
バーティカルAI(業界特化AI)とは、特定の業界や業務に絞って、業界のデータと業務の決まりごとを組み込んだAIのことです。社員10〜200名の会社であれば、まず汎用AIを会社として安全に使える形で整え、汎用AIでは届かない業務が見えた所にだけ業界特化AIを足す順番で充分でしょう。文章づくりや要約、調べものといった仕事の大半は、汎用AIに社内の資料を渡す使い方でこなすことが出来ます。業界特化AIが本当に必要になるのは、業界のシステムへの入力や判定を自動で回したい業務に限られてきます。
結論:汎用AIを先に整え、足りない業務だけ業界特化AIを足す
社員10〜200名の会社がバーティカルAIを検討するときは、汎用AIで足りる業務と足りない業務を先に分けることが出発点になります。「業界特化」という言葉には、自社の業界にぴったり合う専用品という響きがあり、汎用AIより上等なものに見えてしまいます。ただ、中小企業の毎日の仕事を並べてみると、見積書の送付文、取引先へのメール、社内規程の確認、議事録の要約など、業界を問わず共通する作業が多くを占めているはずです。こうした作業は、ChatGPTやClaude、Geminiといった汎用AIが得意とする領域になります。
文章・画像・音声などの生成AIの分け方や代表的なサービスの一覧は、生成AIの種類の記事にまとめてあります。業界特化AIは、その分類のうち、特定の業界や作業に絞ったAIに当たります。判断の順番は次のとおりです。
- 汎用AIを、学習させない設定・ログの管理・アカウントの配布ができる形で、会社として導入する
- 社内の業務を4種類に分け、汎用AIで回るものから使い始める
- 汎用AIで何度試しても届かない業務だけを書き出す
- その業務について、業界特化AIを自社の過去案件で試し、費用とデータの扱いを確かめてから契約する
順番を逆にして業界特化AIから入ると、部署ごとに別々のAIを契約することになり、アカウントとデータの置き場所が散らばってしまいます。業界特化AIは汎用AIの代わりではなく、汎用AIで届かない所を埋める追加の道具として考えましょう。警察領域の戦略にも同じ順番が書かれていて、その原文は判断表の節で取り上げています。
バーティカルAIとは|政府の定義と、中小企業から見た3つの形
バーティカルAIは、政府の資料では、データとAIモデルとアプリを垂直統合した領域特化型のシステムとして説明されているAIです。
バーティカルAIの定義(特定の業界・業務に特化したAI)
政府の人工知能戦略本部が2026年7月10日の第5回会合に出した「バーティカルAI領域別戦略 中間とりまとめ」は、バーティカルAIを、領域特化型で、データ・AIモデル・アプリを垂直統合したシステムと説明しています。文書はさらに、専門性を持つことで実際に「現場で使えるAI」になっていること、暗黙知を含めた現場の経験や知識をデータとして集めて活用することを、特徴として挙げます。7月14日に閣議決定された人工知能基本計画でも、同じ趣旨の定義が使われています。
名前の由来は英語のvertical(垂直)で、1つの業界を縦に深く掘るイメージから、こう呼ばれることが多いようです。反対に、業界を横断して使えるAIは、horizontal(水平)からホリゾンタルAIと呼ばれます。
汎用AI(ホリゾンタルAI)との違い
汎用AIとバーティカルAIの違いは、性能の高さではなく、何に合わせて作られているかにあります。汎用AIは、どの業界の方が使っても文章の作成・要約・翻訳・調べものをこなせるように作られていて、使う側が指示と資料を渡して業務に合わせる前提になっています。バーティカルAIは、業界の用語や書式、判断の決まりごと、業界のシステムとのつながりを最初から組み込み、使う側の準備を減らす代わりに、使える範囲を狭く絞った作りです。
日経クロステックの記事は、メールの作成や会議の要約のように業種を横断して使える用途はホリゾンタルAIに近いと解説しています。同じ記事では、バーティカルAIを「特定の業務を便利にするAIではなく、AIを前提に業務そのものを置き換えていくもの」とする内閣府の担当者の言葉も紹介されました。違いを、中小企業が気にする観点で並べると次のようになります。
- 得意な仕事:汎用AIは文章・要約・調べもの・下書きなど業界を問わない作業、バーティカルAIは特定の業界の書類作成・判定・システムへの入力
- 業界の知識:汎用AIは使う側が用語集や規程を渡して補う、バーティカルAIは提供する側があらかじめ組み込む
- 業界システムとのつながり:汎用AIは基本的に人が結果を転記する、バーティカルAIは業界のシステムと直接つながる作りのものがある
- 使える範囲:汎用AIは社内のほぼ全員が使える、バーティカルAIは対象の業務と部署に限られる
- 契約の形:汎用AIの法人向けは1人あたりの月額や会社単位の定額が多い、バーティカルAIは件数や案件ごとの課金、業界ソフトのオプションなど形がさまざま
- 乗り換えやすさ:汎用AIは複数のサービスから選び直しやすい、バーティカルAIはデータや設定がその製品に溜まるため乗り換えの負担が大きくなりやすい
どちらが上という話ではなく、自社の業務がどちら側に寄っているかを見ることが大切です。
中小企業にとってのバーティカルAIの3つの形
社員10〜200名の会社が実際に目にするバーティカルAIは、大きく3つの形に分かれます。
- 業界ソフトに付いたAI機能:会計ソフト、販売管理、電子カルテ、施工管理など、すでに使っている業界向けのソフトに加わったAI機能
- 業界特化AIの専業ツール:特定の業界の書類作成や判定だけを行うために作られた、単独のAIサービス
- 汎用AIに自社の資料を持たせた使い方:ChatGPTやClaudeなどに業界の用語集・社内規程・過去の書類を読ませ、その範囲で答えさせる形
政府の資料が描くバーティカルAIは、データ・モデル・アプリを垂直統合した本格的なシステムで、主に1つ目と2つ目の延長線上にあると読めます。一方で、中小企業が明日から手を付けられるのは、多くの場合3つ目の形になるでしょう。3つ目は厳密にはバーティカルAIと呼ばれないこともありますが、業界の知識をAIに持たせるという点では同じ方向を向いています。まず3つ目で足りるかを試し、足りない部分を1つ目と2つ目で埋めるのが無理のない順番になります。
SaaSとの関係(業界SaaSのAI機能と、特化型SaaSとの違い)
バーティカルAIは、業界向けのクラウドソフト(業界SaaS)の次の形として語られることが多い言葉です。SaaSとは、ソフトをパソコンに入れずに、インターネット経由で月額などの料金で使う提供形態を指します。業界SaaSは、業界の書式や手順をソフトとして固めたもので、人が操作して使う道具でした。バーティカルAIは、その操作や判断の一部をAIが担う方向へ進んだものと言い換えることが出来ます。
中小企業から見ると、新しい専業ツールを契約するより、いま使っている業界ソフトにAI機能が加わるのを待つほうが、データの移し替えも操作の覚え直しも少なく済む場面が多くなります。業界ソフトの提供元に、AI機能の予定と追加料金の有無を一度聞いてみてください。
なぜ今バーティカルAIが話題なのか|政府の位置づけと数字
バーティカルAIへの関心が高まった理由の1つは、2026年の夏に政府がこの言葉を日本のAI戦略の柱の1つに据えたことです。
AIエージェント(エージェント型AI)との関係と、注目が高まった理由
もう1つの理由として、AIエージェントの登場が挙げられます。AIエージェントとは、指示を受けたAIが自分で手順を考え、ソフトの操作や情報の取得を続けて行い、仕事を最後まで進める仕組みのことです。中間とりまとめも、これまでバーティカルAIの導入による課題解決や市場の拡大が期待されてきたことに加え、エージェント型AIの出現で、AIが業務全体を自律的に回す基盤となり始めていると書いています。
文章を返すだけのAIなら汎用で足りても、業界のシステムを操作して手続きを最後まで進めるとなると、業界の決まりごとを知っているAIが必要になってきます。この流れが、業界ごとに作り込んだAIへの期待を押し上げていると考えられます。
政府の位置づけ:人工知能基本計画と19領域の領域別戦略
政府は2026年7月14日に閣議決定した人工知能基本計画で、バーティカルAIによってAIと産業の融合を実現し、独自の価値を生み出すという方針を示しました。同じ月の10日には、人工知能戦略本部の第5回会合で「バーティカルAI領域別戦略 中間とりまとめ」が示されています。この中間とりまとめは、19の領域それぞれについて戦略をまとめた資料です。19の領域は、市場性・公共性・戦略性という3つの観点で分けられています。
- 市場性:製造(造船を含む)、物流・交通、情報通信、金融、創薬
- 公共性:医療・介護・福祉、農林水産、建設、教育、行政、エネルギー
- 戦略性:防衛、警察、防災、消防、サイバー、海洋、宇宙、科学研究
総論には、市場性のある領域では現場力のデータ化と領域特化型の基盤モデルの開発・実装を進め、公共性のある領域では官民連携で現場でのAI活用を徹底し、戦略性のある領域では特定の国や企業への過度な依存を避ける、という方針が並びます。目次では造船が製造とは別の節に分かれていますが、本文では全体を19領域として数える形です。
19領域に会計・税務・士業は入っていない
19領域の見出しを見ると、会計・税務・士業、小売や飲食といった業種は、独立した領域としては挙がっていません(小売・飲食は、農林水産領域(食品産業を含む)の施策の中で一部触れられています)。政府の戦略は、国として投資や制度づくりを進める分野を選んだものであり、個々の会社がどのAIを買うべきかを示したものとは性格が異なります。自社の業界が19領域に入っているかどうかと、自社が業界特化AIを契約すべきかどうかは、別々に考えることが大切です。政策の話題の大きさと、自社の業務に合うかどうかは切り分けて判断しましょう。
市場規模・投資額の数字(2030年約3兆円・23.1兆円)の読み方
バーティカルAIの市場について、中間とりまとめは2030年に約3兆円という見込みを記載しています。人工知能基本計画の脚注では、バーティカルAIに係る官民投資額として、2040年度までで23.1兆円という想定が示されました。内閣官房が2026年7月21日に公表した官民投資ロードマップには、バーティカルAIについて、2040年度までの経済波及効果を222.0兆円と想定する記載があります。日経クロステックは、このロードマップを政府の日本成長戦略本部が決定したものと報じています。
ただし、これらは国全体の投資や市場の想定であり、1社あたりの導入効果を表す数字ではありません。数字の大きさに背中を押されて契約を急ぐより、自社の業務で何時間減るかを自分たちで測るほうが、判断の材料として確かなものになります。
※政府資料の記述は2026年9月25日時点で内閣府と内閣官房の公開資料で確認した内容です。23.1兆円は、人工知能基本計画(2026年7月14日閣議決定)の脚注と、2026年6月24日の経済財政諮問会議・日本成長戦略会議の合同会議資料に記載された想定額です。222.0兆円は、7月21日の官民投資ロードマップ(内閣官房公表)で確認した想定額です。ロードマップを決定した主体は、日経クロステック(2026年8月28日)の報道に基づく記述です。
業界別の活用例と、中小企業の現場での姿
業界別の活用例は、国の戦略が描く大きな姿と、中小企業の現場で起きている小さな姿とで、かなり様子が異なります。
国の戦略が挙げる領域(製造・物流・金融・医療・建設など)
中間とりまとめは、製造や物流・交通、金融、医療・介護・福祉、建設など、19の領域ごとに戦略を並べています。解説記事でよく挙がる例は、医療の画像診断の支援、金融の不正取引の検知、製造の設備の異常検知、法務の契約書の確認など、専門家の判断を支える使い方です。こうした例は、大量の業界データと専門の開発体制を持つ大企業や医療機関、金融機関で取り組まれているものが目立ちます。
社員10〜200名の会社で見かける業界特化AIの姿
中小企業の現場で業界特化AIに触れる機会は、業界ソフトの新機能という形で訪れることが多いでしょう。業種ごとに見ると、次のような作業が業界特化AIの対象になりやすいところです。
- 会計・税務:会計ソフトでの仕訳の候補の提示、領収書や請求書の読み取り
- 建設・設備工事:施工管理ソフトでの日報や写真の整理、図面からの数量の拾い出しの補助
- 介護・医療:記録ソフトでの記録文の下書き、申し送りの要約
- 不動産:物件情報の入力の補助、募集文の作成
- 製造:品質記録や点検記録のまとめ、不具合の報告の分類
一方で、同じ会社の中にある見積書の送付文、採用の募集文、社内への通知、会議の要約といった仕事は、業界を問わない汎用AIの守備範囲になります。1つの会社の中に、業界特化AIの対象と汎用AIで回る作業が混ざっているのが普通の姿です。自社の業務の一覧を開き、どちらに当たるかの印を付けてみてください。
バーティカルAIの仕組み|業界データ・業務ルール・システム連携
バーティカルAIは、AIのモデルそのものを一から作るのではなく、既存のAIモデルに業界のデータ・業務のルール・業界システムとの連携を組み合わせて作られる例が多く見られます。
RAG・API連携・業務ルールの3つの部品
1つ目の部品は、RAG(検索拡張生成)と呼ばれる仕組みです。RAGは、質問が来るたびに業界の資料や社内の文書から関係する箇所を探し出し、その箇所を根拠にしてAIに答えさせる方法を指します。2つ目は、API連携と呼ばれる、ソフト同士をつなぐ仕組みになります。APIを通じて業界のシステムとつながることで、AIが結果を画面に出すだけでなく、入力や登録まで進めることが出来ます。3つ目は、業務のルールを決まった手順としてAIに守らせる部分で、どの条件なら差し戻すか、どこで人に確認を求めるかといった取り決めがここに入ります。
汎用AIでも、1つ目のRAGに近い使い方は、資料をアップロードして質問する形で今日から試せます。2つ目と3つ目は、業界のシステムと手順に深く結び付くため、業界特化AIや業界ソフトのAI機能が強みを持ちやすい部分でしょう。RAGの考え方はRAGとはの記事でも取り上げています。
現場の暗黙知・熟練者の知見をAIに取り込むという考え方
政府がバーティカルAIと日本の現場力の相性が良いとする根拠は、暗黙知を含めた現場の経験や知識をデータとして集め、活用する点にあります。暗黙知とは、熟練した社員が経験で身に付けていて、マニュアルには書かれていない判断のコツのことです。日経クロステックの報道も、普及の課題として、既製のAIを買うだけでなく、どの業務をAIに置き換えるかを決め、現場のデータを出し、暗黙知やノウハウを言葉にしながら開発側と作り込む必要があると伝えています。
これは中小企業にとって、業界特化AIを買えば熟練者の知見が自動で手に入るわけではないことを意味します。熟練者のコツを文章に起こす作業は、どちらのAIを選んでも自社でやるしかありません。その文章さえあれば、汎用AIに渡すだけでも、かなりの部分を再現できる場面があります。まずはベテランの方に、判断の理由を箇条書きで書き出してもらうところから始めてみましょう。
業界特化AIを買うか、汎用AIで足りるか|業務4種類の判断表
業界特化AIを買うかどうかは、会社単位ではなく業務単位で決めるのが無理のない方法です。
業務を4種類に分ける判断表
社内の業務は、AIとの関わり方で次の4種類に分けることが出来ます。
判断に迷う業務は、ひとまず2種類目として扱い、汎用AIで2〜3週間試してから決めるのが無難です。
業界特化AIの出番は、主に3種類目の業務に限られると考えておきましょう。4種類目については、業界特化AIでも汎用AIでも、最後は資格や責任を持つ方が確認する形に変わりはありません。
導入前に置き換える業務と指標を決める(汎用ツールで足りるかを含む)
業界特化AIの検討を始める前に、どの業務を置き換えるのか、何が良くなれば成功とするのかを先に書き出しておくことが大切になります。指標は、1件あたりの作業時間、差し戻しや修正の回数、担当者1人で処理できる件数といった、今の業務で数えられるものが扱いやすいでしょう。そのうえで、同じ業務を汎用AIでこなした場合の数字も取り、差が契約料に見合うかを比べます。汎用ツールの設定や使い方の工夫で足りるなら、業界特化AIを足す理由はそれほど強くありません。業務と指標が決まらないまま契約すると、効果を測れず、解約の判断も付けにくくなってしまいます。
警察領域の戦略にも、汎用AIを先に使う順番が書かれている
汎用AIで事務を回し、足りない所だけを特化させるという順番は、中間とりまとめの警察領域の戦略にも書かれています。警察領域の「課題解決の手段・アプローチ」の項には、「まずは様々な事務処理における汎用AIの活用を推進した上で」、相談内容の分析などにRAGやエージェント型AIを活用し、特に対応の高度化が必要なものについては独自AIの開発に取り組む、という順序で書かれた一節があります。
警察の領域でさえ、まず汎用のAIを事務に広く使い、そのうえで高度化が必要な業務に絞って独自のAIを作る順番を示しています。この順番は、中小企業にとっても参考になるはずです。社員10〜200名の会社が同じ順番をたどるのは、むしろ自然なことでしょう。
汎用AIで回る業務から始めるなら、社員が使うAIの環境を会社で1つにまとめておくと管理が楽になります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
汎用AIで業界の業務をこなす4つの手順
汎用AIで業界の業務をこなすコツは、業界の知識をAIに覚えさせるのではなく、毎回の依頼に資料として添えることにあります。ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityの得意な場面の違いは、4つのAIの使い分けで比べています。
手順1 業界の用語集と社内規程を先に渡す
最初に、業界の用語集、社内規程、よく使う書式の見本を、AIに読ませる資料としてまとめておきます。用語集は、社内でよく使う略語や、業界で一般と違う意味で使う言葉を20〜30語並べたもので充分です。汎用AIの多くは、同じ資料と指示を繰り返し使える機能を持っていて、GeminiのGem、Claudeのプロジェクトなどがそれに当たります。
手順2 根拠の条文やページを示させる
回答には必ず、どの資料のどのページ、どの条文を根拠にしたかを添えるよう指示しましょう。根拠が示されていれば、担当者は原文と照らし合わせるだけで確認を終えることが出来ます。根拠を示せない回答はそのまま使わない、という決まりを最初に作っておくと安心です。AIは、資料に書かれていない内容を、もっともらしい文章で補ってしまうことがあります。
手順3 判断ではなく、下書きと照合に使う
汎用AIに任せるのは、結論を出すことではなく、下書きを作ることと、書類同士の食い違いを探すことに絞ります。たとえば会計事務所であれば、顧問先への説明文の下書きや、規程に沿った社内文書の作成、問い合わせへの一次回答の下書きが向いています。建設や設備の会社であれば、見積の前提条件の文章化や、仕様書と見積書の食い違いの洗い出しに使うことが出来ます。税額の判断や、法令に当てはまるかどうかの結論は、AIの下書きを材料にしつつ、担当者が自分で出す形を守ってください。
手順4 最後は担当者が確認する
4つ目の手順は、出来上がったものを担当者が確認し、確認したことが記録に残る流れを作ることです。確認の手間が作業時間の短縮分を上回るようなら、その業務はまだAIに向いていないと判断できます。この4つの手順を2〜3か月回すと、汎用AIで足りる業務と足りない業務の境目が、自社の言葉ではっきりしてきます。境目の先にある業務だけが、業界特化AIを検討する対象になります。
自社の過去案件で比べる試用の手順
業界特化AIと汎用AIのどちらが自社に合うかは、デモの模範回答ではなく、自社の過去の案件で同じ問いを出して比べる方法がおすすめです。手順は次のとおりになります。
- 過去1年の案件から7〜10件を選ぶ。うち2〜3件は、例外の案件や判断に迷った案件を必ず入れる
- 個人名や取引先名は記号に置き換え、両方のAIに同じ資料と同じ問いを渡す
- 汎用AIには、手順1で作った用語集と規程を添える
- 回答を、正確さ・根拠の示し方・人が直すのにかかった時間の3つの観点で採点する
- 採点は、業務の担当者と、その業務を知らない別の社員の2人で行う
ベンダーのデモは、うまくいく例を選んで見せるものなので、例外の案件でどう振る舞うかを見ることが大切です。比べる材料は、デモの得意な例ではなく、自社で判断に迷った例外の案件にしてください。試用の段階で自社の書類を業界特化AIに入れる場合は、入力したデータを学習に使うかどうか、試用が終わった後に削除されるかを、先に書面で確かめておきましょう。差が小さければ汎用AIで続け、差が大きく、その差が契約料に見合うときに初めて業界特化AIを選ぶ、という順で決めると迷いにくくなります。
導入時の課題と、人が最終判断する設計
業界特化AIを入れても、データの質と、誤った判断をしたときの責任の置き場所という2つの課題は自社に残ります。
導入時の課題(データ品質・ガバナンス・誤判断の責任)
業界特化AIの答えの質は、読み込ませる自社のデータの質に左右されます。過去の書類の書き方が担当者ごとにばらばらだったり、古い規程が混ざっていたりすると、AIはそのばらつきをそのまま引き継いでしまいます。ガバナンスとは、誰がどのAIを何の業務に使ってよいかを会社として決め、その通りに使われているかを確かめる仕組みのことです。部署ごとに業界特化AIを契約すると、この確認の範囲が広がり、情報システムの担当者の負担が重くなっていきます。AIの答えが誤っていたときに、誰がどう直し、顧客にどう説明するかも、契約の前に決めておく必要があります。
人が最終判断する設計(Human in the loop)
中間とりまとめの総論は、人が意思決定に対する責任を持ちながらバーティカルAIを使うことを重視しています。業界特化AIであっても、最終的な判断の責任は使う会社の側に残ります。総論の注記では、現在議論されている考え方として、人の関わり方が次の3つの形で紹介されています。
- Human in the loop:人がAIの作業の流れに直接関わる仕組み
- Human on the loop:作業そのものはAIに任せつつ、流れ全体の設計や監視を人が担う仕組み
- Human in the lead:AIを道具として統制し、人が意思決定や価値を生み出す主導権を握る仕組み
社員10〜200名の会社で業務に使う場合は、1つ目の、人が作業の流れに直接関わり、途中で確認する形から始めるのが現実的です。AIの出力をそのまま顧客に送る、システムに登録するといった使い方は、確認の記録が残る仕組みが整ってから、段階的に広げていきましょう。
データを外に出さない・海外サービスへの過度な依存を避けるための確認点
業界特化AIでも汎用AIでも、契約前に確かめるべきデータの扱いは共通していて、要点は学習・保存場所・ログ・アカウントの4つです。中間とりまとめは、過度な海外サービスへの依存が、データの海外流出やデジタル赤字の拡大につながるおそれがあると指摘しています。総論でも、戦略性のある領域では特定の国や企業への過度な依存を避ける方針が示されました。中小企業にとっての実務的な意味は、自社のデータがどこに置かれ、どの会社の手を通るのかを把握し、1社に何もかもを預けきらないことだと言い換えられます。
- 入力したデータを学習に使わない設定か個人向けの契約では、設定を変えない限り学習に使われるサービスがあります。会社として全員に同じ設定を適用できるかを確かめます。
- データの保存場所はどこか会話の履歴や読み込ませた書類が、どの国の、どの会社のサーバーに保存されるかを確認します。
- 利用ログを会社の管理者が見られるか誰が・いつ・どのAIに何を入れたかを、会社側で確かめられるかどうかです。
- 退職者のアカウントをすぐ止められるか退職や異動のたびに、会社の操作でアカウントを止められる仕組みかを確認します。
- データを扱う会社がほかにあるかベンダーが処理の一部を別の会社に任せている場合、データはその会社も通ります。
- 解約したときにデータを返してもらえるか持ち出せる形式と、削除の方法を契約の前に確かめます。
個人で契約したAIに業務データが入ってしまう問題については、シャドーAI(野良AI)の対策で詳しく取り上げています。データを社外に一切出したくない業務があるなら、自社の機器の中でAIを動かすローカルLLMも選択肢に入ります。
業界特化AIのベンダーに契約前に聞く10の質問
業界特化AIのベンダーには、機能の説明を聞く前に、次の10問への答えを書面でもらうことをおすすめします。
- 1. 中で使っているAIモデルは何ですかどの会社のモデルを使っているのか、自社で開発したものかを聞きます。モデルの提供元の規約も、データの扱いに関わります。
- 2. 入力したデータや読み込ませた書類を、学習や製品の改善に使いますか使う場合は、使わない設定に変えられるか、その設定を会社全体に適用できるかまで確認します。
- 3. データはどこの国の、どの会社のサーバーに保存されますか保存場所と、保存される期間をあわせて聞きます。
- 4. データの処理を再委託している会社はありますか再委託先がある場合は、その会社名と役割を書面でもらいます。
- 5. 料金は利用人数ごとですか、件数や案件ごとですか。最低契約期間は何か月ですか年間の総額を計算するために、初期費用と最低契約期間もあわせて確認します。
- 6. 解約したとき、データは返してもらえますか持ち出せるファイルの形式と、削除の証明が出るかを聞きます。
- 7. AIの誤った答えで損害が出たとき、責任の範囲はどこまでですか契約書のどの条項で定めているかまで確認します。
- 8. 対応していない業務・書類・例外は何ですかできないことを具体的に答えられるベンダーほど、自社の業務との相性を判断しやすくなります。
- 9. 汎用AIより良いと言える根拠を、こちらのデータで示せますか自社の過去案件での比較に応じてもらえるかを聞きます。
- 10. 利用ログを会社の管理者が見られますか。退職者のアカウントはすぐ止められますか管理の画面を実際に見せてもらうと安心です。
答えが曖昧な項目が多いベンダーは、試用の段階で慎重に見たほうがよいでしょう。9問目に自社のデータで答えられるかどうかが、見極めの決め手になります。ここに具体的に答えられるかで、そのベンダーが自社の業務をどこまで理解しているかが見えてきます。
費用の比べ方|1人あたりの定額と、案件単位の課金
費用は、月額の単価ではなく、1年間で会社が払う総額と、管理にかかる手間の両方で比べるのが基本になります。汎用AIの法人向けサービスは、1人あたりの月額や、会社単位の定額で契約する形が多く見られます。業界特化AIは、処理した件数や案件ごとの課金、業界ソフトのオプション料金など、形がさまざまです。形が違うものを比べるため、次の順で年間の総額に直してみてください。
- 汎用AIは、1人あたりの月額×使う人数×12か月、または会社単位の月額×12か月で計算する
- 業界特化AIは、月額の基本料×12か月に、1件あたりの料金×年間の見込み件数を足す
- どちらにも、初期費用と、最低契約期間の間に必ず払う額を加える
- 業界特化AIを足す場合は、汎用AIの費用から差し引くのではなく、上に積み上げる形で計算する
- 最後に、アカウントの発行と停止、設定の確認にかかる社内の手間を、年間の時間で書き添える
部署ごとに業界特化AIを足していくと、同じ社員が複数のAIの契約を持つことになり、1人あたりの費用と管理の手間がどちらも増えていきます。業界特化AIは汎用AIの置き換えではなく上乗せになることを、費用の計算に必ず入れましょう。金額は各社の公式ページや見積書の数字だけを使い、推計で埋めないことが大切です。費用の管理の考え方は生成AIのコスト管理でも取り上げています。
業界特化AIと汎用AIを併用するときの社内ルール
両方を使うことになった会社は、どの業務でどちらを使うかを一覧にし、社内に1枚で示すことが出発点になります。一覧がないと、社員は手近なAIに何でも入れてしまい、業界特化AIに入れるはずの顧客データが汎用AIに入る、あるいはその逆が起きてしまいます。会社が契約していない個人のAIに業務データを入れない決まりも、最初に置きましょう。新しいAIを使いたいときの申請先を1つに決めておけば、部署ごとに別々のAIが増えていくことも防げます。
- 業務ごとに使うAIを決めた一覧(業務名・使うAI・入れてよい情報)
- 会社が契約したAI以外に業務データを入れない決まり
- 新しいAIの利用を申請する窓口を1つにする
- AIの出力を顧客に出す前に確認する担当者
- 退職や異動のときにアカウントを止める手順
ルールの文書の作り方は、生成AIの社内ガイドラインで取り上げています。
補助金を使って業界特化AIを入れる前に
業界特化AIの費用が気になる場合は、国の補助金の入口を確かめておく価値があります。人工知能基本計画は、中堅・中小企業のAI導入を後押しする施策として、大規模成長投資補助金やデジタル化・AI導入補助金を挙げています。ただし、どのツールが対象になるか、どんな条件で申請できるかは、補助金ごとの公募要領で決まるため、個別の製品が対象になるかをここで判断することは出来ません。対象かどうかは、ベンダーの説明だけでなく、公募要領と事務局の公開情報で確かめるようにしてください。補助金があるからといって、判断表の3種類目に当たらない業務まで業界特化AIに置き換える必要はありません。制度の概要はデジタル化・AI導入補助金の記事にまとめてあります。
汎用AIを会社で安全に使うには|複数のAIを1契約で使う選択肢
汎用AIを先に整えるなら、学習させない設定、ログの管理、社員へのアカウントの配布、複数のAIの使い分けの4つを、会社として一度に満たせる形を選ぶことが近道になります。個人向けのプランを社員それぞれが契約する形では、学習の設定やログを会社から確かめられず、退職者のアカウントも止められません。AIごとに法人プランを別々に契約する形は、管理画面も請求も契約の数だけ増えていきます。
もう1つの選択肢が、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityといった複数のAIを、1つの契約と1つの管理画面で使える法人向けサービスです。こうしたサービスでは、会話の途中でもAIを切り替え、同じ依頼への答えを見比べたりすることが出来ます。業界特化AIと迷ったときは、まず複数の汎用AIで自社の業務を試し、それでも届かない業務があるかを確かめる比較の土台としても使えます。自社の資料を読み込ませて答えさせる機能を備えたサービスであれば、手順1で作った用語集や規程をそのまま活かせるでしょう。
複数のAIを1つの環境で使う形の詳しい比較はマルチAIに、法人向けサービスの料金の一覧は法人向け生成AIの料金比較にまとめてあります。業界特化AIを検討する前に、まず会社で使う汎用AIの環境を1つに決めてみてください。
汎用の4つのAIを、1つの契約と1つの管理画面で
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の、誰が・いつ・どのAIを・どう使ったかを一覧できます。自社資料を読み込ませて回答させる社内文書RAGにも対応しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
バーティカルAIとは何ですか?
バーティカルAIと汎用AIは、どちらを選べばよいですか?
中小企業でもバーティカルAIを導入できますか?
バーティカルAIなら誤った答えは出ませんか?
自社の業界が政府の19領域に入っていないと、バーティカルAIは使えませんか?
バーティカルAIの導入に補助金は使えますか?
まとめ
バーティカルAIは、業界の知識と業界のシステムを組み込んだ、使える範囲を絞ったAIです。社員10〜200名の会社では、業務を4種類に分け、汎用AIで回る業務から始めて、業界システムへの入力や判定のように汎用AIでは届かない業務が見えた所で、業界特化AIを検討する順番が現実的になります。検討の際は、自社の過去案件での比較、ベンダーへの10の質問、年間の総額での費用の比較、データの扱いの確認を、契約の前に済ませておきましょう。導入の進め方の全体は中小企業の生成AI導入ステップで、ほかのテーマはAI活用コラム一覧でご覧いただけます。
