カスタマーサクセスのAI活用。顧客情報を伏せて要約・提案文を任せる手順

カスタマーサクセスのAI活用とは、顧客対応の履歴や契約の情報をもとに、要約・提案文・解約予兆の洗い出しといった下準備を生成AIに任せ、担当者が顧客と向き合う時間を増やす取り組みのことです。始めるときに先に決めたいのは、どのツールを入れるかより、顧客名や契約金額を伏せてから渡す手順と、入力が学習に使われない会社の環境を1つ用意することになります。電話窓口全体の自動化や事例はコールセンターのAI活用に譲り、ここではCS担当者が毎日触る顧客対応履歴の扱い方に絞って、伏せ字化の手順とプロンプトのひな形までを順に見ていきます。

カスタマーサクセスでAIに任せやすい業務

CSの仕事のうちAIに任せやすいのは、文章を読んでまとめる作業と、下書きを作る作業になります。値引きや契約条件のように判断や約束を伴う作業は、担当者の手元に残す形が向いています。

顧客対応の現場で先に広がっている使い方も、やはり要約となります。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)情報調査委員会の「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」は、2025年6月16日〜7月23日に会員109社を対象に行われ、68社が回答(回収率62.4%)しており、生成AIを実務の運用か社内検証のいずれかで活用している企業は55社でした。その55社の活用方法では「応対内容の要約」が74.5%で最も多く、「メール文章の生成」63.6%、「FAQの自動生成」61.8%、「コミュニケーターの回答支援」58.2%、「レポートの作成」56.4%、「チャットボット」52.7%と続いています。

※CCAJの調査対象はコールセンターを受託する企業で、SaaSのカスタマーサクセス部門を調べたものではありません。顧客対応の現場で要約が先に使われていることを示す参考値として載せています。数値は2026年9月28日に同協会が公開しているPDFで確認したものです。

CS部門でも、使い始めは同じ順番が無理のない流れになるでしょう。以下の5つに、後の節で扱う解約予兆の洗い出しを加えた6つが、CSでよく挙がる使い道となり、それぞれ任せ方の線引きが少しずつ違います。

対応履歴・議事録の要約とナレッジ共有

商談やサポートのやり取り、定例会の議事録を要約させる使い方は、最初の一歩として向いています。担当が替わるときの引き継ぎや、週次の共有会で読む資料を短くまとめられるため、効果を実感しやすい使い道でしょう。要約は元の記録を消す作業ではないので、原文はCRMや共有フォルダに残し、要約を横に添える形にしてみてください。顧客名や担当者名が入った記録を渡す前には、後で説明する伏せ字化を通すことが前提となります。

要約がたまってくると、よくある質問への答え方や、つまずきやすい設定の傾向が見えてきます。担当者ごとの頭の中にあった知恵を、社内のナレッジとして共有できる形に変えられるのも、要約から始める良さと言えます。

オンボーディングの案内文と進み具合の確認

オンボーディング(契約直後の立ち上げ支援)では、初期設定の案内文や、つまずきやすい手順の説明の書き直しをAIに任せることが出来ます。顧客ごとの進み具合を表にしておき、止まっている手順だけを抜き出させれば、次に送る連絡の下書きまで一度に作れます。ただ、どの顧客に先に連絡するかの判断は、担当者が持つほうが安全です。

問い合わせ対応とチャットボットはどこまで任せるか

問い合わせの一次回答をチャットボットに任せる場合、回答の元になるのはヘルプ記事やFAQの文面になります。AIが得意なのはその文面を読んで言い換えることで、書かれていない仕様や例外を正しく答える保証はありません。料金・契約・障害に関わる質問は人へ回す、と最初に決めておきましょう。上のCCAJ調査でも「FAQの自動生成」が6割を超えており、まずFAQの文面をAIで整えてからチャットボットに載せる順番が現実的です。

顧客の声(VOC)の感情分析と分類

アンケートの自由記述や問い合わせの本文を、不満・要望・称賛に分けたり、機能ごとに束ねたりする作業もAIに向いています。件数が数百件あっても、同じ基準で一度に分類できるのは大きな助けとなります。ただし感情の判定は言い回しに引きずられることがあり、皮肉や遠回しな不満を取り違える場合もあるでしょう。分類の結果は、担当者が数件ずつ原文と見比べて確かめてから、開発や営業に渡すようにしてみてください。

アップセル・クロスセルの提案メール下書き

利用状況から上位プランや追加機能が合いそうな顧客を探し、提案メールの下書きを作る使い方もあります。AIが作れるのは文面までで、値引きや契約条件を約束する文は入れないよう、指示に書いておくことが大切です。提案の時期を決めるのは、後の節で扱うヘルススコアや、担当者が肌で感じている関係の温度になります。

顧客情報をAIに渡す前に知っておきたい決まり

顧客対応履歴をAIに入れるときに押さえておきたいのは、個人情報保護委員会の注意喚起と、使うAIサービスが入力を学習に使うかどうかの2点になります。法律の判断そのものは専門家に確かめる前提で、公式の文書に書かれていることだけを並べてみます。

個人情報保護委員会の注意喚起

個人情報保護委員会は、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています。個人情報取扱事業者に向けて最初に挙げられているのは、個人情報を含むプロンプトを入れる場合に、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめることです。2つ目の注意点では、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入れ、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われる場合、個人情報保護法の規定に「違反することとなる可能性がある」と書かれています。そのうえで、サービスの提供事業者が個人データを機械学習に使わないこと等を十分に確認するよう促す内容です。

利用者向けの注意としても、提供事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認し、入力する情報の内容を踏まえて使うよう求められています。顧客情報を入れること自体が直ちに違反になると書かれているわけではありません。顧客情報を入れる前に、そのサービスが入力を学習に使わない設定かを確かめましょう。

社名や氏名を伏せても個人情報に当たる場合

個人情報保護委員会のガイドラインに関するQ&Aでは、A1-10で、通話内容から特定の個人を識別できる場合は個人情報に当たると説明されています。続くA1-11では、それだけでは個人情報に当たらない情報でも、その他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できれば、全体として個人情報に当たることがあるとされます。このQ&Aは通話録音を例にしたもので、CSの対応履歴を直接取り上げたものではありません。

考え方として当てはめると、顧客名や担当者名を伏せても、社内の顧客台帳と突き合わせれば誰の記録か分かる形なら、個人情報として扱う前提で考えるほうが安全でしょう。伏せ字化は漏えいしたときの影響を小さくする手段で、個人情報でなくする手段ではない、と覚えておいてください。

AIサービスごとの学習の既定値

入力を学習に使うかどうかの既定値は、同じ会社のサービスでもプランによって違います。OpenAIは公式の「ビジネスデータのプライバシー」で、ChatGPT Enterprise・ChatGPT Business・APIプラットフォームなどのデータ(入力と出力を含む)は、既定ではモデルの学習や改善に使わないと説明しています。一方で、ChatGPTのFree・Plus・Proを個人用ワークスペースで使う場合はデータ共有が既定で有効とヘルプに書かれており、設定の「データコントロール」内にある「モデルを改善する」項目をオフにすると、新しい対話は学習に使われなくなります。一時チャットは履歴に表示されず、モデルの改善には使われないものの、安全上の理由から最大30日間保持される場合があるとの説明もあります。

Anthropicはプライバシーセンターで、Claude for WorkやAPIなどの商用製品の入出力は既定で学習に使わないとしています。ただし高評価・低評価のボタンなどでフィードバックを送ると、その会話が学習に使われることがあり、関連する会話全体が最大5年保存されるという説明です。顧客情報を含む会話では評価ボタンを押さない、と社内のルールに書いておきましょう。なお、Claudeの個人向けプラン(Free・Pro・Max)には別の説明ページがあり、プライバシー設定の「Model Improvement」で学習への利用を切り替える仕組みとなります。

※各社の説明は、2026年9月28日にOpenAI「ビジネスデータのプライバシー」、ヘルプ記事「履歴をオンにしたまま、モデルの学習を無効にするにはどうすればよいですか?」「ChatGPT のデータ管理」、Anthropic Privacy Center「Is my data used for model training?」(商用製品向けと個人向けの2ページ)で確認した、各社の自己申告の内容です。学習に使わないのは既定の設定であり、保持期間・ログ・契約条件は別に確かめる必要があります。項目名の表記はヘルプ内でも揺れがあります。

社員が個人のアカウントでAIを使っていると、こうした設定が守られているかを会社から確かめることが出来ません。会社が把握していないAI利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、顧客対応履歴が気づかないうちに入り込む経路になりやすいものです。

AIに入れてよい情報・伏せる情報・入れない情報の判断表

顧客対応履歴に含まれる情報は、そのまま入れてよいもの、伏せてから入れるもの、入れないものの3つに分けると迷いが減ります。線の引き方は会社ごとに違ってよく、下の表は社内ルールを作るときのたたき台として使ってみてください。

区分CSの記録に出てくる例扱い方
そのまま入れてよい自社製品の機能名・操作手順、公開済みのヘルプ記事やFAQ、固有名詞を除いた問い合わせの内容、自社で決めた社内用語学習に使われない会社の環境で使う
伏せてから入れる顧客の会社名、窓口担当者の氏名・メールアドレス・電話番号、契約金額・ライセンス数、顧客IDや契約番号、所在地や社員数、個別の利用データ記号に置き換え、対応表は手元だけに残す
入れないパスワード・APIキーなどの認証情報、クレジットカード番号や口座の情報、顧客から預かった業務データそのもの、健康状態など特に慎重な扱いが必要な情報、未公開の製品計画や他社との契約条件AIには渡さず、人が扱う

迷いやすいのは、顧客から送られてきたファイルや画面の写しの扱いでしょう。そこには顧客の取引先や従業員の情報が写っていることがあり、CS担当者が中身を把握しきれないまま入れてしまうおそれがあります。中身を確かめきれないファイルは、入れない側に置くのが安全です。必要な部分だけを書き写して伏せ字化すれば、要約や回答案づくりには十分に使えます。

判断表は作って終わりにせず、実際に迷った例が出るたびに行を足していきましょう。半年ほど回すと、自社の製品と顧客に合った表に育っていきます。

対応履歴を渡す前の伏せ字化(マスキング)の手順

伏せ字化は、固有名詞と数字を置き換え用の記号に替え、元に戻すための対応表を手元だけに残す手順で進めます。専用の仕組みがなくても、表計算ソフトの置換機能で始めることが出来ます。対応表はAIに渡さず、手元のフォルダだけに保管してください。

  1. 判断表の「伏せてから入れる」列から、今回の記録に出てくる項目を拾い出す
  2. 置き換えの記号を決める(会社名は顧客A・顧客B、人名は担当者1・担当者2、金額はX円、数量はNなど)
  3. 元の名前と記号の対応表を作り、AIに渡さない社内のフォルダに保管する
  4. 置換をかけたあと、署名欄・引用部分・URL・ファイル名に元の名前が残っていないかを目で確かめる
  5. AIの出力を受け取ったら、対応表を見て記号を元の名前に戻し、CRMや共有フォルダに残す

伏せ字化のビフォーアフター例

架空の対応履歴を、伏せ字化の前と後で並べると次のようになります。

【伏せ字化の前】
2026年9月10日 株式会社サンプル精機(精密部品製造・社員103名)総務部 見本花子様より電話。
年間契約(120ライセンス・年額1,440,000円)の更新を前に、利用が営業部だけにとどまっている点を気にされている。
連絡先 hanako.mihon@sample-seiki.example / 090-0000-0000
10月の定例会で、他部署への展開案を出してほしいとのこと。
前任の担当 例田一郎様は8月末で異動済み。

【伏せ字化の後】
2026年9月 顧客A(製造業・社員100名前後)の窓口 担当者1より電話。
年間契約(ライセンス数N・年額X円)の更新を前に、利用が営業部だけにとどまっている点を気にされている。
連絡先 【削除】
10月の定例会で、他部署への展開案を出してほしいとのこと。
前任の担当 担当者2は8月末で異動済み。

【手元だけに残す対応表】
顧客A=株式会社サンプル精機 / 担当者1=見本花子様 / 担当者2=例田一郎様 / N=120 / X=1,440,000

伏せた後の文でも、更新前の不安、利用が一部署にとどまっていること、窓口が替わったことなど、次の打ち手を考えるのに必要な情報は残っています。AIの答えに顧客Aとあれば、対応表を見て元の社名に戻せば元どおりに使えます。日付は日まで要らなければ月までにし、社員数は幅を持たせた書き方に変えています。

伏せ字化で見落としやすい場所

置換の漏れが出やすいのは、メールの署名欄、転送された過去のやり取りの引用部分、URLやファイル名に含まれた社名になります。業界と地域と社員数がそろうと、社名を伏せても会社を絞り込めてしまう場合があります。規模の小さい業界の顧客ほど、所在地や社員数も「関東」「100名前後」のように幅を持たせて書き換えておきましょう。

もう1つ気をつけたいのは、伏せ字化そのものをAIに頼まないことになります。「この履歴の個人名を伏せて」と頼んだ時点で、元の履歴はすでにAIに渡っています。置換は、AIに渡す前に手元の表計算ソフトやエディタで済ませるようにしてください。

伏せ字化をしても、先に見たQ&Aの考え方のとおり、社内で照合できる記録は個人情報として扱う前提は変わりません。記号に置き換えた履歴を担当者それぞれが別々のAIに入れていては、どこに何が残っているかを会社として説明できなくなってしまいます。伏せ字化の手順と、使うAIの環境をセットで決めることが大切です。

顧客対応履歴を入れるAIは、会社で1つに決める

伏せ字化した履歴でも、担当者ごとに別のAIへ入れていては管理が追いつきません。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

CS業務別のプロンプトひな形

ひな形は、役割・材料・出力の形・守ることの4つを毎回そろえると、担当者が替わっても出力の質がそろいます。どれも伏せ字化した材料を貼る前提で、学習に使われない会社の環境で使うことを想定しています。【】の中を自社の言葉に置き換えて使ってみてください。

対応履歴の要約

【役割】あなたはSaaS企業のカスタマーサクセス担当の補佐です。
【材料】以下は顧客Aとの直近1か月の対応履歴です。社名・氏名・金額は記号に置き換えてあります。
――ここに伏せ字化した履歴を貼る――
【出力】次の4つの見出しで、合計400字以内にまとめてください。
1. 顧客が今困っていること
2. こちらが約束したことと、その期限
3. 顧客の温度感(前向き/様子見/不満のいずれかと、根拠になった発言)
4. 次の連絡で確かめること
【守ること】履歴に書かれていないことは推測で足さず、「記載なし」と書いてください。

要約の見出しを固定すると、引き継ぎのときに読む場所が毎回同じになります。温度感の根拠となる発言を引用させているのは、要約だけを読んで判断を誤らないようにするためです。

QBR(四半期ビジネスレビュー)の準備

QBRは、四半期ごとに顧客と成果や課題を振り返る打ち合わせを指します。準備で時間がかかるのは、3か月分のやり取りと利用状況を読み直して、話す順番を組み立てる作業になります。

【役割】あなたはカスタマーサクセス担当の補佐です。
【材料】顧客Aの直近3か月の定例会議事録の要約と、自社で集計した利用状況(ログインした人数の推移、主要機能の利用の有無)を貼ります。
――ここに材料を貼る――
【出力】QBRの構成案を、次の順で作ってください。
1. 導入時に顧客が掲げた目的の確認
2. 3か月で進んだこと(材料にある事実だけ)
3. まだ進んでいないことと、その理由の候補
4. 次の四半期に一緒に取り組む提案を2つ
5. 顧客に聞きたい質問を3つ
【守ること】数値は材料にあるものだけを使い、計算や推定はしないでください。

数値はAIに計算させず、自社で集計したものを貼り付けて使いましょう。AIが出した構成案は、顧客が言っていない成果を足していないかを担当者が読み直してから、資料に仕上げてください。

解約予兆の兆候の洗い出し

【役割】あなたはカスタマーサクセスの記録を読み込む担当です。
【材料】顧客A〜顧客Eの直近2か月の問い合わせ履歴と議事録の要約を貼ります。すべて伏せ字化してあります。
――ここに材料を貼る――
【出力】顧客ごとに、次の3列の表を作ってください。
・気になる発言や変化(原文のまま引用)
・当てはまりそうな兆候(利用が減った/窓口担当者が替わった/不満の表明/他社の名前が出た/予算の見直しの話が出た/該当なし)
・担当者に確かめてほしいこと
【守ること】解約するかどうかの判定はしないでください。原文の引用で裏づけられない兆候は書かないでください。

AIに求めるのは解約するかどうかの予測ではなく、記録の中にある気になる言葉や変化を拾い出すところまでです。拾った兆候を点数に落とす考え方は、次の節で扱います。

アンケート自由記述の分類

【役割】あなたは顧客アンケートを読み込む担当です。
【材料】直近の顧客アンケートの自由記述を1行1件で貼ります。社名・氏名は伏せてあります。
――ここに自由記述を貼る――
【出力】1件ずつ、次の3つを付けた表にしてください。
・種類(不満/要望/称賛/質問/その他)
・関係する機能や場面(材料の言葉で)
・判定の根拠になった言い回し(原文のまま引用)
最後に、種類ごとの件数と、要望のうち同じ趣旨が3件以上あったものを一覧にしてください。
【守ること】皮肉や遠回しな表現で判定に迷うものは「要確認」とし、無理に分類しないでください。

「要確認」の枠を用意すると、AIが迷った記述だけを担当者が読めばよくなります。件数の集計は、分類の結果を表計算ソフトに移して数え直すと、AIの数え間違いを防げます。

アップセル・クロスセルの提案メール下書き

【役割】あなたはカスタマーサクセス担当者のメール作成を手伝う担当です。
【材料】顧客Aの利用状況の要約と、提案したい【追加機能の名前】の説明を貼ります。
――ここに材料を貼る――
【出力】担当者1から顧客Aの窓口 担当者2に送る、300字程度のメールの下書きを作ってください。
・顧客Aの使い方で成果が出ている点を1つ挙げてから本題に入る
・追加機能で何が楽になるかを、顧客Aの業務の言葉で書く
・次の一歩は、15分の説明の打ち合わせの提案にとどめる
【守ること】値引き・無料期間・導入時期の約束は書かないでください。書き終えたら、約束に読める表現が入っていないかを見直し、あれば指摘してください。

下書きの最後に、約束に読める表現をAI自身に点検させる一文を足すと、見落としが減ります。送る前に担当者が読み、自分の言葉に直す工程は必ず残しましょう。よく使うひな形は、担当者がそれぞれ手元に持つより、社内の共有場所に1つだけ置いて改訂していくほうが、質をそろえやすくなります。

解約予兆の洗い出しとヘルススコアの点数化

ヘルススコアとは、顧客がどのくらい順調に使えているかを、いくつかの指標の合計点で表したものです。決まった計算式はなく、自社の製品で成果につながる使い方を指標に選び、点数も自社で決めることになります。下の表は考え方を示すための例で、点数や基準の値は業界の平均ではありません。

指標見る記録点数の付け方(自社で決める例)点数が下がったときの動き
使っている人の割合管理画面の利用データ契約人数のうち月1回以上使った人の割合で0〜3点使っていない部署向けの説明会を提案する
主要機能の利用管理画面の利用データ成果につながる機能を使っていれば2点、未使用なら0点設定の支援や、同業の活用例を送る
問い合わせの中身問い合わせ履歴不満や他社を比べる言葉が出たら−2点担当者が電話で事情を聞く
窓口担当者の交代CRM・メール交代や異動の連絡があれば−2点新任の方向けに立ち上げの場を設ける
定例会への出席議事録先方の欠席が2回続いたら−1点決裁者との面談をお願いする
請求・契約の動き請求の記録支払いの遅れや減額の相談があれば−2点責任者が同席して状況を確かめる

AIに任せやすいのは、問い合わせ履歴や議事録から言葉の兆候を拾い、点数表のどこに当てはまりそうかの候補を出すところになります。使っている人の割合のような数字は、AIではなく集計の仕組みで出すほうが正確です。ヘルススコアが下がった顧客には、表の右の列のように、誰が何をするかまで決めておきましょう。

点数を決めるときの順番

最初から多くの指標をそろえる必要はありません。過去に解約した顧客と継続している顧客を数社ずつ並べ、解約の前に何が起きていたかを振り返ると、自社にとって効く指標が見えてきます。振り返りの材料になる議事録や問い合わせ履歴の要約は、伏せ字化したうえでAIに任せることが出来ます。点数は四半期ごとに見直し、実際の解約と合わなかった指標は入れ替えていきましょう。スコアは担当者が動く順番を決める道具で、解約を当てる予測ではありません。

AIに任せる作業と、CS担当者が持つ判断

AIに任せるのは読む・まとめる・下書きするの3つで、決める・約束する・謝るは担当者が持つ、と分けると運用が安定します。CSの価値は顧客との信頼関係にあり、AIの出力をそのまま送った文面は、相手にも案外伝わってしまうものです。

AIに任せやすい作業は、対応履歴や議事録の要約、FAQの文面の言い換え、顧客の声の分類、提案メールや案内文の下書き、解約予兆の兆候の拾い出しになります。担当者が持つべき判断は、連絡する顧客の優先順位、値引きや契約条件、障害が起きたときのお詫び、解約の意向を伝えられたときの対応です。

実際に、AIの要約は元の記録にない言葉を足したり、顧客の温度感を平らにしてしまったりすることがあります。要約を読んで気になった箇所は、必ず原文に戻って確かめてください。担当者1人あたりの顧客数が多いCSほど、AIで浮いた時間を顧客と話す時間に回せるかどうかが、成果の分かれ目となるでしょう。

使い始めの1か月は、責任者がAIの出力と実際に送った文面を週に数件ずつ見比べる時間を取ってみましょう。直した箇所の傾向が分かれば、プロンプトのひな形に守ることとして書き足せます。

10〜200名の会社で始める導入ステップ

専任の運用担当や情シスがいない会社では、目的を1つに絞り、少人数で1か月試してから広げる順番が進めやすくなります。CRMが整っていない会社でも、メールや議事録のやり取りから要約を始めることは出来ます。

  1. 目的を1つ決める(例:担当交代のときの引き継ぎ資料を要約で作る)
  2. 使うAIの環境を会社で1つに決め、入力が学習に使われない設定かを確かめる
  3. 判断表と伏せ字化の手順を1枚にまとめ、対応表の保管場所を決める
  4. CS担当者2〜3名で1か月試し、直した箇所をひな形に書き足す
  5. 効果を測ってから、ひな形を社内で共有し、対象の業務を広げる

1か月目で全員に広げたくなるかもしれませんが、判断表と伏せ字化の手順が固まる前に人数を増やすと、ルールの外で使われる場面が増えてしまいます。社内ルールの書き方は生成AIの社内ガイドラインの作り方も参考にしてみてください。

専任の担当がいない会社で起きやすいつまずき

社員10〜200名の会社では、CS Ops(CSの仕組みや数字を整える専任の担当)も情シスもいないまま、CS責任者がAIの導入まで抱えることが多いでしょう。そうした会社でつまずきやすいのは、ツールの選定より前の段階になります。顧客情報がCRM・メール・チャット・表計算に分かれていて、どこから材料を集めるかが決まらないまま、担当者ごとに違うAIへ貼り付け始めてしまう形です。

最初の1か月は、材料の出どころを1つに絞ってみてください。たとえば定例会の議事録だけ、あるいはメールでの問い合わせだけに決めると、伏せ字化の手順も1通りで足り、責任者が出力を見比べる手間も小さくなります。CRMの整備はAI活用の前提ではなく、要約がたまってから、どの項目を残すべきかを決める順番でも遅くありません。

効果測定とKPIの決め方

効果は、AIを使う前と後で同じ物差しを比べると分かりやすくなります。CSの成果指標としては解約率や継続率、アップセルの件数がよく使われますが、AIの効果だけでこれらが動くとは限りません。使い始めの段階では、引き継ぎ資料の作成にかかった時間、QBRの準備時間、要約を読み直して直した箇所の数など、作業の手前で測れるものを置くのが現実的です。数字の目標は、自社で1か月測った実績をもとに決めましょう。

解約率のような大きな指標は、四半期ごとに振り返る程度にとどめ、AIの使い方を変えた時期を記録に残しておくと、後から見比べることが出来ます。

CS責任者が利用前に確かめるチェックリスト

使い始める前に、次の8項目を責任者の手で確かめてみてください。

  • 使うAIサービスが、入力を学習に使わない設定になっているか法人向けプランは既定で学習に使わないと各社が説明しています。個人向けプランを業務で使うなら、ChatGPTはデータコントロール、Claudeはプライバシー設定にあるモデル改善の項目がオフかを確かめます。
  • 評価ボタンで会話が提供元に送られ、保存されうることを伝えたかAnthropicは、フィードバックを送ると関連する会話全体を最大5年保存すると説明しています。顧客情報を含む会話では押さない、とルールに書きます。
  • 一時チャットも、しばらく保持される場合があると知っているかOpenAIのヘルプでは、一時チャットは安全上の理由から最大30日間保持される場合があるとしています。履歴に出ないことと、残らないことは別の話です。
  • 提供事業者の利用規約とプライバシーポリシーを読んだか個人情報保護委員会の注意喚起は、利用者に規約やポリシーを十分に確認するよう求めています。
  • 顧客情報を入れる目的が、公表している利用目的の範囲内か注意喚起の1つ目の注意点です。判断に迷う場合は、社内の担当者や専門家に確認します。
  • 判断表と伏せ字化の手順を1枚にまとめ、対応表の保管場所を決めたか対応表はAIに渡さない場所に置きます。担当者が替わっても同じ手順で回るかを見ます。
  • 個人のAIアカウントでの業務利用をどう扱うかを決めたか会社から設定を確かめられない利用は、顧客情報が入り込む経路になります。代わりに使う環境を示してから、個人利用の扱いを伝えます。
  • AIの出力を人が確かめてから送る工程があるか要約・提案文・チャットボットの回答のどれも、顧客に届く前に担当者が読む流れにします。

点検の観点をさらに広げたい場合は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストもあわせて使うことが出来ます。

顧客対応履歴の要約と提案文を、会社のAI環境で

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けサービスです。基盤はAWSの日本リージョンで稼働し、データの保管とログ管理は国内で行います。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、よく使う要約や提案文の指示は、カスタムプラスで社内限定のBOTにして共有できます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

顧客情報を生成AIに入れると、個人情報保護法の違反になりますか?
一律に違反になると書かれているわけではありません。個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月2日)は、個人情報を含むプロンプトを入れるときは利用目的の範囲内かを十分に確認すること、本人の同意なく入れた個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合は違反となる可能性があるため、提供事業者が機械学習に使わないこと等を十分に確認することを求めています。個別の判断は専門家に確認してください。
法人向けプランなら、顧客情報をそのまま入れても安全ですか?
そうとは言い切れません。法人向けプランの入力を学習に使わないのは各社の説明による既定の設定で、保持期間・ログ・契約条件は別に確かめる必要があります。評価ボタンを押すと会話が提供元に送られ保存される場合もあります。顧客名や契約金額は伏せ字化してから入れる運用をおすすめします。
社名や担当者名を伏せれば、個人情報ではなくなりますか?
なくなるとは限りません。社名そのものより、窓口担当者の氏名や連絡先を含む記録かどうかが分かれ目になります。個人情報保護委員会のQ&A(A1-11)は、その他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できれば、全体として個人情報に当たることがあると説明しています。社内の顧客台帳と突き合わせれば誰の記録か分かる形なら、個人情報として扱う前提で考えるほうが安全です。
伏せ字化は手作業でも回りますか?
件数が少ないうちは、表計算ソフトの置換機能と対応表で回せます。置換のあとに、署名欄・引用部分・URL・ファイル名に元の名前が残っていないかを目で確かめる工程を入れてください。対応表はAIに渡さない社内の場所に保管します。
ヘルススコアの点数は、業界の標準に合わせるべきですか?
決まった標準の計算式はなく、自社の製品で成果につながる使い方を指標に選ぶのが基本です。過去に解約した顧客と継続している顧客を並べて、解約の前に何が起きていたかを振り返り、効いた指標から点数を決めてください。点数は四半期ごとに見直します。
CS専用のAIツールと汎用の生成AIは、どちらから始めればよいですか?
CRMや問い合わせ管理と連携させる専用ツールは、つなげるための設定やデータの整備が前提になります。専任の担当がいない会社では、汎用の生成AIで対応履歴の要約と提案文の下書きから試し、効果と使い方が固まってから専用ツールを検討する順番が無理のない進め方です。どちらを使う場合も、学習に使われない設定の確認と伏せ字化の手順は同じように必要です。
問い合わせ対応をチャットボットに任せきりにしてもよいですか?
おすすめしません。AIはヘルプ記事やFAQの文面を言い換えるのは得意ですが、書かれていない仕様や例外を正しく答える保証はありません。料金・契約・障害に関わる質問は人へ回す、と最初に決めておくと運用が安定します。

まとめ

カスタマーサクセスでAIに任せやすいのは、対応履歴の要約、オンボーディングの案内文、FAQの整備、顧客の声の分類、提案メールの下書き、解約予兆の兆候の拾い出しといった、読む・まとめる・下書きする作業になります。値引きや契約条件、お詫びや引き留めのような判断は、担当者が持ち続けるほうが、顧客との信頼を守れるでしょう。

顧客対応履歴を入れる前には、個人情報保護委員会の注意喚起が求める利用目的の確認と、学習に使われない設定の確認が欠かせません。社名や氏名を伏せても社内で照合できる記録は個人情報として扱う前提で、伏せ字化と判断表、使うAIの環境を会社で1つに決めることを、セットで進めてみてください。

ひな形とヘルススコアの点数は、少人数で1か月試してから、実際に迷った例や外れた指標をもとに育てていくものです。コールセンター全体の話はコールセンターのAI活用、ほかの業務の記事はAI活用コラム一覧でご覧いただけます。