
介護のAI活用例とは、見守りセンサーや記録の音声入力のような機器のAIに加えて、家族への連絡文や事故報告書の下書き、会議の議事録など、事業所の文章の仕事に生成AIを使う取り組みを指す言葉です。記録以外の業務でも、利用者を特定できる情報を「Aさん(80代女性・要介護3)」のように置き換えてから入れ、出てきた文を職員が確かめる形にすれば、多くの事務で使うことが出来ます。日々の記録の書き方や記録文の指示文は介護記録のAI活用の記事に任せ、こちらでは記録の外にある業務を扱っていきます。業務ごとに指示文の全文と人が必ず確かめる点をそろえてありますので、手元の仕事から1つ選んで試してみてください。
介護のAI活用例の全体像|機器のAIと文章の生成AI
介護のAI活用は、利用者の見守りや移動を支える機器のAIと、文章の事務を手伝う生成AIの2つに分けて考えると整理しやすくなります。機器のAIは設備の購入や設置の手間がかかる一方で、生成AIは今ある端末とブラウザから小さく試し始められるところが大きな違いです。
人手と書類の負担が、AI活用の背景にあります
介護の仕事は、利用者へのケアそのものに加えて、記録・計画書・会議の議事録・報告書・家族への連絡と、書く仕事がとても多い職種になります。宮城県が掲載した介護記録AIの実証報告書でも、開発の目的として、記録の作成に多くの時間が費やされている現状が挙げられていました。厚生労働省が令和7年7月25日に公表した2040年に向けたとりまとめでは、計画書や議事録の原案を生成AIで作ることにも触れられています。限られた職員の時間を、書類からケアへ少しでも戻したいという考えが、AI活用の出発点になるでしょう。
見守り・排泄予測・送迎・コミュニケーションロボットなど機器のAI
機器のAIは、センサーやカメラ、ロボットが利用者の様子を捉えて職員に知らせたり、計画づくりを手伝ったりするものが中心です。主な種類と、検討するときの見方を下の表にまとめました。
| 種類 | 主な働き | 検討するときの見方 |
|---|---|---|
| 見守りセンサー・AIカメラ | ベッドの上での動きや離床、転倒につながる動きを捉えて職員に知らせる | 夜間の巡視の回り方がどう変わるか、通知を受ける端末をどうするか |
| 排泄予測 | センサーで排泄のタイミングを予測して知らせる | 交換やトイレへの誘導の時刻の決め方が変わるか |
| 送迎ルート・送迎計画の作成 | 利用者の住まいや時間の条件から、送迎の順路や配車の案を作る | 利用者の住所を扱うため、保存場所と見られる人の範囲を確かめる |
| コミュニケーションロボット・レクリエーション支援 | 会話や体操の進行を通じて利用者と関わる | 利用者の反応と、職員がそばにいる時間の取り方 |
| ケアプラン作成支援の専用ソフト | アセスメントの情報から計画の案を示す | 原案を作るのはケアマネジャーという運営基準との関係 |
| 介護記録の音声入力・自動作成 | 話した内容や短いメモを記録の文にする | 親記事の介護記録のAI活用で詳しく扱っています |
介護ソフトやタブレット端末、クラウドサービスなどは、厚生労働省の介護テクノロジー導入支援事業でICTの補助対象として例示されています。効果の数字は製品の提供元や導入した事業者の発表が中心となるため、導入前に自分の事業所での測り方を決めておくと比べやすくなります。補助を使う場合は、対象になる機器やソフトの範囲を都道府県の要綱で先に確かめておくと安心です。
介護記録の音声入力と自動作成は、親記事で扱っています
日々の介護記録を音声入力やAIで作る方法、記録文で避けたい表現、記録に使う指示文は、冒頭で紹介した介護記録のAI活用の記事にまとめてあります。記録の分野では数字を公表している事業者もあり、次の節で紹介するやさしい手は介護記録の作成時間を30%減らしたと発表しました。この30%は介護記録の数字で、記録以外の業務の効果を示したものではありません。連絡文や議事録でどれだけ時間が減るかは、自分の事業所で試して測るしかないと考えておきましょう。
記録以外で生成AIが使える介護の業務一覧
記録以外で生成AIが手伝える業務は、家族への連絡文、事故報告書の下書き、会議や委員会の議事録、ケアプラン原案の文案、職員研修の資料、求人票、行事のお知らせなど、事業所の文章の仕事のほぼ全体に広がります。業務によって利用者情報が要るかどうかが違うため、一覧で先に色分けしておきましょう。
| 業務 | 主に書く人 | 利用者情報 | AIに任せる範囲 | 人が決めること |
|---|---|---|---|---|
| 家族への連絡文(体調の変化・転倒の第一報のあとの説明) | 生活相談員・管理者 | 置き換えて入れる | 敬語と順序の整え | 伝える事実、医師の判断の伝え方、お詫びの範囲 |
| 事故報告書・ヒヤリハットの下書き | 発見した職員・管理者 | 置き換えて入れる | 時刻の順の並べ替え、文の整え | 原因、過失の有無、再発防止策 |
| サービス担当者会議・委員会の議事録 | ケアマネジャー・委員会の担当者 | 置き換えて入れる | 発言メモの整理、決まったことと宿題の書き出し | 決定事項、記録として残す範囲 |
| ケアプラン原案の文案の整え | ケアマネジャー | 置き換えて入れる | 目標とサービス内容の言い回し | 目標・サービス・回数など原案の中身 |
| 職員研修の資料・小テスト | 研修担当・管理者 | 入れない | 資料の構成、設問と解説の案 | 事業所の規程と合っているか |
| 求人票 | 管理者・事務長 | 入れない | 仕事内容と職場の様子の文章化 | 給与・手当・休日などの労働条件 |
| 行事のお知らせ | 生活相談員・事務 | 入れない | 案内文の下書き | 日時・費用・持ち物・写真の扱い |
| マニュアル・手順書 | 管理者・各委員会 | 入れない | 箇条書きを手順の文に | 実際の運用と合っているか |
表の右端の人が決めることは、AIの文がどれだけ整っていても職員が書き直す部分になります。利用者情報を入れない研修資料・求人票・お知らせから始めると、線引きに迷わずに試すことが出来ます。慣れてきたら、置き換えの手順を決めたうえで連絡文や議事録に広げていく順番がよいでしょう。委員会ごとのマニュアルや手順書の見直しも、利用者情報なしで始められる業務の一つになります。どの業務から始めるかは、職員が書くのに時間がかかっていると感じている書類を聞き取って選ぶと、効果を実感しやすいでしょう。
介護事業者の生成AI活用例|やさしい手・東京海上日動ベターライフサービス・SOMPOケア
実名で公表されている介護事業者の生成AI活用例を見ると、会議や面談の音声から議事録や記録の下書きを作る使い方が目立ちます。以下の3件は、いずれも事業者側の発表や導入事例のページ、それを伝えた報道にもとづくもので、第三者が効果を検証したものではありません。
やさしい手|介護記録とアセスメント情報にAmazon Bedrock
株式会社やさしい手は、介護記録などの文書作成業務にAmazon Bedrockを使っていることが、AWSの導入事例ページで紹介されています。AWSの導入事例ページによると、介護記録の作成時間は30%減り、1件あたり20分以上かかっていた作成が、チェックの時間を含めて平均14分になったとのことです。利用者が多い事業所では、月25時間の削減につながったとも書かれていました。ケアマネジャーと利用者の会話をAmazon Transcribeで文字にしてBedrockで処理し、ケアプランに必要なアセスメント情報を自動で作れるようにする取り組みもあるとのことです。家族と情報を共有する「ひつじ」というシステムにRAGという仕組みを使い、利用者や家族からの問い合わせに答える取り組みも紹介されています。
読み取るときは、数字が介護記録の作成時間のものだという点を外さないでください。ケアプランそのものをAIが作るという話ではなく、ケアマネジャーが計画を作るための情報を整える使い方として紹介されています。自分の事業所で記録以外の業務に広げる場合は、業務ごとに時間を測り直してから比べるようにしましょう。
東京海上日動ベターライフサービス|会議・面談の議事録にnoman
東京海上日動ベターライフサービスとscovilleは、2026年7月27日の共同リリースで、介護特化型AIのnomanを導入したと発表しました。nomanは会議や面談の音声を文字起こしして要約し、テンプレートに沿って記録や議事録を作る製品とされています。導入先は居宅介護支援の全43事業所(ケアマネジャー約160名)と、有料老人ホームなど施設の全11事業所です。訪問介護の全47事業所でも、サービス提供責任者に向けて今年度中に広げる予定と書かれていました。
使う場面として挙がっているのは、サービス担当者会議、モニタリングの面談、退院・退所時のカンファレンス、特定事業所加算の週次の会議、虐待防止や身体拘束廃止などの各種委員会、月次の報告書などになります。2025年8月から居宅介護支援で先に使い始め、活用マニュアルも整えたとのことです。時間がどれだけ減ったかという数字は、リリースには載っていません。
SOMPOケア|全国約1100拠点でnomanを全社導入
SOMPOケアは2026年3月に、AI議事録・文書作成ツールのnomanを、全国の約1100拠点・約3500人を対象に全社で導入したと報じられています。IT Leadersの2026年6月23日の記事で、scovilleが同年6月21日に発表した内容を伝えたものです。会議や面談の音声を文字起こしして要約し、業務ごとのテンプレートで記録の下書きを作る使い方とされ、数字の成果は記事に書かれていません。
3件から読み取れること
3件に共通するのは、会議や面談のように話した内容を文章に残す業務から使い始めている点です。東京海上日動ベターライフサービスのように活用マニュアルを先に整え、業務ごとにテンプレートを決めておくやり方は、規模の小さい事業所でもまねしやすいでしょう。製品を入れなくても、汎用の生成AIに業務ごとの指示文を用意すれば、同じ考え方で始めることが出来ます。議事録から始める場合は、録音や文字起こしに出てくる利用者情報の扱いを、次の節の線引きで先に決めておきましょう。
※出典:AWS導入事例「株式会社やさしい手」(aws.amazon.com・掲載日の記載なし)、東京海上日動ベターライフサービス・scoville 共同リリース(PR TIMES・2026年7月27日)、IT Leaders(2026年6月23日・scovilleの2026年6月21日の発表を伝えた記事)。数字はすべて事業者側の発表で、第三者の検証ではありません。2026年10月16日に各ページで内容を確認しています。
先に決める利用者情報の線引き|入れてよい・置き換えて入れる・入れない
生成AIに入れる利用者情報は、入れてよい・置き換えて入れる・入れないの3つに分け、事業所で先に決めておくのが安全です。個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスは、介護関係記録に書かれた病歴や障害の事実などを要配慮個人情報の例に挙げ、介護関係記録は媒体を問わず個人データに当たるとしています。被保険者番号も、法令で個人識別符号の一つとされている番号です。
3区分の判断表
| 区分 | 情報の例 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 入れてよい | 事業所の規程・マニュアル、行事の日時と内容、求人の労働条件、研修の題材、利用者が特定されない一般的な質問 | そのまま入れてよい。未公表の経営の数字などは事業所で別に判断する |
| 置き換えて入れる | 年代・性別・要介護度、心身の状況や出来事の経過、会議での発言、ケアマネジャーが書いた計画の文 | 「Aさん(80代女性・要介護3)」「職員B」のように記号と幅のある言い方にし、日付は「X日」にする |
| 入れない | 氏名・住所・電話番号・被保険者番号・顔写真、病名と日付や住まいの地域を組み合わせて本人が分かる情報、虐待の疑いに関する出来事、身体拘束の理由の記録の本文、職員の実名 | AIには入れず、職員が直接書く |
迷う情報は、入れない側に倒して扱うと判断がぶれにくくなります。会議や面談の録音を文字起こしして使う場合も、話の中には実名や住まい、通院先がそのまま出てくることが多いでしょう。文字起こしの文をそのまま貼らず、表のとおりに置き換えてから入れる手順を、議事録の担当者と決めておいてください。入れない欄にある情報が必要な文書は、AIで整えた下書きに職員があとから書き足す形にすると、手間と安全の両方を守ることが出来ます。
置き換えの前と後
置き換えは、名前を消すだけでは足りないことがあります。日付・地域・家族の続柄と居住地・通院先がそろうと、名前がなくても本人が分かってしまうからです。下の表のように、文に必要な情報だけを幅のある言い方に直してから入れてみてください。
| 置き換える前(入れない) | 置き換えた後(入れてよい形) |
|---|---|
| 田中〇〇様(84歳・要介護3)、〇〇市△△町にお住まい | Aさん(80代女性・要介護3) |
| 被保険者番号 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 | (削る。文に必要ありません) |
| 10月12日 21時40分、2階の205号室で転倒 | X日 21時40分ごろ、居室で転倒 |
| 長女の〇〇様(△△市在住・電話 〇〇〇-〇〇〇〇)へ連絡 | ご家族(長女)へ電話で連絡 |
| 〇〇病院の〇〇医師の診断で右膝打撲 | 医師の診察で打撲、経過観察との判断 |
| 夜勤の佐藤〇〇が発見 | 職員Bが発見 |
置き換えた文を外に出すときは、職員が元の名前や日付に戻してから使います。AIの画面に残るのは置き換え後の文だけ、という状態を守れているかを、月に1回くらい管理者が見て回るとよいでしょう。
職員が個人のスマホの無料版に入れてしまう問題
線引きを決めても、職員が自分のスマートフォンの無料版に利用者のことを入れてしまうと、事業所からは何が入ったのか確かめようがありません。個人情報保護委員会は令和5年6月2日の注意喚起で、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入れ、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法の規定に「違反することとなる可能性がある」としました。そのうえで、提供事業者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確かめるよう求めています。
OpenAIの日本語のヘルプによると、個人用ワークスペースのChatGPT Free・Plus・Proは学習へのデータ共有が初期設定で有効で、自分でオプトアウトする形になります。ChatGPT BusinessやEnterpriseでは、入力と出力が初期設定でモデルの学習に使われないとされています。職員一人ひとりの設定に任せると、事業所として説明できる状態にはなりにくいでしょう。運営基準も、居宅介護支援の第23条や介護老人福祉施設の第30条で、従業者が業務上知り得た利用者や家族の秘密を漏らしてはならないと定めています。会社や事業所が把握していないAIの使われ方は野良AI(シャドーAI)とも呼ばれ、禁止するだけでは個人のスマホでの利用が見えなくなってしまいます。
医療・介護関係事業者ガイダンスも、物理的安全管理措置の例として、スマートフォンやパソコンなど記録機能のある機器の接続の制限を挙げています。職員の私物のスマホで利用者のことを調べたり文を作ったりする場面がないか、まず管理者が聞き取ってみてください。聞き取りでは、使ったこと自体を責めず、どの業務で困っていたかを尋ねるほうが本音を集めやすくなります。実際に使われている場面が分かれば、事業所で用意する環境に何が要るかも見えてきます。
利用者情報の線引きを守るには、職員が使う生成AIを事業所の契約の中にまとめておくのが近道です。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
業務別の指示文と、人が必ず確かめる点
ここからは、業務ごとに入れる材料、そのまま貼れる指示文、出てくる文の例、人が必ず確かめる点の順に並べていきます。指示文の【】の中には、前の節の方法で置き換えたメモを貼ってください。出てくる文の例は形を示すためのもので、実際の出力は使うAIや入れたメモによって毎回変わります。
家族への連絡文|体調の変化・転倒の第一報のあとの説明
入れる材料は、置き換え済みの経過メモと、第一報の電話でご家族に伝えた内容の2つになります。経過メモには、いつ・どこで・どんな様子だったか、職員がどう対応したか、受診の有無と医師の判断を書いておきます。家族への心身の状況の説明は、医療・介護関係事業者ガイダンスの別表2でも、介護関係事業者の通常の業務で想定される利用目的の例に挙がっている業務です。
あなたは介護事業所(施設・デイサービスなど)の生活相談員の文書づくりを手伝う補助者です。 以下の【経過メモ】と【電話で伝えた内容】をもとに、ご家族へお送りする説明の文書の下書きを作ってください。 条件 ・宛名は「ご家族様」、差出人は「〇〇(事業所名) 生活相談員」とする ・最初に、お電話でお伝えした件の続報であることを書く ・経過は時刻の順に書き、メモにない事実・時刻・数値は足さない ・医師の判断はメモの言葉を「」でそのまま書き、分かりにくい言葉は後ろに(〜という意味です)と添える。今後の見通しを推測で書き足さない ・原因や施設の過失については書かない。確認中の場合は「確認を進めています」とだけ書く ・お詫びの文は書かず、入れる位置に【お詫びの文:管理者が記入】と残す ・メモで分からない点は【要確認:〇〇】と書いて残す ・400字前後、です・ます調。医師の判断以外の専門用語は、ふだんの言葉に言い換える 【経過メモ】 (置き換え済みのメモを貼る) 【電話で伝えた内容】 (第一報で伝えたことを貼る)
たとえば「Aさん(80代女性・要介護3)/X日21時40分ごろ、居室のベッド脇の床に座っているのを職員Bが発見/本人は、トイレに行こうとしたと話す/右ひざに赤み、オンコールの看護職員Cに電話で報告し、指示を受けて確認、腫れなし/翌朝、配置医の診察で「打撲、経過観察」」というメモを入れると、次のような形の下書きが返ってきます。
ご家族様 昨夜お電話でお伝えした件について、その後のご様子をご報告いたします。 X日21時40分ごろ、居室のベッドの脇の床に座っていらっしゃるところを職員が見つけました。ご本人は「トイレに行こうとした」とお話しされています。右ひざに赤みがあったため、職員が看護職員に電話で報告し、その指示で確認したところ、腫れは見られませんでした。翌朝、施設の医師(配置医)が診察し、「打撲、経過観察」(しばらく様子を見ていくという意味です)との判断でした。 【お詫びの文:管理者が記入】 夜間の見守りの方法については【要確認:施設として決めた対応】をあらためてお知らせいたします。ご不明な点は、生活相談員までお気軽にお問い合わせください。 〇〇(事業所名) 生活相談員
人が必ず確かめるのは、時刻と経過がメモと合っているか、医師の言葉を言い換えていないか、【要確認】が残っていないかの3点です。お詫びの言葉と、施設の対応として約束する内容は、管理者が決めて書き足すようにしましょう。AIは丁寧な言葉を足しがちなので、約束にあたる言い回しが紛れていないかも読み返してください。
事故報告書・ヒヤリハットの下書き|AIに任せるのは並べ替えと文の整えだけ
事故報告は期限と範囲が決まっているため、まず厚生労働省の通知の中身を押さえておきます。介護保険最新情報Vol.943(令和3年3月19日)は、原則としてすべて報告するのは死亡に至った事故と、医師の診断を受けて投薬や処置など何らかの治療が必要になった事故とし、それ以外は各自治体の取扱いによるとしました。第1報は、少なくとも別紙様式の1から6の項目まで可能な限り書き、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に出すこととされています。原因分析や再発防止策は、作成次第の報告です。この通知の様式は介護保険施設での事故を対象に作られたもので、認知症対応型共同生活介護や有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などでは積極的に、その他の居宅等の介護サービスでも可能な限り活用するよう求められています。提出先の市町村の取扱いと様式を確かめてから書き写し、通知が望ましいとする電子メールでの提出も確認しておきましょう。
AIに任せるのは、職員のメモを時刻の順に並べ替え、読みやすい文に整えるところまでになります。事故の原因や過失の有無は、AIに書かせず職員と管理者が判断します。AIはもっともらしい原因を書き足すことがあるため、指示文で書かないように縛っておくと安心です。
あなたは介護事業所の事故報告書の下書きを整える補助者です。 以下の【職員のメモ】を、時刻の順に並べた経過の文に整えてください。 条件 ・メモに書かれた事実だけを使い、書かれていない事実・時刻・数値・発言を足さない ・見たこと・したこと(事実)と、職員の推測や本人・家族の発言を分けて書く。推測には(推測)、発言には(本人の発言)と付ける ・事故の原因、過失の有無、責任の所在、再発防止策は書かない。最後に「原因・再発防止策:管理者と職員で検討して記入」とだけ書く ・時刻や順番がはっきりしない所は【要確認】と書く ・利用者は「Aさん」、職員は「職員B」「職員C」の記号のまま書く ・意識・バイタル・頭部打撲の有無がメモにない場合は【要確認:バイタル・頭部打撲】と書く ・出力は「発見までの経過」「発見したときの様子(意識・バイタル・頭部打撲の有無を含む)」「行った処置と連絡」「受診と医師の判断」の4つに分けて書く 【職員のメモ】 (置き換え済みのメモを貼る)
職員のメモに、21時10分の巡回と21時55分の家族への電話も書かれていた場合、出てくる文の例は次のような形になります。4つの見出しは下書きを読みやすくするための仮の区切りで、市町村の様式の項目とは別物として扱ってください。
発見までの経過 21時10分、職員BがAさんの居室を巡回し、ベッドで横になっているのを確認した。 発見したときの様子(意識・バイタル・頭部打撲の有無を含む) 21時40分ごろ、職員Bがベッド脇の床に座っているAさんを発見した。「トイレに行こうとした」(本人の発言)。右ひざに赤みがあった。【要確認:バイタル・頭部打撲】 行った処置と連絡 21時45分、職員Bがオンコールの看護職員Cに電話で報告し、指示を受けて右ひざを確認した。腫れはなかった。21時55分、ご家族(長女)へ電話で連絡した。【要確認:連絡した職員】 受診と医師の判断 翌朝、配置医が診察し、打撲で経過観察との判断だった。 原因・再発防止策:管理者と職員で検討して記入
確かめる点は、メモにない時刻や発言が増えていないか、推測が事実のように書かれていないか、【要確認】を埋めたかの3つです。ヒヤリハットの報告も同じ指示文で整えられますが、受診の見出しは「その後の様子」に変えてみてください。報告の対象に当たるかどうかの判断と、第1報の期限の管理は、AIではなく管理者の仕事として残しておきます。在宅のサービスで起きた事故であれば、担当の居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)への連絡も忘れずに入れておきましょう。
サービス担当者会議・委員会(虐待防止・身体拘束適正化など)の議事録の整理
入れる材料は、置き換え済みの発言メモか文字起こしになります。指定居宅介護支援の運営基準第23条第3項は、サービス担当者会議等で利用者の個人情報を使う場合は利用者の同意を、家族の個人情報を使う場合は家族の同意を、あらかじめ文書で得ておくよう定めています。この同意は会議で情報を使うためのものなので、AIに入れることまで含むと読めるかは、同意書の文言を事業所で確かめる必要があるでしょう。
虐待防止の委員会や、身体的拘束等の適正化のための委員会(身体拘束適正化委員会)の議事録のうち、研修の計画や指針の見直しのように個人が出てこない話は、AIで整理しやすい部分です。一方で、身体拘束をした場合の記録は、厚生労働省の身体拘束廃止・防止の手引き(令和7年3月)が、態様と時間、本人の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しなければならないとし、切迫性・非代替性・一時性の判断の理由を具体的に書くよう求めています。理由の部分はAIで言い換えず、判断した職員の言葉で書いてください。虐待の疑いは、生成AIには入れません。日本総合研究所が作成した高齢者虐待防止のポイント集(令和8年3月・老人保健健康増進等事業)が抜粋する高齢者虐待防止法第21条のとおり、職員による虐待と思われる場合は発見した職員にも市町村への通報の義務があるため、事業所の手順で管理者に伝えるとともに、通報を遅らせないようにしてください。
あなたは介護事業所の会議の書記です。以下の【会議メモ】を議事録に整えてください。 条件 ・サービス担当者会議は、事業所で使っている会議の要点の様式(第4表など)の欄に合わせて書く ・委員会は事業所の議事録の様式に合わせる。様式がない場合は「日時・参加者」「議題」「話し合われた内容」「決まったこと」「宿題(担当・期限)」「次回開催予定」の見出しで書く ・参加者は「ケアマネジャー」「訪問介護のサービス提供責任者」「ご本人」「長女」のように役割で書き、実名は書かない ・発言はメモの言葉を生かして短くまとめ、メモにない発言や結論を足さない ・決まったことと、まだ決まっていないことを分ける。決まっていないことには【継続検討】と付ける ・身体拘束や虐待に当たるかどうかの判断、その理由の言い換えは書かない。メモにその話があれば【記録者が直接記入】と残す ・数字・日付・回数はメモのとおりに書き、食い違う所は【要確認】とする 【会議メモ】 (置き換え済みのメモか文字起こしを貼る。様式に合わせるときは、様式の欄名も貼る)
たとえば施設の事故防止の委員会で、様式がない場合の見出しを使って整えると、次のような形になります。
日時・参加者 X日 14時〜14時40分/施設長、介護職員(夜勤リーダー)、看護職員、生活相談員 議題 夜間のトイレ誘導の見直しについて 話し合われた内容 ・介護職員:21時から23時に、一人でトイレへ向かう方の転倒やヒヤリハットが続いている ・看護職員:夜間の排せつの時間帯を、方ごとに記録から見直したい ・生活相談員:ご家族への説明の仕方は【継続検討】 決まったこと ・21時の巡回で、トイレの声かけを行う方を夜勤リーダーが確認する 宿題(担当・期限) ・方ごとの排せつの時間帯の整理:看護職員/【要確認:期限】 次回開催予定 【要確認:次回の日程】
確かめる点は、決まったことと継続検討の区別、宿題の担当と期限、誰の発言かの3つです。サービス担当者会議の記録は、出席できなかった事業所にも共有されることが多いため、第4表など事業所で使っている様式の欄にそろえておくと読み手が迷いません。
ケアプラン原案の文案の整え|原案を作るのはケアマネジャー
居宅サービス計画の原案は、指定居宅介護支援の運営基準第13条第8号で、介護支援専門員がアセスメントの結果などにもとづいて作るものと定められています。そのため生成AIに頼むのは、ケアマネジャーが書いた案を、ご本人とご家族が読んで分かる言葉に整える作業に限っておきましょう。入れる材料は、置き換え済みの課題・目標・サービス内容の下書きになります。
あなたは居宅介護支援事業所のケアマネジャーの文書を整える補助者です。 以下の【ケアマネジャーが書いた案】は、居宅サービス計画の原案の下書きです。中身は変えずに、ご本人とご家族が読んで分かる言葉に整えてください。 条件 ・課題、長期目標、短期目標、サービス内容の区切りは変えない ・目標は、ご本人が主語になる前向きな言い方にする(例:「〜できるようになる」) ・案にないサービス・回数・期間・事業所を足さない。案にあるものを削らない ・期間・頻度はケアマネジャーの案のとおりに書き、変えない ・サービス種別(通所介護・住宅改修など)の名前は言い換えない ・ADL、IADLなどの専門用語は、ふだんの言葉に言い換えるか、かっこで短く説明する ・言い換えで意味が変わりそうな所は、元の文と並べて【確認】と書く ・最後に、目標とサービス内容がつながっていないように見える所があれば、指摘だけを箇条書きで書く(直さない) 【ケアマネジャーが書いた案】 (置き換え済みの案を貼る)
課題 夜も一人で安心してトイレに行きたい(夜にトイレへ行くとき、足もとがふらつくことがある) 長期目標(〇か月) 自宅のトイレまで、安全に歩いて行けるようになる 短期目標(〇か月) 手すりを使って、寝室からトイレまで歩けるようになる サービス内容 ・通所リハビリテーション:歩く練習と、足の筋力をつける運動(週2回) ・住宅改修:寝室からトイレまでの廊下の手すりの設置 つながりの指摘 ・課題にある「夜」のトイレへの移動について、夜の場面に対応するサービス内容が書かれていません
確かめる点は、サービスと回数が元の案と同じか、目標の言い換えでご本人の意向がずれていないか、指摘された箇所をケアマネジャーとしてどう判断するかの3つです。原案そのものを作り、サービス担当者会議で話し合い、説明して同意をもらう流れは、これまでどおりケアマネジャーが担います。
職員研修の資料・小テスト
研修の資料づくりは、利用者情報をまったく入れずに使える業務です。医療・介護関係事業者ガイダンスは、安全管理措置として考えられる事項に従業者への教育研修を挙げ、ここでいう従業者には雇用関係のある人だけでなく派遣で働く人なども含まれるとしています。虐待防止や身体拘束、感染対策、事故防止のように定期的にくり返す研修でも、事業所の指針を貼り付けて、その中身だけで問題を作らせると安心です。
あなたは介護事業所の研修担当者です。 以下の【研修の元になる資料】だけを使って、職員向けの小テストを作ってください。 条件 ・問題は10問。○×問題を6問、3択問題を4問にする ・資料に書かれていないことは問題にしない ・各問に正解と、資料のどこに書いてあるかを示す一文の解説を付ける ・介護の経験が浅い職員や、日本語を学んでいる職員にも読めるよう、短い文とやさしい言葉にする ・最後に、研修担当者が見直すとよい点(資料の中で分かりにくい表現など)を3つ書く 【研修の元になる資料】 (虐待防止・身体拘束適正化・感染対策・事故防止などの事業所の指針や、生成AI利用ルール、個人情報保護の規程の該当部分を貼る)
問1(○×)利用者の名前を、自分のスマートフォンの生成AIに入れてもよい。 正解:× 解説:ルールの2番に、個人のアカウントで業務の情報を入れないと書かれています。 問7(3択)事故報告書の下書きをAIで整えるとき、AIに書かせないものはどれですか。 ア 時刻の順の並べ替え イ 読みやすい文への言い換え ウ 事故の原因と過失の判断 正解:ウ 解説:ルールの6番に、事故の原因や過失の判断はAIに任せないと書かれています。
確かめる点は、正解が規程の文と合っているか、解説が資料にない内容を足していないかの2つになります。小テストは研修のあとに配り、間違いの多かった問題を次の研修で取り上げると、ルールが現場に根づいていきます。
求人票|労働条件は事業所の数字だけで書く
求人票の文も、利用者情報を入れずに作れる業務になります。入れる材料は、給与や勤務時間などの求人の条件と、職場の様子を職員に聞いて書き留めたメモの2つです。AIは魅力的に見せようとして、条件にない手当や制度を書き足すことがあるので、指示文でしっかり止めておきましょう。
あなたは介護事業所の採用担当者です。 以下の【求人の条件】と【職場の様子のメモ】から、求人票に載せる「仕事内容」と「職場の紹介」の文を作ってください。 条件 ・給与、手当、賞与、勤務時間、休日、資格の要件は【求人の条件】のとおりに書き、言い換えたり足したりしない ・条件に書かれていない手当・制度・数字(離職率、残業時間など)は書かない ・「アットホーム」「やりがい」のような中身の分からない言葉に頼らず、メモにある具体的な様子で書く ・仕事内容は、1日の流れが分かるように時刻の順に書く ・利用者や職員の実名は入れない ・仕事内容は300字前後、職場の紹介は200字前後にする 【求人の条件】 (貼る) 【職場の様子のメモ】 (貼る)
仕事内容 8時30分に出勤し、朝礼でその日の利用者さんと送迎の順番を確認します。9時からは送迎の車に乗り、利用者さんをお迎えに行きます。午前は入浴の介助、昼は食事の介助と服薬の確認、午後は体操とレクリエーションを担当します。16時に送迎でご自宅までお送りし、17時30分までに記録を書いて終わります。 職場の紹介 利用者さん20名ほどのデイサービスです。入浴の介助は2人1組で行い、新しく入った方には最初の1か月、先輩が同じ組につきます。
確かめる点は、給与・手当・休日などの数字が条件と一字一句同じか、メモにない制度が紛れていないかの2つです。仕上げは求人媒体の掲載ルールとも照らし合わせてください。
行事のお知らせ|ご家族向けの案内文
行事の案内も、利用者情報なしで使える業務です。入れる材料は、日時・場所・費用・持ち物・申し込みの締め切りと、写真を撮って掲載するかどうかになります。写真を広報に使う場合は、事業所の利用目的の示し方と合わせて、希望しない方の連絡先を書いておくと安心でしょう。
あなたはデイサービスの生活相談員です。 以下の【行事の情報】から、ご家族にお配りするお知らせの文を作ってください。 条件 ・日時、場所、費用、持ち物、申し込みの締め切りは【行事の情報】のとおりに書く ・読み手には高齢のご家族も多いので、1文を短くし、日時と締め切りは行を分けて目立たせる ・写真の撮影と掲載がある場合は、そのことと、掲載を希望しない場合の連絡先を書く ・費用は、重要事項説明書の記載と合っているかを【要確認:重要事項説明書】として残す ・情報にないことは書かず、足りない項目は【要確認:〇〇】と残す ・A4で1枚に収まる長さにする 【行事の情報】 (貼る)
秋のお茶会のご案内 日時 〇月〇日(〇)14時から15時 場所 デイサービス〇〇 食堂 費用 300円(お茶とお菓子代)【要確認:重要事項説明書】 申し込みの締め切り 〇月〇日(〇) 当日は職員が写真を撮り、施設内の掲示板に貼る予定です。掲載を希望されない場合は、生活相談員までお知らせください。 持ち物 【要確認:持ち物】
確かめる点は、日付と曜日が合っているか、費用と締め切りが元の情報と同じかの2つです。曜日の取り違えはAIでも人でも起こりやすいので、カレンダーと見比べてから配ってください。
運営基準・指針と業務の対応|確認日時点の公式資料
介護分野に特化した生成AIの公的な指針は、2026年10月16日の確認日時点で見当たりません。そのため今ある運営基準の秘密保持、個人情報保護委員会の注意喚起、医療・介護関係事業者ガイダンスを、業務ごとに当てはめて確かめる形になります。どの資料がどの業務に関わるかを、下の表にまとめました。
| 資料と条文 | 書かれていること(要旨) | 関わる業務 |
|---|---|---|
| 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第23条第1項・第2項 | 介護支援専門員その他の従業者は、正当な理由なく業務上知り得た利用者や家族の秘密を漏らしてはならない。従業者であった者が漏らさないよう必要な措置を講じる | すべての業務。職員が個人のAIに入れる場面 |
| 同 第23条第3項 | サービス担当者会議等で利用者の個人情報を用いる場合は利用者の同意を、家族の個人情報は家族の同意を、あらかじめ文書で得る | サービス担当者会議の議事録 |
| 同 第13条第8号 | 介護支援専門員は、アセスメントの結果などにもとづき居宅サービス計画の原案を作成する | ケアプラン原案の文案の整え |
| 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第30条第1項・第3項 | 施設の従業者は、正当な理由なく業務上知り得た入所者や家族の秘密を漏らしてはならない。居宅介護支援事業者等に入所者の情報を提供する際は、あらかじめ文書で入所者の同意を得る | 特別養護老人ホームでの連絡文・議事録・事故報告 |
| 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(令和5年6月2日) | 個人情報を入れる場合は利用目的の範囲内かを十分に確認する。本人の同意なく個人データを入れ、出力以外の目的で扱われる場合は法の規定に違反することとなる可能性がある。応答に不正確な内容が含まれることがある | 利用者情報を置き換えて入れる業務すべて。出力の確認 |
| 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会・厚生労働省、平成29年4月14日・令和8年4月一部改正) | 介護関係記録の病歴や障害の事実などは要配慮個人情報の例。介護関係記録は媒体を問わず個人データ。安全管理措置、従業者の監督、委託先の監督、利用目的の公表 | 線引きの判断表、利用ルール、AIの提供元との契約、研修 |
| 介護保険最新情報Vol.943 介護保険施設等における事故の報告様式等について(令和3年3月19日) | 原則報告は死亡事故と、医師の診断で治療が必要になった事故。第1報は様式の1から6の項目を可能な限り記載し、遅くとも5日以内を目安に提出 | 事故報告書の下書き |
| 介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き(令和7年3月) | 緊急やむを得ず身体拘束を行う場合は、態様と時間、本人の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録する | 身体拘束適正化委員会の議事録。理由の記録はAIで言い換えない |
| 高齢者虐待防止のためのポイント集(日本総合研究所・令和8年3月、令和7年度老人保健健康増進等事業) | 虐待と思われる事態を発見した場合は市区町村等に速やかに通報する義務がある(高齢者虐待防止法第21条の抜粋を掲載)。国の資料ではなく事業の成果物 | 虐待防止委員会。疑いの事柄はAIに入れず、管理者に伝えて通報を遅らせない |
※条文と資料の内容は、2026年9月27日から10月16日にかけて、e-Gov法令検索と各公式ページの原文で確認したものです。訪問介護など他のサービス種別の秘密保持の条番号はここでは扱っていません。事業所のサービス種別の運営基準と、指定権者の条例をあわせて確認してください。
医療・介護関係事業者ガイダンスで確かめること
医療・介護関係事業者ガイダンスの本文には生成AIという言葉は出てこないため、AIの使い方を直接決めたものではありません。そのうえで、生成AIの利用に当てはめて確かめたい箇所は4つあります。1つ目は、ケアプランや事故の状況の記録などが介護関係事業者の個人情報の例に挙がっていることです。2つ目に、安全管理措置として、規程の整備、管理者を定める体制、雇用契約での守秘義務、従業者への教育研修、パソコンやスマートフォンなど記録機能のある機器の接続の制限、個人データへのアクセス記録の保存などが並んでいます。
3つ目は委託先の監督で、事業者が定める安全管理措置の内容を契約に盛り込んで受託者の義務とし、業務が適切に行われているかを定期的に確かめることも含まれるとされています。AIの提供元に利用者情報を扱わせる場合は、この考え方に沿って契約の条件を確認しておきたいところです。4つ目の利用目的の公表は、事業所内への掲示と、できればホームページへの掲載で、なるべく広く知らせる方法が示されました。
個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)
個人情報保護委員会の注意喚起は、個人情報取扱事業者に向けて、個人情報を含むプロンプトを入れる場合は利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめるよう求めています。本人の同意なく個人データを入れる場合は、提供事業者がそのデータを機械学習に使わないことなどを十分に確かめる必要があるとも書かれていました。注意喚起は命令ではないものの、事業所で使う生成AIを選ぶときの最初の確認項目として扱えます。
2040年に向けたとりまとめは、使い方を定めた指針ではありません
厚生労働省の2040年に向けたサービス提供体制等のあり方のとりまとめ(令和7年7月25日)は、計画書やサービス担当者会議等の議事録の原案を生成AIで作ることに触れ、実証を通じて効果や利用の留意点を明らかにしていく方向を示しました。ただしこれは検討会のとりまとめで、生成AIの使い方を定めた指針ではないと区別して読む必要があります。
※原文:「介護事業者において様々作成する文書、例えば計画書やサービス担当者会議等の議事録を生成AI の技術を活用して、その原案を作成することも業務効率化に資する。AI の信頼性やセキュリティ等の問題があるが、実証を通じて効果や利用における留意点を明らかにし、介護記録ソフトの普及と併せて、在宅サービスにおける業務効率化を促進していくことが重要である。」(厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ」令和7年7月25日、mhlw.go.jp)
AIの文は誤りを含むことがあるため、職員が確かめます
個人情報保護委員会の注意喚起は、一般の利用者に向けて、生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがあると注意を促しています。業務別の指示文で、メモにない事実を足さない、分からない所は【要確認】と残す、と毎回書いているのはこのためです。AIが整えた文を外に出すかどうかは、作った職員と管理者が最後に決めてください。
事業所のAI利用ルールのひな形
生成AIを職員に使ってもらう前に、使ってよい環境・業務・入れない情報・確認の手順を1枚のルールにしておくと、現場の迷いが減ります。下のひな形は、ここまでの線引きと業務別の注意をそのまま条文の形にしたもので、事業所名と日付を入れればたたき台として使うことが出来ます。
〇〇(事業所名)生成AI利用ルール(第1版 〇年〇月〇日) 1.目的 書類づくりの手間を減らし、利用者へのケアに使える時間を増やすために、事業所が用意した生成AIを使う。 2.使ってよい環境 ・事業所が契約し、管理者がアカウントを発行した生成AIだけを使う ・個人のスマートフォンやパソコンの個人アカウント(無料版を含む)に、業務の情報を入れない ・個人のスマートフォンから使ってよいかは管理者が決め、使う場合も事業所が発行したアカウントでログインし、端末に保存しない 3.使ってよい業務 ・家族への連絡文、事故報告書・ヒヤリハットの下書きの整え、会議・委員会の議事録の整理、ケアプラン原案の文案の整え、研修資料、求人票、お知らせ、マニュアル ・これ以外の業務に使うときは、事前に管理者に相談する 4.入れてはいけない情報 ・利用者・家族・職員の氏名、住所、電話番号、被保険者番号、顔写真 ・病名と日付・住まいの地域などを組み合わせて本人が分かる情報 ・虐待の疑いに関すること(生成AIには入れず、事業所の手順で管理者に伝え、市町村への通報を遅らせない) ・身体拘束の理由の記録の本文 5.置き換えて入れる情報 ・利用者は「Aさん(80代女性・要介護3)」、職員は「職員B」のように記号にする ・日付は「X日」、場所は「居室」「食堂」のように書く 6.AIに任せないこと ・事故の原因や過失の判断、再発防止策の決定 ・ケアプラン原案の中身(目標・サービス・回数) ・医師の判断の言い換え、家族へのお詫びと約束の内容 7.確認と保存 ・AIが作った文は、作った職員が元のメモと照らして直し、【要確認】を残したまま外に出さない ・家族への文書、事故報告、議事録は、管理者または委員会の責任者が確認してから使う ・記録として残すのは、職員が確認して仕上げた文とする 8.管理 ・管理者は、アカウントの発行と停止、利用ログの確認を定期的に行う ・このルールは年に1回、職員研修で読み合わせ、必要に応じて見直す
ひな形の2番と4番は、事業所の個人情報保護の規程や、雇用契約の守秘義務の定めとあわせて読めるようにしておきましょう。医療・介護関係事業者ガイダンスも、規程の整備と、離職後も含めた守秘義務を雇用契約のときに定めることを安全管理措置の例に挙げています。会社全体の生成AIの社内ルールの作り方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方の記事も参考になります。
事業所で安全に使うには|学習に使われない環境・利用ログ・職員への配布
事業所で生成AIを安全に使う形は、学習に使われない法人向けの環境を事業所が用意し、利用ログで使われ方を確かめ、職員全員に同じ環境を配ることが土台になります。個人のスマホでの利用を禁止するだけだと、困った職員が隠れて使う形になりやすいからです。
学習に使われない法人向けの環境を、事業所で用意する
先に紹介したOpenAIのヘルプのとおり、ChatGPT BusinessやEnterpriseは、入力と出力が初期設定でモデルの学習に使われないと案内されています。個人の無料版のように職員ごとのオプトアウトに頼らず、事業所の契約で条件をそろえられる点が大きな違いになります。プランごとの料金と機能は、ChatGPTの法人向けプランと料金で比べられます。
利用ログで、使われ方を確かめる
医療・介護関係事業者ガイダンスは、技術的安全管理措置の例として個人データへのアクセス記録の保存と、不正が疑われる異常な記録の定期的な確認を挙げています。生成AIの利用ログも考え方は近く、誰がいつどのAIを使ったかを管理者が見られると、ルールどおりに使われているかを確かめやすくなります。点検する項目の全体は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストにまとめてあります。
職員への配布と、現場への定着
職員への配布は、管理者がアカウントを発行し、退職や異動のときにすぐ止められる形にしておくのが基本です。始めは利用者情報を入れない研修資料やお知らせから試し、慣れた職員から連絡文や議事録へ広げていくと、置き換えの手順が自然に身についていきます。よく使う指示文は事業所で共有し、新しく入った方も同じ指示文から始められるようにしてみてください。研修では、前の節の小テストの指示文で作った問題を使い、間違いの多かった項目を次の回で取り上げると続けやすくなります。
複数のAIを使い分ける
生成AIは、サービスごとに文章の言い回しや、出典を示しながら調べる力に違いがあります。家族への連絡文の言い回しは一つのAIで整え、介護報酬の制度の調べものは出典を示すAIで当たりを付けるなど、用途で分けると外れが減っていきます。同じ指示文を2つのAIに入れて答えが食い違った所は、そのまま職員が確かめるべき箇所として使えるでしょう。4つの主なAIの違いは主要4AIの違いと使い分けで紹介しています。
メリット・デメリットと、費用・補助金の考え方
生成AIを事務に使うメリットは、今ある端末から小さく始められ、連絡文・議事録・研修資料のように業務をまたいで同じ道具を使える点にあります。デメリットは、利用者情報の置き換えと出力の確認という手間が毎回かかることと、ルールを決めずに広げると個人のスマホでの利用が残ってしまうことです。費用は、職員1人ずつに契約するか、事業所単位で契約するかで増え方が大きく変わります。
補助金では、厚生労働省の介護テクノロジー導入支援事業が、令和7年度の資料でICTの補助額を職員数1〜10人で100万円、11〜20人で150万円、21〜30人で200万円、31人以上で250万円と示していました。補助率は要件を満たす場合に4分の3を下限とし、それ以外は2分の1を下限とする形です。実施主体は都道府県で、汎用の生成AIのサービスが対象になるかどうかや令和8年度の要件は、各都道府県の要綱で確かめてください。
※介護テクノロジー導入支援事業の金額は、厚生労働省のページに掲載された事業概要(令和7年度当初予算、mhlw.go.jp)で2026年9月27日に確認したものです。ICTの補助には、在宅系ではケアプランデータ連携システムの利用、それ以外ではLIFEへのデータ提供か文書量の半減を目指す導入計画などの要件があり、第三者による業務改善の支援を受けることも共通の要件とされています。
事業所の生成AIを、1つの契約と1つの管理画面で
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、よく使う指示文は社内限定のBOTにして共有出来ます。基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
職員が個人のスマートフォンで無料版のChatGPTを使って、家族への連絡文を作ってもよいですか?
利用者の名前を伏せれば、何を入れても大丈夫ですか?
ケアプランをAIに作らせてもよいですか?
事故報告書をAIに書かせてもよいですか?
介護分野で生成AIを使うための国のガイドラインはありますか?
まとめ
介護のAI活用例は、見守りや記録の機器だけでなく、家族への連絡文、事故報告書の下書き、会議や委員会の議事録、ケアプラン原案の文案、研修資料、求人票、お知らせといった事業所の文章の仕事にも広がっています。始めやすいのは利用者情報を入れない研修資料や求人票で、慣れてきたら置き換えの手順を決めて連絡文や議事録に広げていく順番がよいでしょう。
どの業務でも、AIに任せるのは並べ替えと言い回しの整えまでになります。事故の原因、ケアプランの中身、医師の判断、家族へのお詫びは、職員と管理者が決めて書いてください。そのうえで、学習に使われない環境を事業所で用意し、利用ログを確かめられる形で職員全員に配ると、個人のスマホでの利用も減らしていけます。
業務別のAI活用の記事はAI活用コラム一覧にまとめていますので、あわせてご覧ください。
