
AIセキュリティとは、AIそのものを攻撃や情報漏洩から守る対策と、AIを使ってサイバー攻撃から守る対策をまとめて指す言葉です。AIを業務で使う一般の会社が先に手を付けるのは前者のうち、社員がAIを使うときに会社の情報を守る側になります。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は「AIを守る」「AIで守る」に「AIを信頼する」を加えた三本柱で説明しており、言葉の範囲はかなり広めです。AIを作る会社やセキュリティ製品を選ぶ会社の話と切り分けると、社員10〜200名の会社が最初の1週間で決めることはぐっと少なくなるでしょう。
AIセキュリティとは|「AIを守る」と「AIで守る」の2つの意味
AIセキュリティという言葉には、守る対象が違う2つの意味が混ざっています。1つは、AIのシステムやAIに渡すデータを攻撃から守る「AIを守る(Security for AI)」です。もう1つは、AIの力でサイバー攻撃を見つけたり防いだりする「AIで守る(AI for Security)」になります。
NICTのAIセキュリティ研究センター(CREATE)は、この2つに、AIの解釈性やプライバシー保護を高めて信頼性を上げる「AIを信頼する」を加えた三本柱を、研究開発の軸に置いています。同じ言葉でも、研究の世界ではこれだけ広い範囲を指すことになります。
AIを守る(AIのセキュリティ)
情報処理推進機構(IPA)のAIセキュリティのページは、AIが不正アクセスやデータの盗難・漏洩だけでなく、倫理面や偽造のリスクなど従来とは違う脅威にさらされていると説明しています。課題として並ぶのは、AIセキュリティマネジメント、サプライチェーン攻撃・漏洩・改ざんのリスク、学習モデルへの攻撃、学習データの改ざん・汚染、個人情報・営業秘密の漏洩、偽情報・誤情報の6つです。AIを使うだけの会社に深く関わるのは、情報の漏洩と誤った出力の2つになります。残りの多くは、AIを作る側や提供する側で手当てされる性質のものと考えてよいでしょう。
AIで守る(AIによるサイバーセキュリティ)
こちらは、AIを組み込んだ監視の仕組みなどで、攻撃を早く見つけたり防いだりする取り組みを指します。セキュリティ製品を選ぶ情報システム部門や、監視サービスを提供する事業者の話が中心となります。使っているウイルス対策や監視の製品にAIが入っていることはあっても、社員10〜200名の会社が自分たちで一から決める場面は多くありません。
AIを守る側のリスクの全体像と対策の一覧は、生成AIのセキュリティ|7つのリスクと会社の対策にまとめています。ここから先は、言葉の整理と、社員がAIを使い始めるときに会社が最初に決めることに絞ってお話しします。
どちらから手を付けるか|会社の立場で決まる3つの入口
どちらの意味から手を付けるかは、会社とAIの関わり方で決まります。次の3つのうち、自社に当てはまるものを選んでみてください。
- AIを組み込んだサービスを作り、顧客に提供しているAIを守る側のうち、システムを作る・提供する立場の対策が中心です。総務省「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」(令和8年3月)が主に読む資料になります。社内向けに、社内資料を読み込ませるチャットボットを自社で組む場合も、このガイドラインの想定事例(内部向けチャットボット)が参考になります。
- セキュリティ製品や監視サービスを選び直しているAIで守る側の検討です。製品の中でAIが何をしているかは、各社の製品資料で確かめる話になります。
- 社員がChatGPT・Claude・Geminiなどを業務で使っている、またはこれから使うAIを守る側のうち、使う側の情報を守る対策から始めます。社員10〜200名で、AIを自社で作っていない会社の多くはここに当たります。
3つ目に当てはまる会社が、AIを作る会社向けの資料から読み始めると、システムプロンプトやガードレールの話が続き、自社で何をすればよいのかが見えにくくなってしまいます。まず決めるのは、社員が何を入力してよいかと、どのAIを使ってよいかの2つです。なぜその2つから決めるのかは、AIのまわりで起きる事故の形を一通り知っておくと納得しやすいでしょう。
もし1つ目と3つ目の両方に当てはまるなら、社員の使い方のルールを先に決め、提供するサービスの対策は開発の担当者と別に進める形が分かりやすくなります。
AIそのものを狙う攻撃|プロンプトインジェクションとデータポイズニング
AIを狙う攻撃のうち、総務省のガイドラインは、攻撃の具体的な可能性が比較的高いものとしてプロンプトインジェクション攻撃とDoS攻撃(サービス拒否攻撃)への対策を主に示しています。ただし、このガイドラインの想定読者はAIを作る開発者と提供者で、使うだけの会社向けではありません。使う側として知っておきたいのは、どんな仕組みで起きるのかと、自社で決められるのはどこかの2点になります。
プロンプトインジェクション
プロンプトインジェクションとは、AIへの指示文(プロンプト)に細工をして、本来の指示と違う動きをAIにさせる攻撃のことです。細工したプロンプトを直接入力する直接型と、AIが参照するデータに細工を仕込んでおく間接型があります。総務省のガイドラインは間接型の例として、細工したファイルをWeb上に用意する手口や、細工したメールを送ってAIがそれを参照したときに不正な出力を誘発させる手口を挙げています。2025年にはMicrosoft 365 Copilotで、細工したメールを送るだけで、利用者が何も操作しなくても機密情報が流出しうる状態(EchoLeak)が見つかりました。IPAのサイトで公開された手引書はこれを間接型の事例として紹介しており、発見したのはAim Security社、Microsoftは2025年5月に修正パッチを出しています。
OWASPがまとめた「OWASP Top 10 for LLM Applications 2025」でも、1番目(LLM01)にプロンプトインジェクションが置かれました。使う側の会社に出来るのは、AIにメールやファイルを自動で読ませる機能を、誰に・どこまで許すかを決めることです。全員に一律で許すのではなく、必要な部署から順に広げていく形が無理のない進め方となります。
データポイズニング(学習データの汚染)
データポイズニングとは、AIが学ぶデータに細工したデータを混ぜ、AIの判断をゆがめる攻撃を指します。IPAは課題の1つに学習データの改ざん・汚染を挙げ、総務省のガイドラインもその他の脅威として取り上げています。OWASPの一覧では4番目(LLM04 Data and Model Poisoning)に当たります。自社でAIを学習させない会社にとっては、主にAIを提供する事業者の側で手当てされる種類の脅威になります。
ただ、社内資料を読み込ませて回答させる仕組み(RAG)を使う場合は、読み込ませる資料に誤りや細工が混ざると、回答もそれに引きずられてしまいます。読み込ませる資料を誰が追加できるのかは、使い始める前に決めておきましょう。
誤った出力とディープフェイク|ハルシネーションとAIを悪用した詐欺
情報が漏れなくても、AIの出力そのものが事故の原因になることがあります。社外に出す文書や、お金が動く判断にAIの出力が混ざる場面では、特に気を配りたいところです。
ハルシネーション(もっともらしい誤情報)
ハルシネーションとは、AIが事実と違う内容を、もっともらしい文章で出力してしまう現象を指します。IPAは課題の1つに偽情報・誤情報を挙げており、OWASPの一覧でも9番目(LLM09 Misinformation)が誤情報です。IPAのサイトで公開された中核人材育成プログラム受講者による「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月)は、社内の利用ルールに書く項目として、生成物のハルシネーションの確認を挙げています。社外に出す文書と数字は、人が元の資料と照らし合わせてから使うと決めておきましょう。
ディープフェイクとAIを悪用した詐欺
ディープフェイクとは、AIで作った本物そっくりの顔や声の映像・音声のことです。IPAの豆知識は、対策の1つに「外見では詐欺師を見破れないと心得る」を挙げています。同じ資料には「AI仕込みのサイバー攻撃も撃退法は従来通り」という項目もあります。送金や振込先の変更の依頼は、映像や声が本人に見えても、別の連絡手段で本人に確かめる手順にしておくと安心です。
この手順はAIの有無に関係なく役立つため、経理や総務の決まりとして文書にしておくことをおすすめします。
機密情報・個人情報が漏れる経路|個人アカウント・AIブラウザ・メール
AIを業務で使う会社にとって身近な事故は、社員が入力した情報が、会社の管理の外に出ていくことです。2026年1月29日に発表されたIPAの「情報セキュリティ10大脅威2026」では、組織編の3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれました。
10大脅威の順位は、約250名のメンバーからなる「10大脅威選考会」の審議・投票を経て決まるものです。その解説書(2026年3月版・64ページ)は、職場にAIサービスがない場合などに従業員が個人で使うAIを業務に使うシャドーAIと、会社が個人アカウントでの利用に気づけないことを、リスクとして挙げています。漏れる経路は、大きく次の3つに分けて考えることが出来ます。
経路1:無料版や個人アカウントへの入力
IPAのサイトで公開された中核人材育成プログラム受講者による手引書は、2023年のサムスン電子社員によるChatGPTへの機密情報の入力を事例に挙げています。この件では、サムスン電子が社員の生成AI利用を禁止したと、Bloombergが2023年5月2日に報じました。個人のアカウントに入った情報は、会社が設定を確かめることも、ログを見ることも出来ません。本人が退職したあとも、会話の履歴は本人のアカウントに残ったままとなってしまいます。
経路2:AIブラウザが読み取る画面
IPAの「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」は、AIブラウザを社内用と社外用で分けるよう勧めています。AIブラウザは閲覧中のページを生成AIと共有するうえ、不正な指示への対策が不完全なため、ふだん使うAIブラウザでは社内ポータルなど大事な情報が載った画面を開かないように、という趣旨です。社員が便利だからと入れたブラウザや機能が、本人の気づかないうちに社内の画面を読み取っていることもあり得ます。
経路3:AIが自動で読みに行くメールやファイル
AIを狙う攻撃の節で触れたEchoLeakは、AIが自動で読みに行くメールが入口になった事例でした。AIにメールや社内ファイルを読ませる機能は便利な反面、読ませる範囲が広いほど、外から入ってきた文章の影響も受けやすくなります。
3つの経路に共通するのは、会社が使われているAIを把握できていないと、漏れたことにすら気づけない点です。経路1は会社が認めた環境を全員に用意すれば減らせますが、経路2と3は、使うAIを決めたうえで設定と使い方まで決めておく必要があります。
社員が個人で使うAIは、会社から設定もログも見えないため、まず使う場所を会社の環境1つにまとめることから始まります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
公的な資料はどれが誰向けか|IPA・総務省・NICT
AIセキュリティの公的な資料は増えていますが、読み手は資料ごとに分かれています。AIを使う側の会社が読むものと、AIを作る側が読むものを取り違えないよう、読み手ごとに並べました。
- IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」|AIを使う社員と管理職向け2026年4月2日公開・24ページのスライドで、IPAのセキュリティセンターとAISIが作成しています。IPAのAIセキュリティのページでは「AI利用者、マネージャ向け」に分類され、プレス発表では社内研修でそのまま使える教材と説明されています。
- IPA「情報セキュリティ10大脅威2026 解説書[組織編]」|経営者と管理の担当者向け2026年3月版・64ページです。p.16〜18の3位の解説に、経営者層の対策(未許可利用の禁止、個人アカウントでの業務利用の制限、オプトアウト設定など)と、システム管理者・従業員の対策が分けて書かれています。
- 「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」|セキュリティ担当者向け2026年7月・99ページです。IPAの中核人材育成プログラムの受講者によるプロジェクトの成果物で、免責事項に、IPAと産業サイバーセキュリティセンターの意見を代表するものではないと書かれています。有効期限は発行日から2年です。
- 「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」|社内でAIを導入・運用する担当者向け2024年7月・102ページで、同じ中核人材育成プログラム(7期生)の成果物です。対象読者はAI利用者で、中でも組織が管理する生成AIを導入・運用・管理する担当者に焦点を当てています。有効期限は発行日から2年間とされ、2026年7月には上の新しい手引書が出ています。
- 総務省「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」|AIを作る・提供する事業者向け2026年3月27日公表・25ページです。想定読者はAI事業者ガイドラインが定めるAI開発者とAI提供者で、AIを使うだけの会社は想定読者に含まれていません。
- 「AI事業者ガイドライン」|AIに関わる事業者全般向け最新は第1.2版(2026年3月31日)です。第1.1版では、AI利用者に対し、機密情報や個人情報をAIに不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています。
- NICT AIセキュリティ研究センター(CREATE)|研究の拠点「AIを守る」「AIで守る」「AIを信頼する」の三本柱で研究開発を進める拠点です。社内ルール作りの資料というより、言葉の範囲をつかむための参考になります。
このほか、IPAのAIセキュリティのページには、2024年7月の「AI利用時のセキュリティ脅威・リスク調査報告書」も調査結果として載っています。手引書は受講者の成果物で、IPAが組織として定めたガイドラインではありません。社員10〜200名の会社の総務や経営者なら、IPAの豆知識と10大脅威の解説書の2つから読み始めると、自社で何をすればよいかがつかみやすいでしょう。
※公開日・ページ数・想定読者は、2026年10月15日時点で各機関の公式ページを確認したものです。
最初の1週間で決めること|誰が・何を・いつまでに
社員10〜200名の会社では、情報システム部門がなく、総務の担当者が兼務で進めることが多いでしょう。そこで、1週間で決め切る項目を、担当と期限つきで並べました。
- 1日目|経営者:担当者を1人決め、方針を一言で示す担当は総務などから1人で足ります。方針は「AIの利用は禁止せず、会社が認めた環境で使う」のように、禁止か公認かをはっきりさせます。
- 2日目|担当者:いま使われているAIを棚卸しする使っているAIの製品名、契約の形(法人契約・個人契約・無料利用)、入れているデータの種類(公開・社内・機密・個人)、出力の使い道(社内のみ・社外・顧客向け)の4つを、全員に聞きます。IPAのサイトで公開された手引書の表2-3にある項目を、少人数の会社向けに絞った形です。
- 3日目|担当者と経営者:入力してよい情報の○△×を決める次の節の例をもとに、自社の情報で1枚にまとめます。迷う情報は△にしておき、運用しながら見直します。
- 4日目|担当者:会社で使うAIを1つ決め、設定を確かめる入力が学習に使われない設定、会話データの保管場所と期間、利用ログ、アカウントの停止方法の4点を確かめます。
- 5日目|経営者:周知文を全員に出す経営者の名前で出すと、ルールが会社の決定として伝わります。文例は後の節に載せています。
- 6日目|担当者:事故のときの連絡先を決める間違えて入力したときに、誰へ、どの手段で連絡するかを決め、周知文に書き足します。
- 7日目|担当者:質問を集めて○△×に例を足す社員から出た「これは入れてよいか」という質問を、そのまま例として表に加えます。
7日目までに全部を完璧にする必要はありません。大事なのは、社員が迷ったときに見る1枚のルールと、使ってよいAIが1つ決まっている状態です。細かい規程は、運用しながら生成AIの社内ガイドラインの形に育てていくことが出来ます。
AIに入力してよい情報・いけない情報の線引き
入力の線引きは、情報の種類ごとに○・△・×の3段階で決めると、社員が迷いにくくなります。AI事業者ガイドライン(第1.1版)もAI利用者に、機密情報や個人情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています。ただ、何が機密に当たるかは会社ごとに違うため、具体的な例で示すほうが伝わりやすいでしょう。
○ 入力してよい情報
- 自社のWebサイトやプレスリリースで、すでに公開している内容
- 一般的な文章の言い換え、要約、敬語の直し
- 取引先名・個人名・金額を含まないメールや案内文の下書き
- 公開されている法令や制度の名前を使った調べもの(答えは元の資料で確かめる)
△ 会社が契約したAIでだけ、伏せて入れてよい情報
- 社内の会議録(参加者名・取引先名・数字を伏せて要約させる)
- 見積書や提案書の文面(金額と取引先名を伏せる)
- 社内規程やマニュアルの要約(会社が契約したAIの中でだけ使う)
- 採用の募集文や社内向けのお知らせの下書き
× 入力しない情報
- 顧客や社員の個人情報(氏名と連絡先の組み合わせ、マイナンバー、健康情報など)
- 契約書の原文や、取引先から預かった資料(秘密保持の対象になっていることが多いもの)
- 公表前の決算、人事、買収や提携の情報
- パスワード、APIキー、システムの接続情報
IPAのサイトで公開された手引書は、入力のルールを3段階で入れる方法を示しています。最初の段階は、AIの利用画面に入力してよい範囲を常に表示し、ログイン時に警告を出すやり方です。手引書はこれを、導入の費用が小さく中核になる対策と位置付けており、社員10〜200名の会社ではまずここから始めることになるでしょう。2段階目はマイナンバーやカード番号など決まった形の文字列を見つけて伏せる仕組み、3段階目はDLP(情報の持ち出しを検知する仕組み)やAIゲートウェイになります。
一方で手引書は、買収のプレスリリース案のように文脈に埋め込まれた機密は、パターン検知では見つけるのが極めて難しいとも書いています。機械で止めきれない以上、○△×の線引きは社員一人ひとりが覚えておく必要があります。○△×の紙は、AIの画面のそばに置けるよう1枚に収めてください。
使うAIを会社の環境に寄せる手順
個人アカウントでの利用を減らすには、禁止するより、会社が認めたAIを全員に渡すほうが近道です。IPAのサイトで公開された手引書は、IT部門が安全性を確かめた組織公認のAIを全社に(または情報漏洩リスクの高い部署から優先的に)提供することを、シャドーAI対策の有効な前提条件の1つに挙げています。同じ手引書によると、禁止を先に立てるだけでは申告されない利用が増え、実態はさらにつかみにくくなってしまいます。
- 棚卸しで出てきた個人利用は責めずに集め、どの業務で使われているかを見ます。
- 会社で使うAIを決めます。よく使われているAIで、法人向けのプランがあるものが候補になります。
- 全員にアカウントを配ります。
- 個人アカウントでの業務利用を、社内の規程で制限します。10大脅威の解説書も、経営者層の対策にこの項目を挙げています。
- 明らかに危ないサービスの遮断は、そのあとで十分です。手引書も、CASBなどの仕組みは費用と工数が増えるため、まず明らかに危険なサービスの遮断に絞って小さく始める考え方を示しています。
3番目で一部の人だけに配ると、配られなかった方が自分のアカウントで使い始める流れは残ったままです。全員に配れるかどうかで、個人アカウントへ流れる利用をどこまで減らせるかが大きく変わります。会社が把握していないAI利用、いわゆる野良AI(シャドーAI)への向き合い方は、別の記事で詳しく扱っています。
選ぶときに確かめる4点|学習利用・保管場所・ログ・アカウント
法人向けのプランを選ぶときは、次の4点を各社の公式ページで確かめてください。
- 入力した内容がAIの学習に使われるか、使われない設定(オプトアウト)がどうなっているか
- 会話のデータがどこに、どれだけの期間保管されるか
- 管理者が会話の履歴や利用状況を見られるか
- 退職や異動のとき、管理者がアカウントを止められるか
各社の公式ページの説明を見ると、ChatGPT Businessでは、管理者が会話履歴を閲覧・書き出し・削除でき、保持期間も設定出来ます。Claudeの料金ページの比較表では、TeamとEnterpriseの学習利用は「デフォルトではなし」と表示されており、削除した会話は履歴からすぐに消え、バックエンドからも30日以内に削除されると説明されています。Google WorkspaceのGeminiは、チャットやアップロードしたファイルを人間のレビュアーが確認せず、事前の許可や指示がない限り顧客データをモデルのトレーニングに使わないという説明です。ChatGPTの法人プランの違いはChatGPT法人プランの料金と違いで比べることが出来ます。
会社の環境で使う意味は、漏れにくくなることだけではありません。総務省のガイドラインは、秘密にしたいデータをきちんと管理しているAIシステムを使えば、漏えいしても不正競争防止法の営業秘密の秘密管理性の要件を満たし、保護を受けられるものと考えられる、としています。営業秘密として守られるには、有用性と非公知性の要件も別に必要になります。
※各社のデータの扱いは、2026年9〜10月に各社の公式ページで確認した内容です。プランや条件は変わることがあるため、契約前に最新の内容をご確認ください。
アクセス制御・ログ監視・暗号化は誰が受け持つか
アクセス制御は、誰がどのAIを使えるかを決めて、アカウントを発行・停止する仕組みのことです。ログ監視は、誰がいつ何を入力したかを記録し、あとから確かめられるようにすることを指します。通信や保管データの暗号化は主にAIを提供する事業者が受け持つ部分で、使う会社は公式の説明で確かめる立場となります。
IPAのサイトで公開された手引書は、ログをためて事後に確かめるレベル1を、AIシステムを入れるすべての企業が最低限実施すべき水準としています。取るべきログには利用者のIDや所属、端末、利用時間、使ったAIとモデル、入力したプロンプト、出力、ブロックの履歴が並び、保存期間の例はメタデータが1年、プロンプトや出力の本文が3か月です。全件を目で見るのは無理なので、重要なシステムのごく一部のログだけでも毎日人が確かめることが望ましい、とも手引書は書いています。
社員10〜200名の会社なら、まずは管理画面でログが残っていることを確かめ、月に1回、担当者が利用状況を眺める程度から始めてみてください。
社員への周知と教育|そのまま使える周知文の文例
ルールを決めたら、経営者の名前で全員に知らせます。教育の教材には、IPAの「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」がそのまま使えます。プレス発表では社内研修でそのまま使える教材と説明されており、中心となる「ここから始めるAIセキュリティ対策」は、次の5つの項目です。
- クラウドAIに営業秘密は教えない
- AIブラウザは社内用と社外用を分ける
- RAG使用時は「混ぜるな危険」にご用心
- 外見では詐欺師を見破れないと心得る
- AI仕込みのサイバー攻撃も撃退法は従来通り
周知文と豆知識を合わせて、15分ほどの社内説明会を開いてみてください。手引書は、利用の申請を受けるときの審査の観点と、却下されやすい条件を前もって示しておけば、申請する側が自分で判断でき、承認も速くなると書いています。周知文には、新しいAIを使いたいときの申請先も入れておきましょう。
周知文の文例
件名:業務でのAI利用について(◯月◯日から)
- 業務でAIを使うときは、会社が用意した◯◯(会社のアカウント)だけを使ってください。個人のアカウントや無料版に、業務の情報を入れないでください。
- 入力してよい情報は、別紙の○△×のとおりです。迷ったときは入れずに、総務の◯◯に聞いてください。
- AIの答えを、そのまま社外に出さないでください。数字・固有名詞・法令は、元の資料で確かめてから使ってください。
- 送金や振込先の変更の依頼は、声や映像が本人に見えても、別の連絡手段で本人に確かめてください。
- 間違えて入力したときは、すぐに◯◯に連絡してください。早く知らせてくれた方を責めることはありません。
- 使いたいAIがあれば、◯◯に申請してください。このルールは◯か月ごとに見直します。
5番目の一文は、文例の中でも削らずに残してほしい部分です。間違えた方を責めないと先に伝えておくと、事故の報告が早く上がりやすくなります。報告が遅れるほど、次の節の最初の30分の動きが取れなくなってしまいます。
事故が起きたら最初の30分
入力してはいけない情報をAIに入れてしまったときは、最初の30分で、報告・記録・止めるの3つを済ませます。時間の区切りは目安なので、自社の体制に合わせて担当を書き換えてください。
- 0〜5分|入力した本人:手を止めて報告するどのAIに、どのアカウントで、いつ、何を入れたかをメモし、担当者と上長に連絡します。
- 5〜15分|担当者:記録を残す会話の画面を保存してから、会話を削除するかを決めます。会話の共有リンクを作っていた場合は、先に共有を止めます。
- 15〜25分|担当者:広がりを止めるパスワードやAPIキーを入れていた場合は、その鍵を変更・無効にします。取引先の資料であれば、契約の秘密保持の条項を確かめます。
- 25〜30分|担当者と経営者:個人情報が含まれるかを判断する個人情報が含まれる場合は、個人情報保護委員会への報告が必要かどうかを確かめる段階に進みます。
慌てて会話を消したくなる気持ちは自然なものです。会話を消す前に、まず画面を保存して記録を残してください。何をいつ入れたかが分からなくなると、あとで報告が必要かどうかを判断する材料もなくなってしまいます。
個人情報保護委員会の案内では、個人データの漏えい等のうち、要配慮個人情報が含まれる場合、不正利用で財産的被害が生じるおそれがある場合、不正の目的によるおそれがある場合、本人の数が1,000人を超える場合が報告の対象になります。速報は発覚した日から3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的によるおそれがある場合は60日以内)とされています。AIへの入力が報告の対象に当たるかは、使ったサービスの契約や状況によって判断が変わることもあるため、弁護士や同委員会の窓口に相談しながら進めましょう。
※個人情報保護委員会の漏えい等報告の要件は、2026年10月15日時点で同委員会の公式ページを確認したものです。いずれの要件も、おそれがある場合を含みます。
使うAIを、会社が管理する1つの環境に
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約・1つの画面で使える法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
AIセキュリティとは何ですか?
AIに入力してはいけない情報は何ですか?
セキュリティが強いAIはどれですか?
AIのセキュリティにおけるリスクには何がありますか?
社員が10名ほどの会社でも、AIの利用ルールは必要ですか?
無料版のAIを禁止すれば十分ですか?
まとめ
AIセキュリティには、AIを守る対策とAIで守る対策の2つの意味があり、NICTはこれにAIを信頼するを加えた三本柱で説明しています。AIを業務で使う社員10〜200名の会社が先に手を付けるのは、社員がAIを使うときに会社の情報を守る側です。
最初の1週間で決めるのは、担当者、使ってよいAI、入力してよい情報の○△×、周知文、事故のときの連絡先の5つになります。そのうえで、学習に使われない設定、ログの記録、全員へのアカウントの配布を、会社が認めた1つの環境の中でそろえていくと、個人アカウントに散った利用を減らしていくことが出来ます。
点検の項目を一つずつ確かめたい方は生成AIセキュリティチェックリスト(30項目)をご覧ください。法人のAI活用に関するほかの記事はAI活用コラム一覧にまとめています。
