大学の生成AI導入。文部科学省の通知と、教職員の利用ルール・契約前の確認項目

大学の生成AI導入とは、ChatGPTやGeminiなどの生成AIを、学生の学びと教職員の業務の両方でどう使わせるかを大学として決め、使う環境を整えることです。先に手を付けたいのは、学生向けの指針よりも、教職員が入力してよい情報の線引きと、学習に使わせない契約になっているかの確認になります。文部科学省も2023年7月13日の周知で、教員の教材開発や大学事務の運営への利活用に触れています。同じ悩みを抱える企業の総務・情報システム担当の方にも、そのまま当てはまる内容となります。

文部科学省の通知(2023年7月13日)が大学に求めていること

文部科学省の周知は、各大学が教育の実態に応じて主体的に対応を検討し、指針を作って見直し続けることを求めています。正式名は「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)」で、高等教育局の専門教育課と大学教育・入試課が、国公立大学法人や学校法人などの担当課に宛てて出した事務連絡になります。別紙では、各大学の既存の指針や有識者の見解を踏まえて、利活用が想定される場面例と留意すべき観点がまとめられています。対象は主にChatGPTのような文章生成AIで、内容は現時点の状況を踏まえたものと明記されている点も見逃せません。

別紙に書かれている4つの留意点

  • 生成AIと学修活動・成績評価の関係。出力をそのまま使ってレポートなどを作ることは一般に不適切とされ、出力に著作物がそのまま含まれていた場合は、意図せずとも剽窃に当たる可能性があると書かれています。
  • 生成AIの技術的限界。確率的に次の語句を選んで文章を作る仕組みのため、虚偽やバイアスが含まれる可能性があり、インターネット検索と同様に出力の確認・裏付けが必要とされています。
  • 機密情報や個人情報の流出・漏洩の可能性。機密情報や個人情報を安易に入力しないこと、生成AIの種類によっては入力を学習に使わせない(オプトアウト)ことが出来ることが挙げられています。
  • 著作権に関する留意点。授業の範囲内であれば著作権法第35条により許諾なく複製や公衆送信が出来る一方、広くホームページに掲載するなどの場合は著作権者の許諾が必要とされています。

事務局にとって見落とせないのは、機密情報の項目に「特に教職員が生成AIを利活用する際には」という一文がある点です。学生だけでなく教職員の入力も、大学の情報セキュリティの指針と個人情報保護法に沿って扱う必要があります。脚注では、デジタル社会推進会議幹事会の申合せ(2023年5月8日)から、約款型の外部サービスでは原則として要機密情報を扱えないとする記述が引かれています。無料の個人向けサービスで学内の文書を扱う運用を見直すうえで、根拠として使いやすい記述でしょう。

通知が大学事務に触れている箇所

別紙は学生の利活用に続けて、教員による教材開発や、効果的・効率的な大学事務の運営への利活用にも触れています。あわせて、取組事例や懸念を教職員間で共有することが有効とされ、FD・SD(教員・職員向けの組織的な研修)を含めた対応も期待されている形となります。学生向けの指針を作って終わりにせず、教職員の使い方も同じ枠組みで決めていくものと受け止めましょう。

※通知の内容は、2026年9月28日に文部科学省の報道発表ページ(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2023/mext_01260.html)と別紙PDFで確認したものです。

学生の生成AI利用率は8割台(2026年の調査)

大学生にとって生成AIはすでに日常の道具になっており、使わせるかどうかより、どう使わせるかを決める段階に来ています。サイバーエージェント次世代生活研究所の「世代別の生成AI利用実態調査」(2026年7月13日〜31日・全国を対象としたインターネットリサーチ・小学生からゆとり世代までが対象・スクリーニング調査10,000サンプル、本調査1,648サンプル・同年9月15日発表)では、生成AIを日常的に利用している大学生の割合は82.4%でした。高校生の83.3%とほぼ同じ水準で、Z世代の社会人56.7%、ゆとり世代54.6%を大きく上回る結果となっています。

同じ発表によると、日常的に使う生成AIが3種類以上ある大学生も19.9%に上ります。この調査を報じたWeb担当者Forumの記事(2026年9月25日、Yahoo!ニュースに転載)では、大学生の日常的な利用サービスはChatGPTが67.2%、Geminiが44.6%とされました。入学してくる学生は、高校の段階ですでに生成AIを使い慣れていると考えたほうが自然でしょう。

一方で、この調査は同社による自己申告形式のインターネット調査であり、大学ごとや学部ごとの内訳は示されていません。自校の実態を知りたい場合は、学内アンケートで使っているサービス名と用途まで聞いてみてください。教職員にも同じ聞き方をすると、大学が把握していない利用、いわゆる野良AI(シャドーAI)が学内にどの程度あるかが見えてきます。

※数値は同社の発表(2026年9月15日)と、それを報じた記事によるもので、第三者による検証を経たものではありません。2026年9月28日に同社のニュースページで確認しました。

大学が契約している生成AIサービスの実例(東京大学・京都大学)

東京大学と京都大学の例では、全学で契約している生成AIはGoogleやMicrosoftの契約に含まれるものが中心で、ChatGPTを全学では契約していない大学もあります。どのサービスを誰に開放しているかを公式ページで公開している大学もあり、自校で一覧を作るときの手本になります。

東京大学(utelecon・2026年3月時点の情報)

東京大学の情報システムの総合案内サイトuteleconは、全学構成員向けのチャット形式のサービスとして、GeminiとMicrosoft 365 Copilot Chatの2つを挙げています。どちらも大学のアカウントで有償契約相当の基本的な機能が使え、データ保護について一定の規約が定められていると説明があります。同じページには、ChatGPTについては全学での契約はないとも明記されており、よく問い合わせがある点だとわかります。

アプリに組み込まれたAIとしては、Zoom AI Companion、Slack AI、Webex AI、Slido AIなどが全学で契約している例として並び、TeamsのCopilotは検証に参加する一部の教職員に限って提供されています。データ保護の条項はユーザー自身でも確認し、場合によっては明示的にオプトアウトの操作が必要になるかもしれない、という注意書きが添えられているのも特徴です。

京都大学(情報環境機構・2025年10月時点の情報)

京都大学の情報環境機構は、教職員や学生が使える生成AIサービスとして、Google WorkspaceのGeminiとNotebookLM(いずれも教職員限定)、Microsoft 365のCopilot Chat、有償のCopilot for Microsoft 365を紹介しています。DX推進室が提供するexaBase(職員限定)や、機構が直接提供する文字起こしサービスkWhisper(教職員限定)も並んでおり、事務職員向けに別のサービスを用意している例として参考になります。同機構は、大学との契約に基づくGeminiやCopilot Chatについて、入力内容がAIの学習に使われない設定になっているとGoogle社・Microsoft社から説明を受けていると記しました。

それでも、機関契約でも、入力してよいのは同じ大学の他者の目に触れても差し支えない内容に限るのが望ましいという慎重な立場を取っている点は見逃せません。2つの大学に共通しているのは、使えるサービスを大学として名前で示し、どの利用者にどこまで開放するかを分けていることです。自校で同じ一覧を作るときも、サービス名と対象者(学生・教員・職員)、入力してよい情報の上限の3つを並べて書いてみてください。

※東京大学は2026年3月時点、京都大学は2025年10月時点の各大学の公開情報で、2026年9月28日に各ページ(https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/online/topics/generative-ai/ 、https://www.iimc.kyoto-u.ac.jp/ja/info/20251212141618 )で確認しました。提供状況は変わることがあります。

東大・京大のほかの導入事例(大阪大学・東北大学・デジタルハリウッド大学)

大学の生成AI導入は、事務部門から始めた例と、学生まで全学に配った例に分けて見ると整理しやすくなります。大阪大学の例では、大学のアカウントでの利用、入力内容を学習に使わせないこと、利用量の把握が仕組みに組み込まれていました。

大阪大学:全学の事務部門 約1,600名に導入(2024年5月)

大阪大学は2024年5月、全学の事務部門の約1,600名を対象に、科学情報システムズの「Knowledge Stack」の本格導入を始めました。大学のプレスリリース(2024年5月30日)では、国立大学法人の事務部門への導入規模としては最大級と説明されています。大学専用のAzure環境でAzure OpenAI Service(GPT-3.5、GPT-4)を使う形で、入力したデータは国内の閉域サーバで管理され、学習にも使われない仕組みになります。

事務局の目線で参考になるのは、アカウントと利用量の扱い方でしょう。学内のMicrosoft 365のアカウント(Microsoft Entra ID)と多要素認証で連携していて、採用者の利用開始や退職者の利用停止も自動で処理されるため、システム側で別にアカウントを管理する必要がなくなります。利用者ごとの利用量を見える形にし、一定の量を超えた人には制限をかけられる機能も備えています。今後については、GPT以外のモデルも使えるようにすることや、学内規程・通知文書をもとに答えるRAG(検索拡張生成)を入れる予定が書かれていました。

東北大学:ChatGPTを事務業務に導入(2023年5月)

東北大学は2023年5月18日、全国の大学に先駆けてChatGPTを導入したと発表しました。まずはさまざまな事務分野で使い、業務の高度化と効率化を進めるという内容になります。教育・研究での活用も視野に入れながら、セキュリティや運用体制を整えていく方針も示されています。

その後、2024年3月29日には、同年4月から大学のホームページなどで動かしている14のチャットボットに生成AIを組み込むと発表しました。前もって想定した質問と答えの組を作り込む従来の方式とちがい、登録したデータから生成AIが必要な情報を探して答えるので、運用の手間とコストが大きく減ると見込んでいます。学内公募で集まった若手職員のチームが中心になって進めてきた、という体制も事務局には参考になるでしょう。

デジタルハリウッド大学:Claudeを全学生・全教職員へ(2026年11月から)

デジタルハリウッド大学は2026年10月14日、Anthropic社の「Claude」を全学に導入し、全学生と全教職員(専任教員と全職員)が11月から使えるようにすると発表しました。同大学の調べ(2026年10月時点の国内大学の公表例)では、国内の大学でClaudeを全学導入するのは初めてとのことです。学生は大学が発行するアカウントで、利用量や費用を気にせずに使えると説明されています。

同大学は9月から、複数の生成AIを共通の基盤から使える「全学AI基盤」を動かしており、Claudeはその選択肢の1つとして加わる形となります。大学運営でも、事務業務の効率化や学生対応に使う想定です。成果物にAIを使ったことの申告や、第三者の著作物・個人情報の扱いについての学内規程も、あわせて整えていくと書かれていました。

※大阪大学は同大学のプレスリリース(2024年5月30日)、東北大学は同大学の報道発表(2023年5月18日・2024年3月29日)、デジタルハリウッド大学は同大学のプレスリリース(2026年10月14日・PR TIMES掲載)で、2026年10月16日に確認しました。いずれも各大学の発表によるもので、効果を第三者が検証したものではありません。

生成AIに入力してはいけない情報の線引き

入力してはいけない情報は、個人を特定できる情報と大学の機密情報の2つが軸で、学習に使われない設定があっても入れない情報を先に決めておくことが大切です。京都大学の「教育・学修における生成AI利用に関するガイドライン」(2026年3月11日 教育担当理事裁定)は、学生向けの別紙で入力する情報を3つに分けて例を挙げています。

  • 【A】そもそも入力すべきではない情報。氏名、マイナンバー、パスポート番号・在留カード番号、顔写真などの個人の識別性が極めて高い情報や、銀行口座番号・クレジットカード番号などの金融情報、住所・電話番号・私的メールアドレスなどの連絡先情報。
  • 【B】入出力に慎重な取り扱いを要する情報。個人の識別につながらない形のプライバシー関連の情報、未発表の研究データなどの機密情報、著作物や肖像。
  • 【C】入力してよい情報。一般論としての学習相談、架空事例の検証、レポート構成の相談、プログラミングの一般的な質問、語学学習の例文づくりなど、【A】【B】に当たる情報を含まないもの。

注目したいのは、オプトアウト設定がされていても【A】の情報は基本的に入力すべきではない、とはっきり書かれている点になります。学習利用の有無によって、即時的な漏洩や不正利用の被害が実質的に軽くなるわけではない、というのがその理由とされています。

教職員の場合は個人情報保護法の確認も

教職員が学生の成績や相談記録、入試の情報を扱う場合は、学生本人の入力とは別の重さで考える必要があります。個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日)は、個人情報取扱事業者と行政機関等のそれぞれに、個人情報を含むプロンプトを入力するなら利用目的の範囲内かを十分に確認するよう求めています。さらに、入力した個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合は法の規定に違反する可能性があるとして、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認することも求められます。

大学は設置の形態によって当てはまる区分が異なりますが、どちらの区分でも機械学習に使わせないことの確認が前提になる点は変わりません。事務局としては、学生の氏名や学籍番号と成績・相談内容を組み合わせた情報は、外部の生成AIに入れない情報として明記しましょう。入力してよい情報の一覧を含むルール文書のひな形は、生成AIの社内ガイドラインの作り方でも紹介しています。

※京都大学のガイドラインと個人情報保護委員会の注意喚起は、2026年9月28日に各公式ページ・PDFで確認しました。

学習に使わせない設定(オプトアウト)の考え方と確認項目

オプトアウトとは、入力した内容を生成AIの学習に使わせないようにする設定や契約のことで、文部科学省の別紙も、生成AIの種類によってはこれが出来ると触れています。京都大学のガイドラインによれば、学習に使われるタイプのサービスでは、入力した情報が他の人の出力に含まれてしまうおそれがあります。そのうえで、オプトアウトの信頼性や機密保護の確実性は一般的に、学内に閉じたサービス、大学全体で契約した外部サービス、個人で契約したり無償で使えたりするサービスの順に高いと考えられる、と整理されています。学習に使われないことは情報漏洩のリスクがゼロであることを意味しない、という注意が同じページに添えられている点にも気を付けたいところです。

京都大学情報環境機構による4つの分類

京都大学情報環境機構の解説(2025年12月15日掲載)は、生成AIサービスをデータの保存場所と他者向けの学習利用の有無で4つに分けています。

  • ①個人向けクラウド型サービス。データの保存場所は学外で、他者向けの学習利用は原則あり、クラウド利用のリスクは高いとされ、有償であっても学習利用されるケースがあると注記されています。
  • ②組織向けクラウド型サービス。保存場所は学外、学習利用は原則なし、リスクは中程度で、契約で保護されていても絶対に漏洩しないとは限らないとされています。
  • ③クラウド独自環境構築型サービス。クラウドの基盤の上に専用の環境を作る形で、学習利用はなし、リスクは低いと整理されています。
  • ④ローカル独自環境構築(ローカルLLM)。学内に環境を置く形で、クラウド利用のリスクはない一方、モデルやライブラリの汚染(サプライチェーンリスク)に注意が必要とされています。

個人向けのサービスは有償であっても学習に使われる場合がある、という記述は、教職員が自費で契約したサービスを業務に使う場面で特に意識したいところです。組織向けの契約でも、約款に基づく契約の形を取るものや、提供側の都合で内容が変わるものがあるとされ、サービスごとの確認が欠かせません。

契約前に確かめたい学習利用の確認項目

  • 入力データを学習に使わないことが、文書に明記されているか営業担当の説明だけでなく、契約書・利用規約・データ保護の文書のどこに書かれているかを確認します。
  • 学習に使わない設定が、組織の単位で一律に適用されるか利用者ごとの操作に任せる方式では、設定漏れが起きても気づきにくくなります。
  • 会話履歴やアップロードしたファイルの保存期間と、削除の方法学習に使われなくても、履歴として一定期間残る場合があります。
  • 規約や仕様が変わったときに、知らせる仕組みがあるか京都大学情報環境機構は、約款の内容が提供側の都合で変わることがあるため、定期的に確認する必要があるとしています。
  • 外部のストレージとの連携を許すかどうか同機構は、大学として契約するクラウドストレージから別の生成AIサービスへの連携利用を、現時点では許可していないと説明しています。
  • 不具合や操作ミスでの漏洩も想定して、入力の上限を決めたか契約で守られることと、どんな事態でも守られることは別の話になります。

項目のうち、後から変えにくいのは、学習に使わせない設定を組織の単位で一律にかけられるかどうかです。利用者ごとの設定に頼る形では、1人の設定漏れがそのまま大学の情報の流出につながってしまいます。教職員の人数が多い大学ほど、この差は大きく効いてきます。

学習に使わせない設定を、一人ひとりの操作に任せないために

学習に使わせない設定を利用者ごとの操作に頼らず、使う環境を組織で1つにそろえる方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

剽窃・学術不正と、AI判定ツールの限界

AIが書いた文章かどうかを判定するツールは、結果を過信せず、成績評価の決め手にしないことが大切になります。文部科学省の別紙は、判定ツールを学修成果の評価等に活用する場合でも、その結果を過信しないことが重要だと明記しています。同じ別紙は、出力に著作物がそのまま含まれていることに気付かずレポートに使うと、意図せずとも剽窃に当たる可能性にも触れており、学生に悪意がなくても問題になりうる点に注意が必要になります。

評価の工夫として別紙が挙げるのは、利活用した旨や生成AIの種類・箇所を明記させること、小テストや口述試験を併用することなどです。京都大学のガイドラインも、生成AIで容易に解答できる課題を避け、筆記試験や口頭説明、実演などを組み合わせる工夫を教員に期待しています。判定ツールの結果だけで不正と決めつけず、本人に確かめる手順を規程に入れておきましょう。

別紙は、生成AIの種類が有料版か無料版かによって成果物に差が生まれうることにも留意するよう付け加えています。学生の使える環境に差があると、評価の公平性そのものが揺らいでしまいます。大学として全員が同じ条件で使える環境を用意することは、この公平性の面からも意味を持ちます。

ハルシネーション(もっともらしい誤り)への備え

ハルシネーションとは、生成AIが事実と異なる内容をもっともらしく出力してしまう現象のことで、教職員の業務でも学生の学修でも、出力の裏付けを人が取る前提で使うことになります。文部科学省の別紙は、大規模言語モデルが確率的に次の語句を選んで文章を作る仕組みであるため、虚偽やバイアスが含まれる可能性があるとして、インターネット検索と同様に出力を確認・裏付けする必要を挙げています。京都大学のガイドラインでも、出力結果を常に疑い、一次資料に基づく厳格な検証を行うことが、学生に求められる対応として挙げられます。

学生の側の意識については、前述のサイバーエージェント次世代生活研究所の調査で、AIの回答には嘘や間違いが混ざることがあると常に意識している割合が、中学生56.1%、高校生71.1%でした。大学生の数字は発表の本文には示されていないため、学内で同じ問いを聞いてみるのもひとつの方法でしょう。

事務の現場でできる工夫

事務で使う場合は、規程や制度の説明をAIに書かせたら、必ず原本の規程と突き合わせる手順を決めておきたいところです。学外に出す文書にAIの出力を使うときは、原本との照合と承認を必ず人が行いましょう。同じ質問を2つの異なるAIに投げ、答えが食い違った箇所を人が確認する使い方も有効となります。AIごとの得意・不得意は主要4AIの違いと使い分けで整理しています。

生成AIの利活用が推奨される場面(学生・教員・事務)

通知や大学の指針を並べると、生成AIが役に立つのは答えを出させる場面ではなく、考えや作業を補助させる場面だという点で一致しています。文部科学省の別紙は、有効と想定される場面として、ブレインストーミング、論点の洗い出し、情報収集、文章校正、翻訳やプログラミングの補助を例に挙げました。九州大学の「教育における生成AIの利活用に関する基本姿勢」(2023年8月23日)は、推奨される場面として次の4つを示しています。

  • アイデアを出す段階や議論の途中で、新たな視点・足りない視点を見つける。
  • 英会話の相手にするなど、自身の語学トレーニングの中で活用する。
  • 授業の中で一定のテーマに沿って様々なプロンプトを入力し、出力を確認・比較して生成AIの特徴と効果的な使い方を考える。
  • 自身が作成したプログラミングコードの検証に使う。

教員の場面としては、別紙が挙げる教材開発のほか、京都大学が期待する多様な課題づくりの補助も考えられます。

大学事務で試しやすい業務

事務の業務では、個人情報を含まない文書から始めるのが無理のない順番となります。例えば次のような業務は、入力する内容を公開済みか機密性の低い情報に限りやすい場面といえます。

  • 学内向けのお知らせや案内文の下書き、分かりやすい言い回しへの書き換え
  • 留学生向けの案内文を英語などに訳すときのたたき台づくり
  • 公開済みの資料や機密性の低い会議資料の要約
  • 規程・マニュアルの目次案づくりや、読みやすさの校正
  • 表計算ソフトの関数やマクロの書き方の相談

反対に、入試の合否に関わる情報や学生の成績・健康の記録は、機関契約のサービスでも入力しない側に置くのが安全です。別紙も、取組事例や懸念を教職員間で共有することが有効だとしています。うまくいった使い方と失敗した使い方を部署の間で持ち寄ると、同じ失敗を繰り返さないようになります。

教員の生成AI利用方針をシラバスで示す

九州大学や京都大学の指針では、授業ごとの利用方針を担当教員が決め、シラバスなどで事前に学生へ示す形となります。九州大学は、授業担当教員が授業の目的に照らして生成AIの使用ルールを定めることができ、定めたルールはシラバスなどで学生に明示するものとしています。京都大学のガイドラインは、方針の例として「積極的に利用する」「利用を一部認める」「利用を認めない」の3つを挙げ、利用を必須とする科目や認めない科目では、その旨をシラバス等で事前に明示するのが望ましいとしました。利用を推奨する科目でも、使いたくない学生が不利にならないよう代替案を用意することまで、同じガイドラインは教員に期待しています。

桜美林大学の「学生の生成AI利活用に関する基本方針」は、適切な利用方法を身に付けることは有益だとして、一律に生成AIの利用を禁止することはしないと明言している例となります。

事務局が用意しておきたいもの

教員一人ひとりに文言を任せると、同じ大学の中で表現がばらばらになってしまいます。シラバスに貼り付けられる3段階の定型文を、教務の担当部署で用意しておくと親切でしょう。定型文には、使ってよい場面、使った場合に明記すること、入力してはいけない情報の3点を入れてみてください。

教職員の業務利用ルールの作り方

教職員の業務での利用ルールは、学生向けの指針とは別の文書として、情報セキュリティの規程と結び付けて作るのが進めやすい形です。学生向けの指針は学びの本質や成績評価が中心になるのに対し、業務の利用では扱う情報の格付けと、使ってよいサービスの範囲が主な論点になってきます。京都大学情報環境機構の解説も、学内の情報格付けの基準に沿った取り扱いを、生成AIの利用でも徹底するよう求めています。

ルールづくりの5つの手順

  1. 使ってよいサービスを名前で決め、対象者(教員・職員・学生)を分ける。
  2. 入力してよい情報の上限を、学内の情報格付けの区分と対応づける。
  3. 業務で使う場面と使わない場面を、部署ごとに例示する。
  4. 出力を使うときの確認の手順(原本との突き合わせ、学外に出す文書の承認)を決める。
  5. 見直しの時期と、迷ったときの相談窓口を決める。

最初から全部署に同じ細かさで決める必要はありません。まずは広報や総務のように定型文の多い部署で試し、出てきた疑問を手順3の例示に足していく進め方が現実的でしょう。文部科学省の別紙が求める継続的な見直しも、この手順5で回していくことになります。

個人で契約したサービスを業務に使ってよいかどうかも、同じ文書ではっきり決めておきましょう。禁止だけを書くと見えない利用に流れやすく、使ってよい環境をあわせて示すことが欠かせません。点検する項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストも参考になります。

データの保管場所と契約形態の確認項目

学習に使わせない設定と並んで確認したいのが、入力した内容や会話履歴がどこに保存され、どういう契約で守られるのかという点です。京都大学情報環境機構の解説は、外部サービスへの情報の渡し方を、第三者提供と業務委託の2つに大きく分けて整理しています。業務委託であれば情報の権利は委託元に残りますが、そのためには契約で扱い方を定めておく必要があり、内容が不十分なら第三者提供と同じように見なされる要因が残る、というのが同機構の説明になります。利用者が約款に同意するだけの約款型サービスでは、情報の扱いを細かく調整することは難しいとも書かれています。契約で守られることになっていても、どんな事態でも守られるとは限らない点は覚えておきたいところです。

保管場所について確かめたいこと

  • 会話履歴・アップロードファイル・利用ログが保存される国と事業者サービスの画面を提供する事業者と、AIモデルを提供する事業者が別の場合は、それぞれについて確認します。
  • AIモデルでの処理がどの国で行われるか保存場所と処理の場所は同じとは限りません。分けて説明を受けられるかが目安になります。
  • 提供事業者が別の事業者のAIを呼び出す場合の、保存の有無と期間呼び出し先での入力データの扱いは、呼び出し先の事業者の仕様に従うことがあります。
  • 学内の情報格付けや個人情報の規程と照らした、置いてよい情報の上限保管場所が国内でも、置いてよい情報の範囲は学内の規程で決まります。
  • 解約や退職のときにデータを消す手順と、消したことの確認方法京都大学の情報セキュリティ対策基準も、委託先での情報の返却や消去を確実に行うことを求めていると、同機構は紹介しています。

公的なチェックリストを使う

自校でゼロから確認項目を作る必要はありません。京都大学情報環境機構は、クラウドサービスの選定の参考として、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)のクラウドサービスリストと、国立情報学研究所の学認クラウド導入支援サービスが提供するチェックリストを挙げています。学認クラウド導入支援サービスは大学・研究機関が機関単位で申し込む無料のサービスで、NIIの検証済みのチェックリスト回答を参考に各クラウドサービスの内容を確認できる、と案内されている点も助かります。高い要件を満たすサービスほど費用も高くなる傾向があるため、扱う情報に見合った要件で選ぶことを同機構は勧めています。

※京都大学情報環境機構の解説は2025年12月15日掲載で、同日時点の情報に基づくと明記されています。学認クラウド導入支援サービスの申請条件・料金は、2026年9月28日に公式ページ(https://cloud.gakunin.jp/foracademy/ )で確認しました。

組織で安全に使うには:配布・ログ・複数AIの使い分け

組織として安全に使える状態とは、学習に使わせない設定が全員に効いていて、誰がどのAIを使ったかを大学側で把握でき、必要な人に行き渡っている状態を指します。3つのうち1つでも欠けると、残りの2つを整えても見えない利用が残ってしまいます。

必要な人に行き渡らせる

一部の教職員にだけ配ると、配られなかった人が個人のアカウントで使い始めることがあります。東京大学が教職員向けのCopilot in Teamsを検証参加者に限っているように、段階的に広げる判断そのものは自然なものです。そのうえで、まだ配っていない人に対しては、使ってよい機関契約のサービスを案内しておくと、見えない利用を減らしやすくなります。

利用ログを大学側で持つ

利用ログとは、誰が・いつ・どのAIを使ったかの記録のことで、個人向けのサービスでは組織の側から取得できないのが一般的です。記録があれば、規程に沿った使われ方をしているかの確認や、問題が起きたときの調べに使うことが出来ます。入力内容まで見るかどうかは、教職員への説明と規程の整備を先に済ませてから判断しましょう。

複数のAIをまとめて扱う

東京大学がGeminiとCopilot Chatの両方を全学に提供しているように、1つのAIに絞らず複数を使い分ける考え方も広がっています。ただし、サービスごとに契約すると、設定の確認やアカウントの停止をサービスの数だけ繰り返すことになってしまいます。複数のAIを1つの契約と1つの管理画面で扱う方法は、マルチAIとはで詳しく整理しています。どの形を選ぶ場合でも、教育機関として求める条件を満たすかどうかは、提供事業者に個別に確かめてから決めてください。

教職員が使うAIを、1つの契約と1つの管理画面で

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よくある質問

大学で生成AIを使うことは文部科学省から認められていますか?
文部科学省は2023年7月13日の周知「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて」で、各大学が教育の実態に応じて主体的に対応を検討し、指針を作って見直していくことを求めています。別紙では、ブレインストーミングや文章校正などの有効な場面と、成績評価・誤情報・情報漏洩・著作権の留意点がまとめられています。
学生の生成AIの利用率はどのくらいですか?
サイバーエージェント次世代生活研究所の調査(2026年7月実施・本調査1,648サンプル・同年9月15日発表)では、生成AIを日常的に利用している大学生は82.4%でした。同社による自己申告形式のインターネット調査のため、自校の実態は学内アンケートで確かめることをおすすめします。
学習に使われない設定になっていれば、個人情報を入力してもよいですか?
よいとは言えません。京都大学のガイドラインは、オプトアウト設定がされていても、氏名やマイナンバーなど個人の識別性が極めて高い情報は基本的に入力すべきではないとしています。学習に使われないことは、情報漏洩のリスクがゼロであることを意味しない点にも注意が必要です。
AIが書いた文章かどうかを判定するツールで、不正を見抜けますか?
判定の結果だけで判断するのは避けたほうがよいでしょう。文部科学省の別紙は、判定ツールを評価に使う場合でも結果を過信しないことが重要だとしています。利用した旨の明記や、小テスト・口述試験の併用など、評価の方法を組み合わせる工夫が挙げられています。
学生向けと教職員向けで、ルールは分けたほうがよいですか?
分けて作るほうが運用しやすくなります。学生向けは学修や成績評価が中心になり、教職員の業務利用では扱う情報の格付けや使ってよいサービスの範囲が主な論点になるためです。教職員向けは、学内の情報セキュリティの規程と結び付けて作ると整合が取りやすくなります。
大学が契約する生成AIのデータはどこに保管されますか?
サービスと契約によって異なるため、契約前に会話履歴・ファイル・利用ログの保存場所と、AIの処理が行われる場所を分けて確認する必要があります。京都大学情報環境機構は、クラウドサービス選定の参考としてISMAPのクラウドサービスリストや、国立情報学研究所の学認クラウド導入支援サービスのチェックリストを挙げています。

まとめ

大学の生成AIの扱いは、文部科学省の2023年7月13日の周知を土台に、各大学が自ら指針を作って見直していく形で進んでいます。学生の日常的な利用はすでに8割台とする調査もあり、事務局にとっての課題は、学生向けの指針に加えて教職員の業務利用をどう整えるかに移ってきました。入力してはいけない情報の線引き、学習に使わせない設定の確認、データの保管場所と契約形態の確認、そして教職員向けルールと利用ログの整備が、組織として押さえたい柱となります。

導入の費用を抑えたい場合は、デジタル化・AI導入補助金の対象になるかも確かめておきましょう。

東京大学や京都大学のように、使ってよいサービスを名前で示し、対象者を分けて公開する形(京都大学は入力してよい情報の上限も明記)は、規模の小さな大学や企業でもそのまま参考に出来ます。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧をご覧ください。