経理のAIは仕訳と文書で使い分ける

経理のAI活用とは、仕訳・請求書の処理・経費精算のチェックといった定型の作業や、取引先へのメール・社内向けの説明資料・規程の要約といった文書の仕事に、人工知能の機能を取り入れて手間とミスを減らす取り組みのことです。進めやすいのは、仕訳や経費精算の自動化は会計ソフトや経費精算システムに備わった機能に任せ、メール・資料・調べものなどの文書仕事は汎用の生成AIで行う、というように役割を分けるやり方です。この記事では、経理でAIにできることを業務ごとに整理したうえで、電子帳簿保存法やインボイス制度との関係、生成AIに入れてよい情報の線引き、社員10〜200名の会社が始める順番までを、国税庁と個人情報保護委員会の公表資料をもとに解説します。

経理のAI活用とは|専用の機能と汎用の生成AIの2系統

経理で使われるAIは、会計ソフトや経費精算システムに組み込まれた専用の機能と、ChatGPT・Claude・Geminiのような汎用の生成AIの2系統に分けて考えると整理しやすくなります。前者は帳簿や証憑のデータと直接つながり、決まった処理を繰り返すのに向いています。後者は帳簿とはつながっていませんが、文章を読む・書く・まとめるといった幅広い作業に使えます。

AIという言葉はひとくくりに語られがちですが、同じ経理の現場でも、請求書の金額を読み取って仕訳の候補を出す機能と、取引先への支払条件変更のお知らせ文を下書きする機能は、仕組みも置き場所も違います。どちらを使う話なのかを先に分けておくと、ツール選びや社内ルールづくりの議論が混ざらずに済みます。

経理で使われるAIツールの種類

経理まわりで使われるAIツールは、おおむね次の5つに分けられます。製品によっては複数の機能を1つにまとめているものもあり、名前の付け方も各社で異なるため、ここでの区分は一般的な整理です。

  • AI-OCR:紙やPDFの請求書・領収書から、日付・金額・取引先などの文字を読み取ってデータにする機能です。OCRは光学文字認識の略で、AIを組み合わせることで手書きや様式の違う書類にも対応しやすくしたものを指します。
  • 会計ソフト・経費精算システムのAI機能:銀行やカードの明細、読み取った証憑のデータをもとに、勘定科目や税区分の候補を出したり、規程に合わない申請に印を付けたりする機能です。
  • 汎用の生成AI:文章の作成・要約・言い換え・チェック、表の読み取り、調べものの下調べなどに使えるAIです。帳簿データとは連携していないことが多く、使う人がデータを入力して使います。
  • チャットボット:社内規程やマニュアルを参照して、社員からの質問に自動で一次回答する仕組みです。生成AIを使ったものと、あらかじめ用意した質問と回答から選ぶものがあります。
  • AIエージェント:目的を与えると、複数の手順を自分で組み立てて処理を進めるAIの仕組みです。請求書の受領から照合、承認依頼までをつなげて進めるような使い方が想定されています。

AIとRPA・Excelマクロ・会計ソフトの自動化の違い

AIとRPA・Excelマクロの違いは、決められた手順をそのとおりに繰り返すのか、データの中身を見て判断の候補を出すのか、という点にあります。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、画面の操作を記録してそのとおりに再現する仕組みで、手順が毎回同じ作業に向いています。Excelマクロも同じく、決めた処理を正確に繰り返すものです。

これに対してAIは、様式の違う請求書から金額の位置を見つける、摘要の文言から勘定科目を推測する、といった手順を書き切れない作業を受け持ちます。その分、結果には誤りが混ざる可能性があるため、人の確認を前提に使います。会計ソフトのルール登録による自動仕訳は、条件に合えば決まった科目を付ける仕組みで、RPAやマクロに近い性格を持ちます。実務では、ルールで決め切れるものはルールで、決め切れないものはAIの候補を人が確認する、という組み合わせになることが多くなります。

RPA・Excelマクロ会計ソフトのルール設定AI(専用機能・生成AI)
動き方記録した手順をそのとおり再現登録した条件に合えば決まった処理データの中身から候補を推測
向く作業手順が毎回同じ転記や集計毎月同じ取引先・同じ内容の取引様式や言い回しがばらつく書類・文章
結果の性格手順が正しければ同じ結果条件が正しければ同じ結果誤りが混ざる可能性がある
人の関わり方手順が変わったら作り直す条件を保守する候補を確認して確定する

※表は一般的な整理で、特定の製品の仕様を示すものではありません。

AIが得意な業務・苦手な業務

AIが得意なのは、量が多く、過去のデータに似たパターンがある作業です。苦手なのは、前例のない取引の判断や、社内外の事情を踏まえた説明・交渉のように、根拠を自分で集めて責任を持って決める必要がある作業です。

区分業務の例AIの役割の目安
得意証憑の読み取り、定型取引の仕訳候補、経費申請の規程チェック、入金と請求の突き合わせ候補、文章の下書き・要約・誤字チェック候補を出し、人が確認して確定する
補助にとどまる月次の数字の変化の説明文、決算資料のたたき台、社内からの質問への一次回答下書きや論点出しまで。数字と結論は人が確かめる
苦手前例のない取引の会計処理、税務上の判断、取引先との支払条件の交渉、監査人や税務署への説明調べものの補助程度。判断と説明は人が行う

※表は一般的な整理です。どこまで任せられるかは、使う製品と自社のデータの状態によって変わります。

経理でAIにできること|業務ごとに見る

経理でAIにできることは、証憑の読み取りから仕訳・照合・チェックまでの定型処理と、報告書や問い合わせ回答などの文書づくりに大きく分かれます。ここでは業務ごとに、どの種類のAIが担うことが多いか、人がどこを確認するべきかを整理します。製品ごとの対応範囲や精度は各社の公表内容を確認してください。

仕訳の自動提案(勘定科目・税区分の推論と人の確認)

仕訳の自動提案は、銀行口座やクレジットカードの明細、読み取った請求書のデータをもとに、勘定科目や消費税の税区分の候補を出す機能です。会計ソフトの自動仕訳機能として提供されていることが多く、過去に確定した仕訳の傾向を参考に候補を示す仕組みが一般的です。

便利な一方で、候補はあくまで候補です。同じ取引先への支払いでも、消耗品なのか資産計上が必要な備品なのかで科目が変わりますし、軽減税率の対象かどうかで税区分も変わります。取引の中身を知っている人が確認して確定する、という手順は残ります。確定した仕訳が次の候補の参考になる仕組みであれば、最初の数か月に丁寧に直しておくほど、後の候補が整いやすくなります。

AI-OCRによる請求書・領収書のデータ化

AI-OCRは、紙やPDFで届く請求書・領収書から、日付・金額・取引先名・登録番号などを読み取ってデータにする機能です。手入力の量を減らせるのが利点で、会計ソフトや経費精算システム、請求書受領のサービスに組み込まれていることが多くあります。

読み取りの結果には、かすれた印字や手書きの数字、似た形の文字の取り違えなどによる誤りが混ざる可能性があります。金額と日付は元の書類と照らして確認し、読み取れなかった項目を空欄のまま進めない運用にしておくと安心です。なお、メールで受け取ったPDFの請求書は電子取引データとして保存の義務がかかります。この点は後半の電子帳簿保存法の節で説明します。

経費精算の規程チェックと一次承認

経費精算の規程チェックは、社員が申請した経費を社内規程と照らし、上限額を超えていないか、同じ領収書が二重に申請されていないか、必要な添付がそろっているかを確認する作業です。経費精算システムの規程チェック機能として、規程に合わない申請に印を付けたり、差し戻しの候補を出したりするものがあります。

AIに一次承認までを任せる運用も考えられますが、規程の解釈が分かれる申請や、金額が大きい申請は人が見る、という線を先に決めておくことが大切です。規程そのものが曖昧だとAIのチェックも揺れるため、導入は規程の文言を見直す機会にもなります。

入金消込の自動化(振込名義のゆれ・合算入金)

入金消込は、銀行口座への入金と発行済みの請求書を突き合わせ、どの請求が支払われたかを記録する作業です。手作業では、振込名義が請求先の正式名称と違う、複数の請求をまとめて振り込まれた、振込手数料が差し引かれて金額が合わない、といったずれの確認に時間がかかります。

AIを使った消込の機能は、名義のゆれ(カタカナの略称や部署名入りの名義など)や合算入金の組み合わせを推測して、突き合わせの候補を出すものです。候補が正しいかどうかは、取引先の事情を知る担当者が確認します。一度確定した名義と取引先の対応を登録しておく運用にすると、翌月以降の確認が楽になります。

請求書の照合・作成送付・支払データ作成

請求書まわりでは、受け取った請求書と発注書・納品書の突き合わせ、自社が発行する請求書の作成と送付、支払予定のデータ作成といった作業にAIやシステムの機能が使われています。受け取った請求書の金額や品目を発注データと照らして差異に印を付ける、支払期日ごとに振込データの案をまとめる、といった形です。

ここで注意したいのは、支払いに直結する作業だという点です。振込先口座の変更依頼がメールで届いたときに、その内容をそのまま支払データに反映してしまうと、なりすましの被害につながるおそれがあります。口座の変更は、既存の連絡先に電話で確かめるなど、AIの外で本人確認をする手順を残しておきます。

不正検知・異常値検知

異常値検知は、過去の傾向から外れた取引を見つけて知らせる機能です。いつもより桁の大きい支払い、同じ金額の申請の繰り返し、休日や深夜の申請の集中など、人が全件を見ていては気づきにくい動きを拾うのに向いています。

ただし、印が付いた取引がすべて不正というわけではありませんし、印が付かなかった取引が正しいという保証にもなりません。検知の結果は調べる順番を決める材料として使い、最終的な判断は人が根拠を確かめて行います。

決算・報告資料の作成支援と財務分析

決算や月次報告の資料づくりでは、生成AIが文章の下書きや構成案づくりに役立ちます。前月からの主な増減を箇条書きで渡して説明文の下書きを作らせる、経営会議向けの資料の見出し案を出させる、といった使い方です。会計ソフトに搭載された分析・レポートの機能で、推移のグラフや増減の一覧を出せる製品もあります。

生成AIに数字の計算や増減の理由の推測を任せると、もっともらしい誤りが混ざることがあります。数字は会計ソフトの出力を正とし、生成AIには人が確かめた数字と理由を渡して、言葉の整理だけを頼むのが安全です。未公開の決算数値を入れるかどうかは、後述の3段の線引きで判断します。

月次決算の早期化と経営状況の可視化

月次決算の早期化は、証憑の読み取り・仕訳・消込といった前工程の手間が減ることで、締めの作業を前倒しできるという効果です。経営者から見ると、前月の数字が早く出るほど、手を打つ時期も早くできます。

会計ソフトと銀行・カードの明細が連携していれば、日々の取引が早めに帳簿に反映され、月の途中でも大まかな状況をつかみやすくなります。ただし、未確定の仕訳が多いまま数字を見ても判断を誤るもとになるため、確認待ちの件数を毎週減らす運用とセットで考えます。

資金繰り・キャッシュフロー予測

資金繰りの予測では、入金予定と支払予定、過去の入出金の傾向から、数か月先の預金残高の見込みを出す機能を持つ製品があります。予定表を手で作っている会社にとっては、たたき台が自動でできるだけでも負担が減ります。

予測は過去の傾向と登録済みの予定に基づくため、大口の取引先の支払遅延や、設備投資・借入の返済条件の変更など、帳簿の外にある事情は反映されません。経営者と経理が見込みを持ち寄って補正し、予測を判断の材料の1つとして扱うのが現実的です。

監査対応(証憑突合・資料抽出)

監査や税務調査の対応では、指定された取引の証憑を探し出す、帳簿の金額と証憑を突き合わせる、依頼された一覧表を作る、といった作業が発生します。証憑がデータで保存され、日付・金額・取引先で検索できる状態になっていれば、資料を集める時間は大きく変わります。

この検索できる状態は、電子帳簿保存法が電子取引データに求める要件とも重なります。AIの機能を足す前に、まず保存と検索の土台が整っているかを確認しておくと、監査対応の準備にもなります。

社内の経理問い合わせへのチャットボット一次回答

社内の経理問い合わせは、経費の締め日、交通費の申請方法、立替払いの領収書の扱いなど、同じ質問が繰り返されやすい分野です。規程やマニュアルを参照させたチャットボットに一次回答を任せると、経理担当者が同じ説明を何度もする手間を減らせます。

うまく動かすには、参照させる規程やマニュアルが最新で、書き方が明確であることが前提です。回答の最後に根拠の規程の条文や該当ページを示させる、判断が分かれる質問は担当者につなぐ、という設計にしておくと、誤った回答がそのまま広がるのを防げます。

AIエージェントによる受領から照合・承認・支払までの自律処理

AIエージェントは、請求書の受領、内容の読み取り、発注データとの照合、承認者への回付、支払データの作成までを、人が1つずつ指示しなくても続けて進める仕組みとして注目されています。複数の手順をまたいで処理が進むため、人が関わる回数を減らせる可能性があります。

一方で、途中の判断が見えにくくなるという課題もあります。どの段階で人が承認するか、AIが自動で進めてよい金額や取引先の範囲をどこまでにするか、処理の記録をどこに残すか、を決めてから使い始めることが欠かせません。支払いの実行そのものは、人の承認を経る設計にしておくのが無理のない線です。

生成AIの使い道(文章のチェック・報告書の草案・要約・問い合わせ回答)

汎用の生成AIが経理で力を発揮しやすいのは、帳簿の外にある文書の仕事です。帳簿や証憑のデータに触れずに済む作業が多く、個人情報を含めずに使える場面も多いため、最初に試す対象として向いています。

  • 取引先への支払条件変更や請求書送付方法の変更のお知らせ文の下書き
  • 社内向けの経費精算ルール改定の説明文や、よくある質問の回答案
  • 経費規程や旅費規程の要約、改定前後の差分の整理
  • 税制改正や制度変更についての調べものの下調べ(原文の確認が前提)
  • 報告書やメールの誤字脱字・言い回しのチェック
  • Excelの関数やピボットテーブルの使い方の質問

調べものに使うときは、生成AIの回答をそのまま根拠にせず、国税庁や法令の原文にあたって確かめる手順を必ず挟みます。生成AIは、もっともらしいが事実と異なる内容を出力することがあるためです。

仕訳は専用ソフト、文書は生成AI|業務ごとの使い分け表

経理のAI活用は、帳簿や証憑のデータに触れる仕事は会計ソフト・経費精算システムの機能で、帳簿の外にある文書の仕事は汎用の生成AIで、と分けると判断がぶれにくくなります。帳簿側の仕事は、電子取引データの保存や帳簿との連携といった制度上の要件と結びついているため、それを担える専用の仕組みに置くほうが筋が通ります。

業務主に使う仕組み人が確認すること
仕訳・明細の取り込み会計ソフトの自動仕訳機能勘定科目・税区分・資産計上の要否
請求書・領収書の受領と読み取り会計ソフト・経費精算システム・請求書受領の仕組みのAI-OCR金額・日付・登録番号、電子データの保存
経費精算のチェック経費精算システムの規程チェック機能規程の解釈が分かれる申請、高額の申請
入金消込・支払データ会計ソフト・銀行連携の機能名義ゆれの対応、振込先口座の変更
取引先へのメール・お知らせ文汎用の生成AI金額・期日・相手先の名前を入れる前の確認
社内向けの説明資料・規程の要約汎用の生成AI原文の規程との食い違い
制度の調べもの汎用の生成AI(下調べ)国税庁・法令の原文での確認
決算説明の文章汎用の生成AI(言葉の整理)数字は会計ソフトの出力を正とする

※表は一般的な整理で、特定の製品の機能を示すものではありません。会計ソフトや経費精算システムに生成AIの機能が組み込まれている場合もあります。

入れてよい情報・確認が要る情報・入れない情報の3段の線引き

汎用の生成AIに情報を入れるときは、入れてよい・確認が要る・入れない、の3段に分けておくと、社員が迷わずに使えます。経理は給与・口座・取引先・未公開の業績など、外に出せない情報を日常的に扱う部署なので、線引きを言葉にしておく効果が大きい部署でもあります。

区分情報の例扱い
入れてよい公開済みの制度の情報、社名や個人名を除いたお知らせ文の骨子、一般的なExcelの質問、公開済みの自社情報会社が認めた生成AIで利用してよい
確認が要る取引先の社名と取引条件、社内規程の本文、個人名を含む文面、未公開の月次の数字学習に使われない設定が会社として担保され、利用目的の範囲内であることを確認してから
入れないマイナンバー(個人番号)、社員の給与明細や口座番号、取引先担当者の個人的な連絡先の一覧、パスワードやネットバンキングの認証情報社内ルールとして生成AIには入力しない

※表は一般的な整理です。どの区分に置くかは、使う生成AIの契約内容・設定と、自社の個人情報の利用目的に合わせて決めてください。

確認が要る区分の判断の根拠になるのが、個人情報保護委員会が令和5年6月2日に公表した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」です。詳しくは注意点の節で取り上げます。

マイナンバーは社内ルールで生成AIに入力しない扱いにする

マイナンバーは、そもそも利用できる事務が法律で限られている情報なので、生成AIには入力しない扱いを社内ルールとして明記しておくことをおすすめします。個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(令和6年5月一部改正)は、個人番号を利用できる事務は番号法によって限定的に定められていると説明しています。

同ガイドラインでは、事業者が個人番号を利用するのは主として源泉徴収票や社会保障の手続書類に記載して行政機関等に提出する場合であり、本人の同意があっても、例外を除いてこれらの事務以外で利用してはならないとされています。ガイドラインに生成AIへの入力についての直接の記載はありませんが、利用範囲が限られた情報である以上、年末調整や扶養控除の書類を生成AIで整理するといった使い方は避け、入力しない扱いに決めておくのが安全です。

経理にAIを取り入れるメリット

経理にAIを取り入れるメリットは、手入力と確認の時間が減ること、転記によるミスが減ること、担当者によって変わっていた処理がそろうことの3つにまとめられます。どれも、効果が出るのはAIに任せる範囲と人が確認する範囲を決めた後です。

メリット1:業務効率化と残業・外注費の削減

証憑の読み取り、仕訳の入力、消込の突き合わせといった作業は、件数に比例して時間がかかります。AIの機能で候補づくりまでが自動になれば、担当者の仕事は入力から確認に変わり、同じ件数を短い時間で処理できる可能性があります。

締め日前後の残業や、繁忙期に頼んでいた入力の外注が減れば、費用の面でも効果が見えます。一方で、導入直後は設定や確認の手間が増えることもあるため、効果は数か月単位で測る前提で考えます。どれだけ時間が減ったかは、導入前の作業時間を記録しておかないと比べられません。

メリット2:入力ミス・転記ミスの削減

手入力では、桁の打ち間違いや、請求書から会計ソフトへの転記の際の取り違えが一定の割合で起こります。データを読み取って直接取り込む仕組みにすれば、転記という工程そのものが減るため、この種のミスは起こりにくくなります。

ただし、読み取りの誤りという別の種類のミスは残ります。ミスの種類が変わるだけで、ゼロになるわけではないと理解しておくことが大切です。確認の観点を、打ち間違い探しから、読み取り結果と元の書類の照合へと切り替えます。

メリット3:属人化の解消と業務の標準化

経理の現場では、特定の担当者だけが仕訳の判断基準や取引先ごとの事情を知っている、という属人化が起こりがちです。担当者が休んだり退職したりすると、処理が止まったり、やり方が変わったりします。

AIの機能を使うには、仕訳のルール、規程のチェック項目、名義と取引先の対応などを、システムに登録できる形で書き出す必要があります。この書き出しの作業そのものが、担当者の頭の中にあった判断を会社の資産に変えるきっかけになります。生成AIに手順書の下書きを作らせ、担当者が直す、という進め方も使えます。

電子帳簿保存法とインボイス制度|AIを使っても残る義務

AIを使って請求書や領収書を処理しても、電子帳簿保存法による電子取引データの保存義務や、インボイス制度での登録番号の確認の必要がなくなるわけではありません。ここでは国税庁の資料をもとに、経理でAIを使う前に押さえておきたい制度の要点を整理します。なお、国税庁の資料が生成AIについて述べているわけではなく、AIとの関係はこの記事での整理です。

電子取引データの保存要件(真実性・可視性・検索)

メールで届いたPDFの請求書や、Webサイトからダウンロードした領収書のように、電子データでやり取りした取引情報は、電子データのまま保存する必要があります。国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和7年6月版)が示す保存要件は、大きく真実性の確保と可視性の確保に分かれます。

真実性の確保は、データが改ざんされていないことを担保するための要件で、次のいずれかの措置を行います。

  • タイムスタンプが付いたデータを受け取る、または受け取った後に速やかにタイムスタンプを付ける
  • 訂正や削除の履歴が残る、または訂正や削除ができないシステムでやり取り・保存する
  • 正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用し、備え付ける

可視性の確保は、保存したデータをすぐに見られるようにするための要件で、ディスプレイやプリンタなどを備え付けること、自社で開発したシステムの場合はその概要書を備え付けること、検索機能を確保することが含まれます。検索機能は、原則として次の3つを満たす必要があります。

  1. 取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件に設定できる
  2. 日付と金額は、範囲を指定して検索できる
  3. 2つ以上の項目を組み合わせて検索できる

ただし、税務職員からのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合は、2と3の機能は不要とされています。

検索要件が不要になる場合と猶予措置

令和6年1月1日以後に行う電子取引では、基準期間(法人は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下で、税務職員からのデータのダウンロードの求めに応じられる場合には、検索機能の要件が不要になります。また、データを出力した書面を取引年月日と取引先ごとに整理して提示・提出でき、かつ税務職員からのダウンロードの求めにも応じられる場合も、検索機能の要件は不要とされています。以前の基準は1,000万円以下だったため、古い解説記事を読むときは時期に注意が必要です。

さらに猶予措置として、税務署長が、要件どおりに保存できなかったことに相当の理由があると認め、かつ税務調査などでデータと整然とした形式の出力書面の両方を提示・提出できる場合には、検索機能などの要件にかかわらずデータを保存できます。事前の申請は不要です。ただし、この措置は要件を満たせなくても電子データで保存できるというもので、保存の義務そのものがなくなるわけではありません。データを残さずに出力書面だけを保存する対応は認められていません。

※出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」令和7年6月版(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/03-6.pdf)。2026年9月17日時点で確認した内容です。

生成AIに請求書PDFを読ませても元の電子データの保存義務は残る

メールで届いた請求書のPDFを汎用の生成AIに読ませて仕訳の候補や支払予定の一覧を作ったとしても、元のPDFは電子取引データとして要件どおりに保存しておく必要があります。生成AIのチャット履歴にPDFが残っていても、それは真実性や検索の要件を満たす保存場所とはいえません。

この点は、国税庁が生成AIについて言及しているのではなく、保存要件から導かれるこの記事での整理です。実務では、請求書は要件を満たす保存の仕組み(電子取引の保存に対応した会計ソフトや請求書受領の仕組み、または事務処理規程と検索できるフォルダ管理など)に先に保存し、生成AIはその写しの内容をもとに文書を作る補助に限る、という順番にしておくと混乱しません。取引先名や金額を含む請求書を汎用の生成AIに入れること自体も、先ほどの3段の線引きでは確認が要る区分にあたります。

令和7年度税制改正:帳簿への自動連携と重加算税の加重措置

令和7年度の税制改正では、請求書等のデジタルデータを自動で保存し、帳簿に自動で連携する仕組みに対応した制度が電子帳簿保存法に新設されました。国税庁の一問一答によると、一定の要件を満たしてデータを送受信・保存した場合、その電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為については、重加算税の10%加重措置の適用対象から除かれることになりました(法第8条第5項、令和9年1月1日以後に施行される規定)。この除外を受けるには、あらかじめ届出書を提出する必要があります。

対象になるのは、国税庁長官が定める基準に適合するシステム(令和7年国税庁告示第2号)を使い、定められた要件を満たす場合です。基準に適合するシステムは、Peppol(ペポル)のJP PINTという仕様に沿ったデジタルインボイス、または金融機関の為替取引(銀行決済)のデータのいずれかを保存できる機能を持つ必要があります。電子取引データであれば何でも自動で対象になるわけではありません。

この改正は、請求書の受け取りから帳簿への記録までを、データのまま一続きでつなぐ方向を制度の側から後押しするものと読めます。仕訳や請求書の処理を、帳簿と連携できる専用の仕組みに寄せておく理由の1つになります。

※出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」令和7年6月版 問64・65・73〜75、財務省「電子帳簿等保存制度の概要」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/n04_7.pdf)。2026年9月17日時点で確認した内容です。適用の可否は税理士や所轄の税務署に確認してください。

インボイスの登録番号は国税庁の公表サイトで確認する

受け取った請求書に書かれた登録番号が実在するかは、汎用の生成AIに尋ねるのではなく、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイト(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)で確認します。生成AIは登録の情報を持っているとは限らず、もっともらしい回答を返すことがあるためです。

国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和8年5月改訂)の問19によると、公表サイトで公表される事項は次のとおりです。

  • 氏名または名称
  • 法人の場合は本店または主たる事務所の所在地
  • 特定国外事業者以外の国外事業者は、国内の事務所等の所在地
  • 登録番号
  • 登録年月日
  • 登録取消年月日・登録失効年月日

本人が申し出た場合は、屋号などを追加で公表することもできます。請求書の名称と公表サイトの名称が違うように見える場合は、屋号の表記の違いなども含めて確認します。会計ソフトや請求書受領の仕組みの中には、読み取った登録番号を照合する機能を持つものもありますが、仕組みがどのデータと照合しているかは製品ごとに確認が必要です。

保存の義務は残るから、AIの利用も会社の管理下に

電子帳簿保存法やインボイスの義務は、生成AIで書類を作っても会社に残ったままです。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

経理でAIを使うときの注意点

経理でAIを使うときに押さえたい注意点は、情報の扱い、人による確認、処理の記録、データと業務フローの整備、費用と体制の5つです。どれも、AIの性能より運用の決めごとで差が出る部分です。

注意点1:機密情報・個人情報の扱い(学習させない設定と社内ルール)

汎用の生成AIに業務の情報を入れる前に、入力した内容がAIの学習に使われない状態になっているかを、会社として確認しておく必要があります。個人情報保護委員会は令和5年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報取扱事業者に対して次の2点を示しています。

  • 個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を入力する場合には、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
  • あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるため、サービスを提供する事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること

この注意喚起は生成AIの利用を禁止したものではありません。利用目的の範囲と、学習に使われないことの確認を求めたものです。経理が扱う給与、社員の振込口座、経費精算の同行者名、取引先担当者の氏名などは、いずれも個人情報にあたる可能性があります。

学習に使われるかどうかは、サービスと契約の種類で違います。各社の公式ヘルプ(2026年9月16日確認)によると、ChatGPTの個人向けプランは設定のデータコントロール(表示名は画面により異なる場合があります)にある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると会話が学習に使われなくなり、ChatGPT BusinessやChatGPT Enterpriseは既定でビジネスデータを学習に使わないとされています。Geminiアプリの個人アカウントは「アクティビティの保存」をオフにすると今後のチャットがAIモデルのトレーニングに使われなくなり、Claudeは個人向けプランがオプトアウト(利用者が自分で学習への利用を断る方式)、法人向けの商用製品は既定で学習に使わない扱いです。

注意したいのは、個人向けの設定には例外があることです。OpenAIのヘルプでは、学習をオプトアウトしていても、回答に良い・良くないの評価を送ると、その評価に関連する会話全体が学習に使われることがあると説明されています。社員一人ひとりの設定と操作に任せる方式では、漏れを防ぎ切れません。個人アカウントの業務利用を認めるかどうかを含めて、社内ルールで決めておきます。ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で解説しています。

注意点2:AIに任せきらず最終判断・承認は人が行う

AIの出力には誤りが混ざる可能性があるため、仕訳の確定、支払いの承認、税務上の判断は人が行う手順を残します。専用の機能でも読み取りや推測を誤ることがありますし、生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあります。この現象はハルシネーションと呼ばれます。

確認の手間を減らしたいときは、全件を同じ深さで見るのではなく、金額の大きい取引、初めての取引先、AIが印を付けた取引を重点的に見るなど、確認の強弱を決めます。承認ボタンを押した人が中身を見ていない状態にならないよう、誰が何を確認したかが後から分かる運用にしておきます。

注意点3:ブラックボックス化と説明責任(処理ログ・監査や税務調査への備え)

AIが出した候補をそのまま確定する運用が続くと、なぜその科目にしたのか、なぜその申請を通したのかを誰も説明できない状態になりかねません。監査や税務調査で処理の根拠を問われたとき、AIが決めた、というだけでは根拠の説明として足りません。

備えとしては、AIの候補を誰がいつ確定・修正したかの記録が残る仕組みを使うこと、仕訳のルールや規程チェックの設定を文書にしておくこと、汎用の生成AIについても誰がいつどのAIを使ったかを会社が把握できる環境にしておくことが挙げられます。社員が会社の知らない個人アカウントで生成AIを使っている状態は、記録そのものが残りません。この問題は野良AIのリスクと対策でも取り上げています。

注意点4:データ整備と業務フローの見直し(入力ルール・表記ゆれ)

AIの機能は、元のデータが整っているほど結果が安定します。同じ取引先が正式名称・略称・旧社名でばらばらに登録されている、摘要の書き方が担当者ごとに違う、補助科目の使い方が決まっていない、といった状態では、AIの候補も揺れます。

導入の前後で、取引先マスタの名寄せ、摘要の書き方の統一、証憑の受け取り窓口の一本化など、入力のルールを決めておきます。紙で受け取る書類とデータで受け取る書類が混在している場合は、どちらをどこに保存するかの流れも合わせて見直します。今の手作業の流れをそのままAIに置き換えるのではなく、流れそのものを短くする機会として扱うと、効果が出やすくなります。

注意点5:導入・運用コストと体制づくり

AIの機能を使うには、ツールの利用料だけでなく、設定、既存データの移行、社員への説明、運用後の見直しの手間がかかります。専用の機能は会計ソフトや経費精算システムの料金体系に含まれる場合も、別の料金になる場合もあるため、見積もりの段階で範囲を確認します。

汎用の生成AIは、1人あたりの月額で課金されるサービスもあり、配る人数によって費用が変わります。法人向けプランの料金の考え方はChatGPTの法人プランの料金で解説しています。費用とあわせて、設定を管理する担当者、社員からの質問を受ける窓口、ルールを見直す時期を決めておくと、導入後に放置されにくくなります。

経理の仕事はAIでなくなるのか

経理の仕事がAIですべてなくなると考える根拠は乏しく、入力や突き合わせの作業が減る一方で、判断・確認・説明の責任は人に残る、と整理するのが現実的です。ここまで見てきたように、AIの出力は候補であり、確定するのは人です。電子帳簿保存法の保存要件を満たす運用を決め、監査や税務調査で処理の根拠を説明するのも人の役割です。

変わるのは、仕事の中身の比重です。入力や転記に使っていた時間が減れば、数字の変化の理由を経営者に説明する、資金繰りの見通しを立てる、規程や業務フローを見直す、といった仕事に時間を回せるようになります。AIの導入を人員削減の話としてだけ進めると、確認の担い手がいなくなり、かえってリスクが高まるおそれがあります。

AI時代の経理に求められるスキルと研修

AIを使う経理担当者に求められるのは、AIの出力が正しいかを見抜く会計と税務の基礎知識、どこまでAIに任せてどこから人が見るかを決める業務設計の力、そして数字の意味を経営者や社員に伝える説明の力です。加えて、生成AIに何を入れてよいかを判断する情報管理の知識も欠かせません。

研修では、ツールの操作方法だけでなく、入力してよい情報の線引き、出力の確認の仕方、誤りに気づいたときの報告の流れまでを扱います。生成AIについては、実際の業務の文書を題材に、個人情報を除いた形で指示文を書く練習をすると、現場で使える形になりやすくなります。社員が一斉に使い始める前に、経理と総務の担当者が先に試して、つまずきやすい点を研修の内容に反映させる進め方も有効です。

経理でAIを導入する進め方

経理でAIを導入するときは、困っている作業を特定し、対象を絞り、ツールを選び、小さく試して効果を測る、という順番で進めると失敗しにくくなります。いきなり全業務を置き換えようとすると、設定と確認の負担が一度に押し寄せます。

導入の5ステップ(課題の明確化から効果測定まで)

  1. 課題を明確にする:どの作業に何時間かかっているか、どこでミスが起きているかを、1か月ほど記録して数字にします。
  2. 対象業務を絞り込む:件数が多く、手順が比較的決まっている作業から選びます。経費精算や請求書の受領は候補になりやすい作業です。
  3. ツールを選ぶ:今使っている会計ソフトや経費精算システムにAIの機能があるかをまず確認し、足りない場合に別の仕組みを検討します。電子取引データの保存要件に対応しているかも確認します。
  4. 小さく試す:1部署や1種類の書類に限って、数か月試します。AIの候補と人の判断が食い違った件を記録しておくと、設定の見直しに使えます。
  5. 効果を測る:ステップ1で記録した作業時間やミスの件数と比べ、続けるか、範囲を広げるか、やり方を変えるかを決めます。

社員10〜200名の会社が経理でAIを始める順番

社員10〜200名の会社では、専用ツールの導入より先に、汎用の生成AIを社内でどう使うかのルールと環境を整えるところから始めると、無理なく進められます。この規模の会社では、社員がすでに個人のアカウントで生成AIを使い始めている場合があり、経理の情報もその中に入り込みやすいためです。

  1. 利用ルールを決める:個人アカウントの業務利用を認めるか、入れてはいけない情報は何か(マイナンバー、給与、口座情報など)を、経理と総務で決めて文書にします。
  2. 会社で管理できる環境を用意する:入力が学習に使われないこと、誰がいつどのAIを使ったかのログを会社が確認できること、アカウントを会社が配って止められることを満たす環境を選びます。
  3. 個人情報を含まない文書から試す:取引先へのお知らせ文の骨子、規程の要約、社内向けの説明文など、線引きの入れてよい区分に入る作業から使い始めます。
  4. 仕訳・請求書は会計ソフトの機能で固める:帳簿と証憑に関わる処理は、会計ソフトや経費精算システムの自動化機能と、電子帳簿保存法の保存ルールに沿った運用で整えます。

この順番にすると、生成AIの利用がルールと記録のない状態で広がるのを防ぎながら、帳簿の側は制度に沿った仕組みで固められます。安全面で確認すべき項目の一覧は生成AIのセキュリティチェックリストにまとめています。

導入事例や調査データの数字を読むときの注意

経理のAI活用については、ツールを提供する会社が公表する導入事例や、各社が実施した調査の数字が数多く紹介されています。こうした数字を自社の判断に使うときは、誰が、いつ、何人に、どの方法で調べたのか、を必ず確認します。

ツールの提供会社が公表する削減時間や削減率は、その会社の発表であり、第三者が検証した値とは限りません。導入した会社の規模、対象業務、導入前の状態によって効果は大きく変わるため、他社の数字をそのまま自社の見込みにするのは避けたほうが安全です。調査の数字も、回答者がすでにAIを使っている人に限られているか、経理以外の部署を含むかによって意味が変わります。自社の判断材料としては、導入の5ステップで記録した自社の作業時間とミスの件数が、確かめられる数字になります。

会社で生成AIを安全に使うための環境づくり

経理で汎用の生成AIを使うなら、学習に使わせない設定、利用ログの管理、アカウントの配布と停止を、社員任せではなく会社側でまとめて担保できる環境を用意することが安全への近道です。ここまでの注意点の多くは、ルールを決めるだけでは守り切れず、仕組みで支える必要があります。

  • 入力が学習に使われない状態を会社として担保できるか社員ごとの設定操作に頼ると、設定漏れやフィードバック送信による例外を防ぎ切れません。全員に一律で適用される形が理想です。
  • 誰が・いつ・どのAIを使ったかを会社が確認できるか監査や社内調査で説明が求められたときに備え、利用状況の記録を会社側で取得できるかを確認します。
  • アカウントを会社が配り、退職時に止められるか個人のアカウントは会社の管理下にないため、退職時の停止を会社が確実に行えるとは限りません。
  • 会話の履歴やログの保存場所を説明できるか取引先や顧問税理士から問われたときに答えられる状態かを確認します。
  • 用途に応じて複数のAIを使い分けられるか文章の下書き、長い規程の要約、調べものなど、得意な作業はAIによって違います。

複数の生成AIを1つの環境で使い分ける考え方はマルチAIとは、個人アカウントの業務利用が広がったときのリスクは野良AIのリスクと対策で解説しています。

経理でも使える生成AIを、会社の管理のもとで

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の誰が・いつ・どのAIを・どう使ったかを一覧で確認でき、CSVでの書き出しにも対応します。UPGEAR AIの基盤はAWSの日本リージョンで稼働し、会話履歴や利用ログの保管・管理は国内で行います。UPGEAR AIの料金は月額30,000円(税抜)からで、ユーザーごとの課金はありません(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。

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よくある質問

経理でAIを使うなら、まず何から始めればよいですか?
仕訳や経費精算は今使っている会計ソフトや経費精算システムにAIの機能があるかを確認し、文書の仕事は汎用の生成AIで試す、と分けて考えるのがおすすめです。生成AIは、利用ルールを決め、学習に使われない環境を用意したうえで、取引先へのお知らせ文の骨子や規程の要約など、個人情報を含まない作業から始めると安全に進められます。
請求書のPDFを生成AIに読ませれば、電子帳簿保存法の保存は不要になりますか?
不要にはなりません。メールなどで受け取った請求書のPDFは電子取引データとして、真実性と可視性の要件を満たして保存する必要があります。生成AIのチャット履歴は、その要件を満たす保存場所とはいえません。これは国税庁が生成AIについて述べたものではなく、保存要件から導かれる整理です。
社員の給与や口座の情報を生成AIに入れてもよいですか?
社内ルールとして入れない扱いにすることをおすすめします。個人情報保護委員会は、個人データを含むプロンプトを入力する場合、利用目的の範囲内かを確認し、提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。マイナンバーは利用できる事務が番号法で限られているため、生成AIには入力しない扱いにします。
インボイスの登録番号が正しいかを生成AIに確認させてもよいですか?
確認の手段にはなりません。生成AIは登録の情報を持っているとは限らず、もっともらしい回答を返すことがあります。登録番号は、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで、名称や登録年月日とあわせて確認します。
AIを入れると経理の担当者は不要になりますか?
不要にはならないと考えるのが現実的です。入力や突き合わせの作業は減りますが、AIの候補を確認して確定する判断、支払いの承認、監査や税務調査での説明の責任は人に残ります。空いた時間を、数字の説明や資金繰りの見通し、業務フローの見直しに回すことが期待されます。

まとめ

経理のAI活用は、帳簿や証憑に関わる仕訳・請求書・経費精算・消込は会計ソフトや経費精算システムの機能に任せ、メール・資料・規程の要約・調べものといった文書の仕事は汎用の生成AIで行う、という役割分担で考えると進めやすくなります。どちらの場合も、AIの出力は候補であり、確定・承認・説明の責任は人に残ります。

AIを使っても、電子取引データの保存義務や、インボイスの登録番号の確認の必要はなくなりません。令和7年度の税制改正で新設された、帳簿への自動連携に対応した制度も、請求書から帳簿までをデータでつなぐ方向を後押ししています。生成AIについては、個人情報保護委員会の注意喚起を踏まえて入れてよい情報を3段で線引きし、マイナンバーなどは入力しない扱いに決めておきます。

社員10〜200名の会社では、利用ルールを決める、会社で管理できる環境を用意する、個人情報を含まない文書から試す、仕訳は会計ソフトの機能で固める、の順番で始めると無理がありません。ほかの業務でのAIの使い方はAI活用コラム一覧もあわせてご覧ください。

※この記事の制度に関する記載は、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和7年6月版)、財務省「電子帳簿等保存制度の概要」、国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和8年5月改訂)、個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)、同「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(令和6年5月一部改正)をもとに、2026年9月17日時点で確認した内容です。生成AI各社の学習の扱いは、2026年9月16日時点の各社公式ヘルプ・公式ページの記載によります。個別の税務上の取り扱いは、税理士や所轄の税務署に確認してください。