
AIベンダーロックインとは、特定のAI提供元のサービスやモデルに業務・データ・契約が結びつき、ほかのサービスへ乗り換えにくくなっている状態のことです。1社に寄せて使うこと自体は悪いことではなく、問題になるのは、何を持ち出せて何を持ち出せないかを把握しないまま使い続けることになります。複数の生成AIを併用する考え方の全体像は、マルチAI(複数の生成AIの併用)とはで整理しています。依存を減らす最初の一手は、社内で使っている指示文と判断の結論を、AIの外にある社内文書へ写しておくことでしょう。
AIベンダーロックインとは何か|社員が使う生成AIで起きる依存
生成AIのベンダーロックインは、システムを作り込んだ結果として起きるものだけでなく、社員が毎日使うチャット型のAIツールでも起きます。公正取引委員会も、情報システム調達の文脈でこの言葉の定義を示しました。
公正取引委員会が示したベンダーロックインの定義
公正取引委員会は、2022年2月8日に公表した「官公庁における情報システム調達に関する実態調査」の発表資料で、ベンダーロックインを、使い続けるために必要な作業を導入した事業者以外が実施できないために、特定のシステムベンダーを利用し続けなくてはならない状態と説明しています。同じ資料では、ベンダーロックインが回避されることなどにより、多様な事業者が参入しやすい環境を整えることが重要だという認識が、調査の趣旨として示されました。この調査は官公庁の情報システム調達を対象にしたもので、民間企業の生成AI利用を直接扱ったものではありません。ただ、使い続けるための作業をほかの事業者に移せない状態という骨格は、生成AIツールにもそのまま当てはまります。
生成AIに置き換えると、指示文や作り置きのAI、会話の記録が1社のサービスの中にしかなく、ほかのAIで同じ仕事を再現できない状態がこれに当たります。問題は1社を使っていることではなく、ほかへ移る手段を自社が持っていないことです。契約の縛りがなくても、移る準備がなければ事実上は乗り換えられないため、ロックインは契約書より日々の使い方の中で深まっていくものといえます。
開発委託のロックインと、社員が使うAIツールのロックインの違い
検索で上位に出てくる解説の多くは、AIシステムの開発を外部に委託する場面や、APIを使って自社サービスに組み込む場面のロックインを扱っています。その場合の論点は、ソースコードや学習データの権利、設計書の有無、特定のモデルに合わせた作り込みといった技術と契約の話が中心となります。一方、社員10〜200名規模の会社にとって身近なのは、ChatGPT Business などの法人プランを1社分だけ契約し、全社員がそこで仕事をしている状態のほうでしょう。
こちらでは、コードの権利よりも、会話履歴、共有している指示文、カスタムGPTのような作り置きのAI、社員の慣れといった、日々の利用で積み上がるものが乗り換えの重さを決めます。開発委託の契約論は後半の契約の節で短く触れるにとどめ、ここからは社員が使う生成AIツールの依存を中心に見ていきます。総務や情シスの担当の方が、自社の現状を点検する材料として読んでいただければと思います。
生成AIツールでロックインが起きる仕組み|社内にたまる4つの資産
生成AIツールのロックインは、使えば使うほど社内に資産がたまり、その資産がサービスの中にしか置かれていないことで起きます。資産は大きく分けて、会話とファイル、指示文と作り置きのAI、業務の手順と社員の慣れ、契約と管理の設定の4つになります。
1. 会話履歴とアップロードしたファイル
社員がAIと交わした会話には、取引先への提案の下書きや、社内規程の読み解き、過去に出した結論の理由が残っています。あとから、あのとき何を根拠にそう決めたのかを確かめたい場面は意外に多く、履歴が参照できなくなると、同じ調べものを一からやり直すこととなってしまいます。ところが、法人プランでは社員本人が履歴を書き出せないサービスがあり、会社として持ち出すには管理者側の手続きが必要になります。具体的な違いは、後ろの節の持ち出し表で確かめてみてください。
2. 指示文・カスタムGPT・プロジェクト
よく使う依頼の型を、カスタム指示やカスタムGPT、Claude のプロジェクトのような機能に登録して使っている会社は多いでしょう。こうした作り置きは便利な反面、登録した先のサービスの形式でしか動かないため、乗り換え先で同じものを作り直す手間が発生します。OpenAI はカスタムGPTを2026年12月11日に提供終了する予定と案内しており、移行の手順でも引き継がれないものがあると明記しています。作り置きのAIが多い会社ほど、1社の方針変更の影響を大きく受けることになります。
3. 業務の手順と社員の慣れ
見落とされやすいのが、業務の手順そのものが特定のAIの画面や機能を前提に組まれている状態です。たとえば議事録はこのGPTに貼る、見積もりの確認はこのプロジェクトで行う、と決まっていると、乗り換えは道具の入れ替えではなく、業務マニュアルの書き直しとなります。社員の慣れも同じで、研修で覚えた操作や言い回しが1社のサービスに寄っているほど、切り替えの初期は仕事の速さが落ちると見ておいたほうがよいでしょう。
4. 契約と管理の設定
最後は、法人プランの契約と、管理画面で作り込んだ設定です。学習に使わせない設定、利用ログの取り方、退職者のアカウント停止の流れ、会話の保持期間といった運用は、サービスごとに設定の場所も呼び方も違います。乗り換えのたびにこれを作り直すことになるため、設定内容を自社の文書に残していないと、移行の途中で抜けが出てしまいます。4つの資産のどれもが、サービスの中にだけ置かれているとき、ロックインは静かに深まっていくことになります。
1社に寄せたままだと起きる4つのリスク
1社依存のリスクは、ある日突然使えなくなることよりも、相手の都合で使い方を変えさせられる場面が定期的に来ることにあります。代表的なものを4つに分けて見ていきましょう。
料金やプランの構成が変わる
法人向けの生成AIは、料金や席の種類、利用枠の考え方が見直されることがあります。たとえば ChatGPT Business では、2026年8月24日以降、サブスクリプション1件あたりの有料シートが合計最大200席までとなり、それより前に作られたワークスペースには以前の上限が引き続き適用されるとヘルプに書かれています。1社だけで全社導入していると、値上げや上位の席への誘導があっても、比べる相手がいないため受け入れるしかない立場に置かれてしまいます。各社の法人プランの現在の料金は、ChatGPT法人プランの料金や法人向け生成AIの料金比較で確かめることが出来ます。
使っていたモデルが提供終了になる
生成AIは、古いモデルが順番に提供終了となる前提で作られているサービスです。ChatGPT では2026年2月13日に GPT-4o や GPT-4.1 などが、3月11日に GPT-5.1 の各モデルが廃止されたと OpenAI のヘルプに書かれています。モデルが替わると、同じ指示文でも答え方や長さが変わることがあり、社内で決めていた使い方を点検し直す手間が出てきます。各社の告知期間と実例は、次の節で表にしました。
機能そのものが終わる
モデルだけでなく、機能ごと終了することもあります。カスタムGPTは2026年12月11日に提供終了予定で、延期が承認された対象の Enterprise ワークスペースでは2027年2月11日になると、OpenAI の移行FAQに記載されています。後継の仕組みに移せても、会話履歴や選んでいたモデルは引き継がれないため、作り置きのAIを多く持つ会社ほど作業が増えてしまいます。
データを持ち出せない・持ち出しに手間がかかる
4つ目は、やめると決めたときに、たまった資産を持ち出せないリスクです。法人プランの会話履歴は、社員本人が自由に書き出せるとは限らず、管理者だけが書き出せるサービスや、利用者向けのヘルプには書き出しの手順が載っておらず、管理者側のツールで扱うサービスもあります。乗り換えの判断は、この持ち出しの重さで大きく変わってきます。値上げや提供終了そのものより、比べる相手と持ち出す手段がないことのほうが、会社にとっての痛手となります。
モデルの提供終了は各社が告知の方針を公開している|実例つき
モデルの提供終了について、OpenAI と Anthropic は告知期間の目安を、Google は終了日の見方と事前通知の方針を公式ページで示しており、これを知っておけば慌てずに移行の段取りを組むことが出来ます。次の表は、各社の開発者向けの提供終了ページに書かれている内容を整理したものです。
| 提供元 | 告知の目安(公式ページの記載) | 実例(公式ページの記載) |
|---|---|---|
| OpenAI | 一般提供モデルは最低6か月前。一般提供モデルの派生版は最低3か月前。プレビュー版は2週間など、より短い告知で終了することがある。影響を受ける顧客にはメールと文書で通知 | 2026年6月11日に、古い GPT-5 と o3 の版を利用する開発者へ、2026年12月11日に API から削除すると通知 |
| Anthropic | 一般公開モデルは、終了の少なくとも60日前に、利用中の顧客へ通知。終了したモデルへのリクエストは失敗する | claude-sonnet-4-20250514 は2026年4月14日に非推奨となり、6月15日に終了。claude-opus-4-1-20250805 は2026年6月5日に非推奨となり、8月5日に終了 |
| Google(Gemini API) | 表に載せた終了日は、終了しうる最も早い日付。正確な終了日は事前に通知 | 2025年11月18日に公開されたプレビュー版の gemini-3-pro-preview は、終了日が2026年3月9日。2026年5月7日に公開された gemini-3.1-flash-lite は、終了日が2027年5月7日と記載 |
| ChatGPT(画面で使うサービス) | 上の API の告知期間とは別の日程で案内 | 2026年2月13日に GPT-4o・GPT-4.1・GPT-4.1 mini・OpenAI o4-mini・GPT-5(Instant および Thinking)を、3月11日に GPT-5.1 Instant・Thinking・Pro を廃止 |
※OpenAI「Deprecations」、Anthropic「Model deprecations」、Google「Gemini API deprecations」、OpenAI ヘルプ「GPT-4o およびその他の ChatGPT モデルの提供終了」を2026年9月27日〜28日に確認した内容です。Anthropic の日付は同社が運営する提供経路のもので、Amazon Bedrock や Google Cloud 経由の提供は各社が別に日程を決めると記載されています。
表の告知期間は、開発者向けの提供について各社が示している方針になります。ChatGPT のように画面から使うサービスでのモデルの入れ替えは、これとは別の日程で進むことがあります。実際に OpenAI は、ChatGPT で廃止したモデルも API では引き続き使えると説明しており、画面と API で終わる時期が分かれていました。画面で使う側の会社としては、告知の目安を当てにしすぎず、提供元のお知らせを定期的に見る体制を作っておきましょう。終了日は提供元が決めるもので、自社で決められるのは準備を始める早さだけです。
モデルの入れ替えで困るのは、使えなくなることより、答え方が変わることのほうかもしれません。同じ指示文でも、新しいモデルでは答えが長くなったり、書式の守り方が変わったりすることがあります。ChatGPT のカスタムGPTでも、廃止されたモデルを使っていた GPT は、最も近い相当モデルへ自動的に移されるとヘルプに書かれています。自動で移されても、答えの質が社内の基準を満たし続けるかは、自社で確かめるしかありません。後ろの手順の節で紹介する試験用の依頼セットは、この確認のためのものになります。
提供終了のお知らせを受けたら最初にすること
お知らせを受け取ったら、終了日までの期間を逆算して、次の順に進めてみてください。
- 棚卸しの一覧から、終了するモデルや機能を使っている作り置きのAIと業務を探す
- 試験用の依頼セットを、後継のモデルや別のAIで流して答えを見比べる
- 答えが変わった依頼について指示文を直し、台帳の版を更新する
- 社員に、切り替える日と、答え方で変わる点を知らせる
- 終了日の前に、古いモデルや機能を前提にしたマニュアルの記述を直す
告知期間が60日の場合でも、この5つを順に進めれば、終了日までに間に合わせやすくなるでしょう。反対に、一覧も台帳もない状態でお知らせを受けると、どの業務が影響を受けるかを調べるところから始まり、期間の大半をそこで使ってしまいます。
主要サービスで持ち出せるもの・持ち出せないもの
1社依存の重さは、そのサービスから何をどう持ち出せるかで決まり、法人プランは個人プランより持ち出しの手段が限られている場合があります。次の表は、各社の公式ヘルプに書かれている内容だけを、2026年9月28日時点で整理しました。
| 確認する点 | ChatGPT Business | Claude Team | Microsoft Copilot(職場アカウント) | Gemini(Google Workspace) |
|---|---|---|---|---|
| 会話履歴の書き出し | Business と Enterprise のワークスペースでは、社員本人によるセルフサービスのエクスポートは利用できない | 組織のデータを書き出せるのは Primary Owner だけ。削除済みの会話は含まれない | 職場アカウント向けヘルプに載っているのは履歴の削除手順。CSV での書き出しは、個人の Microsoft アカウント向けヘルプの記載 | 確認したページに載っているのは Gemini Notebook の書き出し(管理者のデータエクスポート ツール/本人の Google データ エクスポート)。Workspace アプリや Gemini アプリの会話そのものを書き出す手順の記載はない |
| 会社側での保持と管理 | メンバーを削除しても Business のチャットなどは保持され、再追加で復元される。プロジェクトと GPT は所有者に再割り当てされるが、会話とファイルは所有者に表示されない | Primary Owner は、データのエクスポートで、メンバーの会話やファイルを含むデータを取得できることがあり、アクセスを外すこともできる | 管理者はコンテンツ検索や Microsoft Purview で表示・管理でき、保持ポリシーを設定できる | Workspace アプリ内の会話は90日から無期限、Gemini アプリは最大36か月の範囲で、管理者が保持を設定する |
| 作り置きと履歴の置かれ方 | カスタムGPTは2026年12月11日に提供終了予定。移行で会話履歴・カスタムアクション・選んでいたモデルは引き継がれない | 個人アカウントから Team へ移すとき、カスタムスキルには移行の経路がない | Copilot の手伝いで保存したファイルの内容は、履歴を削除しても残る | Workspace アプリの Gemini の履歴はアプリごとに分かれ、ドキュメントの履歴と Gmail の履歴は別になる |
| 別のアカウント・別のAIへの移し替え | 個人用ワークスペースから Business への統合は元に戻せない | 個人アカウントから Team・Enterprise への移動は片道。書き出したデータは別の個人アカウントに取り込めない | — | 他のAIから会話履歴を取り込む機能は個人の Google アカウント向けで、仕事用や管理対象のアカウントでは使えない |
※OpenAI・Anthropic・Microsoft・Google の公式ヘルプに2026年9月28日時点で書かれている内容を整理したものです。—は、確認した公式ページに該当する記載がなかった項目です。プランや設定、提供状況で変わるため、実際の判断の前に各社の最新のヘルプをご確認ください。
表から読み取れるのは、4社とも会話を会社として保持・管理する仕組みは用意している一方で、他社のAIへそのまま移す手段は、確認した範囲では個人向けに限られていたということです。会話を書き出せたとしても、それは記録として残せるという意味で、別のAIでそのまま続きを始められるわけではありません。乗り換えで本当に引き継ぎたいのは、会話そのものより、会話から生まれた結論と、よく使う指示文のほうでしょう。
Microsoft Copilot と Gemini の Workspace アプリには、答えを文書やメールにそのまま挿入して使う使い方もあります。この場合、成果物はふだんの Word や Google ドキュメントのファイルとして手元に残るため、会話履歴が持ち出せなくても困る場面は比較的少なくなります。反対に、チャット画面の中だけで仕事が完結している会社ほど、結論がどこにも残らない状態になりやすい点に注意しておきましょう。
カスタムGPTの移行で引き継がれないもの
ChatGPT で作り置きのAIを多く持つ会社にとって、2026年12月11日のカスタムGPT提供終了は、ロックインの重さを実感する最初の場面になりそうです。OpenAI の移行FAQでは、予定されている移行の流れで、GPT の指示は新しいプラグイン内のスキルになると説明されています。一方で、既存の会話履歴、カスタムアクション、GPT で選んでいたモデルは引き継がれず、移行後の元の GPT は提供終了まで読み取り専用で残る扱いです。対象の Enterprise ワークスペースについては、2026年10月26日にカスタムGPTの新規作成が終わる予定とも書かれています。
同じFAQが、代わりの仕組みの結果と比べられるよう、使い慣れたプロンプトをいくつか保存するよう勧めている点も見逃せません。移行先が同じ会社の後継機能であっても、答えを見比べる準備は利用する側に求められているわけです。社外のAIへ移る場合はなおさらで、指示文の原本や、合格とする答えの見本が社内に残っていなければ、作り直しは記憶頼りの作業となってしまいます。作り置きのAIも会話も、置き場所が1社の中だけにあると、相手の予定に合わせて作り直すしかない状態に置かれます。
指示文や会話を1社の中だけに置かず、複数のAIを会社の管理のもとで使える環境を選ぶ方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
うちの会社は大丈夫か|生成AI依存度の自己診断チェックリスト
自社の依存度は、次の12項目のうち当てはまる数で大まかに測ることが出来ます。開発委託向けの診断とは違い、社員が毎日使う生成AIツールの実態を見る項目にしています。
- 使える生成AIが、会社で契約した1社のサービスだけになっている部署ごとの例外もなく、別のAIを業務で試す手段が社内にない状態です。
- 会社で決めた指示文が、AIの画面の中にしか保存されていないカスタム指示や作り置きのAIに登録した文章の原本が、社内の文書として残っていない状態です。
- 作り置きのAIが、業務の手順に組み込まれているカスタムGPT、プロジェクト、Gem などを通さないと進まない業務がある状態です。
- 作り置きのAIの中身を、作った本人しか把握していない指示文と参照ファイルの内容を、ほかの社員が説明できない状態です。
- 業務マニュアルに、特定のAIサービスの画面名や操作が書かれているAIを替えると、マニュアルの書き直しが必要になる状態です。
- 会話履歴を会社として書き出す方法と、書き出せる担当者を知らない自社のプランで誰が何を書き出せるかを、公式ヘルプで確かめていない状態です。
- 退職や異動のとき、その人の会話や作り置きのAIがどうなるかを確かめていない引き継ぎの手順に、AIの中の資産が入っていない状態です。
- 提供終了やリリースのお知らせを、誰も定期的に見ていないモデルや機能の終了を、社員からの問い合わせで知ることになりやすい状態です。
- モデルが替わったとき、答えの質を確かめる手順がない同じ依頼を流して比べる、試験用の依頼セットがない状態です。
- 値上げや規約の変更を、ほかのサービスと比べて判断できない2社目を試した経験がなく、比べる材料が手元にない状態です。
- 学習・ログ・保持期間などの管理設定を、社内の文書に残していない管理画面を見ないと、今の設定を説明できない状態です。
- 解約した場合にデータがいつ消えるかを、規約や契約書で読んでいないやめると決めたあとの段取りを、誰も描けていない状態です。
※区切りの目安は、各項目の当てはまり方から考えた目安で、統計的な基準ではありません。
当てはまる数が0〜3なら、今の使い方のままでも出口はおおむね確保できていると考えてよいでしょう。4〜7なら、持ち出せない資産が増え始めている段階なので、後ろの手順のうち指示文の保管と棚卸しから始めてみてください。8つ以上当てはまる場合は、1社の方針変更がそのまま業務の停止につながりやすい状態です。点数そのものより、どの項目に当てはまったかを記録し、半年後に同じ表でもう一度数えることをおすすめします。
数えるときは、情シスや総務の担当者だけで判断せず、実際にAIを使っている部署の方にも聞いてみるのがよいでしょう。管理する側からは、作り置きのAIが業務のどこに組み込まれているか、マニュアルにどんな画面名が書かれているかが見えにくいためです。社員が会社の契約とは別に個人のAIを使っている場合は、依存の問題より先に管理の抜けとして対処が必要になります。この点は野良AI(シャドーAI)の見つけ方で詳しく扱っています。
契約で確かめておくこと|出口条項・データの返却・権利の帰属
契約面の対策は、始める前にやめるときの条件を読んでおくことに尽きます。生成AIツールの法人プランは、提供元が用意した規約に同意して使う形が基本となるため、自社で条文を作るというより、書かれている条件を確かめる作業になります。確かめたいのは次の5点です。
- 解約した後、会話やファイルがいつまで保持され、いつ削除されるか
- 解約の前に、会社としてデータを書き出す手段があるか。あるなら、誰の権限で行えるか
- 入力した内容と、AIが出力した内容の権利が、誰に帰属すると書かれているか
- 料金や規約を変えるときに、どのくらい前に、どの方法で知らせると書かれているか
- モデルや機能を終了するときの告知の目安が、公式に示されているか
たとえば ChatGPT の Business や Enterprise のワークスペースでは、社員本人によるセルフサービスの書き出しが使えないため、解約前の段取りは管理者側で考えておく必要があります。Claude の Team では、組織のデータを書き出せるのが Primary Owner に限られるため、その役割を誰が持っているかを社内で把握しておきましょう。担当者が退職して、書き出しの権限を持つ人が社内にいなくなっていた、という事態は避けたいところです。
開発を外部に委託してAIを組み込む場合は、これに加えて、成果物とソースコードの権利、設計書や指示文の納品、契約終了時の移行支援を契約書に書き込めるかが論点になります。委託先が特定のモデルに合わせて作り込むほど、モデルの提供終了のたびに改修が必要になるため、どのモデルを使っているか、切り替えにどの程度の手間がかかるかを発注前に聞いておいてください。規約は変わるものなので、読んだ日付と版を控えておけば、変更点を後から比べられます。契約と規約の確認は、年に1回の見直しの時期に合わせて行うと無理なく続けられるでしょう。
依存を薄める考え方|複数のAIを使える状態と、間に一枚はさむ設計
依存を薄める方法は、使うAIを1社に固定しない状態を作ることと、業務とAIの間に自社で管理できる層を一枚はさむことの2つに分けられます。どちらを選ぶかは、自社でシステムを開発しているかどうかで変わってきます。
開発者向け:APIの前に切り替えの層を置く
自社でAPIを呼び出すシステムを作っている会社では、各社のAPIを共通の形で呼び出せるゲートウェイやライブラリを間に置き、モデルを差し替えやすくする設計がよく紹介されています。こうした抽象化レイヤーは、モデルの提供終了や値上げがあったときに、アプリ側を大きく作り直さずに切り替えられる点で効果があります。ただし、開発と運用を担える人がいる前提の方法で、社員10〜200名の会社の総務や情シスがそのまま導入するものではありません。
社員が使うツールの場合:複数のAIを使える環境を会社で用意する
社員が画面から使う生成AIの場合、間にはさむ層に当たるのは、複数のAIを1つの契約と管理のもとで使えるサービスや、社内の指示文をAIの外で管理する仕組みです。たとえば主軸のAIとは別に2社目を契約する、複数のAIを切り替えて使える法人向けサービスを使う、といった選び方があります。どちらでも、2社目を試せる状態があるだけで、乗り換えの判断が相手の都合ではなく自社の比較で出来るようになります。各AIの得意分野の違いは主要4AIの違いと使い分けで整理していますので、2社目を選ぶときの参考にしてみてください。
注意したいのは、複数を契約するだけでは、社員ごとに使うAIがばらばらになり、会社から見えない利用が増えやすい点です。会社が用意していないAIを社員が個人で使い始める状態は、野良AIとも呼ばれ、依存を減らすつもりが管理の抜けを増やす結果になりかねません。使うAIを増やすときは、割り当てと入力してよい情報の線引きを先に決めましょう。具体的には、どの業務でどれを使うかと、入力してはいけない情報を生成AIの社内ガイドラインに書き足しておくのが近道です。
2社目を持つことには、依存を薄める以外の効果もあります。同じ依頼を2つのAIに投げて答えが食い違った箇所は、人が確かめるべき箇所としてそのまま使えます。1社だけの環境では気づきにくい誤りを拾えるため、乗り換えの備えと品質の確認を同じ仕組みでまかなうことが出来ます。
ロックインをゼロにしない|主軸の1社と出口の確保
ロックインを完全になくそうとするより、主軸の1社を決めて深く使いながら、自社で持っておく部分だけは外に出しておくほうが現実的です。どのAIでも、使い込むほど便利な機能はそのサービス固有のものになり、全部を移しやすい形に保とうとすると、便利さを捨てることになってしまいます。大切なのは、任せてよい部分と手放さない部分を分けておくことになります。次の判断表は、社員が使う生成AIの資産を、その2つに分けたものです。
| 資産 | 主軸のAIに任せてよい部分 | 自社で持っておく部分 |
|---|---|---|
| 日々の会話 | 下書きや調べもののやりとり | 結論と判断の理由を、社内の議事録や案件の記録に転記したもの |
| 指示文(プロンプト) | 画面への登録と呼び出し | 本文の原本。版・作った人・使う場面を添えて社内の台帳に保管 |
| 作り置きのAI(カスタムGPT・プロジェクト・Gem など) | 動かす仕組みそのもの | 指示文、参照させるファイル、想定する使い方を書いた説明書 |
| 参照させる社内資料 | アップロードした複製 | 原本。自社のファイルサーバーやクラウドストレージに置く |
| 管理の設定 | 管理画面での設定操作 | 学習・ログ・保持期間・権限の設定内容の一覧 |
| 業務マニュアル | AIを使う手順の細かな画面操作 | 特定サービスの画面名に頼らない、業務の流れの書き方 |
右の列にあるものが社内に残っていれば、主軸を替えるときも作り直しの手間は大きく減ります。主軸は1社でかまいませんが、右の列を社内に置いていない状態だけは避けましょう。主軸の見直しは年に1回程度、次の節の手順で比べてから決めると無理がありません。
1社に寄せることの利点も確かめておく
1社を主軸にすることには、はっきりした利点もあります。管理画面が1つで済み、社員向けの研修や社内の手順書もそろえやすく、問い合わせ先も1つにまとまります。ロックインを恐れて全員に複数のAIを配り、使い方がばらばらになるくらいなら、主軸を決めたほうが会社としての管理は効きやすくなるでしょう。
判断の分かれ目は、その1社がいなくなったとき、あるいは条件が合わなくなったときに、業務を何日で立て直せるかという点です。数日で別のAIに切り替えて同じ仕事を回せる準備があれば、1社に寄せていても実害は小さくて済みます。反対に、数か月かけて作り置きのAIを作り直すしかない状態なら、主軸は変えずに、出口の準備だけを進めるのがよいでしょう。
乗り換えの手間を見積もる3つの数
主軸を替えるかどうかを考える前に、乗り換えにかかる手間を大まかに見積もっておくと、判断が感覚に流されにくくなります。数えておきたいのは、作り置きのAIの数、指示文を使っている業務の数、会社として残す必要がある会話や記録の量の3つです。作り置きのAIは1つずつ作り直しと動作の確認が必要になり、業務の数はマニュアルの書き直しの範囲をそのまま表します。記録の量は、書き出しの権限を持つ人が誰か、どの形式で残すかによって作業の重さが変わってきます。3つの数を手順1の棚卸しの一覧に書き添えておけば、毎年の見直しのたびに増え方を追うことが出来ます。数が年々増えているなら、それだけ1社への依存が深まっている合図と受け止め、台帳への写しを優先して進めてみてください。
乗り換えに備えて今日からできる6つの手順
乗り換えの備えは、大きな移行計画を立てることではなく、持ち出せる形の資産を少しずつ増やしていく作業になります。どれも追加の費用をかけずに始められるものです。
手順1 使っているAIと作り置きの棚卸しをする
最初に、会社として契約しているAIと、その中にある作り置きのAIを一覧にします。一覧には、名前、作った人、使っている部署、中に入っている指示文と参照ファイル、業務のどこで使っているかを書いておきましょう。社員が個人で契約しているAIがないかも、同じ機会に聞いてみると実態がつかめます。
手順2 指示文を社内の台帳で保管する
よく使う指示文は、AIの画面ではなく、社内の共有フォルダやドキュメントに台帳として保管します。台帳の形は次のような簡単なもので十分でしょう。
【指示文の台帳(1件ごとに記入)】 名前:取引先へのお礼メールの下書き 使う場面:商談の翌日に、営業担当が送る 作った人・更新日:総務部 ○○/2026年9月28日 指示文の本文:(ここに全文を貼る) 参照させる資料:会社案内PDF(共有フォルダ内の保存場所) 合格の条件:300字以内、取引先名と日付に誤りがない 試したAIと結果:主軸のAIは合格/2社目は言い回しの修正が必要
AIの画面に登録した指示文は、台帳から貼り付けて使う形にしておけば、どのAIに移っても同じ依頼をそのまま試すことが出来ます。ChatGPT のプロンプトの保存と共有の注意点はChatGPTのプロンプト保存方法と社内共有の注意点にまとめています。指示文の原本は社内に置き、AIの画面には写しを登録する、という順番を守りましょう。
手順3 比べるための試験用の依頼セットを作る
自社の代表的な業務から10件ほどの依頼を選び、そのときの入力と、合格とする答えの条件を書いた試験用のセットを作ります。たとえば、次のような依頼と合格の条件の組み合わせが考えられます。
- 取引先からの問い合わせへの返信の下書き。合格の条件は、敬語の誤りがなく、固有名詞を書き換えていないこと
- 社内規程の該当箇所の要約。合格の条件は、根拠の条番号を正しく示していること
- 会議の文字起こしからの議事録づくり。合格の条件は、決定事項と担当者が漏れていないこと
- 表計算の数式の説明。合格の条件は、実際に計算して結果が合うこと
- 長い契約書からの論点の抜き出し。合格の条件は、人が確認すべき条項を挙げていること
モデルが替わったときや2社目を試すときに、このセットを流して答えを見比べれば、感覚ではなく同じ物差しで判断できます。入力に使う資料は、社外に出してよいものか、個人名や取引先名を伏せたものにしておくと、どのAIでも安心して流すことが出来ます。
手順4 判断の結論をAIの外に残す
AIとの会話で出た結論のうち、あとで根拠を問われそうなものは、社内の議事録や案件の記録に転記する運用にします。会話履歴の書き出しが管理者に限られるサービスでも、この運用なら大事な部分は手元に残せます。すべてを写す必要はなく、結論、使った資料、確かめた人の3点が残っていれば十分でしょう。
手順5 提供終了と規約のページを定点観測する
契約中のサービスについて、提供終了のお知らせ、リリースノート、利用規約のページを、担当者を決めて月に1回見る体制を作ります。OpenAI・Anthropic・Google はいずれも提供終了のページを公開しているため、ブックマークしておくだけでも見落としは減らせます。変更を見つけたら、手順3の試験用セットを流して影響を確かめる、という流れを決めておけば慌てずに対応できるでしょう。
手順6 年に1回、別のAIで同じ業務を回してみる
最後に、年に1回ほど、主軸以外のAIで手順3のセットと実際の業務の一部を回してみる機会を作りましょう。実際に動かしてみると、指示文の書き換えが必要な箇所や、手順書に残っていた特定サービスの前提が見つかります。この小さな乗り換え演習を続けていれば、いざ主軸を替えると決めたときの作業は、ほとんどが確認済みのものになります。演習の結果は、手順1の一覧に日付と一緒に書き足しておいてください。
6つの手順のうち、どこから始めるか迷う場合は、手順2の台帳づくりを先にするのがおすすめです。指示文が社内に残っていれば、手順3の試験用セットも、手順6の演習も、その台帳をもとにすぐ組み立てられます。セキュリティ面の点検項目と合わせて進めたい方は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストも参考になります。
1社に寄せたままにしない選択肢を、会社の管理のもとで
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けサービスです。ChatGPTで始めた会話をそのままClaudeへ引き継ぐことができ、よく使う指示と手順は、GPTs・Gem・Claudeプロジェクトの社内版にあたるカスタムプラスで社内限定に共有できます。全モデルで学習非利用を標準適用し、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
ChatGPTを1社だけで全社導入しているのは、やめたほうがよいですか?
法人プランの会話履歴は、解約前にまとめて書き出せますか?
カスタムGPTが提供終了になると、作ったものはどうなりますか?
モデルの提供終了は、どのくらい前に知らされますか?
複数のAIを契約すれば、ロックインはなくなりますか?
社員が退職したら、その人がAIの中に作ったものはどうなりますか?
公正取引委員会は、ベンダーロックインについて何を示していますか?
まとめ
AIベンダーロックインは、開発委託の場面だけでなく、社員が毎日使う生成AIツールでも、会話履歴・指示文・作り置きのAI・管理の設定が1社の中にたまることで起きます。モデルや機能は提供元の予定で終わるものなので、ChatGPT で2026年2月と3月に廃止されたモデルや、12月11日に予定されているカスタムGPTの提供終了のように、相手の日程に合わせた作業が定期的に発生します。1社を主軸に深く使うこと自体は問題ではなく、大切なのは持ち出せないものを把握し、自社で持っておく部分をAIの外に置いておくことです。
まずは自己診断の12項目を数え、指示文の台帳づくりから始めてみてください。法人のAI活用に関するほかの記事はAI活用コラム一覧にまとめています。
