
建築設計事務所の生成AI活用とは、ChatGPTやClaudeのような文章のAIと、パースの案を出す画像のAIを、設計・監理のまわりの作業に使うことを指す言葉です。任せてよいのは、施主ヒアリングの整理、法規のチェック項目の洗い出し、説明資料や議事録の下書き、パースのたたき台までとなります。法令に適合しているかの判断と設計図書への記名、重要事項の説明は、AIを使っても建築士の仕事として残ります。建設業全体の道具の見取り図は建設業のAIツールの選び方にあるので、ここでは設計事務所の業務ごとに、AIへ渡す材料と指示文、建築士が確かめる点までを見ていきましょう。
※2026年10月16日時点で、各社の公式ページ、e-Gov法令検索の建築士法、国土交通省・文化庁・個人情報保護委員会・総務省の公表資料を確認した内容です。各社の機能や料金の説明は同社の発表で、第三者が検証したものではありません。指示文は、施主の実名・住所・地番を入れない形で書いています。
設計事務所で生成AIに任せる範囲と、建築士が持つ範囲
生成AIに任せてよいのは、たたき台を作る、抜けを洗い出す、文を整えるの3つの作業で、判断と責任の伴う作業は建築士の手元に残します。設計事務所の1日を思い浮かべると、文章を書いている時間の長さに気づく方は多いでしょう。施主との打合せのメモ、基本設計の説明文、仕様書の特記、変更の記録、監理の報告と、建築士の手を通る文書は図面と同じくらいあります。生成AIの効き目が出やすいのは、実はこの文書の側となります。
一方で、AIは敷地を見ていませんし、施主の暮らしぶりも知りません。条文の検索や項目の列挙は得意でも、その敷地にどの規制がどう掛かるかを最後に決めるのは、現地と図面を見た建築士になります。
任せる作業・伏せて使う作業・任せない作業
- AIに任せてよい作業:要望の整理、設計条件の一覧化、法規のチェック項目の洗い出し、説明文・議事録・報告文の下書き、表記ゆれの点検、パースのたたき台
- 情報を伏せてから使う作業:施主の要望メモの整理、打合せの文字起こしの要約、見積の内訳の読み解き
- 建築士が持つ作業:法令に適合しているかの判断、設計図書への記名、契約前の説明(第24条の7)、工事監理の判断、施主への最終的な説明
3つ目に並ぶ作業は、建築士法が建築士や建築士事務所に求めている仕事とそのまま重なっています。次の節で、条文とAIの使い方の関係を確かめておきましょう。
文章のAIと画像のAIは分けて考える
生成AIと一口に言っても、設計事務所で使うものは大きく2つに分かれます。ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityのような文章のAIは、ヒアリングの整理から報告文まで、事務所の全員が毎日使う道具になります。画像のAIやAIレンダリングは、パースやイメージを担当する方が使う道具で、使う人も頻度も限られてきます。導入の順序や配り方もこの2つで変えると、費用と管理の手間を抑えることが出来ます。4つの文章のAIの得意・不得意は主要4AIの違いと使い分けで比べています。
どちらのAIも、使う前に何を入れてよいかを決めておかないと、便利さに引っぱられて施主の情報まで入れてしまいがちです。道具を配る話と、入れてよい情報を決める話は、同じ日に所内で決めてしまうのがよいでしょう。
建築士法から見たAIの線引き(第18条・第20条・第24条の7)
AIをどこまで使えるかは、建築士法が建築士に何を求めているかから逆に決めると迷いにくくなります。第18条第1項は、設計する建築物を法令や条例の基準に適合させる義務を、建築士に課しています。同じ条の第2項で、設計の委託者に設計の内容を適切に説明するよう努めることが、建築士の努力義務とされます。AIが条文を探してくれても、適合させる義務と説明する役目は建築士に残ることになります。
第20条第1項は、設計を行った建築士に、設計図書へ一級建築士などである旨を表示して記名することを定めています。AIが下書きした仕様書の一文も、記名した建築士の責任で事務所の外に出ることとなってしまいます。
第24条の7は、設計受託契約や工事監理受託契約を結ぶ前に、建築士事務所の開設者が、管理建築士などに、建築主へ書面を交付して重要事項を説明させることを求めています。書面には、作成する設計図書の種類、従事する建築士の氏名と資格、報酬の額と支払時期、契約の解除などが入ります。説明メモの下書きはAIに手伝わせることが出来ても、施主の前で説明する人を置き換えることは出来ません。
続く第24条の8は、契約を結んだ後に遅滞なく書面を交付することを定めており、委託者の承諾があれば電磁的な方法も使えます。書面そのものは事務所のひな形で作り、AIは説明の準備に回すという分担にしておけば、所員も迷わずに済むでしょう。
建築士法には建築士本人の守秘義務の条文がありません
建築士法には、税理士法や弁護士法のような、建築士本人の守秘義務の条文はありません。法律の中で秘密の語が出てくるのは第10条の8で、対象は中央指定登録機関の役員や職員、その職にあった者になります。登録の事務で知った秘密を漏らしてはならないという登録機関側の決まりで、建築士や事務所の開設者に一般的な守秘義務を課す条文は、建築士法には見当たらないのが現状です。
守秘義務の条文が無いからといって、施主の情報を自由に扱ってよいわけではありません。守る根拠になるのは、設計・監理の契約書や約款の秘密保持の取り決めと、個人情報保護法の2つとなります。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人情報を含むプロンプトを生成AIに入力するときは、利用目的の範囲内かを十分に確認するよう求めました。あわせて、本人の同意なく個人データを入れ、それが応答の出力以外の目的で扱われると法違反となる可能性があるとして、提供事業者が機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう促しています。施主の氏名や家族構成を入れる前に、使うAIがどの契約で、入力が学習に使われるかを確かめてください。
施主との契約の打合せのときに、所内で生成AIを使う場合の扱いを一言説明しておく方法もあります。事務所で契約した環境だけを使うこと、氏名や地番のような個人を特定できる情報は入れないこと、AIの出力は建築士が確かめてから使うことの3点を伝えておけば、施主の不安も和らぐでしょう。契約書の秘密保持の条文の書き方は、事務所が使っている約款や、顧問の専門家に確かめながら決めてください。
※建築士法の条文:e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000202 (2026年10月16日に現行の条文を確認)。個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/ 。罰則の条文や、四会連合協定の約款の秘密保持の条番号はここでは扱っていません。
施主ヒアリングの要望整理と設計条件の一覧化
ヒアリングのメモをAIに渡すと、散らばった要望を必須、できれば、迷っているの3つに分け、設計条件の一覧に直すところまでを下書きすることが出来ます。打合せで施主が話す順番は、設計で決める順番とは一致しないことがほとんどでしょう。キッチンの話の途中で子ども部屋の将来の話が出て、最後に予算の上限が出てくる、という流れもよくあります。
入れる材料
- 打合せのメモか文字起こし(氏名・住所・勤務先は消すか、施主A様に置き換える)
- 敷地の条件(用途地域、おおよその面積、接道の向き。地番は入れない)
- 予算の枠と希望の時期
- 事務所の標準のヒアリングシートの項目
録音を文字起こしして使う場合は、録音することを施主に伝えてから始めましょう。文字起こしの文は話し言葉のままで構いませんが、誰の発言かが分かる形にしておくと、AIが要望の主を取り違えにくくなります。
AIへの指示文
あなたは住宅の設計事務所で、施主ヒアリングの記録を整理する担当です。 以下の打合せメモを読み、設計条件の一覧を作ってください。 # 条件 ・施主は「施主A様」と書き、氏名や住所を推測して補わないこと ・要望を「必須」「できれば」「迷っている」の3つに分ける ・用途に応じて部屋・ゾーンごとに並べ替える(住宅ならLDK・寝室・水回り・収納・外構、店舗なら客席・厨房・バックヤード・トイレ) ・要望どうしがぶつかりそうな組み合わせ(例:吹抜けと2階の床面積)を「要確認」として別にまとめる ・配置や寸法の可否は判断せず、ぶつかりそうな要望の組み合わせだけを挙げる ・メモに書かれていない数字(面積・金額)は作らず、「未確認」と書く ・最後に、次回の打合せで施主に聞くべき質問を5つ挙げる # 敷地の条件 ○○市の第一種低層住居専用地域の敷地、約200㎡、南側道路 # 打合せメモ (ここに文字起こしやメモを貼る)
出てくる文の例
【必須】LDKは南向きで一体の空間にしたい/駐車2台分/1階に寝室(将来の階段の上り下りを心配されている)
【できれば】キッチンから庭が見える/書斎(2畳程度で可)
【迷っている】吹抜け(冷暖房費を気にされている)
【要確認】1階寝室・駐車2台・南面に開いたLDKの3つを、敷地の中でどう配置するか(配置の検討で確認)
【次回の質問】1. 吹抜けをやめた場合、2階に何を置きたいか 2. 書斎は在宅勤務用か趣味用か 3. 駐車2台は縦列でもよいか ほか
建築士が必ず確かめる点
確かめたいのは、AIが分類した必須と、施主が本当に譲れないものが合っているかどうかです。話の流れで軽く触れただけの要望が、一覧では大きな扱いになっていることもあります。メモに無い数字をAIが補っていないか、伏せたはずの名前が残っていないかも、一覧を施主に見せる前に目を通しておきましょう。要確認に挙がった矛盾は、計画の初期に施主と話し合う材料としてそのまま使えます。
初回の打合せの前に、聞くことの一覧を作る
初回の打合せの前に、施主から届いたメールや問い合わせフォームの文面を伏せて渡し、当日聞くべきことを並べさせる使い方もあります。事務所の標準のヒアリングシートと突き合わせて、その施主にとくに聞いておきたい項目だけを先に挙げさせると、限られた時間を有効に使えるでしょう。
あなたは住宅の設計事務所で、初回打合せの準備をする担当です。 以下の【施主からの問い合わせ文】と【事務所の標準のヒアリング項目】を読み、次の3つを挙げてください。 1. 問い合わせ文から読み取れる施主の関心ごと 2. 標準の項目のうち、この施主にとくに詳しく聞くべきもの(理由を1行で) 3. 問い合わせ文だけでは分からず、当日必ず確かめるべきこと 施主の家族構成や予算を推測で補わないでください。 【施主からの問い合わせ文】(氏名・連絡先を伏せて貼る) 【事務所の標準のヒアリング項目】(貼る)
出てきた一覧を担当者の手元のメモにしておけば、打合せの最中に聞き漏らしに気づきやすくなります。問い合わせ文に書かれた言葉づかいから、施主が何を不安に感じているかを読み取る手がかりにもなるでしょう。
法規の下調べ(用途地域・斜線・採光などのチェック項目の洗い出し)
法規の下調べでAIに任せられるのは、敷地の条件から確認すべき項目を並べることと、条文の場所を探すことまでです。その敷地で何がどこまで建てられるかを決めるのは、建築士の仕事として残ります。生成AIは条文番号や数値をもっともらしく取り違えることがあり、自治体の条例や地区計画、建築協定のような地域ごとの決まりも、そのままでは知りません。AIの答えは申請図書に写さず、チェックリストの項目として使うのが安全な使い方です。
2025年4月1日以後に工事に着手する建築物からは、建築基準法と建築物省エネ法の改正が適用されています。2階建ての木造住宅なども確認申請で構造関係と省エネ関係の図書が要るようになり、法規の下調べで確かめる項目が増えました。チェックリストを作る指示文にも、この2つを候補として入れておきましょう。
※改正の内容は、江戸川区の公式ページ https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e021/toshikeikaku/kenchiku/kensa_keikaku/kakunin/kaiseikenchiku.html と国土交通省のリーフレット https://www.mlit.go.jp/common/001500388.pdf によります。経過措置や審査項目の細部は原文でご確認ください。
入れる材料
- 用途地域・防火地域の指定、敷地面積、前面道路の幅員と方位、建ぺい率・容積率の指定値
- 建てたい建物の用途・構造・階数・延べ面積の見込み
- 自治体名(条例を調べる手がかりとして。地番は入れない)
AIへの指示文
あなたは建築確認の前に法規チェックリストを作る担当です。 以下の計画について、設計者が確認すべき法規の項目を洗い出してください。 適否の判断や数値の計算はしないでください。 # 計画の条件 ・○○市の第一種低層住居専用地域、準防火地域の指定あり ・敷地面積 約200㎡、北側に隣地、南側に幅員6mの道路 ・木造2階建ての専用住宅、延べ面積 約120㎡ # 出力の形 ・項目名(例:道路斜線、北側斜線、隣地斜線、日影規制、接道、採光、換気、シックハウス対策、内装制限、防火の構造、建ぺい率、容積率、外壁の後退、高さの限度、消防法、自治体の条例) ・2025年4月施行の改正で確認申請に要るようになった、構造関係と省エネ関係の図書の準備も項目の候補に含める ・用途地域により必ず掛かる制限は「適用あり」、掛からない制限は「適用なし」と書き分け、判断できないものだけ【要確認】とする ・その項目で確認する内容を1行で(問いの形で書く) ・根拠になる法令名(建築基準法、同施行令、条例など)。条番号が確かでない場合は「条番号は要確認」と書く ・自治体の条例・地区計画・建築協定で追加の制限がありうる項目には「自治体に確認」と付ける ・最後に、このリストで拾えていない可能性がある分野を挙げる
出てくる文の例
・道路斜線:前面道路との関係で、建物の各部の高さが制限の内側に収まっているか(建築基準法。条番号は要確認)
・北側斜線:第一種低層住居専用地域なので適用あり。起点と勾配は図面で確認
・隣地斜線:第一種低層住居専用地域では適用なし
・日影規制:自治体の条例で対象の区域や規制の値が定められているか(自治体に確認)
・採光:居室ごとに、開口部の面積が必要な割合に足りているか(建築基準法・同施行令。条番号は要確認)
・高さの限度:第一種低層住居専用地域なので適用あり。限度の値は都市計画で確認
・外壁の後退:都市計画で定められているか(自治体に確認)
・構造・省エネの図書:2025年4月施行の改正後の確認申請で、どの図書をいつまでに用意するか(原文で確認)
・拾えていない可能性:がけ条例、景観の条例、地区計画、宅地造成に関する区域の指定
建築士が必ず確かめる点
AIの一覧は何を見るかの抜けを探す道具として使い、各項目の数値と適否は、法令の原文と自治体の窓口や公開資料で確かめてください。条番号を書かせると、改正前の番号や別の条を挙げることがあるため、根拠はe-Gov法令検索の現行の条文で読み直すようにします。第18条第1項で法令への適合を求められているのは建築士本人なので、AIの一覧で漏れていた項目の責任も、最後は記名する建築士が負うことになってしまいます。
反対に、所員が新しい用途や規模の計画を初めて担当するときの、調べ始めの地図として使う分には役に立つ場面が多いはずです。ベテランの所長が見れば一目で分かる抜けを、若手が自分で気づくきっかけにもなるでしょう。
自治体の条例や地区計画の調べ先を洗い出す
地域ごとの決まりはAIの知識が追いつきにくい部分ですが、何を調べればよいかの見当を付けさせる使い方は出来ます。自治体名と計画の条件を渡して、確かめるべき条例の種類と、自治体のどの窓口や公開資料に当たればよいかを挙げさせてみてください。調べるときは、PerplexityのようなWeb検索つきのAIに出典のURLを出させると、確かめる先がはっきりします。出てきた条例の名前が実在するか、最新の改正が入っているかは、自治体の公式サイトの例規集で確かめる必要があります。出典のURLはAIの要約を読むだけで済ませず、必ず原文のページを開いて読みましょう。
店舗・事務所のテナント改修で確かめる項目の洗い出し
住宅以外では、事務所を飲食店に改修するような、用途が変わるテナントの計画で手続きの要否から確かめる案件もあります。用途変更の確認申請が要るかどうかや、消防との協議で確かめることをAIに先に洗い出させておくと、所内の検討の漏れを防ぎやすくなります。要否の判断の基準は用途や規模によって変わるため、AIには判断させず、確かめる項目の一覧だけを作らせましょう。
AIへの指示文
あなたは設計事務所で、テナント改修の事前調査を手伝う担当です。 以下の計画について、設計者が確かめるべき項目を洗い出してください。 用途変更の確認申請が要るかどうか、消防の手続きが要るかどうかの判断はしないでください。 # 計画の条件 ・○○市の商業地域にある3階建て事務所ビルの1階 ・現在の用途は事務所。飲食店に改修する計画 ・床面積、建物の竣工年、確認済証・検査済証の有無は「未確認」として扱う # 出力の形 ・建築基準法の手続き(用途変更の確認申請の要否を判断するために集める資料と、確かめる観点) ・消防法の手続き(消防署との事前の協議で確かめる観点) ・建物側の資料(確認済証・検査済証・竣工図など、オーナーに用意を頼むもの) ・自治体の条例や保健所の手続きで確かめる先 ・面積などの基準の数値は書かず、「基準は原文で確認」と書く
建築士が必ず確かめる点
一覧に出た観点のうち、用途変更の確認申請や消防の手続きが要るかどうかは、建築基準法・消防法の原文と、自治体や消防署への事前の相談で確かめてください。AIが基準の数値を書いてきた場合は、そのまま使わずに原文と照らし合わせる必要があります。オーナーから建物の資料を取り寄せる段取りも、最初に組んでおくとよいでしょう。
図面PDF・敷地や現況の写真をAIに読ませるとき
図面のPDFや現況の写真をAIに添付して、内容の要約や確認項目の洗い出しを頼む使い方もあります。入れてよい図面は、施主名や地番を消した平面図・立面図のような、案件が特定できない形にしたものになります。コンペの提出前の案や、協力事務所から秘密として受け取った図面は、入れない情報として扱いましょう。写真は、表札や車のナンバー、隣家が写っていないかを確かめてから使ってください。AIが図面から寸法や図面どうしの整合を正しく読み取れるとは限らないので、読み取った内容は必ず元の図面と照合します。
AIへの指示文
あなたは設計事務所で、図面の点検の下準備をする担当です。 添付した平面図・立面図(PDF)を見て、次の2つを書き出してください。 1. 図面から読み取った内容の一覧(部屋名、階、主な開口部の位置) 読み取れない文字や寸法は「読み取れない」と書き、推測で補わない 2. 平面図と立面図で、窓や出入口の位置が食い違っていそうな箇所の候補 食い違いの有無は断定せず、「図面で確認」と添える 施主名・地番は図面から消してあります。図面の外の情報を補わないでください。
出てきた一覧は図面を見る順番の目安として使い、寸法や整合の結論は、建築士が図面そのもので出すようにしましょう。読み取れないと返ってきた箇所が多いときは、解像度を上げたPDFに差し替えるより、図面を見ながら自分で確かめるほうが早い場合もあります。
施主の情報をどこまでAIに入れてよいか(3段階の区分)
施主の情報は、そのまま入れてよいもの、伏せてから入れるもの、入れないものの3段階に分けておくと、所員が迷わずに使えます。
1段階目:そのまま入れてよい情報
- 公開されている法令・告示・自治体の条例の本文
- 事務所の標準仕様書やひな形、すでに公開した作品紹介の文章
- 地番を伏せた敷地の条件(用途地域、建ぺい率、接道の向きなど)
2段階目:伏せてから入れる情報
- 施主の要望メモ(氏名・住所・地番・勤務先を、施主A様、○○市の敷地に置き換える)
- 打合せの文字起こし(家族の名前、健康や収入の話を消す)
- 見積書(業者名を伏せる。単価を残すのは、事務所で契約した学習に使われない環境に限る)
3段階目:入れない情報
- 施主の氏名と住所・地番がそろった書類、登記事項の写し、本人確認の書類
- 未公開の開発計画、コンペの提出前の案、取引先から秘密として受け取った図面
- 秘密保持の取り決めで第三者への開示が禁じられている資料
2段階目の伏せ方は、置き換え表を1枚作っておき、所員全員で同じ書き方にそろえるのが現実的です。施主A様、○○市の第一種低層住居専用地域の敷地、延べ約120㎡の木造2階建て、くらいまで抽象化しても、AIに頼みたい整理や下書きには十分な材料になります。
置き換え表の例
施主の氏名 → 施主A様(2件目以降は施主B様、施主C様)
住所・地番 → ○○市の第一種低層住居専用地域の敷地
家族の名前 → ご主人、奥様、長女(小学生)のように続柄と年代だけ
勤務先・収入 → 入れない(設計条件に要るなら、在宅勤務あり、のように条件だけ)
工務店・業者名 → 工務店X、設備業者Y
コンペや未公開の計画名 → 入れない
置き換え表は事務所の共有フォルダの、所員がすぐ開ける場所に置いておきましょう。案件ごとに施主A様が誰を指すかの対応は、AIに入れない所内の台帳のほうで管理します。
個人のアカウントに入れてしまう危うさ
気をつけたいのは、所員が自分の無料アカウントや個人契約のAIに、施主の要望メモをそのまま貼ってしまう場面です。個人向けのプランでは、入力を学習に使うかどうかが本人の設定に任されていることが多く、事務所からは設定も利用の記録も見えません。退職した所員のアカウントに、施主とのやり取りが残り続けることもあるでしょう。会社が把握していないこうした利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、契約の秘密保持の取り決めを守れているかを、事務所として施主に説明できない状態になってしまいます。
法人向けのプランでは、扱いが変わってきます。各社の公式の説明では、Claudeの法人向けプラン、対象のエディションのGoogle WorkspaceのGemini、ChatGPT Business・Enterpriseは、既定で業務の入力をモデルの学習に使わないとされています。禁止するだけで終わらせず、同じ便利さを事務所の管理下で用意するほうが、見えない利用は減らしやすくなります。
所員それぞれの個人アカウントに任せず、学習の設定と利用の記録を事務所で持てる環境に寄せると、施主への説明もしやすくなります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
基本設計の施主説明資料とコンセプト案(施主提案での使い方)
基本設計の説明資料では、図面に込めた判断の理由を、施主の言葉に置き換える作業にAIが役立ちます。建築士にとっては当たり前の、南面に開口を集めた理由や、階段を北側に寄せた理由も、施主には説明されて初めて伝わるものです。設計者が箇条書きで理由を渡し、AIに施主向けの文へ直させると、専門用語の言い換えや段落の順番を整える手間が減ってきます。
コンセプト案とブレスト
計画の初期には、コンセプトの言葉の候補を出させる使い方もあります。家族の気配が感じられる、庭と室内がつながる、のような施主の言葉を渡し、それを空間の構成に言い換えた案を10個ほど出させると、所内の打合せの叩き台になります。出てきた案の多くはありきたりなものになりがちですが、建築士が選び、削り、組み合わせる前の材料としては十分に使えるでしょう。施主提案の前に、所内で別の切り口を探すための壁打ちの相手と考えると、付き合いやすくなります。
入れる材料
- 配置図・平面図の要点を言葉にしたメモ(南に開口を集めた、階段は北側、など)
- 施主の要望の一覧(ヒアリングの節で作ったもの)
- 施主が気にしている点(予算、将来の間取りの変更、断熱)
AIへの指示文
あなたは住宅の設計者が施主に渡す説明資料の文章を書く担当です。 以下の設計の要点を、施主A様ご家族向けの説明文にしてください。 # 書き方 ・専門用語は使う場合に1行で説明を添える(例:耐力壁=地震や風の力を受け止める壁) ・各項目は「何をしたか」→「なぜそうしたか」→「暮らしでどう感じられるか」の順 ・性能や数値は、下の要点に書かれたものだけを使い、書かれていない数値は入れない ・言い切りすぎず、まだ決まっていないことは「今後の打合せで決めます」と書く ・1項目200字以内、全体で6項目まで # 設計の要点 1. LDKを南に配置し、南面の開口を大きくした(隣家との距離を考えて、開口の位置を東寄せ) 2. 階段を北側に寄せ、LDKから階段が直接見えない配置にした 3. 1階に、将来寝室にできる和室を設けた (以下、設計者が書き足す)
出てくる文の例
LDKを南側にまとめ、大きな窓を設けました。お隣との距離を考えて、窓は少し東に寄せています。冬は日差しが奥まで入り、昼間は照明をつけずに過ごせる時間が長くなる見込みです。窓の大きさと断熱の性能の兼ね合いは、次回の打合せで一緒に決めさせてください。
1階の和室は、今は客間や子どもの遊び場として使い、将来は寝室に切り替えられるようにしています。階段を上り下りしなくても暮らせる間取りに、後から変えやすくなります。
建築士が必ず確かめる点
気をつけたいのは、AIが暮らしでどう感じられるかを書く部分で、図面の根拠のない効果を書き足してしまうことです。上の例の、照明をつけずに過ごせる時間が長くなる、という一文も、日照の検討をしていなければ言い過ぎになってしまいます。第18条第2項の説明の努力義務を負うのは建築士なので、施主に渡す前に、1文ずつ図面と照らし合わせてください。
パース・イメージ画像の案出し(画像生成AIとAIレンダリング)
パースの分野では、文章から画像をつくる画像生成AIと、3Dモデルやスケッチを元に質感や光を付けるAIレンダリングの2種類が使われています。どちらも、実施設計の段階の正確なパースを置き換えるものではなく、計画の初期に雰囲気の案を短い時間で並べるための道具となります。
文章から画像をつくるツール
画像生成AIには、Midjourney、Adobe Firefly、Stable Diffusionのような専用のツールや、ChatGPTやGeminiに組み込まれた画像の生成機能があります。使い道として考えやすいのは、外観の素材感の比較や、内装のテイストの方向を施主とすり合わせる場面でしょう。一方で、寸法、構造、法規の制限は画像に反映されず、敷地や周りの建物も実際とは違うものが描かれてしまいます。
3DモデルやスケッチからのAIレンダリング
手元のBIMや3Dモデルを元に質感を付けるツールとしては、Veras、D5 Render、ArchicadのAI Visualizer(版によって提供の形が異なります)のようなものがあります。元の形を下敷きにする分、文章だけで描かせるより計画に近い画になりやすいのが特徴です。機能や料金はツールや版によって変わるため、使う前に各社の公式ページで、商用利用の条件と合わせて確かめてください。
パースのプロンプトの書き方(5つの要素)
画像生成AIへの指示は、建物の種類、外装と素材、視点、光と時間帯、周りの雰囲気の5つを順に書くと、狙った方向に寄せやすくなります。英語で指示したほうが安定するツールもあるため、日本語の下書きと英訳を並べて作っておけば、所内で使い回すことが出来ます。
【日本語の下書き】 木造2階建ての戸建て住宅の外観。外壁は白い塗り壁と杉板張りの組み合わせ、 片流れの屋根、南側に大きな開口と木製の軒天。 視点は前面道路に立つ人の目線の高さ。 夕方の柔らかい光、室内の照明が少し灯っている。 落ち着いた住宅地、植栽は低木と1本のシンボルツリー。 実在の建築家や建物の名前は使わない。 【英訳(ツールに貼る用)】 Exterior of a two-story wooden detached house. White plaster walls combined with cedar board siding, mono-pitch roof, large openings on the south side with wooden soffits. Eye-level view from the front road. Soft evening light, interior lights slightly on. Quiet Japanese suburban residential street with a narrow front road and neighboring two-story houses close by, low shrubs and a single feature tree. Do not reference any real architect or existing building.
実在の建築家の名前や有名な建物の名前を指示に入れないことは、事務所のルールとして決めておきましょう。既存の作品に似せる指示は、次の節で触れる著作権の論点に直結するためです。思った画にならないときは、要素を足すより、5つのうち1つだけを変えて出し直すほうが、どの言葉が効いたかを所内で共有しやすくなります。
内観のイメージで使うときのコツ
内観では、床・壁・天井の仕上げ、家具の置き方、窓からの光の入り方を言葉で指定すると、施主とテイストをすり合わせる材料として使えます。同じ間取りで仕上げだけを変えた画像を2〜3枚並べると、施主が好みを言葉にしやすくなるでしょう。
【内観の下書き】 木造住宅の1階LDKの内観。床はオーク材のフローリング、壁は白い塗装、 天井は一部が杉板張り。南側に掃き出し窓、午前中の柔らかい光。 ダイニングテーブルは4人掛け、キッチンは対面式。 人の目線の高さで、ダイニングからキッチンの方向を見る構図。 実在の家具ブランドや建築家の名前は使わない。 【英訳(ツールに貼る用)】 Interior of the first-floor living, dining and kitchen area of a Japanese wooden house. Oak wood flooring, white painted walls, partly cedar board ceiling. Full-height sliding windows on the south side, soft morning light. Dining table for four, open kitchen facing the dining area. Eye-level view from the dining area toward the kitchen. Do not reference any real furniture brand or architect.
天井の高さや窓の大きさは画像の中で実際と違って描かれやすいので、施主が寸法の感覚を画像から受け取らないよう、次の添え書きを付けておくと安心です。
施主に見せるときの添え書き
生成した画像を施主に見せるときは、実際の設計や施工を約束するものではないと一言添えておくと、後の行き違いを防げます。
添え書きの文例:この画像は、生成AIで作成したイメージです。外観の雰囲気をご確認いただくためのもので、寸法・仕上げ・色・植栽・周辺の建物は、実際の設計や完成した建物とは異なります。仕様は図面と仕様書でご確認ください。
説明資料の画像の下や、契約前に渡す資料の注記の欄に、同じ文を定型として入れておくのが手軽な方法でしょう。
Adobe Fireflyの商用利用と著作権(文化庁の考え方)
画像を施主への提案や事務所の作品紹介に使うなら、ツールの商用利用の条件と、既存の著作物との似かたの2点を確かめておく必要があります。
Adobe Fireflyの商用利用と学習データ
Adobeは料金ページのよくある質問で、Fireflyのモデルで生成したコンテンツは商用利用に適していると説明しています。同じ説明の中で、Fireflyの中で選べる他社のパートナーモデルの生成物については、用途に合うかを利用者が自分で判断するよう求められます。学習データについては、Adobe Stockなどの使用許諾を受けたコンテンツと著作権の切れた一般コンテンツを使っていると同社は説明し、生成物にはAIで作ったことを示すContent Credentialsが付く仕組みです。知的財産の補償は、エンタープライズ版で利用資格を購入した組織の一部の生成物が対象と同社は説明しています。いずれも同社の発表で、第三者が検証した内容ではない点も頭に置いておきましょう。
文化庁の考え方と、有名な建物に似るリスク
文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は、2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめています。この考え方の概要では、生成した画像に既存の著作物との類似性と依拠性が認められ、権利制限規定の対象外であれば、著作権の侵害になると整理されました。学習の段階で既存の作品が使われていれば、利用者がその作品を知らなくても、通常は依拠性が推認されるという考え方も示されています。「考え方」そのものに法的な拘束力はないと文化庁は断っていますが、実務の目安として読んでおく価値はあります。
建築の外観で、有名な建物に似た画像が出てきたときに、所員が元の建物に気づけるとは限りません。生成した外観が実在の有名建築や他社の作品に似ていないかを確かめる担当を、所内で1人決めておくと見落としが減ります。社外に出す画像は、生成に使った指示文も一緒に保存しておきましょう。特定の作品に寄せていないことを、後から説明できるようにしておくと安心でしょう。
AIで作った画像は著作物になるか
文化庁の概要資料では、簡単な指示で生成のボタンを押しただけのものは著作物に当たらないと考えられる一方、人が道具としてAIを使い、創作的な関わりがあれば著作物となりうると整理しています。生成した画像に人が加筆・修正した部分には、通常は著作物性が認められるとの記載もあります。事務所の作品として発表する画像は、AIの出力をそのまま使わず、設計者が手を入れた版を正としてください。
※Adobe Fireflyの料金ページ https://www.adobe.com/jp/products/firefly/plans.html と法人向けFAQ https://business.adobe.com/jp/products/firefly-business/firefly-ai-approach.html の記載(同社発表)。文化庁「AIと著作権に関する考え方について」https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html 。考え方は公表時点の小委員会の考え方で、法的な拘束力はないと明記されています。
無料で使える画像生成AIと、業務で使うときの注意
試しに使ってみる段階なら、無料で使える画像生成の手段もいくつかあります。
- Adobe Firefly:プランに加入しなくても、1日あたりの回数の範囲で生成できる無料プランがあると同社は案内しています(上限は毎日リセット)
- ChatGPT:2026年9月8日に発表されたChatGPT Images 2.5は、全プランのChatGPTの利用者が使えるとOpenAIは発表しています
- Gemini:画像の生成と編集ができ、Google AIプランを契約していない場合は1K解像度でのダウンロードになると同社のヘルプにあります。生成した画像には、目に見える透かしと、見えないSynthIDの透かしが入ると説明されています
無料の範囲は回数や解像度、使えるモデルが絞られており、条件も変わりやすいので、使う前にその時点の公式ページで確かめてください。業務で気をつけたいのは、無料で使うときのアカウントが、多くの場合は所員個人のものになる点です。画像の指示文に施主の要望や敷地の写真を入れると、その情報は事務所の管理の外に出ていくことになってしまいます。試すときは架空の条件で行い、施主の案件を扱う段階では、事務所で契約した環境に移すようにしましょう。Geminiのように透かしが入る画像は、そのまま提案資料に貼るのに向かない場合もあります。
仕様書・特記の下書きと表記ゆれの点検
仕様書や特記仕様の作業では、ゼロから書かせるより、事務所の標準の文と今回の案件の違いを渡して、差分を反映した下書きを作らせるほうが使いやすくなります。同じ事務所の図書でも、担当者によって石膏ボードとせっこうボード、巾木と幅木のような表記の違いが混ざっていきます。こうした表記ゆれや、仕上表と特記仕様の食い違いを拾わせる使い方は、AIの得意な作業に入るでしょう。
入れる材料
- 事務所の標準の特記仕様(テキストか、PDFのまま添付)
- 今回の案件の仕上表と、変更点のメモ
- 事務所の表記ルール(あれば)
AIへの指示文
あなたは設計事務所で特記仕様書の点検をする担当です。 以下の【標準の特記仕様】と【今回の仕上表】を読み、次の3つを出してください。 1. 表記ゆれの一覧 同じものを違う書き方をしている箇所を、「現在の表記」「出てくる場所」「そろえる案」の3列で。 そろえる案は【表記ルール】に従う。ルールに無いものは「要判断」とする。 2. 仕上表と特記仕様の食い違い 部屋名・部位・仕上材・厚さが一致しない箇所を列挙する。どちらが正しいかは判断しない。 3. 今回の変更点が反映されていない箇所 【変更点メモ】の各項目について、特記仕様のどこを直す必要があるかを示す。 新しい製品名・品番・規格番号は作らないこと。 【表記ルール】(貼る) 【標準の特記仕様】(テキストを貼るか、特記仕様のPDFを添付する) 【今回の仕上表】(テキストを貼るか、仕上表のPDFを添付する) 【変更点メモ】(貼る)
出てくる文の例
1. 表記ゆれ:石膏ボード(特記2章・4章)とせっこうボード(仕上表)→ 表記ルールに従い、せっこうボードにそろえる案
2. 食い違い:洗面所の床 仕上表はクッションフロア1.8mm、特記はクッションフロア2.3mm → どちらが正か要確認
3. 未反映:変更点メモの2階トイレの手洗い器の追加 → 特記の衛生器具の項に記載なし
建築士が必ず確かめる点
AIにはどちらが正しいかを決めさせず、食い違いを並べるところで止めておくのが安全です。規格番号や製品の品番を補わせると、存在しない番号を作ってしまうことがあるため、指示文でも禁止しています。第20条第1項で記名するのは建築士なので、最後は差分の一覧を手元に置いて、仕様書の該当箇所を1つずつ確かめてください。
見積書の内訳の読み解きと施主への説明
工務店から届いた見積書を施主に説明する前に、内訳の構成を整理させたり、設計図書との抜けを探させたりする使い方もあります。見積書は会社ごとに項目の立て方や名称が違うため、2社の相見積もりを並べるだけでも時間がかかるものです。AIに項目の対応表を作らせておけば、建築士は金額の妥当さや仕様の差を読むことに時間を使えるようになります。
入れる材料
- 見積書(業者名と会社の連絡先を伏せ、ExcelかPDFのまま添付する。単価は、事務所で契約した学習に使われない環境なら残してよい)
- 仕上表と特記仕様の要点
- 施主が気にしている項目(予算を超えた場合に削りたい部分など)
AIへの指示文
あなたは設計事務所で、工務店の見積書を点検する担当です。 以下の【見積A】と【見積B】の項目を読み、次の3つを作ってください。 1. 項目の対応表 2つの見積で同じ工事を指している項目を横に並べる。名称が違っても内容が同じなら同じ行に。 片方にしかない項目は「片方のみ」と書く。 2. 設計図書との照合 【仕上表・特記の要点】に書かれた工事のうち、どちらかの見積に見当たらないものを挙げる。 3. 施主への説明で補足が要りそうな項目 「一式」とだけ書かれた項目、数量の単位がそろっていない項目を挙げる。 # 注意 ・金額の高い安いや、どちらの会社がよいかの判断は書かない ・単価や金額を計算し直さない ・項目名を推測で言い換えない(原文の名称をそのまま使う) 【見積A】(業者名を伏せ、ExcelかPDFのまま添付する) 【見積B】(業者名を伏せ、ExcelかPDFのまま添付する) 【仕上表・特記の要点】(貼る)
出てくる文の例
対応表:見積Aの内部造作工事と、見積Bの大工工事(造作)を同じ行に。見積Bの仮設電気は見積Aに見当たらず(片方のみ)
照合:特記にある2階トイレの手洗い器が、見積Bに見当たらない
補足が要りそうな項目:見積Aの外構工事(一式)、見積Bの諸経費(一式)
建築士が必ず確かめる点
名称の違う項目を同じ行に並べる判断は、AIが取り違えやすいところです。対応表は所内の検討用にとどめ、施主に見せる説明は、建築士が見積書の原本と図面を見比べたうえで作ってください。業者名は伏せ、工務店の営業上の情報でもある単価を残すのは、事務所で契約した学習に使われない環境に限るという扱いにしておきましょう。
打合せ議事録と変更履歴
打合せの文字起こしやメモから、決まったこと、保留になったこと、次回までの宿題を分けた議事録を作るのは、AIに任せやすい作業になります。設計の打合せでは、前回決めた内容が施主の再検討で変わることも珍しくありません。議事録とあわせて変更の履歴を1行ずつ残しておくと、どの時点で誰の判断で変わったかを、後から追えるようになります。
入れる材料
- 打合せの文字起こしかメモ(施主や家族の名前は伏せる)
- 前回の議事録の決定事項
- 変更履歴の表(日付、項目、変更前、変更後)
AIへの指示文
あなたは設計事務所の打合せ議事録を作る担当です。 以下の文字起こしを読み、議事録と変更履歴を作ってください。 # 議事録の形 ・日時、出席者(「施主A様」「設計担当」のように役割で書く) ・決定事項(誰が決めたかを括弧で) ・保留事項(何が決まれば決められるか) ・次回までの宿題(担当と期限) # 変更履歴の形 前回の決定事項と比べて変わったものだけを、 「項目/前回の内容/今回の内容/変更の理由(発言から読み取れる範囲)」で並べる。 理由が発言から読み取れない場合は「理由未確認」と書く。 # 注意 ・発言に無い内容を補わない ・金額や面積は発言どおりに書き、計算し直さない ・家族の健康や収入など、設計に必要のない個人的な話は議事録に入れない 【前回の決定事項】(貼る) 【今回の文字起こし】(貼る)
出てくる文の例
決定事項:浴室はユニットバスとする(施主A様)
保留事項:2階の床の仕上げ(見積の比較を見てから決める)
宿題:設計担当 床材2案の見積比較を次回までに用意
変更履歴:外壁の色/前回 濃いグレー/今回 明るいグレー/理由 周囲の住宅との調和を気にされた
建築士が必ず確かめる点
文字起こしは聞き違いを含むため、決定事項と金額は、打合せに出た担当者が自分の記憶とメモで読み合わせてください。議事録を施主と共有する事務所なら、変更の理由の書き方が施主の受け取り方に合っているかも、見ておきたいところです。AIで議事録を作った後に、元の録音や文字起こしをどこまで残すかも所内で決めておきましょう。
施主からの質問メールへの返信の下書き
施主からの質問のメールに返す文面も、要点を渡せばAIが丁寧な下書きに整えてくれます。設計の途中では、仕様の変更の相談や工期の見通しの確認、近所への挨拶のしかたのような、図面の外の質問も多く届くでしょう。要点を3行で書いてAIに整えさせ、建築士が読んで送るという流れにしておくと、返信までの時間を縮めることが出来ます。
AIへの指示文
あなたは設計事務所の担当者として、施主A様からのメールへの返信を下書きします。 以下の【施主からのメール】と【伝えたい要点】をもとに、返信文を作ってください。 # 書き方 ・最初に、質問をいただいたお礼を1文 ・要点の順に、1つの段落に1つの話題で書く ・決まっていないことは「次回の打合せでご相談させてください」と書き、約束しない ・費用や工期の数字は【伝えたい要点】に書かれたものだけを使う ・専門用語には短い説明を添える ・全体で400字以内 【施主からのメール】(氏名・住所を伏せて貼る) 【伝えたい要点】 1. キッチンの位置を変える案は対応できる。ただし換気扇のダクトの経路を確認する必要がある 2. 費用への影響は、工務店に確認してから次回お伝えする 3. 工期への影響は今のところ小さい見込み
出てくる文の例
施主A様 ご質問をいただき、ありがとうございます。キッチンの位置を変える案は、間取りの上では対応できます。ただ、換気扇の排気を外へ出す管(ダクト)の通り道を確かめる必要があり、こちらで図面を確認いたします。費用への影響は工務店に確認したうえで、次回の打合せでお伝えします。工期への影響は、今のところ小さいと見込んでいます。
建築士が必ず確かめる点
AIは文面を丁寧にするあまり、問題ありません、のような言い切りを足してしまうことがあります。約束になってしまう言い回しが混ざっていないかを確かめ、費用や工期に触れる返信は、送る前に所長か担当の建築士が目を通す決まりにしておくと安心です。返信の要点のメモも議事録と同じ場所に残しておけば、後で経緯をたどるときの手がかりになります。
設計変更が出たときの影響範囲の洗い出し
施主の要望で計画の一部が変わったとき、その変更がどこまで波及するかの洗い出しにもAIが使えます。窓を1つ大きくするだけでも、採光や換気の検討、耐力壁の配置、断熱の性能、見積、場合によっては確認の手続きまで、確かめる先が広がっていきます。経験のある建築士なら頭の中で済ませている確認を一覧の形で書き出させておくと、所員どうしで漏れを防ぎやすくなります。
AIへの指示文
あなたは住宅の設計事務所で、設計変更の影響を洗い出す担当です。 以下の【変更の内容】について、確認が必要になりそうな項目を一覧にしてください。 # 出力の形 ・分野ごと(法規、構造、温熱・設備、仕上げ・納まり、見積・工期、手続き、施主への説明)に分ける ・各項目は「何を確かめるか」を1行で ・影響がないと考えられる分野も「影響は小さいと考えられる。理由:」の形で残す ・判断や計算はしない。数値は書かない 【計画の概要】木造2階建て、延べ約120㎡、○○市の準防火地域 【変更の内容】1階LDKの南面の窓の幅を広げる。あわせて、その横の壁を一部なくして収納を設ける
出てくる文の例
法規:防火の規定で、開口部に求められる性能が変わらないか/採光の検討に使う開口の面積の更新
構造:壁を一部なくすことで、耐力壁の量と配置の釣り合いが保てるか
温熱・設備:窓の面積が増えることによる断熱の性能の計算の見直し
見積・工期:サッシの寸法の変更と、収納の造作の追加
手続き:確認済みの計画であれば、変更の手続きが必要かどうか
建築士が必ず確かめる点
一覧はあくまで確かめる先の目録で、それぞれの結論は構造の検討や計算をやり直して出すものです。AIが影響は小さいとした分野ほど、本当にそうかを一度は自分で考えてみてください。洗い出した一覧を変更履歴と一緒に残しておくと、施主へ費用や工期の変化を説明するときの根拠にも使えるでしょう。
重要事項説明の前の説明メモ(第24条の7)
第24条の7の重要事項説明は管理建築士などが自分で行うものですが、説明の前に施主から出そうな質問を整理する下準備には、AIを使うことが出来ます。設計図書の種類や報酬の支払時期、契約の解除の条件は、施主にとって聞き慣れない言葉が並ぶ部分です。書面の項目ごとに、平易な言い換えと想定される質問を作らせておけば、説明の場で言葉に詰まる場面を減らせるでしょう。
入れる材料
- 事務所の重要事項説明書のひな形(施主名と金額を伏せたもの)
- 今回の契約の特徴(基本設計と実施設計を分けて契約する、など)
- これまで施主から多かった質問(所員の記憶で書き出したもので可)
AIへの指示文
あなたは建築士事務所で、重要事項説明の準備を手伝う担当です。 以下の重要事項説明書の項目ごとに、次の3つを作ってください。 1. 施主向けの言い換え(専門用語を使わずに2〜3文) 2. 施主から出そうな質問を2つずつ 3. その質問に答えるときに、設計者が手元で確かめておくべき書類や条件 # 注意 ・法律の解釈や、契約上の有利・不利の判断は書かない ・報酬の額や支払時期の数字は作らない。「書面の金額欄を確認」と書く ・説明するのは管理建築士などの建築士本人であり、この出力は準備用のメモである前提で書く 【重要事項説明書の項目】(ひな形の項目名を貼る) 【今回の契約の特徴】(貼る)
出てくる文の例
項目:作成する設計図書の種類
言い換え:今回の契約でお渡しする図面や書類の一覧です。どの段階でどの図面ができるかも、この欄で確かめられます。
想定される質問:1. 確認申請に出す図面もこれに含まれますか 2. 工事の見積を取るための図面はどれですか
手元で確かめるもの:契約の範囲(基本設計までか実施設計までか)、設計図書の一覧表
建築士が必ず確かめる点
AIが作るのはあくまで説明の準備メモで、書面の内容そのものは、事務所のひな形と契約の条件から作ることになります。言い換えの文が契約の範囲を広げたり狭めたりしていないか、説明する建築士本人が書面と1行ずつ見比べてください。契約を結んだ後に交付する書面は第24条の8で別に定められているので、その書式までAIの言い換えで崩さないようにしましょう。
工事監理の報告文と現場写真の説明
工事監理の段階では、現場で書き留めたメモと写真の説明から、施主に送る報告文の下書きを作らせる使い方が考えられます。監理の判断そのものは建築士が現場で下すもので、AIが手伝うのは、その判断を読みやすい文書の形に整える部分にとどまります。写真ごとの説明の文がそろうだけでも、報告書の読みやすさはかなり変わってくるでしょう。
入れる材料
- 現場で書いたメモ(確認した部位、指摘した事項、是正の約束)
- 写真ごとの短い説明(写真に表札や車のナンバーが写っていれば、隠してから使う)
- 事務所の監理報告の書式
AIへの指示文
あなたは設計事務所の工事監理の報告書を清書する担当です。 以下の現場メモを、施主A様にお送りする監理報告の文章にしてください。 # 形 ・確認日、確認した工程、確認した部位 ・確認の結果(「設計図書どおりであることを確認」「是正を依頼」など、メモに書かれた判断だけを使う) ・是正を依頼した事項がある場合は、内容・依頼先・是正の確認予定日 ・写真番号ごとの説明(1枚1〜2文) # 注意 ・メモに書かれていない判断や数値を補わない ・「問題ありません」「安全です」など、メモに無い評価の言葉を足さない ・施工会社を責める書き方にしない 【現場メモ】(貼る) 【写真の説明】(貼る)
出てくる文の例
確認日:○月○日(基礎の配筋)
確認の結果:基礎の配筋について、鉄筋の径と間隔が設計図書どおりであることを確認しました。北側の一部でかぶり厚さの不足を指摘し、施工会社に是正を依頼しています。是正後の状態は○月○日に確認する予定です。
写真3:北側の立ち上がりの部分。スペーサーの追加を依頼した箇所です。
建築士が必ず確かめる点
報告文で何より気をつけたいのは、AIが問題ありませんのような、監理者が下していない評価の言葉を足してしまうことです。指示文で禁じていても混ざることがあるため、判断の言葉は自分のメモと1つずつ照らし合わせてください。監理の結果の報告は、監理を引き受けた建築士の名前で出るものなので、送る前に必ず本人が全文を読むようにしましょう。
現場写真の説明をそろえる
監理の写真は枚数が多く、説明の書き方が担当者ごとにばらつきやすいものです。写真ごとのメモを、工程、部位、確認した内容、指摘の有無の順にそろえる指示をAIに渡すと、報告書の写真の欄が同じ形で並ぶようになります。写真そのものをAIに読ませる場合は、施主の住まいが特定できる表札や周りの建物が写っていないかを、先に確かめてください。
BIM・CADとの連携と設計の検討支援(BIM図面審査は別の制度)
BIMやCADの分野でもAIの機能は増えていますが、文章のAIや画像のAIとは導入のしかたが違ってきます。Archicadに組み込まれたAIの機能や、Revitと組み合わせて使うツール、条件から多数の配置案を出すジェネレーティブデザイン、Autodesk Forma(企画・配置検討のForma Site Designなど)のような製品があります。使っているBIMソフトの版や契約によって使える機能が変わるため、まずは自分の事務所のソフトの販売元が何を提供しているかを確かめるのが近道になります。汎用の文章のAIは図面を描く道具ではないので、BIMの側のAIとは役割を分けて考えておきましょう。
文章のAIとBIMをつなぐ使い方としては、BIMから書き出した部屋の一覧や仕上表をテキストにしてAIに渡し、仕様書や説明資料との食い違いを探させる方法が手軽です。BIMのデータそのものを読ませるより、書き出した表を介すほうが、何を渡したかを所内で管理しやすくなります。
BIM図面審査は生成AIとは別の制度です
国土交通省の建築BIM推進会議のページには、2026年4月1日にBIM図面審査が始まったと掲載されています。BIMから書き出した図面で建築確認を受けるための仕組みで、AIが審査をするものではありません。同省は建築確認におけるBIM図面審査ガイドラインなども公開しており、大林組は2026年4月17日に、BIM図面審査に対応した確認申請を提出したと発表しました。生成AIの導入とBIM図面審査への対応は、所内の検討でも別の話題として分けて扱うと混乱しにくくなります。
※国土交通省「建築BIM推進会議」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/kenchikuBIMsuishinkaigi.html (2026年10月16日確認)。大林組の発表 https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20260417_1.html (同社発表)。
建設会社の導入事例(大林組 AiCorb・鹿島 Kajima ChatAI)
建設の分野で実名が公表されている例として、大林組と鹿島建設の2つの取り組みを見ておきましょう。どちらも各社の発表に基づく内容で、第三者が効果を検証したものではありません。
大林組 AiCorb:AIでファサードの案を複数つくる
大林組は2022年3月22日、米国のSRI Internationalと共同で開発したAiCorb(アイコルブ)を発表しました。建物のアウトラインをスケッチしたデータなどを読み込ませると、AIがファサード(外観)のデザイン案を複数つくり、設計者向けのプラットフォームHyparと連携して3Dモデルにする仕組みだと同社は説明しています。発表の時点では開発段階で、改良して実用化を進める予定と書かれていました。発表の文面に生成AIの語は使われていないものの、打合せの初期に複数の外観案を並べるという使い方は、設計事務所が画像のAIで目指す場面と重なります。
鹿島建設 Kajima ChatAI:全社向けの社内専用環境
鹿島建設は2023年8月8日、Azure OpenAI Serviceを使ってChatGPTと同等のAIモデルを社内に構築したKajima ChatAIを発表しています。対象は同社と国内外のグループ会社(一部を除く)の従業員、約2万人とされます。同社は、入力した情報が外部の学習に利用されないグループ専用の環境とし、利用時の従業員認証や利用履歴の記録などの機能を加えたと説明しました。学習に使われない環境を会社が用意し、利用の記録を残す考え方は、小さな事務所にも当てはまります。15名ほどの事務所に置き換えるなら、学習に使われない環境を契約し、所員ごとにログインさせ、利用の履歴を残すという3点を、同じ考え方で取り入れることが出来ます。
※大林組「AiCorb」の発表(2022年3月22日)https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220301_3.html 。鹿島建設「Kajima ChatAI」の発表(2023年8月8日)https://www.kajima.co.jp/news/press/202308/8m1-j.htm 。いずれも同社発表です。
AIで変わる建築士の役割と、団体・国の指針
生成AIで減るのは清書や整理にかかる時間で、敷地を読み、施主の言葉の裏にある暮らしを汲み取り、法令に適合させて記名する仕事は建築士に残ります。AIは地域の気候や街並み、施主の家族の事情のような、文書に書かれていない文脈を知りません。計画の良し悪しを分けるのはその文脈の読み方なので、AIの答えを選び、直し、断る力が、これまで以上に設計者の腕の差として出てくるはずです。所員にとっては、指示文を組み立てる力と、出てきた文の誤りに気づく力が、新しく身につけたい技能になってきます。
若手の所員にとっては、AIの出した法規の一覧や説明文を先輩が直す過程が、そのまま教材にもなります。直した箇所と理由を短く書き残しておけば、事務所の判断の基準が少しずつ言葉になって蓄えられていくでしょう。
設計団体と日本建築学会の動き
2026年10月16日時点で、設計団体が公表した生成AIの指針は見当たりません。日本建築学会は、2026年6月17日の記者会見で会長が生成AIに対応するタスクフォースを明らかにし、2026年9月までに見解をまとめる方針と報じられています。見解の公表は、2026年10月16日時点では見当たりません。所内のルールは、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインを土台に作るのが現実的です。
国の指針(AI事業者ガイドライン第1.2版)
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は2026年3月31日付けで、事業活動でAIを利用する事業者を、AI利用者として対象に含めています。AI利用者に期待される取り組みとしては、個人情報の不適切な入力への対策や、関係者への説明が挙げられます。入出力のログを合理的な範囲で記録・保存することも、透明性の項目に書かれています。ガイドラインはAI利用者を、事業活動においてAIシステムやAIサービスを利用する事業者と定めているため、少人数の事務所でも、この3点を所内のルールの骨組みにすると迷いが少なくなります。
※総務省「AI事業者ガイドライン」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html 。法的な拘束力のないソフトローとして作られています。日本建築学会のタスクフォースは施工管理系メディアの報道(2026年6月26日)https://sekokan-navi.jp/magazine/86112 によります。
社員10〜200名の事務所の導入順序と所内ルール
導入は、文章のAIを全員に配るところから始め、画像のAIは担当者に、BIMのAIはソフトの更新に合わせて、という順に進めると無理がありません。
1段階目:文章のAIを所員全員に
ヒアリングの整理、議事録、説明文、仕様書の点検は所員全員の仕事なので、まずは事務所で契約した文章のAIを全員が使える状態にします。ここで一部の所員にしか配らないと、配られなかった方が個人のアカウントで使い始め、施主の情報が事務所の管理の外に出やすくなってしまいます。文章のAIは得意分野が分かれているので、長い資料の読み込み、文章の整え、出典つきの調べものと、用途ごとに使い分けられる環境だと便利です。複数のAIを1つの環境で使う考え方はマルチAIとはで整理しています。
2段階目:画像のAIはパースの担当者に
画像のAIは使う人が限られるので、パースやプレゼンを担当する方に絞り、商用利用の条件を確かめたツールだけを事務所として認めるのがよいでしょう。施主に見せる画像には、前に挙げた添え書きを必ず付ける決まりにしておきましょう。
3段階目:BIM・CADのAIはソフトの更新に合わせて
BIMやCADのAIの機能は、使っているソフトの更新や契約の見直しの時期に合わせて検討するほうが、二重の投資になりにくくなります。
最初の1か月の進め方
導入の最初の1か月は、施主の情報を使わない練習から入ると、所員が安心して試せます。
- 1週目:引き渡しの済んだ案件のメモを置き換え表で伏せてから、ヒアリング整理の指示文で試す
- 2週目:所内の打合せで議事録の指示文を使い、出てきた議事録を出席者で直す
- 3週目:うまくいった指示文と直した箇所を所内で共有し、事務所の標準の指示文にまとめる
- 4週目:次に挙げる所内ルールの7項目を見直し、使ってよい業務と確認者を決めて、実際の案件で使い始める
指示文を事務所の標準として共有しておくと、所員ごとの出来の差が小さくなり、新しく入った方も同じ手順で使い始めることが出来ます。
所内ルールに入れたい7つの項目
- 使ってよいAIの一覧事務所で契約した環境だけを使い、個人のアカウントや無料版に施主の情報を入れない決まりにします。
- 施主情報の3段階の区分そのまま入れてよい情報、伏せて入れる情報、入れない情報の例を、置き換え表とセットで配ります。
- 法令適合の判断はAIに任せないAIの法規の一覧は項目の洗い出しにだけ使い、根拠は現行の条文と自治体の資料で確かめます。
- 社外に出す文書と画像の確認者説明資料、報告文、パースは、担当の建築士が全文を読んでから出します。
- 生成画像の添え書き施主に見せる画像には、施工を約束しない旨の定型文を付けます。
- 利用の記録と退職時の扱い誰がいつどのAIを使ったかを事務所で確かめられるようにし、退職や異動の日にアカウントを止めます。
- 協力事務所・外注先との取り決め図面や施主情報を渡す協力事務所が生成AIを使う場合の扱いを、業務委託の取り決めに書いておきます。
ルールの文書の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で、点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストでまとめています。最初から完璧な文書を目指すより、上の7項目を1枚にまとめて所員に配り、使いながら足していくほうが定着しやすいでしょう。
文章のAIを、事務所の全員に同じ環境で
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けのサービスです。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面で利用者・日時・利用モデル単位まで利用状況を確かめられます。会話の履歴と利用ログ、アカウントの情報は、国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理されます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
建築に強い生成AIはどれですか?
建築士の仕事はAIに取られますか?
建築パースを生成できる無料のAIはありますか?
AIで作った図面や法規チェックで確認申請は通りますか?
施主の個人情報を生成AIに入れても大丈夫ですか?
AIで作ったパースを施主に見せるとき、何か書き添えるべきですか?
まとめ
建築設計事務所で生成AIに任せられるのは、ヒアリングの整理、法規のチェック項目の洗い出し、説明資料・仕様書・議事録・監理報告の下書き、パースのたたき台といった、下書きと洗い出しの作業になります。法令への適合の判断と設計図書への記名は建築士本人の仕事として、契約前の重要事項の説明は開設者が管理建築士などに行わせる仕事として、建築士法に定められています。建築士法には建築士本人の守秘義務の条文がないため、施主の情報は契約の秘密保持の取り決めと個人情報保護法で守ることになり、個人のアカウントに入れない仕組みづくりが欠かせません。まずは文章のAIを事務所で契約して全員に配り、施主情報の3段階の区分と、生成画像の添え書きの定型を決めるところから始めてみてください。ほかの業種のAI活用はAI活用コラム一覧にまとめています。
