セキュリティ・社内ルール

AI監査とは?社員の生成AI利用を社内で点検する手順

公開 2026.11.03 更新 2026.11.03
執筆:中里 吉利(コプラス株式会社 代表取締役)
AI監査とは。社員の生成AI利用を社内で点検する5段階の手順

AI監査とは、AIを対象とした監査(AIの使われ方や仕組みを点検すること)と、AIを用いた監査(会計監査などの作業にAIを使うこと)という2つの意味で使われる言葉で、本記事が扱うのは前者のうち、社員の生成AI利用を会社が社内で点検する場面です。点検は、①どのAIを誰が使っているかの棚卸し、②入力しているデータ、③設定と契約、④利用ログ、⑤是正と報告の順に進めると、専任の監査部門がない会社でも一巡させることが出来ます。頻度については、IPAの中核人材育成プログラムの受講者がまとめた手引書(IPAの公式見解ではない文書)に「最低でも年1回」の現状把握という目安があり、それより細かい月次・四半期の点検は会社ごとに決めることになります。会社全体の体制づくりはAIガバナンスの全体像にまとめていますので、あわせて読んでみてください。

AI監査の2つの意味|AIを対象とした監査とAIを用いた監査

AI監査には「AIを対象とした監査」と「AIを用いた監査」の2つの意味があり、社員の生成AI利用を点検したい会社に関係するのは前者の話になります。東京大学未来ビジョン研究センターのAI監査研究会が2023年11月にまとめた資料では、AI監査を「AIと監査という文脈で議論される議題の集合」と位置付けたうえで、2つを分けて説明しています。AIを対象とした監査はAIサービスやシステムに対して監査の手続を実施するもので、AIを用いた監査はAIサービスやシステムを監査の手続に利用するものを指します。後者の例として資料に挙がっているのは、売上や会計のデータをAIに入れて、怪しい取引を見つけるといった使い方です。同じ資料の3ページには、この政策提言が扱うのはAIを対象とした監査で、AIを用いた監査ではないとはっきり書かれています。

AI監査 = AIと監査という文脈で議論される議題の集合 AIを対象とした監査 AIサービスやシステムに 対して、監査の手続を実施する 社員の生成AI利用の点検は こちら AIを用いた監査 AIサービスやシステムを、 監査の手続に利用する 例:売上や会計のデータを AIに入れて、怪しい取引を見つける 経費の不正チェックや会計監査にAIを 取り入れたい方は、右の話になります AI監査 = AIと監査という文脈で 議論される議題の集合 AIを対象とした監査 AIサービスやシステムに 対して、監査の手続を実施する 社員の生成AI利用の点検は こちら AIを用いた監査 AIサービスやシステムを、 監査の手続に利用する 例:売上や会計のデータを AIに入れて、怪しい取引を見つける 経費の不正チェックや会計監査に AIを取り入れたい方は、 点線の枠の話になります
出典:東京大学未来ビジョン研究センター AI監査研究会「AIガバナンスに資するAI監査の実践に向けて」(2023年11月)3ページ。社員の生成AI利用をどちらに当てはめるかは、この記事の編集上の整理です。

※出典:東京大学未来ビジョン研究センター AI監査研究会「AIガバナンスに資するAI監査の実践に向けて」(2023年11月・26ページのスライド資料)。資料の1ページに、意見に関する部分は研究会の見解で、発表者の所属する法人の公式見解ではないと記されています。

社内で点検するのは「AIを対象とした監査」のほう

経費の不正チェックや会計監査にAIを取り入れたい方が探しているのは、AIを用いた監査のほうになります。一方で、社員が生成AIを業務で使い始めた会社が気にしているのは、情報が漏れていないか、誤った出力がそのまま社外に出ていないか、という点でしょう。こちらはAIの使われ方を対象にした点検で、本記事ではこれを社内のAI監査と呼んで進めていきます。専門の監査人による正式な監査とは違い、総務や情シスの担当者が自社のルールに沿って確かめる、身近な点検をイメージしてみてください。

AI監査が難しいとされる理由

同じ資料の18〜20ページでは、AI監査が難しい理由を技術・制度・社会の3つの面から整理しています。技術の面で挙がっているのは、「判断のロジック部分がブラックボックス化されており、ロジックの妥当性確認が困難」という点です。制度の面では「AIに特化した監査実施者の要件や品質マネジメント体制等の一般基準は制定されていない」とされ、社会の面では「AI監査を必須とするような法的拘束力を有する規制や罰則に乏しく」、監査を受ける側の動機も働きにくいと書かれています。監査する側の基準づくりもまだ途上だというのが、2023年11月時点の研究会の見方です。そのため、まずは会社が自分で確かめられる部分から手を付けていきましょう。

生成AI特有のリスク|点検で見つけたい4つの問題

点検で見つけたいのは、情報漏洩・ハルシネーション(もっともらしい誤り)・過度な依存・ブラックボックス化という生成AIならではの4つのリスクが、自社の使い方の中で起きていないかどうかです。この4つは、金融庁金融研究センターのディスカッションペーパー(DP2025-3、2025年7月)が、監査の現場で生成AIを使うときの課題として挙げているものと重なります。このペーパーは執筆者である野間幹晴氏(一橋大学大学院経営管理研究科教授・金融庁金融研究センター特別研究員)の個人的見解とされ、金融庁の公式見解ではありませんが、概要には「AI への過度な依存やブラックボックス化、情報漏洩、ハルシネーションなど」の課題が想定されると書かれています。監査の専門家が自分の仕事に使う場面でも同じ課題が挙がるのですから、一般の社員が日々の業務で使う場面でも、この4つを点検の物差しにして差し支えないでしょう。

情報漏洩と個人情報

4つのうち、会社の損害に直結しやすいのは情報漏洩で、社員が顧客情報や社外秘の資料をそのまま入力していないかが点検の中心になります。AI事業者ガイドラインでも、AIを業務で使う事業者(AI利用者)が特に取り組む事項として「個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策」が挙がっています。入力したデータの学習利用や保存の扱いは、契約と設定の両方で決まります。点検では、その2つを並べて確かめることになります。

ハルシネーションと過度な依存

ハルシネーションは、AIが事実と違う内容をもっともらしく出力してしまう現象です。出力をそのまま資料やメールに使う習慣が根付くと、誤りに気付く人がいなくなり、過度な依存の問題に変わっていきます。AI事業者ガイドラインは脚注で自動化バイアス(自動化されたシステムを人が過度に信頼したり、頼り切ったりしてしまう現象。本編15ページの脚注)を取り上げ、対策の例としてAIの特性を理解できるトレーニングなどを挙げています。点検では、出力を人が確かめる手順が決まっているか、その手順が実際に守られているかを見ることになります。

ブラックボックス化

ブラックボックス化は、AIがなぜその答えを出したのかを外から確かめにくい性質のことを指します。社内の点検でAIの中身まで調べるのは現実的ではないので、代わりに誰が・いつ・何を入れて・何が返ってきたかの記録を残し、後から追える状態を作ることが出来ます。記録の残し方は、後半の「ログ・権限・承認の確認」で詳しく見ていきましょう。

点検の手順|棚卸しから是正・報告までの5段階

社員の生成AI利用の点検は、棚卸し→入力データ→設定と契約→ログ→是正と報告の5段階で進めると、抜けが出にくくなります。この順番は、IPAの手引書やAI事業者ガイドラインの記載をもとに本記事で実務の流れに並べ直したもので、公的に決まった手順ではありません。前の段階の結果が次の段階の材料になるので、途中から始めるより、最初の棚卸しから順に一巡させてみてください。

1 棚卸し 2 入力データ 3 設定と契約 4 ログ 5 是正と報告 どのAIを、誰が、 何に使っているか 何を入れてよいかが 決まり、守られているか 学習利用・保存・権限を 画面で確かめる 後から追える記録が 会社の手元にあるか 直すことを決め、 記録に残す 棚卸しとログは、使うAIが社員ごとに ばらばらだと手が止まりやすい段階です 1 棚卸し どのAIを、誰が、何に使っているか 2 入力データ 何を入れてよいかが決まり、 守られているか 3 設定と契約 学習利用・保存・権限を画面で確かめる 4 ログ 後から追える記録が会社の手元にあるか 5 是正と報告 直すことを決め、記録に残す 棚卸しとログは、使うAIが 社員ごとにばらばらだと 手が止まりやすい段階です
※IPA 中核人材育成プログラム9期生「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(IPAの公式見解ではなく、著者の見解です)(第1版 2026年7月31日)やAI事業者ガイドラインの記載をもとに、本記事で実務の流れに並べ直したものです。公的に決まった手順ではありません。

※本記事で参照する手引書は、IPA 産業サイバーセキュリティセンター 中核人材育成プログラム9期生「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(第1版 2026年7月31日・99ページ)です。手引書の免責事項に、独立行政法人情報処理推進機構および産業サイバーセキュリティセンターの意見を代表するものではなく、著者の見解に基づくと書かれています。有効期限は発行日から2年間とされています。

段階1 棚卸し|どのAIを、誰が、何に使っているか

最初の段階は、社内で使われている生成AIを一覧にすることです。手引書の19ページでは、把握すべき事項として、利用しているAIシステムの製品名・提供事業者・契約形態(法人契約、個人契約、無料利用など)と、利用目的と範囲を挙げています。利用目的と範囲には、AIを使う業務、使う人の範囲、入力データの種類(公開情報・社内情報・機密情報・個人情報)、出力の利用先(社内のみ・社外提供・顧客向けサービスへの組み込み)が含まれます。一覧は部署ごとに1行ずつ埋めていく形にすると、空欄になったところがそのまま確認の宿題になります。契約形態の欄に個人契約や無料利用が並んだら、そこはシャドーAI(野良AI)、つまり会社が承認していないAI利用の候補として、段階2以降で丁寧に見ていきましょう。

段階2 入力データ|何を入れてよいかが決まり、守られているか

次に、棚卸しで分かった使い方ごとに、どんなデータが入力されているかを確かめます。手引書17ページの「ガイドラインに記載すべき事項」には、入力可能な情報の分類、入力禁止の情報、迷ったときの相談窓口を決めておく項目があります。社内ルールにこの3つが書かれているか、そして社員が実際にそれを知っているかを、聞き取りやアンケートで確かめてみましょう。個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(3-4-3)では、個人データを扱わせる従業者に必要かつ適切な監督を行う義務(法第24条)が説明されています。生成AIに個人データを入れる業務があるなら、この監督の中で入力の扱いも確かめておきたいところです。

段階3 設定と契約|学習利用・保存・権限を画面で確かめる

3つ目の段階では、使っているAIサービスの契約内容と、管理画面の設定が食い違っていないかを確かめます。手引書27ページは、運用対策の有効性について「文書化だけでなく、設定画面、ログ、権限一覧、テスト結果、変更履歴等により確認できる必要がある」と述べています。同じページには、契約で入力データの学習利用を禁止していても、保存や再利用を無効にする設定が「適切に行われていなければ、契約上の禁止事項の実効性は確保されない」との指摘もあります。規約に学習に使わないと書いてあることと、自社のアカウントで実際にその設定になっていることは、別々に確かめる必要があるわけです。AI事業者ガイドラインの表1でも、AI利用者の事項として「提供された文書の活用及び規約の遵守」が挙がっています。あわせて、管理者権限を持つ人が必要以上に多くないか、退職者のアカウントが残っていないかも、権限一覧で確かめてみてください。

段階4 ログ|後から追える記録が会社の手元にあるか

4つ目の段階は、利用ログが残っていて、それを誰かが定期的に見ているかの確認です。ログに何を残すかは次の節で詳しく扱いますが、この段階で見るのは、ログが会社の手元にあるかどうかという、より手前の点になります。会社が契約していないアカウントでの利用は、会社の管理画面には出てきません。段階1の棚卸しで個人契約や無料利用が多く見つかった会社ほど、この段階で手が止まってしまいます。

段階5 是正と報告|直すことを決め、記録に残す

最後の段階では、段階1〜4で「いいえ」になった点を、誰が・いつまでに直すかを決めて記録します。手引書29ページは、対策の実効性を評価するときに、設定があるかどうかだけでなく、実際にリスクを下げているかを確かめる考え方を示しています。そこで評価の観点に挙がっているのは、インシデント対応の記録、教育の実施状況、例外承認の妥当性、是正の状況といった運用の実績です。報告の場としては、手引書16ページがAIの連絡会議の議題の例に「シャドーAI 検出状況といった利用実態モニタリング結果」を挙げており、社内の会議で点検結果を共有する形が参考になります。AI事業者ガイドラインの文書化の考え方では、後から確認しやすいツールで記録が残っていれば、紙や特定の書式にこだわらなくてよいとされています。共有フォルダの表計算ファイル1枚でも、日付と担当者と対応内容が残っていれば、次回の点検の出発点として十分に使えるでしょう。

5段階を通して見ると、段階1の棚卸しと段階4のログは、使うAIが社員ごとにばらばらだと手が止まりやすい段階です。個人のアカウントや部署ごとの契約が混在していると、一覧づくりもログの取り寄せも、サービスの数だけ繰り返すことになってしまいます。

使うAIがばらばらだと、点検が一巡しにくくなります

点検の材料を一か所に集めるなら、社員が使うAIの環境を会社で1つにまとめる方法があります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

ログ・権限・承認の確認|手引書の6分類で見る

ログの点検では、手引書が挙げる6つの分類(利用者・端末、利用時間、利用システム・サービス、入力、出力、制御)に沿って、自社で何が残っているかを確かめるのが分かりやすい進め方になります。手引書の72ページは、全件を目で確かめるのは物理的に無理なので、コストとリスクを見極めた現実的な運用を設計するよう述べています。全部を読もうとせず、何が残っていて、どこまで見るかを先に決めてしまいましょう。サービスごとに会社側で見られる記録の範囲は違うため、主なサービスの見え方は生成AIの利用ログの確認方法で確かめられます。

分類手引書に挙がっている取得項目点検で確かめること(編集上の目安)
利用者・端末ユーザID、所属部門、端末情報、IPアドレス共有アカウントがなく、1人1アカウントで記録されているか
利用時間アクセスおよびリクエスト実行の日時深夜・休日など、業務時間外の利用を説明できるか
利用システム・サービスどのAIシステム、どの基盤モデル会社が承認していないAIやモデルが使われていないか
入力入力したプロンプトの生データ、添付ファイル名顧客名簿や社外秘と分かる名前のファイルが添付されていないか
出力AIが生成した出力内容、消費したトークン数利用量が急に増えた人・部署がないか
制御DLPやAIゲートウェイによるブロック履歴、マスキングの実行履歴同じ人のブロックが繰り返されていないか

※取得項目は手引書72ページの記載です。右の列は本記事の編集上の目安です。DLPは機密情報の持ち出しを検知・防止する仕組み、AIゲートウェイはAIへの通信を中継して制御する仕組みを指します。

保存期間の例|メタデータは長め、本文は短め

保存期間について、手引書は日時やユーザIDなどのメタデータを長期(例:1年)、プロンプトや出力のテキストを短期(例:3ヶ月)とする例を示しています。目安として覚えておくなら、メタデータは1年、本文は3ヶ月という組み合わせです。手引書は残存リスクとして「ログ自体に機密情報が含まれる場合、ログの閲覧権限の管理が必要となる」とも書いており、ログを見られる人を絞ることも点検の項目に入ります。AI事業者ガイドラインも、利用時の入出力などのログを合理的な範囲で記録・保存し、記録の方法や頻度、保存期間を検討するよう求めていますが、保存年数そのものは指定していません。何年残すかは、自社の業務や取引先との約束に合わせて決めることになります。

ログ監査の3段階|まずはレベル1から

手引書の73ページは、ログを使った監査を3つのレベルに分けています。レベル1はログを蓄積して事後に確認する段階で、「AI システムを導入するすべての企業が最低限実施すべきレベルである」とされ、月次などの定期確認に使う位置付けです。ただし手引書は、レベル1では「未然防止・早期発見はできない」とも書いており、ここが次のレベルとの違いになります。レベル2はキーワードやパターンの検知で自動的に通知する段階で、多くのSIEM製品(ログを集めて分析する仕組み)やログ管理ツールで対応できるとされています。レベル3は監査用のAIシステムを入れる段階ですが、「利用料が実質2 倍になるほか、監査AI システム自体の統制・精度チューニング・監査AI システムの監査も必要となる」とされ、費用と手間の両方が重くなります。社員10〜200名の会社なら、まずはレベル1を確実に回し、月に1回ログを見る人と日を決めるところから始めてみてください。どのレベルでも「検知漏れは発生し得る」ため、手引書はログ監査を、入出力のフィルタリングやアクセス権限の設定などと重ねる多層防御の一部と位置付けています。

レベル1 ログを蓄積して、 事後に確認する AIシステムを導入する すべての企業が 最低限実施すべきレベル 未然防止・早期発見は できない レベル2 キーワードやパターンを 検知して、自動で通知する 多くのSIEM製品(ログを集めて 分析する仕組み)や ログ管理ツールで対応できる レベル3 監査用のAIシステムを入れる 利用料が実質2倍になるほか、 監査AIシステム自体の統制・ 精度チューニング・監査も必要 どのレベルでも、検知漏れは発生し得る 社員10〜200名の会社なら、まずはレベル1を回し、 月に1回ログを見る人と日を決めましょう レベル1 ログを蓄積して、事後に確認する AIシステムを導入するすべての企業が 最低限実施すべきレベル 未然防止・早期発見はできない レベル2 キーワードやパターンを検知して、自動で通知する 多くのSIEM製品(ログを集めて分析する仕組み)や ログ管理ツールで対応できる レベル3 監査用のAIシステムを入れる 利用料が実質2倍になるほか、 監査AIシステム自体の統制・精度チューニング・監査も必要 どのレベルでも、検知漏れは発生し得る 社員10〜200名の会社なら、 まずはレベル1を回し、月に1回 ログを見る人と日を決めましょう
出典:IPA 中核人材育成プログラム9期生「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(IPAの公式見解ではなく、著者の見解です)(第1版 2026年7月31日) 73ページ。吹き出しは、この記事の編集上の目安です。

権限と承認の流れも一緒に確かめる

ログと並んで確かめたいのが、誰がどのAIを使えるかという権限と、新しいAIを使いたいときの承認の流れです。手引書17ページの記載事項には、組織が承認したAIシステムの一覧と、利用を希望するときの申請プロセスと審査基準が含まれています。申請の記録が残っていれば、段階1の棚卸しで見つかったAIが承認済みかどうかを、すぐに照らし合わせることが出来ます。個人データを扱う従業者の監督としてモニタリングを行う場合の留意点を、個人情報保護委員会のQ&A(Q5-7)が挙げており、ログの点検でも参考になります。Q&Aに挙がっているのは、次の4点です。

  • モニタリングの目的をあらかじめ特定し、社内規程などに定めて従業者に明示する
  • 実施の責任者と、その権限を定める
  • 実施のルールを作り、運用する人に徹底する
  • ルールどおりに実施されているかを確かめる

労働組合などへの事前の通知(必要に応じて協議)や、従業者への周知も望ましいとされているので、ログの点検を始める前に社内へ知らせておくと安心でしょう。

シャドーAIの見つけ方|点検で使う5つの資料

シャドーAI(野良AI)は、社員への匿名アンケート、法人カードの利用明細、経費精算の領収書・申請、アカウントの連携アプリ一覧、ブラウザの拡張機能一覧の5つを組み合わせて探すと、見落としが減ります。どれか1つで全部が分かる資料はないため、性格の違う資料を重ねて見ることになります。

匿名アンケートで、使っている本人に聞く

いちばん手軽なのは、社員に匿名で、業務で使っているAIと使い方を聞く方法です。禁止を先に打ち出してから聞くと正直な答えが集まりにくいので、まずは実態を知りたいという目的を添えて聞いてみてください。質問の作り方はシャドーAIの社内アンケートの質問項目にひな形があります。

法人カード・経費精算の明細で、支払いを探す

有料のAIサービスを個人で契約して経費で精算している社員がいれば、法人カードの利用明細や経費精算の領収書・申請に名前が出てきます。四半期に1回、明細をAIサービスの名前で検索するだけでも、棚卸しから漏れていた契約が見つかることがあるでしょう。無料版の利用は明細に出てこないため、この方法はアンケートと組み合わせることになります。

連携アプリとブラウザ拡張機能の一覧を見る

会社のアカウントと連携しているアプリの一覧は、Google Workspaceなら管理コンソールの「セキュリティ → アクセスとデータ管理 → API の制御 → アプリのアクセスを管理」で確かめることが出来ます。Microsoftの環境では、Microsoft Entra 管理センターの「エンタープライズ アプリケーション > 同意とアクセス許可 > ユーザーの同意設定」が、社員が管理者の承認なしにアプリへアクセス許可を与えられるかを決める場所になります(既定では、管理者の同意が不要な範囲で社員が自分で同意できます)。設定を絞っても、すでに与えた許可は残る点に注意が必要です。Chromeを会社で管理していれば、管理コンソールの「デバイス > Chrome > 設定 → ブラウザに関するレポート」でクラウドレポートを有効にすると、入っている拡張機能の名前と権限を確かめられます。ただし手引書18ページが書くとおり、「企業ネットワークを経由しない端末からのAI システム利用は技術的な制御が困難」で、最後は社員の意識とルールの順守に頼る部分が残ります。見つける手順をもっと細かく知りたい方は、野良AI(シャドーAI)の見つけ方とシャドーAIの点検リストも参考にしてみてください。

見つかったあとは、禁止一辺倒にせず公認の環境を用意する

点検でシャドーAIが見つかると、すぐに全面禁止にしたくなるものです。手引書の18ページには、シャドーAIの発生は多くの場合「悪意ではなく業務上のニーズから生じる」ため、禁止を先行させるだけでは「申告されない利用が増え、実態把握がさらに困難になるリスクがある」と書かれています。手引書が統制の方法として挙げているのは、組織が公認するAIの提供、ルールの明文化と教育、技術的な検知・遮断の3つになります。公認のAIの提供については、「業務に使いたいのに公式な手段がない」状況が考えられるとして、「シャドーAI 対策の有効な前提条件の一つであると考える」と位置付けられています。技術的な検知・遮断は費用や工数が増える可能性があるため、明らかに危険なサービスの遮断に絞ったスモールスタートから始めるのが、手引書の考え方です。使ってよいAIの一覧、申請の窓口、公認の環境へ移る期限の3つを決めてしまいましょう。個人のアカウントで使っていた社員には、責める形ではなく、同じ使い方ができる会社の環境を案内する形で声をかけると、次回のアンケートにも正直に答えてもらいやすくなります。

点検でシャドーAIが見つかった(多くは、悪意ではなく業務上のニーズから) A 禁止を先行させるだけ 申告されない利用が増え、 実態把握がさらに困難になる リスクがある B 公認の環境を用意する 決める3つ 1 使ってよいAIの一覧 2 申請の窓口 3 公認の環境へ移る期限 責める形ではなく、同じ使い方ができる 会社の環境を案内しましょう 点検でシャドーAIが見つかった (多くは、悪意ではなく業務上のニーズから) どちらで対応するか A 禁止を先行させるだけ 申告されない利用が増え、 実態把握がさらに困難になるリスクがある B 公認の環境を用意する 決める3つ 1 使ってよいAIの一覧 2 申請の窓口 3 公認の環境へ移る期限 責める形ではなく、 同じ使い方ができる 会社の環境を案内しましょう
出典:IPA 中核人材育成プログラム9期生「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(IPAの公式見解ではなく、著者の見解です)(第1版 2026年7月31日) 18ページ。分かれ道の形と決める3つは、この記事の編集上の整理です。

最終判断は人が持つ|AIの出力を確かめる手順の点検

AIの出力を使うかどうかの最終判断を人が持てているかは、ログや設定とは別に確かめる必要があります。2025年12月19日に人工知能戦略本部が決定した、AI法第13条に基づく指針は、人間中心の考え方として「AIを活用する範囲や条件については、人間自らが最終的な判断を行うこと」を挙げており、AIを使うだけの会社にも当てはめやすい考え方になります。AI事業者ガイドラインの第5部(AI利用者向け)も、AIの出力を特定の個人や集団の評価の参考にするなら、AIを使っている旨を対象者に知らせ、人による合理的な判断のもとで説明責任を果たす形を求めています。社内の点検では、次の3つを確かめてみてください。

  • 社外に出す文書・メール・資料で、AIの出力を人が事実確認してから使う決まりがあるか
  • 人事評価や採用など人に影響する判断にAIの出力を使う場面があるか、ある場合は人が最終的に決めているか
  • 確認した人と日付が、成果物や記録のどこかに残っているか

手引書17ページの「ガイドラインに記載すべき事項」でも、出力結果の取扱いとして、人間による事実確認と第三者の権利侵害の確認が挙がっています。手引書29ページには、問題のある出力や有害な出力の検知について、重要なシステムでは毎日人が確認することが望ましいとの記載もあり、人の目をどこに置くかを決める参考になります。AIの判断のロジックは外から確かめにくいので、出力の正しさは人が別の資料で裏を取る、という役割分担を社内ルールに書いておきましょう。

AI監査の点検チェック表|はい・いいえで答える18項目

ここまでの5段階を、はい・いいえで答えられる点検チェック表にまとめました。「いいえ」が付いた項目が、段階5で直す対象になります。項目は本記事の編集上の目安で公的な基準ではないため、自社の業務に合わせて足したり削ったりしてみてください。

段階1 棚卸し(4項目)

  • 社内で使われている生成AIを、製品名・提供事業者・契約形態つきで一覧にしているかいいえの場合:部署ごとに聞き取り、法人契約・個人契約・無料利用の別まで書き出します。
  • 一覧に、使う業務・使う人の範囲・入力データの種類・出力の利用先が書かれているかいいえの場合:入力データは公開情報・社内情報・機密情報・個人情報の4つで分けると埋めやすくなります。
  • 一覧は、この1年以内に見直されているかいいえの場合:年1回の見直し日を決め、担当者の予定に入れます。
  • 会社が承認したAIの一覧が、社員に公開されているかいいえの場合:社内ポータルや共有フォルダに、承認済みのAIと申請の窓口を載せます。

段階2 入力データ(3項目)

  • 入力してよい情報と、入力禁止の情報が社内ルールに書かれているかいいえの場合:顧客の個人情報、取引先から預かった資料など、禁止の例を具体的に書き足します。
  • 入力してよいか迷ったときの相談窓口が決まっているかいいえの場合:総務か情シスの担当者を窓口として社内に知らせます。
  • 個人データを入力する業務がある場合、その業務と担当者を把握しているかいいえの場合:棚卸しの一覧で個人情報に印が付いた行を抜き出し、担当者に使い方を確かめます。

段階3 設定と契約(4項目)

  • 使っている各AIについて、入力データの学習利用の扱いを契約や規約で確かめたかいいえの場合:法人向けの規約と、個人向けの規約のどちらが適用されているかから確かめます。
  • 契約の内容どおりに、管理画面の学習利用・保存の設定がなっていることを画面で確かめたかいいえの場合:設定画面を開き、確かめた日付と画面の状態を記録に残します。
  • 管理者権限を持つ人が、必要な人だけに絞られているかいいえの場合:権限一覧を出力し、不要な管理者権限を外します。
  • 退職者・異動者のアカウントが残っていないかいいえの場合:人事の入退社の記録とアカウント一覧を突き合わせて停止します。

段階4 ログ(4項目)

  • 誰が・いつ・どのAIを使ったかのログを、会社の手元で見られるかいいえの場合:会社が契約したアカウントに利用を集め、管理画面で記録が見える状態にします。
  • ログの保存期間を決めているかいいえの場合:メタデータは長め、本文は短めにする例を参考に、自社の期間を決めます。
  • ログを見る担当者と、見る頻度が決まっているかいいえの場合:まずは月1回、事後に確認するレベル1から始めます。
  • ログを見られる人が、必要な人だけに絞られているかいいえの場合:ログにも機密情報が含まれうるため、閲覧権限を見直します。

段階5 是正と報告(3項目)

  • 前回の点検で「いいえ」だった項目に、担当者と期限が付いているかいいえの場合:表計算ファイルに担当者と期限の列を足し、次回の点検で消し込みます。
  • 点検の結果を、経営者まで報告しているかいいえの場合:年1回は経営者に結果を説明し、翌年の重点を決めてもらいます。
  • 社員への教育を、一度きりでなく定期的に続けているかいいえの場合:点検で多かった「いいえ」を題材に、短い研修を組みます。

「いいえ」が多い段階から手を付けるより、段階1から順に埋めていくほうが、後ろの段階の答えが出しやすくなります。

点検の頻度と担当の目安|月次・四半期・年1回

頻度は、月次でログ、四半期で支払いと権限、年1回で棚卸しとルールの見直し、という3段に分けると、兼務の担当者でも回しやすくなります。文書に目安として書かれているのは年1回の部分で、手引書は利用実態の把握を「一度きりの初期調査ではなく、最低でも年1 回を目安に定期的に繰り返す活動」としています。社内ルールの見直しについても、手引書は「最低でも年1 回程度の定期改定を基本とすることが望ましい」としており、月次と四半期の分け方と担当は本記事の編集上の目安になります。

頻度担当の目安主に見ること根拠
月1回情シス担当(総務との兼務でも可)利用ログの事後確認(レベル1)、アカウントの追加・停止、承認していないAIの利用編集上の目安。ログを月次などの定期確認に使う例は手引書73ページ
四半期に1回総務担当法人カード・経費精算の明細、権限一覧と管理画面の設定、申請・例外承認の記録編集上の目安
年1回経営者(総務・情シスが準備)利用実態の棚卸し、社内ルールの見直し、教育の実施状況、点検結果の報告手引書19ページ(現状把握・ガイドライン改定とも最低でも年1回)
臨時情シス・総務主要なAIの大型アップデート、社内や業界での重大インシデント、ガイドライン改定、新たな攻撃手法・脆弱性の顕在化、関連法令・公的ガイドラインの改定手引書19ページ(追加で実施・改定するきっかけ)

社員が10名ほどの会社なら、月次と四半期をまとめて四半期に1回とする形でも、年1回だけの点検よりは変化に気付きやすくなるでしょう。大事なのは回数より、担当者と日付を決めて点検の記録を残すことです。AI事業者ガイドラインが運用開始後の継続的なモニタリングと評価・改善を挙げているのも、この繰り返しと同じ考え方と言えます。経営者を含む事業執行責任者が事業戦略と一体でリスク対策を検討・実践することも、同じガイドラインで挙がっている点になります。年1回の報告では、経営者が点検の結果を見て翌年の重点を決めるところまでを、1つの流れにしてみましょう。

AI事業者ガイドライン・NIST AI RMF・ISO/IEC 42001との関係

社内のAI監査で拠り所にしやすいのは、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版、令和8年3月31日)で、米国のNIST AI RMFや国際規格のISO/IEC 42001は、より大きな仕組みを作るときに参照する位置付けになります。AI事業者ガイドラインとNIST AI RMFは、いずれも法的な義務ではなく、自主的な取り組みのための枠組みです。

AI事業者ガイドラインは非拘束的なソフトロー

本編2ページによると、AI事業者ガイドラインは細かな行為義務を定める規制ではなく、関係者の自主的な取り組みを促す「非拘束的なソフトロー」として作られています。対象は(本編4〜5ページ)事業活動でAIの開発・提供・利用を担う全ての者で、会社の規模で対象から外す記載はないため、社員が生成AIを業務で使う会社は「AI利用者」にあたります。一方で、中小企業に監査を義務づける記載はなく、各主体の資源制約を考えながら自主的に進めることが大切だという立場です。本編25ページの表1では、AI利用者が特に取り組む事項として、安全を考慮した適正利用、入力データやプロンプトに含まれるバイアスへの配慮、個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策、セキュリティ対策の実施、関係者への情報提供と説明、提供された文書の活用及び規約の遵守が並んでいます。チェック表の段階2と段階3は、この表の個人情報の項目と規約の項目に対応させて読むことが出来ます。ガイドラインの中身はAI事業者ガイドラインの要点で詳しく整理しています。別添7のチェックリストには共通の指針を要約した9つの問いもあり、年1回の見直しで自社の取り組みを振り返る材料にもなります。

ガイドラインで定期的なモニタリングに触れた主な3か所

本編で定期的・継続的なモニタリングに触れた主な記載は、次の3か所に見つかります。

  • 印字16ページ(共通の指針 2)安全性):「必要に応じて定期的かつ客観的なモニタリング及び対処も含めて人間がコントロールできる制御可能性を確保する」
  • 印字22ページ(共通の指針 7)アカウンタビリティ):「必要に応じ、AI の出力の誤り等について、ステークホルダーからの指摘を受け付ける機会を設けるとともに、定期的かつ客観的なモニタリングを実施する」
  • 印字28ページ(E. AIガバナンスの構築):「AI マネジメントシステムが有効に機能しているかを継続的にモニタリングし、「評価」及び継続的改善を実施する」

どれも、頻度や具体的な方法までは定めていません。社内の点検を月次・四半期・年1回で回すことは、この定期的かつ客観的なモニタリングを自社の規模で形にする方法の1つと考えることが出来ます。客観的という点では、ログを見る人と、そのAIを日常的に使う部署の人を分けておくと、身内の甘い確認になりにくいでしょう。令和7年度の更新内容をまとめた資料(令和8年3月12日)によると、AI利用者向けの別添5には、AIエージェントやフィジカルAIの定期的な操作履歴の確認や報告が追記されています。AIエージェントを業務に使い始めた会社は、その操作履歴も点検の対象に加えてみてください。

※ページ番号は本編PDFに印字されたページです(PDFのページ番号は印字のページに1を足した数)。出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編(令和8年3月31日)。2026年11月3日に本文を確認しています。

NIST AI RMFとISO/IEC 42001

NIST AI RMFは、米国立標準技術研究所(NIST)が2023年1月26日に公開したAIのリスク管理の枠組みで、公式サイトでも任意で使うものと説明されています。ISO/IEC 42001は、AIマネジメントシステムの国際規格(2023年)として、内閣府が公開している国際的な規範の一覧に挙がっているものです。どちらも社員10〜200名の会社がそのまま取り入れるには大がかりなので、まずはAI事業者ガイドラインの利用者向けの項目と、5段階の点検を回すほうが手を付けやすくなります。取引先から規格への対応を聞かれるようになった段階で、これらの枠組みを参照するかどうかを検討してみましょう。

AI法(AI推進法)が会社に求めていること

2025年9月1日に全面施行されたAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律、令和7年法律第53号)は、事業活動でAIを活用しようとする者を「活用事業者」とし、第7条で国や地方公共団体の施策に「協力しなければならない」と定めています。ただし、現行の条文を確認した範囲では罰則の規定は見当たらず、社内のAI監査を直接義務づける条文も置かれていません。第16条では、国が不正な目的などによる研究開発・活用で国民の権利利益が侵害された事案を分析し、活用事業者などに指導・助言・情報の提供などの措置を講じるとされています。点検の記録が残っていれば、こうした場面で自社の使い方を説明する材料にもなるでしょう。

社内ルールの整備と浸透|点検結果をルールと教育に戻す

点検で見つかる問題の多くは、社内ルールに書いていないか、書いてあっても社員に伝わっていないことが原因なので、結果をルールと教育に戻して初めて次の点検で改善が見えるようになります。手引書17ページは、AI利用のガイドラインに書く事項として、適用範囲・対象者、利用可能なAI、データ入力基準、出力結果の取扱い、禁止事項、インシデント時の対応、責任分界の7つを挙げています。同じページには「過度に厳格なルールはAI 利用者の回避(シャドーAI の増加等)を招き、かえってリスクを高める可能性がある」との注意書きがあり、禁止一辺倒ではなく代替手段とセットでルールを作ることが望ましいとされます。ルール文書の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方にひな形があるので、点検のあとに見比べてみてください。

点検 月次・四半期・年1回 ルールの見直し 年1回の点検と 同じ時期に 教育 一度で終わらせず 定期的に 結果を社員に返す 変更点を全社に 短く知らせる 次の点検へ 研修の受講記録を残せば、次回の点検で 教育の実施状況をそのまま確かめられます 点検 月次・四半期・年1回 ルールの見直し 年1回の点検と同じ時期に 教育 一度で終わらせず定期的に 結果を社員に返す 変更点を全社に短く知らせる 次の点検へ 研修の受講記録を残せば、 次回の点検で教育の実施状況を そのまま確かめられます
出典:IPA 中核人材育成プログラム9期生「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(IPAの公式見解ではなく、著者の見解です)(第1版 2026年7月31日) 19・21・29ページ。月次・四半期の分け方、点検と見直しの組み合わせ、結果を社員に返す流れは、この記事の編集上の整理です。

ルールは年1回、教育は定期的に

手引書19ページは、ガイドラインを改定するきっかけとして、新たな攻撃手法や脆弱性の顕在化、関連法令や公的ガイドラインの改定、社内や業界での重大インシデントの発生を挙げているので、年1回の点検と同じ時期に見直すと手間が減ります。教育については21ページが「半年前の知識が陳腐化していることもある」として、一度の研修で終わらせず定期的に続ける考え方を示しています。点検で多かった「いいえ」を次の研修の題材にすると、教育の中身が自社の実態に合ったものになります。AI事業者ガイドラインの共通の指針でも、主体内のAIに関わる者への必要な教育が期待される事項に入っています。研修の受講記録を残しておけば、手引書29ページが評価の観点に挙げる教育の実施状況を、そのまま次回の点検で確かめることが出来ます。

点検の結果を社員に返す

点検の結果は、社員を責める材料ではなく、使い方を良くするための材料として共有するのが長続きのこつです。たとえば「承認済みのAIの一覧を更新した」「入力禁止の例を3つ足した」といった変更点を、全社に短く知らせてみましょう。ルールが変わったことを知らずに古いやり方を続ける社員が減るので、次の点検の「いいえ」も少なくなっていくでしょう。点検項目を全体で見直したいときは、生成AIのセキュリティ対策チェックリストと見比べると、抜けている観点が分かります。

点検しやすい状態にするには|使う環境を会社で1つにまとめる

毎回の点検を軽くする近道は、社員が使うAIの環境を、会社が契約して管理する1つの環境にまとめることです。環境が1つなら、棚卸しの一覧は短く済み、ログと権限も1つの管理画面で確かめられるようになります。契約の窓口も1本になるため、学習利用や保存の扱いを問い合わせる先を絞ることが出来ます。ただし、AIモデルごとの保存先・保持期間は各提供事業者の仕様による場合があるので、その説明が示されているかも確かめてみてください。反対に、部署ごと・人ごとに違うAIを契約している状態だと、5段階の点検をサービスの数だけ繰り返すことになり、どこかで確認が漏れやすくなってしまいます。手引書がシャドーAI対策の前提条件の1つに挙げた組織公認のAIの提供は、点検のしやすさという面でも効いてくるわけです。環境を選ぶときは、チェック表の段階3と段階4にあたる学習利用の設定、権限の管理、利用ログの確認を会社側でできるかを、契約前に確かめてみてください。公認の環境を用意しても、社内ルール・教育・人による出力の確認は自社で続ける必要がある点は変わりません。

点検しやすいAI環境を、1つの契約で

UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、会話履歴・利用ログ・アカウントはすべて国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。管理者ダッシュボードで、利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理できます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

社員が20人ほどの会社でも、AI監査は必要ですか?
AI事業者ガイドラインは事業活動でAIを利用する全ての者を対象にしており、会社の規模で対象から外す記載はありません。ただし非拘束的なソフトローで、中小企業に監査を義務づけるものではなく、資源制約を考えながら自主的に進める考え方です。少人数の会社なら、使っているAIの棚卸しと月1回のログ確認から始め、年1回、社内ルールと合わせて見直す形から始めてみてください。
AI監査は法律で義務づけられていますか?
2025年9月1日に全面施行されたAI法(令和7年法律第53号)は、活用事業者に国などの施策への協力を求めていますが、現行の条文を確認した範囲では罰則の規定は見当たらず、社内の点検を直接義務づける条文も置かれていません。AI事業者ガイドラインも非拘束的なソフトローです。一方で、ガイドラインは個人情報保護法をはじめとする関連法令の遵守を前提にしているため、個人データの入力の扱いは点検で必ず確かめてください。
利用ログは、何をどれくらいの期間残せばよいですか?
IPAの中核人材育成プログラムの受講者がまとめた手引書(IPAの公式見解ではありません)は、利用者・端末、利用時間、利用システム・サービス、入力、出力、制御の6つの分類でログを取る形を示しています。保存期間の例は、日時やユーザIDなどのメタデータが1年、プロンプトや出力のテキストが3ヶ月です。AI事業者ガイドラインは保存年数を指定していないため、自社の業務や取引先との約束に合わせて決めることになります。
点検でシャドーAIが見つかったら、禁止すべきですか?
禁止だけで終わらせないことをおすすめします。IPAの中核人材育成プログラムの受講者がまとめた手引書は、シャドーAIの多くは悪意ではなく業務上のニーズから生じるとし、禁止を先行させるだけでは申告されない利用が増えて実態把握が難しくなると指摘しています。使ってよいAIの一覧と申請の窓口を決め、同じ使い方ができる会社公認の環境を用意したうえで、移る期限を示す進め方が現実的です。
外部の専門家にAI監査を頼むべきですか?
まずは社内で一巡させることをおすすめします。東京大学未来ビジョン研究センターのAI監査研究会の資料は、2023年11月時点で、AIに特化した監査実施者の要件などの一般基準は制定されていないと指摘していました。外部に相談する場合も、社内の棚卸しの一覧とログ、点検の記録がなければ見てもらう材料がないため、社内での点検が出発点になります。

まとめ

AI監査には、AIを対象とした監査とAIを用いた監査の2つの意味があり、社員の生成AI利用を確かめたい会社に必要なのは前者の社内点検になります。進め方は棚卸し→入力データ→設定と契約→ログ→是正と報告の5段階で、月次・四半期・年1回の3段に分けると、兼務の担当者でも続けられます。頻度の目安として文書に書かれているのはIPAの中核人材育成プログラムの受講者がまとめた手引書の「最低でも年1回」で、AI事業者ガイドラインもAI法も、中小企業に監査を義務づけてはいません。だからこそ、点検の記録を残し、見つかったシャドーAIは公認の環境へ移し、結果をルールと教育に戻すという小さな繰り返しが、会社として使い方を説明できる力になっていきます。まずは今月、社内で使われているAIの一覧づくりから始めてみてください。