
弁理士のAI活用とは、発明者ヒアリングメモの整理や請求項のたたき台、先行技術調査の整理、翻訳の下訳、拒絶理由通知への反論案の下書きを、生成AIに手伝わせることです。AIに任せられるのは文章化と整理までで、発明のどこを権利にするかの見極めと出力の確認、そして最後の責任は弁理士に残ります。出願前の発明を入れるときは、守秘義務と新規性喪失の2つを先に片付けてから使うことになります。
士業に共通する守秘義務の考え方や、事務所で決める環境の全体像は士業のAI活用|守秘義務の条文と、事務所で決める環境・ルールにまとめてあります。ここでは特許事務所の実際の業務に絞り、業務ごとに入れる材料、そのまま貼れる指示文、出てくる文の例、弁理士が確かめる点を並べました。
AIで弁理士の仕事は代替されるのか
明細書の文章を書く時間は短くなっても、発明のどこに価値があるかを見極め、クライアントと権利の形を決める仕事は、AIに置き換わりにくいと考えられます。文章を作る作業がAIに寄るほど、代筆の速さより、出願の前後で知財の相談に乗る力が問われるようになっていくでしょう。審査する側の特許庁も、令和8年7月27日に自らの行政でのAI活用の方針として「JPO AIビジョン」を公表し、人間中心の原則の下で進める方向とともに、リスクの例に機密情報の漏えいや誤情報の出力を挙げています。
※特許庁「特許庁におけるAI活用の基本方針『JPO AIビジョン』について」(令和8年7月27日)https://www.jpo.go.jp/system/laws/sesaku/ai_action_plan/ai_vision/ を2026年10月16日に確認しました。
弁理士のAI活用は「文章化はAI、発明の見極めと責任は弁理士」
AIが出した文を、弁理士が読まずにクライアントへ渡すことは出来ません。日本弁理士会の「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(令和7年4月)は第1章2で、生成物の正確性は保証されていないとして、弁理士が正確性を確かめ、最終的に責任をもって提供するべきだとしています。
同じ箇所では、弁理士が民法第644条の善管注意義務を負うことに触れ、AIの生成結果を検討・精査もせずにそのまま提供すれば、善管注意義務に違反する恐れがあるとまで書かれているのです。第5章1も、ハルシネーション(もっともらしい誤り)を前提に、ファクトチェックは必ず弁理士が行うよう述べ、情報が古い場合に備えて更新された情報で確かめることにも触れています。
実務に置き換えると、AIに任せる範囲は材料の整理、たたき台、下訳、確認の補助の4つにとどめ、採るか捨てるかは弁理士が決めるという分担になります。AIの出力を誰が読んで確かめたかは、案件の記録に残しておきましょう。後でクライアントに聞かれたとき、その記録がそのまま説明の材料として使えます。
発明のコアを切り出す入力の質が出力を決める
出力の出来は、AIの性能より、弁理士が発明の構成要件をどこまで言葉にして渡せたかで決まります。GrIPの取材記事(2026年6月23日)によると、プロフィック特許事務所の代表弁理士である谷和紘氏は、知財塾主催の「特許の鉄人2026 with すごい知財EXPO ~生成AI対人間バトル~」(2026年6月19日)で、明細書作成を支援する専用ツールを使って請求項を作ったそうです。請求項1の方針を5分ほどで書き、図面と先行技術の資料と一緒に入れたところ、約15件のクレーム案が出て、10件近くが使える水準だったと語っています。
同じ記事では、セミナーの準備として実務修習や育成塾の課題のクレーム・図面・説明資料をClaudeに入れ、実施形態を書かせた例も紹介されました。手書きで約10,000字だった実施形態に対し、AIの出力は約15,000字で、直すところはあったと谷氏は話しています。谷氏が強調するのは、出力の質は入力で決まり、発明を切り出す作業は人間に残るという点でした。
実案件ではない課題の資料で試していた点も、所内で始めるときの参考になるでしょう。自分の公開済みの案件や研修の課題で指示文を練ってから、実案件に移る順番を試してみてください。
守秘義務と新規性|出願前の発明をAIに入れる前に
出願前の発明をAIに入れることは、弁理士法の守秘義務と、特許法の新規性の両方に関わってきます。どちらも、学習に使わせない設定にしただけでは片付きません。
弁理士法第30条・第77条・第80条
弁理士法第30条は、弁理士または弁理士であった者が、正当な理由なく業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、または盗用することを禁じています。第77条は、弁理士や弁理士法人の使用人その他の従業者に対し、業務を補助したことについて知り得た秘密を漏らし、または盗用することを禁じているのです。所内で明細書を書く技術者や翻訳担当、事務の方は、補助の中で知った秘密についてこの義務を負うことになります。所外に頼む翻訳者や調査会社は従業者に当たらない場合もあるため、委託の契約で守秘の定めを置いておきましょう。
違反したときの罰則は第80条にあり、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金で、告訴がなければ公訴を提起できない扱いとなっています。ガイドライン第4章2(1)は、外部事業者の生成AIに秘密情報を入れることを、生成AI提供者という第三者への開示にあたるとし、守秘義務違反のおそれと、秘密保持契約がある場合の契約違反のおそれを挙げます。所長が補助者まで含めてAIの使い方を決めておく根拠は、この第77条にあるといってよいでしょう。
※条文は2026年10月16日にe-Gov法令検索の現行条文で確認しました。弁理士法 https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000049 /特許法 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121
特許法第29条第1項と第30条(新規性喪失の例外)
特許法第29条第1項は、特許出願前に公然知られた発明(第1号)、公然実施をされた発明(第2号)、頒布された刊行物に記載された発明や電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第3号)を、特許を受けられない発明としています。AIへの入力がこれに当たるかを条文は直接定めていませんが、ガイドライン第4章2(2)は、秘密保持規約のない第三者のプラットフォームに情報を載せた場合には新規性を喪失する可能性があるとしているのです。使うAIが秘密保持の定めのあるプラットフォームかどうかを確かめるよう求めているのも、この箇所になります。
第30条には新規性喪失の例外があり、意に反して第29条第1項各号に当たるに至った場合(第1項)と、権利者の行為に起因して当たるに至った場合(第2項。特許公報等への掲載によるものを除く)は、その日から1年以内に出願すれば新規性を失わなかったものとみなされます。第2項の適用を受けるには、その旨の書面を出願と同時に出し、証明書を出願の日から30日以内に出す必要があるのです。例外の要件は厳しく、AIへの入力を気にしなくてよい理由にはなりません。この例外は日本の出願についての定めで、出願先の国によっては同じ救済が見込めないこともあり、外国出願を予定している発明では新規性を失った時点で困るおそれが出てきます。新規性を喪失する可能性がある使い方は、最初から避けておくのが筋でしょう。
※第30条第4項には、責めに帰することができない理由がある場合の期間の定めもあります。
学習に使わせない設定で片付くこと・片付かないこと
学習に使わせない設定で減らせるのは、入れた情報が他人への回答に混ざる経路です。生成AIの提供者という第三者に情報を渡すこと自体は残るため、守秘義務の問題がそれで消えるわけではありません。
個人向けのプランにも学習への利用を止める切り替えはありますが(ChatGPTはデータコントロール、Claudeはプライバシー設定、Geminiは[アクティビティの保存])、その設定は所員一人ひとりの画面に任されることになります。
法人向けの契約では、ChatGPTのBusiness・Enterpriseや、Claudeの商用製品(Claude for Work など)のように、既定で入出力を学習に使わないものもあります。どの場合も設定や規約は変わっていくため、使う前に自分の画面と最新の規約で確かめてください。
※各社の設定名と扱いは、2026年10月16日にOpenAI・Anthropic・Googleの公式ヘルプで確認しました。Claudeの個人向けで初めからどちらに設定されているかは、ご自身の画面でご確認ください。
出願前の段階ごとに、AIへ入れてよい情報の判断表
入れてよいかどうかは、発明がどの段階にあるかと、使うAIがどんな約束の環境かの組み合わせで決めると分かりやすくなります。次の表は所内で判断をそろえるための目安で、法的な結論を示すものではありません。
| 段階・情報 | A 学習に使われる設定のまま | B 学習に使われないが、秘密保持の定めは確かめていない | C 学習に使われず、秘密保持の定めを規約・契約で確かめた環境(クライアントの合意あり) |
|---|---|---|---|
| 出願前:発明提案書・ヒアリングメモ | 入れない | 入れない | 名前と型番を置き換えて入れてよい。入れた日と範囲を記録する |
| 出願前:請求項・明細書の草稿 | 入れない | 入れない | 置き換えて入れてよい。記録する |
| 出願前:発明が特定できない一般的な相談(請求項の書き方の型、用語の言い換えなど) | 発明の中身を含まない形なら入れてよい | 入れてよい | 入れてよい |
| 出願後・公開前:明細書、拒絶理由通知、翻訳の原稿 | 入れない | 入れない(秘密の扱いは出願前と同じ) | 置き換えて入れてよい |
| 出願後でも、改良発明・国内優先・外国出願の基礎になる未出願の部分 | 入れない | 入れない | 出願前と同じ扱い |
| 公開後:自分の案件の公開公報・登録公報の記載 | 公報の記載だけなら入れてよい(クライアントの方針や社内事情は入れない) | 同左 | 入れてよい |
| 公開後に届いた拒絶理由通知と、公報の記載だけ(応答の方針、クライアントのコメント、未出願の改良は秘密として残る) | 通知と公報の記載だけなら入れてよい。応答の方針やコメントは入れない | 同左 | 応答の方針やコメントも合意の範囲で入れてよい。未出願の改良は出願前と同じ扱い |
| 他社の公開公報(先行技術) | 公報だけなら入れてよい。自分の発明と並べるときは出願前の発明と同じ扱い | 同左 | 自分の発明と並べた対比も入れてよい |
| 商標:発表前の商標案・商品名 | 入れない | [商標案]に置き換え、公表済みの事業の説明だけなら入れてよい | 合意の範囲で入れてよい |
| 発明者名・担当者名・住所・出願番号 | 入れない | 置き換えてから入れる | 置き換えてから入れる(個人情報の検討が要る) |
※新規性の扱いは、ガイドライン第4章2(2)の「秘密保持規約のない第三者のプラットフォームに情報を載せた場合には新規性を喪失する可能性がある」という整理に沿って作っています。Cに当たるかどうかは、各サービスの利用規約と契約書でご確認ください。
表のCに当たる環境かどうかは、利用規約と契約書にある秘密保持・学習・保管の条項を読んで確かめることになります。規約は数か月単位で改定されることがあると、ガイドライン第4章1も述べています。確かめた日と条項の場所を、使ってよいツールの一覧に書き添えておきましょう。
発明者名・担当者名は個人情報としても扱う
発明者の氏名や住所、クライアントの担当者名は、秘密である前に個人情報でもあります。ガイドライン第4章2(3)は、個人データをAIに入れることが個人データの提供に当たるか、委託として適法に出来るか、提供者が外国の事業者なら本人の同意が要るかを検討するよう述べています。個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)も、個人情報を含むプロンプトを入れるときは利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう求めました。
実務では、発明者は[発明者1]、担当者は[担当者]、出願人は[出願人]のように置き換えてから入れると、こうした検討の多くを省くことが出来ます。置き換えの対応表は案件フォルダにだけ置き、AIには貼らないでください。対応表まで貼ってしまうと、置き換えた意味がなくなってしまいます。
日本弁理士会ガイドライン(令和7年4月)の要求事項
ガイドラインが弁理士に求めていることは、章ごとに見ると、規約の確認、秘密・新規性・個人情報の扱い、クライアントとの合意、出力の確認の4つに分けられます。本文は9ページで、日本弁理士会のサイトにPDFが公開されています。
| 章 | ガイドラインの要求(要旨) | 事務所でやること |
|---|---|---|
| 第1章2 弁理士としての責任 | 生成物の正確性は保証されない。弁理士が正確性を確かめ、最終的に責任をもって提供する。精査せずにそのまま提供すると善管注意義務(民法第644条)に違反する恐れ | 出力は担当弁理士が必ず読み、確認した人の名前を案件の記録に残す |
| 第4章1 利用規約・商用利用条件の確認 | 規約やプラン仕様は数か月単位で改定されうる。学習に使われる場合は営業秘密や非公開情報を入れない。商用利用を禁じるサービスは業務に使わない。定期的に確認する | 使ってよいツールの一覧を作り、学習の扱い・商用利用・確かめた日を書く |
| 第4章2(1) 秘密情報と守秘義務 | 外部事業者の生成AIへの秘密情報の入力は第三者への開示になり、守秘義務(弁理士法第30条)違反や秘密保持契約違反のおそれ | 秘密情報は、合意のある案件で、確かめた環境にだけ入れる |
| 第4章2(2) 新規性喪失防止 | 秘密保持規約のない第三者のプラットフォームに情報を載せると新規性を喪失する可能性がある。プラットフォームを確認する | 出願前の段階ごとの判断表で線を引く |
| 第4章2(3) 個人情報の取り扱い | 個人データの入力が提供に当たるか、委託として適法か、外国の事業者なら本人同意が要るかを検討する | 発明者名・担当者名を置き換えてから入れる |
| 第4章3 他人の知的財産との関係 | 著作物の入力と著作権法第30条の4の関係などに触れる | 他人の明細書や文章と似たものを作らせる目的で入れない |
| 第4章4 クライアントとの合意形成 | クライアントから得た秘密情報を入れる場合は、学習の有無によらず合意を取る | 委任契約書の一文と、案件ごとの個別メールで合意を取って記録する |
| 第5章1 内容の正確性と責任 | ファクトチェックは必ず弁理士が行う。古い情報もありうるため、更新された情報で確かめる | 出力の点検表で、毎回同じ項目を確かめる |
| 第5章2・3 商用利用の可否、他者の権利への配慮 | 規約で商用利用の可否を確かめる。生成物が他者の権利、特に著作権を侵害していないか確かめる | ツールの一覧に商用利用の可否を書き、出力の転用元を確かめる |
※日本弁理士会「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(令和7年4月)https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/04/AIservices-guideline.pdf を2026年10月16日に確認しました。表の要旨は原文を短くまとめたもので、正確な文言は原文でご確認ください。
表の右の列は、ガイドラインの要求を所内の作業に置き換えた例になります。クライアントの合意と出力の確認は、どのツールを選んでも事務所に残る作業です。
所員が一人ひとり自分のアカウントで使っていると、どのツールの規約を誰が確かめたのか、どの案件で何を入れたのかを、所長の側から追えなくなってしまいます。クライアントに使い方を聞かれたときに、事務所として1つの答えを返せる状態を先に作ってみてください。
発明者ヒアリングメモの整理と構成要件の切り出し
ヒアリングメモは、発明者が話した内容と弁理士の推測を分け、構成要件の候補と効果の対応を書き出させると、請求項を考える材料として使いやすくなります。入れる材料は、発明提案書と、ヒアリングの手書きメモか文字起こしを、名前と固有の型番を置き換えたものです。
出願前の発明そのものを入れるため、判断表のCに当たる環境とクライアントの合意が前提になります。合意がまだの案件では、発明者の話の順番を整えるだけの使い方にとどめ、技術の中身は手元で整理してください。
【指示文1 ヒアリングメモの整理と構成要件の切り出し】 あなたは特許事務所で明細書の準備をする補助者です。下の発明提案書とヒアリングメモから、[発明A]の構成要件の候補を切り出してください。 条件 ・[発明A][部材X][出願人][発明者1]などの置き換えた表記はそのまま使い、元の名前を推測しない ・資料に書かれていないことは足さない。はっきりしない点は【要確認】と書く ・次の順で出す 1 発明が解決しようとする課題(発明者の言葉どおり) 2 構成要件の候補(A、B、C…と記号を振り、1行に1つ) 3 各構成要件が課題の解決にどう効くか(構成要件の記号と対応させる) 4 発明者が「なくても動く」「別の部品でもよい」と話した要素(上位概念化の候補) 5 実施の形の違い(変形例の候補) 6 次のヒアリングで発明者に聞くこと。資料から分からない場合は、次の3つを必ず含める ・学会発表、展示会への出展、販売の予定日 ・共同開発先の有無と、その相手との秘密保持の取り決めの有無 ・発明者が知っている従来品や他社の製品 ・発明者の発言と、あなたの推測を混ぜない。推測の行には先頭に【推測】と付ける 発明提案書 (ここに置き換え済みの提案書を貼る) ヒアリングメモ (ここに置き換え済みのメモや文字起こしを貼る)
【出てくる文の例】 2 構成要件の候補 A [部材X]を回転可能に支持する支持部 B [部材X]を支持部に向けて付勢する付勢部材 C 付勢の強さを切り替える切替機構 3 課題との対応 ・AとBにより、[部材X]のがたつきを抑える(発明者の発言) ・Cは【推測】使う場所に応じて付勢を変える目的と思われる。発明者への確認が必要 4 上位概念化の候補 ・付勢部材は「ばねでなくてもよい」との発言あり。ゴムでもよいかは【要確認】 6 次のヒアリングで聞くこと ・切替機構を外しても課題は解決するか ・展示会での公開の予定日【要確認】(メモに「秋の展示会に出したい」との発言あり) ・共同開発先の有無と、秘密保持の取り決めの有無 ・発明者が比べている従来品はどれか
- 構成要件の候補が、発明の肝から外れていないか説明の分量が多い部分ほど、要件として大きく扱われることがあります。発明者が「ここが新しい」と話した点が要件に入っているかを見ます。
- 【推測】の行を、発明者に確かめたか推測のまま請求項に進むと、発明者の考えと違う権利の形になってしまいます。
- 上位概念化の候補を、発明者に確かめたか「ばねでなくてもよい」から「どんな付勢手段でもよい」まで広げるかは、発明者が実施できる範囲を確かめたうえで弁理士が決めます。
切り出した構成要件の候補は、そのまま請求項にせず、先行技術との違いがどこに出るかを弁理士が見てから絞り込みます。次の節の請求項のたたき台は、この絞り込みが済んだ後に回すのが自然な順番になります。
AIに入れる前の置き換えの例
置き換えは、名前を記号にするだけでなく、型番や社内の開発コードまで見ておくと抜けが減ります。発明提案書の冒頭を例にすると、次のような形です。
【置き換える前】 株式会社〇〇(出願人)開発部の〇〇氏(発明者)が考案した、型番〇〇-200の巻取り装置の改良。ローラの軸受を板ばねで押さえ、ノブで押さえる力を3段階に切り替える。 【置き換えた後】 [出願人]の[発明者1]が考案した[発明A](巻取り装置)の改良。[部材X](ローラ)の支持部を付勢部材で押さえ、操作部で付勢の強さを3段階に切り替える。 【対応表(案件フォルダにだけ置く)】 [出願人]=株式会社〇〇/[発明者1]=〇〇氏/[発明A]=型番〇〇-200の改良/[部材X]=ローラ
「3段階」のように発明の特徴そのものに当たる数値は置き換えずに残し、判断表のCの環境で扱うことになります。製品の型番や開発コードは発明の理解に要らないことが多いので、迷わず記号にしてしまいましょう。置き換えた後の文だけを読んで、どの会社のどの製品か分かってしまわないかを、最後にもう一度見てみてください。
利用の記録や学習の扱いを所員ごとのアカウントに任せず、事務所で使うAIを1つの環境にまとめる方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
明細書の請求項・実施形態のたたき台
請求項は、弁理士が決めた請求項1の方針を渡し、従属項と言い換えの案を多めに出させてから選ぶ使い方が向いています。谷氏の例のように、方針を短く書いて図面や先行技術の要約と一緒に入れると、選ぶための案がまとまって出てきます。
入れる材料は、前の節で絞った構成要件、請求項1の方針(弁理士が書いた数行)、図面の符号の一覧、先行技術との違いのメモです。図面そのものを入れる場合も、図の中の社名や型番は消しておきましょう。
【指示文2 請求項のたたき台】 あなたは日本の特許実務に詳しい明細書の起案者です。下の方針と構成要件にもとづいて、[発明A]の請求項のたたき台を作ってください。 条件 ・請求項1は、方針に書いた構成要件だけで組み立てる。方針にない構成要件を足さない ・従属項は、構成要件の候補と変形例から8項目前後を作り、どの請求項を引用するかを明記する ・用語は「構成要件と用語の一覧」の表記にそろえ、同じものを別の言葉で呼ばない ・初めて出てくる構成には「前記」を付けず、2回目からは「前記」を付ける ・各請求項の末尾に、符号の一覧のどの符号と対応するかを括弧で添える(提出用に残すかは、事務所の方針と出願先に合わせて弁理士が決める) ・先行技術との違いのメモにある構成と同じになる請求項には、先頭に【先行技術と重なる可能性】と付ける ・最後に、請求項1の言い換え案を2つ(広めの書き方と狭めの書き方)出す 請求項1の方針 (弁理士が書いた数行を貼る) 構成要件と用語の一覧 (例:A 支持部(符号10)/B 付勢部材(符号20)/C 切替機構(符号30)) 先行技術との違いのメモ (ここに貼る。公報番号は書かなくてよい)
【出てくる文の例】 【請求項1】 [部材X]を回転可能に支持する支持部(10)と、 前記[部材X]を前記支持部に向けて付勢する付勢部材(20)と、 を備える[発明A]。 【請求項2】 前記付勢部材の付勢の強さを切り替える切替機構(30)をさらに備える、請求項1に記載の[発明A]。 請求項1の言い換え案(広め) [部材X]を支持する支持部と、前記[部材X]を前記支持部に向けて押す押圧部と、を備える[発明A]。
実施形態は、請求項と符号の一覧を渡して、構成ごとに段落を起こさせる形にすると、後で符号の対応を確かめやすくなります。数値範囲や代替の材料、変形例は後の補正の足場になるため厚めに書かせ、AIが足したものには【追加の提案】と付けさせて本文と分けるのがコツです。
【指示文3 実施形態のたたき台】 あなたは日本の特許明細書の起案者です。下の請求項と符号の一覧、発明者の説明にもとづいて、【発明を実施するための形態】のたたき台を書いてください。 条件 ・符号の一覧にある構成は、初めて出てくるところで「支持部10」のように名前と符号を並べて書く ・符号の一覧にない部材を新しく作らない。説明に必要なら【符号の追加が必要】と書いて止める ・請求項の各構成要件が、どの段落で説明されているかを最後に一覧で示す ・数値範囲、代替の材料、変形例は、後の補正のよりどころになるよう厚めに書く ・発明者の説明にある数値・材料・変形例はそのまま書き、それより広い範囲や好ましい範囲、別の材料、ほかの変形例の候補は、文の先頭に【追加の提案】と付けて本文と分ける ・【追加の提案】には、発明者に確かめる点を1行添える ・文末は「である」調で書く 請求項 (ここに貼る) 符号の一覧 (ここに貼る) 発明者の説明 (置き換え済みのヒアリングの整理を貼る)
【出てくる文の例】 支持部10は、[部材X]を回転可能に支持する。付勢部材20は、[部材X]を支持部10に向けて付勢する。本実施形態の付勢部材20はコイルばねであるが、ゴム製の弾性体を用いてもよい(発明者の発言)。 【追加の提案】付勢部材20は、板ばね、皿ばね、磁石の反発力を用いるものであってもよい。確かめる点:発明者がこれらで同じ効果を確認しているか 構成要件と段落の対応 A 支持部10 → 段落1、段落3 B 付勢部材20 → 段落2 C 切替機構30 → 段落4(変形例1にも記載)
- 請求項の構成要件と、実施形態の説明が1つずつ対応しているか対応の一覧に挙がった段落を開き、要件ごとに支えになる記載が本当にあるかを読みます。
- 「前記」の先行詞が、その前に出てきているか従属項を並べ替えたときや、言い換え案を採ったときに崩れやすい箇所です。
- 【追加の提案】を残すか削るか、発明者に確かめたか数値範囲・代替の材料・変形例は、厚く書くほど補正の足場になります。残すか削るかは、発明者が実施できるかを確かめたうえで弁理士が決めます。
- 【追加の提案】の印がないまま、説明にない効果が書き足されていないかAIは文を自然につなぐために、それらしい効果を足すことがあります。出願後は新規事項を足す補正ができず、誤った記載は権利範囲の解釈にも響くため、出願前に見つけて直します。
たたき台の言い回しは整って見えても、発明者が実際に作ったものと違う説明が混ざっていることがあります。実施形態は出願前に発明者に読んでもらい、違う箇所に印を付けてもらいましょう。そのひと手間で、出願の後に気づいても直しにくい食い違いを減らすことが出来ます。
先行技術調査の検索式と公報の読み比べ
先行技術調査では、検索語の言い換え候補を広げる作業と、取り寄せた公報を構成要件ごとに読み比べる作業にAIが向いています。検索そのものはJ-PlatPatや事務所で契約している検索データベースで済ませ、AIに文献を探させて終わりにしないのが前提になります。
特許庁も、「特許庁における人工知能(AI)技術の活用に向けたアクション・プラン」の令和7年度改定版(令和7年6月25日公表)で、先行技術調査②(検索手法の高度化)を導入フェーズへ移し、生成AIの特許審査業務への適用を新しい項目として加えました。審査の側でも、調査にAIを使う段階に入っていることになります。
入れる材料は、構成要件の一覧(置き換え済み)と、検索で取り寄せた公報の請求項・要約・関係する段落です。公報は公開された情報ですが、自分の発明の構成要件と並べて入れれば発明の中身を渡すことになる点は変わりません。
※特許庁「特許庁における人工知能(AI)技術の活用に向けたアクション・プランの令和7年度改定版について」https://www.jpo.go.jp/system/laws/sesaku/ai_action_plan/ai_action_plan-fy2025.html を2026年10月16日に確認しました。
【指示文4 検索語の言い換え候補と検索式の例】 あなたは特許調査の担当者です。下の構成要件について、日本の特許公報を検索するためのキーワードの言い換え候補を出してください。 条件 ・構成要件ごとに、同義語、上位語、下位語、公報でよく使われる言い回しを分けて出す ・外国の公報も調べるため、それぞれの英語の候補も添える ・特許分類(FI・Fターム・IPC)の候補を挙げる場合は、記号を断定せず「要確認」と付ける ・最後に、構成要件を組み合わせた検索式の例を2つ、AND・OR・近傍検索の考え方で示す(特定のデータベースの書式には合わせなくてよい) 構成要件 A [部材X]を回転可能に支持する支持部 B [部材X]を支持部に向けて付勢する付勢部材 C 付勢の強さを切り替える切替機構
【指示文5 公報の読み比べ(対比表)】 あなたは特許調査の担当者です。下の構成要件と、文献1〜3の記載を読み比べて、対比表を作ってください。 条件 ・表の行は構成要件A〜C、列は文献1〜3とする ・各マスには、記載がある場合は段落番号と記載の要約、記載がない場合は「記載なし」と書く ・段落番号は、貼った本文にあるものだけを使う。本文にない段落番号や文献番号を作らない ・「実質的に同じ」「示唆がある」と見た箇所は、根拠の文を原文のまま引く ・最後に、どの文献にも記載のない構成要件を挙げる 構成要件 (ここに貼る) 文献1([文献1の番号]) (請求項・要約・関係する段落を貼る) 文献2([文献2の番号]) (同上) 文献3([文献3の番号]) (同上)
【出てくる文の例】 A 支持部 文献1:【0012】回転軸を軸受で支持する構成を記載 文献2:記載なし 文献3:【0020】ケースの内側でローラを回転自在に保持する構成を記載 C 切替機構 文献1:記載なし/文献2:記載なし/文献3:記載なし どの文献にも記載のない構成要件:C
- 段落番号を、公報の原文で引き直したか段落番号を取り違えたり、貼っていない段落を挙げたりすることがあります。
- 「記載なし」を、貼った範囲の外まで広げて読んでいないか貼ったのは公報の一部なので、記載なしは「貼った範囲に無い」という意味にとどまります。
- 新規性・進歩性の見立てを、弁理士が自分で書いたか対比表は読む順番を決める道具で、見立ての根拠にはなりません。
AIの対比表は、どの文献から読むかを決めるための下ごしらえと考えるのが安全です。新規性や進歩性の見立てをクライアントに伝える文は、弁理士が原文を読んでから自分の言葉で書くようにしましょう。
拒絶理由通知への意見書・補正の下書き
拒絶理由通知への応答では、通知の論点を整理させ、引用文献との違いを主張する筋を複数並べさせてから、弁理士が採る筋を決める使い方が合っています。補正案そのものは、出願当初の明細書に書いてある範囲から外れていないかを、弁理士が一文ずつ確かめることになります。
入れる材料は、拒絶理由通知の本文、引用文献の該当箇所、出願時の請求項と明細書の関係する段落、クライアントから届いた技術的なコメントです。出願後でも公開前の案件であれば、明細書の中身は秘密として扱い、判断表のCの環境で使ってください。
【指示文6 拒絶理由通知の整理と意見書の骨子】 あなたは日本の特許実務に詳しい弁理士の補助者です。下の拒絶理由通知、引用文献の記載、本願の請求項と明細書の記載を読み、応答の検討材料を作ってください。 条件 ・最初に、拒絶理由の種類(第29条第1項・第2項、第36条第4項・第6項など)ごとに分けて、対象の請求項、引用文献、審査官の認定を一覧にする ・通知が最後の拒絶理由通知であれば、一覧の最初にその旨を書く ・審査官の認定のうち、本願の構成要件と引用文献の記載の対応が合っていない可能性のある箇所を、根拠の段落とともに挙げる ・反論の筋を3つまで出し、それぞれに「補正なしで主張する場合」と「補正して主張する場合」を書く ・補正の案には、根拠となる本願の明細書の段落を必ず示す。明細書と文言が違う場合は【言い回しが違う】と付け、新規事項に当たるかどうかの判断は書かない ・判例や審査基準を挙げる場合は、名前と年月日を書いたうえで「要確認」と付ける ・意見書の文は書かず、骨子(見出しと要点)までにとどめる 拒絶理由通知 (ここに貼る。出願番号と出願人名は[本願][出願人]に置き換える) 引用文献の記載 (ここに貼る) 本願の請求項と明細書の記載 (ここに貼る)
【出てくる文の例】 反論の筋1(補正して主張する場合) ・請求項1に、請求項2の切替機構を加える(本願明細書【0025】にもとづく) ・引用文献1には、付勢の強さを切り替える構成の記載がない(引用文献1【0012】〜【0018】) ・残る論点:引用文献2との組み合わせで容易と指摘されないかの検討が必要 反論の筋2(補正なしで主張する場合) ・審査官は引用文献1の弾性片を付勢部材と認定しているが、弾性片は[部材X]を支持部に向けて付勢していない可能性がある(引用文献1【0015】の図の説明)【要確認】
- 補正案と同じ内容が、出願当初の明細書の段落に書かれているか示された段落を開いて読みます。言い回しが違う場合は、出願当初の記載の範囲内かどうかを弁理士が判断します。
- AIが挙げた判例・審査基準の名前と日付が実在し、現行のものか名前の似た別の判例や、改訂前の審査基準が混ざることがあります。
- 審査官の認定を読み違えていないかAIの一覧ではなく、通知の原文に戻って確かめます。
意見書の文は審査の経過として後に残り、権利範囲を読むときの材料にもなってきます。意見書は骨子までをAIに任せ、本文は弁理士が自分で書き起こしましょう。骨子があるだけでも、書き始めるまでの時間はずいぶん短く出来ます。
補正案の文言を明細書の記載と突き合わせる
弁理士が書いた補正案を、出願当初の明細書と突き合わせて裏付けの段落を探させる使い方も、確認の時間を縮めるのに役立ちます。AIが記載ありとした段落は、必ず原文を開いて読むことが前提です。
【指示文7 補正案と明細書の記載の突き合わせ】 あなたは日本の特許実務に詳しい弁理士の補助者です。下の補正案の各文言について、出願当初の明細書・請求項・図面の説明に同じ内容の記載があるかを探してください。 条件 ・補正案を文言のまとまりごとに分け、1行ずつ確かめる ・記載がある場合は、段落番号と該当する文を原文のまま引く ・言い回しは違うが内容が近い記載しかない場合は【言い回しが違う】と付け、違いを具体的に書く ・記載が見つからない場合は「見つからない」と書き、推測で補わない ・新規事項に当たるかどうかの判断は書かない ・段落番号は、貼った明細書にあるものだけを使う ・下の通知の種類が最後の拒絶理由通知であれば、一覧の最初にその旨を書く 通知の種類(最初の拒絶理由通知/最後の拒絶理由通知) (ここに書く) 補正案 (弁理士が書いた補正後の請求項を貼る) 出願当初の明細書・請求項・図面の説明 (置き換え済みのものを貼る)
【出てくる文の例】 「付勢の強さを段階的に切り替える切替機構」 【0025】切替機構30は、付勢部材20の付勢力を3段階に切り替える。【言い回しが違う】段階の数は3に限られている 「前記切替機構は前記支持部に設けられる」 見つからない。【0026】には切替機構30をケースに取り付ける記載があり、支持部に設ける記載はない
見つからないと出た文言や【言い回しが違う】が付いた文言は、出願当初の記載の範囲内かを弁理士が読んで判断し、補正の案から外すか直すかを決めます。意見書と同じく、AIの突き合わせは探す手間を減らすための道具と割り切っておきましょう。
外国出願の翻訳の下訳とチェック
外国出願の翻訳でのAIの使い方には、AIに下訳を作らせて翻訳者が直す形と、人が訳した原稿を原文と突き合わせて違いを拾わせる形の2つがあります。どちらの形でも、請求項は翻訳者か弁理士が一語ずつ原文と照らすことに変わりはありません。
入れる材料は、日本語の明細書・請求項と、事務所で決めている訳語の対訳表です。外国出願の基礎になる出願が公開前なら明細書は秘密のままなので、ほかの業務と同じく判断表のCの環境とクライアントの合意が前提になります。規約で入力の扱いを確かめていない無料の翻訳サービスに、出願前の明細書を貼るのは止めましょう。ガイドラインのいう秘密保持規約のないプラットフォームに当たるおそれがあるためです。
【指示文8 翻訳の突き合わせ(請求項)】 あなたは日本語と英語の特許翻訳のチェッカーです。下の日本語の請求項と英訳を突き合わせ、訳の違いを一覧にしてください。 条件 ・訳し直した全文は出さず、違いのある箇所だけを挙げる ・次の点を確かめる:訳抜け、訳語が対訳表と違う、単数と複数、「備える」の訳(comprising など)のそろい方、「前記」の訳(the/said)のそろい方、数値と単位、係り受けの取り違え ・各行に、日本語の該当箇所、英訳の該当箇所、気づいた点、直し方の案を書く ・権利範囲が広がる、または狭まる可能性がある違いには【範囲に影響】と付ける ・機能的な表現(「〜手段」、means for など)と、多項従属の請求項(複数の請求項を引用する請求項)は、該当箇所を挙げて【出願先で要確認】と付ける ・対訳表にない専門用語は、候補を挙げたうえで【要確認】と付ける 対訳表 (ここに貼る) 日本語の請求項 (ここに貼る) 英訳 (ここに貼る)
【出てくる文の例】 請求項1 日本語:[部材X]を回転可能に支持する支持部 英訳:a support portion supporting the [部材X] 気づいた点:「回転可能に」が訳されていない【範囲に影響】 直し方の案:a support portion rotatably supporting the [部材X] 請求項2 日本語:付勢部材 英訳:spring 気づいた点:対訳表は biasing member。spring では範囲が狭まる【範囲に影響】
- 【範囲に影響】の行を、翻訳者か弁理士が原文と照らしたかAIの指摘が正しいかどうかも含めて、人が読んで決めます。
- 訳語が対訳表にそろっているか同じ語を段落ごとに訳し分けることがあり、請求項と明細書で訳がずれる原因になります。
- 【出願先で要確認】の行を、出願先の扱いに照らしたか機能的な表現や多項従属の請求項は、出願先によって扱いが変わることがあります。どう直すかは弁理士と現地代理人で決めます。
- 出願先の国の書式や記載の決まりに合っているか現地代理人に確かめてもらう段取りは、AIを使っても省けません。
翻訳の質の責任は、AIを使ったかどうかに関係なく、翻訳を出した事務所に残ります。現地代理人に送る前の最後の読み合わせは、これまでどおり人の手で済ませるようにしてください。
外国の拒絶理由通知の和訳と要点の整理
外国の特許庁から届いた拒絶理由通知を、クライアントへ報告する前に和訳して要点を整理する作業にも、同じ考え方が使えます。出願が公開済みの国の通知であっても、応答の方針や現地代理人のコメントは秘密として扱ってください。
【指示文9 外国の拒絶理由通知の和訳と要点】 あなたは日本の特許事務所で外国案件を担当する補助者です。下の外国の拒絶理由通知を読み、日本のクライアントに報告するための材料を作ってください。 条件 ・最初に、通知の種類、対象の請求項、引用文献、応答の期限が書かれている箇所を、原文の該当部分とともに一覧にする ・期限は原文の記載をそのまま書き、日付の計算や換算はしない ・拒絶の理由ごとに、審査官の主張を日本語で要約し、原文の段落や行の位置を添える ・現地の法令や審査の運用に触れる場合は、条文番号を書いたうえで「要確認」と付ける ・応答の方針の提案はしない 通知の本文 (ここに貼る。出願番号と出願人名は[本願][出願人]に置き換える)
期限の計算は、現地代理人の報告と事務所の期限管理で確かめるのが前提になります。要約の誤りは報告メールの誤りにそのままつながるため、審査官の主張の部分は原文と並べて読むようにしましょう。
現地代理人への指示書(英文)の下書き
現地代理人への指示書は、弁理士が日本語で書いた応答方針と補正案、クライアントの指示を材料に、英文の下書きをAIに作らせると時間を減らせます。期限を取り違えると取り返しがつかないため、下書きの送付希望日と現地の応答期限を分けて書かせる条件は外さないでください。
【指示文10 現地代理人への指示書(英文)の下書き】 あなたは日本の特許事務所で外国案件を担当する補助者です。下の応答方針と補正案、クライアントの指示をもとに、現地代理人に送る英文の指示書の下書きを作ってください。 条件 ・応答方針に書いていない主張や論点を足さない ・補正の各箇所に、根拠となる明細書の段落番号を明記する ・こちらへの下書きの送付希望日と、現地の応答期限は、下の記載どおりに分けて書き、日付の計算や換算はしない ・現地の法令や運用について判断を求める点は、質問として箇条書きにまとめる ・丁寧で簡潔な英文にし、最後に日本語で要点の対訳を付ける 応答方針と補正案(弁理士が日本語で書いたもの) (ここに貼る。出願番号と出願人名は[本願][出願人]に置き換える) クライアントの指示 (ここに貼る) 下書きの送付希望日(事務所で決めた日) (ここに書く) 現地の応答期限(通知と現地代理人の報告にある記載をそのまま貼る) (ここに貼る)
【出てくる文の例】 Re: [本願] Instructions for the response to the Office Action / official communication Please amend claim 1 to incorporate the switching mechanism recited in claim 2 (support: paragraph [0025] of the specification as filed). Please argue that Reference 1 does not disclose switching the biasing force. Please send us your draft response by [送付希望日]. The official deadline is [現地の応答期限], as stated in your report. Question ・Please let us know whether the above amendment raises any concern under local practice. (日本語の要点)請求項1に請求項2の切替機構を加える補正(根拠は【0025】)、引用文献1に付勢力の切替えの開示がない旨の主張、下書きの送付希望日と現地の応答期限、現地の運用についての質問
- 応答方針にない主張や約束が足されていないか日本語の方針と英文を1行ずつ照らします。丁寧な英文ほど、余計な言い切りが紛れ込みやすくなります。
- 根拠の段落番号が、出願先の明細書の番号と合っているか日本語の明細書と英文の明細書で段落番号がずれていないかを確かめます。
- 下書きの送付希望日と現地の応答期限が、記載と一致しているか2つの期限を入れ替えて書いていないかも、送る前に必ず見ます。
指示書の下書きは送る前に弁理士が読み、方針にない主張や約束が混ざっていないかを確かめることになります。現地代理人からの質問に答える返信も、同じ条件で下書きさせることが出来ます。
商標の指定商品・役務の整理
商標の出願では、クライアントの事業の説明から指定商品・役務の候補を書き出させ、表示の書き方を整える下準備にAIが使えます。区分や類似群コードの当てはめは、特許庁が公表している資料で弁理士が確かめる前提で使ってください。
特許庁のアクション・プラン令和7年度改定版でも、指定商品・役務調査は令和7年度の技術実証の対象に挙がっています。入れる材料は、クライアントの事業内容の説明、取り扱う商品やサービスの一覧、今後広げる予定の事業のメモです。発表前の商品名やサービス名は出願前の段階では秘密の情報なので、[商標案]に置き換えて入れると安心でしょう。
【指示文11 指定商品・役務の候補の書き出し】 あなたは日本の商標実務の補助者です。下の事業の説明から、商標[商標案]の出願で指定する商品・役務の候補を書き出してください。 条件 ・いま行っている事業と、今後予定している事業を分けて書く ・候補ごとに想定される区分を挙げ、「区分は要確認」と付ける ・類似群コードは書かない(弁理士が特許庁の資料で当てる) ・表示があいまいになりやすい候補(「〜等」「〜関連」など)には【表示の見直しが必要】と付ける ・事業の説明に書かれていない商品・役務を足す場合は、先頭に【追加の提案】と付けて分ける 事業の説明 (ここに貼る。会社名は[出願人]に置き換える)
【出てくる文の例】 いま行っている事業 ・菓子の小売(区分は要確認) ・菓子に関する情報の提供【表示の見直しが必要】 今後予定している事業 ・菓子づくりの教室の開催(区分は要確認) 【追加の提案】 ・菓子のオンラインでの小売(事業の説明では通信販売の予定に触れていない)
- 区分と類似群コードを、特許庁の資料で当て直したかAIが挙げた区分は候補として扱い、そのまま願書に写しません。
- 【追加の提案】を、クライアントの事業計画と照らしたか使う予定のない商品・役務まで広げると、費用も手間も増えてしまいます。
- あいまいな表示を、受け付けられる書き方に直したか「〜等」のような表示は、弁理士が具体的な商品・役務に置き換えます。
先行商標の調査結果をAIに読ませて類否まで判断させる使い方は、判断の根拠が見えにくいため避けたほうが無難です。類否の見立ては弁理士が書き、AIには調査結果の一覧を見やすく並べ替える程度を任せると、役割の線引きが分かりやすくなります。
クライアントへの報告メール
拒絶理由通知の報告や登録の知らせのように型の決まったメールは、弁理士が書いた要点から文面を整えさせると、書く時間を減らせます。入れる材料は、弁理士が箇条書きで書いた報告の要点と期限、クライアントに決めてもらうことの3つになります。
要点を書くのは弁理士で、AIが整えるのは言い回しと順番だけ、という分担にすれば、誤った説明が混ざる余地はずいぶん小さくなるでしょう。期限や見通しを足させない条件は、指示文に必ず入れておきましょう。
【指示文12 拒絶理由通知の報告メール】 あなたは特許事務所の担当者です。下の要点だけを使って、クライアントの知財担当者に送る報告メールの本文を書いてください。 条件 ・宛名は[担当者]様、差出人は[事務所名]の[担当弁理士]とする ・最初の3行で、届いた通知の種類、ご指示をいただきたい期限、クライアントに決めてほしいことを書く ・特許庁への応答期限(法定期限)と、事務所へのご指示期限は、行を分けて別々に書き、取り違えない ・要点にない見通し(登録の見込みなど)を書かない ・専門用語には、初めて出てくるところでかっこ書きの短い説明を付ける ・期限の日付は要点のとおりに書き、曜日は付けない ・前置きのあいさつは1文にとどめる 要点(弁理士が書いたもの) ・通知:拒絶理由通知(進歩性)。対象は請求項1〜3 ・引用文献:2件 ・方針案:請求項2の切替機構を請求項1に加える補正で応答したい ・特許庁への応答期限:[応答期限] ・ご指示期限:[ご指示期限] ・期間延長:[期間延長の可否と費用] ・決めてほしいこと:補正で権利範囲が狭まることを了承いただけるか
【出てくる文の例】 [担当者]様 いつもお世話になっております。[事務所名]の[担当弁理士]です。 [本願]について、特許庁から拒絶理由通知(進歩性がないという指摘)が届きました。請求項2の切替機構を請求項1に加える補正(請求の範囲を直す手続)で応答したいと考えており、権利の範囲が狭まる点をご了承いただけるかを、[ご指示期限]までにお知らせください。 ・ご指示期限:[ご指示期限] ・特許庁への応答期限:[応答期限] ・期間の延長:[期間延長の可否と費用] 通知では、請求項1〜3について、引用文献2件をもとに進歩性がないと指摘されています。
- 応答期限とご指示期限を、特許庁の通知と事務所の期限管理の記録で照らしたか2つの期限が入れ替わっていないかも見ます。AIが曜日や日数を計算すると、もっともらしい誤りが入ることがあります。
- 要点にない見通しや約束が入っていないか「十分に登録が見込めます」のような一文が足されていないかを読みます。
- 宛先と案件の取り違えがないか置き換えた表記を実名に戻す段階で起きやすい誤りです。
置き換えた表記を実名に戻す作業は、送信の直前に、案件管理の記録を見ながら1件ずつ済ませてください。戻し忘れた[担当者]がそのまま届くと、クライアントにはAIで作った文だとすぐ分かってしまいます。
クライアントの合意の取り方|委任契約書に足す一文と個別メール
クライアントの合意は、委任契約書や、企業クライアントとの秘密保持契約・取引基本契約の覚書に一文を入れて包括で取り、AIを使わない案件だけを一覧で除外する形が現実的です。個別のメールは、新しいクライアントや、包括の合意の範囲から外れる使い方のときに送ります。ガイドライン第4章4は、学習に使われない場合でも、クライアントの側で生成AIの利用を制限していることがあると述べています。
谷氏も、GrIPの取材記事の中で、事務所という組織にAIを広げるときにはクライアントの承諾が壁になると指摘していました。先方の知財部に独自の生成AIの指針がある場合は、先方の指針を優先しましょう。次の文例は、事務所の契約書の書式や顧問の弁護士の意見に合わせて直して使ってください。
委任契約書・秘密保持契約の覚書に足す一文
【委任契約書・覚書に足す一文(例)】 第◯条(生成AIの利用) 受任者は、本件業務の遂行のため、次の条件をすべて満たす生成AIサービスに限り、委任者から開示を受けた情報を、資料の整理、文書の下書き、翻訳の下訳と点検の補助に利用することがある。 一 入力内容を学習に利用しない設定または契約であること 二 提供者が入力内容について秘密保持の義務を負う旨を、受任者が利用規約または契約で確認していること 利用する生成AIサービスの名称は、委任者の求めに応じて書面で通知する。入力した情報が保管される場所が日本国外である場合は、その旨もあわせて通知する。委任者が生成AIの利用について独自の指針を定めている場合は、当該指針を優先する。委任者は、案件ごとに生成AIサービスの利用を拒むことができ、その場合、受任者は当該案件の情報を生成AIサービスに入力しない。生成AIサービスの出力は、受任者の弁理士が内容を確認したうえで使用する。
この一文は、すでに結んでいる契約にあとから足すより、新しい委任や契約の更新のときに説明して入れるほうが、クライアントの理解を得やすくなります。委任契約書の条文にするか、企業クライアントとの秘密保持契約・取引基本契約の覚書にするかは、相手との契約の作りに合わせて決めましょう。
新しいクライアントや包括の範囲外で送る個別メール
【件名】[案件名]での生成AIの利用についてのご確認 [担当者]様 いつもお世話になっております。[事務所名]の[担当弁理士]です。 [案件名]の明細書の作成にあたり、次の範囲で生成AIを使わせていただきたく、ご確認をお願いいたします。 1 使う作業:発明提案書とヒアリング内容の整理、請求項と実施形態のたたき台、翻訳の点検の補助 2 入力する情報:発明の内容(貴社名・発明者のお名前・型番は記号に置き換えます) 3 使うサービス:[サービス名](入力が学習に使われない契約で、秘密保持の条項を確認済みです) 4 確認:AIの出力はすべて担当弁理士が確認し、そのまま提出・送付することはありません 5 記録:入力した日と内容の範囲を、案件の記録に残します ご了承いただける場合は、このメールへのご返信でお知らせください。生成AIを使わずに進めることもできますので、ご希望があればお申し付けください。
合意を記録する1行
包括の合意はクライアントごとに1行、AIを使わない案件は除外の一覧に1行、という形で案件管理の表に残しておくと、後から聞かれたときに答えやすくなります。所内の案件管理の表に、次のような列を足すだけで足ります。
【合意の記録(例)】 クライアントの一覧:クライアント|包括の合意の日|根拠(委任契約書・覚書・返信メール)|範囲(整理・たたき台・翻訳の点検)|先方の指針の有無 除外の一覧:所内の案件管理番号|AIを使わない理由(先方の指示など)|記録した日 個別の合意:所内の案件管理番号|合意した日|方法(返信メール)|範囲|使うサービス|確認した弁理士
合意の範囲を外れる作業、たとえば翻訳の点検だけ合意をもらった案件で請求項のたたき台を作るときは、改めて確認を取ってください。範囲を記録しておけば、所員の誰が担当を引き継いでも同じ判断が出来ます。
AIを使わないでほしいと言われたとき
クライアントからAIを使わないでほしいと言われた案件は、案件管理の表に印を付け、担当が替わっても分かるようにしておきます。その案件では、置き換えた表記であっても発明の中身をAIに入れず、報告メールの言い回しを整える使い方も控えると決めておけば迷いません。断られた案件の作業時間をAIを使った案件と分けて記録しておくと、見積もりの見直しにも役立てることが出来ます。
AIの出力で弁理士が必ず確かめる点|ハルシネーションの点検表
AIの出力は文章が整っているほど誤りに気づきにくいため、毎回同じ項目を同じ順で見ていく点検表を所内で持つと安心です。ガイドライン第5章1も、理路整然とした回答の中に誤りが入っている可能性を常に意識するよう述べています。
- 符号と請求項の対応請求項の構成要件ごとに、明細書と図面の符号が1つに決まっているか。同じ符号が別の部材に振られていないかも見ます。
- 先行詞「前記」「当該」が付いた語が、その前に出てきているか。従属項の引用先を変えたときに崩れやすくなります。
- 用語の統一同じ部材を「付勢部材」「弾性部材」「ばね」と呼び分けていないか。翻訳では対訳表の訳語にそろっているか。
- 実在しない文献番号・段落番号・判例AIが挙げた公報番号や判例は、J-PlatPatや判例の原典で必ず引き直す。存在しない番号が混ざることがあります。
- 古い情報・改訂前の情報審査基準、手数料、期間の説明は、AIが学んだ時点より後に改訂されていることがあります。特許庁の現行のページで確かめます。
- 印のない書き足し発明者の説明にない数値・材料・効果が、【追加の提案】の印なしで本文に入っていないか。補正案では、出願当初の明細書に同じ内容が書かれているかを見ます。
- 翻訳での取り違え訳抜け、単数と複数、係り受け、権利範囲が変わる訳語の選び方。
- 置き換えの戻し忘れと取り違え[発明A][担当者]などの表記が残っていないか、別の案件の名前に戻していないか。
AIが出した文献番号や段落番号には、存在しない番号や、別の文献の番号が混ざることがあります。文献番号はAIの出力をそのまま使わず、J-PlatPatなどで必ず引き直しましょう。審査基準や料金、期間の説明も、AIが学んだ時点より後に改訂されていることがあるため、特許庁の現行のページで確かめることになります。
点検の一部を別のAIに手伝わせる
点検表のうち機械的な項目、たとえば先行詞や符号の対応は、たたき台を作ったのとは別のAIに洗い出させる方法もあります。洗い出しの結果は候補の一覧として扱い、直すかどうかは弁理士が原文を見て決めてください。
【指示文13 請求項の形式の点検】 あなたは日本の特許明細書の点検者です。下の請求項と符号の一覧を読み、次の点だけを確かめて一覧にしてください。文の書き直しはしないでください。 確かめる点 ・「前記」「当該」が付いた語のうち、それより前に出てきていないもの ・同じものを別の言葉で呼んでいる箇所 ・引用している請求項の番号が存在しない、または自分より後の番号になっているもの ・符号の一覧にない符号や、同じ符号が別の部材に使われている箇所 ・数値範囲の上限と下限が、請求項どうしで食い違っている箇所 出力の形 請求項の番号|該当の語句|気づいた点 請求項 (ここに貼る) 符号の一覧 (ここに貼る)
書き直しをさせず指摘だけを返させるのは、AIが直した文に新しい誤りが混ざるのを避けるためです。指摘の多い請求項ほど、たたき台の段階の指示文に足りない条件があったと考えて、指示文2の条件を見直してみましょう。
特許事務所の所内ルールのひな形
所内ルールは、使ってよいツール、入れてはいけない情報、使ってよい業務、クライアントの合意、出力の確認、記録の6つを1枚にまとめると、補助者まで同じ線で動けます。第77条の義務は補助者や事務の方にも及ぶため、ルールの対象は弁理士だけにしないでください。
【特許事務所の生成AI利用ルール(ひな形)】 1 対象:所属する弁理士、技術者、翻訳者、事務職員、派遣や外部の補助者を含む全員 2 使ってよいツール:別表のツールだけを使う。別表には、契約の種類、学習の扱い、秘密保持の条項、データの保管場所、商用利用の可否、規約を確かめた日と確かめた人を書く 3 入れてはいけない情報 ・クライアントの合意がない案件の、未公開の発明・明細書・クライアントのコメント ・別表にないツールへの、すべての案件情報 ・置き換えていない氏名・住所・出願番号・社名・型番 4 使ってよい業務:ヒアリングメモの整理、請求項・実施形態のたたき台、検索語の候補、公報の対比表、意見書の骨子、翻訳の突き合わせ、指定商品・役務の候補、報告メールの文面 5 使わない業務:新規性・進歩性・類否の結論、期限の計算、手数料の計算、AIの出力をそのまま特許庁やクライアントへ出すこと 6 クライアントの合意:委任契約書・覚書による包括の合意を確かめ、AIを使わない案件は除外の一覧で管理する。包括の範囲外の使い方は、個別に確認して記録する。先方に独自の指針があれば先方の指針を優先する 7 出力の確認:担当弁理士が点検表で確かめる。請求項と意見書は、所長または指定したレビュー担当も読む(1人の事務所では、日を置いて読み直す) 8 記録:合意は案件管理の表に、利用はツールのログに残す。手で書くのは、ログに残らない事項(入れた情報の範囲、確認した人、クライアントへの説明)だけにする 9 退所・異動:アカウントを止め、案件の記録は事務所に残す 10 見直し:ツールの規約と別表は、四半期ごとに確かめ直す
ひな形の5は、AIに任せない線をはっきりさせるための項目になります。期限や手数料の計算は間違えたときの損が大きいうえ、AIがもっともらしい数字を返しやすい作業なので、事務所の期限管理の仕組みに任せたほうがよいでしょう。別表は所長か決めた担当者が持ち、ツールを足すときは別表を直してから使い始める決まりにしてみてください。
【使ってよいツールの別表(例)】 ツール名|契約の種類(法人/個人)|学習の扱い|秘密保持の条項の場所|データの保管場所|商用利用の可否|使ってよい業務|規約を確かめた日|確かめた人
別表の「使ってよい業務」の列は、判断表のどの列に当たる環境かを書き込む欄として使うと、所員が迷わずに済みます。規約が改定されたと気づいたときは、確かめた日を書き換えるまで、そのツールでの新しい案件の利用を止めておくと安全でしょう。
汎用のAIと特許業務の専用ツール、事務所での標準化
ChatGPTやClaudeのような汎用のAIと、明細書作成などに絞った専用ツールは、どちらが上というより、業務と事務所の規模で使い分けるものと考えると整理しやすくなります。取材記事の谷氏の例でも、請求項の案出しには専用ツール、セミナー準備での実施形態の書き起こしにはClaudeと、場面で道具が分かれていました。谷氏自身は、個人では月数万円をかけて汎用のClaudeを使い、明細書以外の業務にも使っていると取材記事は伝えています。
専用ツールは特許の書式に沿った出力が得やすい半面、使える業務が限られ、事務所でまとめて入れるかどうかの判断が要ります。汎用のAIはヒアリングの整理から報告メールまで1つで回せる分、指示文と点検表を事務所でそろえなければ、使う人によって出来がばらつくことになってしまいます。どちらを選んでも、指示文と点検表を所内の共通の型にすることが先になります。
令和7年7月18日の開催として案内された知的財産セミナー(主催 福山商工会議所(備後知財経営研究会))の案内では、講師のたかやま特許商標事務所 所長の高山嘉成氏について、ChatGPTを活用した知財DXに精力的に取り組んでいると紹介されています。セミナーの内容には、ChatGPTを活用した知財業務の具体例として、特許・商標・契約が挙げられていました。地域の事務所でも、汎用のAIを特許だけでなく商標や契約の業務に広げる動きが出てきていることがうかがえます。
標準化を始めるときは、まず1つの業務に絞って全員で同じ指示文を使い、点検で見つかった誤りを指示文の条件に書き足していくやり方を試してみてください。個人の達人技を事務所の力に変えるには、うまくいった指示文を共有の置き場に集めることが近道になるでしょう。
所内で始める順番
始めるときは、守秘の心配がない材料で指示文を試し、ルールと合意の文例を整えてから実案件に広げる順番が、無理のない進め方になります。目安として、次の4段で進めてみてください。
- 研修の課題や公開済みの自分の案件で指示文を試し、点検表で見つかった誤りを指示文の条件に書き足す
- 使ってよいツールの別表を作り、利用規約の学習・秘密保持・保管・商用利用の条項を確かめて日付を書く
- 委任契約書の一文と個別メールの文例を事務所の書式に直し、所内ルールを補助者まで含めて説明する
- 合意の取れた案件から、ヒアリングメモの整理や報告メールのように確かめやすい業務で使い始める
請求項や意見書のように権利の範囲に直結する業務は、点検の手順が所内に根づいてから広げても遅くはありません。最初の数件は、AIを使った案件と使わなかった案件で手直しにかかった時間を記録しておけば、続けるかどうかを数字で判断しやすくなります。
報酬の説明と新人の育成
AIで作業時間が短くなった分の扱いは、所内で説明をそろえておかないと、クライアントごとに言うことが変わってしまいます。短くなった時間は応答の速さと検討できる案の数で返す、という説明に統一しておけば、報酬の話になったときも答えやすいでしょう。新人の弁理士には、請求項1をまず自分で書かせ、その後でAIの案と比べさせる順番を守ってみてください。最初からAIの案を直す練習だけでは、発明を切り出す力が育ちにくくなります。
特許事務所で安全にAIを使うには
事務所でAIを安全に使うには、学習に使わせない扱い、利用の記録、所員へのアカウントの配布と停止、複数のAIの使い分け、クライアントへの説明のしやすさの5つを、個人任せにしないことが出発点になります。個人のアカウントの寄せ集めでは、このどれもが一人ひとりの設定と記憶に頼る形になってしまいます。
- 学習に使わない扱いを、管理者が全員分そろえられるか補助者の1人が個人のアカウントで使えば、その分だけ合意の前提が崩れます。
- 誰が・いつ・どのAIを使ったかを、事務所の側で残せるか利用の記録はツールのログに任せ、案件ごとに入れた情報の範囲は案件の記録として残す、と分けておくと、クライアントに聞かれたときの答えの根拠になります。
- 所員へのアカウントの配布と、退所のときの停止を事務所で出来るか第77条の義務は、従業者であった者にも及びます。退所した後に会話の履歴が個人の手元に残る形は避けたいところです。
- 業務に合わせて複数のAIを切り替えられるかたたき台と点検を別のAIにさせる、調べものはWeb検索に強いAIを使う、といった分け方が1つの環境で出来るかを見ます。
- データの保管場所と、秘密保持の条項をクライアントに説明できるか委任契約書の一文や個別メールに、そのまま書ける内容かどうかが目安です。
複数のAIを1つの環境で使う形の全体像はマルチAIとはで、所員が個人のアカウントで使う問題はシャドーAI(野良AI)とはで整理しています。所内ルールを規程の形に広げるときは生成AIの社内ガイドラインの作り方、点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストも参考になるでしょう。
特許事務所のAIを、1つの契約と1つの管理画面で
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約・1つの画面で切り替えて使える法人向けサービスです。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・使うモデルのON/OFFを管理できます。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
弁理士が出願前の発明を生成AIに入れると、守秘義務に反しますか?
生成AIに入力すると、発明の新規性は失われますか?
学習に使わせない設定にすれば、クライアントの合意は要りませんか?
AIに請求項を書かせても大丈夫ですか?
先行技術調査をAIに任せられますか?
日本弁理士会に生成AIのガイドラインはありますか?
まとめ
弁理士のAI活用は、文章化と整理をAIに任せ、発明の見極めと出力の確認、最後の責任を弁理士が持つ分担から始まります。出願前の発明を入れるなら、弁理士法第30条・第77条の守秘義務と、特許法第29条第1項の新規性の2つを先に片付け、学習の有無によらずクライアントの合意を取ることになります。
業務ごとの使い方は、ヒアリングメモの整理、請求項と実施形態のたたき台、検索語と公報の対比表、意見書の骨子、翻訳の突き合わせ、指定商品・役務の候補、報告メールの文面でした。どの指示文も、置き換えた表記で入れ、点検表で確かめる前提で作ってあります。
判断表と所内ルール、合意の文例をそろえておけば、補助者まで同じ線で動くことが出来ます。法人のAI活用のほかの記事はAI活用コラム一覧をご覧ください。
