セキュリティ・社内ルール

ディープフェイク詐欺の手口と事例|会社が狙われるパターン

公開 2026.11.03 更新 2026.11.03
執筆:中里 吉利(コプラス株式会社 代表取締役)
ディープフェイク詐欺の手口と事例。会社が狙われるパターン

ディープフェイク詐欺とは、AIで合成した実在の人物の顔や声を使って相手を信じ込ませ、お金や情報を引き出す詐欺のことです。会社が狙われる型の中心は、社長や幹部になりすまして、経理担当に急ぎの送金をさせる手口になります。電話の声・ビデオ会議・メールと届く経路は違っても、いつもと違う経路で、急ぎで、内密にという3つの合図は共通しています。映像や声で見抜くことは難しいため、止める決め手は見た目ではなく、正規の経路で確かめ直す手順となります。

会社を狙うAIがらみの攻撃の全体像はAIセキュリティとはで整理しており、ディープフェイク詐欺はその中でも、お金の被害に直結しやすい種類です。送金確認や二人承認、合言葉、通知文のひな形といった対策の詳しい中身は、ディープフェイク対策の記事にまとめてあります。

ディープフェイク詐欺とは|会社を狙う中心は経営者・幹部へのなりすまし送金

会社に向けられるディープフェイク詐欺は、経営者や幹部になりすまして、送金の権限を持つ社員にお金を動かさせる形が中心になります。総務省の令和6年版情報通信白書は、ディープフェイク技術を使えば、実在する人物が実際には言っていないことを話しているかのような動画を簡単に作れると説明しています。同白書は、世界各国でディープフェイクによる情報操作や犯罪への利用が増加しているとも書いており、詐欺もその広がりの中にあります。

社員10〜200名の会社では、社長から経理担当へ直接指示が届く場面が珍しくありません。時事通信は2026年1月、幹部と社員の距離が近い中小企業がニセ社長詐欺で狙われやすいと報じました。狙われるのは、社長の指示1つでお金が動く会社の仕組みそのものです。このニセ社長詐欺はメールとSNSの文字だけの手口ですが、社長の顔や声まで偽造されれば、同じ型の詐欺がより信じ込みやすい形で届くおそれもあります。

ディープフェイクの危険性は送金詐欺だけにとどまらず、白書が触れている情報操作のように、会社や社長の評判を傷つける偽動画として出回る場合も考えられます。ただ、会社が最初に備えるべきなのは、お金が直接動く送金の場面になるでしょう。自社で送金を決められる人が誰と誰なのかを思い浮かべながら、この先の表を読んでみてください。

手口の判断表|なりすます相手×届く経路×要求の中身

ディープフェイク詐欺の手口は、なりすます相手・届く経路・要求の中身の3つで分けると、自社に来たときにどれに当たるかを見分けやすくなります。下の表は、当局の発表か大手の報道で公表されている事例がある組み合わせだけを並べたものです。

なりすます相手届く経路要求の中身公表事例(出典の種類)
社長・親会社のトップ電話(声)送金2019年、英国のエネルギー会社で、親会社トップの声と信じた子会社CEOが22万ユーロを送金(WSJの報道を各紙が引用)
CFO・同僚(複数人)メッセージ→ビデオ会議送金(15回)2024年、香港の多国籍企業(のちにArupと報道)で約2億香港ドル(香港警察の説明をAFP・CNNが報道)
CEOメッセージアプリ→通話(声)秘密保持契約への署名と為替ヘッジ取引を求められたが、本人確認の質問で通話が切れた(未遂)2024年、フェラーリの幹部への接触(Bloombergの報道。同社はコメントせず)
会社の幹部リアルタイムのビデオチャットだまし取る目的全般2024年12月、FBIが犯罪者による生成AIの悪用の1つとして警告(当局発表)
現職・元の米政府高官テキスト+AI生成の音声メッセージ個人アカウントへのアクセス(認証情報)2025年5月、FBIが2025年4月以降の手口として警告(当局発表)
著名人SNS上の広告(画像・動画)投資・入金警察庁がSNS型投資詐欺で著名人の画像や動画を無断で使った広告を確認と公表(ディープフェイクかどうかの記載はなし)。2026年に7府省庁の要請、自民党の提言(当局発表・報道・政党の提言)
求人への応募者採用面接(オンライン)社内システム・顧客情報・財務データへのアクセス2022年6月、FBIがリモートワークの求人への応募での悪用を警告(当局発表)
実在または架空の本人オンラインの本人確認本人確認・認証のすり抜け2024年11月、米財務省のFinCENが金融機関に警戒を呼びかけ(当局発表)
社長(参考:文字だけの手口)メール→SNSグループ口座残高の回答→送金2026年2月、警察庁のニセ社長詐欺の注意喚起(当局発表。声や映像の偽造は含まれない)

※2026年11月3日時点で各機関・各社の公開情報で確認。報道は報じた媒体を、当局発表は発表した機関を書いています。国内のニセ社長詐欺はディープフェイクを使った事例ではありませんが、流れが同じため参考として載せています。

表を横に読むと、相手と経路が違っても、要求は送金・残高の回答・認証情報・投資の入金・取引の実行のどれかに行き着くことが分かります。自社に関係しそうな行に印を付け、その要求が来たときに誰へ確かめるかを決めておきましょう。経理・総務の方なら上の3行と最後の1行、採用や情シスの方なら面接と本人確認の行が、まず気にしたい行になります。

ビデオ会議に誘導されるまでの流れと、止められる分岐点

公表された2つの事例を並べると、どちらも文字の連絡で始まり、別の場で信じ込ませてから送金に進んでいます。最初の連絡の段階で立ち止まれば、その先の段階には進まずに済む構造です。

香港Arup事件の流れ|メールで疑い、ビデオ会議で信じた

CNNは2024年2月、香港警察の説明として、財務部門の社員が英国本社のCFOを名乗るメッセージを受け取ったところから事件が始まったと報じました。社員は当初、内密の取引が必要だという内容から、フィッシングメールではないかと疑ったとされています。ところがビデオ会議に参加すると、ほかの参加者が見た目も声も知っている同僚そのものだったため、疑いを捨てて送金に応じたというのが警察の説明です。

警察が1月29日に届け出を受けた時点で、約2億香港ドル(報道では約2,600万米ドル)が15回の送金で失われていました。詐欺が分かったのは、社員があとから本社に確認したときだったと報じられています。同年5月には英紙ガーディアンなどが被害企業はArupだと報じ、同社は偽の音声と映像が使われたことを認めました。

段階起きたこと止められた分岐点
1. 最初の連絡英国本社のCFOを名乗るメッセージで、内密の取引を求められる社員自身が疑った段階。ここで登録済みの番号からCFO本人に確かめれば止まる
2. ビデオ会議同僚そっくりの複数の参加者が並ぶ会議に呼ばれる会議の画面は信用の根拠にしない。会議の外の経路で確かめる
3. 送金15回に分けて約2億香港ドルを送金1回目の前に別の人の承認を入れる。2回目以降にほかの人が気づく機会を作る
4. 発覚社員が本社に確認して判明この確認を1の段階でしていれば止まった

国内のニセ社長詐欺の流れ|メールからSNSグループ、残高の回答、送金へ

警察庁が2026年2月に注意を呼びかけたニセ社長詐欺は、声や映像の偽造を使わない文字だけの手口ですが、段階の踏み方は香港の事件とよく似ています。

段階起きたこと(警察庁の説明)止められた分岐点
1. 最初の連絡サイトなどで公開されている法人のメールアドレスに、実在する社長名・会社名でメールが届く社長からのメールが代表アドレスに届くこと自体を不自然と受け止める
2. SNSグループへの誘導新しいプロジェクトのためなどと業務をよそおい、SNSグループの作成と招待用QRコードの返信を指示。振込権限を持った担当者を含めるよう求められる場合もSNSグループを作るよう言われた時点で、ふだんの社内の連絡手段で社長本人に確かめる
3. 残高の回答グループ内で口座残高を答えさせる残高を外部の場で答えない。社内ルールで禁じておく
4. 送金事業資金が至急必要、取引先への支払いを代行してほしいなどとして送金させる送金前に別の人の承認と本人確認を入れる

時事通信によると、警察庁には2025年12月中旬から2026年1月15日までに全国で39件の相談があり、うち16件で実際にお金がだまし取られ、被害総額は約5億4000万円にのぼりました。2つの流れを見比べると、偽の映像を使うかどうかに関わらず、止めどころは同じ場所にあることが分かります。いちばん止めやすいのは、偽の映像が出てくる前の、最初の文字の連絡の段階です。ビデオ会議やSNSグループに移ってからでは、周りに人がいる安心感や急ぎの空気に押され、立ち止まりにくくなってしまいます。

国内外の公表事例の年表|2019年から2026年まで

公表事例を年順に並べると、声の偽造から始まり、2024年にビデオ会議の事件と当局の警告が増え、2026年には国内の注意喚起と政策の動きが重なってきたことが分かります。出典の種類の欄では、当局や公的機関が自ら出したものと、報道で伝えられたものを分けて書きました。

時期出来事出典の種類
2019年英国のエネルギー会社の子会社CEOが、ドイツの親会社トップの声と信じてハンガリーの取引先へ22万ユーロを送金報道(WSJの報道を各紙が引用)
2022年6月FBIが、リモートワークの求人への応募でディープフェイクと盗んだ個人情報が使われる苦情の増加を警告当局発表(FBI IC3の公共広告)
2024年2月香港で、ディープフェイクを使ったビデオ会議により約2億香港ドルが15回の送金で失われたと警察が説明当局の説明を報道(AFP配信、CNN)
2024年5月香港の事件の被害企業は英国の設計・エンジニアリング会社Arupと報じられ、同社は偽の音声と映像が使われたことを認める報道(英紙ガーディアンなど)
2024年7月フェラーリのCEOを装うメッセージと、声をまねた通話が幹部に届き、本人しか知らない質問で通話が切れる報道(Bloomberg。同社はコメントせず)
2024年11月米財務省のFinCENが、ディープフェイクを使った本人確認のすり抜けについて金融機関に警戒を呼びかけ当局発表(FinCENのアラート)
2024年12月FBIが、生成AIで声をまねた短い音声や、会社幹部とのリアルタイムのビデオチャット用の動画が作られていると警告当局発表(FBI IC3の公共広告)
2025年5月FBIが、2025年4月以降、現職・元の米政府高官を装うテキストとAI生成の音声メッセージが送られていると警告当局発表(FBI IC3の公共広告)
2025年12月〜2026年1月国内でニセ社長詐欺の相談が39件、うち16件で詐取、被害総額約5億4000万円(メールとSNSの文字の手口)報道(時事通信。警察庁の話として)
2026年1月IPAの情報セキュリティ10大脅威2026で、組織編3位にAIの利用をめぐるサイバーリスクが初めて選ばれる公的機関の発表(IPA)
2026年2月警察庁がニセ社長詐欺(メール→SNSグループ→残高の回答→送金)に注意を呼びかけ当局発表(警察庁)
2026年5月自民党がディープフェイク詐欺広告の対策に向けた提言をまとめる政党の提言(党のサイト)
2026年6月警察庁が2025年のSNS型投資詐欺の確定値を公表(認知9,523件・被害額1,288.0億円)当局発表(警察庁)
2026年8月7府省庁がSNS事業者などになりすまし詐欺広告への対策を要請報道(Internet Watch)
2026年10月Genが、2026年4〜6月に日本でブロックしたディープフェイク動画関連の攻撃は前期の約9倍と発表企業発表(同社集計・第三者の検証なし)

※2026年11月3日時点で各機関・各社の公開情報で確認。2019年の例はWSJの原文ではなく、各紙の引用で確認できる範囲で書いています。

2019年の英国の例は、WSJが報じたところでは、子会社のCEOが親会社トップの声と信じて取引先へ送金したというものです。保険会社の担当者は、声のドイツ語なまりや話し方の抑揚から本人だと信じたと説明したと伝えられています。ディープフェイク詐欺がいつから広がったのかと聞かれたら、公表事例では2019年ごろに声の偽造による被害が報じられ、2024年から映像を使う手口と当局の警告が目立ち始めた、と答えることが出来ます。国内の欄は、警察庁などが公表したメールとSNSによるニセ社長詐欺と、国の対策の動きが中心となります。

社長の声や映像を、会社の外に出さない仕組みを

社長の声や会議の録画を、社員が個人のAIに入れない仕組みを会社で用意しておきましょう。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

ビデオ通話とリアルタイムの顔入れ替え|録画型から会話できる型へ

ビデオ会議を使う手口には、事前に録画した映像を流す型と、通話中にリアルタイムで顔や声を差し替える型の2つがあると考えると整理しやすくなります。香港の事件で使われた映像は、AFP配信の記事によると事前に録画されたもので、被害者と会話をする形ではなかったとされます。会議には複数の参加者がいたものの、被害者以外は全員がなりすましだったと報じられました。

一方でFBIは2024年12月の公共広告で、犯罪者が生成AIを使い、会社幹部とのリアルタイムのビデオチャットに使う動画まで作っていると警告しています。2022年6月にもFBIは、リモートワークの求人への応募でディープフェイクが使われ、面接で唇の動きと声が合わない例があると伝えました。

録画型であれば質問に答えられないため、会議の中で本人しか知らないことを尋ねると不自然さが表に出やすくなります。リアルタイム型が広がると、その場で受け答えができる相手を前提に考えなければならなくなってしまいます。画面の向こうで会話が成り立つことは、本人である証拠になりません。採用面接も同じで、ITのように社内システムや顧客情報・財務データに触れる職は、FBIが警告した手口の対象になり得ます。オンライン面接の多い会社は、本人確認書類と面接の顔を照らし合わせる手順を一度見直してみてください。

素材が少なくても作れる|生成AIとディープフェイクの関係

ディープフェイクは、公開されている短い動画や音声からでも作られるおそれがあり、生成AIの広がりで作る手間も下がってきています。FBIの2024年12月の公共広告は、犯罪者が生成AIで詐欺の規模を広げ、親族の声をまねた短い音声や、偽の身分証、偽のプロフィール写真まで作っていると説明しました。同じ広告は対策の1つとして、ネットに公開する自分の画像や音声を絞ることを挙げています。

社長が登壇した講演動画、採用ページのインタビュー、SNSのライブ配信などは、会社の魅力を伝える一方で、声と顔の素材にもなってしまいます。社長の声と顔が長く映った動画ほど、まねる側にとって使いやすい素材です。公開をやめる必要まではありませんが、どこに何本出ているかを広報か総務で一度数えてみましょう。数えたうえで、古いインタビュー動画や社内向けだった配信の録画など、外に出しておく理由が薄いものから整理していくことが出来ます。

生成AIそのものが悪いわけではなく、同じ技術は会社の資料づくりや議事録の要約にも使われています。気を付けたいのは、社長の声や会議の録画を、会社が管理していない個人のAIに入れてしまう使い方で、この点は後半の節で取り上げます。

目視では見抜けない|見分け方より手順で止める

ディープフェイクを見た目や声だけで見抜くことは難しく、見分け方は補助と割り切って、手順で止める考え方が現実的です。内閣官房の偽情報に関するページも、生成AIやディープフェイクによって、人の目では真偽を見極めることが難しいと説明しています。香港の事件でも、社員は会議の参加者が知っている同僚と同じに見え、同じように聞こえたことで疑いを捨てたと報じられました。

目の動きや、口元と声のずれ、輪郭のゆがみといった違和感は、気づけたときの手がかりにはなります。FBIが採用面接で唇の動きと声が合わない例を挙げたように、見分けられる場面がまったくないわけではありません。違和感がなかったことを、本物だと決める理由にしないことが大切です。見分け方の具体的な項目と検知ツールの限界は、ディープフェイク対策の記事で詳しく扱っています。

「急いで」「内密に」と言われても、正規の経路で確かめる

急ぐよう求められたり口止めされたりしたときこそ、相手が使ってきた経路とは別の、ふだん使っている連絡先から確かめ直すのが基本になります。香港の事件の最初のメッセージは内密の取引を求める内容で、国内のニセ社長詐欺でも、事業資金が至急必要だといった言葉で送金が求められています。急ぎと内密は、ほかの人に相談させないための合図と受け止めましょう。

Bloombergが2024年7月に報じたところでは、フェラーリのCEOを装うメッセージが、普段と違う番号と違うプロフィール写真から幹部に届き、続く通話の声は南イタリアのなまりまでまねていたとされます。幹部が、CEOが数日前に勧めた本の題名を尋ねたところで通話が切れたと報じられ、同社はこの件にコメントしていません。FBIも2025年5月の公共広告で、政府高官を名乗る連絡に対しては、自分で番号を調べてかけ直すよう呼びかけました。

確かめ直す先は、届いた連絡に書かれた番号ではなく、社内に登録済みの番号です。担当者が社長に叱られるのではとためらわないよう、確かめること自体を社長が先に認めておく必要があります。確認の電話をかけた担当者を責めないと社長の口から伝えるだけでも、現場の動きは変わってくるでしょう。

件数は増えているのか|公表されている統計

ディープフェイク詐欺だけの被害件数を国内でまとめた公的な統計は見当たらないため、関連する数字を出典ごとに分けて読む必要があります。下の表は、何を数えた数字なのかが分かる形で並べたものです。

出典対象の時期数字読み方
Gen(ノートンなどの提供元)の脅威レポート日本版(2026年10月20日発表)2026年4〜6月日本でブロックしたディープフェイク動画関連の攻撃が前期の約9倍。世界全体のブロック件数は約3倍。同発表では、日本でブロックした攻撃約51,600件のうち日本語コンテンツは約43,200件同社の検知データ上のブロック件数(企業発表・第三者の検証なし)。被害の件数ではない
警察庁の確定値(2026年6月5日公表)2025年SNS型投資詐欺は認知9,523件・被害額1,288.0億円(前年比47.9%増)。SNS型ロマンス詐欺は5,645件・546.4億円著名人の画像や動画を無断で使った広告を確認と記載。ディープフェイクの件数ではない
時事通信(警察庁の話として、2026年1月)2025年12月中旬〜2026年1月15日ニセ社長詐欺の相談39件、うち16件で詐取、被害総額約5億4000万円メールとSNSの文字の手口で、ディープフェイクの事例ではない
IPA 情報セキュリティ10大脅威2026(2026年1月29日公表)2026年版組織編3位にAIの利用をめぐるサイバーリスク(初選出)。10位にビジネスメール詐欺(9年連続9回目)件数ではなく、脅威の順位

※2026年11月3日時点で各機関・各社の公開情報で確認。Genの数字は同社の製品が検知・ブロックした件数で、同社の自己申告です。

セキュリティ企業Genの発表によると、2026年4〜6月に日本でブロックされたディープフェイク動画関連の攻撃は、前期の約9倍(同社集計)になりました。これは同社の製品が止めた件数で、被害の件数とは別のものとなります。警察庁の確定値(2026年6月5日公表)では、2025年のSNS型投資詐欺の被害額が1,288.0億円となり、著名人の画像や動画を無断で使った広告も確認されていますが、その中にディープフェイクがどれだけ含まれるかは示されていません。数字を社内で紹介するときは、どの機関が何を数えたかを一緒に伝えてください。

自社が狙われやすいかの点検リスト

狙われやすさは、社長の素材がどれだけ外に出ているかと、送金の判断が何人で決まるかの2つで、おおよその見当が付きます。当てはまる項目が多いほど、判断表のどの行が自社に届いてもおかしくないと考えてください。

  • 社長・役員の動画や音声がネットに多く出ている講演、採用動画、YouTube、SNSのライブ配信など。声と顔が長く映るものほど素材になりやすくなります。
  • 送金の最終判断を1人で出来る社長の指示があれば経理担当1人で振込まで完了する流れは、香港の事件やニセ社長詐欺の流れにそのまま乗ってしまいます。
  • 代表メールアドレスがサイトに公開されている警察庁の説明では、ニセ社長詐欺のメールはネットなどで公開されている法人のメールアドレスに届きます。
  • 経理・財務担当がSNSや採用ページで名前と職名を出している送金の権限を持つ人が外から分かると、最初の連絡の宛先にされやすくなります。
  • 社長からの急ぎの指示が、チャットやメールだけで来ることがふだんからあるいつもと違う経路という合図に気づきにくくなります。
  • 社長と担当者の距離が近く、直接の指示に慣れている時事通信は、幹部と社員の距離が近い中小企業がニセ社長詐欺で狙われやすいと報じています。
  • 海外拠点・親会社・取引先とビデオ会議でやり取りする機会が多い会議に呼ばれる流れそのものに違和感を持ちにくくなります。
  • リモート採用で、社内システムや顧客情報に触れる職を募集しているFBIは2022年に、IT・データベース・ソフトウェア関連の職でのディープフェイク応募を警告しています。
  • かけ直す先の連絡先リストがなく、その場で調べている届いたメールの署名の番号にかけ直すと、相手の用意した番号につながるおそれがあります。
  • 会議の録音や役員の写真を、個人契約のAIで加工・文字起こししている素材が会社の管理の外に出て、どこに残っているかを確かめられない状態です。

当てはまった項目は、総務・経理・情シスで持ち寄り、誰が何を直すかを決めておきましょう。情報の守り方を全体から点検したい場合は、AIセキュリティのチェックリストも合わせて使うことが出来ます。

社内で事例を共有する1枚のひな形

事例の共有は、手口の名前より、どこで止められたかを伝えると現場の行動につながりやすくなります。下のひな形は、朝礼で読み上げたり全体メールに貼ったりできるよう、事例ごとに事例名・手口・止められた分岐点の3行にまとめたものです。

【詐欺の手口 事例共有】◯月◯日 共有者:◯◯(総務)

■事例1 香港の多国籍企業(2024年・香港警察の説明を報道)
事例名:ビデオ会議の偽CFOによる送金
手口:英国本社のCFOを名乗るメッセージ → 同僚そっくりの参加者が並ぶビデオ会議 → 15回に分けて約2億香港ドルを送金
止められた分岐点:内密の取引を求める最初のメッセージを怪しいと感じた時点で、登録済みの番号から本人に確かめる

■事例2 国内のニセ社長詐欺(2026年・警察庁の注意喚起)
事例名:社長名のメールからSNSグループへの誘導
手口:公開アドレスに社長名のメール → SNSグループの作成とQRコードの返信を指示 → 口座残高を答えさせ、至急の送金を指示
止められた分岐点:SNSグループを作るよう言われた時点で、ふだんの社内の連絡手段で社長本人に確かめる

■事例3 フェラーリの幹部への接触(2024年・Bloombergの報道)
事例名:CEOの声をまねた通話
手口:普段と違う番号・写真からCEOを装うメッセージ → なまりまでまねた声の通話
止められた分岐点:本人しか知らない質問(数日前に勧めた本の題名)をした時点で通話が切れた

■事例4 米国の採用面接(2022年・FBIの警告)
事例名:応募者になりすましたオンライン面接
手口:盗んだ個人情報とディープフェイクで応募 → 社内システムや顧客情報に触れる職を狙う
止められた分岐点:面接での唇の動きと声のずれに気づく、本人確認書類と照らし合わせる

うちの会社で同じ連絡が来たら:送金・残高の回答・ログイン情報の依頼は、登録済みの番号で本人に確かめてから動く
確かめる先:◯◯(経理責任者)/◯◯(総務)

新しい事例が報じられたら、同じ3行の形で1件ずつ足していくことが出来ます。社長名で全社員に出す通知文のひな形はディープフェイク対策の記事にあるので、事例の1枚と通知文を2枚組で配ると、なぜ確かめるのかまで伝わります。共有のたびに、自社で同じ連絡が来たら誰に確かめるかを一緒に言い添えてみてください。

社内対策の要点|詳しくはディープフェイク対策の記事へ

社内の対策は、別の経路での確認、送金の二人承認、合言葉、社長名の通知の4つを組み合わせるのが基本になります。警察庁はビジネスメール詐欺への注意として、送金に関するメールを受けたら、電話やFAXなどメール以外の方法で取引先担当者に確認するよう呼びかけています。IPAのレポートにも、複数の担当者によるチェック体制を徹底する対策が有効だという記載があります。FBIも2024年12月の公共広告で、対策の1つに合言葉を挙げました。

それぞれの決め方と、そのまま使える送金確認ルール・通知文のひな形は、ディープフェイク対策|送金確認・二人承認・合言葉の決め方にまとめてあります。振り込んでしまったと気づいたときの動き方も同じ記事で扱っているので、経理の方は先に目を通しておいてください。AIを悪用した攻撃の全体はAIを使ったサイバー攻撃、国内外で起きたAIがらみの事件はAIの事件・事故事例で紹介しています。

法規制と国の動き|7府省庁の要請と自民党の提言

国内のディープフェイク詐欺への対応は、2026年に入り、SNS上のなりすまし詐欺広告への対策を中心に動きが出ています。報道によると、警察庁・金融庁・消費者庁・デジタル庁・総務省・法務省・経済産業省の7府省庁は2026年8月7日、SNS事業者などになりすまし詐欺広告への対策を要請しました。自民党は2026年5月、ディープフェイク詐欺広告の対策に向けた提言をまとめ、台湾を参考にした法整備の検討や、広告主の本人確認義務、削除義務などを盛り込んでいます。

どちらも主に一般の人を狙う投資詐欺の広告が対象で、会社の送金を狙う手口に直接効くものではありません。社内の送金ルールは、法律の整備を待たずに自社で決めておく必要があります。振り込んでしまった場合に使える制度としては、口座に残った犯罪被害金を被害者に支払う振り込め詐欺救済法があり、全国銀行協会によると申請の窓口は振込先の金融機関です。

会社で安全にAIを使うには|役員の声や写真・社内資料を個人のAIに入れない

ディープフェイク詐欺への備えは送金の手順だけでなく、社長の声や顔、社内の資料を会社の管理の外に出さないことにも広がります。会議の録音を個人契約のAIで文字起こししたり、役員の写真を個人のアカウントで加工したりすると、その素材がどこに残り、誰が見られるのかを会社から確かめられなくなってしまいます。FBIは公開する画像や音声を絞るよう勧めています。会社の外のAIに素材を置かないことも、同じ備えの1つです。

社員が使うAIを会社の契約に一本化すれば、どのAIに何を入れてよいかのルールを全員にそろえやすくなります。管理者が利用ログを見られる環境なら、誰がいつどのAIを使ったかを後から確かめられます。役員の声・写真・社内資料は、会社が契約したAIにだけ入れる決まりにしましょう。個人のアカウントで業務に使われているAIの見つけ方はシャドーAI(野良AI)とは、入れてよい情報の線引きは生成AIの社内ガイドラインの作り方を参考にしてください。

社員が使うAIを、会社の契約に1つにまとめる

UPGEAR AIは、1つの契約でChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを会社の管理下で使い分けられる法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

ディープフェイク詐欺はいつから増えたのですか?
公表事例では、2019年に声を偽造した送金被害が報じられ、2024年にはビデオ会議を使った香港の事件や、FBIなど海外当局の警告が相次ぎました。国内では2026年2月に警察庁がニセ社長詐欺(文字の手口)に注意を呼びかけ、2026年5月に自民党がディープフェイク詐欺広告の対策の提言をまとめました。
ディープフェイク詐欺の危険性は、ほかの詐欺と何が違いますか?
顔や声という、これまで本人確認の決め手にしてきたものが偽造される点が違います。ビデオ会議で顔を見て話した、電話で声を聞いたという安心感が、そのまま信用の根拠に使われてしまいます。手口の型はニセ社長詐欺やビジネスメール詐欺と同じで、正規の経路で確かめ直す手順で止めることが出来ます。
ディープフェイクの見分け方はありますか?
口元と声のずれや、輪郭・目の動きの不自然さが手がかりになる場合はあります。ただし内閣官房も、生成AIやディープフェイクによって人の目では真偽を見極めることが難しいと説明しています。違和感がないことを本物の証拠にせず、送金や認証情報の依頼は登録済みの連絡先で確かめ直すことをおすすめします。
ディープフェイク詐欺を取り締まる法規制はありますか?
2026年には、報道によると7府省庁がSNS事業者などになりすまし詐欺広告への対策を要請し、自民党もディープフェイク詐欺広告の対策に向けた提言をまとめました。いずれも投資詐欺の広告が中心のため、会社の送金を狙う手口には、社内の確認手順で備える必要があります。
生成AIがあれば、誰でも簡単にディープフェイクを作れるのですか?
総務省の情報通信白書は、ディープフェイク技術を使えば、実在する人物が言っていないことを話しているかのような動画を簡単に作れると説明しています。FBIも、犯罪者が生成AIで声をまねた短い音声や、リアルタイムのビデオチャット用の動画を作っていると警告しています。社長の動画や音声が多く公開されている会社ほど、素材を集めやすい状態にあります。
振り込んでしまったら、お金は戻りますか?
気づいた時点で、すぐに振込先の金融機関と警察に相談してください。全国銀行協会によると、振り込め詐欺救済法により、口座に残っている犯罪被害金が被害者に支払われる場合があります。ただし支払いは口座の残高の範囲内で、手続きには90日以上かかります。

まとめ

ディープフェイク詐欺は、AIで合成した社長や幹部の顔と声を使い、送金の権限を持つ社員にお金を動かさせる手口が中心です。電話の声、ビデオ会議、メッセージアプリと経路は違っても、文字の連絡で始まり、別の場で信じ込ませ、急ぎで内密の送金へ進む流れは共通しています。

映像や声で見抜くことは難しく、止める決め手は、最初の連絡の段階で登録済みの連絡先へ確かめ直す手順になります。まずは点検リストで自社に当てはまる項目を確かめ、事例共有のひな形を次の朝礼で使ってみてください。法人のAI活用とセキュリティの記事はAI活用コラム一覧から探すことが出来ます。