中小企業のAI導入事例。従業員10〜100人の8社がAIを使った業務と効果の出どころ

中小企業のAI導入事例とは、中小企業が業務にAIを取り入れた取り組みのことで、従業員10〜100人の実名8社の資料で確かめられる範囲では、AIを使った業務は報告書や請求書、仕訳といった書類仕事が中心となります。どの業務から始めたかという順番まで書かれた資料は少なく、効果は「報告書の作成が1時間から5分」(プーラビダの発表)のように作業時間で示されるものの、いずれも各社の発表で、第三者が検証した数字ではありません。全社員に広げた3社は、全員が使える環境と使い方を共有する場を、会社がそろえていた点が共通しています。

導入の5つのステップや費用、使える補助金の一覧は、中小企業のAI導入のはじめ方・費用・補助金の全体像の記事にまとめました。こちらでは、従業員10〜100人の実名の会社が、どの業務にAIを使い、どんな効果を発表したかに絞って見ていきましょう。

従業員10〜100人の8社がAIを使った業務の一覧

実名で確かめられる8社を並べると、AIを当てた業務の多くは、報告書や請求書、仕訳など社内でくり返し発生する書類仕事になります。取り上げたのは、経済産業省「DXセレクション2026」選定企業レポート(2026年6月)に載った6社と、中小機構が公開している2つの事例(J-Net21の記事と、IT導入補助金の活用事例)です。

会社(所在地・従業員数)業種AIを使った業務(資料の記載)AIの種類発表された効果数字の出どころ
プーラビダ(福岡県北九州市・26名)訪問看護看護師の報告書の作成生成AI(内製の仕組み「ほぽたくん」)報告書の作成 1時間→5分、郵送の手配 2時間→3分、離職率 83.3%→7.7%(取り組み全体の結果)同社の最終選考発表資料を基に経産省が作成
ヒューマングループ(長崎県佐世保市・53名)自動車教習所・観光全社員に一人一ボットのAIアシスタントAIアシスタント、ノーコード会議時間75%削減、社内電話90%削減、決済リードタイム1.5日→3時間(システム全面移行を含む取り組み全体)同上
エヌエスケーケー(兵庫県神戸市・61名)携帯電話の販売代理店など請求書の処理、営業提案書の作成と引継ぎ生成AI請求書処理 月275分削減、提案書の作成・引継ぎ 月300分削減同上
川六(香川県高松市・68名)宿泊特化型ホテルベテランの経験知を引き出すRAGRAG(社内資料を検索してAIが答える仕組み)1人あたり月平均残業 6時間49分→3時間54分(2023→2025年、取り組み全体の結果)同上
加藤工務店(愛知県瀬戸市・38名)土木・舗装ICTを使った工事やクラウド化から着手。AIは研究開発の段階研究開発中AIの効果としての数字はなし同上
コマツ株式会社(大阪府東大阪市・12名)建設・内装壁紙を見分けるアプリ「かべぴた」画像認識AI(生成AIではない)営業職1名あたり月約9時間削減(移動込み)、識別精度90%以上同上
岡田研磨(石川県津幡町・80人)建設機械部品の加工・組立最初は検査成績書のデジタル化(タブレット)。その後、生成AIで社内アプリを内製生成AI、ノーコード、AIエージェント紙 A4換算で月5,600枚削減、労働時間 月330時間削減(DX全体の結果)中小機構J-Net21の記事(2025年7月31日)
株式会社ニッセイ(東京都・25人)建設業(大規模修繕・リフォームなど)仕訳(クラウド会計ソフトが勘定科目を提案)会計ソフトのAI機能経理処理の大幅な効率化(数字なし)。給与計算の人員3名→1名は勤怠との連携によるIT導入補助金2024の活用事例(中小機構)

※効果の数字は各社の発表資料と掲載元の記載によるもので、第三者が検証した数字ではありません。各資料の原文は2026年10月6日に確認しています。

資料の中で、どの業務から手を付けたかという順番まで書かれているのは、検査成績書のデジタル化から始めた岡田研磨と、効果の出やすいDXから着手した加藤工務店の2社だけになります。どちらも最初の一手はAIではなく、身近なデジタル化でした。残りの6社は資料が中心に挙げている業務を載せているため、それが最初の一手とは限らない点に気をつけてください。それでも、8社のうち3社は、書類の作業をAIを使う中心の業務に置いています。プーラビダの報告書、エヌエスケーケーの請求書、ニッセイの仕訳がそれにあたり、業種が違っても使い道はよく似ていると読むことが出来ます。

公的調査で見る導入の多い部署|総務・管理部門が68.3%

中小企業全体を対象にした調査でも、AIを入れている業務分野は総務・管理部門がいちばん多くなっています。中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」(委託先は東京商工リサーチ)は、2025年11月17日から12月12日にかけて、全国の中小企業10,000社を対象にWebで実施された調査です。回答は企業の自己回答で、AIを導入している企業は全社的な導入と一部業務での導入を合わせて20.4%(回答1,647社)、検討中は18.6%となりました。

業務分野別のAI導入率は、総務・管理部門が68.3%、営業・販売・サービスが60.3%、経営・企画が58.5%で、製造・生産は34.9%にとどまっています。導入済みのAIは生成AIが82.6%(回答322社)を占め、導入の目的は業務効率化・作業時間の短縮が87.0%(回答331社)でした。書類と管理の仕事で導入が多い傾向は、事例の多くとも重なります。

同じ調査では、成功事例や活用事例などの情報が足りていないと答えた企業が合わせて83.3%(回答1,635社)にのぼり、必要な公的支援として導入事例などの情報提供を挙げた企業も70.5%ありました。事例を探している会社が多い一方で、手に入る事例の数字は発表元がまちまちです。数字の読み方は後半の節でまとめていますので、あわせてご覧ください。

※業務分野別の割合は、中小機構の調査結果のポイント資料に載っている数字をそのまま引いています。母数の取り方は資料の原文をご確認ください。

個人任せで始めると広がりにくい|失敗しやすい形と、全社で始めた会社の違い

全社員にAIを広げたと発表している3社は、社員一人ひとりの工夫に任せきりにせず、会社が全員の使える環境と使い方を話し合う場を用意していました。

全社で使える環境を整えた3社

エヌエスケーケーは社長直轄の「DX推進プロジェクトチーム」をつくり、トップダウンの素早い判断で、全社員が生成AIを使える環境を整えたと発表しています。月に1回の社内勉強会「DXスクール」では、全部署に生成AIを使った改善の成果を報告してもらい、うまくいった例と使い方を全社に共有しているそうです。

ヒューマングループは、経営者が自らIT資格やAI開発の技術を身につけたうえで、全社員にそれぞれのAIアシスタントを置く「一人一ボット体制」をつくりました。資料は、53名の全社員が社内システムとチャットを使いこなす組織へ変わったと説明しました。

川六は毎週、全店舗でRAG(社内の資料を検索してAIに答えさせる仕組み)の使い方を話し合う会議を開いています。60代の社員やパートを含む全従業員がRAGの開発に関わり、ベテランの経験知をAIを通して形に残してきたとされます。

使うかどうかを個人の判断に任せている会社は64.9%

一方で、会社としてはAIを入れず、使うかどうかを社員に任せている中小企業がまだ多数派です。商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」(2026年1月調査・2026年3月31日公表・有効回答3,892社)では、会社で導入している企業は16.3%にとどまりました。会社としての導入はなく個人の利用を勧めている企業が14.9%、使うかどうかを個人の判断に任せている企業が64.9%となっています。

同じ調査で商工中金は、会社として導入した企業(592社)のほうが、個人で登録したAIの利用を勧めている企業(534社)よりも、経営へのプラス効果を感じる割合が10ポイント以上高いと分析しました。事例の3社が全社員を対象にした環境づくりを進めていたことと、同じ向きの結果と読むことが出来ます。

個人任せで起きやすいつまずき

個人任せのまま始めると、使う方と使わない方の差が開き、うまくいった使い方も社内に残りにくくなってしまいます。エヌエスケーケーが全部署に毎月の報告を求めているのは、この差を埋める仕組みとして見ることも出来るでしょう。

次につまずきやすいのは、目的を決めずに道具だけを配る形です。8社の資料を見ると、報告書の作成時間や請求書の処理時間など、どの作業の時間を減らすかがはっきりしていました。

もう一つは、社外秘や個人情報の扱いを決めないまま、社員が自分のアカウントで業務の文書を入力してしまう形になります。会社が契約していないAIでは、入力した内容の扱いや利用の記録を、会社から確かめることが出来ません。こうした会社から見えない利用はシャドーAI(野良AI)と呼ばれ、事例の会社のように全社へ広げる段階で大きな壁となってしまいます。まずは会社として使う場所を1つに決め、誰が何に使ってよいかを書き出してみてください。

個人任せをやめて、全員が使える環境を会社で1つに

社内に広げるなら、使う場所を会社で1つにそろえるところから始めるのが近道です。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

実名8社の事例|課題・AIを使った業務・効果の数字

ここからは8社それぞれについて、AIを使う前の課題、AIを当てた業務、発表された効果を順に見ていきます。

プーラビダ(訪問看護・26名):看護師の報告書づくり

福岡県北九州市で訪問看護ステーションを営むプーラビダは、離職率が83.3%と高かったことをきっかけにDXに取り組んだ会社です。経済産業省の「DXセレクション2026」では、グランプリに選ばれています。

AIを当てたのは、資料で看護師の最大の負担とされている報告書の作成でした。生成AIを使った内製の仕組み「ほぽたくん」で報告書づくりを支え、作成時間は1時間から5分へ、報告書を郵送する手配は2時間から3分へ減ったと発表しました。離職率は7.7%まで下がり、利益率10%を超える黒字になったとも書かれています。

ヒューマングループ(教習所・観光・53名):全社員に一人一ボット

長崎県佐世保市で自動車教習所や観光事業を営むヒューマングループは、同じ選考で準グランプリに選ばれました。30年使っていた既存のシステムからクラウドの統合業務プラットフォームへ全面的に移し、業務をチャットに集めたうえで、ノーコードで自社のアプリもつくっています。

社員ごとに本人の資質データを学習させたAIアシスタントを置く「一人一ボット体制」も、この流れの中で整えたものです。発表された効果は、会議時間の75%削減、社内電話の90%削減、決済のリードタイムが1.5日から3時間、離職率が12%から3%への低下となります。システムの全面移行を含む取り組み全体の成果として示された数字なので、AIだけの効果として読まないほうが無難でしょう。

エヌエスケーケー(携帯電話販売代理店など・61名):請求書処理と提案書

兵庫県神戸市のエヌエスケーケーは、携帯電話の販売代理店などを営む会社です。社長直轄のDX推進プロジェクトチームを置き、全社員が生成AIを使える環境を整えました。

効果として挙げているのは、請求書の処理で月275分、営業提案書の作成と引継ぎで月300分の削減になります。2つを合わせると、月575分(約9時間35分)が浮いた計算です。どちらも毎月必ず発生する事務の仕事で、減った時間を分単位で示せる業務になっています。

川六(ホテル・68名):全従業員でつくるRAG

香川県高松市で宿泊特化型のホテルを営む川六は、一部のIT担当者だけでなく、60代の社員やパートも含めた全従業員でRAGをつくってきました。RAGは社内の資料を検索したうえでAIに答えさせる仕組みで、ベテランの経験やコツを、誰でも引き出せる形に残すことが出来ます。

1人あたりの月平均の残業時間は、2023年の6時間49分から2025年の3時間54分へ、離職率は13.9%から6.5%へ下がったと発表しています。60代の社員やパートも開発に加わっている点は、AIに詳しい社員がいない会社にとって参考になるでしょう。

岡田研磨(製造・80人):検査成績書のデジタル化から生成AIの内製へ

石川県津幡町の岡田研磨は、建設機械やシリンダーなどの部品と完成品の加工・組立を手がける、従業員80人の会社です。中小機構のJ-Net21の記事(2025年7月31日掲載)によると、2020年に入社した専務取締役の岡田雄太氏が取り組みを率いています。

最初に取り組んだのは、タブレットを使った検査成績書のデジタル化でした。選んだ理由は「全員が毎日必ず行う業務」だからで、毎日タブレットに触れることで、機器に慣れるきっかけにしたかったと記事は伝えています。その後、ChatGPTなどの生成AIとノーコードツール、AIエージェントを使い、社内で使うアプリを自分たちでつくっていきました。AIとの対話には、約2年間で1000時間をかけたそうです。

効果としては、紙がA4換算で月5,600枚減り、会社全体の労働時間が月330時間減ったと紹介されています。ただし、この月330時間はタブレットの導入や見える化を含むDX全体の結果で、AIだけで生まれた数字ではありません。広げるときは「現場を楽にする」ことを軸にしたと語られています。

加藤工務店(土木・舗装・38名):効果の出やすいDXから

愛知県瀬戸市で土木と舗装を手がける加藤工務店は、ICTを使った工事や業務のクラウド化など、効果の出やすいDXから手を付け、小さな成功を重ねてきた会社になります。AIはストックヤードの受付や記録の管理、重機の遠隔操作に向けて研究開発を進めている段階で、資料にAIの効果を示す数字は出ていません。AIを最初の一手にはせず、身近なデジタル化で小さな成功を重ねてからAIに進む順番の見本として読むことが出来ます。

コマツ株式会社(東大阪市・内装・12名):壁紙を見分ける画像認識AI

大阪府東大阪市で建設・内装を手がけるコマツ株式会社は、従業員12名の会社です。同志社大学と組んで、壁紙の種類をAIで見分けるアプリ「かべぴた」をつくりました。これは写真から物を見分ける画像認識のAIで、文章をつくる生成AIとは種類が違います。発表では、識別の精度は90%以上、営業職1名あたり移動を含めて月約9時間の削減、年間休日は100日から127日に増えたとしています。

ニッセイ(建設業・25人):クラウド会計のAI仕訳

東京都の建設会社である株式会社ニッセイは、大規模修繕や改修工事、住宅リフォームを手がける1980年設立、従業員25人の会社です。IT導入補助金2024の活用事例(中小機構)によると、仕訳や請求管理の事務負担が大きく、勤怠管理と給与計算が別々で給与振込までの日程が厳しいことが課題となっていました。

導入したのはマネーフォワード クラウドビジネスで、AIが勘定科目を提案する機能を持つクラウド会計ソフトになります。事例では、AIによる自動仕訳で経理処理を大幅に効率化できたとしています。給与計算の人員が最大3名から1名に、作業が5日から1日になったという数字もありますが、これは勤怠と給与計算をつないだ効果で、AIの効果とは分けて読む必要があります。

業種・職種別に見るAIを使った業務

8社の業種は訪問看護や教習所、携帯電話の販売、ホテル、製造、土木、内装、修繕工事と分かれていますが、AIを当てた職種で並べ直すと、いくつかの型にまとまります。

請求書・仕訳・報告書など事務書類の短縮

いちばん多いのは、請求書や仕訳、報告書といった事務書類の時間を減らす使い方です。看護師の報告書(プーラビダ)、請求書の処理(エヌエスケーケー)、仕訳(ニッセイ)と、業種は違っても作業の形はよく似ています。毎月決まった形で繰り返す書類は、かかる時間を測りやすく、効果も社内に説明しやすくなります。

見積書や契約書の確認も同じ型に入りますが、今回の8社の資料には、見積書や契約書から始めた例は含まれていません。自社で試すときは、毎月の件数と1件にかかる時間を、先に書き出してみましょう。

議事録・文字起こしやメールの下書きから入る使い方

商工中金の同じ調査では、生成AIを積極的に使っている層の74.0%が、メールや報告書、議事録の作成・要約に使っています。会議の録音を文字に起こして要点をまとめる作業は、特別な準備がほとんど要らず、どの部署でも同じように試すことが出来ます。8社の資料には議事録づくりにAIを使った例はないものの、誰もが毎週関わる作業という点で、岡田研磨の「全員が毎日必ず行う業務」の考え方とも合っています。

チャットボットは社外向けより先に社内向けで使われている

お客様の問い合わせに答えるチャットボットは目につきやすい使い方ですが、8社の資料に出てくるのは社内向けの仕組みです。川六のRAGは従業員がベテランの知識に問い合わせる形で、ヒューマングループの一人一ボットも社員の手元で働くアシスタントになります。社内向けであれば、答えが外れても社員が気づいて直しやすいため、社外へ出す前の練習の場として使うことも出来ます。

需要予測・在庫の見直しは、記録がデータでたまってから

需要予測や在庫の見直しにAIを使う話もよく聞かれますが、今回の8社の中に、需要予測にAIを使った会社はありません。予測には過去の売上や出荷の記録がそろっている必要があり、記録が紙のままでは先へ進みにくいためでしょう。岡田研磨が紙の記録をタブレットに移すところから始めたように、まずは記録をデータで残す段階を踏むことになります。

採用・定着の面で発表された変化

採用の書類づくりや求人文の作成にAIを使った例は、8社の資料には出てきません。一方で、人が辞めにくくなった変化を挙げた会社は3社あり、プーラビダは83.3%から7.7%へ、ヒューマングループは12%から3%へ、川六は13.9%から6.5%へ離職率が下がったと発表しています。どれもAIだけでなく働き方全体を変えた結果ですが、人を集めにくい会社ほど、採用より先に今いる方の負担を軽くする使い方から入る価値はあるでしょう。

最初の業務の選び方|10〜100人の会社の判断の目安

最初の業務は、全員が関わり、毎日か毎週くり返し、かかる時間を測れるものから選ぶのが、岡田研磨の例などから読み取れる考え方になります。岡田研磨は「全員が毎日必ず行う業務」をデジタル化の最初の業務に選び、道具に慣れてもらうことを優先しました。プーラビダは看護師の最大の負担、エヌエスケーケーは毎月の請求書と提案書に的を絞っています。自社の業務を次の5つに当てはめてみてください。

  • 全員か、少なくとも1つの部署の全員が関わる業務か一部の方だけの業務では、使い方が社内に広がりません。岡田研磨はデジタル化の最初に、全員が毎日書く検査成績書を選んでいます。
  • 毎日か毎週、同じ形でくり返している業務かくり返しが多いほど、操作に慣れるのも、効果が見えるのも早くなります。
  • 今かかっている時間を測れるか1件あたりの時間と月の件数が分かれば、プーラビダの1時間から5分のように、効果を数字で示せます。
  • 間違いがあっても社内で気づいて直せるか最初は社外へそのまま出ない書類を選ぶと、確認の手間を抑えられます。
  • 社外秘や個人情報が含まれるか含まれる場合は、会社として契約した環境と入力のルールを先にそろえてから始めます。

5つすべてに当てはまる業務が見つからなくても、困ることはありません。3つ以上に当てはまる業務を1つだけ選び、1か月ほど試してから次へ広げましょう。試す期間に、使う前と後の時間を同じ方法で測っておくと、社内で広げるときの説明材料にもなります。

1業務に絞って試し、全社へ広げる進め方

順番まで書かれた2社を見ると、身近な業務で試して慣れてから、次へ広げています。加藤工務店は効果の出やすいDXから手を付けて小さな成功を重ね、岡田研磨は検査成績書でタブレットに慣れてから、生成AIで社内のアプリをつくる段階へ進みました。

広げる段階では、エヌエスケーケーの月1回の成果報告や、川六の毎週の検討会議のように、使い方を共有する場を決まった間隔で持っている点が似ています。うまくいった使い方を個人の中にしまわず、全員の前で見せる場があることで、詳しくない方も真似をしやすくなります。

もう一つ見ておきたいのは、経営者が直接かかわっている会社があることです。ヒューマングループでは経営者が率先してIT資格やAI開発の技術を身につけ、エヌエスケーケーは社長直轄のチームで素早く判断しています。担当者に任せきりにせず、経営者が関わることが、広げ方の土台の一つと言えそうです。

導入を5つのステップに分けた計画の立て方は、中小企業のAI導入の5つのステップで紹介しています。社内の計画づくりの下敷きとして使ってみてください。

効果の数字はどこから来ているか|発表元と測った範囲

事例に並ぶ効果の数字は、どれも会社自身か掲載元が示したもので、第三者が測り直した数字ではありません。

3種類の出どころ

経済産業省の「DXセレクション2026」選定企業レポートは、各社のページに「最終選考発表資料を基に経済産業省にて作成」と書かれています。対象は中堅・中小企業で、二次選考に進んだ81社から最終選考では経営者のプレゼンによる審査が行われました。数字は、各社が選考の場で発表した内容がもとになっていることになります。

J-Net21の岡田研磨の記事と、IT導入補助金の活用事例(ニッセイ)は、どちらも中小機構のサイトに載った紹介です。公的機関のサイトに載っていても、効果の数字を外部の機関が測り直したものではない点は変わりません。事例を社内で紹介するときは、「経済産業省のレポートに掲載された同社の発表」のように、誰の発表かを添えて伝えてみてください。

測った範囲がAI単体か、取り組み全体か

数字を読むときにもう一つ気をつけたいのは、測った範囲です。岡田研磨の月330時間はタブレットの導入や見える化を含むDX全体の結果で、ニッセイの給与計算の人員削減は勤怠と給与の連携によるものになります。ヒューマングループの数字も、システムの全面移行を含む取り組みの成果として並べられています。

AIとの結びつきを追いやすいのは、作業を1つに絞って示した数字です。プーラビダの報告書作成の1時間から5分や、エヌエスケーケーの請求書処理の月275分は、どの作業がどれだけ減ったかが読み取れる形になっています。自社の効果を測るときも、全体の残業時間だけでなく、AIを当てた作業1つの時間を前後で比べることをおすすめします。

事例を読むときの5つの確認点

自社に近い事例を探すときは、次の5つを確かめると、真似できる事例かどうかを見分けやすくなります。

  • 従業員数は自社に近いか同じ「中小企業」でも、12名と80人では使える人手も進め方も違います。今回の8社は12名から80人までです。
  • いつの取り組みか岡田研磨の記事は2025年7月、DXセレクションのレポートは2026年6月です。生成AIは道具の変化が速いため、時期で読み方が変わります。
  • AIの種類は何か生成AI、画像認識AI、会計ソフトに入っているAI機能では、始め方も費用も大きく違います。
  • 測った範囲はAI単体か、DX全体かシステムの入れ替えやタブレットの導入を含む数字は、AIだけの効果ではありません。
  • 誰が発表した数字か会社自身の発表か、掲載元の記載か、第三者の検証かを確かめます。今回の8社はいずれも会社の発表か掲載元の記載です。

8社に当てはめると、AIの種類だけでも、生成AI(プーラビダ、エヌエスケーケーなど)、画像認識(コマツ)、会計ソフトのAI機能(ニッセイ)、研究開発中(加藤工務店)と分かれます。「AI導入事例」とひとまとめにされていても、明日から試せるものと、大学との共同開発が要るものが混ざっている点に気をつけましょう。社員が使う道具として真似しやすいのは、生成AIを書類仕事に当てた事例と、会計ソフトのAI機能を使った事例になります。

費用と補助金の目安

今回確かめた8社の資料の範囲では、AIにかけた金額は示されていません。

月額・初期費用の目安

費用は、社員が使う生成AIのサービスに毎月払う形と、自社で仕組みをつくる形とで大きく変わります。サービスを会社で契約する場合は、1人ごとに月額を払う形と、会社単位で払う形があり、全社員に配るかどうかで毎月の支払いが変わってきます。法人向けの主なサービスの料金は法人向け生成AI 38社の料金比較で、ChatGPTの法人プランはChatGPT法人プランの料金で確かめることが出来ます。

岡田研磨のように自社でアプリをつくる場合は、ツールの料金に加えて、つくる方の時間がかかります。同社はAIとの対話に約2年間で1000時間をかけたと紹介されており、人の時間も費用として見積もっておきましょう。

使える補助金・公的支援

ニッセイはIT導入補助金2024のインボイス枠を使い、支援事業者の経理バンクと組んでクラウド会計ソフトを導入しています。補助金の種類や対象、申請の流れは年度ごとに変わるため、申請の前に最新の公募内容を確かめてください。主な補助金の一覧は、進め方の節で紹介した全体像の記事にまとめています。ニッセイの事例もIT導入補助金の活用事例として公開されており、同じ形の資料は、自社に近い会社を探す手がかりになります。

会社で安全に使うには|社外秘・個人情報の扱い

全社に広げる前に決めておきたいのは、入力してよい情報の線引きと、会社が管理できる使う場所の2つです。

学習させない設定と、利用の記録

業務の文書をAIに入力するなら、入力した内容がAIの学習に使われない設定になっているかを、会社として確かめておきましょう。社員が個人のアカウントで使うと、この設定は一人ひとりの操作に任され、会社からは確かめられません。誰がいつどのAIを使ったかという利用の記録(ログ)を会社側で見られるかどうかも、使う場所を選ぶときの目安となります。

社員への配布とルール

一部の社員だけにアカウントを配ると、配られなかった方が自分のアカウントで使い始めてしまいます。事例の3社が全社員を対象にした環境を整えたのは、使える方と使えない方の差をつくらないための判断とも読めます。入力してよい情報と、出てきた答えを人が確かめる手順は、生成AIの社内ガイドラインの作り方を参考に文書にしておくことが出来ます。点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストにまとめています。

複数のAIの使い分け

AIには文章づくりに向くもの、調べものに向くもの、長い資料の読み込みに向くものがあり、業務によって合う道具が変わります。全社で1つの環境を用意するときは、複数のAIを同じ場所で使い分けられるかどうかも確かめてみてください。使い分けの目安は主要4AIの違いと使い分け、複数のAIを1つの環境で使う形はマルチAIの記事で紹介しています。

全社員で使える環境とルールを、最初からそろえる

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よくある質問

従業員10〜100人の会社は、どの業務にAIを使っていますか?
実名で確かめられる8社では、看護師の報告書(プーラビダ)、請求書と提案書(エヌエスケーケー)、仕訳(ニッセイ)など、くり返し発生する書類の業務が中心です。どれが最初の業務だったかまでは、多くの資料に書かれていません。中小機構の2026年3月の調査でも、業務分野別のAI導入率は総務・管理部門が68.3%といちばん高くなっています。
事例に出てくる効果の数字は信用できますか?
どれも各社の発表や掲載元の記載によるもので、第三者が検証した数字ではありません。経済産業省のDXセレクション2026のレポートは、各社の最終選考発表資料を基に作成されています。岡田研磨の月330時間のように、AIだけでなくDX全体の結果を示した数字もあるため、測った範囲を確かめて読むことをおすすめします。
AIに詳しい社員がいなくても始められますか?
川六では60代の社員やパートを含む全従業員がRAGの開発に関わり、エヌエスケーケーは月1回の社内勉強会で全部署の成果と使い方を共有しています。最初は全員が関わる身近な業務を1つ選び、使い方を見せ合う場を決まった間隔で持つと、詳しい方がいなくても広げやすくなります。
社員が個人で契約したAIを業務に使わせても問題ありませんか?
社外秘や個人情報を扱う業務には向きません。個人のアカウントでは、学習に使われない設定や利用の記録を会社から確かめられないためです。商工中金の2026年1月の調査では、使うかどうかを個人の判断に任せている中小企業が64.9%でした。全社で使える環境とルールを先にそろえてから広げることをおすすめします。
AI導入に補助金は使えますか?
従業員25人のニッセイは、IT導入補助金2024のインボイス枠を使ってAIの仕訳機能を持つクラウド会計ソフトを導入しています。補助金の種類や対象は年度ごとに変わるため、申請の前に最新の公募内容を確かめてください。
画像認識AIと生成AIはどう違いますか?
生成AIは文章などをつくるAIで、プーラビダの報告書づくりやエヌエスケーケーの業務改善に使われています。画像認識AIは写真から物の種類を見分けるAIで、コマツ株式会社の壁紙識別アプリ「かべぴた」がこれにあたります。事例を読むときは、どちらの種類かによって自社での真似しやすさが変わります。

まとめ

従業員10〜100人の会社の実名事例を資料で確かめられる範囲では、AIを使った業務は報告書や請求書、仕訳など、くり返し発生する書類仕事が中心となります。最初の業務かどうかまでは、多くの資料に書かれていません。中小機構の調査でも総務・管理部門の導入率が68.3%と高く、事例の傾向と重なっています。

効果の数字はどれも各社の発表や掲載元の記載で、第三者の検証ではありません。岡田研磨の月330時間はDX全体の結果、ニッセイの給与計算の人員削減は勤怠との連携によるもので、AI単体の効果とは分けて読む必要があります。

全社員に広げた3社に共通するのは、全社員が使える環境と、使い方を共有する場を、会社が用意していたことです。個人の判断に任せている会社が64.9%という中で、まずは使う場所を会社で1つに決め、全員が関わる業務を1つ選んで試してみてください。法人のAI活用に関するほかの記事は、AI活用コラム一覧からご覧いただけます。