
自治体の生成AIとは、都道府県や市区町村の職員が、あいさつ文や議事録の要約、議会答弁の下書きといった庁内の事務に使う文章生成型のAIのことです。総務省が令和8年4月24日に公表した調査では、令和7年10月31日時点で都道府県と指定都市の100%、その他の市区町村の45.6%が導入済みとなりました。使い方の線引きは各団体のガイドラインに任されており、総務省は指定外の生成AIの利用や、私用端末の生成AIに業務の情報を入れることを禁じるひな形まで示しています。自治体と仕事をする会社や、社内ルールを整えたい民間の会社にとっても、そのまま参考に出来る内容になります。
自治体の生成AIとは|行政における生成AIの使われ方
行政で使う生成AIとは、職員が文章の下書きや要約、調べものの補助に使うAIで、最終的な判断や決裁は職員が行うことを前提にした道具になります。総務省の調査でも、使われている場面の上位には「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「議会の想定問答の文案の作成」といった、職員が手直しして仕上げる文書が並んでいます。住民に自動で回答を返す仕組みより先に、庁内の事務を軽くする使い方から広がってきたことが分かります。
法令の上で生成AIを定義した例もあります。神戸市の「神戸市におけるAIの活用等に関する条例」は、生成AIを、質問などの指令に応じて文書・画像・音声・動画・プログラムなどで自動的に回答するよう作られたプログラムと定めました。文章だけでなく、画像や動画を作るものまで含めた広い捉え方になります。
もう1つの特徴は、使ってよいサービスを情報政策担当課などが指定し、それ以外は使わせない運用が基本になっている点です。自治体は住民の個人情報や公開していない行政情報を多く扱うため、どの情報を入れてよいかを情報セキュリティポリシーの機密性の分類で決めています。民間の会社でいう情報管理規程にあたるものが、自治体では情報セキュリティポリシーとなります。
※以下の数値は、特に断りのない限り総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度)」(2026年(令和8年)4月24日公表、総務省の報道資料)によります。2026年(令和8年)9月27日確認。
自治体の生成AI導入状況|総務省の令和7年度調査で市区町村45.6%
総務省の令和7年度調査では、生成AIを導入済みの団体が都道府県・指定都市で100%、その他の市区町村で45.6%となりました。調査は1,788の都道府県・市区町村すべてに照会され、1,788団体すべてが回答しています。調査時点は令和7年10月31日で、結果は令和8年4月24日に公表されたものです。
3年分を並べると、広がり方の速さが見えてきます。都道府県は令和5年度の51%から令和6年度に87%、指定都市は40%から90%へと上がり、令和7年度にはどちらも100%に届きました。その他の市区町村は、令和6年度の30%から令和7年度の45.6%へと、前年度の調査から15ポイント以上伸びています。
| 区分 | 令和5年度 | 令和6年度 | 令和7年度 |
|---|---|---|---|
| 都道府県 | 51% | 87% | 100% |
| 指定都市 | 40% | 90% | 100% |
| その他の市区町村 | ― | 30%(29.9%) | 45.6% |
※生成AIを導入済みの団体の割合。令和5年度・令和6年度は各年12月31日時点、令和7年度は10月31日時点。令和5年度・6年度の値は総務省「自治体における生成AI導入状況 令和7年6月30日版」によります。令和5年度のその他の市区町村の値は本記事では扱っていません。
注意したいのは、令和7年度の資料にある約88%という数字の読み方です。資料はその他の市区町村について、実証中・導入予定・導入検討中を含めると約88%が導入に向けて取り組んでいるとしています。令和6年度の資料の51%は、実証中と導入予定までを含めた数字で、導入検討中は入っていません。51%から88%に増えたと並べると、定義の違いまで伸びに見えてしまいます。比べるなら、定義が同じ導入済みの割合で見るのが確実でしょう。
裏を返すと、その他の市区町村の半数あまりは、令和7年10月末の時点でまだ導入済みではないことになります。これから導入を検討する団体の担当の方は、先に導入した団体が何に使い、どんなルールを作ったかを見てから進めることが出来ます。以下の節では、その中身を総務省の資料に沿って順に確かめていきましょう。
自治体の生成AI活用事例|公務員はどんな業務で使っているか
公務員の生成AIの使い方で多いのは、あいさつ文案・議事録の要約・議会の想定問答・メール文案・企画書案の作成で、総務省の調査でもこの順に回答が集まりました。どれも職員が最後に手を入れて仕上げる文書で、白紙から書き始める時間を短くする使い方になっています。このほか、調査の選択肢には次のような用途も挙がっており、大きく分けると4つの系統にまとまります。
- 庁内向けの文書づくり:あいさつ文、メール、企画書、計画、マニュアル、仕様書、契約書や例規の案
- 議会への対応:議事録の要約、議会の想定問答の文案
- 住民への発信:住民等からの質問に対する回答案、SNSへの投稿文、記者発表資料、ポスターやチラシの画像
- 事務の効率化:マクロやVBAなどのローコードの作成、データの分析・分類、翻訳、庁内情報の検索
目立つのは、住民の問い合わせに自動で答えるチャットボットのような使い方ではなく、職員が回答案を作ってから確認する使い方が選択肢に入っている点です。住民に直接届く文章ほど、生成AIの出力をそのまま出さずに、職員の目を通す段階を残していることがうかがえます。
自団体の知識を読ませて使う例も出てきました。導入している生成AIをカスタマイズしている件数は390件で、していない1,353件を大きく下回ります。カスタマイズの方法では、モデルはそのままで業務の知識を外部の資料として参照させるRAG(検索拡張生成)が329件と最も多く、参照させる対象はマニュアル・議会会議録・法令・FAQ集・計画の順でした。
自分の課で試すなら、まず回答の多い文書作成から始めて、手直しにかかる時間を使う前と比べてみてください。議会会議録やマニュアルを読ませる使い方は、その次の段階として検討するのが無理のない順番となります。
導入効果とメリット|総務省が取りまとめた削減時間の例
導入効果は文章作成の時間に表れやすく、総務省が取りまとめた自治体の回答には、月190時間かかっていた文章作成が月51時間になった例があります。資料は、次の5つを人口規模とあわせて主な例に挙げました。
- 人口5.1万人の団体:あいさつ文案やメール文案などの文章作成で、1か月あたり190時間かかっていた業務が51時間に(73%削減)
- 人口5.8万人の団体:過去の答弁を参照させる仕組み(RAG)で議会の想定問答を作成。150問を超える質問のうち最大96%で、答弁案の作成や補足資料の準備に活用し、深夜残業などが減ったとの回答
- 人口18.6万人の団体:広報誌の特集テーマの情報収集や企画書案の作成で、年間換算288時間程度(47%減)の削減見込み
- 人口9.4万人の団体:マクロのコードを生成AIで作り、累計約4,250時間の業務削減見込み
- 人口17.5万人の団体:データ分析の作業で、2か月の実証期間に103時間の削減
※総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度)」6ページの主な例。各自治体の回答を総務省が取りまとめたもので、第三者が検証した数値ではありません。資料には団体名が記されていないため、本記事でも名前は挙げていません。
並んでいる数字には、実際に減った時間と、年間に直した見込みの時間が混ざっています。自分の団体や会社で説明の材料に使うときは、実績か見込みかを分けて引用するのが安全です。
削減できた時間の使い道を尋ねた設問では、「業務プロセス改善、IT導入など内部事務の改善検討・実施」が637件で最も多く、「住民対応時間の確保など住民サービスの向上」が622件で続きました。浮いた時間を窓口や相談などの住民対応に回せる点が、自治体ならではのメリットになります。職員の数が減っていく中で、同じ人数のまま住民と向き合う時間を確保できるかどうかは、どの団体にも共通する関心ごとでしょう。
メリットを整理すると、文書の下書きにかかる時間の短縮、議会対応の負担の軽減、マクロ作成など小さな自動化の内製、浮いた時間の住民サービスへの振り向け、の4つにまとまります。どれも、使う前後の時間を記録しておかないと説明できないため、試す段階から測っておくことをおすすめします。
実名で分かる自治体の事例|横須賀市の全庁実証と神戸市の条例
実名で経緯を追える例として、横須賀市の全庁実証があります。同市は2023年(令和5年)4月18日に、自治体専用のビジネスチャット「LoGoチャット」にChatGPTのAPIを連携させ、すべての職員が文章作成や要約、誤字脱字のチェック、アイデア出しに使えるようにすると発表しました。発表では、入力した情報が二次利用されない方式で使い、機密情報や個人情報は取り扱わない運用とすることも示されています。同市は発表文そのものもChatGPTで下案を作り、職員が校正したと明記していました。
同年6月5日の結果報告で、市は約半数の職員が実際に活用し、最終アンケートの回答者のうち約8割が「仕事の効率が上がる」「利用を継続したい」と回答したと報告しています。普段使っているチャットの中に入れ、扱う情報を先に絞った点が、全庁で試す際の組み立てとして参考になります。
※横須賀市の報道発表(2023年4月18日)と結果報告(2023年6月5日)によります。約8割は最終アンケート回答者の回答(市の発表)です。約半数が実際に活用したという数値も市の発表によります。
神戸市は、生成AIの使い方を条例で定めた例です。「神戸市におけるAIの活用等に関する条例」(2024年(令和6年)3月29日条例第25号)の第7条は、安全性が確認されたものとして別に定める場合を除き、職員が職務上知り得た情報のうち神戸市情報公開条例第10条各号に掲げる情報を含む指令を、生成AI等に与えないよう市長が措置しなければならないと定めています。入れてはいけない情報の範囲を、既にある情報公開条例の区分に結びつけた形となります。
同じ第7条の2項は、市長などが議会に説明する場面で生成AI等を使うときも、その判断に委ねず、自ら責任を負って説明しなければならないとしました。生成AIの出力を使っても、説明の責任は人に残るという考え方を、条文の形で示した例です。
業務別に見る5つの自治体の事例|議事録・調達・議会答弁・マクロ・住民相談
横須賀市や神戸市のほかにも、総務省は生成AIを使った自治体の取り組みを「地域DXポータルサイト」の事例検索で公開しています。ここでは使い道が重ならない5つの団体を選び、何に使い、どれだけ効果が出て、年にいくらかけているかを並べてみました。費用は各団体が総務省の事例に載せた税抜の金額で、主にシステムの導入にかかる分です。
議事録と広報記事を作る|北海道当別町
当別町は、ChatGPTの公開から約1か月後に検討を始め、令和5年10月に全庁でLoGoAIアシスタントbot版を入れました。令和6年度からは「チャットGPTを越えてゆけ企画」として、総合計画や議会会議録など、公開済みの情報を参照させるRAGと、Microsoft 365 Copilotの検証を進めてきました。音声を文字にしてから生成AIで要約する流れにしたことで、事業効果の欄では議事録づくりにかかる時間が半減したとされています。年間の費用はLoGoAIアシスタントbot版が924千円、Microsoft 365 Copilotが432千円で、合わせて1,356千円になります。
調達の仕様書と議会答弁を作る|静岡県湖西市
湖西市は、IT調達の仕様書を作るアプリ「プロキュアテック」を使い、仕様書づくりにかかる時間を5分の1程度まで減らしました。あわせてLGWAN経由でChatGPTを使えるようにし、議会答弁や随意契約、庁内システムの操作など、用途ごとにMy GPTsを分けています。議会答弁のチャットは、質問通告書を読み込ませると過去の議事録をもとに答弁案を作ってくれる仕組みになります。市の推定では月100時間相当の業務時間が減り、職員アンケートでは議会答弁案づくりの負担が従来の3分の1になったと出ています。年間の費用は、AIゲートウェイサーバの利用料264千円とChatGPT Plusの利用料143千円で、合わせて407千円になります。
条例や議事録を参照させる|山口県山陽小野田市
山陽小野田市は、LGWANにつながった端末から使える生成AIアプリ「NICMA」を日本情報通信株式会社と共同で開発し、令和5年10月から本格的に使っています。入力した情報が学習などで外部に使われない仕様にしたうえで、議事録・例規集・広報をそれぞれ参照できるようにし、職員がどれを参照するかを選んでから質問する形にしました。令和6年5月にはRAGも入れています。職員アンケートでは、87%が業務の効率化につながると答えました。費用は、同社によるデジタル化支援の一環として取り組んでいるため、単体では積算できないとされています。
Excelのマクロを作る|愛知県日進市
日進市は、企画書案やあいさつ文、SNS投稿文、メール文の作成に加えて、Excelのマクロのコードづくりにも生成AIを使うのが特徴になります。市独自のプロンプト集とプロンプト活用事例集を作り、関数やマクロの聞き方も含めて、コツを段階を追って学べるようにしたのも、目を引くところでしょう。マクロの例では、作業するシートの名前を示したうえで、データが何行目から入っているかを前提条件として書くと精度が上がる、というコツまで載っています。令和6年度の業務時間の削減は約858時間で、生成AIを使った職員の85%が効果を実感したと答えました。費用は初期費用が200千円、GPT-4の利用料が年840千円という内訳になります。
住民の相談を24時間受ける|山形県山形市
山形市は、LINEで市民の悩みを聞く「つながりよりそいチャット」に、話に耳を傾けて共感を返す傾聴型の生成AIを組み込み、令和6年7月から運用しています。生成AIが24時間応じ、社会福祉士や公認心理師などの資格と相談支援の経験がある専門スタッフが、必要に応じて会話の内容を確かめたり、人による対応を勧めたりする組み合わせになります。開始から約8か月で約7,500件の相談に生成AIが応じており、市はこれを人件費に単純換算すると年約2,000万円相当になると見ています。費用は初期費用が10,600千円、年間の運用費が8,891千円で、厚生労働省の重層的支援体制整備事業を活用しました。
5つを並べてみると、費用が載っている庁内向けの3団体(当別町・湖西市・日進市)の年間費用は40万円台から130万円台になります。住民の相談に応える山形市は、開発費を含む初期費用が10,600千円、専門スタッフの人件費や委託費を含む年間の運用費が8,891千円で、庁内向けの3団体より大きな金額です。庁内向けの4団体はどこも、文章の下書きや要約、議事録の参照といった職員の事務から使い始めています。
※総務省「地域DXポータルサイト」の自治体DX事例検索に載っている当別町・湖西市・山陽小野田市・日進市・山形市の事例(各ページのPDF)を、2026年(令和8年)10月17日に確認した内容です。金額は税抜です。
使われているサービスと費用|zevoなど上位4つと0円で始める団体
導入しているサービスの上位4つは「QommonsAI」「LoGoAIアシスタント」「自治体AI zevo」「exaBase生成AI for 自治体」で、いずれも自治体向けのサービスでした。総務省は、調査時点などの理由から、事業者が公開している情報とは必ずしも一致しないと注記しています。活用の形では、生成AIの提供元企業が開発・公開しているツールを使っていると答えた件数が1,359件で最も多くなりました。
関連する検索で多い、無料で使えるのかという疑問には、調査の費用の設問が手がかりになります。導入済・実証中・導入予定と答えた団体の回答(複数回答の件数)では、導入コストは「0円」が705件、年間のランニングコストも「0円」が468件で、どちらも最多でした。同じく契約方法では、規約への同意だけで使える約款型の外部サービスによる利用が741件で、個別契約など約款型でない形の616件を上回っています。
2つの数字を合わせると、初期費用をかけずに約款型のサービスから始めた団体が少なくないと読むことも出来ます。ただ、0円で使えることと、どんな情報でも入力してよいことは別の話です。後の節で触れる総務省のひな形は、約款への同意だけで使えるクラウド型の生成AIでは、原則として要機密情報を扱わないよう求めています。
サービスを比べる担当の方は、料金より先に、そのサービスに入力してよい情報の区分と、職員の利用の記録を組織で確かめられるかを確認してみてください。民間の会社で生成AIの費用を管理する考え方は、生成AIのコスト管理で取り上げています。
入力してよい情報の区分を職員任せにせず、使う環境を組織で1つ用意することが欠かせません。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
導入の課題|1位は生成物の正確性への懸念、人材不足は2位に
令和7年度の調査で課題として多く挙がったのは、「AI生成物の正確性への懸念がある」「取り組むための人材がいない又は不足している」「要機密情報流出の懸念がある」の順でした。令和6年度は人材不足が1位で、正確性への懸念、導入効果が不明の順だったため、前年度の調査から1位と2位が入れ替わった形になります。導入が進んで実際に使う職員が増え、出力の誤りに向き合う場面が増えたことが背景にあると読むことも出来ます。
人材の面では変化も出ています。人材確保の取組を尋ねた設問で、令和6年度までは「生成AI活用に向けた人材確保の取組をしていない」が最も多かったのに対し、令和7年度は「職員の育成(研修会の開催など)」が最も多くなりました。外から専門家を探すより先に、今いる職員に使い方を身につけてもらう方向へ動いた団体が多いと読むことも出来ます。
課題と、この記事で対策を扱う節を並べると次のとおりです。
- 生成物の正確性への懸念:ハルシネーション対策と説明責任の節
- 人材の不足:導入手順の節(研修を利用の条件にする)
- 要機密情報の流出の懸念:ひな形と入力してよい情報の線引きの節
- 導入効果が見えにくい:導入効果とメリットの節(実績と見込みを分けて測る)
4つの課題はどれも、民間の会社が生成AIを入れるときにぶつかる課題と重なります。自治体の対応の仕方は、そのまま会社の検討の順番としても使えるでしょう。
ガイドラインの策定状況|策定済みが未策定を上回った
生成AIの利用ガイドラインを策定済みの団体は853で、未策定の737を上回りました。策定中は198で、令和6年度の策定済み647・策定中137・未策定1,004から大きく動いています。導入状況別に見ると、導入済みの団体の81%が策定済みなのに対し、実証中の団体では38%にとどまります。導入済みの団体ほど、策定済みの割合が高いことが数字から読み取れます。
策定を後押しする材料として、総務省は令和7年12月16日に「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」を公表し、別添として「生成AIシステム利用ガイドライン(ひな形Ver1.0)」を加えました。自治体名の部分を書き換えれば、自団体のガイドラインの骨組みとして使える形になっています。あわせて、問題が起きたときに使う「生成AIシステム特有のリスクケースの報告フォーム」も別紙として付けられました。
民間の会社が同じような社内ルールを作るときの手順は、生成AIの社内ガイドラインの作り方でまとめています。自治体のひな形と見比べると、条文の粒度の違いが分かりやすいかもしれません。
総務省のひな形が定めること|指定外の生成AIと私用端末への入力は禁止
ひな形の中心は、使ってよい生成AIを情報政策担当課が指定し、それ以外の利用を禁止するという考え方です。指定されていないサービスを使いたい課は、情報政策担当課に指定を申請する手順も書かれています。さらに、サービスごとに担当課・利用者・使ってよい業務の範囲・入力できる情報を別表で決める形になります。主な条文を要約すると次のとおりです。
- 情報政策担当課が指定する生成AIシステム以外の利用は禁止する。指定外のものを使いたいときは、担当課から指定を申請する
- 職員は、生成AIシステムを使う前に、情報政策担当課が指定する研修を必ず受講する
- 職員は、私用デバイスに私的にインストールした生成AIに、職務上知り得た情報を入力してはならない
- 約款や規約への同意だけで使えるクラウド型の生成AIでは、原則として要機密情報(自治体機密性2以上の情報)を扱わない
- 入力と出力の結果は、求めに応じて担当課室に提供することを事前に了解しておく
- 出力に基づいて行った判断も説明責任の対象になる。判断に迷う場合は利用しない
※総務省「(自治体名)生成AIシステム利用ガイドライン(ひな形Ver1.0)」の条文を要約したものです。2026年9月27日確認。
別表の記入例では、情報政策担当課が所管するサービスを全職員が業務目的で汎用的に使い、入力できる情報は機密性2以下とする形が示されています。特定の課だけが特定の業務で使い、入力できる情報を機密性1に絞る例もあり、1つの団体の中でサービスごとに線を変えられる作りです。
私用デバイスの条文が置かれているのは、職員の私物のスマートフォンや個人のアカウントで使われると、何を入力したかを組織の側で確かめられないためと考えられます。入力と出力の結果を求めに応じて提出させる条文とあわせると、使った記録が組織に残る環境へ利用を寄せる考え方が、ひな形の土台にあると読むことも出来ます。民間の会社でいえば、社員が個人のアカウントで使う野良AI(シャドーAI)を禁じて、会社が指定したサービスに寄せるルールと同じ考え方になるでしょう。
入力してよい情報の線引き|機密性の分類とLGWAN・閉域網
ガイドラインを策定済みの団体に、生成AIに入力してよい情報の機密性分類を尋ねると、「自治体機密性1に相当する情報」が654件で最も多く、「自治体機密性3Bに相当する情報」は49件で最も少ない結果でした。自治体機密性は、各団体の情報セキュリティポリシーで情報資産を分ける区分で、ひな形は機密性2以上の情報を要機密情報と呼んでいます。回答の内訳は次のとおりです。
- 自治体機密性1に相当する情報:654件
- 自治体機密性2に相当する情報:293件
- 自治体機密性3Cに相当する情報:59件
- 自治体機密性3Bに相当する情報:49件
- その他:69件
※ガイドラインを策定済みと答えた団体の複数回答を取りまとめたもので、策定済みの団体数とは一致しません。
総務省は資料の注記で、自治体機密性3Bを生成AIの外部サービスで使う場合は、原則として閉域網でガバメントクラウドやISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)のサービスを利用することになると説明しています。一方で3Cに相当する住民の情報は、β'モデル(総務省の注記にある区分)で文書管理システムや財務会計システムの業務で扱うものなどに限れば、インターネット接続で生成AIのクラウドサービスを利用できるとも書かれました。入れる情報の機密性が上がるほど、使える環境の条件も厳しくなるという関係が、この注記から読み取れます。
自治体向けのサービスを選ぶ場面では、LGWAN(総合行政ネットワーク。自治体どうしを結ぶ行政専用のネットワーク)の端末から使えるかどうかも確認項目の1つになります。どのネットワークから、どの機密性の情報まで入れてよいかは、各団体の情報セキュリティポリシーとネットワークの構成によって答えが変わるため、一般論で決めずに情報政策担当課と詰めてください。
個人情報については、ひな形が別に注意を置いています。保有個人情報を含むプロンプトを入力し、その情報が回答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があるとして、事業者が機械学習に使わないことなどを十分に確かめるよう求めました。判断が付かないときは、個人情報を含まないプロンプトにするという例も添えられました。
要機密情報を入力できるサービスとして指定する場合、ひな形は、入力データが機械学習に使われないことと、自治体の許可なく監査されないことを確認済みであることを前提にしています。国外にサーバがある場合は、現地の法令が適用され、現地の政府などによる検閲や接収を受ける可能性がある点にも注意を促しました。民間の会社でも、入れてはいけない情報を先に決めておくことが基本になり、その考え方はAIに入れてはいけない情報で整理しています。
ハルシネーション対策と説明責任|最終判断は職員が持つ
生成AIの誤り(ハルシネーション、事実と異なる内容をもっともらしく出力すること)への対策として、ひな形は出力を人が確かめ、その判断に職員が責任を持つことを求めています。条文に並ぶのは、利用目的に応じて求められる正確性の水準を意識して出力を確認すること、正確性や根拠・事実関係をリスクに応じて確かめること、正確で最新のデータを入力すること、といった内容です。
中でも重いのは、出力に基づいて行った判断も説明責任の対象に含まれるという条文になります。ひな形は例として、利用者自身が生成物について説明できることを確かめてから業務に使い、必要なら自分で説明できる表現に言い換えるよう例を示しました。判断に迷う場合は利用しない、という一文が歯止めとして置かれています。神戸市の条例第7条2項も、議会への説明で生成AI等を使うときに、その判断に委ねず自ら責任を負うよう求めました。
誤った出力で住民や第三者に不利益が出た場合に備えて、ひな形は報告の流れも決めています。検知した職員は報告フォームに記入して情報政策担当課に報告し、特に重大なものはAI統括責任者(CAIO)等にも速やかに報告する形です。民間の会社で責任者を置く考え方は、CAIO(最高AI責任者)とはで取り上げています。
職員の側で出来る対策としては、数字・日付・法令の条番号といった誤りが致命的になる箇所を、原典で必ず確かめる習慣が挙げられます。RAGで議会会議録や例規を参照させる使い方も、出力の根拠をたどりやすくする工夫の1つとなるでしょう。
著作権の懸念|生成物が既存の作品に似ていないかを確かめる
著作権については、ひな形が出力の確認の中で、著作権など第三者の権利を侵害していないことを確かめるよう求めています。生成AIシステム特有のリスクケースの例として、既存の作品に似たコンテンツを意図せず作って使い、権利者から削除などの申出を受ける場面も挙げられました。
総務省の調査でも、ポスターやチラシなどの画像生成が活用事例の選択肢に入っています。広報物は住民の目に触れるため、文章より画像のほうが似てしまったときの影響が見えやすく、公開前の確認を手順に入れておくのが安心です。デジタル庁のガイドライン2.0版の概要も、利用者が守るルールとして、知的財産権などの侵害のリスクを下げる対策を取ることを挙げました。
生成物の扱いと権利の考え方は、生成AIと著作権で詳しく扱っています。庁内の広報担当の方は、公開前に誰がどこまで確認するかを、担当課の中で決めておきましょう。
導入手順|小さく試して効果を測り、全庁へ広げる
導入の進め方は、対象業務を絞って試し、効果とルールを確かめてから全庁に広げる順番が基本です。総務省の資料とひな形の中身を手順に置き直すと、次の5段階になります。
- 目的と対象業務を決める。まずは回答の多いあいさつ文・議事録の要約・メール文案などの文書作成から選ぶ
- 使うサービスを指定し、別表で担当課・利用者・業務の範囲・入力できる情報を決める
- 一部の課で実証し、使う前後の作業時間を実績と見込みに分けて記録する
- 指定した研修を受けた職員から利用を始め、全庁へ広げる
- リスクケースの報告の流れを決め、技術や法令の動きに合わせてガイドラインを見直す
手順の中で見落としやすいのは、実証の段階からルールを用意しておくことです。前の節のとおり、実証中の団体でガイドラインを策定済みなのは38%にとどまります。試している間も、職員は実際の業務の情報を入力することになります。そのため、実証の対象となる課にだけ適用する暫定のルールでも、先に作っておくほうが安全でしょう。
ひな形は、ガイドラインの変更を、生成AIの技術の進展や個人情報保護法の改正などの動きに合わせて適時適切に行うとしています。使ってみて、報告を集め、ルールを直すという繰り返し(PDCA)を前提にした作りです。指定外のサービスを使いたいという申請を受け付ける窓口は、現場の要望を拾う入口としても役立ちます。民間の会社で同じ仕組みを作るときは、生成AIの利用申請や生成AIのホワイトリストの考え方が参考になります。
国の動き|デジタル庁のガイドライン2.0版は2026年(令和8年)9月1日に施行
国の側では、デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(DS-920)が、2025年(令和7年)5月に運用を始めています。2026年(令和8年)6月に公表された2.0版の概要によると、2.0版の内容は2026年(令和8年)9月1日から施行され、AIガバナンスの枠組みの対象は2026年(令和8年)7月1日からとされました。
概要資料が対象として書いているのは、各府省です。各府省のAI統括責任者(CAIO)が生成AIの利活用を把握・推進し、ガバナンスとリスク管理を総括する体制が示されています。調達の場面では、仕様書に盛り込む項目を整理した調達チェックシートと、契約書で取り決める項目を整理した契約チェックシートを参考にするよう書かれました。
利用者のルールとして概要が挙げる項目には、約款型のクラウドサービスでは原則として要機密情報を扱えないことや、国外のサーバを使う生成AIでは現地政府による検閲や接収を受ける可能性があることの理解が含まれます。自治体のひな形も、生成AIの便益とリスクについては、このガイドライン(2025年(令和7年)5月27日デジタル社会推進会議幹事会決定)の該当部分を参照するよう書いています。国と自治体のルールが同じ考え方でそろってきた流れとして押さえておくと、自団体のガイドラインを見直すときの目安になります。
※デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン2.0版について(概要)」(2026年(令和8年)6月)によります。2026年9月27日確認。
自治体と仕事をする会社が確認したいこと|委託契約と神戸市条例第9条
自治体から業務を請け負う会社や外郭団体にとっても、自治体の生成AIのルールは他人事ではありません。ひな形は、業務を委託する外部事業者に対して、成果物に生成AIの生成物が含まれる場合の取扱いなどを委託契約書等に定め、ガイドラインに沿った対応を求めるよう書いています。受託した業務の中で社員が生成AIを使えば、発注元の自治体のルールが契約を通じて及ぶことになります。
神戸市の条例は、受託事業者等の責務を第9条で定めました。第9条第2項は、受託した事業で知り得た情報のうち、神戸市情報公開条例第10条各号に掲げる情報を含む指令を生成AI等に与えようとするときは、あらかじめ市に協議し、その同意を得なければならないとしています。附則によると、第9条は令和7年4月1日以後に締結する契約から適用されます。
受託側の会社で、次の点を確かめてみてください。
- 委託契約書や仕様書に、生成AIの扱いの条項があるか成果物に生成物を含めてよいか、含める場合に何を明示するかを、契約の段階で確かめます。
- 受託業務の情報を、どのサービスに、どこまで入れてよいか発注元の機密性の区分や協議の要否に合わせて、社内でも使ってよいサービスを決めておきます。
- 社員が個人のアカウントで受託業務の情報を扱っていないか個人のアカウントでは、何を入れたかを会社が確かめられず、発注元への説明も出来なくなってしまいます。
- 入力と出力の記録を、求められたときに出せるか自治体のひな形は職員に入力と出力の提供を求めており、受託側にも同じ水準を求められる場面が考えられます。
外郭団体が自団体のルールを作る場合も、総務省のひな形を下敷きにすることが出来ます。ひな形は、適用範囲を情報セキュリティポリシーの適用範囲と同じにする前提で書かれており、教育委員会を外すといった調整も例として示されています。どの組織までを対象にするかを最初に決めてから、条文を当てはめていくと進めやすいはずです。
民間の会社が自治体のルールから借りられること
社員10〜200名ほどの会社が生成AIの社内ルールを作るときも、自治体のひな形は借りられるところの多い見本になります。自治体は住民の情報を扱う分だけ線引きが細かく、その分、何を決めればよいかが条文の形で見えるためです。借りやすいのは、次の6つでしょう。
- 会社として使ってよいAIのサービスを指定し、それ以外を業務で使わない
- 指定外のサービスを使いたいときの申請の窓口を用意する
- サービスごとに、入力してよい情報の区分を決める
- 私物の端末や個人のアカウントに、業務で知った情報を入れない
- 使い始める前に研修を受けてもらう
- 出力を使った判断の責任は人が持ち、迷ったら使わない
このうち1つ目と4つ目は、会社が指定したサービスが現場で使いやすくなければ守られにくいルールです。指定のサービスが足りないと、社員が私物のスマートフォンや個人のアカウントに戻ってしまい、会社から見えない利用が残ってしまいます。禁止の条文と、代わりに使える環境の用意は、組にして考えておきたいところです。
環境を選ぶときは、入力した内容が学習に使われない設定を会社側で全員に当てられるか、誰がいつどのAIを使ったかを管理者が確かめられるかの2点から見てみてください。点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストにまとめており、社員の個人アカウントの利用に向き合う方法は野良AI(シャドーAI)の記事で取り上げています。
個人アカウントでの利用から、利用ログが残る環境へ
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです。誰がいつどのモデルを使ったかは管理者ダッシュボードの利用ログで確かめられ、使わせるモデルのON/OFFや権限も管理者の側で設定できます。月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。LGWAN接続やISMAPへの対応を前提とする場合は、導入前にお問い合わせのうえ、自団体の情報政策担当課とご確認ください。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
自治体における生成AIの導入状況は?
自治体の生成AI活用事例は?
公務員は生成AIをどう活用していますか?
行政における生成AIとは何ですか?
自治体の生成AIは無料で使えますか?
自治体で多く使われている生成AIサービスは?
総務省の生成AIガイドラインのひな形には何が書かれていますか?
まとめ
自治体の生成AIは、総務省の令和7年度調査で都道府県・指定都市の100%、その他の市区町村の45.6%が導入済みとなり、ガイドラインを策定済みの団体も未策定を上回りました。使われ方の中心は、あいさつ文や議事録の要約、議会の想定問答といった職員が仕上げる文書で、文章作成の時間が月190時間から51時間になったという回答も取りまとめられました。
導入の費用を抑えたい場合は、デジタル化・AI導入補助金の対象になるかも確かめておきましょう。
一方で、課題の1位は生成物の正確性への懸念となり、機密情報の流出への懸念も3位に残っています。総務省のひな形は、指定外の生成AIの禁止、私用デバイスへの入力の禁止、利用前の研修、出力に基づく判断の説明責任を条文にしており、神戸市のように条例で定めた例もあります。
自治体と仕事をする会社は委託契約の条項と入力してよい情報を、民間の会社は指定するサービスと代わりに使える環境の用意を、それぞれ確かめてみてください。大学・教育機関での導入の進め方は大学の生成AI導入にまとめています。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧で読むことが出来ます。
