社労士のAI活用。個人情報と守秘義務を守りながら事務所で生成AIを使う方法

社労士のAI活用とは、就業規則のたたき台や労務相談の論点整理、助成金の要件確認といった下書きと調べ物を生成AIに任せ、社労士が確認して仕上げる使い方のことです。効果は出やすい一方で、顧問先の従業員の個人情報や健康情報、マイナンバーを日常的に扱う仕事なので、何を入れてよいかの線引きと、事務所として使う環境を先に決めることが出発点になります。社会保険労務士法の守秘義務は職員にも及ぶため、所長おひとりが気をつけるだけでは足りません。業務別の使いどころから、情報の線引き、事務所で環境を1つにまとめる手順、職員数別の費用の出し方までを順に見ていきましょう。

社労士のAI活用とは|できることと任せてはいけないこと

社労士業務で生成AIが力を発揮するのは、文章の下書き、情報の整理、調べ物の入口づくりの3つになります。就業規則の条文案を作る、相談メールの論点を並べる、助成金の要件を顧問先の状況と突き合わせるといった作業は、白紙から始めるより格段に早く進みます。

反対に、AIに任せてはいけないのは、法令の当てはめの最終判断と、顧問先への回答の責任です。生成AIはもっともらしい誤りを出すことがあり、改正前の条文や存在しない通達を前提にした答えが返ってくる場合もあります。AIが作った下書きを、確認しないまま顧問先に出すことは避けるべきでしょう。

実際に使い始める前に決めておきたいのは、どの業務で使うか、どの情報を入れてよいか、どの環境で使うかの3点です。3点のうち、後から直しにくいのは環境の選び方となります。職員が個人のアカウントで使い始めてしまうと、どの顧問先の情報がどこに入力されたかを、事務所として追いかけられなくなってしまいます。

社労士業務でAIが役立つ5つの場面

社労士事務所の業務のうち、生成AIの効果が出やすいのは、文章量が多く、毎回ゼロから書いている作業です。以下の5つは、顧問先の個人情報をほとんど入れずに始められるものを中心に選んでいます。

就業規則・各種規程のたたき台づくり

就業規則や育児・介護休業規程、テレワーク規程などは、条文の構成と言い回しをAIに作らせ、社労士が内容を詰める使い方が向いています。指示の出し方としては、業種・従業員数・勤務形態といった条件だけを伝え、顧問先の社名や個人名は入れないのが基本となります。既存の規程を見直すときは、社名を伏せた条文を貼り付け、改正点に関係しそうな条文を挙げさせると、見落としの確認に使うことが出来ます。ただし、AIが挙げる改正点が最新とは限らないため、厚生労働省の資料で必ず裏を取ってください。

労務相談の一次整理と回答文の下書き

顧問先から届く相談メールは、事実関係と質問が混ざった長文になりがちです。AIに事実・論点・確認すべき追加情報の3つに分けさせると、回答の組み立てが早くなります。回答文の下書きを作らせる場合も、結論は社労士が決め、AIには言い回しと構成だけを任せる形が安全でしょう。

懲戒やハラスメント、解雇にかかわる相談は、実名や具体的な経緯を入れたくなる場面ですが、特に慎重に扱いたいところです。労働契約法第15条は、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効になると定めています。処分の重さの判断は事案ごとの事情に左右されるため、AIの回答をもとに可否を決めることはせず、論点の洗い出しにとどめましょう。

助成金の要件チェックと提案資料の下書き

助成金は、コースごとに要件や対象となる取り組みが細かく決まっており、見直しも頻繁にあります。支給要領やパンフレットをAIに読み込ませ、要件を箇条書きに整理させたり、顧問先の状況と照らして確認すべき項目を挙げさせたりする使い方は、提案の準備を大きく短くします。

たとえば人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースでは、厚生労働省が令和8年8月3日からの変更点として、特定の業務への具体的な適用を伴わない汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練を、対象外の例に挙げています。一方で、生成AIを活用して商品提案書の構成案作成や文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練は、対象の例に並んでいます。このように細かい線引きは、AIの要約だけで判断すると取り違えが起きやすくなります。要件の最終確認は、必ず最新の支給要領の原文で行ってください。

※人材開発支援助成金の記載は、厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース 令和8年8月3日からの変更点」を2026年9月26日に確認したものです。経過措置があると案内されているため、詳しくは支給要領・パンフレットでご確認ください。

給与計算・手続き業務のチェックリスト化

給与計算や社会保険の手続きそのものは専用のソフトで行う事務所が多く、AIが直接こなす場面は限られます。効果が出るのは、その周辺にある確認作業のほうです。入社・退職・育児休業の取得などの場面ごとに必要な手続きの流れを一覧にさせ、職員向けのチェックリストにまとめる使い方なら、個人情報を入れずに済みます。

実際の従業員データを使った計算の検算にAIを使うのは、おすすめしません。氏名や給与額、扶養の状況がそのまま入力されることになり、後で触れる情報の線引きで入れない側に当たる情報が混ざりやすいためです。

36協定や法改正の顧問先向け案内

36協定の締結時期の案内や、法改正を知らせるニュースレターは、毎年同じ構成で書く文章の代表になります。顧問先に配る案内文の下書きや、制度の説明を平易な言葉に言い換える作業はAIの得意分野で、職員が書いた文章の読みやすさを整える用途にも向いています。上限時間や届出の様式など、数字や手続きにかかわる部分だけは、厚生労働省の資料と照らし合わせてから送りましょう。

1号・2号業務とAIの線引き|最終判断は社労士が持つ

社労士の独占業務である書類の作成・提出代行(いわゆる1号業務)と帳簿書類の作成(2号業務)では、AIは下書きと確認の補助にとどめ、判断と署名は社労士が持つことが前提です。

1号業務の書類は行政機関に提出される正式な書類となり、2号業務の帳簿書類も法令にもとづいて作成するものになります。どちらも誤りがあれば顧問先の従業員の給付や保険料に直接響きます。AIが作った文面をそのまま提出すると、誰も中身を確かめていない書類が出てしまいます。

3号業務と呼ばれる相談・指導の分野でも、考え方は変わりません。経団連が2026年4月14日に公表した「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」では、事務局作成の整理として、採用・評価・配置など影響の大きい判断ではAIの結果のみで不利益な処遇を決定しないことが、求められる対応に挙げられています。

顧問先の人事担当者から、AIで出した結論が正しいか見てほしいという依頼が増えることも考えられます。そのとき、根拠となる条文や通達を示して判断を説明できることが、社労士に相談する価値そのものとなります。事務所の中でも、AIに任せる範囲と社労士が必ず確認する範囲を、業務ごとに書き出してみてください。

情報漏洩と守秘義務のリスク|社労士法の義務は職員にも及ぶ

顧問先の情報を外部のAIサービスに入力することは、その情報を提供事業者という第三者に渡すことを意味します。社労士の場合、守秘義務の規定が所長だけでなく職員にも置かれている点が、事務所としての対策を欠かせないものにしています。士業ごとの守秘義務の条文の違いは士業の生成AI活用と守秘義務で比べているので、ここでは社労士に絞って見ていきます。

社労士法第21条・第27条の2・第32条の2

社会保険労務士法第21条は、開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員が、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定めています。続く第27条の2は、開業社会保険労務士の使用人その他の従業者にも、同じ秘密を守る義務を課す規定です。違反した場合の罰則は第32条の2に置かれ、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金と定められており、告訴がなければ公訴を提起することはできません。

条文が定めているのは秘密を漏らしてはならないという義務で、生成AIへの入力がそのまま違反になると書かれているわけではない点には注意が必要です。それでも、入力した内容が提供事業者の側で学習などに使われる設定のまま顧問先の情報を入れれば、違反のおそれを事務所が自ら作ることになります。職員が善意で使った場合でも条文上の義務は職員本人にかかるため、個人の判断に任せる運用は職員を守ることにもなりません。

※条文はe-Gov法令検索(社会保険労務士法・労働契約法・個人情報保護法)で2026年9月26日までに確認したものです。

個人情報保護委員会の注意喚起

個人情報保護委員会は令和5年6月2日、「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。個人情報取扱事業者に向けた部分には、次の2点が書かれています。

  • 個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
  • あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があること。そのため、提供する事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること

社労士事務所は顧問先から従業員の個人データを預かる立場にあり、この2点はそのまま日々の使い方に当てはまります。注意喚起は生成AIの利用を禁じた文書ではなく、入力の範囲と、学習に使われないことの確認を求めたものと読むのが自然でしょう。裏を返すと、学習に使われないことを事務所として確かめられない環境では、顧問先の個人データを入れる前提が成り立たないということです。

全国社会保険労務士会連合会は2024年9月、社会保険労務士向けの生成AI活用ガイドブックを会員向けに公開したことを公式Xで告知しました。会員の方は、事務所のルールづくりの前にあわせて目を通しておきましょう。

個人のアカウントで使うと何が起きるか

事務所が環境を用意していないと、職員は自分の無料アカウントや個人契約のプランで業務に使い始めることがあります。ChatGPTの料金ページの比較表では、無料版・Go・Plus・Proの個人向けプランで、コンテンツをモデルの学習に使用する設定が「無効化可能」と表示されています。学習に使わせない設定は利用者が自分で切り替えるもので、職員一人ひとりの設定を事務所が確かめる手段はありません。

※ChatGPTの表示は、2026年9月27日時点の料金ページ(個人向けタブ)の比較表で確認したものです。

個人のアカウントでは、誰がいつどの顧問先の情報を入れたかという記録も、事務所側には残らないことになります。職員が退職したあとも、会話の履歴は本人のアカウントに残り続けてしまいます。会社が把握していないこうした利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、禁止の通達だけではなくなりにくく、使える環境を事務所として用意することが近道になります。

職員の善意の利用を、事務所の管理下に移すには

守秘義務が職員にも及ぶからこそ、学習に使われない設定と利用の記録がそろう環境を、事務所として1つ用意しておくと安心です。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

社労士が扱う情報の線引き|入れてよい・匿名化すれば可・入れない

情報の線引きは、事務所が契約した学習に使われない環境で使うことを前提に、3段階で決めるのが実務的です。個人のアカウントで使う場合は、下の匿名化すれば可の段も入れない側に寄せて考えてください。

  • 入れてよい情報公開されている法令・通達・パンフレットの内容、社名や個人名を含まない一般的な質問(例:従業員30名の小売業で1か月単位の変形労働時間制を検討するときの論点)、事務所が自分で作った案内文やひな形の文案。
  • 匿名化すれば可とする情報労務相談の事実関係、見直し対象の規程の条文、勤怠の傾向など。社名・氏名・日付・部署名を伏せ、記号に置き換えてから入れます。ほかの情報と照らし合わせれば誰か分かる場合は、伏せても個人情報のままと考えます。
  • 入れない情報マイナンバー、健康診断の結果・傷病名・障害の等級・通院歴などの健康情報、ハラスメントや懲戒の調査記録の実名部分、年金や保険の番号、口座番号など。

匿名化の段で気をつけたいのは、名前を消しただけでは足りない場合があることです。個人情報保護委員会のQ&Aでも、それだけでは個人を識別できない情報であっても、その他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できれば、全体として個人情報に該当することがあると説明されています。従業員10名の顧問先で入社時期と職種と休職の経緯を書けば、社名を伏せても誰のことか分かってしまいます。

健康情報と要配慮個人情報

社労士が扱う情報の中で、特に重いのが健康にかかわる情報です。個人情報保護法第2条第3項は、病歴などを含み、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する情報を、要配慮個人情報と定めています。休職・復職の相談、労災、障害年金の請求など、社労士の仕事はこの種類の情報に触れる場面が少なくありません。

個人情報保護委員会は、漏えい等の報告が義務になる事態の例として、従業員の健康診断等の結果を含む個人データが漏えいした場合を挙げています。経団連の前掲の報告書でも、AIに入力する人事データは必要最小限にすること、要配慮個人情報は入力しないことが、求められる対応の例として並びます。健康情報は、匿名化したつもりでもAIに入れない側に置くのが安全です。

マイナンバーの利用範囲と事務所ルール

マイナンバー(個人番号)は、通常の個人情報より使える場面が狭く決められた情報となります。個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」は、個人番号を利用できる事務は番号法によって限定的に定められており、事業者が利用するのは主として源泉徴収票や社会保障の手続書類に従業員等の個人番号を記載して提出する場合だと説明しています。同じガイドラインには、本人の同意があったとしても、例外を除きこれらの事務以外で個人番号を利用してはならない、という記載もあります。

ガイドラインに生成AIについての記載があるわけではありません。それでも、利用できる事務がここまで絞られている情報を、手続きと関係のない文章作成の道具に入れる理由は見当たらないでしょう。事務所のルールとしては、マイナンバーはどの環境であってもAIに入力しないと一文で決めてしまうのが、わかりやすい形です。書類の画像やPDFをまとめて読み込ませるときに番号が写り込んでいないかも、入力前の確認項目に加えてください。

※ガイドラインは令和6年5月一部改正版を確認しています。

漏えいしたときの報告義務

万一、顧問先の従業員の情報が漏えいした、または漏えいのおそれがある場合には、個人情報保護委員会への報告が必要になることがあります。委員会の案内では、要配慮個人情報を含むもの、不正利用により財産的被害が生じるおそれがあるもの、不正の目的をもって行われたおそれがあるもの、本人の数が1,000人を超えるものの4つが、報告が義務となる事態として示されています。速報の期限は、発覚日から3〜5日以内です。マイナンバーを含む場合は、報告の様式も別に用意されています。

顧問先から委託を受けて扱っている情報については、個人情報保護法第26条第1項のただし書きに、委託元に事態を通知したときは報告の義務がかからない旨の定めがあります。いずれにしても、健康診断の結果を含むデータは件数が少なくても1つ目の類型に当たるおそれがあるため、手順を先に決めておくことが欠かせません。誰が気づき、誰に報告し、顧問先にどう連絡するかを、AIの利用ルールと同じ文書にまとめておきましょう。漏えいが起きたときの動き方はChatGPTからの情報漏洩と対策でも整理しています。

誤情報(ハルシネーション)への備えと原典確認

生成AIの答えは、原典で確かめるまで下書きとして扱うのが基本です。ハルシネーションとは、AIが事実と異なる内容をもっともらしく答えてしまう現象を指します。社労士業務では、改正前の条文を現行のものとして答える、実在しない通達を挙げる、助成金の要件を古い年度のまま示す、といった形で現れやすくなります。

原典確認の手順は、職員ごとの差が出ないよう事務所で型を決めましょう。

  • AIの答えに出てきた条文番号・通達・様式名は、e-Gov法令検索や厚生労働省のページで原文を開いて確かめる
  • 答えに根拠の出典を書かせ、出典を示せないものは使わない
  • 助成金の要件・保険料率・届出期限など年度で変わる数字は、その年度の資料で確かめる
  • 同じ質問を別のAIにも投げ、答えが食い違った箇所を重点的に調べる

最後の項目は、複数のAIを使える環境があれば追加の費用をかけずに取れる対策になります。ただし、2つのAIの答えが一致していても正しいとは限らないため、原典を開く手順は省けません。顧問先に出す文書の数字と条文は、職員が原典を開いて確かめたものだけにしましょう。

事務所で安全に使うには|AIの環境を1つにまとめる手順

事務所で安全に使うための要点は、職員が使うAIの環境を事務所として1つに決め、学習させない設定とログの管理を個人任せにしないことです。経団連の前掲の報告書も、HR部門で利用するAIツールを会社指定のものに限定すること、IT・DX部門と連携してアクセス権限・ログ管理を行うことを、対応の例に挙げています。社労士事務所も、顧問先の人事データを預かる点では同じ立場にあります。

学習させない設定を事務所で一律にする

最初に確かめたいのは、入力した内容がAIの学習に使われない設定を、職員一人ひとりの操作ではなく事務所の契約として確保できるかどうかです。法人向けのプランでは、学習に使わないことを既定にしているサービスが多くあります。OpenAIはChatGPT Businessのヘルプで、ワークスペースのデータを学習に使用しないと明記しており、Anthropicも法人向けの商用製品の入力と出力を既定では学習に使わないと説明しています。Google Workspaceのプライバシーハブにも、顧客の事前の許可や指示がない限り顧客データをモデルの学習に使わない旨の記載があります。

※各社の記載は、OpenAI「ChatGPT Business - 概要」、Anthropic Privacy Center、Google Workspace 生成AIプライバシーハブで2026年9月25〜26日に確認したものです。

設定を職員ごとに任せる方式では、1人が切り替え忘れただけで事務所全体の前提が崩れてしまいます。契約単位で一律に適用される環境を選ぶことが、職員を守ることにもつながるでしょう。

ログを残し、誰が何を使ったか分かる状態にする

次に必要なのが、誰が・いつ・どのAIを使ったかを事務所側で確かめられる記録です。顧問先から、うちの従業員の情報をAIに入れていないかと問われたとき、記録がなければ説明のしようがありません。利用ログを定期的に見返す担当を決め、確認した日付を残す運用にしてみてください。

ログは職員を監視するためではなく、守秘義務を守れていることを事務所が示すための記録と位置づけると、職員の理解も得やすくなります。個人情報保護委員会のQ&Aは、個人データを取り扱う従業者のモニタリングについて、目的をあらかじめ特定して社内規程等に定め、従業者に明示することなどを挙げています。AIの利用ログにも、同じ考え方を当てはめてみてください。

職員への配布と退職時の停止

環境を決めたら、職員全員にアカウントを配ることが大切です。一部の職員にしか配らないと、配られなかった職員が個人のアカウントで使い始め、先に見た見えない利用が残ってしまいます。退職や異動のときに管理者がアカウントを止められるかも、契約前に確かめておきたい点です。

パート職員や繁忙期だけ手伝う職員にも配るかどうかは、料金の仕組みで判断が変わります。1人ごとに課金されるサービスでは人数分の費用がかかるため、配る範囲を絞りたくなるのが自然でしょう。費用の出し方は、後の節で職員数別に見ていきます。

ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityの使い分け

生成AIは、サービスごとに得意な作業に違いがあります。社労士業務に当てはめると、次のような分け方が目安になります。

  • 法改正や助成金の最新情報の下調べは、Web検索と出典の表示を中心に作られたPerplexity
  • 長い就業規則や支給要領の読み込みと要約は、Claude
  • 顧問先向けの案内文や説明資料の下書きは、ChatGPT
  • Googleドキュメントなどから貼り付けた文章の手直しは、Gemini

1つのAIで足りない場面を、職員がそれぞれ別の個人アカウントで補い始めると、環境を1つにした意味がなくなってしまいます。複数のAIを使うのであれば、それらを同じ契約と同じ管理のもとに置くことを条件にしましょう。使い分けの詳しい考え方は主要4AIの違いと使い分けで紹介しています。

顧問先への説明の仕方

環境が整ったら、顧問先への説明も用意しましょう。顧問先の人事担当者にとって、自社の従業員の情報がどう扱われるかは、社労士事務所を選ぶ理由の1つにもなり得ます。説明の文面は、次の要素を入れると短くまとまります。

  • 事務所で使うAIの環境は1つに決めており、職員の個人アカウントでは業務に使わないこと
  • 入力した内容はAIの学習に使われない設定で使っていること
  • マイナンバーと健康情報はAIに入力しないこと
  • 利用の記録を事務所で保管していること
  • AIの出力は必ず社労士が確認してから顧問先に届けること

顧問契約書や個人情報の取扱いについての覚書を見直す機会があれば、AIの利用についての一文を加えるかどうかも検討してみてください。個人情報保護委員会の注意喚起が求める利用目的の範囲の確認は、顧問先との契約で定めた業務の範囲とも重なるため、説明の根拠を契約とそろえると話が通りやすくなります。

職員数別に見るAI環境の費用の出し方

費用は、1人ごとに課金されるサービスか、事務所単位で契約するサービスかによって、計算の仕方がまったく変わります。

1人ごとに課金されるサービスは、職員数×1人あたりの月額で総額が決まります。たとえばChatGPT Businessの標準シートは、月額プランで1ユーザーあたり月25ドル、年額プランで月20ドル相当と案内されています。月額プランで計算すると、職員5名で月125ドル、10名で月250ドル、20名で月500ドルの支払いとなります。年額プランを選んでも、10名なら年2,400ドルを前払いすることになってしまいます。

同じ職員に2つ目のAIサービスも使わせると、単純計算で総額は2倍になります。職員数が増えるほど掛け算は大きくなり、全員に配るのをためらう理由になりがちです。

※ChatGPT Businessの料金は、OpenAIのヘルプ「ChatGPT Business - 概要」で2026年9月26日に確認したドル建ての金額です。料金は国や通貨の種類によって異なる場合があると案内されており、税の扱いを含めた実際の請求額は契約画面でご確認ください。Businessの契約は合計2シート以上が必要です。

事務所単位で契約するサービスでは、職員数ではなく利用量でプランが分かれる形もあります。この場合は、プランごとに示されている人数の目安と事務所の職員数を突き合わせ、月の利用量が収まるプランを選ぶ形になります。初期費用や最低契約期間が別に定められていることもあるため、見積もりでは初年度と2年目以降を分けて比べてみてください。

比べるときは、月額の差だけでなく、全員に配れるかどうか、学習させない設定とログの管理が契約に含まれるかどうかも並べましょう。安い方法で一部の職員にだけ配った結果、残りの職員が個人アカウントで顧問先の情報を扱うことになれば、守秘義務の面で高くついてしまいます。主な法人向けサービスの料金は法人向け生成AIサービスの比較、ChatGPTの法人プランはChatGPT法人プランの料金にまとめています。

スモールスタートの導入ステップ|まず1業務から

導入は、個人情報をほとんど使わない1業務から始め、1〜2か月ごとに範囲を広げるのが無理のない進め方です。

  1. 使う環境を1つに決め、学習させない設定とログの取り方を確認する
  2. 情報の線引き(入れてよい・匿名化すれば可・入れない)と、マイナンバー・健康情報の扱いを1枚の事務所ルールにまとめる
  3. 顧問先向けの案内文や規程のたたき台など、個人情報を入れない業務で全職員が使ってみる
  4. 労務相談の論点整理や助成金の要件整理へ広げ、原典確認の手順を定着させる
  5. 月に1回、ログと使い方を振り返り、ルールと指示文のひな形を更新する

最初の業務は、職員が毎月必ず書いている文章を選ぶと効果が見えやすくなります。顧問先向けのニュースレターや入退社の手続き案内は、その代表でしょう。よく使う指示文は事務所の共有のひな形にして、職員ごとに書き方がばらつかないようにしてみてください。事務所ルールの書き方は生成AIの社内ガイドラインの作り方、入れてはいけない情報の整理はAIに入れてはいけない情報も参考になります。

社労士の仕事はAIでなくなるのか

書類の下書きや定型的な確認はAIで速くなりますが、社労士の仕事そのものがなくなると考える根拠は見当たりません。手続きの書類は社労士が責任を持って提出するものであり、相談業務では顧問先の事情を聞き取り、法令を当てはめ、結論に責任を持つ必要があります。

顧問先がAIで自ら調べてから相談してくる場面は、今後むしろ増えていくでしょう。そのとき求められるのは、AIの答えのどこが違うのかを原典で示し、その会社の事情に合わせた結論を出す力です。AIを使いこなしている事務所ほど、この確認に時間を回せるようになります。

変わるのは、仕事の中身の比重のほうです。下書きにかけていた時間を、顧問先との対話や制度の運用の相談に振り向けられるかどうかが、これからの事務所の差になっていきます。

1号・2号・3号業務で、AIの影響はどう違うか

社会保険労務士法第2条第1項は、社労士の業務を号ごとに分けて定めています。1号は労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成や提出の代行、事務代理など、2号は労働者名簿や賃金台帳などの帳簿書類の作成、3号は労務管理や社会保険について相談に応じ、指導する業務です。このうち1号と2号は、第27条により、社労士・社労士法人でない者が他人の求めに応じ報酬を得て業として行うことはできません。

AIや人事労務ソフトの影響を受けやすいのは、1号・2号のうち入力と転記が中心の部分でしょう。e-Govを使った電子申請も広がっていて、労働者死傷病報告は令和7年1月1日から原則として電子申請になりました(当分の間は書面での報告も認められています)。書類づくりにかかる時間は、これからも縮んでいくと見ておいたほうが安心です。それでも、どの手続きが必要か、どの制度を選ぶかを決める部分は残りますし、作成・提出を代わって行った書類について、社労士が専門家として責任を負うことに変わりはありません。

3号業務(相談・指導)と労務監査の比重が増していく

3号業務は独占業務ではありませんが、AIに置き換わりにくいのはむしろこちらです。顧問先の事情を聞き取り、法令と就業規則、労働契約に照らして助言する仕事は、事実の確かめ方と結論への責任を切り離せません。令和7年の改正で、第2条第1項第3号には、法令や労働協約・就業規則・労働契約がきちんと守られているかを監査することも、相談・指導に含まれると明記されています。

同じ改正では、第1条に社労士の使命が書き込まれ、「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成」を支えることがはっきり位置づけられました。全国社会保険労務士会連合会も特設ページで、AIで業務を効率化しながら、AIにはできない対話・共感・関係調整で企業の課題に向き合う社労士の姿を紹介しています。書類の時間をAIで減らし、空いた時間を面談や規程の運用、労務監査に回せるかどうかが、これからの事務所の分かれ目になっていきそうです。

顧問先の情報を扱う事務所のAI環境を、1つに

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、全社一律で適用するため職員ごとの設定操作は不要です。管理画面ではUPGEAR AI上の利用状況を利用者・日時・利用モデル単位まで把握でき、CSVでの書き出しにも対応します。会話履歴・利用ログ・アカウントの管理は、国内サーバー(AWSの日本リージョン)で行います。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。

UPGEAR AIの詳細を見る

よくある質問

社労士が生成AIに顧問先の情報を入力すると、守秘義務違反になりますか?
社会保険労務士法第21条は秘密を漏らしてはならない義務を定めたもので、生成AIへの入力がそのまま違反になると書かれているわけではありません。ただし、入力内容が学習などに使われる設定のまま顧問先の情報を入れれば、第三者に秘密を渡すことになり、違反のおそれが生じます。第27条の2により職員にも同じ義務があるため、学習に使われない環境を事務所として用意し、入れてよい情報の範囲を決めてから使うことをおすすめします。
無料版のChatGPTを職員が業務で使うのは問題ですか?
個人向けのプランでは、入力内容を学習に使わせない設定を利用者が自分で切り替える仕組みで、事務所から設定や利用の記録を確かめることができません。顧問先の個人データを入れる前提が成り立たないため、業務では事務所が契約した環境を使い、個人アカウントでの利用はやめてもらうのが現実的です。
マイナンバーをAIに入力してもよいですか?
マイナンバーは番号法で利用できる事務が限られており、本人の同意があっても例外を除きその事務以外では利用できません。個人情報保護委員会のガイドラインに生成AIについての記載はありませんが、文章作成の道具に入力する理由は見当たらないため、どの環境でも入力しないと事務所のルールで決めておくのがわかりやすい形です。
健康診断の結果や休職の経緯は、匿名化すれば入力してよいですか?
おすすめしません。病歴などは個人情報保護法の要配慮個人情報に当たり、健康診断等の結果を含む個人データの漏えいは、個人情報保護委員会が報告義務の例に挙げています。従業員数の少ない顧問先では、名前を伏せても経緯から個人が分かることがあるため、健康情報は入れない側に置くのが安全です。
AIが作った就業規則の案を、そのまま顧問先に渡してもよいですか?
そのまま渡すのは避けてください。AIは改正前の内容や実在しない規定を前提にした文案を出すことがあります。条文の構成や言い回しの下書きとして使い、内容は社労士が法令と通達の原文で確かめてから仕上げる流れにしましょう。
職員が10名ほどの事務所では、AIの費用はどのくらいかかりますか?
1人ごとに課金されるサービスでは、職員数×1人あたりの月額が総額になります。たとえばChatGPT Businessの標準シートを月額プランで10名分契約すると、月250ドルです(2026年9月26日時点の公式ヘルプの金額)。事務所単位で契約するサービスは、プランごとの人数の目安と利用量で選ぶ形になるため、全員に配れるか、学習させない設定とログの管理が含まれるかも含めて比べてください。
顧問先にはAIを使っていることを伝えるべきですか?
伝えることをおすすめします。事務所で使うAIの環境を1つに決めていること、学習に使われない設定であること、マイナンバーと健康情報は入力しないこと、出力は社労士が確認してから届けることを短くまとめれば、顧問先の人事担当者にも安心してもらいやすくなります。

まとめ

社労士のAI活用は、就業規則のたたき台、労務相談の論点整理、助成金の要件整理、顧問先向けの案内文といった下書きと整理の作業で効果が出ます。1号・2号業務の書類や相談への結論は、社労士が原典で確かめて責任を持つ部分として残ります。

情報漏洩を防ぐために会社が確かめる条件は、AI・生成AIの情報漏洩対策にまとめています。

一方で、社会保険労務士法の守秘義務は職員にも及び、健康情報やマイナンバーのように特に慎重な扱いが求められる情報も日常的に扱う仕事です。入れてよい・匿名化すれば可・入れないの3段階で情報を分け、学習に使われない設定とログの管理を備えた環境を事務所として1つ用意することが、安全に使い始めるための土台になります。まずは個人情報を使わない1業務から試してみてください。法人のAI活用についてのほかの記事は、AI活用コラム一覧にまとめています。