税理士事務所のAI活用事例。導入した3事務所の声・業務別の使いどころ・つまずく点

税理士事務所のAI活用事例を探すと、記帳の自動化や月次報告の効率化といった記事が並びます。ただし、そこに出てくる削減時間には、専用ツールでしか達成できないものと、ChatGPTのような汎用の生成AIだけで達成できるものが混在しています。この記事では出典を示しながらその違いを整理したうえで、実際にUPGEAR AIを導入している3つの事務所の声、業務別の使いどころ、そしてうまくいかない事務所に共通する点までをまとめます。

削減時間の事例には2種類あります

税理士事務所のAI活用事例を紹介する記事には、記帳時間を最大80%削減、丸一日の作業が20分にといった数字が並びます。これらを読むときに、まず区別しておきたいことがあります。

公表されている削減事例は、専用ツールによるものと、汎用の生成AIによるものの2つに分かれます。この違いを押さえないと、自分の事務所に何を入れれば同じことが起きるのかがわかりません。

専用ツールで達成されている事例

ある税理士法人では、事務所向けのクラウド業務基盤を導入したことで、外部に委託していた証憑のOCR処理が2か月で6割以上減ったと公表されています。月平均で約6,300件だったものが、導入から2か月後には947件まで下がったという内容です。

また、スタッフ18名で法人約200社と個人約500件を担当している会計事務所の例では、業務用スキャナとAI-OCRを入れたことで年間1,200時間の削減は確実だとしています。ただしこれは導入から3か月時点での見通しであり、実績の確定値ではありません。

クラウド会計ソフトを使っている事務所では、法人の決算申告にかかる時間が7〜8時間から約2時間になったという報告もあります。

出典:システム提供会社による発表(PR TIMES・2025年12月18日)/PFU社の事例記事・2022年6月freee株式会社の顧客事例。いずれもツールを提供する側が公表した内容です。事務所名は伏せています。

これらに共通しているのは、専用のハードウェアやソフトウェアがあって初めて成立する数字だという点です。ChatGPTやClaudeを契約しても、同じことは起きません。大量の証憑を継続的に取り込んで仕訳まで起票するには、会計ソフト側の仕組みが必要です。

汎用の生成AIで達成されている事例

一方で、ChatGPTのような汎用の生成AIだけで達成されている事例もあります。

ある税理士事務所では、ChatGPTにVBAのコードを書かせることで、6,000本の仕訳データを処理する作業が約50時間から約5分になったとしています。やったことは、特定の条件に当てはまる行を削除するコードを生成させただけです。

また別のコンサルティンググループでは、生成AIの解析結果を既存の業務フローに反映させる形で、グループ全体で月間およそ690時間、人件費に換算して月約206万円分の削減につながったと発表しています。

出典:月刊『税理』69巻5号(ぎょうせい)に掲載された各事務所の発表による。当社は同誌の原文を直接確認しておらず、別の税理士事務所による紹介記事を経由して把握した内容です。正確な文脈は原文をご確認ください。事務所名は伏せています。

前者の事例は、ChatGPTにコードを書かせただけで、特別なツールは使っていません。つまりChatGPTが使える環境さえあれば、どの事務所でも再現できる種類の効率化だということです。

UPGEAR AIはChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityをそのまま使えるプラットフォームです。したがって汎用の生成AIで達成されている効率化は、UPGEAR AIでも同じようにできます。逆に言えば、専用ツールでしか達成できない部分は、UPGEAR AIでもできません。この線引きは正直にお伝えしておきます。

公表されている削減事例は、専用ツールによるものと汎用の生成AIによるものの2種類に分かれる

数字を読むときの注意

もう一点、公表されている数字を自分の事務所に当てはめるときの注意です。

  • 測定条件が書かれていないものが多い:対象の件数、担当した人数、比較した期間。これらが示されていない削減率は、自社に当てはめて考えることができません
  • 見込み値と実績値が区別されていないことがある:導入直後の見通しをそのまま削減実績として紹介している記事もあります
  • 発表元がツールの提供者である場合が多い:導入した事務所自身の発表か、売る側の発表かで、数字の性格は変わります
  • 見出しと本文で数字が違うことがある:実際に、見出しでは丸一日から20分、本文では1営業日から30分と食い違っている記事がありました。引用する側の確認も必要です

なおミロク情報サービスが2024年11月から12月にかけて実施した調査では、会計事務所で生成AIの利用経験があるのは39%という結果が出ています(会計事務所210名を含む1,159名への調査)。裏を返せば、6割の事務所はまだ触れていないということです。

出典:株式会社ミロク情報サービス「生成AIに対する実態調査」(2024年11月15日〜12月1日実施、インターネット調査)

先行導入事務所の声(実名3事務所)

UPGEAR AIを導入いただいている3つの事務所から、掲載の許諾をいただいたうえでコメントを紹介します。いずれも規模も地域も異なる事務所です。

ペンデル税理士法人(東京都新宿区)/代表社員 戸島 潤吏 様

ChatGPTもClaudeもGeminiも1つの画面で切り替えて使えるので、所員の迷いがなくなりました。何より、所内の一人が作成したプロンプトで、有用なものは全体に共有できるので、事務所の圧倒的な効率化につながっています。また、モデルごとにデータがどこを通り、どこに保管されるのかが示されているため、この業務まではこのAIで、という線引きを事務所側で引けます。様々な情報を取り扱う以上、ここが決め手となりました。

効率化の理由として挙げられているのはプロンプトの共有です。AIを導入しても、うまい使い方が個人にとどまれば事務所の力にはなりません。所内で共有できる仕組みがあるかどうかが分かれ目になります。

株式会社合同会計(埼玉県川口市)/代表取締役社長 細谷 定之 様

ユーザー毎の課金ではないので、全所員に安全なAIを利用させられる点は大きいです。また、使わせるAIを管理者が選べるので、事務所の方針をそのまま設定に反映できますし、ChatGPTなど4つのAIを個別に契約する必要がなく、契約も請求もひとつにまとまるのも、管理する側としては助かります。

1人あたりの課金だと、どうしても使わせる人を絞る方向に働きます。しかし配られなかった所員がAIを使わなくなるわけではなく、多くの場合は個人のアカウントに流れます。全員に配れるかどうかは、費用の問題であると同時に管理の問題でもあります。

たつみ税理士事務所(東京都板橋区)/代表社員 辰巳 景祐 様

学習に使わせない設定が全モデル一律適用されるので、所員一人ひとりに設定を任せずに済み、安心です。誰がどのAIをどう使ったかも管理画面で追える機能は、通常のLLMをビジネス契約しただけでは得られない、この上ない安心材料になっています。シャドーAI問題を根本から解決してくれる頼もしい存在です。

学習に使わせない設定は、個人向けプランでも手動で行えます。ただし所員全員が漏れなく設定しているかを確認する手段がありません。設定を事務所側で一律にかけられるかどうかは、実務上の負担がまったく違います。

3つの声に共通していること

3事務所とも、AIが賢いという話をしていません。共通しているのは事務所として管理できる状態を作れたことです。誰がどのAIを使えるか、設定は統一されているか、使った記録は残るか。税理士事務所が顧問先の情報を扱う以上、ここが導入判断の中心になっているとわかります。

税理士事務所のAI活用は2つの層に分かれます

活用事例を読むときに混乱しやすいのが、性質の異なる2つの技術が同じAIという言葉でまとめられている点です。まずここを分けて考えると、自社に何が必要かがはっきりします。

税理士事務所のAI活用は、記帳を自動化する層と考える作業を支える層の2つに分かれる
図:記帳を自動化する層と、考える作業を支える層

この2つは置き換えの関係ではありません。毎月数百枚の証憑を処理して仕訳を起票するのは会計ソフトの仕事です。一方で、その過程で判断に迷った取引を確認したり、顧問先への説明文を作ったりするのは生成AIの領域です。

なお生成AIでも証憑の読み取り自体はできます。UPGEAR AIでは画像とPDFを全モデルで添付でき、記載内容から勘定科目や消費税区分を判定させることが可能です。ただし1ファイル4MBまで、1回のメッセージにつき最大10件までという制限があるため、大量処理には向きません。数枚から数十枚を都度確認する使い方になります。

業務別に見る、実際の使いどころ

ここからは、生成AIの層で実際に効く場面を業務別に整理します。いずれも人が最終確認をする前提です。各項目には、実際に使う場面での注意点も添えます。

生成AIの層で実際に効く6つの場面(業務別の使いどころ)

1. 判断に迷った取引の確認

摘要だけでは勘定科目や消費税区分が決めきれない取引は、どの事務所にもあります。過去の似た事例を思い出すか、担当者に確認するか、資料を当たるか。件数としては多くなくても、一件あたりに時間がかかり、しかも中断が発生するのがこの作業の負担です。

生成AIを使う場合、取引の説明文を入力するか、領収書や請求書の画像をそのまま読み込ませて確認できます。摘要だけでは判断できない取引を、証憑そのものを見せて聞けるのが利点です。

向いている場面向いていない場面
判断に迷った取引を、その場で調べる代わりに聞く毎月数百枚の証憑を機械的に処理する
経験の浅い担当者が、確認の当たりをつける会計ソフトへ自動で取り込ませる
過去に例のない取引の論点を洗い出す過去の自社仕訳パターンを学習させる

ただし汎用のAIに聞くだけでは精度が安定しません。参照する法令や通達の範囲が決まっていないと、もっともらしいけれど誤った区分が返ってくることがあります。これを避ける方法は、後述の税務に特化したAIの章で扱います。

2. 月次報告のコメント・顧問先への説明文

数字は会計ソフトから出ますが、それをどう説明するかは人の仕事です。前月比の増減、季節要因、注意しておきたい点。毎月同じような文章を書いている事務所は多いはずです。

ここは生成AIが最も安定して効く領域です。数値を渡し、事務所の書き方の型を指示すれば、たたき台が数分で出てきます。ゼロから書くのと、出てきた文章を直すのとでは、かかる時間も心理的な負担も違います。

効果が大きいのは、担当者ごとに文章の質がばらついている事務所です。ベテランが書く報告と、経験の浅い担当者が書く報告で内容の厚みが違うという状態は、指示文を統一することである程度そろえられます

※ 数値そのものをAIに計算させるのは避けてください。生成AIは計算を誤ることがあります。会計ソフトで確定した数値を渡し、その解釈と文章化だけを任せる使い方が安全です。

3. 税務の調べもの・論点の洗い出し

改正の内容を確認する、通達の位置づけを整理する、検討すべき論点を挙げる。この段階でAIを使うと、調べる方向を決めるまでの時間が短くなります。

使い方としては、いきなり結論を聞くのではなく、次のように段階を分けると精度が上がります。

  • この取引で検討すべき論点を挙げてください
  • それぞれについて、根拠となる条文や通達の当たりを教えてください
  • 実務上、判断が分かれやすいのはどこですか

そのうえで、示された条文や通達に必ず自分で当たります。生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあり、これはハルシネーションと呼ばれます。税務の判断でこれを見逃すと、顧問先に直接の影響が及びます。

調べもので使う場合は、出典を示すAIを選ぶと検証が速くなります。UPGEAR AIに含まれるPerplexityは、回答に参照元のURLを付けて返します。

4. 所内のナレッジ共有

ペンデル税理士法人の戸島様が効率化の理由として挙げていたのが、この指示文の共有でした。うまくいった指示文を所内で使い回せるかどうかは、事務所全体の効率に直結します。

たとえば次のようなものが、共有する価値のある指示文になります。

指示文の例共有する価値
月次報告コメントの型担当者による文章の質のばらつきを抑えられる
顧問先への資料催促メール言い回しの丁寧さを事務所で統一できる
面談メモから決定事項とタスクを抽出記録の粒度をそろえられる
改正内容を顧問先向けに書き換える専門用語をかみ砕く作業を型にできる

ベテランが持っている判断の型を指示文の形にして共有すれば、経験の浅い所員でも同じ水準の下書きが作れます。属人化していた仕事の一部を、事務所の資産に変えられます。

実際に使える指示文は、税理士事務所のAIプロンプト集に24本まとめています。いずれも書き換える場所を【 】で示した穴埋め形式です。

UPGEAR AIでは、作成した指示文を所内で共有する機能を用意しています。使用するAIモデルを固定しておけば、誰が使っても出力の水準が一定に保たれます。参考資料を添付して、その内容を前提に回答させることも可能です。

5. 面談記録・議事録の整理

顧問先との面談内容を記録に残す作業は、後回しになりがちです。記憶が新しいうちに書けばよいとわかっていても、次の予定が入っていると手が回りません。

メモの断片を渡して、決定事項・宿題・次回までの確認事項に整理させる使い方が有効です。出力の形式をあらかじめ指定しておくと、事務所内で記録の粒度がそろいます。

音声から起こす場合、UPGEAR AIではGemini(2.5 Pro/2.5 Flash)が音声・動画の読み込みに対応しています。ただし1ファイル15MBまでという制限があるため、長時間の録音は分割が必要です。

※ 顧問先との面談内容は機密性が高い情報です。録音や記録をAIに読み込ませる場合は、事務所の情報取扱規程と、顧問先との契約上の制約を先に確認してください。

6. 所内の事務作業

目立ちませんが、積み上げると時間を取られているのがこの領域です。

  • Excelの関数やマクロを作る
  • 長い資料から必要な箇所を探す
  • 文章の誤字脱字と表現の確認
  • 社内マニュアルや手順書の下書き

いずれも正解が一つに決まらない作業で、生成AIが得意とする領域です。税務の判断と違って誤りのリスクも小さいため、AIに慣れていない所員が最初に触る業務としても適しています。いきなり税務判断に使わせるより、こうした作業から始めるほうが定着しやすくなります。

税務に特化したAIで変わること

汎用の生成AIと、税務に特化したAIの違いは参照する情報の範囲が決まっているかどうかです。UPGEAR AIには税務特化の固定プロンプトをZEIプラスとして標準搭載しており、現在は次の5つを公開しています。

BOT主な用途
法人税相談BOT法人税の取扱いを調べる、論点を整理する
所得税・確定申告相談BOT所得税と確定申告に関する確認
消費税相談BOT消費税の取扱い、経過措置の確認
相続税・贈与税相談BOT相続税・贈与税の論点整理
勘定科目・消費税区分判定BOT取引内容や証憑の画像から勘定科目と消費税区分を判定

参照している資料の範囲は次のとおりです。汎用のAIと違い、何を見て答えているかが示されている点が実務上の差になります。

参照する資料範囲
タックスアンサー源泉所得税66項目/消費税114項目/法人税106項目
消費税法本則85条/附則・経過措置167件
電子帳簿保存法22件
基準日令和8年4月1日現在の法令等

使用するAIモデルはClaude Sonnet 4.6の国内リージョン版に固定されており、利用者が切り替えることはできません。回答の前提を一定に保つためです。またZEIプラスは最も安価なライトプラン(月額30,000円・税抜)を含むすべてのプランで利用でき、利用人数の制限もありません

現在は上記の範囲を参照していますが、より実務に近い判断を支えるため、国税庁が公開している基本通達、各税目の質疑応答事例、年末調整や確定申告の手引き、インボイス制度や電子帳簿保存法のQ&Aといった資料の整備を進めています。これらを参照するBOTを順次追加していく計画です。

※ ZEIプラスの回答は、公開情報を参照した判定支援の情報です。最終的な税務判断と申告内容の確定は、必ず有資格者による確認を経てから行ってください。参照している法令等には基準日があるため、改正の影響を受ける論点では最新の情報をご確認ください。追加の時期や提供範囲は変更となる場合があります。

どのAIをどの業務に使うか

AIには得意分野の違いがあります。同じ質問をしても、返ってくる答えの性格が変わります。1種類しか使えない環境では、その1つが苦手な業務では精度が上がりません。

税理士事務所の業務に当てはめると、おおむね次のような使い分けになります。

AI性格事務所で向いている業務
ChatGPT対応範囲が広く、迷ったときの基準点になるメール文の作成、Excelの関数作成、アイデア出し
Claude長い文章の読解と、丁寧な文章表現に強い契約書や長い資料の論点抽出、顧問先向け説明文の作成
Gemini画像・音声・動画・PDFを読み込める証憑や資料の読み取り、面談の録音からの整理
PerplexityWebを参照し、回答に出典のURLを付ける改正内容の確認、事実関係の裏取り

実務では、これらをつなげて使う場面が多くなります。たとえば改正内容を顧問先向けに案内する場合、次のような流れになります。

  • Perplexityで改正の内容と出典を確認する
  • 示された条文や公式資料に自分で当たって裏を取る
  • Claudeで顧問先向けの案内文に書き換える

1つのAIだけでこれをやろうとすると、どこかで無理が出ます。出典が示されないAIで裏取りをしようとしたり、長文が苦手なAIに資料を読ませたりすることになります。

複数のAIを使えること自体が目的ではありません。業務ごとに適したものを選べる状態にしておくと、結果として一つひとつの精度が上がるという話です。

個別に契約する場合との違い

4つのAIをそれぞれ法人契約することも可能です。ただしその場合、次のような負担が発生します。

項目個別に契約した場合
契約・請求4社それぞれと契約し、4件の請求を処理する
学習に使わせない設定4つのサービスそれぞれで設定を確認する
利用状況の把握サービスごとに管理画面が分かれる。横断して見る手段がない
所員の追加・削除入退所のたびに4か所で作業する

株式会社合同会計の細谷様が、契約も請求もひとつにまとまるのが管理する側としては助かると述べていたのは、この負担のことです。

うまくいかない事務所に共通する3つのパターン

導入事例の記事は成功例ばかりが並びますが、実際にはうまく回らない事務所もあります。当社が導入支援をするなかで見えてきた、つまずきやすい点を挙げます。

AI導入がうまくいかない税理士事務所に共通する3つのパターン

1. 一部の人にだけ配ってしまう

費用を抑えようとして、まず数名で試すという判断はよくあります。ところがこれをすると、配られなかった所員は個人のアカウントを使い続けます。事務所として管理できていない状態は変わらないため、情報漏洩のリスクは残ったままになります。

商工組合中央金庫の調査(2026年1月調査・同年3月公表)によれば、中小企業の64.9%が会社としては導入せず、使用は個人の判断に任せている状態にあります。禁止や制限をしているのはわずか1.4%です。所内でも同じことが起きていると考えたほうが実態に近いはずです。

2. 使い方を各自に任せてしまう

ツールを配っただけでは使われません。とくに税理士事務所では、間違った答えが出ることへの警戒が強く、慎重な人ほど使わなくなる傾向があります。

効果が出ている事務所は、最初に使う業務を1つか2つに絞り、その業務用の指示文を用意して全員に配っています。自由に使ってくださいという配り方が、いちばん定着しません。

3. 効果を測る前提を決めていない

導入前に何がどう変わったら成功なのかを決めていないと、続けるべきか判断できません。時間を測るのか、担当者の負担感で見るのか、顧問先からの反応で見るのか。厳密でなくてよいので、事前に決めておくことをおすすめします。

顧問先にどう説明するか

導入を検討する段階で論点になるのが、顧問先への説明です。顧問先の資料をAIに読ませることに抵抗を感じる担当者もいます。ここを曖昧にしたまま使い始めると、後から問題になりかねません。

説明しておきたい3点

説明する内容なぜ必要か
入力した情報が学習に使われないこと顧問先がもっとも気にする点です。設定で防いでいるのか、契約上そうなっているのかを説明できる状態にしておきます
データがどこに保管されるか国内か海外かは、顧問先によっては契約上の論点になります。UPGEAR AIの場合、会話履歴・アップロードしたファイル・生成したファイルはすべて日本国内(東京)に保管されます
最終判断は必ず人が行うことAIが申告内容を決めているわけではないと明確に伝えます。これは実務の事実であると同時に、顧問先の安心にもつながります

なお、顧問先との契約書や覚書に情報の取扱いに関する条項がある場合は、AIの利用が既存の条項に抵触しないかを先に確認しておくほうが安全です。とくに再委託や第三者提供の定めがある場合は注意が必要です。

税理士法との関係で押さえておくこと

税理士には税理士法第38条により守秘義務が課されています。AIを使うこと自体が問題になるわけではありませんが、顧問先の情報をどこへ渡すことになるのかを把握していない状態は望ましくありません

個人向けの無料AIをそのまま業務に使うと、入力内容が学習に使われる設定が初期状態になっているものがあり、事務所として利用実態を把握できません。この状態はシャドーAIと呼ばれ、情報漏洩の原因になります。

あわせて、AIの誤った回答をそのまま採用した場合の責任は、当然ながら判断した税理士に帰属します。AIが間違えたという説明は、顧問先に対しても、税務当局に対しても通りません。下書きを作るところまでをAIに任せ、確認と判断は人が行うという線引きを、事務所のルールとして明文化しておくことをおすすめします。

費用の考え方

法人向けの生成AIサービスは、料金の仕組みが大きく2つに分かれます。

  • 人数課金制:使う人の数だけ費用がかかります。少人数から試すのに向きます
  • 企業定額制:事務所単位で月額が決まり、何人使っても変わりません。全所員に配る前提の場合に向きます

おおまかには、使う人数が10人前後までなら人数課金制、それを超えるなら企業定額制のほうが総額では有利になりやすい傾向があります。ただし金額だけで決めると、前述の一部の人にだけ配ってしまう問題が起きます

また企業定額制の場合、多くは月あたりに使える量に上限があり、その上限は事務所全体で設定されています。つまり人数が増えるほど1人あたりが使える量は減ります。見積もりを取る際は、金額と一緒にその金額で事務所全体でどれだけ使えるのかを必ず確認してください。詳しくは法人向け生成AIの比較記事で整理しています。

よくある質問

AIを入れれば記帳業務は自動化できますか?
大量の証憑を継続的に取り込んで仕訳まで起票する部分は、AI-OCRを備えた会計ソフトの領域です。生成AIは、判断に迷った取引を都度確認したり、説明文を作ったりする使い方に向いています。どちらか一方ではなく、役割が違うとお考えください。
AIの回答をそのまま申告に使ってよいですか?
使えません。生成AIは事実と異なる内容を出力することがあります。最終的な税務判断と申告内容の確定は、必ず有資格者による確認を経てから行ってください。AIの誤りによる責任は、判断した税理士に帰属します。
顧問先の情報を入力しても大丈夫ですか?
法人向けのサービスで、入力データが学習に使われない設定になっていることが前提です。そのうえで、データの保管場所と、顧問先との契約上の制約を確認してください。個人向けの無料AIをそのまま業務に使うのは避けるべきです。
まず何人で始めるのがよいですか?
費用の面では少人数から試したくなりますが、配られなかった所員が個人のアカウントを使い続けるため、事務所としての管理は実現しません。可能であれば最初から全所員に配り、使う業務のほうを絞って始めることをおすすめします。
所員がAIを使いこなせるか不安です
自由に使ってくださいという配り方がいちばん定着しません。効果が出ている事務所は、最初の業務を1つか2つに絞り、その業務用の指示文を用意して配っています。UPGEAR AIでは、作成した指示文を所内で共有する機能を用意しています。

まとめ

税理士事務所のAI活用でよく語られるのは削減率の数字ですが、実際に導入している事務所が評価しているのは事務所として管理できる状態になったことでした。設定を統一できる、使わせるAIを選べる、誰が何に使ったか追える。顧問先の情報を扱う以上、ここが判断の中心になります。

そのうえで、記帳の自動化は会計ソフトの領域、考える作業の支援は生成AIの領域と役割を分けて考えると、自社に何が必要かがはっきりします。そして導入するなら、費用を理由に一部の人だけに配るのは避けるべきです。管理されていない利用が残るかぎり、リスクは減りません。

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