
会計事務所のAI活用事例とは、税理士事務所・会計事務所が記帳、月次報告、税法の調べもの、顧問先対応などの業務にAIを取り入れ、作業の時間や品質を変えた実例のことです。公表されている削減時間は、AI-OCRや自動仕訳などの専用ツールで出た数字と、ChatGPTのような汎用の生成AIで出る効果の2種類に分けて読む必要があります。実名で紹介する3事務所が挙げたのも、AIの賢さより、事務所として管理できる状態を作れたことでした。業務ごとに向く道具と入力してよい情報の目安を早見表にしたうえで、税理士法38条との関係や顧問先への説明の文例までをまとめています。
この記事の要点
- 証憑の大量処理で出る大きな削減時間は、会計ソフトやAI-OCRなど専用ツールの成果です。汎用の生成AIが効くのは、文章の下書き、判断の壁打ち、調べものの方向づけになります
- 税法・通達の調べものは、国税庁やe-Govの公開資料だけを読ませて答えさせる文書検索AI(NotebookLMなど)が向いています。根拠の条文と通達番号は、必ず原文で確かめます
- 実名3事務所が挙げたのは、指示文の共有、全所員への配布、学習させない設定の一律適用で、いずれも事務所としての管理に関わる点でした
- AIの回答は下書きです。税理士法38条・54条の守秘義務と個人情報保護委員会の注意喚起を踏まえ、入力してよい情報と確認の手順を所内ルールにします
業務別の使いどころ早見表
会計事務所でAIを使う業務は、記帳だけが専用ツールの領域で、それ以外の多くは汎用の生成AIか、読ませた資料だけを根拠に答える文書検索AIの出番になります。どの業務でも、入力してよい情報の範囲と、税理士が最後に見る点を先に決めておくことが前提です。
| 業務 | 向く道具 | 入力してよい情報の目安 | 税理士の確認点 |
|---|---|---|---|
| 記帳・仕訳入力 | 専用ツール(AI-OCR・会計ソフトの自動仕訳)。生成AIは読み取れなかった数枚の補助 | 証憑には取引先名や個人名が載るため、学習に使わない扱いを契約と設定で確認した環境だけ | 勘定科目・消費税区分、例外取引の処理 |
| 勘定科目の判断 | 生成AIチャット(判断材料の洗い出し) | 取引の中身を一般化した説明。社名や個人名は伏せる | 条文・通達・事務所の過去の処理との照合 |
| 月次報告のコメント | 生成AIチャット(文章の下書き) | 会計ソフトで確定した数値と、事務所の書き方の型 | 数字の一致、断定しすぎた表現 |
| 経営提案資料 | 生成AIチャット(論点の洗い出し・構成案) | 確定した決算数値の集計値 | どの論点を顧問先に伝えるかの選択 |
| 税法・通達の調べもの | 文書検索AI(NotebookLMなど)、出典リンクを付けるAI | 国税庁・e-Govの公開資料。顧問先の資料は入れない | 条文・通達番号・適用時期を原文で確認 |
| 面談記録 | 生成AIチャット(メモの整理)、録音を扱えるAI | 顧問先の了承を得た範囲。事務所が契約した環境だけ | 決定事項と宿題を録音・メモの原文と照合 |
| 顧問先へのメール | 生成AIチャット(文面の下書き) | 担当者が決めた結論と根拠の箇条書き | 回答の中身、約束に聞こえる表現 |
| 所内の事務作業 | 生成AIチャット(Excelの関数・手順書) | 顧問先の情報を含まない作業用のデータ | 処理後の件数と合計の照合 |
※ 入力してよい情報の目安は、所内ルールを作るときの出発点として示したものです。実際の線引きは、契約しているサービスの学習の扱いと保管場所、顧問先との契約書の条項を確かめたうえで、事務所ごとに決めてください。
表を見ると、道具の選び方より、入力してよい情報の列のほうが事務所ごとの判断を多く求めることがわかります。同じ月次報告のコメントでも、事務所が契約した環境なら顧問先名を残したまま下書きを作れますが、個人のアカウントなら社名を伏せる手間が毎回かかってしまいます。道具を決める前に、どの環境なら顧問先の情報を入れてよいかを決めましょう。各業務の詳しい使い方は、後半の業務別の節で扱います。
削減時間の事例は2種類に分けて読む
会計事務所のAI活用事例に出てくる削減時間は、専用ツールで出た数字か、汎用の生成AIで出た効果かを分けて読まないと、自分の事務所で何を入れれば同じ結果になるのかがわかりません。記帳時間が何割減った、丸一日の作業が数時間になった、という数字の多くは、証憑の取り込みから仕訳の起票までを担う会計ソフトやAI-OCR(画像の文字をAIで読み取ってデータにする仕組み)の成果になります。ChatGPTやClaudeを契約しただけでは、同じ数字は出ないのが実情でしょう。
専用ツール(AI-OCR・自動仕訳)で出ている数字
公開されている事例を一次資料で確かめると、次のような数字が出ています。いずれもツールを提供する会社が公表した内容で、第三者が検証した数字ではありません。
- ある税理士法人では、税理士事務所向けのクラウド業務基盤を導入したところ、それまで使っていた従量課金型のOCRサービスの利用件数が、導入前の月平均約6,300件から、導入月に3,180件、翌月に947件になったと、システム提供会社が発表しています。外部の記帳代行サービスの契約を解約するまでの業務改善につながり、月1.5万〜2万件規模の仕訳を処理しているとも書かれています。数字が示されているのは作業時間ではなく、OCRサービスの利用件数です
- 複数の拠点を持つ税理士法人のうち、従業員18名(事務スタッフ16名・税理士2名、2022年6月時点)の1拠点では、法人約200社、個人約500件の税務・会計を請け負っており、業務用スキャナーとAI-OCRで入力と仕訳を自動化する仕組みを導入しました。月次業務に年間延べ1万8,000時間ほど(全業務の40%)を割いているとしたうえで、年間1,200時間の削減は確実との見通しを述べています。取材は導入から3か月の時点で、実績の確定値ではありません
- 独立開業の税理士事務所では、インストール型の会計ソフトからクラウド会計ソフトに切り替え、法人の決算申告にかけていた7〜8時間程度が2時間程度になり、月次決算の作業時間も半分程度になったと述べています
出典:システム提供会社のプレスリリース(PR TIMES・2025年12月18日)/スキャナーメーカーの導入事例記事(2022年6月22日掲載・取材は2022年4月)/クラウド会計ソフト提供会社の導入事例(掲載日の記載なし)。事務所名は伏せています(2026年9月28日に各ページで確認)。
3つの事例に共通するのは、証憑を取り込み、読み取り、仕訳データとして会計ソフトに連携する仕組みがあって初めて成り立つ数字だという点です。毎月数百枚、数千枚の証憑を継続して処理する部分は、汎用の生成AIに画像を1枚ずつ見せる方法では置き換えられません。
汎用の生成AIで出る効果
汎用の生成AIが効くのは、証憑の大量処理ではなく、人が考えて書いている時間になります。月次報告のコメントの下書き、顧問先へのメール、判断に迷った取引の論点整理、Excelの関数やマクロの作成、面談メモの整理などがこれに当たります。
この種類の効果は、専用ツールのように件数で数えにくく、公表されている数字も測定条件が書かれていないものが大半です。そのため、他の事務所の数字を借りるより、自分の事務所で導入前後を測るほうが判断材料になるでしょう。測り方は、次の4つの手順で足ります。
- 対象の業務を1つ決める(例:月次報告のコメント作成)
- 導入前に2〜3件、1件あたりの所要時間を記録する
- 導入後は、AIへの指示を書く時間と、出力を確認して直す時間を含めて記録する
- 差し戻しや修正の回数もあわせて数える
確認と修正の時間を含めずに測ると、効果は大きく見えてしまいます。税理士事務所では確認を省けない以上、確認込みの時間で比べることが実態に近い数字となります。
数字を読むときの4つの注意
- 対象の件数、担当した人数、比較した期間が示されていない削減率は、自分の事務所に当てはめられません
- 導入直後の見通しが、そのまま削減実績として紹介されることがあります
- 導入した事務所自身の発表か、ツールを売る側の発表かで、数字の性格は変わります
- 作業時間が減ったのか、外部委託の件数や費用が減ったのかを見分けます。上の1つめの例のように、示されている数字が時間ではない場合もあります
導入した3事務所の声(実名)
法人向けAI環境UPGEAR AIを導入している3つの事務所から、掲載の許諾を得てコメントを紹介します。いずれも規模の異なる事務所になります。
ペンデル税理士法人(東京都新宿区)/代表社員 戸島 潤吏 様
ChatGPTもClaudeもGeminiも1つの画面で切り替えて使えるので、所員の迷いがなくなりました。何より、所内の一人が作成したプロンプトで、有用なものは全体に共有できるので、事務所の圧倒的な効率化につながっています。また、モデルごとにデータがどこを通り、どこに保管されるのかが示されているため、この業務まではこのAIで、という線引きを事務所側で引けます。様々な情報を取り扱う以上、ここが決め手となりました。
効率化の理由として挙げられているのは、プロンプト(AIへの指示文)の共有です。AIを導入しても、うまい使い方が個人にとどまれば事務所の力にはなりません。所内で共有できる仕組みがあるかどうかが分かれ目になります。あわせて、データの通り道と保管場所が見えていることを、業務ごとの線引きの前提にしている点も実務的と言えます。
株式会社合同会計(埼玉県川口市)/代表取締役社長 細谷 定之 様
ユーザー毎の課金ではないので、全所員に安全なAIを利用させられる点は大きいです。また、使わせるAIを管理者が選べるので、事務所の方針をそのまま設定に反映できますし、ChatGPTなど4つのAIを個別に契約する必要がなく、契約も請求もひとつにまとまるのも、管理する側としては助かります。
1人あたりの課金だと、どうしても使わせる人を絞る方向に働きます。しかし配られなかった所員がAIを使わなくなるわけではなく、個人のアカウントに流れることがあります。全員に配れるかどうかは、費用の問題であると同時に管理の問題でもあるでしょう。
たつみ税理士事務所(東京都板橋区)/代表社員 辰巳 景祐 様
学習に使わせない設定が全モデル一律適用されるので、所員一人ひとりに設定を任せずに済み、安心です。誰がどのAIをどう使ったかも管理画面で追える機能は、通常のLLMをビジネス契約しただけでは得られない、この上ない安心材料になっています。シャドーAI問題を根本から解決してくれる頼もしい存在です。
学習に使わせない設定は、個人向けプランでも利用者が自分で行えます。ただし、所員全員が漏れなく設定しているかを事務所が確かめるのは難しいのが実情でしょう。設定を事務所側で一律にかけられるかどうかで、管理の負担は大きく変わってきます。
3つの声に共通していること
3事務所とも、AIが賢いという話をしていません。共通しているのは、事務所として管理できる状態を作れたことです。誰がどのAIを使えるか、設定は統一されているか、使った記録は残るか、という点になります。顧問先の情報を扱う以上、ここが導入判断の中心になっていることがわかります。以下の節では、この視点を前提に、背景、ツールの選び方、業務別の使いどころを整理していきます。
AI導入が求められる背景(人手不足・繁忙期)
会計事務所でAIが求められる背景は、期限の決まった業務が特定の時期に集中し、その時期に合わせて人を増やすのが難しいことにあります。加えて、顧問先の多くは生成AIを使うかどうかを個人の判断に任せており、事務所だけが無関係ではいられなくなっています。
期限が法律で決まっている繁忙期
所得税の確定申告は、原則としてその年の翌年2月16日から3月15日までが申告の期間で、申告と納付の期限は原則3月15日です(国税庁タックスアンサー No.2020)。年末調整から確定申告、3月決算法人の申告へと続く時期は、期限を動かせない仕事が重なってしまいます。
この時期に増える作業のうち、税務判断そのものではない部分、たとえば資料の催促メール、顧問先ごとの案内文、面談記録の整理、所内の確認事項のまとめなどは、生成AIで下書きを作れる領域になります。繁忙期に人を増やすのではなく、1人あたりが文章づくりに使う時間を減らすという発想がAI導入の出発点です。
採用と育成に時間がかかる
税務の実務は、経験の浅い所員が一人で判断できるようになるまで時間がかかります。ベテランが持つ判断の型や文章の書き方は、多くの事務所で個人の頭の中にあり、忙しい時期ほど教える時間が取れません。
生成AIは、このベテランの型を指示文として形にし、所内で共有する手段にもなります。ペンデル税理士法人の戸島様が効率化の理由に挙げていたのも、指示文の共有でした。人手不足への対応は、作業を速くするだけでなく、教える負担を軽くするという面でも考えると効果が見えやすくなります。
2024年末の調査で、会計事務所の利用経験は約4割
株式会社ミロク情報サービスが2024年11月15日〜12月1日に実施した「生成AIに関する実態調査 第2弾」(インターネット調査・会計事務所の職員を含む210名と企業・事業主949名の計1,159名)では、生成AIを使ったことがある会計事務所の回答者は39%で、企業・事業主の55%を下回りました。
同じ調査で、会計事務所が生成AIの利活用で取り組むべき課題として挙げた項目は「データのプライバシーとセキュリティの確保」が55%、困っていることは「どのような生成AIを使用したらいいかわからない」が50%、「生成AIが業務でどのように活用できるか不明」が48%でした。使いたい気持ちはあっても、安全面とツール選び、使いどころの3つで止まっているという構図が見えてきます。
出典:株式会社ミロク情報サービス「会計事務所白書 生成AIに関する実態調査 第2弾」の解説記事(2026年9月28日確認)。調査を実施したのは会計ソフトの提供会社です。
中小企業の6割超は、使うかどうかを個人の判断に任せている
商工組合中央金庫が取引先の中小企業を対象に実施した「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」(2026年3月31日公表・有効回答数3,892社)では、生成AIの導入状況として「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」が64.9%で、会社での使用を禁止・制限しているのは1.4%でした。
顧問先の経理担当者が、決算資料や給与の情報を個人のアカウントのAIに入れている可能性は、事務所としても意識しておく必要があるでしょう。同じことは所内でも起こり得ます。会社として導入していない状態は、使われていない状態とは限らないのです。
出典:商工組合中央金庫 マーケティング部「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」(調査期間2025年12月19日〜2026年1月16日・2026年9月28日確認)
税理士法もICTの活用に努めることを定めている
税理士法第2条の3は、税理士が業務を行うに当たって、電磁的方法の積極的な利用その他の取組を通じて、納税義務者の利便の向上と業務の改善進歩を図るよう努めるものと定めています。生成AIの利用を直接求める条文ではありませんが、情報通信の技術を業務の改善に使うこと自体は、法律が税理士に求めている方向と一致します。
AIツールの種類と選び方(生成AIチャット/AI-OCR/文書検索AI)
会計事務所で使われるAIツールは、記帳を自動化するAI-OCRなどの専用ツール、汎用の生成AIチャット、読ませた資料を根拠に答える文書検索AIの3種類に分けて考えると、何を入れるべきかが整理できます。この3つは置き換えの関係ではなく、担当する作業が違います。
| 種類 | 主な中身 | 得意な作業 | 向かない作業 |
|---|---|---|---|
| AI-OCR・記帳の専用ツール | 会計ソフトの自動仕訳、AI-OCR、スキャナー連携、銀行・カードの明細連携 | 大量の証憑と明細の取り込み、仕訳データの起票 | 顧問先への説明文、論点の整理 |
| 生成AIチャット | ChatGPT、Claude、Gemini、Perplexityなど | 文章の下書き、要約、判断の壁打ち、調べものの方向づけ、Excelの関数づくり | 毎月数千件の証憑の継続処理、会計ソフトへの自動連携 |
| 文書検索AI | NotebookLMのように読ませた資料だけを根拠に答えるAI、会計ソフトや業務ソフトに組み込まれたAI機能、社内の資料を読ませて回答させる機能 | 決まった範囲の資料を前提にした回答、根拠の箇所の提示 | 読ませていない資料に関わる質問、事務所独自の文章づくり |
文書検索AIは、生成AIチャットとは別の道具というより、答えの根拠を読ませた資料に絞る使い方と考えるとわかりやすくなります。税法の調べもののように、根拠が決まっている業務ほど相性が良いでしょう。
選ぶときに確認したい5つの基準
汎用の生成AIを選ぶ場合は、機能の多さや回答の賢さより先に、事務所として管理できるかを確かめましょう。導入した3事務所の声とも重なる基準です。
- 入力データを学習に使わない扱いが、契約で標準になっているか個人向けプランは利用者が自分で設定を切り替える形が多く、法人向けプランは既定で学習に使わないと明記しているものがあります
- 所員全員に配れる料金体系か一部の所員だけに配ると、残りの所員が個人のアカウントに流れやすくなります。費用の考え方は後の節で扱います
- 管理者がアカウントの発行・停止と利用状況を確認できるか入退所のたびに作業が発生します。退所した所員のアカウントが残らない運用ができるかを見ます
- データの保管場所と通り道を説明できるか顧問先に説明を求められたときに、どこに保管されるかを答えられる状態にします
- 指示文や手順を所内で共有できるかうまくいった使い方を個人にとどめず、事務所の型として配れるかどうかで定着が変わります
法人向けの生成AIサービスの料金や管理機能の違いは、法人向け生成AI 38サービスの料金比較で一覧にしています。導入前に確認する項目は生成AIのセキュリティチェックリストも参考になります。
管理できるかを機能ごとに確かめるより、使う環境を事務所で1つにまとめる方法があります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
業務別の活用事例と使いどころ
生成AIが会計事務所で効くのは、正解が1つに決まらない文章づくりと、判断の前の整理です。ここでは業務ごとに、どこまでをAIに任せ、どこから人が引き取るかを整理しています。具体的な指示文は税理士事務所のAIプロンプト集に、税理士業務全体での使い方は税理士のAI活用ガイドにまとめました。
記帳・仕訳入力の自動化(AI-OCR)
記帳と仕訳入力の自動化は、会計ソフトの自動仕訳とAI-OCRが中心で、汎用の生成AIは補助に回ります。大きな削減時間が出ているのは、証憑の取り込みから仕訳データの連携までを仕組みにした事務所です。
生成AIでも、領収書や請求書の画像を読み込ませて、日付・金額・取引先・内容を書き出させることは出来ます。ただし1回に扱える枚数やファイルの大きさには各サービスの上限があり、会計ソフトへの自動連携もありません。数枚から数十枚を都度確認する使い方にとどまると考えてください。
| 向いている場面 | 向いていない場面 |
|---|---|
| 手書きや読みにくい証憑の記載内容を確認する | 毎月数百枚の証憑を機械的に処理する |
| AI-OCRが読み取れなかった数枚を補う | 会計ソフトへ自動で取り込ませる |
| 顧問先から届いた資料の一覧表を作る | 過去の自社仕訳パターンを学習させて自動で起票する |
※ 証憑には取引先の名称や個人名が含まれます。読み込ませるのは、学習に使わない扱いを契約と設定で確認できた環境に限ってください。
勘定科目の判断の壁打ち
摘要だけでは勘定科目や消費税区分を決めきれない取引は、どの事務所にもあります。件数は多くなくても、1件あたりに時間がかかり、しかも作業が中断するのがこの作業の負担です。
生成AIには、結論を出させるのではなく、判断の材料を並べさせる使い方が合っています。取引の内容を伝えたうえで、考えられる科目の候補、それぞれを選ぶ場合の根拠、確認すべき事実(契約の内容、使用目的、金額の基準など)を挙げさせる形になります。経験の浅い所員が上司に相談する前の当たりをつける用途にも使えます。
注意したいのは、もっともらしい誤りが返ってくることです。生成AIは事実と異なる内容を自然な文章で出力することがあり、これはハルシネーションと呼ばれます。科目や区分の最終判断は、条文・通達・事務所の過去の処理と照らして人が行ってください。
月次報告書・報告コメントの自動生成と確認
月次報告のコメントは、生成AIの効果が安定して出やすい業務です。数字は会計ソフトから出ますが、前月比の増減、季節要因、注意しておきたい点をどう説明するかは人の仕事で、毎月似た文章を書いている事務所は少なくありません。
会計ソフトで確定した数値と、事務所の書き方の型(見出し、文字数、敬語の水準、触れてはいけない表現)を渡せば、たたき台は短時間で出てきます。ゼロから書くのと、出てきた文章を直すのとでは、かかる時間も心理的な負担も違ってくるでしょう。担当者ごとに報告の厚みがばらついている事務所では、指示文を統一することで一定の水準にそろえやすくなります。
ここで言う自動生成は、報告書をAIが完成させるという意味ではありません。会計ソフトの試算表をもとに、コメント欄の下書きまでをAIが作り、担当者が顧問先の事情を足して仕上げる分担になります。
※ 数値の計算そのものをAIに任せるのは避けてください。生成AIは計算を誤ることがあります。会計ソフトやExcelで確定した数値を渡し、解釈と文章化だけを任せます。
顧問先への経営提案資料の作成
経営提案資料では、決算の数字から読み取れる論点を箇条書きにさせ、どの論点を顧問先に伝えるかを担当者が選ぶ使い方が現実的です。売上総利益率の変化、固定費の増え方、資金繰りの山谷といった論点の候補を出させ、顧問先の事業計画や面談で聞いた話と照らして絞り込みます。
資料の構成案や、図にする項目の候補を出させる使い方も出来ます。一方で、顧問先の業界の動向や補助金の要件など、外部の事実を含む部分は、AIの出力をそのまま載せず、公的な資料で確かめてから書き込んでください。提案の中身は、顧問先の状況を知っている担当者にしか決められない部分になります。
顧問先向けメール・案内文の下書き
顧問先とのやり取りでは、資料の催促、制度改正の案内、質問への一次回答など、定型に近い文章が繰り返し発生します。生成AIに事務所の言い回しの型を渡して下書きを作らせると、丁寧さの水準を所内でそろえられます。
質問への回答メールは、AIが作るのは文面まで、回答の中身は担当者が決めるという分担にしましょう。たとえば、担当者が結論と根拠を箇条書きで入力し、AIにそれを顧問先向けのやさしい文章に書き直させる流れです。AIに質問をそのまま渡して回答を作らせると、税務の判断をAIに任せたことになってしまいます。
電話や面談で受けた質問を、所内で共有するための記録文に整える用途にも使えます。顧問先の名称や個人名は、所内ルールに沿って伏せるか、学習に使わない扱いを確認した環境だけで扱ってください。
税法・通達の調査効率化(RAG・NotebookLM)
税法・通達の調べものは、AIに答えを出させるより、読ませた資料の中から根拠の箇所を探させる使い方のほうが確かめやすくなります。この使い方はRAG(検索拡張生成)と呼ばれ、AIが回答を作る前に、指定した資料から関係する箇所を探し、その箇所をもとに答える仕組みを指します。
代表的な道具が、Googleの文書検索AIであるGemini Notebook(2026年7月にNotebookLMから改称)です。読み込ませた資料(ソース)に基づいて答え、回答にはインラインで引用が付くとヘルプで説明されています。国税庁の公開資料を読ませる手順は、次のとおりです。
- 調べるテーマを1つに決め、国税庁の法令解釈通達、質疑応答事例、タックスアンサーと、e-Gov法令検索の条文から、関係する資料を選んで1つのノートブックに読み込ませる
- 取引の事実関係を一般化して質問し、回答の引用箇所から元の資料の該当部分を開く
- 示された条文・通達番号・適用時期を、国税庁とe-Govの原文ページで確かめる
- 確かめた根拠の条文番号と通達番号を、判断の記録として所内に残す
ヘルプの記載では、無料ユーザーは最大50個のソースを入れられ、1つのソースは最大50万語、アップロードできるファイルは200MBまでとされています。ウェブページのURLを読ませた場合は本文のテキストだけが取り込まれ、ペイウォールのあるページには対応していません。テーマごとにノートブックを分け、資料を絞って読ませるほうが、根拠の箇所も探しやすくなるでしょう。
使うときの注意は3つあります。1つめは、読ませていない資料に関わる論点は答えの外に落ちることです。2つめは、改正前と改正後の資料が混ざると、古い取扱いを根拠に答えることがある点で、資料の版と適用時期をそろえて読ませる必要があります。3つめは、引用が付いていても、条文と通達番号は必ず国税庁とe-Govの原文で確かめることです。
顧問先の資料は、個人のGoogleアカウントのノートブックに入れないでください。ヘルプでは、データはフィードバックを提供しない限りトレーニングに使われないとしたうえで、フィードバックを送った場合はGoogleが質問やアップロード、回答を含むやり取りの全体を確認することがある、という説明です。一方、対象エディションのWorkspaceアカウントでは、アップロードしたファイルやチャット、モデルの出力を人間のレビュアーが確認することも、生成AIモデルの改善に使うこともないと書き分けられています。公開資料だけで作る調べもの用のノートブックと、顧問先の情報を扱う事務所の契約環境を分けて運用すると、線引きが所員にも伝わりやすくなります。
出典のリンクを付けるAIを併用すると、改正の当たりをつける段階を速められます。たとえばPerplexityは、回答に出典へのリンクを付けると公式ヘルプで説明しており、別のヘルプ記事では、リンク先で情報を確かめることが重要だとも書いています。改正の時期や適用開始日はAIの学習時点より新しい情報が関わるため、どの道具を使っても国税庁や法令の原文で確かめてください。
出典:Google「ノートブックの新しいソースを追加または検索する」「Gemini Notebook の詳細」「仕事用または学校用の Google アカウントで Gemini Notebook を使用する」(いずれも2026年9月28日確認)。Perplexityの記載は2026年9月16日に公式ヘルプで確認した内容です。ソース数などの上限はプランにより異なり、変更されることがあります。
面談議事録・面談記録の効率化
顧問先との面談記録は、後回しになりがちな作業です。記憶が新しいうちに書けばよいとわかっていても、次の予定が入っていると手が回りません。
メモの断片を渡して、決定事項、宿題、次回までの確認事項、顧問先から預かる資料の一覧に整理させる使い方が効果的です。出力の形式を事務所で決めておくと、担当者が変わっても記録の粒度がそろいます。
録音を文字に起こして要約させる場合は、事前に顧問先の了承を得ることと、録音データを扱ってよい環境かどうかの確認が先になります。面談の内容は、決算の見通しや家族の事情など機密性の高い情報を含むものです。要約は元の発言と食い違うことがあるので、重要な決定事項は録音やメモの原文と照らしてから記録に残してください。
所内の事務作業(Excel・マニュアル・文章の確認)
目立ちませんが、積み上げると時間を取られているのが所内の事務作業です。
- Excelの関数やマクロを作る、エラーの原因を聞く
- 長い資料から必要な箇所を探す、要点をまとめる
- 文章の誤字脱字と表現を確認する
- 所内のマニュアルや手順書の下書きを作る
いずれも顧問先への税務判断に直結しないため、誤りの影響が比較的小さく、AIに慣れていない所員が最初に触る業務に向いています。いきなり税務の判断に使わせるより、こうした作業から始めるほうが所内に定着しやすくなるでしょう。マクロを使う場合は、元のデータを複製してから試し、処理後の件数や合計を元データと照合する手順を入れてください。
どのAIをどの業務に使うか
汎用の生成AIは、サービスごとに得意な作業が違うため、業務ごとに使い分けると、それぞれの得意な作業を生かしやすくなります。1種類しか使えない環境では、そのAIが苦手な業務で無理が出てしまいます。
次の表は一般に言われる傾向で、各社は機能を随時更新しています。
| AI | 特徴 | 事務所で向いている業務 |
|---|---|---|
| ChatGPT | 対応する作業の範囲が広い | メールの下書き、Excelの関数づくり、アイデア出し |
| Claude | 長い文章の読解と、落ち着いた文章表現 | 契約書や長い資料の論点整理、顧問先向け説明文 |
| Gemini | 画像・音声・PDFなど文字以外の資料の読み込み | 証憑や資料の読み取り、面談の録音の整理 |
| Perplexity | Webを検索し、回答に出典のリンクを付ける | 改正内容の当たりをつける、事実関係の裏取り |
実務では、これらをつなげて使う場面が多くなります。たとえば改正内容を顧問先に案内する場合、Perplexityで改正の内容と出典の当たりをつけ、示された国税庁の資料や条文に自分で当たって裏を取り、Claudeで顧問先向けの案内文に書き換える、という流れです。
ただし4つのサービスを個別に法人契約すると、契約と請求が4件になり、学習に使わない設定の確認、所員の追加と削除、利用状況の把握もサービスごとに分かれてしまいます。合同会計の細谷様が、契約も請求もひとつにまとまる点を管理する側として評価していたのも、この負担に通じる点です。使い分けの考え方は4つのAIの使い分けと複数のAIを併用するマルチAIで詳しく解説しています。
AIで代替される業務と税理士に残る役割の違い
AIで代替されるのは、書く・探す・まとめるといった作業の時間で、判断して責任を負う役割は税理士に残ります。これは技術の限界の話であると同時に、税理士法の構造の話でもあります。
| AIで時間が減る作業 | 税理士・所員に残る役割 |
|---|---|
| 証憑の読み取りと仕訳データの起票(専用ツール) | 読み取り結果と仕訳の確認、例外取引の判断 |
| 月次報告コメント・経営提案資料のたたき台 | どの論点を伝えるかの選択、顧問先の状況に合わせた助言 |
| 顧問先へのメール・案内文の下書き | 回答の中身の決定、言いにくいことを伝える判断 |
| 論点の洗い出し、読ませた資料からの根拠の提示 | 原文での確認と、事実関係に当てはめた税務判断 |
| 面談メモの整理、議事録の作成 | 顧問先との信頼関係づくり、次の提案の組み立て |
| Excel作業、マニュアルの下書き | 業務の手順そのものの設計と、所員への指導 |
税理士法第2条は、税務代理、税務書類の作成、税務相談を税理士の業務と定め、第52条は税理士または税理士法人でない者が税理士業務を行ってはならないとしています。第1条は、税理士が税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、納税義務者の信頼にこたえ、納税義務の適正な実現を図ることを税理士の使命とする条文です。AIが下書きを作っても、申告の内容を決めて責任を負うのは税理士になります。
時間が減った分をどこに使うかも、導入前に考えておきたい点です。顧問先との面談の回数を増やす、経営の相談に時間を割く、若手の指導に回す、といった使い道が考えられるでしょう。減った時間の使い道が決まっていないと、単に作業量が増えるだけで終わりやすくなってしまいます。
導入時の注意点(セキュリティ対策・最終確認は人が行う)
導入時に押さえる注意点は、AIの出力を税理士が最終確認する仕組みと、顧問先の情報を事務所の管理が及ぶ環境だけで扱うセキュリティ対策の2つです。どちらも所員個人の心がけに任せず、所内ルールとして明文化しておくことが出発点になります。
AIの出力は税理士が最終確認する
AIの出力は下書きとして扱い、顧問先や税務署に出る前に必ず人が確認するという線引きを、所内ルールにしましょう。AIが間違えたという説明は、顧問先に対しても税務当局に対しても通りません。
税理士法第41条の2は、税理士が使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けるところのないよう監督しなければならないと定めています。所員がAIで作った下書きも、この監督の範囲の中で確認する仕組みを作っておくことが大切です。確認の場面で見る点は、次のようなチェックリストにしておくと漏れが減ります。
- 数字は会計ソフト・元資料と一致しているかAIが転記や計算で数字を変えていないか、合計と内訳が合っているかを照合します
- 条文・通達・日付は原文で確認したか条番号、改正の適用開始日、期限は、法令の原文や国税庁の資料で確かめます
- 顧問先の事実関係に当てはまっているか一般論としては正しくても、その顧問先の契約や状況には当てはまらないことがあります
- 断定しすぎた表現、約束に聞こえる表現がないか税額や結果を保証するような言い回しは、顧問先に誤解を与えます
- 入力してはいけない情報を入れていないか所内ルールで定めた入力禁止の情報が含まれていないかを、作成者自身が確認します
確認を担う人を決めておくことも重要です。顧問先に出す文書は作成者以外の1名が確認し、税務判断を含む回答は税理士が確認する、というように、文書の種類ごとに確認者を決めておくと運用がぶれにくくなります。
税理士法38条・54条と生成AIへの入力
税理士法第38条は、税理士は正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用してはならないと定め、税理士でなくなった後も同様としています。第54条は、税理士や税理士法人の使用人その他の従業者にも同じ趣旨の義務を課すものです。第59条では、これらの規定に違反した場合の罰則(2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。告訴がなければ公訴を提起できない)が定められています。弁護士・社労士・行政書士などほかの士業の守秘義務の条文は、士業のAI活用|守秘義務の条文と、事務所で決める環境・ルールで並べて比べることが出来ます。
条文は生成AIに触れていません。生成AIに顧問先の情報を入力すること自体が直ちに違反になると書かれているわけではありませんが、入力した情報がどこに送られ、どう扱われるのかを把握しないまま入力する状態は、秘密を守る義務との関係で説明がつきにくくなってしまいます。所員にも守秘義務があるため、所員個人の判断に任せるのではなく、事務所として使ってよい環境を決めることが対策の出発点です。
出典:e-Gov法令検索「税理士法(昭和26年法律第237号)」第1条・第2条・第2条の3・第38条・第41条の2・第52条・第54条・第59条(2026年9月28日確認)。個別の事案が守秘義務に反するかどうかの判断は、所属の税理士会や専門家にご確認ください。
個人情報保護委員会の注意喚起
個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています。個人情報取扱事業者に向けて挙げているのは、次の2点です。
- 個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
- あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で取り扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反する可能性があるため、サービスを提供する事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること
会計事務所は、顧問先の役員や従業員の給与、扶養親族、個人の確定申告の内容など、個人データを多く扱います。この注意喚起は生成AIの利用を禁止する文書ではありませんが、学習に使わないことを確認した環境で、必要な範囲に限って入力することが前提になると読めます。
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日・2026年9月28日に別添資料で確認)
個人アカウントと学習設定の違い
個人向けのプランと法人向けのプランでは、入力データを学習に使うかどうかの既定値が違うことがあります。
- ChatGPTは、料金ページの比較表で、無料版から個人向けの有料プランまでコンテンツをモデルの学習に使用する設定を「無効化可能」とし、法人向けのBusinessには「デフォルトではビジネスデータを学習に使用しません」と記載しています
- Claudeは、個人向けのFree・Pro・Maxのモデルのトレーニングを「オプトアウト」、Teamを「デフォルトでコンテンツをモデルのトレーニングに使用しない」と記載しています
- Perplexityは公式ヘルプで、Free・Pro・Maxの利用者はAIデータ保持が既定で有効になっており、設定でオフにできること、オフにする前に集めたデータには適用されないことを説明しています
※ 各社の料金ページと公式ヘルプの記載を2026年9月16日〜17日に確認した内容です。設定の名称や既定値は変更されることがあるため、導入時に各社の公式ページでご確認ください。
個人向けプランでも設定で学習を止めることは出来ますが、事務所から見ると、所員全員が漏れなく設定しているか、設定を途中で戻していないかを確かめる手段がないことが問題になります。たつみ税理士事務所の辰巳様が、設定を所員一人ひとりに任せずに済む点を挙げていたのは、この問題でした。事務所の管理が及ばない個人のAI利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、実態と対策は野良AI(シャドーAI)とはで解説しています。
所内の利用ルールに入れる項目
利用ルールは長い規程より、A4一枚で所員が迷わない内容のほうが守られます。最低限、次の項目を決めておきましょう。
- 使ってよいAIとアカウント事務所が契約した環境だけを業務に使い、個人のアカウントは業務に使わないと明記します
- 入力してはいけない情報マイナンバー、顧問先の個人を特定できる情報の扱い、未公表の決算情報などを具体的に書きます
- 伏せて入力する情報社名をA社に置き換える、金額は必要な範囲の集計値にする、といった置き換えの方法を決めます
- 確認者と確認の手順顧問先や税務署に出る文書の確認者を、文書の種類ごとに決めます
- 誤って入力したときの連絡先報告した人を責めない一文を入れておくと、早い段階で報告が上がります
ルールのひな形と作り方は生成AIガイドラインの作り方で紹介しています。ルールを作っても、所員が使える環境が個人のアカウントしかなければ、守ることは難しくなってしまいます。
小さく始める導入ステップ
導入は、使う業務を小さく絞り、使う人は絞らずに始めるのが進めやすい形です。使う人を絞ると、配られなかった所員が個人のアカウントに流れる問題が残ってしまいます。
- 所内で個人のAIがすでに使われていないか、どの業務で使われているかを聞き取る。禁止を前提にした調査にすると本当の答えが出ないので、使い方を知りたいという聞き方にする
- 前の節の項目で、使ってよい環境と入力してよい情報を決める
- 所内の事務作業や月次報告のコメントなど、誤りの影響が小さく毎月発生する業務から、最初の1つか2つを選ぶ
- その業務用の指示文を用意し、この業務にはこの指示文を使う、という形で全員に配る
- 冒頭で紹介した測り方で、確認と修正の時間を含めて導入前後の時間を記録する
- うまくいった指示文を共有し、顧問先へのメール、面談記録、調べものへと順に広げる。税務判断に近い業務ほど確認の手順を厚くする
繁忙期の真っただ中に始めると、試す余裕がなく定着しにくくなります。確定申告が終わった後や決算の山が落ち着いた時期に始め、次の繁忙期までに所内の型を作っておくことを目標にしてみてください。
所員への研修と定着の進め方
全所員に配ったAIの使い方がそろうかどうかは、研修の組み立てで大きく変わってきます。日本税理士会連合会のデジタル・システム委員会は、2026年9月に「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン」(Ver1.0)を策定し、日税連が9月30日に会員向けのお知らせで案内しました。本文を読めるのは会員の税理士だけになります。本文を読んだ税理士の解説動画(荒井悠輔税理士・2026年10月2日公開、私見を含むと本人が明言)では、機密情報を扱う条件の1つにルールと教育による管理が挙げられ、荒井税理士は研修は年2回以上、確認と見直しは少なくとも年1回を目安に挙げています。
公表されている研修の取り組み
会計事務所どうしで学ぶ場もあります。株式会社エフアンドエムは2026年2月26日のニュースで、同社の会計事務所向けAI研究会の会員事務所数が2026年1月に700事務所を突破したと発表しました(株式会社エフアンドエム ニュース)。参加事務所からの報告として、記帳・仕訳業務の作業時間を月20時間以上削減、申告・資料作成業務を従来の半分以下に短縮、顧問先向け提案資料の作成時間を約75%削減、といった例が挙げられています。いずれも同社が紹介した会員事務所の報告で、第三者が検証した数字ではない点は押さえておきたいところです。
所内研修は3回に分けると組み立てやすい
所内で行う場合は、1回で全部を教えようとせず、使い始めの前後に分けると定着しやすくなります。
- 1回目は、ルールと環境の説明にあてる。使ってよいAI、入力してはいけない情報、確認者を、導入時の注意点の節で決めた所内ルールに沿って伝え、マイナンバーは入れない、社名はA社に置き換える、といった具体例を必ず添える
- 2回目は、最初に選んだ業務で全員が手を動かす。月次報告のコメントなら、配った指示文で下書きを出し、会計ソフトの数字と照らし合わせるところまでを1セットにする
- 3回目は、1〜2か月使ったあとに持ち寄る。時間が減った使い方と、間違いが出た場面を共有し、よかった指示文は所内の型として配り直す
間違いを警戒して慎重な所員ほど使わなくなりがちですが、どこまで任せてよいかを研修で先に示すと和らぎます。反対に、自己流で使い込んでいる所員にとっては、確認の手順をそろえる場になるはずです。外部研修の中身と費用、助成金の考え方は会計事務所のAI研修|職員に教える中身と時間割・費用で紹介していますので、所内研修と組み合わせるときの参考にしてみてください。
うまくいかない事務所に共通する3つのパターン
AIの導入がうまく回らない事務所には、配り方、使い方の任せ方、効果の測り方の3つにつまずきが見られます。導入事例は成功例ばかりが並びますが、同じ道具でも運用で結果が変わってきます。
1. 一部の人にだけ配ってしまう
費用を抑えるために、まず数名で試すという判断はよくあります。ところがこれをすると、配られなかった所員が個人のアカウントを使い続けることがあるのです。事務所として管理できていない利用が残るため、情報漏洩のリスクは減りません。商工組合中央金庫の調査で、会社として導入せず個人の判断に任せている中小企業が64.9%だったことを踏まえると、所内でも同じことが起きていないか、確かめておく必要があるでしょう。
2. 使い方を各自に任せてしまう
ツールを配っただけでは使われません。会計事務所では、間違った答えが出ることへの警戒が強く、慎重な人ほど使わなくなる傾向があります。一方で、使う人は自己流で税務判断に近い使い方まで広げてしまうことがあり、所内で使い方に大きな差が出てしまいます。最初に使う業務を決め、その業務用の指示文と確認の手順をセットで配ることで、この差は小さくなります。
3. 効果を測る前提を決めていない
導入前に何がどう変わったら成功とするのかを決めていないと、続けるべきかどうかを判断できません。時間を測るのか、担当者の負担感で見るのか、顧問先からの反応で見るのかは、厳密でなくてよいので導入前に決めておきましょう。導入前の時間を記録していないと、後から比べる材料がなくなってしまいます。
顧問先への説明の仕方と文例
顧問先への説明では、学習に使われないこと、データの保管場所、最終判断は人が行うことの3点を、聞かれる前に伝えられる状態にしておきます。顧問先の資料をAIで扱うことに不安を持つ顧問先もあり、曖昧なまま使い始めると後から問題になりかねません。
説明しておきたい3点
| 説明する内容 | なぜ必要か |
|---|---|
| 入力した情報が学習に使われないこと | 顧問先が気にしやすい点です。設定で防いでいるのか、契約で定められているのかを説明できるようにします |
| データがどこに保管されるか | 国内か海外かは、顧問先によっては契約上の論点になります。利用するサービスの公式情報で確認しておきます |
| 最終判断は必ず人が行うこと | AIが申告内容を決めているわけではないと伝えます。実務の事実であると同時に、顧問先の安心にもつながります |
顧問先への案内の文例
事務所だよりや契約更新の案内に添える場合の文例です。事務所の実際の運用に合わせて書き換えてみてください。
【業務における生成AIの利用について】
当事務所では、業務の品質と対応の速さを高めるため、文書の下書きや資料の整理に生成AIを利用しています。利用にあたっては、次の点を守ります。
1. 事務所が契約し、入力した情報をAIの学習に使用しない扱いを確認したサービスだけを利用します。所員が個人のアカウントで業務の情報を入力しないよう、所内の規程で定めています。
2. 入力する情報は業務に必要な範囲に限り、マイナンバーなど所内の規程で定めた情報は入力しません。
3. AIが作成した内容は下書きとして扱い、申告書類やご報告の内容は、必ず税理士が確認したうえで確定します。
生成AIの利用についてご不明な点や、ご要望がございましたら、担当者までお知らせください。
顧問先との契約書や覚書に、情報の取扱いや再委託、第三者提供に関する条項がある場合は、AIの利用が既存の条項に抵触しないかを先に確認しておきます。条項によっては、案内に加えて同意を得る形が適切な場合もあるでしょう。
費用の考え方(1人あたり課金型と組織定額型)
法人向けの生成AIの料金は、使う人の数だけ費用がかかる1人あたり課金型と、事務所単位で月額が決まる組織定額型に分かれ、どちらが合うかは所員数と、全員に配るかどうかで変わります。
- 1人あたり課金型は、アカウントの数だけ費用がかかります。少人数で始めやすい一方、人数が増えるほど総額が増え、使わせる人を絞る方向に働きます
- 組織定額型は、事務所単位で月額が決まります。ユーザーごとの課金がなく、プランごとに人数の目安と、事務所全体で使える量の上限が決まっているものがあります
1人あたり課金型は、人数を掛ければ総額が出ます。例としてChatGPT Businessの標準シート(年額課金で1人月3,050円)で全所員に配った場合、30名の事務所なら年1,098,000円になります。
| 全員に配る所員数 | 月額 | 年額(月額×12か月) |
|---|---|---|
| 10名 | 30,500円 | 366,000円 |
| 30名 | 91,500円 | 1,098,000円 |
| 50名 | 152,500円 | 1,830,000円 |
※ ChatGPT Businessの金額は、2026年9月16日に日本から表示したOpenAIの公式料金ページの円表示(標準シート・年額課金の場合)で、税込か税別かの記載はありません。月額課金の場合は1人月3,850円と表示されています。米ドル表示の地域では標準シート月20ドル(年額課金)です。
組織定額型は、サービスごとに料金の組み立てが違うため、次の手順で1人あたり課金型の合計と同じ条件にそろえてから比べます。
- 候補のサービスについて、プランごとの月額、人数の目安、事務所全体で使える量の上限、初期費用を一覧にする
- 全所員に配る人数が、どのプランの人数の目安に入るかを確認する
- 1人あたり課金型の合計と、税込か税抜か、初期費用を含めるかをそろえ、1年目と2年目以降に分けて総額を出す
- それぞれの金額で、事務所全体がどれだけ使えるか(使える量の上限、上限に達したときの扱い)を並べる
金額だけで比べると判断を誤りやすく、次の3点もあわせて確かめてください。
- 1つのAIだけを使えるサービスと、複数のAIを使えるサービスでは、同じ月額でも中身が違います
- 組織定額型は事務所全体で使える量に上限があることが多く、見積もりでは金額とあわせて、その金額で事務所全体がどれだけ使えるかを確かめます
- 費用を理由に一部の所員だけに配ると、前述のとおり管理されない利用が残ります
各サービスの料金と使える量の違いは法人向け生成AIの料金比較、ChatGPTの法人プランの詳細はChatGPT法人プランの料金、導入後の費用の管理は生成AIのコスト管理で解説しています。
事務所で安全に使うための4つの条件
事務所で生成AIを安全に使い続けるには、学習させない設定の一律適用、利用の記録の管理、全所員への配布、複数のAIの使い分けの4つを、1つの管理の下でそろえる必要があります。どれか1つが欠けると、そこから個人のアカウントへの流出が始まりやすくなります。
- 学習させない設定を事務所側で一律にかけられるか所員一人ひとりの設定に頼らず、管理者の側で全員分をそろえられるかを見ます
- 誰がどのAIをどう使ったかを管理者が確かめられるか誤って入力したときの確認や、所内ルールの見直しに使える記録が残るかを確かめます
- 全所員に配っても費用の見通しが立つか配る人を費用で絞らずに済むかどうかが、野良AIを残さない条件になります
- 業務に合わせて複数のAIを同じ管理の下で使い分けられるかメールはこのAI、長い資料はこのAI、という使い分けを、契約や設定を増やさずに実現できるかを見ます
この4つは、実名で紹介した3事務所が評価していた点と重なっています。指示文の共有、全所員への配布、学習させない設定の一律適用、利用状況の把握は、どれも事務所として管理できる状態を形にしたものと言えます。候補のサービスを比べるときは、機能の一覧より先に、この4つを満たせるかを確かめてみてください。
事務所として管理できる生成AI環境を、全所員に
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityの4つのAIを1契約で使える法人向けの環境です。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、よく使う指示と手順をBOTにして所内限定で共有するカスタムプラス、自社資料を読み込ませて回答させる社内文書RAG、会議録音や動画の読み込みにも対応しています。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
資料をダウンロード UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
AIを入れれば記帳業務は自動化できますか?
AIの回答をそのまま申告に使ってよいですか?
税法・通達の調べものにNotebookLMを使ってもよいですか?
顧問先の情報を生成AIに入力しても税理士法上問題ありませんか?
まず何人で始めるのがよいですか?
AIを使っていることを顧問先に伝える必要はありますか?
所員がAIを使いこなせるか不安です
所員向けのAI研修は、どのくらいの頻度で行えばよいですか?
まとめ
会計事務所のAI活用事例を読むときは、削減時間の数字が専用ツールで出たものか、汎用の生成AIで出たものかを分けることが出発点です。証憑の大量処理は会計ソフトやAI-OCRの領域、月次報告のコメントや顧問先へのメール、判断の壁打ちは生成AIチャットの領域、税法・通達の調べものは公開資料を読ませる文書検索AIの領域と役割を分けると、自分の事務所に何が必要かがはっきりしてきます。
実名3事務所が評価していたのは、指示文の共有、全所員への配布、学習させない設定の一律適用といった、事務所として管理できる状態でした。税理士法38条・54条の守秘義務と個人情報保護委員会の注意喚起を踏まえて、使ってよい環境と入力してよい情報を決め、AIの出力は必ず税理士が確認する仕組みを作りましょう。そのうえで、業務は小さく絞り、人は絞らずに始めてみてください。
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