
経理のAIツールとは、仕訳・請求書の受け取り・経費精算・文書づくりなど経理の仕事に、AIの機能を取り入れるためのソフトやサービスのことです。選び方の答えは、仕訳・請求書・経費精算は会計ソフトや専用ツールに入っているAIに任せ、取引先へのメールや社内向けの説明文、規程の要約といった文章の仕事は汎用の生成AIで行う、という使い分けになります。帳簿とつながる仕事は帳簿を持つ側のツールで、帳簿の外にある文章は生成AIで、と分けておくと迷わずに済むでしょう。経理でAIにできることの全体像は経理のAI活用の記事にまとめています。
経理のAIツールとは|専用ツールと汎用の生成AIに分けて選ぶ
経理のAIツールは、会計ソフトや経費精算システムに組み込まれた専用のAIと、ChatGPT・Claude・Geminiのような汎用の生成AIの2つに分けて考えると選びやすくなります。専用のAIは帳簿や証憑のデータと直接つながっていて、決まった処理を毎月くり返す仕事に向いています。汎用の生成AIは帳簿とはつながっていませんが、文章を読む・書く・まとめる仕事なら幅広くこなすことが出来ます。
ツール選びでつまずくのは、この2つを同じ土俵で比べてしまう場面です。会計ソフトのAIと生成AIは、どちらが優れているかを比べる相手ではありません。仕事ごとに置き場所を決めるもの、と考えてみてください。
経理AIツールの種類(AI-OCR・仕訳の提案・異常検知・生成AI・AIエージェント)
経理まわりでAIと呼ばれる機能は、おおむね次のように分かれます。製品によっては複数の機能を1つにまとめていて、呼び名も各社で違います。
- AI-OCR(請求書や領収書の画像・PDFから、日付・金額・取引先などを読み取ってデータにする機能)
- 仕訳の提案(銀行やカードの明細、読み取った証憑から、勘定科目や税区分の候補を出す機能)
- 規程チェック・異常検知(経費の申請や取引の中から、規程に合わないものや普段と違うものに印を付ける機能)
- 汎用の生成AI(メールや説明文の下書き、要約、言い換え、調べものの下調べに使うAI)
- AIエージェント(読み取りから照合、承認の依頼までの手順を、目的に向けて続けて進める仕組み)
RPA(画面の操作を記録してそのとおりに繰り返す仕組み)やExcelのマクロも自動化の道具ですが、こちらは決めた手順を正確に繰り返すもので、中身を見て候補を出すAIとは役割が分かれます。
AIエージェントと従来の会計ソフトの違い
従来の会計ソフトのAIは、1つの画面の中で候補を出し、人が確定するところで止まります。AIエージェントは、請求書の読み取り、発注データとの照合、承認者への回付といった複数の手順をまたいで進める点が違いとなります。手順をまたぐ分だけ、どこで人が止めて確かめるかを先に決めておく必要が出てきます。経理のAIエージェントに何を任せ、どこを人が承認するかの線引きは、経理のAIエージェントの記事で作業ごとに整理しました。
「学習する」には2つの意味がある
経理AIツールの説明でよく出てくる「学習」という言葉は、2つの別の意味で使われています。1つは、会社の過去の仕訳を覚えて、次から同じ取引に同じ科目を出す、という意味の学習です。もう1つは、利用者が入力したデータを、AIのモデルそのものを作り直す材料に使う、という意味の学習になります。
前者は、使うほど自社の仕訳に合った候補が出るようになると各社が説明している機能です。後者は、入れたデータが自社の外の仕組みの材料になるかどうかという、情報管理の話になります。「学習機能あり」と「入力データを学習に使う」は別の話なので、契約前に両方を分けて確かめましょう。同じ「学習」という言葉に引っぱられて、便利さの説明を安全性の説明と読み違えてしまうことはよくあります。
用途別の選び方|専用ツールか汎用の生成AIか
用途ごとの判断の基準は1つで、その仕事が帳簿や証憑のデータに直接触れるかどうかです。触れる仕事は会計ソフトや経費精算システムなど専用ツールのAIに、触れない文章の仕事は汎用の生成AIに置く、という分け方になります。ここからは仕事ごとに、どちらを選ぶか、選ぶときに何を見るかを順に見ていきます。
仕訳の自動提案は会計ソフトのAIで選ぶ
仕訳の自動提案は、会計ソフトに入っているAIの機能で行うのが筋の通った選び方です。明細の自動取得、勘定科目と税区分の候補、確定した仕訳の保存までが1つのソフトの中でつながるため、途中でデータを書き写す必要がありません。
汎用の生成AIに明細を貼り付けて科目の候補を出させることも出来なくはありませんが、出てきた候補を会計ソフトに打ち直す手間が残ります。打ち直しのたびに転記ミスの入り口が増えてしまいますし、明細には取引先や個人の名前が並ぶため、入れてよいかどうかの判断も必要になります。仕訳は、いま使っている会計ソフトにどんなAIの機能があり、どのプランで使えるかを確かめるところから始めてみてください。
AI-OCRによる請求書・領収書のデータ化は受け取り方で選ぶ
請求書や領収書のデータ化は、紙で届くかPDFで届くか、月に何枚あるかで向くツールが変わります。会計ソフトに付いているAI-OCRで足りる会社もあれば、請求書の受け取りに特化したツールを別に入れたほうが楽になる会社もあります。
見ておきたいのは、読み取りの後に人の目が入るかどうかです。製品やプランによって、AI-OCRの読み取りだけのものと、オペレーターが確認や入力をするものがあり、同じAI-OCRという言葉でも中身はかなり違ってきます。読み取った結果を誰が確かめるのかを、社内の担当者か提供元のオペレーターかまで含めて聞いておくと安心でしょう。
請求書処理の自動化(受取・照合・支払データ・入金消込)は帳簿とつながる仕組みで
受け取った請求書と発注書の照合、支払データの作成、入金と請求の突き合わせ(入金消込)は、どれも帳簿や銀行のデータと行き来する仕事です。このため、会計ソフトや請求書受領のツールの機能で行うほうが自然になります。
支払に直結する仕事なので、AIに任せる範囲は候補づくりまでにとどめ、振込の実行と振込先の登録や変更は人が行う形にしておきましょう。汎用の生成AIは、この流れの中では支払条件の変更を知らせる文面の下書きなど、取引先に送る文章の側で出番があります。
経費精算の自動化は規程チェックと承認の流れで選ぶ
経費精算は、領収書の読み取りに加えて、規程に合っているかのチェックと、誰が承認するかの流れまでを1つのシステムで回せるかで選びます。製品によっては、AIが一次承認まで代わりに行うと説明しているものもあります。
一次承認をAIに任せるなら、どの申請は必ず人が見るのかを先に決めておかなければなりません。金額の大きい申請、規程の解釈が分かれる申請、初めての費目の申請は人に回す、という線を社内で引いてから設定してください。規程そのものの文言があいまいなままだと、AIのチェック結果も揺れてしまいます。
異常検知・不正検知は会計データを持つ側の機能で
普段と違う取引や二重の申請を見つける異常検知は、過去のデータをまとめて持っているツールの側で働かせるのが自然です。会計ソフトや経費精算システムに検知の機能があるかを確かめるのが先になります。
検知の印は、調べる順番を決める材料として使うのが現実的です。印が付いた取引がすべて不正とは限りませんし、印が付かなかった取引が正しいという保証にもなりません。
AI予測分析・資金繰りの見通しはたたき台として
入金予定と支払予定から先の預金残高を見通す機能や、数字の推移を分析する機能があるかは、製品ごとに確かめてください。こうした予測を使う場合、予測は登録済みのデータと過去の傾向から作られるため、大口の入金の遅れや借入の条件変更のような帳簿の外の事情は入っていません。
経営者と経理が見込みを持ち寄って補正する前提の、たたき台として扱うのがよいでしょう。予測の機能が正式な提供かお試しの段階かも、あわせて提供元に確かめておきましょう。
メール・説明文・規程の要約は汎用の生成AIで
帳簿の外にある文章の仕事は、汎用の生成AIが得意とするところです。経理の現場でいえば、次のような仕事が当てはまります。
- 取引先へのお知らせ文(請求書の送付方法の変更、支払条件の変更、振込先の確認のお願いなど)の下書き
- 経費精算のルール改定を社員に伝える説明文や、よくある質問の回答案
- 経費規程・旅費規程の要約や、改定前と改定後の違いの整理
- 報告書やメールの誤字脱字、言い回しのチェック
- Excelの関数やピボットテーブルの使い方の質問
頼み方にも少し工夫が要ります。たとえば請求書の受け取り方法を変えるお知らせ文なら、「取引先の皆さまに、来月から請求書をPDFのメールで受け取る形に切り替えるお知らせ文を、丁寧な文面で作ってください。社名と担当者名は【取引先名】【担当者名】のままにしてください」と頼むと、実際の名前を入れずに下書きを作ることが出来ます。名前や金額は、出来上がった下書きに人が書き入れる形にしておくと、生成AIに入れる情報を最小限にとどめられるでしょう。
どれも、帳簿のデータを入れなくても進められる仕事です。会計ソフトに文章を作るAIがあるかは製品ごとに確かめてください。仮にあったとしても、取引先へのメールや社内の説明文まで会計ソフトで作る必要はありません。文章の仕事を会社として契約した生成AIに集めれば、管理する場所も1つにまとめることが出来ます。
決算説明・制度の調べものは生成AIで言葉を整え、数字と原文は別で確かめる
月次の報告や決算の説明資料では、生成AIに文章の構成や言い回しを整えてもらう使い方が向いています。数字そのものは会計ソフトの出力を正とし、人が確かめた数字と理由を渡して、言葉の整理だけを頼む形にしてください。
税制改正や電子帳簿保存法の調べものも、生成AIは下調べの相手にとどめ、最後は国税庁などの原文で確かめる手順を挟みます。生成AIは、事実と違う内容をもっともらしく書いてしまうことがあるためです。インボイスの登録番号が有効かどうかも、生成AIに聞くのではなく、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確かめる形になります。
汎用の生成AIを社員がばらばらに使うと起きること
文章の仕事を生成AIに任せると決めても、使う環境を会社で決めていないと、経理の文書が社員ごとに違うAIへ入っていきます。ある担当者は個人で契約したChatGPTに請求書のPDFを読ませ、別の担当者は無料のサービスで取引先へのメールを直している、という状態です。
この状態では、どの文書がどのAIに入ったのかを経理責任者が把握できません。個人のアカウントでは、入れたデータが学習に使われる設定かどうかも本人の操作次第となってしまいます。担当者が退職したときに、そのアカウントに残った会話を会社が消したり引き継いだりする手立てもありません。
記録が残らないこと以外にも、困る場面が出てきます。同じ支払条件の変更を知らせる文面が、担当者ごとに別のAIで作られ、言い回しも約束の書き方もばらばらのまま取引先に届いてしまうこともあります。監査や税務調査で、ある請求書をどう処理したのかを問われたときにも、AIとのやり取りが個人の手元にしか残っていなければ、文面を作った経緯を会社としてたどりにくくなってしまいます。
文章の仕事を生成AIに置くと決めたら、同時に使うAIを会社で1つの環境にそろえることが、用途別の使い分けを長く続ける前提になります。
社員ごとに違うAIへ請求書や規程が入る状態を、会社が管理できる1つの環境にまとめましょう。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
主要な経理AIツールの公式記載(2026年10月15日確認)
会計ソフトや経理の専用ツールのAI機能は、同じAIという言葉でも中身が製品ごとに違います。ここでは主な製品について、各社の公式ページがAIの機能と入力データの扱いをどう説明しているかを並べました。いずれも提供元の説明で、第三者が検証した内容ではありません。
※2026年10月15日時点で各社の公式ページに表示されていた記載です。精度や削減効果の数字、料金は、条件付きの自社の説明であったり変更が早かったりするため載せていません。導入を検討する際は、各社の最新の公式ページと契約書面でご確認ください。
freee会計・マネーフォワード クラウド会計・弥生の公式記載
freeeは2022年2月22日の公式プレスリリースで、領収書の発行元を自動で推測できるようになったと案内し、この機能を上位プランに用意したと説明しました。4年以上前の発表のため、今のプランでの扱いは改めて確かめる必要があるでしょう。入力データの扱いについては、freeeのAIの案内ページに、送信されたデータが外部のパブリックなAI(LLM)の学習データとして二次利用されないよう、専用のAPIを経由して通信しているとの説明があります。この記載は外部のAIの学習についての説明なので、freee自身がデータをどう使うかは、契約前に別途確かめておきたいところです。
マネーフォワード クラウド会計の公式ページでは、AIが勘定科目を学習して勘定科目を提案すること、銀行口座やクレジットカードを連携すると取引明細を自動で取得することが説明されています。サポートページでの自動仕訳ルールの説明は、登録した仕訳の勘定科目・補助科目・部門・摘要などを学習し、同じ内容の証憑がアップロードされたときに仕訳候補を出す仕組み、というものです。同じページには、AI-OCRから入力する機能で仕訳に添付したファイル数に応じて、登録件数の制限や従量課金が発生するとの記載もあります。
入力データの扱いについては、マネーフォワードのAIサービス特則(2025年11月25日制定、2026年7月31日改定)の第7条第3項に、AIサービスに入力されたデータを同社のAIモデルの追加学習に利用できると定められています。同じ項には、オプトアウト(学習への利用を断る手続き)の機能がある場合は、所定の手続きで追加学習への利用を止められるとの一文が続きます。どのAI機能にこの特則が当てはまり、どの機能でオプトアウトできるのかは、契約前に提供元へ確かめてください。
弥生は、弥生会計 Nextの公式ページで、自動で取得した取引データの勘定科目をAIが推測して提案し、学習機能によって使うほど精度が上がると説明しています。これとは別に、弥生のスマート取引取込という機能は、科目や摘要を変更して確定した取引の仕訳内容を覚えておき、次回以降の取引に科目や摘要を自動で割り当てる仕組みで、こちらはサポートページの案内になります。2つは別の機能として説明されているので、どちらの話かを分けて読む必要があります。
請求書・経費精算の特化型ツール(バクラク・TOKIUM・invox)の公式記載
LayerXのバクラクは、請求書受取の機能紹介ページで、AI-OCRで請求書の取引先名・金額・支払期日などを読み取ってデータ化すると説明しています。同じページによれば、適格請求書発行事業者の登録番号をAI-OCRで読み取って自動で適格事業者かどうかを確認し、仕訳の税区分の選択を補う仕組みです。経費精算の機能紹介ページでは、領収書を撮影するとAI-OCRが自動で読み取って仕訳し、AIが一次承認まで代わりに行うと説明されています。
TOKIUMの経費精算は、公式ページの説明では、専任のオペレーターが領収書の内容を入力代行し、確信度の低い項目は人が確認する設計とのことです。請求書の受け取りを扱うTOKIUMインボイスは、2026年8月26日のお知らせで、8月20日から新しい登録方法として自動入力(AI-OCR)を追加したと案内しました。自社でアップロードする請求書ではAI-OCR入力とオペレーター入力を場面に応じて選べ、受領代行された請求書は引き続きオペレーター入力とされています。入力データの扱いについては、TOKIUMのAIエージェントの案内には、OpenAIなど外部のAIプロバイダーの基盤モデルの学習に使われることはないとの説明があります。これはAIエージェントについての記載なので、ほかの製品にも同じ扱いが及ぶかは別に確かめましょう。
invox受取請求書は、公式ページで、オペレーター確認ありの場合は工程ごとにオペレーターが確認し、必要に応じて補正すると説明しています。2026年6月の更新情報には、LLMと学習データの利用についてオプトアウトに対応したとの案内があります。どの機能や契約が対象になるかまでは、この更新情報からは読み取れません。
AI-OCRと人の目視はプランで変わる
公式の記載を並べると、同じAI-OCRでも、人の目が入るかどうかは製品とプランで分かれていることが分かります。バクラクの請求書受取では、オペレーターの目視確認は受領代行(スキャン業務)の説明の中にあり、自社でAI-OCRを使うデータ化に人の確認が付くとは書かれていません。TOKIUMは経費精算でオペレーターによる入力代行を、TOKIUMインボイスではAI-OCR入力とオペレーター入力の選択を案内し、invoxはオペレーター確認ありの形を用意しています。
読み取りの後に社内でどれだけ確認するかは、この違いで大きく変わってきます。比べるときは、AIの有無ではなく、読み取った結果を最初に確かめるのは誰かを製品ごとに並べてみると、自社に合うものが見えやすくなります。
社内でツールを選ぶときの確認項目
経理AIツールの候補が絞れたら、機能の多さより、契約と運用の条件を同じ項目で並べて比べるのが確実です。下のチェックリストは、経理責任者・総務・情報システムの担当が、提供元に問い合わせるときにそのまま使える形にしてあります。
- AI機能は標準か、オプションか使いたいAI機能が今のプランに含まれるのか、上位プランやオプションの契約が必要なのか。正式な提供か、お試し(β版)の段階かも確かめます。
- 追加の課金が発生する条件読み取りの枚数や添付ファイルの数、処理の件数に応じて、件数の制限や従量課金がかかるか。月に何件までなら今の料金に収まるかを、自社の件数で聞きます。
- 入力データを学習に使うか(規約・特則)入力したデータをAIモデルの学習に使うかを、利用規約やAIの特則の条文で確かめます。使う場合は、オプトアウトの方法と、その手続きが会社単位か利用者ごとかも聞いておきます。
- 外部のAIに渡るときの扱い機能の裏で外部の生成AIを使っている場合、そこでの学習に使われない取り決めがあるか。提供元自身の改善への利用と分けて聞きます。
- 電子帳簿保存法への対応の範囲電子取引データの改ざん防止(タイムスタンプ、または訂正や削除の履歴が残る(または訂正・削除ができない)システム)と、日付・金額・取引先での検索に、どこまでツールの側で対応しているか。
- インボイスの登録番号の確かめ方読み取った登録番号を、何のデータと照合しているのか。登録の取消や失効まで確かめられるのか。
- 読み取り結果を最初に確かめるのは誰かAI-OCRだけか、提供元のオペレーターが確認や入力をするのか。それがどのプランに付くのか。
- 権限とログ担当者・承認者・管理者で権限を分けられるか。誰がいつ何を確定・修正したかの記録が残り、後から確かめられるか。
- 解約するときのデータの取り出し仕訳・証憑・承認の記録を、どの形式で取り出せるか。解約後も保存が必要な電子データを、どこに移して残すのか。
このうち、学習の扱いと解約時のデータの取り出しは、機能の紹介ページだけでは分からないことが多い項目です。契約の前に、規約や特則の該当する条文の場所を提供元に示してもらうと、話が早く進みます。
選び方の観点1:自動化したい業務範囲を先に決める
ツールを見る前に、どの仕事の手間を減らしたいのかを1つか2つに絞っておきましょう。請求書の受け取りに時間がかかっているのか、経費精算の差し戻しが多いのか、入金消込が月末に集中しているのかで、見るべき製品が変わります。範囲が決まらないまま資料を集めると、機能の多い製品ほどよく見えてしまい、使わない機能に費用を払う結果になりがちです。
選び方の観点2:精度はトライアルで自社の書類を使って確かめる
読み取りや科目の提案の精度は、提供元が示す数字ではなく、自社の書類で試した結果で比べてください。公式ページの精度の数字は、提供元が決めた条件を満たした書類での値として示されていることが多く、手書きの多い領収書や様式がまちまちの請求書が多い会社では、同じ結果になるとは限りません。
試すときは、ふだん届く書類から、読み取りにくそうなものもあえて混ぜて、同じ書類のセットを各製品で試すと、差が見えやすくなります。金額・日付・取引先・登録番号の4項目について、直す必要があった件数を製品ごとに数えておくと、比べる材料になるはずです。
選び方の観点3:既存の会計ソフト・銀行・給与との連携
請求書や経費精算のツールを会計ソフトと別に入れる場合は、仕訳のデータをどう渡すかで日々の手間が決まります。APIで自動的につながるのか、CSVのファイルを書き出して取り込むのかを確かめておきたいところです。銀行口座やクレジットカードの明細を取り込めるか、給与のソフトから仕訳を受け取れるかも、今使っているソフトの名前を挙げて聞くと答えがはっきりします。
選び方の観点4:導入実績・事例は自社に近い条件かで読む
導入事例に書かれた削減時間は、その会社の取引量と手順での結果で、提供元が紹介する自社の事例です。社員数や月の請求書の枚数、紙とPDFの割合が自社と近いかを見て、近い事例があれば参考にする、くらいの読み方が向いています。事例の会社と同じ業種で、同じ規模の会社がどれくらい使っているかを提供元に尋ねるのも1つの方法になります。
選び方の観点5:セキュリティは学習の扱い・権限・ログで見る
セキュリティは、暗号化や認証の有無だけで比べると、どの製品も似た答えになってしまいます。経理で差が出るのは、入力データを学習に使うかどうか、権限を細かく分けられるか、操作の記録が残るか、の3点です。前の節で見たとおり、学習の扱いは製品ごとに書き方も範囲も違うため、チェックリストの項目に沿って条文の場所まで確かめておくと安心できます。
選び方の観点6:料金・費用の目安は増え方で比べる(月額・従量課金・初期費用)
料金は、月額の基本料金だけでなく、何に比例して増えるのかで比べるのがよいでしょう。利用者の人数で増えるのか、読み取りの件数や添付ファイル数で増えるのか、AI機能がオプションとして別に加わるのかによって、1年後の総額が変わってきます。初期費用や設定の支援が別にかかるかも、見積もりの段階で聞いておきましょう。
比べ方としては、今の月の件数と、1年後に増えたときの件数の2つの条件で見積もりを出してもらう形が分かりやすくなります。料金の表示は変わることが多いため、記事やまとめサイトの金額ではなく、見積もりの時点の公式の金額で判断してください。
選び方の観点7:電子帳簿保存法・インボイス制度への対応範囲を聞く
電子帳簿保存法やインボイス制度への対応は、対応しているかどうかではなく、どこまでをツールが受け持つのかで聞くのが確実です。メールやWebで受け取った電子取引のデータは、改ざんを防ぐ措置と、日付・金額・取引先で検索できる状態での保存が原則として求められます。改ざん防止の措置は、タイムスタンプ、訂正や削除の履歴が残る(または訂正・削除ができない)システム、事務処理規程のいずれかになるため、ツールがどれに当たるのかを確かめておきます。
令和7年度の税制改正では、請求書などのデジタルデータを自動で保存し、帳簿に自動で連携する仕組みに対応した制度が電子帳簿保存法に新設されました。国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使い、一定の要件を満たした場合には、関連する隠蔽・仮装行為について重加算税の10%の加重措置の対象から除かれます。施行は令和9年1月1日からで、適用を受けるには届出書の提出が必要とされています。基準に適合するシステムは、Peppol(ペポル)のJP PINTという仕様のデジタルインボイスか、銀行決済のデータのいずれかを保存できる機能を持つ必要があるため、今後の対応予定を提供元に聞いておくのも1つの手です。
※出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」令和7年6月版(問64・65・73〜75ほか)、財務省「電子帳簿等保存制度の概要」。2026年9月17日時点で確認した内容です。適用の可否は顧問の税理士や所轄の税務署にご確認ください。
インボイスの登録番号は、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで、名称、登録年月日、登録の取消や失効の年月日などを確かめられます。ツールが登録番号を自動で確認すると説明している場合は、この公表サイトの情報とどう照合しているのか、取消や失効まで追えるのかを聞いておくとよいでしょう。
汎用の生成AIに入れてよい経理データ・入れない経理データ
汎用の生成AIに経理のデータを入れるときは、書類の種類ごとに、入れてよい・会社が契約した環境でだけ入れる・入れない、の3つに振り分けておくと迷いません。経理は、給与、社員の口座、取引先の担当者、まだ公表していない業績といった、外に出せない情報を毎日扱う部署です。担当者の判断に任せず、書類の名前で決めておくことが、使い始める前の準備になります。
個人情報保護委員会の注意喚起が求める2つの確認
線引きのよりどころになるのが、個人情報保護委員会が令和5年6月2日に公表した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」です。この文書は、個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を入れる場合には、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確かめるよう求めています。
さらに、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入れ、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反するおそれがあるとの指摘もあります。そのうえで、サービスの提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確かめるよう求めました。生成AIの利用を禁じた文書ではなく、使う環境の条件を確かめるよう促す内容となっています。
入れてよい経理データの例
会社が認めた生成AIであれば、次のような情報は入れても差し支えのない範囲になります。
- 国税庁の案内や法令など、公表されている制度の情報
- 社名や個人名を伏せた、取引先へのお知らせ文の骨子
- 個人名や口座を含まない部分に絞った、経費規程・旅費規程の文面
- Excelの関数や集計のやり方についての質問(実際の数字を除いたもの)
- すでに公表している自社の情報
会社が契約した環境でだけ入れる経理データ
取引先名と金額が入った請求書、取引先との取引条件、社内規程の全文、未公表の月次の数字は、入力したデータが学習に使われないことを会社として確かめた環境でだけ入れる扱いにします。請求書の担当者名や経費精算の同行者名のように、個人の名前が混ざる書類もこの区分です。
この区分の書類を生成AIに読ませても、元の請求書のPDFは、電子帳簿保存法の要件を満たす保存の仕組みに保存しておく必要があります。生成AIの会話の履歴に請求書が残っていても、それを保存の代わりにすることは出来ません。
入れない経理データ(マイナンバー・給与・認証情報)
次の情報は、どの生成AIであっても、社内ルールとして入れない扱いにしておくことをおすすめします。
- マイナンバー(個人番号)と、それが書かれた年末調整・扶養控除の書類
- 社員一人ひとりの給与明細や、給与の振込口座
- 取引先担当者の個人的な連絡先の一覧
- ネットバンキングや会計ソフトのパスワード、認証の情報
マイナンバーは、利用できる事務が番号法で限られている情報です。個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」は、事業者が個人番号を利用するのは主に源泉徴収票や社会保障の手続書類に記載して行政機関等に提出する場合だと説明しています。同じガイドラインは、本人の同意があっても、例外を除いてこれらの事務以外で個人番号を利用してはならないとも定めているのです。
ガイドラインに生成AIへの入力についての直接の記載はありませんが、利用の範囲が限られた情報である以上、生成AIに入れる場面は考えにくいでしょう。マイナンバーは、どの環境であっても生成AIに入れない、と社内ルールに書いておきましょう。年末調整の書類を生成AIで整理するような使い方も、この決まりで止めておけます。
※出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)、同「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(令和6年5月一部改正)。上の振り分けは一般的な整理で、使う生成AIの契約内容・設定と自社の個人情報の利用目的に合わせてお決めください。
導入の進め方と、メリット・注意点
経理AIツールの導入は、今の仕事を棚卸しし、対象を絞って試し、結果を見てから広げる順番で進めると、設定や確認の負担が一度に押し寄せずに済みます。専任の経理担当が1〜2名の会社でも、対象を1つに絞れば始めやすくなります。
導入の進め方(棚卸し→対象を絞る→試験導入→広げる)
最初に、経理の仕事をたとえば1か月ほど記録して、何にどれだけ時間がかかっているかを数字にしておきましょう。この記録がないと、導入した後に効果があったのかを比べられません。
次に、件数が多く手順が決まっている仕事から、1つか2つを選びます。今使っている会計ソフトにAIの機能があるならまずそれを試し、足りない部分だけ専用ツールを検討する順番が無駄の少ない進め方になります。試す期間はたとえば数か月を目安にし、AIの候補と人の判断が食い違った件を書き留めておくと、設定を見直すときの材料になってくれます。
文章の仕事に使う生成AIは、専用ツールより先に始められる場合が多いはずです。どの生成AIを会社として使うかを決め、入れてよいデータの線引きを配ってから、お知らせ文の下書きや規程の要約から試してみてください。
メリット:作業時間の短縮と残業の削減
読み取りや仕訳の入力、消込の突き合わせが候補づくりまで自動になると、担当者の仕事は入力から確認へと変わります。同じ件数を短い時間で片付けられる見込みが出てくるため、締め日前後の残業や、繁忙期に頼んでいた入力の外注を減らせる可能性があります。ただし導入の直後は、設定や確認の手間でかえって時間が増えることもあり、効果はたとえば数か月単位で見ていくのが現実的でしょう。
メリット:入力・転記ミスの削減
書類からデータを読み取って直接取り込む形にすれば、転記という工程そのものが減り、桁の打ち間違いのようなミスは起きにくくなります。一方で、読み取りの誤りという別の種類のミスは残ってしまいます。確認の観点を、打ち間違い探しから、読み取り結果と元の書類の照合へ切り替えておきましょう。
メリット:月次決算の早期化と数字の見えやすさ
前の工程の手間が減れば、月次の締めを前倒ししやすくなります。銀行やカードの明細が会計ソフトとつながっていれば、月の途中でも大まかな数字をつかみやすくなるはずです。とはいえ、確認待ちの仕訳が多いまま数字を見ても判断を誤るもとになるため、確認待ちの件数を毎週減らす運用とあわせて考えましょう。
注意点:データ品質と業務フローの見直し
AIの候補は、元のデータが整っているほど安定します。同じ取引先が正式名称と略称で別々に登録されている、摘要の書き方が担当者ごとに違う、といった状態では、提案される科目も揺れてしまいます。導入の前後で、取引先の名寄せや摘要の書き方の統一、証憑の受け取り窓口の一本化を進めておくと、ツールの効き目が変わってきます。例外の多い取引は、AIに任せる範囲から最初は外しておくのが無難です。
注意点:AIに任せきらず最終確認は人が行う
専用ツールの候補も、生成AIの文章も、誤りが混ざる可能性があります。仕訳の確定、支払の承認、税務上の判断は人が行い、誰が何を確かめたかが後から分かる形にしておきましょう。全件を同じ深さで見るのが難しいときは、金額の大きい取引、初めての取引先、AIが印を付けた取引を重点的に見る、と強弱を決めておくと続けやすくなります。
経理の仕事はAIでなくなるか
入力や突き合わせの作業は減っていきますが、確認・判断・説明の役割は人に残ります。AIの出力は候補であり、確定させるのは人です。監査や税務調査で処理の根拠を説明するのも、保存のルールを守る運用を決めるのも、経理の担当者の仕事として残り続けます。
変わるのは仕事の比重で、入力に使っていた時間を、数字の変化を経営者に説明する、資金繰りの見通しを立てる、規程を見直す、といった仕事に回せるようになります。そのためにも、AIの出力が正しいかを見抜く会計と税務の基礎と、何を生成AIに入れてよいかを判断する情報管理の知識が、これからの経理に求められる力になってくるでしょう。
会社で生成AIを安全に使うには
文章の仕事を汎用の生成AIに任せるなら、学習させない設定、利用の記録、社員への配り方、複数のAIの使い分けの4つを、会社の側で決めておく必要があります。個人のアカウントに任せた設定は、一人ひとりの操作で簡単に変わってしまうためです。
学習させない設定は、法人向けのプランで既定になっているか、管理者がまとめて決められる形を選ぶのが確実な方法になります。主なサービスごとの設定の場所は、ChatGPTに学習させない設定の記事で確かめられます。利用の記録は、誰がいつどのAIを使ったかを管理者が見られる状態にしておくと、監査や税務調査で経緯を説明するときにも役立ちます。
社員への配り方では、経理だけに配るのか、総務や営業にも広げるのかで、費用の増え方が変わってきます。人数に比例して料金が増えるサービスでは、配る相手を絞った結果、配られなかった社員が個人のアカウントで使い始める、という流れも起きがちです。会社の知らないところで使われるAIの見つけ方と対策は野良AI(シャドーAI)の記事にまとめました。
複数のAIの使い分けも、経理の文章の仕事では役に立ちます。規程の長い文書の要約、取引先への丁寧なメール、制度の調べものの下調べでは、向いているAIが違うことがあるからです。複数のAIを1つの環境でまとめて使う方法はマルチAIの記事で、社内ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で紹介しています。
経理の文章仕事に使うAIを、会社の管理下で使い分ける
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で、会社の管理下で使い分けられる法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、よく使う指示と手順はカスタムプラスでBOTにして社内限定で共有できます。基盤は国内サーバー(AWSの日本リージョン)です。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
会計ソフトにAIの機能があれば、汎用の生成AIは要りませんか?
ChatGPTに請求書のPDFを読ませて仕訳を作ってもよいですか?
「学習機能あり」と書かれた経理AIツールは、入力データが外に使われるのですか?
経理AIツールの読み取りの精度は、どう比べればよいですか?
経理担当が1〜2名の会社は、何から始めればよいですか?
まとめ
経理のAIツールは、仕訳・請求書・経費精算のように帳簿や証憑のデータに触れる仕事は会計ソフトや専用ツールのAIで、メールや説明文、規程の要約のような帳簿の外の文章は汎用の生成AIで、と用途ごとに置き場所を決めると選びやすくなります。
専用ツールを比べるときは、AI機能が標準かオプションか、追加の課金が何に比例するか、入力データを学習に使うかを規約や特則で確かめることが出発点です。読み取った結果を最初に確かめるのが誰か、電子帳簿保存法やインボイスにどこまで対応しているか、解約時にデータをどう取り出すかも、同じ表で並べて比べてみてください。
汎用の生成AIは、入れてよいデータの線引きを書類の名前で決め、マイナンバーはどの環境でも入れない扱いにしておくと、社員が迷わずに使えます。使うAIを会社として1つの環境にそろえることが、用途別の使い分けを続ける土台になるでしょう。業務別のAI活用についてはAI活用コラム一覧から他の記事もご覧いただけます。
