シャドーAIで懲戒処分はできる?就業規則の書き方と処分の線引き

シャドーAI(野良AI)とは、会社が把握・許可していない生成AIを、社員が業務に使っている状態のことです。社員が無断で生成AIを使ったり機密を入力したりしたとき、懲戒処分ができるかどうかは、就業規則に根拠となる定めがあり、それが社員に周知されているかで大きく分かれます。そのうえで処分の重さは、入力した情報の種類、故意か過失か、初めてか繰り返しかに照らして、社会通念上相当と言える範囲に収める必要があるとされています。厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)には生成AIの利用を定めた条文がないため、自社の規程に一文を足し、使ってよいAI環境を会社が渡しておくことが、処分の前の準備となります。

シャドーAIの定義やリスクの全体像はシャドーAI(野良AI)とは|意味・リスク・対策の全体像で、社員の個人ChatGPTの利用が分かった直後の初動は個人のChatGPTを業務で使っていたときの対応で扱っています。

シャドーAIで懲戒処分はできるのか|根拠・周知・相当性の3段階

シャドーAIを理由に懲戒処分ができるかどうかは、就業規則に根拠があるか、その規則が周知されているか、処分の重さが相当かという3段階で判断されることになります。生成AIだからといって特別な法律があるわけではなく、ほかの規律違反と同じ枠組みで考えることが出来ます。会社側の準備が足りていないと、社員の行為が悪質であっても、処分が無効と判断されるおそれがあります。

労働契約法15条|懲戒が権利の濫用とされない条件

懲戒の有効性を決める中心の条文は、労働契約法第15条になります。条文は、懲戒が労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効になると定めています。ここでいう客観的に合理的な理由は、就業規則の懲戒事由に当たる事実が本当にあったかを問う部分と読むことが出来ます。社会通念上の相当性は、事実があったとしても、処分の重さが行為に見合っているかを問う部分です。生成AIの事案では、入力した情報の中身、禁止を知っていたか、会社が注意していたかといった事情が、条文のいう「その他の事情」として見られることになるでしょう。懲戒解雇は解雇でもあるため、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない解雇は無効とする労働契約法第16条も、重ねてかかります。

就業規則に定めのない理由では懲戒できない(労基法89条9号)

懲戒は、就業規則に定めた種類と事由の範囲でしか行えないとされています。労働基準法第89条第9号は、表彰及び制裁の定めをする場合には、その種類及び程度に関する事項を就業規則に書くよう求める規定になります。厚生労働省のモデル就業規則の解説は、国鉄札幌運転区事件(最高裁第三小法廷・昭和54年10月30日判決)で使用者は規則の定めるところにより懲戒処分をなし得るとされたことを引き、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないと説明しています。生成AIの無断利用という言葉そのものを懲戒事由に書いていなくても、既存の号に当てはまれば処分の根拠になりえますが、当てはまるかどうかで争いの余地が残ってしまいます。

周知されていない規程では懲戒できない(フジ興産事件)

規程があっても、社員が見られる状態になければ懲戒の根拠として使えません。規程がない、または社員に知らせていない状態での懲戒は、無効と判断されやすくなります。厚生労働省のスタートアップ労働条件のQ&Aは、懲戒規定が記載されている就業規則が周知されていない場合は懲戒できないとして、フジ興産事件(最高裁第二小法廷・平成15年10月10日判決)を挙げています。労働契約法第7条も、合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に周知させていた場合に、その内容が労働契約の内容になると定める条文です。周知の方法は、作業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付、パソコンなどで常に見られる状態にすることとされ、労働基準法第106条と同法施行規則第52条の2に定めがあります。社内のファイルサーバーに置いてあるだけで、社員がその場所を知らないという状態は避けましょう。

自社が3段階を満たしているかの点検表

処分を考える前に、自社の規則と運用が3段階を満たしているかを先に点検してみてください。1つでも満たしていない項目があれば、処分の検討より先にその穴を埋めることが優先となります。

段階点検する問い満たしていないときに先にやること
根拠就業規則に懲戒の種類(けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇など)と事由が書かれているか懲戒の章を作る。常時10人以上なら意見聴取と届出まで行う
根拠遵守事項か懲戒事由のどこかに、生成AIの利用や業務情報の入力に当てはまる号があるか第11条に生成AIの号を足し、第68条から拾えるようにする
根拠問題の利用は、その号を定めた日より後に起きたか定める前の利用は新しい号では処分できないため、申告と指導に切り替える
周知改定後の就業規則を掲示・配布・社内掲載し、その記録が残っているか周知をやり直し、日付と方法を記録する
周知研修や誓約書で、入れてはいけない情報を社員が知る機会があったか研修を行い、誓約書を回収する
相当性業務で使ってよいAIを会社が渡していたか公認AIを決めて全社員に配る
相当性同じような利用をしていた他の社員を、これまでどう扱ってきたか過去の対応を洗い出し、同じ基準で扱えるかを確かめる
相当性上司や部署が利用を知りながら止めていなかった経緯はないか黙認の有無を聞き取り、処分の重さを考える事情に入れる

点検表の問いのうち、根拠と周知はすべて満たしていることが処分の前提で、相当性の問いは処分の重さを決める材料として使います。答えに迷う項目があれば、その時点で社会保険労務士に相談しておくと判断がぶれにくくなるでしょう。

モデル就業規則には生成AIの条文がない|今の規程で処分できる範囲

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)の本文には、生成AIやAIツールの利用を直接定めた条文はありません。モデルに沿って就業規則を作った会社では、今ある遵守事項と懲戒事由のどれかに当てはめて処分を考えることになります。遵守事項について、モデルの解説は、就業規則に必ず定めなければならない事項ではないものの、会社として労働者に守らせたいことを定めるよう促しています。

当てはめに使われそうな条文

モデル就業規則の条文定めの内容(要旨)シャドーAIへの当てはめの例と、残る争点
第11条第1号(遵守事項)許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと会社のパソコンで私的な目的にAIを使った場面には当てはめやすい一方、業務のために使った場合は職務以外の目的に当たらないと反論される余地があります
第11条第4号会社の名誉や信用を損なう行為をしないことAIで作った誤った内容を取引先にそのまま出し、信用を損ねた場面など
第11条第5号在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと取引先の資料や未公表の数字を外部のAIに入力した場面。入力が漏洩に当たるかが争点になりえます
第11条第7号その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと包括的な号。これだけを根拠にすると、何が禁止だったのかが社員に伝わっていなかったと反論されやすくなります
第16条(個人情報保護)会社及び取引先等に関する情報の管理に十分注意を払い、業務に関係のない情報を不当に取得しないこと顧客の個人データをAIに入力した場面。ただし第68条第1項第5号の範囲外(下の節を参照)
第68条第1項第3号(懲戒の事由)過失により会社に損害を与えたとき不注意で機密を入力し、取引先への説明や謝罪が必要になった場面
第68条第1項第5号第11条から第15条に違反したとき遵守事項に生成AIの号を足しておけば、ここで直接拾えます
第68条第1項第6号その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったときどの号にも当てはまらないときの受け皿
第68条第2項第4号(懲戒解雇)正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき使用中止の指示を何度も無視して使い続けた場面
第68条第2項第5号故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき禁止を知りながら重要な情報を入力し、大きな損害が出た場面
第68条第2項第8号数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないときけん責や減給を受けても無断利用を繰り返した場面
第68条第2項第10号許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき第11条第1号違反のうち、程度の重いもの
第68条第2項第13号正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき業務上重要な秘密をAIに入力し、損害や業務の混乱が生じた場面

表のとおり、既存の号でも当てはめる道はありますが、どれも生成AIを想定した言葉ではないため、本人からAIへの入力が漏洩に当たるとは思わなかったと反論される余地が残ります。モデル就業規則の第68条第2項は、情状により普通解雇、減給または出勤停止とすることがあるとしており、懲戒解雇の号に当たっても必ず懲戒解雇になるわけではありません。

第16条に書くと懲戒事由から外れる落とし穴

見落としやすいのが、第16条(個人情報保護)と第68条の関係です。モデル就業規則の第68条第1項第5号が懲戒事由として挙げているのは、第11条から第15条までの違反になります。そのため、AIへの入力ルールを第16条の個人情報保護の条に足しただけでは、その違反を第5号で直接は拾えず、第6号の前各号に準ずる不都合な行為に頼る形となってしまいます。AIの利用ルールは第11条の遵守事項に置くか、第68条の側にも違反を懲戒事由として書き足しましょう。自社の就業規則がモデルと条番号が違う場合も、遵守事項の条と懲戒事由の条が正しく結びついているかを一度確かめてみてください。

処分の重さの判断表|けん責から懲戒解雇までの線引き

処分の重さは、入力した情報の種類、故意か過失か、初めてか繰り返しか、会社の損害の4つで大まかな目安を付けることが出来ます。モデル就業規則第67条が示す懲戒の種類は、軽い順にけん責、減給、出勤停止、懲戒解雇の4つです。けん責は始末書を出させて将来を戒める処分、減給は賃金の一部を差し引く処分、出勤停止は定めた日数を限度に出勤を止め、その間の賃金を支払わない処分になります。懲戒解雇は予告期間を置かずに即時に解雇する処分で、解雇予告手当を払わずに即時解雇するには事前に労働基準監督署長の解雇予告除外認定が要ると、モデルの解説は労働基準法第20条を挙げて説明しています。同じ解説によれば、処分の種類はモデルの4つに限られず、公序良俗に反しない範囲で事業場ごとに決めることも可能です。

行為の型入力した情報故意・過失初回・繰り返し処分の目安当てはめうる号(モデル就業規則)
個人のAIアカウントで、文章の下書きや言い換えに使った公開情報、個人や取引先を特定しない一般的な内容規程を知らなかった初回懲戒にせず、口頭注意や指導で対応懲戒事由に当てはめない判断も
同上同上規程を知っていた注意を受けた後も繰り返しけん責第68条第1項第5号(第11条違反)
社内の資料や議事録を個人のAIで要約させた社内限りの情報過失(入れてよいと思っていた)初回書面での注意〜けん責第68条第1項第5号
同上社内限りの情報故意(禁止を知りながら)けん責の後も繰り返し減給〜出勤停止第68条第1項第5号、第2項第4号
顧客名簿や取引先の資料を入力した個人データ、取引先から預かった機密過失初回けん責〜減給(取引先への報告や謝罪が必要になったかで重く)第68条第1項第3号・第5号
同上個人データ、取引先から預かった機密故意初回出勤停止〜懲戒解雇の検討第68条第2項第5号・第13号
業務上重要な秘密を入力し、会社に重大な損害が出た業務上重要な秘密故意又は重大な過失問わない懲戒解雇の検討対象第68条第2項第5号・第13号
使用中止の指示を受けても使い続けた公開情報、社内限りの情報故意繰り返し減給〜出勤停止第68条第2項第4号(情状により減給・出勤停止)
懲戒を数回受けたのに、なお無断利用を続けた問わない故意繰り返し懲戒解雇の検討対象第68条第2項第8号
会社のパソコンで、業務と関係のない私的な目的にAIを使った業務情報なし故意繰り返しけん責〜減給第68条第1項第5号(第11条第1号違反)。程度が重ければ第2項第10号

※この表は、就業規則に根拠があり周知されていることを前提にした目安です。法令や裁判例が示した基準ではありません。個別の事案の処分は、社会保険労務士・弁護士にご相談ください。

実際には、入力した情報が外に出たと分かっているか、取引先への報告や謝罪が必要になったか、本人が自分から申し出たかといった事情でも、重さは変わる可能性があります。同じ会社の中で過去に似た事案をどう扱ったかも、表と同じくらい重く見ておきましょう。

2つのケースで判断表を当てはめる

判断表の使い方を、よくある2つの場面で確かめてみます。どちらも、生成AIの号を足した就業規則を周知し、公認AIを全社員に配った後に起きたものとして考えます。

事情ケースA:営業担当の見積資料ケースB:事務担当の顧客名簿
行為取引先から受け取った見積資料を、私物のスマートフォンの個人AIに貼り付けて要約させた顧客名簿の一部を個人AIに貼り付け、宛名の整形をさせた
入力した情報取引先から預かった機密顧客の個人データ
故意・過失公認AIの使い方が分からず、個人AIなら早いと考えた(禁止は知っていた)書面での注意を受けた後も、同じ作業で個人AIを使い続けた
初回・繰り返し初回、翌日に自分から上司へ申し出た注意の後に2回目、上司が画面を見て発覚
損害取引先への報告と説明が必要になったが、それ以上の損害は確認されていない個人情報保護委員会への報告の要否を検討する事態になった
判断の目安表の目安は出勤停止〜懲戒解雇の検討。自ら申し出たことと、損害が取引先への説明にとどまったことを情状として、けん責〜減給まで軽くする余地がある出勤停止〜懲戒解雇の検討(損害の程度による)。注意の記録と、報告対応の負担を重くする事情として扱う

ケースAは、判断表では取引先の機密を故意に入力した初回に当たり、目安は出勤停止〜懲戒解雇の検討です。ただ、翌日に自分から申し出たこと、損害が取引先への説明にとどまったことは軽くする情状となり、けん責〜減給まで下げる余地があります。表の目安から軽くした理由は、通知書の考慮した事情の欄に書き残しておきましょう。公認AIの使い方が分からなかったという言い分が出たときは、処分と並べて、使い方の個別案内を行うことも大切です。ケースBでは、書面での注意の記録が残っていたことが、初回の故意と同じかそれより重い処分を選ぶ根拠となります。どちらのケースも、もし公認AIを配っていなかったなら、禁止の理由を説明しにくくなり、目安より軽い対応を考える必要が出てくるでしょう。

黙認していた経緯と、注意・警告の履歴

会社が社員のAI利用を知りながら止めていなかった場合、処分は軽い方向に振れやすくなります。上司が業務での利用を勧めていた、部署全体で使っていたといった経緯があると、その社員だけを重く処分する理由を説明しにくくなってしまいます。反対に、書面で注意したのに繰り返した、研修を受けたうえで入力したという履歴があれば、重い処分を選ぶ事情の一つになりえます。注意や指導は口頭で終わらせず、日付と内容を記録に残しましょう。モデル就業規則の第68条第2項第8号も、数回にわたり懲戒を受けたのに改善の見込みがない場合を懲戒解雇の事由にしており、履歴の積み重ねが処分の重さに結びつく作りになっています。

営業秘密や個人データを入力していたときの考え方

入力した情報が取引先の機密や顧客の個人データだった場合は、懲戒とは別に、会社として対応しなければならない手続きが出てきます。個人情報保護委員会は、要配慮個人情報を含む個人データ、財産的被害が生じるおそれがある個人データ、不正の目的をもって行われたおそれがある漏えい等、本人の数が1,000人を超える漏えい等の4つの類型について、おそれがある場合も含めて報告の対象としています。報告は、発覚後速やかに(概ね3〜5日以内)の速報、発覚日から30日以内(不正の目的のおそれがある場合は60日以内)の確報という流れで求められます。要配慮個人情報の例としては、従業員の健康診断等の結果を含む個人データの漏えいが挙げられています。ただし、生成AIへの入力がそれだけで漏えい等に当たるとは限らず、4つの類型に当たる(おそれを含む)かで報告の要否を判断します。類型と期限の詳細は、個人情報保護委員会の漏えい等の対応とお役立ち資料で確かめてみてください。

その情報が法律上の営業秘密として守られるかどうかは、不正競争防止法という別の法律の論点になるため、弁護士に確かめるのが確実でしょう。懲戒の側では、モデル就業規則の第68条第2項第13号が、正当な理由なく業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与えた場合などを懲戒解雇の事由に挙げています。報告の要否と処分の重さは別々に判断するものなので、報告が必要になったという事実だけで処分を重くするのではなく、本人の行為の性質と会社に生じた損害で量ることになります。

他社の漏えい報道を処分の重さの根拠にしない

国内外の他社で生成AIへの入力が問題になったという報道は、規程を作るきっかけにはなっても、自社の社員の処分を重くする理由にはなりにくいものです。労働契約法第15条が見るのは、その社員の行為の性質や態様その他の事情であり、世の中で同じような事件があったかどうかではありません。処分の重さは、自社で入力された情報の中身と、会社に生じた損害で決めることになります。他社の事例は、研修で入れてはいけない情報の重さを伝える材料として使うほうが向いているでしょう。

減給の上限を円で計算する

減給には労働基準法第91条の上限があり、これを超える部分は認められません。上限は、1回の額が平均賃金の1日分の半額まで、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1までの2つです。モデル就業規則の第67条も、減給をこの範囲で行うと定めています。月給30万円の社員で、平均賃金を1日1万円と仮定した場合で計算してみます。

項目計算上限
1回の減給の上限平均賃金1日分 10,000円 × 2分の15,000円
1か月(一賃金支払期)の減給の合計の上限その月の賃金総額 300,000円 × 10分の130,000円
1回5,000円の減給が同じ月に重なった場合30,000円 ÷ 5,000円6回分まで
減給できない例月給の半分を1回で差し引く、1回で1万円を差し引く1回の上限5,000円を超えるため不可

※平均賃金は実際に支払った賃金から計算するため、1日1万円は計算を分かりやすくするための仮の数字です。月給30万円・平均賃金1日1万円の前提で、10,000×0.5=5,000円、300,000×0.1=30,000円、30,000÷5,000=6回で検算しています。

1回の減給は5,000円が上限となり、給与の大きな割合を一度に差し引く処分は認められません。同じ月の給与で複数の事案の減給が重なっても、合計は3万円までに収める必要があります。減給で足りないほど重い事案であれば、減給額を上げるのではなく、出勤停止など別の種類の処分を検討することになるでしょう。

懲戒が無効と判断されやすい型の一覧

処分が後から無効と判断されやすいのは、行為の悪質さより、会社の側の準備や手続きに穴がある場合です。次の表は、法令とモデル就業規則の解説をもとに、典型的な型を並べたものになります。

型どういう状態か根拠になる条文・資料
1. 規程がない就業規則に懲戒の種類や事由が定められていない、または生成AIの利用がどの号にも当てはまらない国鉄札幌運転区事件(モデル就業規則の解説)、労働基準法第89条第9号
2. 周知していない規程はあるが、社員が見られる場所に掲示・備え付けをしていない、配布していないフジ興産事件、労働契約法第7条、労働基準法第106条
3. 規程を作る前の行為を処分する生成AIの条文を足した日より前の利用を、新しい条文で処分するモデル就業規則の解説(懲戒規定を設ける前の行為にさかのぼって懲戒できない)
4. 同じ行為を2回処分する始末書を出させた件について、後から減給を重ねるモデル就業規則の解説(1回の懲戒事由に複数回の懲戒はできない)
5. 他の社員と釣り合わない同じ部署で同じように使っていた社員がいるのに、1人だけを重く処分するモデル就業規則の解説(過去の同種事例を考慮して公正に)
6. 会社が黙認していた上司が利用を知っていた、勧めていた、部署の手順に組み込まれていた労働契約法第15条(その他の事情)
7. 公認ツールを用意せず禁止だけしていた業務で使ってよいAIを会社が渡さないまま、一律に禁止していた労働契約法第15条(その他の事情)。一般論としての整理
8. 減給が上限を超える1回で平均賃金の半日分を超える、月の合計が賃金の10分の1を超える労働基準法第91条

3つ目の型は、規程を足す時期と深く関わってきます。今日、就業規則に生成AIの条文を足しても、その前に起きた入力を新しい条文で処分することはできないと、モデル就業規則の解説は明記しています。規程を足す前の利用は、申告を促して実態をつかみ、これからのルールを伝える対応に切り替えるほうが現実的でしょう。

4つ目と5つ目は、処分を決める手順の問題です。始末書を出させたあとで、同じ入力を理由にさらに減給するといった二重の処分は避けてください。同じ部署で同じことをした別の社員を処分していないのに1人だけを処分すると、公正さを欠くと判断される可能性があります。8つ目の減給の上限は計算で確かめられるため、処分を決める前に、給与の担当者と金額を突き合わせておきましょう。上限を超えた部分は労働基準法第91条に反することになり、処分の中身そのものに疑いを持たれる原因となってしまいます。6つ目と7つ目は、会社がどこまで準備していたかの問題で、次の節で詳しく見ていきます。

処分を考える前に、使ってよいAIを会社で渡す

処分の線引きの前に、社員が使う環境を会社で1つにまとめて渡す方法があります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

禁止だけで公認ツールを渡していないと、処分が重すぎると判断されるおそれがある

生成AIを一律に禁止しただけで、業務で使ってよい環境を会社が用意していない場合、違反した社員を重く処分するのは難しくなる可能性があります。労働契約法第15条は、行為の性質や態様に加えてその他の事情も見るとしており、業務上の必要があったか、代わりの手段があったかも、この事情に含まれうると考えられます。この点は特定の裁判例に基づくものではなく、条文の構造から考えた一般論としての整理になります。

全面禁止にすると、利用は見えない場所へ移る

業務を早く終えたいという動機が残ったままだと、全面禁止は利用をなくすより、私物のスマートフォンや自宅のパソコンといった会社から見えない場所へ移してしまうおそれがあります。見えない場所で使われると、何を入力したかを会社が後から確かめる手段も乏しくなり、懲戒の前提となる事実確認そのものが難しくなってしまいます。禁止の通知を出したことで安心してしまい、実態の把握が止まる点にも注意が要ります。

公認ツールを渡してから禁止の線を引く

線引きの順番は、まず会社として使ってよいAIを決めて渡し、そのうえで、それ以外のAIに業務の情報を入れないというルールを敷く形が自然です。使ってよい環境があれば、禁止に反した社員に対して、会社はほかの手段を用意していたと説明でき、処分の相当性を示しやすくなります。懲戒の前に、会社が使ってよい環境を渡しているかを確かめてみてください。公認の環境で利用ログや権限を管理していれば、問題が起きたときの事実確認もしやすくなるでしょう。

就業規則に足す条文ひな形|第11条と第68条の2か所

就業規則に足すのは、守ってほしいことを書く遵守事項と、違反したときの懲戒事由の2か所になります。モデル就業規則に沿った規則なら、第11条の遵守事項に新しい号を足し、第68条の懲戒事由の第1項と第2項にも1つずつ号を足す形が分かりやすいでしょう。下の文例は規程整備の考え方を示すための例であり、そのまま使える条文であることを保証するものではありません。

遵守事項(第11条)に足す一文

足す場所文例
第11条(遵守事項)
第6号の次(第7号「その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと」の直前)に新しい号として足す
会社が業務での利用を認めた生成AIサービス(以下「公認AI」という。)以外の生成AIサービスを業務に利用し、又は業務上の情報を入力しないこと。
上の号に続けて、同じく第7号の直前に新しい号として足す公認AIを利用する場合であっても、会社が別に定める生成AI利用規程に従い、同規程で入力を禁止された情報を入力しないこと。

1つ目の文例では、禁止の範囲を公認AI以外と書くことで、使ってよい環境が会社にあることを規則の中で示しました。2つ目の文例は、公認AIであっても入れてはいけない情報があることを、別の規程に結びつけて定めるものです。具体的に何が公認AIか、どの情報を入れてはいけないか、新しいAIの申請や承認をどう回すかは、別に定める生成AI利用規程に書き分ける形を取っています。

生成AI利用規程に書く項目(利用範囲・申請と承認・違反時の扱い)

項目書く内容の例
利用範囲公認AIのサービス名、使ってよい業務(文章の下書き、要約、翻訳、調べものなど)、使ってはいけない業務
無許可利用の禁止公認AI以外の生成AIサービスを業務に使わないこと。私物の端末や個人のアカウントでの業務利用も含むこと
入力してはいけない情報顧客や従業員の個人データ、取引先から預かった機密、未公表の財務情報や人事情報、パスワードなどの認証情報
申請と承認の流れ新しいAIサービスを使いたいときの申請先、承認する人、回答までの目安の日数、承認したサービスの一覧の置き場所
出力の扱いAIの出力を取引先に出す前に、人が内容を確かめること
誤って入力したときの報告報告先の部署と連絡手段、報告を受けた側の対応
違反したときの扱い就業規則第68条に基づき懲戒処分の対象となりうること、施行前の利用についての申告期間

利用規程の全体の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方でひな形とあわせて紹介しているので、項目を埋めるときの下敷きにしてみてください。

懲戒事由(第68条)に足す一文

足す場所文例
第68条第1項(けん責・減給・出勤停止)
第6号(その他前各号に準ずる不都合な行為)の前に新しい号として足す
第11条第◯号又は第◯号の定めに違反して、公認AI以外の生成AIサービスを業務に利用し、又は入力を禁止された情報を生成AIサービスに入力したとき。
第68条第2項(懲戒解雇)
第13号(業務上重要な秘密の漏洩)の次に新しい号として足す
故意又は重大な過失により、会社若しくは取引先の機密情報又は個人情報を公認AI以外の生成AIサービスに入力し、会社に重大な損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。

第2項の文例に故意又は重大な過失、重大な損害という条件を入れているのは、1回の軽い入力まで懲戒解雇の事由に読めてしまうと、規程そのものの合理性が疑われかねないためです。モデル就業規則の第68条第2項には、情状により普通解雇、減給または出勤停止とすることがあるという定めがあり、文例もこの定めの下に置く想定になります。条番号の◯には、自社の規則で生成AIの号を置いた番号を入れましょう。

申告期間(免責)の条文例|申告した社員を処分しない約束

規程を足すときは、それまでの利用を自分から申し出た社員を処分しない期間を、附則などで決めておくやり方があります。新しい条文は施行前の行為には使えませんが、機密を漏洩しないといった既存の号に当たる行為は今の規則でも処分の対象になりうるため、どこまで処分しないのかをはっきり書くことが大切です。

置く場所文例
就業規則の附則、または生成AI利用規程の附則本規程の施行日から◯日以内に、施行日前の生成AIサービスの業務利用について所定の様式で申告した者については、当該利用を理由とする懲戒処分を行わない。ただし、申告の内容に虚偽があった場合、又は不正の目的で情報を持ち出した場合は、この限りでない。

処分を前面に出しすぎると、社員は過去の利用を隠す方向に動きやすくなり、どの情報がどこに入ったかが分からないままとなってしまいます。悪質な持ち出しまで免除する必要はないため、ただし書きで除外を書き分けておきましょう。申告の様式には、使ったサービス名、使っていた期間、入力した情報の種類の3つを書いてもらう形が扱いやすいでしょう。

周知・教育と誓約書のひな形

条文を足したら、社員が内容を知り、理解したことを確かめられる形で伝えることが次の仕事になります。周知が懲戒の前提であり、周知されていない規程では懲戒できないとされていることは、最初の節で見たとおりです。

周知と研修で残しておく記録

  • 改定した就業規則と生成AI利用規程の掲示・配布の記録掲示した場所や配布した日付、配布の方法を残します。社内ポータルに置く場合は掲載日と掲載場所を記録します。
  • 掲載場所を全員に知らせた連絡の控えメールや社内チャットで、どこに置いたかを全社員に伝えた記録です。新しく入った社員への案内も同じように残します。
  • 研修の実施日・出席者・使った資料欠席者には資料を渡し、読んだことを確かめた記録を残します。
  • 公認AIのアカウントを配った記録誰にいつ配ったかが分かれば、使える環境があったことを示す材料になります。
  • 誓約書の回収状況未提出の社員が分かる一覧にしておき、回収の催促をした日も記録します。

研修では、条文を読み上げるより、入れてはいけない情報の具体例と、公認AIの使い方を実際の画面で見せるほうが伝わりやすくなります。研修のあとは、迷ったときの相談先を1か所に決めて伝えておきましょう。点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストにまとめているので、研修の資料作りに使えます。

誓約書・同意書のひな形

誓約書は、規程を読んだこと、守ること、違反したら就業規則に基づき処分されうることを、本人の署名で確かめるための書面です。誓約書だけで懲戒の根拠が生まれるわけではなく、根拠はあくまで就業規則の定めになります。

生成AIの利用に関する誓約書(例)
  1. 私は、会社が定める生成AI利用規程を読み、その内容を理解しました。
  2. 業務で生成AIを使うときは、会社が業務での利用を認めた公認AIだけを使います。私物の端末や個人のアカウントで業務に使うことはしません。
  3. 顧客や従業員の個人データ、取引先から預かった機密情報、未公表の会社の情報など、規程で入力を禁止された情報は入力しません。
  4. 新しい生成AIサービスを業務で使いたいときは、事前に所定の手続きで申請し、承認を得てから使います。
  5. 禁止された情報を誤って入力したと気づいたときは、直ちに担当部署(◯◯部)へ報告します。
  6. 生成AIの出力を社外に出すときは、内容を自分で確かめてから使います。
  7. 退職した後も、在職中に知り得た会社や取引先の機密を生成AIサービスに入力しません。
  8. 本誓約に反した場合、就業規則に基づき懲戒処分を受けることがあることを理解しました。
令和◯年◯月◯日 所属:◯◯部 氏名:◯◯◯◯(署名)

誤って入力したときにすぐ報告する項目を入れておくと、報告が早いほど被害を小さくできることを社員に伝える機会にもなるでしょう。退職後の項目は、モデル就業規則の第11条第5号が在職中だけでなく退職後も機密を漏洩しないことを求めている形に合わせたものです。入社時の書類に加えて、規程を改定したときにも取り直すのが確実な運用となります。

常時10人以上の会社が就業規則を変える手順

常時10人以上の労働者を使う会社が生成AIの条文を足すときは、意見の聴取、届出、周知という手続きを踏む必要があります。労働基準法第89条は常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を求めており、制裁の定めをする場合はその種類と程度も記載事項に含まれます。第90条は、就業規則を作るときも変えるときも、過半数で組織する労働組合、それがなければ過半数代表者の意見を聴き、届出に意見書を添えるよう定めています。

段階やること残す書類根拠
1. 条文案を作る第11条と第68条に足す号、生成AI利用規程、申告期間の附則を用意する新旧対照表、規程案労働基準法第89条第9号
2. 意見を聴く過半数で組織する労働組合、なければ過半数代表者に条文案を示して意見を聴く意見書(代表者の署名か記名押印)労働基準法第90条
3. 届け出る変更した就業規則に意見書を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出る届出の控え労働基準法第89条・第90条
4. 周知する掲示・備え付け、書面の交付、社内のパソコンで常に見られる状態にするなどの方法で知らせる掲示・配布・掲載の記録労働基準法第106条、同法施行規則第52条の2
5. 研修と誓約書入れてはいけない情報と公認AIの使い方を伝え、誓約書を回収する研修の出席記録、誓約書(懲戒の有効性を説明する材料として)
6. 公認AIを配る全社員に公認AIのアカウントを配り、使い方の案内を出すアカウント配布の記録(労働契約法第15条のその他の事情として)

手続きの中で抜けやすいのは、4つ目の周知と、6つ目の公認AIの配布です。届出を済ませても周知が欠けていれば、規程は懲戒の根拠として使えない可能性が残ってしまいます。社員数10〜200名の会社では、総務の担当者が1人で抱えることもあるため、条文案の作成から周知までの日程を先に決めてしまいましょう。10人未満の会社は第89条の作成・届出の義務の対象ではありませんが、懲戒をするなら規則に定めがあり周知されていることが前提になる点は同じです。

処分を決める前の手順と、各段階で残す書類

処分は、事実確認、本人の弁明の機会、処分の決定、通知の4つの段階を順に踏んで決めることが大切です。どの段階も、後から処分の理由を説明できるように書類を残しながら進めます。

段階やること残す書類
1. 事実確認・証拠保全いつ、どのAIに、どの情報を入力したかを確かめる。会社の端末の記録、本人のメモ、画面の写しを集める。同じ部署・同じ業務の利用も棚卸しする調査記録、聞き取りの記録、集めた証拠の写し、棚卸しの一覧
2. 弁明の機会本人に確認した事実を示し、言い分を聞く弁明の記録(日時・同席者・本人の確認の署名)
3. 処分の決定判断表の目安、過去の同種事例、当てはまる条番号を並べて決める処分の決定書(稟議書)、過去事例との比較メモ
4. 通知処分の種類、理由となった事実、根拠の条番号、処分の日付を本人に伝える懲戒処分通知書、受領の署名、けん責の場合は始末書

処分より先に、事実確認と証拠保全、利用実態の棚卸し

最初にやるのは、処分の検討ではなく、何が起きたかを確かめて記録することです。個人のアカウントは会社が契約したものではないため、本人に画面を見せてもらう、入力した内容を書き出してもらうといった協力を求めることになります。1人の利用が分かったら、同じ部署や同じ業務でほかに使っている人がいないかも棚卸ししてみてください。推測で入力の範囲を広げて処分を重くすると、事実の裏付けがない処分と判断されるおそれがあります。分かった直後の初動の進め方は、関連記事の個人のChatGPTを業務で使っていたときの対応で詳しく扱っています。

確かめる項目確かめ方の例処分の判断で効いてくる点
いつから、どのくらいの頻度で使っていたか本人の申告、業務日報、作った資料の日付規程を定めた日の前か後か、初回か繰り返しか
どのAIサービスを、どのアカウントで使ったか本人に画面を見せてもらう、会社の端末の記録会社の端末か私物か、個人の契約か
入力した情報の種類入力した内容を本人に書き出してもらい、元の資料と照らす公開情報か、社内限りか、個人データや取引先の機密か
出力を何に使ったか出力を使った資料やメールを確かめる誤った内容が社外に出たか、信用を損ねたか
禁止を知っていたか研修の出席記録、誓約書、過去の注意の記録故意か過失か
上司や周囲が知っていたか上司と同じ部署の社員への聞き取り会社が黙認していたか、他の社員との釣り合い
会社や取引先に損害が出たか取引先への説明や謝罪の有無、報告の要否の判断損害の大きさ、懲戒解雇の号に当たるか

聞き取りでは、責める口調を避け、事実を確かめる場であることを最初に伝えておきましょう。本人が萎縮して入力した範囲を少なめに話すと、後から追加の事実が出て処分をやり直す事態になりかねません。

本人の言い分を聞く

処分を決める前に、本人の言い分を聞く場を設けましょう。上司に勧められた、禁止を知らなかった、公開情報だけだと思っていたといった事情は、本人に聞かなければ出てきません。聞いた内容は日時と同席者を書いた記録にまとめ、本人に確認してもらってから署名をもらうと、後から言った言わないで争いになる余地を小さくできます。自社の就業規則に弁明の機会や懲戒委員会の手続きを定めている場合は、その手続きを飛ばさないことが前提となります。

処分の決定と通知書

処分の重さは、判断表の目安と、同じ会社の過去の同種事例を並べて決めます。モデル就業規則の解説も、規律違反の程度に応じ、過去の同種事例における処分内容等を考慮して公正な処分を行う必要があるとしています。通知書には、処分の種類、理由となった事実、根拠となる就業規則の条番号、処分の日付を書き、本人に交付しましょう。1つの行為に対して処分は1回までなので、けん責のあとに同じ件で減給を重ねることのないよう、決定は一度で固めてください。

懲戒処分通知書に書く項目書き方の例
処分の種類けん責(始末書の提出を求める)
処分の理由となった事実令和◯年◯月◯日から◯月◯日まで、会社が認めていない生成AIサービスに、取引先◯社の見積資料を入力した事実
根拠となる条文就業規則第11条第◯号、第68条第1項第◯号
考慮した事情初回であること、自ら申し出たこと、取引先への説明が必要になったこと
処分の日付と始末書の提出期限令和◯年◯月◯日付、始末書は◯月◯日まで

懲戒にしない対応の選び方

初めての軽い利用であれば、懲戒にしない対応のほうが釣り合う場面も多くあります。懲戒にしない対応でも、記録を残しておけば、繰り返されたときに重い処分を選ぶ事情として使うことが出来ます。

対応向いている場面残すもの・注意点
口頭での注意初めての利用で、入力したのが公開情報だけ日付と伝えた内容のメモ
書面での注意・指導社内限りの情報を過失で入力した初回次に同じことがあれば懲戒の検討対象になることを書面に明記
再研修規程の内容を理解していなかった研修の出席記録と使った資料
公認AIの使い方の個別案内業務の必要から個人のAIを使っていた公認AIのアカウントを配った日付
公認AIの利用権限の見直し公認AIに禁止情報の入力を繰り返す業務に支障が出ない範囲で行い、理由を本人に伝える

どの対応を選んだかも、過去の同種事例として次の判断の材料になります。対応の記録は、処分の記録と同じ場所にまとめて保管しておくと、担当者が替わっても扱いを揃えやすくなるでしょう。

懲戒の前に、会社が使ってよい環境を渡しているか

処分の相当性を説明しやすいのは、使ってよいAIを渡し、ルールを決め、使い方の記録を残している会社です。規程と懲戒だけを整えても、業務を早く片付けたいという社員の動機は残るため、会社の外のAIに流れる力はなくなりません。

公認の環境に求めたい条件

  • 会社が契約し、会社がアカウントを配る退職や異動のときに、管理者がアカウントを止められる形です。個人の契約では、この管理が会社の手を離れてしまいます。
  • 利用ログを管理者が確かめられる誰がいつどのAIを使ったかが分かれば、問題が起きたときの事実確認の材料になります。
  • 使わせるAIを管理者が選べる部署や業務によって使わせたくないモデルが出たとき、管理者が後から止められるかを確かめます。
  • 全員に配れる料金の形一部の社員にしか配れない料金の形だと、配られなかった社員が個人のアカウントに流れやすくなります。

1人ずつ課金されるサービスだと、費用の都合で一部の社員にしか配れず、配られなかった社員が個人のアカウントで使い始めることがあります。その状態で禁止を破った社員を処分すると、会社は使える環境を渡していなかったという事情を抱えたまま、相当性を説明しなければならなくなってしまいます。処分の線引きより先に、全員が使える公認の環境を配ることを決めましょう。法人向けサービスの料金の違いは法人向け生成AIサービスの比較で、人数による費用の増え方まで並べて整理しています。

公認AIを配った後に決めておく運用

公認AIを配っただけでは、処分の場面で会社が準備していたと説明するには足りないことがあります。誰が管理し、どこまでを記録し、どう見直すかを、次のように決めて規程や社内の手順に書いておきましょう。

決めること決め方の例懲戒の場面での役割
管理者総務か情シスから正副2名を決める利用ログの確認や、アカウント停止の判断をする人がはっきりする
利用ログの確認の頻度月に1回、利用の多い社員と使われたモデルを見る問題の早期発見と、事実確認の材料になる
新しく入った社員への配布入社手続きの中でアカウントを配り、研修と誓約書を同じ日に行う配られていなかったという事情を作らない
使えるモデルの見直し半年に1回、業務で必要なモデルと止めるモデルを決め直す使ってよい範囲を会社が管理していたことを示せる
相談の窓口この情報は入れてよいかという相談を受ける窓口を1つにする迷ったら相談できたという事情が、故意や過失の判断材料になる

運用の記録が積み上がるほど、処分が必要になったときに、会社として何を用意し、何を伝えていたかを順を追って示すことが出来ます。反対に、処分の場面になって初めて記録を探し始めると、周知や配布の日付が分からず説明に困ることになりかねません。

使ってよいAIを、全社員に1つの契約で

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よくある質問

社員が無断で生成AIを使っただけで、懲戒処分はできますか?
就業規則に生成AIの利用を制限する定めや、それに当てはまる遵守事項と懲戒事由があり、社員に周知されていることが前提になります。そのうえで、入力した情報の中身や故意か過失かに照らして処分の重さが相当と言える範囲であれば、懲戒が認められる可能性があります。公開情報だけを使った初回の利用であれば、懲戒より注意や指導で対応するほうが無理のない場合が多いと考えられます。
就業規則に生成AIの条文がなくても処分できますか?
機密を漏洩しないといった既存の遵守事項と懲戒事由に当てはまれば処分の根拠になりえますが、生成AIへの入力が当てはまるかどうかで争いの余地が残ります。厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)にも生成AIの利用を定めた条文はないため、遵守事項と懲戒事由に一文ずつ足しておくことをおすすめします。
条文を足す前の無断利用を、新しい条文で処分できますか?
できないとされています。モデル就業規則の解説は、就業規則に懲戒規定を設ける前にした行為にさかのぼって懲戒処分をすることはできないとしています。規程を足す前の利用は、申告期間を設けて実態をつかみ、これからのルールを伝える対応に切り替えるのが現実的です。
減給はいくらまでできますか?
労働基準法第91条により、1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1までです。平均賃金を1日1万円、月給を30万円とした場合、1回の減給は5,000円まで、同じ月の合計は3万円までとなります。
機密情報を入力した社員は懲戒解雇にできますか?
故意または重大な過失で業務上重要な秘密や顧客の個人データを入力し、会社に重大な損害を与えたような場合には、懲戒解雇が検討の対象になりえます。ただし懲戒解雇は解雇でもあるため、労働契約法第15条と第16条の両方で、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が問われます。初めての過失による入力で直ちに懲戒解雇とするのは、重すぎると判断されるおそれがあります。
誓約書を取っておけば、就業規則に定めがなくても処分できますか?
誓約書は規程を読んで守ることを本人に確かめる書面であり、懲戒の根拠そのものは就業規則の定めになります。就業規則に懲戒の種類と事由を定めて周知したうえで、誓約書を取る順番で整えてください。
生成AIを全面禁止にすれば、懲戒しやすくなりますか?
禁止の線ははっきりしますが、業務で使ってよい環境を会社が用意していないと、違反した社員を重く処分することの相当性を説明しにくくなる可能性があります。全面禁止は利用を会社から見えない場所へ移すおそれもあるため、公認のAI環境を配ったうえで、それ以外のAIに業務情報を入れないルールにするほうが運用しやすいでしょう。

まとめ

シャドーAIを理由とする懲戒は、就業規則の根拠、周知、処分の相当性の3段階で有効かどうかが判断されます。モデル就業規則(令和7年12月版)には生成AIの条文がないため、第11条の遵守事項と第68条の懲戒事由に一文ずつ足し、意見の聴取、届出、周知の手続きを踏むことが出発点になります。処分の重さは、情報の種類、故意か過失か、初回か繰り返しか、損害の大きさで目安を付け、減給は平均賃金1日1万円・月給30万円なら1回5,000円・月3万円という上限の中に収める必要があります。そして、禁止と処分だけで終わらせず、使ってよいAI環境を会社が渡していることが、処分の相当性を支える土台となるでしょう。

法人のAI活用に関するほかの記事はAI活用コラム一覧にまとめています。

※法令は2026年10月3日時点でe-Gov法令検索に掲載されている労働契約法・労働基準法の条文、モデル就業規則は厚生労働省が公表している令和7年12月版、フジ興産事件は厚生労働省スタートアップ労働条件のQ&A、漏えい等の報告は個人情報保護委員会の漏えい等の対応とお役立ち資料で確認した内容です。この記事は一般的な考え方を整理したもので、個別の事案での処分の可否や重さの判断は、社会保険労務士・弁護士にご相談ください。