
地銀・信金で生成AIを使い始めるなら、融資稟議書の所見の下書きや事務規程の検索のような行内の文書仕事から入るのが近道になります。横浜銀行・宮崎銀行・ふくおかフィナンシャルグループは、ベンダーと組んで融資稟議書の作成支援から試しています。顧客情報を扱える環境と契約がまだ整っていない段階では、顧客を特定できる情報を置き換えた材料から始めるのが現実的でしょう。入力してよい情報の線は、銀行法施行規則の安全管理措置と個人情報保護法、金融庁のAIディスカッションペーパーから引くことができます。AI導入そのものの流れは中小企業のAI導入の進め方にまとめているので、ここでは金融機関の実務に絞ってお伝えします。
稟議書・文書作成の効率化:地銀・信金の実名事例
地銀・信金の生成AI活用は、融資稟議書と行内の問い合わせ対応から始めた例が目立ちます。金融庁が2026年3月3日に公表したAIディスカッションペーパー第1.1版のp.12(図表5)では、AIを利用していると答えた先のうち71.1%が、幅広く一般社員向けに生成AIの利用を認めています。特定の部署に限っている先は14.9%でした。同じ図表には、AIは利用していても生成AIはまだ利用していない、または利用範囲を検討中という先も12.4%ありました。以下の事例の数字は、どれも金融機関や提供企業の発表、または取材記事に載った見込み値・自己申告の値で、第三者が検証したものではありません。
横浜銀行:稟議書作成支援AIの6週間の実証
2024年11月7日の日本IBMの発表によると、横浜銀行は同社の「融資稟議書作成支援AI」で6週間の実証に取り組みました。検証したのは、審査項目の網羅率、文章の品質、時間の削減効果の3点です。実装した場合は最大で年間19,500時間、融資担当の行員1人あたり最大で月約8時間の効率化を見込んでいるとされ、これは実績ではなく見込みの値となります。
宮崎銀行:一部店舗で稟議書作成の作業時間を95%削減と発表
日本IBMの2024年6月13日の発表では、宮崎銀行は同社と融資稟議書を作るアプリを共同で開発し、2024年4月から一部の店舗で使い始めています。行員が手作業で進めていた稟議書作成の作業時間は95%減ったと発表されており、ここも同社発表の数字です。
ふくおかフィナンシャルグループ:意見欄の作成時間を28.3分から18.5分に
IBMの取材記事によると、ふくおかフィナンシャルグループは稟議書の意見欄を生成AIで作る検証をしています。行員だけで書いた場合の平均は28.3分で、生成AIの下書きを行員が直す形では18.5分と、9.8分短くなりました。品質の評価も行員が直した版のほうが高かったと紹介されていますが、IBM側の記事に載った自己申告の値として読んでください。
碧海信用金庫:RAGで金庫内の問い合わせ対応を減らす
信用金庫では、NTTデータのDATA INSIGHT(2026年1月27日)が碧海信用金庫の取り組みを紹介しています。NTTデータの「LITRON Generative Assistant on finposs」を採用し、RAG(行内の文書を検索して、その内容をもとにAIに答えさせる仕組み)で金庫内の問い合わせ対応を減らす狙いです。毎日約4,000件の問い合わせを減らし、年間85,000時間の効果を見込むとされ、NTTデータの記事に載った見込みの数字になります。今後は稟議書や補助金申請書の作成支援にも広げる予定と書かれています。
静岡銀行・京都中央信用金庫:IT企画と事務規程の問い合わせ
静岡銀行は、生成AIのデジタルアシスタント「デジタルCIO」でIT企画業務を支える実証に取り組んだと、KPMGコンサルティングが2024年3月8日に発表しました。京都中央信用金庫については、NECの2024年4月の発表を報じた記事によると、職員約200名で生成AIを試し、事務規程の問い合わせ対応や文書作成、要約に使ったとされています。どの事例も、顧客に直接答えさせる使い方ではなく、職員が書く・調べる文書の手間を減らす使い方から入っている点が、6つの事例の共通点になります。
押さえておく法令と金融庁・FDUAの指針
生成AIに何を入れてよいかの線は、業法の施行規則と個人情報保護法、金融分野のガイドラインの3つを軸に、判例上の守秘義務などもあわせて引くのが基本となります。
銀行法施行規則と信用金庫法施行規則
銀行法施行規則の第13条の6の5は、個人顧客情報の安全管理と、従業者の監督、取扱いを委託する場合の委託先の監督について、必要な措置を講じるよう求めています。第13条の6の6は信用情報機関から得た返済能力情報を返済能力の調査以外に使わないこと、第13条の6の7は人種・信条・門地・本籍地・保健医療・犯罪経歴などの特別の非公開情報の扱いを定めた規定です。信用金庫法施行規則では、第109条・第110条・第111条が同じ趣旨の規定になっています。信用組合の方は、所管の法令の対応する規定をご確認ください。
個人情報保護法と金融分野ガイドライン
個人情報保護法では、第23条が安全管理措置、第25条が委託先の監督、第27条が第三者提供の制限、第28条が外国にある第三者への提供の制限を定めています。第27条5項1号により、取扱いの委託に伴う提供は第三者提供に当たらないとされる扱いです。ただし、外国にある第三者への委託は第28条の対象になります。生成AIへの入力が委託と第三者提供のどちらになるかは、提供元との契約と設定によって変わるため、一律には決められません。第28条にかかわるかどうかは、サーバーの場所ではなく、外国にある第三者に個人データを渡すかどうかで決まります。個人情報保護委員会のQ&A 12-3は、外国の事業者のサーバーでも、その事業者が個人データを取り扱わない契約とアクセス制御があれば提供に当たらないとしつつ、外国の制度を把握した安全管理措置は必要としているため、契約と設定の両方を確かめてみてください。
個人情報保護委員会と金融庁の金融分野の個人情報保護ガイドラインは、第5条で機微情報(要配慮個人情報に加え、労働組合への加盟・門地・本籍地・保健医療・性生活)の取得・利用・第三者提供を、同条1項の例外を除いて原則として禁じています。令和9年4月1日に施行される改正版も公表されているので、規程を作る際は最新の版を開いてみてください。
個人情報保護委員会は、令和5年6月2日の生成AIサービスの利用に関する注意喚起等で、個人情報を含むプロンプトを入れるなら、特定した利用目的の達成に必要な範囲かを十分に確かめるよう求めています。本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入れ、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われると法の規定に違反するおそれがあるとして、提供事業者が機械学習に使わないこと等の確認も挙げました。
※条文とガイドラインは要旨です。正確な文言はリンク先のe-Gov法令検索と個人情報保護委員会のページでご確認ください(2026年10月16日確認)。
法人取引先の情報と守秘義務、疑わしい取引の届出
最高裁判所の平成19年12月11日の決定は、金融機関が顧客情報について、商慣習上又は契約上、顧客との関係で守秘義務を負うと述べています。法人取引先の名前や決算の数字は個人情報保護法の対象外でも、この守秘義務の対象として扱い、置き換え表で記号や幅に直すのはそのためです。犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)の第8条第4項は、疑わしい取引の届出をしようとすることや届出をしたことを、顧客等やその関係者に漏らすことを禁じています。届出にかかわる情報は、外部のAIサービスに入れない扱いにしておきましょう。
金融庁AIディスカッションペーパーと実証研究事業
AIディスカッションペーパー第1.1版は、規制や監督指針ではなく、初期的な論点整理という位置づけの文書です。p.25ではリスクベース・アプローチとして、社内の業務効率化のような低リスクの使い方はチェックリストで現場が判断し、顧客向けのような高リスクの使い方は専門部署が事前に審査する考え方が示されています。p.32には、クラウド型AIでは機密情報や顧客情報が提供元に送られて学習に使われるリスクがあり、海外サーバーならデータの海外移転の管理も課題になるという意見が並びます。p.49のBox5では、令和7年度補正予算による「生成AIを活用した地域金融機関のDX化に向けた実証研究事業」の実施予定にも触れています。
この事業は金融庁が企画し、FDUA(一般社団法人金融データ活用推進協会)が実施するもので、2026年5月26日のFDUAの発表では約100の金融機関の参加を想定しているとのことです。ユースケースは顧客照会対応と事業性評価の2つで、どちらもAIエージェントを使う形になります。成果は「AIエージェント導入ガイドライン(仮)」と開発資材として、全国の金融機関向けに公開される予定と発表されています。金融庁は2025年6月から12月にかけてAI官民フォーラムも4回開いており、金融分野のAI活用は行政も後押ししている分野と言ってよいでしょう。
※AIディスカッションペーパー第1.1版の正式名は「金融機関等におけるAIの活用実態と健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理」(金融庁、2026年3月3日公表。第1.0版は2025年3月)。ページ番号は本文PDFの表記です。
FDUA金融生成AIガイドライン第1.2版
FDUAは2026年8月5日に金融生成AIガイドライン第1.2版を公表しました。FDUAの発表によると、AIエージェントの想定外の動作、過剰な権限、接続先での誤った実行、影響の拡大への対応と、「AIレジリエンス」の整理が加わっています。細かな内容は本文で確かめる必要があるため、規程づくりの参考にする際は原典にあたって読み合わせるのが確実です。
金融機関で起きやすい生成AIのリスク:情報漏えい・誤った回答・誤った説明
金融機関で起きやすい事故は、顧客情報の入力、もっともらしい誤り、職員が許可なく外部のAIを使うことの3つに集まります。AIディスカッションペーパーのp.33では、プロンプトの入力に機密情報は使わせないといった制約を付けている先が大半で、自社専用の環境で入出力を管理する先も多いと整理されています。同じページで、従業員が許可なく外部のAIサービスを使うシャドーITが増える可能性に言及があるのも見逃せません。p.32にもあるとおり、入力を仕組みで自動的に止めても完全には防げず、職員の教育と運用ルールに頼らざるを得ないという意見もあり、仕組みだけに任せきれない部分が残ってしまいます。
情報漏えい:個人のアカウントに顧客情報が入る
情報漏えいで多いのは、職員が個人で登録したAIに、面談メモや決算書の数字をそのまま貼り付ける形です。個人向けのサービスでは、入力が学習に使われるかどうかは本人の設定次第で、行内からは利用の記録も見えません。許可なく使われている外部AIの見つけ方と対策はシャドーAI(野良AI)の対策で詳しく扱っています。
誤った回答(ハルシネーション):規程にない手続きを作る
生成AIは、規程に書かれていない手続きや、存在しない条番号をもっともらしく書いてしまうことがあります。事務の取扱いを誤ると顧客対応のミスに直結するので、AIの答えは原文の条文と照らし合わせ、AIの文だけで顧客に説明しないことを徹底しましょう。
顧客への誤った説明:金利や手数料を取り違える
AIの文をもとに金利や手数料、商品の条件を誤って説明すると、顧客保護の問題につながってしまいます。顧客に渡す案内文や説明の文は、AIが下書きしたものでも広告審査と同じ流れで確認するようにしましょう。広報誌のように外へ出す文書では、他者の文章や画像に似ていないかもあわせて確かめてください。
職員が個人のアカウントで使い始める前に、行内で使う環境を1つに決めると、設定も記録もそろえやすくなります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
顧客情報を入れない形に直す:置き換え表と前後の例
顧客や取引先を特定できる情報は、後述の利用規程で第2段階として認めた環境を除き、AIに渡す前に記号や幅のある表現へ置き換えるのが基本になります。置き換えても、所見や要約に要る業種・規模・増減の向きは残せるので、下書きの質はそれほど落ちません。
| 入れてはいけない情報 | 置き換え方 |
|---|---|
| 顧客・取引先の氏名、法人名、代表者名 | 〔A社〕〔代表者B〕〔申出人〕のような記号(法人名も守秘義務の対象) |
| 口座番号・顧客番号・融資の管理番号 | 置き換えずに削る(下書きには不要) |
| 住所・電話番号・生年月日 | 〔所在地:県内〕程度にぼかすか、削る |
| 仕入先・販売先などの固有の取引先名 | 〔主要販売先X〕〔仕入先Y〕 |
| 売上高・借入残高などの正確な金額 | 〔売上高:約○億円〕のように丸めた幅で書く |
| 決算書の勘定科目の明細 | 〔営業利益率:前期比で低下〕のように比率や増減の向きに直す(法人の決算数値も守秘義務の対象) |
| 健康状態・家族の事情・信条などの機微情報 | 置き換えずに削る(金融分野ガイドライン第5条) |
| 信用情報機関から得た情報 | 利用目的が限られているため、自行の規程と信用情報機関との約定を確認するまで入れない |
| 疑わしい取引の届出にかかわる情報 | 入れない(犯罪収益移転防止法第8条第4項で、届出の事実を顧客等に漏らすことが禁じられている) |
| 未公表の重要事実など、インサイダー取引規制にかかわる情報 | 入れない(インサイダー取引規制にかかわるため、自行の情報管理の規程に従う) |
| 日付と時刻が分かる受付記録 | 〔○月上旬〕〔午前中〕程度にぼかす |
置き換える前と後の例を並べると、次のようになります。
【置き換える前(AIに入れない)】 〇〇市の株式会社△△精工(代表 □□太郎様、口座番号1234567)。 売上高8億2,350万円、借入残高3億1,200万円。主要販売先は××自動車部品。 代表者は昨年入院しており、後継者は長男の□□一郎様。 【置き換えた後(AIに入れてよい形)】 〔A社〕〔業種:製造業〕 〔売上高:約8億円〕〔借入残高:約3億円〕 ※所在地・販売先・業歴は、組み合わせると特定につながるため入れない。 ※代表者の健康面は機微情報のため入れない。所見の経営者リスク・事業承継の記述は、担当者が原本を見て自分で書き足す。 ※口座番号も入れない。
置き換えた後の文でも、所見の骨組みを作るのに要る規模や財務の向きは残せます。反対に、地名と業種と従業員数と販売先を並べると、それだけで取引先が分かってしまう地域もあります。営業エリアが狭い信金・信組ほど、並べる属性は2〜3個までに絞ってみてください。
融資・営業・経営支援の現場で使う:業務別の指示文
ここからは、営業店と本部で実際に回っている6つの業務について、入れる材料・指示文・出てくる文の例・人が確かめる点を順に並べます。指示文はそのまま貼り付けて使え、〔 〕の中を自分の案件に合わせて書き換える形です。
融資稟議書の所見(意見欄)の下書き
入れる材料は、置き換え済みの企業概要、決算の傾向、申込内容、面談で聞いた要点になります。
【AIへの指示文】
あなたは地域金融機関で融資審査の経験が長い担当者です。 以下の材料から、融資稟議書の「所見(意見欄)」の下書きを作ってください。 【条件】 ・400字前後、です・ます調で書く ・「資金使途」「返済原資」「財務の状況」「保全」「懸念点と対応」の順に書く ・材料にない数字や事実は書かない。足りない情報は最後に「確認が必要な点」として箇条書きにする ・良い点だけでなく、懸念点を必ず1つ以上挙げる 【材料】 〔A社〕〔業種:製造業〕 〔売上高:約8億円・3期連続で微増〕〔営業利益率:前期比で低下(原材料高)〕 〔申込内容:設備資金〕〔申込金額:約○千万円〕〔期間:7年〕 〔資金使途:老朽化した加工機の更新〕 〔返済原資:減価償却費と利益〕〔債務償還年数:約○年〕 〔既存借入:当金庫○割・他行○割〕 〔保全:保証付融資(責任共有)とプロパー融資(担保あり)の組み合わせ〕 〔面談の要点:更新により不良率が下がる見込みと代表者が説明〕
【出てくる文の例】
【資金使途】老朽化した加工機の更新を目的とする設備資金で、申込金額は約○千万円、期間は7年です。代表者は、更新により不良率が下がる見込みと説明しています。 【返済原資】減価償却費と利益を返済原資とし、債務償還年数は約○年です。 【財務の状況】売上高は約8億円と3期連続で微増していますが、原材料高により営業利益率は前期比で低下しています。既存借入は当金庫○割・他行○割です。 【保全】保証付融資(責任共有)とプロパー融資の組み合わせで、プロパー融資は担保で保全します。 【懸念点と対応】懸念点は利益率の回復時期です。更新後の不良率と原材料価格の転嫁状況を試算表で継続して確認し、利益率の推移を見守ります。 確認が必要な点 ・不良率の低下見込みを裏づける数値(現状と目標) ・原材料価格の販売価格への転嫁状況 ・プロパー融資の担保の評価額
人が必ず確かめる点は、数字が決算書と合っているか、保全の内容が稟議の条件どおりか、AIが材料にない見通しを書き足していないかの3つです。所見の結論と稟議の判断は、これまでどおり担当者と役席が自分の言葉で書き直してください。
事業性評価のヒアリングメモの整理
入れる材料は、訪問時に書き留めた箇条書きのメモで、社名や人名を〔 〕に置き換えたものです。
【AIへの指示文】
以下は、取引先を訪問したときのヒアリングメモです。 事業性評価シートに転記しやすいように、次の見出しで整理してください。 【見出し】 1. 事業の内容と主な顧客層 2. 強み(他社と比べて選ばれている理由) 3. 課題(代表者が話したもの/担当者の気づき を分けて書く) 4. 資金ニーズの可能性 5. 次回の訪問で確認する事項 【条件】 ・メモに書かれていないことは推測で埋めず「メモに記載なし」と書く ・代表者の発言は意味を変えずに短くまとめる 【メモ】 〔A社〕〔業種:食品製造業〕 ・県内の量販店向けが売上の約6割、残りは業務用 ・代表者「若手が定着しない。製造ラインの自動化を考えている」 ・工場は老朽化が進んでいる。冷凍設備の更新時期が近いとのこと ・〔主要販売先X〕との取引は20年以上続いている
【出てくる文の例】
1. 事業の内容と主な顧客層:食品製造業。売上の約6割が県内量販店向け、残りは業務用。 2. 強み:主要販売先Xとの取引が20年以上継続している。その他はメモに記載なし。 3. 課題(代表者):若手が定着しない。冷凍設備の更新時期が近い。(担当者の気づき)工場の老朽化(建物の状態は次回確認)。 4. 資金ニーズの可能性:製造ラインの自動化、冷凍設備の更新。 5. 次回の確認事項:自動化の対象工程と時期、冷凍設備の更新見積もりの有無。
確かめる点は、AIが代表者の発言を言い換える中で意味を変えていないか、推測を事実のように書いていないかの2つになります。次回の訪問で聞く事項の欄は、担当者が自分の見立てで足していきましょう。
窓口・営業店の想定問答
材料は、すでに顧客向けに公開しているパンフレットや商品概要書の文面で、顧客の情報は含みません。
【AIへの指示文】
あなたは信用金庫の窓口の指導役です。 以下の商品概要書の文面だけを根拠に、窓口で聞かれそうな質問と答えを10組作ってください。 【条件】 ・答えは2〜3文、来店客に話す口調で書く ・商品概要書に書かれていないことは答えず、「規程・担当部署に確認」と書く ・金利・手数料などの数字は、商品概要書の文言をそのまま使う ・最後に、答えるときに注意が要る質問を3つ挙げ、理由を1行で添える 【商品概要書の文面】 〔ここに公開済みの商品概要書の本文を貼る〕
【出てくる文の例】
Q1. 途中で解約できますか。 A. 満期前でも解約のお手続きはできます。その場合の利率は、商品概要書に記載の中途解約利率が適用されます。 Q4. 家族の名義でも申し込めますか。 A. 商品概要書に記載がないため、規程・担当部署に確認します。 注意が要る質問:Q4(名義と本人確認の扱いは規程で確認が必要なため)
確かめる点は、金利や手数料などの数字が最新の商品概要書と一致しているか、言い回しが行内の説明資料や広告審査を通った表現と食い違っていないかです。顧客に向けて話す想定問答なので、役席の確認を経てから窓口で使うようにしましょう。
事務規程・通達の検索と要約
材料は事務規程や通達の本文で、顧客情報は含まれないものの行内の機密文書にあたるため、行として契約した環境だけで扱います。
【AIへの指示文】
以下の事務規程と通達の本文だけを根拠に、質問に答えてください。 【条件】 ・答えの根拠になった規程名と条番号を必ず示す ・本文に書かれていない場合は、推測せず「該当する記載なし」と答える ・通達で規程の取扱いが変わっている場合は、通達の日付と変わった点を分けて書く ・最後に、営業店の職員向けに3行で要約する 【質問】 〔例:相続手続きで、戸籍謄本の原本を返却する場合の取扱いは〕 【規程・通達の本文】 〔ここに該当する規程と通達の本文を貼る〕
【出てくる文の例】
根拠:相続事務取扱規程 第〇条、通達〔○年○月○日付〕 回答:原本は写しを取ったうえで返却します。写しには受付者と確認者の押印が必要です。〔○年○月○日付〕の通達で、写しの保管期間が変わっています。 営業店向けの要約 ・原本は写しを取ってから返却する ・写しには受付者と確認者の2名が押印する ・保管期間は通達で変わった点に注意する
確かめる点は、AIが引いた条番号を原文で開いて一致するか、参照した規程が最新の改正版かの2つです。規程の数が多い場合は、碧海信用金庫の例のようにRAGで行内文書を検索させる仕組みも選択肢に入ってきます。
苦情・お申し出記録の要約
材料は、受付記録の本文から申出人の氏名・連絡先・口座番号を外し、〔申出人〕〔○月上旬〕のように置き換えたものになります。
【AIへの指示文】
以下は、営業店で受け付けたお申し出の記録です。本部への報告用に要約してください。 【見出し】 1. お申し出の要旨(2文以内) 2. 申出人が求めていること 3. これまでの対応の経過(日付順) 4. 未了の事項 5. 再発防止で検討すべき点 【条件】 ・申出人の言葉の強さや求めている内容を弱めずに書く ・記録にある事実と、担当者の推測・評価を分けて書く ・申出人への評価や感想は書かない 【記録】 〔申出人〕は〔○月上旬〕に来店。ATMで振込をした際、画面の案内が分かりにくく、 同じ振込を2回してしまったとのこと。窓口で組戻しの手続きを案内したが、 手数料がかかると聞いて強い不満を示された。……〔以下、記録の本文〕
【出てくる文の例】
1. 要旨:ATMの画面案内が分かりにくく二重に振り込んだとして、組戻し手数料の負担に強い不満が示された。 2. 求めていること:組戻し手数料の免除(記録上の発言による)。 3. 経過:〔○月上旬〕来店、窓口で組戻し手続きを案内。 4. 未了:手数料の扱いの回答。 5. 検討点:ATM画面の案内文の分かりやすさ(担当者の推測を含むため要確認)。
確かめる点は、申出人の言葉の強さや求めている内容が要約で薄まっていないか、事実と担当者の推測が混ざっていないかです。健康状態や家族の事情など機微情報にあたる記載は、置き換えではなく削ってから入れてください。
補助金申請の支援
取引先の補助金申請を手伝う場面では、事業計画の下書きが公募要領の求める項目を満たしているかの点検にAIを使えます。材料は、置き換え済みの事業計画の要点と、公募要領から書き写した審査項目の一覧になります。
【AIへの指示文】
以下の「審査項目」と「事業計画の下書き」を照らし合わせてください。 【条件】 ・審査項目ごとに、下書きで触れている箇所を短く引用し、触れていない項目は「記載なし」とする ・記載が弱い項目には、追加で取引先に聞くべき質問を1つずつ挙げる ・計画の中身を新しく作らない(数字や取り組みを書き足さない) 【審査項目】 〔公募要領に書かれた審査項目をそのまま貼る〕 【事業計画の下書き】 〔A社〕〔業種:小売業〕〔従業員:約15名〕 〔ここに置き換え済みの事業計画の本文を貼る〕
【出てくる文の例】
審査項目2(事業の実現可能性):記載なし →取引先への質問:導入する設備の見積もりと、実施する体制(担当者の人数)は決まっていますか。 審査項目3(付加価値の向上):「客単価を上げる」と記載あり。ただし根拠となる数字の記載はない。 →取引先への質問:現在の客単価と、計画後の目標はいくらですか。
確かめる点は、AIが挙げた不足項目が公募要領の原文と合っているか、申請者に代わって内容を作り込みすぎていないかです。補助金の種類や申請全体の流れは、冒頭で紹介した中小企業のAI導入の記事にまとめています。
顧客対応・不正検知・AIエージェントはどこまで任せるか
顧客に直接答えるチャットボットや不正検知、AIエージェントは、行内の文書仕事が定着してから段階的に広げる領域です。
顧客対応・チャットボット・パーソナライズ提案
金融庁のペーパーp.25の考え方では、顧客向けの使い方は高リスクにあたり、専門部署による事前の審査が前提となります。碧海信用金庫も、まずは金庫内の職員からの問い合わせで仕組みを固めてから、ほかの業務へ広げる順番をとっています。顧客一人ひとりに合わせた提案文をAIで作る場合は、顧客の取引情報を入力することになるため、第2段階として認めた環境と、提案内容を人が確かめる手順の両方がそろってから検討しましょう。
不正検知・リスク管理の高度化
不正取引の検知は、取引データのパターンを学ばせる従来型のAIや規則による検知が担ってきた領域で、文章を作る生成AIの出番はその周辺にあります。たとえば、苦情記録の要約を並べて似た申出の傾向をつかむ、検知ルールの説明資料を行内向けに整える、といった使い方なら今の生成AIでも手が届きます。疑わしい取引の届出にかかわる情報は、届出の事実を顧客等に漏らすことを禁じた犯罪収益移転防止法第8条第4項の趣旨から、外部のAIサービスには入れないでください。検知の判断そのものはAIの文章に任せず、担当者が根拠のデータを見て決める形を守りましょう。
AIエージェントへの進展と新しいリスク
AIエージェントとは、指示を受けたAIが自分で手順を組み、ほかのシステムにつないで作業まで進める仕組みのことです。FDUAが第1.2版で想定外の動作や過剰な権限、接続先での誤実行への対応を加えたのは、AIが文章を出すだけでなく操作まで担う段階に入ったためと読めます。金融庁の実証研究事業も顧客照会対応と事業性評価をAIエージェントで試す計画なので、成果として公開予定のガイドラインが出たら、自行の規程に取り込めるか確かめてみてください。
営業店向け「使ってよい/使わない」の線引き
営業店で迷いやすいのは、どこまでの情報なら入れてよいかという一点で、線引きは具体的な場面で示すほうが伝わります。使ってよい場面の例は、次のとおりです。
- 置き換え表どおりに直した材料で、稟議書の所見やヒアリングメモの整理の下書きを作る
- 公開済みのパンフレットや商品概要書をもとに、窓口の想定問答を作る
- 事務規程・通達を、行として契約した環境で検索し要約する
- 申出人を〔申出人〕に置き換えた苦情記録を、本部への報告用に要約する
- 行内向けの案内文や研修資料の言い回しを整える
使わない場面は、次のとおり分けておきましょう。
- 個人で登録したAIのアカウントに、業務の情報を入れる
- 顧客の氏名・口座番号・取引先名を、置き換えずにそのまま入れる(第2段階として認めた環境を除く)
- 健康状態や家族の事情など機微情報、信用情報機関から得た情報、疑わしい取引の届出にかかわる情報、未公表の重要事実を入れる
- AIの答えをそのまま顧客への説明や回答文として使う
- 融資の可否や金利の判断をAIに決めさせる
迷ったときは「この文だけを他の店の職員が読んで、どの取引先か見当がつかないか」を基準にするよう、役席から一言添えると現場に定着しやすくなります。
利用規程と体制づくり:リスクベースで線を引く
利用規程は、AIディスカッションペーパーp.25のリスクベース・アプローチに沿って、低リスクの行内業務と高リスクの顧客向け業務を分けて書くと運用しやすくなります。低リスクの業務は営業店でチェックリストを使って判断し、高リスクの業務はリスク管理や法務の部署が事前に審査する形が基本です。
入力できる情報の範囲も、2段階に分けておきましょう。第1段階は公開情報・置き換え済みの情報・顧客情報を含まない行内規程を行として契約した環境で扱い、第2段階では委託契約と安全管理措置を確認した環境に限って顧客情報も扱う、という分け方です。AIディスカッションペーパーのp.33でも、自社専用の環境で入出力を管理する先が多いと整理されています。規程のひな形に入れておきたい項目は、次の9つになります。
- 使ってよい環境行として契約したサービスだけを使い、個人のアカウントでの業務利用は認めないと書きます。
- 入力してよい情報の区分第1段階(公開情報、置き換え済みの情報、顧客情報を含まない行内規程などの機密文書)と、第2段階として認めた環境でだけ扱う顧客情報に分けます。
- 入力してはいけない情報第1段階では顧客の氏名・口座番号・取引先名などを入れないと書きます。機微情報、信用情報機関から得た情報、疑わしい取引の届出にかかわる情報、未公表の重要事実は、どの段階でも入れないと列挙します。
- 委託先の評価データの保存場所・再委託先・削除の方法・監査の可否を契約で確認してから採用すると書きます。
- 利用ログの確認の告知利用状況を本部が記録・確認することを、利用開始前に職員へ伝えると定めます。
- 出力を確かめる人顧客や外部に出る文書は役席以上が確認する、のように業務ごとに決めます。
- 記録の残し方どの業務でAIを使ったか、確認した人は誰かを残す場所を決めます。
- 事故時の連絡先誤って顧客情報を入れたときに、すぐ連絡する部署と連絡手段を書きます。
- 見直しの時期金融庁やFDUAの指針が改訂されたとき、少なくとも年1回は見直すと決めます。
規程の全体の作り方や条文の例は生成AIの社内ガイドラインの作り方でも紹介しています。
職員のリテラシー研修と金融生成AIベーシック
規程を配るだけでは、営業店の職員は具体的に何を置き換えればよいか分かりません。研修では、この記事の置き換え表を使って、実際の面談メモを置き換える演習を1回やってみると理解が早まります。職員の知識を測る外部の物差しとしては、金融財政事情研究会の金融生成AIベーシックがあり、2026年2月2日から受験できるようになりました。CBT方式で通年受けられ、60分・三答択一式40問で70点以上が合格となり、受験資格はありません。受験手数料は税込4,400円で、2027年4月1日以降の申込は4,950円に変わります。出題範囲に金融機関のAIガバナンスや法令・規制動向が入っているので、本部の担当者が先に受けてみるのもよいでしょう。
※受験手数料と試験の形式は、2026年10月16日時点で金融財政事情研究会の公式ページに表示されている内容です。
職員への通知文のひな形
通知文は、導入時・禁止事項の周知・事故が起きたときの3つを用意しておくと、本部から迷わず出せます。〔 〕の部分を自行の名称や窓口に書き換えて使ってください。
【導入時の通知】
〔文書番号〕 〔発信部署〕 各部店長 殿 根拠:〔生成AI利用規程〕 照会先:〔担当部署・内線番号〕 件名:生成AIの業務利用の開始について 〔○月○日〕から、〔行内で契約した生成AIのサービス名〕を業務で利用できるようになります。 利用できるのは、このサービスに限ります。個人で登録したAIサービスを業務に使うことは引き続き禁止です。 〔研修名〕の受講を利用の条件とします。 利用状況は本部で記録・確認します。 入力してよい情報と、置き換えの方法は、添付の「生成AI利用規程」と「置き換え表」をご確認ください。
【禁止事項の周知】
〔文書番号〕 〔発信部署〕 各部店長 殿 根拠:〔生成AI利用規程〕 照会先:〔担当部署・内線番号〕 件名:生成AIに入力してはいけない情報の再確認 生成AIには、次の情報を入力しないでください。 ・顧客や取引先の氏名、法人名、口座番号、住所、電話番号(第2段階として認めた環境を除く) 以下は、どの環境でも入力しないでください。 ・健康状態、家族の事情、信条などの機微情報 ・信用情報機関から得た情報 ・疑わしい取引の届出にかかわる情報、未公表の重要事実 AIが作った文は下書きです。顧客への説明や回答に使う前に、必ず原文の規程や資料と照らし合わせてください。
【事故が起きたときの通知】
〔文書番号〕 〔発信部署〕 各部店長 殿 根拠:〔生成AI利用規程〕 照会先:〔担当部署・内線番号〕 件名:【至急】生成AIへの顧客情報の入力について 〔○月○日〕、生成AIに顧客情報が入力された事案が確認されました。現在、〔担当部署〕で影響の範囲を確認しています。 同じように顧客情報を入力した心当たりのある方は、入力した日時・サービス名・入力した内容の種類(顧客名・取引先名・金額など。具体的な内容は書かない)を、本日中に〔担当部署・内線番号〕へ報告してください。 速やかに報告いただいた事実は、事後の対応で考慮します。 個人データの漏えい等に当たるかを〔担当部署〕が判断し、必要な場合は所管の当局(金融庁、財務局・財務支局など)へ報告します。
事故時の通知は、慌てて書くと事実と推測が混ざりやすいので、平時に文面を決めて関係部署と読み合わせておきましょう。
職員が安全に使うための環境の条件
職員が安全に使える状態は、規程や研修だけでは整わず、使う環境の側で4つの条件をそろえる必要があります。1つ目は、入力が学習に使われない設定が、職員ごとの操作ではなく全員に一律でかかっていることです。2つ目は、誰がいつどのAIを使ったかの記録を本部が見られることで、事故が起きたときの調査にも使えます。3つ目は、アカウントの発行と停止を本部でまとめて管理し、異動や退職のたびに止められることになります。4つ目は委託先の評価で、データの保存場所・再委託先・削除の方法・監査の可否を契約で確かめておく必要があります。営業店の端末がインターネットに出られない場合は、本部で利用経路を用意する手間も出てきます。
安全の条件とは別に、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityのように得意分野の違うAIを業務に合わせて使い分けられると、下書きの質を比べやすくなります。使い分けの例でいうと、規程の要約や長い記録の読み込みは長文に強いAI、公的資料の調べものは出典を示しながら検索できるAI、と分ける方法があります。同じ所見の下書きを2つのAIに出させて、食い違った箇所を人が重点的に確かめる使い方もできます。AIごとの得意分野は主要4AIの違いと使い分け、複数のAIを1つの環境で使う形はマルチAIとはで整理しています。FISCの安全対策基準をはじめ、行内のシステムリスク管理の基準に照らした審査は、どのサービスを選ぶ場合でも自行で別に進めてください。点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストも参考になるでしょう。
4つのAIを、行内の管理下で使い分ける
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使い分けられる法人向けサービスです。全モデルで入力データを学習に使わない設定を標準で適用し、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、自社資料を読み込ませて回答させる社内文書RAGも備えています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
金融庁のAIディスカッションペーパーは、守らなければならないルールですか?
顧客の名前を消せば、面談メモを生成AIに入れてもよいですか?
稟議書の所見をAIに書かせると、審査の質は下がりませんか?
信用金庫や信用組合でも、銀行と同じ考え方で規程を作ってよいですか?
職員向けの生成AI研修は、何から始めればよいですか?
まとめ
地銀・信金の生成AI活用は、稟議書の所見や規程の検索のような行内の文書仕事から始めた例が目立ちます。入力の線は、銀行法施行規則・信用金庫法施行規則の安全管理措置と個人情報保護法、金融分野ガイドラインの機微情報の規定から引くことになります。置き換え表で顧客を特定できない形に直し、指示文と確かめる点をセットで配れば、営業店でも同じ品質で使い始められるでしょう。ほかの業種の使い方はAI活用コラム一覧からご覧いただけます。
