シャドーAIと金融庁。AIディスカッションペーパーの記述と、金融機関が整える管理

シャドーAI(野良AI)について、金融庁は2026年3月のAIディスカッションペーパー第1.1版で「シャドーIT」という言葉を使い、従業員や業務部門が組織の許可を得ずに外部のAIサービスを使う動きが増え、情報漏洩などのリスクを増幅させる恐れがあると書いています。規制や義務を定めた文書ではなく初期的な論点整理という位置づけですが、同じ節では、入力データに制約を付ける先や、入出力を管理できる自社専用環境を作る先が多いことも紹介されている形となります。金融機関がまず整えたいのは、使ってよいAIと情報の線引き、全役職員への周知、公認の環境とログによる管理の3つです。シャドーAIの意味やリスクの全体像は野良AI(シャドーAI)とは?意味・リスク・対策にまとめています。

シャドーAIとは何かを短く確かめたい方はシャドーAIとは?会社にバレる範囲とバレない範囲、会社として何から始めるかはシャドーAI対策は何から?最初の30日でやることをご覧ください。

金融庁は資料のどこで、シャドーAIについて何と書いているか

該当する記述は、資料のIV章のうち「情報セキュリティ・サイバーセキュリティ」の節に置かれた1文です。ページでいうとp.33で、節番号はIV-1-①-viiiとなります。原文は次のとおりで、括弧内の言葉もそのまま引いています。

AI の広範な普及により、従業員個人や業務部門が組織の許可を得ずに外部のAI サービスを使用する「シャドーIT」の利用が増加する可能性もあり、情報漏洩や不正アクセスなどのセキュリティリスクを増幅させる恐れがある
出典:金融庁「AI ディスカッションペーパー(第1.1 版)」2026年3月、p.33

ここで使われている言葉は「シャドーIT」で、「シャドーAI」という語は資料のどこにも出てきません。全55ページの中で「シャドー」という言葉が出てくるのも、このp.33の1か所だけになります。書き方も「増加する可能性もあり」「増幅させる恐れがある」という見通しの形で、金融機関に何かを禁止したり対応を義務づけたりする文とは違うものです。社内の稟議や取締役会資料で引用するときは、「金融庁がシャドーAIを禁止した」「対応を求めている」と書かずに、「論点整理の中で、許可のない外部AIサービスの利用をセキュリティリスクとして挙げている」と書くのが正確でしょう。

資料の正式な題名は「AI ディスカッションペーパー(第1.1 版)-金融分野におけるAI の健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理-」となっています。題名のとおり初期的な論点整理という位置づけで、法令や監督指針のように守るべき基準を定めた文書とは性格が異なります。原文は金融庁のPDF(AIディスカッションペーパー第1.1版)で確認することが出来ます。

※ページ番号はPDFに印字されたページです。資料の記述は2026年10月3日時点で金融庁のPDFを取得して確認したものになります。

顧客情報が学習に使われるリスクと、海外サーバーの問題

1文だけの言及でも担当部署が軽く扱えないのは、同じ節の前後に、クラウド型のAIを使うときの情報管理の論点がまとめて書かれているからです。p.32では、クラウド型のAIを使うと機密情報や顧客情報が提供元に送られ、プロンプトや出力がベンダー側の学習に使われるリスクがあると整理されています。海外のサーバーを使う場合は、データの海外移転をどう管理するかも課題の一つとされます。

社員が自分で契約した生成AIは、まさにこの論点がすべて会社の管理の外で起きる使い方になります。どの提供元に、どの国のサーバーで、どんな学習設定のまま情報が送られたのかを、会社が後から確かめることは難しいでしょう。p.33の「シャドーIT」の1文は、p.32の情報管理の論点を会社が把握できない形で抱え込む使い方を指していると読むと、社内で説明しやすくなります。

もう一つ押さえておきたいのは、この1文がガバナンスの節ではなく、情報セキュリティの節に置かれている点です。資料の構成から見ると、シャドーITは主に情報漏洩や不正アクセスの入り口として扱われていると読めます。社内で担当を決めるときも、セキュリティ部門だけの課題として片づけず、p.33が挙げる法務・コンプライアンス部門やモデル・リスク管理部門との連携の中で扱うのが自然な形となります。

金融庁の資料に書いてあること・書いていないこと

社内で方針を決める前に、資料が何を書いていて何を書いていないのかを分けて押さえておくと、説明が過不足なく済むようになります。ネット上の解説には、資料に書かれていない内容を金融庁の見解のように紹介しているものもあるため、引用元のページで確かめてから使うことをおすすめします。下の表は、第1.1版のPDFで確認できた記述を、ページつきで整理したものです。

区分内容資料の該当箇所
書いてある許可を得ない外部AIサービスの利用(シャドーIT)が増える可能性があり、情報漏洩や不正アクセスのリスクを増幅させる恐れがあるp.33(IV-1-①-viii)
書いてあるクラウド型AIでは機密情報・顧客情報が提供元に送られ、プロンプトや出力が学習に使われるリスクがある。海外サーバーの場合はデータの海外移転の管理も課題p.32
書いてあるマスキング等で入力を自動制限する仕組みを検討する先もあるが、完全にはブロックできず、最終的には従業員教育や運用ルールの徹底に頼らざるを得ないという意見p.32
書いてあるプロンプトの入力データに一定の制約(機密情報のデータ利用は不可など)を付けている先が大半。自社専用環境で入出力情報を管理できる環境を作っている先も多数p.33、図表16
書いてあるセキュリティ部門だけでなく、法務・コンプライアンス部門やモデル・リスク管理部門と連携し、リスクに応じて内部監査部門が監査するp.33
書いてある低リスクの利用はチェックリストに基づく現場判断、顧客向けなど高リスクの利用は専門部署が事前審査するリスクベース・アプローチの事例p.25
書いてあるAI官民フォーラムでの意見として、事業部門(一線)・管理部門(二線)・内部監査部門(三線)に触れ、一線のリスク感性を育てる必要性を指摘p.25
書いてあるAIに関する規程等の策定状況。ある金融グループはAIガバナンス指針を策定・公表し、社内チェックリストで指針への合致を確認p.26、図表14
書いてあるAIを何らか利用している先のうち、71.1%が幅広く一般社員向けに生成AIを利用可能にしているp.12、図表5
書いていない「シャドーAI」という語全文で「シャドー」はp.33の1か所のみ
書いていないシャドーITの禁止、罰則、発覚時の当局への報告該当する記述を確認できない
書いていない公認のAIツールを整えることをシャドーIT対策として位置づける記述該当する記述を確認できない

表の下3行は、資料の中に該当する記述を確認できなかったという意味で、金融庁がそれを否定しているという意味ではありません。たとえば公認のAI環境を整えることは、p.33で自社専用環境を作る先が多いと紹介されているものの、資料はそれをシャドーITへの対策として結びつけてはいないのです。社内資料に書くときは、「金融庁の資料で紹介されている取組」と「自行庫としての判断」を分けて書いておきましょう。

引用するときの言い回しの例:「金融庁のAIディスカッションペーパー第1.1版(2026年3月)は、許可を得ない外部AIサービスの利用(シャドーIT)が増える可能性と、それに伴う情報漏洩等のリスクに触れている(p.33)。同資料は初期的な論点整理であり、当行庫は同資料の論点を参考に、以下の管理を整備する」という書き方なら、資料の性格を外さずに済みます。

担当者の間で資料を読み合わせるときは、シャドーITの1文がある情報セキュリティの節(p.32〜33)だけでなく、管理の考え方を扱うページもあわせて開いてみてください。リスクベース・アプローチと一線・二線・三線の整理はp.25に、規程の策定状況はp.26の図表14にまとめられています。どこにリスクが書かれ、どこに管理の考え方が書かれているのかを分けて読むと、行内での役割の割り振りにもそのまま使えるようになります。後の節で示す判断表や役割分担の表も、この2か所の記述を手がかりに組み立てたものです。

金融機関ならではのリスクと、報道された現場

金融機関でシャドーAIが重く見られるのは、入力されうる情報の多くが顧客情報や取引の情報だからです。一般の事業会社であれば社外秘の企画書で済む話が、金融機関では預金や融資の取引内容、本人確認の情報、未公表の取引に関わる情報にまで及びます。稟議書や与信の検討メモ、顧客への提案資料の下書きは、生成AIで楽をしたくなる業務の代表であり、同時に外部へ出してはいけない情報が最も詰まった文書の一つでもあるのです。

実際に、現場ではすでにこうした使い方が起きていると報じられています。ニッキンONLINEの記事「金融界、AI無断使用で漏洩リスク 規定整備追い付かず」によると、首都圏の大手信用金庫の本部に勤める職員が、私的に契約した生成AIで業務文書の下書きをしており、本部はその業務利用を認めていないとのことです。同じ記事は、無断で使われる生成AIによる漏洩リスクが金融界で高まり、社内規定の整備が追いついていないと伝えています。

この報道で目を向けたいのは、業務文書の下書きという、ごく日常的な仕事に使われていた点になります。業務の量は減らないまま、手元のスマートフォンでは高性能なAIが手軽に使えるとなると、規定がない部分は個人の判断で埋められてしまいます。規定の整備が遅れるほど、こうした個人判断の利用が積み上がっていく形となってしまうのです。

金融庁の資料からも、AIの利用が広がっている様子が読み取れます。2024年の調査時点で、p.12の図表5「生成AIの利用状況」では、AIを何らか利用していると回答した先のうち71.1%が幅広く一般社員向けに生成AIを利用可能にしており、14.9%が特定部署に限定、12.4%が利用していない・検討中、1.7%がその他と示されています。幅広く一般社員が使える先が7割を超える一方で、特定部署に限っている先では、使える人と使えない人が行内に分かれているということになります。

※71.1%などの数字は、金融庁が2024年10〜11月に実施したアンケート調査の結果で、「AIディスカッションペーパー(第1.1版)」p.12 図表5に掲載された値です。母数は、AIを何らか利用していると回答した先です。

使えない部署の職員にとって、隣の部署が使っているAIは身近な存在でしょう。会社の環境で使えないなら自分で契約しようという動きが生まれやすいのは、こうした「一部の部署だけが使える」状態の先かもしれません。利用を特定部署に限っている場合は、限っている理由と、他の部署が使いたくなったときの申請の道筋を、あわせて示しておくことが大切です。

入力されやすい情報を4つに分けて考える

金融機関の業務で生成AIに入力されやすい情報は、重さの違う4つの層に分けて考えると整理しやすくなります。層ごとに扱いを決めておけば、職員は「これは入れてよいか」を毎回悩まずに判断することが出来ます。

  • 公開されている情報(自行庫のホームページ、公表済みの商品案内、法令や公的資料の本文など)
  • 行内向けの情報(事務手順書、行内規程、研修資料、会議の議事録など)
  • 取引先や顧客に関わる情報(取引先名、融資や預金の取引内容、稟議書、顧客との面談記録など)
  • 特に慎重に扱う情報(本人確認の書類や番号、未公表の計数や施策、市場に影響しうる未公表の情報など)

私的に契約した生成AIでは、どの層の情報であっても、会社が送信先や学習の設定を確かめることが出来ません。公認の環境であっても、下の2つの層は原則として入力しないか、伏せ字にしてから入力する扱いが現実的でしょう。この4層は、後で紹介する判断表や規程の入力禁止情報の土台にもなるので、自行庫の業務に合わせて具体例を書き足してみてください。

層の境目で迷いやすいのは、取引先名だけを含む文書や、数字を伏せた稟議書のように、一部を加工した情報です。加工すれば入力してよいと決める場合は、どこまで伏せれば足りるのかを例文で示しておくと、職員ごとの判断のばらつきを抑えられます。伏せ方の例は、研修の教材にもそのまま転用することが出来るはずです。

禁止と遮断だけではシャドーAIが減らない理由

禁止と通信の遮断は必要な手段ですが、それだけでは私的な利用はなくなりません。金融庁の資料自身が、p.32で技術的な制限の限界に触れています。機密情報や個人情報の入力をマスキングなどで自動的に制限する仕組みを検討する先もあるものの、完全にブロックできるわけではなく、最終的には従業員教育や運用ルールの徹底に頼らざるを得ないという意見が紹介されているのです。

行内のネットワークで生成AIのサイトを遮断しても、職員の私物のスマートフォンからは使えてしまいます。文章を手で打ち直したり、画面を撮影して読み込ませたりすれば、行内のログには何も残りません。遮断を強めるほど、使い方は見えない場所へ移っていき、会社として把握できる範囲が狭くなってしまいます。

遮断そのものをやめる必要はなく、行内の端末から私的なAIに業務の文書を送れないようにしておくことは、今後も大切な手立てとなります。気をつけたいのは、遮断した事実だけを伝えて、理由や代わりの手段を伝えないままにしてしまうことです。職員の側から見ると、昨日まで使えた道具が理由も分からず使えなくなり、私物の端末に持ち替えるきっかけになりかねません。遮断の通知には、なぜ止めるのか、業務で使いたいときはどうすればよいのかを、必ず同じ文面に書き添えましょう。

一方でp.33は、プロンプトの入力データに一定の制約を付けている先が大半で、自社専用の環境で生成AIサービスを導入し、入出力の情報を管理できる環境を作っている先も多いと紹介しています。資料はこれをシャドーITへの対策として書いているわけではありませんが、管理できる環境で使わせるという考え方は、私的な利用を減らす手立てとしても筋が通ります。職員が私的なAIを使う理由が「業務で使える環境がない」なら、禁止を重ねるより公認の環境を渡すほうが、私的な利用を減らしやすいと考えられます。

実際の順番としては、まず使ってよい環境を用意し、次に私的なアカウントでの業務利用を禁止すると周知し、そのうえで遮断やログの確認を重ねる形が自然でしょう。代わりの手段がないまま禁止だけを出すと、職員は禁止を守るか、仕事の速さを取るかの二択を迫られます。使える環境があれば、禁止は「こちらを使ってください」という案内として受け止めてもらえるようになるはずです。

職員が私的なAIを使う理由を確かめる

公認の環境を渡すときは、職員がなぜ私的なAIを使っていたのかを先に確かめておく必要があります。理由が分からないまま環境を選ぶと、私的なAIでは出来ていたことが公認の環境では出来ず、結局は私物の端末に戻ってしまいます。報道で触れられていた業務文書の下書きのように、日々の文章仕事が使い道の中心になっている例も多いでしょう。

よく挙がりそうな理由としては、文書の下書きや要約を早く済ませたい、調べものの手間を減らしたい、複数のAIを試して良い答えを選びたい、行内の端末より手元のスマートフォンのほうが手軽、といったものが考えられます。こうした理由に公認の環境でどこまで応えられるかを一つずつ確かめ、応えられない部分は判断表や申請の手続きで補っていきましょう。理由の聞き取りは次の節で紹介するアンケートの設問6と7で行うことが出来るため、環境選びの前に結果を読み込んでおくことをおすすめします。私的な利用を減らせるかどうかは、職員の不便をどれだけ正確につかめたかで大きく変わってきます。

聞き取りの結果は、担当部署だけで抱えずに、営業店や本部の各部署へも要点を返しておくと効果的です。自分たちの声が環境選びに反映されたと分かれば、公認の環境に移る動機が職員の側にも生まれます。反対に、意見を集めたまま何も変わらなければ、次のアンケートでは本音が出にくくなってしまうでしょう。

私的なAIを減らすなら、まず使える環境を渡すところから

禁止を重ねる前に、職員が業務で使ってよいAIを会社として1つ用意しておくと、私的な利用の受け皿になります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

実態把握の進め方:アンケートの設問例とログで見る項目

対策の最初の一歩は、行内で誰がどのAIをどんな業務に使っているかを測ることです。実態が分からないまま規程を書くと、現場で実際に起きている使い方に合わず、守られない規程になってしまいます。把握の方法は、職員への自己申告アンケートと、ネットワークや端末のログの確認を組み合わせるのが基本となります。

自己申告アンケートの設問例

アンケートは、正直に答えても不利にならないと最初に約束することが何より大切です。「回答の内容を理由に処分は行わない」「今後の環境整備のために使う」と冒頭に明記し、記名か無記名かも目的に合わせて決めましょう。設問は次のような形が使いやすいはずです。

  1. この3か月に、業務に関係する作業で生成AI(ChatGPT、Gemini、Claude、Copilotなど)を使ったことがありますか。(毎日/週に数回/月に数回/ない)
  2. 使ったのはどの端末ですか。(行内の端末/私物のスマートフォン/私物のパソコン/その他)
  3. 使ったアカウントはどれですか。(会社が用意したもの/個人で無料登録したもの/個人で有料契約したもの/分からない)
  4. どんな作業に使いましたか。(メールや文書の下書き/要約/翻訳/表計算や数式/調べもの/プログラム/その他)
  5. 入力した情報に、次のものは含まれていましたか。(顧客の氏名や口座などの情報/取引先名/行内規程や手順書/未公表の計数や施策/含めていない/覚えていない)
  6. 会社の環境で使えるなら、どの作業に使いたいですか。(自由記述)
  7. 生成AIの利用について、分からないことや不安なことはありますか。(自由記述)

設問5は、答えにくい内容だからこそ選択肢に「覚えていない」を入れておくと、回答の正直さが保たれます。設問6の答えは、後で公認の環境を選ぶときの要件そのものになるため、集計の際は部署ごとに分けて読んでみてください。

ログで見る項目とDLP・CASBの使い方

アンケートは自己申告なので、ログの確認で裏づけを取ります。プロキシやファイアウォールのログでは、生成AIサービスのドメインへのアクセス件数、利用している端末と部署、時間帯、送信データ量の4つを見るのが基本です。送信量が多い端末は、文書を丸ごと貼り付けている可能性があるため、優先して確認する対象になります。

端末管理の仕組みが入っていれば、生成AIのデスクトップアプリやブラウザ拡張機能が入っていないかも確かめられます。CASB(クラウドサービスの利用を可視化・制御する仕組み)があれば、許可していないクラウドサービスの利用を自動で洗い出すことも出来ます。DLP(情報漏洩対策の仕組み)では、口座番号や個人番号のような決まった形の情報が外部へ送られるのを検知・制止する設定が考えられます。

ただし、ここで見えるのは行内の端末とネットワークを通った利用だけです。私物のスマートフォンでの利用はログに出てこないため、アンケートと突き合わせて、ログに出ない利用がどのくらいありそうかを推し量ることになります。ログの数字が小さいからといって安心せず、見えていない範囲があることを報告書にも書いておくのが誠実な進め方でしょう。

部署と端末に分けて進める

行内全体を一度に調べようとすると、集計も聞き取りも膨らんでしまいます。最初は、文書作成の多い本部の企画・審査・事務の部署と、顧客と接する営業店に分けて進めるのが扱いやすい方法です。本部は行内端末のログで見えやすく、営業店は私物の端末での利用が多くなりがちなので、アンケートと聞き取りの比重を高めるといった調整が出来ます。

端末の面では、行内のパソコン、貸与しているスマートフォンやタブレット、私物の端末の3つに分けて、それぞれ何が分かり何が分からないかを表にしておくと、報告の場で説明しやすくなります。貸与端末は管理の仕組みで利用状況を確かめられる場合がありますが、私物の端末は職員の自己申告に頼るしかありません。調べた範囲と調べられなかった範囲を最初から分けて書いておけば、後から実態が見つかったときにも、把握の限界として説明が通るはずです。

許可する範囲の線引き:p.25のリスクベースを判断表にする

実態が分かったら、どの用途なら現場の判断で使ってよく、どの用途は事前の審査が要るのかを線引きします。金融庁の資料はp.25で、社内の業務効率化のような低リスクの利用はチェックリストに基づく現場判断に委ね、顧客向けのような高リスクの利用は専門部署で事前に審査するという、リスクベース・アプローチの事例を紹介しています。この考え方を、用途と扱う情報の組み合わせで判断表に落とすと、現場が迷わずに済むようになります。

下の表は、p.25の考え方をもとに用途の例を当てはめたものです。資料に書かれた表ではなく、各行庫が自らの規模や業務に合わせて書き換えることを前提にした例になります。

用途の例扱う情報判断する人使ってよい環境
公開情報をもとにした文章の下書き、要約、翻訳公開情報、一般的な業務知識現場(チェックリストで自己確認)公認の環境
行内規程や手順書の検索・要約社外秘(顧客情報を含まない)現場(チェックリストで自己確認)公認の環境(学習に使われない設定・ログあり)
稟議書や報告書の下書き社外秘、取引先名を含みうる所属長。顧客を特定できる情報を入れる場合は二線に相談公認の環境。顧客情報は伏せて入力
顧客向けの説明文、商品案内、営業資料商品情報、顧客への表示二線(コンプライアンス部門)の事前審査公認の環境。出力は人が必ず確認
顧客対応の自動応答、審査業務への組み込み顧客情報専門部署の事前審査(p.25の考え方を当てはめた例)個別に審査した環境
私的に契約した生成AIでの業務すべて業務利用は認めない使わない

表を作るときに大切なのは、最後の行をはっきり書くことです。私的なアカウントでの業務利用を認めないと書くなら、その上の行で、公認の環境ならどこまで使ってよいかを具体的に示しておかなければ、職員は使い道を失ってしまいます。現場が自分で判断する行には、確認するチェックリストを添えてみてください。たとえば「顧客を特定できる情報を入れていないか」「未公表の計数を入れていないか」「出力をそのまま顧客に出していないか」の3問程度で十分でしょう。

線引きの境目で迷う用途は、最初は一段厳しい側に置き、運用しながら緩めていくのが現実的です。生成AIのサービスや機能は短い間隔で変わっていくため、判断表は一度作って終わりにせず、半年ごとなど期限を決めて見直す前提で作りましょう。

一線・二線・三線と経営陣の役割分担

シャドーAI対策は、どこか1つの部署に任せると進みにくいテーマです。金融庁の資料はp.25で、AI官民フォーラムでの議論として事業部門(一線)・管理部門(二線)・内部監査部門(三線)に触れ、一線のリスク感性を育てる必要性を指摘する意見を紹介しています。p.33では、セキュリティ部門だけでなく法務・コンプライアンス部門やモデル・リスク管理部門と連携し、リスクに応じて内部監査部門による監査を実施するなど、統合的な対応が必要という整理です。

これを実務の担当に落とすと、次のような分担が考えられます。リスク管理、コンプライアンス、システムの各部門が同じ表を見ながら、自部署の行を確かめる使い方を想定しています。

仕事一線(営業店・本部の事業部門)二線(リスク管理・コンプライアンス・法務)システム部門三線(内部監査)
実態把握アンケートに回答、部署内の利用を申告アンケートの設計と集計ログの抽出と分析把握の範囲と限界を確認
線引き・承認チェックリストで自己確認判断表の作成、事前審査環境ごとの技術的な条件を提示判断表が運用されているかを確認
公認の環境使いたい業務を申請利用条件と入力禁止情報を決める環境の選定、設定、アカウント管理設定とログ保存を検証
教育・周知研修を受講、部署内で共有通知文と研修内容の作成操作手順書の作成受講状況を確認
発覚時の対応速やかに申告影響の評価と報告要否の判断ログの保全と調査再発防止策の有効性を検証

経営陣の役割は、この表の外側にあります。私的な利用を減らすには公認の環境を用意する予算が要り、規程の改定には決裁が要るため、経営陣が方針として打ち出さなければ各部署の作業が止まってしまいます。取締役会や経営会議には、実態把握の結果と判断表、公認の環境の案をまとめて一度に諮ると、議論が具体的になって決めやすくなります。

規模の小さい信用金庫や信用組合では、二線とシステム部門を同じ数名が兼ねていることも多いはずです。その場合も、表の行ごとに「誰が担当か」だけは名前で決めておくと、抜け漏れが見えやすくなります。担当が兼務でも構いませんが、内部監査の行だけは実務の担当者と分けておくことが欠かせません。

経営会議に諮るときの資料の骨子

経営陣に判断を求める資料は、細かな手順よりも、何が起きていて、何を決めてほしいのかが一目で分かる構成にします。次の6項目に沿って1〜2枚にまとめると、議論が具体的な決定に向かいやすくなるでしょう。

  1. 金融庁の資料の記述(p.33のシャドーITの1文と、資料の性格が論点整理であること)
  2. 行内の実態把握の結果(アンケートの回答率、私的な利用があると答えた割合、ログで見えた範囲と見えない範囲)
  3. 想定される影響(入力されていた可能性のある情報の層と、その場合の対応)
  4. 対応の案(判断表、規程の改定、通知と研修、公認の環境の導入)
  5. 必要な費用と体制(公認の環境の費用、担当部署と兼務の状況)
  6. 決めてほしいこと(規程改定の承認、予算、全役職員への方針の発信者)

6番の「方針の発信者」は見落とされがちな項目になります。通知文の差出人が担当部長のままだと、営業店では本部の一部署からの連絡として受け止められることも少なくありません。トップの名前で方針を出すかどうかも含めて、経営会議で決めてもらうようにしてみてください。

AI利用規程の条文例

規程は、既存の情報セキュリティ規程に生成AIの条文を追記する形でも、AIに特化した規程を新しく作る形でも構いません。金融庁の資料はp.26の図表14で、AIに関する規程等の策定状況を取り上げており、ある金融グループがAIガバナンス指針を策定・公表し、社内チェックリストで指針への合致を確かめている例も紹介しています。どちらの形を選ぶにしても、シャドーAIに関わる部分は次のような条文で押さえることが出来ます。

生成AIの利用に関する規程(条文例)

第1条(目的)
本規程は、役職員が業務で生成AIを利用する際の遵守事項を定め、顧客情報および機密情報の漏洩を防ぎつつ、業務の効率化を図ることを目的とする。

第2条(対象)
本規程は、全役職員(嘱託、パートタイマー、派遣職員を含む)が業務に関連して行う生成AIの利用に適用する。業務時間外または私物端末での利用であっても、業務に関する情報を扱う場合は対象とする。

第3条(承認済み生成AI)
1. 業務で利用できる生成AIは、所管部署が承認し、一覧に掲げたもの(以下「承認済み生成AI」という)に限る。
2. 所管部署は、承認済み生成AIの一覧を社内に掲示し、変更があった場合は速やかに周知する。

第4条(私的アカウント等の利用禁止)
役職員は、個人で登録または契約した生成AIのアカウント、および承認済み生成AI以外のサービスを、業務に利用してはならない。

第5条(入力禁止情報)
役職員は、承認済み生成AIであっても、次の情報を入力してはならない。ただし、所管部署が個別に認めた場合を除く。
(1) 顧客を特定できる情報(氏名、口座番号、取引内容等)
(2) 本人確認に関する情報
(3) 未公表の重要な情報、および未公表の計数・施策
(4) その他、所管部署が別に定める情報

第6条(利用範囲と申請)
1. 用途ごとの判断区分は、別表(生成AI利用の判断表)による。
2. 別表で事前審査を要するとされた用途に利用する場合は、所定の様式で所管部署に申請し、承認を得なければならない。
3. 承認済み生成AIの利用を希望する部署は、所管部署に申請することができる。

第7条(出力の確認)
生成AIの出力を顧客または社外に示す場合は、内容の正確性および適切性を利用者が確認し、所属長の承認を得るものとする。

第8条(ログの取得と保存)
所管部署は、承認済み生成AIの利用ログを取得し、別に定める期間保存する。ログは、本規程の遵守状況の確認および事故発生時の調査に用いる。

第9条(申告と違反時の対応)
1. 役職員は、本規程に反する利用を行ったこと、または他者の利用を知ったときは、速やかに所属長または所管部署に申告する。
2. 本規程に違反した場合は、就業規則等に基づき対応する。自ら速やかに申告した場合は、その事情を考慮する。

第10条(見直し)
所管部署は、少なくとも年1回、および生成AIを巡る環境に大きな変化があった場合に、本規程と別表を見直す。

条文の中で効いてくるのは、第2条で私物端末での利用も対象に含めていることと、第6条3項で「使いたい部署が申請できる」道を残していることです。禁止だけを書いた規程は、使いたい職員を私的な利用へ押し出してしまいます。第9条2項の自己申告の扱いも、発覚を早めるための大切な部分になるため、人事部門と相談して書きぶりを決めておきましょう。

条文例の「所管部署」は、規模に応じてリスク管理部門やコンプライアンス部門に置き換えてください。社内ガイドラインの全体的な作り方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方でも解説しています。

既存の規程に追記する場合の置き場所

AIに特化した規程を新しく作る余裕がない場合は、既存の規程の中に条文を分けて置く方法もあります。第3条から第5条の利用できるサービスと入力禁止情報は、情報セキュリティ規程の外部サービス利用の章に置くとなじみやすいでしょう。第6条の申請と第7条の出力の確認は事務取扱の要領に、第9条の申告と違反時の対応は就業規則や懲戒の規程との関係を確かめたうえで置く、という分け方が考えられます。

分けて置く場合は、生成AIに関する条文がどこにあるかを一覧にした索引を1枚作っておくと、職員にも監査にも分かりやすくなります。条文が複数の規程に散らばったまま索引がないと、見直しのときに一部だけ改定され、他の条文と食い違ってしまうことがあるためです。どちらの形を選んだかは、経営会議の資料にも書き添えておきましょう。

全役職員への通知文ひな形と教育・研修

規程を改めたら、全役職員に向けて短い通知を出します。規程の条文をそのまま回覧しても読まれにくいため、何をしてはいけないか、代わりに何を使えばよいか、困ったときにどこへ相談するかの3点に絞って書くのが伝わりやすい形です。次のひな形は、行内の掲示板やメールでそのまま使える長さにしています。

件名:生成AIの業務利用に関するルールについて(全役職員)

役職員各位

生成AIの業務利用について、本日より次のルールで運用します。

1. 業務で使ってよい生成AI
 〇〇(承認済み生成AIの名称)に限ります。利用方法は社内ポータルの手順書をご覧ください。

2. 業務で使ってはいけないもの
 個人で登録・契約した生成AI(無料・有料を問いません)、および上記以外のサービスです。私物のスマートフォンやパソコンからの利用も含みます。

3. 承認済みの生成AIでも入力しないもの
 顧客を特定できる情報、本人確認の情報、未公表の計数・施策などです。迷う場合は入力しないでください。

4. 使いたい業務がある場合
 承認済みの生成AIで対応できない業務がある場合は、〇〇部(内線〇〇〇〇)へ申請してください。使い道を広げるための申請を歓迎します。

5. これまで個人のアカウントで業務に使っていた場合
 〇月〇日までに〇〇部へお知らせください。速やかに申告いただいた場合、その事情を考慮します。入力した内容が分かる範囲で教えていただけると、確認が早く進みます。

6. 相談窓口
 〇〇部 〇〇(内線〇〇〇〇)

生成AIは業務を助ける道具として、会社の環境で安全に使っていきたいと考えています。ご協力をお願いします。

〇〇部長

ひな形の5番は、すでに私的な利用をしている職員に名乗り出てもらうための項目です。申告した職員を厳しく処分すると、他の職員は黙ってしまい、実態が見えなくなってしまいます。申告の期限を区切り、期限内の申告には事情を考慮すると明記しておくと、過去の利用を把握しやすくなるでしょう。

教育・研修で伝えること

通知と合わせて、全役職員向けの研修を行います。p.32が紹介している意見のとおり、入力制限の仕組みだけで漏洩を完全に防ぐことは難しく、最後は一人ひとりの判断に頼る場面が残るからです。研修では、規程の説明よりも、判断に迷う具体的な場面を取り上げることをおすすめします。

  • 稟議書の下書きを頼むとき、取引先名や金額をどう伏せるか
  • 顧客から受け取った書類の要約を頼んでよいか、どの環境なら使えるか
  • 出力に誤りが含まれる前提で、どこを人が確かめるか
  • 私物のスマートフォンで使うのがなぜ問題になるのか
  • 過去に私的に使っていたことに気づいたら、どうすればよいか

研修は一度きりにせず、公認の環境の操作説明とあわせて新任者研修や年次研修に組み込むと定着しやすくなります。一線のリスク感性を育てるというp.25の記述を、営業店の朝礼で使える5分程度の資料にしておくのも一つの方法です。点検の項目を揃えたいときは、生成AIのセキュリティ対策チェックリストも使ってみてください。

私的アカウントでの業務利用が見つかったときの初動

アンケートやログ、職員からの申告で私的な利用が見つかったときは、責任を問う前に、何が外に出た可能性があるかを確かめる作業を先に進めます。慌てて本人を問い詰めると、入力した内容の記憶があいまいになったり、履歴を消されたりして、確認が難しくなってしまいます。次の順で確認していくのが落ち着いた進め方です。

  • 1. どのサービスを、どのアカウントで使っていたかサービス名、無料か有料か、個人アカウントか家族と共用か。端末が私物か行内のものかも確かめます。
  • 2. 利用していた期間と頻度いつから、どのくらいの頻度で業務に使っていたか。期間が長いほど、入力した情報の範囲も広がっています。
  • 3. 入力した情報の種類顧客を特定できる情報、本人確認の情報、取引先名、未公表の計数や施策が含まれていたか。本人の記憶と、残っている会話履歴の両方で確かめます。
  • 4. 会話履歴が残っているか、学習の設定はどうなっていたか履歴を消す前に、本人の同意を得て画面を保存します。入力が学習に使われる設定のままだったかも記録しておきます。
  • 5. 出力を顧客や社外に出したか出力をそのまま顧客向けの文書に使っていないか。誤った内容が外に出ていれば、訂正の要否を検討します。
  • 6. 報告の要否を判断する顧客情報の漏洩に当たる可能性があれば、既存の事故報告の基準に照らして二線が判断します。金融庁の資料に発覚時の報告の定めは見当たりませんが、顧客の個人データの漏えい等に当たる場合は、個人情報保護法の漏えい等報告や各業法に基づく報告の対象になりえます。
  • 7. 本人への対応と再発防止なぜ私的に使う必要があったのかを聞き取り、公認の環境で代わりができるかを確かめます。同じ理由で使っている職員が他にもいないかを見直します。

7番の聞き取りは、処分のためではなく環境を見直すために行うことを本人に伝えましょう。私的な利用の理由として「業務で使える環境がない」「申請の手続きが分からない」が出てきたら、それは規程や環境の側を直す材料として使えます。1件の発覚を、行内全体の利用を見直すきっかけとして扱うことが、次の発覚を減らす近道となります。

業態・規模によって変わる進め方

同じ金融機関でも、業態や規模によって、つまずきやすい場所は違ってきます。ここで挙げるのは各業態に多い体制を想定した目安で、自行庫の実情に合わせて読み替えていただく前提でお読みください。

信用金庫・信用組合

本部の管理部門が少人数で、二線とシステムを同じ担当者が兼ねていることが多いはずです。最初から細かな判断表を作り込むより、私的なアカウントでの業務利用を認めないこと、入力しない情報、公認の環境の3点を先に決めて周知するほうが進めやすくなります。営業店の数が多い場合は、各店に相談役を1人ずつ決めておくと、本部への問い合わせが集中せずに済むようになるでしょう。

地方銀行

システム部門と二線の体制がある程度整っている一方で、部署の数が多く、部署ごとに使いたいAIや用途が分かれがちです。全行で使う公認の環境を1つ決めたうえで、部署ごとの用途は判断表の行を増やして対応する形が向いています。グループ会社がある場合は、グループ内で規程の書きぶりを揃えるかどうかも、早めに決めておきたい論点となります。

証券会社

市場に影響しうる未公表の情報を扱う部署があるため、入力しない情報の線引きを、他の業態より細かく決める必要が出てきます。調査や営業の部署は情報収集に生成AIを使いたい場面が多く、私的な利用の動機も強くなりやすい点に注意が要ります。部署ごとの情報の隔壁と、公認の環境での権限の分け方を合わせて設計しておきましょう。

保険会社・保険代理店

顧客の健康状態や家族構成など、慎重に扱うべき情報が募集や保全の書類に多く含まれます。代理店の場合は、本社の規程が届きにくい小規模な拠点で、私物の端末が業務に使われていることもあるでしょう。拠点向けには、条文より短い通知文と、入力してはいけない書類の例を写真つきで示すなど、伝え方を工夫することが大切です。

最初の90日で進める順番

ここまでの作業を一度に始めると、どれも中途半端になってしまいます。目安として、90日を3つの期間に分けて進める順番を示します。期間は規模によって伸び縮みしますが、順番は崩さないことをおすすめします。

  1. 1〜30日目:担当部署と兼務の状況を決め、自己申告アンケートとログの確認を行います。並行して、金融庁の資料の該当箇所を担当者の間で読み合わせておきます。
  2. 31〜60日目:実態把握の結果をもとに判断表と規程の改定案を作り、公認の環境の候補を比べます。経営会議に骨子を諮り、規程の改定と予算の承認を得ます。
  3. 61〜90日目:公認の環境を配り、全役職員に通知文を出して研修を行います。私的な利用の申告期限を設け、期限後にログとアンケートで変化を確かめます。

大切なのは、通知文を出す日までに公認の環境が使える状態になっていることです。禁止の通知が先に出て環境が後から届くと、その間に職員は私物の端末へ移ってしまいます。90日を過ぎたら、半年後の見直しの日付を決め、判断表と規程を更新する予定を経営会議の議事に残しておきましょう。

公認のAI環境を配るときに確かめたいこと

私的な利用を減らす受け皿として公認の環境を用意するなら、職員が私的なAIを使いたくなる理由を満たしているかを先に確かめます。使い勝手が私的なAIより大きく劣ると、公認の環境があっても私物のスマートフォンに戻っていってしまいます。金融機関の担当者が選ぶときは、次の点を一つずつ確認してみてください。

  • 入力したデータが学習に使われない設定が、全員に一律で掛かるか職員ごとの設定に任せる方式だと、設定漏れが起きやすくなります。会社側でまとめて担保できるかを確かめます。
  • 誰がいつどのAIを使ったかを、会社がログで確認できるか規程の第8条のようにログの保存を定めるなら、書き出しの形式と保存できる期間も確かめておきます。
  • 会話履歴やアカウントの情報をどこで保管するかp.32が挙げる海外移転の論点に答えられるよう、保管場所と、各AI提供元への接続の仕方を説明できるかを見ます。
  • 全役職員に配れる料金の形か1人ずつ課金される形だと、配る範囲を絞ることになりがちです。配られなかった職員が私的な利用に流れないかを考えます。
  • 使えるAIの種類と、使わせるAIを会社が選べるか文章の下書き、調べもの、長い文書の読み込みなど、用途によって得意なAIは分かれます。部署によって使わせたくないAIを止められるかも確認します。
  • 行庫として求める要件との差閉域網での接続や自社内での運用など、行庫の基準で求める条件がある場合は、満たせる範囲と満たせない範囲をはっきりさせ、用途を分けて使う判断も含めて検討します。

どの環境を選んでも、入力してはいけない情報の線引きや出力の確認、職員への教育は自行庫で整える必要が残ります。環境は、ここまでの判断表や規程、通知を実際に回すための土台という位置づけです。複数のAIを用途に応じて使い分ける考え方は、マルチAIとはや主要4AIの違いと使い分けで詳しく紹介しています。

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よくある質問

金融庁はシャドーAIを禁止していますか?
禁止しているわけではありません。金融庁のAIディスカッションペーパー第1.1版は、p.33で、許可を得ずに外部のAIサービスを使うシャドーITの利用が増える可能性と、情報漏洩などのリスクを増幅させる恐れに触れています。資料は初期的な論点整理という位置づけで、シャドーITの禁止や罰則を定めた記述は確認できません。禁止するかどうかは、各金融機関が自らの規程で決めることになります。
金融庁の資料に「シャドーAI」という言葉は出てきますか?
出てきません。第1.1版で使われている言葉は「シャドーIT」で、全文の中で「シャドー」が出てくるのはp.33の1か所だけです。社内資料で引用するときは、金融庁が「シャドーAI」と書いているような表現は避け、資料の言葉どおり「シャドーIT」として引くのが正確です。
AIディスカッションペーパーに従う義務はありますか?
資料は、題名のとおり金融分野におけるAIの健全な利活用に向けた初期的な論点整理で、法令や監督指針のように守るべき基準を定めた文書ではありません。ただし、金融機関の取組例や論点が具体的にまとめられているため、自行庫の管理体制を点検する材料として使うことが出来ます。
職員の私的な生成AI利用が見つかったら、当局への報告は必要ですか?
第1.1版には、シャドーITの発覚時の報告について定めた記述は見当たりません。ただし、顧客の個人データの漏えい等に当たる場合は、個人情報保護法の漏えい等報告や各業法に基づく報告の対象になりえます。該当するかどうかは、法務・コンプライアンス部門が既存の事故報告の基準と金融分野ガイドラインに照らして判断することになります。まずは入力した情報の種類と利用期間を確かめ、記録を残しておくことをおすすめします。
生成AIを全面的に禁止すれば、シャドーAIの問題は解決しますか?
解決しにくいと考えられます。行内のネットワークで遮断しても、私物のスマートフォンからは使えてしまい、会社から見えない利用が増える恐れがあります。金融庁の資料もp.32で、入力を自動で制限する仕組みでは完全にはブロックできず、最終的には従業員教育や運用ルールの徹底に頼らざるを得ないという意見を紹介しています。使ってよい環境を用意したうえで、私的な利用を禁止する順番が現実的です。
規模の小さい信用金庫や信用組合でも、3線の体制は必要ですか?
部署の数が少なくても、実態把握・承認・教育・監査の役割を誰が担うかは決めておく必要があります。二線とシステム部門を同じ担当者が兼ねるのは珍しくありませんが、内部監査に当たる確認だけは、実務の担当者とは別の人が行う形にしておくと、点検の意味が保たれます。
アンケートで私的な利用を正直に答えてもらうには、どうすればよいですか?
回答の内容を理由に処分は行わないこと、結果は今後の環境整備に使うことを、アンケートの冒頭に明記するのが基本です。入力した情報を尋ねる設問には「覚えていない」の選択肢を入れ、記名か無記名かは目的に合わせて決めます。ログの確認と組み合わせ、自己申告だけに頼らない形にしておくと、結果の確からしさも上がります。
公認のAI環境を用意すれば、遮断やログの確認は不要になりますか?
不要にはなりません。公認の環境は私的な利用の受け皿になりますが、私物の端末での利用がなくなるとは限らないため、行内の端末での遮断やログの確認は続ける必要があります。公認の環境を配ったあとにアンケートとログをもう一度確かめ、私的な利用が減ったかどうかを見ることで、対策の効果を経営陣に示すことも出来ます。

まとめ

金融庁のAIディスカッションペーパー第1.1版は、シャドーAIという言葉は使っていませんが、p.33で、許可を得ない外部AIサービスの利用を「シャドーIT」として取り上げ、情報漏洩などのリスクを増幅させる恐れがあると書いています。資料は初期的な論点整理であり、禁止や罰則を定めたものではありません。同じ節やp.32では、学習利用や海外移転のリスク、入力制限の限界、自社専用環境の構築が紹介されています。

会社が把握していないIT全般をどう見つけて減らすかは、シャドーITとは?シャドーAIとの違いと会社での見つけ方で整理しています。

金融機関が整えるものは、実態の把握、p.25のリスクベースの考え方に沿った判断表、一線・二線・三線と経営陣の役割分担、私的アカウントの扱いを明記した規程、全役職員への通知と研修、発覚時の初動の手順です。禁止と遮断だけでは私的な利用が見えない場所へ移るため、職員が業務で使ってよい環境を用意し、ルールとログで管理する形を目指していきましょう。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧から読むことが出来ます。