
野良AI(シャドーAI)とは、会社が認めていない生成AIを、社員が自分の判断で業務に使っている状態を指す言葉です。IPAのサイトに掲載された資料のうち、シャドーAIへの対応方針を1つの節として書いたものに、2026年7月公開の中核人材育成プログラムの成果物(手引書)があります。そこでは禁止を先に出すのではなく、公認のAIを配り、ルールを明文化して教え、検知と遮断は明らかに危険なサービスに絞って小さく始める順序が示されています。社員10〜200名の会社であれば、公認のAIを1つ決めたうえで、利用実態の棚卸し表・入力してよい範囲の表示・利用ログの保存の3つをそろえるところが、最初の最低ラインとなるでしょう。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日発表)では、組織編の3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれました。10大脅威のページ本文に「シャドーAI」という言葉は出てきませんが、解説書[組織編]の3位の項目には、職場でAIサービスの利用が無い場合などに、従業員が個人的に使っているAIサービスを業務に使うことがあるとして、シャドーAIの語が書かれています。
※IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」のページと、「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」(2026年3月版)p.16の記載です(2026年10月14日に確認)。
シャドーAIとは何かを短く確かめたい方はシャドーAIとは?会社にバレる範囲とバレない範囲、会社として何から始めるかはシャドーAI対策は何から?最初の30日でやることをご覧ください。
IPAの資料が示すシャドーAI対策の答え|禁止より先に公認のAIを配る
IPAのサイトに掲載された資料を読み合わせると、シャドーAI対策の出発点は、会社として使ってよいAIを先に用意することに置かれています。2026年7月31日に公開された手引書は、シャドーAIへの対応方針の1つ目に組織公認のAIの提供を挙げ、禁止の通知だけを先に出す進め方には、実態の把握を難しくするという注意を添えました。10大脅威2026の解説書も、職場でAIサービスの利用が無い場合などに個人のAIが業務に持ち込まれると説明しており、2つの資料は同じ方向を向いていると読めます。ここから先は、定義やリスクの全体像を短く押さえたうえで、手引書のどの節を自社の何に使うかを順に見ていきます。
シャドーAI(野良AI)とは、会社が認めていない生成AIを個人の判断で業務に使うこと
シャドーAIは、会社が正式に認めていない生成AIのサービスを、社員が自分のアカウントで業務に使っている状態を言います。無料のチャットAIに取引先とのメールを貼り付けて、返信の下書きを作らせるといった使い方が身近な例になります。悪気があって始まるものではなく、早く仕事を終えたいという気持ちから広がる点が扱いにくいところでしょう。言葉の成り立ちやシャドーITとの違い、リスクと対策の全体像は、冒頭のリンク先の記事にまとめてあります。全体を先に押さえたい方は、そちらから読んでみてください。
禁止では防げない理由を、手引書は実態把握の面から書いています
手引書の2.3.2「シャドーAIへの対応方針」は、禁止を先行させるだけでは申告されない利用が増え、実態の把握がかえって難しくなるという趣旨を述べています。同じ手引書の2.3.1では、組織が許可していないAIの利用を禁止事項の例に挙げつつ、過度に厳格なルールがシャドーAIの増加を招くことにも触れました。禁止の線を引くこと自体は必要で、問題になるのは、禁止だけを出して代わりの道を用意しない進め方のほうです。禁止の通知と公認のAIの配布は、同じ日に出すものと考えておきましょう。
リスクの全体像(情報漏えい・ハルシネーション・誤情報の鵜呑み)は短く押さえる
10大脅威2026の解説書は、持ち出しが禁じられている業務データをAIサービスに入力すれば、情報漏えいにつながると書いています。あわせて、AIが架空の情報を事実のように示すことがあり、手軽さから過剰に頼って誤った結果を鵜呑みにするおそれにも触れ、利用者に結果の精査を求めました。この2つは、公認のAIに切り替えても消えるリスクではありません。漏えいの経路は入力のルールとログで細くし、誤りの鵜呑みは人が確かめる工程で受け止める、という分け方になります。リスクごとの詳しい説明は親記事に譲り、以下は手引書の対策の側に絞ります。
IPAのシャドーAI関連資料はどれを読むか|誰向け・何に使うかの対応表
IPAのサイトでシャドーAIに関わる資料を探すと、性格の違う4つが見つかります。読み手と使いどころがそれぞれ違うため、1冊で全部を済ませようとすると、経営者には細かすぎ、社員には難しすぎる資料を配ることになってしまいます。下の表は、社員10〜200名の会社が使う場面に合わせて並べたものです。
| 資料 | 公開・分量 | 主な読み手 | 自社で使う場面 | シャドーAIとの関係 |
|---|---|---|---|---|
| 情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編] | 2026年3月版・64ページ(10大脅威の発表は2026年1月29日) | 経営者層、システム管理者・従業員 | 役員や取引先に、対策を急ぐ理由を説明する根拠 | 3位「AIの利用をめぐるサイバーリスク」(p.16-18)でシャドーAIに触れる |
| 生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書 | 2026年7月31日公開・99ページ | セキュリティ担当者 | 社内ルール・棚卸し・入力の統制・ログの設計 | 2.3.2に「シャドーAIへの対応方針」(p.17-19) |
| AI利用者のためのセキュリティ豆知識 | 2026年4月2日公開・24ページ | AIやセキュリティの専門知識を持たない利用者 | 全社員向けの研修 | 本文に「シャドーAI」の語はなし。AIブラウザの使い分けなど操作の注意 |
| 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版 | 2026年3月27日公開 | 中小企業の経営者・担当者 | 情報セキュリティの基本方針や規程のひな形 | 資料ページとプレス発表の本文にAIの記載は確認できず(本文PDFと付録は未確認) |
※2026年10月3日に、IPAの各資料ページとPDFで確認した内容です。
10大脅威2026 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html
手引書の掲載ページ(セキュリティ担当者のための生成AIセキュリティ) https://www.ipa.go.jp/jinzai/ics/core_human_resource/final_project/2026/ai-security.html
AI利用者のためのセキュリティ豆知識 https://www.ipa.go.jp/digital/ai/security/ai_security_tips.html
中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
10大脅威2026で組織編3位に初選出、順位を決めたのは約250名の選考会
情報セキュリティ10大脅威 2026では、AIの利用をめぐるサイバーリスクが組織編の3位に初めて入りました。順位は、研究者や企業の実務担当者など約250名からなる10大脅威選考会の審議と投票で決まったものです。なお解説書は、順位が危険度を表すものではなく、選考会が社会的影響が大きかったと判断した順だと断っています。役員や取引先にシャドーAIの対策を急ぐ理由を伝える場面では、この順位が通じやすい根拠の1つになるでしょう。解説書に並ぶ対策の箇条を社内の誰が受け持つかは、警視庁のシャドーAI注意喚起とIPA解説書の対策の割り振りで原文つきで並べてありますので、ここでは繰り返しません。
手引書はセキュリティ担当者向け、豆知識は全社員向け
手引書は、セキュリティ担当者のための生成AIセキュリティという成果物のページに置かれており、全社のAIガバナンスを設計する人に向けた分量と書き方になっています。豆知識は、AIやセキュリティの専門知識を持たない利用者向けのスライドで、IPAのプレス発表では社内研修でそのまま使える教材と紹介されました。社員に配るのは豆知識、ルールと仕組みを決める担当者が読むのは手引書、という分け方が扱いやすいでしょう。中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版は、付録に基本方針や関連規程のサンプル、クラウドサービス安全利用の手引きを収めており、AIの決まりを既存の規程に書き足すときの器として使うことが出来ます。
「IPAが示す」と書いてよい範囲|手引書は著者の見解、10大脅威は選考会の決定
社内資料や取引先への説明でIPAの名前を出すときは、どの資料の、誰の判断なのかを分けて書く必要があります。同じIPAのサイトに載っていても、手引書と10大脅威とでは、文章に責任を持つ主体が違うためです。手引書の内容を、IPAが警告している、と言い換えて社内に広めるのは避けましょう。
手引書の免責事項は、IPAの意見を代表しないと明記しています
手引書の1.6免責事項(p.12)には、内容はIPAおよび産業サイバーセキュリティセンターの意見を代表するものではなく、著者の見解に基づくと書かれています。有効期限は発行日から2年とされ、業種や規模、IT環境、リスク許容度に応じて読み手が判断する必要があるとも添えられました。手引書は、IPAの中核人材育成プログラムのプロジェクトによる成果物という位置づけになります。社内の文書では、IPAが公開した中核人材育成プログラムの成果物(手引書)では〜とされています、という主語の置き方にすると、後から出所を問われても説明がぶれません。有効期限があるため、2028年7月ごろには新しい版が出ていないかを確かめてみてください。
10大脅威は約250名の選考会が審議と投票で決めた順位
10大脅威の順位は、選考会の審議と投票を経て決まり、IPAが毎年公表している資料です。こちらは、IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026によれば、と書いて引くことが出来ます。ただし解説書に出てくる77%・82%という数字は海外の調査を引用したもので、IPA自身の調査ではない点に気をつけてください。豆知識の中にある数字も、LayerX Security社の調査を引いたもので、IPAが自分で集めた数字ではありません。
※手引書:IPA中核人材育成プログラムの成果物「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(表紙2026年7月・99ページ)。ページ番号はPDF内の表記です(2026年10月3日に確認)。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/ics/core_human_resource/final_project/2026/rcu1hd0000018kkn-att/rcu1hd0000019kwj.pdf
手引書2.3.2の3本柱を、社員10〜200名の会社に読み替える
手引書の2.3.2(p.17-19)は、シャドーAIへの対応方針を、組織公認のAIの提供、ルールの明文化と教育、技術的な検知と遮断の3本で組み立てています。並び順どおりに進めると、使ってよい道を先に開いてから、ルールで線を引き、最後に仕組みで穴をふさぐ流れになります。大企業向けに書かれた部分も多いため、社員10〜200名の会社に置き換えたときの読み方を添えました。
柱1 承認済み・法人向けAIの提供は、情報漏えいリスクの高い部署からでもよい
1本目の柱は、会社が公認したAIを社員に提供することです。手引書は、全社に、または情報漏えいのリスクが高い部署から優先して提供するとしています。社員10〜200名の会社であれば、顧客の個人情報や見積もりを扱う営業・経理・総務から配り始めると、効果の大きいところから穴がふさがっていきます。配る対象を絞る場合でも、残りの部署にはいつ配るのかという予定を先に伝えておきましょう。
柱2 ルール(ガイドライン)の策定と教育・研修は、審査の観点を先に見せる
2本目の柱は、会社が認めたAIの一覧と、それ以外のサービスを使わないことを文章にして社員に伝え、新しいAIを使いたいときの審査の窓口を設けることになります。手引書が具体的に勧めているのは、新しいAIの利用を申請してもらうときに、審査で見る観点と却下されやすい条件を前もって示しておくことです。申請する側が自分で当てはまるかを確かめられるので、審査する側の負担が減り、承認も早くなるという考え方になります。社員10〜200名の会社では審査を担う人が1人か2人のことが多く、観点を紙1枚にして共有しておくほうが、同じ質問に何度も答えずに済むでしょう。ルール文書そのものの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で、研修の資料は生成AI研修の資料で、それぞれ扱っています。
柱3 CASB・DLP・Webフィルタ等の技術的対策は、危険なサービスの遮断から小さく始める
3本目の柱は、仕組みで見つけて止める対策です。手引書は、CASB(クラウドサービスの利用状況を見える化して制御する仕組み)、SWG(社外へのWeb通信を中継して危険な通信を止める仕組み)、AI向けのDLP(機密情報の持ち出しを検知して止める仕組み)を挙げつつ、いずれも費用や工数が増える可能性があると書いています。そのうえで、まずは明らかに危険なサービスの遮断に絞るスモールスタートを勧めました。社員10〜200名の会社なら、会社の端末やルーター・UTMのWebフィルタで止められる範囲から手をつけ、高価な製品の導入を後回しにしても、手引書の考え方からは外れないと読めます。どの道具で何が見えるかはシャドーAI対策ツールで比べています。
会社のネットワークを通らない端末は、最後は社員の意識とルールの順守に頼る
手引書は、企業のネットワークを経由しない端末では技術的な制御が難しく、最終的には従業員の意識とルールの順守に頼ることになると認めました。私物のスマートフォンで個人のアカウントを開かれると、会社の仕組みはそこまで届きません。止め切れない部分が残る以上、社員が自分から会社のAIを選ぶ状態を作ることが対策の土台になります。公認のAIが使いにくかったり、使える人が限られていたりすると、その土台が崩れてしまいます。
個人のアカウントに戻る理由を消すには、会社の環境を誰でも同じように使えることが前提になります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
利用実態の把握・可視化は、手引書の表2-3で1枚の棚卸し表にする
公認のAIを決める前に、社内で今どのAIがどう使われているかを1枚の表にすると、配るものと止めるものの判断が早くなります。手引書の2.4.1(p.19)は、AI活用の実態を理解するために把握すべき事項を表2-3にまとめ、実態の把握は最低でも年1回を目安に繰り返すものとしています。大型のアップデートがあったとき、重大なインシデントが起きたとき、ガイドラインを改定したときにも、追加で行うとされました。表2-3の項目をそのまま列にすると、次のような棚卸し表になります。
| 製品名 | AI提供事業者 | 契約形態 | 使っている業務(またはAI機能を持つサービス) | 利用者の範囲 | 入力データの種別 | 出力の利用先 | 今後の扱い(自社で追加) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| (記入例)無料のチャットAI | (提供元の会社名) | 無料利用 | 議事録の要約 | 営業部の3名 | 社内 | 社内のみ | 公認のAIへ移す |
| 法人契約/個人契約/無料利用 | 公開/社内/機密/個人 | 社内のみ/社外提供/顧客向けサービスに組込 | 公認へ移す/条件付きで認める/やめる |
※1〜7列目は手引書の2.4.1・表2-3「AI活用実態理解のために把握すべき事項」(p.19)の項目を列にしたもので、8列目は判断を書き込むために足した列です。記入例の行は架空の例です(2026年10月3日に確認)。
聞き取りは、申告しても責められない形にする
棚卸しの答えを正直に書いてもらえるかどうかは、聞き方で大きく変わります。初回は、過去の利用を責めないと先に伝えたうえで、部署ごとにまとめて書いてもらう形が向いているでしょう。手引書が、禁止を先行させると申告されない利用が増えると書いているのは、まさにこの場面のことです。集まった表は、入力データの種別が機密や個人になっている行から順に、公認のAIへ移す予定を立ててみてください。
通信ログで見える範囲と、見えない範囲を分けておく
社員への聞き取りと並行して、会社のネットワークの通信ログから、生成AIのサービスへのアクセスを数える方法もあります。ただし、私物の端末や自宅の回線からの利用は通信ログに残らず、聞き取りでしか拾えません。見えた件数だけで、ほとんど使われていないと結論を出さないようにしましょう。見つけ方の手順はシャドーAIの検知に分けてあります。
入力情報の漏えい(無料版の学習利用)を防ぐ入力ルールは3段階
入力の対策は、手引書の6.3.1(p.71-72)で3つの段階に分けて示されています。費用の小さい段階から順に積み上げる作りになっており、社員10〜200名の会社がまず取り組むのはStep1になるでしょう。段階の中身を見る前に、入力がなぜ漏えいの経路になるのかを短く整理しておきます。
無料版の学習利用は、個人の設定に任せると漏れが出る
OpenAIのヘルプでは、ChatGPTの無料版などの個人向けプランでは入力内容がモデルの学習に使われることがあり、設定のデータコントロールにある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると使われなくなると案内されています。このオフの操作は、本人が自分の画面で行う必要があります。会社の管理者はこの画面に入れないため、全員が設定を済ませたかを確かめる方法がありません。一方で、ChatGPT BusinessやEnterpriseのデータは、明示的にオプトインしない限りモデルの学習に使われないとOpenAIは説明しています。10大脅威2026の解説書が、経営者層の対策に入力データのオプトアウト設定の徹底を挙げているのも、この差を埋めるためと読めます。
※OpenAI ヘルプ「データコントロールに関する FAQ」の記載です(2026年9月20日に確認)。設定の名前は画面やヘルプの版によって表記が異なることがあります。
https://help.openai.com/ja-jp/articles/7730893
Step1 入力してよい範囲を、AIの画面に常に表示する
Step1は、AIの利用画面に入力してよい情報の範囲を常に表示し、ログインのたびにポップアップで注意を出す方法です。手引書は、これを導入のコストが小さいうえに中核となる対策と位置づけています。表示する文面は、入れてよいもの・入れてはいけないものを具体例で3行ほどにまとめると、読まれやすくなります。線引きの具体例はAIに入れてはいけない情報にまとめてありますので、そこから自社向けに選んでみてください。
Step2 マイナンバーやカード番号など、形の決まった情報を自動で伏せる
Step2は、マイナンバー・クレジットカード番号・社員番号のように形の決まった情報を検知して、自動でマスキングする段階になります。手引書は、誤検知の少ない種類から始めるよう勧めました。社員10〜200名の会社では、公認のAIにこうした機能があるかを確認し、無ければ次の見直しで検討する、という順番で十分でしょう。
Step3 DLPやAIゲートウェイは、機密を扱う部門に絞る
Step3は、DLPやAIゲートウェイ(AIへの通信をまとめて中継し、検査や制御をかける仕組み)を入れる段階です。手引書は、この段階を機密を扱う部門や高リスクのシステムに絞って当てるよう書いています。手引書自身が残るリスクとして挙げているのが文脈の中に埋め込まれた機密で、例として、買収のプレスリリース案のような文書はパターンの検知で見つけるのが極めて難しいとされました。決まった形の無い機密は、仕組みでは止まらず、社員の判断に頼る部分として残ります。Step1の表示と研修を手厚くする理由は、ここにあります。
公認AIを入れた後のログは、手引書6.3.2のレベル1が最低ライン
公認のAIを配ったら、誰がいつ何を入力したかを後から確かめられる状態にしておく必要があります。手引書の6.3.2(p.72-73)は、ログを蓄積して事後に確認するレベル1を、AIシステムを導入するすべての企業が最低限行うべき水準としています。個人のアカウントで使われたAIのログは会社の手元に残らないため、この最低ラインを満たせるのは、会社が管理するAIに限られます。
取る項目は、利用者・日時・サービス・入力・出力
手引書が取得の対象に挙げているのは、ユーザーID、所属、端末、日時、利用したサービス、入力、出力、DLPなどでブロックした履歴です。保存期間の例としては、利用者や日時といったメタデータを長期(例として1年)、プロンプトと出力の本文を短期(例として3か月)とする分け方が示されています。本文を長く持つほど、ログそのものが機密の塊になってしまうため、期間を分ける考え方は小さな会社にも当てはまるでしょう。何年保存するかは業種や取引先との契約でも変わりますので、例の数字をそのまま規程に写す前に、自社の事情と照らしてみてください。
全件は見られないので、重要なところだけ毎日見る
手引書は、ログの全件を人が目で確認するのは不可能だとしたうえで、重要なシステムのごく一部のログだけでも毎日人が確認することが望ましいと書いています。社員10〜200名の会社なら、総務か情シスの担当者が、機密を扱う部署の利用だけを決まった時間に眺める形から始めることが出来ます。ログは取るだけで見ない状態が続くと、事故の後に初めて開く資料になってしまいます。見る人と見る頻度を、ルール文書に名前つきで書いておきましょう。
AIブラウザは社内用と社外用を分ける|豆知識の注意でシャドーAIの穴を埋める
会社が公認のAIを配っても、社員が日常的に使うブラウザにAIが組み込まれていると、そこが別の入口になりかねません。IPAのAI利用者のためのセキュリティ豆知識(目次p.10、該当の注意はp.12)は、ここから始めるAIセキュリティ対策の5項目の2つ目に、AIブラウザは社内用と社外用を分けるという注意を挙げています。豆知識の本文にシャドーAIという言葉は出てきませんが、会社が把握していない経路で業務情報がAIに渡るのを防ぐ操作として、そのまま使える内容です。
閲覧中のページがAIと共有される仕組みに注意する
豆知識によると、AIブラウザは閲覧中のページや過去の閲覧履歴などを生成AIと共有します。不正なプロンプトへの対策はまだ不完全なため、普段使いのAIブラウザでは、社内ポータルのような重要な情報にアクセスしないよう求めています。社内のシステムを開くブラウザと、社外の調べものに使うAIブラウザを分けておけば、社内の画面がAIに読まれる経路を断つことが出来ます。ブラウザの拡張機能として入るAIも同じ考え方で扱い、会社の端末に入れてよいものを一覧にして配ってみてください。
豆知識の5項目は、全社員向けの研修の骨組みに使える
豆知識の5項目は、クラウドAIに営業秘密は教えない、AIブラウザは社内用と社外用を分ける、RAG使用時は『混ぜるな危険』にご用心、外見では詐欺師を見破れないと心得る、AI仕込みのサイバー攻撃も撃退法は従来通り、という並びになっています。3つ目は、RAG(社内の文書などを検索してAIの回答に使う仕組み)を使う場面での注意をまとめた項目になります。専門知識を持たない利用者向けに作られているため、手引書の中身を社員向けにかみ砕く手間を省いてくれます。1つ目の項目に添えられた数字はLayerX Security社の調査によるもので、研修で示すときはIPAの調査と言わないようにしましょう。
※IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」(2026年4月2日公開・24ページ)p.10-15(2026年10月3日に確認)。
https://www.ipa.go.jp/digital/ai/security/rcu1hd0000009h9u-att/1-1.pdf
海外大手の漏えい・利用制限の実例(2023年)と、その後に報じられた切り替え
2023年には、海外の大手企業で生成AIへの入力が問題になり、利用を制限する動きが相次いで報じられました。広く知られているのが韓国のサムスン電子の件で、報道の流れを追うと、制限の後に会社が管理する環境へ移っていく順序が読み取れます。実例の詳しい経緯はサムスンのChatGPT情報漏洩にまとめています。
サムスン電子は、利用を認めて約20日で3件と報じられた
韓国の経済誌Economist Koreaは2023年3月30日、サムスン電子の半導体部門で、ChatGPTへの情報入力をめぐる事故が3件起きたと報じました。同部門は3月11日にChatGPTの利用を認めたばかりで、ソースコードや会議の内容が入力されたと伝えられています。同年5月には、会社の端末や社内ネットワークでの生成AIの利用を禁じる社内通知が出たと、TechCrunchなどが報道しました。同じ記事には、安全に使える環境が整うまで一時的に制限するという趣旨の、広報のコメントが添えられていました。2026年には、会社が管理する法人向けの環境(ChatGPT Enterprise)を研修などの条件つきで社員に配る形に切り替えたと報じられています。
JPモルガンやアップルも、2023年に利用を制限したと報じられた
米国の金融大手JPモルガン・チェースは2023年2月に、社員のChatGPT利用を制限したと、WSJの報道をFox Businessが伝えました。特定の事故を受けたものではなく、予防のための措置と伝えられています。アップルについても、2023年5月に社内メモでChatGPTなどの業務利用を制限したと、WSJの報道を引く形で伝えられました。社員10〜200名の会社にとって大事なのは、制限した後にどこへ向かったかのほうです。サムスン電子の件は、禁止だけで止めずに公認の環境を用意するという手引書の順序を、時間をかけてなぞった例として読むことが出来ます。
※いずれも報道によるもので、各社の公式発表で確認した内容ではありません。Economist Korea(2023年3月30日)https://economist.co.kr/article/view/ecn202303300057/TechCrunch(2023年5月2日)https://techcrunch.com/2023/05/02/samsung-bans-use-of-generative-ai-tools-like-chatgpt-after-april-internal-data-leak//韓国経済新聞(2026年5月26日)https://www.hankyung.com/article/202605269142g/ghacks(2026年6月22日)https://www.ghacks.net/2026/06/22/samsung-deploys-chatgpt-enterprise-and-codex-to-all-korean-and-dx-division-employees-globally//Fox Business(2023年2月22日・WSJの記事を掲載)https://www.foxbusiness.com/technology/jpmorgan-restricts-employees-using-chatgpt/9to5mac(2023年5月18日・WSJの報道を引用)https://9to5mac.com/2023/05/18/apple-bans-employees-from-using-chatgpt/
対策の手順|把握・ルール・公認AI・教育・監視を1年の予定に落とす
ここまでの手引書の節を作業の順に並べ直すと、把握、ルール、公認AIの配布、教育、監視の5つの段になります。一般的な解説でもよく見かける順番ですが、手引書の節に当てはめると、それぞれの段で何を作ればよいかがはっきりします。初年度の流れを、月ではなく段の順で並べました。
- 1段目 棚卸し表で利用実態を把握する表2-3の項目で部署ごとに書いてもらい、入力データが機密・個人の行に印を付けます。以後は最低でも年1回と、大きな変化があったときに繰り返します。
- 2段目 ルールと審査の観点を文章にする入力してよい範囲、申請の窓口、審査で見る観点と却下されやすい条件を、1つの文書にまとめます。
- 3段目 公認のAIを配り、入力の範囲を画面に出す漏えいリスクの高い部署から配り始め、Step1の常時表示とログイン時の注意を同時に有効にします。
- 4段目 豆知識を使って全社員に教える配布の前後に研修を行い、AIブラウザを社内用と社外用に分ける注意もここで伝えます。
- 5段目 ログを確かめ、危険なサービスを止めるレベル1のログの蓄積と重要な部分の日々の確認を回し、明らかに危険なサービスの遮断から技術的な対策を始めます。
この並びのうち、2段目と3段目は同じ日に始めるのが理想になります。ルールだけが先に届くと、社員には禁止の通知に見えてしまうためです。見直しの時期は棚卸しと同じ年1回に合わせると、作業の手間がひとまとまりになります。
社員10名・50名・200名で、最低ラインはどう変わるか(目安)
手引書は規模ごとの線を引いていないため、ここから先はIPAの記述ではなく、手引書のスモールスタートと最低限の考え方を規模に当てはめた目安になります。業種や扱う情報によって必要な水準は変わりますので、自社の事情に合わせて足し引きしてください。工数や費用は会社ごとの差が大きいため、ここでは数字を置かずに、何をそろえるかだけを並べます。
社員10名前後 公認のAIを1つと、入力してよい範囲の1枚
社員10名前後の会社では、専任の担当者を置くのは難しいでしょう。公認のAIを1つ決め、入力してよい範囲を1枚にして画面の近くに出し、棚卸しは全員から口頭で聞き取る形でも始めることが出来ます。ログは、公認のAIの管理画面で取れるものを保存し、何かあったときに遡れる状態にしておくところまでが目安となります。
社員50名前後 棚卸し表を部署ごとに埋め、ログを見る人を決める
社員50名前後になると、部署ごとに使っているAIが分かれ始めます。表2-3の棚卸し表を部署ごとに埋めてもらい、機密や個人の情報を扱う行から公認のAIへ移していく進め方が向いています。ログを見る担当者を1人決め、機密を扱う部署の利用だけでも定期的に確かめる運用にしてみましょう。
社員200名前後 審査の観点を公開し、Step2の機能を検討する
社員200名前後では、新しいAIを使いたいという申請が日常的に届くようになります。審査で見る観点と却下されやすい条件を社内に公開し、申請する側が自分で確かめられる形を整えると、審査の詰まりを防ぐことが出来ます。入力の対策は、Step1に加えて、マイナンバーやカード番号を自動で伏せるStep2の機能を、公認のAIの選定や見直しのときに確かめるとよいでしょう。Step3のDLPやAIゲートウェイは、機密を扱う部門が限られているなら、その部門に絞って検討する形でも手引書の考え方に沿います。
よくある質問
IPAの資料は、シャドーAIを禁止するよう求めていますか?
IPAの手引書の内容は、IPAの公式見解として社内資料に書いてよいですか?
CASBやDLPを入れないと、手引書に沿った対策になりませんか?
利用実態の棚卸しは、どのくらいの頻度で行えばよいですか?
IPAの豆知識は、社内研修でそのまま使えますか?
公認のAIを配れば、シャドーAIは無くなりますか?
まとめ
IPAのサイトに掲載された資料の中で、シャドーAIへの対応方針をまとめたものとして、2026年7月公開の中核人材育成プログラムの成果物(手引書)があります。手引書は、組織公認のAIの提供、ルールの明文化と教育、技術的な検知と遮断の3本を挙げ、検知と遮断は明らかに危険なサービスから小さく始めてよいとしています。内容は著者の見解でIPAの意見を代表しないと明記されているため、社内では主語を正確にして引いてください。
会社が把握していないIT全般をどう見つけて減らすかは、シャドーITとは?シャドーAIとの違いと会社での見つけ方で整理しています。導入の費用を抑えたい場合は、デジタル化・AI導入補助金の対象になるかも確かめておきましょう。
社員10〜200名の会社が最初にそろえるのは、表2-3の項目で作る棚卸し表、入力してよい範囲を画面に出すStep1、レベル1のログの3つになります。全社員への研修には豆知識が使え、AIブラウザを社内用と社外用に分ける注意もそこで伝えることが出来ます。禁止の通知を出す日には、公認のAIを配る日を重ねてみてください。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧にまとめています。
公認のAIを、1つの契約で社員全員に
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