
バックオフィスのAI活用とは、経理・人事・総務といった管理部門の仕事のうち、文章を書く・読む・照らし合わせる作業を生成AIなどに手伝わせる取り組みです。始めるなら、毎日の文章仕事から手を付け、AIに入れてよい情報の線を先に決め、会社で使うAIを1つの環境にそろえる順番が無理のない進め方になります。申告や手続きの判断そのものは人と専門家に残し、AIは下ごしらえ役として使うことが出来ます。部門別の入力文の実物と、給与やマイナンバーを入れてよいかの判断表も用意しましたので、自社の線引きにお使いください。
バックオフィスのAI活用とは|任せられる作業と人が判断する作業
バックオフィスのAI活用で任せられるのは、下書き・要約・照合といった、人が最後に確かめられる作業になります。管理部門の仕事は、請求書や申請書を読み、社内規程と照らし、社員や取引先に文章で返す流れの繰り返しでもあります。この流れのうち、読む・まとめる・書くの部分は生成AIが得意とするところです。一方で、支払ってよいか、手続きの期限に間に合うか、評価をどうするかといった判断は、会社と担当者が責任を持つ部分として残ります。
生成AIとは、指示の文章(プロンプト)を受けて、文章や表の下書きを作るAIのことです。ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityなどがよく知られており、請求書の画像やPDFを読ませて内容を書き出させることも出来ます。ただしスキャンしたPDFは、サービスやプランによっては文字を読み取れないことがあります(ChatGPTはEnterprise以外のプランでは、PDF内の画像を読まずに文字データだけを取り出す仕様です)。その場合は画像として貼るか、AI-OCRを使うことになります。読み取りに特化したAI-OCR(紙やPDFの文字をデータにする仕組み)や、決まった操作を自動で繰り返すRPAと組み合わせて使う会社もあります。
AIで事務作業はできますか
事務作業の多くは、AIに下書きを作らせて人が確かめる形であれば任せることが出来ます。例えば、経費精算の差し戻し理由を書く、社内規程の該当箇所を探す、会議の録音から議事録をまとめる、といった作業は相性のよい部類に入ります。反対に、人の目を通さずに最後まで処理させる完全な無人化は、現実的ではありません。AIの答えには誤りが混ざることがあるため、数字と日付と宛先は必ず人が原本と照らしてください。誤りに気づける人が最後に見る、という形を崩さなければ、事務作業の負担は十分に軽くなるでしょう。
AIの誤りと、人が最終判断する範囲
生成AIは、もっともらしい文章を作る仕組みのため、存在しない条文や計算の合わない合計を自然な文で書いてしまうことがあります。人が最終判断する範囲は、お金が動くもの、社員の処遇に関わるもの、役所に出すもの、社外に出る文章の4つと決めておくと迷いません。経団連の「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」(2026年4月14日)も、採用・評価・配置など影響の大きい判断では、AIの結果のみで不利益な処遇を決定しない対応を挙げています。人事に限らず、管理部門全体の線として使いやすい考え方になります。
バックオフィスでAIが求められる背景(人手不足・属人化・ミス)
管理部門でAIが求められる背景には、少ない人数で回す仕事の多さと、特定の人にしか分からない仕事の多さがあります。社員10〜200名の会社では、経理・人事・総務を数人で兼ねていることも珍しくありません。担当者が休むと請求書の処理や入退社の手続きが止まり、引き継ぎの資料もない、という状態は属人化(仕事が特定の人に張り付くこと)と呼ばれます。手作業の転記が多いほど、金額の打ち間違いや期限の見落としといったミスも起きやすくなってしまいます。
AIは、この3つの悩みに少しずつ効きます。下書きを任せれば1件あたりの時間が縮み、手順を文章にさせれば属人化した仕事を引き継げる形に出来ます。照合の補助に使えば、人が見落としやすい食い違いに気づくきっかけにもなります。ただ、AIを入れても仕事の量が勝手に減るわけではないため、どの作業に使うかを決めることが先決です。
調査データで見る生成AIの利用状況
業務で生成AIを使っていると答えた就業者は、すでに半数を超える水準となりました。総務省の「令和7年版 情報通信白書」(2025年公表)は、就業者に自分の勤め先について尋ねた調査の結果を紹介しています。それによると、日本で何らかの業務で生成AIを使っていると答えた割合は55.2%で、メールや議事録、資料作成などの補助に使っている割合は47.3%でした。生成AIの活用方針を定めている企業の比率は、2024年度調査で49.7%となり、2023年度調査の42.7%から増えています。いずれも企業規模を分けていない全体の値で、中小企業だけの数字ではない点にご注意ください。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2025」(2025年4月公表・2024年度調査)でも、同じ方向の変化が見て取れます。言語系の生成AIを導入済み、または試験導入中・導入準備中と答えた企業は、2024年度調査で41.2%(961社が回答)となりました。利用するツールを各人に任せている企業は2023年度調査の40.5%から2024年度調査の16.3%に減り、利用ルールを定めている企業は26.8%から39.2%に増えました。会社として道具とルールを用意する流れが進む一方で、ルールを定めていない企業もまだ多数派となっています。自社がどちらの側にいるかを、まず確かめてみましょう。
部門別の使いどころ(経理・人事労務・総務・法務・情シス)
部門別に見ると、AIの出番は「読む量が多い」「同じ文章を何度も書く」「問い合わせが繰り返される」の3つが重なる場面にあります。業務の名前を並べるだけでは明日から使えないため、ここでは場面と、そのまま貼って使える入力文の実物を部門ごとに載せました。入力文の中の【】は伏せ字の欄で、社名・氏名・金額を実際の値にしなくても成り立つように作っています。個人の無料版ではなく、会社で契約した、入力が学習に使われない環境で使う前提です。
経理:請求書の読み取り・仕訳候補・経費精算のチェック
経理でAIが役立つのは、請求書の中身を書き出す作業と、社内ルールとの照らし合わせになります。紙やPDFの請求書から日付・金額・取引先を読み取る仕組みはAI-OCRと呼ばれ、会計ソフトに組み込まれていることもあります。生成AIにPDFを読ませて表に書き出させることも出来ますが、読み取りの誤りはゼロにはなりません。仕訳の候補を出させる場合も、勘定科目を決めるのは経理の担当者です。
【入力文の例:請求書から支払予定の一覧を作る】 添付した請求書PDF(【件数】件)から、次の項目を読み取り、表にしてください。 ・請求元の名称/請求書の日付/支払期限/税込金額/登録番号(Tから始まる番号) ・読み取れない項目や、かすれて自信がない項目は「要確認」と書き、推測で埋めないでください ・最後に、支払期限が【月末日】までのものだけを抜き出した一覧を別に作ってください
【入力文の例:経費精算の差し戻し文を書く】 次の社内ルールと申請内容を照らし合わせ、ルールに合わない点があれば箇条書きで挙げてください。そのうえで、申請者に送る差し戻しの文面を、丁寧で短い文で書いてください。 社内ルール:【旅費規程の該当条文を貼る】 申請内容:【日付・行き先・金額・目的を貼る。氏名は「申請者A」とする】
登録番号が本当に存在するかは、AIの答えではなく国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで人が確かめてください。請求書データの保存も、電子帳簿保存法の要件(取引年月日・取引金額・取引先で検索できることなど)を満たす保存先で行い、AIの画面を保存場所にしないようにしましょう。経理のAI活用は経理のAI活用の記事で、電子帳簿保存法の要件と合わせてさらに詳しく扱っています。
人事労務:採用書類・勤怠集計・入退社手続き
人事労務では、入退社のたびに作る案内文や、勤怠の集計結果の説明文でAIが力を発揮します。入社の手続きで社員に出してもらう書類の案内、退職する方への返却物と手続きの一覧、勤怠の締め前の注意喚起などは、毎回ほぼ同じ文面になります。勤怠の集計そのものは勤怠システムの仕事で、AIは集計結果から残業が多い部署や打刻漏れが多い日を文章でまとめる役に向いています。応募書類の読み込みは、職歴を要約させる程度にとどめ、合否の判断には使わないほうが安全でしょう。
【入力文の例:入社手続きの案内文を作る】 【入社日】に入社する社員向けに、入社前に提出してもらう書類の案内文を作ってください。 ・提出してもらう書類:【社内の一覧を貼る】 ・提出期限:【日付】/提出方法:【方法】 ・マイナンバーの提出方法は、この文面には書かず「別途、担当者からご案内します」とだけ書いてください ・宛名は「【入社予定者】様」のままにしてください
【入力文の例:勤怠の集計結果を部長向けにまとめる】 次の表は、部署ごとの今月の残業時間の合計と、打刻漏れの件数です(個人名は含みません)。 ・前月より大きく増えた部署を上から3つ挙げ、考えられる理由の候補を書いてください。ただし理由は推測であることを明記してください ・部長会で読み上げられる長さ(300字程度)にまとめてください 集計表:【部署名・残業時間の合計・打刻漏れ件数を貼る】
採用書類をAIに読ませる前に、応募者の個人情報であることを思い出してください。病歴などの要配慮個人情報(個人情報保護法で取り扱いに特に配慮が必要と定められた情報)が含まれていれば、入力しない扱いが基本となります。経団連の報告書も、AIに入力する人事データは必要最小限にし、要配慮個人情報は入力しない対応を示しています。人事評価にAIを使うときの線引きは人事評価のAI活用の記事にまとめました。
総務:社内通知・規程改定・備品と庶務
総務は、社内向けの文章を書く量が多い部門です。健康診断の案内、大掃除の告知、防災訓練の連絡、規程改定のお知らせなど、毎年同じ時期に似た文を書き直す仕事が続きます。過去の文面と今年の変更点を渡して書き直させれば、ゼロから書く時間を省くことが出来ます。備品の発注の取りまとめや、会議室の使い方の案内文にも向いています。
【入力文の例:規程改定の社内通知を作る】 次の「改定前」と「改定後」の条文を比べ、変わった点を3行以内でまとめてください。そのうえで、全社員向けの通知文を作ってください。 ・施行日:【日付】/問い合わせ先:【部署名】 ・専門用語は使わず、社員が自分に何の影響があるかを最初に書いてください 改定前:【条文を貼る】 改定後:【条文を貼る】
社内問い合わせ対応(チャットボット・社内規程やFAQの検索)
社内からの問い合わせ対応は、管理部門の時間を細かく奪う仕事の1つです。有給休暇の取り方、慶弔休暇の日数、交通費の申請期限といった質問の多くは、就業規則や社内FAQに答えが書かれています。社内規程を読み込ませたAIに一次回答をさせ、判断が要るものだけ担当者に回す形にすれば、同じ質問に何度も答える時間を減らせます。AIが答える際は、根拠にした規程の条文番号も示させると、担当者が確かめやすくなります。個人ごとの有給の残日数のように、人事システムの個人データを見ないと答えられない質問は、AIではなくシステムや担当者に回しましょう。社内ヘルプデスクへのAIの入れ方は社内ヘルプデスクのAI活用の記事で詳しく書いています。
【入力文の例:就業規則から社員向けの回答を作る】 あなたは総務の担当者です。次の就業規則の抜粋だけを根拠に、社員からの質問に答えてください。 ・抜粋に書かれていないことは「規程に記載がないため、総務に確認します」と答えてください ・回答の最後に、根拠にした条文の番号を書いてください 就業規則の抜粋:【該当の章を貼る】 社員からの質問:【質問文を貼る。氏名は書かない】
法務・情シス:契約書の確認補助と社内のIT問い合わせ
法務の仕事では、取引先から届いた契約書の案を自社のひな形と比べ、違う条文を洗い出す作業にAIが使えます。見つけた違いをどう扱うかは、担当者や顧問弁護士が決める部分です。情シス(社内のIT担当)では、パスワードの再設定やプリンターの不調といった定番の問い合わせに、手順書をもとにした回答文を作らせる使い方が向いています。専任の担当者がいない会社ほど、手順を文章にしてAIに持たせておく効果は大きくなるでしょう。
文書作成・メール・議事録・要約は全部門で共通
部門を問わず使えるのが、文書作成、メールの下書き、議事録、長い資料の要約です。取引先への支払い条件の変更のお願いや、社員への注意喚起のように言いにくい内容ほど、AIに下書きを作らせて言い回しを整えると気持ちが楽になります。会議の録音から議事録を作る場合は、決まったこと・宿題・期限の3つに分けて書き出させると、そのまま共有しやすい形に仕上がります。長い通達や業界団体の資料は、自社に関係する部分だけを抜き出させてから読むと、読む時間そのものを短くすることが出来ます。どの作業から始めるか迷ったら、この共通の作業を全員で試すところから始めてみてください。業務別の活用例は生成AIの活用事例の記事でも紹介しています。
管理部門が毎日使うAIを会社で1つに決めれば、無料版に頼る理由を減らせます。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
繁忙期のカレンダーに沿ったAIの使いどころ
管理部門の忙しさは年間で山と谷がはっきりしているため、山の前にAIで下ごしらえを済ませておくのが効果的です。社会保険や労働保険、税の手続きには毎年決まった期限があり、各公式ページでは次のように案内されています。
- 労働保険の年度更新:6月1日から7月10日まで(厚生労働省の令和8年度の案内)
- 算定基礎届:7月1日から7月10日まで(日本年金機構の令和8年の案内)
- 法定調書:原則として、支払の確定した日の属する年の翌年1月31日まで(国税庁 タックスアンサー No.7400)
※制度の期限・調査の数値は2026年9月27日時点で各公式ページに掲載されている内容です。
6月から7月にかけては年度更新と算定基礎届が重なり、1月には法定調書の提出期限が来ます。この時期の前に、社員への提出物の案内、社内の確認手順のチェックリスト、前年の反省点のまとめをAIで作っておくと、山場の負担を少し前に移すことが出来ます。期限の計算や届出書の作成そのものは、専用のソフトや社労士・税理士に任せる領域です。AIは、その手前の案内文やチェックリスト、社内への周知文を受け持つ役と考えてください。
時期ごとにAIへ任せる下ごしらえ
- 毎月の月末月初は、請求書の読み取りと支払予定の一覧づくり、経費精算の差し戻し文の下書きに使います
- 5月下旬ごろは、年度更新に向けて、賃金の集計に必要な資料を各部署へ依頼する文面と、前年の手順メモの整理に使います
- 6月下旬ごろは、算定基礎届に向けて、給与データの確認手順をチェックリストにします。個人ごとの給与の数字はAIに入れません
- 秋から年末にかけては、年末調整で社員に出してもらう書類の案内と、毎年届く質問への回答文の下書きに使います
- 12月から1月にかけては、法定調書に向けて、支払先へ書類をお願いするメールの文面と、社内の確認手順の見直しに使います
【入力文の例:繁忙期前のチェックリストを作る】 次のメモは、昨年の【手続きの名前】で経理・総務が行った作業と、困ったことの記録です。これをもとに、今年の作業のチェックリストを時系列で作ってください。 ・各項目に「誰が」「いつまでに」を入れる欄を空欄で付けてください ・期限や計算方法について、メモに書かれていないことは補わず「要確認」と書いてください 昨年のメモ:【貼る。社員の氏名・給与額は消してから貼る】
顧問の社労士・税理士など外部の専門家との役割分担
顧問の社労士や税理士がいる会社では、AIに任せる範囲と専門家に任せる範囲を分けて考えると整理しやすくなります。社内でAIを使うのは、専門家に渡す前の資料をそろえる作業や、専門家への質問を整理する作業です。例えば、税理士に確認したい点を箇条書きにまとめさせ、前提として伝えるべき事実の漏れがないかをAIに点検させる使い方があります。税務や社会保険の判断そのものをAIの答えで済ませるのは避け、最後は専門家の見解を仰ぎましょう。AIの導入そのものを外部の支援会社に手伝ってもらう方法もあり、その場合も入れてよい情報の線は社内で決めておく必要があります。
AIに入力してはいけない情報は?データの種類ごとの判断表
AIに入れてよいかは、データの種類と、使うAIの環境の2つの掛け合わせで決まります。同じ社内規程でも、会社で契約して入力が学習に使われない環境なら入れやすく、社員が個人で登録した無料版では避けたい、という違いが出てきます。判断の根拠になるのが、個人情報保護委員会が令和5年6月2日に出した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」です。この注意喚起は、個人情報を含む指示を入力するなら利用目的の範囲内かを十分に確かめること、個人データを入力するなら提供事業者がそのデータを機械学習に使わないこと等を十分に確かめることを求めています。利用そのものを禁止した文書ではなく、確かめるべき点を示した文書と読むのが正確でしょう。
| データの種類 | 会社で契約した、入力が学習に使われない環境 | 社員が個人で登録した無料版 | 根拠・補足 |
|---|---|---|---|
| 公開済みの情報(自社サイトの文章、官公庁の公開資料) | ○ 入れてよい | △ 入れられるが、業務の履歴が会社に残らない | 秘密ではない情報でも、何の業務に使ったかは会社で把握しておきたい |
| 社内規程・就業規則・社内FAQ | ○ 入れてよい(社外秘の扱いは社内ルールに従う) | × 入れない | AI事業者ガイドライン(第1.1版・令和7年3月)は、AIを使う側に機密情報等を不適切に入力しないよう注意を求めている |
| 取引先の請求書・見積書・契約書 | △ 必要な範囲で。担当者名などは伏せる | × 入れない | 取引先との契約で秘密保持の対象になっていることがある |
| 社員の氏名・連絡先(名簿) | △ 利用目的の範囲内で、必要な分だけ | × 入れない | 個人情報保護委員会の注意喚起:利用目的の範囲内か、機械学習に使われないかを確かめる |
| 給与・賞与・人事評価 | △ 伏せ字や部署ごとの集計値にしてから。個人と結びつく形では入れない | × 入れない | 経団連の報告書は、AIに入力する人事データを必要最小限にすると整理している |
| 健康診断の結果・病歴・休職の理由 | × 入れない | × 入れない | 病歴は個人情報保護法第2条第3項の要配慮個人情報。経団連の報告書も要配慮個人情報は入力しないと整理している |
| マイナンバー(個人番号) | × 入れない | × 入れない | 番号法で利用できる事務が限られている(個人情報保護委員会の事業者向けガイドライン)。社内ルールで入力しない扱いにする |
表の○△×は、法律の条文がそう定めているという意味ではなく、公的な文書の考え方に沿って社内ルールを決めるときの目安です。マイナンバーについて、個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(令和7年6月一部改正)は、事業者が個人番号を使うのは主に源泉徴収票や社会保障の手続書類に記載して提出する場合で、本人の同意があっても、例外として認められる場合を除きそれ以外の事務で利用してはならないと説明しています。ガイドラインに生成AIという言葉は出てきませんが、利用できる事務が限られた情報であることから、AIには入れないと社内で決めてしまうのが分かりやすいでしょう。迷ったら、伏せ字にしても用が足りるかを先に考え、足りるなら伏せて入れましょう。個人情報とAIの関係はChatGPTと個人情報の記事、学習に使わせない設定はChatGPTに学習させない方法の記事で詳しく扱っています。
給与や取引先の情報が個人の無料版に入ってしまう経路
給与や取引先の情報が個人の無料版に入ってしまうのは、多くの場合、悪意ではなく早く片付けたいという善意からです。会社がAIを用意していなければ、社員は自分のスマートフォンやパソコンで登録した無料版を使って、目の前の仕事を片付けようとします。会社が把握していないところで業務にAIが使われる状態は、シャドーAI(野良AI)と呼ばれます。
よくある経路の1つ目は、給与の一覧表を貼り付けて部署ごとの合計を出してもらう使い方です。表計算ソフトで出来る集計でも、関数を調べる手間を惜しんでAIに丸ごと渡してしまうことがあります。2つ目は、取引先から届いた請求書や見積書のPDFを添付して、内容の要約や比較を頼む使い方になります。3つ目は、社員からの相談メールをそのまま貼り付けて返信の文面を作らせる使い方で、そこには健康や家庭の事情が書かれていることも少なくありません。
個人の無料版でも、設定で入力を学習に使わせないように出来るサービスはあります。ChatGPTの料金ページでも、無料版を含む個人向けの各プランで、コンテンツをモデルの学習に使用する設定は無効化可能と示されています。ただし、その設定をするかどうかは社員本人次第で、会社からは確かめようがありません。会社から見えない場所に、会社の情報が残ってしまうことが問題の本質です。退職した社員のアカウントに過去の入力が残り続けても、会社には止める手段がありません。
禁止の通知を出すだけでは、この経路はなかなか塞がらないでしょう。急ぎの仕事を抱えた社員にとっては、使えない道具より手元で使える道具のほうが強いからです。会社で使うAIを用意し、そちらのほうが便利な状態にしてから、個人の無料版をやめてもらう順番が現実的になります。シャドーAIの見つけ方と減らし方はシャドーAI(野良AI)の記事で詳しく書いています。
ツールの種類(AI-OCR・RPA・チャットボット・汎用生成AI・特化型SaaS・AIエージェント)
バックオフィスで使われるAIの道具は、得意な作業ごとにいくつかの種類に分かれます。それぞれの役割を知っておくと、何を入れれば困りごとが片付くのかを判断しやすくなるでしょう。
- AI-OCRは、紙やPDFの請求書・申込書の文字を読み取ってデータにする道具で、会計ソフトや経費精算システムに組み込まれた製品もあります
- RPAは、画面の操作を記録し、決まった手順を自動で繰り返す道具で、自分で考えて判断することはしません
- チャットボットは、社内規程やFAQをもとに、社員からの質問に自動で答える道具です
- 汎用の生成AI(ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityなど)は、文章の下書き・要約・翻訳・表の整理など、幅広い作業をこなします
- 経理・人事に特化したSaaSは、請求書処理や勤怠管理といった特定の業務の中にAIの機能を組み込んだクラウドサービスです
- AIエージェントは、指示を受けて複数の手順を自分で組み立てて実行するAIで、社内システムの操作まで任せる形も出てきています
社員10〜200名の会社がまず手を付けやすいのは、汎用の生成AIです。特化型のSaaSは業務の流れごと変える力がある半面、部門ごとに別々の契約になりがちで、導入の手間もかかります。汎用の生成AIでどの作業にAIが効くかを確かめてから、効果が大きい業務に特化型を足す順番のほうが、無駄な契約を減らせるでしょう。
RPAとの違い・組み合わせ
RPAと生成AIの違いは、決まった手順を正確に繰り返すか、その都度文章を読んで考えるかにあります。RPAは、同じ画面操作を同じ順番で繰り返すのが得意で、判断が入る作業や書式が毎回違う書類は苦手です。生成AIは書式がばらばらの書類でも読み取れますが、毎回まったく同じ結果を返すとは限りません。両者を組み合わせるなら、生成AIに請求書を読ませて項目を決まった形に整え、その形のデータをRPAで会計ソフトに入力させる、といった分担が考えられます。途中で人が確かめる工程を必ず挟んでおきましょう。
既存システム・ワークフローとの連携
既存の会計ソフトや勤怠システム、稟議のワークフローとつなげるかどうかは、最初に決めなくても大丈夫です。まずは人が生成AIの画面に貼り付けて使い、手作業のコピーが負担になった段階で、連携の機能を持つ製品やAPI(システム同士をつなぐ窓口)を検討するのが無理のない流れになります。連携を進めるときは、AIが読みに行けるデータの範囲を部署ごとに絞れるかを確かめてください。経理のデータを総務の社員が使うAIから読めてしまう、という状態は避けなければなりません。
AIエージェント化と、展示会・セミナーでの情報収集
最近は、AIが複数の手順を自分で組み立てて実行するAIエージェントを、管理部門の仕事に使う動きも出てきています。管理部門向けのAIをテーマにした展示会やセミナーも開かれており、製品を比べたい方には情報を集める場になるでしょう。ただ、エージェントに社内システムの操作まで任せるには、権限の設定や操作記録の確認など、準備が一段と増えてしまいます。まずは生成AIを人が使う段階で、入れてよい情報の線と確認の手順を固めておくことが、エージェントへ進むときの土台にもなります。
導入メリットと、削減できる時間の見積もり方
導入のメリットは、時間が縮むことよりも、その時間を何に回せるかで決まります。下書きや要約にかかっていた時間が減れば、資金繰りの見通しや社員の相談対応といった、人にしか出来ない仕事に時間を回せます。
4つの導入メリット(時間短縮・コア業務への集中・ミス削減・コスト)
1つ目のメリットは、1件あたりの作業時間が短くなることです。2つ目は、浮いた時間を、判断や相談といったコア業務(会社にとって価値を生む中心の仕事)に回せることになります。3つ目は、照合の補助に使うことで、転記の誤りや記載漏れに気づく機会が増えることでしょう。4つ目は、残業や外注の費用を抑えられる可能性があることです。ただし、どのメリットも、使う作業を決めて測らなければ見えてきません。
削減できる時間は計算式で見積もる
削減できる時間は、次の式で見積もることが出来ます。
月に減る時間 = 対象の作業の件数(月) × 1件あたりの時間の差 1件あたりの時間の差 = 今のやり方での時間 - AIに下書きさせたときの時間 - AIの答えを確かめる時間
仮に、経費精算の差し戻し文を月に40件書いていて、1件に10分かかっていたとします。AIに下書きさせると1件3分で済み、確かめる時間が1件1分かかるとすると、1件あたり6分の短縮で、月に240分(4時間)の短縮と見積もれます。数字はあくまで仮のもので、自社の件数と時間を入れて計算してみてください。確かめる時間を引き忘れると効果を大きく見積もりすぎてしまうため、ここは必ず式に入れておきましょう。
JUASの「企業IT動向調査報告書2025」では、言語系の生成AIを導入済み、または試験導入中・導入準備中の企業のうち、59.8%が導入時の効果測定を行っていないと答えています。測っていない会社が多いからこそ、始める前の時間を記録しておくことが、後で社内に説明する材料になります。効果の測り方は生成AIで業務を効率化する記事でも扱っています。
企業名つきの導入事例(同社発表)
企業名が公表されている事例として、パナソニック コネクトの発表があります。同社は2025年7月7日のニュースリリースで、国内全社員約11,600人にAI活用を進め、2024年のAI活用による業務時間の削減効果が44.8万時間だったと発表しました。1回あたりの削減時間は28分とされていますが、算出方法は公表されておらず、同社の発表値である点に注意が必要です。同社は目標の1つにシャドーAI利用リスクの軽減を掲げており、会社として使う環境を用意する考え方は規模を問わず参考になるでしょう。
導入手順(業務の棚卸し→対象の絞り込み→小さく試す→効果測定・展開)
導入は、業務の棚卸しから始めて、小さく試し、測ってから広げる4段階で進めるのが無理のない形です。
- 管理部門の仕事を書き出し、月の件数と1件あたりの時間を記録します(業務の棚卸し)
- 読む・書く・照らす作業が多く、入れる情報を伏せ字に出来る作業を2〜3個に絞ります
- 1〜2か月、担当者数人で試し、入力文を直しながら使います
- 見積もりの式で効果を測り、効果が出た作業から部門全体・他部門へ広げます
棚卸しの段階では、前に載せた判断表を横に置き、入れられない情報が中心の作業は候補から外してください。例えば、給与計算そのものは候補から外し、給与明細の見方を社員に説明する文面づくりを候補に残す、といった切り分けになります。
小規模で試す(スモールスタート)
最初から全社に広げず、管理部門の数人で小さく試すスモールスタートがおすすめです。試す期間には、入力文を部門で共有し、うまくいった例と失敗した例を記録していきましょう。失敗の記録は、社員に配るお知らせの気をつけることの材料にもなります。試す段階から会社で契約した環境を使うことも大切で、個人の無料版で試した入力文と履歴は会社に残りません。
導入費用の目安と補助金
費用は、1人ずつ契約する形か、会社でまとめて契約する形かで増え方が変わります。例えばChatGPT Businessの料金ページを日本から表示すると、標準シートは年額課金で1人あたり月3,050円と表示されています。仮に管理部門と営業事務の20人に配ると、月61,000円、年間で732,000円となります。料金ページに税込か税別かの記載はなく、表示の通貨は閲覧する環境によって変わる点にご注意ください。人数が増えるほど費用が増える形なので、誰に配るかを決めることがそのまま費用を決めることになります。
※料金は2026年9月16日時点で公式の料金ページに表示されていた金額です。
中小企業の場合、デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の通常枠で、事務局に登録されたITツールを、登録されたIT導入支援事業者と組んで申請する方法もあります。通常枠の補助率は原則1/2以内で、文書作成ソフトやチャットボットのような汎用のツールだけでは申請できず、交付決定の前に契約したものも対象になりません。条件の詳細はデジタル化・AI導入補助金2026の記事で確認してみてください。
社員に配る「AIの使い方のお知らせ」ひな形
使い始める前に、社員に向けて短いお知らせを出しておきましょう。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.1版・令和7年3月)」も、AIを使う側に対して、機密情報や個人情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています。お知らせは長い規程より、使ってよいAI・入れてはいけない情報・確かめる責任・相談先の4点が1枚にまとまっているほうが読まれます。
件名:業務でのAI利用についてのお知らせ 社員各位 【会社名】では【開始日】から、業務でAIを使うときのルールを次のとおりとします。 1.使ってよいAI 業務で使えるのは、会社が契約した【サービス名】だけです。個人で登録したAIサービス(無料版を含む)に、業務の情報を入力しないでください。 2.入力してはいけない情報 ・マイナンバー ・健康診断の結果や病歴など、健康に関する情報 ・給与、賞与、人事評価など、個人と結びついた人事の情報 ・取引先から秘密として受け取った情報 迷ったときは、氏名や社名を伏せ字にしてから入力するか、下の相談先に確認してください。 3.AIの答えを使うときの責任 AIの答えには誤りが含まれることがあります。数字・日付・宛先・条文は必ず原本で確かめてください。社外に出す文章は、送る前に上長が確認します。 4.相談先 【部署名・担当者】(内線【番号】/メール【アドレス】) 以上
ひな形の【】を自社の内容に置き換え、前に載せた判断表と合わせて配ると、社員が迷ったときに立ち返る場所が出来ます。社内のAIルールをより詳しく定めたい場合は生成AIの社内ガイドラインの作り方が参考になります。
会社で安全に使うための環境の条件
お知らせを出しても、使ってよいAIが社員の手元になければ、個人の無料版に戻ってしまいます。会社で使う環境を選ぶときは、次の4点を確かめておきましょう。
- 入力が学習に使われない設定を、会社側で全員に一律にかけられるか社員ごとの設定に任せる形では、設定漏れを会社が見つけられません。
- 誰がいつ使ったかの利用ログを、管理者が確認できるか問題が起きたときに、誰がいつ使ったかをたどれるかどうかがここで決まります。
- 全員に配れる料金の形か一部の人にしか配れないと、配られなかった人が個人の無料版に流れてしまいます。
- 複数のAIを用途で使い分けられるか調べものに強いAI、長い文書の読み込みに強いAIなど、得意分野は分かれています。
複数のAIを1つの環境で使う考え方はマルチAIの記事で詳しく扱っています。
総務・経理が日常で使うAIを、会社で1つに
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約・1画面で使える法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、社内規程などの自社資料を読み込ませて回答させる機能や、よく使う指示を社内限定のBOTにして共有する機能もあります。基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
バックオフィスのAI活用とは何ですか?
AIで事務作業はできますか?
AIに入力してはいけない情報は?
社員10〜200名の会社は、何から始めればよいですか?
RPAと生成AIはどう使い分けますか?
算定基礎届や年末調整の書類もAIで作れますか?
まとめ
バックオフィスのAI活用は、経理・人事・総務の文章仕事から始めるのが近道です。請求書の読み取りや差し戻し文、入社手続きの案内、社内規程に基づく回答など、下書きを人が確かめられる作業ほど任せやすくなります。その一方で、給与やマイナンバー、健康の情報は入れない線を先に決め、個人の無料版ではなく会社で契約した環境にそろえることが欠かせません。繁忙期の前に案内文やチェックリストを用意し、削減時間を式で見積もりながら、効果の出た作業から広げていきましょう。ほかの業務のAI活用はAI活用コラム一覧からご覧いただけます。
