税理士のChatGPT活用。業務別の使い方と顧問先の情報を入れない線引き

税理士のChatGPT活用とは、仕訳の調べものや月次報告の要約、顧問先への回答文の下書きなど、事務所の業務にOpenAIの対話型AIであるChatGPTを使うことです。顧問先の数字を貼ってよいかどうかは、使う環境と情報の種類で変わります。個人のアカウントでは顧問先を特定できる情報を入れず、事務所で条件を確かめた環境では、どこまで入れるかを事務所で決める形になり、マイナンバーはどちらでも入れません。AI全般の進め方は税理士のAI活用ガイドにまとめていますので、合わせてご覧になってみてください。

ChatGPTに入れる情報は、使う環境と情報の種類で分けて考える

税理士事務所でChatGPTを使うときは、どの環境で使うかと、どんな種類の情報かの2つを掛け合わせて判断すると、職員ごとの判断がぶれにくくなります。情報の種類は「そのまま入れてよい」「匿名化すれば入れてよい」「入れない」の3段階に分けられます。そのまま入れてよいのは、法令や通達のように公開されている情報と、顧問先と結び付かない一般的な質問です。匿名化すれば入れてよいのは、社名・氏名・番号を外し、金額を丸めても相談の中身が成り立つ情報を指します。

環境のほうは、職員の個人のアカウントと、事務所で契約し、学習に使われない設定、データの扱いを定めた契約条件、所内のルールと教育を事務所が確かめた環境の2つに分かれます。個人のアカウントでは、顧問先や個人を特定できる情報は入れず、そのまま入れてよい情報と匿名化した情報だけを扱う形になります。事務所で条件を確かめた環境では、顧問先の情報をどこまで入れるかを事務所のルールとして決めることが出来ます。マイナンバーだけは、どちらの環境でも、匿名化の有無にかかわらず入力しない扱いにしましょう。

税理士法の守秘義務との関係

税理士法第38条は、正当な理由なく税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定めた条文です。使用人その他の従業者にも同じ義務があることは第54条に、税理士が使用人その他の従業者を監督する義務は第41条の2に書かれています。条文にはAIやクラウドという語はなく、ChatGPTへの入力が直ちに違反になるとも、違反にならないとも、条文だけからは言い切れません。条文だけでは白黒が付きにくいからこそ、どの環境に何を入れたかを事務所として説明できる状態にしておくことが、第41条の2の監督義務を意識した備えの一つと考えられます。守秘義務と懲戒の全体像は税理士の情報漏洩と生成AIで整理してあります。

日税連のガイドラインでの整理

日本税理士会連合会は、2026年9月に「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン」(Ver1.0)を策定し、9月30日に会員向けに知らせています。本文は会員限定で、デジタル・システム委員会がまとめたものです。本文を読んだ税理士の解説動画(私見を含む)では、マイナンバーは入力禁止、機密情報・個人情報は区分A(ビジネス向けの有料プラン、DPA=データ処理に関する契約と学習オフ、ルールと教育の3条件)、公開情報・一般的な情報・匿名化済みの情報は区分Bと整理されていると解説されています。機密情報・個人情報は、この3条件を満たした環境で扱う区分として紹介されている形です。会員の方は、事務所のルールを作る前に原本を確かめておきましょう。

入力する前の5問チェック

迷ったときは、入力する前に次の5つを自分に問いかけてみてください。

  • 今使っているのは、事務所で条件を確かめた環境か個人のアカウントなら、顧問先を特定できる情報はここで止めます。
  • 顧問先の名前や、名前を推測できる情報が出ていないか社名・屋号・代表者名に加え、所在地と業種と売上の規模の組み合わせでも、誰のことか推測できてしまう場合があります。
  • マイナンバー・口座番号などの番号が含まれていないかマイナンバーはどの環境でも入れない扱いにします。口座番号・証券番号・カード番号も外します。
  • 顧問先との取り決めで、外部サービスへの入力が制限されていないか顧問契約や秘密保持の取り決めに、第三者のサービスへの提供を制限する条項がないかを確かめます。
  • 出力を誰が確認してから使うか決まっているか顧問先へ出す文書は、税理士か決められた担当者が確認してから使う流れにします。

1つでも引っかかる項目があれば、その情報を外すか丸めてから入力する形に切り替えましょう。

業務別の使い方と、入れてよい情報の判断

ChatGPTが役に立つ業務は、記帳の調べものから職員のExcel作業まで幅広く、業務ごとに入れてよい情報の範囲が変わります。6つの業務の判断を1つの表にまとめると、次のようになります。

業務そのまま入れてよい匿名化すれば入れてよい個人のアカウントには入れない
記帳・仕訳の調べもの取引の種類、業種、勘定科目の一般的な考え方取引先名を外し、金額を丸めた取引の説明通帳や請求書の画像、取引先名と金額が並んだ元帳
月次報告・決算書分析の観点、月次コメントの型社名を外し金額を丸めた主要科目、前年比の増減率社名入りの試算表・決算書、個人別の給与が分かる明細
回答文の下書き一般化した質問文、文面の丁寧さや長さの指定業種・規模・金額の目安だけを残した相談の事情家族構成が分かる相談メールの全文、相続人の氏名と財産の明細
税制改正の情報収集改正の名称、公表資料の文章影響を確かめたい顧問先の業種と規模の組み合わせ影響を受ける顧問先の一覧、顧問先ごとの試算結果
メール・議事録・説明資料文面の型、敬語の言い回し、制度の一般的な説明宛名と固有名詞を外したメールの本文やり取りをそのまま転送したメールのスレッド、面談の書き起こし
Excelの関数・マクロ列の並び、処理の手順、エラーの文言見出しと数行だけを残し、名前を記号にしたサンプルの表顧問先の実データが入ったファイル

※右の列は個人のアカウントでの扱いです。事務所で条件を確かめた環境では、右の列をどこまで入れるかを事務所のルールで決めます。マイナンバーはどの環境でも入れません。

記帳・仕訳の調べもの

確定申告の時期には、個人事業主の方から見慣れない取引が持ち込まれ、勘定科目や消費税の課税区分を調べる回数が増えやすい時期です。「海外の事業者のクラウドサービスの利用料を払ったときの勘定科目の候補と、消費税の扱いで確認すべき点を挙げてください」のように、取引の種類だけを書けば顧問先の情報は要りません。ChatGPTに任せるのは、科目の候補と確認すべき点を並べるところまでになります。候補から1つを選び、通達や国税庁の解説で裏を取って仕訳に反映させる工程は、担当者が受け持ちましょう。

月次報告・決算書の要約と分析

月次報告では、試算表の数字から前年同月との差や気になる増減を言葉にする作業を、ChatGPTに下書きさせることが出来ます。決算前の面談に向けて、増減の大きい科目から顧問先に聞く項目のリストを作らせる使い方も向いています。ChatGPTに任せるのは、増減の大きい科目を拾い、質問の形の下書きにするところまでです。増減の理由を特定し、顧問先に助言するのは担当者の仕事として残してください。

税務相談・顧問先への回答文の下書き

確定申告の時期に同じ質問が続くときは、よく聞かれる質問ごとに回答メールのひな形をChatGPTで作っておくと、一通ずつ書く手間が減ります。相談内容は「個人事業主が自宅の一部を事務所として使っている場合の家賃の扱い」のように、事情を一般化して書き直してから入力しましょう。ChatGPTに任せるのは、論点の整理と文面の下書きになります。結論とその根拠を確かめ、顧問先の事情に当てはめて送るかどうかを決めるのは税理士です。

税制改正の情報収集と、国税庁・条文での確認

税制改正の時期には、職員向けの所内勉強会の要点メモをChatGPTで下書きし、影響を受けそうな顧問先の類型を洗い出させる使い方が出来ます。ChatGPTの回答には古い情報や誤りが混ざることがあるため、改正の内容そのものは国税庁の公表資料やe-Govの条文で確かめる必要があります。ChatGPTに任せるのは、公表資料の文章を貼り付けたうえでの要約と論点の拾い出しまでとなります。確定した内容を一次情報から取り、どの顧問先に案内するかを決める工程は税理士の側に残しておきましょう。

メール・議事録・説明資料の文面作成

年末調整の時期には、顧問先へ控除証明書などの資料をそろえてもらうお願い文を、ChatGPTで下書きすると便利です。説明資料では、インボイス制度や電子帳簿保存法のように何度も聞かれる話を、図にしやすい箇条書きに直させることも出来ます。議事録は扱いが分かれ、書き起こしの全文から名前や社名を手で置き換えるのは負担が大きいため、議事録の要約は事務所で契約して入力の扱いを決めた環境に限る、という線引きが現実的でしょう。ChatGPTに任せるのは文面の下書きと要約で、顧問先に送る前の言い回しと事実の確認は担当者が受け持ちます。

Excelの関数・マクロ作成

Excelの関数やマクロは、顧問先の情報を入れずに頼める代表的な業務になります。「A列の日付とB列の金額から、月ごとの合計を別のシートに集計する関数を教えてください」のように、列の並びと処理の内容だけを伝えれば、データそのものを見せる必要はありません。ChatGPTに任せるのは関数やマクロの案づくりとエラーの直し方の提案で、実データで正しく動くかを確かめる工程は職員の側に残ります。

6つの業務に共通するのは、相談の中身は匿名化した形でも十分に伝わるという点です。顧問先の名前は答えの質にほとんど関わりませんが、金額は判定の境目をまたがない範囲で丸めないと、答えが変わることがあります。ただ、こうした判断は職員全員が同じ設定のアカウントを使っていることが前提で、個人の無料アカウントがばらばらに使われていると、所長が設定を確かめる手段がなくなります。

業務ごとの線引きを守るなら、使う環境を事務所で1つに

職員ごとにアカウントが分かれていると線引きを確かめにくいため、使うAIの環境を事務所で1つにそろえる方法があります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

匿名化の変換例:顧問先の情報を外して相談する

匿名化とは、相談の中身を残したまま、誰のことか分かる情報を記号や幅のある表現に置き換えることです。置き換えの基本は、社名と氏名を記号に、金額を幅のある数字や増減率に、日付を月単位や年単位に変えることになります。

項目変換前変換後考え方
社名・屋号株式会社〇〇製作所A社(製造業)業種だけを残す
氏名代表取締役 〇〇社長代表者名前は記号か役割に置き換える
続柄・役職長男・専務役員である子単独では特定に結び付きにくいので残す
金額売上高 128,436,512円売上高 1億円台判定に使う区分が変わらない幅で丸める
日付2026年3月14日に契約2026年3月に契約期限や期間の判定に必要な単位までは残す
所在地X県X市地方都市必要なければ削る
番号マイナンバー・口座番号削除記号にも置き換えない

※社名・氏名・金額・所在地はすべて説明のための架空の例です。

実際の相談文で見ると、次のように変わります。

変換前(入れない形)

株式会社〇〇製作所(X市)の〇〇社長から、専務を務める長男の〇〇さんに自社株を2026年中に贈与したいと相談がありました。直前期の売上高は128,436,512円、純資産は8,215万円です。贈与税の負担を抑える方法を教えてください。

変換後(匿名化した形)

製造業の非上場会社(売上高は1億円台、純資産は8,000万円台)の代表者から、後継者で役員を務める子に自社株を贈与したいと相談がありました。贈与税の負担を考えるうえで検討すべき制度の候補と、確認すべき論点を挙げてください。

変換後の文章でも、後継者が役員である子という事情は残しているため、検討すべき制度の候補や論点は十分に引き出せます。金額を丸めるときは、制度の適用や税率の区分が変わらない幅にとどめることが大切で、丸めすぎると別の答えが返ってくることがあります。一方で、小さな町で業種と規模が分かると、地元の方にはそれだけで誰のことか見当が付いてしまうこともあり得ます。業種・地域・規模の3つがそろうと特定に近づくため、どれか1つはぼかしておきましょう。匿名化した文章を貼る前に、もう一度5問チェックに戻って見直してみてください。

個人の無料アカウントとChatGPT Businessの違い

事務所で使うなら、個人の無料アカウントではなく、事務所で契約するChatGPT Businessのようなプランを選ぶほうが、線引きを守りやすくなります。OpenAIは、ChatGPT Business・Enterprise・Eduなどのワークスペースのコンテンツを、既定ではモデルのトレーニングに使わないと説明しています。個人向けプラン(Free・Plus・Proなど)は既定で学習に使われる設定のため、職員一人ひとりが学習オフにしたかを所長が確かめる手間が残ってしまいます。

ChatGPT Businessの料金を事務所の出費に直すと

ChatGPT BusinessのStandard(標準)シートは、月払いでユーザー1人あたり月額25ドル、年払いで1人あたり月額20ドルと案内されています。10人の事務所で全員に標準シートを用意すると、年払いでも20ドル×10人×12か月で年2,400ドル、1ドル=150円で計算した場合は約36万円の出費になります。月払いを選ぶと、同じ10人で年3,000ドル、円にすると約45万円です。ワークスペースには少なくとも2席の有料シートが必要なため、所長1人で使う場合も2席分の料金がかかります。料金は米ドル建てで、国や通貨によって異なる場合があるとされています。

有料の個人プランでも学習オフは各自の操作になる

個人向けのPlusやProに料金を払っても、会話がモデルの改善に使われる設定は既定で有効のままです。職員に個人のPlusを経費で持たせる場合も、学習オフへの切り替えは一人ひとりの操作に頼ることになります。所長が設定を確かめるには、職員の画面で「データコントロール」を見せてもらうほかなく、人数が増えるほど手間がかかってしまいます。費用だけでなく、この確認の手間も含めて、個人プランと事務所の契約を比べてみてください。

事務所で契約するときに見ておく点

BusinessやEnterpriseでは、個人プランのように自分でデータを書き出す機能は使えず、ワークスペースの所有者に問い合わせる形になります。職員の退職時など、データを書き出したい場面では所有者を通すことになるため、契約前に所有者を誰にするかを決めておきましょう。法人プラン全体の料金と違いはChatGPT法人プランの料金で比べています。

※料金は2026年10月16日時点でOpenAIのヘルプセンターに表示されている米ドル建ての金額で、税は含めていません。円の金額は1ドル=150円で計算した場合の目安です。

学習に使われない設定:個人のアカウントを使う場合の学習オフと一時チャット

事務所のルールを決めるまでの間に、やむを得ず個人のアカウントを使う場合は、業務で使う前に学習オフへ切り替えておきます。目指す形は、ルール例にあるとおり個人のアカウントで業務の情報を扱わないことで、ここで扱う設定はそれまでのつなぎになります。OpenAIのヘルプでは、この設定をオフにすると新しい会話はモデルの学習に使われなくなり、チャット履歴には引き続き表示される場合があると説明されています。ウェブ版では、アカウントメニューから「設定」→「データコントロール」と進み、「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにして「完了」を選ぶ手順です。スマホのアプリでも、サイドバーのプロフィールアイコンから設定の「データコントロール」へ進めば同じ項目を切り替えられます。

一時チャットとアーカイブの扱い

一時チャットは、チャット履歴に表示されず、メモリを作成・更新せず、モデルの改善にも使われない会話のモードです。ただし、安全上の理由から最大30日間保持される場合があるとヘルプに書かれているため、入力した瞬間に消えるわけではありません。チャットをアーカイブしても、学習に使われるかどうかは変わらないと案内されています。

評価ボタンは学習オフでも会話全体が学習に使われることがある

見落としやすいのが、回答の下に出る評価のボタン(ヘルプでは「良い回答」「良くない回答」と表記)になります。OpenAIのヘルプでは、オプトアウトした後でも、自分から評価などのフィードバックを送ると、そのフィードバックに関連する会話全体がモデルのトレーニングに使われることがあると説明しています。顧問先に関わる会話では、評価ボタンを押さない決まりにしておくと安心です。学習オフ・一時チャット・評価ボタンのどれも、入れない情報を入れてよい情報に変えるものではない点は覚えておいてください。設定の考え方はChatGPTに学習させない設定でも扱っています。

※ChatGPTの設定と画面の説明は、2026年10月16日時点のOpenAIのヘルプセンターの記載(同社の説明)によるものです。画面の表記は更新で変わることがあります。

事務所のAI利用ガイドラインに書く4つの要点

事務所のAI利用ガイドラインは、長い規程から始めるより、使ってよいアカウント・入れてよい情報・確認者・誤入力時の報告の4点を1枚にまとめるところから始めると定着しやすくなります。

1. 使ってよいアカウント

業務で使ってよいのは事務所が契約したアカウントだけとし、個人の無料アカウントでの業務利用は認めない形にします。アカウントの発行と停止を誰が担当するかも、同じ1枚に書いておきましょう。

2. 入れてよい情報

入れてよい情報は、使う環境と3段階の考え方をそのまま使い、業務ごとの例を添えて職員に配ります。マイナンバーは入れないことを、例外なしの1行で書いておくと迷いが生まれません。

3. 出力の確認者

顧問先へ出す文書や税額に関わる判断は、税理士か所長が指名した担当者が確認してから使うと決めます。確認した人の名前を残す欄を、回答文の控えや業務日報に設けておくのも一つの方法でしょう。

4. 誤って入力したときの報告

入れてはいけない情報を入力してしまったときに、誰に・いつまでに・何を報告するかを決めておくと、隠さずに相談してもらいやすくなります。報告を受けた側が、会話の削除や顧問先への説明が必要かを判断する流れまで書いておいてください。

4つの要点を1枚にまとめた例

4つの要点は、次のような短い文書にして、職員の目に付く場所に置いておくと守られやすくなります。

事務所の生成AI利用ルール(例)

1. 使ってよいアカウント
事務所が契約したアカウントだけを使う。個人のアカウントで業務の情報を扱わない。アカウントの発行と停止は(担当者名)が行い、所長に報告する。

2. 入れてよい情報
そのまま入れてよい:法令・通達・公表資料、顧問先と結び付かない一般的な質問
匿名化すれば入れてよい:社名・氏名・番号を外し、金額を判定の区分が変わらない幅で丸めた相談の事情や数字
事務所の環境に限り入れてよい:(事務所で決めた範囲を書く)
入れない:マイナンバー(例外なし)

3. 出力の確認者
顧問先へ出す文書と税額に関わる判断は、税理士が確認してから使う。確認者の名前を控えに残す。

4. 誤って入力したときの報告
気付いた時点で所長に報告する。会話の削除と顧問先への説明が必要かは所長が判断する。

項目を増やすより、職員が迷わず読める短さを保つほうが、実際には守られやすいでしょう。

規程のサンプルから作る場合

規程の文案から作りたい場合は、税理士事務所用の生成AI利用規程サンプル(無料・登録不要、全19条・様式4つ)を下敷きにすることも出来ます。このサンプルは日税連の公式ひな形ではないため、会員の方は原本の内容と照らし合わせて手を入れてください。業種を問わない作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方にまとめています。

職員の個人アカウントの利用を棚卸しする

ルールを配る前に、職員がすでに個人のアカウントで業務に使っていないかを聞き取ると、ルールと実態のずれが見えてきます。責める場ではないことを先に伝え、次のような質問を用意してみてください。

  • これまでに業務でChatGPTなどの生成AIを使ったことがあるか
  • 使ったのは個人のアカウントか、事務所のアカウントか
  • 顧問先の名前や数字を入力したことがあるか
  • 学習オフの設定を確認したことがあるか
  • 業務で使いたい場面はどこか

最後の質問の答えは、事務所で契約するプランや、ルールに書く業務の例を決める材料にもなります。事務所から見えないAI利用の考え方はシャドーAI(野良AI)で扱っています。

顧問先への伝え方の文例

顧問先にAIの利用を伝えるかどうかは事務所の判断ですが、伝える場合は、使う業務と入れない情報を具体的に書くと安心してもらいやすくなります。

当事務所では、資料の下書きや調べものに生成AIを利用しています。利用するのは事務所で契約し、入力内容が学習に使われない設定にしたサービスに限っています。マイナンバーや口座番号などは入力しません。生成AIの出力は、税理士が内容を確認したうえでお渡しします。

顧問契約書や個人情報の取扱いの説明に同じ内容を書き足すかどうかは、契約の文面に合わせて検討してみてください。

ハルシネーション(もっともらしい誤り)と、最終判断は税理士

ChatGPTは、実在しない通達の番号や、改正前の古い取扱いを、もっともらしい文章で答えてしまうことがあります。このような誤りはハルシネーションと呼ばれ、文章が自然なほど見抜きにくくなってしまいます。税額や適用の可否に関わる結論は、ChatGPTの回答ではなく一次情報で確かめてから使いましょう。確かめる先は、e-Govの法令検索で引ける条文、国税庁の通達やタックスアンサー、質疑応答事例などになります。顧問先に示す結論の責任を負うのは税理士で、その点はChatGPTを使っても変わりません。

条文・通達・質疑応答事例や、事務所で契約している税務データベースは、根拠を確かめるための道具です。ChatGPTはそれらを置き換えるものではなく、調べる前に論点や検索の手がかりを洗い出し、調べた後に結果を文章にまとめる作業を短くする役割になります。調べる道具とChatGPTの間をこう分けておけば、根拠の確認を飛ばしてしまう心配も減らせます。

誤りを減らす使い方としては、回答に根拠の条文や通達の番号を書かせ、その番号を自分で開いて確かめる方法があります。同じ質問を言い回しを変えて聞き直し、答えが食い違う箇所を人が調べる候補にするのも有効です。ChatGPTは下書きと論点の洗い出しを担う相手で、判断の相手ではないと職員にも伝えておきましょう。

回答文を顧問先に出す前の確認の流れ

ChatGPTで下書きした回答文は、次の順に確かめてから送ると決めておくと安心です。

  1. 回答の結論と、その根拠になる条文・通達を書き出す
  2. e-Govや国税庁のサイトで、根拠の条文・通達が実在し、現行のものかを確かめる
  3. 顧問先の事情に当てはめたときに、例外や適用の条件から外れていないかを見る
  4. 匿名化した記号を、顧問先の本当の名前や数字に戻す
  5. 確認した人の名前と日付を控えに残してから送る

4つ目の戻す作業は、ChatGPTの画面ではなく、事務所のパソコンの文書の上で済ませてください。

そのまま使えるプロンプト例

プロンプトとは、ChatGPTに入力する指示文のことで、役割・前提・出してほしい形の3つを書くと答えが安定しやすくなります。次の例は、いずれも顧問先の情報を入れずに使える形にしてあります。

仕訳の調べもの

あなたは日本の税理士事務所の職員を補助するアシスタントです。次の取引について、考えられる勘定科目の候補を3つまで挙げ、それぞれ消費税の課税区分を判断するうえで確認すべき点を箇条書きにしてください。根拠になる法令や通達がある場合は、名称と番号まで書いてください。
取引:海外の事業者が提供するクラウドサービスの月額利用料を、法人カードで支払った。

月次コメントの下書き

次の数字は、ある小売業の顧問先の試算表を千円単位に丸めたものです。前年同月と比べて増減の大きい科目を3つ選び、所長が面談で説明するための短いコメントの下書きを作ってください。増減の理由は断定せず、顧問先に確認したい質問の形で書いてください。
(以下、科目名と千円単位の金額を貼り付け)

回答文の下書き

個人事業主から、自宅の一部を事務所として使っている場合に、家賃や光熱費をどこまで経費にできるかという質問を受けました。顧問先に送るメールの下書きを、丁寧語で400字程度で作ってください。按分の考え方を説明し、最後に、使用面積や使用時間が分かる資料を送ってもらうお願いを入れてください。根拠となる条文・通達の名称と番号を末尾に挙げ、確信のないものには【要確認】と付けてください。

税制改正の論点整理

次の文章は国税庁が公表した資料の一部です。所内勉強会で配る要点メモとして、改正の要点を5行以内でまとめ、影響を受けそうな顧問先の類型を挙げてください。資料に書かれていないことは推測で補わないでください。
(以下、公表資料の文章を貼り付け)

年末調整の資料回収のお願い文

顧問先の総務担当の方に、年末調整に必要な書類の提出をお願いするメールの下書きを作ってください。提出してほしい書類の一覧、提出期限を書く欄、不明な点の問い合わせ先を入れ、丁寧語で300字程度にまとめてください。会社名と期限は【 】の空欄にしてください。

Excelの関数

Excelで、A列に日付、B列に金額が入った表があります。月ごとの合計を別のシートに集計する関数を、入力する手順と一緒に教えてください。

よく使うプロンプトを事務所の共有フォルダにまとめておけば、職員ごとの答えのばらつきも抑えられます。

税理士はAIに仕事を奪われるか

ChatGPTが税理士の仕事をそのまま置き換える形にはなりにくく、変わるのは仕事の中身の配分だと考えられます。調べものや文面の下書きは短くできても、顧問先の事情を聞き取って結論を決め、その責任を負う部分は税理士に残ります。職員にも、任せる作業と残す判断を分ける話として伝えてみてください。

事務所で使うAIを、1つの契約と1つの管理画面に

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けサービスです。基盤はAWSの日本リージョンで稼働し、管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理できます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

税理士がChatGPTに顧問先の情報を入れると、守秘義務違反になりますか?
税理士法第38条と第54条にはAIやクラウドという語はなく、入力が違反になる・ならないと条文だけから言い切ることは出来ません。そのため実務では、個人のアカウントには顧問先を特定できる情報を入れず、事務所で条件を確かめた環境でどこまで入れるかを事務所で決め、マイナンバーはどちらでも入れない、という線引きを作っておくことになります。
ChatGPTで税金の相談はできますか?
制度の仕組みの確認や論点の洗い出しには使えますが、回答に実在しない通達の番号や古い取扱いが混ざることがあります。税額や適用の可否に関わる結論は、条文や国税庁の公表資料で確かめてから使ってください。
学習オフにすれば、顧問先の情報を入れてもよいですか?
学習オフは新しい会話をモデルの学習に使わない設定で、会話はチャット履歴に残る場合があります。評価ボタンでフィードバックを送ると、その会話全体が学習に使われることがあるとOpenAIは説明しています。個人のアカウントで学習オフにしても、顧問先を特定できる情報を入れない線引きは変わりません。
一時チャットなら、入力した内容は残りませんか?
一時チャットはチャット履歴に表示されず、モデルの改善にも使われませんが、安全上の理由から最大30日間保持される場合があるとOpenAIは説明しています。入れない情報を入れてよくなるものではありません。
職員が個人の無料アカウントで使うのは問題がありますか?
個人向けプラン(Free・Plus・Proなど)は、会話がモデルの改善に使われる設定が既定で有効になっており、学習オフにしたかを事務所から確かめにくくなります。業務で使ってよいのは事務所が契約したアカウントだけ、と事務所のルールに書いておくと分かりやすくなります。
ChatGPTの有料版(Plus)なら、入力した内容は学習に使われませんか?
個人向けのPlusやProも、会話がモデルの改善に使われる設定は既定で有効です。学習に使わせたくない場合は、有料版でも設定から学習オフに切り替える必要があります。事務所で契約するChatGPT Businessについては、既定でワークスペースのコンテンツを学習に使わないとOpenAIは説明しています。
日税連のAIのガイドラインはどこで読めますか?
日本税理士会連合会が2026年9月に策定した「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン」(Ver1.0)は、本文が会員限定です。会員の方は、事務所のルールを作る前に原本の内容を確かめておくと安心です。
税理士はAIに仕事を取られますか?
調べものや文面の下書きにかかる時間は短くなりますが、顧問先の事情を聞き取って結論を決め、その責任を負う部分は税理士に残ります。税務代理や税務書類の作成は税理士の業務として法律で定められており、ChatGPTが代わりに責任を負うことはありません。変わるのは仕事があるかどうかより、時間の使い方の配分だと考えられます。

まとめ

税理士のChatGPT活用は、記帳の調べもの、月次報告の要約、回答文の下書き、税制改正の情報収集、メールや議事録、Excelの作業まで、事務所の多くの業務に広げることが出来ます。その前提になるのが、使う環境と情報の種類で入れてよい範囲を分ける線引きです。個人のアカウントには顧問先を特定できる情報を入れず、事務所で条件を確かめた環境ではどこまで入れるかを事務所で決め、マイナンバーはどちらでも入れない形にしておきましょう。まずは、使ってよいアカウント・入れてよい情報・確認者・誤入力時の報告の4点を1枚のルールにまとめ、職員と共有するところから始めてみてください。

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