
生成AIの推進体制とは、社内で生成AIを安全に使い広げるために、誰が決め、誰が手を動かし、誰が止めるかを割り当てた役割分担のことです。専任を置けない社員10〜200名の会社であれば、社長か役員が責任者を兼ね、総務か情シスの1名を推進担当として週2時間前後(本記事の目安)の兼務で任せる形で回すことが出来ます。各部門には1名ずつ推進役を置き、推進担当とは別の方に、危ない使い方を止める役を渡しておきましょう。推進担当の仕事は、相談窓口・使い方の共有・毎月の利用状況のまとめ・月1回30分の推進会議の4つに絞るのが目安となります。
導入の手順や補助金、費用といった全体像は中小企業のAI導入のはじめ方にまとめており、ここでは体制づくりのうち、兼務の推進担当と各部門の推進役が実際に何をするかに絞ってお伝えします。
生成AIの推進体制は3つの役割と1つの歯止めで考える
中小企業の生成AI推進体制は、決める責任者・手を動かす推進担当・現場で広げる各部門の推進役の3つの役割で組み立てることが出来ます。社員10〜200名の会社では、役割ごとに人を置くことは難しく、1人が2つ以上の役割を兼ねる前提になります。大切なのは人数ではなく、それぞれの役割に名前の付いた担当者がいて、社内の誰もがその名前を知っている状態です。
責任者:使ってよい範囲と予算を決める方
責任者は、どのAIを使ってよいか、何を入れてはいけないか、いくら使うかを最終的に決める方になります。社員50名前後までであれば社長、それより大きい会社でも担当役員が兼務で引き受ける形が現実的でしょう。責任者の任命の仕方や最初の仕事はCAIOとは|AI責任者の最初の仕事と中小企業での置き方にまとめており、ここからは責任者の下で動く2つの役割を詳しく見ていきます。
推進担当:窓口・共有・記録を回す方
推進担当は、社員からの相談に答え、うまくいった使い方を集めて社内に共有し、毎月の利用状況をまとめる実務の担い手です。決める権限は持たず、決めるための材料をそろえて責任者に上げる役割となります。専任を置けない会社では、総務か情シスの方に、今の仕事と兼ねて任せることになるでしょう。
各部門の推進役:自部門で使い道を見つける方
各部門の推進役は、自分の部門の業務でAIが使える場面を探し、試した結果を推進担当に届ける方です。営業なら提案書の下書き、経理なら仕訳の摘要の整理といったように、業務を知っている方でなければ見つけられない使い道があります。推進役は部門に1名で足り、特別な知識よりも、試したことを短く報告できるかどうかで選ぶと回ります。
もう1つ:危ない使い方を止められる方を別に置く
推進する側とは別に、危ない使い方を止められる方を1名決めておきましょう。AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の「Chief AI Officer 設置・AIガバナンス 実務マニュアル(Version 1.00)」(2026年3月)は、中規模企業の体制案として、停止権限を持つセーフティ担当を推進側とは独立に置き、二線防御を確保する形を示しています。二線防御とは、同マニュアルの脚注で、AI活用推進側とは独立した立場から、権利・安全・コンプライアンスの観点で停止・是正を勧告できる機能と説明されているものです。
推進担当に止める役まで兼ねさせると、広げたい気持ちが勝って止まりにくくなってしまいます。中小企業では、個人情報の管理を担当している方や経理の責任者など、推進担当とは別の方に止める役をお願いすることが出来ます。
※AISIの実務マニュアルと同時に公表されたガイドブックには、法的拘束力を有するものではないと明記されています。内容は2026年9月28日時点で掲載ページ(aisi.go.jp)の公表資料を確認しています。
調査で見る、生成AIの推進を誰が担っているか
生成AIの推進を主導しているのは、専任の部署よりも、IT部門の長や経営層であることが多いと調査から読み取れます。専任の担当を置いている会社は、大きな調査でも1割に届いていません。実際の数字を見てみましょう。
情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2026」(2026年7月30日公表・有効回答1,799社・調査期間は2026年4月中旬〜6月中旬)では、AIを導入・試験利用・検討している企業1,189社に、AI導入・利活用のリーダーシップを誰が担っているかを尋ねています。結果は、IT部門の長が46.0%、経営層が32.1%、導入や利活用する現場の長が27.5%で、CAIO以外の専任者は9.8%、CAIO(最高AI責任者)は2.9%にとどまりました。特に担っている者はないという回答も9.7%あり、同調査は、AI利活用を専門的に主導する体制が整っている企業はまだ少ない状況にあるとまとめています。
※IPA「DX動向2026」第1版 p.42 図表3-23。各割合の合計は100%を超えています。2026年9月28日時点で公表資料を確認しています。
中小企業に絞った調査でも、人の不足ははっきり表れているようです。商工組合中央金庫の「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」(2026年1月調査・同年3月31日公表・取引先中小企業3,892社が回答)では、生成AIの課題や導入しない理由(複数回答)として、導入を推進する人材がいないが32.0%を占めました。同じ調査では、会社としての導入はなく使用は個人の判断に任せているという回答が64.9%に上りました。さらに同調査は、生成AIを積極的に活用している企業を会社による導入と個人登録AIの利用推奨に分けて比べ、会社による導入のほうが経営へのプラス効果を感じている割合が10ポイント以上高いことから、会社主導によるトップダウン的なアプローチが必要である可能性が示唆されるとしています。
組織として取り組んでいない会社の多さは、国際比較でも目立ちます。総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月)によると、生成AIによる業務変革について組織的な取組はないと答えた日本企業は27.0%(n=497)で、米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%より高い結果となりました。
IPAの同じ調査では、課題として専門人材が不足しているが50.1%で挙がっています。推進を担える人がいないと感じている会社は、決して少なくありません。ただ、必要なのは専門人材の採用ではなく、社内の誰かに役割と時間を渡すことだと考えられます。
社員10名・50名・200名の推進体制表(目安の例)
規模ごとの体制は、責任者は兼務、推進担当は1〜2名の兼務、部門の推進役は部門に1名という形を土台に、人数に合わせて足し引きするのが目安となります。下の表は、AISIの体制案を社員数に当てはめて作った目安の例で、調査で得られた数字ではありません。
| 社員10名 | 社員50名 | 社員200名 | |
|---|---|---|---|
| 責任者 | 社長 | 社長(または役員) | 担当役員(兼務) |
| 推進担当の置き方 | 社長が兼ねる、または総務の1名 | 総務か情シスの1名(兼務) | 総務・情シスから2名(兼務) |
| 各部門の推進役 | 置かない(全員が直接相談) | 部門ごとに1名(3〜5名) | 部門ごとに1名(6〜10名) |
| 止める役 | 社長以外の1名(経理・総務など) | 個人情報の管理担当など | 情報セキュリティの責任者など |
| 推進担当の時間 | 週1時間 | 週2時間+月初に1時間 | 1名あたり週2〜3時間 |
| 集まる場 | 月1回・15分 | 月1回・30分 | 月1回・30分+四半期に1回、社長の決裁 |
| 外部に頼るところ | 利用ルールのひな形、アカウントの設定 | セキュリティ設定の点検 | 法務の確認、セキュリティの点検 |
※AISIの実務マニュアルは、7.4で従業員数数百名程度までの中規模企業(AIユースケースが年間数十件未満)、7.5で従業員数十名程度までのスタートアップを想定した体制案を示しています。7.5は、自社製品の出荷やリリースの停止権限を前提にした、従業員数十名程度までのスタートアップ向けの想定で、CAIO機能をCEOかCTOが兼務し、プロダクト以外のメンバーをセーフティオーナーに指名する形です。10名の列は、この考え方を一般の会社に置き換えた例です。時間の数字はいずれも目安の例です。
10名の会社:社長が兼ね、止める役だけ分ける
社員10名の会社では、社長が責任者と推進担当を兼ね、全員が直接社長に相談する形で回すことが出来ます。その代わり、止める役だけは社長以外の方、例えば経理や総務の方にお願いしておくと安心です。
50名の会社:推進担当1名と部門の推進役
社員50名の会社は、推進担当を1名置き、部門ごとの推進役と月1回集まる形がちょうどよい規模になります。推進担当の時間は週2時間前後を目安に、月初だけ1時間足す形で考えてみてください。
200名の会社:推進担当を2名にして分担する
社員200名になると、相談の件数も部門の数も増え、推進担当1名では窓口が詰まりやすくなってしまいます。推進担当を2名にして、1名は相談窓口と共有、もう1名は利用状況の集計とルールの管理、と分けることが出来ます。AISIの7.4が示す、専用のガバナンス室を設けることが難しい場合に1〜3名のバーチャル体制で運用する考え方にも近い形です。
外部に頼ってよいところ、社内に残すところ
社内に担当部門がない役割は、外部に頼ることも選べます。AISIの同じ箇所は、IT責任者が不在なら外部のMSP(システムの運用や監視を請け負う事業者)やクラウドベンダーのセキュリティチーム、法務部門が不在なら顧問弁護士やDPOの外部サービスを代わりとして挙げています。外部に任せるのは設定や法務の確認にとどめ、相談窓口と使い方の共有は社内の方が持ちましょう。現場の質問に答えられるのは、業務を知っている社内の方だけだからです。
推進担当は誰に任せるか|向く人・向かない人
推進担当に向くのは、AIに一番詳しい方ではなく、社内で相談を受けることが多く、週に数回は自分でも生成AIを使っている方です。詳しさは後から身に付きますが、社内の誰に聞けば何が分かるかという土地勘は、すぐには身に付きません。候補が複数いるときは、下の2つの一覧で当てはまる数を比べてみてください。
推進担当に向く人
- 社内の誰に聞けば何が分かるかを知っていて、部署をまたいだ頼まれごとが多い
- 上手かどうかより、週に数回は自分で生成AIを使い続けている
- 困りごとの相談を受けたとき、すぐに返事をする習慣がある
- 決まりごとを短い文章にまとめるのが苦にならない
- 危ないと感じたときに、上の立場の方にも止めてほしいと言える
推進担当に向かない人
- AIには詳しいが、入社して間もなく社内の業務や人をまだ知らない
- 決算や給与計算など、締めの仕事を1人で抱えている
- 端末やネットワークの保守を1人で担っている情シスの方
- 使うことには熱心でも、危ない使い方を止める側に立つのが苦手
- 本人が引き受けたくないと言っている
IPAの調査では、AI導入・利活用を主導しているのはIT部門の長が46.0%と、選択肢の中で最も多い結果でした。情シスの方が推進担当を兼ねること自体は自然ですが、保守を1人で抱えている場合は、相談窓口だけでも総務に分けることを考えましょう。1人に保守と推進の両方を載せると、相談への返事が遅れ、現場は聞かずに使い始めてしまいます。
兼務の推進担当の1週間|何曜日に何を何分やるか
兼務の推進担当の仕事は、週2時間を5日に分け、1回15〜30分の決まった作業にしておくと続けやすくなります。まとめて半日取ろうとすると、本業の締めに押されて後回しになってしまいます。下は社員50名の会社を想定した時間割の例で、曜日は自社の繁忙に合わせて入れ替えてください。
- 月曜・15分|相談窓口の返事社内チャットの専用チャンネルなど、相談窓口に届いた質問に答えます。答えられないものは責任者か止める役に回し、未回答を週をまたいで残さないようにします。
- 火曜・30分|使い方の例を1件清書する部門の推進役から届いた使い方を、ほかの部門の方がそのまま真似できる形(使った場面・入力した指示・確認したこと)に直して、社内の共有ページに載せます。
- 水曜・15分|ヒヤリハットの確認届いた報告を読み、利用ルールに照らして返事をします。同じ種類の報告が続くときは、月次の推進会議の議題に回します。
- 木曜・30分|申請の仕分け新しく使いたいAIや機能の申請をまとめ、責任者が決めるものと、今のルールの範囲で答えられるものに分けます。
- 金曜・30分|全社への短い投稿今週の使い方の例1つと、注意点1つを全社のチャットに投稿します。長い文章にせず、3〜5行で十分です。
- 毎月第1週に+60分|指標シートと会議資料前月の利用状況を指標シートにまとめ、月1回の推進会議の資料を作ります。
合計すると週120分で、月初の週だけ180分に増えます。ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、入れてはいけない情報を入れかけた、あるいは入れてしまったといった危うい出来事のことです。時間は本人の感覚に任せず、責任者が業務の一部として認めることが、兼務を続けるための条件となります。
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推進担当が毎月見る指標シート
推進担当が毎月見る数字は、利用者数・相談件数・ヒヤリハット件数を中心に、多くても8項目に絞るのが目安です。数字が多すぎると集計だけで月初の1時間が終わり、中身を話し合う時間が残りません。利用者数やどのAIがどれだけ使われたかは、会社で契約しているAIサービスの管理画面から利用ログを書き出せれば、手で数えずに済みます。
- 1. 利用者数と利用率その月に1回以上使った人数と、対象の社員数に対する割合。利用ログの利用者の列から数えます。
- 2. 部門別の利用者数利用ログの利用者を社員名簿の部門と突き合わせて、推進担当が数えます。
- 3. AIモデル別の利用回数どのAIがよく使われているかを見て、使わせるAIの見直しの材料にします。
- 4. 相談件数と未回答の件数相談窓口に届いた質問の数と、月末に答えが出ていない数。
- 5. ヒヤリハットの件数と種類個人情報、取引先の情報、社外秘の資料など、何を入れかけたかの内訳。
- 6. 共有した使い方の例の数火曜に清書して共有ページに載せた件数と、どの部門から届いたか。
- 7. 会社が認めていないAIの利用の申告・発見件数個人のアカウントや無料版の利用に気づいた件数。責める材料ではなく、会社の環境に足りないものを知る材料として扱います。
- 8. 短くなった作業の報告(自己申告)部門の推進役から月1件ずつ届く、短くなった作業と時間の目安。
部門別の数字はログと社員名簿を突き合わせて数える
管理画面から書き出せるログが利用者単位であれば、社員名簿の部門と突き合わせることで部門別の利用者数を数えることが出来ます。表計算ソフトで利用者名をもとに部門を引き当て、ピボットテーブルで部門ごとに数える形であれば、月に15分ほどで終わるでしょう。利用率が低い部門は、推進役に困りごとを聞きに行く先として使ってみてください。
効果の数字は自己申告として扱う
作業時間がどれだけ短くなったかは、部門の推進役に、短くなった作業と時間の目安を月に1件ずつ報告してもらう形で集めることが出来ます。本人の感覚による自己申告の数字なので、社外に出す資料では調査値のように扱わないようにしましょう。IPAの調査でも、生成AIの効果やリスクに関する理解が不足しているという課題が45.8%で挙がっており、社内で効果の例を見せ続けることが理解を広げる材料になります。
指標シートは、社長に見せるための報告書ではなく、翌月に何をするかを決めるための材料として使いましょう。
月1回30分の推進会議|議題の例とCoEの代わり方
推進体制を動かし続ける場は、月1回30分の推進会議を1つ持つことで作ることが出来ます。AISIの実務マニュアルは中規模企業の体制案で、会議体をAI責任者・セーフティ担当・業務責任者による月次のレビューと、四半期のCEO決裁に簡素化する形を示しています。兼務の会社に置き換えると、社長・推進担当・止める役・各部門の推進役が月に1回集まり、3か月に1回は社長が予算や使うAIの変更を決める形になります。
- 最初の5分|指標シートの前月との比較推進担当が、利用者数・相談件数・ヒヤリハット件数の増減だけを読み上げます。
- 次の10分|ヒヤリハットと相談の中身止める役が、利用ルールを書き足す必要があるかを判断します。
- 次の10分|新しい使い道と申請の可否推進担当が材料を出し、社長がその場で決めます。決められないものは期限を決めて持ち帰ります。
- 最後の5分|来月やることを1つ担当者と期限を決めます。やることは1つに絞ります。
議事録は残しますが、決まったこと・担当者・期限の3行で足ります。
CoEは中小企業では推進会議で代わりにする
CoE(センター・オブ・エクセレンス)とは、社内の知見を1か所に集め、各部門のAI活用を横断で支えるチームのことです。CoEは専任の部署として置く形も考えられますが、専任を置けない会社では、推進担当と各部門の推進役が集まる月1回の場が、CoEの役目を果たすことになります。新しい部署を作らなくても、集まる日と共有する場所さえ決まっていれば、横断のチームとして機能させることが出来ます。共有する場所は、社内チャットの専用チャンネルと、使い方の例を貯めるページの2つがあれば十分でしょう。
推進担当と部門の推進役を頼むときの依頼文ひな形
推進担当と各部門の推進役は、社長の名前で全社に知らせてから動き始めると、現場から相談が来やすくなります。本人への口頭の依頼だけでは、周りの社員が誰に聞けばよいか分からず、窓口が使われないままになってしまいます。下の2つのひな形は、会社名や日付、使っているサービス名を差し替えてそのまま使うことが出来ます。
ひな形1:社長から全社への告知文
件名:生成AIの推進担当と相談窓口について 社員各位 業務での生成AIの利用を会社として進めるため、本日付で次のとおり担当を決めました。 ・責任者:(社長名) ・推進担当:(氏名・所属) 相談窓口の運営、使い方の共有、毎月の利用状況のまとめを担当します ・利用を止める判断をする担当:(氏名・所属) 危ない使い方に気づいたときは、推進担当を通さず直接連絡してください ・各部門の推進役:(部門名と氏名の一覧) 使ってよいAIと、入力してはいけない情報は、利用ルール(社内ページの場所)にまとめています。迷ったときは、使う前に相談窓口(チャットのチャンネル名)へ書き込んでください。 入れてはいけない情報を入れてしまったときも、責めることはしません。すぐに相談窓口か、止める判断をする担当へ知らせてください。 推進担当は本来の業務と兼ねて、週2時間ほどこの仕事にあたります。返事に1営業日ほどかかることがありますので、ご了承ください。 (日付) (社長名)
ひな形2:推進担当から各部門の推進役への依頼文
(部門名) (氏名)さん 生成AIの推進役を、(部門名)からお一人お願いしたく、ご連絡しました。社長の了承は得ています。 お願いしたいことは次の3つです。 ・部門の仕事でAIが使えそうな場面を探し、試した結果を月に1件、相談窓口に書き込む ・部門の方から受けた質問のうち、答えられないものを推進担当に回す ・月1回30分の推進会議(毎月第2火曜の16時など)に出席する 時間の目安は月に2時間ほどです。評価面談ではこの役割を業務の1つとして扱うよう、(上長の氏名)さんと確認しています。 ご都合が合わない場合は、遠慮なくお知らせください。 (推進担当の氏名)
兼務の時間を業務として扱う
兼務の役割は、評価の対象にならないと、忙しい月から順に後回しになってしまいます。手当の金額を決めなくても、評価面談の目標に推進の項目を1つ入れ、上長がその時間を業務として認めるだけで扱いは変わります。年に1回、使い方の例を多く届けてくれた方を社内で紹介するなど、お金をかけない形から始めてみましょう。
立ち上げ・定着・広げる段階で体制を変える
推進体制は最初から完成形を作る必要はなく、立ち上げ・定着・広げるの3つの段階で、担当の役目と会議の回数を変えていくのが目安となります。AISIの実務マニュアルも、体制設計の原則の1つに、成熟度に応じた段階的拡張を挙げています。
立ち上げ:最初の90日は範囲と窓口を決める
最初の90日は、使ってよい範囲と相談窓口を決め、社員に知らせることに集中します。AISIのマニュアルの付録は、最初の90日間のゴールを、誰がどこまで決められるのかという権限と意思決定の枠組みを明文化し、全社で共有されたAI原則と現状把握をそろえることとしています。同じ付録には、社内ポータル・FAQ・相談窓口による社内周知の計画や、相談窓口や社内アンケートを通じたクイックウィン(すぐに成果の出る使い方)の候補集めが項目として並んでいます。この段階では部門の推進役はまだ置かず、推進担当と社長の2人で回して構いません。
定着:4か月目からは部門の推進役と月次の会議
利用者が増えてきたら、部門ごとの推進役を置き、月1回の推進会議を始めます。推進担当の週の作業表が回り始めるのもこの段階で、指標シートの数字が3か月分そろうと、どの部門で使われていないかが見えてきます。
広げる:個人の使い方を部署の手順に移す
使い方が部門に根付いてきたら、推進担当を2名に増やすか、推進会議の議題を業務の手順そのものの見直しへ移していきます。IPAの調査では、生成AIを個人で業務利用しているという回答が63.3%だったのに対し、部署の業務プロセスに組み込まれているという回答は11.9%でした。個人の使い方を部署の手順に移すことが、この段階の推進役の仕事となります。
※IPA「DX動向2026」p.29。AIを導入・試験利用・検討している企業が対象の複数回答で、全社的なサービスに組み込まれているという回答は18.6%です。
推進担当と現場の育て方|研修より毎週の共有
推進担当と現場の方のAIの力は、年に1回の研修よりも、毎週の短い共有を続けることで育てていくことが出来ます。研修で一度に教えた内容は、業務で使う場面がないと忘れられやすくなってしまいます。
推進担当自身の学び方
推進担当が最初に身に付けるのは、指示文の上手な書き方より、利用ルールと、入れてはいけない情報の見分け方です。使い方の技術は、各部門の推進役から届く例を清書しているうちに自然と増えていくでしょう。情報漏洩の経路や設定の確認項目は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストを一度通して読んでおいてください。
現場へのリテラシー教育は3つの場で回す
現場の方への教育は、入社時や利用開始時の説明、毎週金曜の投稿、月1回の共有の3つで回すことが出来ます。説明の中身は、使ってよいAI、入れてはいけない情報、困ったときの相談先の3点に絞りましょう。ヒヤリハットを報告した方を責めないと社長の名前で約束することが、報告が集まる条件になります。責められると分かっていれば、入れてしまった情報は誰にも知らされないまま残ってしまいます。
兼務の推進体制がつまずく5つの形
兼務の推進体制がつまずくのは、多くの場合、人の力不足ではなく、役割や時間の決め方に原因があります。よくある形を5つ挙げますので、自社に当てはまるものがないか確かめてみてください。
1. 責任者が決めず、推進担当に丸投げする
推進担当には決める権限がないため、使ってよいかの判断を求められても答えられず、相談が止まってしまいます。決める人と材料をそろえる人を分けることが、兼務の体制の前提となります。
2. 情シスだけで抱える
情シスの方に推進まで任せると、設定や安全の話は進んでも、現場の業務での使い道が集まりにくくなってしまいます。部門の推進役を置き、使い道の発見は現場に任せましょう。
3. 現場任せで、会社としては何もしない
使うかどうかを個人の判断に任せたままにすると、会社が把握していないAIに業務の情報が入る状態が続きます。商工中金の調査で64.9%を占めた個人の判断に任せる形は、この状態に近いものです。会社が把握していないAIの利用はシャドーAI(野良AI)と呼ばれ、推進体制づくりはその対策にもなります。
4. 兼務の時間が決まっていない
時間を決めずに兼務を頼むと、本業の繁忙期に推進の仕事がすべて止まり、再開のきっかけを失ってしまいます。週の作業表のように、曜日と分数まで決めて責任者と共有しておきましょう。
5. 止める役がいない
推進担当だけで回すと、広げることと止めることを同じ人が判断することになります。止める役を推進担当とは別の方に渡すことが、安心して広げるための土台です。迷ったときの判断を1人で抱えずに済むため、推進担当の負担も軽くなるでしょう。
社長が引き受けることと、利用ルールの決め方
推進体制が機能するかどうかは、社長が推進担当に任せきりにせず、自分の言葉と時間を出すかどうかで大きく変わります。商工中金の調査が、会社主導によるトップダウン的なアプローチが必要である可能性を示しているのも、この点と重なります。
経営層のコミットメントは3つの行動で示す
社長のコミットメントは、言葉よりも次の3つの行動で社員に伝わります。
- 推進担当と止める役を、社長の名前で全社に知らせる
- 月1回の推進会議に、少なくとも最初の3か月は出席する
- 推進担当と推進役の兼務の時間を業務として認め、評価面談で扱う
どれも費用のかからない行動ですが、社員に会社の本気度を伝える材料になります。予算の考え方を決める際は、生成AIのコスト管理も参考にしてみてください。
利用ルール・ガイドラインは推進担当が下書きし、責任者が決める
利用ルールは、推進担当が下書きを作り、止める役が危ない点を確認し、社長が決めて発表する順で作ることが出来ます。最初の版に入れるのは、使ってよいAI、入力してはいけない情報、出力を使う前に人が確かめること、相談先の4つで足ります。IPAの調査では、適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しいという課題が39.7%で挙がっています。最初から完全なものを目指さず、推進会議でヒヤリハットをもとに書き足していく前提で始めましょう。禁止事項や情報セキュリティの書き方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方で項目ごとに紹介しています。
推進担当が、利用状況を管理画面で確かめられる環境を
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UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
生成AIの推進担当は、専任でなければ務まりませんか?
推進担当とCAIO(AI責任者)は何が違いますか?
情シスがいない会社でも推進体制は作れますか?
各部門の推進役は何人置けばよいですか?
推進会議は毎月開く必要がありますか?
推進担当や推進役に手当は必要ですか?
まとめ
専任を置けない中小企業の生成AI推進体制は、社長か役員が責任者を兼ね、総務か情シスの1名を推進担当に、各部門に1名の推進役を置き、止める役を推進担当とは別の方に渡す形で組むことが出来ます。推進担当の仕事は、週2時間前後の兼務で、相談窓口・使い方の共有・毎月の指標シート・月1回30分の推進会議の4つに絞るのが目安です。大切なのは、役割と時間を社長の名前で決めて全社に知らせ、兼務の時間を業務として認めることになります。まずは推進担当を1名決め、依頼文のひな形を自社の名前に差し替えるところから始めてみてください。法人のAI活用に関するほかの記事はAI活用コラム一覧にまとめています。
