企業の生成AIガイドライン事例。公開している会社と自治体の決め方を比べる

企業の生成AIガイドライン事例とは、企業や自治体が社員・職員向けに定めた生成AIの利用ルールのうち、本文や概要を社外から確認出来るものを指します。公開されている事例の決め方は、会社が用意したツールに使い方を絞る、それ以外は申請制にする、情報の重要度で入力の可否を分ける、という3つに分けられ、東京都やパナソニック コネクトのように2つ以上を重ねる例もあります。社員10〜200名の会社であれば、東京都のように使うツールを会社が指定する形を土台にし、愛知県のように入れてよい情報を段階で決める形を足すのが真似しやすいでしょう。ガイドラインの定義や10項目の一覧、ひな形といった全体像は、生成AIガイドラインの作り方と10項目のひな形で確認することが出来ます。

※各事例の内容は、2026年10月3日時点で各社・各自治体・各団体の公式ページと公開資料で確認したものです。日立製作所とサイバーエージェントのガイドラインは本文が社外に公開されておらず、発表やオウンドメディアの記事で説明された範囲だけを載せています。富士通は一般公開の事実と目的だけを扱い、資料の中身には触れていません。

公開事例から見える答え|決め方は許可型・申請型・区分型の3つ

公開されている生成AIガイドラインの決め方は、使ってよいツールを会社が指定する許可型、推奨以外のツールを申請制にする申請型、情報の重要度で入力の可否を分ける区分型の3つに分けることが出来ます。東京都やパナソニック コネクトのように、2つ以上を重ねている例もあります。東京都は庁内の共通ツールか許可を受けた外部ツールに限る許可型を軸にし、共通ツールで扱える情報を機密性Aまでと区分する形です。サイバーエージェントは推奨ツールを決めたうえで、それ以外を使う場合は法務とセキュリティの部署が事前に確認する申請型を採っています。愛知県は情報を5段階の重要性で分け、重要性A以上は原則として入力禁止とする区分型が中心となります。

型決めること主な事例向いている会社
許可型会社が用意した、または許可したツールを業務に使う(東京都はそれ以外と私物端末での業務利用を禁止)東京都(庁内の共通ツール)、富士通・日立製作所・パナソニック コネクト(社内向けの利用環境を整備)、横須賀市どの規模でも土台に出来る。社員10〜200名の会社の最初の形に向く
申請型推奨ツールを決め、それ以外を使うときは事前に申請して確認を受けるサイバーエージェント(推奨ツール以外は利用申請)、パナソニック コネクト(機密区分に従ったクラウド利用申請)部署ごとに使いたいツールが違う会社。確認する担当者を置ける会社
区分型情報を重要度で分け、どの段階まで入力してよいかをツールごとに決める愛知県(重要性A以上は原則禁止)、東京都(共通ツールは機密性Aまで)、デジタル庁(約款型のサービスでは原則として要機密情報を扱わない)すでに情報の機密区分がある会社。ない会社は3段階から始める

社員10〜200名の会社が最初に選ぶなら、許可型を土台にして区分型の3段階を足し、申請は例外の窓口として残す形をおすすめします。申請型だけで始めると、確認する担当者に依頼が集まり、手続きを待てない社員が申請せずに使い始めるおそれがあります。多くの事例で、ルールとほぼ同じ時期に、会社が使わせるツールも用意されています。ルールの文面より先に、社員が迷わず使える場所を1つ決めておくと、後の条文がずっと書きやすくなります。

生成AIガイドラインとは|なぜ企業が自社のルールを決めるのか

生成AIガイドラインとは、社員が業務で生成AIを使うときに、使ってよいツール・入れてはいけない情報・生成物の確認のしかたなどを会社として決めた文書になります。法律で作成が義務づけられた文書ではなく、名前も会社によってガイドライン、ガイドブック、利用ルール、手引きとさまざまです。パナソニック コネクトは、グループのAI倫理原則と規程の下に、リスクと対策を実務の水準でまとめた文書としてガイドブックを置いています。東京都も、事業を担当する職員向けの導入・活用ガイドラインと、各職員向けの利用の手引きを分けて作り、読み手ごとに文書の役割を分ける形を取りました。

企業が自社のルールを決める必要があるのは、生成AIの使い方によって、情報の漏洩・権利の侵害・誤った内容の発信という3種類の損が会社に返ってくるためです。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は利用目的の範囲内かを十分に確認し、提供事業者が機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めました。著作権については、文化庁が2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」を公表しています。こうした国の注意喚起や考え方を、自社の社員が日々の業務で守れる言葉に置き換えたものが、社内のガイドラインと言い換えることも出来ます。

もう1つの役割は、使ってよいことをはっきりさせる点にあります。サイバーエージェントは、画像生成AIのガイドラインを、会社が安全であると定めた範囲内での利用を促すために策定したと説明しています。禁止事項だけを並べた文書では、社員はどこまで使ってよいのか分からず、使わないか、隠れて使うかのどちらかになってしまいます。リスクの全体像や10項目の一覧はなぜ生成AIの社内ガイドラインが必要なのかで整理しているので、合わせて読んでみてください。

生成AIガイドラインを公開・発表している企業と自治体の一覧

本文まで社外に公開している組織と、発表や記事で概要だけを説明している組織があり、真似出来る深さが大きく違います。公開日と版は、自社のガイドラインで参考資料として挙げるときにそのまま必要になる情報です。

組織名称公表・版対象本文の公開
富士通生成AI利活用ガイドライン2024年1月12日に一般公開を発表従業員向けに作成公開(この記事では中身を扱いません)
日立製作所業務利用ガイドライン2023年4月末に第一版を発行(同年5月15日の発表で説明)社員非公開(発表で存在と運用を説明)
パナソニック コネクト生成AI利活用ガイドブック【一般公開版】Ver.1.0第1版 2025年1月31日グループ国内の全従業員(派遣契約社員等を含む)公開(閲覧目的に限る)
サイバーエージェント画像生成AIガイドライン2024年2月に社内向けに発表(2024年4月3日の記事で経緯を説明)社内向け非公開(オウンドメディアで経緯を説明)
東京都文章生成AI利活用ガイドライン(2023年)、現行はAI導入・活用ガイドラインと生成AI利用の手引き2023年8月23日に策定を発表。現行のガイドラインと手引き(Version 1.0)は2026年3月職員公開
愛知県生成AIの調達・利活用に係るガイドライン2026年4月1日策定職員(県民や事業者等の利活用も想定)公開(別紙はPDF・Word・Excel)
横須賀市ChatGPTの全庁的な活用実証(報道発表)2023年4月18日全職員報道発表で運用を説明
デジタル庁行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン第1.0版 2025年5月27日、第2.0版 2026年6月12日(2026年9月1日施行)政府職員公開
日本ディープラーニング協会(JDLA)生成AIの利用ガイドライン(ひな形)第1版 2023年5月、第1.1版 2023年10月、画像編 第1版 2024年2月生成AIの活用を考える組織公開(無料ダウンロード)

一覧を見ると、本文を社外に出している民間企業は多くないことが分かります。日立製作所とサイバーエージェントは、ガイドラインがあることと作り方・運用は発表していますが、条文そのものは社内向けのままです。富士通は社会全体で生成AIを適切に活用するための一助として一般公開したと説明しています。自社の参考にするときは、本文を読める事例から条文の書き方を、概要だけの事例から運用の仕組みを学ぶ、と分けて見ると混乱しません。

※公開日や版は、各組織の公式ページ・資料の表紙・報道発表の日付で確認したものです。改定されている場合があるため、自社のガイドラインで参照するときは最新の版を各組織の公式ページで確かめてください。

何を決めているかで比べる|6項目の横並び比較表

公開事例を、使ってよいツール・入力してはいけない情報・生成物の確認・違反時と相談窓口・研修とテスト・見直しの6項目で並べると、本文や別紙を公開している組織は、6項目のうち4つ以上に何らかの決まりを置いています。発表だけの組織は、確認出来る項目が限られます。公開情報で確認出来ない欄は空けずに、確認出来ない旨を書き入れました。

組織使ってよいツール入力してはいけない情報生成物の確認違反時・相談窓口研修・テスト見直し
日立製作所社内利用環境「Generative AIアシスタントツール」(2023年5月末から利用開始と発表)公開情報では確認出来ず公開情報では確認出来ず社員向け相談窓口で、ガイドラインでカバーが難しい問い合わせにも対応公開情報では確認出来ず業界動向を踏まえて継続的にアップデート
パナソニック コネクト社内向けAIアシスタントConnectAIと、その他の生成AIクラウドサービスお客様からお預かりした情報・自社の営業秘密・個人情報は原則入力しない。機密区分に従ってクラウド利用申請大前提は人が最終責任を持つこと。出力に機密情報が含まれていないかを組織内でダブルチェック窓口名の記載なし(例外の判断やサービス提供は事前に関連部門へ相談と記載)公開版では確認出来ず時代の変化に合わせて随時更新予定
サイバーエージェント推奨ツールを設け、それ以外は利用申請で法務とセキュリティの部署が事前確認プロンプトに特定のアーティスト名やキャラクター名を入れない生成物を使う前に必ず類似チェック各事業部に画像生成AIの責任者を置き、毎週定例会議理解度テストに合格していなければ申請の段階で差し戻し適宜アップデートし形骸化させない
東京都(生成AI利用の手引き)庁内の共通ツール、または許可を受けた外部ツール。許可のないAIと私物端末での業務は禁止共通ツールは機密性Aまでの情報を扱える。デジタルサービス局以外が調達した環境では機密性の高い情報を入れられないことがある回答の根拠や裏付けを必ず確認。対外的に使うときは生成AIを使った旨を明記違反は懲戒処分の対象となる場合がある。他のAIを入れたいときはAIワンストップ相談窓口へ手引きの範囲では確認出来ず知見を踏まえて適宜見直し予定
愛知県(別紙2 利活用ルール)別表でシステム名・利用者・業務の範囲を指定。私用デバイスに私的に入れた生成AIに職務上の情報を入れない情報セキュリティポリシーの重要性A以上は原則禁止生成物をそのまま用いない。AIに判断を委ね、責任を負わせることはできないリスクケースは所管の所属から報告フォームでデジタル戦略課へ報告利用前にデジタル戦略課が指定する研修を必ず受講必要に応じて見直し
横須賀市LoGoチャットにChatGPTのAPIを連携し全職員が利用機密情報や個人情報は取り扱わない運用報道発表の範囲では確認出来ず報道発表の範囲では確認出来ず報道発表の範囲では確認出来ず報道発表の範囲では確認出来ず
デジタル庁(第2.0版)許可権限者が申請を審査して利用可否を決定。約款型のサービスは利用出来る業務範囲をあらかじめ特定約款への同意だけで使えるサービスでは、原則として要機密情報を扱わない出力に基づく判断も説明責任の対象。判断に迷えば利活用しない各府省庁にAI統括責任者(CAIO)。デジタル庁がAI相談窓口を運用ルールの周知と、入力データやハルシネーション等に関する研修利活用ルールは随時改定

富士通は、全従業員が使える環境を整備するとともに、ガイドラインを作成したと発表しています。資料の中身はこの記事で扱っていないため、比較表からは外しました。表を横に読むと、使ってよいツールと入力してはいけない情報の2つは、本文や別紙を確認出来た事例では、すべて何らかの形で決められています。一方、研修とテストを利用の条件にまで結びつけているのは、サイバーエージェントと愛知県の2つでした。自社で最初に決める項目を絞るなら、ツールと入力の2つを先に固め、研修と見直しを後から足していく順番で問題ありません。

比較表で確認出来ない欄が多い事例ほどルールが少ない、というわけでもないでしょう。日立製作所のように本文を公開していない組織は、表に載せられる情報が発表の範囲に限られるためです。真似の対象にするのは、項目の数ではなく、どの項目を何で担保しているかになります。たとえば入力の制限を、東京都は共通ツールで扱える情報の上限で担保し、愛知県は情報の重要性の区分で担保しています。同じ禁止でも、仕組みで止めるのか、社員の判断に任せるのかで、守られ方が変わってきます。

企業の事例|富士通・日立・パナソニック コネクト・サイバーエージェント

民間企業の4事例では、ガイドラインと同じ時期に社内の利用環境や推進の体制を整えた例が多く見られます。ここからは各社が何を決め、何を仕組みで支えているかを順に見ていきます。

富士通|生成AI利活用ガイドラインを社外にも公開

富士通は2024年1月12日、従業員向けに作成した「生成AI利活用ガイドライン」を一般に公開したと発表しました。同社の発表によると、社内の実業務でChatGPTベースの生成AIを安全に使える環境を整備し、全従業員が使える状態にするとともに、安心して使うためのガイドラインを作成したとのことです。ガイドラインは、特に倫理的・法的な観点から、生成AIが持つ一般的なリスクと対策例を解説する内容と説明されています。作成にあたっては、技術部門や事業部門など、実際に使う人たちの意見も取り入れたと述べられました。

社員10〜200名の会社が富士通の事例から学べるのは、環境とガイドラインを組にして用意している点になります。使う人の意見を作成段階で聞いている点も、現場で守られる文書にするうえで真似しやすいところでしょう。社外への公開は、社会全体で生成AIを適切に活用するための一助という目的で行われており、自社の文書を外に出すかどうかは、各社が目的に応じて決めればよい部分と考えられます。

日立製作所|Generative AIセンターと社員向け相談窓口

日立製作所は2023年5月15日、生成AIの活用を進める組織として「Generative AIセンター」を新設したと発表しました。データサイエンティストやAI研究者に加え、社内IT・セキュリティ・法務・品質保証・知的財産の専門家を集めたCoE(社内の専門家を集めて全社を支援する組織)という位置づけです。同じ発表の中で、業務利用ガイドラインを策定して4月末に第一版を発行し、業界動向を踏まえて継続的にアップデートするとの説明がありました。さらに社員向けの相談窓口を設置し、ガイドラインではカバーが難しい問い合わせや相談にも対応するとしています。

環境の面では、Azure OpenAI Serviceなどを活用した社内利用環境「Generative AIアシスタントツール」を5月末から利用を始めると発表しました。ガイドラインの本文は社外に公開されていないため、入力禁止の範囲などの具体的な条文はこの記事では扱いません。中小規模の会社が取り入れやすいのは、相談窓口の考え方です。ガイドラインの文面ですべての場面を書き切ることは出来ないため、迷ったときに聞ける先を1つ決めておけば、条文の量を増やさずに済みます。

パナソニック コネクト|社内AIのConnectAIと生成AI利活用ガイドブック

パナソニック コネクトは、「生成AI利活用ガイドブック【一般公開版】Ver.1.0」(第1版 2025年1月31日、40ページ)を公開しています。対象はパナソニックコネクトグループ国内の全従業員で、派遣契約社員等も含まれます。対象とする生成AIは、社内向けのAIアシスタントサービスであるConnectAIと、その他の生成AIクラウドサービスの2つに分けられ、後者の例としてOpenAI、Gemini、GitHub Copilot、Adobe Fireflyが挙がっています。使う人も、自分の業務に使うAI利用者と、お客様へのサービス提供に使うAI提供者に分けて書かれているのが特徴です。

ガイドブックの位置づけは3段になっています。グループのAI倫理原則があり、その下にAI倫理規程やAI活用の業務標準といったグループ規程があり、さらにその下で具体的なリスクと対策を実務の水準でまとめたのがこのガイドブックとなります。大前提として掲げられているのは「第三者の権利を尊重し、人が最終責任を持つこと」という一文です。リスクは正確性・公平性・情報管理・個人の権利侵害・著作権侵害・透明性と説明責任の6つに分類されていますが、分類の仕方はさまざまで、この分類が正解というわけではないとも断られています。

情報管理のページでは、お客様からお預かりした情報や自社の営業秘密、個人情報やプライバシーを含む情報は原則として入力しないよう求める内容です。あわせて、機密区分に従ってクラウドの利用申請を行い、申請で認められた範囲を超えて使えないことも明記されています。出力に機密情報が含まれていないかを組織内でダブルチェックすることや、社内文書を検索して回答させる仕組み(RAG)では参照元のファイルを確認することにも言及があります。巻末の付録には、生成AIを選ぶときのチェックポイントが並んでおり、ツール選びの確認表として使える内容です。

流用するときの注意:パナソニック コネクトのガイドブックは、閲覧目的に限って参照でき、許可なく全部または一部を転載・複製・改変・販売することが禁じられています。考え方や項目立てを参考にするのは自由ですが、文章をそのまま自社の規程に写すことは出来ません。自社の文書の下書きに使うなら、加筆や修正を前提に公開されているJDLAのひな形を土台にしてください。

サイバーエージェント|推奨ツール以外は申請、理解度テストの合格が前提

サイバーエージェントは、2024年2月に「画像生成AIガイドライン」を社内向けに発表し、同年4月3日のオウンドメディアの記事で策定の経緯を説明しています。体制は、クリエイティブ担当の執行役員、CA Creative Center、法務、システムセキュリティ推進グループの横断で組まれました。全クリエイターを対象にアンケートを実施し、利用実態をガイドラインの検討材料にしました。運用では各事業部に画像生成AIの責任者を決めて毎週定例会議を開き、全社のガイドラインを前提に各事業領域のローカルルールも整えています。

ルールの中身として説明されているのは、推奨ツールを設けたうえで、それ以外のツールやモデルを使う場合はシステムセキュリティ推進グループと法務が事前に問題がないかを確認する利用申請フローです。プロンプトには特定のアーティスト名やキャラクター名を入れてはいけないとルール化し、生成物を使う前には必ず類似チェックをすることも決めています。とりわけ特徴的なのは、理解度テストに合格していなければ利用申請の段階で差し戻される仕組みでしょう。ガイドラインを適宜アップデートし、形骸化させないことも明言されています。

この事例は画像生成AIのガイドラインで、文章を中心に使う会社とは扱うリスクの重さが違います。それでも、テストの合格を申請の前提にする仕組みは、研修を受けっぱなしにさせない方法として業種を問わず使えるものです。読んだかどうかではなく、理解したかどうかで利用を許可するという考え方は、少人数の会社でも数問の確認テストで再現出来ます。

自治体の事例|東京都・愛知県・横須賀市

自治体の事例は本文や別紙まで公開されていることが多く、条文の書き方を学ぶには民間企業より使いやすい資料になります。職員の数が多い分、ツールの指定と情報の区分をはっきり書いており、その書き方は社員数の少ない会社でも縮めて使えます。

東京都|文章生成AI利活用ガイドラインから現行の手引きまで

東京都は2023年8月23日、「文章生成AI利活用ガイドライン」を東京都職員向けに策定したと発表しました。発表では、全局で約5万人を対象に利用出来る環境を整えたこと、ガイドラインは特徴・利用環境・利用上のルール・効果的な活用方法・今後の展望で構成されること、有識者の意見を聴いたことが説明されています。ここでも、ガイドラインと同時に利用環境を用意している点が目を引きます。

現行の資料は2026年3月の「東京都 AI導入・活用ガイドライン」(デジタルサービス局、100ページ)と、各職員向けの「東京都 AI導入・活用ガイドラインに基づく 生成AI利用の手引き」Version 1.0(22ページ)の2本立てです。ガイドラインはAIを導入・活用する事業を担当する職員を対象とし、透明性・公平性・安全性・プライバシー・セキュリティ・アカウンタビリティの6つを留意すべき事項に挙げています。概要資料では、都民サービス・都民サービス関連業務・職員内部業務の3つの業務領域と5つの利活用の分類を、青・黄・赤の3段階で整理しているのが分かりやすいところです。

手引きのほうには、職員が守る約束事が具体的に並びます。2024年4月からMicrosoft Copilot、2025年3月からMicrosoft 365 Copilotの利用を始め、2025年9月には生成AIプラットフォームを導入し、いずれも入力データが学習目的で保存されないことを確認したとしています。約束事には、許可されていない生成AIを業務で使うことと、私物端末上で生成AIを使って業務を行うことは禁止で、違反すると懲戒処分の対象となる場合があると明記されました。チェックポイントは、機密性の高い情報の取扱いへの注意、回答の根拠や裏付けの確認、著作権の観点からの入力内容と生成物の確認、対外的に使うときにその旨を明記することの4つで、JDLAのガイドラインも参考にするよう添えられています。

愛知県|情報の重要性で入力の可否を決め、別表で使う範囲を指定

愛知県は2026年4月1日に「生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を策定しました。職員のほか県民や事業者等が利活用することも想定し、利活用の促進とリスク管理を一体で進めることを掲げています。本体は6章で構成され、別紙1の高リスク判定シート、別紙2の生成AIシステムの利活用ルール、別紙3のリスクケースの報告フォームがPDF・Word・Excelの形で配られているため、書式ごと参考にしやすい事例です。

別紙2の利活用ルールは6ページで、利用前と利用中に分けて決まりが並んでいます。利用前には、デジタル戦略課が指定する研修を必ず受けること、生成物をそのまま用いないこと、入力と出力の結果を必要に応じて所管の所属に提供することを事前に了解することが求められます。私用デバイスに私的にインストールした生成AIへ、職務上知り得た情報を入力しないことも利用前の決まりに入っています。利用中の入力については、県の情報セキュリティポリシーに定める重要性A以上の情報を入力することを原則禁止としました。重要性はAAA・AA・A・B・Cの5段階で、Cは直ちに一般に公表することを前提とした情報という位置づけです。

別紙2の末尾には別表があり、生成AIシステム名・所属・利用者・利用可能な業務の範囲・入力可能な情報を表で指定する形になっています。記入例では、入力可能な情報の欄に重要性B以下の情報と書かれていました。この別表の形は、社員数の少ない会社でも1枚の表で運用ルールをまとめられるため、後半のひな形の節で中小企業向けに置き換えた表を載せました。

横須賀市|二次利用されない方式で全職員に配った活用実証

横須賀市は2023年4月18日、市役所でChatGPTの全庁的な活用実証を始めると発表し、市は自治体初としています。庁内で使っているLoGoチャットにChatGPTのAPIを連携させ、全職員が使えるようにするという内容になります。運用は、ChatGPTへの入力情報が二次利用されない方式で使い、機密情報や個人情報は取り扱わないというものです。

短い報道発表ですが、普段使っている業務ツールの中にAIを組み込んで全員に配る形を打ち出した点と、入力情報の二次利用を方式の側で防いだ点は、許可型の考え方そのものと言えます。社員が新しいサービスにそれぞれ登録するのではなく、会社が用意した入口から使わせる形を、早い段階から打ち出していた事例になります。

国と業界団体の指針|各事例の土台になっている資料

企業や自治体のガイドラインは、国の指針や業界団体のひな形を土台にして作られていることが多く、自社で作るときもこの層を参照先に挙げておくと根拠を説明しやすくなります。ここでは参照されることの多い3つの資料と、それぞれをどこまで使えるかを整理します。

経産省・総務省のAI事業者ガイドライン

AI事業者ガイドラインは、総務省と経済産業省が共同で策定している民間向けの指針で、最新は2026年3月31日に公表された第1.2版です。AIに関わる主体をAI開発者・AI提供者・AI利用者の3つに整理しており、生成AIを業務で使うだけの会社は主にAI利用者の立場になります。総務省の掲載ページには本編のほか別添やチェックリスト、ワークシートも載っているため、自社のルールの抜けを確かめる材料として使えます。使い方は公的機関のガイドラインと法律の整理で詳しく扱っているので、そちらも参考にしてください。

デジタル庁のガイドラインは政府職員向け

デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」は、政府職員向けに定められたもので、民間企業がそのまま従う義務はありません。それでも、約款への同意だけで使えるクラウド型の生成AIでは原則として要機密情報を扱わないという線引きや、第2.0版で加わった権限管理とログの取得は、民間の社内ルールにも置き換えて使えます。別紙2には利活用ルールのひな形があり、利用前に理解すること、入力のルール、生成物の扱い、問い合わせ先という並びは愛知県の別紙2とよく似た形です。要点はデジタル庁の生成AIガイドラインの要点で確かめることが出来ます。

JDLAのひな形を土台にする|ガイドブックはそのまま流用出来ない

日本ディープラーニング協会(JDLA)は、生成AIの活用を考える組織がスムーズに導入出来るよう、利用ガイドラインのひな形を策定して公開しています。第1版は2023年5月、第1.1版は2023年10月に公開され、条項だけの版と簡易解説付きの版があり、2024年2月には画像編の第1版も加わりました。ひな形は、組織が必要な追加や修正を加えて使う前提で作られている点が、企業のガイドブックとの大きな違いです。東京都の手引きも、JDLAのガイドラインを参考にするよう職員に案内しています。

公開事例を自社の文書に使うときは、資料ごとに使える範囲を分けて考える必要があります。文章の土台にするのはJDLAのひな形、考え方や運用の参考にするのが企業や自治体の事例という分担にすれば、権利の面で迷うことがありません。自治体の資料も、条文を写すより、表の形や項目の並びを借りて自社の言葉で書き直すほうが、社員にとって読みやすい文書になります。

資料そのまま文章を使えるか使い方
JDLA 生成AIの利用ガイドライン(ひな形)加筆・修正を前提に公開されている自社版の文章の土台にする
パナソニック コネクト 生成AI利活用ガイドブック出来ない(閲覧目的に限る。転載・複製・改変・販売は禁止)リスクの分類や選定のチェックポイントなど、考え方の参考にする
東京都・愛知県の公開資料条文の転用はせず、自社の言葉で書き直す許可するツールの書き方、情報区分の表、別表の形を借りる
デジタル庁 生成AIガイドライン政府職員向けで、言葉の置き換えが必要約款型の線引き、権限管理とログ、利活用ルールの並びを借りる
AI事業者ガイドライン指針であり規程の文章ではないチェックリストで自社ルールの抜けを確かめる

JDLAのひな形を土台にする場合でも、条文を埋めるだけでは自社に合った文書にはなりません。どのツールを使わせるか、どの情報を止めるかといった中身は、次に見る3つの型のどれを軸にするかで決まってくるからです。

3つの型を自社に当てはめる|許可型・申請型・区分型の選び方

自社の型は、社員がいま何を使っているか、情報の区分がすでにあるか、確認を担う人を置けるか、の3点を見れば選ぶことが出来ます。型ごとに、条文で決めることと、会社が用意しなければならないものが違うため、それぞれ分けて見ていきましょう。

許可型|会社が用意したツールだけを使う

許可型は、会社が契約した、または許可したツールだけを業務に使い、それ以外のAIと私物端末での業務利用を禁じる決め方です。東京都の手引きはこの形をはっきり書いており、安全性が確保された庁内の共通ツールか、許可を受けた外部のツールで生成AIを使うことを約束事にしています。富士通・日立製作所・パナソニック コネクトが社内の利用環境をガイドラインと並行して整えたのも、同じ考え方に立つものと読めます。

条文は短くて済む反面、会社が用意したツールで社員の仕事が足りることが前提になります。用意したツールが使いにくかったり、必要なAIが入っていなかったりすると、社員は私物のスマートフォンで別のサービスを開いてしまいます。許可型を選ぶ会社は、ルールの文面より先に、社員が使いたいAIを会社の環境でそろえられるかを確かめておきたいところです。

申請型|推奨以外は事前に確認する

申請型は、推奨ツールを決めたうえで、それ以外を使うときに事前の申請と確認を求める決め方になります。サイバーエージェントは法務とセキュリティの部署が事前に確認し、理解度テストの合格を申請の前提にしています。パナソニック コネクトも、機密区分に従ってクラウドの利用申請を行い、認められた範囲を超えた利用を認めない形です。

新しいツールを試したい部署の要望に応えやすい一方で、申請を受けて判断する人の負担が大きくなりやすい型と言えます。社員10〜200名の会社で申請型を軸にすると、確認を担う人が総務や情報システムの担当者1人に集中しがちになります。申請の判断に何を見るかは生成AIの利用申請の判断表と申請書の項目で整理しているので、申請型を取り入れるときの参考にしてください。

区分型|情報の重要度で入力の可否を決める

区分型は、情報を重要度で段階に分け、どの段階までなら入力してよいかを決める方法です。愛知県は重要性A以上を原則禁止とし、東京都は共通ツールで扱える情報を機密性Aまでと定めています。デジタル庁も、約款への同意だけで使えるサービスでは原則として要機密情報を扱わないとしており、ツールの種類と情報の段階を組み合わせて線を引いているのが分かります。

すでに情報の機密区分を持っている会社なら、その区分をそのまま使えるため取り入れやすい型です。区分を持っていない会社は、入れてはいけない・会社の環境でなら入れてよい・どこでも入れてよい、の3段階から始めてみましょう。段階の数を増やすほど社員が迷いやすくなるので、最初は3つで十分と考えられます。

規模別のおすすめの組み合わせ

3つの型の組み合わせ方は、社員数と、確認を担える人がいるかどうかで変わります。次の表は公開事例の決め方をもとにした目安で、どの規模でも許可型を土台に置くことを前提にしています。

会社の規模土台の型足す型条文で決めること
社員10名前後許可型(会社のツールを1つに決める)区分型(入れてはいけない情報を1枚に)使うツール名、入れてはいけない情報、困ったときに聞く人
社員50名前後許可型区分型の3段階+申請型(例外の窓口として)上に加えて、別のツールを使いたいときの申請先と判断の基準
社員200名前後許可型区分型の3段階+申請型+研修の受講を利用の条件に上に加えて、部署ごとの責任者、研修とテスト、見直しの時期

規模が大きくなるほど足す型が増えますが、土台が許可型である点は変わりません。どの規模でも、会社が用意するツールが社員の仕事に足りているかどうかが、ガイドラインが守られるかを左右します。

社内専用AI環境を用意し、ガイドラインと併用する

公開事例を見比べると、確認出来た範囲では、ガイドラインだけを配って終わりにしている組織は見当たらず、多くの事例が会社が用意した安全な利用環境とセットで運用しています。富士通は社内の実業務でChatGPTベースの生成AIを安全に使える環境を全従業員に用意し、日立製作所はAzure OpenAI Serviceなどを使った社内利用環境「Generative AIアシスタントツール」を5月末から利用を始めると発表しました。パナソニック コネクトは社内向けのAIアシスタントConnectAIを対象ツールの1つに位置づけ、東京都はCopilotや生成AIプラットフォームを共通ツールとして導入しています。横須賀市も、普段使う業務チャットにAIを組み込んで全職員に配る形を発表しました。

組織ルールと一緒に用意した環境環境の側で担保していること
富士通ChatGPTベースの生成AIを全従業員が使える社内環境社内の実業務で安全に使えること(同社発表)
日立製作所Azure OpenAI Serviceなどを活用した「Generative AIアシスタントツール」2023年5月末から社内の利用環境として利用開始と発表
パナソニック コネクト社内向けAIアシスタントConnectAIガイドブックの対象ツールとして、その他のクラウドサービスと区別
東京都Microsoft Copilot、Microsoft 365 Copilot、生成AIプラットフォーム(共通ツール)入力データが学習目的で保存されないことを確認。機密性Aまでの情報を扱える
横須賀市LoGoチャットとChatGPTのAPIの連携入力情報が二次利用されない方式

ルールと環境を並行して整える理由は、ルールの多くが社員1人ひとりの注意だけでは守り切れないためです。入力したデータが学習に使われないかどうかは、社員が自分の個人アカウントで設定を確認するより、会社の環境で一律にそろえるほうが確実になります。東京都が共通ツールで扱える情報を機密性Aまで広げられたのも、セキュリティ面での検証を行った環境だからこそと手引きは説明しています。デジタル庁が第2.0版で権限管理とログの取得を加えたことも、ルールを守らせる仕組みを環境の側に持たせる流れと重なります。

反対に、会社の環境を用意しないままルールだけを配ると、禁止された使い方は止まらず、見えなくなるだけで終わってしまいます。社員が私物のスマートフォンで個人のAIを開けば、会社からは何も見えません。東京都が私物端末での業務利用と許可のない生成AIの利用を懲戒処分の対象となり得ると明記し、愛知県が私用デバイスに私的に入れた生成AIへの入力を禁じているのは、この抜け道を条文の側からも塞ぐためと読めます。会社が把握していない利用を減らす方法は野良AI(シャドーAI)の意味・リスク・対策で、禁止がどこまで届くかはシャドーAIは禁止すべきかで取り上げています。

ルールを守れる場所を、会社で1つ用意する

公開事例と同じように、学習させない設定と利用ログを会社の環境にまとめると、ルールが現場で守られやすくなります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

入力してはいけない情報と情報漏洩リスク|公開事例の線引き

入力してはいけない情報の線引きは、公開事例のほぼすべてが何らかの形で決めている項目で、書き方は「情報の種類を挙げる」と「重要度の段階で切る」の2通りに分かれます。パナソニック コネクトは種類を挙げる書き方で、お客様からお預かりした情報、自社の営業秘密、個人情報やプライバシーを含む情報を原則として入力しないよう求めています。愛知県は段階で切る書き方を取り、重要性A以上を原則禁止としました。横須賀市は、機密情報と個人情報を取り扱わない運用を最初から決めています。

公開事例が入力を止めている情報

止め方には、入力そのものを禁じる方法と、使うツールによって入れてよい範囲を変える方法の2つがあります。東京都は後者の考え方で、セキュリティの検証を行った共通ツールでは機密性Aまでの情報を扱えるとし、個人情報などを含むメールやWeb会議の要約も出来るとしています。その一方で、デジタルサービス局以外が調達した環境では、機密性の高い情報の入力が認められていないことがあると注意を添えました。

組織止め方入力を止めている、または絞っている情報
パナソニック コネクト種類を挙げる+利用申請お客様からお預かりした情報、自社の営業秘密、個人情報・プライバシーを含む情報(いずれも原則入力しない)
愛知県段階で切る情報セキュリティポリシーの重要性A以上(原則禁止)。私用デバイスの生成AIには職務上知り得た情報を入れない
東京都ツールで範囲を変える共通ツールは機密性Aまで扱える。デジタルサービス局以外が調達した環境では機密性の高い情報を入れられないことがある
横須賀市運用で止める機密情報・個人情報は取り扱わない
デジタル庁ツールの種類で切る約款への同意だけで使えるサービスでは、原則として要機密情報を扱わない

個人情報については、個人情報保護委員会の注意喚起が会社の判断の土台になります。個人情報を含むプロンプトを入力するときは、特定された利用目的の範囲内かを十分に確認し、提供事業者がそのデータを機械学習に使わないことなどを確かめるよう求めています。愛知県が、照合することで個人を識別出来る情報も個人情報にあたると明記しているのも、社員が名前を消しただけで安心してしまうことを防ぐ書き方と言えます。

自社版の3段階の作り方

情報の区分を持っていない会社は、公開事例の2つの書き方を組み合わせて3段階を作ると、社員に伝わりやすくなります。段階で大きく切り、各段階に情報の種類を例として書き添える形です。

段階決まり情報の例参考にした事例
入れないどのツールにも入力しないパスワードなどの認証情報、マイナンバー、顧客から預かった個人情報、取引先との秘密保持契約の対象情報パナソニック コネクト(原則入力しない情報)、愛知県(重要性A以上は原則禁止)
会社の環境でのみ会社が用意し、学習に使われない設定を確認したツールでだけ、必要最小限を入力する公開前の社内資料、社内会議の議事録、見積や企画の下書き東京都(検証した共通ツールでは機密性Aまで)、デジタル庁(約款型では要機密情報を扱わない)
どこでも可会社が許可したツールであれば入力してよい公開済みの自社情報、一般的な調べもの、架空の例文愛知県(重要性Cは公表を前提とした情報)

表のうち、会社の環境でのみ入れてよい段階をどこまで広く取れるかは、会社が用意するツールの条件で決まります。学習に使われない設定や利用ログの取得を会社の側で確認出来ないツールしかない場合は、この段階を狭く取らざるを得ません。入力してはいけない情報の一覧をそのまま社内に配れる形にした例はAIに入れてはいけない情報の一覧と通知文ひな形に載せています。

業務を青・黄・赤に分ける|東京都の3段階を自社版にする

東京都の概要資料は、業務の領域と使い方の分類を、積極的に使う青、リスクに十分配慮して使う黄、技術や制度の動きを見守る赤の3段階で色分けしています。情報の区分が入力の可否を決めるのに対し、この色分けは業務のどこにAIを使うかを決めるもので、2つを組み合わせると社員の迷いがかなり減ります。東京都は都民サービス・都民サービス関連業務・職員内部業務の3つを業務領域としていますが、会社なら社内向けの業務・顧客に届く業務・人や取引の判断に関わる業務の3つに置き換えると使いやすくなります。

色東京都の意味会社に置き換えた業務の例会社で決めること
青比較的リスクが低く、積極的に利活用社内向け文書の下書き、議事録の要約、調べものの下調べ、アイデア出し使ってよいツールと、入れてよい情報の段階だけを守れば各自の判断で使ってよい
黄リスクに十分配慮したうえで積極的に利活用顧客向けのメールや提案書、ホームページや広告の文章、社外に出す資料の作成公開や送信の前に、内容の根拠と権利を人が確認する。誰が確認したかを残す
赤今後の技術動向や法制度の整備状況等を注視採用の合否や人事評価の判断、顧客への自動返信、契約条件の判断当面はAIに判断を任せない。使いたい部署は申請し、責任者が個別に判断する

赤に入れた業務も、ずっと使わないと決める必要はありません。デジタル庁の第2.0版は、相手のメールに応じた返信を職員の確認なしに自動で送る使い方を、高リスクとなる判定例として挙げています。人が出力を確かめてから使う形に変えれば黄に移せる業務もあるので、色は見直しのたびに動かすものと考えておきましょう。

色分けを自社で作るときは、最初から細かく分けすぎないことが大切です。部署ごとに主な業務を5つずつ書き出して、青・黄・赤のどこに入るかを部署の責任者と話し合うだけでも、社内の判断はそろってきます。分け方に迷う業務は黄に入れておき、運用しながら青に下げるか赤に上げるかを決めていけば問題ありません。

著作権・知的財産権のリスクと生成物の権利確認

著作権と知的財産権の決まりは、入力の段階と生成物を使う段階の2か所に置くのが公開事例に共通する形です。入力の段階では、サイバーエージェントがプロンプトに特定のアーティスト名やキャラクター名を入れてはいけないとルール化しています。愛知県も、プロンプトに既存の著作物、作家名、作品の名称を入力しないことと、特定の作者や作家の作品だけを学習させた特化型のAIを使わないことを決めました。

生成物を使う段階では、サイバーエージェントが使用前に必ず類似チェックをすることを求め、愛知県は商標や意匠の調査にも触れています。東京都の手引きも、著作権保護の観点からプロンプトの入力内容と生成物の確認を4つのチェックポイントの1つにしました。パナソニック コネクトのガイドブックは、リスクの6分類の中に著作権侵害を独立した項目として立てています。入力で避け、使う前に確かめるという2段構えは、画像でも文章でも同じように使えます。

デジタル庁の利活用ルールひな形には、AI生成物に著作物性が認められるとは限らないことも書かれています。会社がAIで作った文章や画像を自社の著作物として守れるとは限らない、という点は社員にも伝えておきたい内容です。国の考え方の土台としては、文化庁が2024年3月15日に公表した「AIと著作権に関する考え方について」があり、社内規程で参照先として挙げておくと説明がしやすくなります。

段階公開事例の決まり自社の条文にするときの例
入力特定のアーティスト名・キャラクター名を入れない(サイバーエージェント)、既存著作物・作家名・作品名を入れない(愛知県)他人の作品名・作家名・キャラクター名を指定して似たものを作らせない
ツール選び特定の作者の作品だけを学習させた特化型AIは使わない(愛知県)会社が許可したツール以外で画像を作らない
使う前必ず類似チェック(サイバーエージェント)、商標・意匠の調査(愛知県)、生成物の確認(東京都)社外に出す画像やロゴ、キャッチコピーは、既存のものと似ていないかを確認してから使う
公開時対外的に使うときは生成AIを使った旨を明記(東京都)社外に出す文書でAIを使った場合の表示のしかたを決める

生成物の確認と責任の所在|ハルシネーション対策は人が最後に確かめる

生成物の確認については、確認出来た事例はいずれも、AIの出力をそのまま使わず、人が確かめて責任を持つことを求めています。生成AIには、もっともらしい誤りを出力するハルシネーション(事実と異なる内容をそれらしく作ってしまう現象)があるためです。パナソニック コネクトは大前提として人が最終責任を持つことを掲げ、愛知県は生成物をそのまま用いないことを利用前のルールに入れました。愛知県の別紙2には、AIに判断を委ね、責任を負わせることはできないという一文もあり、過度に頼ると職員が自分の能力を身につけられなくなるおそれにまで触れています。

確認のしかたで具体的なのは東京都の手引きです。回答の根拠や裏付けを必ず確認することをチェックポイントに挙げ、対外的に使う場合は生成AIを使った旨を明記するよう求めました。デジタル庁のひな形も、出力に基づいて行った判断は説明責任の対象になること、判断に迷う場合は使わないこと、正確性を確認し問題のある表現は直すか削ることを並べています。パナソニック コネクトが出力に機密情報が含まれていないかを組織内でダブルチェックするよう求めているのは、誤りだけでなく情報の混入も確認の対象になるという点で見落としやすいところです。

自社の条文に落とすときは、誰が、何を、どこまで確かめるかを分けて書くと運用しやすくなります。社内向けの下書きは作った本人が確かめ、社外に出す文書は本人に加えて上長などもう1人が確かめる、という2段の形が少人数の会社では現実的でしょう。確認した人の名前と日付を残しておけば、誤りが見つかったときに経緯をたどれます。確認と記録の決め方は生成物のファクトチェックと人による最終確認でも扱っています。

責任者・相談窓口・運用体制の決め方

運用体制で公開事例が決めているのは、全体の責任者・迷ったときの相談窓口・問題が起きたときの報告の流れの3つです。デジタル庁は各府省庁にAI統括責任者(CAIO)を置き、デジタル庁自身がAI相談窓口を運用して、高リスクか迷う事案などの相談を受け付ける体制になります。日立製作所はGenerative AIセンターに社内IT・セキュリティ・法務・品質保証・知的財産の専門家を集め、社員向けの相談窓口でガイドラインではカバーしきれない問い合わせに応じると発表しました。

サイバーエージェントは、全社の体制に加えて各事業部に画像生成AIの責任者を決め、毎週の定例会議で運用を回しています。東京都は、共通ツール以外のAIサービスを入れたいときの問い合わせ先としてAIワンストップ相談窓口を案内し、違反した場合は懲戒処分の対象となる場合があると手引きに書きました。愛知県は、偏見や差別を含む出力、攻撃的なコンテンツ、ハルシネーションによる不利益、著作権侵害の申出といったリスクケースが起きたときに、所管の所属から報告フォームでデジタル戦略課へ報告し、対処し、結果を報告する流れを決めています。

決めること公開事例社員10〜200名の会社での形
全体の責任者CAIO(デジタル庁)、Generative AIセンター(日立製作所)役員か総務・情報システムの責任者が兼ねる。名前をガイドラインに書く
部署の責任者各事業部の画像生成AIの責任者(サイバーエージェント)50名を超えたら部署ごとに1人。少人数なら全体の責任者が兼ねる
相談窓口社員向け相談窓口(日立製作所)、AIワンストップ相談窓口(東京都)、AI相談窓口(デジタル庁)社内チャットの1つのチャンネルか、1つのメールアドレスに決める
問題が起きたときの報告報告フォームでデジタル戦略課へ(愛知県)誤入力や誤った発信に気づいたら、まず相談窓口へ報告する。報告した人を責めないことも書く
違反時の扱い懲戒処分の対象となる場合がある(東京都)処分の定めは就業規則に委ね、ガイドラインからは就業規則を参照する

違反時の扱いをガイドラインの中で細かく決めるより、就業規則に委ねるほうが手続きの面で無理がありません。処分の線引きについてはシャドーAIで懲戒処分は出来るかで、就業規則の書き方と合わせて取り上げています。報告の流れは、誤って入力してしまった社員が隠さずに申し出られるかどうかで効き目が変わるため、早く報告したことを評価する一文を添えておくのがおすすめです。

社員教育・研修とセットで運用する|受講とテストを利用の条件に

研修については、公開事例の中でも決め方に差があり、受講やテストの合格を利用の条件にまで結びつけている事例が、ルールを形だけにしない工夫として参考になります。愛知県は、職員が生成AIシステムを使う前に、デジタル戦略課が指定する研修を必ず受けることを利用前のルールにしました。サイバーエージェントは理解度テストに合格していなければ利用申請の段階で差し戻す仕組みを取り、デジタル庁もルールの周知と、入力データやハルシネーションなどに関する研修をCAIOの役割に入れています。

中小規模の会社でこの仕組みを再現するなら、短い研修と5〜10問ほどの確認テストを用意し、合格した社員にだけ会社のAIツールのアカウントを発行する形が取りやすいでしょう。テストの問題は、入力してはいけない情報の見分け、生成物を確認する場面、困ったときの相談先の3つに絞ると、ガイドラインの要点と重なります。アカウントの発行と研修の記録を結びつけておくと、新しく入った社員の受講漏れも防げます。

確認テストの問い(例)ガイドラインのどこに対応するか
取引先から受け取った見積書を、要約のために会社のAIツールへ入れてよいか入力してはいけない情報の段階(秘密保持契約の有無で答えが変わる)
私物のスマートフォンのAIアプリで、社内会議のメモを整理してよいか使ってよいツールと端末
AIが作った顧客向けメールを、確認せずに送ってよいか生成物の確認と責任
有名なキャラクターの名前を指定して、販促用の画像を作らせてよいか著作権・知的財産権
誤って顧客の個人情報を入力してしまったとき、最初に何をするか相談窓口と報告の流れ

研修の内容や時間の目安、外部の研修を選ぶときの比べ方は、AIリテラシー研修で全社員に教えることとAI研修の選び方にまとめています。テストを利用の条件にするかどうかは、まず社員が全員受けやすい長さで作れるかを見て決めてみてください。

定期的な見直し|版と日付を書き、随時更新の書き方を決める

見直しについては、公開事例のほとんどが、内容を固定せず更新していくことを文書の中で明言しています。パナソニック コネクトはガイドブックを時代の変化に合わせて随時更新する予定とし、東京都の手引きは今後得られた知見などを踏まえて適宜見直す予定と書いてあります。日立製作所は業界動向を踏まえて継続的にアップデートすると発表し、サイバーエージェントは適宜アップデートして形骸化させないと説明しました。愛知県も必要に応じて見直すとし、デジタル庁は利活用ルールを随時改定するとしています。

見直しを実際に回している事例は、版と日付が文書にはっきり書かれているのが共通点です。パナソニック コネクトは表紙にVer.1.0と第1版の日付を載せ、東京都の手引きはVersion 1.0、デジタル庁は第1.0版から第2.0版への改定履歴を残しています。随時更新と書くだけでは、いつ誰が見直すのかが決まらず、結局そのままになってしまいます。

組織文書に書かれた見直しの書き方版・日付の表示
パナソニック コネクト時代の変化に合わせて随時更新予定Ver.1.0、第1版 2025年1月31日
東京都(手引き)今後得られた知見などを踏まえ、適宜内容の見直しを行っていく予定Version 1.0、2026年3月
日立製作所業界動向を踏まえ、継続的にアップデート(発表)2023年4月末に第一版
サイバーエージェント適宜アップデートし、形骸化させない(記事での説明)2024年2月に社内向けに発表
愛知県必要に応じて見直し2026年4月1日策定
デジタル庁利活用ルールは随時改定第1.0版 2025年5月27日、第2.0版 2026年6月12日

自社のガイドラインには、版と施行日を表紙に書き、定期の見直しと臨時の見直しを分けて決めておきましょう。定期の見直しは、半年に1回など会社の会議の周期に合わせて時期を決め、担当者の名前も書いておきます。臨時の見直しのきっかけは、新しいツールを導入したとき、使っているツールの利用規約や学習の設定が変わったとき、社内で誤入力などの問題が起きたときの3つを挙げておけば足ります。改定したら、変えた箇所と理由を1行ずつ改定履歴に残し、全社員に差分だけを知らせてください。

業務別に見る利用範囲|議事録・要約・社内文書の検索

公開事例で業務ごとの使い方に触れているのは一部ですが、議事録や会議の要約、社内文書の検索といった業務は、扱う情報の段階を決めないと使えない場面としてたびたび出てきます。東京都の手引きは、共通ツールでは個人情報などを含むメールやWeb会議の要約も出来るとしており、会議の記録はツールの条件次第で扱える業務の代表になっています。パナソニック コネクトは、社内のデータを連携して回答させる仕組みで参照元のファイルを確認することに触れ、社内文書の検索に固有の注意を挙げました。愛知県の別表は、システムごとに利用可能な業務の範囲を書く欄を設けている点が特徴となります。

業務扱う情報の段階決めておくこと関係する事例
会議の議事録・要約会社の環境でのみ(社外の人が参加した会議は内容によって入れない)録音や文字起こしを入れてよいツール、出席者への周知、要約の確認者東京都(共通ツールでWeb会議の要約が可能)
メールの下書き・返信会社の環境でのみ社外宛ては送信前に本人が確認。自動で送らない東京都(メールの要約が可能)、デジタル庁(確認なしの自動返信は高リスクの判定例)
社内文書の検索・質問への回答会社の環境でのみ読み込ませる文書の範囲、回答の参照元の確認、閲覧権限のない人に見えないかパナソニック コネクト(参照元ファイルの確認)
提案書・広告・ホームページの文章どこでも可の情報を中心に根拠の確認、類似の確認、AIを使った旨の表示東京都(対外的に使う場合は明記)、サイバーエージェント(類似チェック)
画像・ロゴ・販促物どこでも可の情報のみ使ってよい画像生成ツール、作家名やキャラクター名の指定禁止、使う前の類似確認サイバーエージェント、愛知県

業務別の範囲を決めるときは、まず社内でAIがよく使われている業務を3つほど選んでみてください。それぞれの業務で扱う情報が先ほどの3段階のどこに入るかを決め、使うツールと確認する人を書き添えれば、業務別の利用範囲の表ができあがります。業務を増やすたびに表に1行足していく形にすると、見直しのときにも変更点を追いやすくなります。

小さく試して広げる|スモールスタートの進め方

公開事例の多くは、最初から完成した規程を作ったのではなく、試しながら広げる進め方を取っています。横須賀市は全庁的な活用実証として始めることを発表し、東京都は2023年の文章生成AIのガイドラインから、2026年3月のAI導入・活用ガイドラインと利用の手引きへと段階的に整えてきました。日立製作所も第一版を発行したうえで継続的にアップデートするとしており、初版を完璧にするより、早く出して直していく考え方が共通しています。

デジタル庁の第2.0版も、試行の段階で対応事項をすべて実施すると対策が過剰になる可能性があるとし、要求事項の取捨選択を検討するよう促す内容です。社員10〜200名の会社なら、まず1つの部署か希望者10名ほどで会社のツールを使い始め、1か月ほどで困った場面を集めてから全社のガイドラインに反映する流れが現実的でしょう。

時期やること参考にした事例
1週目社員に生成AIの利用実態をアンケートで聞き、使っているサービスと業務を把握するサイバーエージェント(全クリエイター対象のアンケート)
2週目会社が用意するツールを1つ決め、3段階の情報区分と相談窓口だけを書いた初版を作る東京都(共通ツール)、愛知県(重要性の区分)
3〜6週目1部署か希望者で使い始め、迷った場面と質問を相談窓口に集める横須賀市(活用実証)、日立製作所(相談窓口)
7〜8週目集めた質問を条文と業務別の表に反映し、研修と確認テストを用意して全社に広げる愛知県(研修の受講)、サイバーエージェント(理解度テスト)
その後版と日付を付けて改定し、定期の見直し時期を決めるパナソニック コネクト(版と随時更新)、デジタル庁(改定履歴)

試す期間の段階から、使うのは会社が用意したツールに限っておくことが大切になります。試行の間だけ個人のアカウントを認めてしまうと、全社に広げるときに使い慣れたサービスから移ってもらう手間が増えてしまうためです。

愛知県の別表を置き換えた利用範囲表のひな形と条文の文例

愛知県の別紙2にある別表は、生成AIシステム名・所属・利用者・利用可能な業務の範囲・入力可能な情報を1行ずつ書く形で、会社の規模を問わずそのまま使える骨組みです。会社向けには、所属を管理する部署に、利用者を使う人の範囲に置き換え、確認する人の欄を足すと運用しやすくなります。次の表は記入例で、ツール名や部署名は自社のものに書き換えて使ってください。

AIツール名管理する部署使う人使ってよい業務入れてよい情報確認する人備考
(会社が契約した生成AIサービス名)総務部研修とテストを終えた全従業員(派遣社員を含む)社内文書の下書き、議事録の要約、調べもの会社の環境でのみの段階まで社外に出すものは本人と上長学習に使われない設定を管理する部署が確認済み
(社内文書を検索するAI機能)情報システム担当営業部・総務部社内規程と製品資料への質問会社の環境でのみの段階まで回答を使う本人読み込ませる文書は管理する部署が選ぶ
(画像生成ツール)広報担当広報担当者のみ社内資料の挿絵、販促物の試作どこでも可の段階のみ広報責任者作家名・キャラクター名の指定禁止、使う前に類似確認

表の形にしておくと、新しいツールを認めるたびに1行を足すだけで済み、社員もどのツールに何を入れてよいかを1枚で確かめられます。条文の本体には、この表に載っていないツールを業務に使わないこと、表を変えるときは管理する部署が決めることだけを書いておけば十分です。条文の文例は次のとおりで、JDLAのひな形や社内規定のひな形(全16条+別紙2つ)と組み合わせて使えます。

条文例参考にした事例
使ってよいツール従業員は、別表に定める生成AIツールに限り、別表に定める業務の範囲で生成AIを業務に使用する。私物の端末や個人で契約したアカウントで、業務上の情報を生成AIに入力してはならない。東京都、愛知県
入力してはいけない情報従業員は、別に定める情報区分のうち「入れない」に当たる情報を、いかなる生成AIツールにも入力してはならない。「会社の環境でのみ」に当たる情報は、別表で認められたツールに限り、必要最小限の範囲で入力することが出来る。愛知県、パナソニック コネクト
生成物の確認従業員は、生成AIの出力をそのまま用いず、根拠と内容を確認したうえで使用する。社外に提出または公開するものは、作成者に加えて上長が確認し、確認者と確認日を記録する。愛知県、東京都
権利の確認従業員は、他人の作品名・作家名・キャラクター名を指定して生成させてはならない。社外に出す画像や文章は、既存のものと類似していないかを確認してから使用する。サイバーエージェント、愛知県
研修生成AIツールのアカウントは、会社が指定する研修を受講し、確認テストに合格した従業員に発行する。愛知県、サイバーエージェント
相談と報告判断に迷う場合や、誤って情報を入力した場合は、速やかに相談窓口へ報告する。速やかな報告は不利益に扱わない。日立製作所、愛知県
見直し本ガイドラインは、毎年◯月と◯月に見直すほか、ツールの追加や利用規約の変更があった場合に改定する。改定時は版と日付を更新し、変更箇所を従業員に通知する。パナソニック コネクト、デジタル庁

ツールを選ぶときの確認表|ガイドブックのチェックポイントを使う

パナソニック コネクトのガイドブックの付録「生成AIを選ぶときのチェックポイント」は、自社で使うツールを選ぶときの確認表として使える内容です。文章は流用出来ないため、項目の考え方を借りて、自社で事業者に確かめる問いに置き換えました。許可型のガイドラインでは、ここで選んだツールがそのまま使ってよいツールになるので、ルール作りの前に確かめておく項目と言えます。

  • 入力データの秘密保持義務入力した内容について、事業者が秘密を守る義務を契約や規約で負っているか。約款への同意だけで使うサービスか、個別の契約を結べるかも合わせて見ます。
  • 学習などへの二次利用の有無入力や出力が、事業者のモデルの学習などに使われないか。会社の側で全員に一律に設定出来るかを確かめます。
  • 同意のない第三者への提供入力したデータが、会社の同意なく他社に渡ることがないか。事業者の先にあるAIの提供元との関係も確認します。
  • 契約終了後のデータの扱い解約や退職でアカウントを止めたあと、会話の履歴やファイルがどう扱われるか。保管される期間と場所も聞いておきます。
  • 学習データセットの透明性モデルがどのようなデータで作られたかについて、事業者がどこまで説明しているか。
  • モデルの特性と限界の開示得意なこと、苦手なこと、誤りが出やすい場面を事業者が示しているか。社員向けの研修の材料にもなります。
  • 出力のフィルタリング不適切な出力を止める仕組みがあるか。顧客に届く業務で使うときほど重要になります。
  • 権利侵害が起きたときの対応と補償生成物が他人の権利を侵害したと指摘されたとき、事業者がどこまで対応するか。

ガイドブックは、これらに加えて証跡やログを残す運用も検討するよう添えています。誰がいつどのツールを使ったかを会社の側で確かめられるかどうかは、ガイドラインが守られているかを確認する手段そのものになります。ログで何を記録し、どのくらいの頻度で見るかは生成AIの利用ログで何を記録し月1回どう見るかで、ツールを承認リストにまとめる方法は生成AIのホワイトリストの作り方で取り上げています。セキュリティの点検項目を全体で確かめたい場合は、生成AIセキュリティチェックリストも使ってみてください。

社員10〜200名の会社が真似出来る部分・真似しなくてよい部分

公開事例の多くは大企業や自治体のもので、すべてを真似する必要はなく、条文と仕組みの考え方を借り、組織や会議体は自社の規模に縮めるのが現実的です。日立製作所のGenerative AIセンターのように各分野の専門家を集めた組織や、デジタル庁のアドバイザリーボードのような有識者の会議体は、社員数の少ない会社で同じ形を作る必要はありません。東京都のAI導入・活用ガイドラインは100ページあり、事業を担当する職員向けに導入の判断まで書かれていますが、社員10〜200名の会社で全社員に配るなら、手引きのような短い文書のほうが合っています。

公開事例の仕組み真似するか社員10〜200名の会社での形
会社が用意した利用環境(富士通・日立製作所・パナソニック コネクト・東京都)真似する自社で作らず、学習に使われない設定とログを確認出来る法人向けサービスを1つ契約する
許可のないAIと私物端末での業務利用の禁止(東京都・愛知県)真似する条文に1行で書き、就業規則の参照を添える
情報の重要度による入力の区分(愛知県・東京都)縮めて真似する5段階ではなく3段階にする
別表による利用範囲の指定(愛知県)真似するツール名・管理部署・使う人・業務・入れてよい情報の1枚の表にする
理解度テストを申請の前提にする(サイバーエージェント)縮めて真似する5〜10問の確認テストとアカウント発行を結びつける
専門家を集めたセンターや有識者の会議体(日立製作所・デジタル庁)真似しなくてよい全体の責任者1人と相談窓口1つで足りる
各事業部の責任者と毎週の定例会議(サイバーエージェント)規模次第50名を超えたら部署ごとの責任者を置き、会議は月1回の確認で十分
高リスク判定シートによる個別の審査(デジタル庁・愛知県)縮めて真似する業務の青・黄・赤の色分けで代える

真似しなくてよい部分を削ったあとに残るのは、会社が用意したツール、入力の3段階、業務の色分け、確認の決まり、相談窓口、研修とテスト、見直しの時期の7つほどになります。この7つであれば、総務や情報システムの担当者1人でも初版を作り、運用を回していくことが出来ます。大企業の事例を読んで手が止まってしまうときは、組織の大きさではなく、何を仕組みで担保しているかだけを拾うようにしてみてください。

自社版を作る策定手順|課題の洗い出しから周知・見直しまで

自社版のガイドラインは、利用実態と課題の洗い出し、型と方針の決定、条文と表へのルール化、周知と研修、見直しの5段階で作ると、公開事例で見た工夫を無理なく取り込めます。作成から施行までの細かな7ステップは社内ガイドラインの作り方の7ステップに載せているため、ここでは各段階で事例から何を借りるかに絞って並べました。

段階やること事例から借りること
1 課題の洗い出し社員が使っているAIと業務、困っていることをアンケートで集める全クリエイター対象のアンケート(サイバーエージェント)、使う人の意見を取り入れた作成(富士通)
2 方針の決定許可型・申請型・区分型のどれを軸にするかと、会社が用意するツールを決める共通ツール(東京都)、社内の利用環境(日立製作所・パナソニック コネクト)
3 ルール化入力の3段階、業務の色分け、別表、確認と報告の条文を書く重要性の区分と別表(愛知県)、青・黄・赤(東京都)、JDLAのひな形
4 周知と研修研修と確認テストを用意し、合格者にアカウントを発行する研修の受講義務(愛知県)、理解度テスト(サイバーエージェント)
5 見直し版と日付を付け、定期と臨時の見直しの時期を決める随時更新と版の表示(パナソニック コネクト)、改定履歴(デジタル庁)

事例を見て決めたことは、親記事で整理しているガイドラインの項目のどこに入れるかを決めておくと、文書の形にまとめやすくなります。次の表は、この記事で比べた決め方と、社内ガイドラインに盛り込む10項目の対応を示したものです。

この記事で比べた決め方入れる項目
許可型のツール指定、別表の利用範囲利用可能なツールの決め方
使う人の範囲(派遣社員を含むか、AI利用者とAI提供者の区別)適用範囲と対象者
入力の3段階、私物端末の禁止入力禁止情報のリスト化
生成物の確認と記録生成物のファクトチェックと人による最終確認
作家名・キャラクター名の指定禁止、類似の確認著作権・知的財産侵害への配慮
相談窓口、問題が起きたときの報告、違反時の扱い違反・誤入力時の報告フロー
研修と確認テスト周知と研修による定着施策
版と日付、定期と臨時の見直し改定・見直しの頻度

手順の中で時間がかかりやすいのは、2の方針の決定で会社が用意するツールを決める部分になります。ツールが決まらないまま条文を書き始めると、許可型の条文に書くツール名が空欄のままになり、ルール化の段階で手が止まってしまいます。公開事例の多くがルールと環境を並行して整えているのは、この順番の問題を避けるためとも読めるので、まずはツール選びの確認表から始めてみましょう。

ガイドラインで決めたことを、会社の環境で守れる形に

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けサービスです。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・使わせるモデルのON/OFFを会社が管理出来ます。基盤はAWSの日本リージョンで稼働し、データの保管とログ管理は国内で行います。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

生成AIガイドラインを公開している日本企業はどこですか?
本文を社外に公開している例として、富士通の生成AI利活用ガイドライン(2024年1月12日に一般公開を発表)と、パナソニック コネクトの生成AI利活用ガイドブック【一般公開版】Ver.1.0(第1版 2025年1月31日)があります。日立製作所とサイバーエージェントは、ガイドラインの存在と運用を発表や記事で説明していますが、本文は社内向けのままです。自治体では東京都と愛知県が本文や別紙を公開しています。※2026年10月3日時点で各社・各自治体の公式ページで確認した内容です。
公開されている企業のガイドラインを、自社のガイドラインにそのまま使えますか?
資料によって異なります。パナソニック コネクトのガイドブックは閲覧目的に限って参照でき、許可なく全部または一部を転載・複製・改変・販売することが禁じられているため、文章をそのまま使うことは出来ません。文章の土台にするなら、組織が追加や修正を加えて使う前提で公開されている日本ディープラーニング協会(JDLA)の生成AIの利用ガイドラインのひな形が向いています。企業や自治体の事例は、ツールの指定や情報区分の表といった考え方と形を借りる使い方がおすすめです。
社員が少ない会社は、どの事例を真似すればよいですか?
東京都の生成AI利用の手引きのように、会社が用意したツールと許可したツールだけを使わせる形を土台にし、愛知県のように入れてよい情報を段階で分ける形を足すのが真似しやすい組み合わせです。愛知県の別紙2にある別表(システム名・所属・利用者・利用可能な業務の範囲・入力可能な情報)は、1枚の表で運用ルールをまとめられるため、社員10〜200名の会社でも使いやすい形になります。専門家を集めたセンターや有識者の会議体までは真似する必要はありません。
ガイドラインを作れば、社員の私的なAI利用は止められますか?
ルールだけで止めるのは難しいと考えられます。多くの公開事例が、ガイドラインとあわせて会社が用意した利用環境を整えています。東京都は私物端末での業務利用と許可のない生成AIの利用を禁止し、違反すると懲戒処分の対象となる場合があると明記していますが、その前提として共通ツールを用意しています。社員が仕事に使えるツールを会社で用意し、そのうえで私的な利用を禁じる順番が大切です。
ガイドラインはどのくらいの頻度で見直せばよいですか?
公開事例は、随時更新、適宜見直し、継続的にアップデートといった書き方で、固定の周期を示していないものが多くあります。自社で運用するなら、半年に1回など会社の会議の周期に合わせて定期の見直し時期を決め、新しいツールの導入、利用規約や学習設定の変更、社内での誤入力などの問題をきっかけとする臨時の見直しを分けて決めておくと回しやすくなります。改定したら版と日付を更新し、変更箇所を社員に知らせてください。
研修やテストは必須にすべきですか?
必須にしている事例はあります。愛知県は職員が生成AIシステムを使う前に指定の研修を必ず受講することを決めており、サイバーエージェントは理解度テストに合格していなければ利用申請の段階で差し戻す仕組みを取っています。社員10〜200名の会社なら、短い研修と5〜10問ほどの確認テストを用意し、合格した社員にだけ会社のAIツールのアカウントを発行する形にすると、受講漏れを防ぎやすくなります。

まとめ

公開されている企業と自治体の生成AIガイドラインは、会社が用意したツールに絞る許可型、推奨以外を申請制にする申請型、情報の重要度で入力の可否を分ける区分型の3つに分けられ、2つ以上を重ねる例もあります。多くの事例が、ルールとほぼ同じ時期に、富士通の全従業員向けの環境、日立製作所の社内利用環境、パナソニック コネクトのConnectAI、東京都の共通ツールのような安全な利用環境を整えています。

国内の法人向け生成AIの料金を比べるときは、ナレフルチャットの料金と、ほかの法人向け生成AIとの比較も参考になります。

社員10〜200名の会社が真似するなら、東京都のようにツールを指定する許可型を土台にし、愛知県のように入れてよい情報を3段階で決め、別表の形で利用範囲を1枚にまとめるのが近道です。研修とテストはサイバーエージェントと愛知県のように利用の条件に結びつけ、見直しは版と日付を書いたうえで定期と臨時に分けて決めておきましょう。文章の土台にはJDLAのひな形を使い、パナソニック コネクトのガイドブックは考え方の参考にとどめるのが安全です。

ガイドライン全体の作り方と10項目、そのまま使えるひな形は生成AIガイドラインの作り方と10項目のひな形で確認出来ます。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧にまとめています。