社内AIチャットは自作か既製か。APIやAzure OpenAIで作る前の判断基準

社内AIチャットとは、社員が業務で使う生成AIのチャット画面を、会社の契約と管理のもとで用意したもの(いわゆる社内版ChatGPT)です。社員10〜200名の会社なら、APIやAzure OpenAIで自作するより、既製の法人向けサービスを契約するほうが、作る手間と配るまでの早さの両面で無理が少なくなります。自作が合うのは、開発と保守を続けられる担当者が社内にいて、AIを業務システムに組み込む計画がある場合に限られると考えてよいでしょう。既製サービスの候補は法人向け生成AIの料金比較(38サービス)で横に並べているので、絞り込みに使ってみてください。

社内AIチャットとは|社外向けやFAQ型チャットボットとの違い

社内AIチャットという言葉で調べると、社員が自由に使う生成AIのチャットと、社内の問い合わせに自動で答えるチャットボットの2種類が混ざって出てきます。どちらを探しているかで、比べるべきサービスも費用の考え方も変わってしまいます。ここで扱うのは前者の、社員に配る社内版ChatGPTのほうになります。

社内向けと社外向けの違い

社外向けのチャットボットは、お客様からの質問にWebサイト上で答えるもので、答えてよい範囲を会社が細かく決めておく必要があります。社内向けは相手が社員に限られるぶん、就業規則や社内の手続き、業務マニュアルなど、外に出せない情報を扱う点が大きく違います。見るべきなのは回答の上手さより、社員以外が入れない仕組みと、誰が何を聞いたかを会社が後から確かめられるかどうかでしょう。

シナリオ型・FAQ型・生成AI型の3分類

チャットボットは、答えを作る仕組みで3つに分けると整理しやすくなります。

  • シナリオ型は、あらかじめ用意した選択肢を順にたどって答えにたどり着く形で、想定外の質問には答えられません。
  • FAQ型は、登録した質問と回答の組から近いものを探して返す形で、社内ヘルプデスクの自動化によく使われています。
  • 生成AI型は、ChatGPTのような大規模言語モデルが文章を組み立てて答える形で、社内文書を読み込ませれば、その内容をもとに答えさせることも出来ます。

社内版ChatGPTは3つ目の生成AI型にあたり、問い合わせへの回答に限らず、文書の下書き・要約・翻訳・調べものまで社員が自由に使える点が、FAQ型との分かれ目です。FAQ型の製品を探している場合は、社内ヘルプデスクのAI化の解説が参考になるでしょう。

迷ったときの見分け方
目的が「総務や情シスへの問い合わせ件数を減らしたい」ならFAQ型、「社員の文書作業を速くしたい」「個人のAIアカウントでの業務利用をやめさせたい」なら生成AI型を探すことになります。両方を1つの製品で満たそうとすると、どちらの比較軸でも中途半端な候補しか残らなくなってしまいます。

社内AIチャットで得られること|問い合わせ削減・属人化の解消・24時間対応

社内AIチャットの効果は、担当者に集まっていた質問と文書作業を、社員が自分で片づけられるようになる点に集まります。

総務や情シスには、経費精算の締め日や申請書の置き場所など、同じ質問が繰り返し届きます。規程やマニュアルを読み込ませた生成AIに先に聞けるようにすれば、担当者が1件ずつ答える時間を減らすことが出来ます。

特定の人に聞かないと分からない業務の手順も、文書にしてAIに参照させておけば、担当者の休暇や異動のときに仕事が止まりにくくなります。AIは時間を選ばずに答えるため、早朝や夜間、在宅勤務で近くに聞ける人がいない場面でも、社員は作業を先へ進めることが出来ます。

問い合わせ対応だけでなく、メールや報告書の下書き、長い資料の要約、議事録の整理といった日々の文書作業にもそのまま使えるのが、FAQ型にはない生成AI型の強みになります。一方で、生成AIの答えには誤りが混ざることがあり、就業規則や経費のように間違いが許されない質問では、根拠の文書を示させて人が確かめる運用が欠かせません。効果が出るかどうかは、ツールの賢さより、読み込ませる文書が最新に保たれているかで決まります。

部署別の使い道|人事・総務・情シス・経理・営業

社内AIチャットを配ったあとに使われ方が伸びやすいのは、部署ごとに「最初に任せる仕事」がはっきりしている会社です。告知のときに、自分の部署ならこう使えるという例を1つずつ添えておくと、最初のログインにつながりやすくなります。

  • 人事・労務では、就業規則や休暇の取り方についての社員向け説明文、求人票や面接の質問案の下書きに使えます。
  • 総務は、備品や会議室の手続きの案内文、社内通知の言い回しの調整、規程の改定箇所の要約などで手間を減らせるでしょう。
  • 情シスなら、パスワード再設定やアカウント申請の手順書づくり、エラーメッセージの意味の下調べが向いています。
  • 経理では、経費精算のルールを社員向けに言い換えた説明や、取引先への支払い案内メールの下書きを任せられます。
  • 営業は、提案書の骨子や商談メモの整理、お客様へのお礼メールの下書きから始めると効果を感じやすいはずです。

どの部署でも、給与・人事評価・顧客の個人情報のように入力してはいけない情報は先に決めておき、AIが作った文書は担当者が読んでから外に出す流れをそろえてください。数字や規程の条文が絡む答えは、元の文書で確かめる前提で使うのが安全です。

導入事例と削減効果の数字|自作した会社と既製を使った会社

公表されている事例では、自作した会社も既製サービスを使った会社も効果の数字を出していますが、いずれも自社アンケートなどによる同社発表で、第三者が検証したものではありません。規模と体制の違いを差し引いて読み比べることが大切になります。

自社で作った会社の例

  • パナソニック コネクトは、OpenAIの大規模言語モデルをもとに社内向けAIアシスタント「ConnectAI」を自社開発し、国内の全社員約12,400人に展開しています。12カ月で全社員の労働時間を計18.6万時間削減したと発表しています(社員アンケートによる同社発表、2024年6月25日)。
  • 三井住友フィナンシャルグループは、専用環境で動く従業員専用のAIアシスタント「SMBC-GAI」をMicrosoft Teamsに組み込み、利用は2023年7月のリリース当初の1日約6,000件から、約12,000件に増えたと紹介しています(同社サイトの記事、2024年3月8日更新)。
  • 三菱UFJ信託銀行は、仕様書・業務マニュアル・FAQを生成AIに読み込ませ、金融市場取引業務の社内問い合わせに対応させています。外部の事業者と協業して2024年4月から業務で使い、担当部署の対応時間を50%削減したと発表しています(同社発表、2024年8月2日)。
  • ライフネット生命保険は、総合職正社員203名を対象に、自社開発の社内用LLMを2024年7月1日に導入しました。2025年1月末時点の利用率は87%、導入2カ月で利用者の業務時間を計152時間削減したと発表しています(回答56名のアンケートによる同社発表)。

既製サービスを使った会社の例

  • MIXIは2025年3月にChatGPT Enterpriseを導入し、全社活用で月間約17,600時間の業務時間削減が見込まれると発表しています(2025年8月21日)。この数字は、アンケートで答えた週あたりの節約時間を月に直し、アクティブユーザー率80%(1,600名)に当てはめて算出したものです。
  • Zenkenは2024年11月からChatGPT Enterpriseを全社員に導入し、全社導入3カ月後の社内アンケート(有効回答380)などをもとに、月間約12,500時間分の工数が削減されたと発表しています(同社発表)。
  • 三井不動産は2025年10月1日からChatGPT Enterpriseを約2,000人の全社員に展開し、利用開始から約3か月で500件のカスタムGPTが運用中と発表しています(2025年12月23日、同社発表)。

自社で作った例に大企業や金融機関が並ぶのは、開発と保守を担う専門の組織を社内に持てるためと考えられます。ライフネット生命保険の例は対象の人数こそ200名規模ですが、上場企業として開発体制を持つ会社の取り組みです。社員10〜200名の会社にとっては、既製サービスの事例のほうが、配ってからどう使われるかを知る手がかりになるでしょう。そのほかの業種の事例は生成AIの活用事例にまとめています。

用意の仕方は3通り|API・Azure OpenAI・既製の法人向けサービス

社内版ChatGPTを用意する方法は、AI事業者のAPIで自作する、Azure OpenAIで自作する、既製の法人向けサービスを契約する、の3通りに分かれます。

1. AI事業者のAPIで自作する

APIとは、自社のプログラムからAIを呼び出すための窓口で、OpenAIの場合はChatGPTとは別の契約と請求になります。API経由で送ったデータは、2023年3月1日以降、利用者が明示的に共有を選ばない限りモデルの学習に使われないと公式ガイドに記されています。ただし、社員が触るチャット画面やログイン、利用記録は含まれないため、それらはすべて自社で作ることになります。料金は文字数に近い単位(トークン)で数える従量課金で、単価と月額の試算はChatGPT APIの料金をご覧ください。

2. Azure OpenAIで自作する

Azure OpenAIは、MicrosoftのクラウドであるAzureの上でOpenAIのモデルを使えるサービスで、現在の製品ページでは「Azure OpenAI in Foundry Models」と表記されています。社内のネットワークとつなぐプライベートエンドポイントや、Microsoft Entra IDでの認証に対応しているため、Microsoft 365を使っている会社では候補に挙がりやすいでしょう。入力したプロンプトや出力は、許可なく基盤モデルの学習に使われないとMicrosoftは説明しています。こちらもAPIとして提供されるので、チャット画面は自前で用意する形となります。仕組みはAzure OpenAIとは、料金の計算はAzure OpenAIの料金で詳しく扱っています。

3. 既製の法人向けサービスを契約する

既製の法人向けサービスは、画面・ログイン・管理画面が最初からそろった形で提供され、契約して社員を招待すれば使い始めることが出来ます。大きく分けると、1社のAIを使うChatGPT BusinessやClaudeのTeamのようなプランと、ChatGPT・Claude・Geminiなど複数のAIを1つの画面で使えるサービスの2つがあります。前者はユーザー1人あたりの月額課金が基本で、後者には会社単位の月額で契約する形のものも見られます。複数のAIを使い分ける考え方はマルチAIとはで整理しています。

自作か既製かの判断表|工数・保守の担い手・データの扱い・展開までの期間

自作と既製の差は、月々の利用料よりも、作る手間と、作った後に誰が面倒を見るかに大きく表れます。4つの軸に、使いすぎの止め方と向く会社を加えて並べると、次のようになります。

比べる軸APIで自作Azure OpenAIで自作既製の法人向けサービス
作る工数チャット画面・ログイン・利用記録・利用量の制御を開発する左と同じ開発に加え、リソースの作成・モデルのデプロイ・ネットワークの設計が要る開発は不要。招待と初期設定が中心
保守の担い手自社。APIの仕様変更やモデルの入れ替えに合わせて改修を続ける自社。一般提供のモデルは提供開始から18か月で提供終了となり、通知は少なくとも60日前提供事業者。社内では設定と社員からの質問への対応が残る
データの扱いAPIに送ったデータは既定で学習に使われない。不正使用の監視ログは最長30日保持許可なく基盤モデルの学習に使われない。デプロイの種類で処理する範囲を選べるサービスごとに確認が必要(ChatGPT Businessは既定で業務データを学習に使わない)
展開までの期間開発と社内テストが終わるまで配れない左と同じ。ネットワーク設計の分だけ長くなりやすい契約と招待で始められる(ChatGPT Businessはシートの追加が即時)
使いすぎの止め方組織・プロジェクト単位の上限で要求を止められる。社員単位の上限は自作予算アラートは利用を止めない。止めるには追加の作り込みが要る上限に達したときに止まるか、通知だけかをサービスごとに確認
向く会社開発担当がいて、自社のシステムにAIを組み込みたいAzureの運用経験があり、閉域接続や処理する地域に条件がある開発担当がいない、または兼任で、まず社員に安全に配りたい

※OpenAI API・Azure OpenAI・ChatGPT Businessの記載は、2026年9月17日〜19日に各社の公式ページ・公式ヘルプで確認した内容です。

表でいちばん差が大きいのは保守の担い手で、自作では作った担当者が異動や退職をした時点で、止まったときに直せる人がいなくなってしまいます。社員に安全なチャットを配ることだけが目的なら、自作する理由はほとんど残りません。反対に、受発注や顧客管理のシステムにAIを組み込みたい、処理する地域を取引先との契約で決められている、といった事情があれば、自作の手間をかける意味が出てきます。

作って守り続ける手間を、契約1つに置き換える

担当者の異動で直せなくなる自作よりも、使う環境を会社で1つ契約する方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

判断の分かれ目は5つの質問

自作するか既製にするかは、次の5つの質問に順に答えていくと、多くの場合で決めることが出来ます。

  1. AIを自社の業務システム(受発注・顧客管理・社内ポータルなど)に組み込む計画が、1年以内にありますか。
  2. 開発と保守を続けられる担当者が、兼任ではなく社内にいますか。
  3. 取引先との契約や社内規程で、ネットワークの経路やデータを処理する地域が決められていますか。
  4. 毎月の費用が社員の使い方で上下しても、予算として社内で通せますか。
  5. 画面や機能を自社の業務に合わせて細かく作り込む必要がありますか。

1と2がどちらも「はい」なら、自作を本格的に検討する価値があります。3だけが「はい」の場合は、Azure OpenAIで条件を満たす設計が出来るかと、既製サービスがその条件を満たすかを並べて確かめましょう。4が「いいえ」の会社は、従量課金の自作では毎月の稟議が通しにくくなります。5つとも「いいえ」なら、既製の法人向けサービスから選ぶのが近道です。

IPAの2024年度中小企業等実態調査(速報、2025年2月14日公開、中小企業の経営層4,191件)では、情報セキュリティ対策の専門部署がある企業は9.3%にとどまっています。2つ目の質問に迷わず「はい」と答えられる会社は、実際にはそれほど多くないと見てよいでしょう。

もう1つの見分け方
作りたいものがチャット画面そのものなら既製、チャットの先にある業務の自動化なら自作、と考えると迷いが減ります。社員に配る入口は既製で用意し、自動化したい業務だけをAPIで作る、という組み合わせを選ぶ会社もあります。

自作を選んだときに必要な作業の一覧|API・Azureの設定名つき

自作で手間がかかるのは、AIを呼び出す部分より、その周りに社員向けの仕組みを組み立てる部分です。公式ドキュメントにある設定名で、作業を洗い出してみましょう。

OpenAIのAPIで作る場合

  • APIキーの発行と入れ替えダッシュボードでAPIキーを作成し、プログラムからは環境変数 OPENAI_API_KEY で読み込ませます。公式は、プロジェクトのAPIキーに有効期限を設け、定期的に入れ替える運用を強く勧めています。
  • 支出の上限Organization limits の Spend で Edit spend limit を開き、月の上限額を入れて Enforce a hard limit をオンにすると、上限を超えた要求はエラーで止まります。反映は即時ではなく、記録上の支出が上限をわずかに超えることがあると説明されています。
  • 前払い残高と自動チャージ新しいAPIアカウントは前払い制で、自動チャージ(auto-reload)は設定時に既定でオンです。残高が尽きてもすぐには止まらない場合があり、公式は前払い残高を即時の支出停止として頼らないよう案内しています。
  • 本番と検証の分離本番と検証でプロジェクトを分け、プロジェクトごとに利用量と支出の上限を決める形が勧められています。
  • 社員ごとの利用量の制御APIの利用制限(レート制限)は組織とプロジェクトの単位で、ユーザー単位ではありません。社員や部署ごとの上限は、画面側で作り込むことになります。

Azure OpenAIで作る場合

  • リソースの作成Azureサブスクリプションを用意し、サブスクリプション・リソースグループ・地域・名前・価格レベルを選んでリソースを作ります。
  • モデルのデプロイFoundryポータルの「+モデルのデプロイ」から使うモデルを配置します。デプロイの種類(Global・Data Zone・Standardなど)によって、データを処理する範囲と単価が変わります。
  • 認証と権限認証はAPIキーのほか、Microsoft Entra IDが推奨されています。Cognitive Services OpenAI User のロールなら、推論は出来てもキーは見られない形にできます。
  • ネットワーク初期状態はすべてのネットワークからの接続を受け付けます。社内からだけ使わせるなら、プライベートエンドポイントと、VPN Gateway または ExpressRoute の設計が必要です。
  • 費用の上限Azure OpenAIには予算を超えたら自動で止める機能がなく、予算アラートを設定しても利用は止まりません。費用の反映にも通常8〜24時間かかるため、止めるには追加の作り込みが要ります。
  • 社内文書の読み込みAzure OpenAI On Your Data は2026年10月14日に提供終了となる予定(2026年9月28日時点の案内)で、移行先として Foundry Agent Service with Foundry IQ が案内されています。これから作るなら、移行先の仕組みで設計することになります。
  • モデルの入れ替え一般提供のモデルは提供開始から18か月で提供終了となり、通知は少なくとも60日前に届きます。移行先のモデルで回答を確かめ直す作業が、定期的に発生します。

どちらでも自社で作るもの

チャット画面、ログイン、会話履歴の保存と削除、誰がいつ何を入力したかの記録、退職者のアカウント停止は、APIでもAzureでも自社の担当になります。社内文書を読み込ませて答えさせる仕組み(RAG)を加えるなら、文書の置き場所と閲覧権限の設計も増えてしまいます。RAGの組み立て方はRAGの構築で扱っています。外部の会社に開発を頼む場合も、この一覧のうち保守契約でどこまで引き受けてもらえるかを、見積もりの段階で確かめておくと安心でしょう。

料金・費用感の比較|クラウド型・オンプレ型と月額の水準

社内AIチャットの費用は、1人あたりの月額で払う形、使った量で払う形、会社単位の月額で払う形の3つに分かれ、自作ではさらにサーバーなどの固定費が加わります。

クラウド型とオンプレ型

クラウド型は事業者のサーバーで動くサービスを使う形で、社内AIチャットの多くはこちらになります。オンプレ型は自社のサーバーでAIや周辺の仕組みを動かす形で、機器の購入と運用を自社で負うのが特徴です。外に出せないデータが多い会社で検討されることがありますが、社員10〜200名の会社では、機器と運用の担い手を確保できるかが最初の壁になるでしょう。

月額の水準

1人あたりの月額で払う例として、ChatGPT Businessの標準シートは、年額課金で1人月3,050円、月額課金で1人月3,850円と表示されています。社員30人全員に配ると、月額課金なら毎月115,500円、年額課金でも毎月91,500円(年1,098,000円)となってしまいます。

使った量で払うAPIとAzure OpenAIは、社員の使い方で毎月の金額が上下し、トークン代とは別に画面を動かすサーバー代などもかかります。例えばAzureの東日本リージョンでは、Azureの価格APIの時間単価を730時間(1か月)で換算すると、画面を置くApp Service(Linux P1 v3)が月21,865円、社内文書の検索に使うAzure AI Search(Basic)が月15,468円となります。トークン代を除いても、この2つだけで毎月37,333円の固定費が出ていく計算です。ここに開発費と、保守を担う方の人件費が加わります。

会社単位の月額で払うサービスでは、料金の差は主に含まれる利用量で決まり、人数で月額が変わらない形のものもあります。どの形を選ぶ場合でも、自作の案には開発費と保守の人件費を足したうえで、同じ12か月で比べてみてください。

※ChatGPT Businessの円表示は2026年9月19日に日本から公式の料金ページを表示した金額(米ドル表示では標準シート年額課金$20・月額課金$25)で、Azureの円単価は2026年9月17日にAzureの価格API(東日本リージョン)で確認した時間単価を730時間で月額に換算した金額です。いずれも税の記載はありません。為替や契約の形態によって変わるため、見積もりの前に公式ページで最新の金額をご確認ください。

Teams・Slack・LINE WORKSとの連携|2つの向きを分けて考える

ビジネスチャットとの連携には、TeamsやSlackの中でAIが答える形と、AIの画面からTeamsやSlackの情報を読みに行く形の、2つの向きがあります。

前者はFAQ型の社内ヘルプデスク製品に多く、例えばPKSHA AIヘルプデスクは問い合わせ窓口をMicrosoft Teamsに集約する形を、Admina AIヘルプデスクはSlack・Teams・LINE WORKSの上で動く形を、それぞれ公式ページで案内しています。後者の例がChatGPTの接続済みアプリで、Google DriveやSlackなどにつなぐと、会話の中でファイルやメッセージを検索させることが出来ます。ChatGPT Businessではアプリの多くが既定で有効になっていて、管理者はワークスペース全体で使えるかどうかを切り替える形です。詳しくはChatGPTのコネクタ(接続済みアプリ)をご覧ください。

自作する場合は、どちらの向きでも接続部分を自社で作ることになり、SMBC-GAIのようにTeamsへ組み込んだ例は、専任の開発体制があってこそ成り立つものでしょう。社員が普段いるチャットの中で答えてほしいのか、AIに社内の情報を読ませたいのかで、候補になる製品はまったく変わってしまいます。連携を選定の条件に入れるなら、必要なのはどちらの向きかを先に決めましょう。

既製サービスの選び方|セキュリティ・権限・ログ・運用体制・費用

既製サービスを選ぶときは、機能の多さより、会社として説明できる状態を作れるかどうかで比べると失敗が少なくなります。

セキュリティ(学習と保管)

入力した内容がAIの学習に使われない設定が、社員ごとの操作ではなく全員に一律で効くかを確かめます。会話履歴や利用記録がどの国のどの事業者に保管されるかも、取引先から聞かれたときに答えられるよう、資料で確認しておきましょう。

権限

使わせるAIや機能を管理者が絞れるか、退職や異動のときにアカウントをすぐ止められるかを見ていきます。ChatGPT Businessのアプリ連携のように、ワークスペース全体でしか切り替えられず、部署やロールごとの出し分けは上位プランの機能という場合もあります。

ログ

誰が・いつ・どのAIを使ったかを会社側で確かめられるか、その記録を書き出せるかが要点になります。なお、ChatGPT Businessの管理者であっても、メンバーの通常の会話に自動でアクセスできるようになるわけではないと、OpenAIの公式ヘルプに記されています。

運用体制

社員からの使い方の質問に社内の誰が答えるか、提供事業者のサポートを日本語で受けられるかも、公開後の負担を左右します。担当者が兼任の会社ほど、この点を契約前に確かめておきたいところです。

費用

1人あたりの課金か会社単位の月額かで、全社員に配れるかどうかが決まってしまいます。一部の社員にしか配れないと、配られなかった社員が個人のアカウントで使い始め、会社から見えない利用が残る原因になりかねません。商工組合中央金庫の調査(2026年1月調査、取引先中小企業3,892社の回答、2026年3月31日公表)では、会社として導入せず使用を個人の判断に任せている企業が64.9%を占めました。見えない利用の広がり方と対策は野良AI(シャドーAI)で解説しています。

会社で安全に使うには|学習させない設定・ログ管理・社員への配布・複数AIの使い分け

自作でも既製でも、会社で安全に使うために最初にそろえる項目は同じで、次の8つを最小限の備えと考えてください。

  • 入力データを学習に使わせない設定が、全員に効いている個人の設定に任せず、契約や管理画面で一律に効いているかを確かめます。
  • 利用記録を見られる人と、確認する頻度を決めた誰が・いつ・どのAIを使ったかの記録を、誰がどのくらいの間隔で見るかまで決めます。
  • 入力してはいけない情報を文書にした個人情報や取引先の機密など、入れてはいけない情報を例つきで書き出します。個人情報保護委員会は、個人データを含むプロンプトを入力する場合、提供事業者がその個人データを機械学習に使わないこと等を十分に確認するよう注意を呼びかけています(令和5年6月2日)。
  • 機微な情報を伏せてから入れる手順を決めた氏名や口座番号を記号に置き換えてから入れるなど、伏せ方の例を示します。
  • 退職・異動のときの停止手順がある人事の手続きとアカウントの停止を、同じ日に行う流れにします。
  • 使いすぎたときの止まり方を知っている上限に達したら利用が止まるのか、通知だけで利用は続くのかを確かめます。
  • 出力を人が確かめる場面を決めた社外に出す文書や規程の解釈は、根拠を確認してから使うことにします。
  • 個人のAIアカウントでの業務利用の扱いを決めた会社の環境に移ってもらう期限と、例外を認める場合の申請先を決めます。

なかでも学習させない設定と利用記録の2つは、利用が広がってから入れ直すのが難しい項目です。複数のAIを使い分けたい場合、AIごとに契約と管理画面が分かれていると、この8つをサービスの数だけ繰り返すことになります。

調べものはWeb検索に強いAI、長い文書は長文の読み込みに強いAIというように用途で分けるなら、1つの契約と1つの管理画面で複数のAIを使える環境を選ぶと、管理の手間は1回分で収まります。用途ごとの割り当ては主要4AIの違いと使い分けを参考にしてみてください。ルールの文書は生成AIの社内ガイドラインの作り方、点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストで詳しく扱っています。

導入ステップと社員への配布|試す部署・告知文・最初の1週間

導入は、目的を決める、試す部署で使う、全社に配る、の順に小さく進めると、社内の混乱を抑えることが出来ます。

導入の5ステップ

  1. 目的を1つに決める(例:文書の下書きにかかる時間を減らす、個人のAIアカウントでの業務利用をなくす)。
  2. 判断表と5つの質問で、自作か既製かを決めます。既製なら候補を2〜3に絞り、学習の扱い・利用記録・上限の止まり方を資料で確かめます。
  3. 試す部署を1つ選び、2〜4週間ほど使ってもらいましょう。
  4. ルール文書と告知文を用意し、全社に配ります。
  5. 利用状況を見て、ルールと読み込ませる文書を見直していくことになります。

試す部署の選び方

試す部署は、文書を書く量が多く、結果を数えやすい部署を選ぶと、全社に広げるときの説明材料がそろいやすくなります。総務・経理・営業事務のように、同じ種類の文書を繰り返し作る部署が向いています。反対に、繁忙期の部署や、AIに慎重な方が多い部署から始めるのは避けたほうが無難でしょう。

社員への告知文のひな形

告知文に入れるのは、何に使ってよいか、何を入れてはいけないか、困ったときの連絡先の3つです。

件名:社内AIチャットの利用開始について(◯月◯日から)

各位
◯月◯日から、会社で契約したAIチャット(サービス名)を使えるようになります。文書の下書き・要約・翻訳・調べものなど、日々の業務にお使いください。

■使い方
・ログイン先:(URL)
・アカウント:会社のメールアドレス宛てに招待が届きます

■入力してはいけない情報
・お客様や取引先の個人情報(氏名・住所・電話番号・口座番号など)
・契約書や見積書など、社外秘と指定された文書の本文
・人事評価や健康に関する情報

■守っていただきたいこと
・AIの回答には誤りが含まれることがあります。社外に出す前に、必ず内容を確かめてください
・個人で契約したAIサービスでの業務利用は、◯月◯日までに会社の環境へ移してください
・利用状況は、管理者が記録を確認することがあります

■問い合わせ先
(部署名・担当者名・内線番号)

角かっこの部分を自社の内容に置き換え、社内ガイドラインの本文へのリンクを添えて送ってみてください。

最初の1週間で見る指標

  • 招待した人のうち、1回でもログインした人の割合
  • 1日に使った人数と、その人数が週の後半に減っていないか
  • 使われた用途(下書き・要約・調べものなど)の偏り
  • 社員から届いた質問と、入力してよいか迷った情報の例
  • 利用量が契約の上限にどのくらい近づいているか

ログインしていない方が多い場合は、短い説明会を開いて使い方の例を見せるなど、最初の一歩を後押ししましょう。入力してよいか迷った情報の例は、そのままルール文書の追記に使うことが出来ます。

導入でよくある失敗と防ぎ方|使われない・古い文書・誤った答え

社内AIチャットのつまずきは、ツール選びよりも、導入後の運用で起きやすいものです。よく聞く失敗を5つに分け、それぞれの防ぎ方を並べました。

目的を決めずに全社へ配る

アカウントだけ配って使い方を任せると、一部の詳しい社員しか使わず、契約の費用に見合わない状態が続きがちです。試す部署と最初に任せる仕事を決め、1週間ごとに利用の様子を見てから広げていくと、つまずきを小さく抑えられます。

読み込ませた文書が古いまま

規程やマニュアルを読み込ませたあとに改定があっても、AIは古い版をもとに答え続けます。文書ごとに更新の担当者を決め、改定したら差し替える手順を、規程の改定の流れに組み込んでおきましょう。

誤った答えをそのまま使ってしまう

生成AIは、知らないことでもそれらしい文章を作ってしまうことがあります。答えの根拠になった文書を示させる設定や、根拠が見つからないときは分からないと答えるよう指示しておく工夫が、誤りに気づくきっかけになるはずです。

見せてはいけない文書まで読み込ませる

人事評価や給与の資料を社内文書と一緒に読み込ませると、権限の設計しだいでは、ほかの社員の質問への答えに中身が出てしまうおそれがあります。読み込ませる文書は公開範囲ごとに分け、部署や役職で参照できる範囲を絞れるかを導入前に確かめてください。

自作した仕組みの担い手が抜ける

APIで自作した場合、作った担当者が異動や退職をすると、モデルの提供終了への対応やAPIキーの入れ替えが止まってしまいます。設定と運用の手順を文書に残し、2人以上で見られる体制にしておくことが欠かせません。この体制を用意できないときは、保守を事業者に任せられる既製サービスのほうが向いているでしょう。

作らずに、4つのAIを会社の管理下で

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面ではUPGEAR AI上の利用状況を利用者・日時・利用モデル単位まで把握して、CSVで書き出せます。会話履歴や利用ログ、アカウント情報の保管先は、AWSの日本リージョンにある国内サーバーです。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

UPGEAR AIの詳細を見る

よくある質問

社内AIチャットと社内FAQチャットボットは何が違いますか?
社内AIチャットは、社員が文書の下書き・要約・翻訳・調べものなどに自由に使う生成AIのチャットで、社内版ChatGPTとも呼ばれます。社内FAQチャットボットは、就業規則や社内手続きなど決まった範囲の問い合わせに自動で答えることが目的です。問い合わせ件数を減らしたいならFAQ型、社員の文書作業を速くしたい、個人のAI利用をなくしたいなら生成AI型を探すと、比べる候補を絞りやすくなります。
社員50名の会社でも、APIで社内ChatGPTを自作したほうが安くなりませんか?
トークン代だけを見れば安く見えることがありますが、チャット画面・ログイン・利用記録・上限管理の開発と、その後の保守の費用が別にかかります。Azure OpenAIの場合、東日本リージョンで画面用のApp Service(Linux P1 v3)と検索用のAzure AI Search(Basic)を置くだけで、トークン代を除いて月37,333円の固定費になります(2026年9月17日確認・税の記載なし)。開発と保守を担える担当者がいなければ、既製の法人向けサービスと12か月の総額で比べることをおすすめします。
Azure OpenAIとChatGPT Businessは、データの扱いが違いますか?
どちらも、入力した内容を既定ではモデルの学習に使わないと各社が公式に説明しています。違いは、Azure OpenAIはデプロイの種類によってデータを処理する範囲を選べる一方で、チャット画面や利用記録は自社で用意する点です。ChatGPT Businessは画面と管理機能がそろっていますが、使えるAIはChatGPTに限られます。
自作した社内AIチャットで、社員ごとに使える量を制限できますか?
OpenAIのAPIの利用制限は組織とプロジェクトの単位で設定するもので、ユーザー単位ではありません。Azure OpenAIも予算アラートでは利用が止まらないため、社員や部署ごとの上限は、画面側やAPI Managementなどで別に作り込む必要があります。既製サービスを選ぶ場合は、上限に達したときに利用が止まるのか、通知だけなのかを事前に確かめてください。
TeamsやSlackの中で社内AIチャットを使えますか?
TeamsやSlackの中でAIが答える形は、FAQ型の社内ヘルプデスク製品に多く見られます。ChatGPTの接続済みアプリのように、AIの画面からSlackやGoogle Driveの情報を検索させる形もあります。自作する場合は、どちらの形でも接続部分の開発が必要になります。
導入したのに社員が使ってくれない場合は、どうすればよいですか?
最初の1週間で、招待した人のうちログインした人の割合と、使われた用途を確かめてください。ログインが少なければ短い説明会、用途が偏っていれば別の用途の例を告知文で紹介する、といった手当てが考えられます。入力してよいか迷う声が多い場合は、入力してはいけない情報の例をルール文書に足してみてください。

まとめ

社内AIチャットは、社員が業務で使う生成AIのチャットを会社の契約と管理のもとで用意したもので、問い合わせに自動で答えるFAQ型のチャットボットとは目的が違います。用意の仕方はAPIで自作、Azure OpenAIで自作、既製の法人向けサービスの3通りで、差が大きいのは月々の料金より、作る工数と保守の担い手になります。

業務システムへの組み込みと、兼任ではない開発担当の2つがそろわない限り、社員10〜200名の会社は既製の法人向けサービスから選ぶのが現実的でしょう。どちらを選んでも、学習させない設定・利用記録・入力してはいけない情報・退職時の停止は最初にそろえ、試す部署から小さく始めてみてください。候補のサービスと料金は法人向け生成AIの料金比較に、そのほかのテーマはAI活用コラム一覧にまとめています。