AIを導入している企業一覧。国内企業の導入例を業種・規模別に整理

AIを導入している企業一覧とは、AIを作る・売る会社(AIベンダー)ではなく、自社の業務にAIを取り入れて使っている会社を、導入の中身と出典付きで並べたものになります。国内では三菱UFJ銀行・三井住友フィナンシャルグループ・パナソニック コネクト・日立製作所・鹿島建設などの大手に加え、従業員80名の機械部品の加工会社のような中小企業も、公的機関の事例記事などで導入の中身が紹介されています。下の一覧では12社を業種・規模・導入形態で分け、それぞれに発表日と出典を添えました。社員数十名の会社がどこから手を付けるかは、中小企業のAI導入の進め方とあわせて読むと判断しやすいでしょう。

AI導入企業の一覧とAIベンダー一覧の違い

AI導入企業の一覧を探すときに最初に分けておきたいのは、AIを作る・売る側の会社と、AIを使う側の会社の違いになります。検索で目に入りやすい一覧の多くは、半導体やクラウド、AIモデルの開発、AIサービスの提供、導入を手伝うコンサルティング会社やシステム会社など、作る・売る側の会社を並べたものです。就職や転職、取引先探しが目的の方には、こうしたベンダー一覧のほうが役に立つでしょう。一方で、同業の会社がAIを何に使っているかを知りたい方にとっては、ベンダーの社名を何十社眺めても答えは出てきません。

ここで扱うのは後者で、自社の業務にAIを入れたことを発表している会社に絞っています。掲載の条件は、会社自身の発表文か、公的機関の事例記事で中身を確かめられることとなります。報道でだけ伝えられている内容には、報道である旨をそのつど書き添えました。

1つの導入には、使う会社と作る会社の両方が登場します

実際の発表文を読むと、導入企業とベンダーは別々の一覧に分かれているわけではなく、1つの導入の中に一緒に登場することがわかります。三菱UFJ銀行の発表ではOpenAIが、三井住友フィナンシャルグループの実証実験では日本総研とNECが、宮崎銀行の融資稟議書の例では日本IBMが、それぞれ相手先として名前を連ねています。大林組の法令調査ではTektome社の建設特化型AIエージェントが使われ、竹中工務店のボード材加工の仕組みは爽美との共同開発でした。使う会社の名前から相手のベンダーをたどると、自社と似た業種で実績のある取引先の候補を見つけることも出来ます。

ベンダーそのものを比べたい方は、法人向け生成AIサービスの料金比較で、サービスごとの料金と機能を並べて確かめてみてください。ここから下の節は、すべて使う側の会社の話になります。

ベンダー一覧が役に立つのはどんなときか

ベンダー一覧が力を発揮するのは、導入する業務と目的がすでに決まっていて、それを形にしてくれる相手を探す段階です。たとえば、問い合わせ対応を自動化したい、図面の読み取りを任せたいなどの具体的な要望があれば、得意分野の近いベンダーを一覧から選んで話を聞くことが出来ます。反対に、何から始めるかが決まっていない段階でベンダー一覧を眺めても、候補が多すぎて選びようがありません。先に同業の導入企業の例を見て、自社でも試せそうな業務の見当をつけてから、ベンダーを探す順番のほうが迷いにくいでしょう。

各社の項目に付けている3つの情報

各社の項目には、発表日・出典・導入形態の3つを必ず付けています。AIの導入は発表から時間がたつと中身が変わりやすく、2023年の発表と2026年の発表を同じ重さで比べると判断を誤ってしまいます。出典は、会社の公式ページか、公的機関・配信サービスに載った発表文を優先しました。導入形態は、全社員が使うチャット型か、特定の業務に組み込んだ型か、自社で作り込んだ型かの3つで分けました。

数字は、どれも発表した会社自身が示した値として扱い、本文では「同社発表」と書き添えています。削減時間や削減率は、集計の期間や対象の人数が会社ごとに違うため、横に並べて大小を比べる使い方には向きません。自社の目標を立てるときの目安として、桁の感覚をつかむ程度に使うのがよいでしょう。

AIを導入している企業一覧(業種・規模・導入形態・発表日)

国内でAIの導入を発表している企業を、業種・規模・導入形態・発表日・出典の列で1つの表にまとめると、次のようになります。表の会社名は、本文の各業種の節で発表の中身をもう少し詳しく取り上げています。

会社名業種規模導入形態導入の中身(同社発表)発表日出典
三菱UFJ銀行金融(メガバンク)大企業(全行員約35,000人が対象)全社チャット型(既製品を配布)OpenAIと戦略的コラボレーション契約を結び、ChatGPT Enterpriseを2026年1月以降、全行員が日常業務で使えるよう順次展開すると発表2025年11月12日同行ニュースリリース
三井住友フィナンシャルグループ金融(メガバンク)大企業全社チャット型(グループ専用環境)SMBC-GPTの実証実験を経て、2023年7月に従業員専用のAIアシスタントSMBC-GAIを業務で使い始め、Teamsに組み込んだ2023年4月11日(実証実験)/2024年3月8日更新の同社記事同社ニュースリリース・同社記事
宮崎銀行金融(地方銀行)地方銀行特定業務型(融資稟議書)日本IBMと共同で融資稟議書の作成に生成AIを適用し、2024年4月から一部店舗で本番利用。作業時間95%削減(同行・日本IBM発表)2024年6月13日PR TIMES掲載の発表
パナソニック コネクト製造・IT大企業(国内全社員約11,800人)全社チャット型(自社AIアシスタント)ConnectAIを国内全社員に展開。2025年度の削減効果は78.8万時間、利用361万回2026年7月29日(最新の発表)同社プレスリリース
日立製作所製造・IT大企業(グループ約32万人が対象)全社チャット型(社内利用環境)Generative AI センターを新設し、2023年5月末から社内利用環境「Generative AI アシスタントツール」を提供すると発表2023年5月15日同社ニュースリリース
鹿島建設建設大企業(グループ従業員約2万人が対象)全社チャット型(社内専用環境)Azure OpenAI Service上の社内専用環境でKajima ChatAIの運用を開始2023年8月8日同社プレスリリース
大林組建設大企業特定業務型(設計初期の法令調査)建設特化型AIエージェントTektomeを使い、実務者を対象にした検証で、法令・条例等の確認が週1人あたり平均4.3時間から1.4時間に(約67%短縮)2026年8月19日同社ニュース
竹中工務店建設大企業特定業務型(ボード材加工・共同開発)手書きの図をスマートフォンで撮るとAIが加工用CADデータを作る仕組みを爽美と共同開発2026年6月30日同社ニュースリリース
セブン-イレブン・ジャパン小売大企業特定業務型(発注)AI発注システムを2023年より全店舗に導入し、発注業務にかかる時間を約40%削減公式サステナビリティサイトの取り組み紹介同社サイト
ローソン小売大企業特定業務型(商品開発)生成AIが発案した商品コンセプトをもとに開発した3品を、2026年9月29日に関東・甲信越(商品により異なる)で発売2026年9月16日同社ニュースリリース
岡田研磨製造(機械部品の加工・組立)中小企業(従業員80名・記事時点)自社開発・内製型業務アプリを内製して約20種類が稼働。現在は専務が日本語でAIに指示し、業務アプリのリニューアル版を開発中(記事時点で近く本格導入予定)2025年7月31日(中小機構J-Net21の記事)J-Net21
川六宿泊(ビジネスホテル)地域企業(従業員数の記載なし)特定業務型(社内データ検索・トラブル対応)社内データ検索型の生成AI「KAWARAG」と、過去のトラブル対応データを使う「支配人AI」を導入2026年5月22日(同社PR)共同通信PRワイヤー掲載の発表

※2026年10月15日時点で、表の出典ページを確認した内容です。導入の中身と数字は、すべて各社(宮崎銀行は同行と日本IBM、岡田研磨は中小機構の記事)が公表したものになります。三井住友フィナンシャルグループ、日立製作所、鹿島建設、宮崎銀行(2024年6月13日)は2023〜2024年の発表で、その後の利用状況は各社の続報でご確認ください。

表を縦に眺めると、大手の多くは全社員が使えるチャット型から入り、建設や小売では特定の業務にAIを組み込む形が目立ちます。金融では、メガバンクが全行員向けの環境を整える一方で、地方銀行は融資稟議書という1つの書類に絞って成果を出しています。中小企業の2社は、どちらも社内の人が自分たちの業務に合わせてAIの使い道を決めている点で共通します。

どの型から入るかは、会社の規模よりも、最初に困っている業務がはっきりしているかどうかで決まる面があります。全員の日々の調べものや文書作成を軽くしたいならチャット型、特定の書類や作業に時間がかかっているなら特定業務型が合うでしょう。

表の規模の列には、発表の中で示された対象人数をそのまま載せています。人数の書かれていない会社は「大企業」とだけ記し、推測で数字を補っていません。自社と近い規模の会社を探すときは、人数よりも、導入形態と最初に任せた業務が近いかどうかを見るほうが参考になります。

導入形態で分ける3つの型(全社チャット型・特定業務型・自社開発/内製型)

AIの導入形態は、全社員が使うチャット型、特定の業務に組み込む型、自社で作り込む内製型の3つに分けると、他社の事例を自社に当てはめやすくなります。同じ「AIを導入した」という発表でも、型が違えば準備の中身も、効果の出方も変わってきます。

全社チャット型:全員に同じAIの入口を配る

全社チャット型は、社員がチャット画面に質問や依頼を書き込み、文章の下書きや要約、調べものに使う形です。三菱UFJ銀行のChatGPT Enterprise、三井住友フィナンシャルグループのSMBC-GAI、パナソニック コネクトのConnectAI、日立製作所のGenerative AI アシスタントツール、鹿島建設のKajima ChatAIが、この型に当てはまります。

同じ全社チャット型でも、既製のサービスをそのまま配る形と、クラウドのAIを使って自社専用の画面を作る形に分かれます。三菱UFJ銀行は前者で、OpenAIの法人向けサービスを全行員に展開すると発表しました。三井住友フィナンシャルグループや鹿島建設は後者にあたり、Azure OpenAI Serviceの上に自社やグループ専用の環境を用意しています。

この型の強みは、使い道を会社が決め切らなくても、社員一人ひとりが自分の仕事の中で使い方を見つけていける点になります。一方で、配っただけでは使う人と使わない人の差が開いてしまいます。三菱UFJ銀行が社内の浸透運動「Hello, AI @MUFG」で教育と、自らAI活用を推進し組織の改革に取り組める専門人材(AIチャンピオン)の育成を進めると発表しているのも、この差を埋める取り組みと読むことが出来ます。

特定業務型:1つの業務にAIを組み込む

特定業務型は、融資稟議書の作成や法令の調査、商品の発注といった決まった業務にAIを組み込む形です。宮崎銀行、大林組、竹中工務店、セブン-イレブン・ジャパン、ローソン、川六がこの型に入ります。

業務が決まっているぶん、作業時間がどれだけ減ったかを測りやすく、宮崎銀行の95%削減や、大林組の検証での週4.3時間から1.4時間への短縮のように、はっきりした数字で発表されやすい傾向があります。その代わり、対象の業務を担う人以外には恩恵が届きにくく、会社全体の働き方が一度に変わるわけではありません。社内の一部門で始めて、うまくいった型をほかの書類や業務に広げていく進め方が向いているでしょう。

特定業務型には、外部のAIサービスをそのまま使う例と、ベンダーと一緒に仕組みを作る例があります。大林組はTektome社のAIエージェントを使い、竹中工務店は爽美と共同でボード材の自動加工の仕組みを開発しました。自社だけで作り切る必要はなく、業務を一番よく知る社員とベンダーが組むことで形になっている点は、中小企業にも参考になります。

自社開発・内製型:AIを使って自分たちで道具を作る

内製型は、AIを道具として使い、業務アプリや社内の仕組みを自分たちで作っていく形です。この一覧では岡田研磨が当てはまります。中小機構のJ-Net21の記事によると、同社はタブレットの導入を機に業務アプリを内製し、約20種類が稼働しています。AIを使っているのは現在進めている業務アプリのリニューアルで、専務が日本語でAIに指示を出して開発しており、記事の時点では近く本格導入する予定でした。

大手の自社専用環境も広い意味では自社開発ですが、ここでは「現場の人がAIの力を借りて自分で道具を作る」形を内製型として分けました。プログラミングの専門部署がない会社でも、業務を知っている人がAIに作りたいものを日本語で伝えれば、小さな業務アプリなら形にすることが出来ます。ただし、作ったアプリを誰が直し、誰が引き継ぐかを決めておかないと、作った本人しか分からない仕組みが社内に増えていってしまいます。

3つの型は組み合わせて使われています

3つの型は、どれか1つを選んで終わりというものではありません。セブン-イレブン・ジャパンは発注という特定業務にAIを組み込む一方で、生成AIの基盤「セブン-イレブン AI ライブラリー」を社内で使っていると、マイナビニュース TECH+が2025年3月14日に同社CIOの講演内容として報じています。全社チャット型で社員の手元にAIを置き、効果の大きい業務から順に特定業務型へ広げる、という組み合わせ方も考えられます。

自社に当てはめるときは、まず「全員の日常業務を軽くしたいのか」「特定の業務の時間を減らしたいのか」を決めてみてください。前者なら全社チャット型、後者なら特定業務型が入口になり、どちらの場合も、慣れてきた社員から内製型の使い方が生まれてくることがあります。

型ごとに違う準備と効果の測り方

全社チャット型で先に必要になるのは、全員に配る環境と、入力してよい情報を決めた短いルールです。効果は、使っている人の割合や利用の回数で測るのが分かりやすく、パナソニック コネクトの月間ユニークユーザー率のような数字が目安になります。使い道を社員に委ねるぶん、最初の数か月は使う人と使わない人の差が出やすい点を見込んでおきましょう。

特定業務型では、対象の業務の手順と、AIに参照させる過去の書類やデータの準備が先に必要です。効果は作業時間の前後の比較で測りやすく、宮崎銀行の95%削減や、大林組の検証での週4.3時間から1.4時間への短縮のような示し方が出来ます。一方で、業務の手順が担当者の頭の中にしかない場合は、手順を書き出す作業から始めることになります。

内製型で先に要るのは、作る人の時間と、作ったものを誰が直すかの取り決めです。効果は、作ったアプリで置き換えた手作業の時間で測るのが素直なやり方でしょう。岡田研磨の記事のように、AIだけでなくタブレットの導入などと一緒に進めると、AI単独の効果は切り分けにくくなる点も覚えておいてください。

規模別に見た違い(大企業と中小企業)

大企業と中小企業の導入例を比べると、違いは使っているAIの種類よりも、誰が旗を振り、どの順番で広げるかに表れています。大企業は専門の組織とルールを先に作ってから全社に配り、中小企業は経営者や現場の担当者が自分の業務で試してから広げる例が見られます。

大企業:組織とルールを先に整えてから配る

日立製作所は2023年5月15日の発表で「Generative AI センター」の新設を公表し、グループ約32万人を対象に生成AIの利活用を広げる方針を示しました。同じ発表では、2023年4月末に社内向けのガイドライン第一版を作ったことと、5月末から社内利用環境の提供を始めることを明らかにしています。三井住友フィナンシャルグループも、2023年4月に日本総研・NECと共同で実証実験を始め、同年7月に従業員専用のAIアシスタントとして業務での利用に進みました。

大企業の例に共通するのは、ルールと環境を整えてから全社員に配る順番です。対象が数万人規模になると、使い方を一人ひとりに任せたままでは情報の扱いをそろえられないため、専用の環境と社内ルールが先に必要になります。教育の仕組みを用意している点も特徴で、三菱UFJ銀行はAIチャンピオンの育成を掲げています。

中小企業:経営者や現場の担当者が試して広げる

2024年5月の調査では、生成AIを使っている中小企業は一部にとどまっていました。東京商工会議所が2024年5月に会員の中小企業1,115社に聞いた調査では、生成AIを「活用している」と答えた会社は11.7%でした。この数字は、同所の「中小企業のための生成AI活用入門ガイド」第7版(2025年8月1日)に載っています。業種別・規模別の導入率をもっと詳しく知りたい方は、生成AIの導入率で各種の調査をまとめて確かめることが出来ます。

導入している中小企業の例を見ると、決め手は予算の大きさではありません。岡田研磨では専務が自らAIに指示を出して業務アプリのリニューアルを進め、川六は自社に積み上がった過去のトラブル対応のデータをAIに使わせています。どちらも、自分たちの業務を一番よく知る人が、AIの使い道を決めている点が大企業との違いになります。

中小企業が全社に配るときの費用の考え方

全員に同じAIを配るときに気になるのが費用で、契約の形によって増え方が大きく変わります。法人向けのAIサービスには、利用する人数に応じて料金が増える契約と、会社単位で料金が決まる契約があります。人数に応じて増える契約では、社員が増えるたびに費用も増えるため、一部の社員にだけ配る判断になりがちです。会社単位の契約なら、配る人数を絞る理由が減り、全員に同じ環境を渡しやすくなるでしょう。

比べるときは、月額の料金だけでなく、利用量の上限に達したときにどうなるか、初期費用がかかるかどうかも確かめてみてください。費用の比べ方や、人数が増えたときの総額の考え方は、生成AIのコスト管理で詳しく確かめることが出来ます。

規模が小さい会社ほど、全員に配る判断は早く出来ます

社員10〜200名の会社は、数万人規模の会社に比べて、全員に同じAIを配る判断をずっと早く下せます。大手が何か月もかけて進める全社展開も、この規模なら一度の説明会と短い社内ルールで始められることがあります。

反対に、会社が何も用意しないままだと、社員がそれぞれ個人のアカウントでAIを使い始める状態になりやすくなります。会社が把握していないAIの利用はシャドーAI(野良AI)と呼ばれ、入力した業務の情報がどこに残るかを会社が説明できなくなってしまいます。個人任せを避ける意味でも、大手が全社員向けの公認の環境から始めた順番は参考になります。中小企業でも、使う人が少ないうちに会社の環境を1つに決めておくと、後から利用を集め直す手間がかかりません。

金融:メガバンクの生成AI活用と地方銀行の例

金融では、メガバンクが全行員向けの生成AIの環境を整え、地方銀行は融資の書類のような特定の業務に絞って生成AIを使う例が公表されています。お金と個人情報を扱う業種のため、どの例も、外に情報を出さない専用の環境や契約の形を発表の中で説明している点が特徴です。

三菱UFJ銀行:ChatGPT Enterpriseを全行員に展開すると発表

三菱UFJ銀行は2025年11月12日、OpenAIと戦略的コラボレーション契約を結んだと発表しました。発表によると、法人向けのChatGPT Enterpriseを2026年1月以降、全行員約35,000人が日常業務で使えるよう順次展開する予定となります。用途として挙げられているのは、社内文書の作成、調査への対応、顧客対応、分析業務などです。

ツールを配るだけで終わらせず、社内のAI浸透運動「Hello, AI @MUFG」を通じて、教育とAIチャンピオンの育成を進めると発表しました。AIチャンピオンは、発表の中で、自らAI活用を推進し組織の改革に取り組める専門人材と説明されています。効果の数値は、この発表の中では公表されていません。

※2026年1月以降の展開が完了したかどうかは、同行の続報でご確認ください。ここでは2025年11月12日の発表に書かれた予定として扱っています。

三井住友フィナンシャルグループ:実証実験からSMBC-GAIへ

三井住友フィナンシャルグループは2023年4月11日、日本総研・NECと共同で、AIアシスタント「SMBC-GPT」の実証実験を始めると発表しました。Azure OpenAI Serviceを使い、グループ専用の環境で動かす形で、用途には文章の作成・要約・翻訳・ソースコードの生成が挙がっています。

同社の公式記事(2024年3月8日更新)によると、2023年7月には専用環境の上でのみ動く従業員専用のAIアシスタント「SMBC-GAI」として、業務での活用を始めました。あわせて普段使っているTeamsに組み込み、チャットの相手のように使える形にしました。利用はリリース当初の1日約6,000件から、取材時点で1日約12,000件に増えたと同社は発表しています。実証実験から本番の利用まで、およそ3か月で進んだ流れも読み取れます。

※三井住友フィナンシャルグループの数字は2023〜2024年時点の同社発表です。その後の利用状況は同社の続報でご確認ください。

宮崎銀行:融資稟議書の作成に生成AIを適用

宮崎銀行は2024年6月13日、日本IBMと共同で、融資稟議書の作成に生成AIを適用したと発表しました。融資稟議書は、お客さまへの融資を行内で決めるために、担当者が取引の内容や判断の理由をまとめる書類のことです。使われているのは日本IBMの生成AIの仕組みとAzure OpenAI Serviceで、2024年4月から一部の店舗で本番の利用を始めています。

発表によると、稟議書の作成にかかる作業時間は95%減ったとされます。この数字は宮崎銀行と日本IBMの発表によるものです。本番の利用は一部の店舗で、95%がどの範囲で測った数字かは発表に書かれていません。全店への展開や全行員への導入を示した発表ではないため、その点は分けて読む必要があります。

金融の例から読み取れること

3つの例を並べると、メガバンクは「全員が使える環境」、地方銀行は「1つの書類」と、入口の広さがはっきり違います。どちらが正しいということではなく、組織の大きさと、最初に解きたい課題の違いがそのまま形に表れていると考えられます。

3社の発表に共通しているのは、どの例も、AIを動かす環境や契約の相手を発表の中で明らかにしている点です。三菱UFJ銀行はOpenAIとの契約、三井住友フィナンシャルグループはグループ専用の環境、宮崎銀行は日本IBMの仕組みとAzure OpenAI Serviceを、それぞれ説明しています。顧客の情報を預かる業種では、どんな環境でAIを使っているかを外に示すこと自体が、信頼を保つうえで欠かせない説明になっていると読むことが出来ます。

中小企業や会計事務所が参考にしやすいのは、むしろ宮崎銀行の形かもしれません。毎回同じ項目を埋め、過去の書類を参照しながら作る文書は、生成AIに下書きを任せやすい業務の代表になります。自社にも同じような定型の書類がないか、まず1つ探してみてください。

全行員に配るメガバンクと同じ考え方を、社員数十名の会社でも

一部の人だけでなく全員に配るなら、会社で使うAIの環境を1つにまとめることが出来ます。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

製造・IT:全社員が使うAIアシスタントの例

製造・IT分野では、パナソニック コネクトと日立製作所が、全社員やグループ全体を対象にした生成AIの社内環境を公表しています。特にパナソニック コネクトは、導入後の利用回数や削減時間を毎年発表しており、効果の測り方の手本として読むことが出来ます。

パナソニック コネクト:ConnectAIの効果を毎年公表

パナソニック コネクトは、自社のAIアシスタント「ConnectAI」を国内の全社員に展開しています。同社は導入の成果を1年ごとに発表しており、いずれも同社発表の数字です。

  • 2024年6月25日の発表:導入から1年で18.6万時間の削減。国内全社員約12,400人に展開
  • 2025年7月7日の発表:2024年の実績として44.8万時間の削減、利用は240万回。国内全社員約11,600人
  • 2026年7月29日の発表:2025年度の削減効果は78.8万時間で、総労働時間の3.4%にあたる。利用は361万回、1回あたり33分の削減、月間のユニークユーザー率は61%。国内全社員約11,800人

3つの発表は、集計の期間が「導入から1年」「暦年」「年度」とそれぞれ違うため、数字を単純に並べて伸び率を出すことは出来ません。それでも、毎年同じ種類の数字を出し続けていること自体に意味があります。利用回数、1回あたりの削減時間、月にどれだけの社員が使っているかという3つの見方は、規模の小さい会社でも測ることが出来るでしょう。

2026年7月29日の発表では、2030年に総労働時間の10%を減らす目標も示されています。月間のユニークユーザー率61%という数字は、全社員に配っても毎月使う人は6割ほどだという目安にもなります。配った後に使う人をどう増やすかが、導入の後半の課題になることが分かります。

※パナソニック コネクトの数字は、各発表の時点での同社発表です。集計期間が暦年と年度で異なるため、比べる際はご注意ください。

日立製作所:Generative AI センターとガイドラインを先に整備

日立製作所は2023年5月15日、「Generative AI センター」を新設したと発表しました。グループ約32万人を対象に、生成AIの利活用を広げる方針です。発表では、2023年4月末に社内向けのガイドラインの第一版を作ったことと、5月末から社内の利用環境「Generative AI アシスタントツール」の提供を始めることを説明しています。

この発表には効果の数字は含まれていません。読み取れるのは、ルールの第一版、利用環境、専門の組織という3つを、ほぼ同じ時期にそろえて始めている点になります。2023年の発表のため、現在の体制や利用状況は同社の続報で確かめるようにしてください。

製造・ITの例から読み取れること

製造・ITの2社は、全社員が使える環境を自社で用意し、その上で効果を測る仕組みや専門の組織を置いています。全社チャット型を選んだ会社が、配った後に何を測っているかを知りたいときは、パナソニック コネクトの発表の項目がそのまま参考になります。

中小の製造業が試すなら

中小の製造業がこの2社の例を取り入れるなら、まず事務所の社員が使う全社チャット型から始めるのが取り組みやすいでしょう。作業手順書や品質の記録の下書き、取引先への連絡文の作成など、文書の仕事は工場を持つ会社にも多くあります。現場の作業そのものにAIを入れるのは、その後でも十分に間に合います。使い始めたら、パナソニック コネクトの発表にならい、月に何人が使ったか、何回使われたかを記録しておいてください。

建設:社内チャットから現場の専用AIまで

建設では、鹿島建設のように全社員向けの社内チャットを整えた例と、大林組・竹中工務店のように設計や加工といった現場の特定業務にAIを使う例の両方が公表されています。図面や法令、現場ごとの条件など、業種に特有の情報が多いことが、専用のAIが生まれやすい理由の一つと考えられます。

鹿島建設:Kajima ChatAIを約2万人に

鹿島建設は2023年8月8日、「Kajima ChatAI」の運用を始めたと発表しました。対象は鹿島と国内外のグループ会社の従業員約2万人で、一部は対象外とされています。Azure OpenAI Serviceの上に社内専用の環境を作り、その中で生成AIを使う形です。この発表に効果の数字は含まれていません。

社内専用の環境を作る考え方は、三井住友フィナンシャルグループのSMBC-GAIと同じになります。業種は違っても、全社員に配るときに「会社の管理下にある環境」を用意する流れは共通していると読むことが出来ます。

大林組:設計初期の法令調査をAIエージェントで短縮

大林組は2026年8月19日、Tektome社の建設特化型AIエージェント「Tektome」を使い、設計初期の法令調査や要件の整理を効率化したと発表しました。AIエージェントとは、指示を受けて調べものや整理といった複数の手順を自分で進めるAIのことです。

発表によると、実務者を対象にした検証で、法令・条例等の確認にかかる時間は1人あたり週に平均4.3時間から1.4時間に減り、約67%の短縮になりました。この数字は同社発表で、対象の人数や期間は発表文に書かれていません。週あたり約3時間という差は、設計の担当者にとって小さくない時間でしょう。

竹中工務店:手書きの図からCADデータを作るAI

竹中工務店は2026年6月30日、爽美と共同で、ボード材の自動加工システムを開発したと発表しました。現場で手書きした図をスマートフォンで撮影すると、AIが加工用のCADデータを作る仕組みで、アプリの名前は「AI i-Bow」となっています。CADデータは、加工機械が読み取れる形の設計図のデータを指します。

この発表に効果の数字は含まれていません。ただ、事務作業ではなく、現場の手書きの図という建設ならではの情報をAIの入口にしている点で、ほかの例とは違う方向の導入として読むことが出来ます。

建設の例から読み取れること

建設の3社は、全社チャット型と特定業務型の両方の例を見せてくれます。法令の確認や図面の作成のように、その業種の専門知識が必要な業務ほど、業種に特化したAIサービスや共同開発が選ばれているのが分かります。自社の業種にも専用のAIサービスがないか、取引先や業界団体の情報から探してみましょう。

中小の建設会社が試すなら

中小の建設会社なら、大手のように専用のAIを開発するより、まず社内の文書づくりと調べものから始めるほうが現実的です。施工計画書や安全書類の下書き、発注者へ出す説明文の作成は、全社チャット型のAIでも試すことが出来ます。法令や条例の確認にAIを使う場合は、大林組の例と同じく調べる手間を減らす使い方にとどめ、最終的な判断は原文で確かめるようにしましょう。

小売:発注と商品開発にAIを使う例

小売では、セブン-イレブン・ジャパンが店舗の発注業務に、ローソンが商品開発に、それぞれAIを使った例を公表しています。お客さまに近い業務にAIを使っている点が、金融や建設の例との違いになります。

セブン-イレブン・ジャパン:AI発注を全店舗に

セブン-イレブン・ジャパンは公式のサステナビリティサイトで、AI発注システムを2023年より全店舗に導入し、発注業務にかかる時間を約40%減らしたと紹介しています。数字は同社発表で、店舗の作業時間を減らす取り組みの一つとなります。

社内での生成AIの使い方については、マイナビニュース TECH+が2025年3月14日に、同社CIOの講演を記事にしています。記事によると、Google Cloud上に生成AIの基盤「セブン-イレブン AI ライブラリー」を作り、2023年11月に役職者とシステム本部の社員から利用を始め、翌年9月にほかの本部へ広げたとされます。用途には商品開発やIR資料の要約が挙がっています。こちらは報道であり、同社の公式発表ではない点に気をつけてください。

ローソン:生成AIが発案した商品コンセプトから3品を発売

ローソンは2026年9月16日、生成AIが発案した商品コンセプトをもとに開発した3品を、2026年9月29日に関東・甲信越(商品により異なる)で発売すると発表しました。発表によると、商品コンセプトは生成AIが出し、開発担当者が試作と検証を重ねて調整しています。生成AIを使った商品の本格的な発売は、同社として初めてとされます。

AIに最後まで任せるのではなく、案出しをAIが担い、仕上げを人が担う分担になっている点が読み取れます。企画やアイデア出しの場面で生成AIを使う形は、業種を問わず取り入れやすい使い方の一つでしょう。

小売の例から読み取れること

小売の2社は、毎日くり返す作業と、新しい案を考える作業という、性質の違う2つの業務にAIを使っています。くり返しの多い作業は時間の削減で効果を測りやすく、案出しは人の仕事の幅を広げる使い方となります。自社の業務をこの2つに分けて眺めると、AIの使いどころが見つけやすくなるでしょう。

小売・飲食の中小企業が試すなら

店舗を持つ中小企業では、ローソンの例のように、新しい商品やメニュー、販促の案出しから始めると効果を感じやすくなります。発注や在庫のように数字を扱う業務は、元になるデータがそろっているかどうかで向き不向きが分かれます。店頭のお知らせやSNSの投稿文の下書きなど、毎日くり返す文章の仕事も、生成AIに任せやすい業務の一つです。

中小企業・地域企業のAI導入事例

中小企業や地域の会社でも、経営者や現場の担当者が中心になってAIを取り入れた例が、公的機関の記事や会社の発表で紹介されています。ここでは、石川県の機械部品メーカーと香川県のビジネスホテルの2社を取り上げます。

岡田研磨(石川県津幡町・機械部品の加工・組立):内製した業務アプリをAIで作り直す

岡田研磨は、石川県津幡町で機械部品の加工・組立を手がける会社です。中小機構のJ-Net21が2025年7月31日に掲載した記事によると、同社はタブレットの導入を機に業務アプリを内製し、約20種類のアプリが稼働しています。現在は、専務が日本語でAIに指示を出して、業務アプリのリニューアル版を開発中です。記事の時点では、完成したアプリを近く本格導入する予定とされていました。従業員は記事の時点で80名となります。

記事では、会社全体で労働時間が月330時間、紙が月に約5,600枚減ったことも紹介されています。ただしこの数字はAIだけの成果ではなく、タブレットの導入などを含むDX全体の成果として書かれたものです。AIの効果だけを切り出した数字として読まないように気をつけてください。

この例で参考になるのは、専門の開発部署がなくても、業務を知る経営層がAIを使って社内システムを作り直している点になります。外部に開発を頼むと、要望を伝えるだけでも時間がかかりますが、自分で作れば直したいところをすぐに直せます。社員80名の規模でも内製の業務アプリが約20種類動いているという事実は、内製型が大企業だけのものではないことを示しています。

川六(香川県高松市・ビジネスホテル):社内データを使う生成AI

株式会社川六は、香川県高松市でビジネスホテルを営む会社です。2026年5月22日に配信した同社の発表によると、経済産業省の「DXセレクション2026」で優良事例に選ばれました。導入したのは、社内のデータを検索して答える生成AI「KAWARAG」と、過去のトラブル対応のデータを使う「支配人AI」の2つとなります。

KAWARAGのように、社内の資料やデータを探して、その内容をもとにAIが答える仕組みはRAG(検索拡張生成)と呼ばれます。支配人AIは、これまでに起きたトラブルと、その時の対応の記録をAIに使わせる仕組みと紹介されています。ベテランの支配人が経験として持っていた知識を、ほかの社員も引き出せるようにする狙いが読み取れます。

ホテルのように、夜間や休日にも現場での判断が必要になる業種では、過去の対応記録をすぐに探せるだけでも助けになります。自社にも、日報や対応記録、問い合わせの履歴のように、積み上がったまま眠っている記録がないか振り返ってみてください。

中小企業の例から読み取れること

中小企業の2社は、どちらも自社の中にある情報や知恵をAIで使える形にしています。大手のように全社員向けの専用環境を作る予算がなくても、業務を一番よく知る人が使い道を決めれば、規模の小さい会社でも成果につなげることが出来ます。

中小企業の生成AIの活用はまだ一部にとどまっており、東京商工会議所の調査(2024年5月・会員の中小企業1,115社)でも「活用している」は11.7%でした。同業の会社がまだ取り組んでいない段階で始めれば、それだけで採用や取引先への説明で話せる材料になります。

2社に共通する、規模の小さい会社ならではの強み

岡田研磨と川六の例に共通するのは、経営に近い人がAIの使い道を自分で決め、すぐに試している点です。大企業では、ルールづくりや部署間の調整に時間がかかりますが、社員数の少ない会社なら、決めた日から使い始めることも出来ます。一方で、使い道を決めた人が異動や退職でいなくなると、仕組みが止まってしまうおそれがあります。作ったアプリや仕組みの使い方は、短くても文書に残しておきましょう。

大手上場企業の導入例に共通する始め方

一覧に並んだ大手の導入例に共通するのは、全社員が使える公認のAI環境を会社が用意し、その上で教育や効果の測定を続けている点です。業種が金融でも製造でも建設でも、この順番はほとんど変わりません。

共通点1:会社の管理下にある環境を配っている

三井住友フィナンシャルグループのSMBC-GAIはグループ専用の環境で、鹿島建設のKajima ChatAIもAzure OpenAI Serviceの上に作った社内専用の環境で動いています。三菱UFJ銀行はOpenAIと契約を結んだうえで、法人向けのChatGPT Enterpriseを全行員に展開すると発表しました。形は違っても、社員が個人で契約したAIではなく、会社が選んだ環境で使わせる点はそろっています。

業務の情報をAIに入力する以上、その情報がどこに送られ、どう扱われるかを会社が説明できる状態にしておく必要があります。全社員が使うことを前提にした導入では、この説明の責任を会社が引き受けている形になります。

共通点2:ルールと教育を同じ時期に用意している

日立製作所は、ガイドラインの第一版と社内の利用環境を2023年の4〜5月にそろえて提供を始めると発表しました。三菱UFJ銀行も、AIの浸透運動を通じて教育とAIチャンピオンの育成を進めるとしています。どちらも、環境を配るのと同じ時期に、使い方のルールと学ぶ場を用意する形です。

中小企業がこの考え方を取り入れるなら、分厚いガイドラインを作る必要はありません。入力してはいけない情報、AIの答えを社外に出す前の確認、困ったときの相談先の3点を短くまとめるだけでも、使い始めの迷いはかなり減るでしょう。ルール文書の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で詳しく確かめることが出来ます。

共通点3:配った後の利用を数字で追っている

パナソニック コネクトは利用回数や削減時間、月間のユニークユーザー率を毎年発表し、三井住友フィナンシャルグループは1日あたりの利用件数の伸びを公表しました。配った時点を導入のゴールにせず、どれだけ使われているかを追い続けている点が共通しています。

利用の数字を見ることで、使われていない部署や、使い方に迷っている社員を見つけられます。社員数の少ない会社なら、月に一度、誰がどのくらい使っているかを眺めるだけでも、声をかけるべき相手が見えてくるでしょう。

公認の環境を配らないと起きること

会社が使ってよいAIを決めないまま時間がたつと、社員はそれぞれ使いやすいサービスを個人で選び始めます。入力した業務の情報がどのサービスに残っているかを会社が把握できず、退職した社員のアカウントに業務の会話が残ることもあります。大手が全社員向けの環境を先に用意している背景には、こうした状態を広げないための備えもあると読めます。社員数の少ない会社ほど、1人の使い方が会社全体の情報の扱いに直結しやすい点を覚えておいてください。

一覧に載せていない大手について

AI導入企業の一覧記事には、ほかにも多くの大手上場企業の名前が並んでいることがあります。ここでは、会社自身の発表文か公的機関の記事で、中身と日付を確かめられた例だけを載せました。名前が挙がっていない会社がAIを使っていないという意味ではないので、気になる会社は次の節の方法で、その会社自身の発表を確かめてみてください。

業種別に見る「最初にAIに任せた業務」

各社の発表から最初にAIに任せた業務を拾い出すと、全社チャット型の会社は文書作成・要約・調べもの、特定業務型の会社は業種ごとの定型業務から入っていることが分かります。下の一覧は、発表文に書かれた用途をそのまま業種ごとに並べたものです。

  • メガバンク(三菱UFJ銀行):社内文書の作成、調査への対応、顧客対応、分析業務など
  • メガバンク(三井住友フィナンシャルグループ):文章の作成・要約・翻訳、ソースコードの生成
  • 地方銀行(宮崎銀行):融資稟議書の作成
  • 製造・IT(パナソニック コネクト・日立製作所):全社員が使う社内のAIアシスタント
  • 建設(鹿島建設):全社員が使う社内専用のチャットAI
  • 建設(大林組):設計初期の法令調査と要件の整理
  • 建設(竹中工務店):手書きの図からボード材の加工用データを作る作業
  • 小売(セブン-イレブン・ジャパン):店舗の発注業務
  • 小売(ローソン):新しい商品のコンセプトの案出し
  • 製造・中小(岡田研磨):内製した業務アプリのリニューアル
  • 宿泊・地域(川六):社内データの検索、過去のトラブル対応の参照

並べてみると、最初に任せた業務は「文章を書く・まとめる」「決まった書類を作る」「調べる・探す」「案を出す」の4つにおおむね分けられます。どれも、AIが出した結果を人が確かめてから使える業務という点で共通しています。融資の判断や商品の発売の決定そのものはAIに任せず、下書きや案出し、調べものの段階でAIを使っているのが、一覧の会社に共通する線引きと読むことが出来ます。

自社で最初の業務を選ぶときも、この4つのどれに当たるかを考えると候補が絞りやすくなります。AIの答えに誤りがあっても、人の確認で止められる業務から始めてみましょう。成功している会社に共通する条件をもっと詳しく知りたい方は、AI導入を成功させるポイントで順に確かめることが出来ます。

全社チャット型と特定業務型で、任せた業務の性質が違います

全社チャット型の会社が挙げた用途は、文書作成や要約、調査、翻訳のように、どの部署にもある仕事でした。特定業務型の会社が挙げた用途は、融資稟議書や法令調査、発注、ボード材の加工データのように、その会社の本業に近い仕事になります。前者は社員全員の時間を少しずつ減らし、後者は特定の担当者の時間を大きく減らす形と言い換えられます。自社がどちらの効果を先に求めているかを考えると、入口の型も選びやすくなるでしょう。

一覧にない業種の会社が事例を読み替える方法

一覧に自社の業種がない場合は、業種ではなく「AIに任せる作業の形」が近い事例を探すと、参考になる例が見つかります。士業や不動産、医療・介護、卸売などの業種でも、文章を書く、定型の書類を作る、調べる、記録を探すという作業そのものは共通しているからです。

会計事務所・士業:宮崎銀行と大林組の例が近い

会計事務所や社労士事務所などの士業では、顧問先ごとに同じ形式の書類を作る作業と、法令や制度を調べる作業が多くを占めます。定型の書類の下書きは宮崎銀行の融資稟議書の例が、制度の確認は大林組の法令調査の例が、それぞれ近い形になります。法令や制度の答えはAIが誤ることもあるため、最後は原文と専門家の目で確かめる分担を崩さないようにしましょう。

不動産・建築:大林組と竹中工務店の例が近い

不動産や建築の仕事では、物件ごとの法令の確認や、図面・資料の作成に時間がかかります。法令の確認は大林組、図面や現場の情報をデータにする作業は竹中工務店の例が参考になるでしょう。物件の説明文や募集の文章の下書きなら、全社チャット型のAIでもすぐに試すことが出来ます。

医療・介護・宿泊:川六の例が近い

医療・介護や宿泊のように、日々の記録が積み上がる業種では、川六の支配人AIのように過去の記録を探せる形にする使い方が近くなります。申し送りや対応記録、よくある問い合わせへの答え方を、新しく入った職員でも引き出せるようにする使い方です。利用者や患者の個人情報を含む記録は扱いに注意が必要なため、入力してよい情報の線引きを先に決めておいてください。

卸売・商社・中小の製造業:セブン-イレブンと岡田研磨の例が近い

受発注の多い卸売や商社では、セブン-イレブン・ジャパンのAI発注のように、くり返しの多い作業にAIを使う例が参考になります。社内の手作業をアプリに置き換えたい中小の製造業なら、岡田研磨の内製型の例が近いでしょう。業務を知る人がAIに日本語で指示して小さな道具を作る形は、業種を問わず試せる方法の一つです。

IT・Web・広告:ローソンと全社チャット型の例が近い

企画や文章づくりが中心の業種では、ローソンの商品の案出しのように、たたき台を多く出す使い方がそのまま使えます。社員が日々の調べもの、文書作成、要約に使う形は、三菱UFJ銀行や鹿島建設の全社チャット型の用途とも重なります。

他社の導入状況を自分で調べる方法

他社のAI導入状況は、会社の発表文、配信サービス、取引先のベンダーの事例ページ、決算や統合報告の資料、国や支援機関の事例記事の5つを順に当たると、自分で確かめることが出来ます。一覧記事に載っていない同業他社や取引先の状況を知りたいときに使える手順です。

手順1:会社の公式サイトのニュースリリースを見る

まず、調べたい会社の公式サイトにあるニュースやプレスリリースの一覧を開きます。会社名と「生成AI」「AI 導入」「ChatGPT」などの語を組み合わせて検索すると、該当する発表が見つかりやすくなります。一覧の三菱UFJ銀行やパナソニック コネクト、大林組の例も、それぞれの会社の公式サイトに発表文が載っています。

発表文を見つけたら、発表日、対象の人数、使っているAIのサービス名、用途、数字があればその主語の5つを書き留めておきましょう。数字の主語とは、「誰が、何を、どの期間で数えたか」を指します。

検索に使う語の例

検索の語は、会社名に「生成AI 導入」「ChatGPT 全社員」「AIアシスタント 運用開始」「生成AI 実証実験」などを組み合わせると、発表文に当たりやすくなります。会社名が決まっていない段階なら、業種名に「生成AI 事例」、地域名に「DX 事例 中小企業」を足して探す方法もあります。発表文の題名には「運用開始」「導入」「展開」「実証実験」などの語が使われることが多いため、これらの語で絞り込むのも一つの手です。見つかった発表が古い場合は、同じ会社名と「続報」「利用状況」の語で、その後の発表がないかも確かめてみてください。

手順2:プレスリリースの配信サービスで探す

会社によっては、自社のサイトではなく、プレスリリースの配信サービスに発表を載せていることがあります。一覧の宮崎銀行の発表はPR TIMESに、川六の発表は共同通信PRワイヤーに掲載されていました。配信サービスのサイト内検索で、会社名や「生成AI」の語を入れて探すと、自社サイトに載っていない発表が見つかる場合があります。

手順3:ベンダーの導入事例ページから逆にたどる

AIのサービスを提供する会社の多くは、自社の製品を使っている会社の導入事例を公開しています。同業の会社が使っていそうなサービスに見当がつく場合は、そのベンダーの事例ページを業種で絞り込むと、導入している会社の名前が見つかることがあります。ただし、ベンダーの事例ページは売る側が書いた紹介なので、数字はベンダーと導入企業のどちらの発表かを確かめてから使ってください。

手順4:決算資料・統合報告書・有価証券報告書を確かめる

上場企業であれば、決算説明資料や統合報告書、有価証券報告書に、AIの活用や業務改革の取り組みが書かれている場合があります。どの書類に載るかは会社ごとに違い、必ず書かれているわけではありません。会社のIR情報のページで資料を開き、「AI」「生成AI」の語で文書内を検索すると、早く見つけられます。

手順5:国・自治体・支援機関の事例記事を探す

中小企業の例は、会社自身が発表を出していないことも多く、国や自治体、支援機関の事例記事で見つかることがあります。一覧の岡田研磨は中小機構のJ-Net21の記事で紹介されており、川六は経済産業省の「DXセレクション2026」の優良事例に選ばれたと発表しています。商工会議所や自治体が作る事例集も、地域の同業他社を探すときの手がかりになるでしょう。

手順6:報道と公式発表を分けて記録する

ニュースサイトや専門メディアの記事は、講演や取材をもとに書かれていることがあり、公式の発表では分からない中身を知るのに役立ちます。一覧のセブン-イレブン・ジャパンの生成AIの基盤も、マイナビニュース TECH+の講演記事で伝えられたものでした。社内で共有するときは、公式発表か報道かを分けて書いておくと、後から読む人が判断を誤りにくくなります。

  • 発表日を書き留めたか同じ会社でも、発表の年が違えば中身が変わっていることがあります。最新の続報がないかもあわせて確かめます。
  • 出典が会社自身の発表か、報道か、ベンダーの紹介かを分けたか社内資料にするときは、出典の種類を書き添えます。
  • 数字の主語と期間を確かめたか誰が数えた数字か、導入から1年か暦年か年度か、対象は全社か一部かを確認します。
  • 予定と実績を分けたか「展開する予定」と「展開した」は別の情報として扱います。
  • 導入形態を書き留めたか全社チャット型・特定業務型・内製型のどれに当たるかを付けると、自社と比べやすくなります。

調べた結果を社内で共有する形

調べた結果は、会社名、業種、規模、導入形態、発表日、出典、数字とその主語の7つの列で1つの表にまとめておくと、後から読み返すときに便利です。新しい発表が出たら行を足し、古い発表には確認した日を書き添えておきましょう。社内の会議で共有するときは、自社と同じ導入形態の例に印を付けておくと、話し合いの焦点がぶれにくくなります。表は1回作って終わりにせず、半年に一度ほど見直すと、同業他社の動きの変化にも気づけます。

大手の事例を社員10〜200名の会社に置き換える考え方

大手の事例は、そのまま真似るのではなく、「何のために、どの順番でやったか」だけを取り出して、自社の規模で同じことをやる最小の形に置き換えると使えるようになります。数万人向けの専用環境や専門の組織は、社員10〜200名の会社では別の形で代わりを用意できるからです。

全行員への展開(三菱UFJ銀行)は「全員に同じ環境を1つ」に置き換える

三菱UFJ銀行が全行員にChatGPT Enterpriseを展開すると発表した狙いは、一部の人ではなく全員が日常業務でAIを使える状態を作ることにあると読めます。社員数十名の会社なら、この考え方は「全員に会社で契約した同じAI環境を1つ配る」に置き換えられます。

大切なのは、一部の社員だけに配らないことになります。配られなかった社員が個人のアカウントで使い始めると、会社から見えない利用が生まれてしまいます。全員に配ると費用が気になる場合は、人数で料金が増える契約か、会社単位の契約かを比べて選ぶとよいでしょう。

グループ専用環境(三井住友FG・鹿島建設)は「会社の管理下にある契約」に置き換える

大手が自社専用の環境をクラウドの上に作るのは、入力した情報の扱いを会社として管理するためと考えられます。中小企業が同じ仕組みを自前で作るのは現実的ではありませんが、法人向けの契約を選べば、近い状態を作ることが出来ます。

確かめたいのは、入力した情報がAIの学習に使われない設定になっているか、誰がいつ使ったかの記録を会社で見られるか、退職した社員のアカウントを止められるか、の3点です。この3点がそろえば、規模は小さくても、大手の専用環境と同じ目的を果たすことが出来ます。

Teamsへの組み込み(三井住友FG)は「普段使う道具のそばに置く」に置き換える

SMBC-GAIをTeamsに組み込み、チャットの相手のように使える形にしたのは、社員が普段の道具から離れずに使えるようにする工夫と読めます。中小企業なら、社内のポータルやチャットツールの目立つ場所にAIの入口を置く、ブラウザのお気に入りに全員で登録する、といった小さな工夫で同じ効果を狙えます。

ガイドライン先行(日立製作所)は「A4で1枚の社内ルール」に置き換える

日立製作所はガイドラインの第一版を作ってから、社内の利用環境を提供すると発表しました。社員数十名の会社なら、最初のルールは紙1枚に収まる長さで足ります。入力してはいけない情報の例、社外に出す前に人が確かめること、困ったときの相談先の3つを書いておきましょう。

効果の公表(パナソニック コネクト)は「月1回の利用状況の確認」に置き換える

パナソニック コネクトのように削減時間を年ごとに算出するのは、小さな会社には負担が大きいかもしれません。代わりに、月に一度、誰がどのくらい使っているかを見て、使っていない人に声をかけるだけでも、配った後の放置は防げます。慣れてきたら、よく使われている業務を3つほど選び、1回あたり何分減ったかを担当者に聞いてみるのもよいでしょう。

融資稟議書(宮崎銀行)は「自社の定型書類の下書き」に置き換える

宮崎銀行が生成AIを使った融資稟議書は、毎回同じ項目を埋め、過去の書類を参照しながら作る文書です。中小企業にも、見積書に添える説明文、報告書、日報のまとめ、顧客への定型のお知らせなど、同じ性質の書類がいくつも見つかるでしょう。まずは1種類の書類を選び、過去の良い例をAIに見せて下書きを作らせるところから試してみてください。

法令調査(大林組)は「自社の調べものの時間」に置き換える

大林組が短縮したのは、設計の初期に法令や条例を確かめる時間でした。業種は違っても、制度や規則、取引先の情報を調べる時間はどの会社にもあります。ただし、法令や制度の答えはAIが誤ることもあるため、AIには調べる範囲の整理や候補の洗い出しを任せ、最後は原文で確かめる分担にしておくと安心です。

商品の案出し(ローソン)は「企画のたたき台づくり」に置き換える

ローソンは生成AIが発案した商品コンセプトをもとに、開発担当者が試作と検証を重ねて商品に仕上げました。中小企業でも、新しいサービスの名前、販促のアイデア、イベントの企画など、たたき台を何案も出したい場面で同じ使い方が出来ます。採用するかどうかを決めるのは人である点も、そのまま取り入れましょう。

支配人AI(川六)は「過去の対応記録を探せる形に」置き換える

川六は過去のトラブル対応のデータをAIに使わせています。自社にも、問い合わせの履歴や作業の記録、よくある質問への回答例がたまっていることが多いでしょう。いきなり専用の仕組みを作らなくても、社内文書を読み込ませて答えさせる機能を持つサービスを使えば、小さく試すことが出来ます。

置き換えるときに外してよいもの、外してはいけないもの

大手の事例から外してよいのは、専門の組織や自社専用のシステム、数万人規模の教育プログラムのような、規模があって初めて必要になるものです。反対に、全員に同じ環境を配ること、短くても社内のルールを決めること、配った後の利用を見ることの3つは、規模にかかわらず外さないほうがよい部分になります。この3つさえ押さえておけば、大手の何分の一の手間でも、同じ方向の導入を始めることが出来ます。

置き換えは一度に全部やらなくてよい

ここで挙げた置き換えを、一度に全部始める必要はありません。まず全員に同じ環境を配り、短いルールを決め、月に一度利用を見るところまでを最初の目標にしてください。定型書類の下書きや過去の記録の検索は、社員がAIに慣れてから1つずつ足していけば十分に間に合うでしょう。

社員30名の会社で置き換えた場合の例

たとえば社員30名の会社なら、最初の月は総務の担当者と各部署から1名ずつの数名で、会社で契約した1つのAI環境を試してもらいます。2か月目に入る前に、試した社員の声をもとに、入力してはいけない情報と社外に出す前の確認を紙1枚にまとめます。その紙を配る説明会を30分ほど開き、全員にアカウントを渡すのが3か月目の目安となります。全員に配った後は、月に一度、総務の担当者が利用の記録を見て、使っていない人に声をかけます。半年ほどたって使い方が定着してきたら、見積書の説明文や日報のまとめのような定型の書類を1つ選び、特定業務型の使い方を足していくことが出来ます。

この流れは、三井住友フィナンシャルグループの実証実験から本番の利用への進み方や、日立製作所のルールと環境を同時にそろえた進め方を、社員30名の規模に縮めたものです。大手が何か月もかけて組織で進める手順も、規模が小さければ担当者1人と短い説明会で回すことが出来ます。

社内で導入を提案するときに事例を使う方法

社内でAIの導入を提案するときは、同じ導入形態の事例を2〜3社選び、発表日と出典を添えたうえで、自社での小さな試し方に置き換えて示すと、話が通りやすくなります。有名な会社の名前を並べるだけでは、うちとは規模が違うと言われて終わってしまうことがあります。

事例は導入形態をそろえて選ぶ

全員に配る提案なら三菱UFJ銀行や鹿島建設のような全社チャット型の例を、特定の書類の作業時間を減らす提案なら宮崎銀行や大林組のような特定業務型の例を選びます。型の違う事例を混ぜると、提案の中身と事例の話がかみ合わず、聞く側が判断しにくくなってしまいます。同業の例が見つからない場合は、業種が違っても同じ型の例を選ぶほうが、話の筋は通しやすいでしょう。

数字は主語と期間を添えて引く

事例の数字を引くときは、同社発表であること、何年の発表か、対象は全社か一部かを必ず添えます。宮崎銀行の95%削減は融資稟議書の作成にかかる作業時間の数字で、どの範囲で測ったかは発表に書かれていません。パナソニック コネクトの78.8万時間は、国内全社員約11,800人の2025年度の削減効果です。数字だけを抜き出して並べると、自社でも同じ効果が出るかのように受け取られてしまいます。他社の数字は約束ではなく、桁の目安として示すにとどめましょう。

提案書に入れる項目のひな形

提案書は、次の6つの項目で組み立てると、読む側が判断しやすい形にまとまります。

  • 解きたい課題(例:見積書に添える説明文の作成に、担当者が週に何時間かけているか)
  • 参考にした事例(会社名・発表日・出典・導入形態)
  • 事例を自社に置き換えた形(全員に配るのか、1つの業務から始めるのか)
  • 試す期間と人数(例:希望者数名で1か月)
  • 守るルール(入力してはいけない情報、社外に出す前の確認)
  • 試した後に見る数字(使った回数、1回あたりに減った時間、困ったこと)

決裁する側が知りたいのは、他社がどれだけ成果を出したかよりも、自社で試すと何が分かり、どんな危うさがあるかのほうです。試す期間と見る数字を先に決めておけば、試した結果をもとに次の判断を進めることが出来ます。提案の段階で、使う環境の候補を1つに絞っておくのも、話を早く進めるうえで役に立ちます。提案が通った後は、試した結果を同じ形式で報告すると、次の段階の判断も早く進むでしょう。報告の場で他社の新しい発表を1つ添えると、社内の関心を保ちやすくなります。

事例から読み取れる導入の進め方

一覧の会社の発表を時系列で並べると、導入はおおむね「試す」「ルールと環境を整える」「全員に配る」「使われ方を測って広げる」の4つの段階で進んでいることが分かります。ここでは各段階で一覧の会社が何をしていたかを、中小企業がそのまま使える形で整理します。

段階1:小さく試す

三井住友フィナンシャルグループは、2023年4月にまず実証実験として始め、同年7月に業務での利用へ進みました。宮崎銀行も、全店ではなく一部の店舗で本番の利用を始めています。最初から全社で決め切るより、少人数で試して使いどころを見つけるほうが、無理のない始め方になります。

中小企業なら、AIに関心のある社員を数名選び、2〜4週間ほど自分の業務で使ってもらう形が取りやすいでしょう。その間に、どの業務で役に立ったか、どんな情報を入力しそうになったかを書き留めてもらうと、次の段階のルールづくりに使えます。

段階2:ルールと環境を整える

日立製作所は、ガイドラインの第一版と社内の利用環境を同じ時期にそろえて提供を始めると発表しました。試した結果をもとに、会社として使うAIの環境を1つ決め、使い方のルールを短くまとめる段階です。セキュリティの点検項目は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストで一つずつ確かめることが出来ます。

ルールは、段階1で試した社員が実際に迷った場面をもとに書くと、現場で読まれる内容になります。入力してよいか迷った情報の例や、AIの答えをそのまま使ってしまいそうになった場面を集めておくと、具体的な決まりに落とし込めます。

段階3:全員に配る

三菱UFJ銀行やパナソニック コネクト、鹿島建設の例のように、環境とルールがそろったら全社員に配ります。配るときは、使い方の説明会を短く開き、試した社員の使い方の例をいくつか見せると、ほかの社員も使い始めやすくなるでしょう。三菱UFJ銀行がAIチャンピオンの育成を掲げているように、各部署に相談できる人を1人ずつ決めておくのも効果があります。

段階4:使われ方を測り、特定業務へ広げる

パナソニック コネクトのように、利用の回数や使っている人の割合を定期的に見て、よく使われている業務を見つけます。そこから、宮崎銀行の融資稟議書や大林組の法令調査のように、効果の大きい特定の業務に向けた使い方を作っていく流れになります。この段階で、社内の文書をAIに読み込ませる仕組みや、よく使う指示をひな形として共有する仕組みが役に立ってきます。

4つの段階は、規模の大きい会社ほど時間がかかりますが、社員10〜200名の会社なら数か月で一巡させることも出来るでしょう。最初の一歩は、段階1の少人数での試用から始めてみてください。

段階ごとにつまずきやすい点

段階1では、試す人がAIに慣れた社員だけに偏ると、ほかの社員には使いにくい使い方の例ばかりが集まってしまいます。段階2では、ルールを細かく書きすぎて、読まれないまま終わることがよくあります。段階3で起きやすいのは、配ったまま説明の場を設けず、一部の社員しか使わない状態になることです。段階4では、効果の数字を急いで求めすぎて、測るための入力作業が現場の負担になってしまう例も見られます。どの段階も、完璧を目指すより、短い期間で見直す前提で進めるほうがうまくいくでしょう。

会社でAIを安全に使うために整えること

会社でAIを安全に使うには、学習させない設定、利用ログの管理、社員への配布と停止、複数のAIの使い分けの4つを、会社の側で決めておくことが土台になります。一覧の大手が専用の環境や法人向けの契約を選んでいるのも、この4つを会社で管理するためと読むことが出来ます。

入力した情報を学習に使わせない

AIのサービスによっては、入力した文章がサービスの改善に使われる設定になっている場合があります。業務の情報を入力する前に、使う契約やプランで入力データがどう扱われるかを規約と設定画面で確かめましょう。社員一人ひとりの設定に任せると、確かめ忘れる人が出てしまいます。

会社で契約する場合は、管理者が全員分の設定をまとめて決められるかどうかが、選ぶときの目安の一つです。個人のアカウントでは会社がこの設定を確かめようがないため、業務での利用は会社の契約に寄せていくのが基本となります。

誰がいつ使ったかの記録を会社で持つ

利用ログは、問題が起きたときに何が入力されたかを確かめるためにも、配った後の利用状況を見るためにも使えます。パナソニック コネクトが利用回数や月間のユニークユーザー率を発表できているのも、利用の記録を会社で持っているからこそと考えられます。記録が会社の手元にない状態では、使われ方も、情報の扱いも説明できなくなってしまいます。

配るときと止めるときの手順を決める

社員が入社したときにアカウントを渡し、退職や異動のときに止める手順を決めておきます。AIのサービスが部署ごとにばらばらだと、止め忘れが起きやすくなり、退職した人のアカウントが残ってしまうことがあります。会社で使う環境を1つにまとめておけば、配る作業も止める作業も1か所で済みます。

複数のAIを会社の管理下で使い分ける

文章の下書き、長い資料の読み込み、ウェブでの調べものなど、業務によって向いているAIは違います。社員が用途ごとに別々のサービスへ個人で登録し始めると、会社から見えない利用が増えていってしまいます。複数のAIを会社の管理下で使い分ける考え方はマルチAI(複数の生成AIを1つの環境で使う方法)で、AIごとの得意分野は主要4AIの違いと使い分けで確かめてみてください。

すでに社員が個人のAIを業務で使っている場合は、禁止するだけでは使い方が見えなくなるだけのこともあります。同じ使い方ができる環境を会社で用意し、そちらへ移ってもらう順番で進めるのが現実的でしょう。

会社で使うAIの環境を選ぶときに確かめる点

  • 入力した情報を学習に使わない設定を、全員分まとめて決められるか社員ごとの設定に任せる方式では、確かめ忘れが起きやすくなります。
  • 誰がいつ使ったかの記録を、会社で見られるか配った後の利用状況を見るためにも、問題が起きたときに確かめるためにも使います。
  • 入社・退職のときに、アカウントを1か所で配ったり止めたりできるかサービスが部署ごとに分かれていると、止め忘れが起きやすくなります。
  • 使えるAIの種類と、管理者が使わせるAIを選べるか業務によって向いているAIが違うため、複数を会社の管理下で使えるかを見ます。
  • 料金が人数で増えるか、会社単位か全員に配れるかどうかが、ここで決まります。
  • 利用量の上限に達したときの扱い上限に近づいたときの知らせ方と、上限に達した後に続けて使う方法を確かめます。

AIの答えを人が確かめる工程を残す

一覧の会社の例を見ても、融資の判断や商品の発売の決定はAIではなく人が担っていると読めます。AIの答えには誤りが混じることがあるため、社外に出す文書や数字を含む資料は、必ず人が確かめてから使う決まりにしておきましょう。確かめる人と確かめる場面を決めておけば、AIの下書きを安心して業務に回すことが出来ます。

社員への説明で伝えること

環境を配るときは、使ってよい業務、入力してはいけない情報、困ったときの相談先の3つを、最初の説明で伝えます。三菱UFJ銀行がAIチャンピオンの育成を掲げているように、部署ごとに相談できる人を決めておくと、使い方の質問が1か所に集中しにくくなります。説明の場では、試した社員の使い方の例を見せると、自分の仕事に置き換えて考えやすくなるでしょう。説明の資料は、よく出た質問を足しながら少しずつ育てていくことも出来ます。

全社員に、4つのAIを1つの契約で

UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で使える法人向けサービスです。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、自社資料を読み込ませて回答させる社内文書RAGや、よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有するカスタムプラスも使えます。基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

AIを導入している企業にはどんな会社がありますか?
公式の発表で導入の中身を確かめられる例として、金融では三菱UFJ銀行・三井住友フィナンシャルグループ・宮崎銀行、製造・ITではパナソニック コネクト・日立製作所、建設では鹿島建設・大林組・竹中工務店、小売ではセブン-イレブン・ジャパン・ローソンがあります。中小企業・地域企業では、中小機構のJ-Net21で紹介された岡田研磨(石川県・機械部品の加工・組立)や、経済産業省のDXセレクション2026で優良事例に選ばれたと発表した川六(香川県・ビジネスホテル)が挙げられます。各社の発表日と出典は本文の一覧表にまとめています。
AIを導入している企業は全体の何割くらいですか?
調査によって対象と数え方が違うため、一つの数字では言えません。たとえば東京商工会議所が2024年5月に会員の中小企業1,115社に聞いた調査では、生成AIを「活用している」と答えた会社は11.7%でした。業種別・規模別の導入率は、生成AIの導入率で各種の調査をまとめて確かめることが出来ます。
AI導入企業の一覧とAIベンダーの一覧は何が違いますか?
AIベンダーの一覧は、AIを作る・売る会社や導入を支援する会社を並べたものです。AI導入企業の一覧は、自社の業務にAIを取り入れて使っている会社を並べたもので、同業他社の使い方を知りたいときに役立ちます。1つの導入の発表には、使う会社と、相手先のベンダーの両方が登場することがよくあります。
中小企業でもAIを導入している例はありますか?
あります。中小機構のJ-Net21(2025年7月31日)では、石川県津幡町の岡田研磨が、業務アプリを内製して約20種類が稼働しており、現在は専務が日本語でAIに指示して業務アプリのリニューアル版を開発中(記事時点で近く本格導入予定)と紹介されています。従業員は記事の時点で80名です。香川県高松市のビジネスホテル、川六は、社内データを検索する生成AIと、過去のトラブル対応のデータを使う支配人AIを導入したと発表しています。
各社が発表している削減時間などの数字は、そのまま比べてよいですか?
そのまま比べるのはおすすめしません。数字はいずれも発表した会社自身が示したもので、集計の期間や対象の人数がそれぞれ違います。パナソニック コネクトのように、同じ会社の発表でも導入から1年、暦年、年度と集計期間が変わる例もあります。自社の目標を立てるときの目安として、桁の感覚をつかむ程度に使うのがよいでしょう。
他社の導入状況はどうやって調べればよいですか?
調べたい会社の公式サイトのニュースリリース、PR TIMESなどの配信サービス、ベンダーの導入事例ページ、上場企業であれば決算資料や統合報告書、国や自治体・支援機関の事例記事の順に当たる方法があります。見つけた情報は、発表日・出典の種類・数字の主語と期間・予定か実績かを分けて記録しておくと、社内で共有するときに誤解が起きにくくなります。
大手と同じ形で導入しないといけませんか?
同じ形にする必要はありません。大手の専用環境や専門の組織は、数万人規模だからこそ必要になる部分です。社員10〜200名の会社なら、全員に会社で契約した同じAI環境を配る、短い社内ルールを決める、配った後の利用を月に一度見る、の3つを押さえれば、大手と同じ方向の導入を小さく始められます。
最初はどの業務からAIを使い始めればよいですか?
一覧の会社が最初に任せた業務は、文章を書く・まとめる、決まった書類を作る、調べる・探す、案を出す、のいずれかにおおむね当てはまります。どれも、AIの結果を人が確かめてから使える業務です。自社でも、誤りがあっても人の確認で止められる業務から始めると安心です。
社員が個人のAIアカウントで仕事をしている場合はどうすればよいですか?
禁止するだけでは、使い方が会社から見えなくなるだけのこともあります。入力した情報の扱いや利用の記録を会社で管理できる環境を用意し、そちらへ移ってもらう順番で進めるのが現実的です。会社が把握していないAIの利用の見つけ方と対策は、シャドーAI(野良AI)の解説で確かめられます。
AIの導入効果はどうやって測ればよいですか?
パナソニック コネクトは、利用回数、1回あたりの削減時間、月間のユニークユーザー率、削減時間の合計を発表しています。社員数の少ない会社なら、まず月に一度、誰がどのくらい使っているかを見ることから始め、よく使われている業務について1回あたり何分減ったかを担当者に聞く形が取り入れやすいでしょう。
AIの導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
会社の規模や導入形態によって違います。三井住友フィナンシャルグループは2023年4月に実証実験を始め、同年7月に従業員専用のAIアシスタントとして業務での利用に進んだと発表しています。社員10〜200名の会社なら、少人数での試用から全員への配布まで、数か月で一巡させることも出来ます。
一覧に自社と同じ規模・業種の会社がない場合は、どう読めばよいですか?
業種や規模ではなく、AIに任せる作業の形が近い事例を探すと参考にしやすくなります。定型の書類の下書きなら宮崎銀行、法令や制度の調べものなら大林組、過去の記録の検索なら川六、内製した業務アプリの作り直しなら岡田研磨の例が近い形です。大手の例は、全員に同じ環境を配る、短いルールを決める、配った後の利用を見るという順番だけを取り出して、自社の規模に置き換えて使ってください。
生成AIと、AI発注のようなAIは同じものですか?
同じではありません。生成AIは、文章や画像などを新しく作り出すAIを指し、ChatGPTのような対話型のサービスが代表的です。セブン-イレブン・ジャパンのAI発注システムのように、生成AI以外のAIを業務に使う例もあります。一覧では両方を含めて、AIを業務に取り入れた会社として扱っています。
他社の事例を社内資料に引用するときに気をつけることはありますか?
会社名、発表日、出典、数字が誰の発表かの4つを必ず添えてください。報道で伝えられた内容は、公式発表と分けて書きます。予定として発表された内容を、実績のように書かないことも大切です。三菱UFJ銀行のChatGPT Enterpriseの全行員への展開は、2025年11月12日の発表では予定として示されています。

まとめ

AIを導入している企業一覧は、AIを作る・売る会社の一覧とは別のもので、自社の業務にAIを取り入れた会社を、発表日と出典付きで並べたものになります。国内では、三菱UFJ銀行や三井住友フィナンシャルグループ、パナソニック コネクト、日立製作所、鹿島建設などの大手が全社員向けの環境を整え、宮崎銀行や大林組、竹中工務店、セブン-イレブン・ジャパン、ローソンは特定の業務にAIを組み込んでいます。

中小企業でも、岡田研磨のように経営層がAIで内製の業務アプリを作り直す例や、川六のように社内の記録を生成AIで使える形にする例が出てきました。大手の事例は、そのまま真似るのではなく、全員に同じ環境を配る、短いルールを決める、配った後の利用を見る、という順番だけを取り出すと、社員10〜200名の会社でも使えるようになります。最初の一歩は、少人数で試し、会社で使う環境を1つに決めるところから始められます。

同業他社の状況は、公式の発表文や配信サービス、公的機関の事例記事で自分で確かめることも出来ます。気になる会社があれば、発表日と数字の主語を確かめながら、自社の最初の一歩に置き換えてみてください。法人のAI活用に関するほかの記事はAI活用コラム一覧にまとめています。