ヘルプデスクAIの始め方。社内の問い合わせをAIで減らす手順と線引き

ヘルプデスクAIとは、社員から総務・人事・情報システムの担当者に寄せられる質問に、就業規則やマニュアルなどの社内文書を根拠にしてAIが一次回答する仕組みです。社員10〜200名の会社では、専用ツールを選ぶ前に、問い合わせを記録する、読ませる文書を整える、回答に出典を付けさせる、答えられない質問を人に渡す、の4つを先に決めておくと、契約中の生成AIでも小さく始められ、ツール選びでも迷いにくくなります。この記事では社内向けのヘルプデスクに絞り、基本機能と種類、ChatGPT・Claude・Geminiの共有機能で試す手順、読ませてよい文書と読ませない情報の線引き、誤回答への対策、効果の測り方までを順に解説します。

ヘルプデスクAIとは|自動応答・ナレッジ管理・問い合わせ管理の3つの働き

ヘルプデスクAIは、質問に答える自動応答、答えの元になる文書をそろえるナレッジ管理、AIが答えられなかった質問を人に渡して記録する問い合わせ管理の3つの働きで成り立っています。製品によって力を入れている部分は違いますが、社内で運用するときに必要になる働きはこの3つで、どれか1つが欠けると、しばらくすると使われなくなる状態に陥りやすくなります。

自動応答:社員の質問に、社内文書を根拠にして答える

社員がチャット画面に「有給休暇は入社何か月目から使えますか」と入力すると、AIが読み込ませた文書の中から関係する箇所を探し、その内容をもとに文章で回答します。質問に関係する文書を探してから生成AIに回答を作らせるこの方式は、RAG(検索拡張生成)と呼ばれます。仕組みの詳しい説明はRAGとはで解説しています。

総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版・2026年3月31日)は、脚注で「RAG(検索拡張生成)の活用等により、ハルシネーションの抑制や出力過程・根拠の透明性向上等が期待されている」と記載しています。期待されている、という書き方のとおり、RAGを使えば誤回答がなくなるわけではありません。対策は後の章で詳しく扱います。

ナレッジ管理:答えの元になる文書をそろえ、古い情報を入れ替える

ヘルプデスクAIの回答の質は、読み込ませた文書の質を超えません。就業規則、各種申請の手順書、パソコンやアカウントの設定マニュアル、過去に担当者がメールで答えた内容などを、最新版だけに整理して読ませる作業がナレッジ管理です。規程を改定したのにAI側の文書を差し替えていなければ、AIは古い規程で自信を持って答えます。そのため、導入時の整理だけでなく、改定のたびに差し替える担当と手順を決めることまでが、ナレッジ管理に含まれます。

問い合わせ管理:答えられなかった質問を人へ渡し、記録を残す

AIが文書から答えを見つけられなかった質問や、個別の事情を含む相談は、担当者が引き取る必要があります。専用のヘルプデスク製品は、この引き継ぎと、誰がいつ何に対応したかの記録を管理する機能を備えていることが多く、ここが汎用の生成AIとの大きな違いになります。答えられなかった質問の記録は、次にどの文書を追加すべきかを示す材料にもなるため、問い合わせ管理はナレッジ管理とつながっています。

従来のルールベース型チャットボットとの違い

ルールベース型のチャットボットは、想定される質問と回答の組を1つずつ登録し、利用者の入力に含まれるキーワードや、画面に表示した選択肢に応じて、登録済みの回答を返す仕組みです。回答は登録した文章そのものなので、書いた以上のことは言いませんが、言い回しが想定と違う質問には答えられず、質問と回答の組を増やし続ける手間がかかります。

生成AIを使うヘルプデスクAIは、文書の中から関係する箇所を探して回答を組み立てるため、「年休」「有休」「休みの残り日数」のように言い回しが違っても対応しやすく、質問と回答を1件ずつ登録する作業は大幅に少なくなります。その代わり、文書に書かれていないことを、もっともらしい文章で補ってしまう誤回答のリスクを持ちます。

どちらが優れているかではなく、向いている質問が違うと考えるのが実務的です。申請書の置き場所やシステムのURLのように、答えが1つに決まっていて間違いが許されない案内は、固定の回答を返す方式が向いています。規程の解釈を含む質問や言い回しが多様な質問は、生成AI型が得意とします。PKSHA Technologyが公開しているPKSHA AIヘルプデスクの説明(同社発表)でも、FAQによる自動応答を先に行い、FAQで解決しない場合に社内文書を参照して回答を生成する、という2段構えの流れが示されています。

社内向けと社外向けの区別|この記事は社内向けを扱います

ヘルプデスクという言葉は、社員からの問い合わせに答える社内向けの窓口と、顧客からの問い合わせに答える社外向けのカスタマーサポートの両方に使われます。検索で上位に出る解説記事にも両方を混ぜて扱うものが多いのですが、この2つは前提が大きく違います。

社内向けでは、質問するのは自社の社員で、根拠にする文書は就業規則や社内手順書です。回答が間違っていても社内で訂正でき、読ませる文書も社内の人が見てよいものに限られます。社外向けでは、回答の内容が顧客への約束として受け取られるおそれがあり、問い合わせに顧客の個人情報が含まれることも多く、ブランドや苦情対応の設計まで必要になります。顧客向けのチャットボット製品と社内向けの生成AIの選び分けや公式価格の見方は、AIチャットボット比較|社外向けと社内向けの選び方で整理しています。

社内向けは、失敗したときの影響が社内にとどまり、文書もそろっている場合が多いため、生成AIの業務利用を始める題材として取り組みやすい領域です。この記事では社内向けのヘルプデスクに絞って解説します。顧客対応や電話窓口へのAI活用はコールセンターのAI活用で扱っています。

導入メリット|対応工数の削減・24時間対応・回答品質の均一化

社内ヘルプデスクをAI化するメリットは、担当者の対応時間を減らせること、時間を問わず社員が自分で調べられること、誰が答えても同じ内容になることの3つで、これに加えて、個人の頭の中にあった知識が文書として会社に残るという効果があります。ただし、どれも文書の整備と運用が前提で、ツールを入れただけで得られるものではありません。

担当者の対応工数とコストを減らせる

社員数が数十名から200名程度の会社では、総務・人事・情報システムの窓口を1〜2名が他の業務と兼務していることが珍しくありません。その担当者のもとに、年末調整の時期には控除の書類について、4月には入社手続きやパソコンの設定について、同じ質問が短い期間に集中します。1件ずつは数分でも、手を止めて答え、元の作業に戻るまでの時間を含めると、担当者の本来の業務はそのたびに中断されます。

ヘルプデスクAIが文書に書いてある範囲の質問に一次回答すれば、担当者に届くのは、文書に答えがない質問や個別の判断が必要な相談に絞られます。どれだけ減るかは、問い合わせの中で文書に答えが書いてある質問がどれだけあるかで決まり、製品の発表する削減率は導入企業の条件によって変わります。自社でどの程度の効果が見込めるかは、後述の問い合わせ記録を2週間取ると、導入前に見当を付けられます。

24時間対応:就業時間外や休日でも社員が自分で調べられる

シフト勤務や夜間の作業がある職場、出張や外回りの多い営業職、在宅勤務の社員は、担当者が席にいる時間に質問できるとは限りません。ヘルプデスクAIは時間帯に関係なく答えるため、夜にパソコンの設定で困った社員や、休日に翌週の休暇申請の締め切りを確かめたい社員が、担当者の出社を待たずに調べられます。

ただし、AIが答えられるのは文書に書いてある案内までで、申請の承認や例外の判断はできません。時間外に答えられる範囲と、翌営業日に担当者が対応する範囲を、社員向けの案内に明記しておくと、AIが答えたことを会社の承認と受け取られる行き違いを防げます。

回答品質の均一化:誰に聞いても同じ答えになる

同じ規程について質問しても、担当者によって説明の細かさや例外の扱いが違う、という状態は多くの会社で起きています。前任者は認めていた、隣の部署では違う説明を受けた、という食い違いは、社員の不公平感につながります。ヘルプデスクAIは同じ文書を根拠に答えるため、説明の食い違いは起きにくくなります。

一方で、文書そのものが曖昧であれば、その曖昧さも全員に均一に伝わります。AIの回答を見て初めて規程の書き方の不備に気づく、ということもよくあるため、パイロット運用の段階で回答を読み、文書を直す時間を確保しておくことが大切です。

ナレッジの蓄積と属人化の解消

社内の問い合わせ対応では、長く勤めている担当者だけが知っている運用が少なくありません。規程には書いていないが実際はこう処理している、このケースは経理の誰に回す、といった知識です。その担当者が休んだり退職したりすると、答えられる人がいなくなります。

ヘルプデスクAIを運用すると、AIが答えられなかった質問が記録として残り、担当者がその質問に答えた内容を文書に追記する流れが生まれます。この流れを続けることで、個人の頭の中にあった運用が、会社の文書として蓄積されていきます。PKSHA AIヘルプデスクの説明(同社発表)には、有人連携で蓄積された対話ログからFAQにすべきナレッジを自動生成する機能が挙げられており、専用製品ではこの流れを機能として支援するものもあります。小さく始める場合でも、答えられなかった質問を週に1回見直して文書に足す、という手作業で同じ流れを作れます。

活用シーン|社内IT・人事総務・経理・研修と、顧客対応に広げる場合

社内ヘルプデスクAIが効果を出しやすいのは、同じ質問が繰り返し届き、答えが文書に書いてあり、個人の事情に踏み込まない分野で、社内IT・人事総務・経理・新しく入った社員の研修が代表的です。反対に、回答に個人の判断が必要な相談や、顧客に向けた回答は、別の設計が必要になります。

社内IT:パスワード、パソコン、アカウントの手続き

パスワードを忘れたときの再設定の手順、プリンターやVPNの設定、新しいソフトの利用申請の方法、会議室の予約システムの使い方などは、手順書があれば答えが決まる質問の典型です。画面の画像だけで作られている手順書は、文章による手順も添えておくと、AIが正確に読み取りやすくなります。

なお、手順を案内することと、実際にパスワードを再設定したりアカウントを発行したりする作業を代行することは別です。マネーフォワードi株式会社のAdmina AIヘルプデスク(同社発表)は、問い合わせへの回答に加えてパスワードリセット等の作業実行までを掲げていますが、作業代行の機能には別途マネーフォワード Adminaの契約が必要と注記されています。作業の代行まで求めるかどうかは、ツールの種類を分ける大きな分かれ目になります。

人事・総務:休暇、慶弔、手当、各種の届出

有給休暇の付与日数、慶弔休暇の対象範囲、通勤経路を変えたときの届出、住所変更や扶養家族の変更の手続きなど、就業規則と社内の手順書に答えが書いてある質問は、人事・総務の問い合わせの大きな部分を占めます。就業規則は、後で説明するとおり、社員に周知することが法律で義務づけられている文書なので、AIに読ませる対象として扱いやすい文書です。

一方で、休職や復職、ハラスメント、家族の介護といった個別の相談は、文書に書いてある制度の案内まではAIに任せられても、その先の相談は担当者が受けるべきものです。AIへの指示で、個人の事情に関わる相談には答えず窓口を案内するよう決めておきます。

経理:経費精算、立替金、請求書の受け取り

交通費や接待費の精算ルール、領収書の提出期限、請求書をどの宛先で受け取るか、といった質問も、社内ルールの文書があれば答えが決まります。経費精算システムの操作方法も手順書を読ませれば案内できます。経理業務そのもののAI活用や、電子帳簿保存法との関係については経理のAI活用で解説しています。

研修:新入社員・中途入社・異動者の立ち上がり

入社や異動の直後は、誰に聞けばよいのか分からない、何度も同じことを聞くのは気が引ける、という理由で、質問できずに作業が止まることがあります。社内の基本的なルールや手続きをAIに聞ける状態にしておくと、新しく入った社員が自分のペースで調べられ、教える側の先輩社員が同じ説明を繰り返す時間も減ります。入社時の案内資料や、部署ごとの業務の手引きを読ませる文書に加えると、研修の補助として使えます。

顧客対応に広げる場合は、社内向けと分けて設計する

社内向けでうまくいったからといって、同じ仕組みをそのまま顧客向けの窓口に使うのはおすすめしません。社外向けでは、回答が顧客への約束として受け取られる可能性があり、読み込ませる文書も、社内向けの運用ルールではなく公開を前提にした情報に限る必要があります。社内向けの運用で文書の整え方や誤回答への対策を身につけてから、別の仕組みとして検討する順序が無理のない進め方です。

ヘルプデスクAIの種類とツールの選び方

社内ヘルプデスクをAI化する手段は、契約中の汎用生成AIの共有機能を使う方法、専用のAIヘルプデスク製品を契約する方法、APIを使って自社で構築する方法の3種類に分けられ、会社の規模と求める機能によって向く手段が変わります。先にこの3種類の違いを押さえてから、製品を比べると判断がぶれにくくなります。

3つの種類:汎用生成AIの共有機能・専用のAIヘルプデスク・自社での構築

1. 契約中の汎用生成AIの共有機能を使う
ChatGPT Businessのプロジェクト、Claude Teamのプロジェクト、Google WorkspaceのGeminiのGemなど、社内文書を読み込ませて社内で共有できる機能を使います。すでに法人向けプランを契約していれば追加の契約なしで試せる点が利点です。2026年9月17日に確認した各社ヘルプの範囲では、これらは文書を読ませて答えさせる機能として説明されており、問い合わせの受付や担当者への引き継ぎを管理する機能としての説明はありません。引き継ぎと記録は、運用で補う前提になります。

2. 専用のAIヘルプデスク製品を契約する
社内の問い合わせ対応に特化した製品です。たとえばPKSHA AIヘルプデスクは、問い合わせ窓口をMicrosoft Teamsに集約し、FAQによる自動応答、SharePoint Onlineの社内文書を参照した回答生成と参照元の提示、担当部署への有人連携の3段階で対応し、チケット管理機能で社内問い合わせを一元管理できると説明しています。Admina AIヘルプデスク(マネーフォワードi株式会社)は、Slack・Microsoft Teams・LINE WORKS上で動き、AIが対応できない場合は自動でオペレーターにエスカレーションすると説明しています。いずれも同社発表の内容で、料金は2026年9月17日時点で公式ページに金額の記載がなく、問い合わせまたは個別見積もりとなっています。

3. APIを使って自社で構築する
生成AIのAPIと社内のシステムを組み合わせて、自社専用の仕組みを作る方法です。画面や連携先を自由に設計できる一方で、開発と保守を担う人手が必要で、利用量に応じた費用の管理も自社で行うことになります。専任の開発者がいない会社が最初に選ぶ手段としては負担が大きくなります。

規模別の目安:社員10〜50名程度で、まず効果を確かめたい段階なら1の汎用生成AIの共有機能から始め、問い合わせの受付と引き継ぎの記録を仕組みで管理したくなった段階で2の専用製品を検討する、という順序が無理のない進め方です。3の自社構築は、既存の社内システムとの深い連携が必要な場合に候補になります。

ツールの選び方|日本語の精度・RAG・既存ツール連携・セキュリティ・費用の5つの観点

製品や手段を比べるときは、次の5つの観点で確認します。宣伝文句より、自社の実際の質問で試した結果と、契約書や公式ヘルプに書いてある条件を優先します。

  1. 日本語の回答精度:自社の問い合わせ記録から実際の質問を20〜30件選び、同じ文書を読ませた状態で答えさせて比べます。社内の略語や部署名、雇用区分による条件の違いを正しく扱えるかが、デモ画面では分からない差になります。
  2. RAG(文書の読み込み方):読み込ませられるファイルの形式と数、文書を差し替える手間、回答に参照元が表示されるか、部署ごとに見せる文書を分けられるかを確認します。
  3. 既存ツールとの連携:社員が普段使っているチャットツールから質問できるか、文書を置いている場所(Google ドライブ、SharePointなど)と連携できるかを確認します。
  4. セキュリティ:入力や文書が学習に使われない契約か、データの保存場所と保持期間、利用者ごとの権限、管理者が利用状況を確認できるかを確認します。詳しくは後述の章で扱います。
  5. 費用:1ユーザーあたりの課金か会社単位の課金か、初期費用、最低契約期間、利用量の上限に達したときの扱いを確認します。問い合わせをする社員全員が利用者になるため、1ユーザーあたりの課金では社員数に比例して費用が増える点に注意します。

TeamsやSlackなどチャットツールとの連携

社内ヘルプデスクAIが使われ続けるかどうかは、質問するまでの手間に大きく左右されます。普段使っていない画面を開きに行く必要がある仕組みは、忙しいときほど使われず、結局は担当者に直接聞く流れに戻りがちです。社員が日常的に使っているTeamsやSlackから質問できる製品は、この点で有利です。

公開情報では、PKSHA AIヘルプデスクはTeams上に問い合わせチャネルを集約し、Teamsアカウントを持っていない場合でもWebサイトや社内サイトのチャット窓口から問い合わせできると説明しています。Admina AIヘルプデスクはSlack・Teams・LINE WORKSとの連携を実装済みとしています(いずれも同社発表)。汎用の生成AIでは、ChatGPTのプロジェクトのヘルプに、アプリのリンクとしてGoogle Drive(ファイルとフォルダ)とSlack(チャンネル)が挙げられています。

連携するときは、AIがチャットツールのどのチャンネルやファイルを読めるようになるかを必ず確認してください。雑談や個別のやり取りを含むチャンネルを丸ごと読ませると、社員が見るべきでない発言が回答に混ざるおそれがあります。

おすすめツールの比較一覧と料金の調べ方

この記事では、製品を順位付けしたおすすめ一覧は作りません。社内ヘルプデスク向けの専用製品は料金を公開していないものが多く、同じ製品でも社員数や連携先によって見積もりが変わるため、一覧の金額を比べても自社の費用にはならないためです。法人向け生成AIサービスの料金と機能の比較は、法人向け生成AI 38サービスの料金比較にまとめています。

料金を公開していない製品に問い合わせるときは、次の項目をまとめて聞くと、見積もりを受け取ってから条件の違いに気づく手戻りを減らせます。

  • 料金の単位(1ユーザーあたり、問い合わせ件数あたり、会社単位のいずれか)と、質問するだけの社員も課金対象になるか
  • 初期費用、最低契約期間、途中で利用者数を減らせるか
  • 利用量の上限と、上限に達したときに停止するのか追加料金になるのか
  • 読み込ませた文書と質問内容が学習に使われないことの契約上の記載
  • データの保存場所と保持期間、退会時の削除
  • 管理者が確認できる利用ログの項目と、書き出しの可否

契約中のChatGPT・Claude・Geminiで小さく始める手順

すでにChatGPT Business、Claude Team、Google WorkspaceのGeminiのいずれかを会社で契約しているなら、専用製品を検討する前に、1部署・1テーマの文書を読ませた共有スペースを作り、2〜4週間試すことができます。ここでは各社の公式ヘルプに書かれている仕様をもとに、試すときの手順と注意点をまとめます。

※この章の上限値・共有範囲・学習利用の記載は、2026年9月17日時点で各社の公式ヘルプ(OpenAI・Anthropic・Google)に記載されている内容です。仕様は変更されることがあるため、設定前に各社のヘルプで最新の内容をご確認ください。

ChatGPT Business:プロジェクトに規程を入れてワークスペース内で共有する

ChatGPTのプロジェクトは、ファイルと指示とチャットをまとめておける作業場所です。OpenAIのヘルプによると、Business・Enterprise・Eduのユーザーはプロジェクトをチームメイトと共有でき、PDF、スプレッドシート、ドキュメント、画像をアップロードするか、テキストを貼り付けて参考資料として追加できます。

  1. プロジェクトを作る:「総務の質問(休暇・届出)」のように、テーマが分かる名前を付けます。1つのプロジェクトに全社の文書を詰め込まず、テーマごとに分けます。
  2. 文書を追加する:Businessでは1つのプロジェクトで使えるファイルは合計40個まで、一度にアップロードできるファイルは10件までです。1ファイルあたりの容量の上限はこのヘルプ記事に記載がありません。
  3. 指示を書く:後述の、出典を付けさせる指示文を設定します。
  4. 共有する:招待できるのは自分のワークスペース内のメンバーのみで、権限は「編集」と「チャット」の2段階です。試用に参加する社員はチャット権限、文書を管理する担当者は編集権限にします。ワークスペースリンクから招待されたユーザーは、デフォルトではチャット権限で参加します。1つのプロジェクトに参加できる人数は、招待方法にかかわらず合計100人までです。
  5. 運用の注意:共有プロジェクトでファイルを削除すると、全員のプロジェクトから削除されます。文書を差し替えるときは、新しい版を追加してから古い版を削除する順にすると、差し替えの途中で回答の根拠がなくなる時間を作らずに済みます。

データの扱いについて、ヘルプには、Business・Enterprise・Eduのお客様についてはプロジェクトからアクセスした情報をデフォルトではモデルのトレーニングに使用しないこと、プロジェクトで作成されたメッセージはワークスペースに設定された保持期間とレジデンシー地域を継承することが記載されています。

文書をアップロードする代わりに、社内の既存の保存場所を検索させる方法もあります。ChatGPTの社内ナレッジは、Business・Enterprise・Eduで利用できるプラグインで、メッセージ入力欄に@社内ナレッジと入力するか、ツールメニューから選んで使います。ヘルプによると、社内ナレッジでは接続済みソースのアクセス権限が適用され、ChatGPTがアクセスできるのは各ユーザーにすでに閲覧が許可されている情報のみです。裏を返せば、元の保存場所で共有範囲が広すぎる文書は、その範囲の社員に回答として表示されうるということです。また、ChatGPT Businessではアプリがデフォルトで有効になっていると記載されているため、試す前に管理者が接続状況を確認しておきます。

Claude Team:プロジェクトを組織内の個人または全体に共有する

Claudeのプロジェクトは、チャットと知識(ナレッジ)をまとめる作業場所です。AnthropicのヘルプによるとTeamとEnterpriseのプランでは、プロジェクトを組織内のメンバーと共有できます。

  1. プロジェクトを作り、知識に文書を追加する:プロジェクトへのアップロードは1ファイル30MBまでとヘルプに記載されています。ファイル名は内容が分かるものにします。Anthropicのヘルプも、分かりやすく内容を表すファイル名を使うことを勧めています。
  2. 共有範囲を選ぶ:メールアドレスで特定のメンバーに共有する方法と、組織の全員が使えるように共有する方法があります。試用の段階では、参加する社員を個別に指定します。
  3. 権限を分ける:閲覧権限(Can view)のメンバーはプロジェクトの内容・知識・指示を見てプロジェクト内でチャットできますが編集はできず、編集権限(Can edit)のメンバーは指示と知識の変更やメンバーの追加・削除ができます。
  4. 管理者の設定を確認する:オーナーまたはプライマリオーナーが公開プロジェクトを無効にしている場合、組織全体への共有はできません。

運用上の注意として、ヘルプには、プロジェクト内のチャット同士で文脈は共有されず、共有したい情報はプロジェクトの知識に追加する必要がある、と書かれています。担当者がチャットで補足した内容を他の社員の回答にも反映させたい場合は、補足を文書にして知識に追加します。知識の量がコンテキストの上限に近づくと、有料プランでは自動でRAGのモードに切り替わり、容量が最大10倍に広がると同社ヘルプに記載されています。ファイル数に上限はないものの、内容の合計がコンテキストの上限に収まる必要があり、プロジェクトのファイルは文字だけが読み取られる(マルチモーダルPDFを除く)と同社ヘルプに記載されています。Teamプランは料金ページで、コンテンツをデフォルトではモデルのトレーニングに使用しないと示されており、2〜150名のチーム向けとされています。Claudeの機能全体はClaudeとはで解説しています。

Google WorkspaceのGemini:Gemに文書を持たせて共有する

Gemは、繰り返しの作業に合わせてカスタマイズしたGeminiで、指示とファイルを持たせて共有できます。Googleのヘルプに記載されたウェブでの作成手順は、gemini.google.comを開き、左側の「Gem を表示」から「Gem を作成」を選び、名前と指示を入力し、ファイルをアップロードして、右側のプレビューで確認してから「保存」を押す流れです。プレビューを使っただけではGemは自動的に保存されない点に注意します。

共有の前に必ず知っておきたいのは、Gemにアップロードした指示とファイルは、Gemにアクセスできるすべてのユーザーが閲覧できるという点です。Googleのヘルプも、ファイルを表示してほしくないユーザーとはGemを共有しないよう注意しています。つまり、Gemに入れた文書は、質問への回答としてだけでなく、ファイルそのものとして共有相手に見えると考えて、読ませる文書を選びます。

Workspaceでは、共有されたGemはGoogle ドライブに保存され、ドライブの共有設定がGemにも適用されます。組織内のユーザーに組織外へのドキュメント共有を許可している場合、そのユーザーはGemも組織外に共有できる、と管理者向けヘルプに記載されています。管理者は管理コンソールでGemの共有を無効にでき、変更の反映には最長で24時間ほどかかることがあります。また、アップロードしたファイルを含むGemは、そのファイルがデバイスのファイルかGoogle ドライブのファイルの場合にのみ共有できます。

データの扱いについて、Googleの管理者向けヘルプには、対象となるWorkspaceエディションでGeminiアプリを使うユーザーのコンテンツは、人間によってレビューされることも、許可なくドメイン外で生成AIモデルのトレーニングに使用されることもない、と記載されています。仕事用アカウントの会話履歴はデフォルトで18か月保存され、管理者は3か月・18か月・36か月から選ぶか、履歴をオフにできます。Gemの知識に入れられるファイル数や容量の上限は、公式ヘルプで確認できませんでした。Geminiの基本操作はGeminiの使い方で解説しています。

カスタムGPTを新しく作る方法をおすすめしない理由

ChatGPTで社内ヘルプデスクを作る方法として、カスタムGPTにマニュアルを持たせる手順が紹介されることがあります。しかしOpenAIのヘルプ「GPT の作成と編集」には、カスタムGPTの提供終了を予定しており、ワークフローをプラグインに移行することをおすすめする、と記載されています。対象となるEnterpriseワークスペースでは2026年12月11日に提供終了を予定し、その他のプランも同じスケジュールに従う予定とされています(2026年9月17日時点)。

これから社内ヘルプデスクを試すのであれば、提供終了が予告されている機能の上に運用を組み立てるより、前述のプロジェクトや社内ナレッジで試すほうが、後で作り直す手間を避けられます。

試した結果から専用製品や別の基盤に移るかを判断する基準

汎用生成AIの共有機能で2〜4週間試したら、次の項目に当てはまるかを確認します。当てはまる項目が多いほど、次の段階を検討する時期に来ています。担当者への引き継ぎ、TeamsやSlackからの質問、部署ごとの出し分けが必要な場合は専用のAIヘルプデスク製品が検討先になり、社員全員に使わせる費用や、誰が何を聞いたかを会社として把握することが課題の場合は、利用ログや権限を管理できる法人向けのAI基盤が検討先になります。

  • 答えられなかった質問を、担当者へ確実に引き継ぐ仕組みが必要になった回答末尾の窓口案内だけでは、引き継ぎ漏れや同じ質問の聞き直しが目立つようになった場合です。
  • TeamsやSlackから直接質問させたいAIの画面を別に開く手間のために、利用が伸びない場合です。
  • 部署や役職ごとに、見せる文書を分けたい共有スペースを部署の数だけ作ると、文書の差し替えが追いつかなくなった場合です。
  • 誰がいつどのように使ったかを、会社として一覧で確認したい利用状況の把握や、誤回答の追跡のために記録が必要になった場合です。
  • 質問する社員全員に利用者の席を配ると、費用が見合わない1ユーザーあたりの課金で、質問する頻度の低い社員にも席が必要になる場合です。

導入の5ステップ|現状把握から改善まで

社内ヘルプデスクAIの導入は、問い合わせの現状を数える、読ませる文書を整える、限られた部署で検証する、全社に広げる、ログを見て改善する、の5つのステップで進めると、途中で止まりにくくなります。ツールの契約は、ステップ1と2を終えてから決めても遅くありません。

ステップ1 現状把握:問い合わせ記録テンプレートで2週間数える

問い合わせ管理のシステムを使っていない会社では、社内の問い合わせがメール、チャット、電話、口頭に分散していて、件数も内容も記録に残っていないのが普通です。この状態でAIを入れると、どの分野から始めるべきか、導入後に効果があったのかが判断できません。まず2週間、担当者が受けた問い合わせを表計算ソフトに1件1行で記録します。

記録する列は、次の10項目を目安にしてください。1件あたり1分以内で書ける粒度にすることが、2週間続けるための条件です。

  1. 受付日:問い合わせを受けた日付
  2. 経路:メール、チャット、電話、口頭のいずれか
  3. 質問者の部署:個人名は書かず、部署名だけにします
  4. 質問の要約:「慶弔休暇は祖父母の場合も取れるか」のように1行で。個人名、病名、給与額などの個別の事情は書きません
  5. カテゴリ:休暇、手当、届出、経費、パソコン、アカウント、その他など、あらかじめ10個程度に決めておきます
  6. 回答した人:担当者の名前または役割
  7. 対応にかかった時間:調べる時間を含めた分数の目安
  8. 根拠にした文書:就業規則の第何条、手順書の名前など。文書を見ずに答えた場合は「記憶」と書きます
  9. 文書に答えがあったか:あり、なし、古い(文書と実際の運用が違う)の3択
  10. AIに任せられそうか:○(文書どおり答えればよい)、△(条件の確認が必要)、×(個別の判断や相談)の3択

※表計算ソフトの1行目にそのまま貼れる見出しの例:受付日、経路、質問者の部署、質問の要約、カテゴリ、回答した人、対応時間(分)、根拠にした文書、文書に答えがあったか、AIに任せられそうか

2週間分がたまったら、カテゴリ別の件数と、各カテゴリで「文書に答えがあった」かつ「○」の件数を数えます。最初にAI化するテーマは、件数が多く、文書に答えが書いてあり、個人の事情に踏み込まないカテゴリを1つだけ選びます。「文書に答えがなかった」や「古い」が多いカテゴリは、AIの前に文書を直す必要があることを示しています。この記録は、後で効果を測るときの導入前の基準値にもなります。

ステップ2 ナレッジ整備:既存FAQやマニュアルの整備と古い情報の排除

選んだテーマについて、AIに読ませる文書を整えます。人が読めば分かる文書でも、AIが誤読しやすい書き方は少なくありません。IPA産業サイバーセキュリティセンター中核人材育成プログラムの受講者が卒業プロジェクトとしてまとめた「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月・IPAの見解を代表しないと明記)も、RAGの回答精度を下げる情報の例として、ノイズが含まれる情報、重複した情報、最新版ではない古い情報を挙げています。次のチェックリストで、文書を1つずつ確認してください。

  • 古い版を読ませる文書の置き場所から外す改定前の就業規則と改定後の就業規則が両方あると、AIはどちらを根拠にしてもおかしくありません。読ませる場所には最新版だけを置き、旧版は別の場所で保管します。
  • 施行日と版を本文の先頭に書くファイル名だけでなく、本文の1行目に「2026年4月1日施行」のように書いておくと、回答に施行日を添えさせることができ、社員も古い情報かどうかを判断できます。
  • 雇用区分や部署ごとの例外を本文に書く正社員とパートタイマーで扱いが違う、営業部だけ別の締め日がある、といった例外が担当者の頭の中にしかないと、AIは原則だけで答えます。
  • 社内の略語と正式名称の対応表を用意する「有休」と「年次有給休暇」、部署の略称、社内システムの呼び名などを1枚の表にして文書に加えると、言い回しの違う質問に答えやすくなります。
  • 表や画像だけで伝えている情報を文章にする申請の流れを図だけで示している場合や、手順を画面の画像だけで説明している場合は、文章の説明を添えます。OpenAIのヘルプも、可能な場合は明確でテキスト中心のファイルを優先するよう勧めています。
  • 1ファイル1テーマにし、ファイル名で内容が分かるようにする「規程集_全部.pdf」ではなく「休暇規程_2026年4月施行.pdf」のように分けると、回答の出典としても分かりやすくなります。
  • 文書の末尾に問い合わせ先を書くその文書で解決しない場合の担当窓口を末尾に書いておくと、AIが答えられないときの案内先として使えます。

文書を整える作業の中で、規程の書き方が曖昧な箇所や、規程と実際の運用が食い違っている箇所が見つかることがあります。AIに読ませる前にこれらを解消しておくことは、AIの回答のためだけでなく、会社の規程そのものの手入れにもなります。

ステップ3 パイロット部門で検証する(PoC)

整えた文書を読ませた共有スペースを作り、1つの部署の5〜10名程度で2〜4週間試します。いきなり全社に公開すると、初期の誤回答が一度に広がり、AIは当てにならないという印象が残って、改善した後も使われにくくなります。

検証の最初に、ステップ1の記録から実際の質問を30件選び、担当者がAIに質問して回答を採点します。採点の観点は、内容が文書と一致しているか、出典が正しく示されているか、文書に答えがない質問に対して推測で答えず窓口を案内できたか、の3つです。この採点で誤りが多ければ、多くの場合は指示文より文書の側に原因があるため、ステップ2に戻って文書を直します。

パイロット期間中は、参加した社員に、回答が役に立ったか、担当者に聞き直したか、をごく簡単に記録してもらいます。後で説明する指標の計算に使います。

ステップ4 全社展開:質問してよい範囲と入口をそろえる

パイロットで回答の質を確認できたら、対象を全社に広げます。展開のときは、社員向けに1枚の案内を用意し、次の4点を明記します。

  • どこから質問するか(使う画面やチャンネル)
  • AIに質問してよい内容と、担当者に直接相談すべき内容
  • AIの回答は文書の案内であって承認ではないこと、出典を確認すること
  • AIが答えられなかったときの担当窓口と連絡方法

展開の直後は、従来の問い合わせ窓口もしばらく並行して残します。AIに聞いても分からなかった社員の行き場がなくなると、不満が仕組みそのものに向かうためです。テーマを増やすときも、1テーマずつステップ2と3を繰り返します。

ステップ5 問い合わせ履歴とログを分析して改善する

運用を始めたら、週に1回15〜30分、AIへの質問の履歴と担当者への問い合わせの記録を見直します。見るのは次の3種類です。

  • AIが答えられなかった質問:文書に書き足すか、新しい文書を追加します。
  • 出典が違っていた回答や、内容が文書と食い違っていた回答:古い版が残っていないか、似た内容の文書が重複していないかを確認します。
  • AIに聞いた後で担当者にも同じ内容が届いた質問:回答が分かりにくかった可能性があるため、文書の書き方を見直します。

月に1回は、次の章で説明する指標を計算し、導入前の基準値と比べます。規程の改定があった月は、改定の当日にAIの文書も差し替えることを運用ルールに入れておきます。

読ませてよい文書と読ませない情報の線引き

社内ヘルプデスクのAIに読ませるのは、質問する社員の全員が見てよい文書に限り、特定の個人に結びつく情報や、閲覧できる人を限っている情報は読ませない、という線を最初に引きます。AIは読ませた文書の内容を、質問の仕方によっては誰にでも回答として表示しうるため、読ませた時点で共有範囲の全員に公開したのと同じと考えるのが安全です。

読ませてよい文書の筆頭は就業規則

就業規則は、労働基準法第106条で、使用者が労働者に周知させなければならない文書として定められています。条文は、使用者は就業規則などを常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することなどの方法で労働者に周知させなければならない、としています。社員が内容を知っている状態が法律上求められている文書なので、社内向けのヘルプデスクAIに読ませる対象として扱いやすい文書です。

ただし、第106条が周知を求めているのは、就業規則のほか、法令の要旨や条文で指定された労使協定・決議などで、社内規程のすべてが対象になっているわけではありません。就業規則以外の規程や手順書は、社内でどの範囲に公開しているかを文書ごとに確認し、全社員に公開しているものだけを読ませます。

文書と情報の区分表

区分文書・情報の例社内ヘルプデスクAIでの扱い
全社員に周知・公開している文書就業規則、各種申請の手順書、パソコンやアカウントの設定マニュアル、社内のよくある質問、入社時の案内資料読ませてよい。最新版だけを置き、施行日を本文に書く
閲覧する人を限っている文書管理職向けの運用基準、公表前の制度改定案、役員会の資料、取引条件や価格表全社向けのスペースには読ませない。対象者だけのスペースで扱うかを、その文書の管理者と別に判断する
特定の個人に結びつく情報給与額、人事評価、健康診断の結果、休職や復職の記録、個別の労務相談やハラスメント相談の記録読ませない。質問を受けたら担当窓口を案内させる
法律で利用できる範囲が限られている情報マイナンバー(個人番号)読ませない。質問の入力にも含めないよう社員に案内する
社外の人の情報取引先担当者の連絡先、顧客名簿、応募者の情報社内ヘルプデスクには読ませない

個人情報を読ませない根拠:個人情報保護委員会の注意喚起とAI事業者ガイドライン

個人情報保護委員会は2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報取扱事業者に向けて、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。あわせて、本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとして、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう注意を促しています。この注意喚起は生成AIの利用を禁止するものではありませんが、社内ヘルプデスクという用途で、社員の個人データを読ませる必要がある場面は、ほとんど考えられません。

総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版・2026年3月31日。2026年9月時点の最新版)も、AIを業務で利用する事業者(AI利用者)に対して、AIシステム・サービスへ個人情報や機密情報等を不適切に入力することがないよう注意を払うことを求めています。

マイナンバーについては、個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」が、事業者が個人番号を利用できる事務は番号法で限定的に定められており、本人の同意があっても、例外を除いてそれ以外の事務で利用してはならない、と説明しています。同ガイドラインに生成AIについての記載があるわけではありませんが、利用できる範囲が制度として限られている情報なので、社内ルールとしてAIには読ませず、入力もしない扱いにしておきます。

共有範囲の設定を、文書を読ませる前に確かめる

前の章で見たとおり、共有の仕組みはサービスによって違います。GeminiのGemでは、アップロードしたファイルそのものが、Gemにアクセスできる全員に閲覧できる状態になります。ChatGPTの社内ナレッジでは、接続した保存場所のアクセス権限がそのまま適用されるため、元の保存場所で共有範囲が広すぎるファイルは、その範囲の社員に回答として表示されえます。

したがって、社内の保存場所をAIに接続する前に、共有ドライブやフォルダの共有設定を棚卸しすることが欠かせません。全社員が閲覧できる設定になっているフォルダに、人事評価の表や給与の一覧が紛れ込んでいないかを確認し、見つかった場合はAIの導入より先に共有設定を直します。

個別の相談は、AIではなく担当者の窓口に分ける

休職や復職、ハラスメント、家族の介護や病気に関わる相談は、制度の概要を文書で案内することはできても、その先は担当者が個別に受けるべきものです。社員が個人の事情をAIの質問欄に書き込むと、その内容が利用履歴に残ります。AIへの指示で、個人の事情を含む相談には答えずに担当窓口を案内するよう設定するとともに、社員向けの案内でも、個別の相談は最初から担当者に連絡するよう明記しておきます。

読ませる文書の線引きは、現場でなく会社の環境で守る

読ませてよい文書の判断を現場ごとに任せると、同じ規程でも部署によって扱いが変わります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

誤回答(ハルシネーション)のリスクと対策

社内文書を読ませても誤回答はなくならないため、回答に出典を付けさせる、文書にないことは推測で答えさせない、答えられない質問を人に引き継ぐ、の3つを組み合わせて、誤回答が起きたときの影響を小さくします。生成AIがもっともらしい誤りを出す現象はハルシネーションと呼ばれ、デジタル庁の「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」も、同庁AI班の職員数を生成AIに聞くと根拠のない事実と異なる人数を回答することがある、という例で説明しています。

社内ヘルプデスクで誤回答が起きやすい4つの場面

  • 古い版と新しい版の文書が両方ある:改定前の規程を根拠に答えてしまいます。ステップ2の整理で防ぎます。
  • 文書に書かれていない質問:一般的な知識や他社の例で補って、自社の規程のように答えてしまうことがあります。指示文で、文書にない場合は答えないよう指定します。
  • 雇用区分や勤続年数で条件が分かれる:原則の条件だけで答え、例外に当たる社員に誤った案内をすることがあります。文書に例外を明記し、指示文で条件を明示させます。
  • 名前の似た制度や手続きがある:特別休暇と慶弔休暇、立替精算と仮払いのように、名前の近い制度を取り違えることがあります。略語と正式名称の対応表で区別を助けます。

回答に根拠や参照元を示させる:出典を付けさせる指示文の例

回答に出典が付いていれば、社員は元の文書を開いて確認でき、担当者も誤回答の原因をたどれます。デジタル庁のガイドブック(α版・2024年6月)は、行政職員を主な読者とする参考資料ですが、既存の情報検索を生成AIで改善する例の中で、回答結果の要約や解説について、利用者が元の文章を確認できるよう引用元の情報の明記が望ましい、と記載しています。サービス提供側でも、OpenAIのヘルプは社内ナレッジの回答について、情報を利用する前に回答と提示されたソースへのリンクを確認するよう案内し、AnthropicのヘルプもClaudeが示した出典を利用者が確認するよう求めています。

ChatGPTのプロジェクト、Claudeのプロジェクト、GeminiのGemのいずれでも、指示欄に次のような文章を設定できます。自社の窓口名や内線番号に置き換えて使ってください。

指示文の例(社内ヘルプデスク用)
あなたは、社内の休暇・届出・経費・パソコンに関する社員の質問に答える案内役です。次のルールを必ず守ってください。
1. 回答は、このスペースに入っている文書に書かれている内容だけを根拠にしてください。一般的な知識や他社の例で補わないでください。
2. 回答の最後に、根拠にした文書名と、条・項・見出しを「出典:」として書いてください。複数の文書を使った場合はすべて書いてください。
3. 文書に書かれていない内容や、文書の記載だけでは判断できない内容は、推測で答えず、「文書に記載が見つかりません。総務の窓口(内線000)にお問い合わせください。」と答えてください。
4. 雇用区分、勤続年数、部署によって扱いが分かれる場合は、どの条件の場合の答えかを明記し、質問者の条件が分からなければ条件ごとに分けて答えてください。
5. 文書に施行日が書かれている場合は、回答に施行日を添えてください。
6. 給与額、人事評価、健康状態、家族の事情など、個人の事情に関わる相談には答えず、担当窓口を案内してください。
7. 申請の承認や、例外として認められるかどうかの判断はしないでください。判断が必要な場合は、担当者に確認するよう案内してください。

指示文を設定したら、ステップ3の30件の質問で、出典が本当にその文書のその箇所を指しているかを確認します。出典の表示そのものが誤っていることもあるため、出典が付いていることと、出典が正しいことは別に確かめます。社員向けには、出典の付いていない回答や、出典を開いて内容が確認できない回答は、そのまま手続きに使わず担当者に確認する、というルールを案内に書いておきます。

AIで答えられない問い合わせの有人エスカレーションとAIと人の分担

AIと担当者の分担は、AIが文書に書いてあることの案内を受け持ち、人が判断・例外・個別の事情・承認を受け持つ、と決めるのが基本です。この線を社員向けの案内と指示文の両方に書いておくと、AIが判断まで踏み込む回答を減らせます。

AIが答えられなかった質問を人に渡す方法は、仕組みによって違います。汎用生成AIの共有機能で小さく始める場合は、指示文で回答の末尾に担当窓口を案内させ、社員が自分で連絡する形になります。この形では、担当者に届いた時点でAIに何を聞き、何と答えられたかが分からないため、社員に、AIへの質問と回答を添えて連絡してもらうよう案内すると、同じことを聞き直す手間が減ります。

専用製品では、引き継ぎを仕組みとして持つものがあります。Admina AIヘルプデスクはFAQで、AIが対応できない場合は自動でオペレーターにエスカレーションし、エスカレーションの前でも管理画面から担当者が会話に入って担当を割り当てられる、と説明しています。PKSHA AIヘルプデスクは、AIとの対話で解決できない質問を担当部署へ有人連携し、チケット管理機能で一元管理できると説明しています(いずれも同社発表)。引き継ぎ漏れが問題になり始めたら、こうした機能を持つ製品を検討する時期です。

KPIと効果測定|指標の分母と分子を先に決める

ヘルプデスクAIの効果は、導入前に同じ定義で基準値を取っておかなければ比べられないため、自己解決率や問い合わせ件数といった指標ごとに、何を分子にし何を分母にするかを先に決めてから運用を始めます。指標の名前だけを決めて定義を決めないと、担当者が変わったときに数え方が変わり、数字の上下が効果なのか数え方の違いなのか区別できなくなります。

社内ヘルプデスクAIで使う6つの指標と計算式

  1. 担当者への問い合わせ件数(週あたり)
    数え方:1週間に担当者がメール・チャット・電話・口頭で受けた社内の問い合わせの件数。
    基準値:ステップ1の2週間の記録を週あたりに直した数。導入後も同じ記録方法で、同じ長さの期間を数えて比べます。
  2. 自己解決率
    分子:AIに質問した件数のうち、その後、同じ内容で担当者への問い合わせがなかった件数。
    分母:同じ期間にAIに質問した件数。
    AIの利用履歴と担当者の記録を突き合わせるのが難しい場合は、パイロット期間中に社員に「担当者にも聞いたか」を記録してもらう方法や、月1回の簡単なアンケートで代わりにします。
  3. 回答不能率
    分子:AIが「文書に記載が見つかりません」と答えた件数。
    分母:同じ期間にAIに質問した件数。
    文書の穴の大きさを表す指標で、ステップ5で文書を足していくと下がっていくはずの数字です。
  4. 出典一致率
    分子:確認した回答のうち、出典が正しく、回答の内容が出典の記載と一致していた件数。
    分母:担当者が確認した回答の件数。
    パイロット時の30件の採点や、月1回の抜き取り確認で使います。
  5. 担当者の一次解決率
    分子:担当者が受けた問い合わせのうち、最初の返答で完結した件数。
    分母:担当者が受けた問い合わせの件数。
    AIが簡単な質問を引き受けると、担当者に届く質問は難しいものに偏るため、この数字は下がることがあります。下がったこと自体を失敗と見なさないよう、他の指標とあわせて読みます。
  6. 担当者の対応時間(週あたり)
    数え方:1週間に担当者が社内の問い合わせ対応に使った時間の合計。ステップ1の記録の「対応にかかった時間」を合計した値を基準値にします。

数字を読むときの3つの注意

件数の減少だけで判断しない。担当者への問い合わせが減っても、社員がAIの回答に納得できず、聞くこと自体をあきらめた結果である可能性があります。問い合わせ件数は、自己解決率や回答不能率、社員へのアンケートとあわせて読みます。

時期の違いを考える。年末調整や入社の時期は問い合わせが増えます。導入前の基準値を取った時期と、導入後に比べる時期の繁忙の差を考慮し、可能なら前年の同じ時期の記録とも比べます。

製品が示す数字と直接比べない。製品の説明には効果の目安が載っていることがあります。たとえばAdmina AIヘルプデスクはFAQで、導入直後は約20%程度の自己解決率で、1〜2か月の学習・ナレッジ整備を経て40〜45%、その後の人手によるチューニングと自己学習を経て約60%になると説明しています(同社発表)。こうした数字は、ナレッジを整備していく過程で数字が段階的に変わるという目安としては参考になりますが、算定の条件は製品や導入企業によって異なるため、自社の定義で測った数字と直接比べることはできません。自社の基準値からどれだけ変わったかで判断します。

導入事例の読み方と、社員50名の会社の想定例

公開されているヘルプデスクAIの導入事例は大企業のものが多く、効果の数字は発表した企業の説明なので、社員10〜200名の会社が参考にするときは、数字ではなく、どの順番で何を仕組みにしたかという設計の型を読み取ります。

公開情報から読み取れる、共通する設計の型

ここまでに取り上げた専用製品の公開情報を並べると、共通する流れが見えてきます。PKSHA AIヘルプデスクは、FAQで答える、社内文書を参照して参照元とともに答える、解決しない質問を担当部署に渡す、の3段階を示し、対話ログからFAQにすべきナレッジを作る流れも挙げています。Admina AIヘルプデスクは、AIが回答し、対応できない場合は担当者に引き継ぎ、途中から担当者が会話に入れる設計を示しています(いずれも同社発表)。

共通しているのは、文書を根拠に答える、答えられない質問を人に渡す、人が答えた内容を文書に戻す、という3つの輪が回る設計になっている点です。汎用の生成AIで小さく始める場合も、この輪のうち、人に渡す部分と文書に戻す部分を、運用ルールと週1回の見直しで補えば、同じ型を再現できます。

社員50名の会社の想定例(説明のための架空の例)

次の例は、この記事の手順を具体的に想像しやすくするための架空の設定で、実在の会社の事例ではありません。効果の数字も示しません。

社員50名、総務と人事を1名の担当者が経理と兼務している会社で、ChatGPT Businessを全社員分ではなく一部の社員分だけ契約しているとします。

  1. 1〜2週目:担当者が問い合わせ記録テンプレートで2週間記録します。休暇に関する質問が多く、その大半は就業規則に答えがあったものの、慶弔休暇については規程と実際の運用が違っていることが分かります。
  2. 3週目:最初のテーマを休暇に決め、就業規則の休暇の章と休暇申請の手順書を最新版に整理します。慶弔休暇の対象範囲は、社内で決め直して規程の表記を直してから読ませます。社内略語の対応表も作ります。
  3. 4週目:プロジェクトを作って文書と指示文を設定し、担当者が記録から選んだ30件の質問で採点します。出典が違っていた回答の原因は、休暇規程の旧版が混ざっていたことだと分かり、旧版を外します。
  4. 5〜7週目:ChatGPT Businessの席がある営業部の8名で試用します。答えられなかった質問は週1回15分で見直し、文書に追記します。
  5. 8週目以降:全社に広げたいものの、質問する社員全員に席を配ると費用が見合わないことと、誰が何を聞いたかを会社として把握したいことが課題になり、前述の判断基準に沿って、専用製品や社内向けのAI基盤の検討を始めます。

この例のように、汎用の生成AIで試す期間は、ツールを選ぶための期間であると同時に、文書と運用ルールを整える期間でもあります。どのツールに移っても、整えた文書と記録の方法はそのまま使えます。

セキュリティとデータの扱い|会社で安全に使うには

社内文書を読ませるヘルプデスクAIを会社で安全に使うには、学習利用の有無、データの保存場所と保持期間、誰がどの文書を見られるかというアクセス権限、誰がいつどう使ったかの利用ログ、の4点を会社として確認できる状態にしてから、利用を広げます。加えて、社員への配り方と、複数のAIをどう使い分けるかも、運用の安全性に関わります。

学習利用の有無:法人向けの契約で、社員の個人アカウントを使わせない

各社の公式ヘルプや料金ページでは、法人向けプランについて、入力や文書をデフォルトでモデルの学習に使わないことが示されています。ChatGPT Businessについては、OpenAI Business TermsとEnterprise Privacyの確約事項が適用され、ワークスペースのデータをトレーニングに使用しないとヘルプに記載されています。Claude Teamは料金ページでデフォルトではトレーニングに使用しないと示され、Google Workspaceの対象エディションでは、コンテンツが許可なくドメイン外で生成AIモデルのトレーニングに使用されることはないと管理者向けヘルプに記載されています。

一方、個人向けのプランでは、学習への利用は利用者自身の設定に左右されます。社員が善意で、自分の個人アカウントに就業規則を読ませて同僚の質問に答えていた、という状態は、会社が把握していない利用、いわゆる野良AIの一つです。社内ヘルプデスクを会社の契約で用意することは、こうした個人アカウントでの利用を減らす手段にもなります。野良AIの実態と対策は野良AI(シャドーAI)対策で解説しています。

保存場所と保持期間:どこに、どれだけの期間残るか

社員の質問と回答の履歴は、サービスの設定に従って保存されます。ChatGPTのプロジェクトのメッセージは、ワークスペースに設定された保持期間とレジデンシー地域を継承するとヘルプに記載されています。Google WorkspaceのGeminiでは、仕事用アカウントの会話履歴はデフォルトで18か月保存され、管理者が期間を変更できます。Anthropicのプライバシーセンターの商用製品向けの記事には、データは米国に保存されると記載されています。

社員が質問欄に個人の事情を書き込んだ場合、その内容もこの保持期間のあいだ履歴に残ります。前の章の線引きで個別の相談をAIの対象外にしておくことは、保存される情報を減らすことにもつながります。

アクセス権限:部署ごとに見せる文書を分けるときの考え方

汎用生成AIの共有機能では、共有スペースごとに参加者を決めるため、部署や役職で見せる文書を分けたい場合は、スペースを分けて参加者を絞ることになります。スペースが増えると、同じ文書を複数のスペースで差し替える手間が増え、差し替え漏れによる誤回答の原因にもなります。全社員向けのスペースは1つにし、閲覧を限る文書は、本当にAIで答える必要があるかを文書ごとに判断してから、対象者だけのスペースを作るようにします。

既存の保存場所をAIに接続する方式では、元の保存場所の権限がそのまま適用されるため、前述のとおり、接続の前に共有設定を棚卸しします。

利用ログと社員への配布:誰がいつどう使ったかを会社が把握できるか

誤回答を後から追跡するにも、読ませてはいけない情報が入力されていないかを確かめるにも、利用の記録が必要です。ただし、汎用生成AIの法人プランでも、管理者が見られる範囲はプランによって違います。ChatGPT Businessのヘルプには、デフォルトでは管理者と所有者がメンバーの非公開チャットをすべて閲覧することはできず、Businessワークスペースではデータエクスポートは利用できない、と記載されています。Claudeでは、監査ログはEnterpriseの組織のみで利用できるとヘルプに記載されています。自社の契約で、管理者が何を確認できるかを試す前に確かめておきます。

社員への配布も安全性に関わります。社内ヘルプデスクは質問する社員全員が利用者になるため、1ユーザーあたりの課金のサービスでは、全員に席を配ると費用が社員数に比例して増えます。ChatGPT Businessは2シート以上が必要で、2026年8月24日以降に作成したワークスペースでは、有料シートの上限が1サブスクリプションあたり200シートとされています。費用を理由に一部の社員にしか配れないと、配られなかった社員が個人のアカウントで同じことをしようとする流れが生まれます。

複数のAIの使い分け:ヘルプデスクだけで会社のAI環境を決めない

社内ヘルプデスクには文書の読み込みと共有が得意なサービスが向きますが、会社の中では、文章作成、調査、資料の読み込みなど、他の業務にもAIが使われます。業務ごとに得意なAIが違い、その分かれ方も新しいモデルの公開のたびに変わるため、ヘルプデスクのために選んだ1つのサービスに、会社のAI利用のすべてを合わせる必要はありません。複数のAIを1つの環境で使う考え方はマルチAIとは、業務ごとの向き不向きは4つのAIの使い分けで解説しています。

専任の情報システム担当がいない会社の運用体制

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2025年2月14日に公開した「2024年度中小企業における情報セキュリティ対策の実態調査」の速報(2024年10月25日〜11月6日、中小企業の経営層を対象にしたウェブアンケート、回収数4,191件)では、情報セキュリティ対策の体制について「専門部署がある」と答えた企業は9.3%で、約7割の企業で組織的なセキュリティ体制が整備されていない状況がうかがえる、とされています。これは情報セキュリティ対策の体制についての数字ですが、多くの中小企業では、社内ヘルプデスクAIの運用も兼務の担当者が担うことになると考えておくのが現実的です。

兼務の担当者1人でも回せるよう、役割と頻度を最小限に決めておきます。

  • 文書の更新担当(1名):共有スペースの文書を差し替える編集者をこの1名に限ります。規程を改定した日に、AIの文書も差し替えます。
  • 各テーマの確認者(テーマごとに1名):休暇なら人事、経費なら経理の担当者が、月1回、回答を数件抜き取って内容を確認します。
  • 週1回15〜30分の見直し:答えられなかった質問と、担当者に届いた質問を見て、文書に足すものを決めます。
  • 四半期に1回の権限確認:共有スペースの参加者と、接続している保存場所の共有設定に、退職者や異動者が残っていないかを確認します。

AI事業者ガイドラインは、AI利用者に対して、AIの出力の精度とリスクの程度を理解し、リスク要因を確認したうえで利用することを求めています。社内ヘルプデスクAIでは、上の役割と頻度を社内ルールとして文書にしておくことが、その具体的な形になります。社内ルール全体の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方、導入前の確認項目は生成AIのセキュリティチェックリストを参考にしてください。

社内の質問への回答を、社内文書RAGとカスタムプラスで

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。社内文書RAGで自社資料を読み込ませて回答させ、カスタムプラス(GPTs・Gem・Claudeプロジェクトの社内版)で、よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有できます。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、全モデルで学習非利用を標準適用。UPGEAR AI上の会話履歴・利用ログ・アカウントは、国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。UPGEAR AIの料金は月額30,000円(税抜)からで、ユーザーごとの課金はありません(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。別途、初期費用100,000円(税抜)がかかります。

UPGEAR AIの詳細を見る

よくある質問

ヘルプデスクAIと、従来のチャットボットは何が違いますか?
従来のルールベース型のチャットボットは、登録した質問と回答の組から、キーワードや選択肢に応じて決まった回答を返します。ヘルプデスクAIは、読み込ませた社内文書から質問に関係する箇所を探し、その内容をもとに回答を組み立てるため、言い回しの違う質問にも対応しやすく、質問と回答を1件ずつ登録する手間が少なくなります。その代わり、文書にないことをもっともらしく補う誤回答のリスクがあるため、出典を付けさせる指示や、答えられない質問を担当者に渡す運用が必要です。
社員が数十名の会社でも、ヘルプデスクAIは役に立ちますか?
同じ質問が繰り返し届き、その答えが就業規則や手順書に書いてある場合は役に立ちます。社員数が少ない会社ほど、総務や人事の窓口を1名が他の業務と兼務していることが多く、質問のたびに作業が中断される負担が大きくなりがちです。まずは2週間、問い合わせを記録して、文書に答えがある質問がどれだけあるかを数えると、導入する価値があるかを判断できます。
専用ツールを契約する前に、今使っている生成AIで試せますか?
ChatGPT Business、Claude Team、Google WorkspaceのGeminiなど、法人向けプランを契約していれば、プロジェクトやGemに社内文書を読み込ませて社内で共有し、試すことができます。1部署・1テーマに絞って2〜4週間試し、答えられなかった質問の引き継ぎや、部署ごとの文書の出し分け、利用状況の把握が必要になった段階で、専用製品などを検討する順序が無理のない進め方です。共有範囲や上限は各社で違うため、設定前に各社の公式ヘルプを確認してください。
就業規則をAIに読ませても問題ありませんか?
就業規則は、労働基準法第106条で労働者に周知させることが義務づけられている文書で、社員が内容を知っていることが前提になっているため、社内向けのヘルプデスクAIに読ませる対象として扱いやすい文書です。ただし、読ませるのは最新版だけにし、学習に使われない法人向けの契約で、共有範囲を社内に限ったうえで使います。給与額や人事評価など、特定の個人に結びつく情報は、就業規則とは分けて読ませないようにします。
AIが間違った回答をしたときに備えて、何を決めておけばよいですか?
3つを決めておきます。1つ目は、回答に文書名と条項などの出典を付けさせ、出典を確認できない回答はそのまま手続きに使わないという社員向けのルールです。2つ目は、AIの回答は文書の案内であって承認や例外の判断ではないことを、社員向けの案内に明記することです。3つ目は、誤回答が見つかったときに、原因になった文書を直す担当者と、週1回の見直しの時間を決めておくことです。
問い合わせの記録が残っていない場合、何から始めればよいですか?
担当者が受けた問い合わせを、2週間だけ表計算ソフトに1件1行で記録することから始めます。受付日、経路、質問者の部署、質問の要約、カテゴリ、回答した人、対応時間、根拠にした文書、文書に答えがあったか、AIに任せられそうか、の10項目を目安にし、個人名や個別の事情は書かないようにします。集計すると、最初にAI化するテーマの選択と、導入後に効果を比べる基準値の両方に使えます。
カスタムGPTで社内ヘルプデスクを作るのはおすすめですか?
これから新しく作る方法としてはおすすめしません。OpenAIのヘルプには、カスタムGPTの提供終了を予定しており、ワークフローをプラグインに移行することをおすすめすると記載されています(2026年9月17日時点)。ChatGPTで試す場合は、プロジェクトに文書を入れてワークスペース内で共有する方法や、社内ナレッジの機能を使う方法を検討してください。

まとめ

ヘルプデスクAIは、社員の質問に社内文書を根拠にAIが一次回答する仕組みで、自動応答、ナレッジ管理、問い合わせ管理の3つの働きで成り立っています。社内向けは、失敗の影響が社内にとどまり、文書もそろっていることが多いため、生成AIの業務利用を始める題材として取り組みやすい領域です。

始めるときは、専用ツールを選ぶより先に、2週間の問い合わせ記録で現状を数え、最初のテーマを1つに絞り、読ませる文書を最新版だけに整えます。ChatGPT Business、Claude Team、Google WorkspaceのGeminiを契約していれば、プロジェクトやGemで1部署から試せます。カスタムGPTは提供終了が予告されているため、新しく作る方法としては避けます。

読ませるのは全社員が見てよい文書に限り、特定の個人に結びつく情報やマイナンバーは読ませません。誤回答はなくならない前提で、出典を付けさせる指示、文書にないことは答えさせない指示、担当者への引き継ぎを組み合わせます。効果は、問い合わせ件数、自己解決率、回答不能率などの分母と分子を先に決め、導入前の基準値と比べて判断します。利用を広げる段階では、学習利用、保存場所、アクセス権限、利用ログの4点を会社として確認できる環境かどうかを見直してください。

法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧をご覧ください。法人向け生成AIサービスの比較は法人向け生成AI 38サービスの料金比較にまとめています。