生成AIの就業規則。無断利用を禁じる条文例と、規程に入れる5つの項目

生成AIの就業規則とは、社員が業務で生成AIを使うときの禁止事項と、守るべき決まりの根拠を、就業規則の中に置いたものです。就業規則の本体には無断利用の禁止と、細かい決まりは別の生成AI利用規程によるという委任の一文だけを短く置き、使ってよいAIや入力してはいけない情報は別規程に任せる形が扱いやすくなります。その別規程も就業規則の一部になれば、意見聴取・届出・周知の手続きが要り、効力が出るのは周知した後のことです。

懲戒の重さの線引きや処分までの段取りは、シャドーAI(野良AI)で懲戒処分はできるかに詳しくまとめてあります。ガイドライン全体の10項目とひな形は、生成AIの社内ガイドラインの作り方で読むことが出来ます。

就業規則と別規程の役割分担|本体は短く、細目は生成AI利用規程に

就業規則の本体に置くのは、会社が認めていない生成AIを業務に使わないという禁止と、細かい決まりを別の規程に任せる委任の一文の2つで足ります。使ってよいAIの名前や入力してはいけない情報の区分は、サービスの追加や設定の変更に合わせて見直したくなる中身なので、本体に書き込むと改定のたびに条文を差し替えることになってしまいます。実際に、厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)も、パートタイム労働者の就業規則を本体から切り出し、別に定めるところによると書く形を第1条第2項で示しています。生成AIの決まりも同じ形に乗せると、本体は短いまま、細目だけを動かせるようになります。

本体と別規程、それに読み物の手引きで受け持つ中身を並べると、次の表のとおりです。

置く文書書く中身変えるときの手続き
就業規則の本体無断利用の禁止(遵守事項の1号)、別規程への委任の一文、懲戒事由とのつながり意見聴取・届出・周知
生成AI利用規程(就業規則の一部として定める)公認AIの指定、入力してはいけない情報、生成物の確認、利用の記録と会社による確認、違反時の扱い本体と同じく意見聴取・届出・周知
手引き・早見表(就業規則の一部にしない読み物)指示文の書き方の例、よくある質問、画面の操作方法社内の決裁で書き直す前提(位置づけは社会保険労務士に確認)

3つ目の手引きは、使い方を伝える読み物にとどめ、守らなければ処分される決まりは書かないのが線の引き方になります。守らせたい決まりを手引きに紛れ込ませると、それが就業規則の一部なのかどうかがあいまいになり、届出や周知の要否も決めにくくなってしまいます。文書ごとに、これは就業規則か読み物かを最初に決めておきましょう。

生成AIの利用に規程が要る理由|情報漏洩・著作権侵害・誤情報の3つ

規程が要るのは、生成AIの使い方しだいで、外に出してはいけない情報が出ていく、他人の権利を侵す、誤った内容をそのまま使う、という3つの損が起こりうるためです。情報漏洩は、取引先から預かった資料や顧客の個人データを、会社が中身を確かめていないサービスに貼り付ける場面で起こります。著作権侵害は、生成された文章や画像を、元になった作品に似ていないか確かめずに社外へ出す場面が典型となります。誤情報は、もっともらしい数字や条文の引用を確かめないまま資料に載せる形で表れ、取引先の信用を落とす原因にもなってしまいます。

この3つは、モデル就業規則の既存の条文にも少しずつ引っかかります。第11条の遵守事項には、在職中も退職後も業務上知り得た会社や取引先の機密を漏洩しないこと(第5号)や、会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと(第4号)が並んでいます。ただ、どれも生成AIを想定した言葉ではないため、言い逃れの余地が残ります。令和7年12月版のモデル就業規則の本文には、生成AIやAIツールの利用を直接定めた条文はありません。既存の号に頼り切らず、生成AIの使い方をはっきり書いた一文を足すのが、この余地を小さくする近道でしょう。自社の規則の第11条を開いて、どの号が当てはまりそうか一度読んでみてください。

生成AIの利用を制限する規定は有効か|業務上の必要性と合理性

会社が業務で使うAIを限ったり、無断利用を禁じたりする定めは、情報を守るという業務上の必要に結びついている限り、合理的な労働条件として扱われやすい種類の定めと考えられます。労働契約法第7条は、合理的な労働条件が定められた就業規則を労働者に周知させていた場合、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によると定めています。合理的かどうかの目安になるのは、なぜ制限が要るのかを会社が説明できるか、そして制限の中身が目的に見合った範囲に収まっているかの2点になります。

業務上の必要は、前の節の3つの損で説明することが出来ます。一方で、業務での利用を全部禁じたうえで、私物のスマートフォンで調べものをすることまで縛るような書き方は、目的に比べて範囲が広すぎると見られるおそれがあります。禁止の範囲は、会社が認めていないサービスを業務に使うことと、業務上の情報を入れることの2つに絞り、私生活の利用には触れない書き方が無難でしょう。

禁止した後の処分の場面では、さらに労働契約法第15条が関わってきます。懲戒が、行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効とされています。業務で使ってよいAIを会社が用意していたかどうかは、この事情に含まれうると考えられ、規定そのものの有効性とは別に、処分の重さの判断に響いてくることになります。規定を書く前に、自社が使ってよいAIを示せる状態かどうかを確かめてみてください。

禁止一辺倒にしない|公認AIを配って条件付きで認める

生成AIの決まりを書くときは、全面禁止か野放しかの二択ではなく、会社が使ってよいAIを決めて配り、その中で守る条件を定める形が現実的になります。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書[組織編]は、組織編3位の「AIの利用をめぐるサイバーリスク」で、経営者層の対策としてAIサービス利用の検討と、未許可・未認可のAIサービス利用の禁止を並べて挙げています。禁止の対象は未許可のAIで、会社として使えるAIを検討することと対になった並びと読むことが出来ます。

IPA中核人材育成プログラムの成果物である「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」も、禁止を先行させるだけでは申告されない利用が増え、実態の把握がさらに難しくなると書いています。禁止の通知だけを出すと、利用が私物の端末や個人のアカウントへ移り、会社から見えなくなるおそれがあるわけです。サイバーセキュリティクラウドの「生成AI利用実態調査2026」(2026年6月2〜4日・会社員360名・同年6月23日発表)では、会社が禁止した場合でも利用を続ける意向を示した人が37.8%いました。意向を答えた自己申告の数字ではありますが、禁止の一文だけで利用が止まるとは考えにくいことがうかがえます。

※手引書は、免責事項で、内容はIPAおよび産業サイバーセキュリティセンターの意見を代表するものではなく著者の見解に基づくと明記しています。37.8%は、個人的に利用を続ける19.2%と、継続を会社に訴える18.6%を合わせた割合です。

条文の側では、禁止の範囲を公認AI以外と書き、公認AIが何かを別規程で指定する組み立てにすると、禁止と環境の用意が1つの仕組みとしてつながります。公認AIを配ったうえで線を引けば、違反した社員に対しても、会社はほかの手段を用意していたと説明しやすくなるでしょう。条文を考える前に、まずどのAIを全社員に配るかを決めましょう。

条文をどこに置くか|遵守事項・懲戒事由・別規程の比較表

生成AIの決まりの置き場所は、服務規律の遵守事項、懲戒事由、別の生成AI利用規程の3か所を組み合わせて使い分けるのが基本になります。それぞれ受け持つ役割が違うため、1か所にまとめようとすると、どこかに無理が出てしまいます。

比べる点遵守事項(モデル就業規則第11条)懲戒事由(同第68条)別の生成AI利用規程
書く中身生成AIは会社が指定したものに限り、規程に従って使うという守ってほしい行為違反したときに懲戒の対象になることを示す号公認AIの指定、入力してはいけない情報、生成物の確認、利用の記録、違反時の扱い
書き方の細かさ1〜2行の短い号遵守事項の違反を指す一文(既存の号で足りることも多い)項目ごとの条文と、別紙の一覧
変える頻度ほとんど変えないほとんど変えないAIの追加や設定の変更に合わせて見直す
変えるときの手続き意見聴取・届出・周知意見聴取・届出・周知就業規則の一部として定めるなら、本体と同じく意見聴取・届出・周知
懲戒とのつながり違反行為の中身を示す懲戒できる理由を直接示す違反時は本体の懲戒規定によると書き、本体の号とつないで使う
置かなかったときの困りごと生成AIの使い方が守るべき行為として示されない違反しても、その他これに準ずる不都合な行為という包括の号に頼ることになる細目まで本体に書くことになり、改定のたびに本体の条文を差し替える

表のとおり、本体の2か所は短く固く、別規程は細かく動かしやすく作るのが組み立ての考え方となります。遵守事項は第11条に置くのが無難で、第16条(個人情報保護)に置くと懲戒事由の号と直接つながらなくなる落とし穴は、シャドーAI(野良AI)の懲戒処分の記事で詳しく見ることが出来ます。自社の規則の条番号がモデルと違う場合も、遵守事項の条と懲戒事由の号がつながっているかを1度見比べてみてください。

禁止の条文の前に、使ってよいAIを全社員に配る

どこに置くにしても、公認AI以外は使わないと書く以上、まず会社として使えるAIを全員に渡しておく必要があります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

シャドーAI(野良AI)の無断利用を禁じる条文例|本体に足す1号と委任の一文

就業規則の本体に足すのは、遵守事項の1号と、別規程に任せる委任の条の2つだけで済みます。下の表は、モデル就業規則の書きぶりに合わせて作った例で、そのまま使えば必ず有効になると保証するものではありません。

足す場所条文の例ねらい
第11条(遵守事項)に新しい号として生成AIサービスを業務に利用するときは、会社が指定したサービスに限り、別に定める生成AI利用規程に従うこと。禁止を「会社が指定したもの以外は使わない」形で書き、使ってよいAIが会社にあることを規則の中で示す
新しい条として(例:第16条の2(生成AIの利用))1 労働者が業務において生成AIサービスを利用する場合の手続き及び遵守すべき事項については、別に定める生成AI利用規程による。
2 前項の規程は、この規則の一部とする。
細目を別規程に任せ、その別規程が就業規則の一部であることを本体の側から示す
第68条(懲戒の事由)第1項モデル就業規則に沿った規則なら、既存の第5号(第11条から第15条に違反したとき)で拾えるため、新しい号は足さなくてもよい第11条の号を通じて、けん責・減給・出勤停止の範囲とつなぐ

1つ目の号を規程に従うことで結んでいるのは、別規程の違反をそのまま第11条の違反として扱えるようにするためです。モデル就業規則の第68条第1項第5号は、第11条から第15条に違反したときを懲戒事由に挙げているので、第11条に号を足せば、懲戒事由の側に新しい号を足さなくても、けん責から出勤停止までの範囲とつなげる組み立てになります。実際に処分できるかは、行為の中身に照らして個別に判断されます。反対に、委任の条を第16条の2のように第11条の外へ置いただけの場合、その条だけを根拠にしようとすると、第5号の範囲から外れてしまいます。懲戒解雇の号に何を足すか、故意や重大な過失の条件をどう書くかは、シャドーAI(野良AI)の懲戒の条文ひな形に例があるので、あわせて読んでみてください。

パートや契約社員の規則を別に持つ会社は

モデル就業規則の第1条第2項のように、パートタイム労働者の就業規則を別に定めている会社では、本体に足した号がパートの規則に及ぶかどうかを確かめる必要があります。及ばない書き方になっているなら、パートの規則にも同じ号と委任の一文を足すことになるでしょう。条文を書く前に、自社の規則が何冊あるのかを数えておきましょう。

生成AI利用規程に入れる5項目の条文例

別規程に入れる中身は、使ってよいAIの指定、入力してはいけない情報、生成物の確認、利用の記録と会社による確認、違反時の扱いの5項目を骨組みにすると、過不足なくまとまります。下の条文はモデル就業規則の文体に合わせた例で、自社の業務や使うサービスに合わせて言葉を直す前提のものとなります。申請と承認の流れや報告の窓口まで含めた全体の項目立ては、生成AIの社内ガイドラインの作り方にひな形がありますので、見比べながら使ってみてください。

条条文の例(生成AI利用規程)
第1条(目的)この規程は、就業規則第16条の2に基づき、労働者が業務において生成AIサービスを利用する場合の手続き及び遵守事項を定める。
第2条(利用できる生成AIサービス)1 労働者が業務に利用できる生成AIサービスは、会社が契約し、利用のためのアカウントを付与したもの(以下「公認AI」という。)に限る。
2 公認AIの名称は、会社が別に指定し、労働者に周知する。
3 労働者は、私物の端末又は個人のアカウントで、生成AIサービスを業務に利用してはならない。
第3条(入力してはならない情報)労働者は、公認AIを利用する場合であっても、次の各号に掲げる情報を入力してはならない。ただし、会社が個別に認めた場合はこの限りでない。
① 顧客及び従業員の個人情報
② 取引先から秘密として預かった情報
③ 公表前の財務、人事及び製品に関する情報
④ パスワードその他の認証情報
第4条(生成物の確認)1 労働者は、生成AIサービスが作成した文章、画像その他の生成物を業務に用いるときは、その内容が事実と合っているか、第三者の著作権その他の権利を侵害していないかを自ら確認しなければならない。
2 生成物を社外に提出するときは、前項の確認を終えたうえで、所属長の承認を得るものとする。
第5条(利用の記録と会社による確認)1 公認AIの利用の記録(利用者、日時、利用したサービス、入力及び出力の内容を含む。)は、会社が保存する。
2 会社は、情報管理及びこの規程の遵守状況の確認のため、前項の記録を確認することがある。
第6条(違反した場合の取扱い)この規程に違反した場合は、就業規則第11条第◯号に違反したものとして、就業規則第68条の定めるところにより懲戒の対象となることがある。
附則この規程は、令和◯年◯月◯日から施行する。

※上の条文は考え方を示すための例です。自社の就業規則の条番号に合わせて読み替え、最終的な文言は社会保険労務士・弁護士に確認してください。

第2条 公認AIを会社が用意する前提で書く

第2条は、会社が契約してアカウントを配ったものだけを公認AIと呼ぶ書き方にしてあります。こう書くと、公認AIを用意していない会社では条文がそもそも成り立たないため、環境を配ることが、規程の前提として組み込まれることになります。サービス名を本文に書かず、会社が別に指定する形にしているのは、新しいAIを加えるたびに条文そのものを差し替えずに済むようにするためです。よくある失敗は、本文に特定のサービス名を書き込み、乗り換えや追加のたびに規程の改定手続きが要る形にしてしまうことでしょう。第3項の私物端末と個人アカウントの禁止は、会社から見えない場所での利用を、条文の上でもはっきり外に出すための一文となります。

第3条 機密情報・個人情報を入力しない決まり

第3条は、公認AIであっても入れてはいけない情報を号で並べる形を取っています。公認AIなら何を入れてもよいと読まれないようにするための条で、ただし書きを置いたのは、業務上どうしても扱う情報があるときに、そのつど許可を出せるようにするためです。号の中身は、個人情報取扱規程や秘密情報の管理規程をすでに持っている会社なら、その定義に言葉をそろえると、規程どうしの食い違いを防ぐことが出来ます。機密情報とだけ書いて中身を決めないままにすると、社員が入力してよいか迷う場面が増え、結局は使われない規程になってしまいます。

第4条 生成物の事実確認と権利侵害の確認

第4条は、生成物の確認を使った本人の責任として書き、社外に出すときだけ所属長の承認を重ねる2段の作りにしています。社内のメモまで承認を求めると手間が増えすぎるため、確認の重さを社外に出すかどうかで分けるのが続けやすい形でしょう。誤った数字や他人の作品に似た画像をそのまま社外に出すことが、前に挙げた誤情報と著作権侵害の損に直結するので、この条だけは省かずに入れておきましょう。

第5条 利用の記録と会社による確認

第5条は、会社が利用の記録を残し、必要なときに確かめることがあると、あらかじめ社員に知らせておくための条になります。記録を見ることを規程に書いておけば、問題が起きた後に事実を確かめる場面で、見られるとは聞いていないと言われる余地を小さくすることが出来ます。IPAの手引書も、ログの蓄積と事後確認を、AIシステムを導入するすべての企業が最低限実施すべきレベルとして示しています。記録を残す仕組みは条文だけでは動かないため、公認AIを選ぶときに、管理者が利用ログを見られるかどうかを確かめてみてください。

第6条 違反時の懲戒は就業規則の懲戒規定による

第6条は、規程の中で新しい罰を作らず、就業規則の懲戒規定に委ねる書き方にしてあります。モデル就業規則の解説は、使用者は規則の定めるところにより懲戒処分をなし得るとした国鉄札幌運転区事件(最高裁第三小法廷 昭和54年10月30日判決)を引き、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないと説明しています。規程の違反を第11条の号の違反としてつなげておけば、懲戒の根拠を本体の側に置いたまま、規程の細目だけを動かせる形になります。処分の重さの目安や、黙認していた場合の扱いは懲戒の記事にまとめてあるので、処分の場面ではそちらを開いてみてください。

別規程も就業規則の一部になる|届出が要る理由

別に定めた生成AI利用規程も、就業規則の一部として定めるなら、本体と同じく意見聴取・届出・周知の手続きが要ります。モデル就業規則の解説は、育児・介護休業や賃金の規程を本体と別に定めた場合について、その規程も就業規則の一部になるので所轄の労働基準監督署長への届出が必要になると、2か所で書いています。生成AI利用規程も、本体から別に定めるところによると委ねて作る以上、同じ扱いになると考えておくのが安全でしょう。

法律の側から見ても、労働基準法第89条は、就業規則に書く事項の1つとして第10号で「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」を挙げています。全社員に公認AI以外の利用を禁じる決まりは、この号に当たると考えられます。さらに同条は、掲げる事項を変更した場合も同様に届け出るよう定めているので、常時10人以上の事業場なら、規程を作るときだけでなく、中身を変えるときにも届出が要ることになります。

見落としやすいのは、別規程にしても、届出と周知の手続きは本体と変わらないという点です。軽くなるのは本体の条文を差し替えずに済むという作業の面だけで、手続きそのものは本体と同じように回すことになってしまいます。委任の一文は、本体側に別に定める生成AI利用規程によると書き、規程の側の第1条で就業規則の条に基づくと書いて、両方から指し合う形にすると、どの規則の一部なのかがはっきりします。別規程を作るときは、本体の改定と同じ日程表に載せて進めましょう。

就業規則を変える手続き|意見聴取から周知・施行日までのチェック

生成AIの号と別規程を足すときは、過半数代表の意見を聴き、意見書を添えて届け出て、社員に周知し、施行日を迎える、という順に進めます。段取りの細かな説明は懲戒の記事の就業規則を変える手順にあるので、ここでは各段階で抜けやすい点を1つの表に絞ります。

段階すること抜けやすい点根拠
1. 意見を聴く過半数で組織する労働組合、なければ労働者の過半数を代表する者に、本体の改定案と生成AI利用規程の案を示して意見を聴く本体の改定案だけを見せ、規程の案を見せずに意見を聴いてしまう労働基準法第90条
2. 意見書をそろえる代表者の意見を書面にし、代表者の氏名を記載してもらう意見書に代表者の氏名が書かれていない労働基準法第90条、同法施行規則第49条
3. 届け出る改定した就業規則と規程に意見書を添え、所轄の労働基準監督署長へ届け出る。電子申請でも届け出ることが出来る営業所や店舗など、常時10人以上が働くほかの事業場の分を忘れる労働基準法第89条・第90条、モデル就業規則の解説
4. 周知する①作業場の見やすい場所への掲示・備え付け、②書面の交付、③電子データにして、社員が常に確かめられる機器を作業場に置く、のいずれかで知らせる社内のフォルダに置いただけで、置き場所を社員が知らない労働基準法第106条、同法施行規則第52条の2
5. 施行する附則に施行日を書き、周知を終えた日以降の日付から効力を持たせる周知が終わる前の日付(届出を済ませた日など)を施行日にしてしまうモデル就業規則の解説

表の5つ目について、モデル就業規則の解説は、就業規則は作成したり、労働者の代表者から意見を聴取しただけでは効力は発生しないと解されている、と説明しています。効力が生じるのは周知された時期以降で、施行期日の定めがあればその日、定めがなければ通常は周知された日になるとされます。届出を済ませた日を施行日と思い込まず、周知を終えた日以降の日付を附則に書きましょう。労働基準法第120条は、第89条・第90条第1項・第106条などに違反した者を30万円以下の罰金としており、意見聴取や周知を飛ばすこと自体に罰則がある点も押さえておきたいところです。

届出は事業場ごと、10人未満の会社の扱い

就業規則は、会社単位ではなく事業場単位で作成し、届け出るものとされています。本社のほかに営業所や店舗があり、そこで常時10人以上が働いていれば、その事業場にも作成と届出の義務がかかることになります。本社と同じ内容の規則なら、本社の所在地を所轄する労働基準監督署長を通じて一括で届け出ることも出来ます。

常時10人未満の事業場は、第89条の作成・届出の義務の対象ではありません。ただし、懲戒をするには就業規則に定めがあり、それが周知されていることが前提になる点は変わらないため、書面にして社員に配るところまでは進めておくのが安全です。厚生労働省のQ&Aも、懲戒規定が記載された就業規則が周知されていない場合は懲戒できないとして、フジ興産事件(平成15年10月10日最高裁第2小法廷判決)を挙げています。社員が10人に届きそうな会社は、常時10人以上になった時点で遅滞なく届け出る必要があることも覚えておきましょう。

不利益変更とさかのぼり処分|施行日の決め方

生成AIの決まりを新しく足すことは、社員に守るべき事項を加える変更なので、不利益な変更に当たるかどうかを一度考えておくのが安全です。労働契約法第9条は、労働者と合意することなく、就業規則の変更によって労働者の不利益に労働条件を変更することはできないとし、第10条の場合を例外としています。第10条は、変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が合理的なときは変更後の就業規則によると定めており、合理的かどうかは、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして判断されることになります。

生成AIの決まりに当てはめると、会社の側でそろえておきたい材料が見えてきます。必要性は情報漏洩・著作権侵害・誤情報の3つの損で説明でき、相当性は禁止の範囲を業務での利用に絞り、公認AIを配っていることで示すことになります。交渉の状況は、意見を聴いた記録と、説明会で出た質問への答えを残しておけば示すことが出来ます。不利益の程度を小さくする意味でも、私生活での利用には触れない書き方を守りましょう。

もう1つ気をつけたいのが、規定を設ける前の行為にさかのぼって懲戒することはできないという点です。モデル就業規則の解説は、就業規則に懲戒規定を設ける前にした行為にさかのぼって懲戒処分をすることと、1回の懲戒事由に当たる行為に対し複数回の懲戒処分をすることはできないと明記しています。施行前に個人のアカウントで使っていた社員がいても、新しい号を根拠に処分することは出来ないため、施行日は、この日から先の利用に適用するという線として扱うことになります。

施行日の決め方の目安

施行日は、周知を終えた日から、社員が公認AIへ切り替えられるだけの猶予を置いた日にするのが無理のない決め方でしょう。例えば、意見聴取と届出を済ませた後、月初に規程を配って説明会を開き、公認AIのアカウントを配り終えたところで翌月1日を施行日にする、という組み方が考えられます。猶予の間に、それまで使っていた個人のアカウントから業務の情報を消してもらうよう案内すると、施行日の線がはっきりします。施行前の利用を自分から申し出た社員を処分しない約束を附則に置くやり方もあり、その文例は懲戒の記事の申告期間の節に載っています。施行日を決めるときは、周知の日と公認AIを配る日を先にカレンダーに置いてみてください。

ガイドラインを改めるたびに届出は要るか

常時10人以上の事業場で、就業規則の一部として定めた生成AI利用規程を変えるなら、それは就業規則の変更になるので、意見聴取と届出、周知がその都度要ることになります。労働基準法第89条が、掲げる事項を変更した場合も同様に届け出ると定めているためです。一方で、就業規則の一部にしていない手引きや早見表を書き直すだけなら、同じ手続きを回す場面とは言いにくいでしょう。

悩ましいのは、公認AIの一覧のように、規程の中身とも運用の連絡ともとれるものの扱いです。一覧を規程の別紙として一体で定めた場合は、その差し替えも規程の変更とみる余地があり、届出が要るかどうかの判断は分かれることがあります。一覧を規程の外に出し、規程には会社が別に指定し周知するとだけ書く形にすれば、日々の追加は会社の指定と周知で回し、規程そのものを変える回数を抑える組み立てにすることが出来ます。どちらの形が自社に合うか、届出の要否を含めて、最終的には社会保険労務士に確かめてみてください。

見直しのきっかけを決めておく

見直しの時期は、IPAの手引書が利用実態の把握を最低でも年1回とし、大型のアップデートや重大なインシデント、ガイドラインの改定のときにも追加で実施するよう示している点が目安になります。把握の結果、規程の本文を変える必要が出たときだけ届出の手続きに進み、公認AIの追加で足りるなら一覧の更新と周知で済ませる、と切り分けておけば、手続きの回数を抑えることが出来ます。総務の担当者が1人の会社ほど、この切り分けを最初に決めておきましょう。

社会保険労務士に頼む範囲と、自社で先に決めておくこと

条文の言葉選びや届出の手続きは社会保険労務士に任せられますが、どのAIを公認にするか、どの情報を入れてはいけないかは、会社の中でしか決められない中身です。ここが決まらないまま依頼すると、条文は整っても、中身が自社の業務と合わない規程になってしまいます。

自社で先に決めておくこと専門家に確かめること
公認にするAIと、アカウントを配る範囲条文の言葉が既存の規則や規程と食い違っていないか
入力してはいけない情報の中身(顧客、取引先、人事、財務)委任の書き方と、別規程を就業規則の一部としてどう扱うか
社外に出す生成物の確認の流れと承認者不利益変更に当たるかの見立てと、施行日の置き方
利用の記録をどこまで残し、誰が見るか意見書を含む届出の書類と提出先
施行日までの説明会と配布の段取り個別の違反があったときの処分の判断

依頼の前に、左の列の5つを1枚の紙にまとめて渡してみてください。社会保険労務士はその紙をもとに条文と届出を整えられるので、やり取りの回数が減り、施行日までの日程も立てやすくなるでしょう。AIで規程のたたき台を作ること自体は止めませんが、出てきた条文が自社の規則の条番号や既存の規程と合っているかは人が確かめ、最終の確認は専門家に任せましょう。

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よくある質問

生成AIの利用を就業規則で全面的に禁止することは出来ますか?
業務での利用を禁じる定め自体は、情報を守るという業務上の必要に結びついていれば設けることが出来ると考えられます。ただし、全面禁止だけでは利用が会社から見えない場所へ移るおそれがあり、違反した社員を処分する場面でも、会社が使ってよいAIを用意していたかが処分の重さの判断に響く可能性があります。公認AIを配ったうえで、それ以外の業務利用を禁じる形をおすすめします。
生成AI利用規程を別に作った場合も、労働基準監督署への届出は必要ですか?
就業規則の一部として定めるなら、必要になると考えておくのが安全です。厚生労働省のモデル就業規則の解説は、育児・介護休業や賃金の規程を本体と別に定めた場合もその規程は就業規則の一部になり、所轄の労働基準監督署長への届出が必要になるとしています。常時10人以上の事業場では、過半数代表の意見を記した意見書の添付と、社員への周知もあわせて要ります。
社員が10人未満の会社でも、就業規則に生成AIの決まりを書く意味はありますか?
あります。常時10人未満の事業場は就業規則の作成・届出の義務の対象ではありませんが、懲戒をするには規則に定めがあり、それが周知されていることが前提とされています。書面にまとめて社員に配り、配った記録を残しておくことをおすすめします。
就業規則を変えたら、いつから効力が出ますか?
モデル就業規則の解説は、作成や意見聴取だけでは効力は発生しないと解されているとし、周知された時期以降に効力が生じ、施行期日の定めがあればその日、なければ通常は周知された日と説明しています。届出を済ませた日ではない点に注意が要ります。
規程を作る前に生成AIを使っていた社員を、新しい規程で処分できますか?
新しい規程を根拠に処分することは出来ません。モデル就業規則の解説は、懲戒規定を設ける前の行為にさかのぼって懲戒処分をすることはできないと明記しています。施行日から先の利用に適用する前提で、施行前の利用は申告を促して実態を把握する方向で扱うのが現実的です。
公認AIを1つ追加するたびに、労働基準監督署へ届け出る必要がありますか?
公認AIの一覧を規程と一体で定めている場合は、差し替えが規程の変更とみられる余地があります。規程には会社が別に指定し周知すると書き、一覧は規程の外で管理する形にすれば、追加のたびに規程を変えずに済む組み立てにできます。どちらの扱いになるかは、社会保険労務士に確認してください。

まとめ

生成AIの就業規則は、本体に無断利用を禁じる号と委任の一文だけを置き、公認AIの指定・入力してはいけない情報・生成物の確認・利用の記録・違反時の扱いの5項目は別の生成AI利用規程に任せる形が扱いやすくなります。遵守事項の号を規程に従うことで結べば、規程の違反を第11条の違反として懲戒事由につなげる組み立てにすることが出来ます。実際に処分できるかは、行為の中身に照らして個別に判断されます。

別規程も就業規則の一部として定めるなら、意見聴取、意見書への氏名の記載、労働基準監督署への届出、周知という手続きが本体と同じく要ります。効力が出るのは周知の後で、規程を設ける前の利用にはさかのぼれないため、施行日は周知と公認AIの配布を終えた後に置きましょう。条文の最終の形と届出の要否は、社会保険労務士や弁護士に確かめてから施行してください。

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