税理士の情報漏洩と生成AI。守秘義務のもとで顧問先の情報を入れてよいかの判断

税理士の守秘義務とは、税理士法38条で税理士に、54条で事務所の職員に課されている、業務で知った顧問先の秘密を正当な理由なく漏らしたり自分や第三者のために使ったりしてはならない義務のことになります。条文に生成AIの語はなく、AIへの入力が一律に禁止されているわけでも、許されているわけでもありません。入れるのであれば、入力が学習に使われない契約、入力してよい範囲の線引き、職員への監督の記録の3つを、事務所として整えてから使うのが無理のない進め方となります。ここで扱うのは守秘義務との関係だけで、業務別の使い方やツール選びは税理士のAI活用ガイドに譲ります。

税理士法38条の守秘義務を、生成AIへの入力に当てはめる

38条には生成AIもクラウドも出てこないため、入力が違反に当たるかどうかは、条文の4つの要素に照らして事務所が判断することになります。まずは条文そのものを確かめておきましょう。

税理士法 第38条(秘密を守る義務)「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。税理士でなくなつた後においても、また同様とする。」
※条文は2026年9月29日にe-Gov法令検索(税理士法)で確認したものです。

税理士法38条の4つの要素と、AIに入力する場面での読み方

条文を分けると、義務を負う人、例外、対象、続く期間の4つの要素に分かれます。それぞれを、顧問先の資料や相談文を生成AIに入れる場面に当てはめたのが次の表です。

要素条文の言葉生成AIに入力する場面では
義務を負う人税理士は所長や所属税理士が自分で入力する場合がそのまま当たる。職員が入力する場合は54条の話になる
例外正当な理由がなくて顧問先本人の許諾があれば正当な理由になり得る。許諾のない入力は、この例外に頼れない
対象税理士業務に関して知り得た秘密申告の数字に限らず、面談で聞いた家族や取引先の事情も含まれ得る
続く期間税理士でなくなつた後においても廃業や退職の後も続くため、会話の履歴が個人のアカウントに残り続ける使い方は避けたい

判断が分かれやすいのは、AIの提供事業者に文章を送ることが「他に洩らし」に当たるかどうかという点になります。AIへの入力は、事務所の外にある事業者のサーバーへ情報を送る行為でもあります。一方で、事業者が契約で学習に使わないと約束し、保存や閲覧の範囲まで決めている法人向けの環境と、学習に使われる設定のままの個人向けの無料版とでは、同じ入力でも中身がまったく違ってきます。同じ入力でも、どの契約とどの設定で入れたかによって、顧問先への説明のしやすさが大きく変わります。違反かどうかを条文だけで決めることは出来ないため、事務所としては説明できる形で入れることが実務上の目安でしょう。

守秘義務の対象になる秘密の範囲

国税庁の税理士制度のQ&A(問6-24)は、基本通達38-2を引いて、秘密を「税理士業務を行うに当たって、依頼人の陳述又は自己の判断によって知り得た事実で、一般に知られていない事項及びその事実の関係者が他言を禁じた事項」と説明しています。申告書の数字だけでなく、面談で聞いた後継者の悩みや取引先との揉めごとも、一般に知られていなければ範囲に入り得ることになります。

AIに相談文を入れるときに削るべきなのは、社名だけではありません。業種・地域・売上の規模・珍しい出来事が並ぶと、社名を伏せても誰のことか分かってしまう場合があるためです。相談文を書いたら、顧問先の担当者が読んで自分の会社だと気づくかどうかを一度考えてみてください。

正当な理由は本人の許諾か法令に基づく義務

同じQ&Aは、基本通達38-1を引いて、正当な理由を「本人の許諾又は法令に基づく義務があること」と説明しています。生成AIへの入力を求める法令上の義務はないため、例外として頼れるのは実質的に顧問先の許諾だけになります。許諾を取るなら、何を、どのAIに、どんな条件で入れるのかを示したうえで、書面やメールで残すのが確かでしょう。後ろの節に説明文のひな形を置いたので、文面の叩き台として使うことが出来ます。

※国税庁「税理士制度のQ&A」問6-24の記載は2026年9月29日に国税庁のサイトで確認しました。同じ問の説明に、生成AIやクラウドへの言及はありません。

税理士法54条|職員が入力しても同じ義務がかかる

54条は、税理士や税理士法人の使用人その他の従業者にも、38条とほぼ同じ守秘義務を課しています。条文の表記は38条の「洩らし・窃用」に対して54条は「漏らし・盗用」と違いますが、辞めた後も義務が続く点は共通です。

税理士法 第54条(税理士の使用人等の秘密を守る義務)「税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者でなくなつた後においても、また同様とする。」

実際にAIへ文章を入れるのは、所長よりも記帳や申告書の作成を受け持つ職員のほうが多いでしょう。職員が自分のスマートフォンの無料版に顧問先の資料を貼り付ける使い方は、事務所からは見えにくく、会社で問題になっているシャドーAI(野良AI)と同じ形になってしまいます。職員本人に54条の義務があるのに加えて、所長の側には次の41条の2の問題が生じます。

税理士法41条の2の監督義務|職員の入力は所長の監督の問題になる

41条の2は、使用人等を使う税理士に、業務の適正な遂行に欠けるところのないよう監督することを求めています。

税理士法 第41条の2(使用人等に対する監督義務)「税理士は、税理士業務を行うため使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けるところのないよう当該使用人その他の従業者を監督しなければならない。」

使用人等の不正行為を所長が知らなかった場合の扱いは、国税庁のQ&Aが財務省告示「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方」に沿って説明しており、2段階に分かれます。内部規律や内部管理体制の不備で気づけなかったことに相当の責任があれば、所長が過失でその行為をしたものとして懲戒の対象になるとされています。そこまで至らなくても、監督が適切でなかったと認められれば、41条の2違反として懲戒の対象になり得ます。

職員が個人のAIに入れた事故でも、所長は監督の中身を問われることになってしまいます。そのため、使ってよいAIと入れてはいけない情報を決め、それを職員に伝えて守られているかを確かめた記録が、事務所にとっての備えとなります。

守秘義務違反の罰則と懲戒処分

守秘義務に違反すると、刑事罰と懲戒処分の2つの経路で責任を問われる可能性があります。生成AIへの入力そのものが違反に当たるかは個別の判断ですが、当たった場合の重さは入力の手段によって変わりません。

税理士法59条の罰則|二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金

38条または54条に違反した者は、59条1項3号により二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処するとされています。同じ条の2項で、この罪は告訴がなければ公訴を提起できないと定められており、いわゆる親告罪にあたります。対象は違反行為をした者なので、54条に違反した職員本人も含まれることになります。

古い解説記事には懲役と書かれたものが残っていますが、現行の条文の表記は拘禁刑です。所内の研修資料に条文を載せる場合は、e-Gov法令検索の現行の条文から写すようにしましょう。

懲戒処分の種類(44条)と、38条違反の量定

44条は、税理士に対する懲戒処分を戒告、二年以内の税理士業務の停止、税理士業務の禁止の3種と定めています。46条により、税理士法に違反した税理士には財務大臣がこの懲戒処分をすることが出来ます。処分をしたときは、47条の4により、財務大臣が不特定多数の者が閲覧できる状態に置く措置をとるとともに、官報で公告することになっています。

違反刑事罰(59条)懲戒の量定(国税庁Q&A)
38条(税理士本人の守秘義務)二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金。告訴が必要二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止(問6-24)
54条(職員の守秘義務)違反した職員本人に同じ刑。告訴が必要所長の側で、次の行の41条の2が問われ得る
41条の2(所長の監督義務)59条の対象ではない戒告又は一年以内の税理士業務の停止(問6-26)

国税庁のQ&Aによれば、38条違反の懲戒の量定は二年以内の業務停止又は業務禁止で、戒告は含まれていません。業務禁止の処分を受けた場合は、処分の日から3年を経過する日まで税理士となる資格を有しないこととなり、登録も抹消されると説明されています。顧問先から見れば、情報が漏れたうえに担当の事務所が業務を続けられなくなるという、二重の損となってしまいます。

公認会計士の守秘義務との比較

公認会計士の守秘義務も、骨組みと刑の重さは税理士とほぼ同じです。公認会計士法27条が本人、49条の2が使用人等の義務を定め、違反には52条で同じ刑が定められています。

項目税理士公認会計士
本人の義務税理士法38条(税理士業務に関して知り得た秘密)公認会計士法27条(その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密)
職員の義務税理士法54条公認会計士法49条の2(業務を補助したことについて知り得た秘密)
刑事罰59条:二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金、告訴が必要52条:二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金、告訴が必要
辞めた後続く続く

税理士と公認会計士の両方の登録がある所長の場合も、生成AIに入れてよい範囲の考え方を2つに分ける必要はないでしょう。どちらの法律でも、正当な理由のない漏えいと、業務で知った秘密の流用が禁じられている点は共通しています。

※公認会計士法の条文は2026年9月29日にe-Gov法令検索で確認しました。

個人情報保護委員会の注意喚起が示す2つの確認点

個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプトを生成AIに入れる事業者に対して、利用目的の範囲内かどうかと、提供事業者が機械学習に使わないかどうかの2点を確かめるよう注意を促しています。出典は、2023年6月2日に公表された「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」です。

原文(抜粋):「生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。」「個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。そのため、このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。」
※個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)から引用しています。

原文は違反に「なる可能性がある」という書き方で、生成AIの利用そのものを禁じた文書ではありません。問題にしているのは、入力した個人データが、応答を返す以外の目的で扱われる場合です。税理士事務所は、個人の確定申告や年末調整で氏名・家族構成・医療費などを預かるため、守秘義務とは別に、個人情報保護法の側からも同じ確認が求められるでしょう。

学習に使わないことを契約で確かめられないAIには、個人データを入れないことが最低限の線になります。この線は、38条の説明のしやすさとも重なっています。

顧問先の情報が生成AIから外に出る4つの経路

生成AIで顧問先の情報が事務所の外に出る経路は、入力の内容よりも、どのアカウントでどう使っているかで決まる部分が大きいものです。考えられるのは、次の4つの形になります。

経路1:学習に使われる設定のまま入れる

個人向けのプランでは、入力をモデルの改善に使うかどうかを利用者が自分で設定する仕組みが一般的です。設定を知らないまま使えば、顧問先の情報がモデルの改善に使われる状態になっている場合があります。職員が何人もいれば、全員が正しく設定しているかを所長が確かめる手段はほとんどありません。

経路2:会話の履歴が個人のアカウントに残る

個人のアカウントで使った会話は、そのアカウントの持ち主の手元に残ります。職員が退職した後も、顧問先の資料を貼り付けた会話が本人のアカウントに残り続けることになります。54条の義務は退職後も続きますが、事務所の側からその履歴を消したり確かめたりすることは出来ません。

経路3:事務所が把握していないAIを使う

事務所が何も決めていなければ、職員は使い慣れたAIや、知人に勧められた翻訳・要約のサービスを自分の判断で使い始めます。会社の従業員が業務情報を外部のAIに入れて問題になった例は、生成AI・シャドーAI事例データベースにまとめています。

経路4:1つのアカウントを複数の人で使い回す

1人分の契約を複数の職員で共有すると、誰がいつ何を入れたかが残りません。事故が起きたときに、どの顧問先のどの情報が入ったのかを追えず、顧問先への説明も、41条の2の監督の説明も難しくなってしまいます。4つの経路はいずれも、職員の注意だけでは塞ぎきれず、事務所として使う環境を決めることで初めて小さく出来るものです。

職員の個人アカウントという経路は、事務所の環境で塞ぐ

4つの経路を小さくするには、事務所が選んだAIの環境を職員全員に配り、使い方を1か所で見える状態にすることが近道です。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

入力してよい情報・だめな情報・条件付きの判断表

入力の可否を分ける軸は、誰のことか分かるかどうかと、学習に使われない契約の環境かどうかの2つです。税理士事務所で扱う情報を、この2つの軸で振り分けると次のようになります。

情報判断理由と条件
マイナンバー(個人番号)入れない税務の手続きのために預かる番号で、AIに入れる業務上の必要がない。伏せ字にした書類を読ませる場合も、番号の欄を画像ごと消してから
預金の口座番号・カード番号入れない要約や文案づくりに不要で、漏れた場合の被害が直接お金に結びつく
e-Taxの利用者識別番号・暗証番号、会計ソフトのログイン情報入れない認証の情報はどの環境でも入れない
病歴・障害・医療費の明細など入れない医療費控除や障害者控除で預かる情報で、特に慎重な扱いが要る
税務調査の経緯・指摘事項の記録入れない顧問先が他言を望まない事項の典型で、社名を伏せても特定されやすい
顧問先の社名・代表者や個人の氏名条件付き原則は仮名に置き換える。社名が要る作業は、学習に使われない環境で、顧問先の許諾を得たうえで
決算書・試算表の数値条件付き学習に使われない環境で、社名・住所・固有の取引先名を外してから。業種・地域・規模の組み合わせで特定できないかも確認
相続の家族関係・財産の内訳条件付き続柄と金額の構成だけにして、氏名・地番・金融機関名を外す。珍しい財産構成は特定されやすいので慎重に
匿名化した相談文(業種と論点だけ)入れてよい例:製造業の中小企業で役員退職金の損金算入を検討している、の程度まで粗くしたもの。学習に使われない環境で
条文・通達・国税庁の公表資料入れてよい公開された情報で、守秘義務の対象にならない
事務所の手順書・研修資料(顧問先の情報を含まないもの)入れてよい事務所自身の情報。学習に使われない環境であれば扱いやすい

表の条件付きの行は、どれも事務所が契約した学習に使われない環境で使うことが前提です。個人向けの無料版しかない状態であれば、条件付きの行も入れない側に移して考えてください。

仮名化の加減で迷う場面は多く、たとえば「A社(○○市の精密部品メーカー・年商約3億円・社長が来年交代)」は、社名を伏せていても地元の同業者なら見当がつきます。「製造業の中小企業で、代表者の交代を予定している」くらいまで粗くすれば、AIの回答の質はほとんど変わらないことが多いでしょう。迷ったら入れない側に倒すことを、所内の合言葉にしておくと判断がぶれにくくなります。

各AIの学習の扱い|法人プランの既定と個人プランで止める操作

主な3つのAIは、いずれも法人向けプランで既定では入力を学習に使わない旨を公式に示しており、個人向けプランでは利用者が自分で設定を変える必要があります。事務所で確かめておきたい記載と操作を、次の表にまとめました。

AI法人向けプランの記載個人向けプランで止める操作補足
ChatGPT(OpenAI)Business:料金ページに「デフォルトではビジネスデータを学習に使用しません」。Enterpriseを含む法人向け製品の入力・出力も「デフォルトでは」トレーニングに使用しないとプライバシーの案内に記載プロフィールアイコン→設定→データコントロール→「すべての人のためにモデルを改善する」をオフ一時チャットは「モデルのトレーニングには使用されません」「30日後にシステムから削除されます」とヘルプに記載
Claude(Anthropic)Team・Enterprise:料金ページの比較表で、モデルのトレーニングは「デフォルトではなし」設定のプライバシーの項目で、モデルの改善への利用を許可しない個人プラン(Free・Pro・Max)は比較表で「オプトアウト」。学習を許可した場合の保持は5年、許可しない場合は30日と同社が発表
Gemini(Google)Google Workspace(対象エディション):「お客様のコンテンツは、人間によってレビューされることも、許可なくお客様のドメイン外で生成 AI モデルのトレーニングに使用されることもありません。」個人のGeminiアプリでは「Gemini アプリ アクティビティ」の「アクティビティの保存」をオフにするオフにしても会話は72時間アカウントに保持され、その後に削除されるとヘルプに記載。フィードバックを送り、レビューされたものは最長3年保存

※各社の記載は、2026年9月16日〜29日に各社の公式の料金ページ・ヘルプ・プライバシーの案内で確認したものです。画面の表記や設定の場所は変わることがあるため、使う前に各社の公式ページで最新の内容をご確認ください。

個人向けプランの設定は、職員一人ひとりの操作に頼る仕組みです。全員が正しく設定したかを事務所から確かめる方法がなく、設定の画面や項目名が変わったときに気づけるとも限りません。学習の設定を職員の手元に任せないことが、法人向けプランや事務所で管理する環境を選ぶ大きな理由になります。

すでに個人向けプランを使っている職員がいる場合は、設定を変えた日と画面の写しを提出してもらい、法人向けの環境に移るまでのつなぎとして記録を残しておくと、監督の説明に使うことが出来ます。

職員向けの所内ルールのひな形

所内ルールは、使ってよいAI、入れてはいけない情報、確認と記録の3つを短い条文で決めておけば、職員10〜50名ほどの事務所でも運用が回ります。次のひな形は、事務所の実情に合わせて語句を直して使えるように作っています。

生成AIの利用に関する所内規程(ひな形)

  1. 第1条(目的)この規程は、税理士法第38条・第54条の守秘義務と個人情報の保護を守りながら、所員が生成AIを業務に使うための決まりを定める。
  2. 第2条(使ってよいAI)業務で使ってよい生成AIは、事務所が契約し、所長が指定した環境に限る。個人のアカウントや無料版を業務に使ってはならない。
  3. 第3条(入力の禁止)次の情報は、どの環境にも入力してはならない。マイナンバー、預金の口座番号・カード番号、e-Taxや会計ソフトのログイン情報、病歴・障害・医療費の明細、税務調査の経緯と指摘事項。
  4. 第4条(条件付きの入力)顧問先の社名・氏名・決算数値・相続財産の内訳は、仮名に置き換え、特定につながる語を外してから入力する。社名を残す必要がある作業は、顧問先の許諾を得たうえで担当税理士が行う。
  5. 第5条(出力の確認)生成AIの出力を顧問先に渡す前に、担当税理士が内容と根拠の条文を確認する。
  6. 第6条(記録)管理者は、利用ログを毎月確認し、確認した日と結果を記録する。
  7. 第7条(事故の報告)入力してはならない情報を入力したときは、直ちに所長に報告する。所長は顧問先への連絡の要否を判断する。
  8. 第8条(退職時)所員が退職するときは、事務所の環境のアカウントを停止し、入社時の誓約書に基づいて守秘義務が続くことを伝える。
  9. 第9条(見直し)所長は、年に1回と、利用するAIの契約・規約が変わったときに、この規程を見直す。

第3条と第4条は、前の節の判断表と対応させておくと、職員が迷ったときに表を見れば答えが出る形になります。会社向けのルール全体の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で、技術的な点検項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストで紹介しています。

顧問先への説明文のひな形

顧問先への説明では、AIを使うかどうかより、何を入れて何を入れないかを先に伝えると受け止めてもらいやすくなります。社名を残して使う場面がある事務所は、最後の同意の欄まで含めて送ると、38条の正当な理由の記録も兼ねることが出来ます。

件名:生成AIの利用に関するご案内

○○株式会社 ○○様

いつもお世話になっております。○○税理士事務所の○○です。
当事務所では、文書の下書きや条文の確認を効率よく行うため、事務所で契約した生成AIを業務の一部に使っております。ご案内とあわせて、取扱いの決まりをお知らせいたします。

1. 使うAIは、事務所が契約し管理している環境に限り、入力した内容がAIの学習に使われない条件で利用しています。
2. マイナンバー、口座番号、ログイン情報、ご家族の病歴などの情報は入力いたしません。
3. 貴社の社名やご担当者のお名前は、原則として仮の名称に置き換えてから入力しております。
4. AIが作成した文案は、担当税理士が内容を確認したうえでお渡しします。
5. 利用の記録は事務所で保管し、ご希望があれば取扱いの状況をご説明いたします。

社名を残したまま決算資料の要約などに利用することをお許しいただける場合は、下の欄にご記入のうえご返送ください。ご了承いただけない場合も、これまでどおりの方法で業務を行いますので、ご安心ください。

□ 上記の条件で、社名を含む資料を生成AIで扱うことに同意します。
  年  月  日  ご署名:

同意は一度きりで終わらせず、使うAIや契約の条件が変わったときに改めて案内するようにしましょう。同意しない顧問先の分は、所内の顧問先一覧に印を付けておくと、職員が入力前に確かめる手がかりになります。

日税連の内部規律指針と、監督の記録の残し方

日本税理士会連合会は、41条の2の監督義務を適切に果たすための「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」を平成27年4月に策定し、令和5年3月に改訂しています。策定の背景として同会の公開ページが挙げるのは、平成27年1月に一部改正された財務省告示「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方」で、内部規律や内部管理体制の不備を理由に、使用人等の不正行為に気づけなかった税理士も懲戒の対象になると明確にされた点です。

附録のモデル様式集には、守秘義務関係として「書類預かり一覧表モデル」と「税理士事務所における情報管理チェックリストモデル」が並び、ほかに「使用人等雇用時の誓約書モデル」や「テレワーク服務規程モデル」も含まれています。指針の本文は会員向けで、公開ページから確かめられるのは指針の目的と様式の名前までになります。

※日本税理士会連合会の公開ページの記載は2026年9月29日に確認しました。指針本文は会員向けのため、その内容はこのページでは扱っていません。

事務所ですでにこれらの様式を使っているなら、生成AIの扱いを別の書類に分けるより、同じ情報管理の点検の流れに組み込むほうが続けやすいでしょう。次の6項目は、事務所のチェックリストに足すための案として使うことが出来ます。

  • 業務で使ってよい生成AIを文書で決めているか所内規程の第2条にあたる部分です。指定した環境の名前と契約の条件まで書いておくと、顧問先に聞かれたときにすぐ答えられます。
  • 入力が学習に使われない条件を、契約や公式の記載で確かめたか確かめた日と、見た公式ページの場所を記録に残します。
  • 個人のアカウントを業務に使わないことを、誓約書に入れているか雇用時の誓約書に一文を足すだけで、54条の義務と結びつけて説明できます。
  • 誰がいつどのAIを使ったかを、事務所の側で確かめられるか毎月の確認日と結果を残すと、41条の2の監督の記録になります。
  • 退職者のアカウントを止める手順が決まっているか退職の手続きの一覧に、AIのアカウント停止を並べておきます。
  • 年に1回、各AIの規約と設定の変更を確かめているか規約やプランの記載は変わることがあるため、見直しの日を決めておきます。

この6項目は日税連の指針の中身ではなく、公開されている様式の名前を手がかりに、生成AIの分を足すための案として作ったものです。事務所の様式に合わせて、言葉を置き換えて使ってみてください。

事務所で安全に使うには|環境を1つにして記録を残す

職員一人ひとりの設定に頼らず、事務所が選んだ環境を全員に配ると、守秘義務と監督の両方を説明しやすくなります。押さえたいのは、学習に使わない設定を全員に一律でかけること、誰がいつどのAIを使ったかを記録で追えること、使ってよいAIを事務所が選べることの3つです。

この3つがそろうと、経路1の設定漏れ、経路3の把握していないAI、経路4の使い回しを、職員の注意ではなく仕組みで小さく出来ます。利用の記録を毎月確かめて残していけば、41条の2の監督をどう行っていたかを示す材料の1つにもなるでしょう。

ただし、環境を整えただけで監督義務を果たしたことにはなりません。何を入れてよいかの線引きと、出力を税理士が確かめる工程は、どの環境でも人の仕事として残ります。判断表と所内規程、顧問先への説明を先に用意し、そのうえで環境を選ぶ順番で進めてみてください。

顧問先の情報を扱う前提で、事務所のAI環境を1つに

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、全社一律で適用するため職員ごとの設定操作は不要です。管理画面では利用状況を利用者・日時・利用モデル単位まで把握でき、CSVでの書き出しや、特定のAIモデルの利用禁止にも対応します。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。

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よくある質問

税理士が生成AIに顧問先の情報を入力すると、守秘義務違反になりますか?
税理士法38条にも54条にも生成AIの語はなく、入力が一律に違反になるとも、ならないとも定められていません。事業者が学習に使わないと約束した法人向けの環境で、特定につながる情報を外して入れる場合と、学習に使われる設定のまま個人向けの無料版に社名つきの資料を入れる場合とでは、顧問先への説明のしやすさが大きく異なります。入れるのであれば、学習に使われない契約、入力してよい範囲の線引き、職員への監督の記録の3つを事務所として整えることをおすすめします。
学習に使われない法人プランなら、社名つきの資料を入れても問題ありませんか?
学習に使われないことは前提の1つで、それだけで十分とはいえません。社名を残して入れる作業は、顧問先の許諾を得たうえで担当税理士が行うなど、事務所の規程で範囲を決めておくのが安全です。基本通達38-1は、正当な理由を本人の許諾又は法令に基づく義務があることと説明しており、許諾を書面やメールで残しておくと説明の根拠になります。
職員が個人のChatGPTに顧問先の情報を入れた場合、所長も責任を問われますか?
職員本人には税理士法54条の守秘義務があり、違反すれば59条の罰則の対象になり得ます。所長の側では、41条の2の監督義務が問われる可能性があります。国税庁のQ&Aは、監督が適切でなかったと認められる場合に41条の2違反として懲戒の対象になると説明しており、その量定は戒告又は一年以内の税理士業務の停止とされています。
マイナンバーを伏せ字にすれば、書類ごと生成AIに読ませてもよいですか?
マイナンバーはAIに入れる業務上の必要がないため、伏せ字の有無にかかわらず入れない側で扱うのが無難です。書類を読ませる必要がある場合は、番号の欄を画像ごと消し、氏名や住所など他の欄から本人が特定されないかも確かめてから使ってください。
守秘義務違反の罰則は、懲役ではなかったのですか?
現行の税理士法59条の表記は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金です。古い解説記事には懲役と書かれたものが残っているため、所内の資料に載せるときは、e-Gov法令検索で現行の条文を確かめてから写してください。なお、この罪は告訴がなければ公訴を提起できないと定められています。
日税連には生成AIの利用についての指針がありますか?
公開ページで確かめられるのは、41条の2の監督義務を果たすための「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」(平成27年4月策定、令和5年3月改訂)と、その様式の名前までです。指針の本文は会員向けのため、生成AIについて何が書かれているかは会員向けの資料でご確認ください。事務所としては、様式にある情報管理チェックリストに生成AIの項目を足して運用する方法が取りやすいでしょう。

まとめ

税理士法38条と54条の守秘義務は、生成AIへの入力を名指しで禁じても許してもいません。判断の中身になるのは、どの契約とどの設定で、どこまで特定できる情報を入れたかという点です。違反した場合は、59条の二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金と、二年以内の業務停止又は業務禁止という重い責任につながり得ます。

職員の入力であっても、所長は41条の2の監督を問われる立場にあります。個人情報保護委員会の注意喚起が示す、利用目的の範囲と学習に使わないことの確認も、税理士事務所にそのまま当てはまります。

まずは判断表で入れない情報を決め、所内規程と顧問先への説明文を整え、そのうえで学習に使われない環境を事務所として1つ用意する順に進めてみてください。ほかのテーマはAI活用コラム一覧でご覧いただけます。