
コールセンターAIとは、電話・メール・チャットによる問い合わせ対応に、音声認識や生成AIなどのAI技術を組み込んで、応答・記録・分析の手間を減らす仕組みの総称です。専用のコールセンター製品を入れる方法だけでなく、社員10〜200名規模の会社でも、法人向けの生成AIで回答文の下書き・FAQ整備・通話メモの要約から小さく始められます。ただし顧客の個人情報を扱う業務なので、入力データを学習に使わない契約と、入れてよい情報・送信前の確認手順を先に決めることが前提になります。この記事では、AIでできることと導入事例、手順と注意点を整理したうえで、専用システムなしで始める手順、コピーして使えるプロンプト例、伏せ字化の手順、確認チェックリスト、社内ルールのひな形までまとめます。
コールセンターAIとは|AIの種類と2つの入り口
コールセンターAIは1つの製品名ではなく、問い合わせ対応のどの工程をAIに任せるかで種類が分かれる言葉です。大きく分けると、お客様と直接やり取りする自動応答、オペレーターを横で支える応対支援、応対後の記録を減らす後処理支援、たまったデータを読み解く分析の4つがあります。
コールセンターで使われるAIの種類:自動応答・応対支援・後処理・分析
- 自動応答(チャットボット・ボイスボット):Webサイトのチャットや電話の音声で、よくある質問に自動で答えたり、用件を聞き取って担当窓口へ振り分けたりします。
- 応対支援:通話やチャットの内容を読み取り、オペレーターの画面に回答候補やマニュアルの該当箇所を表示します。
- 後処理支援:音声認識(話した言葉を文字にする技術)で通話を文字に起こし、生成AI(文章などを作るAI)が要約して応対履歴の入力を手伝います。
- 分析:応対の記録から、問い合わせの傾向、お客様の不満や要望(VOC:顧客の声)、応対品質の課題を読み取ります。
このほか、FAQの作成・更新や、声の調子や言葉から感情を推定してエスカレーション(上位者への引き継ぎ)を促す機能を持つ製品もあります。
専用のコールセンターシステムと、汎用の生成AIの違い
導入の入り口は2つあります。1つは、電話設備や問い合わせ管理の仕組みとつながった専用のシステムを入れる方法です。もう1つは、ChatGPT・Claude・Geminiなどの法人向けプランを、回答文の下書きや要約といった文章作業に使う方法です。前者は通話そのものと連動した自動化ができ、後者は設備を変えずに今日から試せるという違いがあります。
| 専用のコールセンターAIシステム | 汎用の生成AI(法人向けプラン) | |
|---|---|---|
| 主な用途 | 自動応答、通話のリアルタイム文字起こし、回答候補の表示、応対履歴の自動入力、全件の応対評価 | 回答文やメールの下書き、FAQ案の作成、通話メモや議事録の要約、言い回しの調整 |
| 電話設備との連携 | 製品によっては電話システムや顧客管理システムと連携する | 基本的に連携しない。人がテキストを貼り付けて使う |
| 費用の決まり方 | 製品・席数・連携範囲ごとに見積もり | 1人あたりの月額などの料金表が公開されていることが多い |
| 向いている窓口 | 専任のオペレーターが多数いて、入電量が多いセンター | 総務や営業が兼任で受ける窓口、まず効果を試したいセンター |
| 先に決めること | 対象業務、学習用データの準備、既存システムとの連携範囲 | 学習に使わない契約、入力してよい情報、送信前の確認者 |
生成AIそのものの仕組みや種類は生成AIとはで説明しています。
コールセンターと問い合わせ窓口が抱える課題
コールセンターでAIの活用が進む背景には、人が集まりにくいことと、1人あたりの負担が重いことがあります。専任のセンターと、兼任で受ける小さな窓口とでは課題の出方が違うため、分けて見ておきます。
コールセンターが抱える課題:人手不足・離職・従業員の負担
一般社団法人日本コンタクトセンター協会の「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(2025年6月16日〜7月23日、コールセンター業務を受託する会員企業109社が対象、68社が回答)では、採用活動に「苦労している」「やや苦労している」と答えた企業が、非公開の1社を除く67社の82.1%でした。職種ごとの不足感は、非公開の2社を除く66社のうち、スーパーバイザー(オペレーターの管理・指導役)で87.9%、コミュニケーター・オペレーターで72.7%の企業にあり、過剰気味とした企業はなかったと報告されています。
電話応対は、同じ説明の繰り返し、応対後の記録入力、厳しい言葉を受け止める精神的な負担が重なりやすい仕事です。人が足りない状態で1人あたりの件数が増えると、負担がさらに偏り、定着しにくくなるという循環が起きがちです。
※調査は受託事業者(BPO事業者)の会員企業を対象としたもので、一般企業の社内窓口全体を表す数字ではありません。数値は2026年9月16日に協会が公開している報告書で確認しました。
小さな問い合わせ窓口の課題:兼任・属人化・記録が残らない
専用のコールセンターを持たない会社では、総務・営業・経理の社員が本来の仕事の合間に電話やメールを受けています。この形の窓口では、次のような課題が出やすくなります。
- 回答の仕方が担当者の経験に頼っていて、休みや退職で対応の質が変わる
- 電話の内容がメモ帳や個人のメールに散らばり、あとから経緯を追えない
- よくある質問をまとめる時間がなく、同じ説明を何度もしている
- クレームの一次対応を1人で抱え込み、上長への共有が遅れる
こうした窓口では、自動応答より先に、文章の下書き・要約・FAQ作りといった裏方の作業をAIで軽くするほうが効果を感じやすいと考えられます。
2026年10月からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務に
厚生労働省によると、2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法等(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)の防止措置が事業主の義務となり、2026年10月1日に施行されます。厚生労働省のリーフレットは、電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれると明記しています。
事業主が講じるべき措置として、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などが挙げられています。2026年2月26日に公布されたカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)には、対処の例として、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、顧客等とのやり取りを録音・録画すること(個人情報保護法等を守ったうえで)が示され、再発防止の項では、必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、関係部門に共有して活用することも考えられるとしています。
AIを入れれば義務を満たせるわけではありませんが、応対の記録を残す、要約して上長や関係部門へすばやく共有する、対応マニュアルを整えるといった作業は、生成AIで負担を減らせる部分です。
※施行日と指針の内容は、2026年9月16日時点で厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」のページと、同ページに掲載されたリーフレット・指針で確認しました。
コールセンターでのAI活用例
AIの活用は、お客様とのやり取りの前・最中・後のそれぞれに入り込んでいます。ここでは代表的な7つの使い方を、どんな作業が減るのかという視点で整理します。
チャットボット・ボイスボットによる自動応答・一次対応
営業時間や手続き方法、配送状況など、答えが決まっている質問は、Webサイトのチャットボットや電話のボイスボット(音声で応答するAI)で一次対応できます。最近は、お客様が自由に話した用件を生成AIが読み取り、適切な担当者へつなぐ使い方も出てきました。すべてを自動で完結させるより、用件の聞き取りと振り分けまでをAIが担い、判断が要る内容は人に引き継ぐ設計にしておくと安心です。
オペレーターのリアルタイム応対支援(回答候補・マニュアルの提示)
通話中の会話を文字にしながら、関連するFAQやマニュアルの該当箇所、回答の候補をオペレーターの画面に表示する使い方です。経験の浅いオペレーターでも調べる時間が短くなり、ベテランに質問が集中する状態を和らげる効果が期待されます。表示された候補をそのまま読み上げるのではなく、状況に合うかを人が判断する前提で使います。
音声認識による通話のテキスト化と、通話要約・応対履歴入力の削減
応対後に内容をまとめて記録する作業は、ACW(After Call Work:後処理)と呼ばれます。音声認識で通話を文字に起こし、生成AIで要点・対応内容・次の対応を要約すれば、オペレーターは内容を確認して修正するだけで済みます。小さな窓口でも、電話中に取った手書きのメモを打ち込み、生成AIに応対履歴の形式へ整えさせるだけで、記録の抜けと書き方のばらつきを減らせます。
FAQの自動作成・更新
過去の問い合わせ履歴やメールのやり取りから、よくある質問を抽出し、質問と回答の形に整える作業にも生成AIが使われています。新しい料金や手続きの変更があったときに、既存のFAQのどこを直すべきか洗い出させる使い方もできます。公開前には、内容が最新の社内規定と合っているかを担当部署が確認します。
感情分析とエスカレーション
声の大きさや話す速さ、使われている言葉から、お客様の怒りや不満の度合いを推定し、管理者に知らせる機能を持つ製品があります。対応が長引いている通話や強い言葉が続く通話を早めに見つけ、スーパーバイザーが代わる、横で聞くといった判断につなげます。推定はあくまで目安なので、判断は人が行います。
応対品質の評価・管理(全件評価)
従来は、管理者が一部の通話を抜き出して聞き、応対品質を採点していました。文字起こしとAIを組み合わせると、決められた案内の有無、禁止表現の使用、本人確認の手順などを全件で点検し、指導が必要な箇所を絞り込めます。評価の基準そのものは、会社が決めて文書にしておく必要があります。
応対データ・VOCの分析(問い合わせ傾向・顧客の声)
応対記録をテキストとして分析すると、どの商品のどんな点で問い合わせが増えているか、どんな不満が繰り返し出ているかが見えてきます。こうした分析結果を商品やWebサイトの改善に回せば、問い合わせそのものを減らすことにつながります。小さな窓口でも、1か月分の応対メモを伏せ字にしたうえで生成AIに分類させれば、傾向の把握は始められます。
コンタクトセンター事業者の生成AI活用状況
先の日本コンタクトセンター協会の調査では、生成AIを「センター運営の実務で運用している」企業が68社中33社(48.5%)でした。PoC(試験導入)や社内検証を含めて活用している55社の使い方は、応対内容の要約が74.5%、メール文章の作成が63.6%、FAQの自動生成が61.8%、回答候補の提示などの回答支援が58.2%と報告されています。自動応答より先に、要約・文章作成・FAQといった文章まわりの作業で使われている様子がうかがえます。
総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月)でも、日本企業に業務類型ごとの生成AIの活用状況を尋ねた結果、議事録・メール作成補助の回答割合が約7割と最も高くなっています。要約と文章作成は、業種を問わず始めやすい使い方だといえます。
コールセンターにAIを導入するメリット
AI導入のメリットは、件数をさばく速さだけでなく、応対の質をそろえ、働く人の負担を減らせる点にあります。ここでは期待される効果を整理しますが、どの程度の効果が出るかは業務内容と運用次第です。
導入メリット:業務効率化・コスト削減・負担軽減・応対品質の均一化・顧客満足度の向上
- 業務効率化とコスト削減:自動応答で人が受ける件数が減り、後処理の時間が短くなれば、同じ人数で受けられる件数が増えます。
- 従業員の負担軽減:記録入力や同じ説明の繰り返しが減り、判断や丁寧な対応が必要な問い合わせに時間を使えます。
- 応対品質の均一化:回答候補やFAQを全員が同じものを見て使うため、担当者による案内の差が小さくなります。
- 顧客満足度の向上:つながるまでの待ち時間や、たらい回しが減ることで、お客様の体験の改善が期待されます。
24時間対応・待ち時間の解消と多言語対応
チャットボットやボイスボットは営業時間外にも一次対応できるため、夜間や休日の問い合わせを受け付けて、翌営業日に人が引き継ぐ運用が可能になります。混雑時にも定型の質問をAIが受けることで、電話がつながらない時間を減らせます。また、生成AIは翻訳や外国語での回答文の下書きも得意なため、外国語の問い合わせに対応する窓口の負担を軽くできます。外国語の回答も、送る前に内容の確認が必要な点は日本語と同じです。宿泊施設での多言語の口コミ返信や案内文の例は、ホテルのAI活用で紹介しています。
BCP(災害時などの事業継続)への備え
災害や感染症の流行でオペレーターが出社できない、問い合わせが急増するといった場面では、自動応答で定型の案内を続けられることが事業継続の助けになります。クラウド型の仕組みであれば、拠点が使えなくても別の場所から対応を続けやすくなります。平時から、緊急時に流す案内文や、よくある質問への回答をAIで整えておくと、切り替えが速くなります。
企業名つきの導入事例
ここでは、企業の公式発表で内容を確認できた3件を紹介します。いずれも発表した企業の説明で、効果について第三者が検証したものではありません。
三菱UFJ銀行:生成AIが用件を聞き取って担当へ振り分け(NTTドコモビジネス発表)
NTTドコモビジネスは2025年12月16日、生成AIを使ったコールセンター向けの振り分け機能「発話ベースルーティング」を三菱UFJ銀行へ提供すると発表しました。従来の音声ガイダンスでは、お客様が自分でメニューを判断して番号を選ぶ必要がありましたが、この仕組みではお客様が用件を自由に話すと、生成AIが内容を解析して適切なオペレーターへつなぎます。発表によると、2024年3月〜7月に試験導入を行い、金融機関独自の用語の学習とデータの蓄積を経て、フリーダイヤルの一部メニューに導入したとされています。
ワイモバイル:暗証番号の照会業務を音声で自動化(ソフトバンク発表)
ソフトバンクは2025年11月7日、ワイモバイルのカスタマーサポートに、音声に対応した自律思考型のAIプラットフォームを2025年8月下旬に導入し、暗証番号の照会業務を音声で自動化したと発表しました。大規模言語モデルと同社が開発した知識推論エンジンを組み合わせたもので、待ち時間の短縮、応対品質の均質化、コールセンター業務の効率化につなげるとしています。
山陰合同銀行:有人チャットの応対履歴を生成AIで要約(モビルス発表)
モビルスは2025年3月18日、山陰合同銀行が有人チャットやビジュアルIVR(Web画面で問い合わせ先を案内する仕組み)とともに、同社のオペレーション支援AI「MooA」などの導入を決定したと発表しました。有人チャットの応対後、生成AIが応対履歴を自動で要約・分類し、オペレーターの後処理時間の軽減を図るもので、発表では、オペレーターがその内容を確認して応対履歴の登録を完了する流れが示されています。
事例から読み取れること
3件とも、AIが単独で応対を完結させるのではなく、振り分け・照会・要約といった範囲を決めて任せ、最後の判断や確認は人が担う形をとっています。特に山陰合同銀行の例では、AIの要約を人が確認してから登録する手順が発表に明記されています。小さな窓口で生成AIを使う場合も、この任せる範囲を決める、人が確認してから確定する、という2点はそのまま参考になります。
※事例の内容は、2026年9月16日時点で各社のニュースリリースに記載されているものです。削減時間などの数値は発表に記載がないため載せていません。
ツール・ベンダーの種類と費用の考え方
コールセンター向けのAIは、機能の範囲と提供形態で選び方が変わります。製品名から探すより、どの工程を任せたいかを先に決めると、比較する相手が絞れます。
ツール・ベンダー・関連企業の種類と探し方
- コンタクトセンター基盤の提供事業者:電話・チャット・メールの受付と、AIによる振り分けや文字起こしをまとめて提供します。上の事例では、NTTドコモビジネスがNTTテクノクロスの製品を使った仕組みを提供しています。
- 応対支援・要約の機能を持つSaaSの事業者:既存の電話設備やチャットに後から組み合わせ、要約や回答候補の表示を担います。山陰合同銀行の事例のモビルスは、有人チャットなどとあわせて要約AIを提供しています。
- 自社開発の技術を組み込む通信事業者・大企業:ソフトバンクの事例のように、自社開発の技術(知識推論エンジン)を組み込んだAIを自社のサポート窓口に導入するケースもあります。
- コールセンター業務の受託事業者(BPO):業務委託とAI活用を組み合わせて提案する事業者です。日本コンタクトセンター協会の会員企業一覧が探す手がかりになります。
- 汎用の生成AIの法人向けプラン:ChatGPT・Claude・Geminiなどの法人向けプランは、電話設備とは連携しないものの、文章作成や要約に幅広く使えます。
導入・運用コストの目安:専用システムは見積もり、汎用AIは1人あたりの月額が中心
専用のコールセンターAIシステムは、席数、通話量、既存システムとの連携の範囲、学習データの整備にかかる作業によって金額が大きく変わるため、製品ごとに見積もりを取って比べるのが基本です。初期費用と月額費用に加えて、FAQやマニュアルの整備、運用後の調整にかかる社内の工数も費用として見込んでおきます。
汎用の生成AIの法人向けプランは、料金表を公開しているものが多く、たとえばChatGPT Businessの標準シートは、OpenAIのヘルプ記事で1ユーザーあたり月額プランが月25ドル、年額プランが年払いで月20ドル相当とされ、ワークスペースごとに2シート以上が必要です。日本から料金ページを開くと円で表示され、年額課金で月3,050円、月額課金で月3,850円でした。各社の法人プランの料金はChatGPTの法人プランと料金で整理しています。
※ChatGPT Businessの料金は、2026年9月16日時点でOpenAIのヘルプ記事(米ドル建て)と、日本から開いた料金ページ(円表示)で確認した金額です。料金ページには税込か税抜かの記載がありません。
コールセンターにAIを導入する手順
AI導入は、ツール選びから始めるより、減らしたい作業を1つ決めて小さく試すほうが失敗しにくくなります。専用システムでも汎用の生成AIでも、流れは共通です。
導入の手順:課題の明確化→ツール選定→データ準備→テスト運用→改善
- 課題を明確にする:1件あたりの後処理時間、同じ質問の件数、つながらない時間帯など、減らしたいものを数字で把握します。
- ツールを選ぶ:自動応答が必要か、文章作業の支援で足りるかを決め、入力データの扱い(学習に使うか、保存場所、保存期間)を契約書や公式ページで確認します。
- データを準備する:FAQ、マニュアル、過去の応対記録を集め、古い情報や社外に出せない情報を整理します。
- テスト運用する:対象の業務と担当者を絞り、1〜2か月ほど試して、かかった時間と修正の量を記録します。
- 改善して広げる:誤りが多かった質問や、人が大きく直した回答を洗い出し、FAQや指示文を直してから対象を広げます。
学習データの準備と継続的なチューニング
AIの回答の質は、参照させるFAQやマニュアルの質に左右されます。古い料金や廃止した手続きが残っていると、AIはそれをもとに答えてしまいます。導入時にFAQを棚卸しし、運用開始後も、商品や規定が変わるたびに更新する担当者と頻度を決めておくことが重要です。ここでいう学習データの準備は、自社の資料を整えて参照させることを指し、顧客の入力内容をAIの提供事業者に学習させることとは別の話です。
担当者が個人のアカウントで回答文を作ると、顧客の情報がどこに渡ったか追えません。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
専用システムなしで始める:汎用の生成AIで回す手順とプロンプト例
兼任で問い合わせを受ける会社でも、法人向けの生成AIがあれば、回答文の下書き・FAQ整備・通話メモの要約の3つは今日から始められます。ここでは、そのままコピーして使える指示文(プロンプト)を紹介します。[ ]の部分を自社の内容に置き換え、顧客を特定できる情報は後述の伏せ字化をしてから貼り付けてください。
手順1:問い合わせメールへの回答文を下書きする
いちばん手軽なのは、届いた問い合わせへの返信の下書きです。回答の根拠になる社内の規定やFAQを一緒に渡し、書いてある範囲でだけ答えさせるのがこつです。
あなたは[会社名]のお客様窓口の担当者です。以下のお問い合わせに対する返信メールの下書きを作ってください。
・回答は、下に貼る[FAQ/規定]に書かれている内容だけを根拠にしてください。書かれていないことは推測で答えず、【要確認】と書いてください。
・料金、返金、契約条件、期日に触れる箇所には【要確認】を付けてください。
・敬語は丁寧に、300字程度で、最後に担当窓口の連絡先を入れる欄を[ ]で残してください。
[お問い合わせ本文(伏せ字化済み)]
[FAQ/規定]
手順2:過去の問い合わせからFAQを整備する
1か月分ほどの問い合わせメールや応対メモを伏せ字にしてまとめ、多い質問を抽出させます。できあがった案は、担当部署が内容を確認してから公開します。
以下は、当窓口に寄せられた問い合わせの記録です(個人を特定できる情報は伏せ字にしています)。
1. 内容の似ている問い合わせをまとめ、件数の多い順に10個の質問に整理してください。
2. それぞれに、お客様が検索しそうな言い方で質問文を作ってください。
3. 回答案は記録の中で実際に案内した内容だけをもとに書き、記録から判断できない点は【担当部署に確認】と書いてください。
4. 最後に、記録の中で案内が担当者によって食い違っている箇所があれば一覧にしてください。
[問い合わせ記録]
手順3:通話メモを応対履歴の形に要約する
電話中に取ったメモや、録音から文字起こしした内容を、決まった形式の応対履歴に整えます。形式を固定すると、担当者が変わっても記録の書き方がそろいます。
以下の通話メモを、社内の応対履歴として次の項目で整理してください。
【問い合わせ種別】【お客様の用件】【案内した内容】【お客様の反応】【未解決の点】【次の対応と期限】【上長への共有が必要か(理由つき)】
・メモに書かれていないことは補わず、不明な項目は「記載なし」としてください。
・お客様の発言と担当者の判断は区別して書いてください。
[通話メモ(伏せ字化済み)]
手順4:クレーム対応の言い回しを整える
強い口調の問い合わせへの返信は、担当者が1人で抱えると言葉選びに時間がかかります。事実関係は人が決め、表現だけをAIに整えさせる使い方が向いています。
以下は、お客様からのご指摘に対する返信の下書きです。事実関係、謝罪の範囲、今後の対応の内容は変えずに、次の点に沿って表現だけを整えてください。
・お客様の不便に対するお詫びは入れるが、原因が確定していない点について非を認める表現にはしない
・補償や返金を約束する表現は加えない
・言い訳に聞こえる表現を避け、今後の対応を具体的に伝える
変更した箇所は、変更前と変更後を一覧で示してください。
[返信の下書き(伏せ字化済み)]
こうした指示文は、担当者ごとに書くのではなく、窓口で共通の定型として保存しておくと、回答の質がそろいます。AIごとの得意分野の違いは生成AIの使い分けで紹介しています。
導入の注意点・デメリット
コールセンターでAIを使う際の注意点は、回答の誤り、個人情報の扱い、運用の手間の3つに集約されます。どれも、導入前に確認の手順を決めておくことで小さくできます。
注意点・デメリット:誤回答・個人情報・運用の手間
- 誤回答のリスク:AIはもっともらしい誤りを出すことがあり、お客様に誤った案内が届くと、訂正の手間と信用の低下につながります。
- 個人情報の扱い:問い合わせには氏名、連絡先、契約内容が含まれるため、入力先の契約と入力のルールを確認しないまま使うと、法令や自社のプライバシーポリシーに反するおそれがあります。
- 運用の手間:FAQの更新、指示文の見直し、AIの出力の確認といった作業が新たに発生します。導入直後は、かえって時間がかかる時期もあります。
- お客様の受け止め方:自動応答で人につながりにくくなると、不満が増えることがあります。人に切り替える導線を分かりやすく残しておく必要があります。
回答精度・誤回答(ハルシネーション)と人による確認
生成AIが事実と異なる内容をもっともらしく作ってしまう現象は、ハルシネーションと呼ばれます。問い合わせ対応では、存在しない割引や、実際より長い返品期限を案内してしまうといった形で表れるおそれがあります。対策は、回答の根拠になる資料を一緒に渡して書いてある範囲でだけ答えさせること、根拠のない箇所に印を付けさせること、そしてお客様に出す前に人が確認することです。確認すべき箇所は、後のチェックリストにまとめています。
セキュリティ・個人情報の扱い:個人情報保護委員会の注意喚起
個人情報保護委員会は2023年6月2日、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。個人情報取扱事業者に対しては、個人情報を含むプロンプトを入力する場合、その個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。また、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるとし、サービス提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう示しています。
つまり、顧客情報を扱う窓口で生成AIを使うなら、個人向けの無料版を社員が各自で使うのではなく、入力データを学習に使わない契約を会社として用意することが出発点になります。社員が会社の許可なく個人のAIアカウントで業務をこなす状態のリスクは野良AIとはで解説しています。
通話の録音・文字起こしと利用目的の通知・公表
個人情報保護委員会のQ&A(Q1-10)は、顧客との通話内容から特定の個人を識別できる場合は個人情報に当たり、事業者は利用目的を通知または公表する義務を負うが、録音していることを伝える義務までは負わないと説明しています。同委員会のガイドライン(通則編)は、個人情報を取得する場合、あらかじめ利用目的を公表しておくことが望ましいとしています。
録音を文字に起こして要約する、応対品質の改善や分析に使うといった利用を始める場合は、プライバシーポリシー等に書いている利用目的がその使い方を含んでいるかを確認します。足りない場合、利用目的を変えられるのは変更前の目的と関連性があると合理的に認められる範囲に限られ、その範囲を超える使い方には本人の同意が必要です(個人情報保護法第17条第2項・第18条第1項)。利用目的を変えた場合は、変えた後の利用目的を本人に通知するか公表します。お客様に伝える場合の音声案内は、たとえば次のような形が考えられます。
前述のカスタマーハラスメント防止指針も、録音・録画に当たっては個人情報保護法等を守り、顧客等の個人情報を適切に扱うよう求めています。
AIでオペレーターは不要になるか:人とAIの役割分担
答えが決まっている照会や用件の振り分けは、事例のように自動化が進んでいます。一方で、事情を聞いて例外を判断する、謝罪の範囲を決める、不安を抱えたお客様に寄り添うといった対応は、人が担う場面が残ると考えられます。現実的なのは、AIが一次対応・記録・下書きを担い、人は判断と確認、難しい応対に時間を使うという分担です。人手が足りない窓口ほど、AIは人を置き換えるものではなく、少ない人数で対応を続けるための道具として位置づけるほうが、現場の理解も得やすくなります。
顧客の個人情報を入れる前の伏せ字化と、入れてはいけない情報
学習に使わない契約の生成AIであっても、入力する個人情報は必要最小限にするのが安全です。回答文の下書きや要約の多くは、お客様の名前や電話番号が分からなくても作れます。
入れてはいけない情報の線引き
次の3段階で、窓口の担当者が迷わず判断できるように決めておきます。
- 入力しない:クレジットカード番号、口座番号、暗証番号やパスワード、マイナンバー、要配慮個人情報(個人情報保護法で、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実などを含むものとされる情報。健康診断等の結果や、障害があることなども含まれます)。
- 伏せ字にしてから入力する:氏名、住所、電話番号、メールアドレス、顧客番号、注文番号、生年月日、勤務先。
- そのまま入力してよい:問い合わせの種別、商品名、公開しているFAQや料金表、社内で公開範囲を確認済みの手順書。
要配慮個人情報は、取得や第三者提供に原則として本人の同意が必要とされる情報です。お客様が健康状態や家族の事情を話した通話は、要約に使う前に該当部分を削除しておくと安全です。病歴などを日常的に扱う医療機関での入力の線引きは、医療AIの活用と患者情報を守る使い方で整理しています。
伏せ字化の手順
- 元の記録は社内の管理場所に残す:顧客管理システムや共有フォルダなど、アクセス権のある場所に原文を保存します。
- コピーを作って置き換える:氏名は[顧客A]、電話番号は[電話番号]、住所は[住所]、注文番号は[注文番号]のように、種類が分かる記号に置き換えます。1件の中に複数の人が出てくる場合は[顧客A][家族B]のように区別します。
- 文中の固有の手がかりも消す:「○○町の角の家」「先月〇日に来店した」のような、組み合わせると本人が分かる記述を一般的な表現に直します。
- 入力しない情報を削除する:カード番号や病歴などに当たる部分は、伏せ字ではなく削除します。
- AIの出力を社内で戻す:できあがった下書きの[顧客A]などを、送信直前に社内のシステム上で実際の情報に戻します。
伏せ字にしても、ほかの情報と照らし合わせて誰のことか分かる状態であれば、個人情報として扱われる可能性がある点には注意が必要です。個人情報保護委員会のQ&A(Q1-11)も、容易に照合でき特定の個人を識別できれば全体として個人情報に該当することがあるとしています。伏せ字化は、学習に使わない契約と組み合わせて入力を最小限にするための手順であり、契約の確認を省く理由にはなりません。
※個人情報保護委員会の注意喚起・Q&A・ガイドラインの記載は、2026年9月16日時点で同委員会のWebサイトに掲載されている内容で確認しました。個別の事案での判断は、専門家への相談をおすすめします。
顧客に出す前に人が確認するチェックリスト
AIが作った回答文は、お客様に出す前に、次の項目を人が確認します。すべてを毎回細かく読むのが難しい場合でも、少なくともこの項目に当たる箇所だけは原典と照らし合わせます。
- 料金・金額・割引の条件金額、税込か税抜か、適用条件、期間が最新の料金表と一致しているかを確認します。
- 返金・キャンセル・解約の可否と期限規約の条文と照らし合わせ、AIが一般論で補った期限や条件が入っていないかを見ます。
- 契約条件・保証の範囲保証期間、対象外となる条件、契約の自動更新などを、契約書やサービス仕様書で確認します。
- 法的な判断に触れる表現「法律上問題ありません」「違法です」のような判断を含む文は削るか、担当部署や専門家の確認を取ります。
- 謝罪・補償・約束の範囲非を認める表現、補償や返金の約束、対応期限の約束が、上長の決めた範囲を超えていないかを確認します。
- 個人情報の記載伏せ字を戻した結果、別のお客様の情報や、本人以外に伝えてはいけない情報が混ざっていないかを見ます。
- 日付・手順・連絡先営業日、手続きの順番、窓口の電話番号やURLが現在のものかを確認します。
- 社内の公式見解との一致障害やトラブルの説明は、会社として公表している内容と食い違っていないかを確認します。
確認者は、回答を作った本人とは別の人にするのが理想ですが、少人数の窓口では、料金・返金・補償に関わる回答だけ上長が確認する、といった形で範囲を決めておくと続けやすくなります。
問い合わせ窓口の生成AI利用ルールのひな形
窓口で生成AIを使い始める前に、少なくとも次の項目を1枚の文書にしておくと、担当者ごとの判断の差をなくせます。自社の状況に合わせて[ ]を埋めて使ってください。
1.目的:問い合わせへの回答文の下書き、FAQ案の作成、応対記録の要約に生成AIを利用し、応対の質をそろえ、記録の負担を減らす。
2.使ってよいAI:会社が契約した[サービス名・プラン名]に限る。個人のアカウントや、会社が許可していないサービスでの業務利用は禁止する。
3.入力してはいけない情報:クレジットカード番号、口座番号、暗証番号・パスワード、マイナンバー、要配慮個人情報(病歴、犯罪の経歴等)。
4.伏せ字にしてから入力する情報:氏名、住所、電話番号、メールアドレス、顧客番号、注文番号、生年月日、勤務先。
5.回答前の確認:AIが作成した文章は、担当者が原典と照合してから送る。料金・返金・契約条件・補償・法的判断に関わる回答は[役職名]が確認する。
6.AIだけで判断しない事項:返金や補償の可否、例外対応、カスタマーハラスメントに当たるかどうかの判断は、人が行い、[役職名]に報告する。
7.記録:AIを使って作成した応対記録は、[保存場所]に保存し、原文との対応が分かるようにする。
8.見直し:本ルールと使用するサービスの利用規約は、[半年]ごとに[担当部署]が確認し、更新する。
9.違反時の対応:入力してはいけない情報を入力した場合は、速やかに[担当部署]に報告する。
全社の生成AIガイドラインの作り方は生成AIガイドラインの作り方、導入前に確認したいセキュリティ項目はAIセキュリティチェックリストで詳しく扱っています。
会社で安全に使うには
問い合わせ対応で生成AIを続けて使うには、社員一人ひとりの注意に頼るのではなく、会社の側で仕組みを整えることが欠かせません。整えたいのは次の4点です。
学習に使わせない設定・ログ管理・社員への配布・複数AIの使い分け
- 学習に使わせない設定を会社として担保する:個人向けのサービスでは、学習に使うかどうかの設定が利用者本人に任されているものがあります。顧客情報を扱う窓口では、入力データを学習に使わない契約を会社で用意し、社員ごとの設定に頼らない形にします。
- 利用状況を会社で把握する:誰が、いつ、どのAIを使ったかを会社側で確認できれば、誤って情報を入れたときの調査や、ルールの見直しがしやすくなります。
- 必要な社員に行き渡らせる:窓口の担当者だけに配ると、兼任で電話を受ける別部署の社員が個人のアカウントで使い始めるおそれがあります。問い合わせを受ける可能性のある社員に、会社のアカウントを渡しておきます。
- AIを用途で使い分ける:文章の言い回しが得意なもの、長い記録の要約が得意なもの、調べものが得意なものなど、AIごとに向き不向きがあります。サービスごとに個別に契約すると、アカウント台帳・規約確認・ログの管理が契約の数だけ増えるため、まとめて管理できる形を検討する価値があります。
複数の生成AIを1つの環境でまとめて使う考え方はマルチAIとはで解説しています。窓口の記録や下書きに使うAIを選ぶときは、機能の多さより、顧客情報を預けられる契約と管理の形になっているかを先に確かめてください。
問い合わせ対応の下書きと要約を、会社の管理の中で
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の誰が・いつ・どのAIを・どう使ったかを一覧でき、使わせるAIも会社が選べます。会議録音や動画の読み込み、自社資料を読み込ませて回答させる機能もあり、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。UPGEAR AIの料金は月額30,000円(税抜)からで、ユーザーごとの課金はありません(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
コールセンターAIとは何ですか?
社員数十名の会社の問い合わせ窓口でもAIは使えますか?
顧客の個人情報を生成AIに入力しても問題ありませんか?
AIを入れるとオペレーターは不要になりますか?
通話を録音してAIで要約する場合、お客様に伝える必要はありますか?
まとめ
コールセンターAIは、自動応答、応対支援、通話の文字起こしと要約、FAQの作成、応対データの分析など、問い合わせ対応のさまざまな工程にAIを組み込む仕組みの総称です。受託事業者を対象にした業界団体の調査でも、生成AIの使い道は応対内容の要約、メール文章の作成、FAQの自動生成が上位に並んでおり、文章まわりの作業から活用が進んでいます。
専任のコールセンターを持たない会社でも、法人向けの生成AIを使えば、回答文の下書き、FAQ整備、通話メモの要約から始められます。その前提として、入力データを学習に使わない契約を会社で用意し、入れてはいけない情報と伏せ字化の手順、お客様に出す前の確認者を決めておくことが欠かせません。2026年10月にはカスタマーハラスメント対策も事業主の義務になるため、応対の記録と共有の仕組みを見直す機会として、AIの使い方を窓口のルールに組み込んでおくとよいでしょう。ほかの業務でのAI活用はAI活用コラム一覧からご覧いただけます。
