生成AI導入の稟議書の書き方。A4一枚の構成、人数別の年間費用、決裁者の想定質問と答え方

生成AI導入の稟議書とは、ChatGPTなどの法人向けサービスを会社の費用で契約してよいかを、決裁者に判断してもらうための社内文書です。通るかどうかは効果の大きさよりも、費用・リスク・やめ方の3つを、決裁者が自分で確かめられる形になっているかで決まります。費用は1人あたりの単価ではなく人数分の年間総額で、効果は削減できる時間を円に直して書くと、差し戻しの多くを先回りして防ぐことが出来ます。お手元の下書きと見比べながら、足りない欄を埋めてみてください。

稟議が止まるのは判断材料が足りないとき

生成AIの稟議書で差し戻しを避ける近道は、決裁者が判断に使う材料を、提出の前にそろえておくことです。生成AIは、使ってみるまで効果が見えにくい道具になります。決裁者から見ると、いくらかかるのか、何が起きたら困るのか、うまくいかなかったらどうやめるのか、の3点が分からないまま判を押すことになってしまいます。

実際のところ、大企業でも効果の測り方はまだ固まっていません。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2026」では、言語系の生成AIを導入済み、または試験導入中・導入準備中の507社のうち、導入時の効果測定を「行っていない」と答えた割合が51.9%でした。測っている項目では「削減できた労働時間の測定」が39.4%と多く、「削減できた要員の測定」は8.1%、「金額的な効果の測定(売上金額の向上額等)」は6.5%にとどまっています。

※調査は2025年9月5日〜10月24日に、東証上場企業とそれに準じる企業の計4,500社のIT部門長を対象に行われ、957社が回答しています。上場企業が中心の調査で、社員10〜200名の中小企業に絞った値ではありません。効果測定の項目は複数回答です。

同じ調査で、導入時の課題の1位は「機密情報の流出」70.1%、2位は「ハルシネーション、信頼性」66.4%でした。ハルシネーションとは、AIが事実と違う内容をもっともらしく答えてしまう現象を指します。稟議書でも、この2つへの対策は必ず書いておきましょう。

効果を測る段取りまで決めている会社が多くない以上、「何をどう測るか」まで書いた稟議書は、それだけで決裁者の安心材料になります。数字の大きさを競うより、確かめ方を示すほうが通りやすいと考えてよいでしょう。

決裁者・決裁ルート別に懸念を整理する

決裁ルートに並ぶ方は、それぞれ別のことを心配しています。社長は効果と今やる理由、経理は総額と支払い方、情シスはデータの扱いと管理、法務・総務は個人情報と社内ルールを見る、というのが1つの目安と考えられます。

決裁者主な懸念稟議書で答える欄添える資料
社長・役員本当に効果が出るか/今やる必要があるか目的・期待効果と測り方・試行計画削減時間の試算、試行中の測定方法
経理年間でいくらかかるか/あとから増えないか/支払い方法費用(年間総額・税・為替の前提)公式料金ページの写し(確認日つき)
情シス入力データが学習に使われないか/誰が何を使ったか分かるか/退職時に止められるかセキュリティ要件・管理体制学習の扱いを書いた公式ヘルプの該当箇所、管理画面の写し
法務・総務個人情報を入れてよいか/誤りが出たときの責任/社内ルールリスクと対策・利用ルール社内の利用ルール案

表の右の2列を先に埋めてから本文を書き始めると、説明の抜けに気づきやすくなります。決裁ルートが短い会社でも、社長お一人がこの4人分の役を兼ねていると考え、4つの観点をすべて入れておくのが安全でしょう。懸念の数だけ欄と資料を用意し、口頭の説明に頼らない形にしておきましょう。

A4一枚に収める稟議書の構成

稟議書の本文はA4一枚に収め、細かい根拠は添付資料に回すと読みやすくなります。入れる項目は次の9つです。

項目書くこと
1.件名何を・何人で・いつまで試すか
2.目的解決したい業務の困りごと。「生成AIを導入すること」そのものを目的にしない
3.対象業務と対象者使う業務を3つ程度に絞り、部署と人数を書く
4.導入するサービスサービス名とプラン、選んだ理由、比べた候補
5.費用試行期間と本番の年間総額、税と為替の前提、支払い方法
6.期待効果と測り方削減時間×時間単価の試算と、試行中の測定方法
7.リスクと対策情報漏洩・誤った出力・個人アカウントでの利用などを、対策と担当に対にして
8.試行期間と継続・撤退の基準期間、判定日、数字の基準、撤退するときの手順
9.添付資料料金ページの写し、公式ヘルプの該当箇所、利用ルール案、測定シート

このうち、ふだんのパソコンやソフトの稟議にはあまり出てこないのが、7のリスクと対策と、8の継続・撤退の基準になります。生成AIは使い方次第で結果が変わるため、この2つがあると、決裁者は「試してみて駄目ならやめられる」と判断しやすくなるでしょう。件名と目的は最後に書き直すつもりで、まず5〜8の数字から埋めていくと手が止まりにくいはずです。

記入済みの稟議書ひな形(全文)

次のひな形は、社員30名の会社が、総務と営業の10名で3か月試してから全社に広げる想定で書いた記入例になります。金額は2026年9月28日に公式ページで確認した料金をもとに、1ドル=150円で計算しました。社名や数字をご自身の会社のものに置き換えて使ってみてください。

件名:法人向け生成AIサービスの試験導入(10名・3か月)について

1.目的
 議事録・定型メール・提案書の下書きにかかる時間を減らし、営業担当が顧客対応に使える時間を増やす。
 あわせて、社員が個人のアカウントで生成AIを業務に使っている状態をなくし、会社が管理できる環境に切り替える。

2.対象業務と対象者
 対象業務:①会議の議事録の要約 ②定型メールの下書き ③提案書の構成案づくり
 対象者:総務部3名、営業部7名 計10名(試行期間中)

3.導入するサービス
 ChatGPT Business(標準シート)
 選定理由:ワークスペースのデータを学習に使用しないと公式ヘルプに記載されている。
      シートの追加・削減・割り当てをワークスペースの所有者が管理できる。
 比較した候補:Claude Team(標準シート。1人あたりの料金は同額)

4.費用(1ドル=150円で計算。消費税10%は別途)
 試行(3か月・月払い):25ドル×10名×3か月=750ドル(112,500円)
 本番(30名・年払いに切り替えた場合):20ドル×30名×12か月=7,200ドル(1,080,000円)
 ※料金は2026年9月28日時点のOpenAI公式ヘルプの表示。米ドル建てのため、為替で円の額は変わる。
 ※支払いはクレジットカード(セルフサービスのBusinessは請求書払いを選べない)。

5.期待効果と測り方
 試算:対象10名が1人あたり月2時間を削減できた場合、20時間×2,129円=42,580円/月
    (3か月で127,740円。試行費用112,500円を上回る見込み)
 時間単価:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の一般労働者の所定内給与340,600円を
      月160時間で割った仮定の値(法定福利費は含まない)
 測り方:対象業務ごとに、試行前の2週間と試行中の毎週、1件あたりの作業時間を測定シートに記録する。

6.リスクと対策
 情報漏洩:個人情報・顧客の機密情報・未公表の数字は入力しないと利用ルールに定める。担当:総務部
 誤った出力:社外に出す文書は、担当者が事実・数字・固有名詞を確認してから使う。担当:各部の責任者
 個人アカウントでの利用:試行開始と同時に、業務での個人アカウント利用をやめるよう周知する。担当:総務部
 費用の増加:シートの追加は総務部長の承認制とし、毎月、使われていないシートを確認する。担当:経理部

7.試行期間と継続・撤退の基準
 期間:2026年11月〜2027年1月(判定会議は2027年2月第1週)
 継続の基準(すべて満たすこと):
  ・対象者10名のうち8名以上が、週1回以上使っている
  ・対象業務の作業時間が、1人あたり月2時間以上減っている(測定シートの平均)
  ・利用ルールで禁止した情報の入力が確認されていない
 撤退の基準:上のいずれかを満たさない場合は、判定会議で原因を報告し、改善策がなければ解約する。
       月払いで始めるため、年額の前払いは残らない。
 本番への移行:継続が決まった場合は30名に広げ、請求を年払いに切り替える(次回の更新日から適用)。

8.添付資料
 ①料金の公式ページの写し(確認日つき)
 ②学習の扱いを記載した公式ヘルプの該当箇所
 ③生成AIの社内利用ルール(案)
 ④作業時間の測定シート

ひな形の中の数字は、どれも決裁者があとから確かめられるものにしてあります。料金は公式ページ、時間単価は国の統計、削減時間は試行中の実測と、出どころを1つずつ添えておくのがコツです。とくに4の費用と7の基準は、決裁者が判を押すかどうかを決める欄になりますので、数字を空欄のまま出さないようにしましょう。

費用は人数別の年間総額で書く

費用の欄には、1人あたりの月額ではなく、使う人数分の年間総額を書きましょう。下の表は、主な法人向けサービスの公式料金をもとに、10人・30人・50人で1年間使った場合の総額を並べたものです。

サービスと料金の単位10人30人50人
ChatGPT Business 標準シート・年払い(1人月20ドル)2,400ドル(360,000円)7,200ドル(1,080,000円)12,000ドル(1,800,000円)
ChatGPT Business 標準シート・月払い(1人月25ドル)3,000ドル(450,000円)9,000ドル(1,350,000円)15,000ドル(2,250,000円)
Claude Team 標準シート・年払い(1人月20ドル)2,400ドル(360,000円)7,200ドル(1,080,000円)12,000ドル(1,800,000円)
Claude Team 標準シート・月払い(1人月25ドル)3,000ドル(450,000円)9,000ドル(1,350,000円)15,000ドル(2,250,000円)
UPGEAR AI(会社定額。プランは料金表の人数の目安で選択)700,000円(スタンダード月50,000円×12か月+初期費用100,000円)1,300,000円(プレミアム月100,000円×12か月+初期費用100,000円)1,300,000円(プレミアム。内訳は30人と同じ)

※料金は2026年9月28日時点で、各社の公式ページ(OpenAIヘルプ、claude.com/pricing、提供元の料金表)に表示されている内容です。円は1ドル=150円で計算した場合の金額で、実際の請求額は為替で変わります。ChatGPT Businessは料金が米ドル建てで国や通貨によって異なる場合があると案内されており、日本では請求書に消費税10%が加算されます。なお日本から料金ページを開くと円で表示されます(2026年9月19日時点で標準シートは年払い月3,050円・月払い月3,850円)。表は比較のため米ドル×150円でそろえています。Claude Teamの料金ページには税抜の金額(年払い月20ドル・月払い25ドル)が載っていますが、日本から表示すると消費税10%込みの金額(22ドル・27.50ドル)で表示されます。同社は2026年4月1日から日本の顧客に消費税10%を別途請求すると案内しています。会社定額の行は税抜で、料金表にある人数の目安(6〜20名、21〜50名)でプランを選び(プランの差は月間の利用量です)、初年度の初期費用を含めました。51人以上は料金表に人数の目安がありません。ChatGPT BusinessとClaude Teamは、どちらも2人から契約できます。

表から読み取れるのは、1人課金のサービスは人数にそのまま比例して増えるという点になります。同じ30人でも、年払いから月払いに変えると年間で270,000円(1ドル=150円の場合)の差が出てしまいます。もう1つ見落としやすいのが、1人課金の行の金額はどれも「1つのAIだけ」の料金だということです。ChatGPTとClaudeの両方を30人に年払いで配ると、単純計算で2,160,000円になります。

Microsoft Copilot(旧称 Microsoft 365 Copilot)のBusinessプランを候補にする場合、公式ページでは年払いで1ユーザー月¥2,698相当と表示されていますが、これは2026年12月31日までのキャンペーン価格で、通常は¥3,148です(いずれも税別)。単体では買えず、Microsoft 365の対象ライセンスに追加する形になる点も、費用の欄に書き添えておくと親切でしょう。Google WorkspaceはGeminiが各プランに含まれる形のため、生成AIの分だけを切り出しにくく、上の表には入れていません。各社の法人プランの細かな違いはChatGPT法人プランの料金でも整理しています。

支払い方法も、経理が必ず確かめる項目になります。ChatGPT Businessをセルフサービスで契約する場合、支払いはクレジットカードかデビットカードに限られ、請求書払いは選べません。年払いでは、途中でシートを減らしても反映は次の年間更新からで、未使用のシートは原則として返金されないとの案内です。Claude Teamも、席数の削減は次回の更新時の適用で、日割りの返金はないと説明しています。

費用の欄を詰めていくと、社員が個人で契約したアカウントや、部署ごとにばらばらに契約したサービスでは、会社として総額もデータの扱いも説明できないことが見えてきます。OpenAIのヘルプによれば、個人向けのプランでは入力内容を学習に使うデータ共有が既定で有効で、オフにするかどうかは一人ひとりの操作に任されてしまいます。会社が把握していない個人での利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、それをなくすこと自体が稟議を出す理由の1つにもなるはずです。

1人ずつの契約では、費用もデータも説明しにくくなります

費用とデータの扱いを1つの契約でまとめて説明できれば、稟議で問われる論点はぐっと減ります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

費用対効果は削減時間×時間単価で円に直す

期待効果は「業務効率化」と書くだけでは伝わらず、削減できる時間を円に直して、初めて費用と比べられるようになります。計算の型は、1人あたりの月の削減時間×対象人数×時間単価、の1行で足ります。

時間単価の出どころに迷う場合は、国の統計を使うと決裁者に説明しやすいでしょう。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、一般労働者の所定内給与(月額)は男女計で340,600円とされています。これを月160時間で割ると、1時間あたり約2,129円に当たります。

※時間単価は、所定内給与を月160時間で割った仮定の計算で、法定福利費は含みません。統計の対象は、10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所です。

この単価を使い、30人の会社がChatGPT Businessを年払いで使う場合(年間1,080,000円、1ドル=150円・消費税別)を仮定して試算すると、次のようになります。

控えめ(1人月2時間)標準(1人月4時間)
月の削減時間(30人分)60時間120時間
月の効果額(×2,129円)127,740円255,480円
年の効果額1,532,880円3,065,760円
年間費用1,080,000円との差452,880円1,985,760円
投資回収期間(年間費用÷月の効果額)約8.5か月約4.2か月

見込みは控えめと標準の2通りで示し、控えめな側でも費用を上回るかを見せましょう。楽観的な1本の数字だけだと、決裁者は数字の甘さを疑ってしまいます。なお、削減できた時間がそのまま人件費の削減になるわけではないため、空いた時間を何に回すかまで書いておくと説得力が増します。

削減時間の見込みに使える公開の数字は、多くありません。参考になるのは企業の自社発表で、パナソニック コネクトは2025年7月7日の発表で、2024年に社内の生成AIで44.8万時間の業務時間を削減し、1回あたりの削減時間は28分だったとしています。ただし算出方法は公表されておらず、国内約11,600人規模の会社の自社発表のため、そのまま自社に当てはめるのは避けたほうがよいでしょう。

大事なのは、試行中に自社の数字を測る段取りまで稟議書に入れておくことにあります。前出のJUASの調査でも、効果を測っている企業がまず測っていたのは労働時間でした。対象業務ごとに、試行前と試行中の1件あたりの作業時間を記録するだけでも、判定会議で使える材料になります。計算の手順をもう少し詳しく知りたい方は、生成AIの費用対効果の出し方もご覧ください。

リスクは対策と担当をセットで書く

リスクの欄は、心配ごとを並べるだけでなく、1つずつ対策と担当を対にして書くのが基本です。国の指針でも、AIを使う側の会社には一定の注意が要るとされます。

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日)は、事業でAIを使う会社を「AI利用者」と位置づけ、AIの出力の精度やリスクの程度を理解したうえで使うことや、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを挙げています。個人情報保護委員会も「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)の中で、個人データを含むプロンプトを入力する場合は、提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めました。

リスク起きること対策担当の例
情報漏洩顧客情報や未公表の数字が、社外のサービスに渡る法人プランで学習に使わない扱いを確認し、入力してはいけない情報を利用ルールに書く情シス・総務
誤った出力(ハルシネーション)事実と違う数字や固有名詞が、社外向けの文書に混ざる社外に出す文書は担当者が事実を確認し、確認者の欄を設ける各部署の責任者
個人アカウントでの利用会社が把握できない場所に、業務のデータが残る会社のアカウントを配り、個人アカウントでの業務利用を禁止する総務
費用の増加席の追加が続き、年間総額が稟議の額を超える席の追加を承認制にし、毎月、使われていない席を確認する経理・情シス
定着しない一部の人しか使わず、効果が出ない対象業務を絞り、使い方の共有会を試行中に開く推進担当

表の右端の担当の列は、省かずに書いておきましょう。リスクの行ごとに「誰が」対策するかまで書くと、決裁者は任せる相手を判断できます。社内の利用ルールは、稟議書と同時に案を添付すると話が早く進むはずです。ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方、点検する項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストが参考になります。

情シスが確認するセキュリティ要件と示し方

セキュリティの欄では、「安全です」と書く代わりに、公式の記載と自社の設定を見せる形にしましょう。確認しておきたい要件は次の5つです。

  • 入力したデータが学習に使われないか法人プランの既定の扱いを、公式ヘルプの文言と確認日つきで示します。
  • データと会話履歴の保管場所・保持期間どの事業者のどの国のサーバーに保管されるか、管理者が保持期間を決められるかを確かめます。
  • 誰が・いつ・どのAIを使ったかの利用ログ会社側で見られる範囲と、書き出しができるかを確認します。
  • 権限と使わせるAIの制限管理者だけが設定を変えられるか、部署や人によって使えるモデルを絞れるかを見ます。
  • 退職・異動のときのアカウント停止管理者がすぐに止められるか、停止後の会話履歴がどう扱われるかを確認します。

確かめた事実は、公式ページの該当箇所をそのまま引用して添付すると、よく伝わります。たとえばChatGPT Businessについて、OpenAIの公式ヘルプには「OpenAI は、お客様のワークスペースのデータを学習に使用しません。」と記載があります。一方で、利用状況の分析画面はChatGPT Enterprise向けとされ、Businessの管理機能はEnterpriseより限られると案内されているため、会社側で見られる範囲は試行の前に確かめておきましょう。Anthropicはプライバシーセンターで、Claude for Workなど商用製品の入力と出力を、既定ではモデルの学習に使わないと説明しました。ただし、評価ボタンでフィードバックを送った会話は学習に使われる場合がある、とも書かれていますので、社内ルールで扱いを決めておくと安心です。

自社の設定は、管理画面の該当箇所を画面の写しで添付しましょう。文言だけより、実際にその設定になっていることが一目で伝わります。公式の記載の引用と設定画面の写しの2枚は、「安全です」の一言より強い根拠になります。利用ログの残し方と見方は、生成AIの利用ログで詳しくまとめています。

利用ログを見る仕組みには、従業員のモニタリングとしての配慮も要ります。個人情報保護委員会のQ&Aは、従業員のモニタリングを行う場合の留意点として、目的をあらかじめ社内規程等に定めて従業員に明示すること、実施の責任者と権限を定めること、実施のルールを決めて運用者に徹底することなどを挙げています。稟議書の管理体制の欄に、ログを誰が何のために見るのかを1行加えておくと、法務・総務の確認も一度で済むでしょう。

試験導入から本番・全社展開までを段階承認にする

最初の稟議で全社導入までの承認を取ろうとせず、試行・本番・全社展開の3段階に分けて、段階ごとに判定する形にしましょう。PoCとは、本格導入の前に小さく試して効果と課題を確かめる試験導入のことです。

段階期間と人数の例この段階で承認するもの次に進むための判定
1.試行(PoC)3か月・10人月払いでの契約、対象業務、測定方法、利用ルール案継続の基準をすべて満たしたか
2.本番1年・30人年払いへの切り替え、利用ルールの正式版、管理体制利用率と削減時間が保たれているか
3.全社展開他部署へ広げる席の追加、社内研修、使うAIや業務の追加部署ごとの効果と費用の見合い

段階を分けると、最初の稟議の金額が小さくなるだけでなく、2回目の稟議では試行で測った実際の数字を使えるようになります。試行の組み立て方は、生成AIのPoC(試験導入)の進め方で詳しく扱っています。

試行の契約は、月払いで始めるのがおすすめです。ChatGPT Businessの年払いでは、追加したシートは年間契約の終了まで契約の対象として残り、シート数の削減は次の年間請求サイクルから適用されると案内されています。途中でやめる可能性がある段階で年払いを選ぶと、使わない席の費用が残ってしまいます。試行は月払い、継続が決まってから年払い、の順にすると撤退の費用を小さく出来ます。月払いから年払いへの切り替えはワークスペースの所有者が行え、変更は次回の更新時に適用される仕組みです。

継続・撤退の基準は数字で先に決める

継続か撤退かの基準は、試行を始める前に、数字で稟議書に書いておきましょう。基準があとから決まると、うまくいかなかったときにやめる判断がつかず、使われない契約が続いてしまいます。反対に、始める前に合否の線が引いてあれば、決裁者は「駄目なら3か月でやめられる」と考えて承認しやすくなるものです。

見る指標継続の目安(例)測り方
利用率対象者の8割以上が、週1回以上使っている管理画面の利用状況、または週1回の自己申告
削減時間1人あたり月2時間以上測定シートで試行前と試行中を比べる
品質社外に出た文書で、AI由来の誤りが0件確認者のチェック記録
ルールの順守入力が禁止された情報の入力が確認されない利用ログの抜き取り確認
費用稟議で承認された金額の範囲内毎月の請求書

表の数字はあくまで例なので、自社の業務に合わせて決めてください。撤退する場合も、どの業務で使えて、どこで使えなかったかを報告書に残すと、次に検討するときの材料になります。基準を満たさなかったときの解約の手順と期限まで、最初の稟議書に書いておきましょう。

撤退の手順では、解約の手続きのほかに、会話データの扱いと社員への周知も決めておく必要があります。OpenAIのヘルプでは、ChatGPT Businessのワークスペースではユーザーが自分でデータを書き出す機能は使えないと案内されています。残したい成果物は、試行中から社内の共有フォルダに保存する運用にしておくと安心です。

稟議書をAIに書かせる範囲と人が確かめる範囲

稟議書の下書きに生成AIを使うのは有効ですが、数字と事実の確認は必ず人が行いましょう。任せやすい作業と、人が確かめる作業を分けると次のようになります。

AIに任せやすい作業人が確かめる作業
構成案や見出しの作成料金・税・為替の前提が、公式ページの最新の表示と合っているか
文章の言い換えや要約削減時間の見込みに根拠があるか
決裁者から出そうな質問の洗い出し学習の扱いや管理機能が、公式の記載どおりか
表の体裁を整える社内の人数・時間単価・決裁ルートが正しいか

AIに料金や仕様を尋ねると、古い情報や存在しない機能を答えることがあります。先に触れたハルシネーションで、稟議書にそのまま写すと、あとで決裁者に数字の誤りを指摘されてしまいます。料金と仕様だけは、AIの答えを写さず公式ページで確かめてください。AI事業者ガイドラインにも、人間の判断を介在させることで予期せぬ事故を防ぐことも可能になる、という考え方が示されています。

下書きの段階でも、社内の未公表の数字や取引先の名前を、会社が管理していない個人アカウントに入れるのは避けましょう。稟議書をAIで書くこと自体が、稟議で説明しようとしている情報管理の問題を先に起こしてしまうためです。

下書き・質問の洗い出し・点検に使える指示文

AIに下書きを頼むなら、材料と項目の並びを先に渡しておきましょう。そうすると、出てくる文の手直しを減らせます。材料にない数字は空けておくよう頼むのが大事なところで、料金や仕様をAIがもっともらしく埋めてしまうのを防ぎやすくなります。どれも【 】の中と貼り付け欄を自社のものに入れ替えて使ってください。

1本目は、A4一枚の構成と同じ9項目で下書きを作ってもらう指示文です。

あなたは社員【30】名の会社の総務担当です。次の材料だけを使い、生成AIサービスの試験導入の稟議書を、A4一枚に収まる下書きにしてください。
・項目は「件名/目的/対象業務と対象者/導入するサービス/費用/期待効果と測り方/リスクと対策/試行期間と継続・撤退の基準/添付資料」の9つ
・材料にない数字・料金・機能は書かず、【要確認】と書いて空けておく
・ひな形と同じ常体(である調)で、本文はA4一枚に収める

【材料】
対象業務:
対象者(部署と人数):
導入するサービスとプラン:
比べた候補と選んだ理由:
料金(公式ページで確認した額と確認日):
削減できそうな時間の見込み(1人あたり月何時間):
時間単価(円):
試行期間と判定日:

2本目は、決裁ルートの4人の立場で下書きを読んでもらい、聞かれそうなことを先に出しておく指示文になります。

次の稟議書の下書きを、社長・経理・情シス・法務総務の4人の立場で読み、それぞれが判を押す前に聞きそうな質問を3つずつ挙げてください。
質問ごとに、下書きのどの欄で答えているかを書き、答えていなければ「未記入」と書いてください。

【稟議書の下書き】
(ここに貼る)

3本目は、提出の前に差し戻されそうな箇所を探してもらう点検用です。

次の稟議書の下書きを点検し、決裁者に差し戻されそうな箇所を挙げてください。見るのは次の4点です。
・効果が「楽になる」のような言葉だけで、時間や金額になっていない
・費用が1人あたりの月額だけで、年間の総額や税・為替の前提がない
・リスクが並べてあるだけで、対策と担当が書かれていない
・継続・撤退の基準と判定日がない
直す案を出すときは、材料にない数字を足さず【要確認】と書いてください。

【稟議書の下書き】
(ここに貼る)

出てきた下書きは、そのまま回さずに上の表の右の列に沿って見直します。【要確認】の箇所は公式ページを開いて自分で埋め、時間単価や決裁ルートも社内の実際の値と合っているかを確かめてから提出しましょう。2本目で「未記入」と返ってきた質問は、決裁の場で聞かれる前に欄を足しておくと安心です。

決裁者の想定質問と答え方

決裁の場で出ると想定される質問と、答え方の例を決裁者ごとに並べました。自社の状況に合わせて言い換え、稟議書の添付資料や説明メモに使ってみてください。

社長・役員から

質問:「本当に効果が出るのか」

答え方の例:効果は、試行の3か月間に対象業務の作業時間を測って判断します。控えめな見込みでも費用を上回る試算になっており、下回った場合は撤退の基準に沿って解約する計画です。

質問:「今やる必要があるのか」

答え方の例:社員が個人のアカウントで使い始めている場合、会社はその利用を把握できません。会社の環境を用意するのは効果のためだけでなく、見えない利用をなくすためでもあります。

経理から

質問:「年間でいくらかかり、あとから増えないのか」

答え方の例:年間総額は人数×単価×12か月で計算し、税と為替の前提を添えています。席の追加は承認制にするため、稟議の額を超える場合は改めて申請いたします。

質問:「支払い方法と、途中でやめたときの費用は」

答え方の例:候補のサービスはカード払いで、試行は月払いにして年額の前払いを残さない形です。本番で年払いにする場合も、席の削減は次の年間更新からになる点を考えに入れて席数を決めます。

情シスから

質問:「入力したデータは学習に使われないのか」

答え方の例:法人プランの既定の扱いを、公式ヘルプの文言と確認日で示します。あわせて、管理画面の設定を画面の写しで添付いたします。

質問:「誰が何を使ったか分かるのか」

答え方の例:管理者が見られる利用状況の範囲を、試行の前に確かめて一覧にします。見られない範囲がある場合は、利用ルールでの補い方を書き添える予定です。

質問:「退職者のアカウントはどうするのか」

答え方の例:退職・異動の手続きの一覧に、生成AIのアカウント停止を1行加えます。停止の担当は情シスとし、月に一度、席とメンバーの棚卸しをする運用です。

法務・総務から

質問:「顧客の個人情報を入れてよいのか」

答え方の例:試行中は、個人情報と顧客の機密情報は入力しないルールにします。個人情報保護委員会の注意喚起も考えに入れて、個人データを扱う業務に広げるかどうかは、試行の結果を見て別に判断する考えです。

質問:「AIの誤りで損害が出たら、誰の責任になるのか」

答え方の例:AIの出力は下書きとして扱い、社外に出す前に担当者が確認する手順にします。確認者を決めておくことで、通常の業務と同じく、確認した部署が内容に責任を持つ形になります。

差し戻されやすい書き方と直し方

差し戻しにつながりやすい書き方を、直し方と並べてみました。提出前に、ご自身の下書きに当てはまるものがないか確かめてみましょう。

差し戻されやすい書き方直し方
「業務効率化が見込まれる」とだけ書く対象業務と削減時間の見込みを数字で書き、試行中の測り方を添える
1人あたりの月額だけを書く人数分の年間総額と、税・為替の前提、支払い方法を書く
「セキュリティは問題ない」と書く学習の扱いについての公式の記載を引用し、確認日と設定画面の写しを付ける
いきなり全社導入を申請する10人・3か月ほどの試行から始め、段階ごとに承認を取る
継続・撤退の基準がない利用率・削減時間などの合否の線を数字で書き、判定日を決める
無料版で試した感想を根拠にする法人プランでの試行計画に置き換える(個人向けプランは学習の設定が社員任せになるため)
比べた候補が書かれていない候補を2〜3つ挙げ、選んだ理由を1行ずつ書く
リスクを書かない、または並べるだけリスクごとに対策と担当を対にして書く

直し方に共通するのは、決裁者が自分で確かめられる形にしている点です。数字には出どころを、約束には期限と基準を付けるだけで、同じ中身でも通りやすさが変わってきます。差し戻されたときも、指摘された欄だけを直して出し直せるよう、根拠の資料は1つのフォルダにまとめておきましょう。

会社で安全に使える環境を稟議の中身に入れる

稟議を通したあとの運用まで見据えるなら、サービスを選ぶのと同時に、会社として安全に使える環境を整えることを稟議の中身に入れておきましょう。本番の段階で決裁者が求めるのは、次の4つがそろった状態になります。

  • 入力データを学習に使わない設定が、社員ごとの操作ではなく会社として一律にかかっている
  • 誰が・いつ・どのAIを使ったかの利用ログを、会社側で確かめられる
  • 社員に会社のアカウントを配り、退職や異動のときに管理者が止められる
  • 業務に合わせて複数のAIを使い分けられ、それでも契約と管理は1つにまとまっている

4つ目の複数のAIが挙がるのは、調べものに強いもの、長い文書の読み込みに強いものなど、サービスごとに得意分野が分かれているためです。ただし1人課金のサービスを複数契約すると、先の費用の表のとおり金額はサービスの数だけ積み上がり、管理画面もサービスごとに分かれてしまいます。使い分けたいAIの数と管理のしやすさも、費用と並べて稟議の比較に入れましょう。法人向けサービスの料金と機能の横並びは法人向け生成AIの料金比較、導入にかかる費用の全体像は生成AI導入の費用で確かめることが出来ます。

稟議で問われる費用・データ・利用状況に、1つの契約で答える

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けサービスです。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の「誰が・いつ・どのAIを・どう使ったか」を一覧でき、CSVでの書き出しにも対応します。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。上限に近づくと、管理者宛に複数回メールでお知らせします。上限に達した時点で利用を停止する安全設計のため、知らないうちに超過して追加の請求が発生することはありません。

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よくある質問

生成AIの稟議書は、A4何枚にまとめればよいですか?
本文はA4一枚に収め、料金ページの写しや試算の詳細、社内の利用ルール案は添付資料に回すのが読みやすい形です。本文には、件名・目的・対象業務と対象者・導入するサービス・費用・期待効果と測り方・リスクと対策・試行期間と継続・撤退の基準・添付資料の9項目を入れておくと、決裁者が必要な情報を一枚で確かめられます。
無料版で試した結果を、稟議書の根拠にしてもよいですか?
使い勝手の感触を伝える材料にはなりますが、根拠の中心には置かないほうが安全です。個人向けのプランは入力内容を学習に使うデータ共有が既定で有効になっており、業務のデータを入れて試したこと自体が、情報管理の問題として指摘されるおそれがあります。法人プランでの試行計画に置き換えて書くことをおすすめします。
効果の数字がまだないときは、どう書けばよいですか?
削減時間の見込みを控えめと標準の2通りで置き、時間単価を掛けて円に直した仮定の試算として書きます。あわせて、試行中に対象業務の作業時間をどう測るかを書いておけば、見込みが外れても判定会議で実測値に置き換えられます。時間単価には、厚生労働省の賃金構造基本統計調査の所定内給与を月の労働時間で割った値などを使うことが出来ます。
年払いと月払いは、どちらで申請すべきですか?
試行の段階は月払い、継続が決まってから年払い、の順がおすすめです。ChatGPT BusinessやClaude Teamの年払いは1人あたりの月額が安くなる一方、席数の削減は次の年間更新からの適用と案内されており、途中でやめると使わない席の費用が残ってしまいます。
稟議書そのものを生成AIに書かせても問題ありませんか?
構成案や文章の言い換え、想定質問の洗い出しに使うのは有効です。ただし、料金・税・為替の前提やサービスの仕様は、AIが古い情報を答えることがあるため、公式ページを自分で開いて確認してください。社内の未公表の数字や取引先の名前は、会社が管理していない個人アカウントには入力しないようにしましょう。
稟議書の下書きをAIに頼むとき、指示文には何を入れればよいですか?
対象業務・対象者の人数・公式ページで確認した料金と確認日・削減時間の見込み・試行期間といった材料と、件名から添付資料までの項目の並びを渡します。あわせて、材料にない数字や料金は書かずに【要確認】と空けておくよう頼むと、AIがもっともらしい数字で埋めてしまうのを防ぎやすくなります。下書きができたら、決裁者の立場で質問を洗い出してもらう使い方も役に立ちます。
決裁者から情報漏洩が心配と言われたら、何を見せればよいですか?
3つの資料を用意します。1つ目は法人プランで入力データを学習に使わないことを書いた公式ヘルプの該当箇所と確認日、2つ目は自社の管理画面の設定の写し、3つ目は入力してはいけない情報を定めた社内の利用ルール案です。「安全です」と言い切るより、確かめられる資料を並べるほうが納得を得やすくなります。

まとめ

生成AI導入の稟議書は、効果の大きさを訴える文書ではなく、決裁者が費用・リスク・やめ方を自分で確かめられるようにする文書です。費用は人数分の年間総額に税と為替の前提を添え、効果は削減時間に時間単価を掛けて円に直して書きます。

導入の費用を抑えたい場合は、デジタル化・AI導入補助金の対象になるかも確かめておきましょう。

リスクは対策と担当を対にし、セキュリティは公式の記載の引用と設定画面の写しで示しておくと安心です。最初は10人・3か月ほどの試行を月払いで始め、継続と撤退の基準を数字で決めておけば、決裁者は判を押しやすくなります。

記入済みのひな形と想定質問は、そのまま下書きの土台として使うことが出来ます。法人のAI活用に関するほかの記事は、AI活用コラム一覧からご覧ください。