
生成AIのセキュリティガイドラインとは、生成AIを業務で使うときの情報漏えいや攻撃への備えを、国や公的機関が資料にまとめたものです。このうち総務省が2026年3月に公表した技術的対策のガイドラインは、想定読者がAIの開発者と提供者で、AIを使うだけの会社に向けては書かれていません。使う側の会社が主に読むのは、AI事業者ガイドライン第1.2版のAI利用者向けの部分と、IPAの情報セキュリティ10大脅威2026で組織編3位に入ったAIの利用をめぐるサイバーリスクの解説、社員研修向けのIPAの豆知識になります。どれも、使う側が開く箇所は資料の一部に限られます。
生成AIで起こり得るリスクの全体と、会社として取る対策の一覧は生成AIのセキュリティ(7つのリスクと会社の対策)にまとめています。ここでは、公的な資料のどれを、どこまで読めばよいかに絞って整理していきます。
使うだけの会社が読む資料は、立場で決まる
公的資料の読み分けは、自社がAIの開発者・提供者・利用者のどれに当たるかで決まります。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインは、事業活動でAIシステムやAIサービスを利用する事業者を「AI利用者」と定めています。ChatGPTやClaudeを契約して社員に使わせるだけの会社は、この区分に入ることになります。
一方、AIモデルやAIシステムを作る会社はAI開発者、それを組み込んだサービスを社内外に提供する会社はAI提供者に当たります。同じ会社が複数の立場を兼ねることもあり、2026年3月の更新内容の資料では、コード生成AIなどの支援でAIシステムを作って提供した場合は利用者と提供者を兼ねると整理されています。社内向けのチャットボットを自作した会社は、提供者向けの資料にも目を通しておくと安心でしょう。
立場ごとに読む資料をまとめると、次のようになります。
- 利用者(使うだけの会社):AI事業者ガイドライン第1.2版の第1部・第2部・第5部と別添、IPAの10大脅威2026解説書の3位の節、IPAのAI利用者のためのセキュリティ豆知識
- 提供者(社内外にAIの仕組みを出す会社):上の資料に加えて、総務省のAIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン
- 開発者(AIモデルやシステムを作る会社):上の資料に加えて、総務省のガイドラインのうち開発者向けの対策
社内で作業を分けるなら、総務や情シスの担当者は利用者向けの3つを先に読み、自作のAIツールがある場合だけ総務省の資料に進む順番にしてみてください。
公的資料の早見|発行元・版・想定読者・使う側が読む箇所
公的なセキュリティ資料の多くは、使う側の会社ではなく、開発者・提供者や行政職員に向けて書かれています。検索で目に付く資料を開いても、自社に当てはまる箇所が見つからないのはこのためです。資料ごとの発行元・版・想定読者と、使う側が読む箇所を1つの表にまとめました。
| 資料 | 発行元・版/公表日 | 想定読者 | 使う側が読む箇所 |
|---|---|---|---|
| AI事業者ガイドライン | 総務省・経済産業省/第1.2版・2026年3月31日 | AIの開発・提供・利用を担う全ての事業者(公的機関を含む) | 第1部・第2部・第5部(p.40-41)と別添。点検は別添7のチェックリスト |
| 情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編] | IPA/10大脅威の公表は2026年1月29日、解説書は2026年3月版・64ページ | 組織。対策は経営者層と、システム管理者・従業員に分けて記載 | 3位 AIの利用をめぐるサイバーリスクの節(p.16-18) |
| AI利用者のためのセキュリティ豆知識 | IPA(セキュリティセンターとAISIが作成)/2026年4月2日公開・24ページ | AIやセキュリティの専門知識を持たない利用者 | 全体。社内研修の教材に |
| 生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書 | IPAのサイトで公開(中核人材育成プログラムの成果物)/2026年7月・99ページ | セキュリティ担当者 | 2.3.2 シャドーAIへの対応方針、2.4.1 実態把握、6.3 入力の統制とログ |
| テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン | IPAのサイトで公開(中核人材育成プログラム7期生の成果物)/2024年7月・102ページ | AI利用者のうち、組織が管理する生成AIを導入・運用・管理する担当者 | 第3章 導入、第4章 運用(有効期限は発行日から2年) |
| AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン | 総務省/令和8年3月・2026年3月27日公表・25ページ | AI開発者・AI提供者 | 2章 脅威の例(使う側は社員の注意点に読み替える) |
| 行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920) | デジタル庁/第2.0版・2026年6月12日 | 国の政府職員 | 別紙2 利活用ルールひな形、別紙4 契約チェックシートを書き方の見本に |
| テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版) | デジタル庁/初版2024年5月29日・ページ最終更新2025年6月6日 | 政府情報システムへの生成AI導入に関わる行政職員 | 使う側が読む箇所は少ない |
| 東京都AI導入・活用ガイドラインに基づく生成AI利用の手引き | 東京都デジタルサービス局/Version 1.0・令和8年(2026年)3月30日・22ページ | 東京都職員 | 2章 利用時のチェックポイント(4点) |
※2026年10月15日時点で各公表元のページが公開中であることと版を確認し、内容は2026年9〜10月に各資料の本文で確認したものです。IPAの中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版(2026年3月27日)は、公表ページとプレス発表の本文ではAIの記載を確認できなかったため表に入れていません。
表の上から3つが、使う側の会社が最初に読む資料になります。4つ目と5つ目は、社内で導入や運用を担う担当者が手順を詰めるときに役立ちます。デジタル庁と東京都の資料は行政職員向けですが、ルールの書き方の見本としては参考に出来ます。
総務省のガイドライン(2026年3月)は開発者・提供者向け
総務省のAIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドラインは、AIを作る側と提供する側のための資料になります。本編の1.3では、想定読者をAI事業者ガイドラインが定義するAI開発者とAI提供者としています。AI利用者は想定読者に含まれておらず、対象とするAIも主にLLM(大規模言語モデル)を組み込んだAIシステムになります。
公表は2026年3月27日で、2025年12月26日から2026年1月29日までの意見募集に寄せられた52件の意見を受けて確定版として出されました。検討は2025年9月から、サイバーセキュリティタスクフォースの下に置かれたAIセキュリティ分科会で進められてきた経緯があります。
中身は、攻撃の可能性が比較的高いとされるプロンプトインジェクション攻撃とDoS攻撃(サービス拒否攻撃)への対策が中心となります。そのほかの脅威として、データポイズニング攻撃、細工をしたモデルの導入を通じた攻撃、モデル抽出攻撃も挙げられています。対策の多くはシステムプロンプトの作り方やガードレール(入出力を検証する仕組み)、RAGの権限管理といった提供者側の設計の話で、契約して使うだけの会社が自分で手を入れられる部分ではありません。
それでも、使う側が読んでおきたい箇所は2つあります。1つは2章の脅威の例で、社員がどんな場面でだまされるかを知る材料になります。もう1つは3.1で、営業秘密に触れた記述が置かれています。秘密としたいデータを適切に管理しているAIシステムを利用者が使えば、漏えいしても不正競争防止法の営業秘密のうち秘密管理性の要件を満たし、保護を受けられるものと考えられるという内容です。保護を受けるには有用性と非公知性の要件も必要だと、脚注で補われています。
管理されたAIを会社で選ぶかどうかが、営業秘密として守られるかにも関わってきます。なお、本編は対策を実装しても脅威の要因を完全に排除するのは困難だとして、複数の対策を重ねてリスクを下げる考え方を示しました。AIエージェントやMCP(AIと外部のツールをつなぐ仕組み)で生じる脅威は、扱う脅威と質的に異なることも想定し、必要に応じて追補する方針も書かれています。
AI事業者ガイドライン第1.2版で、使う側が読む箇所
使う側の会社が土台にするのは、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインになります。最新は2026年3月31日の第1.2版で、2024年4月19日の第1.0版から第1.01版、第1.1版と更新が重ねられてきました。対象は事業活動でAIの開発・提供・利用を担う全ての者で、会社の規模で外す記載はありません。
本編の7ページには、AI利用者は第1部・第2部・第5部と別添を確認するよう書かれています。具体的な取り組みがまだ決まっていない事業者には、別添の記載例が参考になるとの案内もあります。第5部はAI利用者向けの指針で、本編の40〜41ページの2ページに次の7つの項目がまとまっています。
- 安全を考慮した適正利用
- 入力データ又はプロンプトに含まれるバイアスへの配慮
- 個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策
- セキュリティ対策の実施
- 関連するステークホルダーへの情報提供
- 関連するステークホルダーへの説明
- 提供された文書の活用及び規約の遵守
このうち使う側の社内ルールに直結するのは、個人情報の入力、セキュリティ対策、規約の遵守の3つでしょう。出力を特定の個人や集団の評価の参考にするときは、AIを使っている旨を対象者に知らせ、人間の判断のもとで説明責任を果たすよう書いています。人事評価や採用の場面でAIを使う会社は、ここを読み落とさないようにしましょう。
本編はソフトロー(法的な拘束力のない指針)として作られていて、細かな義務を並べる形ではありません。ゴールを示して自主的な取り組みを促す考え方がとられており、入出力のログを合理的な範囲で記録・保存することも、方法や保存期間は各社で検討する形になっています。2025年9月に全面施行されたAI推進法も、活用事業者の責務は国の施策への協力などで、現行の条文を確認した範囲では罰則規定は見当たりません。
自社の取り組みを点検するなら、別添7のチェックリストが使いやすいでしょう。共通の指針を要約した9問と、広島AIプロセスの国際指針の12項目が並び、検討用のワークシートも用意されています。2026年3月12日の更新内容の資料では、AIガバナンスをこれから始める方々に向けた活用の手引き(案)とチャットボットも示されました。各部の詳しい読み方はAI事業者ガイドライン第1.2版の要点で扱っているため、ここでは使う側が開くページだけを押さえておいてください。
10大脅威2026の3位|会社のAIがない職場で起きること
IPAの情報セキュリティ10大脅威2026では、組織編の3位にAIの利用をめぐるサイバーリスクが初めて選ばれました。順位は、情報セキュリティの研究者や企業の実務担当者など約250名からなる10大脅威選考会が、審議と投票を経て決めたものになります。1位はランサム攻撃による被害、2位はサプライチェーンや委託先を狙った攻撃で、AIはその次に入りました。
2026年3月の解説書[組織編]は、3位の節で、職場に許可なくAIを業務に使うことによる情報漏えいの可能性を挙げています。解説書によると、職場でAIサービスの利用が無い場合などに、従業員が個人的に使っているAIサービスを業務に持ち込むことがあり、これがシャドーAIに当たります。持ち出しが禁止されている業務データをそこに入力すれば情報漏えいにつながり、職場が個人アカウントでの業務利用を把握できないこと自体もリスクだとされています。
対策の欄は、AI事業者ガイドラインでいうAI利用者の対策を想定していると最初に断ったうえで、経営者層と、システム管理者・従業員に分けて整理されているのが特徴になります。経営者層向けには、シャドーAIを避けるためのAIサービス利用の検討と、未許可のAIサービス利用の禁止が並んで書かれています。個人アカウントでの業務利用の制限や、入力データを学習対象から外すオプトアウト設定の徹底も、同じ欄の箇条にあります。
禁止と、会社として使える環境の検討が、同じ欄に並んでいる点は見逃せません。AIを禁止するだけで公認の環境がない職場では、個人のAIに業務データが流れやすくなってしまいます。解説書は、米国のAI企業の調査(出典はThe Hacker Newsの記事)として、業務で生成AIにデータを貼り付けて入力している利用者が77%おり、そのうち82%が組織に管理されていないアカウントによるものだったという数字も引いています(調査の母数は解説書に記載がありません)。
社員の側から見れば、会社がAIを用意していなければ、手元の個人アカウントで済ませたくなるのは自然な流れでしょう。ルールを作る前に、まず社員が業務で使ってよい公認の環境があるかどうかを確かめてみてください。
禁止だけで終わらせず、社員が業務で使ってよいAIを会社の契約で用意する方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
公的資料が挙げるリスクは4つに整理できる
公的資料に書かれた使う側のリスクは、情報漏えい、誤った出力、権利侵害、攻撃の4つにまとめることが出来ます。資料ごとに言葉は違いますが、指している中身はほぼ重なっています。
- 情報漏えい:業務データや個人情報をAIに入力し、外に出てしまうリスク。10大脅威2026の解説書と、IPAの豆知識の1つ目の項目(クラウドAIに営業秘密は教えない)が扱っています
- 誤った出力:AIが架空の情報を事実のように示すハルシネーション(もっともらしい誤り)。10大脅威の解説書は、手軽さから過剰に依存し、誤った結果をうのみにするおそれに触れています
- 権利侵害:既存の著作物に似た生成物を公開してしまうリスク。東京都の生成AI利用の手引きは、既存の作品に似せるプロンプトで類似物が生まれると侵害になる可能性を挙げています
- 攻撃:プロンプトインジェクションのようにAIをだまして不正な出力をさせる攻撃と、AIを悪用したソーシャルエンジニアリング(人をだます手口)。総務省のガイドラインと10大脅威の解説書が扱っています
4つのうち、社員の行動で防げる部分が大きいのは情報漏えいと誤った出力の2つになります。攻撃は提供者側の設計に頼る部分が多いものの、社員の注意で減らせる場面もあるため、次の節で読み替えていきます。リスクそれぞれの詳しい中身と対策の一覧は、冒頭で案内した記事を参照してください。
プロンプトインジェクションの例を、社員の注意点に読み替える
プロンプトインジェクションとは、AIに細工した指示を読ませて、本来の指示とは違う動きをさせる攻撃のことです。総務省のガイドラインは、細工したプロンプトを直接入力する直接型と、細工したデータをAIに参照させる間接型の2つに分けて説明しています。直接型の例には、指示の上書き、ロールプレイ、特殊な入力形式、別のタスクへの置き換えが並びます。
使う側の社員にとって身近なのは、間接型のほうでしょう。総務省の資料は間接型の例として、細工したファイルをWeb上に用意しておく方法と、細工した電子メールを送り、AIがそのメールを参照したときに不正な出力を誘発する方法を示しています。どちらも、社員がWebページの要約やメールの整理をAIに頼む、ごく普通の場面で起こり得るものです。
2026年7月の手引書も、Microsoft 365 Copilotで見つかったEchoLeakを事例に挙げています。細工したメールを送るだけで、利用者が操作しなくても機密情報が流出しうる状態だったとされます。手引書によると、Microsoftは2025年5月に修正しました。
総務省の資料の例を社員の行動に直すと、次の5つになります。
- 外部のWebページをAIに要約させた結果を、指示として扱わない要約の中に、送信や削除を促す指示めいた文が混ざっていたら、従わずに担当者へ知らせます。細工したファイルをWeb上に用意する手口への備えになります。
- 社外から届いたメールや添付ファイルを、社内の資料と同じ会話で読ませない細工したメールをAIに参照させる手口への備えです。IPAの豆知識にも、RAG(社内資料を読ませて答えさせる仕組み)使用時は混ぜるな危険という項目があります。
- AIブラウザは社内用と社外用を分ける豆知識は、閲覧中のページを生成AIと共有するAIブラウザについて、不正なプロンプトへの対策が不完全なため、常用のものでは社内ポータルなど重要な情報にアクセスしないよう勧めています。
- AIの出力に含まれるリンクや連絡先を、そのまま開かない・送らない間接型の狙いは不正な出力を誘発することにあるため、出力の中の行き先や宛先は人が確かめます。
- AIに外部ツールの操作まで任せる設定は、管理者の許可制にする総務省の資料は、AIエージェントやMCPで生じる脅威は扱う脅威と質的に異なることも想定し、必要に応じて追補するとしています。
外から読み込ませた文章は、AIにとっては指示にもなり得ると覚えておきましょう。細かな手口まで社員が覚える必要はなく、研修ではこの1点を伝えるだけでも十分でしょう。
IPAのサイトの手引書類は、位置づけと有効期限を確かめて読む
IPAのサイトで公開されている資料には、IPAが組織として出したものと、IPAの人材育成プログラムの成果物が混ざっています。10大脅威は選考会が審議と投票で決めたもので、2026年4月2日公開の豆知識はIPAのセキュリティセンターとAISIが作成しました。一方、手引書とガイドラインの名前が付いた2つの資料は、産業サイバーセキュリティセンターの中核人材育成プログラムのプロジェクトによる成果物になります。
2026年7月の生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書は、免責事項で、内容はIPAと産業サイバーセキュリティセンターの意見を代表するものではなく、著者の見解に基づくと明記しています。有効期限は発行日から2年とされ、業種・規模・IT環境・リスク許容度に応じた判断が必要だとも書き添えられました。2024年7月のテキスト生成AIの導入・運用ガイドラインも同じ趣旨の免責を置いていて、有効期限は発行日から2年間です。発行月から数えると2026年7月で期限を迎える計算となり、同じ月に新しい手引書が公開されています。
手引書類を引用するときは、IPAのサイトで公開された成果物と書き分けましょう。IPAが定めたガイドラインと書いてしまうと、取引先や監査の場で出典を説明するときに困ってしまいます。
位置づけを知ったうえで読めば、2つの資料は使う側の担当者にとって中身の濃い参考書になります。2024年版は、AI事業者ガイドラインのAI利用者のうち、組織が管理する生成AIを導入・運用・管理する担当者に焦点を当てた資料です。2026年版はシャドーAIへの対応方針や入力の制御、ログの持ち方まで具体的に書かれていて、ルールの作り方や技術的対策を考えるときに役立ちます。
報道された事故の例と、公的資料の対策との対応
生成AIの事故として繰り返し取り上げられるのは、業務データの入力と、確かめないまま出力を使った例の2種類になります。どちらも、公的資料の対策の欄にある項目で防げた可能性がある点で共通しています。
社内のソースコードを入力した例
2023年3月、韓国のサムスン電子で社員が社内のソースコードをChatGPTに入力していたと現地メディアが報じ、同社は5月に会社の端末などでの生成AI利用を制限したとTechCrunchなどが報じました。3月30日の報道では、入力の事故が3件起きたとされています。2026年には、研修などの条件つきでChatGPT Enterpriseを社員に配る形に切り替えたという報道もあります。
10大脅威の解説書が経営者層に挙げる個人アカウントでの業務利用の制限や、教育の箇条にある社内の秘密情報等を安易に入力しないことが、この例に当てはまる対策になります。会社が公認の環境を用意したうえで使い方を決め直した流れとしても、参考になる例でしょう。
実在しない判例を提出した例
報道によると、米国では2023年6月22日、ニューヨーク南部地区の連邦地裁が、確認しないまま生成AIの出力を使って実在しない判例を引用した弁護士2人と事務所に、連帯で5,000ドルの制裁金を科しました。相手方が引用された判例を見つけられないと指摘したことで、発覚したとされます。
10大脅威の解説書が教育の項目に挙げる、ハルシネーションが存在することを理解し、AIへの過剰な依存に留意するという対策が、そのまま当てはまる例になります。社外に出す文書ほど、出力を人が確かめる工程をルールに書いておきたいところです。
公的資料から社内ルールを作る手順
社内ルールは、公的資料を一から読み込むより、使う側向けの箇所を拾って自社の言葉に直していくほうが早く仕上がります。2024年版の導入・運用ガイドラインは、導入の段階を構想策定、要件定義、リスクアセスメント、システムの選定、利活用ガイドラインの策定の順に並べ、運用の段階に利活用ガイドラインとユーザーへの教育を置いています。これを社員10〜200名の会社向けに縮めると、次の5段階になります。
- 実態をつかむ:誰がどのAIを、どの契約で、何に使っているかを聞き取ります。2026年の手引書の表2-3は、製品名・提供事業者・契約形態・利用目的・入力データの種別・出力の利用先を把握する項目に挙げています
- 公認の環境を決める:会社として業務に使ってよいAIと契約を決めます
- ルールの草案を作る:AI事業者ガイドライン第5部と10大脅威の解説書の対策から、1行ずつ起こします
- 関係する部署で確かめる:総務・情シス・法務・人事で、実際に運用できるかを確かめます
- 周知と教育をする:IPAの豆知識を教材にして、全員に説明します
1の実態把握について、手引書は最低でも年1回とし、大型アップデートや重大なインシデント、ガイドラインの改定のときにも追加で実施するよう書いています。手引書は過度に厳しいルールがシャドーAIの増加を招くとも指摘しており、ここでは禁止事項を並べる前に、2の公認の環境を決める順番にしてあります。ひな形から作り始めたい場合は、生成AIの社内ガイドラインのひな形と作り方を土台にしてみてください。
資料の要求を社内ルールの1行に落とす例
公的資料の文言はそのままでは社員に伝わりにくいため、社内ルールでは1つの要求を1行の行動に直します。資料の要求と、社内ルールの1行、確かめる担当の組み合わせを例として並べました。
- 業務で使うAIは、会社が契約したものだけにする根拠:10大脅威2026解説書の経営者層の箇条にある、未許可のAIサービス利用の禁止。確かめる担当:情シス
- 個人のアカウントで業務データを扱わない根拠:同じ箇条の、個人アカウントにおける業務利用の制限。確かめる担当:総務と各部門長
- 入力データを学習に使わない設定を、全員分そろえる根拠:同じ箇条の、入力データを学習対象から除外するオプトアウト設定の徹底。確かめる担当:情シス
- 個人情報と顧客の機密は、入力してよい範囲を利用画面に掲示する根拠:AI事業者ガイドライン第5部の個人情報の不適切入力への対策と、2026年の手引書6.3.1のStep1。確かめる担当:情シス
- 社外に出す文書は、AIの出力を人が確かめてから使う根拠:10大脅威2026解説書の教育の箇条にあるハルシネーションの理解と、東京都の手引きのチェックポイント②。確かめる担当:各部門長
- AIで作った画像や文章を公開するときは、既存の作品に似ていないか確かめる根拠:東京都の手引きのチェックポイント③。確かめる担当:広報と法務
- AIサービスの利用規約と約款を、契約の前に確かめる根拠:AI事業者ガイドライン第5部の規約の遵守と、10大脅威2026解説書のAIサービス契約時の約款の確認。確かめる担当:法務と総務
- おかしな出力や誤った入力に気づいたら、その日のうちに窓口へ報告する根拠:10大脅威2026解説書の、被害を受けた後に報告・連絡・相談をする箇条。確かめる担当:情シス
- AIの出力を人の評価に使うときは、本人にAIの利用を伝える根拠:AI事業者ガイドライン第5部の、関連するステークホルダーへの説明。確かめる担当:人事
1行に直すときは、資料の名前と項目を根拠として横に残すようにしてください。見直しのときに元の文言へ戻りやすくなり、取引先から根拠を聞かれたときにも答えやすくなります。条文の形に整える作業は、前の節で紹介したひな形にこの9行を当てはめていくと手早く進められます。
技術的対策は、会社の規模に合わせて段階で入れる
技術的対策は、高価な製品を並べるより、手引書が示す段階のうち手の届くところから始めるのが現実的でしょう。2026年の手引書は、入力の統制を3つの段階に分けて書いています。
- Step1:AIの利用画面に入力してよい範囲を常時表示し、ログイン時にポップアップで警告する。導入の費用が小さく、中核になる対策と位置づけられています
- Step2:マイナンバーやカード番号、社員番号など決まった形の情報を検知して伏せ字にする。誤検知の少ない種類から始めます
- Step3:DLP(情報の持ち出しを止める仕組み)やAIゲートウェイを入れる。機密を扱う部門や高リスクのシステムに絞ります
社員10〜200名の会社なら、Step1が中心になるでしょう。手引書自身も、買収のプレスリリース案のように文脈に埋め込まれた機密はパターンでの検知が極めて難しいと書いていて、最後は社員の判断に頼る部分が残ります。
もう1つの柱はログで、手引書はログを貯めて事後に確かめる段階を、AIシステムを導入するすべての企業が最低限実施すべきレベルとしています。取る項目にはユーザーID・所属・端末・日時・利用サービス・入力・出力が並び、メタデータは長期(例として1年)、プロンプトと出力の本文は短期(例として3か月)で保存する例が示されました。全件を目で見るのは無理なため、重要なシステムのごく一部のログだけでも毎日人が確かめるのが望ましいとも書かれています。
10大脅威の解説書も、通信ログやCASB(クラウドの利用を見える化する仕組み)で管理されていないAIサービスの利用をつかむことや、多要素認証の徹底を挙げました。会社が契約した環境にログが残らなければ、どの対策も後から確かめられません。法人向けのAIを選ぶときは、学習に使わない設定とログの取得を会社側で持てるかを先に確かめてみてください。点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストでも確かめられます。
見直しの時期は、公的資料の更新に合わせる
社内ルールは一度作って終わりではなく、公的資料の改定に合わせて見直す前提で作っておきましょう。AI事業者ガイドラインは自らをLiving Document(定義も含めて適宜更新する文書)と位置づけ、2024年4月から2026年3月までの約2年で4つの版が出ています。総務省のガイドラインもAIエージェントやMCPの脅威は必要に応じて追補するとしており、デジタル庁の政府向けガイドラインも2026年6月に第2.0版へ改定されました。
見直しの時期は、次の4つを目安に決めておくと迷いません。
- 年1回の定期の見直し(手引書が実態把握の最低の頻度として挙げる年1回に合わせる)
- 使っているAIの大型アップデートがあったとき
- 重大なインシデントが起きたとき
- AI事業者ガイドラインなど、参照している資料が改定されたとき
参照している資料の版と確認日を社内ルールの末尾に書いておけば、次の見直しで何が変わったかを追いやすくなります。IPAの手引書類のように有効期限が書かれた資料は、期限の月を見直しの予定に入れておくとよいでしょう。
会社で安全に使うには、公認の環境を先に用意する
公的資料の対策を並べてみると、多くが会社として使うAIを決めていることを前提にしています。学習に使わない設定をそろえることも、ログを残すことも、社員が個人のアカウントで使っている状態では会社から手が届きません。2026年の手引書も、IT部門が安全性を確かめた組織公認AIを全社に、または情報漏えいのリスクが高い部署から優先して提供することを、シャドーAI対策の前提条件の一つと考えると書いています。
公認の環境を選ぶときは、次の4点を確かめてみてください。
- 入力データを学習に使わない設定が、社員ごとの操作ではなく全員に一律でかかるか
- 誰がいつどのAIを使ったかのログを、会社側で確かめられるか
- 一部の人だけでなく、使いたい社員の全員に配れる料金の形か
- 用途に合わせて複数のAIを使い分けられるか
複数のAIを使い分ける考え方は主要4AIの違いと使い分けで、社員が個人で使うAIの全体像は野良AI(シャドーAI)の対策で扱っています。公認の環境が決まれば、ここまでの社内ルールの1行は、その環境の設定と使い方の説明に置き換えて配ることが出来ます。
社員が使うAIを、会社が契約した1つの環境に
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理できます。会話の途中でもモデルを切り替えられ、基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
生成AIのセキュリティガイドラインは、AIを使うだけの会社にも守る義務がありますか?
総務省のAIセキュリティのガイドラインは、使う側の会社も読むべきですか?
IPAのサイトにある生成AIの手引書は、IPAが定めたガイドラインですか?
社員研修には、どの公的資料を使えばよいですか?
AI事業者ガイドラインは、どの版を見ればよいですか?
デジタル庁や東京都のガイドラインは、民間の会社にも当てはまりますか?
まとめ
生成AIのセキュリティガイドラインは、資料ごとに想定読者が違います。総務省が2026年3月に公表した技術的対策のガイドラインは開発者・提供者向けで、使うだけの会社が主に読むのは、AI事業者ガイドライン第1.2版の第1部・第2部・第5部と別添、IPAの10大脅威2026解説書の3位の節、IPAの豆知識の3つになります。
資料の要求は、社内ルールでは1行の行動に直し、根拠の資料と担当を横に残しておきましょう。IPAのサイトの手引書類は中核人材育成プログラムの成果物で有効期限があり、引用するときは書き分けが必要です。そして多くの対策は、会社として使うAIを決めていることが前提になっています。ルールを書き始める前に、社員が業務で使える公認の環境があるかを確かめてみてください。
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