
AIの法律(AI法)とは、2025年に成立した「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)のことで、国がAIの研究開発と活用を進めるための基本法になります。生成AIを使うだけの会社に求められているのは、第7条にあるAIの活用に努めることと、国や地方公共団体の施策に協力することの2つで、条文を確かめた範囲では罰則の規定は見当たりません。罰則や損害賠償が問題になるのは、個人情報保護法・著作権法・不正競争防止法など、今ある法律の側です。会社が手を付けるべきなのは、今ある法律の線を社内規程に落とし、国から協力を頼まれても答えられる状態にしておくことになります。
国が示す行動の目安は別の文書にまとまっており、中身はAI事業者ガイドラインで会社が守る7項目で読むことが出来ます。海外を含めた規制の全体像は生成AIの規制の全体像にまとめてあるので、あわせてご覧ください。
※条文と資料は、2026年11月3日時点でe-Gov法令検索と内閣府のページに掲載されている内容を確認したものです。
AI法(AI推進法)とは|正式名称・成立日・施行日と法律の性質
AI法は、国会で2025年5月28日に成立し、同年6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行された法律になります。法令番号は令和7年法律第53号で、e-Gov法令検索では略称が「AI法」と表示されています。報道や解説では、AI推進法と呼ばれることもあります。9月1日の全面施行で、人工知能戦略本部の設置にかかわる規定も動き始めました。
全部で28条、多くは国の仕事を決めた条文
条文は4つの章と附則で組み立てられていて、本則は全28条となります。第1章が総則(第1〜10条)、第2章が基本的施策(第11〜17条)、第3章が人工知能基本計画(第18条)、第4章が人工知能戦略本部(第19〜28条)という並びです。章の名前を見るだけでも、国がこれから何をするかを定めた法律だと分かるでしょう。
なぜ新しい法律が作られたのか
内閣府が公表しているAI法の概要の資料は、法律が必要な理由として、日本のAI開発・活用が遅れていることと、多くの国民がAIに不安を感じていることを挙げています。そのうえで「イノベーションを促進しつつ、リスクに対応するため、既存の刑法や個別の業法等に加え、新たな法律が必要」と説明する形です。同じ資料には、目指す姿として「最もAIを開発・活用しやすい国へ」という言葉も載っています。規制をかけるための法律というより、活用を後押しするための法律と読むのが自然でしょう。
対象になる技術の定義
第2条は、人間の認知・推論・判断にかかわる知的な能力を人工的な方法で代わりに実現する技術と、入力された情報をその技術で処理して結果を出す情報処理システムの技術を、人工知能関連技術と定めています。社内で使うChatGPTやClaude、Geminiのような生成AIのサービスも、文言からはこの定義に当てはまると読めます。
基本理念・AI基本計画・AI戦略本部|国の側で決まったこと
第3条の基本理念から第28条までの多くは、国がAIの活用を進めるための考え方と体制を決めた部分です。会社が直接何かをする条文ではありませんが、国から届く指針や依頼の出どころなので、名前だけは押さえておきましょう。
基本理念の第3条第4項:透明性の確保
基本理念の中で会社の実務に近いのは、第3条第4項になります。この項は、研究開発や活用が不正な目的や不適切な方法で行われた場合に「犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害その他の国民生活の平穏及び国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがある」と書いています。そのため、透明性の確保などの施策が講じられなければならない、という書き方が続きます。ここで挙がっている3つのおそれは、会社で生成AIを使うときの注意点とそのまま重なると言ってよいでしょう。
AI基本計画とAI戦略本部
第18条は、政府が人工知能基本計画を定め、閣議決定して公表することを定めています。初版は2025年12月23日に、第Ⅱ期は2026年7月14日に閣議決定されました。計画を動かすのは第19〜24条の人工知能戦略本部で、内閣に置かれ、本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官と人工知能戦略担当大臣、本部員はそれ以外の全ての国務大臣が務めます。本部の初会合は、2025年9月12日に開かれています。
第13条の指針(AI指針)
第13条は、国が国際的な規範の趣旨に即した指針を整えることを定めた条文です。この条文にもとづいて、2025年12月19日に人工知能戦略本部が「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(以下、AI指針)を決定しました。会社が読むべき中身は、後ろのガイドラインの節で取り上げます。
企業向けは第7条の活用事業者の責務|努めると協力の違い
AI法の中で会社を名指ししている条文は、第7条の活用事業者の責務になります。活用事業者とは、AIを使った製品やサービスの開発・提供をしようとする者のほか、「その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者」まで含む言葉です。開発をしない会社でも、業務でChatGPTなどを使うのであれば、この活用事業者に入ると読むのが素直でしょう。
第7条に書かれている2つのこと
第7条には、性質の違う2つの文が並んでいます。1つ目は、基本理念にのっとり、自ら積極的にAIを活用して事業活動の効率化・高度化や新しい産業の創出に「努める」という部分になります。2つ目は、国(第4条)と地方公共団体(第5条)が進める施策に「協力しなければならない」という部分です。同じ第7条でも、努めるは努力義務、協力しなければならないは義務の言い方になっています。活用しない会社が責められる書き方ではない一方で、協力のほうは一段強い言葉が選ばれたと受け止めておくのがよいでしょう。
第6条・第8条と並べると違いが分かる
ほかの主体の条文と並べると、この違いがはっきりします。研究開発機関の責務(第6条)と国民の責務(第8条)は、どちらも国の施策に協力するよう「努めるものとする」という書き方です。協力について「しなければならない」という言い方が使われているのは、主体の中では活用事業者だけになります。
協力しなければならない、の中身
とはいえ、e-Gov法令検索の現行の本文を確認した範囲では、協力しなかった場合の罰則や命令の規定は見当たりません。協力の形として条文から読み取れるのは、第16条と第25条第2項の2か所です。第16条は国が調査研究の結果をもとに活用事業者などへ指導・助言・情報の提供をすると定め、第25条第2項は人工知能戦略本部が、行政機関などに当たらない者にも特に必要があれば協力を「依頼することができる」と定めています。依頼が届いたときに慌てないよう、社内の窓口と回答する人を先に決めておきましょう。
条文ごとの判定|使うだけの会社に関係する条・しない条
生成AIを使うだけの会社から見ると、AI法の28条と附則のうち、実務にかかわるのは6か所ほどに絞られます。どの条が誰に向けたものかを、条文の主語と中身で分けてみました。判定の理由も添えているので、社内で説明するときの下書きに使ってみてください。
関係する:第7条(活用事業者の責務)
会社を主語にした条文で、活用に努める努力義務と、国や地方公共団体の施策に協力する義務の両方が書かれています。社内規程では、協力の窓口を決める条文に反映させるのがよいでしょう。
関係する:第3条第4項(透明性の確保)
主語は国の施策の側ですが、不正な使い方が個人情報の漏えいや著作権の侵害を招くおそれを、法律の言葉で明記しています。社内で入力してはならない情報や生成物の確認を決めるとき、拠りどころとして引きやすい項になります。
関係する:第13条(指針の整備)
国が指針を整える条文で、会社に義務を課すものではありません。ただ、この条文から生まれたAI指針は「事業者、国民等の全ての主体」に自主的な取組を促す文書なので、読んでおく価値はあります。
関係する:第16条(調査研究と指導・助言)
国が、不正な目的や不適切な方法による活用で権利利益の侵害が起きた事案を分析し、その結果をもとに活用事業者などへ指導・助言・情報の提供をする、という条文です。指導・助言を受ける側に回るのは、権利利益の侵害につながる使い方をした会社が中心になると読めます。
関係する:第25条第2項(協力の依頼)
人工知能戦略本部が、行政機関や独立行政法人などに当たらない者にも、協力を依頼できるとした項になります。会社に届く依頼の根拠になり得るので、第7条の協力とあわせて押さえておきましょう。
関係する:附則第2条(見直し)
政府が国際的な動向や社会経済情勢の変化を見ながら施行の状況を検討し、必要があると認めるときは所要の措置を講ずる、という見直しの規定です。今の条文で固まったわけではないことを示しているので、社内規程にも見直しの時期を書いておくと安心でしょう。
直接は関係しない:理念・ほかの主体・国の施策の条文
第1条(目的)・第2条(定義)・第3条第1〜3項(基本理念)は、法律全体の考え方を示す条文になります。第4条(国)・第5条(地方公共団体)・第6条(研究開発機関)・第8条(国民)は、それぞれ別の主体の責務を定めたものです。第9条は国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者の連携の強化を、第14条は活用事業者などと連携した人材の確保を扱っており、使うだけの会社に新しい手続きを求める書き方ではありません。第10条の法制上・財政上の措置、第2章の基本的施策のうち第13条・第16条以外、第18条の基本計画、第19〜28条の戦略本部の規定(第25条第2項を除く)は、国の仕事を決めた条文です。会社が読んでおくのは、ここまでに挙げた6か所で足りるでしょう。
罰則はあるのか|条文を確かめた範囲と第16条の指導・助言
e-Gov法令検索の現行の本文(本則第1〜28条と附則第1〜2条)を確認した範囲では、罰則の規定は見当たりません。「罰」の字を含む条文はなく、第7条の協力をしなかった場合の命令や公表の定めも置かれていない形です。罰金を前提に身構える必要は、AI法そのものについては薄いと考えてよいでしょう。気を配るべきなのは、次の節で取り上げる今ある法律のほうになります。
※罰則の有無は、2026年11月3日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行の本文(本則第1〜28条・附則第1〜2条)で確認した範囲の記載です。
第16条の指導・助言は、どんな会社に来るのか
罰則のない法律の中で、国が会社に働きかける手段として書かれているのが、第16条の指導・助言です。国は国内外の動向を集め、不正な使い方で国民の権利利益が侵害された事案を分析し、その結果をもとに研究開発機関や活用事業者などへ指導・助言・情報の提供をすると定めています。条文の流れからすると、指導・助言の出発点は侵害が起きた事案の分析で、普通に使っている会社に一律に届くものとは読みにくいでしょう。一方で、情報の提供は広く届く可能性があるので、国からの注意喚起には目を通す習慣をつけておきましょう。
附帯決議が示している配慮
参議院内閣委員会は、成立の前日にあたる2025年5月27日に、20項目の附帯決議を付けています。その十三は、活用事業者への調査・指導・助言などに当たって営業秘密などの知的財産の保護に配慮し、「過度に重い負担や情報開示を求めないよう留意すること」としました。三では、AIの利活用の留意点やリスクの回避策を事業者や国民に十分に周知し、リテラシー教育を進めることも挙げられています。十四は、指導・助言等に応じない活用事業者等への対応について、実効性ある措置の在り方を検討するよう政府に求める内容です。附帯決議は条文そのものではありませんが、国が会社に資料を求めるときの姿勢を読む手がかりになります。万一、指導・助言や資料の依頼が届いたときは、窓口の担当者が記録を残し、営業秘密にあたる部分は社内で確かめてから出す流れにしておくと安心です。
著作権・個人情報・機密情報など既存法のリスク|場面別の対応
生成AIを使う会社が法的な責任を問われるとしたら、その根拠になるのは個人情報保護法・著作権法・不正競争防止法や、取引先との契約です。内閣府の概要の資料も、既存の刑法や個別の業法等に加えて新たな法律が必要だった、という書き方をしています。AI法ができても、今ある法律の守備範囲が狭くなるわけではありません。場面ごとに、どの法律や資料を見ればよいかを並べると次のようになります。
| 社内で起きる場面 | 見る法律・資料 | 押さえる点 |
|---|---|---|
| 会議の録音や議事録をAIで要約する | 個人情報保護法 | 参加者の氏名や発言の中身は個人情報にあたり得る。入力データが学習に使われない設定かを確かめる |
| 顧客名や問い合わせの中身を入れて返信文を作る | 個人情報保護法、個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月) | 利用目的の範囲内か。本人の同意なく入力し、応答の出力以外の目的で扱われると違反の可能性がある |
| AIで作った画像や文章を広告・Webに載せる | 著作権法、文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日) | 既存の著作物との類似性と依拠性。生成が適法でも、利用まで直ちに適法とはならない |
| 取引先から預かった資料を入れて要約する | 秘密保持契約、AI事業者ガイドライン | 法令で定められていなくても、契約で利用が禁じられている場合がある |
| 自社の社外秘(設計・顧客リスト・価格表など)を入れる | 不正競争防止法(営業秘密) | 経済産業省の営業秘密の指針・ハンドブックにも、生成AIの利活用を想定した記載が加わっている |
| 採用や人事評価の参考にAIの出力を使う | AI事業者ガイドライン(AI利用者の項目) | 対象者にAIを使っている旨を伝え、人による合理的な判断のもとで説明責任を果たす |
顧客情報を入れるとき:個人情報保護法
個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、個人情報を含むプロンプトを入れるときは、その個人情報の利用目的を達成するのに必要な範囲かを十分に確かめるよう呼びかけました。本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入れ、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとも示しています。そのため、提供する事業者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう添えられている点は見逃せません。クラウドに保存する場合について、同委員会のQ&Aでは、外国の事業者のサーバーに保存する場合でも、契約上その事業者が保存データを取り扱わず、アクセス制御が整っていれば提供には当たらないと整理されています。その場合も、自社の安全管理措置は必要になります。生成AIのサービスがこの条件に当たるかは、各サービスの規約で確かめてみてください。
今ある法律の線を守るには、社員が使うAIを会社の管理下にまとめるのが近道です。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
生成物を公開するとき:著作権法
文化庁の考え方(2024年3月15日、文化審議会著作権分科会法制度小委員会)は、生成物に既存の著作物との類似性と依拠性が認められ、権利制限規定の対象外であれば著作権侵害になると整理しています。生成した時点で問題がなくても、SNSに載せるなど利用する段階まで直ちに適法になるわけではない点も押さえておきたいところです。この考え方は文書の中で、それ自体に法的な拘束力はないと断っています。それでも社内で判断に迷ったときの物差しとして、手元に置いておく価値は十分にあるでしょう。
社外秘や預かった資料を入れるとき:不正競争防止法と契約
社外秘の情報は、営業秘密として不正競争防止法で守られる対象になり得ます。経済産業省の営業秘密の指針やハンドブックにも、生成AIの利活用を想定した記載が加わっています。取引先から預かった資料は、AI事業者ガイドラインが脚注で触れているとおり、法令で定められていなくても契約で利用が禁じられている場合があります。秘密保持契約にAIへの入力を禁じる文言がないか、担当の方に一度確かめてもらいましょう。
AI事業者ガイドライン・AI指針との関係|法的拘束力のない自主的な取組
AI法が骨組みだとすると、会社が実際に何をするかの目安を示しているのが、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインと、第13条にもとづくAI指針になります。どちらも守らなければ罰せられる文書ではなく、自主的な取組を促すための文書です。
AI事業者ガイドライン:非拘束的なソフトロー
AI事業者ガイドラインは、細かな行為義務を決めるルールベースの規制ではイノベーションを妨げるおそれがあるとして、「非拘束的なソフトローによって目的達成に導くゴールベースの考え方」で作られています。AIを使うだけの会社は、事業活動でAIシステムやAIサービスを利用する事業者として、AI利用者という区分に入ります。会社の規模で対象から外す記載はないため、社員10名の会社でも読み手に含まれると考えてよいでしょう。AI利用者に向けた項目は、安全を考えた利用、入力やプロンプトのバイアスへの配慮、個人情報の入力によるプライバシー侵害への対策、セキュリティ対策、関係者への情報提供と説明、提供された文書の活用と規約の遵守です。7項目それぞれの中身は、冒頭で案内した記事で1つずつ読むことが出来ます。
AI指針:開発・提供をする会社向けの書き方が中心
AI指針は「各主体の規模や立場、AIがもたらすリスクに応じて」取り組むよう書かれており、全員に同じ水準を求める文書ではありません。指針の「2 研究開発機関及び活用事業者が特に取り組むべき事項」は、主語が「AIを活用した製品、サービスの開発、提供をする活用事業者」となっている点に注意が要ります。ガバナンスの構築、透明性、安全性、事業継続、データ保有者への配慮という5つの項目は、AIを使った製品を作って提供する会社に向けた書き方です。社内で使うだけの会社が、この5項目をそのまま義務として負うとは読めません。使うだけの会社に近いのは、考慮すべき要素と国民向けの事項のほうになります。
考慮すべき要素のうち人間中心の項目には、AIを活用する範囲や条件は人間自らが最終的に判断すること、プライバシーの項目には個人情報保護法などの関連法令を守ることが挙がっています。国民向けの事項に並ぶのは、法令を守ること、出力の出所や正確さを理解して人間の判断と責任のもとで意思決定すること、生成物を社会的・法的に問題のない形で使うことの3つです。指針の脚注には、ゼロから仕組みを作るより、今あるITシステムのガバナンスの手順を活かすことも有用だと書かれています。情報セキュリティの規程がすでにある会社なら、そこにAIの条文を足す形から始めてみてください。
EU AI法など海外の規制との違い|日本は活用を進める基本法
海外にもAIのルールはありますが、国ごとに形がまちまちで、日本のAI法と同じ物差しでは比べにくいところがあります。EUにも日本語でAI法と呼ばれる法律がありますが、名前が同じでも日本のAI法とは別の法律です。米国では、2026年9月29日に大統領と主要なAI企業がAIの安全確保で合意したと報じられ、日本経済新聞は外部検証などを約束したものの法的義務は負わないと伝えています。中国は、生成AIサービス管理暫定弁法を2023年8月15日に、AI生成合成コンテンツの表示弁法を2025年9月1日に施行しました。
EU AI法の対象や時期を含めた海外の動きは、生成AIの規制の全体像で国ごとに追うことが出来ます。海外に拠点や取引先がある会社は、その国のルールを別に確かめる場面が出てくるでしょう。
社内ガイドライン・ガバナンス体制の整備|そのまま貼れる規程の文案
AI法に罰則がないからといって、社内のルールが要らなくなるわけではありません。今ある法律の線を社内に落とし、国からの協力の依頼にも答えられるようにするのが、社内規程の役目になります。次の文案は、AI法・AI事業者ガイドライン・個人情報保護委員会の注意喚起・文化庁の考え方に出てくる考え方をもとに組んだものです。会社名や部署名を自社のものに置き換え、就業規則や情報セキュリティ規程の別表として使ってみてください。
生成AI利用規程(文案) 第1条(目的) この規程は、社員が業務で生成AIを使うときの決まりを定め、個人情報・著作権・営業秘密などの権利を守りながら業務に活かすことを目的とする。 第2条(使ってよいサービス) 1 業務で使ってよい生成AIは、会社が契約し、管理部門(情報システム担当または総務部。以下同じ)が認めたサービスに限る。 2 個人で契約したアカウントや無料版のサービスに、業務の情報を入力してはならない。 3 管理部門は、使ってよいサービスと、入力データが学習に使われない設定になっていることを確かめ、一覧にして社内に示す。 第3条(入力してはならない情報) 次の情報は、会社が認めたサービスであっても、管理部門の許可なく入力してはならない。 (1)顧客・取引先・社員の個人情報のうち、利用目的の範囲を超えて使うことになるもの (2)秘密保持契約で、第三者への開示や目的外の利用が禁じられている情報 (3)会社が社外秘と定めた情報のうち、管理部門が別に定めるもの (4)他人の著作物を、それに似たものを作らせる目的で入力すること 第4条(出力の確認) 1 生成AIの出力は、担当者が根拠と正確さを確かめてから使う。業務上の判断は、AIではなく担当者と上長が下す。 2 生成物を社外に公開する前に、既存の著作物と似ていないかを検索などで確かめる。 3 AIの出力を人の採用や評価の参考にするときは、AIを使っている旨を対象者に伝え、最終の判断と説明は人が担う。 第5条(利用記録) 管理部門は、誰が・いつ・どのサービスを使ったかの記録を残し、社内で定めた期間保存する。 第6条(国・地方公共団体などからの依頼への対応) 1 国や地方公共団体から、AIの活用について調査への回答や資料の提出などの協力を求められたときの窓口は、管理部門とする。 2 回答の内容は管理部門の責任者が確認し、営業秘密にあたる情報は社内で扱いを決めてから出す。 3 依頼の内容と回答は記録に残す。 第7条(事故の報告) 個人情報や社外秘を誤って入力したとき、または生成物が他人の権利を侵害しているおそれに気づいたときは、すぐに管理部門へ報告する。 第8条(見直し) 管理部門は、AI法の見直し、AI指針・AI事業者ガイドラインの改訂、契約しているサービスの規約の変更があったときに、この規程を見直す。少なくとも年に1回は内容を点検する。 附則 この規程は、○年○月○日から施行する。 (規程を決める者:○○/利用記録と設定を見る者:○○/国・取引先からの問い合わせの窓口:○○)
条文ごとの拠りどころ
第2条と第3条は、個人情報保護委員会の注意喚起と、AI事業者ガイドラインがAI利用者に挙げる個人情報やセキュリティの項目に対応しています。第4条第1項はAI指針の人間中心の考え方、第2項は文化庁の考え方の類似性と依拠性、第3項はAI事業者ガイドラインのAI利用者向けの項目にもとづく条文です。第5条の保存期間は、AI事業者ガイドラインがログの記録と保存を挙げつつ年数までは指定していないため、社内で決める形にしました。第6条はAI法第7条の協力と第25条第2項の依頼を受けるための条文で、附帯決議の十三が営業秘密への配慮を求めている点も、第2項の書き方に反映させています。附帯決議の十一は、業務の効率化が安易な人員削減につながらないよう留意することも挙げているので、AIの導入で仕事の割り振りを変えるときは、社員への説明も一緒に考えておきたいところになります。
体制は、決める人・見る人・答える人の3役から
社員10〜200名の会社なら、AI専用の委員会を新しく立ち上げなくても回せるでしょう。規程を決める経営層、利用記録と設定を見る管理部門、国や取引先からの問い合わせに答える窓口の3役を、今いる方に割り当てる形が現実的です。AI事業者ガイドラインも、経営層の責任と、AIガバナンスの構築を単なるコストではなく先行投資と捉えることを挙げています。まずは3役の名前を、規程の附則に書き込んでみましょう。
会社で安全に使うには|学習させない設定・利用ログ・配布・使い分け
規程を作っても、社員が使う環境がばらばらでは、書いたことが守られているかを会社が確かめられません。国の依頼に答えるにも、誰が何を使ったかを会社が説明できる状態が近道になります。実際に整えておきたいのは、次の4点です。
- 入力データが学習に使われない設定を、会社側で全員に一律にかける個人情報保護委員会の注意喚起は、提供する事業者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています。社員ごとの設定に任せると漏れが出やすくなります。
- 利用ログを会社側で取れるようにするAI事業者ガイドラインは、利用時の入出力などのログを合理的な範囲で記録・保存することを挙げています。規程の第5条を実際に回すための土台になります。
- 公認の環境を、使いたい社員全員に配る一部の人にしか配らないと、配られなかった人が個人のアカウントで使い始め、会社から見えない利用が生まれます。
- 用途に合わせて複数のAIを使い分ける調べものはWeb検索に強いもの、長い資料は長文に強いもの、と用途で分けると、出力を突き合わせて確かめる手間も減らせます。
社員が会社の外で勝手に使う野良AI(シャドーAI)を減らすには、禁止するより、同じ使い方ができる環境を会社の管理下で用意するほうが効き目があります。点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストに、規程づくりの手順は生成AIの社内ガイドラインの作り方にまとめています。4つのAIの得意分野の違いは、主要4AIの違いと使い分けで比べることが出来ます。
動向を追う一次ページ一覧|更新があったら規程のどこを見るか
AI法には見直しの規定があり、AI事業者ガイドラインも適宜更新される文書と位置付けられているので、年に数回は一次の情報を見に行く習慣を作りましょう。2026年11月3日時点で内閣府のAI戦略のページに並んでいる最近の動きは、7月10日の第5回人工知能戦略本部、7月14日の人工知能基本計画(第Ⅱ期)の閣議決定、9月18日のAI関連予算の公表、10月26日の第7回人工知能戦略専門調査会となります。e-Gov法令検索には、同じ日の時点で施行待ちの改正は登録されていません。
- 内閣府 AI戦略のトップページ(会議の開催や計画の決定など最近の動き)
- 内閣府 AI法のページ(概要の資料・附帯決議など)
- e-Gov法令検索 AI法の条文(現行の本文と改正の登録)
- 内閣府 人工知能基本計画(閣議決定された計画)
- 内閣府 AI指針の掲載ページ(第13条にもとづく指針の本文と概要)
- 経済産業省 AI事業者ガイドライン本編(PDF)
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用についての注意喚起(2023年6月)
各府省庁のガイドライン一覧から、会社が読む候補
内閣府は、各府省庁などが出しているAIのガイドラインを一覧にしていて、2026年11月3日時点で17件が並んでいます。社内で使うだけの会社が先に読む候補を挙げると、次のようになります。
- AI事業者ガイドライン(総務省・経済産業省、令和8年3月)
- 生成AIはじめの一歩(総務省、令和6年4月)
- AIの利用・開発に関する契約チェックリスト(経済産業省、令和7年2月。AIの実務になじみのない事業者も使いやすい形式とされています)
- コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック(経済産業省、令和6年7月)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(個人情報保護委員会、令和5年6月)
- AIと著作権に関する考え方について(文化庁、令和6年3月)
更新があったら、規程のどこを見直すか
- AI法の条文が変わった(e-Gov法令検索)規程の第6条(国・地方公共団体などからの依頼への対応)の窓口と手順を見直します。
- AI指針やAI事業者ガイドラインが改訂された第3条(入力してはならない情報)と第4条(出力の確認)が、新しい項目と合っているかを確かめます。
- 個人情報保護委員会や文化庁から新しい注意喚起・考え方が出た第3条の(1)と第4条第2項を中心に、書き方を合わせます。
- 契約しているAIサービスの規約や設定が変わった第2条第3項の、入力データが学習に使われない設定の確認をやり直します。
- 新しいAIサービスを社内に入れる第2条の一覧と、第5条の利用記録の取り方に加えます。
見直した日と中身を規程の末尾に書き足していけば、次に誰が担当になっても、経緯をたどることが出来ます。
社員が使うAIを、会社の管理下で1つに
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使い分けられる法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、会話の途中でもモデルを切り替えられます。基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
日本にAIを規制する法律はありますか?
AIに関する法律に罰則はありますか?
生成AIを使うだけの会社もAI法の対象ですか?
AI法は中小企業にも関係しますか?
AI事業者ガイドラインを守らないと法律違反になりますか?
国から調査や協力の依頼が来たら、どう対応すればよいですか?
まとめ
AI法は、AIの研究開発と活用を国が進めるための基本法で、会社に向けた条文は第7条の活用事業者の責務が中心になります。活用に努めることは努力義務、国や地方公共団体の施策への協力は義務の言い方で書かれていますが、現行の条文を確認した範囲では罰則の規定は見当たりません。会社が責任を問われるとしたら、その根拠は個人情報保護法・著作権法・不正競争防止法や、取引先との契約の側です。まずは公認の環境を決め、入力してはならない情報・出力の確認・利用記録・国からの依頼の窓口を社内規程に書き込むところから始めてみてください。法人のAI活用のほかの記事は、AI活用コラム一覧にまとめています。
