AI人材育成は3つの役割と90日で進める

AI人材育成とは、社員が業務の中でAIを正しく使いこなし、その使い方を社内に広げられるように、役割に応じた知識と実践の機会を計画的に用意する取り組みです。社員10〜200名の会社であれば、専門職を採用するより、全社員・部署ごとの推進役・管理者(情シス・総務)の3つの役割を、会社のAI環境とルールを整えたうえで90日かけて順に育てる進め方が現実的になります。研修会社を選ぶ前に、誰を・何段階で・どの順に育てるかという設計図を先に決めておきましょう。研修会社の比較や費用の計算は生成AI研修の選び方と費用で詳しく取り上げています。

AI人材とは|IT人材・DX人材との違いと種類

AI人材とは、AIを作る人だけでなく、AIを使ってサービスを提供する人や、日々の業務でAIを使いこなす人までを含む言葉になります。IPA(情報処理推進機構)の「AI利活用のための人材育成」のページは、AI自体を開発する人材に加え、AIを活用してサービスを提供する人材と、業務の中でAIを使いこなす人材が不足していると説明しています。以前は開発やデータ分析の専門職を指すことが多かったものの、生成AIが全社員の道具になった今は、使いこなす側の人材の比重が大きくなってきました。

AI人材の定義と、IT人材・DX人材との違い

似た3つの言葉は、扱う範囲の広さで見分けると整理しやすくなります。

  • IT人材は、情報システムの企画・開発・運用を担う人材で、社内のパソコンやネットワークの管理まで含めて呼ぶことが多い言葉です
  • DX人材は、デジタル技術とデータを使って事業や業務の進め方を変える人材で、IPAのデジタルスキル標準(DSS)がその役割とスキルを定めています
  • AI人材は、AIを開発・実装・活用する人材で、DX人材のうちAIを道具として扱う部分と大きく重なります

実際には3つの境目ははっきりしておらず、生成AIの普及で重なりはさらに大きくなっています。中小企業に置き換えるなら、IT人材は情シスや総務、DX人材は業務を変える推進役、AI人材はその両方に全社員を加えた広がりと捉えると、社内の誰を育てるのかが見えてきます。

AI人材の種類|研究・実装・活用の3分類と政府の5つの人材像

NECは技報(Vol.72 No.1、2019年)で、AI人材を研究人材、AIを社会実装する人材、AIを活用する人材の3階層に分類しています。職種の名前で言えば、AIエンジニアやデータサイエンティストが開発側に、AIプランナーや業務でAIを使う社員が活用側に入ることになります。

政府の人工知能基本計画(令和8年7月14日閣議決定)は、目指す人材像として、AI適正活用人材、AI研究開発人材、AI実装人材、AIガバナンス人材、AIイノベーション人材の5つを挙げました。このうちAI適正活用人材は、最低限のリテラシーを身につけて適正な形でAIを利活用できる人材として、全ての国民が目指すべきものと位置づけられています。AIガバナンス人材は、安全・安心で信頼できるAIを開発・活用するためのルールや仕組みを整備・運用する人材を指します。中小企業に研究開発人材は多くの場合必要ありませんが、適正活用・実装・ガバナンスの3つは、社員数に関係なくどの会社にも求められる役割といえます。

AI人材育成が必要とされる背景と、人材が足りない理由

AI人材育成が急がれる背景には、生成AIの業務利用が広がる速さに、使いこなす人とルールの整備が追いついていない現状があります。IPAの「DX動向2026」(2026年4月中旬〜6月中旬に実施、19業種の企業の経営層またはICT関連事業部門が対象、有効回答1,799社、2026年7月30日公開)では、生成AIを導入している企業の割合が、2024年度調査の22.6%から2025年度調査の44.0%へ増えました。同じ調査でAI導入・運用上の課題として挙がったのは、専門人材が不足している(50.1%)、生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している(45.8%)、適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい(39.7%)という項目でした。

※DX動向2026は企業規模を限らない調査で、課題の割合は回答企業に占める割合です。中小企業だけの数字ではありません。2024年度調査・2025年度調査は同報告書内の表記です。

3つの課題は、そのまま育成で埋めるべき中身に対応しています。専門人材の不足は推進役の育成で、効果やリスクの理解不足は全社員の基礎で、ルール作りの難しさは管理者の育成で、それぞれ手当てすることが出来ます。

中小企業に絞った調査でも、似た傾向が見られます。商工組合中央金庫の「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」(2025年12月19日〜2026年1月16日に実施、同金庫の取引先中小企業3,892社が回答、2026年3月31日公表)では、課題や導入しない理由として、具体的な活用場面が不明(35.6%)、導入を推進する人材がいない(32.0%)、従業員の知識不足・心理的抵抗(29.2%)が上位に並びました。帝国データバンクの「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月17日〜31日実施、有効回答1万312社)でも、生成AI活用の懸念・課題として専門人材・ノウハウ不足を挙げた企業が、3つまでの複数回答で41.3%に上っています。

AIの専門職は大企業との獲得競争になりやすく、社員10〜200名の会社が採用だけで埋めるのは簡単ではありません。足りない人材は、外から採るより、業務を知っている社員を役割ごとに育てて補うほうが現実的です。人手が足りないなかで業務を回しながら学ぶことになるため、育成は短い期間で成果が見える設計にしておく必要があります。

※調査の数字は2026年9月26日時点で各調査の公表資料を確認したものです。商工中金の課題の設問は複数回答です。

中小企業は3つの役割で育てる|デジタルスキル標準の読み替え

社員10〜200名の会社では、育てる相手を全社員・部署ごとの推進役・管理者(情シス・総務)の3つの役割に分けると、何から手を付けるかが決まります。下敷きにするのは、IPAと経済産業省がまとめたデジタルスキル標準(DSS)です。DSSは、ビジネスパーソン全体が身につけるDXリテラシー標準と、DXを推進する人材の役割とスキルを定めたDX推進スキル標準の2つで構成されています。DX推進スキル標準の人材類型は、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、データマネジメント、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの6つになります。

生成AIについては、2023年8月にDXリテラシー標準へ生成AIの利用で求められるマインド・スタンスが加わり、2024年7月にはDX推進スキル標準にも生成AIの特性や業務での活用例の補記が入りました。ただ、6つの類型に1人ずつ担当を置けるのは大きな組織に限られ、中小企業がそのまま当てはめると、兼務だらけの計画になってしまいます。そこで、次のように3つの役割へ読み替えてみてください。

育てる役割DSSで近いもの人工知能基本計画の人材像で近いもの主な仕事置き方の例
全社員DXリテラシー標準AI適正活用人材入力してよい情報の線引きを守り、文書作成・要約・調べものなど日常業務にAIを使う全員
部署ごとの推進役DX推進スキル標準のビジネスアーキテクト(の入口)AI実装人材(の入口)自部署の定型業務にAIを当てはめ、手順と指示文を部署に広める各部署に1名(兼務)
管理者(情シス・総務)DX推進スキル標準のサイバーセキュリティ・データマネジメントの一部AIガバナンス人材利用環境の用意、アカウントの配布と停止、利用ルールと利用状況の確認会社で1〜2名(兼務)

※表の対応は、社員10〜200名の会社向けに読み替えた例です。DSSや人工知能基本計画がこの対応を定めているわけではありません。DSSの内容は2026年9月26日時点でIPAの公式ページを確認しています。

役割1:全社員

全社員に求めるのは、AIの仕組みの概要を知り、入力してよい情報の線引きを守りながら、毎日の仕事でAIを使えることです。文書の下書き、議事録の要約、調べものの下調べといった用途で、自分の仕事が何分短くなったかを言える状態が目標になります。プログラミングやデータ分析の知識は、この役割には求めなくて構いません。

役割2:部署ごとの推進役

推進役は各部署に1人ずつ置き、自部署の定型業務にAIを当てはめて手順に落とす役割を担います。営業なら提案書の構成案、経理なら請求書の照合メモ、総務なら社内通知の文案といった具合に、業務の中身を知っている人でなければ選べない題材を扱うことになります。専任である必要はなく、業務時間の一部を使う兼務で十分でしょう。DX推進スキル標準でいえば、業務の変革を設計するビジネスアーキテクトの入口に当たる役割です。

役割3:管理者(情シス・総務)

管理者は、全社員が使うAIの環境を用意し、アカウントの配布と停止、利用ルールの改訂、利用状況の確認を受け持つ役割になります。社員数が少ない会社では総務が兼ねることが多く、技術に詳しい必要はありませんが、入力データが学習に使われるかどうかや、ログがどこに残るかといった点を説明できる力が求められます。3つの役割のうち、最初に育て始めるべきなのは全社員ではなく管理者です。環境とルールが決まらないまま全社員に研修をしても、学んだことを安全に試す場所がなく、研修の内容が日々の仕事につながりにくくなってしまいます。

AI人材に必要なスキル・知識を、役割ごとに分ける

AI人材に必要なスキルとしてよく挙がるのは、プログラミング、データサイエンス、機械学習・ディープラーニング、法律・ガイドライン、論理的思考と企画推進力です。すべてを全員に求めると研修が膨らむため、3つの役割に振り分けて考えてみましょう。

  • 全社員には、生成AIの得意・不得意、誤った内容をもっともらしく出す性質(ハルシネーション)への注意、入力してよい情報の線引き、指示文(プロンプト)の基本を求めます
  • 推進役には、業務を手順に分解する力、指示文を部署の定型に仕立てる力、成果を時間や件数で測る力、論理的思考と企画推進力を求めます
  • 管理者には、個人情報保護法や社内規程との関係、利用規約とデータの扱い(学習利用・保存場所・ログ)、利用ルールの作成と見直しの知識を求めます
  • プログラミング、機械学習、データサイエンスといった開発・分析の専門スキルは、自社でAIの仕組みを作る段階になってから、外部の力も借りて考えます

プログラミングや機械学習の知識は、3つの役割のどれにも必須ではありません。業務に合わせた仕組みを自社で作る段階になったら、そこで初めて専門の人材や外部の支援を検討すれば十分です。法律やガイドラインについては、総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日)が、AIに関わる者が十分なレベルのAIリテラシーを確保するための措置を講じることを共通の指針に挙げています。管理者はこの考え方を社内ルールに落とし込む役割を持ち、ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方が参考になります。

個人情報の扱いについては、個人情報保護委員会が令和5年6月2日の注意喚起で、個人情報を含む指示文を入力する場合は利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めました。管理者が最初に学ぶ題材として、この注意喚起を社内ルールと並べて読んでおくことをおすすめします。

育成の出発点は、個人任せの利用になりやすい

中小企業のAI活用は、会社が環境を用意しないまま、社員が個人の判断で使い始めている状態から出発することが多くなっています。商工中金の同じ調査では、生成AIの導入状況として、会社での導入はなく使用は個人の判断に任せているという回答が64.9%を占めました。会社での導入はないものの個人の活用を推奨している企業が14.9%あり、会社での使用を禁止・制限している企業は1.4%にとどまります。

※導入状況は1つだけ選ぶ設問で、調査全体の有効回答は3,892社です。

社員が個人のアカウントで業務に使っている状態は、シャドーAI(野良AI)と呼ばれています。この状態のまま研修を始めると、入力してよい情報の線引きを教えても、実際に何が入力されているかを会社が確かめる手段がありません。学習に使われる設定のままの個人アカウントに、研修で覚えた使い方で顧客情報が入力されてしまうことも起こり得ます。研修で使い方が上手くなるほど、見えない場所での利用が増えるという逆の結果になりかねません。

育成は、研修より先に、全社員が会社の管理下で使える環境へ移すところから始めましょう。シャドーAIの見つけ方や対処の全体像は野良AI(シャドーAI)の解説にまとめています。

個人任せのAI利用を、会社で見える環境に移すには

研修で教えたルールを全員で守るには、社員が使うAIの環境を会社で1つにそろえることが近道になります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

AI人材育成の手順|環境の移行から継続学習までの5段階

AI人材育成の手順は、環境の移行、目的と人材像の決定、スキルの見える化、研修、実務での活用と継続学習の5段階で進めます。一般的な解説では目的の決定から始まることが多いものの、個人任せの利用が多い中小企業では、環境の移行を最初に置くほうが無理がありません。

手順1:利用の実態を棚卸しし、会社の環境へ移す

最初の段では、社員が今どのAIを何に使っているかを把握し、会社が管理できる環境に移していきます。

  1. 無記名のアンケートで、使っているAIサービス、用途、入力している情報の種類を集める
  2. 会社として使うAIサービスを決め、会社のアカウントを全社員に配る
  3. 入力してよい情報・いけない情報を1枚にまとめ、アカウントの配布と同時に周知する
  4. 個人アカウントでの業務利用をやめる期日を決め、会社の環境への乗り換えを案内する
  5. 管理者が月に1回、利用状況を確認し、ルールの抜けを直す

アンケートを無記名にするのは、正直に答えてもらうためです。個人で使っていたこと自体を責めると利用が隠れるだけなので、移行の案内は禁止ではなく乗り換えの形で伝えるようにしてください。入力ルールの決め方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で詳しく取り上げています。

手順2:育成の目的と、役割ごとの人材像を決める

次に、何のために育てるのかを1文で決めます。3か月後に各部署の定型業務1つでAIを使った手順が回っている、のように期限と状態で書くと、研修の中身を選びやすくなります。人材像は前の節の3つの役割をそのまま使い、誰がどの役割を担うかを名前で割り当てておきましょう。

手順3:今のスキルと利用状況を見える化する

3段目では、役割ごとに今どこまで出来ているかを簡単に確かめます。全社員には、使ったことがあるか、週に何回使うか、入力してはいけない情報を答えられるかの3問程度で足ります。推進役の候補には、自部署でAIに任せられそうな業務を3つ挙げてもらうと、業務を分解する力の差が見えてきます。管理者は、手順1で集めた利用実態をそのまま現状の記録として使えます。

手順4:研修で基礎をそろえる

4段目の研修は、全社員向けの基礎を短く、推進役向けの実務演習を厚くするのが基本になります。全社員向けは1〜2時間の講義と操作の体験で足り、推進役には自部署の業務を題材にした演習を用意したいところです。研修の形式や外部研修の選び方は、後の節で整理しています。

手順5:実務で使い、学び続ける

最後の段は、研修で覚えたことを実際の業務で使い、成果を社内で共有しながら学び続ける段階です。この段がないと、研修から数週間で使う人と使わない人に分かれ、元の個人任せに戻ってしまいます。実践の場と継続学習の具体策は、この後の2つの節で取り上げます。

段階で分けた育成|全社員の基礎から職務直結の訓練まで

育成の段階は、全社員の基礎、部署ごとの業務への当てはめ、職務に直結する訓練の3段で考えると、3つの役割と対応させやすくなります。大企業の事例では、初級・中級・上級や、経営層・中堅・一般社員といった階層で分ける形がよく見られます。社員10〜200名の会社は階層の数が少ないため、役職ではなく業務との距離で段を分けるほうが実情に合います。

1段目の基礎は全社員に共通で、どの部署でも同じ内容になります。2段目の当てはめは推進役が中心となり、部署ごとに題材が変わります。3段目の職務直結の訓練は、営業の提案書作成や経理の照合作業のように特定の業務にAIを適用する技能を身につける段で、必要な部署の社員だけが受けることになります。

費用の出どころも、段ごとに分けて考えるのが自然です。1段目は会社の費用で全員に行い、3段目は助成金の対象になりうるかを確かめながら対象者を絞りましょう。助成金の対象範囲は令和8年8月に変わっているため、詳しくは公的支援の節で確認してください。

社員10〜200名向け|90日の育成計画表

3つの役割と3つの段を日程に落とすと、次のような90日の計画になります。期間は目安なので、社員数が多い会社は0〜30日の環境の移行に時間を多めに見込んでおきましょう。

期間全社員部署の推進役管理者(情シス・総務)教材と費用の出どころ
0〜30日
環境とルール、全社員の基礎
会社のアカウントを受け取り、入力ルールを確認する。1〜2時間の基礎研修を受ける各部署から1名を選ぶ。基礎研修に参加し、任せられそうな業務を3つ挙げる利用実態の棚卸し、使うAIの決定、アカウントの配布、入力ルールの作成公的な無料教材(マナビDX、ITパスポートのシラバス)と社内資料。費用は会社負担
31〜60日
業務への当てはめ
推進役が作った手順を試し、困った点を伝える自部署の定型業務1つにAIを当てはめ、手順と指示文をまとめる。作業時間を測る月1回の利用状況の確認と、ルールの抜けの修正。職務直結の訓練を助成金の対象にするかを判断し、計画届を出す社内の演習が中心。職務直結の訓練は人材開発支援助成金の対象になりうる。条件は支給要領で確認
61〜90日
成果の共有と次の計画
部署の手順を日常業務で使う使う前と後の作業時間を全社で発表する推進役の成果をもとに、次の90日で広げる業務と推進役を決める発表した手順を社内の手順集として共有。職務直結の訓練は計画届の提出から1か月以上あとに開始

0〜30日で大切なのは、全社員の研修より先に管理者の準備を終えることです。アカウントとルールがそろった週に全社員の基礎研修を置けば、研修の翌日から会社の環境で練習を始められます。31〜60日の題材は、毎週発生し、担当者が手順を説明でき、失敗しても社外に影響が出ない業務から選んでみてください。社内通知の文案、議事録の要約、問い合わせへの返信の下書きなどが候補になります。

61〜90日では、推進役が1人ずつ、使う前と後で作業時間がどれだけ変わったかを発表する場を設けましょう。人材開発支援助成金を使う場合、令和8年8月3日版のパンフレットでは計画届の提出が訓練開始日の6か月前から1か月前までとされているため、31〜60日のうちに計画届を出し、職務直結の訓練は91日目以降の開始を前提に組むことになります。90日で1周したら、推進役を増やすか、次の業務に広げるかを決めて2周目に入るのがおすすめです。

AI人材育成の方法|OJT・Off-JT・自己啓発の3つで整理する

人材育成の方法は、仕事をしながら学ぶOJT、仕事を離れて学ぶOff-JT、社員が自発的に学ぶ自己啓発の3つに分けられます。厚生労働省の「能力開発基本調査」の用語の説明によると、Off-JTは業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)を指します。計画的なOJTは、日常の業務に就きながら行う教育訓練のうち、教育担当者・対象者・期間・内容などを具体的に定め、段階的・継続的に実施するものと定義されています。自己啓発は、労働者が職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動のことです。

3つをAI人材育成に当てはめると、次のような分担になります。

  • OJTでは、推進役が自部署の業務で手順を作り、同僚の隣で使い方を教えます。計画的なOJTにするなら、担当者・対象者・期間・内容を計画書に書きます
  • Off-JTでは、全社員向けの基礎研修、推進役向けの演習、外部の講座や研修会社のプログラムを使います
  • 自己啓発では、マナビDXの講座やITパスポート試験の学習など、社員が自分で進める学びを会社が受験料の補助や学習時間の確保で支えます

AI人材育成をOff-JTだけに寄せると、研修の日だけ盛り上がって終わってしまいがちです。中小企業で進めやすいのはOJTで、推進役が同僚に教える時間を業務として認めることが要になります。計画的なOJTの形にすれば、前の節の90日計画表がそのまま計画書の土台として使えます。

研修だけで終わらせない実践の場をつくる

研修で学んだことを定着させるには、業務の中で試せる実践の場を研修とセットで用意することが欠かせません。大企業では、PoC(本格導入の前に小さく試す検証)や実際のプロジェクトへの参加を実践の場にする例が多く見られます。NECは技報の中で、実践の場として道場を、自己学習の環境として砂場を用意したと紹介しています。中小企業で同じ規模の仕組みを作る必要はなく、次の3つで代わりが務まります。

  • 推進役が選んだ業務1つで、2週間だけAIを使った手順を試し、作業時間を測る小さな検証
  • 週に1回30分、困った使い方を持ち寄って推進役が答える相談の時間
  • 月に1回、うまくいった手順を5分ずつ紹介する社内の小さな発表会

どれも特別な予算は要らず、推進役と管理者の時間さえ確保できれば始められます。検証の対象には顧客情報を扱わない業務を選ぶと、ルール違反の心配をせずに試すことが出来ます。

継続学習とコミュニティ・ナレッジ共有

AIは新しいモデルや機能が次々に出るため、一度の研修で学んだ内容はすぐに古くなってしまいます。学び続ける仕組みとしては、社内コミュニティと、うまくいった指示文や手順をためておく場所の2つがあれば足ります。ベリサーブは、全社員向けの研修に加えて社内認定制度とコミュニティを設けていると公表しています。中小企業なら、社内チャットにAI活用の専用チャンネルを1つ作り、推進役が週に1回、使えた指示文を投稿するだけでも十分に機能するでしょう。

たまった指示文は部署ごとに整理し、新しく入った社員が最初に見る資料にしていきましょう。共有する指示文に顧客名や個人情報が残っていないかは、管理者が月に1回点検するようにしてください。

研修・学習の形式と選び方

研修の形式は、講義、ワークショップ・演習、eラーニングの3つが中心で、役割によって向き不向きが分かれます。

  • 講義は、AIの仕組みやルールを全員に同じ内容で伝えるのに向き、全社員の基礎に使います
  • ワークショップ・演習は、実際の業務を題材に手を動かす形で、推進役の育成の中心になります
  • eラーニングは、時間や場所を選ばずに学べるため、基礎の復習や自己啓発に向きます

全社員の基礎は講義に少しの操作体験を加えた形、推進役は自社の業務を題材にした演習が合っています。eラーニングは受講の記録が残る一方で、見るだけで終わりやすい点に注意が必要です。人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースでは、令和8年8月3日以降に提出する計画届の訓練から、eラーニングは同一労働者につき1年度1回までとなったため、助成金を使う訓練を組むなら形式の選び方にも影響が出ます。研修会社ごとの違いや費用の相場は生成AI研修の選び方と費用で比べているので、外部研修を使う場合はあわせて確認してみてください。

無料で使える公的教材|マナビDXとITパスポートのシラバス

費用をかけずに全社員の基礎をそろえたいなら、公的な教材を使う方法があります。マナビDXは、経済産業省とIPAが運営するデジタル人材育成のプラットフォームで、講座を無料のものに絞り込んで探すことが出来ます。IPAのAI人材育成のページでは、2023年12月1日時点で180以上のAI関連コースの情報を案内していました。

ITパスポート試験のシラバス(出題範囲をまとめた資料)には、2023年8月7日公開のVer.6.2で、生成AIの仕組み、活用例、留意事項などの項目が加わりました。2024年4月の試験から適用されており、IPAは生成AIのサンプル問題も公開しています。シラバスは無料で読めるため、全社員の基礎研修で扱う範囲を決める目次として使えます。

ただし、教材を配るだけでは学ぶ人と学ばない人の差が広がるばかりです。無料の教材は、どれを見せるかより、どの順で見せて何を試させるかを推進役が決めると効き目が変わります。まずは管理者か推進役が1本受講し、社内向けに見る順番を決めてから全社員へ案内してみてください。

※マナビDX・ITパスポート試験のシラバスは2026年9月26日時点でIPAの公式ページを確認しています。

公的支援の活用|助成金の対象・対象外とReスキル講座

公的支援で代表的なのは、厚生労働省の人材開発支援助成金と、経済産業省の認定制度である第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)です。人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースは、令和8年8月3日から、DX化・GX化に関する訓練のうち助成対象外となる訓練の範囲と、受講回数の上限が変わりました。生成AIの研修も例として挙がっており、厚生労働省の変更点のリーフレットに対象外と対象の例が具体的に書かれています。

区分リーフレットの例・内容育成計画での置き場所
対象外生成AIを利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練(特定の業務への具体的な適用を伴わない汎用的な内容のため)全社員の基礎(1段目)。会社の費用で行う
対象外DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練全社員の基礎(1段目)。会社の費用で行う
対象の例生成AIを活用して商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練職務直結の訓練(3段目)。計画届に載せるかを判断する
受講回数同一労働者につき一の年度で3回まで、うちeラーニングは1回までeラーニングを多用する計画は組み直す

表のとおり、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ研修や、DXの概念を学ぶ研修は、この変更後は助成の対象外となる例に当たります。職務直結の訓練でも、その業務の担当者を受講者に選ぶことが条件になります。育成計画は、自社負担で行う全社員の基礎と、助成の対象になりうる職務直結の訓練を分けて組む必要があります。変更には経過措置があるため、最新の支給要領で確認してみてください。計画届の時期や助成率を含めた費用の計算例は生成AI研修の選び方と費用で取り上げています。

Reスキル講座は、IT・データを中心とした成長分野で、社会人が高度な専門性を身につけるための専門的・実践的な講座を経済産業大臣が認定する制度です。対象分野にはAIやデータサイエンスが含まれるため、推進役の中から専門性を深めたい社員が出てきたときの選択肢になります。認定の要件や講座の一覧は、経済産業省の公式ページで確認してみてください。

※助成金の内容は、2026年9月26日時点で厚生労働省の人材開発支援助成金のページと「令和8年8月3日からの変更点」のリーフレットを確認したものです。

企業の育成事例|NEC・東京海上HD・ベリサーブ

大企業の公式発表を見ると、全員向けの基礎と一部の人材の専門育成を組み合わせる形が共通しています。社員数の規模は違っても、役割と段階の分け方は中小企業の計画にも応用することが出来ます。

NEC:3階層の分類と、道場・砂場による実践

NECは2013年10月からAI人材の育成に取り組み、AI人材を研究人材、AIを社会実装する人材、AIを活用する人材の3階層に分けたと技報(2019年)で紹介しています。育成の仕組みとしてNECアカデミー for AIを設け、実践の場の道場と自己学習環境の砂場を用意した点が特徴になります。生成AIが広まる前の取り組みですが、学ぶ場と試す場を分ける考え方は今も参考になるでしょう。

東京海上HD:データサイエンティストとビジネスアーキテクトの育成

東京海上ホールディングスは、2019年にデータサイエンティスト育成プログラム「Data Science Hill Climb」を創設し、グループ従業員100名以上が受講したと2024年4月22日に発表しました。同じ発表では、ビジネスアーキテクト育成の「DX・AIビジネス企画人材育成研修」の新設を公表し、2024年7月から四半期ごとに開講する予定としています。専門人材と、業務を変える企画人材を分けて育てている点は、推進役の位置づけを考えるうえでも参考になります。

ベリサーブ:全社員約2,000名の研修と3段階

ベリサーブは、2023年からAI人材育成の社内研修を始め、2025年7月から全社員約2,000名を対象とした生成AIファンダメンタル研修を本格的に稼働させたと公表しています。研修は初級・中級・上級の3段階に分かれ、社内認定制度とコミュニティも組み合わせた形です。全員に基礎を届けたうえで上の段に進む人を絞る流れは、社員数が少ない会社でもそのまま使えます。

※各社の内容は、各社が公表した資料(NEC技報 Vol.72 No.1、東京海上ホールディングスの2024年4月22日の発表資料、ベリサーブの公式サイト)に基づく各社自身の説明です。2026年9月26日時点で確認しています。

AI人材育成を成功させるポイントと注意点

AI人材育成を成功させるには、目的を具体的にすること、経営層が関わること、評価やキャリアと結びつけること、現場に周知することの4つを押さえる必要があります。

  • 目的を測れる形で決めるどの業務で使い、何分短くするかを決めると、研修の中身と成果の測り方が同時に決まります。
  • 経営層が自分で使って見せる社員は、使ってよいという合図として受け取りやすくなります。
  • 推進役の活動を評価やキャリアに結びつける評価の項目に入れるか、少なくとも業務時間として認めることを明文化します。
  • 現場への周知を繰り返す朝礼や社内チャットで、推進役が作った手順を何度も紹介します。

注意したいのは、研修の受講そのものを目的にしてしまうことです。受講者数や受講時間は測りやすい指標ですが、業務で使われなければ育成の成果とはいえません。もう1つは推進役に負担を集めすぎることで、兼務のまま部署の相談を一手に引き受けると、本来の業務が回らなくなってしまいます。推進役を置くときは、業務の一部を他の社員に移すところまで経営層が決めることが欠かせません。会社全体のAIの管理体制の組み方はAIガバナンスの解説で整理しています。

AI人材はいらないのか|専門職と使いこなす人を分けて考える

AI人材はいらないという意見は、AIを開発する専門職を指しているのであれば、社員10〜200名の会社の多くに当てはまります。既製のAIサービスを使う会社では、モデルを作ったりデータ分析の基盤を組んだりする人材がいなくても、業務でAIを使うことは出来ます。一方で、業務を知っている社員がAIを使いこなし、使い方を部署に広める役割まで不要になるわけではありません。AIが下書きを作れるようになっても、その下書きが正しいか、社外に出してよいかを判断するのは業務を知る人の役目です。

いらないのは専門職の採用であって、使いこなす人を社内で育てることは、これから一層欠かせなくなります。会社全体で業務の進め方を見直すAX(AIトランスフォーメーション)に進む場合も、土台になるのはこの使いこなす人材の層です。AXの意味と進め方はAXとはで取り上げています。部署ごとの活用の具体例は生成AIの活用事例にまとめました。

育成の前提になる、全社員が安全に使えるAI環境

3つの役割を育てる前提として、全社員が同じ条件で安全にAIを使える会社の環境が必要になります。環境を選ぶときは、少なくとも次の4点を確かめてみてください。

  • 入力データが学習に使われない設定を、会社側で全員に一律で適用できるか社員ごとの設定に任せると、研修でいくら教えても設定の漏れが生じやすくなります。
  • 誰がいつどのAIを使ったかの利用ログを、管理者が確認できるか手順1の月1回の確認と、推進役の成果の測定に使います。
  • 全社員にアカウントを配れる料金体系か一部の社員にしか配れないと、配られなかった社員が個人のアカウントに戻ってしまいます。
  • 複数のAIを用途に合わせて使い分けられるか調べものに強いAI、長い文書の読み込みに強いAIなど、推進役が業務に合わせて選べると当てはめの幅が広がります。

4つのうち、学習に使われない設定とログの確認は、利用が広がってから後付けするのが難しい項目です。環境を後から入れ替えると、社員が作った指示文や手順の置き場所も移すことになり、育成の途中で手戻りが出てしまいます。複数のAIの使い分けについては主要4AIの違いと使い分けが参考になります。

全社員が同じ環境で学び、使えるAI基盤を

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よくある質問

人材育成の3つの方法とは何ですか?
仕事をしながら学ぶOJT、仕事を離れて学ぶOff-JT(研修)、社員が自発的に学ぶ自己啓発の3つです。AI人材育成に当てはめると、OJTは部署の推進役が同僚に業務での使い方を教えること、Off-JTは全社員向けの基礎研修や推進役向けの演習、自己啓発は公的な無料教材や資格の学習を会社が支えることになります。中小企業では、推進役が教える時間を業務として認めるOJTが進めやすい方法です。
無料で使えるAI人材育成のサービスはありますか?
経済産業省とIPAが運営するデジタル人材育成のプラットフォームであるマナビDXでは、講座を無料のものに絞り込んで探すことが出来ます。ITパスポート試験のシラバスも無料で読め、2024年4月の試験から生成AIの仕組み・活用例・留意事項の項目が加わっています。教材を配るだけでなく、見る順番と試す課題を推進役が決めてから全社員に案内すると効果が出やすくなります。
AI人材はいらないのですか?
AIを開発する専門職であれば、既製のAIサービスを使う社員10〜200名の会社の多くでは採用しなくても業務でAIを使えます。ただし、業務を知る社員がAIを使いこなし、使い方を部署に広め、出力が正しいかを判断する役割は必要です。いらないのは専門職の採用であって、使いこなす人を社内で育てることは欠かせません。
AI人材育成に役立つ資格はありますか?
全社員の基礎の目安にしやすいのは、IPAのITパスポート試験です。シラバスのVer.6.2で生成AIの仕組み・活用例・留意事項の項目が加わり、2024年4月の試験から適用されています。AIの開発や分析の専門資格は、推進役の中から専門性を深めたい社員が出てきた段階で検討すれば足ります。
AI人材育成にはどれくらいの期間がかかりますか?
最初の1周は90日を目安にできます。0〜30日で会社の環境とルールを整えて全社員の基礎研修を行い、31〜60日で推進役が自部署の定型業務1つにAIを当てはめ、61〜90日で成果を共有して次の計画を立てます。職務に直結する訓練で助成金を使う場合は、計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までに出す必要があるため、31〜60日のうちに計画届を出し、91日目以降の開始を前提に組みます。
AIの研修費用は助成金でまかなえますか?
研修の中身によります。人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースでは、令和8年8月3日からの変更点のリーフレットで、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練やDXの概念を学ぶ訓練が対象外の例に挙げられています。一方で、営業担当者が生成AIで商品提案書の構成案作成や文章生成を学ぶような、業務に直結する訓練は対象の例に挙がっています。経過措置もあるため、申請の前に支給要領とパンフレットで最新の条件を確認してください。

まとめ

AI人材育成は、専門職を雇うことより、全社員・部署ごとの推進役・管理者の3つの役割を、順番を決めて育てることから始まります。順番は、管理者が会社の環境とルールを整え、全社員が基礎をそろえ、推進役が自部署の業務に当てはめ、職務に直結する訓練へ進む流れになります。90日の計画表を下敷きに、まずは利用実態の棚卸しから手を付けてみてください。助成金は令和8年8月の変更で汎用的な研修が対象外となったため、全社員の基礎と職務直結の訓練を分けて計画しておくことが大切です。

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