AIエージェントの活用事例。企業・自治体の実例と任せ方の目安

AIエージェントの活用事例とは、目標を渡すと自分で手順を組んで作業を進めるAIを、企業や自治体が実際の業務に組み込んだ例のことです。国内で当事者が発表している事例は、問い合わせ対応・社内書類の照合・障害の原因分析など手順の決まった業務が中心で、多くの事例では、最後の判断や難しい相談を人が引き受ける形をとっています。効果の数字は各社の自社発表で、実証や見込みの段階のものも少なくありません。事例ごとにAIに任せた範囲と人が確認する場面を並べ、社員10〜200名の会社が最初に任せる業務の選び方までを整理しました。

AIエージェントとは|公的な定義と生成AI・RPAとの違い

AIエージェントは、目標に向けて自分で手順を組み、システムや道具を使って作業を進めるAIを指す言葉です。国の文書にも定義があり、どこまでをエージェントと呼ぶのかを確かめる手がかりになります。

AI事業者ガイドライン第1.2版の定義

総務省・経済産業省が2026年3月31日に公表した「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、本編でAIエージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動する AI システム」と定めています。脚注によると、ここでいう自律は高度な状態だけに限らず、ある程度の自律性を持つものも含まれます。複数のAIエージェントが自律的に意思決定して行動するものは、エージェンティックAIという別の言葉で説明されています。問い合わせに答えながら次の手順を自分で選ぶ仕組みも、図面を自動で照合して結果を示す仕組みも、定義の上ではAIエージェントに入ることになります。仕組みや身近な例はAIエージェントとはで詳しく扱っていますので、ここでは事例を読むのに必要な違いだけを押さえましょう。

生成AI・チャットボット・RPAとの違い

違いは、次の手順を誰が決めるのかで見ると分かりやすくなります。ChatGPTのような生成AIの普段の使い方は、人が質問するたびにAIが1回ずつ答える形です。従来型のチャットボットは、あらかじめ用意した質問と回答の組み合わせの中から返すのが基本となります。RPAは人が決めた手順を決めたとおりに繰り返すソフトウェアで、手順が変われば設定の作り直しが必要です。AIエージェントは目標を受け取ると、調べる・比べる・書く・登録するといった手順を自分で組み立て、途中の結果を見て次の動きを変えていきます。手順が毎回同じ繰り返しはRPA、途中で判断が挟まる作業はエージェント、と分けて考えると整理しやすいでしょう。

AIエージェントの種類とマルチエージェント

公開事例を並べてみると、AIエージェントはおおむね次の3つの型に分けられます。

  • 対話型:お客さまや住民の問い合わせに答え、解決できない内容を人へ引き継ぐ型(三井住友銀行、KDDI、港区など)
  • 照合・分析型:書類やデータを読み比べ、結果や案を人に示す型(パナソニック コネクト、NECとツルハホールディングス、大阪市など)
  • 実行型:社内システムへの登録や更新まで自分で行う型(DeNAのAI社員が段階的に広げている書き込みの操作など)

この分け方は業界で決まった分類ではないため、事例を読むための目安として使ってください。役割の違う複数のエージェントが結果を受け渡しながら進める形はマルチエージェントと呼ばれ、ソフトバンクが通信網の運用で検証を始めた基盤がこれにあたります。

事例を読む前に押さえる2つの見方

事例を比べるときは、AIにどこまで任せたかと、数字が何を表しているかの2点を先に見るのがおすすめです。この2点をそろえずに並べると、規模も段階も違う事例を同じ重さで比べることになってしまいます。

任せた範囲は「調べる・下書き・判定を支える・実行する」の4段階

同じAIエージェントの事例でも、AIが担う範囲には大きな幅があります。ここでは、情報を集めて答える「調べる」、文面や案を作る「下書き」、人の判断材料をそろえる「判定を支える」、システムへの登録や送信まで行う「実行する」の4段階に分けて見ていきます。国内の公開事例の多くは前の3段階までをAIに任せ、最後の判断や、AIが解決できない相談は人が引き受けています。実行まで任せる例は、検証を始めた段階のものや、将来の計画として書かれているものが中心です。

数字は「同社発表の実績・実証・見込み」を分けて読む

今回確認した事例の数字は、どれも導入した会社や自治体、または提供元の発表によるもので、第三者が検証したものは1件もありません。さらに、運用して出た実績なのか、期間を区切った実証の結果なのか、これから出ると見込んだ試算なのかで、数字の重みは変わってきます。各事例には数字の種類を書き添えましたので、社内の資料に引用するときは種類ごと書き写してください。数字が発表されていない事例も多く、効果の大きさよりも、AIに何を任せて人がどこを見ているかを読むほうが役に立つでしょう。

企業のAIエージェント活用事例(実名・当事者の発表)

ここからは、当事者の会社や提供元が発表している国内の事例を、AIに任せた範囲と人が確認する場面に分けて紹介します。生成AIアシスタントの全社利用のように、エージェントとは呼びにくい事例は生成AIの活用事例に分けてまとめています。

三井住友銀行|Oliveの問い合わせに答えるAIオペレーター

三井住友銀行は日本総合研究所・日本IBMと共同で、2026年2月18日に「SMBC AIオペレーター」を発表し、同月25日から提供を始めました。個人向けサービス「Olive」のうち本人確認が要らない一般的な照会に24時間365日応じ、AIが参照データを検索して回答を作る仕組みです。

  • AIに任せた範囲:調べる・回答する(参照データの検索と回答の生成)
  • 人が確認・引き継ぐ場面:AIだけでは解決が難しい相談や、通話の途中で本人確認が必要になった場合は、有人のオペレーターへ引き継ぐハイブリッド体制(コールセンターの営業時間内)
  • 数字の種類:効果の数値は発表されていません(日本IBMのニュースルームに掲載された共同発表)

KDDI|お客さまセンターの応対と、障害時の原因分析

KDDIは2026年3月10日、au PAY・au PAYカード・Pontaポイントに関する問い合わせに対応する、お客さまセンターの自律型AIエージェントを発表しました。発表文では、お客さまが迷いやすい点や課題を抽出し、応対の手順を自律的に判断すると説明されています。同年2月19日には、通信障害のときに相関・アラーム・メンテナンス状況をまとめて分析し、原因の特定まで行う復旧支援AIエージェントも発表済みです。

  • AIに任せた範囲:お客さまセンターは応対手順の判断と回答、復旧支援は原因の特定まで(判定を支える)
  • 人が確認する場面:お客さまセンターについて、人の承認の手順は発表文に書かれていません。復旧の措置まで自律で行う形は将来の計画とされています
  • 数字の種類:どちらも効果の数値は発表されていません(お客さまセンターの発表・復旧支援の発表)

パナソニック コネクト|図面と仕様書の照合を10分に

パナソニック コネクトは2026年2月19日、製品図面・部品図面・技術仕様書の照合を行う「Manufacturing AIエージェント」を発表しました。Snowflakeの「Cortex AI」を活用して自社で開発したもので、AIが照合して担当者の確認作業を支え、確認は担当者が行います。発表では、目視で50分〜340分かかっていた照合が10分に短縮され、80%〜97%の削減になったと説明しています。

  • AIに任せた範囲:照合する(判定を支える)
  • 人が確認する場面:確認は担当者
  • 数字の種類:同社発表(2026年2月)。実証の結果か運用の実績かは発表文に明記がありません(同社の発表)

富士通|会議に参加して分析結果を示す会議AIエージェント

富士通は2024年10月23日、損益や商談についての社内の打合せにAIが参加し、データの分析結果を自ら示す会議AIエージェントを「Fujitsu Kozuchi AI Agent」として発表しました。AIは分析結果や課題解決策を、適切なタイミングで参加者に示して提案する役割と説明されています。製品の提供開始の発表であるため、導入企業の成果を示すものではありません。

  • AIに任せた範囲:調べる・分析結果を示す(判定を支える)
  • 人が確認する場面:AIは提案までで、決めるのは会議の参加者(人の承認手順は発表文に明記なし)
  • 数字の種類:効果の数値はなし。特化型エージェントの拡充は発表時点の計画(同社の発表)

日立製作所|保守の問い合わせを振り分けるAIエージェントを製品化

日立製作所は2025年3月26日にAIエージェントの開発・運用・環境提供サービスを発表し、同年6月30日から提供を始めています。その中の保守問い合わせAIエージェントは、問い合わせの内容を分析して適切な担当者へ自動で配信する機能を備えた製品です。グループの日立パワーソリューションズが保守受付の初動判断にAIを使い始めた取り組み(業務効率を約30%向上できる見込み)で得たノウハウを、開発に取り込んだと説明されています。

  • AIに任せた範囲:内容の分析と担当者への振り分け(実行する)
  • 人が確認する場面:問い合わせへの対応は、振り分けを受けた担当者が引き継ぐ
  • 数字の種類:約30%は日立パワーソリューションズのAI活用の見込みで、このエージェント自体の効果ではない(2025年3月発表・同社の発表)

福岡銀行|過去案件の契約書の検索と管理表の作成

LayerXは2026年5月7日、福岡銀行がストラクチャードファイナンスの契約書類管理に「Ai Workforce」を使う取り組みを発表しました。過去案件の契約書の検索、モニタリングに使う情報の自動抽出、管理表の作成の自動化が対象です。効果は年間約7,000時間の削減を見込んでいると書かれています。

  • AIに任せた範囲:調べる(契約書の検索)・下書き(情報の抽出と管理表の作成)
  • 人が確認する場面:発表された対象業務に、融資の判断そのものは含まれていません
  • 数字の種類:年間約7,000時間は見込み(提供元LayerXの発表・2026年5月)

NECとツルハホールディングス|店舗間の在庫配置案を作る検証

NECは2026年9月3日、ツルハホールディングスと「NEC SCM AIエージェント」を使った在庫最適化の検証を発表しました。販売実績と在庫のデータを分析し、店舗間の在庫を最適に再配置する配置案を作るところまでが対象で、検証は同月に始まったばかりです。

  • AIに任せた範囲:データの分析と配置案の作成(下書き・判定を支える)
  • 人が確認する場面:発表の対象は案の作成までで、実際の配置を決める工程は含まれていません
  • 数字の種類:検証を始めた段階で、数値は発表されていません(PR TIMESで配信されたNECの発表)

ソフトバンク|通信網の異常を分析するマルチAIエージェント

ソフトバンクは2026年3月12日、「Large Telecom Model」を使ったマルチAIエージェントの基盤で、基地局インテグレーション業務を対象に、自律運用の検証を始めたと発表しました。検知した異常の分析から原因の特定、解決策や対応方針の提示、必要に応じた関係者への報告と対応までを、自律的に行う構想です。

  • AIに任せた範囲:分析・原因の特定・対応方針の提示から、報告と対応まで(実行するを含む)
  • 人が確認する場面:検証を始めた段階で、本番の運用で人がどこを承認するかは発表文からは読み取れません
  • 数字の種類:数値の発表はなし(同社の発表)

楽天トラベル|対話で宿を探すAIホテル探索

楽天グループは2025年9月22日、「楽天トラベルAIホテル探索」を発表しました。利用者との対話で要望をくみ取り、クチコミ・宿泊プラン・予約傾向などの分析データ・Web検索の結果をもとに最大30軒を提案する仕組みになります。発表では予約の手続きには触れておらず、宿を選んで予約するのは利用者自身です。

  • AIに任せた範囲:調べる・提案する
  • 人が確認する場面:予約するかどうかは利用者が決める
  • 数字の種類:効果の数値は発表されていません(同社の発表)

DeNA|Slackに常駐して日報も書くAI社員

DeNAは2026年8月4日の技術ブログで、Slackの専用チャンネルに常駐し、部署に配属されて質問への回答や予定された作業をこなすAIエージェントを、社内で「AI社員」と呼んで運用していると紹介しました。会計システムの開発・保守チームや、調達・コーポレート業務の部署から始め、社内の資料を参照する機能から書き込みの機能へと段階的に広げています。ある週(2026年7月1日〜10日の8営業日)の削減時間は合計約52.6時間で、1日あたり6〜8時間分にあたるとされます。AI社員という呼び方の意味や、ほかの会社での使われ方はAI社員とはで扱っています。

  • AIに任せた範囲:調べる(社内文書の参照)から始め、チケットの作成やページの更新といった実行を段階的に追加
  • 人が確認する場面:影響の大きい変更は検証環境で試し、1体に限って展開して観察してから全体に広げる
  • 数字の種類:AI社員自身の集計による同社の自社発表(2026年8月の技術ブログ)

※事例は2026年9月26日時点で各社・各自治体の発表ページを確認した内容です(DeNAは2026年9月25日に同社の技術ブログで確認)。効果の数字はいずれも各社・提供元の発表によるもので、第三者による検証は経ていません。

自治体のAIエージェント事例(港区・大阪市)

自治体では、住民からの電話と職員の審査業務という2つの場面で、自治体自身が発表した実証や検証があります。住民向けの事例では、AIが対応できない内容を職員へ回す道を最初から組み込んでいるのが共通点です。

東京都港区|電話の問い合わせに答えるAIオペレーターの実証

港区は、証明書の交付・マイナンバーカードの交付・児童手当に関する電話の問い合わせに、AIオペレーターが自動で応答する実証を行いました。期間は2026年1月13日から5月31日までで、技術は株式会社グラファーが提供しています。区のページでは、AIオペレーターで対応できない内容は担当係へ転送し、転送は区役所の開庁時間内(平日午前8時30分〜午後5時)に限るとの案内があります。

  • AIに任せた範囲:電話での質問に答える(調べる・回答する)
  • 人が引き継ぐ場面:AIで対応できない内容は担当係へ転送(開庁時間内)
  • 数字の種類:実証は終了しており、定量的な結果は区のページに公表されていません(2026年6月1日更新の港区のページで確認)

大阪市|通勤届の審査を日立と共同で検証

大阪市は2026年3月26日、日立製作所とAIエージェントを使った自治体業務の効率化を共同で検証したと報道発表しました。対象は年に約1万件ある職員の通勤届で、申請者を案内するナビ、内容のチェック支援、認定の可否の判定支援、払戻額の計算支援という4つの機能により、承認までの業務を支える形です。検証期間は令和7年9月から令和8年3月までで、業務時間を最大約40%短縮できる可能性があるとの試算が示されました。

  • AIに任せた範囲:申請者への案内・内容のチェック・判定の支援・計算の支援(判定を支える)
  • 人が確認する場面:機能はいずれも審査者を支える形で、認定そのものをAIに任せるとは書かれていません
  • 数字の種類:最大約40%の短縮は試算(大阪市の報道発表・2026年3月)

茨城県|財務会計の審査業務(NTT DXパートナーの発表)

茨城県の財務会計処理の審査業務をモデルケースに、生成AIとRPAを連携させる実証実験(2025年9月24日開始)は、NTT DXパートナーが2025年9月19日に発表しています。茨城県自身の発表は確認できていないため、提供元の発表である点に気をつけて読んでください。数値は発表されていません。住民への回答をAIに任せる場合でも、職員へつなぐ時間帯や範囲を先に決めてある点に、自治体の事例から学べることがあります。

エージェントの事例として見かける数字の読み違い

パナソニック コネクトの年間44.8万時間という数字は、AIエージェントの事例として紹介されることがありますが、発表元ではエージェントの成果としては書かれていません。同社が2025年7月7日に発表したこの数字は、自社向けの生成AIアシスタントを国内の全社員、約11,600人が使った成果になります。同じ発表で、AIエージェントは経理(決裁作成の支援)・法務(下請法のチェック)・マーケティング(メールの添削)の3領域で試験導入を始めた段階と説明されています。2026年7月29日の発表にある2025年度の78.8万時間、年間総労働時間の3.4%にあたる削減も、生成AIの活用全体の実績です。同社はこの先、2030年に10%の削減を目標としてAIエージェントの活用を広げるとしています。

参考までに44.8万時間を約11,600人で割ると、1人あたり年約39時間、月に直すと3時間強という単純計算になります。大企業の大きな合計値も、1人あたりに直せば自社に置き換えて考えやすくなるため、社内の資料では割り算した値も添えてみてください。

ほかにも、需要予測のシステムの成果や、製品の提供開始の発表が、導入企業のエージェントの成果のように並べられている例が見られます。事例を引用するときは、発表したのが導入した会社か、製品を売る会社か、報道かを確かめましょう。

投資対効果(ROI)は件数・時間・修正率で測る

自社で試すときの効果は、他社の数字よりも、自社の業務で比べられる指標で測るほうが確かです。目安になるのは、月に何件をAIが処理したか、1件あたりの時間が何分から何分になったか、AIの出力を人が直した割合がどれだけか、の3つとなります。削減した時間に時給を掛けた金額と、ツールの費用や人が確認にかける時間を並べると、続けるかどうかを判断しやすくなるでしょう。DeNAのように、利用回数や削減時間をAI自身に日報や週報で集計させている例もあります。

業務分野別に見る、公開事例と任せ方の目安

業務分野ごとに見ると、当事者の発表で確かめられる事例がある分野と、ベンダーの発表が中心の分野に分かれます。事例が見つからない分野も、一般的な使い方と任せ方の目安として整理しました。

カスタマーサポート・問い合わせ対応

公開事例が集まっているのはこの分野で、三井住友銀行・KDDI・港区の3件が当事者の発表です。よくある質問への回答はAIに任せ、本人確認や判断が要る相談、AIが答えられない内容は人に引き継ぐ形が基本になります。始めるときは、引き継ぎの条件と、人が応対できない時間帯の扱いを先に決めておきましょう。

社内問い合わせ・社内ナレッジ検索

社内向けでは、DeNAのAI社員が質問に答える形が当事者の発表で確かめられ、問い合わせを担当者へ振り分ける仕組みは日立製作所が製品として発表しています。日立の例はお客さま向けの製品ですが、問い合わせを担当者へ振り分ける考え方は、社内の問い合わせにも使えます。社員10〜200名の会社でも、就業規則や経費のルール、社内システムの使い方といった質問を文書から答えさせる使い方は、取り組みやすい分野です。回答の根拠にする文書が古いと誤った答えが広がるため、置く文書と更新の担当を決めることが前提となります。

経理・総務などバックオフィス(経費精算・請求書)

経理では、パナソニック コネクトが決裁書類の作成支援でエージェントの試験導入を始めた段階で、経費精算や請求書の処理について当事者が効果まで発表した国内の事例は、今回の確認では見つかっていません。一般的には、請求書や領収書の読み取りと仕訳の候補づくり、規程との突き合わせなどを下書きとして任せ、登録と支払いの承認は人が行う形が考えられます。お金が動く操作はAIに実行させず、候補を出すところまでにとどめるのが安全です。

法務・契約書チェック

契約書については、福岡銀行が過去案件の契約書の検索と情報の抽出に使っている例が、提供元のLayerXの発表で確認できます。パナソニック コネクトも、法務で下請法のチェックに試験導入を始めています。契約条項の判断には専門家の確認が欠かせないため、AIには条項の抜き出しや過去の契約との違いの洗い出しを任せ、最終判断は担当者が引き受ける形にしてください。

議事録・会議の前後工程

会議の分野では、富士通が打合せに参加して分析結果を示す会議AIエージェントを製品として発表しています。導入企業での効果の数字は、発表では示されていません。一般的には、録音からの議事録の下書き、決定事項と宿題の抜き出し、参加者への共有文の作成までを任せ、送る前に人が読む流れが取り入れやすいでしょう。

需要予測・在庫・サプライチェーン

在庫の分野では、NECとツルハホールディングスが2026年9月に店舗間の在庫配置案を作る検証を始めたところです。需要予測そのものは以前から統計や機械学習で行われてきた仕組みで、エージェントの事例として紹介されるものの中に、予測システムの成果が混ざっている場合があります。エージェントとして読むなら、データを分析して発注や配置の案を作り、人が承認してから反映する流れになっているかを確かめてみてください。

営業(リードの選別・提案資料・営業メール)

営業の公開事例は、今回の確認では大企業向けのベンダーが自社の顧客事例として発表したものが中心で、導入企業自身の発表は見つかりませんでした。一般的な使い方としては、問い合わせてきた見込み客の情報を整理して優先度の案を出す、提案資料や営業メールの下書きを作る、といった範囲が考えられます。社外に送るメールは、AIの下書きを担当者が読んでから送る形を守りましょう。

採用(スカウト文面・書類整理・日程調整)

採用も、公開事例の多くはベンダーの発表で、国内企業が自ら効果を発表した例は今回確認できていません。使うとすれば、応募書類の整理、スカウト文面の下書き、面接の日程候補の作成までが目安となります。経団連が2026年4月14日に公表した報告書も、採用や評価など影響の大きい判断では、AIの結果だけで不利益な処遇を決めないよう求めています。

ソフトウェア開発・コーディング

開発の分野は、海外企業やツールの提供元が発表した事例が中心で、国内の中小企業が自ら発表した例は今回の確認では見つかりませんでした。DeNAのAI社員は開発・保守のチームでも使われており、チケットの作成やページの更新といった周辺の作業から段階的に広げている点が参考になります。コードの変更はAIに書かせても、本番に反映する前に人が読んで確かめる手順を残すのが一般的です。

導入事例は組織として始めている

ここまでの導入事例は、どれも会社や自治体が組織として導入し、動かしています。一方で、社員が個人で契約したAIのエージェント機能に会社のメールやファイルをつないでしまう使い方は、会社から見えないまま広がりやすいものです。

情報漏えいとセキュリティで先に決めること

AI事業者ガイドライン第1.2版の別添は、AIエージェントが外部のシステムと自律的に連携する中で、脆弱性を突かれて挙動を不正に操作され、内部のデータが意図せず外部に送られるおそれがあると指摘しています。同じ箇所には、企業のルールが整っていないと従業員が会社の管理の外で業務外向けの生成AIを使うおそれがあることと、機密情報を扱うときはビジネス利用を想定したサービスを使うよう推奨する記述もあります。商工組合中央金庫が2026年3月31日に公表した調査(取引先の中小企業3,892社が回答)でも、会社として導入せず、使うかどうかを個人の判断に任せている企業が64.9%を占めました。エージェント機能は個人向けの有料プランにも広がっており、このままでは会社の資料やメールにつながったAIが、個人のアカウントで動く状態になりかねません。

対策の順番としては、まず社員が毎日使う生成AIを会社で契約した環境にそろえることが先になります。入力してよい情報の線引きと、利用ログを会社が確かめられる状態を作ったうえで、エージェントに社内のデータをつなぐ段階へ進むのが無理のない順序です。接続の権限や管理者が決める項目は、AIエージェントのセキュリティ対策で確認してみてください。個人の判断で使われているAIの見つけ方と対策は、野良AI(シャドーAI)の記事にまとめてあります。

エージェントを試す前に、全社員が使えるAI環境を会社の管理下に

個人のアカウントに会社のデータがつながる前に、社員が毎日使う生成AIを会社の契約でそろえましょう。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

社員10〜200名の会社が最初に任せる業務の選び方

最初に任せる業務は、効果の大きさよりも、間違えても取り返しがつくかどうかで選ぶのが近道です。帝国データバンクが2026年5月14日に公表した調査(有効回答10,312社)では、生成AIを活用している企業は中小企業で32.4%、小規模企業で28.0%にとどまり、エージェントの前に生成AIの利用そのものが途上の会社も少なくありません。

判断の5つの目安

候補の業務を1つずつ、次の5つの目安に当てはめてみてください。

  • 入力の形がそろっているか決まった様式の申請書やメールなど、入力の形が毎回同じ業務は、AIの読み違いが起きにくくなります。
  • 手順とルールが文章になっているかマニュアルや規程があれば、AIに渡す手順書としてそのまま使えます。口頭で引き継がれている業務は、先に文章にするところから始めます。
  • 間違えたときの影響が小さいか社内向けの下書きなら、誤りは読んだ人がその場で直せます。
  • 社外に出る前に人が見られるかお客さまや取引先に届く前に、担当者が読む工程を置けるかを確かめます。
  • 社外への送信やお金を動かす操作を含むか含む場合は、最初は下書きや候補の作成までにとどめます。

前の4つに当てはまり、最後の1つに当てはまらない業務が、最初の候補になります。候補が複数あるときは、月の件数が多いものから選ぶと効果を測りやすくなるでしょう。

向いている業務と、向いていない業務

向いているのは、社内規程への質問に答える、定型の申請書を点検する、会議の議事録と宿題の一覧を下書きする、請求書から仕訳の候補を作る、といった業務です。会計事務所であれば、顧問先への月次コメントの下書きや税制改正の要約も候補に入ります。向いていないのは、正解が人によって変わる判断、取り消しの利かない送金や契約、個人の評価や合否のように相手への影響が大きい決定となります。こうした業務は、AIには材料集めと下書きまでを任せ、決めるのは人のままにしておきましょう。

導入目的と対象業務を1つに絞る

始める前に、何を減らしたいのかを1文で書き出し、対象を1つの業務に絞り込みます。「問い合わせ対応を楽にしたい」ではなく、「経費規程についての社内の質問への回答時間を半分にしたい」のように、件数と時間で測れる形にするのがコツです。目的があいまいなままだと、試した後に続けるかやめるかを判断できなくなってしまいます。

1部署・1業務のスモールスタートで試す

試験は1つの部署の1つの業務で、期間を区切って行うのが無理のない進め方です。大阪市の検証が通勤届という1つの手続きに絞り、港区の実証が3つの分野の電話に絞っていたように、公的な事例も対象を狭くしています。期間中はAIの出力を人がどれだけ直したかを記録し、直す割合が下がってきたら範囲を広げる判断材料にしてください。

参照データ・ナレッジの整備

AIエージェントの答えの質は、参照させる文書やデータの質でほぼ決まります。三井住友銀行の事例もAIが参照データを検索して回答を作る仕組みで、元のデータが正しいことが前提になっています。社内規程やマニュアルが古いまま残っていれば、AIはその古い内容をもとに答えてしまいます。試す前に、参照させる文書を選び、古い版を外し、更新の担当者を決めるところから始めましょう。

権限は4段階で広げる|人の確認・承認を残す

AIエージェントに渡す権限は、いきなり実行まで許さず、読むだけの段階から順に広げていくのが安全です。段階ごとに次へ進む条件を決めておけば、社内で任せ方の議論がぶれにくくなります。

読むだけ→下書きまで→人が承認してから実行→上限つきで自動実行

権限の段階は、次の4つに分けて考えると決めやすいでしょう。

  1. 読むだけ:社内文書の検索と要約だけを許し、どこにも書き込ませない段階
  2. 下書きまで:メールや資料、登録内容の案を作らせ、送信や登録は人が行う段階
  3. 人が承認してから実行:AIが実行の準備までを行い、人が内容を確かめて承認した操作だけを実行させる段階
  4. 上限つきで自動実行:件数や金額、送り先の範囲に上限を設けたうえで、承認なしの実行を認める段階

次の段階へ進む条件は、前の段階で人が直した割合、見つかった誤りの件数、利用ログの確認結果の3つで決めておきましょう。社外への送信やお金の移動を伴う業務は、第3段階のまま運用し続けるのも十分に現実的な選択です。第4段階に進める業務は、誤っても取り消せるものに限るのが安全な線引きになります。

DeNAのAI社員も「参照」から始めて書き込みを段階的に追加

DeNAの技術ブログは、AI社員にまずGoogle DriveやConfluenceといった社内システムを参照する機能だけを持たせ、実力を見ながらJiraのチケット作成やConfluenceページの更新といった書き込みの機能を段階的に足していくと説明しています。書き込み系の操作やAIの動作設定の変更など影響の大きいものは、検証環境で試してから1体のAI社員だけに展開し、一定期間観察してから全体に広げる手順です。同ブログはこの進め方を、人の新入社員を受け入れるのとほぼ同じプロセスだと表現しました。

権限を必要最小限にする

セキュリティの国際的な団体OWASPは、プロンプトインジェクション(外部の文章に紛れ込ませた指示でAIを操る攻撃)への対策として、モデルの権限を目的に必要な最小限に絞ることと、影響の大きい操作には人の承認を挟むことを挙げています。同じ資料は確実に防ぐ方法があるかどうかは分からないとも書いており、権限を絞ることが被害を小さくする現実的な手段になります。製品の側でも、ChatGPTのワークスペースエージェントは、アプリやコネクタへの書き込みの操作が既定で毎回確認する設定になっていると、OpenAIのヘルプで案内されています。エージェントを使うときは、接続するアプリを業務に必要なものだけにし、書き込みの確認を外さずに始めてください。各社のエージェント機能の違いや料金はAIエージェント比較で並べています。

ハルシネーション(誤回答)への備え

AIはもっともらしい誤りを混ぜることがあり、エージェントではその誤りが次の手順に引き継がれてしまいます。AI事業者ガイドライン第1.2版の別添も、同じ基準で運用されているAIでも、確率的な性質から場面によって異なる判断を下すことがあると注意を促しています。備えとしては、回答に参照した文書の名前を添えさせることと、答えられないときは人に回すよう指示することの2つが取り入れやすい方法です。三井住友銀行や港区の事例でも、AIが解決できない内容を人に引き継ぐ道が用意されていました。

人の確認・承認を残す(Human-in-the-Loop)

AI事業者ガイドライン第1.2版の本編は、AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討するよう求めています。あわせて、人がAIの結果を過信して確認を怠る自動化バイアスへの対策も必要とされます。脚注では、人がAIの判断を承認する際に、承認する理由や根拠を自分で考えてから承認すべきとの提案が紹介されています。承認の画面で「はい」を押すだけの作業にならないよう、承認者が見るべき点を1〜3個に絞って書き出しておきましょう。

エージェントの前に、全社員が使えるAI環境を

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityの4つのAIを1契約で使える法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、自社資料を読み込ませて答えさせる社内文書RAGや、よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有できるカスタムプラスも備えています。自律して動くエージェントを入れる前の段階として、全社員が会社の管理下で生成AIを使える状態を作れます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。

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よくある質問

自治体のAIエージェント事例にはどんなものがありますか?
当事者の発表で確認できる例として、東京都港区が2026年1月13日から5月31日まで行った電話応対のAIオペレーターの実証と、大阪市が日立製作所と行った通勤届の審査の共同検証があります。港区はAIで対応できない内容を担当係へ転送する形、大阪市は内容のチェックや判定を審査者の支援として行う形でした。大阪市は業務時間を最大約40%短縮できる可能性があると試算しています。
AIエージェントを導入している企業にはどこがありますか?
当事者や提供元の発表で確認できる国内の例として、三井住友銀行(Oliveの問い合わせ対応。難しい相談はコールセンターの営業時間内に有人へ引き継ぎ)、KDDI(お客さまセンターと障害時の原因分析)、パナソニック コネクト(図面と仕様書の照合)、福岡銀行(契約書類の管理、LayerXの発表)、NECとツルハホールディングス(在庫配置案の検証)、ソフトバンク(基地局インテグレーション業務での自律運用の検証)、DeNA(社内のAI社員)などがあります。日立製作所や富士通のAIエージェントは、導入企業の事例ではなく製品としての発表です。効果の数字はいずれも各社の発表で、実証や見込みの段階のものも含まれます。
AIエージェントとは具体的に何ですか?
総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は、特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステムと定義しています。人が1回ずつ質問して答えを受け取る普段の生成AIの使い方と違い、目標を受け取ると、調べる・比べる・書く・登録するといった手順を自分で組み立てて進めます。仕組みや身近な例は『AIエージェントとは』の記事で紹介しています。
AIエージェントに向いている業務は何ですか?
入力の形がそろっていて、手順やルールが文章になっており、間違えても社外に出る前に人が直せる業務が向いています。社内規程への質問対応、定型の申請書の点検、議事録の下書き、請求書からの仕訳候補づくりなどが例です。送金や契約、合否や評価のように取り消しが利かない、または相手への影響が大きい判断は、AIには材料集めと下書きまでを任せ、決定は人が行う形にしてください。
小さな会社でもAIエージェントの効果は出ますか?
社員10〜200名規模の会社が自ら効果を発表したAIエージェントの事例は、今回の確認では見つかりませんでした。公開されている数字は大企業や自治体のもので、そのまま自社に当てはめることはできません。一方で、社内の質問対応や書類の下書きのように件数が多く手順が決まった業務を1つ選び、1部署で期間を区切って試せば、処理件数・時間・人が直した割合で効果を自社の数字として確かめられます。その前提として、社員が会社の管理下で生成AIを使える環境を先に整えておくことをおすすめします。
個人向けのAIのエージェント機能を会社の業務に使ってもよいですか?
会社が契約内容と設定を把握できない個人のアカウントに、会社のメールやファイルをつなぐ使い方はおすすめしません。利用ログや権限を会社側で確かめられず、AI事業者ガイドライン(第1.2版)の別添も、企業の管理の外で業務外向けの生成AIが使われるおそれと、機密情報にはビジネス利用を想定したサービスを使うことを挙げています。使う場合は、会社で契約した環境で、接続するアプリと権限を管理者が決めてからにしてください。

まとめ

国内で当事者が発表しているAIエージェントの活用事例は、問い合わせ対応、書類の照合、障害の原因分析、在庫配置案の作成など、手順が決まった業務が中心です。多くの事例では、AIに任せる範囲を区切り、最後の判断や難しい相談への対応を人が受け持っています。効果の数字はどれも各社の発表で、実績・実証・見込みが混ざっているため、種類を確かめて読む必要があります。

自社で始めるなら、入力の形と手順が決まり、間違えても社外に出る前に直せる業務を1つ選び、読むだけ・下書きまでの段階から試してください。その前に、社員が毎日使う生成AIを会社の管理下にそろえておくことが、個人のアカウントでエージェントが動く状態を防ぐ土台になります。社内のルールづくりは生成AIの社内ガイドラインの作り方、ほかのテーマはAI活用コラム一覧もあわせてご覧ください。