
人事評価のAI活用とは、評価データの集計や評価コメントの下書き、面談記録の要約といった人事評価の作業の一部を、AIに手伝わせることです。結論から言うと、AIに任せてよいのは下書きと点検までで、評価点や昇給・配置を決めるのは人です。人事評価にAIを活用している会社はまだ少数ですが、評価者が手元の生成AIで評価コメントを書く場面は、制度を整えるより先に起こりえます。この記事では、AIにできることとメリット・デメリットを整理したうえで、評価コメントの下書き手順と指示文の例、入力前に伏せる情報、個人情報保護委員会や経団連の資料を踏まえた社内ルールの作り方までを、社員10〜200名の会社向けに解説します。
※この記事の調査結果・公的資料・各サービスの設定の説明は、2026年9月17日〜18日時点で各公式ページ・資料で確認した内容です。調査の数値は、いずれも回答者・回答企業の自己申告にもとづくものです。
人事評価のAI活用とは|AIにできることと任せない判断
人事評価でAIが役に立つのは、数字をまとめる作業と、文章を整える作業の2つです。どちらも評価者の判断を置き換えるものではなく、判断の材料をそろえ、書いたものを見直すための道具として使います。
人事評価のAI活用には、大きく2つの入り口があります。1つは、AI機能を持つ人事評価システムやタレントマネジメント製品(社員の経歴・評価・スキルを一元管理する仕組み)を会社として導入する形です。もう1つは、ChatGPTなどの汎用の生成AIを使い、評価者が評価コメントやフィードバック文を下書きする形です。前者は会社が選んで入れるものですが、後者は評価者が自分の判断で始められてしまうため、会社が気づかないまま広がりやすいという違いがあります。
AIが人事評価でできること:評価データの集計・分析と偏りの検出
評価シートの点数や目標の達成度をまとめ、部署別・等級別・評価者別に並べ直す作業は、AIや分析機能が得意とするところです。たとえば、ある評価者の付けた点数が他の評価者より全体に高い、特定の項目だけ全員が同じ点になっている、といった偏りやパターンを一覧で示せます。
ここで出てくるのは、あくまで偏りの候補です。高い点が付いている部署は実際に成果が出ているのかもしれず、偏りかどうかを決めるのは、現場の事情を知っている人です。AIは確認すべき場所を指し示し、人がその理由を確かめる、という順番になります。
生成AIでできること:評価コメント・フィードバック文・目標文の下書きと添削
生成AI(文章などを新しく作り出すAI)は、評価者が書いた箇条書きのメモから、本人に渡す評価コメントやフィードバック文の下書きを作れます。期初の目標文を読ませて、達成したかどうかを後から判断できる書き方になっているか、数字や期限が入っているかを添削させることもできます。
評価コメントは、書く人の文章力によって伝わり方が大きく変わります。事実は同じでも、言い回しがきついと本人の受け取り方が変わり、抽象的すぎると次に何をすればよいかが伝わりません。下書きをAIに作らせ、評価者が事実と合っているかを確かめて直す形にすると、文章の質をそろえやすくなります。
評価コメントの甘辛・ばらつき・具体性不足をAIで点検する
評価者が書き終えたコメントをAIに読ませ、問題になりやすい書き方を指摘させる使い方もあります。点検させる観点は、次のようなものです。
- 点数とコメントが食い違っていないか(高い点なのに課題ばかり書いている、など)
- 頑張っていた、意欲的だった、といった抽象語だけで終わり、具体的な行動や結果が書かれていないか
- 期間中の一部の出来事だけで全体を評価していないか(直近の出来事に引っ張られる、など)
- 人柄や印象の話が、仕事の事実と混ざっていないか
- 同じ等級の他の社員へのコメントと比べて、言葉の強さが極端に違わないか
これらは、評価者が自分で気づきにくい評価エラーの兆候です。AIの指摘をそのまま正解とせず、評価者が本当にそうなっているかを確認して直すところまでが一連の作業です。
人事評価の課題と、AIが注目される背景
人事評価にAIが注目される理由は、評価にかかる手間が大きいことと、評価者によって結果がぶれることの2つです。社員の側にも評価への不満があり、公平さを補う手段としてAIに期待する声がある一方で、不安も少なくありません。
課題1:評価のたびに工数がかかる
評価の時期になると、評価者は部下一人ひとりについて、期中の出来事を思い出し、評価シートに点数とコメントを書き、面談を行います。人事や総務は、提出された評価シートを集め、未提出を催促し、点数を集計して調整会議の資料を作ります。紙やExcelでやりとりしている会社では、転記と集計だけで相当な時間がかかります。社員10〜200名の会社では、人事専任の担当者がいないことも多く、総務や経営者自身がこの作業を抱えることになります。
課題2:評価者によって主観のばらつきが出る
同じ評価基準を使っていても、点を甘めに付ける評価者と辛めに付ける評価者がいます。点数を中央に寄せて差をつけない、ある一つの目立つ成果に全体の評価が引っ張られる、といった傾向は、評価者研修でもよく扱われるテーマです。評価者の数が少ない会社では、一人の評価者の傾向がそのまま部署全体の結果に表れやすくなります。
調査データ:人事評価への不満と、AI評価への期待と不安
働く人の側から見た評価への受け止め方として、パーソルキャリアが運営するJob総研の「2025年 人事評価の実態調査」(2025年9月10日〜16日、JobQ Town登録者のうち就業中の20〜50代、有効回答391人、インターネット調査)があります。人事評価に不満を感じた経験がある派は69.6%でした。
同調査でAIによる評価に期待する点(複数回答)は、公平で客観的な判断が48.3%、上司の主観を減らすが45.8%、評価基準の透明性が35.5%でした。一方で不安な点(複数回答)は、AIに誤った解釈をされるが38.1%、努力や工夫が評価されないが37.1%、偏ったデータに左右されるが36.3%です。評価を任せたい相手としては、上司派が68.7%でした。
公平さへの期待はあるものの、評価そのものはAIより上司に任せたいという結果です。AIを使うなら、決めるのは人であることを前提にしないと、社員の納得は得にくいと読み取れます。
企業の活用状況:評価にAIを使う会社はまだ少ない
会社側の活用はまだ始まったばかりです。日本の人事部『人事白書2026』(2026年3月3日〜31日、『日本の人事部』正会員が対象、回答5,103社・5,274人(のべ))では、人事評価へのAI活用について、活用しているが1.8%、実証実験中であるが7.8%、導入を検討しているが29.2%、活用しておらず今後も活用する予定はないが61.2%でした。
規模別に見ると差があります。予定はないと答えた割合は、従業員1〜100人の企業で72.5%、5001人以上の企業で44.8%でした。また、業績が市況より良い企業では50.7%、悪い企業では71.2%です。この調査では、規模の小さい会社ほど、評価へのAI活用を予定していない割合が高くなっています。
大企業の動きとしては、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」(2026年4月14日公表)があります。報告書に掲載されたアンケート(2025年11月27日〜12月15日、回答75社、うち従業員5000人以上が47社で回答の大半が大企業)のグラフでは、AIの活用領域は採用25社、労務管理22社、エンゲージメントサーベイ21社、人材育成20社、評価13社、人材配置13社、報酬5社でした。人材育成でAIを使う20社のうち14社は、1on1の内容整理や議事録生成などの面談サポートに使っていると回答しています。
社員10〜200名の会社にとっての意味:人事評価にAIを活用している会社は、大企業を含めてまだ一部です。一方で、評価コメントの下書きや面談記録の整理は、手元の生成AIですぐに始められます。だからこそ、システム導入の検討より先に、評価者が生成AIを使うときのルールを決めておく順番が現実的です。
人事評価にAIを使う4つのメリット
メリットは、手間が減ることと、評価の質がそろうことに集約されます。ただし、どちらも人が最終確認をする前提で得られるものです。
メリット1:評価業務の効率化と、評価者・人事の負担軽減
評価者にとって時間がかかるのは、白紙の状態からコメントを書き始める部分です。期中の事実を箇条書きにしておけば、文章の形に整える作業はAIに任せられ、評価者は内容の確認と修正に時間を使えます。人事や総務にとっては、提出された評価の集計や、評価者ごとの傾向の一覧づくりを短くできます。
メリット2:評価の公平性・客観性を高め、評価者ごとのばらつきを抑える
評価者別の点数の分布や、コメントの具体性をAIで並べて見ると、誰の評価が甘め・辛めかを調整会議の前に把握できます。評価コメントの書き方も、同じ指示文を使って下書きさせれば、文章の質が評価者の文章力に左右されにくくなります。評価のやり方が特定の人の感覚に頼った状態(属人化)を、少しずつ減らす助けになります。
ただし、AIを使えば自動的に公平になるわけではありません。後で説明するとおり、AIにも偏りがあります。公平性が高まるのは、AIが示した偏りの候補を人が確かめ、理由のない差を直したときです。
メリット3:評価データを人材配置・育成計画に活かせる
評価コメントや面談記録が文章として整理されていると、社員ごとの強みや課題を後から探しやすくなります。次の期の育成計画を立てるとき、異動や配置を検討するときに、過去の評価の要点をまとめて読み返せるのは、紙やばらばらのファイルで保管している状態にはない利点です。配置や処遇を決めるのは人ですが、判断材料をそろえる作業は短くできます。
メリット4:紙・集計・転記の手間が減り、コスト削減につながる
評価シートを紙で配って回収し、Excelに転記して集計している会社では、印刷や回収、転記と確認の手間そのものがコストです。評価をデータで扱い、集計や要約をAIに手伝わせると、その手間が減ります。どれだけ減るかは会社の評価の回し方によって違うため、次の式で自社の数字を当てはめて見積もることをおすすめします。
工数の見積もり方:評価コメントにかかる時間を式で出す
評価コメントの作成にかかる年間の時間は、次の式で見積もれます。
評価コメントの作成時間(年間)
=評価者の人数 × 評価者1人あたりの部下の人数 × 部下1人分のコメント作成時間 × 年間の評価回数
この式に、AIを使った場合の部下1人分の作成時間を入れ直すと、差が見えます。自社の評価者に、今の作成時間と、試しにAIで下書きしたときの作成時間を記録してもらい、実測した数字を入れてください。他社の事例の削減率を当てはめるより、自社で数件試して測った数字のほうが、社内で説明するときの根拠になります。確認と修正にかかる時間も必ず作成時間に含めます。
人事評価にAIを使うデメリットとリスク
デメリットの多くは、AIの出力を人が確かめずに使ったときに表面化します。評価は社員の処遇に直結するため、他の業務より慎重に扱う必要があります。
デメリット1:評価の根拠が説明できないブラックボックス化
AIがなぜその点数や文章を出したのかは、利用者から見えないことがあります。社員から評価の理由を聞かれたときに、AIがそう出したから、としか答えられない状態は避けなければなりません。評価の根拠は、期中の事実と評価基準で説明できる形で、評価者が持っておく必要があります。経団連の報告書は、EU AI法で雇用分野のAIがハイリスクに分類されていると紹介しています。評価にAIを使うことは、それだけ慎重さを求められる領域だということです。
デメリット2:学習データの偏りによるバイアス
AIは学習したデータの傾向を引き継ぎます。過去の評価データに、特定の性別・年齢・働き方の社員が低く評価されやすい傾向が含まれていれば、AIがその傾向を再現するおそれがあります。汎用の生成AIで評価コメントを下書きする場合も、入力したメモの書き方に評価者の思い込みが含まれていれば、それが整った文章になって出てきます。文章が整っているほど、偏りに気づきにくくなる点に注意が必要です。
デメリット3:評価者がAIの出力に依存・過信する
AIの下書きが自然な文章で出てくると、評価者が中身を確かめずにそのまま使ってしまうことがあります。事実と違う内容や、本人がしていない行動が文章に紛れ込んでいても、読み流してしまえば本人に渡ります。AIを使う評価者ほど、自分の書いたメモと下書きを1行ずつ突き合わせる手順を省かないようにします。
デメリット4:導入・運用コストがかかる
AI搭載の評価システムを入れる場合は、利用料に加えて、評価項目の設定、既存の社員データの移行、評価者への説明といった準備の工数がかかります。汎用の生成AIを使う場合も、会社で契約する環境の費用、ルールづくり、評価者向けの研修の時間が必要です。費用がかからないように見える個人の無料アカウントでの利用は、後で説明するとおり、情報管理の面で別のコストを抱えることになります。
デメリット5:AIに評価されることへの社員の不安・反発
前掲のJob総研の調査のとおり、AIによる評価には、誤った解釈をされる、努力や工夫が評価されない、という不安があります。会社が説明しないままAIを使い始め、後から社員が知った場合、評価の内容とは関係なく、評価への不信感につながりかねません。何にAIを使い、何には使わないかを先に伝えておくことが、反発を防ぐ近道です。
AIによる人事評価で訴訟・労使紛争になるリスクはあるか
評価にAIを使うこと自体よりも、AIの結果だけで不利益な扱いを決め、その理由を説明できないことがリスクになります。経団連の報告書13ページ(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」を基に経団連事務局が作成と明記)は、採用・評価・配置など影響の大きい判断では、AIの結果のみで不利益な処遇を決定しないこと、AI活用に関する苦情・トラブル時の対応フローを事前に定義しておくことを挙げています。評価の根拠を事実と基準で説明できる状態にし、社員が疑問を出せる窓口を決めておくことが、紛争の芽を小さくする基本です。
評価者が個人のアカウントで下書きすると、渡した事実がどこに残ったか追えません。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
AIに任せる作業・人が決める判断・入力しない情報の線引き
人事評価でAIを使うときは、任せてよい作業、人が決める判断、そもそも入力しない情報の3つを分けて決めておくと、現場で迷いません。この線引きは、評価者に配るルールの中心になります。
最終判断は人が行う:AIと人の役割分担
AIに任せてよい作業
- 評価コメント・フィードバック文の下書きと言い換え評価者が書いた事実のメモをもとに文章に整える。本人に渡す前に評価者が必ず読み直す。
- 面談メモ・1on1記録の要約話した内容を項目ごとに整理する。要約は面談をした本人が内容を確認してから使う。
- 目標文の添削達成したかどうかを後から判断できる書き方か、数字や期限が入っているかを指摘させる。
- 評価エラーの自己点検点数とコメントの食い違い、抽象語、直近の出来事への偏りなどの兆候を指摘させる。
人が決める判断
- 評価点・評価ランクAIに点数を付けさせない。付けさせた場合も参考にとどめ、根拠は評価者が事実で説明する。
- 昇給額・賞与・昇格や降格処遇に直結する判断は、評価者と人事・経営者が決める。
- 異動・配置本人の事情や職場の状況を含めて人が判断する。
入力しない情報
- 要配慮個人情報病歴などの、法律で特に配慮が求められる情報。
- 健康状態・休職理由・家族の事情などの機微な情報評価のメモに書いてあっても、AIに入れる前に削る。
- 氏名・社員番号・給与額など、個人を特定できる情報や金額記号に置き換えるか、入力しない。
判断に迷ったら:その情報がなくても評価コメントの下書きは作れるか、と考えます。作れるなら入力しません。AIに渡すのは、評価の文章を作るのに必要な最小限の事実だけです。
汎用の生成AIで評価コメントを下書きする手順
評価コメントの下書きは、事実のメモを作る、伏せる、AIに下書きさせる、人が直す、の4段階で進めます。AIに入れる前の2段階を省かないことが、安全に使うための要です。
手順:事実のメモを作り、伏せてから入力し、人が直す
- 事実のメモを作る。期初の目標、期中の具体的な行動、数字で分かる結果、本人の自己評価の要点を箇条書きにします。印象ではなく、いつ・何をしたかを書きます。
- 伏せる。次の一覧にある項目を削るか、記号に置き換えます。
- AIに下書きさせる。会社が認めたAIに、後で紹介する指示文とメモを入れます。
- 人が直す。下書きとメモを突き合わせ、事実と違う箇所、本人がしていない行動、言い過ぎの表現を直します。記号を実名に戻すのは、AIの外で行います。
入力前に伏せる項目の一覧
- 氏名・社員番号・メールアドレスAさん、Bさん、などの記号に置き換える。
- 部署名・プロジェクト名・取引先名(個人が特定できる場合)小さな会社では部署名だけで誰か分かることがある。営業部の担当者、などぼかした表現にする。
- 給与額・賞与額・昇給額下書きに不要。入力しない。
- 病歴・通院・健康状態要配慮個人情報にあたるものを含む。入力しない。
- 休職・欠勤の理由、家族の事情、私生活の話評価コメントに書く内容ではない。入力しない。
- 他の社員への評価や、社員どうしの人間関係の記述第三者の情報になる。入力しない。
評価コメント下書きの指示文(プロンプト)例
次の指示文は、そのまま使える形にしています。【】の部分を自社の内容に置き換えてください。
次のメモだけを使って、本人に渡す評価コメントの下書きを400字程度で作ってください。
条件
・メモに書かれていない行動や成果を付け足さない
・良かった点を2つ、次の期に取り組む課題を1つ、具体的な行動で書く
・頑張っていた、意欲的だった、などの抽象的な言葉だけで終わらせない
・人柄や性格の評価は書かない
・点数や評価ランクには触れない
・メモの中で、事実か印象か分からない箇所があれば、下書きの後に確認事項として箇条書きで挙げる
メモ
対象:Aさん(等級【◯】、職種【◯】)
期初の目標:【目標を記入】
期中の行動:【いつ・何をしたかを箇条書き】
結果:【数字で分かる結果】
本人の自己評価の要点:【要点】
最後の条件にある確認事項の一覧は、評価者が事実を見直すきっかけになります。AIに下書きを作らせるだけでなく、メモの弱いところを指摘させる使い方です。
評価者研修で使う:自分のコメントをAIに点検させる演習
評価者研修に生成AIを取り入れる場合は、AIに書かせる練習より、評価者が自分で書いたコメントをAIに点検させる演習のほうが効果を実感しやすくなります。進め方の例です。
- 架空の社員の期中メモを用意し、評価者が各自で評価コメントを書く
- 書いたコメントをAIに読ませ、事実と印象が混ざっている箇所、抽象語だけの箇所、点数と合っていない箇所を指摘させる
- 指摘が妥当かどうかを評価者どうしで話し合い、評価者が自分の言葉で直す
- AIの指摘が的外れだった例も共有し、AIの出力をそのまま受け取らない感覚を身につける
架空の社員を使えば、研修の場で実在の社員の情報をAIに入れずに済みます。研修の組み立て方は生成AI研修の選び方も参考になります。
面談メモ・1on1記録の要約にAIを使うときの注意
評価面談や1on1の記録を要約させる使い方は、経団連のアンケートでも面談サポートとして挙がっており、始めやすい用途です。ただし、評価の根拠に使う記録になるため、次の点を決めてから使います。
- 録音や文字起こしをする場合は、面談の前に本人に伝える
- 要約は、面談をした評価者本人が内容を確認してから、評価の根拠として使う
- 要約に、本人が話していない解釈や評価が混ざっていないかを確かめる
- 録音データや文字起こしの元データを、いつまで保存し、いつ消すかを決めておく
- 面談中に出た健康や家族の話は、要約に残さない
Web会議ツールの文字起こし・要約機能を使う場合の設定は、Zoomの議事録機能やGoogle Meetの議事録機能の記事で解説しています。
個人情報・プライバシー・情報セキュリティへの配慮
評価コメントや面談記録は、社員の個人情報そのものです。生成AIに入力するときは、個人情報保護法の考え方に沿って、入力してよい範囲と、入力先のサービスの扱いを確認する必要があります。
個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月2日)で事業者が確認すべき2点
個人情報保護委員会は、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表し、個人情報を扱う事業者向けに次の2点を挙げています。
- 利用目的の範囲内か確認する。生成AIサービスに個人情報を含む指示文を入力する場合は、その個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認すること。
- 学習などに使われないことを確認する。本人の同意を得ずに個人データを含む指示文を入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性がある。そのため、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。
評価コメントの下書きに当てはめると、評価に必要な範囲の情報だけを入れること、そして入力先のAIが入力内容を学習などに使わないことを、使う前に会社として確認しておくことになります。ChatGPTの学習設定の確かめ方はChatGPTに学習させない方法で詳しく解説しています。
要配慮個人情報は入力しない
個人情報保護法第2条第3項は、要配慮個人情報を、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実など、本人に対する不当な差別や偏見などの不利益が生じないよう取扱いに特に配慮を要するものと定めています。経団連の報告書13ページも、HR部門の対応として要配慮個人情報は入力しないことを挙げています。評価のメモに病歴や通院の話が含まれている場合は、AIに入れる前に必ず削ります。
学習に使わせない設定と、ログ管理は別の話
生成AIを業務で使うときによく混同されるのが、入力内容を学習に使わせない設定と、会社が利用状況を把握するログ管理です。この2つは守っているものが違います。
学習に使わせない設定は、入力した内容がAIの改善に使われないようにするものです。ChatGPTの個人向けプラン(Free・Plus・Proを個人用ワークスペースで使う場合)は、OpenAIのヘルプによるとデータ共有が初期状態で有効になっています。設定のデータコントロールにある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、オフにした後の新しい会話は学習に使われないと説明されています(ヘルプ内には「すべてのユーザー向けにモデルを改善する」という表記もあります)。ただし、オフにしていても、回答に良い・良くないのフィードバックを送ると、その会話全体が学習に使われることがあるとも書かれています。一方、ChatGPT BusinessやChatGPT Enterpriseなどの法人向け製品は、初期状態で入力と出力を学習に使わないと説明されています。手順の詳細はChatGPTに学習させない方法にまとめています。ChatGPT以外のAIにも、各サービスの設定や法人向けプランの条件があるため、使う前にそれぞれの公式情報で確認します。
ログ管理は、誰が、いつ、どのAIを使ったかを会社が確認できるようにするものです。個人のアカウントで評価者が学習をオフにしていても、その設定や入力した内容を、会社の側から把握するのは難しくなります。評価のような機微な情報を扱う業務では、学習に使わない条件の環境を会社が用意して評価者に配り、利用状況を管理側で確認できる形にしておくことが、両方を満たす方法です。
2つの違い:学習に使わせない設定は、入力した内容がモデルの改善に使われないようにするための対策です。ログ管理は、社内で誰が何に使っているかを会社が説明できるようにするための対策です。どちらか一方だけでは、評価の情報を扱うには足りません。
閲覧権限・アクセス権限を管理する
評価の情報は、社内でも見てよい人が限られます。AIを使う環境でも、評価者が自分の部下以外の情報に触れられない、下書きや会話の履歴を他の社員が見られない、という状態を保つ必要があります。経団連の報告書13ページは、IT・DX部門と連携してアクセス権限・ログ管理を行うことを挙げています。専任のIT部門がない会社では、総務か人事の担当者を管理者に決め、アカウントの発行と停止、使えるAIの範囲を一か所で管理します。退職や異動のときにアカウントを止める手順も、この管理者の仕事に含めます。
会社で安全に使うためのルールと環境
会社として評価にAIを使うなら、使ってよいAIを指定し、入れてよい情報を決め、社員に伝える、という3点を最初にそろえます。大企業向けの資料も、10〜200名の会社に必要な部分に絞れば、準備はそれほど重くありません。
経団連報告書の対応を10〜200名の会社向けに言い換えたチェックリスト
経団連の報告書13ページは、AI事業者ガイドラインを基に、HR部門に求められる対応を整理しています。これを、専任の人事部や情報システム部門がない会社でも実行できる形に言い換えると、次のようになります。
- 評価に使ってよいAIを、会社が指定した1つの環境に決める報告書の、HR部門で利用するAIツールを会社指定のものに限定、にあたる。評価者の個人アカウントは使わない。
- 管理者を1人決め、アカウントと利用ログを確認できるようにするアクセス権限・ログ管理の実施、にあたる。IT部門がなければ総務か人事の担当者が担う。
- 外部のサービスを使うなら、契約や規約で情報の扱いを確認する外部ベンダー利用時の情報セキュリティ要件の明確化、にあたる。
- AIに入れる情報は必要最小限にし、要配慮個人情報は入れない入力前に伏せる項目の一覧を評価者に配る。
- 入力した情報が保存・学習などに使われるかを事前に確認するAIサービス提供者によるデータの保存・二次利用の有無の事前確認、にあたる。
- 評価でAIを使っていることを社員に伝えるどの工程で使い、どこでは使わないかを社内ルールに書く。
- 責任者と、苦情・問い合わせの窓口を決める社員が評価とAIについて疑問を出せる先をはっきりさせる。
- AIの結果だけで不利益な処遇を決めない評価点・昇給・降格・配置は人が決め、根拠を説明できるようにする。
社内の生成AIルール全体の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方、点検項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストで整理しています。
評価者が個人アカウントでAIを使う場面に備える1枚ルールの文例
会社が何も決めていないと、評価の時期に、評価者が自分の個人アカウントのAIで評価コメントを書くことが起こりえます。会社が把握していないAIの利用は、野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、情報がどこに入力されたかを会社が追えなくなります。評価期間の前に、評価者へ次のような1枚のルールを配っておくと、迷いを減らせます。
1.使ってよいAI
会社が用意した【AI環境の名称】だけを使います。個人のアカウントや、無料の翻訳・要約サイトなどは評価業務に使いません。
2.AIに頼んでよい作業
評価コメントの下書きと言い換え、面談メモの要約、目標文の添削、自分の書いたコメントの点検。
3.AIに決めさせないこと
評価点、評価ランク、昇給・賞与、昇格・降格、異動・配置。
4.入力しない情報
氏名・社員番号、給与額、病歴や健康状態、休職や欠勤の理由、家族の事情、他の社員の評価。氏名は記号に置き換えます。
5.使った後にすること
下書きは必ず自分のメモと突き合わせ、事実と違う箇所を直してから提出します。
6.困ったときの連絡先
【担当部署・担当者名】
社員が会社の把握していないAIを使う問題と対策は、シャドーAI(野良AI)とはで詳しく解説しています。
導入目的・使うデータ・評価基準を社員に事前に説明する(告知文の例)
評価にAIを使うことを社員に伝えるときは、目的、使う工程、使う情報、決める人、問い合わせ先の5つを入れます。社内の掲示やメールで使える文例です。
今期の人事評価から、評価者が評価コメントの文章を整える作業と、面談記録の要約に、会社が用意した生成AIを使います。目的は、評価者の文章作成の負担を減らし、コメントの書き方をそろえることです。
・AIに入力するのは、目標と期中の行動・結果の事実だけです。氏名は記号に置き換え、給与や健康に関する情報は入力しません。
・評価点・評価ランク・昇給や配置は、これまでどおり評価者と【人事担当・経営者】が評価基準にもとづいて決めます。AIが決めることはありません。
・面談を録音・文字起こしする場合は、面談の前にお知らせします。
・評価やAIの利用について質問がある場合は、【担当部署・担当者名】までご連絡ください。
同じ内容を、評価規程や社内の生成AIルールにも1項目として書き加えておくと、担当者が替わっても説明がぶれません。
複数のAIを使い分け、1つの出力を鵜呑みにしない
評価に関わる作業では、AIの種類によって向き不向きがあります。評価コメントの言い換えや要約のような文章の作業と、評価制度や労務の法令を調べる作業とでは、向いているAIが違います。調べ物には出典を示すタイプのAIを使い、出てきた出典を人が開いて確かめます。
同じ下書きの点検を2つのAIに頼み、指摘が食い違った箇所を評価者が重点的に見直す使い方もあります。1つのAIの出力をそのまま正解としない運用は、デメリット3で挙げた過信を防ぐ手段にもなります。用途ごとの割り当ては主要4AIの違いと使い分け、複数のAIを1つの環境で使う方法はマルチAIとはで解説しています。
導入のステップ|現状の棚卸しから運用・見直しまで
評価へのAI活用は、全社で一度に始めるより、今の評価の流れを棚卸しし、一部の評価者で試してから広げるほうが失敗が少なくなります。
ステップ1:現状を棚卸しする
評価シートの配布から、記入、面談、集計、調整会議、本人へのフィードバックまでを書き出し、それぞれに誰がどのくらい時間をかけているかを確認します。あわせて、評価者がすでに個人でAIを使っていないかを聞き取ります。責める目的ではなく、実態を知るためだと伝えると、正直な回答が集まりやすくなります。AIを使う工程は、この一覧から、評価コメントの下書きや面談記録の要約のように人が最終確認できる作業を選びます。
ステップ2:小さく試してから広げる(トライアル)
最初は、2〜3人の評価者と、1回の評価期間に限って試します。架空のメモで練習してから、実際の評価で使い、先に紹介した式で作成時間を記録してもらいます。うまくいかなかった点、伏せる項目の一覧で足りなかった点、指示文を直した点を集め、ルールに反映してから対象を広げます。
ステップ3:運用しながら見直す
全評価者に広げた後も、評価期間が終わるたびにルールと指示文を見直します。使うAIの設定や法人向けプランの条件は変わることがあるため、学習に使われない条件が今も満たされているかを、管理者が年に1回以上、公式情報で確認します。
導入後の効果検証・社員サーベイ・偏りのモニタリング
効果は、作成時間の変化だけでなく、評価の受け止め方でも確かめます。評価の後に社員向けの簡単なアンケートを行い、評価コメントが具体的だったか、次に何をすればよいか分かったか、評価に納得できたかを聞きます。
あわせて、評価者別・部署別の点数の分布を毎期並べ、AIを使い始めてから特定の属性の社員だけ評価が変わっていないかを見ます。AIの下書きが似た言い回しばかりになり、社員ごとの違いが見えにくくなっていないかも確認点です。気になる変化があれば、指示文と入力メモの書き方にさかのぼって原因を探します。
AI搭載の人事評価システム・タレントマネジメント製品を選ぶときの確認項目
評価の件数が多い、評価データを配置や育成に本格的に使いたい、という段階になったら、AI機能を持つ人事評価システムやタレントマネジメント製品も選択肢になります。製品ごとに機能や条件が違うため、比較するときは次の点を確認します。
- AIが何をするのかコメントの下書き・添削なのか、点数の分析なのか。点数を自動で付ける機能がある場合、最終判断を人が行える設計か。
- AIの結果の根拠が見えるかなぜその指摘や分析になったのかを、評価者が確認できるか。
- 入力した評価データが学習などに使われるか契約や規約で、データの保存場所と二次利用の有無を確認する。
- 閲覧権限を細かく設定できるか評価者が自分の部下以外の情報を見られないようにできるか。
- 既存の人事・給与のデータと連携できるか社員情報を二重に入力しなくて済むか。
- 評価制度の設定を自社で変えられるか評価項目や等級を見直したときに、追加費用なしで変更できるか。
導入費用の目安は何で決まるか
費用は、製品の課金方式と、準備にかかる作業で大きく変わります。料金は製品や契約条件によって違うため、金額を比べる前に、次の3点で費用の決まり方を確認します。
- 課金方式:社員1人あたり(ID課金)で月額がかかるのか、会社単位の定額なのか。ID課金なら、社員が増えるほど費用が増えます。
- 初期費用:評価項目の設定、社員データの移行、評価者への説明会などに、別途費用がかかるか。
- 連携の費用:既存の人事システムや給与計算ソフトとつなぐ場合に、追加の費用や開発が必要か。
汎用の生成AIで評価コメントの下書きから始める場合は、評価専用の製品は不要で、会社で契約する生成AI環境の費用と、ルールづくり・研修の社内工数が主な費用になります。
評価の情報を扱うAIを、会社の管理下で配る
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityの4つのAIを1画面で使える法人向けの生成AI環境です。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、基盤は国内サーバー(AWSの日本リージョン)です。料金は月額30,000円(税抜)からで、ユーザーごとの課金はありません(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
AIは人事評価を作成できますか?
評価コメントの下書きにChatGPTを使ってもよいですか?
AIによる人事評価で訴訟になるリスクはありますか?
人事評価にAIを導入する費用はどのくらいですか?
評価にAIを使っていることを社員に伝える必要はありますか?
社員10〜200名の会社は、何から始めればよいですか?
まとめ
人事評価のAI活用は、評価データの集計や評価コメントの下書き、面談記録の要約といった作業をAIに手伝わせることです。AIに任せてよいのは下書きと点検までで、評価点や昇給、配置を決めるのは人です。
人事評価にAIを活用している会社はまだ少なく、人事白書2026では従業員1〜100人の企業の72.5%が活用の予定はないと答えています。一方で、評価者が手元の生成AIで評価コメントを書くことは、制度を入れる前から起こりえます。社員10〜200名の会社がまず取り組むべきなのは、システムの選定より、評価者向けのルールづくりです。
ルールの中心は、AIに任せる作業・人が決める判断・入力しない情報の3つの線引きです。そのうえで、学習に使わない条件の環境を会社が配り、利用状況を管理側で確認できる形にしておくと、評価の情報を安心して扱えます。
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