のチャットAIを私用のアカウントで開き、社内の資料を貼り付けて要約させる使い方が典型になります。悪意のある行為ではなく、仕事を早く終わらせたい気持ちから始まる点が、この問題の扱いにくいところです。定義とリスクの全体像、対策5つの総論は親記事のほうにまとめてありますので、全体から押さえたい方はそちらからご覧ください。

シャドーITとの違いは、何を入力したかがリスクの中心になる点

シャドーITは、会社が把握していない端末やクラウドサービスを社員が使っている状態を指してきました。持ち込みの端末や無料のファイル共有サービスが典型で、止め方も端末とサービスの管理が中心になります。シャドーAIでは、端末やサービスの管理に加えて、画面に何を打ち込んだかがそのまま外部への持ち出しになってしまいます。使ってよいツールの一覧を作っただけでは足りず、入力してよい情報の線引きまで決める必要が出てきます。

この注意喚起の位置づけ|警視庁は東京都の警察で、罰則のある命令ではありません

今回出たのは注意喚起であって、ガイドラインでも行政処分でもありません。警視庁は東京都を管轄する警察の組織で、全国の警察行政をまとめる警察庁とは別になります。警視庁のサイバーセキュリティインフォメーションの一覧にも、シャドーAI専用の解説ページは2026年9月20日の時点で見当たりません。ニュースの見出しだけを読んで、国が企業に新しい義務を課したと受け取ってしまうと、社内の議論が空回りしてしまいます。

警視庁と警察庁は別の組織

警視庁は東京都の警察で、サイバー事案の相談も都内にお住まいの方と都内に所在する法人を対象にしています。全国向けの受付窓口を持つのは警察庁のほうで、他の道府県には各道府県警察本部の窓口があります。都外に本社がある会社が、警視庁に相談すると社内資料に書いてしまうと、いざというときに連絡先が合いません。窓口は後ろの節で具体名を挙げますので、自社の連絡網に書き写してみてください。

注意喚起に罰則はなく、法律上の義務は別に残ります

注意喚起そのものには、従わなかった場合の罰則がありません。個人情報を含むデータが外部に出てしまった場合の扱いは、個人情報保護法の側で別に決まっています。報告が必要になる場合と期限は社員が個人のChatGPTを業務で使っていたときの対応に日数つきでまとめてありますので、事故が起きた後の順序はそちらをご覧ください。ここから先は、事故が起きる前に会社として満たしておく中身のほうを見ていきます。

国内の実態|ガートナーの調査では73%の企業がシャドーAIを有効に管理できていません

公表されている調査を見ると、シャドーAIは一部の会社だけの話ではありません。ガートナージャパンの発表では、シャドーAIに有効な対策を取れていない企業が7割を超えていました。IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026では、AIの利用をめぐるサイバーリスクが組織編の3位に初めて選ばれています。数字を社内で使うときは、誰がいつ何社に聞いた調査なのかまで添えると、説得の材料として持ちこたえます。

ガートナージャパンの調査は母数まで見る(n=449とn=414)

ガートナージャパンは2026年6月18日に、国内企業のシャドーAI対応における新たな指針を発表しました。もとになっているのは、Gartnerが2026年2月に実施した日本におけるエンドユーザー調査になります。IT部門が選定した以外の生成AIツールやサービスをユーザー部門が利用することについて、自由に認めている企業が8%、審査の上で問題なければ認めている企業が67%で、合わせて75%が何らかの形で現場の選定を認めていました。この設問の母数はn=449です。

シャドーAI問題への対応状況の設問は母数がn=414で、把握できていない企業が43%、把握しているが有効な対策を取れていない企業が30%、合わせて73%という並びになっています。把握して有効な対策を取れていると答えた企業は24%にとどまりました。報道で見かける73%という数字は、この2つを足したものです。母数と内訳まで添えて社内に示すと、うちも同じだという感想で終わらずに、43%と30%のどちらに自社が入るのかという議論へ進みます。

出典:ガートナージャパン株式会社 プレスリリース「Gartner、国内企業の「シャドーAI」対応における新たな指針を発表」(2026年6月18日)。調査はGartnerが2026年2月に実施した日本におけるエンドユーザー調査で、母数は図1の表記により、ユーザー部門選定の生成AIツールがn=449、シャドーAI問題への対応状況がn=414。
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20260618-aibs-shadow-ai

IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」で組織編の3位に初選出

IPAが2026年1月29日に公開した情報セキュリティ10大脅威 2026では、組織編の3位にAIの利用をめぐるサイバーリスクが入りました。初選出の年は2026年で、ランサム攻撃による被害が1位、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃が2位という並びの次に置かれています。この順位は、情報セキュリティ分野の研究者や企業の実務担当者など約250名のメンバーからなる10大脅威選考会の審議と投票を経て決まりました。取引先から送られてくるセキュリティのチェックシートにも、AIに関する設問が増えていくと考えられます。

取引先に聞かれる前に、使うAIを会社で決めておく

取引先の質問に答えられるよう、社員が使うAIの環境を会社で1つに決めておきましょう。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

解説書が引く77%・82%はIPA自身の調査ではありません

10大脅威の解説書[組織編]には、業務において生成AIにデータをコピー&ペーストしてプロンプトとして入力している利用者が77%おり、そのうち82%が組織に管理されていないアカウントによるものであったという数字が載っています。ただし脚注をたどると、出所はIPAの調査ではなく、米国のAI企業の調査を海外のニュースサイトの記事から引いたものになります。調査名や母数までは解説書に書かれていません。社内の資料で使うのであれば、IPAの解説書が引用している米国のAI企業の調査、という階層のまま示すほうが無難です。

国内でも、社員の個人アカウント経由の事案が公表されています

国内では、RIZAP株式会社が2026年9月3日に、社員が個人で使用している外部の生成AIサービスにお客様の情報を誤ってアップロードしたことを公表しました。対象になった人数やサービス名は公式の発表に記載がないため、規模の話は控えます。押さえておきたいのは、会社が契約していないサービスに社員が自分のアカウントで入力した、という経路のほうになります。この経路は、会社の側からは見えにくいままです。

出典:RIZAP株式会社のお知らせ(2026年9月3日)
https://business.rizap.jp/news/2492

公的機関が示している対策|IPA解説書の箇条を自社の誰がやるかに割り振る

企業向けに具体的な対策を並べているのは、警視庁の投稿ではなくIPAの解説書のほうになります。情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]の3位の節には、<対策と対応>として、経営者層と、システム管理者・従業員・職員の2つに分けた箇条が並んでいました。この箇条は法的な義務ではありませんが、取引先や監査の場で、公的な資料に沿って整えていると説明できる土台になります。以下は原文の言い回しのまま引き、それぞれの下に、社員10〜200名の会社では実際に何をすることになるのかを添えました。

引用元:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書[組織編](2026年3月12日初版・2026年4月11日四版/2026年9月20日に確認)の3位「AIの利用をめぐるサイバーリスク」<対策と対応>。同節には「※以下では「AI 事業者ガイドライン」に言う AI 利用者における対策を想定している。」という注が付いています。原文では大きな項目の下に小さな項目がぶら下がる形になっており、この記事では「/・」で区切って1行にまとめました。
解説書PDF https://www.ipa.go.jp/security/10threats/omgdg50000008fi8-att/kaisetsu_2026_soshiki.pdf
資料ページ https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html

経営者層がやること

  • シャドーAI 回避のため、AI サービス利用の検討/・未許可・未認可の AI サービス利用(シャドーIT)の禁止会社として使ってよい生成AIを1つ決め、それ以外の業務利用を禁じる形にします。禁止だけを先に出すと隠れて使う人が増えるため、決定と同時に使える環境を配るところまでを1セットにしてください。
  • AI ガバナンスおよびサービス利用規定の整備/・AI 事業者ガイドライン等の参照・準拠/・個人アカウントにおける業務利用の制限/・規程違反時の対応(ペナルティ)の明確化/・外部サービス利用時には入力データを学習対象から除外するオプトアウト設定の徹底就業規則や情報管理規程に、個人アカウントでの業務利用の扱いと、違反したときの取り扱いを書き足します。学習に使わせない設定は、会社が配るアカウントの側で既定にしておくほうが確実です。
  • AI サービス契約時の約款の確認契約の前に、入力したデータが学習に使われるか、保存期間はどれくらいか、管理者が何を見られるかの3点を確認します。無料版のまま業務で使う運用は、会社として約款を確かめ、条件を決める機会がないまま進んでしまいます。
  • トラブルの発生に備えた専門家、相談窓口の確保社内の一次受けを1人決め、社外の相談先を連絡網に書いておきます。具体的な窓口はこの後の節に並べました。
  • 決裁や承認プロセスのガバナンス強化/・業務における決裁・承認プロセスに対し、複数名によるチェックを規程化し、運用を徹底する(高度化するソーシャルエンジニアリングへの備え)振込や契約の承認を1人で完結させない形に戻します。AIで作られた偽の指示や音声への備えとして、金額の大きい決裁は2名以上で確認すると規程に書き込んでください。

システム管理者・従業員・職員がやること

  • AI 利用におけるセキュリティ強化/・IT 資産管理および構成管理を行い、通信ログ・CASB 等の活用により、AI サービスの利用状況を把握・管理されていない AI サービスの利用を把握/・AI 悪用による不正アクセス、ソーシャルエンジニアリング等抑止のため多要素認証(MFA)の徹底CASBは、社員が使うクラウドサービスへの通信をまとめて見張る仕組みです。導入していない会社は、保守を任せている業者に、ルーターやUTMのログで生成AIのドメインへのアクセス件数を1週間分だけ出してもらう形から始められます。会社が配るアカウントの多要素認証も、この機会にそろえておきましょう。
  • セキュリティ対策全般の点検や強化/・攻撃力の高度化・効率化を踏まえ、既存対策全般の点検や強化の検討AIだけを別枠で考えず、退職者のアカウント停止や共有フォルダの権限など、もとからある点検表を一度回します。
  • AI 利用における教育の徹底/・AI 利用における講習等プログラムの用意/・社内の秘密情報等を安易に入力しない/・ユーザーの指示等を正確に反映した結果を出力するとは限らないこと、ハルシネーションが存在することを理解する/・AI への過剰な依存に留意する30分の社内研修を年1回、入社時の説明と合わせて実施します。入れてよい情報と入れてはいけない情報の線引きは一覧にして配ると早く、AIの回答をそのまま社外へ出さない手順も同じ場で伝えます。
  • 最新の手口・脅威動向の把握IPAの10大脅威のページと、警視庁サイバーの公式Xを情報源にして、総務か情シスの担当者が月に1回目を通します。
  • 被害を受けた後の対応/・適切な報告/連絡/相談を行う/・整備した対応体制に基づき対応する誰が誰に何分以内に報告するかを決め、社員に伝えます。個人情報が関わる場合の報告先と期限は、別記事に日数つきでまとめてあります。

対策の型は、可視化→使ってよいツールの決定→入力禁止情報の明文化→出力の確認→教育と見直し

並んでいる箇条を作業の順に置き直すと、5つの段になります。はじめに今どのサービスが使われているかを測り、次に会社として使ってよいものを決め、入れてはいけない情報を文章にし、出力を人が確かめる工程を業務に差し込み、最後に教育と見直しを回す流れです。1番目を飛ばして2番目から始めてしまうと、現場が何を手放すことになるのか分からないまま、禁止の通知だけが届いてしまいます。使われ方の調べ方はシャドーAIの検知、入力の線引きはAIに入れてはいけない情報、社内に配る文面は生成AIの注意喚起の文例に、それぞれ分けて置いてあります。

無料版と法人向けプランの違いを確認する

箇条にある入力データのオプトアウト設定の徹底は、使っているプランによって手間が変わります。ChatGPTの無料版・Plus・Proを個人用ワークスペースで使っている場合、データ共有は既定で有効と公式ヘルプに書かれており、設定→データコントロール→「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにする操作を本人が行う必要があります。この操作の対象は、オフにした後の新しい会話だと説明されています。一方で法人向けのChatGPT BusinessやEnterpriseでは、入力と出力が既定ではモデルの学習に使われないと公式に示されました。

出典:OpenAI ヘルプ「データコントロールに関する FAQ」(2026年9月20日に確認)
https://help.openai.com/ja-jp/articles/7730893

個人のアカウントの設定画面には、会社の管理者は入れません。設定のし忘れが1人いれば、会社としての対策はそこで途切れてしまいます。会社が配るアカウントで既定を決められる形にすると、点検の手間も、対応したという証跡も軽くなります。

禁止だけでは満たせない理由|IPAはAIサービスが職場に無いことを発生源に挙げています

全面禁止でシャドーAIが消えるとは、IPAの解説書も書いていません。解説書は、シャドーAIが起きる場面を次のように説明しています。

例えば職場で AI サービスの利用が無い場合など、従業員が個人的に利用している AI サービスを業務利用することがある(シャドーAI)。本来組織外への持ち出しが禁止されている業務データや資料等を AI サービスに入力すれば、情報漏えいにつながる。また、職場が従業員の個人アカウントによる AI の業務利用を認識できないこともリスクといえる。

引用元:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書[組織編](2026年3月12日初版・2026年4月11日四版/2026年9月20日に確認)3位「AIの利用をめぐるサイバーリスク」より原文のまま。
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/omgdg50000008fi8-att/kaisetsu_2026_soshiki.pdf

職場にAIが無いことが、個人のアカウントを開く動機になるという整理になります。禁止の通知だけを出した会社は、この動機をそのまま残してしまいます。会社が用意した環境で同じ仕事ができるようになって、はじめて個人のアカウントを使う理由が消えていきます。申請すれば使えるという制度も、決裁に何日もかかる形であれば、現場は申請せずに済む道を選んでしまうでしょう。

ガートナーは分業モデルと3つのステップを推奨しています

ガートナージャパンの同じ発表では、ユーザー部門とIT部門が役割と責任を分担する分業モデルの確立が示されました。AIを、全社標準としてIT部門が一貫管理するもの、部門ごとに必要性に応じて審査・運用するもの、研修やテストにより認定されたユーザーのみ認める個人利用のものの3つに分ける考え方になります。ただし個人利用のAIは、リテラシーとリスク感覚に優れるユーザーが多い企業のみ、慎重に導入すべきだと添えられていました。運用については、採用時の審査・許可、利用中のモニタリング、定期的な棚卸しという3つのステップが示されています。

ディレクター アナリストの林 宏典氏のコメントとして、非現実的な完全な管理から責任ある活用への移行が必要だと発表に記されました。社員10〜200名の会社に当てはめると、IT部門と呼べる人数がそもそもいない場合が多いため、全社標準の1本を決めて、部門ごとの審査は総務が兼ねる形が現実的になります。

個人所有の端末と個人アカウントは、技術的に止め切れません

会社が配った端末であれば、管理下のブラウザで特定のURLを止める設定も使えます。ところが私物のスマートフォンや自宅のパソコンから、個人のアカウントで生成AIを開く使い方までは、会社の設定が届きません。画面を写真に撮って打ち直す形も残りますので、技術だけで完全に塞ぐという発想は、早い段階で手放すほうが楽になります。止め切れない前提に立つと、打つ手は、会社の環境のほうを使いたくなる状態にすることと、入力の線引きを本人が覚えている状態にすることの2つに絞られていきます。

相談窓口とエスカレーション先を、社内の連絡網に書き足す

IPAの箇条にある、トラブルの発生に備えた専門家と相談窓口の確保は、連絡先を書き足すだけで形になる項目です。入れてはいけない情報を入れてしまったと申し出る先が決まっていない会社では、報告そのものが遅れます。窓口は社内の一次受けと社外の相談先の2段で用意しておきましょう。

警視庁のサイバー犯罪に関する電話相談窓口

  • 警視庁 サイバー犯罪に関する電話相談窓口電話 03-5805-1731。受付時間は午前8時30分から午後5時15分まで(平日のみ)。都内にお住まいの方、都内に所在する法人が対象です。電話相談窓口では、被害届の提出はできません。
  • 通報・相談・情報提供の受付サイバー事案に関する通報・相談・情報提供は、警察庁ウェブサイトのオンライン受付窓口を利用します。
  • 都外に本社がある場合他道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口等一覧から、所在地の窓口を調べて連絡網に書き写します。
  • 社内の一次受け総務か情シスの担当者を1人決め、氏名と内線、不在のときの代理までを書いておきます。

出典:警視庁「サイバー事案に関する通報・相談・情報提供窓口」(更新日2026年3月2日)。情報発信元は警視庁サイバーセキュリティ対策本部 企画担当。
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/cyber/cyber_sodan.html

窓口の番号を書いた紙は、AIの話とは別のところにしまわれがちです。生成AIの注意喚起を社内に出すときに同じ紙へ並べておくと、事が起きた日に探す時間が減ります。個人情報が関わるかもしれない場合は、社外へ連絡する前に、社内の一次受けが状況を1枚にまとめる順序にしてみてください。何が入力され、いつ気づき、相手は誰かという3点がそろっていれば、相談を受ける側も動きやすくなります。

IPAの資料を社内の研修資料に使うときの条件

IPAの10大脅威の資料は、条件を守れば社内の研修資料に使えます。ページに書かれている引用のお願いは6つです。

  • 出典を明記すること(当機構名、資料名、URL)スライドの隅に、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の名称と資料名、URLを入れます。
  • 可能な限り原文のまま掲載すること(グラフの形式を変える、文体を変える等は可)箇条書きの言い回しはそのまま写します。グラフの形や文体を自社の資料に合わせるところまでは認められています。
  • 一部改変して使用する場合は文意を変えず、原文のままでないことがわかるよう明記すること(「~を基に作成」等)自社向けに言い換えた行には、原文を要約している旨を添えます。
  • 転載部分と作成部分が混在する場合、転載部分か、作成部分かが明確にわかるようにすること原文を写した行と、自社で足した行が見分けられる並べ方にします。枠の色や字の大きさを変えるだけでも足ります。
  • イラストを単体で利用したり、改変(拡大や縮小は可)したりせず、脅威名または脅威の説明と組み合わせて掲載すること10大脅威のイラストだけを表紙に貼る使い方は避け、脅威の名前か説明と一緒に置きます。
  • 公開資料の利用に起因または関連して利用者に生じたトラブルや損失、損害に対して、一切の責任を負いません。資料を使って作った社内ルールの最終的な責任は自社にある、という前提で運用します。

研修の資料を作るときは、原文の箇条をそのまま左に置き、右に自社の言葉での補足を並べる形が扱いやすくなります。改変した部分が見た目で分かれるため、3つ目と4つ目の条件も自然に満たせます。10大脅威の資料は無料で公開されていますので、教材の費用をかけずに始められます。

引用の条件の原文:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2026」の「10大脅威の引用について」(2026年9月20日に確認)
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html

社内ルールの文書そのものを整える段では、ガイドラインの作り方と点検表を別にまとめてあります。生成AIの社内ガイドラインの作り方と生成AIのセキュリティチェックリストを土台にすると、白紙から書き起こさずに進められます。全面禁止を続けるかどうかで迷っている場合は、生成AIの使用禁止で判断の材料を整理しました。

よくある質問

社員5〜10名の会社でも、シャドーAIの対策は必要ですか?
必要になります。人数が少ないほど1人あたりの裁量が大きく、顧客の情報を扱う担当が1人しかいない会社も多いためです。やることは、会社として使ってよい生成AIを1つ決める、入れてはいけない情報を1枚の紙にして配る、困ったときの窓口を1人決める、の3つから始められます。規程の整備や研修の仕組みづくりは、この3つが回り始めてからで間に合います。
警視庁の注意喚起に従わないと、罰則を受けますか?
注意喚起そのものに罰則はありません。警視庁が出したのは公式Xでの呼びかけで、行政処分や命令ではないためです。ただし、個人情報を含むデータが外部に出てしまった場合の報告は、個人情報保護法の側で別に決まっています。報告が必要になる場合と期限は、社員が個人のChatGPTを業務で使っていたときの対応にまとめてありますので、事故の想定はそちらをご覧ください。
全面禁止にすれば、シャドーAIの問題は終わりますか?
終わりません。IPAの解説書は、例えば職場でAIサービスの利用が無い場合などに、従業員が個人的に利用しているAIサービスを業務利用することがあると説明しています。禁止の通知だけでは、この動機が残ってしまいます。会社として使ってよい環境を用意したうえで、それ以外の業務利用を禁じる順序にすると、通知が守られやすくなります。
無料版の生成AIを業務で使い続けても問題はありませんか?
おすすめできません。ChatGPTの無料版・Plus・Proを個人用ワークスペースで使っている場合、データ共有は既定で有効と公式ヘルプに書かれており、学習に使わせない設定は本人が自分の画面で行う必要があります。会社の側から全員分の設定を確認して回る運用は難しく、1人の設定漏れがそのまま残ります。法人向けのプランでは入力と出力が既定ではモデルの学習に使われないと公式に示されていますので、業務で使うなら会社が契約したアカウントに寄せるほうが確実です。
警視庁はシャドーAIのガイドラインを出しているのですか?
2026年9月20日の時点で、警視庁のサイバーセキュリティインフォメーションの一覧に、シャドーAI専用の解説ページは見当たりません。出ているのは公式Xでの注意喚起で、3つのリスクは投稿に添付された図に書かれていました。企業向けに対策を箇条で示しているのはIPAの情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]のほうになりますので、社内資料の根拠にはこちらを使ってみてください。

まとめ

警視庁が2026年5月12日に出したのは、公式Xの投稿による注意喚起です。3つのリスクは投稿の本文ではなく添付の図に書かれており、いつまでに何をするのかまでは示されていません。罰則もありませんが、個人情報を含むデータが外に出てしまった場合の義務は、法律の側に別に残ります。

会社が把握していないIT全般をどう見つけて減らすかは、シャドーITとは?シャドーAIとの違いと会社での見つけ方で整理しています。

会社が満たすことの中身は、IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]の<対策と対応>に並んでいます。経営者層は、使ってよいAIを決めて規程と窓口を整える側、システム管理者と従業員は、利用状況の把握と多要素認証、教育、事故の後の報告を回す側になります。原文の箇条をそのまま社内の資料に写し、その下に自社での具体を添えれば、取引先への説明にもそのまま使えます。

数字を引くときは、ガートナージャパンの73%を母数のn=414とともに示し、IPAの解説書にある77%・82%は米国のAI企業の調査の引用だと添えてみてください。相談窓口は、警視庁のサイバー犯罪に関する電話相談窓口と警察庁のオンライン受付窓口を、今週のうちに連絡網へ書き足しておきましょう。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧にまとめてあります。

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