
AI訴訟とは、AIの学習や回答、AIが作った文章・画像・声などをめぐって、権利者や利用者、行政機関などが裁判所などに訴えを起こした事案のことです。使う側の会社に直接かかってくるのは主に、AIの出力を社外に出す場面と、AIの誤りを確かめずに使う場面で、社内で決めておくことは数点に絞れます。ニュースで見る大きな訴訟の多くはAIを作る・提供する会社が訴えられたもので、そのまま自社に降りかかるわけではありません。著作権侵害が成り立つ要件そのものは生成AIの著作権侵害リスクの全体像にまとめてありますので、あわせてご覧ください。
※訴訟・判決・和解の情報は、2026年11月3日時点で報道・判決文・法律事務所の解説を確認したものです。係属中の訴訟は、今後の判断で状況が変わります。訴訟の4つの型の分け方と、この記事の判断表・チェック表・確認手順は、使う側の会社が判断しやすいようにした編集上の整理で、裁判所や官公庁の分類ではありません。
AI訴訟の4つの型と、使う側の会社に及ぶこと
AIをめぐる訴訟は、誰が何を理由に訴えているかで4つの型に分けると、自社に関係するものとしないものを見分けやすくなります。
1つ目は、AIを作る・提供する会社が、学習に使ったデータや回答の中身で訴えられる型です。2つ目は、AIで作った画像や文章が他人の権利と重なり、作った人や載せた会社が問われる型になります。3つ目は実在する人の声や顔をAIでまねた事案で、4つ目は、AIが出した誤りをそのまま書面や案内に使った側が責任を問われる型を指します。
使う側の会社から見ると、1つ目は提供元の問題で、2つ目から4つ目は自社の作業の中で起きうる問題という違いがあります。使う側の会社が備えておくのは、主に2つ目から4つ目の型です。下の表で、型ごとに誰が訴えられたか、使う側に何が及ぶか、社内で何をするかを並べました。
| 型 | 主な事案(誰が訴えられたか) | 使う側の会社に及ぶこと | 社内でやること |
|---|---|---|---|
| ①提供元が学習・回答で訴えられる型 | NYT対OpenAI・Microsoft/Bartz対Anthropic(和解)/Thomson Reuters対Ross Intelligence/Getty Images対Stability AI(英国)/Disney・Universal対Midjourney/読売・朝日・日経対Perplexity。訴えられたのはAIを作る・提供する会社 | 使う側の会社が被告になった事案ではない。ただ、AIの回答が出典を示しながら元の記事と違う中身を出すことがある(新聞社側の主張) | 業務で使うAIを会社の契約のものに決める。AIが示した出典を開いて中身を確かめる。契約の補償条項を読む |
| ②出力が他人の権利に触れる型 | 生成AI画像を無断で複製し電子書籍の表紙に使った疑いでの書類送検(千葉県警)/AI生成のヘアモデル画像を無断掲載されたとする画像制作会社の提訴(大阪) | 作ったもの・載せたものが他人の権利に触れると、使った人や会社が問われうる。業務での違反には法人への罰金刑の規定もある | 社外に出す前に、似ている既存の作品や他社の画像が入っていないかを見る。何で作ったかの記録を残す |
| ③声・肖像の無断模倣の型 | 津田健次郎さんがTikTokの運営会社に動画の削除を求めた訴訟(請求は棄却。声もパブリシティ権の保護の対象との判断が示されたと報道) | 実在の人に似せた声や顔を広告・動画に使うと、権利の侵害を問われうる | 実在の人の声・顔・名前をまねる指示を禁止する。素材の出どころを確かめる |
| ④AIの誤りを使った責任の型 | Mata対Avianca(存在しない判例を引用した書面で弁護士に制裁金)/Moffatt対Air Canada(チャットボットの誤った案内で会社に支払いを命令) | AIの誤りでも、外に出した人・会社の責任として扱われた例がある | 判例・数字・規程をAIの答えのまま出さない。原典で確かめる確認者を決める |
※型の分け方と表の中身は、この記事の編集上の整理です。裁判所や官公庁の分類ではありません。和解は侵害があったかどうかの判断ではなく、訴えの金額は訴えた側が求めている額です。
個別の事件をもっと広く見たい方は、生成AIをめぐる事件・トラブルの一覧もあわせて読むことが出来ます。
型①:提供元が学習・回答で訴えられる訴訟
AI訴訟として大きく報じられるものの多くは、この型にあたります。訴えているのは新聞社・作家・写真の配信会社・映画会社などで、訴えられているのはAIを作る・提供する会社となります。
米国・英国の生成AI著作権訴訟:NYT・画像の訴え
米国のニューヨーク・タイムズ(NYT)は2023年12月27日、OpenAIとMicrosoftを著作権侵害で提訴しました。2025年以降はOpenAIをめぐる複数の著作権訴訟とまとめて審理されており、確認日時点でも係属中と報じられており、判決は出ていません。
画像の分野では、2025年6月11日にDisneyとUniversalが画像生成AIのMidjourneyを提訴しました。英国では写真配信のGetty ImagesがStability AIを訴え、英国高等法院が2025年11月4日に判決を出しています。解説によると、AIモデルそのものが侵害コピーにあたるというGetty側の主張は退けられ、商標については、Gettyの透かしに似たものが出た一部の出力で主張が認められました。控訴の手続きがあると報じられていて、英国の判断である点も含め、日本の裁判所を拘束するものではありません。
本と音楽の分野:Anthropicの和解と楽曲の権利者による提訴
作家たちがAnthropicを訴えたBartz v. Anthropic(米カリフォルニア北部地区連邦地裁)は、途中の判断と和解の両方で注目を集めました。2025年6月23日の略式判決は、本を学習に使うことはフェアユース(米国の著作権法で、一定の条件のもとで許諾のない利用を認める考え方)にあたり、購入した紙の本をスキャンすることもフェアユースとした一方、海賊版サイトから入手して保存した行為はフェアユースにならないと判断しています。
その後、両者は15億ドルで和解し、2025年9月25日に仮承認、2026年7月20日に最終承認されたと法律事務所のPearl Cohenが報告しました。対象は約48万作品で、1作品あたりは約3,000ドルの計算になります。これは和解であって、学習への利用が適法かどうかを確定させた判断ではありません。争点の中心は、海賊版の入手と保存にあったと読むことが出来ます。
音楽の分野でも、2026年10月に音楽著作権管理会社が音楽生成AIのSunoとAnthropicを米国で訴え、あわせて3億3,800万ドルの損害賠償を求めていると報じられています(主張の段階で、判断は出ていません)。分野は違っても、訴えられているのが提供元という構図は本の訴訟と同じになります。
フェアユースの判断は分かれ、結論は出そろっていません
AI企業の多くは、米国の訴訟で学習への利用はフェアユースにあたると主張しています。ただ、裁判所の判断は事案ごとに分かれていて、結論は出そろっていない状況となります。
Bartz v. Anthropicでは本の学習への利用がフェアユースとされた一方、Thomson Reuters v. Ross Intelligence(米デラウェア連邦地裁・2025年2月11日)では、法律データベースWestlawの要約(ヘッドノート)を、競合する法律検索ツールの開発に使った行為についてフェアユースが否定されました。この事案は生成AIではないAIをめぐるもので、判決もその点を明記しています。第3巡回区控訴裁判所は2026年9月に地裁の判断を支持したとロイターが報じました。その後公開された判決文は、RossのAIは生成AIではないと述べ、生成AIの学習をめぐる事案とは区別していると解説されています。
同じフェアユースという物差しでも、何を、どう入手して、何に使ったかで結論が変わりうると見ておくのがよいでしょう。米国や英国の判決は日本の裁判所を拘束せず、そのまま自社の判断材料にはなりません。日本の会社がこうした判決を読むときは、考え方の参考として扱うのが無理のない読み方です。
日本でも新聞社がPerplexityを提訴しています
日本では、読売新聞の東京本社・大阪本社・西部本社が、AI検索のPerplexity(パープレキシティ)を東京地裁に提訴したと2025年8月7日に発表しました。著作権法上の複製権と公衆送信権の侵害を訴え、記事の無断使用の中止と、約21億6,800万円の損害賠償を求めていると報じられています。
同じ月の26日には、朝日新聞社と日本経済新聞社が、著作権侵害と不正競争行為を理由にPerplexityを共同で提訴しました。記事の複製と送信の差し止め、保存した記事の削除、虚偽情報の送信停止とあわせて、各社22億円の損害賠償を求めています。2社は、回答の引用元に社名や記事を表示しながら、実際とは異なる中身を示していた点も問題にし、新聞社としての信用を傷つけたという主張になります。
朝日・日経の訴訟は2026年5月14日に第1回口頭弁論が開かれ、Perplexity側は請求の棄却を求めたと報じられました。確認日時点で、判決の報道は見当たりません。
型①で使う側の会社に及ぶこと
この型で被告になっているのは提供元で、使う側の会社は当事者に入っていない形です。それでも、使う側が学べることがあります。
1つは、新聞社側が主張しているように、AIの回答は出典を示しながら、元の記事と違う中身を出すことがある点です。出典が付いているから正しいとは限らず、リンクの先を開いて読むまでは確かめたことにならないと考えておく必要が出てきます。もう1つは、提供元が訴えられたときの備えとして、法人向けの契約に補償条項を置くサービスがあり、その対象に入るかどうかは自社の契約の種類で変わる点になります。
AIが示した出典は、リンクを開いて中身を確かめてから使うようにしてみてください。補償条項の読み方は、後の節で確認点を並べています。
型②:AIで作ったものが他人の権利に触れる事案
使う側の会社にとって身近なのは、この型と、後で触れる型④になります。AIで作った画像や文章を社外に出し、それが他人の作品と重なっていた場合、問われるのは作った人や載せた会社となってしまいます。
国内の書類送検と、AI生成画像の無断掲載をめぐる提訴
千葉県警は2025年11月20日、生成AIで作られた画像を無断で複製し、電子書籍の表紙に使った疑いで、男性を著作権法違反の容疑で書類送検しました。生成AIに具体的な指示や入力を繰り返して制作されたことなどから、警察は画像を著作物と判断したと日本経済新聞が報じています。書類送検は、起訴や有罪とは別の段階になります。
2026年9月には、大阪市の画像制作会社が、AIで生成したヘアモデルの画像240点以上を美容サロンに無断で掲載されたとして、約2,600万円の損害賠償を求めて提訴したとMBSが報じました。争点は、AIで作った画像が著作物にあたるかどうかになります。
2つの事案はどちらも、AIで作られた画像であっても、他人のものを勝手に使えば権利を問われうることを示しています。逆の立場で、自社がAIで作った画像を他社に使われる場面も考えられるでしょう。
会社として問われうること
著作権法第124条には、社員などが業務に関して著作権を侵害する罪(第119条第1項など)を犯したとき、法人にも3億円以下の罰金刑を科す規定があります。侵害が成り立つ条件は、冒頭で紹介した生成AIの著作権の記事で確かめることが出来ます。
現場で起きやすいのは、AIで作った画像や文章を、似ている既存の作品があるかを見ないまま、広告やWebサイト、提案書に載せてしまう場面でしょう。作った本人に悪気がなくても、外に出したのが会社であれば、問い合わせや削除の求めを受けるのは会社になります。
何で作ったかを、会社が後から説明できない問題
もう1つ見落とされやすいのが、作った経緯の記録です。社員が個人の無料版や個人プランをばらばらに使っていると、どのAIに何を入れて、どんな指示で作ったのかを、会社が後から確かめられません。権利者から問い合わせを受けたときや訴えを起こされたときに、手元に記録がないという状態になってしまいます。何で作ったかの記録がないと、問い合わせを受けても会社として説明できません。
個人のアカウントで業務に使われるAIはシャドーAI(野良AI)と呼ばれ、この記録の問題がついて回ります。まずは、社内で今どのAIが使われているかを確かめるところから始めてみましょう。
社員ごとの個人アカウントをやめ、使うAIを会社の契約1つにまとめる方法があります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
型③:声・肖像をAIで無断にまねる事案
実在する人の声や顔をAIでまねた素材は、作るのが簡単になった分、権利の問題に結びつきやすくなります。
声優の津田健次郎さんは、生成AIで自分の声を無断で模倣したナレーション動画を投稿されたとして、動画投稿アプリTikTokの運営会社に動画の削除を求めて東京地裁に訴えました。2026年9月30日の判決は、動画のデータがすでに削除されているとして請求を退けました。ただ、声もパブリシティ権の保護の対象になるとの判断が示されたと報じられています。パブリシティ権は、有名人の名前や姿などが持つ、人を引き寄せる力を守る権利のことです。
判決によると、声が商品の販売などを促進する顧客吸引力を持つ場合に、専らその力を利用する目的で無断で使われれば、パブリシティ権の侵害にあたるとの一般論が示されました。これは一審の判決で、問題の動画そのものが侵害にあたるかどうかは判断されていません。
使う側の会社にとっては、広告や社内外の動画に、実在の人に似せたAI音声や顔を使うことが、権利の問題になりうると読むことが出来ます。有名人の声に寄せたナレーションや、実在の人物に似た画像を作る指示は、社内で禁止しておきましょう。外部の制作会社に動画を頼むときも、AIの音声や画像を使うかどうか、使うならどこから来た素材かを、発注の段階で確かめておくと安心です。
型④:AIの誤りを使った書面・案内の責任
この型は、訴えられたのがAIの提供元ではなく、AIの出力を使った弁護士や会社という点で、使う側に直接かかってくる型になります。
存在しない判例を書面に使った弁護士への制裁(Mata v. Avianca)
米ニューヨーク南部地区連邦地裁は2023年6月22日、ChatGPTが作った存在しない判例を引用した書面を提出し、存在を問われた後もその書面を維持した弁護士2人と事務所に、連帯で5,000ドルの制裁金を命じました。命令は、提出する書面の正確さを確かめる門番の役割(原文は gatekeeping role)が弁護士にあると述べています。AIを使ったこと自体ではなく、確かめずに出したことが問われた形となります。
チャットボットの誤った案内で会社が支払いを命じられた例(Air Canada)
カナダBC州の民事紛争の審判所(Civil Resolution Tribunal)は2024年2月14日、航空会社のAir Canadaに支払いを命じました。同社サイトのチャットボットは、忌引きの運賃は搭乗後90日以内に申請すれば適用されると案内していましたが、実際の規程は搭乗後の申請を認めていませんでした。審判所は、サイト上の情報はすべて会社の責任で、固定のページからでもチャットボットからでも違いはないと述べています。命令の額は、損害650.88ドル・利息36.14ドル・手数料125ドルの合計812.02ドルです。
金額は小さくても、AIの案内を会社の案内として扱った判断として、社外向けのチャットボットを置く会社には見過ごせない例になります。AIの誤りでも、外に出した側の責任として扱われた例がすでにあります。
米国で増える本人訴訟と、AIで書かれた書面
弁護士をつけずに本人が起こす訴訟(本人訴訟)でも、AIで書いた書面が増えていると報じられています。MIT Technology Review(2026年6月4日)によると、米連邦裁判所の訴訟のうち本人の申立ての割合は、2022年の11%から2025年に16.8%へ増えました。研究者のAnand Shah氏とJoshua Levy氏が、抽出した1,600件の書面をAI文章の検知ツールで調べたところ、AIの文章を含むと判定された割合は2023年の1%から2026年に18%へ上がったといいます。
本人訴訟が増えた原因がAIだと言い切れるデータではありません。それでも、法律の専門家でない人がAIの文章で書面を作る場面が広がっていることは読み取れます。
日本国内では、生成AIが作った存在しない判例や条文を書面に使って問題になった事案は、確認日時点の大手報道や公的資料では確認できていません。国内で起きていないという意味ではないので、社外に出す書面の扱いは同じように考えておくのがよいでしょう。AIが誤る仕組みと事例は、生成AIの誤情報の事例と対策で詳しく見ることが出来ます。
会社の中で置きかえると、契約書のひな形、顧客への回答文、社内規程の説明、補助金や税の案内など、根拠を示して外に出す文書が同じ型にあたります。AIの答えに判例名や条文番号、数字が入っていたら、それをそのまま写さず、原典を開いて確かめる手順を決めておきたいところです。
著作権以外の訴え:安全性・消費者保護をめぐる米8州の提訴
AI訴訟には、著作権とは別に、利用者の安全や消費者保護を理由にしたものもあります。2026年10月、米国の8つの州の司法長官が、ChatGPTが若い利用者に害を与え、安全性について消費者を誤認させたなどとして、OpenAIを州の裁判所に訴えたとロイターが報じました。主張はまだ裁判で立証されたものではありません。社員や顧客がAIを使う場面の安全面も、提供元を選ぶときの見方の1つになるでしょう。
日本の裁判例と外国の判断は、効力が違います
ここまでの事案のうち、日本の会社が自社の判断の手がかりに直接できるのは、日本の裁判所の判決になります。米国・英国・カナダの判断はその国の法律に基づくもので、日本の裁判所を拘束しません。
日本の判断としては、ほかに知財高裁の2025年1月30日の判決(DABUS事件)があります。この判決は、特許法上の発明者は自然人に限られるとして、AIを発明者として書いた出願を却下した処分を適法とし、AIの発明者性は立法で議論すべきと述べたと報じられています。社員がAIを使って発明した場合の扱いを決めたものではなく、AIを発明者と書いた出願についての判断となります。
ここまでの事案を、日本の会社から見た効力で、次のように並べ直すことが出来ます。
- 日本の判決(津田健次郎さんの訴訟・DABUS事件)は、日本の法律の解釈として参考になります。津田さんの訴訟は一審で、上級審で変わることもあります。
- 日本の書類送検や提訴(千葉県警の事案・大阪の画像制作会社・新聞社とPerplexity)は、捜査や訴えの段階で、裁判所の判断ではありません。金額は訴えた側が求めている額になります。
- 外国の判決や命令(Ross・Getty・Mata・Air Canada)は、日本の裁判所を拘束しません。考え方の参考として読むものになります。
- 外国の和解(Bartz v. Anthropic)は、当事者どうしの合意で、侵害があったかどうかの判断ではありません。
ニュースで大きな金額を見かけても、それが判決で認められた額なのか、求めている額なのか、和解の額なのかで意味が変わってきます。社内で共有するときも、どの段階の話かを添えてみてください。
社内で決めておくことのチェック表
使う側の会社が社内で決めておくことは、4つの型から逆算すると、次の8点にまとまります。ルール文書の形にまとめる手順は生成AIの社内ガイドラインの作り方で、技術面の点検項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストで確かめることが出来ます。
- 業務で使ってよいAIを、会社の契約のものに限っているか(型①②④)個人の無料版や個人プランは、補償や記録の面で会社の契約と条件が違うことがあります。業務で使うAIを名前で決めて、社員に伝えます。
- AIに入れてはいけない情報を決めているか(型①②)顧客の個人情報、取引先から預かった資料、他社の著作物の全文など、入れない情報を具体例で示します。補償の除外条件に、入力した素材が原因の場合が入っている契約もあります。
- 社外に出す前の確認者を決めているか(型②④)広告・Webサイト・提案書・契約書・顧客への回答など、外に出るものはAIの出力のまま出さず、確かめる人を決めます。
- AIが示した出典・判例・数字を、原典で開く手順があるか(型①④)出典のリンクを開き、書いてある中身と一致するかを見ます。判例・条文・規程は、AIの答えではなく原文で確かめます。
- 実在の人の声・顔・名前や、他社の作品・ロゴをまねる指示を禁止しているか(型②③)特定の人物や作品に似せる指示を出さないことを、例を挙げて決めます。外部に制作を頼むときの確認にも使えます。
- 何で作ったかの記録を残しているか(型②)社外に出したものについて、どのAIで、どんな指示で作り、誰が確かめたかを残します。
- 社外向けのチャットボットの答えを点検する担当を置いているか(型④)顧客への案内にAIを使うなら、規程と食い違う答えが出ていないかを決まった間隔で見る担当を置きます。
- 契約の補償条項と、必須の設定を確かめているか(型①②)法人向けの条項か、除外条件は何か、外してはいけないフィルターや設定は何かを、契約の原文で確かめます。
※チェック表は、この記事の編集上の整理です。法令や官公庁の指針で定められた項目ではありません。
8点を全部いきなり文書にする必要はありません。まずは1つ目の使ってよいAIの範囲、3つ目の確認者、4つ目の出典を開く手順の3点を決め、社員に伝えるところから始めてみましょう。そのうえで、残りの項目を少しずつ足していく進め方でも十分に間に合います。
AIの出力を社外に出す前の確認手順
AIの出力を社外に出す前の確認は、次の5つの段階で進めると漏れが出にくくなります。
- 出典を開く:AIが示した出典のリンクを開き、書いてある中身がAIの答えと一致しているかを見ます。リンクが開けないときや、記事が見つからないときは、その情報を使わないようにしてください。
- 判例・条文・数字を原典で確かめる:判例は裁判所の判決文、条文はe-Govの法令検索、統計は発表元の資料で、AIが示した番号・日付・数字を1つずつ照らし合わせます。存在しない判例が書面に入った例は、型④で見たとおりです。
- 似ている既存の作品がないかを見る:画像は画像検索で似たものがないかを確かめ、文章は特徴のある言い回しで検索して、既存の記事や作品と重なっていないかを見ます。
- 人の声・顔、他社の名前やロゴが入っていないかを見る:実在の人物に似た声や顔、他社の商標や透かしのような模様が出ていないかを確かめます。Gettyの英国の訴訟では、透かしに似たものが出た出力で商標についての主張が認められています。
- 確かめた人と内容を記録する:使ったAI、指示の要点、確かめた人、確かめた日を残し、問い合わせを受けたときに説明できるようにします。
迷う内容が出てきたときは、別のAIにも同じ質問をして、答えが食い違う箇所を人が確かめる使い方も出来ます。複数のAIを使い分ける考え方は複数の生成AIを1つの環境で使うマルチAIで紹介しています。
確認の担当者は、社外に出す文書の種類ごとに決めておくと迷いが減ります。AIが示した出典は、開いて中身を読むまでは出典として扱わないようにしましょう。手順を紙1枚にまとめ、確認した日と名前を書く欄を付けておくと、記録もそのまま残ります。
※確認手順は、この記事の編集上の整理です。この手順を踏めば権利の侵害にならない、という意味ではありません。
提供元の補償条項で確かめる点
提供元が訴えられたときの備えとして、法人向けの契約に著作権の補償条項を置くAIサービスがあります。補償は、利用者が第三者から訴えられたときに、提供元が防御や賠償の負担を引き受ける約束のことで、侵害にならないことを保証するものではありません。条項はどれも提供元が契約で示している約束で、第三者が検証したものではない点にも気をつけておく必要があります。
AnthropicのCommercial Terms(商用規約)
AnthropicのCommercial Termsには、顧客とその関係者を、顧客への請求(Customer Claim)から防御し、判決などについて補償すると書かれています。原文は「Anthropic will defend Customer and its personnel, successors, and assigns」で始まります。除外の例としては、(c)顧客が提供した入力やデータ、(d)他人の権利を侵害すると顧客が知っている、または合理的に知るべき使い方、(e)出力に含まれる特許発明の実施が挙がっています。
同じ規約には、このサービスは消費者向けではなく、Claude.aiなどの消費者向けの提供は別の消費者向け利用規約で扱うとあります。社員が個人で契約したプランは、この条項の外になることがあると見ておきましょう。
MicrosoftのCustomer Copyright Commitment
Microsoftは2023年9月7日、商用のCopilotサービスの有料版を対象に、著作権の補償の約束(Customer Copyright Commitment)を発表しました。発表の原文は「as long as the customer used the guardrails and content filters we have built into our products」として、製品に組み込まれたガードレールとコンテンツフィルターを顧客が使っていることを条件にしています。2026年7月13日に更新されたMicrosoft Learnの説明では、この約束はMicrosoft Product Termsの条項の1つとされ、Azure OpenAIではメタプロンプトなどの必須の緩和策を実施していることが条件です。フィルターを外したり、必須の設定を省いたりすると、補償の対象から外れうるという読み方になります。
ほかの提供元と、確かめる3つの点
ほかの提供元にも法人向けの補償を掲げるところがありますが、条件は各社の契約書の原文で確かめてください。確かめる点は、次の3つに絞ることが出来ます。
- 自社の契約が、法人向けの条項の対象に入っているか。無料版や個人プランは対象外のことがあります。
- 除外の条件は何か。入力した素材が原因の場合、侵害を知っていた・知るべきだった場合、フィルターを外した場合などが挙がっていないかを見ます。
- 補償を受けるために必須の設定や、守るべき使い方は何か。社内の設定がその条件を満たしているかも確かめます。
補償があるから安全とは読まずに、社内の確認手順とあわせて備えるのが現実的な形になります。契約の原文は英語のことも多いので、読み方に迷う条項は、契約に詳しい弁護士に見てもらうと確実でしょう。
使うAIを会社の契約1つにまとめ、記録を残す
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。学習非利用は全モデルに標準で適用され、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理されます。管理者ダッシュボードで利用ログと権限を確かめられ、社外に出す前の確認手順は、よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有できるカスタムプラスで揃えることが出来ます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
AIを使っているだけの会社が、AI訴訟で訴えられることはありますか?
海外のAI訴訟の判決は、日本の会社にも当てはまりますか?
提供元に補償条項があれば、著作権の心配はいりませんか?
AIが示した判例や出典は、そのまま使ってよいですか?
AIの社内ルールは、何から決めればよいですか?
まとめ
AIをめぐる訴訟の多くは、AIを作る・提供する会社が、学習や回答の中身で訴えられたものです。使う側の会社に直接かかってくるのは、AIで作ったものが他人の権利や声に触れる場面と、AIの誤りを確かめずに書面や案内に使う場面になります。
海外では、存在しない判例を書面に使った弁護士への制裁や、チャットボットの誤った案内で会社に支払いを命じた判断が出ています。日本では声もパブリシティ権の保護の対象になるとの判断が報じられ、新聞社とPerplexityの訴訟は判決の報道がまだない段階です。
社内では、使ってよいAIの範囲、入れない情報、社外に出す前の確認者、出典を原典で開く手順、記録の残し方を決め、契約の補償条項と必須の設定を確かめておきましょう。外国の判断は日本の裁判所を拘束せず、係属中の訴訟はこれから状況が変わることもあります。個別の事案の判断は、弁護士に相談してください。
