野良AIの見つけ方。専用ツールを買わずに社内の未承認AIを検知する手順

野良AI(シャドーAI)とは、会社が承認していない生成AIサービスやAI機能を、社員が業務のために使っている状態のことです。見つけ方の結論を先に書くと、検知の専用ツールを買わなくても、会社の管理画面・経費の明細・ブラウザの拡張機能・社内で作られた自動化という4か所を順に見るだけで、会社の仕組み(会社アカウント・会社の支払い・会社の端末)を経由している利用は、サービス名まで特定できます。追加費用はかかりません。逆に、この4か所をどれだけ丁寧に見ても出てこないのが、私物のスマートフォンや個人アカウントでの利用です。ここは技術で追いかけても届かないため、申告しても損をしない窓口と、申告した人にすぐ渡せる公認の環境を用意するしかありません。この記事は、社員10〜200名で情報システムの専任がいない会社を前提に、今日30分でできることから、四半期ごとの点検を記録に残す形までを、そのまま使える粒度で並べます。

前提を1分で|野良AIとは何か、なぜ見つける必要があるのか

この記事は見つけ方に絞ります。定義・リスク・対策の全体像はシャドーAI(野良AI)とは?意味・リスク・対策で解説しているため、ここでは検知の作業に入る前に共有しておきたいことだけを短くまとめます。ここを飛ばして管理画面を開いても作業はできますが、社内で説明するときに必要になる前提です。見つけた後の点検の順番と判定はシャドーAIのチェックリストにまとめています。

野良AIとは何かと、シャドーAIという呼び方の使い分け

野良AIとは、会社が承認していない生成AIサービスやAI機能が、業務のなかで使われている状態を指します。日本語では野良AIとシャドーAIの2つの呼び方が流通しており、厳密に定義が分かれているわけではありません。傾向として、シャドーAIは英語のShadow AIの訳語で、社員による承認外のAI利用全般を指して使われます。野良AIはそれに加えて、社内で作られたまま管理されずに動き続けている自動化やAIエージェントまで含めて使われることが多い言葉です。この記事では以降、野良AIに統一します。

呼び方より重要なのは範囲です。野良AIは、社員が個人で登録したチャット型のAIサービスだけを指すのではありません。普段使っているSaaSに後から追加されたAI機能、ブラウザに入れた拡張機能、そして社内で誰かが作った自動化の3つを含めて数えないと、棚卸しの結果は実態より少なく出ます。この3つを含める前提が、後半の手順の設計に効いてきます。

シャドーITとの違いは、契約と支払いの痕跡が残らないこと

従来のシャドーITとの最大の違いは、痕跡の残り方です。シャドーITと呼ばれていたものは、ソフトウェアの購入、端末へのインストール、サーバーの設置を伴うことが多く、購買記録や資産台帳、端末の構成変化という形で、多くの場合どこかに跡が残りました。総務や経理が請求書を見れば気づける類のものです。

生成AIはそうなりません。ブラウザを開いてメールアドレスを入力すれば、その日から使えます。無料プランを選べば支払いが発生しないため、請求書にも法人カードの明細にも載りません。インストールが不要なので端末の構成も変わりません。会社の審査を通る場面が一度もないまま、業務のデータが社外のサービスに渡ります。

さらにAI特有の論点として、入力した内容が提供元のモデルの学習に使われる可能性があります。従来のシャドーITでは、使ったツールが会社のデータを学習して別の誰かの役に立てる、という経路は基本的にありませんでした。買った記録を探すという従来のやり方だけでは取りこぼす、というのがこの記事の出発点です。

野良AIが生まれる背景は、現場の速さに会社の整備が追いつかないこと

野良AIは、ルールを守らない社員がいるから生まれるのではなく、現場が必要とする速さに会社側の整備が追いついていないから生まれます。原因はおおむね次の4つです。1つ目は、生成AIの登録が個人単位で完結すること。2つ目は、ノーコード・ローコードの普及で、非エンジニアが自分の手で自動化を組めるようになったこと。3つ目は、在宅勤務や私物端末の業務利用が一般化し、会社のネットワークを通らない作業が増えたこと。4つ目は、会社としての公式なAI環境が用意されていない、あるいは申請しても時間がかかることです。

普及の度合いは調査でも確認できます。帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月17日〜3月31日実施、調査対象2万3,349社・有効回答1万312社・回答率44.2%)では、生成AIを活用していると答えた企業は全体で34.5%、大企業46.5%、中小企業32.4%、小規模企業28.0%と報告されています。同調査では、活用している企業のうち効果があったとする回答が86.7%でした。会社として活用していると答える段階に至っていない企業が6割以上あるということは、会社の方針が決まる前に、個人の判断で使われている状態が起こりやすい、ということでもあります。

※帝国データバンクの数値は同社が公表した調査結果です。会社としての活用状況を尋ねたもので、個人単位の利用率を測ったものではありません。

野良AIのリスクは、漏洩・証跡・アカウント・コスト・品質の5つに分かれる

リスクは1つではなく、性質の違う5つが同時に進みます。どれに困っているかで、検知の優先順位が変わります。

リスク何が起きるか検知で先に見るべき場所
機密情報の社外流出顧問先の資料、個人情報、見積書、人事情報が社外のサービスに入力される匿名アンケートの設問5(入力した情報の種類)
監査証跡が残らない誰が何を入力したかを会社が再現できず、事故が起きても範囲を特定できない個人アカウント利用の有無
アカウントと権限の散在退職・異動の後も本人名義の契約と連携が生き残る外部アプリの連携一覧、経費明細
重複契約によるコスト増部署ごとに似たサービスを個別契約し、全社で見ると二重・三重になる経費明細と立替精算
出力品質のばらつき事実と異なる内容が確認されないまま社外文書に混ざる出力物の用途(社外提出か社内利用か)

被害の規模については、IBMが公表し、Ponemon Instituteが実施した Cost of a Data Breach Report 2026(602組織・2025年3月から2026年2月に発生した侵害が対象)に数値があります。同レポートは、セキュリティインシデントのうち、会社が承認していないAIの利用(シャドーAI)が関わったものの割合が43%で、前年の20%から倍以上に増えたと報告しています。この43%は、侵害を受けた組織の割合ではなく、インシデントを母数とした割合です。

同レポートでは、これらのインシデントの平均侵害コストが今年 USD 5.39 million(前年 USD 4.63 million)とされています。影響の内訳(複数回答)は、データの消失・侵害49%(前年44%)、業務の中断42%(同39%)、評判の毀損35%(同23%)、セキュリティ費用の増加32%(同41%)、規制上の制裁金21%(前年は選択肢になし)です。制裁金については、おおよそ5件に1件のインシデントで支払いが報告されたと記載されています。また、今年侵害を受けた組織の多くは、AIを管理したり野良AIを検出したりするためのAIガバナンスを備えていなかった(68%、前年63%)とされ、方針の状況は、策定済み32%・未策定35%・策定中33%(前年22%)と報告されています。

※Cost of a Data Breach Report のレポート本文で触れられる年は公表年であり、侵害の発生年とは限りません(レポート本文に明記されています)。金額は同レポートの記載どおり米ドルで示しています。

実際に日本国内で起きた事案の類型は生成AI・野良AIによる情報漏洩事例データベースにまとめています。リスクの説明を社内向けに作る場合は、数字より先に、同業種で起きた事例を1件見せるほうが伝わります。

まず全体像|見る場所と、そこで見つかるもの・見つからないもの

検知の作業に入る前に、どこを見れば何が分かるのかを一枚で押さえておきます。手順を順番にこなすより、この対応表を先に見て、自社で見られる場所から着手するほうが早く進みます。重要なのは、どの場所にも必ず死角があることです。1か所だけ見て把握できたと判断すると、取りこぼしが出ます。

見る場所そこで見つかるものそこでは見つからないもの必要な権限と費用
Google Workspace / Microsoft 365 の管理画面(外部アプリ連携・OAuth)会社アカウントでログインして連携した外部サービス。サービス名と、渡した権限の範囲会社アカウントを使わずに登録された利用。個人のフリーメールでの登録管理者権限。追加費用なし(一部機能はエディションによる)
経費精算・法人カード・請求書有料で使われているサービス。部署ごとの重複契約。個人立替で精算されたもの無料プランでの利用。個人が自腹で払っているもの経理・総務の権限。費用なし
ブラウザの拡張機能AI要約・AI議事録・AI翻訳などの常駐型。ページの内容を読み取る権限を持つもの拡張ではなくWebサイトとして使われているもの本人の端末を開くか、管理下のブラウザなら管理画面。費用なし
業務端末のインストール済みアプリデスクトップ版のAIアプリ、文字起こしアプリ、AI機能つきのエディタ私物端末、ブラウザで完結する利用端末の管理者権限または資産管理の仕組み
利用中のSaaSの管理画面(内蔵AI機能)後から追加されたAI機能が、既定でオンになっていないか。学習利用の設定社員が個別に入れた別サービス各SaaSの管理者権限。費用なし
自動化の基盤(社内で作られたスクリプトやフロー)動き続けている自動処理、その所有者、接続先のアカウント個人アカウントの外部サービス上で組まれたもの各基盤の管理者権限、または本人への聞き取り
ネットワーク機器・プロキシのログ会社のネットワーク経由で特定のサービスへ出ている通信在宅・モバイル回線からの利用。暗号化されて宛先しか分からない場合の中身機器の管理権限。既存機器なら追加費用なし
匿名アンケート・申告窓口私物端末・個人アカウントでの利用。入力していた情報の種類。使いたい場面回答されなかった分。記憶があいまいな分誰でも実施できる。費用なし

着手の順番:上から順にやる必要はありません。今日やるなら、管理画面・経費・ブラウザ拡張の3つです。この3つは、専任の担当がいなくても、総務や管理部門の1人が単独で完了できます。自動化とネットワークは、社内に扱える人がいるかどうかで難易度が大きく変わるため、後から回して構いません。

禁止より先に、棚卸しと可視化から始める

順序を間違えると、作業が二度手間になります。まずやるのは棚卸しと可視化で、ルールを決めるのはその後です。理由は単純で、何が使われているか分からないまま作ったルールは、現場の実態と噛み合わず守られないからです。たとえば議事録の文字起こしが全社的に定着しているのに、それを想定していない禁止事項を出しても、運用は止まりません。地下に潜るだけです。

棚卸しの目的は、犯人探しではなく、次の3つを数字で言えるようにすることです。1つ目、いま社内で使われているAIサービスの名前と数。2つ目、そのうち会社が把握・管理できているものの数。3つ目、業務上どうしても必要とされている用途の上位3つ。この3つが出れば、ルールも公認環境の選定も、根拠を持って決められます。

一律禁止が逆効果になり、野良AIが地下に潜る理由

全面禁止は、短期的には最も簡単な打ち手に見えます。しかし、野良AIに関しては逆効果になりやすい打ち手です。理由は3つあります。

  1. 効率の差が大きすぎる:使っている社員にとって、AIを使うか使わないかは作業時間の差として直接跳ね返ります。禁止されても、締め切りのほうが強い動機になります。
  2. 禁止は利用を止めず、報告だけを止める:禁止した瞬間から、使っている社員は申告しなくなります。結果として、利用実態は変わらないのに会社からの可視性だけが下がります。事故が起きたときに、範囲の特定が最も難しい状態です。
  3. 私物端末に逃げる:会社の端末で使えなくなれば、個人のスマートフォンに移ります。この記事の後半で書くとおり、私物端末での利用は技術的な検知がほぼ届きません。禁止は、最も見えない場所へ利用を移動させる施策になり得ます。

現実的な立て付けは、禁止する対象を利用そのものではなく、入力してよい情報の種類に絞ることです。AIを使うなという指示ではなく、この種類のデータは入れないという指示にすれば、現場は守れます。この考え方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で詳しく扱っています。

技術的な検知と匿名アンケートは、組み合わせが前提

技術的な検知だけでも、アンケートだけでも、実態はつかめません。両方が必要です。

技術的な検知は、会社のIDを経由した利用、会社のお金が動いた利用、会社の端末で起きた利用を、確実に拾います。人の記憶に依存しないため、記録として残せるのが強みです。一方で、会社の仕組みを一切経由しない利用はゼロ件として出てきます。ゼロ件という結果が、使われていないことの証明にならないのが弱点です。

匿名アンケートは、その死角を埋めます。私物端末での利用、個人アカウントでの利用、入力していた情報の種類は、本人に聞く以外に知る方法がありません。弱点は、回答が正直とは限らないことと、記憶があいまいなことです。処罰や人事評価に使わないと明示しない限り、回答率も正確さも下がります。

実務では、技術的な検知を先に回して名前の一覧を作り、その一覧をアンケートの選択肢に使うのが効率的です。自由記述だけで書いてもらうより、見覚えのある名前が並んでいるほうが回答の精度が上がります。

野良AIはこう発覚する|実際に起きる5つのパターン

検知を計画的にやらなかった会社でも、野良AIはいずれ発覚します。問題は、発覚の仕方をこちらで選べないことです。以下の5つが、発覚の入口になります。どれも、会社にとって都合の悪いタイミングで起きます。

発覚の入口典型的な流れ発覚時点での厄介さ
1. 取引先・顧問先からの指摘先方のセキュリティ担当から、AIの利用状況を確認したいという問い合わせや、委託先向けのチェックシートが届く期限つきで回答を求められ、調べる時間がない状態で実態を出す羽目になる
2. 経費精算で見慣れない課金に気づく経理がドル建ての少額課金や英文の領収書に気づき、確認したら業務で使われていた本人は悪意なく使っており、しかも業務に定着している。止めると業務が止まる
3. 退職・異動の引き継ぎで判明担当者がいなくなった後で、本人名義で契約していたサービスや、本人が作った自動処理が動いていたことが分かる設定した本人がいないため、中身も接続先も分からない。止めてよいかも判断できない
4. 経営からの号令が一斉拡散を招く経営層がAI活用を推奨し、各自が思い思いのサービスに登録。管理側が後から気づく会社が推奨した形になっているため、後から止めにくい
5. 出力物の中身から気づく社外に出した資料に、実在しない出典や不自然な表現が混ざっているのを、第三者が指摘する信用の問題になる。しかも、どの工程でAIを使ったかを後から特定できない

5つのうち3つは、社外からの指摘か、担当者がいなくなった後に発覚します。残る2つも、気づくのは使っている本人ではなく、経理や管理部門です。この記事で扱う手順は、この5つより先に、自分たちのタイミングで見つけるためのものです。発覚してから調べ始めると、後述する最初の1時間の動き方を選べなくなります。使っている社員の側から見て、会社に何が見えて何が見えないかは、シャドーAIはバレる?会社に見える範囲と見えない範囲で整理しています。

1つだけ先に決めておくこと:調べ始める前に、今回の棚卸しで申告・判明した利用は原則として処罰の対象にしないと決め、それを口に出して共有してください(意図的な持ち出しなど、就業規則上の重大な違反にあたる場合は別に扱う旨も、あわせて示しておきます)。この一言があるかどうかで、アンケートの回答率も、聞き取りで出てくる情報の量も変わります。処罰を前提にした調査は、その場では静かに終わり、実態は何も分からないまま残ります。

今日30分でできること|情シスがいない会社の3手順

ここからが本題です。情報システムの専任がいない会社でも、総務や管理部門の担当者が1人で、今日のうちに終えられる手順を3つ挙げます。必要なのは、Google Workspace または Microsoft 365 の管理者権限と、会計ソフトまたは経費精算の閲覧権限と、自分の端末のブラウザだけです。いずれも追加費用は発生しません。30分で終わるのは、担当者1人が管理画面と経費をひととおり見て、疑わしい名前を書き出すところまでです。経費3か月分の精査と、拡張機能の全社棚卸しは、この後に日を分けて進めてください。

会社アカウントで連携した外部アプリを見る

最初に見るのは、会社のアカウントでログインして使われている外部サービスの一覧です。生成AIサービスの多くは、Googleアカウントでログイン、またはMicrosoftアカウントでログインという入口を用意しています。社員がその入口を使い、ドライブ・カレンダー・連絡先などのGoogleのデータへのアクセスを許可していれば、会社の管理画面に記録が残ります。公式ヘルプが記録対象として挙げているのは、Googleアカウントのデータ(コンタクト、カレンダー、ドライブ ファイルなど)へのアクセスがサードパーティ製アプリケーションに対して承認された場合と、Google Workspace Marketplace のアプリをユーザーが起動した場合です。データへのアクセス許可を伴わない、ログインだけの利用は、ここに出ないことがあります。それでも、権限を渡している利用は無料プランでも記録が残るため、経費では拾えない利用を拾える数少ない場所です。

Google Workspace の場合(2か所を見ます)

1か所目は、連携済みアプリの一覧です。Google の管理者ヘルプの記載では、Google 管理コンソールで、メニュー アイコン > セキュリティ > アクセスとデータ管理 > API の制御に移動し、アプリのアクセスを管理から、設定済みのアプリを表示します。ここでは、アプリごとのアクセス権限が4段階(信頼できる/限定/特定の Google データ/ブロック中)で示され、組織部門(OU)ごとに別の設定を持てるとされています。

2か所目は、いつ・誰が・どのアプリに許可を出したかのログです。同ヘルプでは、メニュー アイコン → レポート → 監査と調査 → OAuth のログイベント という経路が示されています。このログでは、操作の記録を確認し、自社のドメイン内でどのユーザーがどのサードパーティのモバイルアプリやウェブ アプリケーションを使用しているかを把握できるとされ、Google コンタクト・カレンダー・ドライブ ファイルなどへのアクセスがサードパーティ製アプリに承認された場合に記録されます。注意点として、既定では過去7日間のイベントが表示されます(期間は変更できます)。必要な権限は、監査と調査ツール経由の場合は監査と調査の管理者、セキュリティ センター経由の場合はセキュリティ センターの管理者です。エクスポートの上限は通常10万行、セキュリティ調査ツールでは3,000万行と記載されています。

Microsoft 365 / Microsoft Entra の場合

Microsoft Learn の手順では、少なくともレポート閲覧者ロールを使用してMicrosoft Entra 管理センターにサインインし、Entra ID > Enterprise アプリをブラウズして、アクティビティの下の左側のナビゲーションで監査ログを参照する、とされています。監査値の表には、ユーザーがアプリケーションに同意を付与する(Core Directory/アプリケーション管理/アプリケーションへの同意/ユーザー コンテキスト)という行があり、これが、社員が自分の判断で外部アプリに会社アカウントを渡した記録にあたります。

保持期間には注意が必要です。Microsoft の公式ドキュメントの表では、監査ログの保持は Microsoft Entra ID Free で7日間、P1 と P2 で30日間とされています。さらに、保持期間の変更はさかのぼって適用されない、Free から P1 や P2 にアップグレードしても、無料の保持期間内(最大7日)に残っているデータだけが利用可能になる、とも記載されています。つまり、今のプランのまま放置すると、先週より前の記録は存在しません。まず定期的に書き出して保存する運用を作るほうが、プランの検討より先です。

一覧を開いたあと、何で絞り込むか

一覧やCSVを開いても、アプリ名は数十件から数百件並びます。全部を人の目で読む必要はありません。次の語で検索して、当たった行だけを見てください。実際の社名・サービス名の綴りで検索するのが確実です。

カテゴリ検索に使う語(サービス名・提供元名)見つかったときの見どころ
汎用チャット型AIopenai / chatgpt / anthropic / claude / gemini / perplexity / copilot / grok / mistral会社アカウントで連携していれば、無料プランでも記録が残る
議事録・文字起こしotter / fireflies / notta / tldv / rimo / vrewカレンダーとWeb会議への接続権限を持つことが多く、権限の範囲を必ず確認する
資料・スライド生成gamma / tome / canva / napkin / beautifulドライブ内の資料を読み取る権限を渡していないかを見る
検索・リサーチ型felo / genspark / mapify / consensus / elicit社名で調べても実体が分かりにくいものは、提供元と所在地を確認する
開発・コード支援cursor / windsurf / copilot / codeium / replitソースコードや認証情報が入力対象になっていないか
自動化・連携zapier / make / n8n / ifttt / dify連携先の一覧そのものが、社内の自動化の地図になる
文章校正・翻訳grammarly / deepl / shodo常時テキストを読み取る設計のものは、対象範囲を確認する
画像・音声・動画midjourney / runway / elevenlabs / heygen / suno素材の権利と、顧客の顔写真・音声の入力有無

※上の表は検索に使う語の一覧です。各サービスの機能や安全性を評価したものではなく、社内で名前が出やすいものを検索キーとして並べています。実際の綴りはサービスにより異なるため、部分一致で探してください。

この方法の限界を先に書いておきます:会社アカウントでログインしていない利用は、ここには1件も出ません。個人のフリーメールで登録し、コピーと貼り付けだけで使っている場合、この一覧は空のままです。ここで何も出なかったことを、野良AIがないことの証明にしないでください。

直近3か月の経費と法人カードを洗う

2つ目は経費です。管理画面が拾えない有料利用を、ここで拾います。会計事務所や経理担当がいる会社であれば、この作業は最も短時間で終わります。見るのは直近3か月です。AIサービスの多くが月額課金のため、3か月見れば継続利用はほぼ現れます。

手順1:摘要で検索する。会計ソフトや経費精算システムの摘要・取引先名を、次の語で検索します。前項の表の語に加えて、決済代行の名義が入ることがあるため、次の語も足してください。

  • 提供元の社名(OPENAI / ANTHROPIC / GOOGLE / MICROSOFT / PERPLEXITY など)
  • 決済代行や配信元の名義(PADDLE / STRIPE / FASTSPRING / LEMON SQUEEZY / APPLE / ITUNES / GOOGLE PLAY)
  • 金額での検索(1サービスあたり月20米ドル前後の定額が多い。円建てで請求されていれば毎月ほぼ同額になる)
  • 通貨記号(USD / ドル / $ を含む行)

手順2:勘定科目を絞って一覧する。AIサービスの課金は、担当者の判断で次のいずれかに入っていることが多く、これらを月次で並べると異物が目立ちます。

勘定科目紛れ込みやすい理由見るときのコツ
通信費クラウドサービス全般をここに入れる運用が多い金額が小さく毎月同額の行を抽出する
支払手数料決済代行名義の引き落としをここで処理してしまう取引先名が英字の行だけを抜く
消耗品費・事務用品費ソフトの購入と同じ扱いにされる1万円未満の英字取引先を確認する
新聞図書費・研修費情報収集ツールとして申請されることがある継続課金になっていないかを見る
会議費・雑費少額の立替精算がここに落ちる領収書が英文PDFのものを確認する
外注費制作物の納品にAIが使われている場合、社内では見えない委託先にAI利用の有無を確認する運用を作る

手順3:4つの抜け道を塞ぐ。経費から見つけるときに、最もよく漏れるのが次の4つです。

  1. ドル建ての少額課金:為替の換算差で毎月金額が変わるため、同額検索に引っかかりません。通貨の種類で絞るか、取引先名が英字の行を一覧してください。
  2. アプリストア経由の課金:スマートフォンのアプリから課金されると、明細の名義がアプリストアの運営元になり、サービス名が出ません。明細ではサービス名が分からないため、本人に確認するか、任意のお願いとしてストアの購入履歴を見てもらう必要があります。
  3. 個人立替精算:本人がいったん個人のカードで払い、月末にまとめて精算する形です。摘要が手入力のため、ソフト利用料といった一般名詞になっていることがあります。金額と英文領収書の組み合わせで探すのが確実です。
  4. 自腹での利用:そもそも精算されていないものは、会計データには一切現れません。これは経費からは原理的に見つかりません。アンケートで拾う対象です。

会計事務所・士業と、顧客データを預かる会社の場合:この作業は自社の会計データを見るだけなので、外部に何も依頼せず完了します。同時に、顧問先から預かったデータがAIに入力されていないかは、自社の情報ではなく契約上の守秘義務の対象であるため、他の項目より優先度が上がります。繁忙期は、締め切りに追われて手早い手段が選ばれるため、野良化が起きやすい時期です。確定申告期や決算集中期の直後に点検を置くと、実態に近い結果が出ます。会計・税務ソフトからのデータ書き出し(CSVやPDFの出力履歴)が確認できる場合、その出力の直後にどこへ渡ったかを本人に聞くのが、最短の追跡経路になります。

ブラウザの拡張機能を一覧で見る

3つ目はブラウザの拡張機能です。ここは、他のどの手段でも取りこぼす領域なので、独立した作業として扱ってください。AI要約、AI議事録、AI翻訳、AI校正といった拡張機能は、次の3つの理由で検知の死角になります。

  • 多くは会社アカウントでのログインを求めないため、OAuthの連携一覧に出てきません。
  • 無料で配布されているものが多く、経費明細にも載りません。
  • 通信量が小さく、普通のWebアクセスに紛れるため、ネットワークのログでも目立ちません。

それでいて、権限としてはチャット型のAIサービスより広いことがあります。拡張機能のなかには、閲覧中のページの内容を読み取る権限を持つものがあり、その対象には、会社のメール画面、基幹システムの画面、顧客情報の一覧も含まれ得ます。社員が入力した内容だけでなく、画面に表示されただけの情報が対象になる点が、チャット型のAIサービスとの違いです。

確認の手順(本人の端末で開いてもらう場合)

  1. Chrome ならアドレスバーに chrome://extensions と入力して開きます。Edge なら edge://extensions です。
  2. 一覧に出た拡張機能の名前を、すべて書き出します。使っていないものも含めて全部です。
  3. 各拡張の詳細を開き、アクセス範囲の設定を確認します。全サイトを対象にしているものに印をつけます。
  4. 提供元(デベロッパー)の名前と、最終更新日を控えます。提供元が不明、または更新が長期間止まっているものは、用途に関わらず優先的に確認対象にします。
  5. 拡張のIDまたはストアのURLを控えます。同じ名前で別物が存在することがあるため、名前だけでは特定できません。

Chrome や Edge を会社の管理下に置いている場合は、管理画面側で拡張機能の一覧を取得できます。ただし、画面の名称や配置は管理環境と版によって異なるため、管理者ヘルプの手順に従ってください。管理下に置いていない会社のほうが多いため、上の本人の端末で開いてもらう手順を標準として設計してください。棚卸しの依頼は、全社に一斉に出すより、部署ごとに5分の作業として依頼するほうが回収率が上がります。

控える項目記入例なぜ必要か
拡張機能の名前(一覧に表示されている名称をそのまま)同名の別物があるため、他の項目と組み合わせて特定する
提供元詳細画面のデベロッパー欄の表記提供元が特定できないものは、それ自体がリスク
アクセス範囲全サイト対象/特定サイトのみ/クリックしたときのみ(表記はブラウザの版により異なります)権限の広さが、影響範囲をそのまま決める
用途会議の文字起こし、英文メールの下書き、などやめさせるか、代替を用意するかの判断材料になる
入れた時期・きっかけ他社の担当者に勧められた、など同じ経路で他の社員にも広がっている可能性が分かる
拡張のID/ストアのURL詳細画面またはストアのアドレス後から同一性を確認するために必要

情シスがいるなら追加でやること

情報システムの担当者がいる会社、または外部の運用委託先がある会社は、前章の3手順に加えて、ログの書き出し、業務端末と退職者アカウントの確認、自社のエディションでどこまで見えるかの確認を実施してください。半日を見ておくと安全です。こちらは記録として残せる形になるため、取引先からのチェックシートへの回答にも使えます。

サインインログ・監査ログの絞り方

前章では管理画面を開いて目で見る作業を書きましたが、ここでは書き出して残す作業をします。ポイントは、ログは放っておくと消えることです。

Google Workspace 側。OAuth のログイベントは、既定では過去7日間のイベントが表示されます。期間は変更できますが、まず表示期間を延ばして、確認できる範囲まで広げたうえでCSVに書き出してください。さかのぼれる範囲には限りがあるため、今回書き出した期間を記録に残し、以後は定期的に書き出してください。エクスポートの上限は通常10万行、セキュリティ調査ツールでは3,000万行と記載されています。書き出したCSVは、前章の検索語の表を使って絞り込みます。絞り込みの軸は3つです。1つ目はアプリ名。2つ目は、承認された権限の種類(ドライブ ファイル、カレンダー、コンタクトなど、何にアクセスしてよいと許可したか)。3つ目は、承認した日時の分布です。同じ日に複数人が同じアプリを承認していれば、社内で誰かが勧めた経路がある証拠になります。

Microsoft 365 / Entra 側。Entra ID > Enterprise アプリ > 監査ログ で、ユーザーがアプリケーションに同意を付与する のイベントを抽出します。保持期間は Microsoft Entra ID Free で7日間、P1・P2 で30日間とされており、保持期間の変更はさかのぼって適用されないとも記載されています。したがって、プランを変える判断より先に、月に1回書き出して社内に保存する運用を先に作るほうが実利があります。

同意そのものを絞る。Microsoft は公式ドキュメントで、ユーザーが検証された発行元からのアプリと選択したアクセス許可に対してのみ同意できるように、ユーザーの同意を制限することを推奨しています。また、組織内のアプリと付与済みのアクセス許可を監査し、不正または疑わしいアプリケーションにはデータへのアクセスが許可されていないことを確認すること、サインイン ログまたは同意許可アクティビティに基づいて、使用率が高い組織に既に追加されているアプリのインベントリを取得することも記載されています。管理者は、すべてのアプリケーションに対して、将来のすべてのユーザー同意操作を無効にすることで、アプリケーションへのユーザー アクセスを制限できるとも書かれています。

同意を止めるのは、受け皿を出した後で:ユーザーの同意を全面的に止めると、その日から野良AIの新規発生は減ります。ただし、業務で必要とされていた連携も一緒に止まります。止める設定を入れる前に、公認の環境と、例外を申請する窓口を先に用意してください。順序を逆にすると、現場は会社アカウントを使わない方向に動き、結果としてログに何も残らなくなります。

業務端末のインストール済みアプリと、退職者・異動者の残りアカウント

ブラウザで完結しない利用も残っています。デスクトップ版のAIアプリ、会議の録音・文字起こしアプリ、AI補完を持つエディタやPDF編集ソフトが対象です。資産管理の仕組みがあればその一覧から、なければ端末ごとにインストール済みアプリの一覧を出して確認します。確認の観点は、常駐して画面や音声を取得する設計になっていないか、ログイン先が会社アカウントか個人アカウントか、の2点です。

あわせて、退職者・異動者の残りアカウントを検知の対象に入れてください。これは見落とされやすい割に、発覚したときの困り方が最も深刻です。

残りやすいもの放置すると起きること退職・異動の手続に足す1行
本人名義で契約した有料サービス本人のカードに課金が続く、または支払いが止まってデータが消える業務で使っていた有料サービスの一覧と、支払い名義を申告する
本人が承認した外部アプリの連携アカウント停止後も、発行済みのトークンで接続が生き残る場合がある連携済み外部アプリの解除を、退職処理の項目に入れる
本人が作った自動処理誰も中身を知らないまま動き続け、止め方も分からない自分が作った自動処理の一覧と、止め方を引き継ぐ
本人名義で発行したAPIキー退職後も外部サービスへの接続が有効なまま残る発行したAPIキーの一覧と、失効手順を引き継ぐ
個人アカウントに残った会話履歴会社の資料を含む履歴が、会社の管理外に残り続ける業務で入力した内容の削除を依頼し、実施を確認する

チェックリストに足す文言は2行で足ります。業務で使ったAIサービスと、自分で作った自動処理を申告すること。そして、本人名義の契約と連携を解除すること。この2行があるだけで、前掲の発覚パターン3(退職・異動の引き継ぎで判明)はかなり減ります。

作った人がいなくなる前に、社内のAIを会社の環境へ

退職や異動の前に、社員が使うAIの環境を会社で1つにまとめておきましょう。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

プラン・エディションでどこまで見えるか

ここが、中小企業が自社で判断できずに止まる場所です。同じ管理画面でも、契約しているエディションによって見られる機能が変わります。下の表は、公式ページに記載がある範囲をまとめたものです。記載が確認できない項目は、その旨を記しています。

見たいもの公式ページで確認できた対応状況実務上の意味
Google:OAuth のログイベント(どのユーザーがどの外部アプリを使っているか)管理コンソールのレポート > 監査と調査 から参照。既定の表示期間は過去7日間。監査と調査の管理者、またはセキュリティ センターの管理者の権限が必要基本的な確認は管理者権限があれば実施できる
Google:監査と調査ツールのプレミアム機能(セキュリティ調査ツール)公式ヘルプの対応エディション一覧に挙がっているのは、Frontline Standard、Frontline Plus、Enterprise Standard、Enterprise Plus、Education Standard、Education Plus、Enterprise Essentials Plus、Cloud Identity Premium。Business Starter / Standard / Plus の名称はこの一覧に記載がないBusiness 系を使っている会社は、高度な調査機能ではなく、基本のログの書き出しで組み立てる前提にする
Google:Gemini の利用状況レポート公式ヘルプの対応エディションに Business Starter、Business Standard、Business Plus が含まれる。対象は組織のライセンスを持つユーザーのみ会社が配ったライセンスの利用状況は見えるが、社員の個人アカウントでの利用が見えるかは、公式に明示した記述が確認できていない
Microsoft:Entra の監査ログの保持期間公式ドキュメントの表で、Microsoft Entra ID Free は7日間、P1 は30日間、P2 は30日間。保持期間の変更はさかのぼって適用されない無料のままなら1週間分しか残らない。月次で書き出す運用が必須になる
Microsoft:Global Secure Access のシャドウ AI 検出公式ドキュメントでは、組織で使用されている承認されていない AI アプリケーションとツールを可視化するネットワークベースの機能と説明され、経路はグローバル セキュリティで保護されたアクセス > アプリケーション > Insights と Analytics。必要なライセンスのSKU名はページ本文に明記が確認できていない使えるかどうかは、自社の契約内容を提供元または販売店に確認して判断する
Claude:ドメインクレーム(自社ドメインの個人アカウントの一覧)公式ヘルプに、ドメインクレームは Claude Enterprise プランでのみサポートされると記載。ドメイン確認後は、組織にまだ入っていない自社ドメインの既存の個人アカウント(Free、Pro、Max)を一覧でき、メールアドレス・プランの種類・アカウント作成日・最終利用日を表示し、CSVで書き出せる。一度有効にすると元に戻せないとも記載会社のドメインで作られた個人アカウントを会社側から一覧できるのは、上位プランに限られる
Claude:監査ログ公式ヘルプに、監査ログは Enterprise 組織でのみ利用可能と記載。保持は過去180日。チャットやプロジェクトのタイトルと内容は監査ログで書き出せない誰が使ったかは追えても、何を入力したかは会社側で再現できない

※上の各項目は2026年9月18日に各社の公式ヘルプ・公式ドキュメントの記載を確認した内容です。エディション名や機能の対応範囲は変更されることがあるため、判断の前に各社の公式ページで最新の記載を確認してください。表に記載がない他社サービス(他のチャット型AIの法人向け機能など)については、公式の記載が確認できていないため、この表には含めていません。

CASB・SWG・DLP・IDaaSログという選択肢の整理

検知の解説で必ず出てくる4つの仕組みを、10〜200名の会社にとっての現実味とあわせて整理します。結論を先に言うと、この4つのうち、追加費用なしで今日から使えるのはIDaaSのログだけです。残りの3つは、導入済みの機器がある場合を除いて、購入と運用の判断が先に必要になります。

仕組み何をするものか何が見えるか限界10〜200名での現実味
IDaaS・ID基盤のログ会社のIDでのログインと、外部アプリへの権限付与を記録する誰が、いつ、どの外部サービスに会社アカウントを渡したか会社IDを経由しない利用は一切残らない。保持期間が短いすでに使っている。今日から実施できる
SWG(セキュアWebゲートウェイ)・プロキシWebへの通信を経由させ、宛先の記録と制御を行う会社ネットワークから特定のサービスへ出ている通信の有無と量在宅・モバイル回線の通信は経由しない。通信の中身までは分からないことが多い既存機器のログがあれば活用できる。新規導入は費用と運用の判断が要る
CASBクラウドサービスの利用状況を可視化し、ポリシーを適用する利用中のクラウドサービスの一覧と、リスク評価対象サービスの網羅性に依存する。設定と運用に人手が要る専任の担当がいない会社では、導入しても運用が止まりやすい
DLP機密情報が外部へ出ることを検知・防止する特定のパターン(個人番号、口座番号など)を含むデータの送出何を機密とするかの定義を自社で作る必要がある。誤検知の調整が続く定義を作る工数が最大の壁。台帳とレッドラインの整備が先

加えて、ネットワークを見る側の製品として、Microsoft の Global Secure Access にシャドウ AI 検出という機能があります。公式ドキュメントでは、組織で使用されている承認されていない AI アプリケーションとツールを可視化するネットワークベースの機能と説明されており、参照先はグローバル セキュリティで保護されたアクセス > アプリケーション > Insights と Analytics と記載されています。必要なライセンスのSKU名はページ本文に明記が確認できていないため、利用可否は自社の契約内容にもとづいて確認してください。

優先順位:この4つを比較して選ぶ前に、IDaaSのログと経費とブラウザ拡張という無料の3つを埋めてください。無料の3つで名前が出そろってからでないと、SWGやCASBを入れても、何を検知すべきかの設定が書けません。検知の仕組みは、監視対象のリストがあって初めて意味を持ちます。

見落としやすい2種類の野良AI

ここまでの手順を全部やっても、2種類だけは構造的に漏れます。どちらも、AIサービスを入れた覚えがないのにAIが動いている、という形で存在します。

SaaSに最初から入っているAI機能

1種類目は、すでに会社が契約しているSaaSに、後から追加されたAI機能です。社員は新しいサービスに登録していないので、本人には野良AIを使っている自覚がありません。管理側も、契約済みのサービスなので棚卸しの対象から外しがちです。しかし、入力したデータが提供元でどう扱われるかという論点は、新規のAIサービスとまったく同じです。

この種類は、次のカテゴリで発生しやすくなります。

SaaSのカテゴリ追加されやすいAI機能入力される可能性があるデータ
ビジネスチャット・グループウェア会話の要約、未読のまとめ、返信文の提案社内の意思決定の過程、取引条件、人事の相談
Web会議・録画自動の文字起こし、議事録の生成、要点の抽出顧客との商談内容、価格交渉、未公表の計画
ドキュメント・ノート文章の生成、要約、翻訳、社内文書の横断検索社内規程、契約書の下書き、顧客資料
顧客管理・営業支援商談メモの要約、メール文の生成、スコアリング取引先の担当者情報、商談履歴、与信の判断材料
会計・給与・人事仕訳の提案、問い合わせへの自動回答、書類の読み取り顧問先や従業員の個人情報、給与額、口座情報
デザイン・資料作成画像生成、文章生成、テンプレートの提案未公表の製品情報、社外秘の数値を含む図表

点検の手順は3つです。1つ目、契約中のSaaSを一覧にします。経費の明細から作れば、漏れが少なくなります。2つ目、それぞれの管理画面で、AIに関する設定項目があるかを確認します。項目名はサービスごとに異なるため、AI、アシスタント、生成、要約といった語で設定画面内を探すのが早い方法です。3つ目、次の5点を1行にまとめて記録します。

  • 管理者側でオン・オフを切り替えられるか(できないなら、利用範囲を運用で決めるしかありません)
  • 既定の状態がオンかオフか(既定オンで追加された機能は、誰も判断しないまま使われています)
  • 入力したデータが提供元のモデル学習に使われる設定になっていないか、その設定を会社側で変更できるか
  • 利用のログが管理者から確認できるか
  • 追加料金が発生する形か(発生するなら、経費側にも痕跡が出ます)

提供元への確認文のひな形:公開情報だけで判断がつかないときは、次の3行を問い合わせフォームに貼ってください。「貴社サービスのAI機能について3点うかがいます。1、入力したデータが貴社または提携先のモデルの学習に使用されることはありますか。2、学習に使用しない設定を、管理者側で選択できますか。3、AI機能の利用ログを管理者が確認する方法はありますか。」この3点の回答は、そのまま後述のAI利用台帳の欄を埋める材料になります。

社内で作られた自動化・AIエージェントという新しい層

2種類目は、社内の誰かが作った自動処理です。表計算に紐づくスクリプト、業務アプリのワークフロー、外部の連携サービスで組まれた自動化、社内向けに作られた質問応答のボット、そしてAIエージェントと呼ばれる形のものが該当します。この層は、使う人ではなく作る人によって生まれるため、社員へのアンケートで使っていますかと聞いても、作った本人以外は誰も気づいていないことがあります。

厄介なのは、次の3つが重なる点です。1つ目、作った本人が異動・退職しても動き続けること。2つ目、接続先のアカウントが本人名義のことが多く、本人のアカウントを止めると業務が止まること。3つ目、外部のAIに接続している場合、そこを通るデータの量と内容が誰にも把握されていないことです。

探し方は、場所ごとに一覧を出して所有者を確認するという形になります。画面の名称や配置は、使っている製品と版によって異なるため、ここでは何を一覧させるかを示します。

探す場所一覧させるもの確認する項目
表計算・文書に紐づくスクリプトファイルに紐づくスクリプトと、時間で起動する設定の一覧所有者、実行の頻度、最終実行日、外部への接続先
業務アプリのワークフロー・フロー作成済みフローの一覧とその所有者所有者が在籍しているか、承認を経て作られたか
外部の連携サービス接続済みのアカウントと、動作中の自動化の一覧接続先が会社アカウントか個人アカウントか
社内向けに作られたボット・アシスタント作成されたボットと、共有されているリンクの一覧共有範囲(社内限定か、リンクを知る全員か)
APIキー・アクセストークン発行済みのキーと、その名義・請求先誰のカードに課金されているか、失効させられるか
サーバー・端末の定期実行定期的に動いている処理の一覧何のための処理か、止めたときの影響

一覧が取れない場合は、部署ごとに次の1問を聞いてください。「あなたの部署で、人が操作しなくても自動で動いている処理はありますか。あるなら、作ったのは誰ですか。」この質問だけで、多くの会社は数件が出てきます。出てきた処理には、作った人・目的・接続先・止め方の4項目を書いた1枚を必ず残してください。この1枚がないまま作った人がいなくなると、止めることも直すこともできなくなります。

そのまま使える匿名アンケート|設問7問の全文

技術的な検知で拾えない範囲は、本人に聞くしかありません。ここでは、そのままコピーして使える形で、前置き文と設問7問を全文載せます。回答にかかる時間は3分程度です。

前置き文(この文をアンケートの冒頭に貼ってください)
このアンケートは、会社としてAIをどのように用意するかを決めるために、いま実際にどのような使われ方をしているかを知ることが目的です。このアンケートの回答を理由に、処罰や人事評価上の不利益を与えることはありません(意図的な社外持ち出しなど、就業規則上の重大な違反にあたる場合を除きます)。回答は匿名で集計し、個人を特定する形では扱いません。すでに個人のアカウントで使っている方も、そのまま正直に書いてください。実態が分からないままだと、危ない状態が続き、必要な環境も用意できません。所要時間は3分程度です。回答期限は◯月◯日です。

設問1
この1か月のあいだに、業務に関係する作業のためにAIサービスを使いましたか。サービスの名称は問いません(例:ChatGPT、Gemini、Claude、Copilot、Perplexity、文字起こしサービス、AI翻訳、AI議事録、画像生成など)。
選択肢:使った/使っていない/使ったかどうか分からない

設問2
使ったサービスの名前を、覚えている範囲ですべて書いてください。正式名称でなくてかまいません。複数ある場合は、改行して並べてください。
回答形式:自由記述

設問3
そのとき使っていたアカウントは、次のどれですか。
選択肢:会社から配られたアカウント/自分で登録した個人のアカウント/両方使った/どちらか分からない

設問4
使った端末は次のどれですか。あてはまるものをすべて選んでください。
選択肢:会社のパソコン/会社のスマートフォン/自分のスマートフォン/自分のパソコン・タブレット/その他

設問5
AIに入力した内容に、次のものは含まれていましたか。あてはまるものをすべて選んでください。この設問の回答を理由に、処罰や人事評価上の不利益を与えることはありません。ただし、顧問先の情報や個人情報の入力があった場合は、被害を広げないための事実確認をお願いすることがあります。
選択肢:顧問先・取引先から預かった情報/氏名や連絡先などの個人情報/社外に出していない資料・数値/社内限りの文書(議事録、規程など)/公開されている情報だけ/覚えていない

設問6
AIを使ったことで、その作業にかかる時間はどのくらい変わりましたか。おおよそでかまいません。
回答形式:自由記述(例:1回あたり30分の作業が10分になった)

設問7
会社が公式にAIを使える環境を用意する場合、あなたがいちばん使いたい場面を1つだけ書いてください。
回答形式:自由記述

集計の見方。設問ごとに、次の判断に直結します。設問2の自由記述は、そのままAI利用台帳の1行目になります。設問3で個人のアカウントという回答が多ければ、それは社員の意識の問題ではなく、会社が受け皿を用意していないことの証拠です。設問5で、顧問先・取引先から預かった情報、または個人情報にチェックが入った件数は、対応の優先順位を決める最重要の数字です。ここが1件でもあれば、その日のうちに動く理由になります。設問6は、公認環境にいくらまで払えるかを判断するための材料です。設問7は、環境を用意したときに最初に案内する用途を決めます。

実施のコツ。4点あります。1点目、部署名の記入は任意にしてください。必須にすると匿名性が損なわれ、回答が変わります。2点目、期限は1週間以内にしてください。長いほど回収率は下がります。3点目、経営層からの一言を冒頭に添えてください。処罰しないという約束は、管理部門より経営から出たほうが信用されます。4点目、前章までの技術的な検知を先に回し、そこで出たサービス名を設問2の例示に使ってください。名前を見せると、思い出す回答者が増えます。

※設問5で顧問先や個人情報の入力が判明した場合は、その時点で個別の対応が必要になります。匿名アンケートのままでは対象者を特定できないため、設問の末尾に、心当たりのある方は別途窓口までご相談ください、という一文と連絡先を添えておくと、後の対応がつながります。

技術的な検知では見つからない範囲と、申告窓口の作り方

ここまでの手順を全部実施しても、見つからない範囲が残ります。これは手順の不備ではなく、構造上どうやっても届かない領域です。ここを正直に扱うかどうかで、検知の取り組みが実態に届くかが決まります。

見つからないのは、次のいずれかに当てはまる利用です。

見つからない利用の形なぜ検知に届かないか把握できる方法
私物のスマートフォン・タブレットでの利用会社の端末管理の外にあり、会社のネットワークも通らない本人の申告
個人のフリーメールで登録したアカウント会社のドメインを使っていないため、会社側から一覧する手段がない本人の申告
自宅のパソコンでの作業会社の資産ではなく、ログの取得対象にならない本人の申告
画面の撮影・紙への印刷を経由した持ち出しデータの送信として記録されない本人の申告
取引先や客先の端末での利用会社の管理範囲の外で完結する本人の申告
スマートフォンの入力支援・ブラウザに内蔵されたAI独立したサービスとして登録する操作がない本人の申告と、端末設定の確認依頼

会社のドメインで作られた個人アカウントについては、サービスによっては会社側から一覧できる仕組みがあります。たとえば Claude の公式ヘルプでは、ドメインクレームは Claude Enterprise プランでのみサポートされるとされ、ドメインを確認すると、組織にまだ入っていない自社ドメインの既存の個人アカウント(Free、Pro、Max)を一覧でき、メールアドレス、プランの種類、アカウント作成日、最終利用日を確認してCSVに書き出せると記載されています。ただし、これは会社のドメインのメールアドレスで登録された場合の話です。個人のフリーメールで登録されていれば、この仕組みでも把握できません。また、同ヘルプには、一度有効にすると元に戻せないという記載もあるため、実施の判断は慎重に行ってください。

だからこそ、窓口が要ります:技術的な検知で埋まるのは、全体のうち会社の仕組みを経由した部分だけです。残りは、社員が自分から言ってくれるかどうかにかかっています。そして社員が自分から言うのは、言っても損をしないと分かっているときだけです。

申告窓口の作り方。特別な仕組みは不要です。次の6点を満たしていれば、社内の共有フォルダに置いた1枚の申請書でも機能します。

  1. 受付の経路を1つに決めて、全社に周知する。フォーム、専用のメールアドレス、紙のいずれでも構いません。複数あると、どこに出せばよいか分からなくなり、出されなくなります。
  2. 匿名でも受け付ける。ただし、匿名の場合は個別の回答ができないことを明記します。名前を書けば公認環境を優先的に配る、という形にすると、記名の申告が増えます。
  3. 返事の期限を決めて書く。目安は2営業日以内です。申告したのに何も返ってこない状態が一度でも起きると、その後の申告は止まります。
  4. 責めないことを文面に残す。口頭の約束では足りません。申告した内容を理由に処罰や人事評価上の不利益を与えないという一文を、窓口の案内文に書いてください。
  5. 申告した人に、その場で代わりを渡す。使うなという回答しかできない窓口は、2回目から使われません。公認環境のアカウント、または承認済みの代替手段を同時に案内できる状態にしてから窓口を開いてください。
  6. 四半期ごとに再募集する。1回きりの募集では、その後に増えた分が入ってきません。後述する定例点検と同じタイミングで、窓口の存在を再周知します。

窓口の案内文(そのまま使えます)
業務で使っているAIサービスの申告窓口を開設しました。いま個人のアカウントや私物の端末で使っているものがあれば、この窓口に出してください。申告した内容を理由に、処罰や人事評価上の不利益を与えることはありません(意図的な社外持ち出しなど、就業規則上の重大な違反にあたる場合を除きます)。申告いただいたものは、会社として安全に使える形に置き換えられるかを検討し、2営業日以内に担当からご連絡します。置き換えができない場合も、代わりの進め方を一緒に考えます。匿名でも受け付けますが、匿名の場合は個別のご連絡ができません。受付:(フォームのリンクまたはメールアドレス)

見つけた後の段取り|最初の1時間からの時間軸

見つけた後に何をするかを、時間軸で決めておいてください。ここが決まっていないと、見つけた瞬間に全面禁止を宣言してしまい、その後の情報が入ってこなくなります。検知の失敗は、見つけられないことより、見つけた直後の動き方で起きます。

時間軸やることやらないこと担当
最初の1時間見つけた記録(画面、CSV、明細)を保存する。入力されたデータの種類だけを確認する。責めないと決める本人を呼び出して問い詰める。全社メールで注意喚起を出す気づいた人と、その上長
その日のうち入力してはいけない情報のレッドラインを1枚にまとめて配る。顧問先情報・個人情報が入力されていた場合は、対象範囲を特定する利用そのものの全面禁止を宣言する管理部門
1週間以内公認環境の候補を提示する。申告窓口を開く。アンケートを実施するルールを詳細に作り込む(この時点では実態が固まっていません)管理部門と経営
1か月以内AI利用台帳を作る。仕分けの判断を確定する。次回点検日を決める。ガイドラインを確定する台帳を作らずに、個別対応のまま終わらせる管理部門

検出結果の整理からリスク評価・ポリシー・周知・承認フローまでの対応フロー

1か月のあいだにたどる流れを、5段階に分けて整理します。段を飛ばすと、後で戻ることになります。

段階作業の内容この段階の完了条件
1. 整理技術的な検知とアンケートで出た名前を1つの表に集約し、重複を消すサービス名・利用部署・利用人数・アカウントの種類が埋まった一覧がある
2. リスク評価入力されていたデータの種類と、業務での使われ方から、優先度を3段階でつけるすぐ止めるもの、移すもの、続けてよいものが分かれている
3. ポリシー入力してはいけない情報を明文化する。利用してよい場面を書くA4で3〜5ページの文書が1つある
4. 周知全社に配り、部署ごとに5分で説明する。質問を受ける窓口を示す全員が読んだことを確認できている
5. 承認フロー新しいAIを使いたいときの申請手順を決める。判断の基準と期限を書く申請から回答までの日数が決まっていて、公表されている

この5段階が、実態把握から運用に移すまでの流れです。順番より大事なのは、3の前に1と2を終えていることです。実態を知らずに書いたポリシーは、現場の作業を止めるか、現場に無視されるかのどちらかになります。

入力してはいけない情報のレッドラインをA4で3〜5ページに収める

ルール文書は短くしてください。分量の目安は、A4で3〜5ページです。全社員が読み切れる長さでなければ、書いた意味がありません。理想は、レッドラインだけを1枚にして、詳細は別冊にする形です。

1枚に書く内容は、次の3ブロックで足ります。

  • 入れてはいけないもの(具体名で書く):顧問先・取引先から預かった資料、氏名や連絡先を含む名簿、給与や評価に関する情報、未公表の決算数値、契約書の原本、システムのパスワードやAPIキー、第三者の著作物の全文。
  • 入れてよいもの:すでに公開されている情報、自分で書いた文章の推敲、一般的な調べもの、社名や固有名詞を伏せた相談。
  • 迷ったときの行動:迷ったら入れずに、窓口に聞く。聞いた記録が残ることで、次のルール改定の材料になる。

禁止事項を並べるより、この1枚を全員が覚えているほうが効果があります。そのうえで、文書全体の作り方と、規程との整合の取り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方にまとめています。セキュリティ観点で抜けがないかは生成AI導入のセキュリティチェックリストで確認できます。

社内通知文のひな形

棚卸しの協力を求めるときの通知文です。件名と本文をそのまま使えます。文面で最も重要なのは、処罰しないことを最初の3行以内に書くことです。後半に書くと読まれません。

件名:業務で使っているAIサービスの申告のお願い(◯月◯日まで・3分で終わります)

本文:
各位

会社として生成AIを安全に使える環境を用意するため、いま実際に使われているサービスを把握したいと考えています。この調査は、使っている人を特定して注意するためのものではありません。申告した内容を理由に、処罰や人事評価上の不利益を与えることはありません(意図的な社外持ち出しなど、就業規則上の重大な違反にあたる場合を除きます)。

お願いしたいのは次の2つです。
1. 添付のアンケート(3分・匿名)にご回答ください。期限は◯月◯日です。
2. 会社の端末をお使いの方は、ブラウザの拡張機能の一覧を確認し、AIに関するものがあれば名称をご記入ください。手順は添付の1枚をご覧ください。

回答をもとに、◯月中に会社として使える環境を用意し、順次ご案内します。個人のアカウントで使っている方も、そのまま会社の環境に移していただけるよう準備します。

ご不明な点は、(担当部署・連絡先)までお願いします。

見つけた野良AIの仕分け|格上げ・移行・停止の判断表

棚卸しで出てきたものを、3つのどれかに振り分けます。公認へ格上げする、会社の環境へ移す、やめる、の3つです。判断の軸は2つだけにしてください。入力していたデータの種類と、業務価値です。担当者の主観ではなく、この2軸で機械的に決まる形にしておくと、部署間で説明がつきます。

横軸の業務価値は、次の3段階で判定します。高いのは、週1回以上使われていて、代替手段がないか、代替すると作業時間が2倍以上になるもの。中は、月に数回使われていて、代替手段はあるが手間が増えるもの。低いのは、試しに使っただけ、または個人の趣味的な用途に近いものです。

入力していたデータの種類業務価値が高い業務価値が中業務価値が低い
顧問先・取引先から預かったデータ会社の環境へ移す(移行までは利用を止める)会社の環境へ移す(移行までは利用を止める)やめる
個人情報(氏名・連絡先を含む名簿など)会社の環境へ移す(移行までは利用を止める)会社の環境へ移す(移行までは利用を止める)やめる
社外秘(未公表の数値、契約条件、人事情報)会社の環境へ移す会社の環境へ移すやめる
社内限り(議事録、社内規程、手順書)公認へ格上げ(設定と契約を会社名義に切り替える)会社の環境へ移すやめる
公開情報のみ公認へ格上げ公認へ格上げやめる(または個人の裁量に任せる)

3つの選択肢の意味を、揃えておきます。

  • 公認へ格上げ:そのサービスを使い続けます。ただし、契約を会社名義に切り替え、管理者を置き、学習利用の設定を会社で確認し、台帳に載せます。個人名義のまま黙認することは、格上げではありません。
  • 会社の環境へ移す:用途は認めますが、そのサービスでは続けません。会社が管理できる環境で同じ作業ができるようにして、移行日を決めます。移行が完了するまでの暫定運用を、必ず文書で決めてください。
  • やめる:用途が限定的で、代替もあるものです。やめてもらう際は、同じ目的を果たす手段を1つ提示してください。代替なしの停止は、別のサービスへの移動を招きます。

※上の表は判断を早くするための型です。業種の規制や取引先との契約で、より厳しい条件が課されている場合は、そちらが優先します。特に、顧客から預かったデータの取り扱いを契約で限定している場合は、業務価値にかかわらず、契約条件の確認が先になります。

仕分けの結果は、その場でAI利用台帳に書き込んでください。表計算に1行ずつ入れていくだけで構いません。会議の記憶に置いておくと、3か月後に同じ議論をやり直すことになります。公認する側に振り分けたサービスの選定にあたっては、法人向け生成AIサービスの比較で料金と管理機能の並びを確認できます。

受け皿を先に出すと、申告は集まる

検知の話をしていると、順序が逆に見えるかもしれませんが、実務では受け皿を先に出したほうが、検知の精度が上がります。使えるものがないまま実態を聞かれた社員は、正直に答える理由がありません。使ってよい環境が用意されていて、申告すればそこに移れると分かっていれば、答える理由ができます。

会社が公認できる安全なAI環境を受け皿として先に用意する

公認環境に求める条件は、多機能さではありません。次の5点を満たしていれば、まず足ります。

  • 入力したデータが提供元のモデル学習に使われない設定になっていること。これは後から変えにくいため、最初に確認します。
  • 誰がいつ使ったかのログが、会社側で確認できること。事故が起きたときに範囲を特定できるかどうかが、ここで決まります。
  • アカウントの発行と停止を会社が行えること。退職時に止められない環境では、残りアカウントが生じます。
  • 全社員に配れる費用であること。一部にしか配れないと、配られなかった人が個人契約に流れます。結果として野良AIが再生産されます。
  • 現場が今やっている作業を、そのまま置き換えられること。議事録の文字起こしや資料の要約など、アンケートの設問7で挙がった用途に対応できるかを見ます。

選定の観点をもう少し細かく見る場合は、複数のAIを1つの環境で使う形の整理をマルチAIとは?複数の生成AIを1つの環境で使う方法にまとめています。

申請・承認プロセスを軽く速くしないと、現場は勝手に使う

受け皿を用意しても、新しいツールを使いたいという要望は必ず出ます。そのときの申請が重ければ、また野良化します。申請から回答までの期限を決めてください。目安は5営業日以内です。これを超えると、待てない案件が野良化します。

軽くするための具体策は4つです。1つ目、申請書を1枚にする。項目は、サービス名、用途、入力するデータの種類、費用、申請者の5つで足ります。2つ目、判断の基準を先に公開する。公開情報しか入れない用途は、原則承認と書いておけば、申請そのものが減ります。3つ目、少額かつ公開情報のみの用途は、部門長の判断で試用を認める。4つ目、期限を過ぎたら自動的に条件付き承認とする、という形も検討に値します。承認が遅いことによる損失は、静かに進むぶん見えにくいだけで、損失として積み上がります。

従業員教育とAIリテラシーは、検知の次に効く

教育は、検知と受け皿の後に置いてください。順番を逆にして、環境がないまま研修だけ実施すると、使いたい気持ちだけが高まり、野良AIが増えます。

実施するときの中身は、3つに絞ると定着します。1つ目、入力してはいけない情報のレッドライン(前掲の1枚)。2つ目、出力をそのまま使わないこと。特に、数値・法令・固有名詞は必ず一次資料で確認するという原則です。3つ目、困ったときの窓口の場所です。時間は30分で足ります。年1回の全社研修より、部署ごとに15分を2回のほうが、実際の使われ方に即した質問が出ます。

あわせて、新入社員と中途入社の受け入れ手続に、AIの利用ルールの説明を1項目として入れてください。入社時に説明していないルールは、守られなくても仕方がないものとして扱われます。

検知ツールは買うべきか

結論から書くと、社員10〜200名の会社は、いま検知の専用ツールを買う必要はほとんどありません。先に、この記事の前半で挙げた無料の範囲を埋めてください。理由は3つあります。

1つ目。無料で見られる範囲が、思っているより広いことです。会社アカウントでの外部アプリ連携、経費、ブラウザ拡張、SaaSの内蔵AI、社内の自動化。この5つで、会社の仕組みを経由した利用はほぼ網羅できます。ツールを入れても、この5つを見ていなければ結果は変わりません。

2つ目。検知ツールは、監視対象の定義を自社で作らないと機能しないことです。何を検知したら通報するか、誰がその通報を見るか、見た後に何をするか。この3つが決まっていない状態で導入すると、通知だけが溜まり、やがて誰も見なくなります。台帳とレッドラインが先です。

3つ目。費用が人数で効くことです。利用者数に応じた課金を採る製品では、人数が増えるほど年間の総額が無視できない規模になります。無料でできることを残したまま払う費用ではありません。

※各製品の料金体系と金額は提供元によって異なり、公開されていない場合もあります。この記事では具体的な金額を示しません。検討する際は、各社の公式ページまたは見積もりで、人数・年数を掛けた総額として確認してください。

では、いつ買うか。次の条件に複数あてはまるようになったら、検討する段階です。

条件なぜ購入の理由になるか
業務端末が100台を超え、手作業の棚卸しが1日で終わらない人手で回す前提が崩れる。継続できない運用は、いずれ止まる
取引先から、AI利用状況の定期報告を契約で求められている手作業の結果では、報告の頻度と粒度に耐えられない
業種の規制やガイドラインで、証跡の保存が義務づけられているログの保持期間が足りず、仕組みで担保する必要がある
在宅勤務が中心で、会社のネットワークをほとんど経由しないネットワーク側で見る手段が使えず、端末側の仕組みが要る
ブラウザや端末を会社の管理下に置ける(置く方針がある)管理下にない端末には、多くの製品が効かない。前提条件にあたる
情報システムの専任がいて、通知を見て判断できる運用する人がいない製品は、導入した時点で止まる

買う前に満たしておく3つ:AI利用台帳がある。入力してはいけない情報のレッドラインが1枚ある。公認環境が全社員に配られている。この3つが揃ってから製品を検討すると、何を検知させるかを自分の言葉で書けるようになり、比較の軸がぶれません。揃う前に検討を始めると、機能の多さで選ぶことになります。

四半期ごとの点検を記録として残す

1回の棚卸しで終わらせないでください。AIサービスは短い周期で増えるため、3か月に1回の定例化をおすすめします。定例化のコツは、前回の記録があることです。記録がないと、毎回ゼロから調べ直すことになり、2回目で止まります。

AI利用台帳の列。次の12列を表計算に用意してください。これ以上増やすと更新されなくなります。

列記入する内容この列がないと困ること
1. サービス名正式名称。同名の別サービスと区別できる表記にする同じものを二重に登録してしまう
2. 提供元提供している会社名。分かれば所在国もデータの保存先を後から確認できない
3. 利用部署部署名。複数なら全部影響範囲の確認先が分からない
4. 利用者数おおよその人数止めたときの影響の大きさが見積もれない
5. アカウントの種類会社契約/個人契約/無料プラン退職時に止められるかが判断できない
6. 入力するデータの種類仕分け表の5区分から選ぶ優先度の判断が毎回やり直しになる
7. 契約形態と支払い方法月額/年額、法人カード/立替/無料経費側と突き合わせられない
8. 学習利用のオプトアウト可否と設定日可否と、設定を確認した日付設定が変わっても気づけない
9. 管理者社内で管理責任を持つ人の氏名担当者不在のまま放置される
10. 承認日と承認者公認へ格上げした日と、決めた人いつ誰が認めたかを説明できない
11. 次回点検日3か月後の日付定例化が続かない
12. 備考移行予定、停止予定、例外の理由など判断の経緯が失われる

四半期の点検でやることは4つです。1つ目、台帳の各行について、まだ使われているかを利用部署に確認します。2つ目、前回以降に増えた分を、外部アプリ連携の一覧と経費の明細から拾います。差分だけを見るので、2回目以降は30分程度で終わります。3つ目、8列目の学習利用の設定を再確認します。サービスの仕様は変わるため、ここは毎回見る価値があります。4つ目、申告窓口の存在を全社に再周知します。

記録として残す形。取引先のチェックシートや監査に出せる形にするには、点検の結果だけでなく、点検した事実を残す必要があります。次の5項目を1枚にまとめ、実施のたびに追加してください。

記録する項目記入例
実施日2026年◯月◯日
実施者管理部 ◯◯
確認した場所外部アプリ連携の一覧、OAuthのログ(期間◯月◯日〜◯月◯日)、経費明細(◯月〜◯月)、ブラウザ拡張の申告、SaaSのAI設定
確認件数と結果連携アプリ◯件のうちAI関連◯件、経費◯件、拡張◯件、新規登録◯件
判断と次回公認◯件、移行◯件、停止◯件。次回点検日 2026年◯月◯日

※参考として、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」を2026年7月31日に公開しており、案内ページには、従業員が未承認のAIを業務で使ってしまうシャドーAI等による情報漏洩リスクに触れ、第2章でシャドーAIへの対応方針を扱うと記載されています。社内文書を作る際の参照先として、原文を確認してください。

よくある質問

シャドーITとの違いは何ですか?
痕跡の残り方が違います。従来のシャドーITは、ソフトウェアの購入やインストール、機器の設置を伴うことが多く、購買記録や資産台帳、端末の構成変化という形で跡が残りました。生成AIは、ブラウザでメールアドレスを入力すれば使い始められ、無料プランなら支払いも発生しないため、購買の記録にも端末にも跡が残りません。加えて、入力したデータが提供元のモデルの学習に使われる可能性がある点も、従来のシャドーITにはなかった論点です。買った記録を探すという方法だけでは取りこぼすため、会社アカウントでの外部アプリ連携、ブラウザの拡張機能、社内で作られた自動化まで含めて探す必要があります。
会社のAIを全面的に禁止すれば、野良AIはなくなりますか?
なくなりにくく、むしろ見えなくなります。禁止しても、作業時間の差という動機のほうが強いため、利用そのものは続きます。変わるのは申告だけで、使っている社員は報告しなくなります。結果として、利用実態はそのままに、会社からの可視性だけが下がった状態になります。さらに、会社の端末で使えなくなれば私物のスマートフォンに移り、技術的な検知がほとんど届かない場所へ利用が移動します。禁止する対象を、利用そのものではなく入力してよい情報の種類に絞るほうが、現場が守れる形になります。
社員10名ほどの会社でも、野良AIの検知は必要ですか?
必要です。人数が少ないほど、1人が扱う情報の範囲が広く、顧客データや経理データに触れる機会も多くなるためです。一方で、人数が少ないことは検知の面では有利に働きます。外部アプリ連携の一覧も、経費の明細も、確認する件数が少なくて済むためです。この記事の今日30分でできることの3手順は、専任の担当がいない会社を前提に書いています。管理者権限と経費データの閲覧権限があれば、総務や管理部門の1人で完了できます。専用ツールの購入は、この無料の範囲を埋めてからで間に合います。
社員のAI利用を調べることは、プライバシーの侵害になりませんか?
調べる対象と目的を明確にしてから実施してください。この記事で扱っている手順は、会社が契約しているサービスの管理画面、会社の経費データ、会社が支給した端末の設定といった、会社の資産に関する記録を確認するものです。個人の端末の中身を無断で調べたり、会話の内容そのものを収集したりするものではありません。実施の際は、目的(会社として安全なAI環境を用意するため)、見る範囲、結果の使い道(処罰や人事評価には使わない)を先に社内へ周知してください。周知したうえで実施するほうが、結果として得られる情報も正確になります。就業規則や社内規程で、会社の設備・アカウントの利用状況を確認する旨がどう定められているかも、あわせて確認することをおすすめします。
無料プランで使われている場合、経費からは見つからないのではありませんか?
経費からは見つかりません。無料プランでの利用を拾うには、別の場所を見る必要があります。1つ目は、会社アカウントでのログインです。Googleアカウントでログイン、またはMicrosoftアカウントでログインという入口を使い、カレンダーやドライブなどへのアクセスを許可していれば、無料プランでも管理画面の外部アプリ連携の一覧やOAuthのログ(Microsoftはアプリケーションへの同意の監査ログ)に記録が残ります。データへのアクセス許可を伴わない、ログインだけの利用は記録されないことがあります。2つ目は、ブラウザの拡張機能の一覧です。3つ目は、匿名アンケートです。個人のフリーメールで登録し、コピーと貼り付けだけで使っている場合は、1つ目にも残らないため、最終的にはアンケートと申告窓口で拾うことになります。
私物のスマートフォンで使われている分は、どうやって把握しますか?
技術的な検知では把握できません。私物端末は会社の端末管理の外にあり、会社のネットワークも経由せず、会社の支払いにも乗らないためです。把握する方法は、本人の申告だけです。申告を集めるには、申告しても損をしない状態を先に作る必要があります。具体的には、処罰しないことを文面で示すこと、返事の期限(2営業日以内など)を決めること、申告した人にその場で公認環境のアカウントを渡せる状態にしておくことの3つです。使うなという回答しかできない窓口は、2回目から使われなくなります。
検知は何か月に1回行えばよいですか?
3か月に1回を目安に定例化することをおすすめします。AIサービスは短い周期で増え、既存のSaaSにも新しいAI機能が追加されるため、1回の棚卸しの結果はすぐ古くなります。続けるコツは、前回の記録を残しておくことです。AI利用台帳があれば、2回目以降は前回からの差分だけを見ればよくなり、30分程度で終わります。あわせて、実施日・実施者・確認した場所・確認件数・判断結果の5項目を1枚に残しておくと、取引先からAI利用状況の確認を求められたときに、そのまま回答の材料として使えます。

この記事で参照した一次情報

手順と数字の出どころです。管理画面の名称や保持期間は版により変わるため、実際に操作する前に、それぞれの公式ページで最新の記載を確認してください(いずれも2026年9月18日時点の記載にもとづいています)。

まとめ

野良AIの見つけ方は、専用ツールを買うかどうかの問題ではありません。会社の管理画面・経費の明細・ブラウザの拡張機能・社内で作られた自動化という4か所を、順番に、決めた粒度で見るかどうかの問題です。この4か所は、いずれも追加費用なしで確認でき、情報システムの専任がいない会社でも、総務や管理部門の1人で着手できます。

今日やることは3つです。会社アカウントで連携した外部アプリの一覧を開き、サービス名で絞り込むこと。直近3か月の経費と法人カードを、摘要と勘定科目の両方から洗うこと。ブラウザの拡張機能を一覧で書き出すこと。情報システムの担当者がいる会社は、これに加えて、ログを書き出して保存する運用を作り、自社のエディションでどこまで見えるのかを確認してください。Microsoft Entra ID の監査ログは無料のエディションで7日間しか保持されないとされており、放置すると先週より前の記録が存在しません。

そして、どれだけ丁寧に見ても、私物端末と個人アカウントでの利用は出てきません。ここを埋めるのは、匿名アンケートと、申告しても損をしない窓口だけです。処罰しないことを文面で示し、返事の期限を決め、申告した人にその場で代わりの環境を渡せる状態にしてから窓口を開いてください。順序を逆にすると、社内から情報が上がってこなくなります。

見つけた後は、入力していたデータの種類と業務価値の2軸で、公認へ格上げ・会社の環境へ移す・やめるの3つに機械的に振り分け、その結果をAI利用台帳の12列に残します。3か月後に同じ議論をやり直さないための記録であり、取引先から利用状況の確認を求められたときの回答材料にもなります。

法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧にまとめています。野良AIの定義・リスク・対策の全体像はシャドーAI(野良AI)とは?意味・リスク・対策、実際に起きた事案の類型は生成AI・野良AIによる情報漏洩事例データベースをご覧ください。

見つけた後に配る、公認のAI環境を1つの契約で

棚卸しで名前が出そろったら、次に必要になるのは、社員に配れる公認の環境です。UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けプラットフォームで、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのオンオフを確認でき、棚卸しで見つかった用途は、社内文書RAGやカスタムプラス(よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有する機能)に載せ替えることもできます。UPGEAR AIの料金は月額30,000円(税抜)からで、ユーザーごとの課金はありません(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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