AI社長の作り方。社長の判断基準を質問リストとシートで集め、社内で安全に配る手順

AI社長とは、経営者の考え方と判断基準を生成AIに覚えさせ、社員が「社長ならどう判断するか」を相談できるようにした社内向けのAIのことです。作り方の中心はツールの操作ではなく、社長から判断の理由まで聞き出して文字にしておく準備のほうになります。ChatGPTのGPTs・GeminiのGem・Claudeのプロジェクトを使えば自作することも出来ますが、社長の考えという機密の塊を扱うため、学習させない設定と配り方を先に決めておきましょう。

AI社長とは何か|AI社員との違い

AI社長は、社長本人の代わりに決裁する仕組みではなく、社長の考え方を社員がいつでも参照できるようにした相談相手になります。社長が1人で全員の相談を受けるには時間が足りず、若手ほど「こんなことを聞いてよいのか」と遠慮してしまいがちです。社長の判断の軸を文字にしてAIに渡しておけば、社長が出張中でも夜間でも、社員は同じ基準に沿った助言を受けることが出来ます。

似た言葉にAI社員があります。AI社員は議事録の作成や問い合わせの一次回答といった業務そのものを代わりにこなす役割で、AI社長は判断の基準を貸す役割、と分けると分かりやすいでしょう。業務を代わりにこなすAIの作り方はAI社員の作り方と任せる範囲の決め方で扱っているため、ここでは社長の判断基準を再現する用途に絞ってお話しします。

呼び名は社長AI、社長の分身AI、経営者のAIクローンなど会社によってさまざまで、決まった定義がある言葉ではありません。どの呼び名でも、中身は社長の過去の発言と判断の理由を材料にした社内向けの相談窓口と考えておけば、検討の出発点としては充分です。

最終判断は人が持つ:AI社長に任せてよい範囲

AI社長に任せてよいのは、社員が考えを整理するための助言までで、最終的な判断と責任は人が持つという線を最初に引いておく必要があります。生成AIはもっともらしい文章で事実と違うことを答える場合があり、社長の過去の発言を読み込ませても、新しい状況で社長が本当にそう判断するかは誰にも保証できません。総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版・2026年3月31日公表)も、AIを使う側に、出力の精度とリスクの程度を理解したうえで使うことを求めています。

実際の線引きとしては、次のような使い方であれば、AI社長に任せても社内で困る場面は少なくなります。

  • 理念や行動指針に照らした考え方の整理
  • 過去に社長が似た場面でどう考えたかの紹介
  • 企画書や提案内容の壁打ち
  • 社長や上長に相談する前の論点の整理

反対に、次のような判断は、AI社長の答えだけで決めないようにしましょう。

  • 金額や契約条件を伴う決裁
  • 値引き・返金・採用の合否・人事評価など、特定の人や取引先に影響する判断
  • 法令・税務・労務の解釈

AI社長の答えは社長の決定ではなく、社長の過去の考え方から作った参考意見です。この一文を画面にも社内ルールにも書いておくことが、後の節で扱う誤解の防止につながります。

公表されているAI社長の事例(三井住友FG・ノジマ・DeNA・旭鉄工)

大企業を中心に、社長の考え方をAIにして社員に開放する取り組みはすでに公表されています。以下はいずれも各社の発表、または大手メディアの報道に書かれている内容で、効果について第三者が検証したものではありません。

三井住友フィナンシャルグループ「AI-CEO」

三井住友フィナンシャルグループと三井住友銀行は、2025年8月5日のニュースリリースで、グループCEOの中島達氏を模したAI-CEOを開発し、三井住友銀行で展開を始めたと発表しました。仕組みの中心にあるRAG(検索拡張生成)は、質問のたびに登録した資料から関係する部分を探し、それを踏まえて答えを作る技術を指します。同リリースによると、システムプロンプトとRAG技術を使い、OpenAIのGPT-4oを活用して開発したもので、中島氏の過去の発言、その背景にある考え方、周囲からの印象などのデータを参照して回答を作る仕組みです。目的には、社員がAIの業務活用の便利さを自然な形で知ることが挙げられ、役職員のフィードバックを踏まえて投入データや機能を追加していく方針も示されました。

ノジマ「Bunshin×野島廣司」

日経クロステック(2024年9月13日)は、ノジマが社内向けのチャットサービス「Bunshin×野島廣司」を開発したと発表したことを報じています。記事によれば、日立製作所の子会社であるハピネスプラネットのサービスを使い、野島廣司社長が過去に社内外向けに出版した本や講話をもとに従業員の悩みに答える仕組みで、主に人材育成やコミュニケーションに活用するとのことです。

DeNA AI Link「リーダーズAI」

DeNAは2025年11月28日、子会社のDeNA AI Linkが、中小企業向けにAI社長を提供してきたTHAと、リーダーの思考をAI化する法人向けサービス「リーダーズAI」の共同開発に向けて基本合意したと発表しました。発表では、企業理念や組織文化といった全社の情報、部門の戦略やマニュアル、リーダー本人への深いインタビューを材料に構築し、社員は普段のビジネスチャットから相談できる形と説明されています。同じ発表の中でDeNA AI Linkの代表は、社内で使っている自分のAIに、人事部門が採用候補者の評価について問いかけるなど、想定していなかった使われ方が広がったとコメントしました。

旭鉄工「AIキムテツ」

中堅・中小企業の例としては、日経ビジネス電子版(2025年8月7日)が、トヨタ自動車の1次サプライヤーである旭鉄工のAIキムテツを取り上げています。記事の無料公開部分によると、ChatGPT上で木村社長の知識・経験・ノウハウを学習させたAIで、同社は従業員約430人の会社になります。秘書がまずAIキムテツと壁打ちをして講演や執筆の候補を出し、その案をもとに依頼を受けるかを決める、という使い方が紹介されています。

公表されている範囲では、三井住友FGとDeNAのように、過去の発言や著書に加えて、考え方の背景や本人へのインタビューまで材料にしている例もあります。社員数が数十人から数百人の会社であれば、この後で紹介するとおり、市販の生成AIの機能で小さく試すところから始めることが出来ます。

※各社の内容は、三井住友フィナンシャルグループ・三井住友銀行のニュースリリース(2025年8月5日)、DeNAのニュース(2025年11月28日)、日経クロステック(2024年9月13日)、日経ビジネス電子版(2025年8月7日・無料公開部分)を2026年9月28日に確認したものです。

AI社長の作り方5ステップ

AI社長は、用途を決める、素材を集める、判断基準を書き出す、AIに設定する、社内で試して直す、の5ステップで作ります。

  1. 何を代わりに答えさせるか(用途と対象者)を決める
  2. 既存の文書を集め、社長にインタビューして素材をそろえる
  3. 社長の答えを、結論・理由・例外まで判断基準シートに書き出す
  4. GPTs・Gem・Claudeのプロジェクトなどに指示文とシートを設定する
  5. 少人数で試し、社長の赤入れを受けてシートを直してから広げる

手間の大半はステップ2と3にかかり、ステップ4の設定作業そのものは、材料がそろっていれば短く済みます。反対に、材料が薄いまま設定を急ぐと、どのツールで作っても社長らしくない答えしか返ってきません。

ステップ1 何を代わりに答えさせるかを決める

最初に決めるのは、誰の、どんな相談に答えさせるかです。社長の考えを何でも答えるAIを目指すと、素材集めが終わらず、回答も薄くなってしまいます。おすすめは、社長への相談が多いのに社長の時間が取れていない場面を1〜2つに絞ることでしょう。例えば、若手営業の値引き相談、新しい取引先を受けるかどうかの相談、クレーム対応の方針、朝礼や社内報で話す理念の解説といった場面になります。

対象者も決めておきましょう。管理職向けと新入社員向けでは、答えてよい内容も言葉づかいも変わってきます。対象者と用途を1枚のメモにまとめ、社長の了承を取ってから次のステップに進むと、途中で作り直す手間を減らすことが出来ます。

ステップ2〜5の進め方

ステップ2以降は、この後の節で順に、質問リスト、判断基準シート、ツール別の指示文、試用と改善の進め方として具体的に紹介します。全体の期間は会社によって違いますが、社長のインタビューを週1回ずつ進める前提で予定を組むと、社長の負担を抑えながら進めやすくなります。

学習させる素材の集め方と社長に聞く質問リスト

素材は、すでにある文書と、社長から新たに聞き出す話の2つに分けて集めます。すでにある文書のうち、使いやすいものを挙げてみます。

  • 経営理念・行動指針・クレド
  • 社長が書いた社内報・全社メール・ブログ・著書
  • 朝礼や全社会議での話(録音があれば文字起こし)
  • 経営会議・役員会の議事録のうち、社長の発言部分
  • 採用面接や評価面談で社長が話した判断のポイント
  • これまで社長がよく受けてきた相談と、それへの返答

ただし文書だけでは、社長が何を決めたかは分かっても、なぜそう決めたかが抜け落ちがちです。足りない部分は、社長本人に質問して聞き出すしかありません。議事録や相談の記録に社員や取引先の個人名が入っている場合は、伏せてから素材に加えるようにしてください。

カテゴリ別の質問リスト(7カテゴリ・20問)

社長への質問は、相談が多い場面ごとに用意すると答えを引き出しやすくなります。次のリストは、そのままインタビューの台本として使える形にしたものです。必要なカテゴリだけを選び、自社の言葉に直して使ってみてください。

【理念・判断の優先順位】
1. 利益・お客様・社員・スピードがぶつかったとき、どの順で優先しますか。その理由は何ですか。
2. 会社として絶対にやらないと決めていることは何ですか。
3. 創業から今までで、判断を大きく変えた出来事と、変えた理由を教えてください。

【価格・値引き】
4. 値引きを認めるのはどんなときですか。認めない相手や条件はありますか。
5. 相見積もりで負けそうなとき、価格以外で何を提案してほしいですか。
6. 赤字でも受けた仕事はありますか。なぜ受けたのですか。

【新規事業・投資】
7. 新しい事業や商品を始めるかどうか、最初に何を見て判断しますか。
8. 撤退を決める目安(期間・金額・状況)はありますか。
9. 過去に見送った案件で、今でも見送って正解だったと思うものはどれですか。

【採用・人】
10. 一緒に働きたい人と、スキルが高くても採らない人の違いは何ですか。
11. 面接で必ず確かめることは何ですか。
12. 部下が失敗したとき、上司にどう対応してほしいですか。

【顧客・クレーム】
13. お客様の要望を断るのはどんなときですか。
14. クレームを受けたとき、最初の24時間で必ずやってほしいことは何ですか。
15. 取引をやめる判断をしたことはありますか。その理由は何ですか。

【日々の仕事】
16. 社長に報告・相談すべきことと、現場で決めてよいことの境目はどこですか。
17. 会議や資料で、社長が嫌う進め方は何ですか。
18. 若手に一番伝えたい仕事の考え方は何ですか。

【AI社長に言わせたくないこと】
19. AIの自分に答えさせたくない話題は何ですか。
20. 自分の話し方で、真似してほしい口ぐせと、真似してほしくない表現はありますか。

どの質問でも、結論だけでなく、なぜそう考えるのか、例外はあるのか、最近の具体例は何か、の3つをセットで聞くのがコツになります。特に19と20は、AI社長の指示文に書く禁止事項と口調の材料になるため、最初の回で聞いておくと後の作業が楽です。

忙しい社長から音声で聞き出す進め方

社長に質問票を渡して書いてもらう方法は、多くの場合うまく進みません。忙しい社長でも、書く時間は取れなくても、話す時間なら15分ずつ確保できることがあります。聞き手を総務や経営企画の方が務め、1回15分で1カテゴリずつ進めてみましょう。

録音は社長の許可を取ったうえで行い、文字起こしをしてから判断基準シートに転記します。生の文字起こしをそのままAIに入れるよりも、聞き手が要点を整理してから入れたほうが、回答の筋が通りやすくなります。整理した内容は次の回の冒頭で社長に読んでもらい、ずれがあればその場で直してもらうと確実です。

結論だけでなく理由まで残す判断基準シートのひな形

判断基準シートとは、社長の答えを、相談の場面・結論・理由・例外・優先順位の形で1行ずつ記録していく表のことです。AI社長の出来は、このシートの理由の欄をどれだけ埋められたかで大きく変わります。結論だけを覚えたAIは、少し条件の違う相談で的外れな答えを返しやすくなってしまいます。

シートの列構成

列は次の9つで始めてみてください。Excelでもスプレッドシートでも構いません。

  • 番号(AIの回答で根拠として示すため)
  • 場面(値引き・採用・クレームなど、質問リストのカテゴリ)
  • 相談の内容(社員が実際に聞きそうな言い方で書く)
  • 社長の結論
  • 理由(なぜそう判断したか)
  • 例外(この条件なら結論が変わる)
  • 優先順位(何と何がぶつかったとき、どちらを取るか)
  • 適用範囲(誰向けの答えか、誰が最終判断をするか)
  • 確認日(いつ社長に確認したか)

確認日の欄があれば、古くなった判断を見つけて社長に聞き直すきっかけになります。相談の内容は、社長の言葉ではなく社員が聞きそうな言い方で書くのがポイントで、AIが似た質問を見つけやすくなるでしょう。

記入例

番号:12
場面:価格・値引き
相談の内容:長年の取引先から、今回だけ10%下げてほしいと言われました。受けてよいですか。
社長の結論:その場では受けない。持ち帰り、上長と相談してから回答する。
理由:一度下げた価格は次回の基準になる。長い取引先ほど、価格ではなく対応の速さと品質で選ばれてきた。
例外:先方の事情がはっきりしていて期間を区切れる場合は、期間限定の条件として上長の判断で認める。
優先順位:目先の売上より、価格の基準を守ることを優先する。
適用範囲:営業部門の全員向け。最終判断は上長。
確認日:2026年9月(社長インタビュー第3回)

上の例は説明のための架空のものです。まずは相談の多い場面から20〜30行を目安に埋めてみましょう。

社長の判断基準を入れるAIは、会社の環境にまとめる

判断基準シートを入れるAIは、社員ごとに選ばず会社で1つの環境にまとめて使いたいところです。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

GPTs・Gem・Claudeプロジェクトで作る指示文サンプル

判断基準シートができたら、ChatGPTのGPTs、GeminiのGem、Claudeのプロジェクトといった、指示と資料を登録して使い回せる機能で自作することが出来ます。作成画面の基本操作はGPTsの作り方やAI社員の作り方で紹介しているため、ここでは社長ボットに貼り付ける指示文の中身に絞ります。3つとも、指示文に書く要素は共通で、役割、判断の軸、答え方、答えてはいけないこと、社長本人へのつなぎ方の5つになります。

ツールを選ぶ前に、プランの条件を確かめておきましょう。OpenAIのヘルプでは、Free・Go・Plus・Proを含む個人向けアカウントでは新しいGPTを作成・公開できず、Business・Enterprise・Eduのワークスペースで設定と権限が許す場合に作成できると説明されています。プランごとの細かな上限はChatGPTの制限一覧で確かめることが出来ます。

3つのツールで共通に使える指示文

次の指示文は、判断基準シートと組み合わせて使う前提のひな形です。

# 役割
あなたは株式会社〇〇の代表取締役〇〇の考え方を、社員向けに説明する社内アシスタントです。あなたは社長本人ではありません。社長の過去の発言と判断基準シートをもとに、社長ならどう考えるかを参考意見として伝えます。

# 判断の軸(優先順位の高い順)
1. お客様との長い信頼関係を守る
2. 価格の基準を崩さない
3. 社員の安全と健康を犠牲にしない
4. 迷ったら、早めに上長に相談する
(判断基準シートの優先順位の欄から転記する)

# 答え方
・最初に結論を1文で、次に理由を、最後に例外を書く
・判断基準シートに根拠がある場合は、その番号と確認日を示す
・根拠が見つからない場合は推測で埋めず、登録された資料には該当する判断がないと答える
・社長の口ぐせ(〇〇、〇〇)は使ってよいが、命令口調にはしない

# 答えてはいけないこと
・値引き額、契約条件、採用の合否、人事評価、給与、懲戒について結論を出すこと
・特定の社員や取引先についての評価
・法令、税務、労務の解釈
これらを聞かれたら考え方の参考だけを伝え、決めるのは上長であることを伝える

# 社長本人へのつなぎ方
次の場合は、回答の最後に「この件は社長本人か上長に確認してください」と書く
・金額が〇〇万円を超える
・会社として初めての判断になる
・社外に約束をする内容を含む

〇〇の部分と判断の軸は、判断基準シートから自社の内容に置き換えてください。シート本体は指示文に書き込むのではなく、ファイルとして資料の欄に登録したほうが、行が増えたときの更新が楽になります。

ChatGPT(GPTs)の場合

GPTsでは、上の指示文を指示の欄に入れ、判断基準シートと理念の文書をナレッジに登録します。OpenAIのヘルプでは、ナレッジには1つのGPTに最大20個、1ファイル最大512MBまで添付できると案内されています。共有範囲は、招待した人だけ、リンクを知っているワークスペース内の人、ワークスペース全体などから選べるため、最初は試用する数人だけに共有してみてください。

注意したいのは、OpenAIがカスタムGPTの提供終了を予定している点です。同社のヘルプ(2026年9月18日確認時点)では、対象のEnterpriseワークスペースは9月25日で新しいGPTの作成を終え、12月11日に提供を終える予定とされていました。移行先としてはプラグインが案内されています。他のプランにも同じスケジュールが適用される予定とされているので、GPTsで作る・使い続ける場合は、指示文と判断基準シートを手元のファイルでも保管しておきましょう。

※GPTの作成条件・ナレッジの上限・提供終了の予定は、OpenAIの日本語ヘルプ(GPTの作成と編集、カスタムGPTの提供終了と移行に関するFAQ)で2026年9月18日に確認した内容です。日程は変更される場合があると同社は記載しています。

Gemini(Gem)の場合

Gemでは、名前と指示を入力し、判断基準シートなどのファイルをアップロードして追加の情報として持たせることが出来ます。Googleのヘルプは、Gemの指示を書く観点として、ペルソナ・タスク・コンテキスト・形式の4つを挙げています。上の指示文の役割がペルソナ、判断の軸と答えてはいけないことがコンテキスト、答え方が形式にあたると考えると、そのまま当てはめやすいでしょう。

共有の際は、Gemにアップロードした指示とファイルが、そのGemにアクセスできる全員に閲覧されるとヘルプに明記されています。社長の本音が書かれた資料を入れたGemを全社員に共有してよいかは、慎重に判断してください。Google Workspaceでは、Gemの共有はドライブの共有設定に従い、管理者がGemの共有そのものを無効にすることも出来ます。ただし、無効にする前に共有したGemはドライブから引き続き共有できるため、設定を変えたあとも既存の共有先を確認しておきましょう。

Claude(プロジェクト)の場合

Claudeのプロジェクトでは、プロジェクト指示に上の指示文を、プロジェクトナレッジに判断基準シートと理念の文書を登録します。Anthropicのヘルプによると、プロジェクトは無料のアカウントでも作れますが、組織のメンバーに共有できるのはTeamとEnterpriseのプランに限られます。共有の権限には、閲覧とチャットだけが出来る表示可能と、指示やナレッジを変えられる編集可能の2段階があります。

同じプロジェクトを共有していても、各自のチャットの中身は、本人が共有しない限り他のメンバーには見えない仕組みです。有料プランでは、ナレッジが多くなると自動で検索して必要な部分だけを読む方式に切り替わり、容量は最大10倍になると同社は説明しています。社長の講話録が増えていっても扱いやすいため、長く育てたい用途に向いているでしょう。

※Gemの指示の観点と共有の仕様はGoogleのGeminiヘルプ・Workspace管理者ヘルプで、Claudeのプロジェクトの仕様はAnthropicのヘルプで、2026年9月19〜24日に確認した内容です。

よくある失敗と対策:素材が集まらない・社長らしくない・使われない

AI社長づくりでつまずく場面は、大きく3つに分かれます。どれも作る前に知っておけば避けやすい失敗になります。

素材が集まらない

よくあるのは、社長のインタビュー時間が取れずに止まってしまうケースです。1回で全部聞こうとせず、15分で1カテゴリを週1回と決めてしまうと進みやすくなります。社長が話した内容を聞き手がシートにまとめ、次の回の冒頭で確認してもらえば、確認日の欄も自然に埋まっていきます。

答えが社長らしくない

答えが一般論ばかりになる場合は、シートの理由と例外の欄が薄いことが多いでしょう。テストのときは、社長本人に10問ほど実際の相談を投げてもらい、AIの答えに自分ならこう言うと赤を入れてもらうのが近道になります。赤入れの内容は、そのまま判断基準シートの新しい行として追加してください。

反対に、社長の口ぐせばかりを真似して中身の薄い答えになることもあります。口調の再現は後回しにして、判断の筋が合っているかを先に確かめましょう。

社員が使わなくなる

公開した直後は使われても、しばらくすると誰も開かなくなる、という流れもよく見られます。原因の多くは、何を聞けばよいか分からないことと、聞いても役に立たない答えが返ってきたことの2つです。最初の画面によく使う質問の例を3〜5個並べれば、使い始めの迷いが減ります。役に立たなかった答えを報告してもらう窓口を作り、月に1回は判断基準シートを見直す日を決めておきましょう。

社長の判断基準は一度作って終わりではなく、社長の考えの変化に合わせて書き直すものです。古い判断が残ったままだと、社員が昔の方針で動いてしまうおそれがあります。

機密情報・学習利用の注意と、会社で安全に配る設定

AI社長に入れる資料は、経営の考え方や過去の判断、取引先とのやり取りなど、社外に出ると困る情報の塊です。作る前に、入力した内容がAIの学習に使われないか、誰が見られるか、誰がいつ使ったかを会社として把握できるか、の3点を確かめておく必要があります。個人情報保護委員会も2023年6月2日の注意喚起で、個人データを含む指示を入力する場合は、そのサービスの提供事業者が機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています。

学習させない設定(プラン別)

学習への利用は、個人向けプランと法人向けプランで初期の状態が違います。OpenAIのヘルプでは、GPTとの会話がモデルの改善に使われるかはプランによって異なり、Business・Enterprise・Eduでは既定で学習に使われない一方、Free・Plus・Go・Proを含む個人向けプランでは、オプトアウトしているかどうかによって使われる場合があると説明されています。Anthropicも法人向け製品の入出力を既定では学習に使わないとしており、Google Workspaceのデータについても、許可なくお客様のドメイン外で生成AIモデルの学習に使われることはない、というのが同社の案内です。

個人向けのプランでAI社長を作ると、学習の設定は社員本人の画面で行うことになり、会社からは状態が見えにくくなります。社長の考えを入れるAIは、社員の個人アカウントで作らせないことが最初の分かれ道です。Claudeでは、評価ボタンで送ったフィードバックは法人向けでも学習に使われることがあると同社は説明しており、TeamとEnterpriseではオーナーが評価ボタンを無効に出来ます。設定の具体的な手順はChatGPTのセキュリティ対策やClaudeで会社が決める権限・設定で解説しています。

共有範囲とアクセス権限を役職別に分ける

AI社長は、1つを全社員に配るより、読ませる資料の範囲で分けて作るほうが安全です。例えば、理念や行動指針だけを入れた全社員向けと、過去の投資判断や取引条件まで入れた管理職向けの2つに分ける方法があります。指示文や資料を変えられる編集権限は、作成者と総務・情シスの2〜3名に絞っておきましょう。

退職や異動のときに共有から外す手順も、作った時点で決めておくと安心でしょう。Claudeのプロジェクトはアーカイブしても共有権限やメンバーがそのまま残るとヘルプに書かれているため、外すときは共有設定から個別に削除することになります。

利用の記録と複数AIの使い分け

誰がいつ何を聞いたかを会社が把握できるかどうかも、ツールやプランによって差が出る部分です。記録がどこまで残り、誰が見られるかはプランごとに違うため、契約前に管理画面の機能を確認しておいてください。

また、社長の考えを整理する用途では、長い講話録の読み込みが得意なもの、Webで最新情報を調べられるものなど、場面によって向くAIが変わります。AI社長のためだけに1つのAIに契約を絞ると、ほかの業務で別のAIを使いたい社員が個人アカウントに流れ、会社から見えない利用が増えてしまうこともあります。使い分けの考え方は主要4AIの違いと使い分けで、社員が個人で使い始める経路は野良AI(シャドーAI)の解説で詳しく紹介しています。

AI社長を安全に配る設定チェックリスト

社内に公開する前に、次の10項目を確かめてください。決まっていない項目が1つでもあれば公開を少し待ち、先に決めてしまいましょう。

  • 会社で契約したアカウントで作っている社員の個人アカウントで作ったAI社長は、退職時に会社の手元に残らず、学習の設定も会社から見えにくくなります。
  • 入力内容を学習に使わない設定を確認した法人向けプランの既定の扱いに加えて、評価ボタンなどフィードバックの扱いまで確認します。
  • 資料から個人名・顧客名・具体的な金額を外した社員の評価や取引先との契約条件は、伏せるか、管理職向けのAI社長にだけ入れます。
  • 共有範囲を全社員向けと管理職向けに分けたGemのように、共有した相手が資料そのものを閲覧できる仕組みもあるため、資料の中身で配る相手を決めます。
  • 指示文と資料を編集できる人を2〜3名に絞った誰でも指示文を書き換えられる状態だと、社長の意図と違う答えが出ても気づけません。
  • 回答画面に参考意見であることの表示を入れた最初の画面と回答の末尾の2か所に入れます。文例は次の節で紹介します。
  • 答えてはいけない話題を指示文に書いた値引き額、契約、採用の合否、人事評価、法令や税務の解釈などを明記します。
  • 社長本人・上長へのつなぎ方を決めた金額の基準や初めての判断など、人に回す条件を指示文に書きます。
  • 利用状況を誰がどう確認するか決めたどこまで記録が残るかはツールとプランで違うため、確認の担当と頻度を決めます。
  • 見直しの日程と、退職・異動時の外し方を決めた判断基準シートの見直しは月1回を目安に、共有の解除は退職の手続きに組み込みます。

チェックリストの全体像は生成AIのセキュリティ対策チェックリストでも整理しています。社内ルールとして文書にする場合は、生成AIの社内ガイドラインの作り方の項目に、AI社長の扱いを1節足す形がおすすめです。

社員が社長の指示と誤解しないための表示文例

AI社長で気をつけたいのは、AIの答えが社長の命令として受け取られてしまうことです。社長の名前を冠したAIが断定的な口調で答えれば、社員が社長のお墨付きだと受け取るのも無理はありません。画面の最初と回答の末尾の2か所に、参考意見であることを示す文を入れておきましょう。

最初の画面に出す文

GPTsやGemの説明欄、社内ポータルの案内ページなど、使う前に必ず目に入る場所に入れます。

このAIは、社長の過去の発言と判断基準シートをもとに、社長ならどう考えるかを参考として答えるものです。社長本人の回答や指示ではありません。金額・契約・人事に関わることは、必ず上長に確認してから決めてください。

回答の末尾に毎回付ける文

指示文の答え方の項目に、次の文を毎回付けるよう書き足します。

※この回答は、登録された資料から作った参考意見です。社長本人の確認を経たものではありません。
※根拠:判断基準シート 番号〇〇(確認日:〇〇年〇月)

答えを控える場面の定型文

答えてはいけない話題を聞かれたときの返し方も、あらかじめ文で決めておきます。

この件は、登録されている社長の判断基準だけでは答えられない内容です。考え方の参考として、関連する基準は次のとおりです。(関連する基準)
実際の判断は、上長または社長本人に確認してください。

Claudeのプロジェクトでは、プロジェクトの名前と説明はClaude自身には読まれないとヘルプに書かれているため、回答の末尾に付ける文は必ず指示のほうに入れてください。社長の顔写真や本人そっくりの声を使う演出は誤解を強めやすいため、使うなら社内の説明会などで位置づけを伝えてからにしましょう。

社員に使ってもらう運用と判断基準の更新

作ったAI社長は、いきなり全社に公開するより、1つの部署で2〜4週間ほど試してから広げるほうが失敗を減らせます。試用の期間中は、使った方に、役に立った答えと立たなかった答えを1件ずつ出してもらいましょう。

全社に広げるときは、朝礼や全社会議で、何を聞いてよいか、何は聞いても答えないか、最終判断は誰がするかの3点を、社長本人の口から伝えてもらうのが効果的です。社長自身が使っている様子を見せると、社員も気軽に試しやすくなるでしょう。

運用が回り始めたら、判断基準シートの見直しを毎月の定例に組み込んでください。AIが答えられなかった質問と、社員から役に立たなかったと報告された答えを集め、社長に聞き直した内容をシートに足していく流れになります。続けるうちにシートは社長の考えをまとめた社内の手引きとしても使えるようになり、新人研修や管理職研修の資料にも転用することが出来ます。

普段使っているチャットツールから呼び出せるようにすると、使われる回数は増えやすいでしょう。ただし連携を増やすほど資料が届く範囲も広がるため、連携するツールと共有範囲は、先ほどのチェックリストと照らし合わせてから決めてみてください。

外部サービスの活用と自作の比較:どちらを選ぶか

AI社長は、市販の生成AIの機能で自作する方法と、社長のAI化を専門に扱う外部サービスに依頼する方法の2通りで作ることが出来ます。違いが出るのは、始めるまでの速さ、費用の見え方、社長インタビューの手間、機密情報の置き場所の4点です。

自作の強みは、今日から小さく始められることにあります。ChatGPT Businessの標準シートは、月額課金なら1ユーザーあたり税抜月25ドル、年額課金なら税抜月20ドルとOpenAIのヘルプに記載され、ワークスペースごとに2シート以上が必要です。試用する10人全員に月額課金で配ると、毎月250ドル(税抜。日本では別途消費税10%)の出費になります。ClaudeのTeamプランも、標準シートが税抜で月払い月25ドル・年払い月20ドル(日本から表示すると消費税込みで月27.50ドル・月22ドル)と料金ページに表示されています。

※価格は2026年9月16〜17日に各社の公式ヘルプ・料金ページで確認した米ドル表示(税抜)です。プランや価格は変わることがあるため、契約前に各社の公式ページで最新の表示をご確認ください。

一方で、判断基準シートを作る手間は、自作でも外部サービスでも大きくは変わりません。外部サービスはインタビューの設計や回答の調整を任せられる反面、費用や契約条件はサービスごとに確認が必要で、社長の考えを外部の事業者に預けることにもなります。

進め方の目安としては、まず自作で10〜20問ほどのテストをして、社内で使われる手応えがあるかを確かめてから外部サービスを比べる順番が無理のない形でしょう。使われる見込みが立たないうちに大きな費用をかけると、使われなかったときの損が大きくなってしまいます。社内にAIの設定を担える人がいない、講話録が膨大にある、アバターや音声で全社イベントに登場させたい、といった条件がそろう場合は、外部サービスも有力な候補と言えます。

どちらを選ぶ場合も、AI社長だけを別の契約で持つより、社員が普段使うAIの環境の中に置くほうが、学習の設定や共有範囲、利用の記録をまとめて管理しやすくなります。社長の考えを入れたBOTが社内にいくつも散らばらないよう、置き場所を1つに決めておきましょう。

社長の判断基準を、社内限定のBOTで共有

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。GPTs・Gem・Claudeプロジェクトの社内版にあたるカスタムプラスで、よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有出来ます。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の誰が・いつ・どのAIを・どう使ったかが一覧でき、使わせるAIも会社が選べます。社長の考えを入れたBOTとの会話履歴も、利用ログやアカウントと同じく国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理されます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

AI社長を作ると、社長は不要になりますか?
なりません。AI社長は社長の過去の考え方を社員が参照できるようにする相談相手で、新しい状況での判断や最終的な責任は、社長と上長が持ちます。判断基準シートを新しく保つために、社長本人との対話はむしろ定期的に必要になります。
AI社長を作る費用はどのくらいですか?
市販の生成AIの法人向けプランで自作する場合、主な費用は利用するプランの月額料金です。例えばChatGPT Businessの標準シートは、月額課金で1ユーザーあたり税抜月25ドル(2026年9月時点のOpenAIヘルプの記載)で、ワークスペースごとに2シート以上が必要です。外部の専門サービスに依頼する場合の費用は、サービスごとに確認が必要です。
社長へのインタビューには、どのくらい時間がかかりますか?
決まった目安はありませんが、1回15分で1カテゴリずつ、週1回ほどのペースで進めると社長の負担を抑えられます。本文の質問リストは7カテゴリ20問なので、1回1カテゴリなら7回ほどで一通り聞き終える計算です。
個人向けのChatGPTでGPTsを作ってAI社長にしてもよいですか?
おすすめしません。OpenAIのヘルプでは、Free・Go・Plus・Proを含む個人向けアカウントでは新しいGPTを作成・公開できないと案内されています。また個人向けプランでは、オプトアウトの状況によって会話が学習に使われる場合があります。社長の考えや社内の判断を入れるAIは、会社で契約した法人向けの環境で作ってください。
社員がAI社長を使わなくなったら、どうすればよいですか?
まず、何を聞けばよいか分からない状態になっていないかを確かめ、最初の画面に質問の例を並べてください。次に、役に立たなかった答えを集めて社長に聞き直し、判断基準シートに足していきます。社長本人が朝礼などで使っている様子を見せることも、使われるきっかけになります。
AI社長の答えを、社長の指示として扱ってよいですか?
扱わないでください。AI社長の答えは登録された資料から作った参考意見で、社長本人が確認したものではありません。金額・契約・人事に関わる判断は、必ず上長または社長本人に確認してから決めるよう、画面の表示と社内ルールの両方で伝えておくことが大切です。
社長が交代したら、AI社長はどうなりますか?
判断基準シートは前の社長の考え方の記録として残し、新しい社長の考えと違う部分を洗い出す材料に使えます。社員が前の方針のまま動かないよう、交代の時点でAI社長の公開は止め、新しい社長の基準で作り直すかどうかを決めてください。

まとめ

AI社長は、社長の考え方と判断基準をAIに持たせ、社員がいつでも相談できるようにした社内向けの仕組みです。答えはあくまで参考意見で、最終的な判断と責任は人が持つという線を最初に引いておくことが欠かせません。

作り方の中心は、ツールの設定よりも素材づくりにあります。質問リストで社長から結論・理由・例外を聞き出し、判断基準シートに1行ずつ残していけば、GPTs・Gem・Claudeのプロジェクトのどれを使っても社長らしい筋の通った答えに近づけることが出来ます。

社長の考えは会社にとって機密の塊となるため、個人アカウントでは作らせず、学習させない設定・共有範囲・利用の記録を会社で管理できる環境に置きましょう。回答画面に参考意見であることを示す文を入れ、月に1回はシートを見直す日を決めておくと安心です。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧をご覧ください。