不動産の生成AI活用事例。業務別の使い方と宅建業法・個人情報の線引き

不動産の生成AI活用とは、物件紹介文や追客メール、問い合わせへの回答といった文章づくりを、ChatGPTなどの生成AIに下書きさせる使い方のことです。大手各社も社内チャットや物件探しで使い始めていますが、顧客や物件の情報を扱う業種のため、何をAIに任せて何を人が確かめるかの線引きが成否を分けることになります。広告の表示ルール、重要事項説明、個人情報の入力の3点は、始める前に社内で決めておきたいところでしょう。公式発表で確かめた事例と業務別の使い方、会社として安全に使うための準備までを順に見ていきます。

不動産の生成AI活用とは|AI査定やAI-OCRとの違い

不動産の生成AI活用は、文章や画像を新しく作るAIを業務に使うことで、価格を予測するAI査定や、紙の書類を読み取るAI-OCRとは仕組みも使いどころも異なります。ニュースや事例の記事ではどれも不動産×AIとひとまとめに紹介されがちですが、導入の進め方は種類ごとに違ってきます。

  • 生成AI:指示に応じて文章や画像を作るAI。物件紹介文、追客メール、問い合わせへの回答文、社内文書の要約などに使う
  • 予測のAI(AI査定など):過去の成約データなどから価格を推定するAI。専用のシステムとして提供されることが多い
  • 読み取りのAI(AI-OCR):手書きや紙の書類を文字データに変えるAI。入力作業を減らすのが目的

社員がすぐに使い始められるのは生成AIで、専用システムがなくても文章づくりから試せます。ChatGPT・Claude・Geminiといった汎用のサービスがあれば、その日から下書きを頼むことが出来るでしょう。一方でAI査定やAI-OCRは、データの準備や既存システムとの連携が前提になるため、導入の判断は情報システムの担当や取引先のベンダーと進める形になります。次の節の事例も、どの種類のAIなのかを添えて紹介しています。

公式発表で確かめた不動産会社のAI活用事例8つ

大手の不動産会社は、社内の業務支援と顧客向けの物件探しの両方で、2023年ごろから生成AIの利用を公表しています。ここでは各社の公式発表で内容を確かめられた8つの事例を、発表日と一緒に紹介します。数値はいずれも各社の発表によるもので、第三者が検証した値ではない点にご注意ください。

※各事例の内容は、2026年9月28日に各社の公式ページで確認したものです。大和ハウス工業は共同通信PRワイヤーに掲載された同社のリリース、イタンジはPR TIMESに掲載された同社の発表、レオパレス21は報道で確認しています。

1. 三井不動産「&Chat」|社内専用のAIチャット(生成AI)

三井不動産は2023年10月10日、ChatGPTを活用した自社専用のAIチャット「&Chat」を発表しました。発表によると運用開始は同年8月で、全従業員約2,500人を対象に、Azure OpenAI ServiceのGPT-4を用いた社内専用のチャットとして提供されています。汎用のプロンプト集を17種類用意している点も、社員に使い始めてもらうための工夫として参考になります。

出典:三井不動産 ニュースリリース(2023年10月10日)

2. LIFULL|ChatGPT向けプラグインで物件を紹介(生成AI)

LIFULLは2023年6月12日、LIFULL HOME'SのChatGPT向けプラグインを発表し、6月10日から提供を始めたとしています。会話の内容を検索条件に置き換えて物件を紹介する仕組みで、国内の不動産ポータルとして初という点は同社自身の説明となります。

出典:LIFULL ニュース(2023年6月12日)

3. 野村不動産ソリューションズ×LIFULL「AI ANSWER Plus」|物件サイトの対話型チャット(生成AI)

野村不動産ソリューションズとLIFULLは2023年11月29日、生成AIを使った対話型チャット「AI ANSWER Plus(ベータ版)」を、不動産情報サイト「ノムコム」で提供し始めました。問い合わせに文章で答える窓口を物件サイトに置く使い方で、後で触れるチャットボット対応の代表的な形になります。国内初という表現は、両社の訴求によるものです。

出典:LIFULL ニュース(2023年11月29日)

4. イタンジ「PropoCloud 追客支援」|売出事例の紹介メールを作成(生成AI)

イタンジは2025年6月24日、子会社のHousmartが提供する「PropoCloud 追客支援」に、AIによる文章の生成機能を加えたと発表しました。建物名を選ぶと、周辺の売出事例を紹介するメールの文面をAIが作る機能で、成果の数値は公表されていません。

出典:イタンジ プレスリリース(PR TIMES・2025年6月24日)

5. 大和ハウス工業「AIプランコンシェルジュver.1」|住宅プランの提案(AI)

大和ハウス工業は2025年9月30日、燈と共同開発した「AIプランコンシェルジュver.1」を発表し、10月2日から導入を始めるとしました。戸建て住宅の2,000以上のプランから候補を示す仕組みで、全国の住宅営業担当が顧客への提案の場で使うとしています。

出典:大和ハウス工業のリリース(共同通信PRワイヤー・2025年9月30日)/大和ハウス工業 ニュースリリース

6. 東急リバブル|AI価格査定システムで特許を取得(予測のAI)

東急リバブルは2024年3月5日、Ristと共同開発したAI価格査定システムの特許取得(特許第7437560号、2024年2月14日登録)を発表しました。1,000件を超える査定データを学ばせたもので、誤差率の中央値はマンション版が1.98%、土地戸建版が3.88%と同社は発表しています。2024年2月末の時点で22プロジェクト・320組超に使われたとされますが、いずれも同社の発表で、第三者による検証の記載はありません。

出典:東急リバブル ニュースリリース(2024年3月5日)

7. レオパレス21「Intelligent OCR」|入居・退去書類の読み取り(読み取りのAI)

レオパレス21は、入居者情報や退去の書類の入力に、AI insideのAI-OCRを取り入れたとされています。AI insideが2017年5月26日に発表し、ITmediaなどが報じた内容では、年間約20,900時間・約4,200万円の削減を見込むとしており、これは2017年時点の予測となります。数字は報道に載った見込みの値として読むのが妥当でしょう。

出典:ITmedia エンタープライズ(2017年5月29日)

8. 大京「AI INFO」|マンション共用部の音声対話サイネージ(AI)

大京の「AI INFO」は、マンション共用部の掲示板を、AIの音声対話が付いたデジタルサイネージに置き換えたもので、2018年度のグッドデザイン賞を受けています。本格的に稼働した時期は、公式ページに記載がありません。マンション管理の現場で、入居者とのやり取りにAIを使う近い例として参考になるでしょう。

出典:ライオンズマンション公式サイト AI INFOの紹介ページ

8つを並べると、生成AIを社外向けに使う例は、追客メールのように担当者が確かめてから送る使い方や、物件探しの対話のように答える範囲を絞った使い方から始まっていることが分かります。自社で試すときも、まず社内の下書きづくりから始め、社外に出す文章は担当者が見直す順番にしてみてください。

業務別に見る不動産の生成AIの使い方

中小の不動産会社がすぐに試せるのは、文章を作る仕事と、書類や問い合わせを整理する仕事になります。業務ごとに、生成AIに任せられる範囲と人が確かめる点を分けて見ていきましょう。

物件紹介文・広告文の自動生成

物件紹介文は、間取り・面積・駅からの距離・設備といった事実のメモを渡して読みやすい文章に整えてもらうと、ゼロから書くより短い時間で下書きが出来上がります。ポータルサイト用の長めの文、SNS向けの短い文、チラシの見出しなど、同じ物件から媒体ごとの書き分けを頼めるのも便利なところでしょう。ただしAIは渡していない情報を補って書くことがあり、南向き、日当たり良好、閑静な住宅街といった言葉を、事実と関係なく足してしまう場合があります。紹介文は、渡したメモにない言葉が混ざっていないかを人が照らし合わせてから掲載しましょう。広告の表示ルールとの関係は、後の節で詳しく扱います。

追客メールの自動生成

反響のあったお客様への追客メールは、希望条件と紹介したい物件のメモから、丁寧な文面の下書きを作らせる使い方になります。事例で挙げた「PropoCloud 追客支援」のように、売出事例の紹介文をAIが作る機能を持つ業務ソフトも出てきています。汎用の生成AIで下書きする場合は、お客様の氏名や連絡先を入れずに条件だけを渡し、宛名は送る側で差し込む形にすると、入力する個人情報を減らすことが出来ます。送信の前には、物件の価格や空き状況が最新かどうかを担当者が確かめる手順を残してください。

AIチャットボットによる24時間の問い合わせ対応

物件サイトや管理物件の入居者窓口にAIのチャットを置くと、営業時間外の問い合わせにも一次回答を返せるようになります。事例の「AI ANSWER Plus」や大京の「AI INFO」は、この形を大手が自社のサービスとして用意した例です。中小の会社が自前で整える場合は、よくある質問と回答の一覧を生成AIで作り直すところから始めるのが現実的でしょう。契約条件や費用といった個別の質問には人が答えるという切り分けを最初に決めておくと、誤った回答が契約のトラブルにつながる事態を避けやすくなります。

手書き書類・契約書のデータ化(AI-OCR)

入居申込書や手書きのアンケートを文字データにする作業は、AI-OCRや、画像を読める生成AIに任せられる代表的な業務です。レオパレス21の例のように、専用のAI-OCRは大量の定型書類を処理するのに向いています。一方で件数が少ない会社なら、画像を読み取れる生成AIに書類の写真を渡し、項目を書き出させる方法もあります。申込書には氏名・勤務先・収入など個人情報が多く含まれるため、どの環境で読み取らせるかを先に決めておく必要が出てきます。

AI査定(価格査定の自動化)と生成AIの分担

価格の査定は、成約事例などのデータから価格を推定する予測のAIの仕事で、文章を作る生成AIとは役割が違います。東急リバブルのAI価格査定システムのように、大手は自社のデータで専用の仕組みを作っています。汎用の生成AIに住所を伝えていくらで売れるかを聞いても、根拠のある価格は出てきません。生成AIが力を発揮するのは、査定の結果を説明する査定書の文章や、売主様への報告メールを分かりやすく整える部分になります。

バーチャルホームステージング(画像加工)

空室の写真に家具や照明を画像で置き、暮らしのイメージを伝えるバーチャルホームステージングも、生成AIで手軽に出来るようになりました。ただし家具を足すだけでなく、壁の傷を消したり窓の外の景色を変えたりすると、実際の物件と違う印象を与えてしまいます。宅建業法32条は、物件の形質や環境などについて著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良と誤認させる表示を禁じているため、画像の加工もこの線に触れないかを確かめてください。加工した画像には加工したことが分かる注記を添え、元の写真も並べて載せる運用にしておくと安心です。

社内文書の検索・規程への問い合わせ

三井不動産の「&Chat」のように、社内の規程や過去の資料を探す使い方も広がっています。社内文書をAIに読み込ませる場合は、読み込ませた資料がAIの学習に使われない環境かどうかを先に確かめておきましょう。

顧客情報を入れる場所を、会社で1つに決めませんか

学習の扱いを毎回確かめなくて済むよう、使うAIの環境を会社で1つにそろえる方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

広告文をAIに書かせるときの宅建業法32条と公正競争規約18条

AIが書いた物件紹介文も、掲載すれば不動産会社の広告になるため、宅建業法と業界の表示ルールがそのまま当てはまります。書いたのがAIでも人でも、表示に責任を持つのは広告を出す会社の側になります。

宅建業法32条(誇大広告等の禁止)とAIの書き足し

宅建業法32条は、物件の所在・規模・形質、利用の制限、環境、交通、代金などについて、著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示を禁じています。生成AIは読みやすさを優先して、駅までの時間を短めに書いたり、眺望良好や買い物便利のような言葉を補ったりすることがあります。事実のメモにない数字や言葉が紛れ込めば、そのまま32条の問題になりかねません。AIへの指示には、渡した情報以外の事実を書き足さないよう毎回入れておきましょう。条文はe-Govの宅地建物取引業法で確かめることが出来ます。

公正競争規約18条の特定用語をAIが書いてしまう問題

不動産の表示に関する公正競争規約の18条は、「完全」「完璧」「絶対」「日本一」「業界一」「特選」「厳選」「最高」「格安」「激安」「完売」などの特定用語について、合理的な根拠を示す資料を現に有していない限り使えないと定め、最高・格安などの用語には根拠となる事実の併記も求めています。生成AIに魅力的に書いてと頼むと、こうした言葉を自然に選んでくることがあるため、使わない言葉の一覧を指示文に入れておくのが確実です。特定用語の使用基準は、首都圏不動産公正取引協議会の解説ページで一覧を見ることが出来ます。

二重価格とおとり広告にも注意

同じ規約は、不当な二重価格表示やおとり広告も禁じています。過去の募集価格や、すでに成約した物件の情報をAIに渡したまま広告文を作らせると、古い価格や取引できない物件が紛れ込むおそれがあります。掲載の前には、価格と取引の可否をその日の情報で確かめる手順を、担当者のチェック項目に入れてみてください。

  • AIに渡したメモにない数字・言葉が入っていないか駅からの時間、面積、築年数、眺望や周辺環境の言い回しを、物件資料と1つずつ照らし合わせます。
  • 特定用語が根拠なく使われていないか完全・絶対・完売などは、根拠の資料がない限り削ります。最高・格安などの用語は、根拠となる事実の併記も必要です。
  • 価格と空き状況がその日の情報と合っているか過去の募集価格や成約済みの物件が紛れ込んでいないかを確かめます。
  • 画像を加工した場合、その旨の注記と元の写真があるか家具の配置だけでなく、建物や景色そのものを変えていないかも見ます。

このチェックを掲載前の決まった手順にしておけば、AIで下書きの時間を減らしながら、表示のルールも守ることが出来るようになります。

重要事項説明・契約書はどこまでAIに任せられるか

重要事項の説明は宅地建物取引士が行うと法律で決まっているため、AIに任せてよいのは説明の準備までになります。宅建業法35条は、契約が成立するまでに、宅地建物取引士に書面を交付して重要事項を説明させることを宅建業者に求めています。国土交通省によると、2022年5月18日に施行された改正宅建業法で、重要事項説明書などを電磁的方法で提供できるようになりました。なお、重要事項を説明するのは引き続き宅地建物取引士です(宅建業法35条)。

出典:国土交通省 宅地建物取引業法の改正(重要事項説明書等の電磁的方法による提供)

AIに任せてよい作業

  • 重要事項説明書の下書きと、物件資料との数字の突き合わせ(面積・価格・設備など)
  • 契約書の条文の抜けや表記ゆれの洗い出し
  • お客様向けに、専門用語をやさしく言い換えた補足資料の下書き
  • 説明の練習に使う、想定される質問の一覧づくり

いずれも、最後に宅地建物取引士が中身を確かめる前提で、作業の時間を短くする使い方になります。

AIに任せない作業

  • お客様への重要事項の説明そのもの
  • 法令上の制限や権利関係についての最終的な判断
  • AIが書いた説明書を、中身を確かめないまま交付すること

AIが下書きした説明書であっても、この線は変わりません。説明するのは宅地建物取引士で、中身を確かめるのも同じ人の役目です。契約書や重要事項説明書にはお客様の氏名・住所・物件の所在地が並ぶため、AIに読み込ませるなら、次の節の入力の線引きもあわせて決めておきましょう。

顧客・物件情報をAIに入れるときの線引き

顧客や物件の情報をAIに入れるかどうかは、業務ごとに、そのまま入れてよい、加工して入れる、入れない、の3つに分けて決めると現場で迷いにくくなります。個人情報保護委員会は2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」で、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。入力したデータがAIの機械学習に使われないかどうかの確認も、同じ注意喚起で求められている点です。外部の生成AIへの入力が法律上どう扱われるかは、サービスの仕組みや契約によって変わるため、自社だけで判断しにくい場合は専門家に確かめることをおすすめします。

出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)

そのまま入れてよい情報

  • すでに公開している物件情報(間取り・面積・設備・最寄り駅など)
  • 社内で使う文章の型や、広告表現の社内ルール
  • 公開されている法令・規約の条文や、国や業界団体の解説

加工してから入れる情報

  • 反響のあったお客様の希望条件:氏名や連絡先を消し、30代・2人暮らし・駅徒歩10分以内のように条件だけにする
  • 売主様からの相談内容:名前と番地を外し、エリアと物件の種類までにとどめる
  • 査定書や報告書の文章:数字は残し、個人が分かる情報を伏せてから整えてもらう

入れない情報

  • 本人確認書類や収入証明の画像
  • まだ公開していない物件の所在地や、売主様の個人的な事情
  • 社員が個人で契約したAIアカウントへの、顧客に関わる情報すべて

入居申込書のデータ化のように、個人情報を扱わないと成り立たない業務もあります。そうした業務は、入力したデータが学習に使われない設定を会社として確かめられ、誰がいつ使ったかの記録が残る環境に限って行う、という決め方が現実的でしょう。社員が自分の個人アカウントで顧客情報を入れてしまうと、会社からは設定も記録も見えなくなってしまいます。

生成AI導入のメリットと注意点

生成AIを入れる利点は、文章づくりにかかる時間を減らし、担当者が接客や物件の確認に使える時間を増やせることです。反対に注意したいのは、AIの間違いをそのまま外に出してしまうことと、社員がばらばらのサービスを勝手に使い始めることの2つになります。

メリット

  • 物件紹介文・追客メール・報告書の下書きにかかる時間が減る
  • ポータル・SNS・チラシといった媒体ごとの書き分けや言い換えが楽になる
  • 担当者ごとの文章の出来のばらつきが小さくなる
  • 社内の規程や過去の資料を探す時間が減る
  • 外国語での案内文や、専門用語の言い換えの下書きが作れる

扱う物件の数が多い会社ほど、紹介文や報告書のような似た文章を何度も書く時間が減る効果を感じやすいでしょう。

注意点

AIは、もっともらしい誤りを書くことがあります。不動産では、面積・価格・法令上の制限といった数字や条件の誤りが、広告の表示違反や契約のトラブルにつながるため、人の確認を省けない業務が多くなります。とくに物件の広告と重要事項説明は、AIの誤りがそのままお客様の判断に響くため、確認の手順を省かない決まりにしておきましょう。もう1つの注意点は、会社が環境を用意しないまま、社員が個人のアカウントで使い始める、いわゆる野良AI(シャドーAI)の問題です。便利さを知った社員ほど自分で使い始めるため、禁止するだけでは利用が見えなくなるだけで終わりがちでしょう。禁止するより、会社として使ってよい環境を先に用意したほうが、見えない利用を減らしやすくなります。入力してはいけない情報と確認の手順は、前の節の線引きをそのまま社内ルールに移してみてください。ルールと環境の両方がそろって、はじめてAIの便利さを安心して全社に広げることが出来ます。

不動産会社の生成AI導入でつまずきやすい4つの点と防ぎ方

生成AIの導入でつまずく原因は、道具の性能より、業務の流れや社員の慣れ、効果の測り方にあることが多いでしょう。契約を済ませても現場の使い方が変わらなければ、作業時間はほとんど減りません。

道具を入れただけで、業務の流れが変わらない

AIを使える環境を配っても、物件紹介文を書く手順や追客の段取りが以前のままだと、使うかどうかは担当者の気分次第になりがちです。「紹介文はまずAIで下書きを作り、担当者が数字と表現を確かめて掲載する」のように、どの工程でAIを使うかを手順書に書き込んでみてください。手順書に載せておけば、使った人と使わなかった人の差も見えるため、定着の具合を確かめやすくなります。

使いこなせる社員が一部に偏る

生成AIは、指示の出し方で出来ばえが大きく変わります。得意な社員だけが使い続けると、ほかの社員は思ったほど使えないと感じて離れてしまうこともあるでしょう。社内でうまくいった指示文を、物件紹介文用・追客メール用の型にまとめて共有フォルダに置けば、慣れていない社員も同じ水準から始められます。

効果を測る基準を決めないまま始める

便利になった気がするという感想だけでは、契約を続けるか、対象の業務を広げるかを決められません。始める前に、紹介文1件にかかる時間や、追客メールを送るまでの時間を数件だけ測っておきましょう。試す期間の終わりに同じ作業を測り直し、AIの下書きを直すのにかかった時間も含めて比べると、実際に減った時間が分かります。測り方と試算の例はAI導入の費用対効果の測り方で、試験期間の組み立て方は生成AIのPoC(試験導入)の進め方で紹介しています。

お客様とのやり取りをAIに任せすぎる

問い合わせへの返信や物件の案内をすべてAIの文面で済ませると、お客様には機械的な対応に映り、かえって信頼を損ねることがあります。住み替えや売却は暮らしにかかわる大きな判断のため、条件の確認や内見の調整、価格の相談といった場面は、担当者が自分の言葉で返すほうが安心につながるでしょう。個別のお客様への返信は、AIに任せるのを下書きまでにとどめ、送る前に担当者が読み直す流れを残しておきましょう。

小さく始める着手順と会社規模ごとの費用の考え方

着手は、社外に出る前に人が必ず確かめられる業務から1つ選び、1か月ほど試してから広げる順番が無理のない進め方です。

ステップ1:試す業務を1つ決める

はじめは物件紹介文の下書きや社内文書の要約のように、間違っても社内で止められる業務を選びましょう。1〜3名の担当者で1か月ほど試し、作業時間がどれだけ変わったかと、直した箇所の多さを記録しておくと、広げるかどうかの判断材料になります。試す間は、AIに渡した指示文と直した箇所も残しておけば、うまくいった指示を社内の型として配ることが出来ます。物件紹介文なら、1件あたりの作成時間と、掲載前のチェックで直した言葉の数を並べておくと比べやすくなります。

ステップ2:入力と確認のルールを文書にする

試した結果をもとに、前の節の入力の線引きと、広告・重要事項説明での確認の手順を、1枚の社内ルールにまとめます。入力の3区分、広告の掲載前チェック、重要事項説明で宅地建物取引士が確かめる箇所の3つが入っていれば、不動産会社に必要な線引きはおおむね押さえられます。書き方の型は生成AIの社内ガイドラインの作り方が参考になるでしょう。

ステップ3:全員が使える環境を用意して広げる

ルールが固まったら、営業・管理・事務の全員が同じ環境で使えるように広げていきます。一部の人にだけ配ると、配られなかった人が個人のアカウントで使い始め、前の節で触れた見えない利用が残りやすくなります。広げるときは、最初に試した担当者が使い方を見せる短い社内勉強会を開くと、ほかの社員も始めやすくなるでしょう。部署ごとに使い方の例を1つずつ共有すると、自分の仕事にどう使えるかが伝わりやすくなります。

会社規模ごとの費用の考え方

費用は、1人ごとに料金がかかる形か、会社単位の料金かで、人数が増えたときの増え方が大きく変わります。仮に1人あたり月4,000円のサービスを全員に配ると、5名なら月2万円、20名なら月8万円、50名なら月20万円となり、50名の会社では年間240万円の出費になります。

※1人あたり月4,000円は計算のための仮の金額で、特定のサービスの料金や相場を示すものではありません。

会社単位の料金のサービスは、人数では月額が変わらない代わりに利用量でプランが分かれている場合があるため、自社の人数と使い方がどのプランの目安に入るかを確かめてみてください。5名ほどの会社なら1人ごとの料金でも負担は大きくなく、20名、50名と人数が増えるほど、会社単位の料金と比べる意味が大きくなるでしょう。各サービスの料金の比べ方は、法人向け生成AIサービスの料金比較と生成AIのコスト管理で詳しく扱っています。

比べるときは、月額だけでなく初期費用や最低の契約期間、管理画面で出来ることまで並べてみてください。人数が少ないうちは1人ごとの料金で始め、全員に広げる段階で会社単位の料金に切り替える、という順番も選べます。

会社で安全に使うための4つの準備

顧客と物件の情報を扱う不動産会社が生成AIを全社で使うなら、学習させない設定、利用の記録、全員への配布、複数AIの使い分けの4つを会社の側で整えておきたいところです。

  • 入力データを学習に使わせない設定を全員一律に社員ごとの設定に任せると漏れが出ます。会社の管理画面で一括して決められるかを確かめます。
  • 誰がいつ使ったかの記録(ログ)を会社で見られる顧客情報の扱いを後から確かめるための土台です。個人のアカウントでは会社から見えません。
  • 営業・管理・事務の全員にアカウントを配る一部だけに配ると個人アカウントへの流出を生みやすくなります。退職時に止められることも条件です。
  • 業務に合わせて複数のAIを使い分ける広告文の下書き、長い契約書の読み込み、周辺情報の下調べでは、向いているAIが違います。

学習させない設定は、紹介文の下書きに使う公開済みの物件情報より、追客メールや申込書のデータ化で扱う顧客情報のためにこそ必要になります。利用の記録が残っていれば、お客様や取引先から情報の扱いを問われたときにも、会社として経緯を説明することが出来ます。全員への配布では、店舗の営業だけでなく、管理や事務の担当まで含めて考えてみてください。入居者からの問い合わせ対応や書類の整理といった、生成AIが役立つ仕事の多くは営業以外の部署にもあります。複数のAIの使い分けが必要になるのは、長い賃貸借契約書の読み込みと、周辺の商業施設や交通の下調べとで、向いているサービスが違うためです。1つのサービスに絞ると、合わない業務だけ社員が個人のアカウントで別のAIを使い始め、せっかくの線引きが崩れてしまいます。

AIごとの得意な業務は主要4AIの違いと使い分け、複数のAIを1つの環境で使う形はマルチAIとはで紹介しています。点検の項目をもれなく確かめたい場合は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストも使ってみてください。

顧客・物件情報を扱うAIは、会社の環境で

UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。入力データを学習に使わない設定が全モデルに標準で適用され、会話履歴や利用ログ、アカウントの情報は国内サーバー(AWSの日本リージョン)に保管されます。管理者ダッシュボードでは、利用ログ・権限・モデルのON/OFFを扱えます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

不動産会社は生成AIを何から使い始めればよいですか?
物件紹介文や追客メールの下書き、社内文書の要約など、社外に出る前に担当者が必ず確かめられる業務から始めるのがおすすめです。1〜3名で1か月ほど試し、作業時間と直した箇所の多さを記録してから、入力と確認のルールを決めて全員に広げる順番が無理のない進め方になります。
AIが書いた物件紹介文をそのまま広告に使ってもよいですか?
そのまま使うのはおすすめしません。宅建業法32条は著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示を禁じており、不動産の表示に関する公正競争規約の18条は、完全・絶対・格安などの特定用語について、合理的な根拠を示す資料を現に有していない限り使えないと定め、最高・格安などの用語には根拠となる事実の併記も求めています。AIに渡した情報にない言葉や数字が入っていないかを、掲載前に人が確かめてください。
重要事項説明をAIに任せることは出来ますか?
説明そのものは任せられません。宅建業法35条により、重要事項の説明は宅地建物取引士が書面(または電磁的方法)を交付して行います。AIに任せられるのは、重要事項説明書の下書きや物件資料との数字の突き合わせ、専門用語をやさしく言い換えた補足資料づくりといった準備の作業です。
お客様の個人情報を生成AIに入力してもよいですか?
個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認し、入力データが機械学習に使われないことなどを確かめるよう求めています。氏名や連絡先を消して条件だけを渡す加工を基本にし、どうしても必要な業務は、学習に使われない設定と利用の記録を会社が確かめられる環境に限ることをおすすめします。
AI査定も生成AIで出来ますか?
価格の査定は、成約事例などのデータから価格を推定する予測のAIの仕事で、汎用の生成AIに住所を伝えても根拠のある価格は出てきません。大手は自社のデータで専用の査定システムを作っています。生成AIは、査定の結果を説明する文章や、売主様への報告メールを整える部分で役に立ちます。
社員が個人のChatGPTで業務をしているのですが、禁止すべきですか?
禁止するだけでは、利用が見えなくなるだけで終わりがちです。個人のアカウントでは、学習利用の設定や利用の記録を会社が管理できず、退職時に止めることも出来ません。会社として使ってよい環境を用意し、入力のルールとあわせて全員に配るほうが、見えない利用を減らしやすくなります。

まとめ

不動産の生成AI活用は、物件紹介文・追客メール・問い合わせへの回答・書類の整理といった文章と情報の仕事から始めやすく、三井不動産やLIFULL、イタンジなどが公式に取り組みを発表しています。一方で、AIが書いた広告文には宅建業法32条と公正競争規約の特定用語のルールがそのまま当てはまり、重要事項の説明は宅地建物取引士が行うという線も変わりません。顧客や物件の情報は、個人情報保護委員会の注意喚起に沿って、入れてよい・加工して入れる・入れないの3つに分けて決めておきましょう。そのうえで、学習させない設定と利用の記録を会社が管理できる環境を全員に配ることが、見えない利用を防ぎながら活用を広げる近道になります。業務別のAI活用の記事は、AI活用コラム一覧にまとめています。

情報漏洩を防ぐために会社が確かめる条件は、AI・生成AIの情報漏洩対策にまとめています。