
経理のAIエージェントとは、請求書の読み取りや規程との照合、仕訳案の作成といった複数の手順を、目標に向けてAIが続けて進める仕組みのことです。任せてよいのは読み取り・照合・下書きまでで、会計ソフトへの登録や支払、承認は人が確かめてから進める形が、無理のない線引きになります。定義や生成AIとの違いはAIエージェントとは何かをまとめた記事と合わせてお読みください。作業ごとの判断表や承認のひな形は、そのまま社内の検討資料の下書きとして使うことが出来ます。
経理のAIエージェントとは|生成AI・RPAとの違い
経理のAIエージェントは、人が手順を1つずつ指示しなくても、目標に向けて読む・調べる・書き出す作業を自分で組み立てて進めるAIになります。経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AIエージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAI システム」と定めています。
チャット型の生成AIとの違いは、1回の質問に1回答える使い方か、複数の手順を続けて進める使い方かという点にあります。RPAは人が決めた手順を決めたとおりに繰り返す仕組みで、請求書の様式が変わると止まってしまう場合も出てきます。エージェントは様式の違いをある程度読み分けられる一方で、毎回同じ判断をするとは限りません。
同じガイドラインの別添も、同じ基準で動かしていても、モデルの確率的な性質から場面によって異なる判断を下すことがあると注意を促しています。経理で人の確認を外せないのは、この性質があるためです。
経理の現場で目にする形は、大きく分けて2つあります。1つは会計ソフトや経費精算システムに組み込まれたエージェントで、もう1つはChatGPTやClaudeのような汎用AIが持つエージェント機能となります。OpenAIはChatGPT Workを「時間のかかる複数ステップの作業を進め、成果物を完成させるために設計されたエージェント」と説明しており、AnthropicもClaude Coworkという作業向けの機能を案内しています。
会計事務所・税理士事務所の側から見た使い方は、税理士業務のAIエージェントの記事で取り上げました。自社の経理と顧問の事務所で、どこまでをAIに任せるかの考え方をそろえておくと、月次のやり取りもかみ合いやすくなるでしょう。
導入メリット(工数削減・ミス削減)と任せきりにできない理由
経理にAIエージェントを入れる利点は、読み取りと転記、突き合わせにかかる手間を減らせることにあります。請求書や領収書の内容を一覧にする、経費の申請を規程と照らし合わせる、前月との差が大きい科目を拾い出すといった作業は、AIが得意とする範囲になります。
工数削減とミス削減の中身
工数の面では、月末に担当者へ集中しがちな照合作業を、AIの下書きを使って前倒しで進めることが出来ます。ミスの面では、人が疲れて見落としやすい二重計上や登録番号の書き漏れを、AIが一覧の段階で指摘してくれる効果が見込まれます。ただし、AIもまた桁の読み違いや勘定科目の選び違いなど、AIならではの誤りを起こしてしまいます。
削減できる時間は、会社の取引量や今の手順によって大きく変わります。導入の判断では、他社の数字よりも、自社で1か月試したときの手間の変化を見るほうが確かでしょう。
最終確認は人が行う(ヒューマンインザループ)
ヒューマンインザループとは、AIが進める作業の途中に、人が確かめて承認する段階を組み込んでおく考え方になります。経済産業省・総務省のガイドラインの別添は、AIエージェントが自律的な動作の中で、人の意図しない商品の注文やファイル削除をしてしまう可能性に触れています。
同じ別添は、AIの判断を人が過度に信頼して自分の確認を怠ってしまう状態を、自動化バイアスと呼んで注意を促しました。支払と帳簿の確定は、AIの下書きを人が見てから進める順番を崩さないことが大切です。本編も、適切なタイミングで人の判断を介在させる使い方を検討するよう求めています。
人が確かめる段階を置いても、毎回中身を見ずに承認ボタンを押していては意味がありません。誰が・何を見て・どこで止めるのかを、次の判断表で作業ごとに決めていきましょう。
経理の作業ごとの判断表|任せる・下書きして人が確かめる・人だけ
経理の作業は、AIに任せる作業、AIが下書きして人が確かめる作業、人だけで進める作業の3段階に分けて考えると整理しやすくなります。分ける基準は、間違えたときに帳簿や取引先、お金に影響が出るかどうかと、後から取り消せるかどうかの2点です。
- AIに任せる読む・探す・並べる・まとめる作業。結果を人が使う前に見直せて、間違えても帳簿やお金に直接は影響しないもの。
- AIが下書きして人が確かめる仕訳案・科目の候補・差異の指摘など、帳簿や取引先への連絡に使う前に人が目を通すもの。人の承認が済むまで登録や送信はしません。
- 人だけで進める支払の実行・承認・新規取引先や振込先の登録・税務上の判断など、お金が動くか、取り消しにくいもの。AIには参考資料づくりまでを頼みます。
この3段階を、経理の主な作業に当てはめてみます。自社の手順と照らし合わせながら、当てはまらない作業があれば自社の段階に書き換えてみてください。
請求書処理・支払の自動化はどこまで任せるか
- AIに任せる作業は、受け取った請求書のPDFから取引先名・請求日・金額・登録番号・支払期日を読み取り、一覧にまとめるところまでになります。
- AIが下書きして人が確かめる作業には、発注書や納品書との突き合わせ結果、支払予定表の案、仕訳の案が入ります。
- 人だけで進める作業は、支払の承認と振込の実行、振込先口座の登録や変更となります。
請求書まわりで気をつけたいのは、振込先の変更を知らせる請求書やメールです。AIは文面どおりに口座情報を読み取って一覧に載せてしまうため、変更の連絡は必ず人が取引先へ別の手段で確かめる扱いにしましょう。
経費精算・申請チェックは規程との照合を任せる
- AIに任せる作業は、領収書の読み取りと、経費規程の上限額や対象外の費目との照らし合わせです。
- AIが下書きして人が確かめる作業は、規程に合わない申請の指摘と、差し戻し理由の文案になります。
- 人だけで進める作業は、規程外の申請を例外として認めるかどうかの判断と、精算の承認です。
規程の文言があいまいな箇所では、AIの照合結果も揺れてしまいます。AIに照合させてみて判断が割れた箇所は、規程そのものを書き直す候補として記録しておくと、次の月から照合が安定していきます。
仕訳入力・決算支援は下書きまで
- AIに任せる作業は、通帳やカード明細の取引を並べ、摘要から取引先や内容を読み取る作業です。
- AIが下書きして人が確かめる作業には、勘定科目と税区分の候補、月次決算の未処理一覧、前月や前年同月と比べた増減の要因の下書きが入ります。
- 人だけで進める作業は、会計ソフトへの登録の確定、決算整理の方針、税務上の判断となります。
マネーフォワードは2026年3月17日のプレスリリースで、消費税区分の入力ミスをAIが検知してアラートを出すチェックエージェントを、一部の士業事務所向けに提供を始めたと発表しました。同社はこれを、上長へレビューを依頼する前のセルフチェックとして使うものと説明しています。AIの指摘を人のレビューの前段に置く設計は、一般の会社の経理でも参考にしやすい形でしょう。
不正・異常値の検知は「気づき」まで
- AIに任せる作業は、同じ金額・同じ取引先の重複、いつもと桁が違う支払、休日の経費申請などを拾い出して並べるところまでです。
- AIが下書きして人が確かめる作業は、拾い出した取引ごとの確認事項のメモになります。
- 人だけで進める作業は、本人への確認、不正かどうかの判断、社内での報告となります。
AIの指摘は、あくまで人が確かめるきっかけにとどまります。指摘をそのまま不正の証拠として扱うと、誤った指摘で社員を疑ってしまうおそれがあるため、確認の手順まで決めてから使い始めることをおすすめします。
承認・支払の線引きのひな形と職務分離|内部統制を崩さない決め方
承認と支払の線引きは、AIに渡す権限の段階と、必ず人に回す条件の2つを文書にしておくと、運用がぶれにくくなります。下のひな形は、金額などの数字を空欄にしてあるため、自社の決裁規程に合わせて埋めて使ってみてください。
AIに渡す権限の段階(ひな形)
- 段階1(読むだけ):請求書・明細・規程を読み、一覧や要約を作ります。会計ソフトや銀行の画面には書き込みません。
- 段階2(下書き):仕訳案・支払予定表の案・差し戻し文案を作り、担当者に渡します。登録と送信は担当者が行います。
- 段階3(承認後のみ書き込み):担当者と承認者が確かめた内容に限り、AIが会計ソフトへの登録を代行します。支払の実行は含めません。
必ず人に回す条件(ひな形)
- 1件の金額が◯万円以上の取引金額は自社の決裁規程の区切りに合わせます。AIの段階に関係なく、人が中身を見てから進めます。
- 初めて取引する相手、または登録内容が変わった相手新規取引先の登録、振込先口座や登録番号の変更は、人が取引先へ別の手段で確かめます。
- 経費規程・購買規程に当てはまらない取引規程外の申請や例外の扱いは、AIに判断させず担当者と承認者が決めます。
- AIが確信を持てないと示した取引読み取れない箇所・候補が複数ある科目・前月と大きく違う金額は、一覧の別欄に分けて人に回します。
- 取り消しにくい操作支払の実行、データの削除、取引先へのメール送信は、どの段階でも人が実行します。
JGA税理士法人は2026年7月1日のコラムで、取引の扱いについて「高リスク取引の自動対象外」という考え方を示しています。どの取引を高リスクとみなすかは会社ごとに違うため、上の条件を出発点に、自社で過去に起きたミスや問い合わせの多い取引を書き足していくのがよいでしょう。
職務分離(入力・チェック・承認)を崩さない具体例
職務分離とは、取引を入力する人、内容をチェックする人、承認する人を分けて、1人で完結させない仕組みのことです。AIを入れると、入力とチェックの両方をAIが担う形になりやすく、気づかないうちにこの分離が崩れてしまいます。
- AIの下書きを確定させる担当者と、その内容を承認する人は別の人にします。
- AIを動かすアカウントには、支払の実行や承認の権限を持たせない設定にしておきます。
- 承認者がAIに頼んで作らせた資料を、そのまま自分で承認する流れは避けてください。
- AIが作った仕訳案を別のAIにチェックさせても、人のチェックの代わりにはならないと決めておきましょう。
OpenAIはワークスペースエージェントの認証について、可能な限りサービスアカウントを使うよう案内しています。AI専用のアカウントにしておけば、AIがした操作と人がした操作を記録の上で分けて確かめやすくなります。
こうした線引きや権限の設定は、会社として決めておかないと担当者ごとに変わってしまいます。ある社員は自分のアカウントのAIに請求書を読ませ、別の社員は別のサービスで仕訳案を作るという状態では、どこまでAIに任せたのかを経理責任者が把握できません。
AIに請求書を読ませる前に、使う環境と権限を会社でそろえましょう。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
AIの誤りを見つける確認チェックリスト
AIの下書きを人が確かめるときは、誤りが出やすい場所を決めて順に見ていくと、見落としが減っていきます。下のチェックリストは、経理でAIが起こしやすい誤りを並べたもので、確認の担当者が毎回同じ順に目を通すことを想定しています。
- 金額の桁と通貨カンマや小数点の読み違いで、桁が1つずれていないか。外貨建ての請求書を円として扱っていないか。
- 税込・税抜と税率税込の金額を税抜として扱っていないか。軽減税率の品目と標準税率の品目が混ざった請求書で、税率ごとの金額が分かれているか。
- 勘定科目と税区分前月までの同じ取引先と違う科目になっていないか。AIが示した理由が、取引の中身と合っているか。
- インボイスの登録番号請求書の登録番号を、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで照合したか。取消や失効の日付がないか。
- 二重計上同じ請求書をメールと郵送で受け取り、2件として登録していないか。請求書と領収書の両方から同じ支払を拾っていないか。
- 日付と計上月請求日・取引日・支払日を取り違えていないか。月をまたぐ取引の計上月が合っているか。
- 取引先名の表記ゆれ同じ取引先が略称や旧社名で別の取引先として登録されていないか。
- AIが補った箇所読み取れなかった項目を、AIがそれらしい値で埋めていないか。元の書類に書いていない値が一覧にないか。
確認を形だけにしないためには、チェックした人の名前と日付を一覧に残す欄を設けておくのが手軽な方法になります。AIの誤りが見つかった項目は、どの段階で見つけたかも書き添えておきましょう。
インボイス制度・電子帳簿保存法への対応
インボイス制度では、受け取った請求書の登録番号が有効かどうかを、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確かめることが出来ます。公表サイトでは、登録番号・名称・登録年月日に加えて、取消や失効の年月日も確認できます。
AIは請求書に書かれた番号を正しく読み取れても、その番号が今も有効かどうかまでは分かりません。照合の作業そのものはAIに一覧を作らせる形でも、公表サイトで確かめた結果を人が見る段階を残しておくと安心です。
電子帳簿保存法では、メールやWebで受け取った電子取引のデータについて、改ざんを防ぐための真実性の要件と、後から探し出せる検索の要件を満たして保存するのが原則です(売上高が一定以下の場合などの例外があります)。真実性の要件は、タイムスタンプ、訂正や削除の履歴が残るシステム、事務処理規程のいずれかで満たす形になります。
AIエージェントに請求書のファイル名を付け直させたり、保存先を移させたりする場合は、この保存のルールを崩さないかを事前に確かめておきたいところです。元のデータを上書きや削除させない設定にしておくことが、保存の要件を守る近道になります。
※適格請求書発行事業者公表サイト(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)で確認できる項目は、国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問19の記載によります。電子帳簿保存法の要件の詳細は、国税庁の案内と顧問の税理士にご確認ください。
社内ルールと権限の決め方|アクセス権限・セキュリティとログ
経理でAIエージェントを使う前に決めておくべきなのは、入れてよい情報の範囲、使う環境、権限と承認の設定、記録の残し方の4つになります。どれも担当者任せにすると人によって違ってしまうため、経理責任者と総務で一度に決めておくと進めやすいでしょう。
入れてよい情報の範囲を3段階で決める
- 入れてよい情報は、自社の経費規程、勘定科目の一覧、匿名にした取引の例などになります。
- 会社が契約した環境でのみ入れてよい情報は、取引先名や金額の入った請求書、通帳やカードの明細、試算表です。
- 入れない情報は、マイナンバー、給与や人事評価の個票、パスワードや口座の暗証番号などとなります。
マイナンバーを利用できる事務は、源泉徴収票や社会保障の手続書類の作成など、番号法で限られています。国のガイドラインに生成AIについての記述があるわけではありませんが、AIに入れる必要のある場面はほとんど考えられないため、社内ルールとして入れない扱いにしておくことをおすすめします。
学習に使われない法人契約の環境で使う
個人情報保護委員会は2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人データを含むプロンプトを入れる場合には、提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。この文書は利用そのものを禁じたものではなく、使う環境の条件を確かめるよう促したものになります。
経済産業省・総務省のガイドラインの別添も、企業のルールが整っていないと、社員が個人向けの生成AIを業務に使ってしまうおそれがあると指摘しました。そのうえで、機密情報を扱うときはビジネス利用を想定したセキュリティ機能を備えたサービスを使うよう推奨しています。
経理の担当者が個人のアカウントで請求書をAIに読ませている状態は、まさにこの指摘に当てはまってしまいます。社内で使われているAIを把握する手順はシャドーAI(野良AI)の記事で、点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストで整理しました。
管理者の承認設定と権限を最初に決める
汎用AIのエージェント機能には、管理者が使える範囲や承認の要否を決める設定が用意されています。OpenAIのヘルプによると、ChatGPT Enterpriseのワークスペースエージェントはリリース時点で既定ではオフになっており、管理者が有効にできる仕組みです。
同じヘルプは、アプリやコネクタへの書き込みは既定でエージェントの実行中に常に確認する設定になっていること、エージェントに必要な範囲だけにアクセスを絞ることを勧めています。ChatGPT Workの利用権限も、オーナーと管理者がワークスペースの設定の権限とロールから管理する仕組みになります。
AnthropicのヘルプでもClaude Coworkについて、手動で承認するモードでは操作のたびにClaudeが止まって許可を求め、利用者が許可か拒否を選ぶと説明しています。TeamとEnterpriseのプランでは、自動で承認するモードを組織で使えるようにするかを管理者が決められ、既定では使える状態になっているとのことです。
経理で使う場合は、書き込みや送信の前に必ず確認を求める設定を既定にし、自動で承認するモードは管理者の判断で止めておくのが安全な出発点になります。その作業に必要なアプリだけを有効にすること、何でも処理させるようなあいまいな指示を避けることも、そのまま社内ルールに書き写せる内容です。
判断根拠のログ・監査対応
AIに任せた作業は、後から誰がいつ何を頼み、AIがどんな理由でその案を出したのかを追える状態にしておく必要があります。仕訳案や差異の指摘には、AIに根拠となった書類と理由を一緒に書き出させ、その出力を確認者の名前とあわせて保存しておきましょう。
会社として契約した環境であれば、管理者が利用状況の記録をまとめて確かめられる場合が多くなります。社員がばらばらに個人のアカウントで使っていると、記録が会社の手元に残らず、監査や税務調査で経緯を説明できなくなってしまいます。
社内ルールの文書の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方にまとめました。経理向けには、ここまでの入れてよい情報の範囲、権限の段階、必ず人に回す条件を、その文書の別紙として添える形が扱いやすいでしょう。
最初の1か月の始め方|小さく試して広げる
最初の1か月は、読むだけ、下書き、承認後の書き込みと、AIに渡す権限を段階的に広げていく進め方が向いています。専任の経理担当が1〜2名という会社でも、1〜2つの作業に絞れば無理なく始めることが出来ます。
税理士事務所の立場から、JGA税理士法人は2026年7月1日のコラムで「AIは下書き・チェック・資料作成を担う」としたうえで、登録・送信・税務判断などは人が確認し承認するという線引きを示しています。導入の順番についても、「最初はRead onlyで、取得と分析だけを行います」と書き、次にDraftで下書きや修正案を作り、人の承認後にだけ書き込みを許すApprove & Writeへ進む流れを紹介しました。同法人は「いきなり自動登録を目指さないことが、結果的に安全で早い導入につながります」とも述べています。
1週目:導入前の業務フロー可視化と範囲決め
最初の週は、AIを触る前に、経理の作業を書き出すところから始めてみてください。作業ごとに、使う書類、作業する人、確認する人、承認する人、月に何件あるかを1行ずつ並べると、どこにAIを入れるかが見えてきます。
書き出した作業に判断表の3段階を当てはめ、AIに任せる作業か下書きの作業のうち、件数が多くて間違えても取り返しがつくものを1〜2つ選びます。最初の対象は、請求書の読み取りと一覧づくり、経費申請と規程の照合あたりが選びやすいでしょう。
2週目:読むだけ(Read only)で試す
2週目は、AIに書類を読ませて一覧や要約を作らせるだけにとどめ、会計ソフトや銀行の画面には一切触れさせません。同じ書類を担当者もいつもどおり処理し、AIの一覧と見比べて、誤りの出方をチェックリストに沿って記録しておきます。
汎用AIで試す場合は、次のような頼み方から始めると、下書きの段階を超えずに使うことが出来ます。
- 仕訳案の下書きでは、明細を渡して「勘定科目と税区分の候補を、理由と一緒に表にしてください。確定はせず、迷う取引は別欄に分けてください」と頼みます。
- 経費規程の照合では、規程と申請の一覧を渡して「規程に合わない申請と、規程のどの条文に当たるかを書き出してください」と頼みます。
- 月次の増減要因の要約では、今月と前月の試算表を渡して「差が大きい科目を並べ、考えられる理由と確かめるべき書類を書き出してください」と頼むのが手軽です。
3週目:下書き(Draft)まで広げる
3週目は、AIの下書きを担当者が実際の作業に使い始める段階になります。担当者はAIの案を確かめてから自分の手で登録し、承認者はいつもどおり承認するため、職務分離はそのまま保たれます。
この段階で、チェックリストのどの項目で誤りが多いかがはっきりしてきます。誤りが多い項目は、AIへの頼み方を変えるか、その作業を人だけの段階に戻すかを決めましょう。
4週目:振り返りと、書き込みに進むかの判断
4週目は、1か月の記録を見て、手間がどれだけ変わったか、誤りがどこで見つかったかを振り返ります。人の承認後にだけAIが登録する段階に進むのは、下書きの誤りの出方が安定し、確認の手順が定着してからでも遅くはありません。
既存会計システムとの連携は3段階目から
会計ソフトや経費精算システムとAIをつなぐのは、承認後の書き込みに進むと決めてからで十分でしょう。つなぐ前に、AIのアカウントに渡す権限が登録だけなのか、削除や支払まで含むのかを確かめておきたいところです。連携の範囲は製品ごとに違うため、提供元に、読み取りと書き込みの権限を分けて設定できるかを問い合わせてみるとよいでしょう。
1か月の試行がうまくいったら、担当者がよく使う頼み方を社内の手順書にまとめ、他の担当者も同じ頼み方で使えるようにしておきます。個人の工夫のまま残すと、担当者が替わったときに手順ごと失われてしまいます。
経理専用のAIエージェント製品を比べるときに確かめる点
経理AIエージェントの製品は、名前や機能の数よりも、人の確認を組み込めるかどうかで比べるほうが失敗しにくくなります。製品の紹介ページで精度や削減効果がうたわれていても、それは提供元の説明であり、自社の書類と手順で同じ結果になるとは限りません。
- 書き込みや送信の前に、人の承認を挟めるか登録・送信・支払の前に必ず確認を求める設定があり、それを既定にできるかを確かめます。
- AIに渡す権限を、読むだけ・下書き・書き込みに分けられるか段階1から順に広げられる作りかどうかで、最初の1か月の進めやすさが変わります。
- AIの操作と人の操作を、記録の上で分けて確かめられるか誰がいつ何を頼み、AIが何をしたかを管理者が確かめられるかを見ます。
- 入れたデータが学習に使われない条件が、契約や設定で確かめられるか社員ごとの設定に任せず、会社の契約単位で確かめられるかが基準になります。
- 今の会計ソフト・経費精算システムとつなげる範囲読み取りだけか、登録までできるか、権限を分けて渡せるかを提供元に確かめます。
- 費用が人数で増えるか、契約単位か経理以外の部署にも広げるときの総額が変わります。全社に配れるかどうかもここで決まります。
経理専用の製品を入れる前に、汎用のAIで最初の1か月を試し、自社に合う線引きを固めてから製品を選ぶ順番も考えられます。その場合も、使う汎用AIは会社として契約した環境にそろえ、権限とログを管理者が見られる状態にしておくことが前提になります。複数のAIを1つの環境でまとめて使う方法はマルチAIの記事で紹介しました。
経理でAIを使う前に、会社のAI環境と権限をそろえる
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、カスタムプラスでよく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有できます。基盤は国内サーバー(AWSの日本リージョン)です。月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
経理のAIエージェントに支払まで任せてもよいですか?
社員10〜200名の会社でも、経理にAIエージェントを使う意味はありますか?
ChatGPTやClaudeのような汎用AIでも、経理の作業に使えますか?
AIエージェントに入れてはいけない経理の情報はありますか?
AIが読み取ったインボイスの登録番号は、そのまま信じてよいですか?
AIを入れると職務分離が崩れませんか?
まとめ
経理のAIエージェントに任せてよいのは、読む・探す・並べる・まとめるといった、間違えても帳簿やお金に直接は響かない作業になります。仕訳案や差異の指摘はAIの下書きを人が確かめてから使い、支払の実行や承認、新規取引先や振込先の登録は人だけで進める線引きが基本です。
承認と支払の線引きは、AIに渡す権限の段階と、金額・新規取引先・規程外などの必ず人に回す条件を文書にしておくと、担当者が替わってもぶれません。職務分離を保つために、AIの下書きを確定させる人と承認する人を分け、AIのアカウントには支払の権限を持たせないようにしておきましょう。
始め方は、読むだけ、下書き、承認後の書き込みと、1か月かけて段階的に広げる形が無理なく進められます。社員がそれぞれ個人のアカウントでエージェントを作り始める前に、使う環境と権限、入れてよい情報の範囲を会社でそろえておくことが、経理でAIを長く使い続ける土台になってくれるでしょう。
業務別のAI活用については、AI活用コラム一覧から他の記事もご覧ください。
