
特許調査のAI活用とは、J-PlatPatなどの特許データベースで集めた公報を、生成AIに要約させたり絞り込ませたりして、人が読む量を減らす使い方です。生成AIは公報のデータベースそのものではないため、集める役は特許データベース、読む・絞る役はAI、最後の判断は人という分担が基本になります。もう1つ気をつけたいのが、出願前の発明や明細書の下書きをどのAIに入れるかという点でしょう。日本弁理士会のガイドラインは、秘密保持規約のない第三者のプラットフォームに情報を載せると新規性を喪失する可能性があると注意を促しています。
特許調査の4つの種類と、AIが役立つ場面
特許調査は目的によって調べる範囲と求められる精度が変わるため、AIに任せてよい作業の幅も種類ごとに違ってきます。実務では一般に、出願前調査(先行技術調査)、侵害予防調査、無効資料調査、技術動向調査の4つに分けて呼ばれることが多いでしょう。これは法律や特許庁が定めた区分ではなく、特許事務所や調査会社の現場で使われている呼び方になります。まずは自分が今どの調査をしようとしているのかをはっきりさせてから、AIの使いどころを考えてみてください。
出願前調査(先行技術調査)
出願前調査は、これから出願しようとする発明と同じか近い技術が、すでに公報や論文で公開されていないかを確かめる調査です。似た先行技術が見つかれば、請求項の範囲を狭めたり、出願そのものを見送ったりする判断につながります。調べる対象は公開済みの公報なので、検索語の洗い出しや公報の要約にAIを使いやすい調査だと考えられます。ただし、比べる相手である自社の発明の中身をAIに入れる場面が出てくるため、入力先の選び方が後半の論点につながっていきます。
侵害予防調査(FTO)
侵害予防調査は、自社の製品やサービスが他社の特許権を侵害しないかを確かめる調査で、FTO(Freedom to Operate)調査とも呼ばれます。特許庁が運営するスタートアップ向けの知財サイトIP BASEでは、FTO調査を第三者の権利を侵害する等の支障がないかどうかを調査するものと説明しています。見落とすと製品の販売停止や損害賠償につながりかねないため、4つの中でも網羅性が強く求められる調査となります。請求項の文言の解釈は弁理士や弁護士の判断が欠かせず、AIの判定だけで安全と結論づけることは避けましょう。
無効資料調査
無効資料調査は、他社の特許を無効にできる証拠となる文献を、その特許の出願日より前の公報や論文から探し出す調査です。警告を受けた場面や、無効審判を検討する場面で行われることが多くなります。1件の決定的な資料を見つけるために大量の文献を読む必要があり、読む量を減らすAIの効果が出やすい反面、見落としがそのまま結論を左右してしまいます。
技術動向調査
技術動向調査は、ある技術分野で、どの会社がどのような出願をどれくらいしているかを把握する調査です。研究開発のテーマ選びや、他社との提携先探しに使われます。1件ずつの厳密な判断より全体の傾向をつかむことが目的のため、公報の分類や要約をAIにまとめさせる使い方と相性がよいでしょう。
| 調査の種類 | 主な目的 | 調べる範囲 | AIに向く作業 | 見落としの影響 |
|---|---|---|---|---|
| 出願前調査(先行技術調査) | 出願するか、請求項をどう書くかを決める | 出願前に公開された公報・文献 | 検索語と分類の候補出し、公報の要約、スクリーニング | 拒絶理由通知を受ける、権利範囲が狭くなる |
| 侵害予防調査(FTO) | 自社製品が他社の権利に触れないか確かめる | 存続中の他社特許(出願中を含む) | 請求項の構成要件の分解、一次の振り分け | 差止めや損害賠償の請求を受けるおそれ |
| 無効資料調査 | 他社特許を無効にできる証拠を探す | 対象特許の出願日より前の文献 | 大量の公報の一次判定、対比表の下書き | 決定的な資料を見落とす |
| 技術動向調査 | 分野の出願動向や競合の動きをつかむ | 分野全体の公報 | 要約、分類ごとの整理、傾向のまとめ | 判断の材料が偏る |
※調査の4分類は実務で一般に使われる呼び方で、法律や特許庁の定義ではありません。FTO調査の説明はIP BASE(特許庁)の記載によります(2026年9月27日確認)。
4つのどれでも、AIは読む量を減らす道具として使い、権利に触れるかどうかや新規性があるかどうかの結論は人が出すという点は共通です。侵害予防調査と無効資料調査は、結論を誤ったときの損失が大きく、AIへの任せ方はより慎重にする必要があります。出願前調査と技術動向調査は、AIを使って読む量を減らした効果が比較的見えやすい調査になります。
調査の種類ごとに、AIの使い方の例を具体的に挙げてみます。出願前調査では、発明の特徴を一般的な言葉に置き換えて検索語の候補を出させ、集めた公報の要約から近いものを選ぶ使い方が中心になります。侵害予防調査では、他社の請求項を構成要件に分け、自社製品の仕様と1要件ずつ並べる表の下書きに使えます。無効資料調査では、対象特許の構成要件を基準にして、大量の公報を一次で振り分ける作業が向いているでしょう。技術動向調査では、公報の要約を出願人や分類ごとにまとめさせ、どの会社がどの技術に力を入れているかを読み取る材料を作ることが出来ます。
どの調査でも共通するのが、AIに渡す材料が公開済みの情報か、未公開の情報かという違いです。他社の公報だけを扱う技術動向調査は公開情報で完結しやすい一方、出願前調査と侵害予防調査では、比べる相手として自社の発明や未発売の製品の仕様が出てきます。調査の種類を決める段階で、AIに渡す材料に未公開の情報が含まれるかどうかも一緒に確かめておくと、後半で説明する入力先の判断がしやすくなるはずです。
汎用の生成AIと特許データベースの違い
ChatGPTやClaude、Geminiといった汎用の生成AIは、特許の公報を1件ずつ収めたデータベースではありません。AIが答える特許番号や発明の内容は、学習した文章やWeb検索の結果から組み立てられたもので、特許庁の公報と照らし合わせた結果とは限らないことになります。
一方、J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が無料で提供している公報のデータベースです。INPITは、日本だけでなく欧米なども含む世界の特許・実用新案、意匠、商標、審決に関する公報情報を検索・閲覧できると案内しています。キーワードでの検索では、書誌的事項、分類(FI・Fターム・IPC)、要約、請求の範囲、公報全文などを対象に選ぶことが出来ます。
| 比べる点 | 汎用の生成AI | J-PlatPat | 専用のAI特許検索ツール |
|---|---|---|---|
| 中身 | 学習した文章とWeb検索から答えを組み立てる | 公報そのものを収めたデータベース | 公報のデータベースにAIの検索・分析機能を載せたもの |
| 網羅性 | 保証されない。検索した範囲も見えにくい | 検索式と対象範囲を自分で決めて、ヒット件数が分かる | データベースの収録範囲による |
| 最新性 | 学習時点やWeb検索の範囲に左右される | 収録範囲と更新の時期は公式の案内で確かめる | ツールの更新方針による |
| 得意なこと | 言い換え、要約、分解、下書き | 検索式による確実な母集団づくり | 文章の意味の近さで探す類似検索、分析の可視化 |
| 費用 | 無料版から法人契約まで | 無料 | 各社の料金体系による |
※J-PlatPatの運営者・料金・収録範囲・検索対象はINPITの公式ページとJ-PlatPatマニュアルの記載によります(2026年9月27日確認)。
生成AIの答えだけでは網羅性も最新性も保証されない
汎用の生成AIに「この技術の先行特許を教えて」と頼むと、それらしい公報番号と要約が返ってくることがあります。ところが、その番号が実在しない、実在しても中身が違う、権利がすでに消滅している、といった食い違いが起こりえます。Web検索の機能を使っても、検索エンジンに載っている範囲しか見ていないため、網羅性は分かりません。生成AIが返した特許の一覧は、調査結果ではなく検索のヒントとして扱いましょう。どの範囲を調べたかを説明できない結果は、出願の判断にも他社への回答にも使えないからです。
J-PlatPatは検索式と対象範囲を人が決めるため、何件ヒットし、そのうち何件を読んだかを記録に残せます。調査の網羅性はこの記録で説明することになり、生成AIの答えではこの説明ができません。
Web検索やリサーチ機能つきのAIを使う場合
最近の生成AIには、Webを検索して出典つきで答える機能や、時間をかけて多くのページを読んでレポートにまとめるリサーチ機能が付いているものがあります。出典のリンクが付くぶん、公報番号の確かめ直しはしやすくなりますが、検索エンジンに載っていない公報や、公開されて間もない公報は拾えない場合も出てきます。
こうした機能は、調査の入口で技術の全体像をつかむ用途や、論文・製品情報など公報以外の資料を探す用途に向いています。一方で、先行技術がないことの確認や、他社の権利がないことの確認に使うのは危うい使い方です。リサーチ機能のレポートに出てきた公報は、必ずJ-PlatPatで番号を入れて原文を開き、記載と日付を確かめてから調査の材料に加えてください。
出願から1年6か月は、原則として公報に出てこない
特許の出願は、出願の日から1年6か月が過ぎると、特許庁長官が出願公開をする決まりです(特許法第64条第1項)。出願人が出願公開の請求をした場合(第64条の2)や、それより前に特許になって特許掲載公報が出た場合は、もっと早く公報が出ます。言いかえると、他社が出願したばかりの発明は、多くの場合この期間が過ぎるまでJ-PlatPatにもほかのデータベースにも載ってきません。どれほど性能のよいAIや検索ツールを使っても、この空白の期間は埋められないと考えておきましょう。
そのため、調査報告には検索した日付を必ず書き、出願や製品の発売の直前に同じ式でもう一度検索し直す段取りにしておくと安心です。侵害予防調査では、一度調べて終わりにせず、半年ごとなど決めた間隔で新しく公開された公報を確かめる運用も考えられます。
Google Patentsなど海外の無料データベースを併用するとき
海外の公報まで調べたいときは、J-PlatPatの外国公報の検索に加えて、Googleが提供するGoogle Patents、欧州特許庁のEspacenet、世界知的所有権機関(WIPO)のPATENTSCOPEといった無料のデータベースも使えます。Google Patentsのヘルプには、100以上の特許庁の1億2,000万件を超える公報を収録していると書かれており、全文を索引化している特許庁の一覧には日本も入っています。一方で、同じヘルプには完全な網羅は保証できないとも書かれているので、注意が必要です。
Web検索つきのAIにGoogle Patentsの公報ページを探させ、近い公報や使われている用語、付いている分類に当たりをつけるやり方を紹介している特許事務所もあります。ただ、これはあくまで調査の入口での当たり付けと考えてください。見つかった公報は番号でJ-PlatPatを開いて原文と権利の状態を確かめ、母集団づくりはJ-PlatPatの検索式で行う、という順番は変えないほうがよいでしょう。
※出願公開の条文はe-Gov法令検索の特許法第64条・第64条の2、Google Patentsの収録範囲はGoogle Patentsのヘルプ、J-PlatPatの外国公報の検索はINPITの公式ページの記載によります。いずれも2026年10月17日に確認しました。
セマンティック(類似)検索と専用のAI特許検索ツール
セマンティック検索とは、キーワードが一致するかどうかではなく、文章の意味が近いかどうかで文献を探す検索の方式です。発明の説明文をそのまま入れると、言い回しが違っても内容の近い公報を並べてくれるため、検索語の漏れを補う手段として使うことが出来ます。この方式を公報のデータベースに組み込んだ専用のAI特許検索ツールもあり、類似検索のほか、分類の予測、出願動向の可視化、生成AIによる要約などを備えた製品が各社から出されています。
専用ツールは公報のデータベースを持っている点で、汎用の生成AIとは役割が違います。ただし、類似検索の並び順はツールのアルゴリズムで決まるため、上位に出なかった文献が無関係とは限りません。キーワードと分類で作った母集団と、類似検索の結果を突き合わせて漏れを確かめる使い方が無難です。どちらの場合も、発明の説明文を入力する時点で、そのツールが入力をどう扱うかを確認する必要が出てきます。
生成AIが得意な作業と苦手な作業
生成AIが力を発揮するのは、言葉を広げる、長い文章を短くする、文章を要素に分ける、決めた基準で振り分ける、といった読む・書く側の作業です。反対に、ある文献が存在するか、権利が生きているか、漏れがないか、という事実の確認は苦手としています。作業ごとに見ていきましょう。
同義語・検索キーワード・特許分類(FI/Fターム/IPC)の候補出し
特許の公報は、同じものを指すのに独特の言い回しを使うことが多く、検索語の漏れが調査の質を左右します。たとえば、日常の言葉で「ふた」と呼ぶものが、公報では「蓋体」「閉塞部材」「カバー部材」などと書かれていることがあります。生成AIは、こうした言い換えの候補を短時間でたくさん出すことが得意です。
特許分類の候補出しにも使えます。FIは日本の特許庁が使う分類、FタームはFIをさらに技術の観点ごとに細かく分けた日本独自の分類、IPCは国際特許分類を指します。AIに分類記号の候補を出させると当たりをつける時間は短くなりますが、記号そのものを間違えることもあります。出てきた記号はJ-PlatPatの分類照会で定義を読み、発明に合っているかを人が確かめてください。
公報と特許請求の範囲の要約・読解
公報は数十ページに及ぶことも珍しくなく、特許請求の範囲は1文が長く、読み慣れない方には意味を取るだけでも時間がかかります。生成AIに公報の本文を渡して、課題・解決手段・効果を数行にまとめさせると、読むべき公報かどうかの見当をつけやすくなります。
特許請求の範囲を構成要件に分けさせる使い方も有効です。「AとBを備え、BはCに接続され…」という長い請求項を、要件A・要件B・要件Cのように分解して表にさせると、自社製品や自社の発明と1つずつ比べられる形になります。分解の区切り方には解釈が入るため、分けた結果は原文と照らして確認し、判断が分かれそうな文言には印を付けておきましょう。
スクリーニングの一次判定
スクリーニングとは、母集団として集めた公報を1件ずつ見て、調査の目的に関係のありそうなものとなさそうなものに振り分ける作業です。数百件の公報を人がすべて読むのは負担が大きく、AIに判定基準を渡して一次の振り分けをさせる使い方が試されています。
このとき大事なのは、判定の基準を先に文章で決め、AIには基準に照らした理由を必ず書かせることです。理由のない判定は、人があとから確かめようがありません。関係なしと判定された公報の中にも取りこぼしが混じるため、一部を抜き出して人が読み、AIの判定と食い違いがないかを確かめる手順を入れてください。
AIに渡す前に材料をそろえる
AIの答えの質は、渡す材料の質に左右されます。公報をPDFのまま渡すと、段落番号や図面の説明が崩れて読み取られることがあり、要約の根拠がどこかを後から追いにくくなってしまいます。要約や振り分けに使う場合は、公報番号・要約・請求項1・関係しそうな段落を、段落番号つきのテキストとして渡す形にそろえてみてください。
1回に渡す量も調整が必要です。多くの公報を一度に渡すと、後ろのほうの公報の扱いが雑になったり、公報どうしの内容が混ざったりすることがあります。数件ずつに分けて同じ基準で判定させ、出力の形をそろえておくと、表計算ソフトで結果を1つにまとめやすくなるでしょう。
苦手な作業と、任せてはいけない判断
生成AIが苦手とするのは、公報番号の正確な引用、公開日や優先日の確認、権利が存続しているかといった法的な状態の確認、そして調べ漏れがないことの保証です。これらは特許データベースと人の確認で押さえる領域になります。
新規性や進歩性があるか、他社の特許を侵害するかといった結論は、法律の判断です。日本弁理士会の「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(令和7年4月)も、生成AIを利用して得られた生成物は正確性が保証されたものではないとしたうえで、最終的には弁理士が責任をもって提供するべきとしています。AIの出力は判断の材料であり、判断そのものではないと位置づけてください。
| 作業 | AIに任せやすさ | 人が必ずやること |
|---|---|---|
| 同義語・言い換えの洗い出し | 任せやすい | 技術的に意味が違う語を外す |
| 特許分類の候補出し | 当たりをつける用途なら可 | 分類照会で定義を読んで採否を決める |
| 公報の要約 | 任せやすい | 要約と原文の食い違いを抜き取りで確かめる |
| 請求項の構成要件の分解 | 下書きなら可 | 区切り方と文言の解釈を確かめる |
| スクリーニングの一次判定 | 基準と理由を書かせれば可 | 関係なし判定の抜き取り確認 |
| 公報番号・公開日・優先日の特定 | 任せない | J-PlatPatの文献表示で確認する |
| 権利の存続・法的状態 | 任せない | 権利の状態を特許データベースで確認する |
| 新規性・進歩性・侵害の結論 | 任せない | 弁理士・弁護士が判断する |
J-PlatPatで母集団を作り、AIで絞る7つの手順
特許調査にAIを組み込むときは、J-PlatPatで検索式を組んで母集団を作り、AIで読む量を減らし、残った公報を人が読んで判断する順番が扱いやすくなります。ここでは出願前調査を例に、画面の名前を添えて手順を並べました。侵害予防調査や無効資料調査でも、骨組みは同じです。
手順1:調べたいことを1枚の調査メモにする
最初に、調査の目的、発明の要点、調べる期間、対象の国を1枚のメモに書き出します。発明の要点は、課題・解決手段・効果の3つに分けて短く書くと、あとでAIに渡す依頼文にも使える形になります。この段階では、出願前の発明の中身を外部のAIに入れる必要はありません。メモは人が書き、AIに渡すかどうかは後半で説明する判定表で決めてください。
手順2:検索語と分類の候補をAIに出させる
発明の要点を一般的な言葉に置き換えたうえで、同義語・言い換え・上位概念・下位概念の候補をAIに出させます。社名や製品名、未公開の数値や配合は書かずに、「液体を密閉する容器のふた」のように技術の種類だけを伝える書き方で足ります。分類記号の候補も同時に出させておくと、次の手順が早く進むでしょう。
手順3:特許・実用新案分類照会(PMGS)で分類を確かめる
AIが出した分類記号は、J-PlatPatの特許・実用新案分類照会(PMGS)で1つずつ確かめます。コード照会のタブで記号を入れると分類表示の画面で定義を読むことができ、FタームのリストやIPCとの対応も確認できます。発明に合わない記号はここで外し、足りない記号があれば分類表の近くの項目から拾ってください。
手順4:特許・実用新案検索で検索式を組む
グローバルナビゲーションの「特許・実用新案」から「特許・実用新案検索」を開き、選択入力のタブで検索条件を組みます。検索項目で、要約・請求の範囲・全文などの対象を選び、キーワードと分類を組み合わせ、日付指定で調べる期間を絞る流れです。キーワードだけの式、分類だけの式、両方を掛け合わせた式を作っておくと、どこで漏れが出ているかを比べやすくなるでしょう。
検索式は、最初から1本で完成させようとせず、性質の違う式を並べて組むほうが漏れを見つけやすくなります。たとえば、先ほどの片手で開け閉めできるふたの例であれば、次のような3本の式を作って結果を比べる形が考えられます。
| 式 | 組み立て方 | ねらい | 確かめること |
|---|---|---|---|
| 式1 キーワード中心 | (蓋 OR 蓋体 OR キャップ OR 閉塞部材)AND(片手 OR ワンタッチ OR 一方の手)を要約・請求の範囲で検索 | 言い回しで拾う | AIが出した言い換えの採否、ノイズの多さ |
| 式2 分類中心 | PMGSで定義を確かめたFI・Fタームを組み合わせて検索 | 言い回しが違っても分類で拾う | 分類の付け方の揺れで漏れていないか |
| 式3 掛け合わせ | 式1のキーワードの一部と、式2の分類を掛け合わせる | 件数を読める規模に絞る | 式1・式2にあって式3にない公報の中身 |
※表の語と式の形は説明のための例です。分類記号は発明ごとにPMGSで定義を確かめて選んでください。OR・ANDの組み立て方を含む検索条件の入力方法は、J-PlatPatマニュアルで確認できます。
式1と式2の両方にヒットした公報は関係が深い可能性が高く、片方にだけヒットした公報は、言い回しか分類のどちらかで漏れていた候補ということになります。この差分を読むと、検索語をAIで広げた効果がどれくらいあったかを手早く確かめられるでしょう。
手順5:検索結果一覧から母集団を確定し、記録を残す
検索ボタンを押すと検索結果一覧の画面に移り、ヒットした件数が表示されます。件数が多すぎれば条件を足し、少なすぎれば同義語や分類を広げて、読む対象として無理のない件数に調整してください。使った検索式・日付・ヒット件数は必ず記録しておきます。調査の網羅性を後から説明できるのは、この記録だけだからです。
INPITは、J-PlatPatの利用上の注意として、大量データのダウンロードや、プログラムによる定期的な自動データ収集のようなロボットアクセスを禁止しています。AIに渡すために公報を機械的に大量取得するのではなく、画面で確認しながら必要な件数を扱う運用にとどめましょう。
手順6:公開済みの公報をAIに読ませて振り分ける
母集団の公報の要約や請求項を、判定基準と一緒にAIに渡して一次の振り分けをさせます。ここで扱うのは公開済みの公報なので、情報の性質としてはAIに入れても問題の少ない材料です。一方で、判定基準を書くときに自社の未公開の発明の詳細を書き込むと、その時点で入力の中身が変わってしまいます。判定基準は公報側の技術の特徴で書き、自社の発明と突き合わせる工程は、後で説明する入力先の区分に沿って行いましょう。
手順7:残った公報を人が読み、結論と記録をまとめる
AIが関係ありと判定した公報は人が原文で読み、関係なしと判定した公報からも一部を抜き出して読みます。関係の深い公報は、文献表示の画面で請求項・図面を読み、権利の状態も確かめたうえで、対比表にまとめてください。最後に、調べた範囲・検索式・読んだ件数・AIに任せた工程を調査報告に書き残すと、社内の判断にも特許事務所への相談にも使える記録になります。
| 手順 | 使う画面・道具 | 担当 | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| 1 調査メモ | 社内の文書 | 人 | 目的・発明の要点・期間・国 |
| 2 検索語と分類の候補 | 生成AI | AI→人 | 採用した語と外した語 |
| 3 分類の確認 | 特許・実用新案分類照会(PMGS) | 人 | 採用した分類記号と定義 |
| 4 検索式 | 特許・実用新案検索(選択入力) | 人 | 検索式・対象項目・日付 |
| 5 母集団の確定 | 検索結果一覧 | 人 | ヒット件数・調整の経緯 |
| 6 一次の振り分け | 生成AI(公開済み公報のみ) | AI | 判定基準・判定と理由 |
| 7 精読と結論 | 文献表示 | 人 | 対比表・抜き取り確認の結果・結論 |
※画面名はJ-PlatPatマニュアルの記載によります。J-PlatPatの利用上の注意はINPITの公式ページによります(いずれも2026年9月27日確認)。画面の構成は変更される場合があります。INPITは刷新(2029年1月予定)に向けた検討項目として、ヘルプサービスの見直しにAIの活用を挙げていますが、これは検討中の項目として公表されたものです(令和8年5月8日更新版で確認)。
調査報告のひな形
手順7でまとめる調査報告は、AIを使った工程が分かる形にしておくと、社内の判断にも特許事務所への相談にもそのまま使えます。次のひな形を、調査のたびに埋めてみてください。
特許調査報告(社外秘) 1. 調査の種類:出願前調査/侵害予防調査/無効資料調査/技術動向調査 2. 目的: 3. 調査の範囲 ・対象の国と文献の種類: ・期間(日付指定): ・検索日: 4. 検索式とヒット件数 ・式1(キーワード中心): 件 ・式2(分類中心): 件 ・式3(掛け合わせ): 件 ・採用した分類記号と、PMGSで確認した定義: 5. AIに任せた工程 ・使ったサービスとプラン(会社契約か個人か): ・入力した情報の種類(公開済みの公報のみ/一般化した技術説明/その他): ・任せた作業(検索語の候補出し/要約/一次の振り分け/対比表の下書き): 6. 人の確認 ・原文で読んだ件数: ・関係なし判定からの抜き取り件数と、食い違いの件数: 7. 関係の深い公報と対比表(別紙) 8. 結論と、その判断をした人: 9. 残っている課題(調べ切れていない範囲など):
5番目の欄に入力した情報の種類を書かせているのは、調査の記録と同時に、未公開の情報を外に出していないことの記録にもなるからです。個人のアカウントを使ったと書く欄があることで、使ってよい環境を意識するきっかけにもなります。
特許調査に使えるプロンプト例
プロンプトは、AIに渡す依頼文のことで、特許調査では役割・対象・基準・出力の形を先に書いておくと答えのぶれが小さくなります。以下の例は、公開済みの公報か、一般的な言葉に置き換えた技術の説明だけを入れる前提で書いています。自社の未公開の発明をそのまま貼り付ける使い方は想定していないため、入力先の判定表を確認したうえで調整してください。
同義語と検索キーワードを洗い出すプロンプト
あなたは特許調査の補助者です。 次の技術について、日本の特許公報で使われやすい言い換えを洗い出してください。 【技術の説明(一般的な言葉で)】 液体を入れた容器の口を、片手で開け閉めできるふたの構造 【出してほしいもの】 1. 同義語・言い換え(公報でよく使われる硬い表現を含める) 2. 上位概念の語(より広い言い方) 3. 下位概念の語(より具体的な言い方) 4. 検索で除外したほうがよい紛らわしい語 5. 当たりをつけるための特許分類(FI・IPC)の候補と、その分類を選んだ理由 【条件】 ・分類記号は候補として示し、確実でないものには「要確認」と付けてください ・存在を確かめていない公報番号は書かないでください ・表の形で出力してください
出てきた語は、そのまま検索式に入れず、技術的に意味が違うものを人が外してから使います。分類の候補はPMGSで定義を読むまで採用しないという順番を守ると、AIの間違いが検索式に入り込みにくくなるでしょう。
検索式のたたき台を作らせ、漏れを点検させるプロンプト
あなたは特許調査の補助者です。 次の材料をもとに、J-PlatPatの「特許・実用新案検索」で使う検索式のたたき台を作ってください。 【調べたいこと】 (出願前調査・侵害予防調査など、調査の種類と目的を1行で) 【技術の説明(一般的な言葉で)】 液体を入れた容器の口を、片手で開け閉めできるふたの構造 【使ってよい材料】 ・人が採用を決めた検索語:(同義語のプロンプトで出し、人が選んだ語を貼り付け) ・PMGSで定義を確かめた分類:(FI・Fタームを貼り付け) 【出してほしいもの】 1. キーワードだけの式、分類だけの式、両方を掛け合わせた式の3本 2. それぞれの式で、どの語をORでまとめ、どこをANDでつないだかの説明 3. 漏れが出やすいと考える点(言い換えの不足、分類の付き方の違いなど) 4. ヒット件数が多すぎたとき・少なすぎたときに、どこを足し引きするかの案 【条件】 ・上の材料にない語や分類を足すときは、「追加の提案」として分けて書いてください ・J-PlatPatの入力欄にそのまま打ち込める書き方か分からない部分には、「要確認」と付けてください ・公報番号やヒット件数を推測で書かないでください
AIが出した式はそのまま使わず、人がJ-PlatPatの検索画面に打ち込み直し、ヒット件数を見ながら調整します。最初の数十件をざっと読んで関係のない公報ばかりなら、どの語が紛れ込みの原因になっているかをAIにもう一度聞いてみるのも1つの手です。すでに分かっている重要な公報が母集団に入っているかを確かめると、式の漏れにも気づきやすくなるでしょう。
請求項を構成要件に分解するプロンプト
次の特許請求の範囲(請求項1)を、構成要件ごとに分けてください。 【請求項1の原文】 (J-PlatPatの文献表示からコピーした公開済みの請求項を貼り付け) 【出力の形】 | 記号 | 構成要件(原文の文言のまま) | 平易な言い換え | 解釈が分かれそうな点 | ・記号は A、B、C… の順に付けてください ・原文の文言は変えずに区切るだけにしてください ・解釈が分かれそうな文言(「略」「近傍」「一体に」など)には理由を書いてください ・あなたの判断で要件を足したり省いたりしないでください
このプロンプトは、侵害予防調査で他社の請求項を読むときにも、無効資料調査で対象特許を分けるときにも使えます。区切り方の最終判断は人が行い、分解表の余白に確認者と日付を書いておくと、あとで見返したときに誰の判断かが分かります。
スクリーニング判定のプロンプト
あなたは特許調査のスクリーニング担当です。 以下の判定基準に照らして、各公報を A・B・C の3段階で判定してください。 【判定基準】 A:次の特徴1と特徴2の両方が記載されている B:特徴1または特徴2の一方だけが記載されている C:どちらも記載されていない 特徴1:(公報側の技術の特徴として一般的な言葉で書く) 特徴2:(同上) 【公報】 公報番号:(J-PlatPatで確認した番号) 要約:(貼り付け) 請求項1:(貼り付け) 【出力の形】 | 公報番号 | 判定 | 特徴1の該当箇所(原文を引用) | 特徴2の該当箇所(原文を引用) | 判定の理由 | ・該当箇所は公報の原文から引用し、要約した文を引用として書かないでください ・判断に迷う場合は B とし、迷った理由を書いてください
判定をCにした公報は読まないで済む、という使い方は避けたほうが無難です。Cの中から一定の割合を抜き出して人が読み、Aに上がるべきものが混じっていないかを確かめてみてください。混じっていた場合は、判定基準の書き方を直してから、もう一度振り分けをやり直します。
新規性の検討用に対比表を作るプロンプト
次の構成要件の一覧と、先行技術の公報を比べて、対比表の下書きを作ってください。 【構成要件の一覧】 A:(一般的な言葉で書いた要件) B:(同上) C:(同上) 【先行技術の公報】 公報番号:(確認済みの番号) 該当しそうな段落:(段落番号とともに原文を貼り付け) 【出力の形】 | 構成要件 | 公報の記載(段落番号と原文) | 一致・相違・不明 | コメント | ・記載が見つからない場合は「記載なし」とし、推測で補わないでください ・一致かどうかの最終判断はしないでください。候補として示してください
この表はあくまで下書きで、新規性や進歩性の結論は弁理士が出すものです。構成要件の一覧に自社の未公開の発明をどこまで書くかは、入力先によって変わってきます。社外に出ても困らない一般化した書き方にするか、会社として契約した環境で扱うかを決めてから使いましょう。
技術動向をまとめるプロンプト
以下は、J-PlatPatで検索した公開済みの公報の一覧です(公報番号・出願人・出願日・要約)。 この一覧だけを材料に、技術動向を整理してください。 【整理してほしいこと】 1. 要約の内容から、技術の切り口を5〜8個に分けたグループと、各グループの件数 2. 出願人ごとの件数と、各出願人が多く出しているグループ 3. 出願日の年ごとに見て、件数が増えているグループ・減っているグループ 4. 一覧の中で、ほかと性質が大きく違う公報(外れ値) 【条件】 ・一覧にない公報や、一覧にない出願人の情報を足さないでください ・件数は一覧から数えた数だけを書き、推計はしないでください ・グループ分けの基準を最初に文章で示してください 【公報の一覧】 (貼り付け)
技術動向調査は、他社の公開済みの公報だけで完結するため、入力の面では扱いやすい調査です。件数の集計はAIが数え間違えることもあるので、表計算ソフトで数え直した値を報告に使い、AIにはグループ分けの案と読み取りの材料を出させる、という分担にしておくと安心でしょう。
侵害予防調査で自社製品と比べるときの注意
侵害予防調査では、他社の請求項を分解した表と、自社製品の仕様を並べる作業が出てきます。ここで自社製品の仕様をそのままAIに入れると、未発売の製品であれば未公開の情報を渡すことになってしまいます。構成要件の分解までは公開済みの公報だけで進め、自社製品との当てはめは、会社として契約した環境で行うか、人が表を見ながら行うかを先に決めておきましょう。
次の構成要件の分解表(他社特許・請求項1)について、自社製品の仕様と比べるための確認項目を作ってください。 【構成要件の分解表】 (公開済みの請求項から作った表を貼り付け) 【出力の形】 | 構成要件 | 自社製品で確かめるべき点 | 確かめ方(図面・仕様書・実物のどれで見るか) | 解釈が分かれそうな文言 | ・自社製品の仕様はこちらで記入するので、推測で埋めないでください ・侵害するかどうかの判断は書かないでください
このように、AIには確認項目の一覧を作らせ、自社製品の中身は人が記入する形にすると、未公開の仕様を入力せずに作業を進められます。当てはめの結論は、請求項の解釈を含むため弁理士や弁護士に確認してください。
NotebookLM(Gemini Notebook)で公報を読み込む使い方
Googleの資料読み込み型のAIであるNotebookLMは、2026年7月からGemini Notebookという名前に変わりました。公報のPDFをソースとして読み込ませ、その中の記載だけを根拠に質問へ答えさせる使い方ができるため、複数の公報を並べて読み比べる作業に向いています。無料のプランではノートブックあたり最大50件のソースを扱えると案内されており、母集団をさらに絞った後の精読に使いやすい規模でしょう。
データの扱いについては、個人ユーザーとして使う場合でも、フィードバックを共有しない限りデータがトレーニングに使用されることはない、というのがGoogleの説明です。ただし、高評価・低評価のフィードバックを送ると、関連するソースやプロンプトが収集されて担当チームのレビューを受けることがあり、ヘルプにはフィードバックに機密情報を含めないよう書かれています。公開済みの公報を読むぶんには大きな問題になりにくい一方、未公開の発明の資料を個人のアカウントで読み込ませる使い方は別に考える必要があります。
※Gemini Notebook(旧NotebookLM)の名称・ソース数・データの扱いは、Googleの公式サイトとヘルプの記載によります(2026年9月16日確認の記録を使用)。Workspaceのアカウントでは、フィードバックを提供してもアップロードや回答が生成AIモデルのトレーニングに使われないと案内されています。
ハルシネーション・誤判定と、人による最終確認
ハルシネーションとは、生成AIが事実と異なる内容を、もっともらしい文章で答えてしまう現象です。特許調査では、実在しない公報番号、公報にない記載の引用、公開日や出願日の取り違えとして現れることが多く、読み手が専門家でも気づきにくい形をとります。
日本弁理士会のガイドラインは、生成された情報の真偽を確かめるファクトチェックは必ず弁理士によって行う必要があると述べ、情報が古い場合もあるため最新の情報に基づいて確かめることも重要としています。企業の知財部が自社で調査する場合も、同じ考え方で確認の工程を組むとよいでしょう。AIが示した公報番号と引用は、J-PlatPatの原文で1件ずつ照合するまで使わないでください。
確認の工程は、AIを使う前に決めておくと抜けが出にくくなります。次のチェックリストを調査報告の末尾に付けて、確認した人の名前と日付を書く運用にしてみてください。
- 公報番号が実在するかJ-PlatPatの文献表示で開けるか、番号の種別(公開・公表・登録など)が合っているかを確かめる
- 引用した記載が原文にあるか段落番号とともに原文を開き、AIの引用が要約や言い換えになっていないかを見る
- 公開日と優先日の前後関係出願前調査・無効資料調査では、比べる相手の日付より前に公開されているかが結論を左右する
- 権利の法的な状態侵害予防調査では、存続中か、消滅したか、出願中かを特許データベースで確認する
- 調べた範囲の記録検索式・日付・ヒット件数・AIに任せた工程・抜き取り確認の件数を書き残す
- AIの判定と人の判定の食い違い抜き取り確認で食い違った件数と、判定基準をどう直したかを記録する
- 結論を出した人新規性・進歩性・侵害の見立ては、弁理士または社内の責任者の名前で出す
抜き取り確認の件数を決めておく
スクリーニングをAIに任せる場合、関係なしと判定された公報をどれだけ人が読むかを、調査を始める前に決めておきます。件数を後から決めると、時間が足りないときほど確認が薄くなってしまうからです。決め方に正解はありませんが、たとえば次のような目安を所内・社内で持っておくと運用しやすくなります。
| 調査の種類 | 関係あり(A・B)の扱い | 関係なし(C)の抜き取り | 食い違いが見つかったとき |
|---|---|---|---|
| 技術動向調査 | 要約を中心に読む | 少なめでよい | 基準を見直して分類し直す |
| 出願前調査 | 全件を原文で読む | 一定の割合を読む | 基準を直して全件を振り分け直す |
| 侵害予防調査・無効資料調査 | 全件を原文で読む | 多めに読む、または全件を人が読む | AIの振り分けを使わず人が読む範囲を広げる |
※抜き取りの割合は法令や指針で決まったものではなく、調査の目的と予算に応じて決める運用上の目安です。
食い違いが1件でも見つかったときは、その公報がなぜ関係なしと判定されたのかをAIの理由欄で確かめてみてください。判定基準の書き方があいまいだったのか、公報の記載が別の言い回しだったのかが分かれば、基準を書き直して精度を上げることが出来ます。
確認にかかる時間も見込んでおく
AIを使うと読む時間は短くなりますが、確認の工程が新しく加わるため、調査全体の時間が思ったほど減らないこともあります。公報番号の照合、引用の確認、抜き取りの精読は、どれも人の手で行う作業です。調査の見積もりを立てるときは、AIに任せる時間だけでなく、確かめる時間も別の行として書いておくと、締め切り前に確認を省く事態を避けやすくなります。
最初の数件は、AIを使った場合と使わなかった場合の時間を記録して比べてみるのも1つの方法です。どの工程で時間が減り、どの工程で増えたかが分かれば、AIに任せる範囲を広げるか絞るかを、感覚ではなく記録で決めることが出来ます。
2つのAIで判定を突き合わせる
誤判定を減らす工夫としては、同じ公報を2つの異なるAIに判定させ、答えが分かれたものを人が優先して読む方法もあります。答えが一致したから正しいとは言えませんが、食い違いは人が見るべき箇所の目印になるでしょう。AIごとの特徴は主要4AIの違いと使い分けにまとめています。
専用ツールの料金体系と、汎用AIとの役割分担
専用のAI特許調査ツールは、公報のデータベースと検索・分析の機能をまとめて提供する製品で、料金は各社が公式ページで示す体系によって大きく異なります。無料で試せるプランを用意しているもの、利用者の人数ごとに料金がかかるもの、生成AIの機能を別のオプションとしているもの、使った量に応じて費用が増えるものなど、組み立て方はさまざまです。金額を比べる前に、自社の調査の頻度と使う人数に合った体系かどうかを確かめてみてください。
専用ツールの検討で確かめておきたいのは、次のような点になります。
- 無料プランで使える範囲(検索できる国・件数・期間、生成AI機能の有無)
- 料金の単位(利用者ごと、組織ごと、利用量ごと)と、年契約かどうか
- 生成AIの機能が標準か、別料金のオプションか
- 入力した発明の説明文や、アップロードした資料をどう扱うか(学習への利用、保存期間、秘密保持の規約)
- 検索結果や分析結果を社外へ出すときの利用条件
無料のJ-PlatPatで母集団を作れる会社であれば、専用ツールを入れずに、汎用の生成AIを会社として契約して読む・書く作業に使う組み合わせも選択肢に入ります。反対に、侵害予防調査を定期的に行う知財部や、無効資料調査を多く請け負う事務所では、類似検索や分析の機能を持つ専用ツールの価値が大きくなります。
| 役割 | J-PlatPat(無料) | 専用のAI特許調査ツール | 汎用の生成AI(会社契約) |
|---|---|---|---|
| 母集団づくり | 検索式で確実に作れる | 類似検索で漏れを補える | 向かない |
| 分類の確認 | 分類照会で定義を読める | 分類予測の機能を持つ製品がある | 候補出しまで |
| 公報の要約・振り分け | 対象外(人が読む) | 製品の機能による | 向いている |
| 明細書・意見書の下書き | 対象外 | 製品による | 向いている(入力先の条件を満たす場合) |
| 社内の他業務への転用 | できない | 特許業務に限られる | 契約書・メール・議事録などにも使える |
専用ツールを試すときの進め方
専用ツールの無料プランや試用を使う場合は、過去に自分たちで行った調査を1件選び、同じテーマで検索して結果を比べる方法が分かりやすいでしょう。すでに結論が分かっている調査であれば、重要な公報が上位に出てくるか、J-PlatPatの検索式で拾えなかった公報が見つかるかを、その場で確かめられます。
試す段階では、未公開の発明の説明文を入れず、公開済みの自社特許や他社の公報の文章を検索の起点にしてください。入力の扱いは、試用の段階でも本契約と同じ規約が適用されるとは限りません。ツールの評価は、検索の精度、使う人の手間、費用、入力の扱いの4つの観点で記録しておくと、導入を決めるときの比較がしやすくなります。
専用ツールは調べる側、汎用の生成AIは読む・書く側と役割を分けて考えると、二重に費用をかける範囲がはっきりします。どちらを選ぶ場合も、発明の説明文を入れる前に入力の扱いを規約で確かめる点は共通です。
入力の扱いが規約ごとに違うなら、使ってよい環境を会社で1つ決めておくことが出発点になります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
出願前の発明をAIに入れるときの新規性と守秘義務
出願前の発明を外部のAIに入れる行為は、使うAIの規約や設定によっては新規性の喪失や守秘義務違反のおそれにつながる、という点を押さえておく必要があります。企業の知財担当にも特許事務所にも関係する論点で、調べる作業より書く作業で問題になりやすい部分です。入力しただけで直ちに発明が公知になると決まっているわけではありませんが、そう主張されるリスクを自分から作らない使い方が大切になってきます。
特許法第29条:出願前に公然知られた発明は特許を受けられない
特許法第29条第1項は、産業上利用できる発明をした者が特許を受けられるとしたうえで、例外として新規性のない発明を挙げる構成です。1号は「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」、2号は「公然実施をされた発明」を指し、3号は「頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明」と定めています。同条第2項は、その分野の知識を持つ人が容易に発明できたときも特許を受けられないとしており、これが進歩性の要件になります。
ここで問題になるのが、秘密を守る義務のない第三者に発明の内容が伝わったときです。秘密保持の約束のない相手に発明を話したり渡したりすると、公然知られた状態に当たると判断される余地が生まれます。生成AIのサービスは提供者という第三者が運営しているため、入力した内容がどう扱われるかを規約で確かめないまま発明を入れるのは、この余地を自分から作ることになってしまいます。
第30条の新規性喪失の例外は救済策であり、前提にしない
特許法第30条は、発明の新規性の喪失の例外を定めています。意に反して公知になった場合(第1項)や、自らの行為に起因して公知になった場合(第2項)でも、その日から1年以内に出願すれば、公知にならなかったものとみなされる仕組みです。第2項の適用を受けるには、その旨を記載した書面を出願と同時に提出し、それを証明する書面を出願の日から30日以内に提出する必要があると第3項に書かれています。
この例外は、公知になってしまった後の救済策であって、AIに入れても大丈夫という根拠にはなりません。要件を満たすかどうかは事案ごとに弁理士への確認が必要で、最終的には審査で判断されることになります。手続きの期限を過ぎると使えなくなってしまいます。第30条の例外を当てにして、出願前の発明をAIに入れる運用は避けましょう。海外に出願する予定がある場合は、国ごとに例外の扱いが異なる点にも注意が必要です。
※条文は e-Gov 法令検索の特許法(昭和34年法律第121号)第29条・第30条によります(2026年9月27日確認)。第30条第4項には、その責めに帰することができない理由で証明書を期間内に出せないときの特例も定められています。
日本弁理士会のガイドラインが示す3つの注意
日本弁理士会は令和7年4月に「弁理士業務AI利活用ガイドライン」を公表し、弁理士が生成AIを業務で使うときの注意を整理しています。特許調査と明細書作成に関係の深い記載は、次の3つになります。
| 論点 | ガイドラインの記載(原文) | 実務での読み方 |
|---|---|---|
| 守秘義務(第4章2(1)) | 外部事業者が提供する生成AIに、秘密情報を入力する行為は、生成AI提供者という第三者に秘密情報を開示することになるため、守秘義務に違反するおそれがあり、また秘密保持契約を締結している場合には契約上の義務違反となるおそれがある。 | 入力は第三者への開示に当たりうる。学習されるかどうかとは別の問題として考える |
| 新規性の喪失(第4章2(2)) | 秘密保持規約のない第三者のプラットフォームに情報を載せた場合には新規性を喪失する可能性がある。生成AIの利活用にあたっては、どのような生成AIを使うか(秘密保持規約等のあるプラットフォームか、ないプラットフォームか)確認する必要がある。 | 確かめる対象は学習の設定だけでなく、秘密保持の規約があるかどうか |
| クライアントの合意(第4章4) | クライアントから得た秘密情報を生成AIに入力する場合は、学習の有無によらずクライアントに合意を取るべきである。 | 学習に使われない環境でも、合意を取る手続きは省けない |
※日本弁理士会「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(令和7年4月)のPDF本文によります(2026年9月27日確認)。同ガイドラインは、明細書作成に生成AIを使ってよいか悪いかを一律に示したものではありません。
特許事務所の弁理士には、弁理士法第30条の秘密を守る義務もかかります。条文は、弁理士又は弁理士であった者は正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないと定めています。第77条は事務所の使用人その他の従業者にも同じ義務を課しており、違反には第80条で6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が定められています(告訴が必要な罪です)。弁理士だけでなく、事務スタッフがAIを使う場面も同じ線の内側にあるということになります。士業全般の守秘義務と生成AIの関係は、士業の生成AI活用で横断的に整理しています。
共同開発の相手や外部の委託先が使うAIにも目を向ける
未公開の発明を扱うのは、自社や自分の事務所の中だけとは限りません。共同開発の相手先、試作や評価を頼む委託先、翻訳会社などにも発明の情報は渡っていきます。秘密保持契約を結んでいても、相手先の担当者が個人のAIに資料を入れてしまえば、同じ問題が相手先の側で起きることになります。
秘密保持契約を新しく結ぶときや見直すときは、受け取った秘密情報を外部の生成AIに入力してよいか、入力してよい場合はどのような条件の環境に限るか、を条項や覚書で取り決めておく方法があります。すでに結んでいる契約の解釈で足りるかどうかは、契約の文言によって変わるため、法務の担当者や弁護士と確認してみてください。
入力してしまったと気づいたときの初動
未公開の発明を個人のAIに入れてしまったと気づいたときは、慌てて会話を消すより先に、何をいつどこに入れたかを記録することが大切です。記録がなければ、弁理士が新規性への影響や例外の要否を検討する材料がそろいません。
- 入力した日時、使ったサービスとプラン、アカウントの種類(個人か会社か)、学習の設定を書き留める
- 入力した内容の範囲(発明のどの部分か、図面や数値を含むか)を控える
- 知財担当または担当弁理士に、その日のうちに報告する
- 弁理士が、出願の予定時期の見直しや、新規性喪失の例外の適用の要否を検討する
- クライアントの情報であれば、事務所の方針に沿ってクライアントへの報告を検討する
会話の削除や学習設定の変更は、弁理士や管理責任者と相談してから行ってください。削除しても提供者の側で一定期間保持される場合があり、削除したことで入力の範囲が確かめられなくなることもあります。報告した人を責めない雰囲気があるかどうかで、この初動の早さは大きく変わってきます。
未公開の発明が個人のAIに入ってしまう経路
未公開の発明が外部のAIに入るのは、誰かが意図して流す場面より、日々の作業の延長で起きる場面のほうが多いでしょう。開発者が発明提案書の文章を整えようとして個人のチャットに貼る、知財担当が先行技術との違いを整理しようとして発明の説明を入れる、事務スタッフがクライアントから届いた技術資料を要約させる、といった経路が考えられます。
こうした使い方の多くは、個人で登録した無料版や個人向けの有料版で行われます。OpenAIは、個人向けのChatGPTでは入力がモデルのトレーニングに使われることがあると説明しており、Free・Plus・Proの個人用ワークスペースではデータ共有が既定で有効になっています。設定でオフにできるとはいえ、オフにするのは本人の画面での操作で、会社からは誰がどの設定で使っているかが見えにくくなってしまいます。
もう1つの経路が、会社として使うAIが決まっていない状態そのものです。使ってよい環境が示されていないと、社員は手元にある個人のアカウントで作業を進めることになり、どの発明がどのサービスに入ったかを後からたどれません。会社が認めていないAIを社員が業務に使う状態は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、その見つけ方と対策は野良AI(シャドーAI)の対策で扱っています。特許の世界では、この状態が新規性と守秘義務の両方に関わってくる点が、ほかの業務より重くなるところです。
入力先3区分と情報の種類で見る判定表
AIに入れてよいかどうかは、入れる情報の種類と、入れる先の環境の組み合わせで決まります。入れる先は、個人の無料版、個人版で学習をオフにしたもの、会社として契約し入力を学習に使わない条件と秘密保持の規約を確かめたもの、の3つに分けると判断しやすくなるでしょう。次の表は、特許事務所と企業の知財部が所内・社内ルールを作るときのたたき台として使えるよう、情報の種類ごとに目安をまとめたものです。
| 情報の種類 | 個人の無料版(学習設定が既定のまま) | 個人版で学習をオフ | 会社契約(学習に使わない・秘密保持の規約を確認済み) |
|---|---|---|---|
| 公開済みの公報・J-PlatPatの検索結果 | ○ 公開情報のため入れてよい。ただし業務の記録は残らない | ○ | ○ 調査の記録を会社で残せる |
| 一般的な言葉に置き換えた技術の説明(社名・数値なし) | △ 置き換えの程度を人が確認してから | △ | ○ |
| 自社の未公開の発明(発明提案書・実験データ) | × 入れない | × 規約上の秘密保持を個人で確かめきれないため入れない | △ 社内ルールで認めた範囲と担当者に限る |
| 明細書・特許請求の範囲の下書き(出願前) | × | × | △ 社内ルールと、事務所ならクライアントの合意の範囲で |
| 拒絶理由通知への補正案・意見書案 | × | × | △ 同上。公開済みの出願でも補正案は未公開の情報を含む |
| クライアントの秘密情報(特許事務所) | × | × | △ 学習の有無によらずクライアントの合意が前提 |
| 出願人名・事件番号・発明者名 | × | × | △ 作業に不要なら伏せる |
※○は入れてよい、△は条件付き、×は入れない、の目安です。法的な判断や、個別のサービスの規約が秘密保持の規約に当たるかの判断ではありません。会社契約の列でも、クライアントの合意と所内・社内ルールが別途必要になります。日本弁理士会ガイドライン(令和7年4月)の記載を参考にした目安です(2026年9月27日確認)。
調べる作業と書く作業で線を引く
判定表を見ると、特許業務のAI活用は、調べる作業と書く作業で性質が大きく分かれることが分かります。調べる作業で扱う公開済みの公報は、すでに世の中に出ている情報です。これに対して、書く作業で扱う発明提案書、明細書の下書き、補正案は、出願や提出の前の段階では未公開の情報にあたります。
調べる作業は、入力先を選ぶ条件が比較的ゆるく、社員の手元のAIでも始めやすい領域です。書く作業は、会社として入力先を決め、使ってよい人と範囲を決めてから始める領域だと考えてください。未公開の発明を扱う書く作業は、会社として決めた環境の中でだけ行いましょう。同じ人が同じ日に両方の作業をすることも多いため、使う環境を作業ごとに切り替えるより、書く作業にも耐える環境を1つ決めて全員がそこを使う形のほうが、取り違えが起きにくくなります。
判定表を3つの場面に当てはめる
判定表は、実際の場面に当てはめてみると使い方がはっきりします。社内や所内でよく起きそうな3つの場面で考えてみましょう。
1つ目は、開発者が発明提案書の文章を読みやすく整えたい場面です。提案書は自社の未公開の発明そのものなので、判定表では個人の無料版も学習オフの個人版も×になります。会社として契約した環境があり、社内ルールで提案書の下書きへの利用を認めているなら、その環境の中で整える形になるでしょう。環境がまだない会社では、AIを使わずに知財担当が一緒に整えるか、環境を用意してから使うかのどちらかを選ぶことになります。
2つ目は、知財担当が先行技術の公報と自社の発明の違いを整理したい場面です。公報の要約や請求項の分解までは公開済みの情報なので、どの環境でも進められます。ただし、違いを整理する段で自社の発明の特徴を書き込むと、入力の中身は未公開の発明に変わってしまいます。作業を2つに分け、公報側の整理はどこでも、自社の発明との突き合わせは会社契約の環境か人の手で、と切り分けるのが無理のない進め方です。
3つ目は、特許事務所の事務スタッフが、クライアントから届いた技術資料を要約して担当弁理士に渡したい場面になります。技術資料はクライアントの秘密情報にあたるため、会社契約の環境であっても、クライアントの合意と所内ルールで認めた範囲かを先に確かめる必要があります。弁理士法第77条は使用人その他の従業者にも秘密を守る義務を課しているため、事務スタッフの作業も弁理士の作業と同じ基準で考えてください。
学習をオフにした個人版で足りない理由
個人向けのサービスでも、学習への利用をオフにする設定が用意されていることがあります。OpenAIの場合、設定のデータコントロールで「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、その後の新しい会話はトレーニングに使われないと説明されています。それでも、判定表で学習オフの個人版を未公開の発明に使わない目安にしたのには、3つの事情があります。
- ガイドラインが確かめるよう求めているのは、学習の設定だけでなく、秘密保持規約等のあるプラットフォームかどうかという点であること
- OpenAIのヘルプには、トレーニングをオプトアウトしていても、回答への高評価・低評価などのフィードバックを送ると、その会話全体がトレーニングに使われることがあると書かれていること
- 設定は本人の画面で行うもので、会社や事務所からは、誰がどの設定で使っているかを確かめにくいこと
会社契約の法人向けプランでは、入力を学習に使わないことが既定の扱いとして示されている例が多くなります。ChatGPT BusinessやChatGPT Enterpriseを含む法人向け製品の入力や出力は、既定でモデルのトレーニングに使用しない、というのがOpenAIの説明です。Anthropicも、Claude for Workなどの商用製品の入力と出力を既定でモデルの学習に使わないと案内しており、GoogleはWorkspaceについて、顧客の事前の許可や指示なしに顧客データをモデルの学習に使わないとしています。ただし、学習に使わないことと、秘密保持の規約があることは別の確認事項です。契約するサービスの利用規約と秘密保持の条項は、弁理士や法務の担当者が原文で確かめてください。
※OpenAI・Anthropic・Googleの説明は各社の公式ヘルプ・プライバシーページの記載によります(2026年9月17日〜25日に確認した記録を使用)。いずれも各社の自己申告で、第三者が検証した結果ではありません。設定名や既定の扱いは変更されることがあるため、ガイドラインも利用規約やプラン仕様を定期的に確認することが望ましいとしています。
会社契約の環境を選ぶときの確認項目
判定表の会社契約の列を使うには、契約するサービスが本当にその条件を満たしているかを確かめる必要があります。次の項目を、契約前に規約や公式の説明と照らして埋めてみてください。
- 入力を学習に使わない条件既定で学習に使わないのか、管理者の設定が必要なのか、どの文書に書かれているかを控える
- 秘密保持・機密情報の条項利用規約やデータ処理に関する契約に、入力内容を秘密として扱う定めがあるかを弁理士・法務が原文で確かめる
- 入力データの保存場所と保持期間会話履歴やログがどこに、どれだけの期間残るか、削除の方法は何かを確認する
- 管理者の権限使えるモデルの制限、利用者の追加と削除、利用状況の確認ができるか
- 全員に同じ条件がかかるか社員ごとの設定に頼らず、組織として一律に条件がかかる仕組みか
- 費用と人数の関係所員・社員が増えたときに費用がどう変わるか、使う人を絞らずに済むか
最後の2つは見落とされがちですが、特許業務では大事な項目になります。費用を抑えるために一部の人だけに会社契約のアカウントを配ると、残りの人は個人のAIを使い続けることになり、判定表の×の列に作業が流れてしまうからです。
弁理士・特許事務所のAI活用|明細書の下書きに使う手順
明細書の作成にAIを使う場合、AIに任せるのは言葉を整える下書きの部分で、発明の本質をとらえて権利範囲を決めるのは弁理士の仕事、という分担が前提になります。日本弁理士会のガイドラインは、明細書作成にAIを使ってよいか悪いかを一律には示していません。一方で、AIの生成結果を内容の検討・精査もせずにそのままクライアントに提供することは、善管注意義務(民法第644条)に違反する恐れがあるとしています。ここでは、クライアントの合意と所内ルールが整い、会社として契約した環境を使うことを前提に、下書きへの使い方を手順にしました。
手順1:発明提案書の聞き取り項目を整理する
発明者から届く発明提案書は、書き方が人によってばらばらで、明細書に必要な情報が抜けていることも少なくありません。AIに提案書を読ませて、技術分野・背景技術・課題・解決手段・効果・実施例・変形例の項目ごとに整理させると、足りない情報がどこかを見つけやすくなります。足りない項目は発明者への質問リストとしてAIに下書きさせ、弁理士が確認してから送る流れが扱いやすいでしょう。
次の発明提案書を、明細書の作成に必要な項目ごとに整理してください。 【項目】 技術分野/背景技術/従来技術の問題点(課題)/解決手段/効果/実施例/変形例/図面で示すべきもの 【出力の形】 | 項目 | 提案書の記載(原文を引用) | 不足している情報 | 発明者に聞く質問の案 | ・提案書に書かれていないことを推測で補わないでください ・数値や材料名は提案書の表記のまま引用してください ・質問の案は、発明者が技術者であることを前提に、専門用語を使ってかまいません 【発明提案書】 (事件番号・出願人名・発明者名を伏せたうえで貼り付け)
手順2:実施例の言い換えと変形例の洗い出し
実施例の記載は、権利範囲を支える土台になります。AIに実施例の説明を渡して、同じ機能を持つ別の部材や構成の候補を挙げさせると、変形例として書き加えるべきものの見落としを減らせます。出てきた候補が技術的に成り立つかどうか、発明の範囲に含めてよいかは、弁理士と発明者が判断してください。
手順3:図面の説明文と符号の一覧の下書き
図面の簡単な説明や、符号の説明の一覧は、形式が決まっていて手間のかかる部分です。図面ごとの内容と符号の対応をメモで渡し、決まった書式で文章にさせると、清書の時間を短くできます。符号と部材名の対応は取り違えが起きやすいため、図面と1つずつ突き合わせる確認を省かないようにしましょう。
手順4:請求項と明細書の用語の揃え確認
請求項で使った用語が、明細書の本文で別の言い方になっていると、権利範囲の解釈に余計な争点を生むことがあります。請求項と本文をAIに渡し、請求項の用語が本文のどこで説明されているか、別の言い方が混じっていないかを一覧にさせる使い方は、下書きの点検として効果的です。
次の特許請求の範囲と明細書の本文を比べて、用語の揃いを点検してください。 【点検すること】 1. 請求項に出てくる用語ごとに、本文でその用語を説明している段落番号 2. 本文で、同じものを別の言い方で書いている箇所(例:「蓋体」と「カバー」) 3. 請求項にあるのに本文に説明がない用語 4. 本文の符号と部材名の対応が、段落によって食い違っている箇所 【出力の形】 | 用語 | 請求項番号 | 説明している段落 | 別の言い方の箇所 | 指摘 | ・修正案は出さず、指摘だけにしてください ・判断に迷うものは「要確認」としてください
手順5:弁理士が全文を確認して仕上げる
AIの下書きを使った部分は、弁理士が発明の内容と照らして全文を読み、権利範囲の書き方、実施例の十分さ、用語の統一を確かめてから仕上げます。ガイドラインは著作権への配慮にも触れており、他人の明細書や文献に類似したものを生成させる目的の入力には注意が必要です。先行技術の公報の文章をそのまま下書きに流用させる指示は避けてください。
- クライアントの合意があるかAIを使う作業の範囲、使う環境、入力する情報の範囲について、書面かメールで合意を得ている
- 所内ルールで認めた環境か会社として契約し、学習に使わない条件と秘密保持の規約を確認した環境で作業している
- 伏せる情報を伏せたか出願人名・発明者名・事件番号など、作業に不要な情報を入力から外している
- AIの出力を原文と照合したか引用・数値・符号・用語の対応を、発明提案書と図面で1つずつ確かめた
- 権利範囲を弁理士が決めたか請求項の書き方と、実施例・変形例の範囲は弁理士が判断した
- 記録を残したかAIを使った工程、使った環境、確認した人と日付を事件の記録に残した
拒絶理由通知への対応に使う
拒絶理由通知への対応でも、同じ考え方が使えます。引用文献と本願の請求項の対比表の下書きや、意見書の構成の案をAIに出させ、弁理士が論点と補正の範囲を決める分担です。拒絶理由通知と引用文献は、本願が公開済みであれば公開情報にあたりますが、これから出す補正案や意見書案は提出前の未公開の情報を含みます。補正案を扱う工程は、明細書の下書きと同じ環境で扱ってください。
次の拒絶理由通知と引用文献1について、審査官の指摘を整理してください。 【出してほしいもの】 1. 拒絶理由の種類(新規性・進歩性・記載要件など)と、対象の請求項 2. 審査官が引用文献1のどの記載を、本願のどの構成要件に当てているか | 本願の構成要件 | 引用文献1の該当箇所(段落番号と原文) | 審査官の指摘の要旨 | 3. 審査官が相違点として認めている点、認めていない点 4. 反論の材料になりそうな、引用文献1に記載のない点の候補 【条件】 ・反論の方針や補正の案は出さないでください(弁理士が決めます) ・引用文献の記載は原文から引用し、言い換えを引用として書かないでください 【拒絶理由通知】(貼り付け) 【引用文献1の該当箇所】(貼り付け)
このプロンプトは、指摘の整理までをAIに任せ、方針を決める部分は弁理士に残す形にしています。整理の表ができていれば、クライアントへの報告書に審査官の指摘を分かりやすく書く作業も進めやすくなるでしょう。事務スタッフが担う期限管理のメールや、クライアントへの報告書の定型部分の下書きも、所内ルールで認めた範囲であればAIを使える作業に入ります。
明細書の作成でAIに任せないこと
下書きに使える場面が多い一方で、AIに任せないほうがよい部分もはっきりさせておきましょう。請求項の範囲をどこまで広げるか、どの実施例を中心に据えるか、将来の他社の設計変更をどう取り込むかといった判断は、発明の価値とクライアントの事業を理解したうえで弁理士が決めるものです。AIが出した請求項の案は、広すぎて先行技術に当たる、あるいは狭すぎて簡単に回避される、といったずれを含むことがあります。
- 請求項の範囲と、上位概念化の程度の決定
- 先行技術との差をどこに置くかという権利化の方針
- 実施例に書く数値範囲や材料の選択(発明者の実験データに基づくもの)
- 拒絶理由通知への反論の方針と補正の範囲
- 外国出願を見据えた書き方の選択
こうした判断を人が押さえ、AIには決まった方針に沿って言葉を整える作業を任せると、下書きの時間を短くしながら明細書の質を保ちやすくなります。
所内でプロンプトと確認の手順を共有する
明細書の下書きにAIを使い始めると、弁理士ごとに依頼文の書き方がばらばらになり、出力の質にもばらつきが出てきます。うまくいった依頼文を所内で共有し、用途ごとに1本ずつ定番を決めておくと、新しく入った弁理士や事務スタッフも同じ水準で使い始められるでしょう。
共有する依頼文には、事件番号や出願人名などの具体的な情報を残さず、差し込む場所を括弧で示した形にしてください。依頼文と一緒に、出力をどう確かめるかの手順も並べておくと、AIの使い方と確認の仕方がセットで伝わります。定番の依頼文は年に1回程度見直し、使わなくなったものは整理しておきましょう。
外国出願の翻訳の下訳に使う
外国出願では、日本語の明細書を英語などに翻訳する作業が発生し、分量も多くなりがちです。生成AIに下訳を作らせ、翻訳者や弁理士が用語と権利範囲の表現を確かめる分担は、時間の短縮につながる使い方の1つでしょう。
ただし、外国出願の翻訳は、日本の出願が公開される前に行われることが多く、扱う情報は未公開の発明そのものです。翻訳ツールや個人のAIに気軽に貼り付けてよい文書ではないため、明細書の下書きと同じ環境と同じルールで扱ってください。請求項の用語は国ごとの実務に合わせた訳し分けが必要になることもあり、訳語の一覧を事務所で管理し、AIにはその一覧に沿って訳させる形にすると、案件ごとの揺れを抑えることが出来ます。
特許事務所・知財部で決めるAI利用ルールのひな形
所内・社内のAI利用ルールは、使ってよい環境、入れてよい情報、確認の手順、記録の残し方の4つを決めておけば、最初の形としては十分です。次のひな形は、特許事務所と企業の知財部のどちらでも使えるように書いています。自所・自社の規程や契約に合わせて、弁理士や法務の担当者と調整してから使ってください。
生成AI利用ルール(特許業務)ひな形 第1条(目的) このルールは、特許業務で生成AIを使うときに、未公開の発明とクライアントの秘密情報を守り、成果物の品質を保つために定める。 第2条(対象者) このルールは、弁理士、知財部員、事務スタッフ、派遣社員その他この業務に従事するすべての者に適用する。 第3条(使ってよい環境) 1. 業務で使ってよい生成AIは、事務所(会社)が契約し、入力を学習に使わない条件と秘密保持の規約を確認したサービスに限る。 2. 個人で登録した無料版・有料版のサービスは、公開済みの公報の調査を除き、業務に使わない。 3. 使ってよいサービスの一覧は管理責任者が定め、変更したときは全員に知らせる。 第4条(入力してよい情報) 1. 公開済みの公報、公開済みの文献、一般的な言葉に置き換えた技術の説明は、第3条の環境で入力してよい。 2. 未公開の発明、明細書・請求項の下書き、補正案、意見書案、クライアントの秘密情報は、次の条件をすべて満たすときに限り、第3条第1項の環境で入力できる。 (1)クライアント(社内の場合は発明の所管部門)の合意を得ていること (2)担当の弁理士(知財部の責任者)が入力を認めていること (3)出願人名、発明者名、事件番号など作業に不要な情報を伏せていること 3. 個人情報は、業務上必要な最小限にとどめる。 第5条(出力の扱い) 1. 生成AIの出力は下書きとして扱い、そのままクライアントへの提出物や特許庁への提出書類にしない。 2. 公報番号、引用、日付、法的な状態は、特許データベースの原文で確認する。 3. 新規性、進歩性、侵害の有無の判断は、弁理士(知財部の責任者)が行う。 4. 他人の著作物に類似したものを生成させる目的で入力しない。 第6条(記録) 事件ごとに、生成AIを使った工程、使ったサービス、確認した者と日付を記録する。 第7条(事故のとき) 第3条・第4条に反する入力に気づいたときは、直ちに管理責任者に報告する。管理責任者は、入力された情報の範囲を確認し、クライアントへの報告と、出願日程・新規性喪失の例外の適用の要否を担当の弁理士と検討する。 第8条(見直し) 管理責任者は、利用規約やプラン仕様、日本弁理士会の指針の改訂を少なくとも年1回確認し、必要に応じてこのルールを見直す。 附則 このルールは 年 月 日から施行する。
第7条の事故の手順は、見落とされやすいところです。誤って個人のAIに発明を入れてしまったとき、報告しにくい空気があると発見が遅れ、第30条の期限の管理にも響いてしまいます。報告した人を責めない運用にすると明記しておくと、早い段階で相談が上がってくるでしょう。
ルールを作る順番
ひな形をすべて埋めてから動き出そうとすると、決めることが多くて止まってしまいがちです。最初の1か月は、使ってよい環境(第3条)と入力してよい情報(第4条)、事故のときの報告先(第7条)の3つだけを決めて全員に知らせる、という進め方でも構いません。
そのうえで、実際に使ってみて迷った場面を集め、記録の残し方や役割ごとの範囲を足していくと、現場の作業に合ったルールに育っていきます。クライアントへの同意の取り方は、新規の依頼から先に始め、既存のクライアントには順に案内していく形が無理のない順番になるでしょう。
役割ごとに使ってよい範囲を決める
ルールの条文だけでは、誰がどこまで使ってよいかが現場で分かりにくいことがあります。役割ごとの目安を1枚の表にして、ルールに添えておくと迷いが減るでしょう。
| 役割 | 使ってよい作業の例 | 入力してよい情報 | 確認・承認 |
|---|---|---|---|
| 弁理士・知財部の責任者 | 調査、明細書・意見書の下書き、対比表 | 公開情報、合意のある範囲の未公開情報 | 自ら最終確認し、結論を出す |
| 知財部員・調査担当 | 調査、公報の要約、スクリーニング | 公開情報。未公開情報は責任者が認めた案件のみ | 結果を責任者が確認する |
| 事務スタッフ | 定型文書・報告書の定型部分・期限連絡の下書き | 公開情報、作業に必要な範囲の事務情報 | 担当弁理士が確認してから送る |
| 開発者・発明者(企業) | 公開済みの公報を読む、技術の下調べ | 公開情報。提案書は会社契約の環境で、知財担当が認めた場合のみ | 提案書は知財担当が受け取って確認する |
運用に乗せるには、表のほかにいくつかの準備も要ります。管理責任者を1人決めること、使ってよいサービスの一覧を掲示すること、事件の管理表にAIの利用とクライアントの同意の欄を足すこと、そして年に1回はルールの見直しと短い説明会を開くことです。どれも大きな費用はかからず、ルールを紙の上だけで終わらせないための手当てになります。
会社全体のAI利用ルールがすでにある場合は、特許業務の追加ルールとして上のひな形を付け足す形でも構いません。全社向けのルールの作り方は生成AIガイドラインの作り方で、社内で確認したい項目は生成AIセキュリティのチェックリストで紹介しています。
クライアントへの同意の取り方と文面のひな形
クライアントの秘密情報をAIに入れる前には、学習の有無によらず合意を取るべきだとガイドラインは述べています。合意は口頭で済ませず、使う作業の範囲、使う環境、入力する情報の範囲、確認の体制を書いた文面で取っておくと、後から説明を求められたときにも示せます。新規の依頼では委任契約書や受任時の説明書面に条項を入れ、既存のクライアントには個別の案内で合意を取る形が考えられます。
既存のクライアントへの案内文のひな形
件名:特許業務における生成AIの利用についてのご相談 ○○株式会社 知的財産部 ご担当者様 いつもお世話になっております。○○特許事務所の○○です。 当事務所では、明細書の下書きや先行技術文献の整理など一部の作業で、生成AIの利用を検討しております。貴社からお預かりしている情報を扱う可能性があるため、事前にご同意をいただきたく、ご連絡いたしました。 1. 利用する作業 ・公開済みの特許公報の要約と整理 ・明細書、図面の説明、符号の一覧の下書き ・請求項と明細書の用語の点検 2. 利用する環境 ・当事務所が契約した法人向けサービス(サービス名:○○) ・入力内容を学習に利用しない条件と、提供事業者の秘密保持に関する規約を確認しております 3. 入力する情報の範囲 ・貴社名、発明者名、事件番号など作業に不要な情報は伏せて入力します ・(入力しない情報があれば記載) 4. 確認の体制 ・生成AIの出力は下書きとして扱い、担当弁理士が全文を確認したうえで提出いたします ・新規性、進歩性等の判断は担当弁理士が行います 上記の範囲での利用にご同意いただけるか、ご返信にてお知らせください。ご同意いただけない場合や、特定の案件で利用を控えてほしい場合も、お気軽にお申し付けください。これまでどおりの方法で対応いたします。 ○○特許事務所 弁理士 ○○
委任契約書に入れる条項の例
第○条(生成AIの利用) 1. 受任者は、委任者の同意を得た範囲で、本件業務の一部に生成AIを利用することができる。 2. 前項の生成AIは、受任者が契約し、入力内容を学習に利用しない条件及び提供事業者の秘密保持に関する規約を確認したサービスに限る。 3. 受任者は、生成AIに入力する情報を本件業務に必要な範囲にとどめ、生成AIの出力を弁理士が確認したうえで成果物に用いる。 4. 委任者は、いつでも第1項の同意の範囲を変更し、又は同意を撤回することができる。
ここに挙げた文面は、たたき台として使うためのものです。実際の契約書や案内文は、事務所の委任契約の体系や、クライアントとの間の秘密保持契約の内容に合わせて、弁理士が調整してください。企業の知財部が外部の特許事務所に依頼する側であれば、反対に、事務所がAIをどう使っているかを確認する質問として、この項目を使うことも出来ます。
同意を求めたときによく出る質問と答え方
案内を送ると、クライアントの知財部や法務部から質問が返ってくることがあります。答えを事前に用意しておくと、やり取りが早く進むでしょう。
| よくある質問 | 答え方の方向 |
|---|---|
| 入力した情報はAIの学習に使われますか | 契約しているサービスの規約や公式の説明で、入力を学習に使わない条件になっていることを、出典とともに示す。学習以外の保存や保持の期間も分かる範囲で添える |
| AIの提供事業者は秘密を守る義務を負っていますか | 利用規約の秘密保持や機密情報の条項を確認した結果を伝える。確認していない点は確認中と答え、推測で答えない |
| どの作業に使いますか | 案内文に書いた作業の範囲をもう一度示し、範囲外の作業には使わないと伝える |
| 成果物の品質はどう保ちますか | AIの出力は下書きで、担当弁理士が全文を確認すること、判断は弁理士が行うことを伝える |
| 同意しない場合、費用や納期は変わりますか | 事務所の方針に沿って答える。これまでどおりの方法で対応できることを伝える |
答えに迷う質問が来たときは、その場で断定せず、確認してから回答すると伝えるほうが信頼を損ないません。規約の読み方は解釈が分かれることもあり、事務所として統一した答えを管理責任者がまとめておくと、担当者ごとに説明が食い違う心配が減ります。
クライアントから利用を控えてほしいと返事があった場合は、その案件の記録に明記し、担当者が変わっても分かるようにしておきましょう。同意の範囲は案件ごとに異なることがあるため、事件の管理表に同意の有無と範囲の欄を設けておくと、事務スタッフが作業の前に確かめられます。
企業の知財担当・開発部門が相談前にやること
社員10〜200名規模の会社では、専任の知財部がなく、開発部門の責任者や総務が特許の窓口を兼ねていることも多いでしょう。そうした会社でも、特許事務所に相談する前に、無料のJ-PlatPatで公開済みの公報を下調べしておくと、相談の中身が具体的になります。下調べはこの記事の手順1〜7を簡略にしたもので足り、自社の発明の詳細を外部のAIに入れる必要はありません。
相談先に迷うときは、INPITの知財総合支援窓口も使えます。INPITによると、窓口は各都道府県に設置されており、中小企業等の経営課題を知的財産の側面から支援する窓口です。相談は無料で、出願に関する相談、知財管理体制の整備、職務発明とその規程、営業秘密管理などについて、弁理士や弁護士などの専門家が対応すると案内されています。
※INPIT知財総合支援窓口の設置場所・相談料・相談内容は、INPIT知財総合支援窓口の公式サイトの記載によります(2026年9月27日確認)。
開発部門に向けては、発明の中身を社外のサービスに入れる前に知財担当へ相談する、という1行のルールだけでも効果があります。発明提案書の書き方をAIで整えたい開発者は多いものの、その作業こそが未公開の発明を扱う書く作業に当たるからです。社内で使ってよいAIの環境を決め、その環境の中でなら提案書の下書きにも使える、と示しておくと、個人のアカウントに流れる動機が小さくなります。
発明の記録を社内で残しておく
中小企業では、発明がいつ、誰によって、どのような形で生まれたかの記録が残っていないことがよくあります。実験ノートや設計の打ち合わせのメモに日付と担当者を書き、社内の決まった場所に保管しておくと、出願の準備も、他社との争いになったときの説明もしやすくなります。
記録の置き場所は、社外のサービスではなく社内の管理された場所にし、閲覧できる人を絞っておきましょう。発明の記録をAIで要約したり整理したりしたい場合も、会社として決めた環境の中で行うことが前提になります。職務発明の扱いや社内規程の整え方は、先ほどの知財総合支援窓口でも相談できる内容として案内されています。
特許事務所に渡す相談メモのひな形
相談の前に、分かっていることを1枚のメモにしておくと、限られた相談時間を発明の中身と方針の話に使えます。メモは社内で作り、特許事務所には秘密保持を前提とした相談の場で渡してください。
特許相談メモ(社外秘) 1. 相談したいこと □ 出願できるかを知りたい □ 他社の特許に触れないか知りたい □ 他社から警告を受けた □ その他( ) 2. 発明の概要(3行以内) 課題: 解決手段: 効果: 3. 発明の公開状況 ・社外に説明したことがあるか(展示会・商談・論文・Webなど):あり/なし ・ありの場合、その日付と相手: ・生成AIなど社外のサービスに発明の内容を入力したことがあるか:あり/なし/不明 4. 下調べの結果(J-PlatPatで確認した公開済みの公報) ・使った検索語と分類: ・検索日とヒット件数: ・近いと思った公報の番号と、そう思った理由: 5. 製品化・出願の予定時期 6. 社内の担当者と連絡先
メモの3番目に、社外への説明やAIへの入力の有無を入れているのには理由があります。新規性に関わる事情は早く伝えるほど、第30条の例外の要否を含めた対応を弁理士が検討できるからです。入力したかどうか分からない場合も、不明と正直に書いておきましょう。
開発部門に配る1枚の案内文
開発部門には、長いルールより、何をしてよくて何をしてはいけないかが一目で分かる案内のほうが届きやすくなります。次の文面を社内の掲示やメールに使ってみてください。
開発部門の皆さんへ:発明とAIの使い方 ■ 使ってよいこと ・J-PlatPatで公開済みの特許公報を調べること ・公開済みの公報を、会社が認めたAIで要約・整理すること ■ 相談してから行うこと ・発明提案書や実験データを、会社が認めたAIで整理すること(知財担当に相談) ・展示会、商談、論文、Webなどで新しい技術を社外に説明すること ■ してはいけないこと ・個人で登録したAIやアプリに、発明の内容、未発売の製品の仕様、実験データを入力すること ■ 入力してしまったかもしれないとき ・その日のうちに知財担当へ連絡してください。記録を残すことが最優先です 相談先:知財担当 ○○(内線 )
社外への説明とAIへの入力を同じ案内の中に並べているのは、どちらも新規性に関わる行為だと開発者に伝わりやすくするためです。展示会の前に出願を済ませる習慣と同じように、AIに入れる前に相談する習慣が根付くと、未公開の発明が外に出る経路をまとめて減らせます。
特許事務所に依頼するときは、事務所が生成AIをどう使っているか、どの環境で使っているか、自社の情報を入れる場合は事前に同意を求めてくれるか、を確かめてみてください。前の節のひな形の項目は、そのまま確認の質問として使えます。
社員が使うAIを、会社で決めた1つの環境に
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で使える法人向けサービスです。入力データを学習に使わない設定を標準で適用し、社員ごとの設定操作は要りません。社員が個人のAIに流れないよう、会社で使う環境を1つにまとめ、管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・使えるモデルのON/OFFを管理できます。基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AI(アップギアAI)の詳細を見るよくある質問
特許調査はAIだけでできますか?
特許調査に使える無料のツールはありますか?
出願前の発明をChatGPTに入力すると新規性がなくなりますか?
学習をオフにすれば、クライアントの情報を入れてもよいですか?
特許調査でAIに入れてよい情報は何ですか?
明細書の作成にAIを使ってもよいですか?
特許事務所の事務スタッフがAIを使ってもよいですか?
専用のAI特許調査ツールと汎用の生成AIはどちらを選べばよいですか?
特許の新規性喪失の例外を使えば、AIに入れても大丈夫ですか?
まとめ
特許調査のAI活用は、J-PlatPatで母集団を作り、AIで読む量を減らし、人が最終判断するという分担で考えると、調査の網羅性を保ちながら作業時間を短くできる場合があります。生成AIは同義語や分類の候補出し、公報の要約、請求項の分解、スクリーニングの一次判定に向いていますが、公報番号や法的な状態の確認、新規性や侵害の結論は人の仕事です。出願前の発明や明細書の下書きといった書く作業は、会社として契約し、学習に使わない条件と秘密保持の規約を確かめた環境の中で、所内・社内ルールとクライアントの合意のもとに進めてください。まずは使ってよい環境と入れてよい情報を1枚のルールにまとめるところから始めてみましょう。
特許事務所であれば、ルールと同時にクライアントへの案内を用意し、新規の依頼から同意を取り始めると動き出しやすくなります。企業の知財担当や開発部門の責任者であれば、開発部門に配る1枚の案内文と、特許事務所に渡す相談メモを整えることが最初の一歩になるはずです。調べる作業はすぐにでも始められるので、J-PlatPatでの下調べとAIでの要約を組み合わせる練習を、公開済みの自社特許を題材に試してみてください。
※本文の条文・ガイドライン・公式サイトの記載は、特に断りのない限り2026年9月27日に確認した内容です。
ほかの業務のAI活用はAI活用コラムの一覧で紹介しています。
