コールセンターはAIでなくなるのか。減る業務と残る業務、窓口の人員の考え方

コールセンターの仕事がAIでなくなるとは、答えが1つに決まる定型の問い合わせからAIに移り、窓口の人数と仕事の中身が変わっていくことです。部署が丸ごと消えるわけではなく、クレームや例外の相談、判断の要る説明は人の手元に残ります。人数は件数の減り方ほどは減らず、仮定の数字で計算すると、件数が4割減っても必要な人は約2割減にとどまる形になります。採用を止める、自然減を待つ、兼務へ振り替えるの順に、数か月測ってから決めていきましょう。

コールセンターはAIでなくなる?部署は残り、人数と中身が変わる

コールセンターや会社の問い合わせ窓口が、部署ごとAIに置き換わる見込みは今のところ薄いでしょう。AIに移っていくのは、営業時間の案内や手続きの進み具合の照会のように、答えが1つに決まる問い合わせからになります。一方で、クレームや例外の相談、契約や料金にかかわる説明は、これからも人が受け持つ仕事として残っていきます。

AIの種類や導入事例、導入の手順などの全体像はコールセンターAIの活用法と事例にまとめてあります。ここで扱うのは、社員10〜200名の会社が自社の窓口の人をAIでどこまで減らせるのか、そもそも減らすべきなのかという1つの問いです。専任の窓口が数名〜20名ほどの会社だけでなく、総務や営業が電話番を兼ねている会社にもそのまま当てはめることが出来ます。

なぜ「コールセンターはなくなる」と言われるのか

なくなると言われる背景には、生成AIが問い合わせの文面を読み取って回答の下書きまで作れるようになったことがあります。窓口は人件費の割合が大きい部門なので、経営者がまずAIで人を減らせないかと考えるのも自然な流れでしょう。チャットやFAQで自分で調べて解決するお客様が増え、電話そのものが減っていくという見方もあります。

ただ、なくなるという言葉が指すものは立場によって違ってきます。経営者にとっては人件費が下がること、現場の担当者にとっては自分の仕事が消えることを指し、報道では業界全体の雇用の話として語られることが多くなります。自社で考えるべきなのは、業界の未来ではなく、自社の窓口のどの仕事が何時間減るかという点です。この先の節では、その時間を見積もるための基準と計算を順に見ていきます。

数字で見るAI導入の現在地|中小の窓口はまだこれから

一般企業のコールセンター部門で働く方へのアンケートでは、生成AIを使ったサービスを導入していると答えた方は、まだ2割ほどにとどまっています。矢野経済研究所が一般企業のコールセンター部門の勤務者に行ったアンケートでは、生成AI活用サービスを導入しているという回答が19.0%、導入していないが予定はあるという回答が30.0%でした。業務別に見ると、導入しているは受注センターが35.3%とやや高く、導入の予定があるはヘルプデスク・問い合わせ対応・営業アウトバウンドが33〜34%台と高めに出ています。

※矢野経済研究所のプレスリリース「コールセンターサービス事業者が提供するAIサービス市場の調査を実施(2026年)」より。出典資料は「2026 コールセンター/BPO業界におけるAIの活用実態と展望」(2026年3月16日発刊、調査期間2025年9月〜2026年3月、直接面談・Webアンケート・文献調査の併用)です。アンケートの回答数はプレスリリースに記載がありません。2026年10月13日時点で各発表元のページで確認しています。

中小規模の窓口では、半数以上が導入の予定もない

同じ調査では、総席数が100席以上の比較的大きな窓口のほうが、導入している割合がやや高いという結果が示されました。99席以下の中〜小規模の窓口では、半数以上が導入しておらず導入の予定もないと答えました。社員10〜200名の会社の窓口は、ほとんどがこの99席以下の規模に当たると考えられます。周りの会社がもう人を減らし終えている、という状況ではまだありません。

同じ調査は、コールセンターサービス事業者が提供するAIサービスの国内市場規模(事業者売上高ベース)が、2024年度に前年度比150.0%の90億円になったとしています。2029年度には313億円に達すると予測されており、導入はこれから広がっていく段階と読むことが出来ます。広がりの条件として、生成AIを窓口の前面で使うときのハルシネーション(もっともらしい誤った回答)のリスクを管理する手法が確立されれば、導入はさらに増えていくとの見方も添えられました。

窓口はむしろ人が足りていない

窓口の現場では、人が余るよりも足りない状態が続いています。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が受託事業者の会員企業を対象に行った「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(会員109社中68社が回答)では、採用に苦労している・やや苦労していると答えた企業が67社中82.1%でした。人員の不足感は、スーパーバイザーが87.9%、コミュニケーター・オペレーターが72.7%(いずれも66社中)で、過剰気味と答えた企業は0社となっています。

矢野経済研究所の発表にも、2023年度はオペレーター人材が不足した状態で、オペレーター業務の自動化ニーズが引き続き拡大したという記述があります。働き手が減っていく中で、AIは人を減らす道具というより、足りない人の穴を埋める道具として入っている面が大きいでしょう。中小の会社でも、窓口の募集をかけてもなかなか人が来ないという悩みは珍しくありません。

電話を選ぶお客様と、チャットやFAQを選ぶお客様

問い合わせの手段は、電話・メール・チャット・LINE・FAQページと広がってきました。若い世代を中心に、電話よりも文字で問い合わせたり、FAQで自分で調べたりするほうを好む方が増えたと言われます。その一方で、高齢のお客様や、急ぎ・込み入った用件では今も電話が選ばれやすく、電話の窓口を閉じてしまうと困る方が出てきてしまいます。

手段が増えると、件数は電話から文字へ移るものの、窓口全体の仕事がそのまま消えるわけではありません。チャットの返信、メールの回答、FAQの更新と、受け持つ場所が分かれていく形になります。電話を残すか、どの用件を文字へ誘導するかは、お客様の年齢層や用件の急ぎ具合を見て決めてみてください。

実在企業の事例は「人を減らした」話ではない

大手の発表を見ると、AIが受け持っているのは窓口の一部の工程です。NTTドコモビジネスは2025年12月16日、三菱UFJ銀行に生成AIを使った発話ベースのルーティング(話した内容から適した窓口へ振り分ける仕組み)を提供すると発表しました。ソフトバンクは2025年11月7日、ワイモバイルの暗証番号照会の業務を音声AIで自動化したと発表しています。

モビルスは2025年3月18日、山陰合同銀行で応対履歴を生成AIが要約・分類し、その結果をオペレーターが確認する形を発表しました。いずれも各社の発表で、人員を何人減らしたかを示したものではありません。振り分け・本人確認・記録づくりの工程からAIに移っている、と読むのが無理のないところでしょう。ほかの事例と導入の流れは、親記事のコールセンターAIの活用法で紹介しています。

減る業務・残る業務・増える業務を分ける4つの基準

AIに移すかどうかは、業務の名前ではなく、次の4つの基準で決めるのが分かりやすい方法です。同じ料金の問い合わせでも、金額を案内するだけなら減る側に、請求の誤りを説明するなら残る側に入ります。

  1. 答えが1つに決まるか(営業時間、手続きの進み具合のように、誰が答えても同じになるか)
  2. 間違えたときの損が大きいか(お金・契約・個人情報・安全にかかわるか)
  3. 相手の感情が絡むか(怒り・不安・おわびが要る場面か)
  4. 後で言った・言わないになりやすい説明か(契約の条件、料金の変更、解約の扱いなど)

1つ目が当てはまり、2〜4つ目が当てはまらないものが、AIに移しやすい業務になります。2〜4つ目のどれかが当てはまるものは人に残し、AIは下書きや記録の補助に回すのが安全です。窓口でよく出る業務を、この基準で仕分けた例を下に置きました。

業務の例答えが1つに決まる間違えたときの損感情が絡む判定
営業時間・所在地・持ち物の案内決まる小さい絡まない減る(AIへ移す)
注文・予約の受付、日時の変更ほぼ決まる中くらいあまり絡まない減る(確定前に人が確認)
配送状況・手続きの進み具合の照会決まる小さい遅れていると絡む減る(遅延は人へ)
本人確認・暗証番号などの照会決まる大きい絡まない減る(仕組みが整った場合のみ)
料金・契約内容の説明条件で変わる大きい絡むことがある残る
故障・不具合の切り分け途中まで決まる中くらい困っている途中まで減り、残りは人
クレーム・おわび・補償の相談決まらない大きい強く絡む残る
解約の相談・規定外の例外対応決まらない大きい絡む残る
応対記録・要約の作成(人が確認する)小さい絡まない人の作業時間が減る
FAQの更新、AIの回答の確認と直し(人が判断する)中くらい絡まない増える
AIから引き継いだ問い合わせへの対応決まらない大きい絡みやすい増える

表のいちばん下の2行のように、AIを入れると新しく増える仕事もあります。AIが答える元になるFAQを最新に保つ仕事、AIの回答が正しかったかを確かめて直す仕事、AIでは片付かずに回ってきた問い合わせを受ける仕事の3つです。増える側の仕事を数えずに減る側だけを足すと、人員の見積もりは実際より少なく出てしまいます。

ボイスボット・IVR・感情分析など、AIの種類は全体像の記事へ

窓口で使われるAIには、電話に音声で答えるボイスボット、番号を押して用件を振り分けるIVR(自動音声応答)、声の調子から相手の状態を推し量る感情分析、チャットボットや通話の文字起こしなどがあります。どの種類で何が出来るかは、親記事で種類ごとに整理しました。ここでは種類の選び方には立ち入らず、人の仕事がどう変わるかに絞って話を進めていきます。

窓口の人は何人減るのか|仮定の数字で計算する

必要な人数は、問い合わせの件数と1件あたりの時間を掛けて、1人が窓口に充てられる時間で割ると出せます。下の数字はすべて説明のための仮定で、どこかの会社の実測ではありません。

【計算例・数字はすべて仮定】
いまの窓口
・問い合わせ:月2,000件 × 平均6分 = 12,000分 = 200時間
・1人が窓口に充てられる時間:月140時間 × 稼働率0.6 = 84時間
・必要な人数:200時間 ÷ 84時間 = 約2.4人

AIを入れたあと
・定型の4割(800件)がAIへ移り、人が受けるのは1,200件
・残るのは難しい問い合わせが中心になり、平均が8分に延びる
・1,200件 × 8分 = 9,600分 = 160時間
・必要な人数:160時間 ÷ 84時間 = 約1.9人

件数は4割減(2,000件→1,200件)、必要な人数は約2割減(約2.4人→約1.9人)

件数ほど人が減らないのは、AIに移るのが短く済む問い合わせから先だからです。残る問い合わせは、クレームや例外の相談、何度もやり取りが要る説明が中心になり、1件あたりの時間は延びていきます。件数の減り方をそのまま人数の減り方とみなすと、窓口の人が足りなくなってしまいます。

稼働率0.6という仮定は、電話を待つ時間・記録を書く時間・打ち合わせや研修の時間を除いて、実際に問い合わせに向き合っている割合を置いたものです。自社の数字が分からなければ、まずは0.6前後で置いて、後で測った値に差し替えてみてください。

前の節で触れた増える仕事も、この計算に足しておく必要があります。仮にFAQの更新とAIの回答の確認に月10時間かかるとすると、160時間に10時間が加わって170時間になり、必要な人数は約2.0人となります。この場合、いまの約2.4人からの減り方は約15%にとどまる計算です。

専任がいない会社では、減るのは時間より中断の回数

総務や営業が電話番を兼ねている会社では、同じ計算をしても人数の話にはなりません。たとえば月400件×平均5分なら月2,000分、約33時間の仕事になります。定型の4割がAIへ移り、残る240件の平均が7分に延びると、月1,680分で約28時間となり、減る時間は月5時間ほどです。

それでも兼務の会社で効果が大きく出やすいのは、作業を途中で止められる回数のほうでしょう。月20営業日として、1日あたりの電話は約20回から約12回に減ります。経理の締めや見積書づくりの途中で電話に出る回数が1日8回減ると、時間の数字以上に本業が進むようになります。兼務の会社では、時間に加えて1日に何回作業を止めているかも一緒に数えておきましょう。

AIにも運用の手間と費用がかかる

人件費を下げたいという動機でAIを入れる場合も、AIの側にかかる費用と手間を差し引いて考える必要があります。ツールの利用料に加えて、FAQや回答の元になる文書を整える時間、AIの回答を定期的に見直す時間、問い合わせの傾向が変わったときに設定を直す時間がかかってきます。導入した直後の数か月は、慣れるまで人の時間がかえって増えることも珍しくありません。

問い合わせの文面づくりや要約、FAQの下書きといった、残る仕事を速くする使い方から始める会社も多いでしょう。この場合は窓口の担当者が自分のパソコンで生成AIを使う形になり、誰が何を入力しているかを会社が把握できるかが次の課題として出てきます。社員が個人のアカウントで勝手に使い始めると、お客様の名前や問い合わせの中身が会社の目の届かないところに入ってしまいます。

件数ほど人は減らない。残る仕事の道具を会社でそろえる

窓口に残る文面づくりや要約を速くするなら、まずAIを使う環境を会社で1つにそろえる方法があります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

自社の1か月分の問い合わせを仕分ける手順

人数の計算に入れる数字は、自社の1か月分の問い合わせを仕分けると手元にそろいます。記録がきちんと残っていない会社でも、2週間ほど数えて2倍すれば十分な目安になります。

  • 1か月分の問い合わせの記録を集める電話のメモ、メール、チャット、問い合わせフォームの記録を1か所に集めます。記録がなければ、電話の横に紙を置いて2週間だけ用件と時間を書いてもらい、件数を2倍して1か月分と見なします。
  • 1件ごとに用件を1行で書き、似たものを20前後の種類にまとめる「営業時間」「納期の確認」「請求書の再発行」「不具合」「苦情」のように、答え方が同じものを1つの種類にします。
  • 種類ごとに件数と平均の対応時間を出す時間は、電話の長さに記録を書く時間を足した値で見ます。かけ直しが要った件数も一緒に数えておきます。
  • 4つの基準で「減る・残る・増える」の印を付ける答えが1つに決まるか、間違えたときの損、感情が絡むか、言った・言わないになりやすいか、で判断します。
  • 迷った種類は「残る」に入れる減る側に入れすぎると人が足りなくなります。最初は控えめに見積もり、後で測って動かします。
  • 減る側の件数と時間を足し、人数の計算に入れる残る側の1件あたりの時間は、いまより長めに置き直します。増える仕事の時間も忘れずに足します。

仕分けの作業そのものに生成AIを使うことも出来ます。用件の一覧を貼り付けて種類ごとにまとめさせると、数百件でも短い時間で下書きの分類が出来上がります。ただし、問い合わせの記録にはお客様の名前や電話番号、契約の中身が含まれていることが多く、そのまま入力するのは避けたいところです。

個人情報保護委員会のQ&A(1-10)では、通話の内容は特定の個人を識別できる場合に個人情報に当たるとされています。利用目的を通知または公表する義務はある一方で、録音している旨を伝える義務までは負わないという整理です。AIに入力する前に名前や番号を伏せる、会社で設定を管理した環境で扱う、などの決まりを先に作っておきましょう。点検する項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストにまとめてあります。

人を減らす計画は見直されやすい|Gartnerの予測と調査

AIで窓口の人を大きく減らす計画は、海外でも見直される例が多いと予測されています。米国の調査会社Gartnerは2025年6月10日、顧客サービスの人員を大きく減らすと見込んでいた組織の50%が、2027年までにその計画を取りやめると予測しました。あくまで予測で、実績の数字ではありません。

同じ発表で紹介されたのは、2025年3月に顧客サービス・サポート部門の責任者163人に行った調査です。95%の責任者が、AIの役割を決めていくために人の担当者を残す計画だと答えています。発表の中では、デジタルを先にしながらもデジタルだけにはしない、という考え方が示されました。

Gartnerは2026年2月3日にも、AIを理由に人員を減らした企業の50%が、2027年までに肩書を変えて似た業務の人を再び雇うと予測しています。2025年10月に顧客サービス・サポート部門の責任者321人に行った調査では、AIを理由に実際に担当者の人数を減らしたのは20%にとどまりました。多くは人数を据え置いたまま、より多くの顧客に対応していると答えています。

同社のアナリストは、近年の人員削減の多くは自動化だけでなく、景気全体の状況の影響を受けたものだという見方を示しました。AIを理由に先に人を減らすと、減らした仕事を別の名前で取り戻すことになりかねません。海外でもこうした見直しが起きると予測されている以上、人数に余裕の少ない中小の窓口では、なおさら慎重に進めたいところです。

※Gartnerの数字はいずれも同社のプレスリリース(2025年6月10日、2026年2月3日)に基づく予測・調査結果で、英語の原文を日本語にしたものです。2026年10月13日時点で各発表元のページで確認しています。

人員計画を固定しない進め方|採用を止める→自然減→兼務へ

AIを入れるときの人員計画は、先に人数を決めず、減らし方の順番だけを決めておくのが安全です。順番は、採用を止める、自然減を待つ、兼務へ振り替えるの3段階になります。

  1. 欠員が出ても、すぐには補充しない(採用を一度止めて、AIでどこまで回るかを見る)
  2. 退職や異動で自然に人が減るのを待つ(いまいる人を無理に減らさない)
  3. 空いた時間を、FAQの整備・AIの回答の確認・他部署の仕事との兼務に振り替える

この順番なら、AIが思ったほど問い合わせを引き受けなかったときにも、元に戻すことが出来ます。いきなり人を減らすと、経験のある担当者がいなくなり、難しい問い合わせを受ける人が残らなくなってしまいます。その状態からの採用と教育には、AIを入れる前より長い時間がかかるでしょう。

数か月測ってから決める|毎月見る5つの数字

人数を決めるのは、AIを入れてから少なくとも3か月ほど測ったあとにしましょう。最初の月は、お客様もAIに慣れておらず、担当者もAIの回答の直し方に慣れていません。毎月見る数字は次の5つで足ります。

  • 人が受けた問い合わせの件数と、1件あたりの平均時間
  • AIだけで片付いた件数と、AIから人へ引き継いだ件数
  • AIが間違えた回答の件数と、その中身
  • お客様からのクレームや、もう一度問い合わせてきた件数
  • 担当者の残業時間と、休みが取れているか

3か月分の数字がそろったら、仕分けの手順で付けた「減る・残る」の印と見比べてください。減ると見込んだ種類が減っていなければ、FAQの元の文書が足りないか、その種類が実は残る側の業務だった可能性があります。

小さく、段階的に広げる

最初からすべての問い合わせをAIに任せる必要はありません。営業時間や持ち物の案内のように、間違えても損が小さい種類を1〜2つ選び、そこだけAIに受けてもらうところから始めると様子が分かります。うまく回った種類から、注文の受付や手続きの照会へと広げていく進め方が向いています。

AIが止まった・間違えたときに人へ戻す基準

AIに一次対応を任せるなら、どんなときに人へ戻すかを先に決めておく必要があります。AIで一次対応し、難しいものは人へ引き継ぐ形はハイブリッド型と呼ばれ、引き継ぎはエスカレーションと呼ばれます。小さな窓口では、戻す基準に加えて、戻した先で誰が出るのかまで決めておかないと回りません。

  • AIが2回答えても用件が片付かない同じ質問を言い換えて繰り返している状態は、AIでは答えられないサインです。3回目を待たずに人へ回します。
  • お客様が「人と話したい」と言った理由を問わず、すぐに人へ回します。引き止めると、それ自体がクレームの火種になります。
  • 怒り・不安・急ぎを示す言葉が出た「至急」「困っている」「責任者」などの言葉を、引き継ぎの合図として決めておきます。
  • お金・契約・個人情報の変更にかかわる返金、解約、住所や口座の変更は、AIが受け付けても確定させる前に人が確認します。
  • 健康・安全・事故にかかわる製品の発火やけがなど、急ぎの対応が要る問い合わせは、AIを通さずに人へつなぐ道を用意します。
  • AIの回答の元になるFAQや文書が見つからない根拠のないまま答えさせない設定にし、分からない場合は人へ回すようにしておきます。

AIが止まったときと、営業時間外の扱い

AIのサービスが止まったときに、問い合わせがどこへ行くかも決めておきましょう。電話であれば、録音の案内に切り替えて折り返しの受付にするのか、そのまま担当者の電話へつなぐのかを選ぶことになります。チャットであれば、止まっている間は問い合わせフォームへ案内する文面を、あらかじめ用意しておくと安心です。

営業時間外にAIが受けた問い合わせは、翌営業日の朝に誰が目を通すのかまで決めておく必要があります。AIが夜中に「担当者から折り返します」と答えても、朝に誰も見ていなければ、お客様は待たされたままになってしまいます。曜日と時間帯ごとに、引き継ぎを受ける担当者の名前を一覧にしておくと迷いません。

引き継ぎでお客様に二度同じことを聞かない

AIから人へ引き継ぐときは、AIが聞き取った用件と、それまでのやり取りの要約を一緒に渡す形にします。担当者が最初から聞き直すと、お客様は同じ説明を二度することになり、それだけで不満が大きくなりがちです。引き継ぎの質が悪いと、AIを入れたことで人が受けるクレームが増えてしまいます。要約の中身が正しいかは、担当者が最初の一言で確かめるようにしておきましょう。

クレーム対応は人に残る|カスハラ防止措置の義務化

クレームやカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応は、AIを入れても人が受け持つ仕事として残ります。改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、2026年10月1日からカスハラを防ぐための措置が事業主の義務になりました。対象には、窓口での対面だけでなく、電話やSNSなどによるものも含まれます。

厚生労働省の防止指針では、対処の例として「可能な限り労働者を一人で対応させないこと」「顧客等とのやり取りを録音・録画すること」が挙げられています。小さな窓口ほど、1人の担当者がクレームの電話を抱え込みやすい形になっているでしょう。AIで定型の問い合わせが減っても、残る問い合わせに占めるクレームの割合は、むしろ上がりやすいと考えられます。

AIの文字起こしや要約は、やり取りの記録を残す手間を減らす道具にはなります。それでも、担当者を守るための相談の窓口づくりや、可能な限り1人で対応させない体制づくりといった措置は、会社が人の配置と決まりで整えるものです。クレームを受ける人を減らしすぎると、担当者を守る体制そのものが組めなくなってしまいます。人員を考えるときは、クレームの電話に2人目が加われるだけの人数が残るかも確かめてください。

※厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」のページと、カスタマーハラスメント防止のリーフレットに基づきます。措置の具体的な中身は、厚生労働省の指針と資料でご確認ください。2026年10月13日時点で各発表元のページで確認しています。

窓口の担当者に求められる力と役割の変化

AIが定型の問い合わせを引き受けるほど、担当者の仕事は答えることから、確かめること・受け止めること・社内へ返すことへ移っていきます。単純な案内を速く正確にこなす力の重みは、少しずつ下がっていくでしょう。

AIの答えを確かめて直す力

AIが作った回答の下書きや通話の要約は、もっともらしく見えても間違いが混ざることがあります。担当者には、下書きのどこが自社の決まりと違うかに気づき、短く直せる力が要るようになります。生成AIに指示を出して欲しい形の文面を作らせる力も、窓口の基本の道具の1つに加わっていくはずです。

例外とエスカレーションを受け止める役割

AIから回ってくる問い合わせは、規定に当てはまらない相談や、感情の強いやり取りが中心になります。こうした問い合わせを受け止め、その場で判断できる範囲と上に上げる範囲を見極める役割は、スーパーバイザー(SV)に近い仕事です。前の節で見たとおり、受託事業者でもスーパーバイザーが不足していると答えた企業は87.9%と多く、この役割を担える人は社内で育てていく必要が出てきます。

顧客の声(VoC)を集めて社内へ返す役割

窓口は、製品の不満や分かりにくい案内、よく聞かれる質問など、顧客の声(VoC、Voice of Customer)が集まる場所でもあります。AIで記録と要約が楽になると、その声を種類ごとにまとめて、商品・営業・Webの担当へ返す時間を作ることが出来ます。問い合わせの多い質問の原因をFAQや案内文で直せば、問い合わせそのものが減っていきます。窓口を、答える場所から、問い合わせが生まれる原因を見つける場所に変えていく発想を持ってみてください。

こうした役割の変化は、担当者のキャリアにもつながる話です。答える仕事が減る分、確かめる・判断する・改善を提案する仕事の経験を積めるよう、評価の仕方も合わせて見直していきましょう。

AI導入で窓口が崩れる失敗パターン

AIを入れた窓口がうまく回らなくなるのは、AIの性能よりも、人の側の決め方に原因があることが多いでしょう。よく見られる形を挙げておきます。

  • 導入と同時に人数を減らし、AIが受けきれなかった問い合わせで残った人が手一杯になる
  • AIの回答を誰も確かめず、古い料金や終わったキャンペーンの案内を出し続ける
  • 人へ戻す基準を決めておらず、怒っているお客様がAIとのやり取りを繰り返させられる
  • 1件あたりの時間の短さだけで担当者を評価し、時間のかかる難しい問い合わせを避けるようになる
  • 現場に相談せずに決め、担当者が自分の仕事を奪う道具としてAIを受け取ってしまう
  • 社員が個人のアカウントで生成AIを使い、お客様の情報が会社の管理の外に出ていく

どれも、AIは万能ではないという前提を置かずに進めたときに起こりやすくなります。AIが答えられる範囲を決め、外れたときの戻し先を決め、担当者に何が変わるのかを先に伝えておくだけでも、多くは避けることが出来ます。担当者への伝え方は、次の節のひな形を使ってみてください。

社内向け説明文のひな形|従業員向けと経営層向け

AIを窓口に入れるときは、担当者向けと経営層向けで、伝える中身を分けて用意するのが近道です。担当者は自分の仕事がどうなるかを、経営層は判断の順番と人数を決める時期を知りたがっています。下のひな形の【】の部分を自社の内容に置き換えて使ってみてください。

従業員(窓口の担当者)向け

件名:問い合わせ窓口でのAIの使い方について

窓口の皆さんへ

【月】から、問い合わせ窓口の一部でAIを使い始めます。
最初にお伝えしたいのは、このAIの導入を理由に、皆さんの仕事や雇用をすぐに減らす予定はないということです。

AIに任せるのは、【営業時間・所在地の案内、配送状況の照会】など、答えが1つに決まる問い合わせだけです。
クレームやおわび、料金・契約の説明、規定にない相談は、これまでどおり皆さんにお願いします。

AIを使い始めると、皆さんの仕事は次のように変わります。
・AIが作った回答の下書きや通話の要約を確かめ、必要なところを直す
・AIから引き継いだ問い合わせに対応する(引き継ぎの基準は別紙のとおり)
・よく聞かれる質問をまとめ、FAQの更新を手伝う

AIを使ってみて、間違った回答や使いにくい点があれば、【担当者名】まで遠慮なく知らせてください。
最初の【3か月】は試しの期間とし、皆さんの意見をもとに使う範囲を決めていきます。
お客様の名前や電話番号などの個人情報は、会社が用意した環境以外のAIに入力しないでください。

経営層向け

件名:問い合わせ窓口へのAI導入と人員の考え方(ご相談)

1.目的
窓口の人手不足を補い、残る問い合わせの対応品質を保つことを目的とします。人員削減を先に決めるものではありません。

2.対象
答えが1つに決まる定型の問い合わせ【月◯件・全体の◯%】から始めます。クレーム・契約の説明・例外の相談は人が担当します。

3.人員の見込み(仮定の計算)
件数が【4割】減っても、残る問い合わせは1件あたりの時間が延びるため、必要な人数は【約2割】減の見込みです。FAQ更新とAIの回答確認の時間を足すと、減り方はさらに小さくなります。

4.進め方
(1) 欠員の補充を一度止める
(2) 退職・異動による自然減を待つ
(3) 空いた時間を、FAQ整備・回答確認・他部署との兼務に振り替える
人数の判断は、導入後【3か月】の実績(件数・時間・引き継ぎ件数・誤回答・クレーム・残業)を見てから行います。

5.守るべきこと
2026年10月1日からカスタマーハラスメント防止の措置が事業主の義務となりました。クレームを可能な限り1人で受けさせない体制(厚生労働省の指針にある対処の例)を保てる人数を残します。
お客様の情報を入力するAIは、会社で設定と利用履歴を管理できる環境に限ります。

6.ご判断いただきたいこと
試しの期間【3か月】と、対象にする問い合わせの範囲のご承認をお願いします。

担当者向けの文面では、仕事がすぐになくならないことを最初に書き、何が変わるのかを具体的に並べるのがコツになります。経営層向けの文面は、人数を先に約束せず、判断の時期と見る数字を決めてもらう形にしてあります。どちらも、配る前に窓口の責任者に一度読んでもらうと、現場の言葉に合わせて直すことが出来ます。

窓口の文面づくり・要約・FAQ整備を会社で安全に使うには

窓口に残る仕事を生成AIで速くするなら、担当者がばらばらのサービスを使うのではなく、会社として使う環境を決めておく必要があります。日本コンタクトセンター協会の同じ調査では、生成AIを何らかの形で活用している55社の活用方法として、応対内容の要約が74.5%、メール文章の生成が63.6%、FAQの自動生成が61.8%に上りました。回答支援は58.2%、チャットボットは52.7%、ボイスボットは49.1%で、受託事業者の現場でも文面と記録の仕事から使われている様子がうかがえます。

お客様の問い合わせを扱う以上、入力した内容がAIの学習に使われない設定になっているかを、会社として確かめておきたいところです。設定を担当者一人ひとりに任せると、誰か1人の設定漏れで情報が外に出る経路が出来てしまいます。誰がいつどのAIを使ったかの利用ログを会社で見られるかも、後から問い合わせを受けたときの説明に関わってきます。

社員への配り方も見落とせません。一部の担当者にしかアカウントを配らないと、配られなかった方が個人のアカウントで使い始め、会社から見えない野良AI(シャドーAI)が生まれやすくなります。窓口の担当者全員と、電話番を兼ねる総務や営業の方まで、同じ環境で使えるようにしておくのが安全です。

用途によって向くAIが違う点も、窓口の仕事では効いてきます。長い応対記録の要約に強いもの、丁寧なメール文面に強いもの、Webの最新情報を調べるのに強いものと、得意分野は分かれています。複数の生成AIを1つの会社契約で使い分ける考え方はマルチAIの解説で、それぞれの違いは主要4AIの違いと使い分けで整理しました。入力してよい情報の線引きは、生成AIの社内ガイドラインの作り方を参考に、窓口向けの決まりとして書き出しておきましょう。

窓口の文面づくりと要約を、会社で管理できる1つの環境で

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約・1つの画面で使える法人向けサービスです。会話の途中でもモデルを切り替えられ、自社資料を読み込ませて回答させる社内文書RAGや、よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有するカスタムプラスも使えます。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

コールセンターの仕事はAIで本当になくなりますか?
部署ごとなくなる見込みは今のところ薄いと考えられます。AIに移るのは営業時間の案内や手続きの照会など、答えが1つに決まる定型の問い合わせが中心です。クレーム、例外の相談、料金や契約の説明は人に残り、担当者の仕事はAIの回答の確認や引き継いだ問い合わせへの対応へと変わっていきます。
問い合わせの件数が4割減ったら、窓口の人も4割減らせますか?
件数ほどは減らないのが普通です。AIに移るのは短く済む問い合わせから先なので、残る問い合わせは1件あたりの時間が延びます。仮定の数字で計算すると、月2,000件・平均6分の窓口で定型の4割がAIへ移り、残りの平均が8分に延びた場合、必要な人数は約2.4人から約1.9人で約2割減にとどまります。
AIを入れたら、すぐに人員を減らしてもよいですか?
先に人数を決めず、欠員の補充を止める、自然減を待つ、兼務へ振り替えるの順に進めるのが安全です。AIを入れてから3か月ほどは、件数・1件あたりの時間・人へ引き継いだ件数・誤った回答・クレームを毎月測り、その実績を見てから人数を決めてください。
カスハラ防止の義務化は、窓口のAI導入と関係がありますか?
関係します。2026年10月1日から、電話やSNSなどによるものも含めてカスタマーハラスメントを防ぐ措置が事業主の義務になりました。AIで定型の問い合わせが減っても、クレームの対応は人に残ります。担当者を可能な限り1人で対応させない体制を組めるだけの人数を残すかどうかも、人員を考えるときに確かめておく必要があります。
専任の窓口がなく、総務が電話番を兼ねている会社でもAIは役に立ちますか?
役に立ちます。ただし効果は人数よりも、作業を途中で止められる回数に出やすくなります。仮定の数字では、月400件のうち定型の4割がAIへ移ると、1日あたりの電話は約20回から約12回に減ります。経理や見積書づくりの途中で電話に出る回数が減る分、本業が進みやすくなります。

まとめ

コールセンターや問い合わせ窓口は、AIで部署ごとなくなるのではなく、定型の問い合わせからAIに移り、人数と仕事の中身が変わっていきます。移すかどうかは、答えが1つに決まるか、間違えたときの損、感情が絡むか、言った・言わないになりやすいかの4つで判断することが出来ます。

人数は件数の減り方ほどは減らず、仮定の計算では件数が4割減っても必要な人は約2割減にとどまりました。FAQの整備やAIの回答の確認といった増える仕事を足すと、減り方はさらに小さくなります。Gartnerも、顧客サービスの人員を大きく減らす計画だった組織の50%が、2027年までに計画を取りやめると予測しています。

進め方は、採用を止める、自然減を待つ、兼務へ振り替えるの順で、3か月ほど測ってから人数を決めましょう。AIが止まったときや間違えたときに人へ戻す基準と、カスハラ防止の義務化を見据えてクレームを1人で受けさせない体制も、人員の計画に入れておく必要があります。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧をご覧ください。